(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080776
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】塗装代替フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230602BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230602BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230602BHJP
B29C 63/02 20060101ALI20230602BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20230602BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/00 E
B32B27/20 A
B29C63/02
C09J7/35
C09J175/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194286
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】江頭 憲
(72)【発明者】
【氏名】中山 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中林 英実
(72)【発明者】
【氏名】羽里 浩忠
【テーマコード(参考)】
4F100
4F211
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AB03
4F100AK19A
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK45D
4F100AK51
4F100AK51C
4F100AK53B
4F100AK74D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA02B
4F100CA02C
4F100CA06B
4F100CA13B
4F100CA13D
4F100CB03C
4F100EC032
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EH71
4F100EJ173
4F100EJ373
4F100EJ423
4F100EJ593
4F100EJ91
4F100JA03
4F100JA05B
4F100JA05C
4F100JA07C
4F100JB01
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JK02
4F100JK06C
4F100JL013
4F100JL09
4F100JL10B
4F100JL10D
4F100JL11
4F100JL12C
4F100JN02
4F100JN21
4F211AA21
4F211AB12
4F211AD08
4F211AG01
4F211AH18
4F211SA02
4F211SC05
4F211SD01
4F211SH06
4F211SH18
4F211SN01
4F211SP12
4F211SP17
4F211SP25
4J004AA14
4J004AB03
4J004CA01
4J004CB03
4J004CE01
4J004FA08
4J040EF001
4J040JA09
4J040JB01
4J040MA10
4J040MB05
(57)【要約】
【課題】真空圧空成形(DVT、Dual Vacuum Thermoforming)法での使用に適した延伸性、接着性、装飾性及び耐久性を有する塗装代替フィルムを提供する。
【解決手段】一実施態様の塗装代替フィルムは、熱可塑性トップ層、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーを含む熱可塑性樹脂と、着色剤とを含む着色層、及びポリウレタン系感熱接着剤を含む感熱接着剤層をこの順で含み、塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、延伸前の塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅40mmの格子状に切断し、95℃で144時間置いた後の切れ目の開きが1.0mm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性トップ層、
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーを含む熱可塑性樹脂と、着色剤とを含む着色層、及び
ポリウレタン系感熱接着剤を含む感熱接着剤層
をこの順で含む塗装代替フィルムであって、前記塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、延伸前の前記塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅40mmの格子状に切断し、95℃で144時間置いた後の切れ目の開きが1.0mm以下である、塗装代替フィルム。
【請求項2】
前記塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、延伸前の前記塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅10mmの短冊状に切断し、23℃、剥離速度200mm/分で180度剥離したときの接着力が6.4N/10mm以上である、請求項1に記載の塗装代替フィルム。
【請求項3】
前記カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及び前記アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの一方のガラス転移温度が0℃以上であり、かつ他方のガラス転移温度が0℃以下である、請求項1又は2のいずれかに記載の塗装代替フィルム。
【請求項4】
前記塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、延伸前の前記塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせた後、延伸された前記塗装代替フィルムにJIS K 5600-7-7:2008に準拠して、ブラックパネル温度計の表示温度63℃にて波長300nm~400nmの光の積算エネルギー量が750MJ/m2となるように促進耐候性試験を行った後の、前記塗装代替フィルムの60度光沢度保持率が80%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の塗装代替フィルム。
【請求項5】
前記熱可塑性トップ層が、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、及びメチルメタクリレート-フッ化ビニリデン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の塗装代替フィルム。
【請求項6】
前記塗装代替フィルムの温度120℃での200%伸び時の引張強度が、0.6MPa~20MPaである、請求項1~5のいずれか一項に記載の塗装代替フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は塗装代替フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
塗装の代わりに装飾フィルムを自動車の車体、部品などに貼り付けて、これらの外観を装飾することが知られている。
【0003】
特許文献1(特開2013-039724号公報)は、「透明材料層および着色接着剤層を含む車輌塗装代替フィルムであって、前記着色接着剤層が、(i)(a)アクリルポリオールと、(b)前記アクリルポリオールに分散している着色剤であって、有機顔料と無機顔料の組み合わせ、有機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、有機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、無機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、無機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、およびアルミ光輝材とマイカ光輝材の組み合わせ、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される着色剤とを含む着色剤プレミックスと、(ii)接着性ポリマーとを含み、接着性ポリマー/(接着性ポリマー+アクリルポリオール)で表される固形分質量比が25%以上である、車輌塗装代替フィルム」を記載している。
