(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080684
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20230602BHJP
A41G 5/00 20060101ALI20230602BHJP
A61K 8/85 20060101ALI20230602BHJP
A61K 8/88 20060101ALI20230602BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
D01F8/14 C
A41G5/00
A61K8/85
A61K8/88
A61Q5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194163
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】荻野 貴志
【テーマコード(参考)】
4C083
4L041
【Fターム(参考)】
4C083AD071
4C083AD072
4C083AD091
4C083AD092
4C083CC31
4C083EE28
4L041BA21
4L041BA33
4L041BA34
4L041BA38
4L041BD20
4L041CA06
4L041CA21
(57)【要約】
【課題】人毛に近い触感及びボリューム感を有し、高温環境におけるうねりや縮れの発生が抑制された人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、1以上の実施形態において、芯部及び鞘部を含む人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、前記芯部はポリエステル系樹脂を含むポリエステル系樹脂組成物で構成され、前記鞘部はポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物で構成されており、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯鞘比率は面積比で芯部:鞘部が2:8~8:2であり、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、中空部を有し、繊維断面において、中空部の面積は繊維断面の面積の7%以上40%以下であり、170℃以上180℃以下の乾熱条件下に無緊張状態で30分放置した際の寸法変化率が2.2%以下である人工毛髪用芯鞘複合繊維に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部及び鞘部を含む人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、
前記芯部はポリエステル系樹脂を含むポリエステル系樹脂組成物で構成され、前記鞘部はポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物で構成されており、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯鞘比率は面積比で芯部:鞘部が2:8~8:2であり、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、中空部を有し、繊維断面において、中空部の面積は繊維断面の面積の7%以上40%以下であり、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の170℃以上180℃以下の乾熱条件下に、無緊張状態で30分放置した際の寸法変化率が2.2%以下である、人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項2】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、扁平二葉形の断面形状を有する、請求項1に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項3】
前記芯部は、楕円形である、請求項1又は2に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂組成物は、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル系樹脂を含む、請求項1~3のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項5】
前記ポリアミド系樹脂組成物は、ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体とするポリアミド系樹脂を含む、請求項1~4のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維を含む頭飾製品。
【請求項7】
前記頭飾製品が、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーからなる群から選ばれる一種である、請求項6に記載の頭飾製品。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法であって、
ポリエステル系樹脂組成物及びポリアミド系樹脂組組成物を芯鞘型複合紡糸用の中空ノズルを用いて溶融紡糸する工程、
得られた紡出糸条を延伸する工程、及び
得られた延伸糸を熱緩和処理する工程を含み、
前記延伸は、75℃以上90℃以下の温度、かつ延伸倍率2.5倍以上3.3倍以下の条件下で行い、