【0004】
特許文献2(特開2007-297569号公報)は、「ポリウレタン樹脂からなるトップコート層と、前記トップコート層の表面側に設けられたキャリヤフィルムとを有する装飾層形成フィルムであって、前記ポリウレタン樹脂は、(1)イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体もしくはアダクト体又はこれらの両者を全ポリイソシアネートに対して0.5当量以上含有するポリイソシアネート、及び(2)カプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオール又はその混合物からなり、かつ平均分子量が1000以下であるポリエステルポリオールを全ポリオールに対して0.4当量以上含有するポリオールを含み、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールの当量比が0.7~2.0であるポリウレタン樹脂組成物からなることを特徴とする装飾層形成フィルム」を記載している。
【0005】
特許文献3(国際公開第2013/114964号)は、「着色層と保護層と基材フィルムとがこの順で配された、または、着色層と保護層との層間に基材フィルムが配された、積層構造を有する装飾成形用フィルムであって、前記基材フィルム及び前記保護層の120℃における破断伸度が200%以上であり、前記着色層は少なくともバインダー樹脂および平均長径5~12μmである光輝材を含み、かつ、前記着色層の120℃における100%伸長時応力が4MPa以下である、装飾成形用フィルム。」を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-039724号公報
【特許文献2】特開2007-297569号公報
【特許文献3】国際公開第2013/114964号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
曲面を有する物品への塗装代替フィルムの貼り付けは、例えば、真空圧空成形(DVT、Dual Vacuum Thermoforming)法、真空成形(VT、Vacuum Thermoforming)法、水圧転写法などを用いて行われる。塗装設備への投資の削減、揮発性有機化合物(VOC)の飛散、CO2放出、廃水放出などによる環境負荷の軽減、エネルギー消費量削減、製造プロセスのタクトタイム及びコストの低減などを目的として、塗装代替フィルムが使用される機会は増えている。特に、DVT法は、曲率半径の小さい曲面を有する物品に対しても塗装代替フィルムを欠陥なく適用することができるため、自動車の外板、インパネ、ドアトリムなどの自動車部品、家電製品などの装飾に好適に使用されている。
【0008】
DVT法に使用される塗装代替フィルムには、延伸前の面積を100%としたときに、面積比で200%以上延伸して、PC-ABS、自動車外板に使用される電着塗装板等の多様な基材に対して接着することができ、延伸及び接着後、高温環境下に長時間置かれた後でも塗装色の外観及び接着状態を維持できることが要求される。
【0009】
本開示は、DVT法での使用に適した延伸性、接着性、装飾性及び耐久性を有する塗装代替フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一実施態様によれば、熱可塑性トップ層、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーを含む熱可塑性樹脂と、着色剤とを含む着色層、及びポリウレタン系感熱接着剤を含む感熱接着剤層をこの順で含む塗装代替フィルムであって、前記塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、延伸前の前記塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅40mmの格子状に切断し、95℃で144時間置いた後の切れ目の開きが1.0mm以下である、塗装代替フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、DVT法での使用に適した延伸性、接着性、装飾性及び耐久性を有する塗装代替フィルムを提供することができる。
【0012】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施態様の塗装代替フィルムの概略断面図である。
【
図2】DVT法を用いて塗装代替フィルムを基材に適用して物品を形成する方法を例示的に説明する図である。
【
図3A】実施例のDVT成形性評価における延伸前の真空圧空成形機の概略断面図である。
【
図3B】実施例のDVT成形性評価における基材の配置位置を示す上面図である。
【
図3C】実施例のDVT成形性評価における延伸後の真空圧空成形機の概略断面図である。
【
図4】実施例の熱収縮試験において試験片に入れた格子状の切れ目を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的で、必要に応じて図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0015】
本開示において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0016】
本開示において「硬化」には、一般的に「架橋」と呼ばれる概念も包含される。
【0017】
本開示において「フィルム」には、「シート」と呼ばれる物品も包含される。
【0018】
本開示において、例えば、「熱可塑性トップ層が着色層の上に配置される」における「上」とは、熱可塑性トップ層が着色層に直接接触して配置されること、又は熱可塑性トップ層が他の層を介して着色層の上方に配置されることを意味する。
【0019】
本開示において「透明」とは、JIS K 7375:2008に準拠して測定される可視光領域(波長400nm~700nm)の平均透過率が、約80%以上であることをいい、望ましくは約85%以上、又は約90%以上であってよい。平均透過率の上限値については特に制限はないが、例えば、約100%未満、約99%以下、又は約98%以下とすることができる。
【0020】
本開示において「半透明」とは、JIS K 7375:2008に準拠して測定される可視光領域(波長400nm~700nm)の平均透過率が、約40%以上、約80%未満であることをいい、望ましくは約75%以下であってよい。
【0021】
一実施態様の塗装代替フィルムは、熱可塑性トップ層、熱可塑性樹脂と着色剤とを含む着色層、及びポリウレタン系感熱接着剤を含む感熱接着剤層をこの順で含む。着色層の熱可塑性樹脂は、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーを含む。この実施態様の塗装代替フィルムにおいて、塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、延伸前の塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅40mmの格子状に切断し、95℃で144時間置いた後の切れ目の開きは約1.0mm以下である。
【0022】
本開示の塗装代替フィルムにおいては、熱可塑性トップ層、特定の熱可塑性樹脂を含む着色層、及びポリウレタン系感熱接着剤を含む感熱接着剤層がこの順で配置されている。いかなる理論に拘束される訳ではないが、これらの層の材料及びその性質(熱可塑性又は感熱接着性)が協働して、DVT法に適した高い延伸性(例えば面積比で200%以上の延伸)及び接着性が塗装代替フィルムに付与され、耐熱収縮性などの耐久性も塗装代替フィルムに付与される。また、熱可塑性トップ層と感熱接着剤層の間に配置される着色層は、特定の熱可塑性樹脂の組合せを含むことから、高い伸び特性及び強度を有しており、延伸後の塗装代替フィルムの装飾性を保持することができる。
【0023】
図1に、一実施態様の塗装代替フィルム10の概略断面図を示す。塗装代替フィルム10は、熱可塑性トップ層12、着色層14、及び感熱接着剤層16をこの順で含む。着色層14は、熱可塑性樹脂142と着色剤144とを含む。塗装代替フィルムは、任意の要素として、中間フィルム層22、及び/又は上記の層同士を接合する接合層24を更に含んでもよく、ライナー20を更に含んでもよい。
図1では、熱可塑性トップ層12と着色層14の間に中間フィルム層22が配置され、熱可塑性トップ層12と中間フィルム層22とを接合するために接合層24が配置されている。一実施態様では、塗装代替フィルムは、熱可塑性トップ層、着色層、感熱接着剤層、中間フィルム層、及び接合層からなる。別の実施態様では、塗装代替フィルムは、熱可塑性トップ層、着色層、及び感熱接着剤層からなる。
【0024】
熱可塑性トップ層としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、ポリウレタン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、メチルメタクリレート-フッ化ビニリデン共重合体(PMMA-PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(THV)などのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、並びにエチレン-アクリル酸共重合体(EAA)及びそのアイオノマー、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などの共重合体を使用することができる。耐候性に優れていることから、熱可塑性トップ層は、アクリル樹脂、ポリウレタン、フッ素樹脂、若しくはポリ塩化ビニル、又はこれらの混合物を含むことが好ましく、透明性に優れていることから、アクリル樹脂、フッ素樹脂、又はこれらの混合物を含むことがより好ましく、耐薬品性に優れていることからフッ素樹脂を含むことが更に好ましい。
【0025】
一実施態様では、熱可塑性トップ層は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びメチルメタクリレート-フッ化ビニリデン共重合体(PMMA-PVDF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む。この実施態様において、熱可塑性トップ層は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びメチルメタクリレート-フッ化ビニリデン共重合体(PMMA-PVDF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を、合計で、約50質量%以上、約60質量%以上、又は約70質量%以上、100質量%以下、約95質量%以下、又は約90質量%以下含んでもよい。熱可塑性トップ層の樹脂成分は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びメチルメタクリレート-フッ化ビニリデン共重合体(PMMA-PVDF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなるものでもよい。
【0026】
熱可塑性トップ層として、押出、延伸などによってあらかじめフィルム状に形成されたものを使用することができる。このようなフィルムは、接合層を介して、着色層又はその他の層にラミネートすることができる。あるいは、着色層がこのようなフィルムに対して接着性を有する場合は、接合層を介さず直接着色層にフィルムをラミネートすることもできる。平坦性の高いフィルムを使用することで、より表面平坦性の高い塗装外観を提供することができる。熱可塑性トップ層の樹脂成分を他の層の上に溶融押出することにより、又は他の層と多層溶融押出することにより熱可塑性トップ層を形成することもできる。
【0027】
熱可塑性トップ層は、着色層又はその他の層の上に熱可塑性トップ層の樹脂を含む溶液を塗布し、必要に応じて加熱して乾燥することにより形成することもできる。あるいは、別のライナー上に当該溶液を塗布し、必要に応じて加熱して乾燥することにより熱可塑性トップ層フィルムを形成し、接合層を介して、着色層の上にそのフィルムをラミネートすることもできる。着色層が、ライナー上に形成された熱可塑性トップ層フィルムに対して接着性を有する場合は、接合層を介さず直接着色層にそのフィルムを転写ラミネートすることもできる。熱可塑性トップ層は、例えば、熱可塑性トップ層の樹脂を含む溶液を、ナイフコート、バーコート、ブレードコート、ドクターコート、ロールコート、キャストコートなどによって着色層又はライナーに塗布し、必要に応じて加熱して乾燥することにより形成することができる。
【0028】
熱可塑性トップ層は、必要に応じて、ベンゾトリアゾール、Tinuvin(登録商標)99-2、Tinuvin(登録商標)1130(BASFジャパン株式会社、日本国東京都中央区)などの紫外線吸収剤、Tinuvin(登録商標)292(BASFジャパン株式会社、日本国東京都中央区)などのヒンダードアミン光安定化剤(HALS)などの添加剤を含んでもよい。紫外線吸収剤、又はヒンダードアミン光安定化剤を用いることによって、着色層に含まれる着色剤の、特に紫外線などの光に対する感受性が比較的高い有機顔料の、変色、退色、劣化などを有効に防止することができる。熱可塑性トップ層はハードコート材、光沢付与剤などを含んでもよく、追加のハードコート層を有してもよい。熱可塑性トップ層は、目的とする外観を提供するために、透明であってもよく、半透明であってもよい。熱可塑性トップ層は透明であることが有利である。
【0029】
熱可塑性トップ層の厚さは様々であってよいが、一般に、約5μm以上、約10μm以上、又は約15μm以上、約200μm以下、約150μm以下、又は約100μm以下である。複雑な形状の物品に対して塗装代替フィルムを適用する場合、熱可塑性トップ層は薄い方が形状追従性の観点から有利であり、例えば、約100μm以下、又は約80μm以下であることが望ましい。一方、物品に高い耐光性又は耐候性を付与する場合、熱可塑性トップ層は厚い方が有利であり、例えば約15μm以上、又は約20μm以上であることが望ましい。
【0030】
着色層は、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマー(以下、総称して単に「(メタ)アクリル系ポリマー」ともいう。)を含む熱可塑性樹脂(以下、「アクリルブレンド熱可塑性樹脂」ともいう。)と、着色剤とを含む。
【0031】
アクリルブレンド熱可塑性樹脂は、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのポリマーブレンドを含む。カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの非共有結合的な相互作用は、着色層に伸び特性と強度を付与する。その結果、塗装代替フィルムは、DVT法に適した高い延伸性、例えば延伸前の塗装代替フィルムの面積を100%としたときに面積比で200%以上の延伸を可能にする延伸性を有する。また、塗装代替フィルムは、延伸及び接着後、高温環境下に長時間置かれた後でも、破断及び剥離せずに接着状態を維持し、かつ塗装色の外観を維持することができる。カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、モノエチレン性不飽和モノマーとカルボキシ基含有不飽和モノマーとを共重合することにより得ることができる。アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、モノエチレン性不飽和モノマーとアミノ基含有不飽和モノマーとを共重合することにより得ることができる。
【0032】
モノエチレン性不飽和モノマーは、(メタ)アクリル系ポリマーの主成分となるものであって、一般には式CH2=CR1COOR2(式中、R1は水素又はメチル基であり、R2は直鎖、分岐状、又は環状のアルキル基、フェニル基、アルコキシアルキル基、フェノキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、又は環状エーテル基である)で表されるアクリレートに加えて、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニルモノマー、酢酸ビニルなどのビニルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリルも含まれる。式CH2=CR1COOR2で表されるモノエチレン性不飽和モノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレートなどの直鎖アルキル(メタ)アクリレート;イソアミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレートなどの分岐状アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの脂環式(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート;メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシブチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノキシアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;及びグリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどの環状エーテル含有(メタ)アクリレートを挙げることができる。モノエチレン性不飽和モノマーとして、例えば所望のガラス転移温度、引張強さ、伸び特性などを得る目的で、1種又は2種以上のモノエチレン性不飽和モノマーを使用することができる。
【0033】