前記熱緩和処理は、175℃以上205℃以下の温度、かつ緩和率6%以上23%以下の条件下で行う人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人毛の代替品として使用できる人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアーなどの頭飾製品においては、従来、人毛が使われていたが、近年、人毛の入手が困難となり、人毛に代わる人工毛髪の需要が高まっている。人工毛髪については、人毛に近い触感やボリューム感を有することが求められている。特許文献1では、人毛に近い触感やボリューム感を有する人工毛髪用繊維として、芯部をポリエステル系樹脂組成物で構成し、鞘部をポリアミド系樹脂組成物で構成しつつ、中空部を設けた人工毛髪用芯鞘複合繊維が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明の発明者は、特許文献1に記載のような中空部を有する複合繊維では、繊維幅方向における残留応力の違いによって熱収縮率にばらつきが生じやすく、高温(例えば80℃以上)に晒された場合、うねりや縮れが発生してしまいやすいという課題があることを見出した。特に染色加工などの場合のように高温(例えば95℃以上)の液体に浸漬した場合に、大きな収縮のばらつきが発生するため、強いうねりや縮れが起きてしまいやすいという課題があることを見出した。
【0005】
本発明は、前記課題を解決するため、人毛に近い触感及びボリューム感を有し、高温環境におけるうねりや縮れの発生が抑制された人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1以上の実施形態において、芯部及び鞘部を含む人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、前記芯部はポリエステル系樹脂を含むポリエステル系樹脂組成物で構成され、前記鞘部はポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物で構成されており、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯鞘比率は面積比で芯部:鞘部が2:8~8:2であり、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、中空部を有し、繊維断面において、中空部の面積は繊維断面の面積の7%以上40%以下であり、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の170℃以上180℃以下の乾熱条件下に、無緊張状態で30分放置した際の寸法変化率が2.2%以下である人工毛髪用芯鞘複合繊維に関する。
【0007】
本発明は、また、1以上の実施形態において、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維を含む頭飾製品に関する。
【0008】
本発明は、また、1以上の実施形態において、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法であって、ポリエステル系樹脂組成物及びポリアミド系樹脂組組成物を芯鞘型複合紡糸用の中空ノズルを用いて溶融紡糸する工程、得られた紡出糸条を延伸する工程、及び得られた延伸糸を熱緩和処理する工程を含み、前記延伸は、75℃以上90℃以下の温度、かつ延伸倍率2.5倍以上3.3倍以下の条件下で行い、前記熱緩和処理は、175℃以上205℃以下の温度、かつ緩和率6%以上23%以下の条件下で行う人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、人毛に近い触感及びボリューム感を有し、高温環境におけるうねりや縮れの発生が抑制された人工毛髪用芯鞘複合繊維、及びそれを含む頭飾製品を提供することができる。
【0010】
本発明の製造方法によれば、人毛に近い触感及びボリューム感を有し、高温環境におけるうねりや縮れの発生が抑制された人工毛髪用芯鞘複合繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の1例の人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、芯鞘構造を有し、芯部にポリエステル系樹脂組成物を用い、鞘部にポリアミド系樹脂組成物を用い、所定の芯鞘比率及び中空率を有することで、人毛に近い触感及びボリューム感を発現している芯鞘複合繊維において、170℃以上180℃以下の乾熱条件下の無緊張状態(すなわち、フリーな状態)における寸法変化率を低くすることで、人毛に近い触感及びボリューム感を有するとともに、高温環境におけるうねりや縮れの発生が抑制されることを見出した。
【0013】
<芯鞘複合繊維の形状>
人工毛髪用芯鞘複合繊維(以下において、単に「芯鞘複合繊維」とも記す)は、芯部と鞘部を含み、中空部を有する。繊維断面において、芯部が鞘部の内部に存在し、中空部が芯部の内部に存在することが好ましく、芯部及び中空部の中心位置が繊維の中心位置と一致する同心構造でもよく、芯部及び中空部の中心位置が繊維の中心位置と一致せずに偏心している偏心構造でもよい。また、芯部の中心位置は繊維の中心位置と一致するが、中空部の中心位置は繊維の中心位置と一致しなくてもよい。紡糸安定性及びカールセット性の観点から、芯部及び中空部の中心位置が繊維の中心位置と一致する同心構造であることが好ましい。人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面において、芯部と鞘部の剥離を防止するためには、芯部は繊維表面に露出せず鞘部に完全に覆われていることが好ましい。
【0014】
また、人工毛髪用芯鞘複合繊維の断面形状は、円形でもよく、異形でもよい。異形としては、楕円形、扁平多葉形などの扁平形などが挙げられる。扁平多葉形としては、例えば、扁平二葉形等が挙げられる。また、芯部及び中空部の断面形状も、円形でもよく、異形でもよい。異形としては、楕円形、扁平多葉形などの扁平形などが挙げられる。扁平多葉形としては、例えば、扁平二葉形等が挙げられる。人工毛髪用芯鞘複合繊維の断面形状と芯部の断面形状は同じであってもよく、異なっていてもよい。ボリューム感及び触感の観点から、人工毛髪用芯鞘複合繊維、芯部及び中空部の断面形状は扁平形であることが好ましく、人工毛髪用芯鞘複合繊維の断面形状は、扁平二葉形などの扁平多葉形であることがより好ましく、人工毛髪用芯鞘複合繊維の断面形状が扁平二葉形であり、芯部及び中空部の断面形状は楕円形であることがより好ましい。