カルボキシ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸;ω-カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチルアクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、及び2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸が挙げられる。カルボキシ基含有不飽和モノマーとして、必要に応じて、1種又は2種以上のカルボキシ基含有不飽和モノマーを使用することができる。
【0034】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば、モノエチレン性不飽和モノマーを約85質量部以上、約90質量部以上、又は約92質量部以上、約99.5質量部以下、約99質量部以下、又は約98質量部以下と、カルボキシ基含有モノエチレン性不飽和モノマーを約0.5質量部以上、約1質量部以上、又は約2質量部以上、約15質量部以下、約10質量部以下、又は約8質量部以下の量で用いて共重合することにより得ることができる。
【0035】
アミノ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)などのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチルアミノエチルビニルエーテル、N,N-ジエチルアミノエチルビニルエーテルなどのジアルキルアミノアルキルビニルエーテル;及びビニルイミダゾールなどの含窒素複素環を有するビニルモノマーなどの3級アミノ基を有するモノマーが挙げられる。アミノ基含有不飽和モノマーとして、必要に応じて、1種又は2種以上のアミノ基含有不飽和モノマーを使用することができる。
【0036】
アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば、モノエチレン性不飽和モノマーを約80質量部以上、約85質量部以上、又は約90質量部以上、約99.5質量部以下、約99質量部以下、又は約97質量部以下と、アミノ基含有不飽和モノマーを約0.5質量部以上、約1質量部以上、又は約3質量部以上、約20質量部以下、約15質量部以下、又は約10質量部以下の割合で共重合することにより得ることができる。
【0037】
共重合は、ラジカル重合により行なうことが好ましく、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合などの公知の重合方法を用いることができる。開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどの有機過酸化物、及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(AVN)などのアゾ系重合開始剤を用いることができる。開始剤の使用量は、モノマー混合物100質量部に対して、一般に約0.01質量部以上、又は約0.05質量部以上、約5質量部以下、又は約3質量部以下である。
【0038】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの一方のガラス転移温度が0℃以上であり、かつ他方のガラス転移温度が0℃以下であることが好ましい。言い換えると、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのTgを0℃以上とした場合には、アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのTgは0℃以下であり、前者のTgを0℃以下とした場合には後者のTgを0℃以上である。いかなる理論に拘束されることを望む訳ではないが、高いTgを有する(メタ)アクリル系ポリマーは着色層に高い引張強さを付与し、低いTgを有する(メタ)アクリル系ポリマーは着色層の伸び特性を良好にすると考えられている。いくつかの実施態様では、高いTgを有する(メタ)アクリル系ポリマーのTgは約5℃以上、約20℃以上、又は約40℃以上であり、低いTgを有する(メタ)アクリル系ポリマーのTgは約-5℃以下、約-20℃以下、又は約-40℃以下である。
【0039】
例えば、メチルメタクリレート(MMA)、n-ブチルメタクリレート(BMA)など、単体で重合したホモポリマーが0℃以上のTgを有する(メタ)アクリル系モノマーを主成分として共重合させることにより、Tgが0℃以上の(メタ)アクリル系ポリマーを得ることができる。
【0040】
例えば、エチルアクリレート(EA)、n-ブチルアクリレート(BA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)など、単体で重合したホモポリマーが0℃以下のTgを有する成分を主成分として共重合させることにより、Tgが0℃以下の(メタ)アクリル系ポリマーを得ることができる。
【0041】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、各ポリマーがn種類のモノマーから共重合されているとして、下記のFOXの式(Fox, T. G., Bull. Am. Phys. Soc., 1 (1956), p. 123)
【数1】
を用いて計算ガラス転移温度として求めることができる。式中、Tg
iは成分iのホモポリマーのガラス転移温度(℃)、X
iは重合の際に添加した成分iのモノマーの質量分率をそれぞれ示し、iは1~nの自然数であり、
【数2】
である。
【0042】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー又はアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーが、重量平均分子量の異なる2種類以上の(メタ)アクリル系ポリマーのブレンドである場合、ブレンドのTgは動的粘弾性測定によって決定することができる。具体的には、(メタ)アクリル系ポリマーのブレンドの溶液を剥離紙の上に塗布し、乾燥して得られたフィルム(厚さ約50μm)を試験片として、動的粘弾性スペクトルメータ(TA Instruments社製、型番:RSAIII)を用いて、温度範囲-20~160℃、Temp ramp mode、周波数10Hzの条件で、損失正接(tanδ)を測定し、この損失正接の測定値からポリマーブレンドのTgを求めることができる。
【0043】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、約1,000以上、約5,000以上、又は約10,000以上、約2,000,000以下、約1,500,000以下、又は約1,000,000以下とすることができる。本開示における数平均分子量及び重量平均分子量は、GPC法による標準ポリスチレンで換算した値を意味する。
【0044】
一実施態様では、ガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル系ポリマー(低Tg(メタ)アクリル系ポリマー)の重量平均分子量は、約100,000以上、約150,000以上、又は約200,000以上、約2,000,000以下、約1,500,000以下、又は約1,000,000以下である。
【0045】
一実施態様では、ガラス転移温度が0℃以上の(メタ)アクリル系ポリマー(高Tg(メタ)アクリル系ポリマー)の重量平均分子量は、約1,000以上、約5,000以上、又は約10,000以上、約200,000以下、約180,000以下、又は約150,000以下である。
【0046】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーと、アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとの配合比を変化することにより、所望の引張強さ及び伸び特性を塗装代替フィルムに付与することができる。一実施態様では、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのうち高Tg(メタ)アクリル系ポリマーと低Tg(メタ)アクリル系ポリマーの配合比は、高Tg(メタ)アクリル系ポリマーを100質量部としたときに、低Tg(メタ)アクリル系ポリマーが約10質量部以上、約20質量部以上、約50質量部以上、又は約80質量部以上、約900質量部以下、約500質量部以下、約200質量部以下、又は約150質量部以下である。
【0047】
アクリルブレンド熱可塑性樹脂中のカルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの合計含有量は、一般に約25質量%以上、約35質量%以上、又は約45質量%以上、100質量%以下、約90質量%以下、又は約80質量%以下である。
【0048】