【0015】
扁平多葉形は、円形及び楕円形からなる群から選ばれる二つ以上の葉形が凹部を介して結合したものであり、扁平二葉形は、円形及び楕円形からなる群から選ばれる二つの葉形が凹部を介して結合したものである。円形及び/又は楕円形は、結合箇所において、部分的に重なっている。また、円形又は楕円形の形状は、必ずしも連続した弧を描く必要はなく、鋭角な角でなければ一部が変形した略円形又は略楕円形も含む。断面形状に関して、添加剤などに由来する、繊維及び芯部の外周に生じる2μm以下の凹凸は考慮しないものとする。
【0016】
図1は、本発明の1例の人工毛髪用芯鞘複合繊維の断面を示す模式図である。該人工毛髪用芯鞘複合繊維1は扁平二葉形の断面形状(外周形状)を有し、芯部20及び中空部30は、楕円形の断面形状(外周形状)を有する。芯部20及び中空部30の中心位置が芯鞘複合繊維1の中心位置と一致するように同心円状に配置された同心構造を有する。
【0017】
本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面において、線対称軸及び線対称軸に平行するように繊維断面の外周の任意の二点を結んだ直線のうち、最大長となる直線である繊維断面長軸11の長さと、繊維断面長軸11に対して垂直になるように繊維断面の外周の任意の二つの点を結んだ際、最大長となる二つの点を結ぶ直線である繊維断面第1短軸12の長さが下記式(1)を満たすことが好ましい。
繊維断面長軸の長さ/繊維断面第1短軸の長さ=1.1以上2.0以下(1)
【0018】
人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面において、繊維断面の面積に対する中空部の面積の比率(中空率)は7%以上40%以下である。本発明の1以上の実施形態において、繊維断面の全体面積とは、繊維を垂直に輪切りした断面(横断面)において、繊維外周部に覆われた部分の面積を指し、中空部の面積も含まれる。中空率が7%より小さい場合、中空構造を持たない繊維と比較して十分な軽量化がなされずボリューム感が得られない。また中空率が40%より大きい場合、芯部もしくは鞘部において、肉厚が極端に薄いもしくは不連続な部分が形成され、その部分を起点に割れや裂けが生じてしまうおそれがある。また、中空率が40%より大きい場合、紡糸工程、例えば熱緩和処理工程後の繊維の巻取り工程において、糸切れが発生するおそれがある。
【0019】
人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯鞘比率は面積比で芯部:鞘部が2:8~9:1の範囲である。芯鞘比率がこの範囲であることにより、触感や質感などに関連する物性としての曲げ剛性値が人毛に近くなるため、人毛と同質の人工毛髪用芯鞘複合繊維が得られる。該範囲よりも芯部が少ないと、曲げ剛性値が人毛より低くなるため、人毛と同質の人工毛髪が得られず、且つ芯部に於いて肉厚が極端に薄い、もしくは不連続な部分が形成され、その部分を起点に割れや裂けが生じてしまう。逆に、該範囲より芯部が多いと、曲げ剛性値が大きくなり過ぎて人毛に近似しなくなる上、鞘が極めて薄くなるため芯が露出しやすくなる。人毛と同質の触感や風合いなどを得やすい観点から、人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯鞘比率は面積比で芯部:鞘部が3:7~8:2の範囲であることが好ましく、3:7~7:3の範囲であることがより好ましく、4:6~6:4の範囲であることがさらに好ましい。
【0020】
人工毛髪用芯鞘複合繊維において、繊維、芯部及び中空部の断面形状、並びに芯鞘比率は、目的の断面形状に近い形状を有するノズル(孔)を使用することにより制御することができる。
【0021】
人工毛髪用芯鞘複合繊維の170℃以上180℃以下の乾熱条件下に、無緊張状態で30分間放置した際の寸法変化率(以下において、「高温寸法変化率」とも記す)が2.2%以下である。これにより、高温環境におけるうねりや縮れの発生を抑制することができる。高温寸法変化率は、高温環境におけるうねりや縮れの発生をより効果的に抑制する観点から、2.1%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましく、1.9%以下であることがさらに好ましく、1.8%以下であることがさらにより好ましく、1.7%以下であることがさらにより好ましく、1.6%以下であることがさらにより好ましく、1.5%以下であることがさらにより好ましい。高温寸法変化率の下限は特に限定されず、0%に近いほど好ましいが、染色や形状付与といった製品化の際の機械処理を可能とする観点から、0.5%以上であってもよく、0.7%以上であってもよい。本発明の1以上の実施形態において、「高温寸法変化率」は、後述する通りに測定することができる。
【0022】
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、人工毛髪に適するという観点から、単繊維繊度が10dtex以上150dtex以下であることが好ましく、より好ましくは30dtex以上120dtex以下であり、さらに好ましくは40dtex以上100dtex以下であり、特に好ましくは50dtex以上90dtex以下である。
【0023】
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、繊維の集合体、例えば繊維束としては、必ずしも全ての繊維が同一の繊度、断面形状を有する必要はなく、異なる繊度、断面形状を有する繊維が混在していてもよい。
【0024】
<芯鞘複合繊維の組成>
芯部はポリエステル系樹脂を含むポリエステル系樹脂組成物、具体的にはポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物で構成されている。ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物とは、ポリエステル系樹脂組成物の全体重量を100重量%とした場合、ポリエステル系樹脂を50重量%より多く含むことを意味し、ポリエステル系樹脂を60重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことが好ましく、80重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことがさらにより好ましい。
【0025】
ポリエステル系樹脂としては、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを80モル%以上含有する共重合ポリエステルをいう。
【0026】
ポリアルキレンテレフタレートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0027】
ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、他の共重合成分を含有する共重合ポリエステルなどが挙げられる。
【0028】
他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸及びそれらの誘導体;5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸及びそれらの誘導体;1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのポリアルコール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルなどが挙げられる。
【0029】
共重合ポリエステルは、安定性及び操作の簡便性の点から、主体となるポリアルキレンテレフタレートに少量の他の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが好ましい。ポリアルキレンテレフタレートとしては、テレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体を用いることができる。共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの重合に用いるテレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、少量の他の共重合成分であるモノマーあるいはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0030】
共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖及び/又は側鎖に上記他の共重合成分が重縮合していればよく、共重合の方法などには特別な限定はない。
【0031】
ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル、1,4-シクロヘキサジメタノール、イソフタル酸及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルからなる群から選ばれる一種の化合物を共重合したポリエステルなどが挙げられる。
【0032】
ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート;ポリプロピレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、イソフタル酸を共重合したポリエステル;及びポリエチレンテレフタレートを主体とし、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどを単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0033】
ポリエステル系樹脂の固有粘度(IV値と称す場合がある)は、特に限定されないが、0.3dL/g以上1.2dL/g以下であることが好ましく、0.4dL/g以上1.0dL/g以下であることがより好ましい。固有粘度が0.3dL/g以上であると、得られる繊維の機械的強度が低下せず、燃焼試験時にドリップする恐れもない。また、固有粘度が1.2dL/g以下であると、分子量が増大しすぎず、溶融粘度が高くなり過ぎることがなく、溶融紡糸が容易となるうえ、繊度も均一になりやすい。
【0034】
ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂に加えて他の樹脂を含んでもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、モダアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
鞘部はポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物、具体的にはポリアミド系樹脂を主成分とするポリアミド系樹脂組成物で構成されている。ポリアミド系樹脂を主成分とするポリアミド系樹脂組成物とは、ポリアミド系樹脂組成物の全体重量を100重量%とした場合、ポリアミド系樹脂を50重量%より多く含むことを意味し、ポリアミド系樹脂を60重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上含むことがさらにより好ましく、95重量%以上含むことがさらにより好ましい。
【0036】
ポリアミド系樹脂は、ラクタム、アミノカルボン酸、ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、並びにジカルボン酸及びジアミンの塩からなる群から選ばれる1種以上を、重合して得られるナイロン樹脂を意味する。
【0037】