着色剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、アルミ光輝材、及びマイカ光輝材、並びにこれらの2種以上のブレンドが挙げられる。着色剤は、有機顔料と無機顔料の組み合わせ、有機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、有機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、無機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、無機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、及びアルミ光輝材とマイカ光輝材の組み合わせ、並びにこれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。着色剤の上記組み合わせを使用することにより、様々な種類の色調を有する塗装代替フィルムを得ることができ、それにより、デザイン上の高度な要求に応えることができる。
【0049】
有機顔料としては、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、アゾレーキ系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、及びキナクリドンレッドなどのキナクリドン系顔料が挙げられる。無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、赤色酸化鉄、及びカーボンブラックが挙げられる。アルミ光輝材としては、例えば、アルミニウムフレーク、蒸着アルミニウムフレーク、金属酸化物被覆アルミニウムフレーク、及び着色アルミニウムフレークが挙げられる。マイカ光輝材としては、例えば、フレーク状の、二酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物で被覆されたマイカ、及び合成マイカが挙げられる。
【0050】
着色層における着色剤の含有量は、アクリルブレンド熱可塑性樹脂100質量部に対して約2.5質量部以上、約5質量部以上、又は約10質量部以上、約400質量部以下、約300質量部以下、又は約200質量部以下とすることができる。
【0051】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー同士、又はカルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとを架橋させることが好ましい。これらの架橋により網目構造が形成され、塗装代替フィルムの強度及び伸び特性がさらに向上する。カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの架橋剤としては、例えば、エポキシ架橋剤、ビスアミド架橋剤、アジリジン架橋剤、及びカルボジイミド架橋剤が挙げられる。架橋剤として、必要に応じて、1種又は2種以上の架橋剤を使用することができる。
【0052】
エポキシ架橋剤としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)(製品名TETRAD-X(三菱ガス化学株式会社、日本国東京都千代田区)、E-AX、E-5XM(綜研化学株式会社、日本国東京都豊島区));及びN,N’-(シクロヘキサン-1,3-ジイルビスメチレン)ビス(ジグリシジルアミン)(製品名TETRAD-C(三菱ガス化学株式会社、日本国東京都千代田区)、E-5C(綜研化学株式会社、日本国東京都豊島区))が挙げられる。ビスアミド架橋剤として、例えば、1,1’-(1,3-フェニレンジカルボニル)ビス(2-メチルアジリジン)、1,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ベンゼン、4,4’-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、1,8-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)オクタンなどが挙げられる。アジリジン架橋剤としては、例えば、ケミタイトPZ33(株式会社日本触媒、日本国大阪府大阪市)、及びNeoCryl CX-100(DSM Coating Resins,LLC.、オランダ国オーファーアイセル州ズヴォレ)が挙げられる。カルボジイミド架橋剤としては、例えば、カルボジライトV-03、V-05、及びV-07(日清紡ケミカル株式会社、日本国東京都中央区)が挙げられる。
【0053】
架橋剤の添加量は、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して約0.01質量部以上、約0.05質量部以上、又は約0.1質量部以上、約5質量部以下、約3質量部以下、又は約2質量部以下とすることができる。
【0054】
着色層は、例えば、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーと、アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーと、着色剤と、必要に応じて溶媒及び/又は架橋剤を含む着色層組成物を用いて形成することができる。具体的には、着色層組成物を、剥離処理PETフィルムなどのライナーに塗布し、乾燥、固化又は硬化させることにより、ライナー上に着色層を形成することができる。塗布装置として、通常のコータ、例えば、バーコータ、ナイフコータ、ロールコータ、ダイコータなどを用いることができる。乾燥、固化又は硬化は、揮発性溶媒を含む着色層組成物の乾燥、溶融した樹脂成分の冷却などによって行うことができる。着色層は、溶融押出によっても形成することができる。
【0055】
着色層組成物は、添加剤として、例えば、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ヒンダードアミンなどの光安定剤、フェノール系酸化防止剤などの酸化防止剤、シリコーンなどのレベリング剤、ワックス、有機ベントナイトなどの粘性制御剤、セルロースアセテートブチレートなどの増粘剤、沈降性硫酸バリウム、クレー、シリカ、タルク、カオリン、ベントナイトなどの体質顔料、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの有機溶媒をさらに含んでもよい。
【0056】
一実施態様では、着色層は、着色剤プレミックスと、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーと、アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーと、必要に応じて溶媒及び/又は架橋剤とを混合して得られる着色層組成物を用いて形成される。着色剤プレミックスは、アクリルポリオール及び着色剤を含み、着色剤はアクリルポリオールに分散している。
【0057】
着色剤プレミックスに含まれるアクリルポリオールとして、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレートを含むアクリル系共重合体を使用することができる。水酸基含有(メタ)アクリレートと共重合させることができるモノマーとして、モノエチレン性不飽和モノマーを使用することができる。モノエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸などの酸性基を有するモノエチレン性不飽和モノマー;N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどの窒素含有モノエチレン性不飽和モノマー;及びスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニルモノマーが挙げられる。アクリルポリオールは、重合開始剤として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤、又は過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物を用いて、水酸基含有(メタ)アクリレート及びモノエチレン性不飽和モノマーを重合させることにより得ることができる。重合時に、2-メルカプトエタノール、1-メルカプト-2-プロパノール、3-メルカプト-1-プロパノール、p-メルカプトフェノールなどの水酸基を有する連鎖移動剤を使用してもよい。
【0058】
アクリルポリオールの水酸基価は、一般に、約10mg/g以上、約20mg/g以上、又は約40mg/g以上であり、約1000mg/g以下、約500mg/g以下、又は約200mg/g以下である。アクリルポリオールの酸価は、一般に、約0.1mg/g以上、約0.5mg/g以上、又は約2mg/g以上である。アクリルポリオールの水酸基価及び/又は酸価を上記値とすることにより、アクリルポリオールに着色剤を良好に分散することができ、(メタ)アクリル系ポリマーとの混和性を高めることができる。アクリルポリオールの重量平均分子量は、一般に、約2,000以上、約5,000以上、又は約10,000以上であり、約300,000以下、約200,000以下、又は約100,000以下である。アクリルポリオールの重量平均分子量を上記範囲内とすることにより、アクリルポリオールに着色剤を良好に分散することができ、(メタ)アクリル系ポリマーとの混和性を高めることができる。