ラクタムの具体例としては、特に限定されないが、例えば、2-アゼチジノン、2-ピロリジノン、δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ウンデカラクタム、及びラウロラクタムなどを挙げることができる。これらのうち、ε-カプロラクタム、ウンデカラクタム、及びラウロラクタムが好ましく、特にε-カプロラクタムが好ましい。これらのラクタムは、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0038】
前記アミノカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノデカン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などを挙げることができる。これらのうち、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、及び12-アミノドデカン酸が好ましく、特に6-アミノカプロン酸が好ましい。これらのアミノカルボン酸は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0039】
ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、又はジカルボン酸及びジアミンの塩で用いられるジカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらのうち、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸が好ましく、特にアジピン酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸が好ましい。これらのジカルボン酸は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0040】
ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、又はジカルボン酸及びジアミンの塩で用いられるジアミンの具体例としては、特に限定されないが、例えば、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン(MDP)、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。これらのうち、特に脂肪族ジアミンが好ましく、とりわけヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。これらのジアミンは、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0041】
ポリアミド系樹脂(ナイロン樹脂とも称される)としては、特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン6T及び/又は6I単位を含有する半芳香族ナイロン、並びにこれらナイロン樹脂の共重合体などを用いることが好ましい。とりわけ、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6及びナイロン66の共重合体がより好ましい。
【0042】
ポリアミド系樹脂は、例えば、ポリアミド系樹脂原料を触媒の存在下または不存在下で加熱して行うポリアミド系樹脂重合方法により製造することができる。その重合時に攪拌はあっても無くてもよいが、均質な生成物を得るには攪拌した方が好ましい。重合温度は目的とする重合物の重合度、反応収率、反応時間に応じて任意に設定可能であるが、最終的に得られるポリアミド系樹脂の品質を考慮すれば低温の方が好ましい。反応率についても任意に設定できる。圧力について制限はないが揮発性成分を効率よく系外に抜出すためには系内を減圧とすることが好ましい。
【0043】
ポリアミド系樹脂は、必要に応じてカルボン酸化合物及びアミン化合物などの末端封鎖剤で末端を封鎖してあってもよい。モノカルボン酸又はモノアミンを添加して末端を封鎖する場合には、得られるナイロン樹脂の末端アミノ基又は末端カルボキシル基濃度は、当該末端封鎖剤を使用しない場合に比べて低下する。一方、ジカルボン酸又はジアミンで末端を封鎖する場合には、末端アミノ基と末端カルボキシル基濃度の和は変化しないが、末端アミノ基と末端カルボキシル基との濃度の比率が変化する。
【0044】
カルボン酸化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸などの脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、フェニル酢酸などの芳香族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0045】
アミン化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミンなどの脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミンなどの脂環式モノアミン、ベンジルアミン、β-フェニルエチルアミンなどの芳香族モノアミン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0046】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度に特に制限はないが、繊維用途で染色性を高める必要がある場合や樹脂用途でアロイ化に適した材料を設計する場合などには末端アミノ基濃度が高い方が好ましい。また、長期エージング条件下での着色やゲル化を抑制したい場合などは逆に末端アミノ基濃度が低い方が好ましい。更に再溶融時のラクタム再生、オリゴマー生成による溶融紡糸時の糸切れ、連続射出成形時のモールドデポジット、フィルムの連続押出におけるダイマーク発生を抑制したい場合には末端カルボキシル基濃度及び末端アミノ基濃度が共に低い方が好ましい。適用する用途によって末端基濃度を調製すればよいが、末端アミノ基濃度、末端カルボキシル基濃度共に、好ましくは、1.0×10-5~15.0×10-5eq/g、より好ましくは2.0×10-5~12.0×10-5eq/g、特に好ましくは3.0×10-5~11.0×10-5eq/gである。本明細書において、「…~…」で示した数値範囲は、「…以上…以下」で示した数値範囲と同様、両端値を含む。
【0047】
また、末端封鎖剤の添加方法としては重合初期にカプロラクタムなどの原料と同時に仕込む方法、重合途中で添加する方法、ナイロン樹脂を溶融状態で縦型攪拌式薄膜蒸発機を通過させる際に添加する方法などが採用される。末端封鎖剤はそのまま添加してもよいし、少量の溶剤に溶解して添加してもよい。
【0048】
ポリアミド系樹脂組成物は、ポリアミド系樹脂に加えて他の樹脂を含んでもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、モダアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、触感と外観を人毛により近似させる観点から、芯部をポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物で構成することが好ましく、鞘部をナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂を主成分とするポリアミド系樹脂組成物で構成することがより好ましい。「ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂」とは、ナイロン6及び/又はナイロン66を80モル%以上含むポリアミド系樹脂を意味する。
【0050】
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、難燃性の観点から、難燃剤を併用してもよい。難燃剤としては、臭素含有難燃剤やリン含有難燃剤などが挙げられる。前記リン含有難燃剤として、例えば、リン酸エステルアミド化合物、有機環状リン系化合物などが挙げられる。臭素系難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、臭素化エポキシ系難燃剤;ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどの臭素含有リン酸エステル類;臭素化ポリスチレン類;臭素化ポリベンジルアクリレート類;臭素化フェノキシ樹脂;臭素化ポリカーボネートオリゴマー類;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(ヒドロキシエチルエーテル)などのテトラブロモビスフェノールA誘導体;トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンなどの臭素含有トリアジン系化合物;トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有イソシアヌル酸系化合物などが挙げられる。中でも、耐熱性及び難燃性の観点から、臭素化エポキシ系難燃剤を用いることが好ましい。
【0051】
臭素系エポキシ難燃剤は、特に限定されないが、例えば、芯部及び/又は鞘部において、主成分樹脂100重量部に対して5重量部以上40重量部以下含ませることが好ましい。例えば、耐熱性と難燃性の観点から、芯部をポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル系樹脂100重量部と、臭素系エポキシ難燃剤5重量部以上40重量部以下を含むポリエステル系樹脂組成物で構成され、鞘部をナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂100重量部と、臭素系エポキシ難燃剤5重量部以上40重量部以下を含むポリアミド系樹脂組成物で構成することが好ましい。
【0052】
難燃助剤を併用してもよい。難燃助剤は、特に限定されないが、難燃性の観点から、例えば、アンチモン系化合物やアンチモンを含む複合金属などを用いることが好ましい。アンチモン系化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム、アンチモン酸カルシウムなどが挙げられる。難燃性改良効果や触感への影響から、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、及びアンチモン酸ナトリウムからなる群から選ばれる一つ以上がより好ましい。
【0053】
難燃助剤は、特に限定されないが、例えば、芯部及び/又は鞘部において、主成分樹脂100重量部に対して0.1重量部以上10重量部以下含ませることが好ましい。
【0054】
特に、鞘部を構成するポリアミド系樹脂組成物に難燃助剤を含有させることにより、繊維表面に適度な表面凹凸が形成され、難燃性に加え、人毛に近い低光沢な外観を有する人工毛髪用芯鞘複合繊維が得られやすい。
【0055】
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内で、耐熱剤、安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0056】
<芯鞘複合繊維の製造方法>
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、芯鞘のそれぞれを構成するそれぞれの樹脂組成物を種々の一般的な混練機を用いて溶融混練した後、芯鞘型複合紡糸用の中空ノズルを用いて、溶融紡糸することにより人工毛髪用芯鞘複合繊維を作製することができる。例えば、上述したポリエステル系樹脂、臭素化エポキシ系難燃剤などの各成分をドライブレンドしたポリエステル系樹脂組成物を、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練して芯成分とする。一方、上述したポリアミド系樹脂、顔料、臭素化エポキシ系難燃剤などの各成分をドライブレンドしたポリアミド系樹脂組成物を、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練して鞘成分とする。芯成分と鞘成分を、芯鞘型複合紡糸用の中空ノズルを用いて溶融紡糸することにより芯鞘複合繊維を作製することができる。混練機としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。中でも、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0057】