【0059】
着色剤プレミックスは、添加剤として、例えば、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、フェノール系酸化防止剤などの酸化防止剤、シリコーンなどのレベリング剤、ワックス、有機ベントナイトなどの粘性制御剤、セルロースアセテートブチレートなどの増粘剤、沈降性硫酸バリウム、クレー、シリカ、タルク、カオリン、ベントナイトなどの体質顔料、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの有機溶媒をさらに含んでもよい。
【0060】
着色剤プレミックス中の着色剤の含有量は、アクリルポリオールと着色剤の合計質量を基準として、約20質量%以上、又は約30質量%以上、約80質量%以下、又は約70質量%以下とすることができる。アクリルポリオールの全量を着色剤の分散に使用してもよく、アクリルポリオールの一部を着色剤の分散に用いてから残部を分散液に追加してもよい。着色剤プレミックス中の着色剤の量を上記範囲内とすることで、所望の色を提供しつつ、着色層中に(メタ)アクリル系ポリマーを必要な量で配合することができる。
【0061】
アクリルブレンド熱可塑性樹脂/(アクリルブレンド熱可塑性樹脂+アクリルポリオール)で表される固形分質量比は約25%以上、好ましくは約50%以上、更に好ましくは約75%以上である。固形分質量比とは、アクリルブレンド熱可塑性樹脂及びアクリルポリオールの乾燥質量に関するものであって、添加される架橋剤の質量は含まれない。アクリルブレンド熱可塑性樹脂/(アクリルブレンド熱可塑性樹脂+アクリルポリオール)で表される固形分質量比を上記範囲内とすることにより、着色層の伸び特性が高まり、その結果、塗装代替フィルムのDVT成形性を高めることができる。固形分質量比を上記範囲内とすることにより、塗装代替フィルムをDVT法により延伸して物品に貼り付けても、優れた外観(例えば光沢度、隠蔽性など)を保持することもできる。
【0062】
着色層は接着性を有してもよい。接着性を有する着色層は、接合層を必要とせずに、熱可塑性トップ層又は感熱接着剤層に積層することができる。
【0063】
着色層の厚さは様々であってよいが、一般に、約10μm以上、約20μm以上、又は約30μm以上、約120μm以下、約100μm以下、又は約80μm以下である。着色層の厚さを約10μm以上とすることで、所望の装飾外観を提供することができる。着色層の厚さを約120μm以下とすることで、DVT法に好適な延伸性を塗装代替フィルムに付与することができる。
【0064】
感熱接着剤層は、ポリウレタン系感熱接着剤を含む。本開示において「感熱接着剤」とは、室温では粘着性(タック)を示さないが、高温でタックを有して被着体に接着可能になる材料を指し、熱活性化接着剤及びホットメルト接着剤を包含する。熱活性化接着剤は、ディレイドタック感熱接着剤とも呼ばれ、加熱により活性化してタックが生じ、熱源を取り除いた後でもタックがしばらくの時間持続するものである。ホットメルト接着剤は、加熱により溶融又は軟化してタックが生じ、熱源を取り除くと急速に固化してタックを失うものである。一般に、感熱接着剤は、室温より高いガラス転移温度Tg又は融点Tmを有する。温度がTg又はTmより高い場合に、感熱接着剤の貯蔵弾性率が低下して感熱接着剤はタックを示す。感熱接着剤のTg及びTmは、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定される。
【0065】
ポリウレタン系感熱接着剤は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物であるポリウレタンを含む。ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの高分子量ポリオール、及びエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、メチルペンタンジオールアジペート、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの炭素原子数2~20の低分子ポリオールが挙げられる。ポリイソシアネートとしては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、トランス及び/又はシス-1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;及びそれらのビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体又はアダクト変性体が挙げられる。ポリオール又はポリイソシアネートとして、1種又は2種以上のポリオール又はポリイソシアネートを使用することができる。
【0066】
ポリウレタン系感熱接着剤は、直鎖ポリウレタンを含むことが好ましい。ポリウレタンは水酸基を有していてもよい。水酸基を有するポリウレタンは、ポリオールとポリイソシアネートとを、NCO/OH比(ポリイソシアネートのイソシアナト基のモル数/ポリオールの水酸基のモル数)が1未満となるように、すなわち水酸基が過剰となるように反応させることにより得ることができる。
【0067】
塗装代替フィルムの熱収縮を抑制する観点から、ポリウレタン系感熱接着剤は架橋されていることが好ましい。架橋ポリウレタン系感熱接着剤は、水酸基を有するポリウレタンと、架橋剤として上記ポリイソシアネートとを反応させることにより形成することができる。上記ポリイソシアネートの過剰のイソシアナト基も空気中その他に含まれる水分と反応して架橋に寄与する。水酸基を有するポリウレタンと架橋剤であるポリイソシアネートのNCO/OH比(ポリイソシアネートのイソシアナト基のモル数/水酸基を有するポリウレタンの水酸基のモル数)は、例えば、約0.5以上、約1以上、又は約2以上、約10以下、約8以下、又は約6以下とすることができる。
【0068】
架橋前のポリウレタン系感熱接着剤の融点Tmは、約30℃以上、約35℃以上、又は約40℃以上、約80℃以下、約65℃以下、又は約50℃以下とすることができる。ポリウレタン系感熱接着剤の融点Tmは、示差走査熱量計を用いて測定される値である。
【0069】
感熱接着剤層は、粘着付与剤を更に含んでもよい。粘着付与剤としては、例えば、ロジン誘導体、テルペン樹脂系、石油樹脂系、フェノール樹脂系、及びキシレン樹脂系の粘着付与剤が挙げられる。
【0070】
熱活性化型の感熱接着剤層は、固体可塑剤を更に含んでもよい。固体可塑剤は、常温で固体であり、その融点以上に加熱すると溶融して、ポリウレタン及び/又は粘着付与剤を膨潤又は溶解させる。これにより、高温時に感熱接着剤層のタックが増強される。一方、固体可塑剤は一旦溶融すると、温度が融点未満に下がっても結晶化の進行が遅いため、熱活性化により生じたタックを長時間にわたり維持することができる。固体可塑剤としては、例えば、フタル酸ジフェニル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヒドロアビエチル、イソフタル酸ジメチル、安息香酸スクロース、ジ安息香酸エチレングリコール、トリ安息香酸トリメチロールエタン、トリ安息香酸グリセリド、オクタ酢酸スクロース、クエン酸トリシクロヘキシル、及びN-シクロヘキシル-p-トルエンスルホンアミドが挙げられる。
【0071】
感熱接着剤層は、添加剤として、例えば、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ヒンダードアミンなどの光安定剤、フェノール系酸化防止剤などの酸化防止剤、シランカップリング剤、充填材などを含んでもよい。
【0072】
感熱接着剤層は、ポリウレタン及び溶媒、並びに必要に応じて架橋剤、粘着付与剤、固体可塑剤などを含む感熱接着剤組成物を用いて形成することができる。具体的には、着色層の上に感熱接着剤組成物を塗布し、乾燥、固化又は硬化させることにより、感熱接着剤層を形成することができる。あるいは、別のライナー上に感熱接着剤組成物を塗布し、乾燥、固化又は硬化させることにより感熱接着剤層を形成し、着色層の上に感熱接着剤層を熱ラミネートすることもできる。例えば、感熱接着剤層は、感熱接着剤組成物を、ナイフコート、バーコート、ブレードコート、ドクターコート、ロールコート、キャストコートなどによって着色層又はライナーに塗布し、必要に応じて加熱して乾燥、固化又は硬化させることにより形成することができる。ライナーは、シリコーンなどにより剥離処理された表面を有してもよい。
【0073】
感熱接着剤層の厚さは様々であってよいが、一般に、約5μm以上、約10μm以上、又は約15μm以上、約100μm以下、約80μm以下、又は約50μm以下である。
【0074】