本発明の1以上の実施形態において、芯鞘複合繊維の製造方法は、少なくとも、ポリエステル系樹脂組成物及びポリアミド系樹脂組組成物を芯鞘型複合紡糸用の中空ノズルを用いて溶融紡糸する工程、得られた糸条を延伸する工程、及び得られた延伸糸を熱緩和処理する工程を含むことが好ましい。
【0058】
まず、溶融紡糸工程において、ポリエステル系樹脂組成物の場合は、押出機、ギアポンプ、ノズルなどの温度を250℃以上300℃以下とし、ポリアミド系樹脂組成物の場合は、押出機、ギアポンプ、ノズルなどの温度を260℃以上320℃以下とし、芯鞘型複合紡糸用の中空ノズルから押し出した後、それぞれの樹脂のガラス転移点以下に冷却し、例えば20m/分以上5000m/分以下、又は30m/分以上2000m/分以下の速度で引き取ることにより紡出糸条(未延伸糸)を得ることができる。
【0059】
具体的には、溶融紡糸の際、芯部を構成するポリエステル系樹脂組成物は溶融紡糸機の芯部用押出機で供給し、鞘部を構成するポリアミド系樹脂組成物は溶融紡糸機の鞘部用押出機で供給し、所定の形状を有する芯鞘型複合紡糸用の中空ノズルにて溶融ポリマーを吐出することで紡出糸条(未延伸糸)を得る。
【0060】
次に、紡出糸条(未延伸糸)は熱延伸される。熱延伸は、紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法と、紡出糸条を巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によって行ってもよい。熱延伸は、1段延伸法又は2段以上の多段延伸法で行われる。熱延伸は、例えば、75℃以上90℃以下の温度、かつ延伸倍率2.5倍以上3.3倍以下の条件で行うことが好ましい。このように延伸を特定の条件で行うとともに、後述するように熱緩和処理も特定の条件で行うことにより、中空部を有する人工毛髪用芯鞘複合繊維の高温寸法変化率が低減しやすく、それゆえ、中空部を有する芯鞘複合繊維の繊維幅方向の残力応力の違いによる熱収縮率のばらつきを抑える効果がより高まり、高温環境下における強いうねりや縮れを抑制する効果もより向上する。したがい、例えば染色加工のような高温環境下での加工においても本発明の繊維は好適に用いることができる。熱延伸の温度は、80℃以上90℃以下であることがより好ましい。
【0061】
熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0062】
次に、延伸糸は熱緩和処理される。熱緩和処理は、例えば、175℃以上205℃以下の温度、かつ緩和率6%以上23%以下で行うことが好ましい。熱緩和処理の緩和率は、より好ましくは7%以上20%以下である。熱緩和処理の温度は、より好ましくは185℃以上203℃以下であり、さらに好ましくは195℃以上200℃以下である。これにより、中空部を有する人工毛髪用芯鞘複合繊維を、高温寸法変化率2.2%以下の低収縮率の繊維とすることができる。
【0063】
次に、必要に応じて、人工毛髪用芯鞘複合繊維に繊維処理剤、柔軟剤などの油剤を付与し、触感、風合いをより人毛に近づけてもよい。繊維処理剤としては、例えば、触感や櫛通り性を向上させるためのシリコーン系繊維処理剤や非シリコーン系繊維処理剤などが挙げられる。
【0064】
<頭飾製品>
本発明の1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維は、単独で人工毛髪として用いてもよく、他の人工毛髪用繊維や人毛及び獣毛などの天然繊維と組み合わせても用いてもよい。他の人工毛髪用繊維としては、例えばアクリル系繊維、塩化ビニル系繊維などが挙げられる。
【0065】
本発明の1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維は、頭飾製品であれば特に限定することなく用いることができる。例えば、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーなどに用いることができる。
【0066】
頭飾製品は、本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維のみで構成されていてもよい。また、頭飾製品は、本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維に、他の人工毛髪用繊維、人毛や獣毛などの天然繊維を組み合わせてもよい。
【実施例0067】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0069】
(繊維断面の形状)
室温(23℃)にて、繊維を束ね、繊維束(総繊度550dtex)がズレないように収縮チューブで固定した後、カッターで輪切りにし、断面観察用繊維束を作製した。この繊維束をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス社製、「VK-9500」)にて500倍の倍率で撮影し、繊維断面写真を得た。この写真をもとに中空形状及び中空部の面積、芯部の面積、鞘部の面積、繊維断面の面積(中空部、芯部及び鞘部の合計面積)を測定し、中空率(中空部の面積/繊維断面の面積×100)(%)、及び芯鞘比率(芯部の面積:鞘部の面積)を評価した。
【0070】
(高温寸法変化率)
高温寸法変化率は、所定の乾熱温度かつ無緊張状態における収縮率を意味するものであり、具体的には、室温(23℃)にて試料(約60dtex)の10mg/dtex荷重下の試料の長さ(Lw1)を測定し、対流型オーブン中で180℃にて、無緊張状態で30分間放置した後、室温に戻した試料の10mg/dtex荷重下の試料の長さ(Lw2)を測定し、下記式により高温寸法変化率を求めた。
高温寸法変化率(%)=((Lw1-Lw2)/Lw1)×100
【0071】
(触感)
専門美容師による官能評価を行い、以下の3段階の基準で評価した。
A:人毛と同等の非常に良好な触感
B:人毛に比べやや劣るが良好な触感
C:人毛に比べ劣る悪い触感
【0072】
(ボリューム感)
人工毛髪用繊維束について、かつらなどの美容評価に従事する一般的技術者により、繊維束試料の外観ならびに握り締めた際の反発力を標準レベルを基準に以下の3段階で評価した。標準レベルは、天然人毛束(中国人毛)を用いてボリューム感を評価したものである。
A:標準レベルを基準にして同一重量でも外観・反発力共に優れた嵩高性を有する
B:標準レベルを基準にして同一重量の場合外観・反発力共に同等の嵩高性を有する
C:標準レベルを基準にして同一重量では明らかに嵩高性が劣る。
【0073】
(うねり)
<うねり量>
室温(23℃)にて、試料25gの片方の端部をインシュロックで拘束し試料の全長L1(cm)を測定し、95℃のお湯に30分浸漬した。その後、取り出して水気をふき取り室温(23℃)にて乾燥させた後の試料の全長L2(cm)を測定し、下記式によりうねり量を求めた。
うねり量(cm)=L1-L2
<うねりの程度>
うねり量に基づいて、うねりの程度を以下の2段階の基準で評価した。うねりの程度の評価がAの場合、染色加工性も良好になる。
A:うねり量が2.5cm未満であり、うねりが小さい
B:うねり量が2.5cm以上であり、うねりが強い
【0074】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートペレット(East West Chemical Private Limited製、EastPET 商品名「A-12」)100重量部に、臭素化エポキシ系難燃剤(阪本薬品工業製、商品名「SR-T2MP」)30重量部、及びアンチモン酸ナトリウム(日本精鉱製、商品名「SA-A」)3重量部を添加し、ドライブレンド後に二軸押出機に供給し、バレル設定温度280℃にて溶融混練を行い、ペレット化してポリエステル系樹脂組成物(以下、「PET」とも記す)を得た。
【0075】
続いて、ナイロン6(ユニチカ製、商品名「A1030BRL」)100重量部に、臭素化エポキシ系難燃剤(阪本薬品工業製、商品名「SR-T2MP」12重量部)、及びアンチモン酸ナトリウム(日本精鉱製、商品名「SA-A」)2重量部を添加し、ドライブレンド後に二軸押出機に供給し、バレル設定温度260℃にて溶融混練を行い、ペレット化してポリアミド系樹脂組成物(以下、「PA6」とも記す)を得た。
【0076】
次に当該ペレット状のポリエステル系樹脂組成物及びポリアミド系樹脂組成物を、それぞれ押出機に供給し、表1に示す形状を有する芯鞘型複合紡糸用の中空ノズル(設定温度270℃)より押し出し、40~200m/分の速度で巻き取って、ポリエステル系樹脂組成物を芯部とし、ポリアミド系樹脂組成物を鞘部とし、芯鞘比率が面積比で芯部:鞘部が5:5で、中空率10%であり、中空部が楕円形、芯部が楕円形、繊維が扁平二葉形の断面形状を有する同心構造の芯鞘複合繊維の未延伸糸を得た。
【0077】
得られた未延伸糸を85℃のヒートロールを用いて45m/分の速度で引き取りながら延伸を行い、3倍延伸糸とし、さらに連続して200℃に加熱したヒートロールを用いて緩和率が10%となるように熱緩和処理を行った後、40.5m/分の速度で巻き取り、ポリエーテル系油剤(丸菱油化工業製、商品名「KWC-Q」)を0.20%omf(乾燥繊維重量に対する油剤純分重量百分率)となるよう付着させた後、乾燥させて、芯鞘比率が面積比で芯部:鞘部が5:5で、中空率10%であり、中空部が楕円形、芯部が楕円形、繊維が扁平二葉形の断面形状を有する同心構造の芯鞘複合繊維を得た。
【0078】
(実施例2)
中空率を7%とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0079】
(実施例3)
中空率を15%とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0080】
(実施例4)
下記表1に示す形状を有する芯鞘型複合紡糸用の中空ノズルを用い、中空率を40%とし、緩和率を15%とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0081】
(実施例5)
芯鞘比率を面積比で芯部:鞘部=2:8とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0082】
(実施例6)
芯鞘比率を面積比で芯部:鞘部=9:1とし、緩和率を7%とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0083】
(比較例1)
緩和率を3%とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0084】
(比較例2)
緩和率を5%とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0085】
(比較例3)
芯鞘型複合紡糸用のノズルを用い、中空率を0%とし、緩和率を1%とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0086】
実施例及び比較例の繊維の断面形状及び寸法変化率を上述したとおりに評価観察した。また、実施例及び比較例において、触感、ボリューム感及び高温環境下のうねりの発生を上述したとおりに評価した。これらの結果を表1に示した。
【0087】
【0088】
表1から分かるように、実施例1~7の繊維は、人毛に似た触感及びボリューム感を有する上、高温環境下でのうねりが抑制されており、染色加工性が良好になる。
【0089】
一方、高温寸法変化率が2.2%を超える比較例1及び2の繊維は、人毛に似た触感及びボリューム感を有するものの、高温環境下でのうねりが強く、染色加工性が劣る。中空部を有しない比較例3の繊維は、高温環境下でのうねりは小さいものの、ボリューム感が劣っていた。