塗装代替フィルムは感熱接着剤層を保護するライナーを有してもよい。ライナーとして、例えば、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、酢酸セルロースなどのプラスチック材料、このようなプラスチック材料で被覆された紙などを挙げることができる。これらのライナーは、シリコーンなどにより剥離処理された表面を有してもよい。ライナーの厚さは、一般に約5μm以上、約15μm以上又は約25μm以上、約300μm以下、約200μm以下又は約150μm以下である。
【0075】
感熱接着剤層は、一般に平坦な接着面を形成するが、凹凸接着面を形成してもよい。この凹凸接着面には、感熱接着剤層の接着面に、接着剤を含む凸部と、その凸部の周りを取り囲んだ凹部とが形成され、被着体に接着された状態で被着体表面と接着面との間に凹部が画する外部と連通した連通路が形成される接着面を含む。凹凸接着面を形成する方法の一例を以下説明する。
【0076】
所定の凹凸構造を有する剥離面を持つライナーを用意する。このライナーの剥離面に、感熱接着剤組成物を塗布し、必要に応じて加熱して、感熱接着剤層を形成する。これにより、感熱接着剤層のライナーと接する面(これが塗装代替フィルムにおける接着面となる。)に、ライナーの凹凸構造(ネガ構造)を転写し、接着面に所定の構造(ポジ構造)を有する凹凸接着面を形成する。接着面の凹凸は、前述したように、被着体に凸部が接着した際に連通路が形成可能な溝を含むように予め設計される。
【0077】
感熱接着剤層の溝は、DVT法により塗装代替フィルムを物品に貼り付ける際に気泡残りを防止できる限り、一定形状の溝を規則的パターンに沿って接着面に配置して規則的パターンの溝を形成してもよく、不定形の溝を配置し不規則なパターンの溝を形成してもよい。複数の溝が互いに略平行に配置されるように形成される場合、溝の配置間隔は10~2000μmであることが好ましい。溝の深さ(接着面から熱可塑性中間フィルム層の方向に向かって測定した溝の底までの距離)は、通常約10μm以上、約100μm以下である。溝の形状も、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。例えば、溝の形状を、接着面に垂直な方向の溝の断面において、略矩形(台形を含む)、略半円形、又は略半楕円形とすることができる。
【0078】
塗装代替フィルムは、任意に、熱可塑性トップ層と着色層の間、又は着色層と感熱接着層の間に介在する中間フィルム層を含んでもよい。中間フィルム層は、塗装代替フィルムの強度を高めることができる。
【0079】
中間フィルム層としては、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、アクリル系ポリマー、又はフッ素系ポリマーの樹脂フィルムを使用することができる。中間フィルム層は熱可塑性を有することが好ましい。一実施態様では、中間フィルム層は、水系ポリウレタン樹脂を含む。
【0080】
中間フィルム層の厚さは、約5μm以上、約10μm以上、又は約15μm以上、約200μm以下、約100μm以下、又は約50μm以下とすることができる。
【0081】
塗装代替フィルムは、任意に、塗装代替フィルムを構成する2つの層の間に接合層を含んでもよい。一実施態様では、塗装代替フィルムは、熱可塑性トップ層と、任意の要素である中間フィルム層との間に接合層を有する。
【0082】
接合層は、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、若しくはフェノキシ樹脂、又はこれらの2種以上の樹脂ブレンドを含む。一実施態様では、接合層は、ウレタン樹脂とフェノキシ樹脂の樹脂ブレンドを含む。
【0083】
接合層の厚さは、約0.1μm以上、約0.2μm以上、又は約0.5μm以上、約10μm以下、約5μm以下、又は約2μm以下とすることができる。
【0084】
塗装代替フィルムは、例えば、以下の手順で製造することができる。着色層組成物を調製して、剥離ライナーの上に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して着色層を形成する。中間フィルム層組成物を調製して、着色層の露出面に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して中間フィルム層を形成する。接合層組成物を調製して、キャリアフィルムの上に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して接合層を形成する。接合層の露出面と中間フィルム層の露出面とを接触させて熱ラミネートし、キャリアフィルムを除去する。熱可塑性トップ層として、熱可塑性樹脂フィルムを接合層の露出面に接触させて熱ラミネートする。感熱接着剤層組成物を調製し、剥離ライナーを除去して着色層を露出させた後、感熱接着剤層組成物を着色層の上に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して感熱接着剤層を形成する。このようにして塗装代替フィルムを得ることができる。塗装代替フィルムの感熱接着剤層の上に剥離ライナーをラミネートして、感熱接着剤層を保護してもよい。
【0085】
上記塗装代替フィルムの製造において、着色層を形成した後、中間フィルム層及び接合層を形成せずに、熱可塑性トップ層として、熱可塑性樹脂フィルムを着色層の露出面に接触させて熱ラミネートしてもよく、熱可塑性トップ層の樹脂成分を着色層の露出面の上に溶融押出してもよい。上記塗装代替フィルムの製造において、着色層の上ではなく、剥離ライナーの上に感熱接着剤層を形成し、着色層の露出面と感熱接着剤層の露出面とを接触させて常温ラミネート又は熱ラミネートしてもよい。
【0086】
剥離ライナーの厚さを除く、塗装代替フィルムの総厚は、一般に約30μm以上、約80μm以上、又は約120μm以上、約600μm以下、約400μm以下、又は約350μm以下である。
【0087】
塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、延伸前の塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅40mmの格子状に切断し、95℃で144時間置いた後の切れ目の開きは約1.0mm以下である。切れ目の開きは、好ましくは約0.8mm以下、より好ましくは約0.5mm以下である。切れ目の開きは、塗装代替フィルムの耐熱性、具体的には塗装代替フィルムの熱収縮の挙動を表しており、切れ目の開きの値が小さいほど高温環境下でも塗装代替フィルムは収縮しにくく、被着体への接着及び塗装代替フィルムの外観をより高い水準で維持することができる。切れ目の開きの具体的な測定条件は、実施例の「4.熱収縮」に記載のとおりである。
【0088】
一実施態様では、塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、延伸前の塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅10mmの短冊状に切断し、23℃、剥離速度200mm/分で180度剥離したときの接着力は約6.4N/10mm以上である。接着力は、好ましくは約6.8N/10mm以上、より好ましくは約7.2N/10mm以上である。接着力は、被着体又は塗装代替フィルムの凝集破壊に要する力よりも小さく、一般に約20N/10mm以下、又は約15N/10mm以下である。接着力の具体的な測定条件は、実施例の「2.接着力」に記載のとおりである。
【0089】
一実施態様では、塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、延伸前の塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせた後、延伸された塗装代替フィルムにJIS K 5600-7-7:2008に準拠して、ブラックパネル温度計の表示温度63℃にて波長300nm~400nmの光の積算エネルギー量が750MJ/m2となるように促進耐候性試験を行った後の、塗装代替フィルムの60度光沢度保持率は約80%以上である。60度光沢度保持率は、好ましくは約85%以上、より好ましくは約90%以上である。60度光沢度保持率の具体的な測定条件は、実施例の「5.光沢度」及び「7.耐候性」に記載のとおりである。
【0090】
一実施態様では、塗装代替フィルムの温度120℃での200%伸び時の引張強度は、約0.6MPa以上、約0.8MPa以上、又は約1.0MPa以上、約20MPa以下、約10MPa以下、又は約5.0MPa以下である。本開示において、200%伸びとは、伸長前のフィルム長さを100%としたときに、200%の長さ(2倍)となるまで伸長させた状態を意味する。200%伸び時の引張強度は、長さ約100mm、幅25mmの測定試料を用意し、ISO7500-1:2015に記載された引張試験機を用いて、温度120℃、引張速度150mm/分、チャック間隔50mmで測定試料を200%伸びまで伸長した時点の引張強度である。
【0091】
本開示の塗装代替フィルムは、車両の本体(ルーフ、ドア、ボンネットなどを含む)若しくはその一部分、又は車両の構成部品(例えば、バンパー、ルーフモールディング、サイドガードモール、ピラーなど)に適用することができる。車両としては、トラック、バス、乗用車などの自動車、オートバイ、スクーターなどの二輪車、自転車、電車、遊覧船、ヨット、モーターボートなどの船舶などが挙げられる。本開示の塗装代替フィルムは、DVT法を用いて曲面を有する物品の表面に貼り付けられる用途に特に適している。
【0092】
以下、
図2を参照しながら、DVT法を用いて塗装代替フィルムを基材に適用して物品を形成する方法について例示的に説明する。
【0093】
図2(A)に示すように、例示的な真空圧空成形機30は、上下に第1真空室31及び第2の真空室32をそれぞれ有しており、上下の真空室の間に被着体である基材40に貼り付ける塗装代替フィルム10をセットする治具が設けられている。下側の第1真空室31には、上下に昇降可能な昇降台35(
図2(A)では不図示)の上に仕切り板34及び台座33が設置されており、三次元形状物などの基材40は、この台座33の上にセットされる。このような真空圧空成形機としては、市販のもの、例えば両面真空成形機(布施真空株式会社)などを使用することができる。
【0094】
図2(A)に示すように、まず、真空圧空成形機30の第1真空室31及び第2真空室32を大気圧に解放した状態で、上下の真空室の間に、塗装代替フィルム10をセットする。第1真空室31において台座33の上に基材40をセットする。
【0095】
次に、
図2(B)に示すように、第1真空室31及び第2真空室32を閉鎖し、それぞれ減圧し、各室の内部を真空(大気圧を1atmとした場合、例えば約0atm)にする。その後又は減圧と同時にフィルムを加熱する。
【0096】
次いで、
図2(C)に示すように、昇降台35を上昇させて基材40を第2真空室32まで押し上げる。加熱は、例えば、第2真空室32の天井部に組み込まれたIRランプヒータ(不図示)で行うことができる。加熱温度は、一般に、約50℃以上、約180℃以下とすることができ、好ましくは約130℃以上、約160℃以下である。減圧雰囲気の真空度は、大気圧を1atmとして、約0.10atm以下、約0.05atm以下、又は約0.01以下atm以下とすることができる。
【0097】
加熱された塗装代替フィルム10は、基材40の表面に押しつけられて延伸される。その後又は延伸と同時に、
図2(D)に示すように、第2真空室32内を適当な圧力(例えば約3atm~約1atm)に加圧する。圧力差により、塗装代替フィルム10が基材40の露出表面に密着し、露出表面の三次元形状に追従して延伸され、基材表面に密着した被覆を形成する。塗装代替フィルム10の少なくとも一部は、例えば、基材40の三次元形状に追従して延伸されるときに、面積比で約4倍以上、約4.5倍以上、又は約5倍以上に延伸される場合がある。なお、
図2(B)の状態で減圧及び加熱を行った後、そのまま第2真空室32内を加圧して、塗装代替フィルム10で基材40の露出表面を被覆することもできる。
【0098】
その後、上下の第1真空室31及び第2真空室32を再び大気圧に開放して、塗装代替フィルム10で被覆された基材40を外に取り出す。
図2(E)に示すように、基材40の表面に密着した塗装代替フィルム10のエッジをトリミングして、DVT工程は完了する。このようにして、塗装代替フィルム10が基材40の端部においてその裏面部41まで回り込んで露出面をきれいに被覆する、良好な巻き込み被覆がなされた物品42を得ることができる。
【実施例0099】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれらに限定されない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。数値は本質的に測定原理及び測定装置に起因する誤差を含む。数値は通常の丸め処理が行われた有効数字で示される。
【0100】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー(ポリマーA)の合成
n-ブチルアクリレート(BA)94質量部、及びアクリル酸(AA)6質量部を、トルエン100質量部及び酢酸エチル100質量部の混合溶媒に溶解させて、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名V-65、富士フイルム和光純薬株式会社(日本国大阪府大阪市))0.2質量部を添加した後、窒素雰囲気下、50℃で24時間反応させて、ポリマーAのトルエン/酢酸エチル混合溶液(固形分33質量%)を得た。ポリマーAの重量平均分子量は760,000、FOXの式から計算したガラス転移温度(Tg)は-48℃であった。
【0101】
アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマー(ポリマーB)の合成
メチルメタクリレート(MMA)60質量部、n-ブチルメタアクリレート(BMA)34質量部、及びジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)6質量部を酢酸エチル150質量部に溶解させて、重合開始剤としてジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(商品名V-601、富士フイルム和光純薬株式会社(日本国大阪府大阪市))0.6質量部を加えた後、窒素雰囲気下、65℃で24時間反応させて、ポリマーBの酢酸エチル溶液(固形分39質量%)を得た。ポリマーBの重量平均分子量は68,000、FOXの式から計算したガラス転移温度(Tg)は63℃であった。
【0102】
ポリウレタン(PUR1)の合成
157.5質量部のポリライト(登録商標)OD-X-2640、0.9質量部の1,4-ブタンジオール、1.2質量部の1,6-ヘキサンジオール、及び430.1質量部の酢酸エチルを混合し、均一な溶液を調製した。得られた溶液に25.0質量部の4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、及び0.01部のジブチルスズジラウレートを添加し、80℃で24時間反応させて、PUR1の酢酸エチル溶液(固形分30質量%)を得た。PUR1の数平均分子量は84,000、重量平均分子量は200,000、ガラス転移温度(Tg)は-10℃であった。
【0103】
実施例及び比較例で使用した材料、試薬等を表1に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
〈例1〉
5層構造の塗装代替フィルムを以下の手順で作製した。表3の着色層組成物E1を、剥離処理PETフィルム(フィルムバイナ(登録商標)NSD、50μm厚、藤森工業株式会社(日本国東京都文京区))上にバーコータを用いて塗布して、80℃の熱風オーブンに3分間、続いて120℃の熱風オーブンに3分間入れて60μm厚の着色層を形成した。
【0107】
表5の中間フィルム層組成物(水系ポリウレタン溶液)を着色層上にバーコータを用いて塗布して、80℃の熱風オーブンに3分間、続いて120℃の熱風オーブンに3分間入れて20μm厚の中間フィルム層を形成した。
【0108】
表6の接合層組成物(フェノキシ樹脂溶液)をPETフィルム上にバーコータを用いて塗布して、80℃の熱風オーブンに1分間入れて約1μm厚の接合層を形成した。120℃に加熱したヒートラミネーターを用いて接合層を中間フィルム層の上にラミネートして、接合層形成に用いたPETフィルムを除去した。
【0109】
熱可塑性トップ層として、75μm厚のアクリルフィルム(テクノロイ(登録商標)S014G、住化アクリル販売株式会社(日本国東京都中央区))を120℃に加熱したヒートラミネーターを用いて接合層側にラミネートした。
【0110】
上記積層体から着色層形成に用いた剥離処理PETフィルムを剥がした面に、表4の接着剤層組成物E1をバーコータを用いて塗布して、80℃の熱風オーブンに5分間、続いて100℃の熱風オーブンに3分間入れて20μm厚の感熱接着剤層を形成した。
【0111】
感熱接着剤層の上に剥離ライナーとして60μm厚の2軸延伸PPフィルム(PY-002、王子エフテックス株式会社(日本国東京都中央区))をラミネートして、例1の塗装代替フィルムを得た。
【0112】
〈例2、比較例1、及び比較例2〉
着色層組成物を表3のE2、C1又はC2とし、着色層の厚さを表8に記載のとおりとした以外は、例1と同様の手順で例2、比較例1、及び比較例2の塗装代替フィルムを得た。
【0113】
〈例3、例4、比較例3、及び比較例4〉
接着剤層組成物を表4のE3、E4、C3又はC4とした以外は、例1と同様の手順で例3、例4、比較例3、及び比較例4の塗装代替フィルムを得た。
【0114】
〈例5~例7、比較例5、及び比較例6〉
接着剤層組成物を表4のE3、E4、E5、C3、又はC4とした以外は、例2と同様の手順で例5~例7、比較例5、及び比較例6の塗装代替フィルムを得た。
【0115】
〈例8~例10、比較例7、及び比較例8〉
例5、例2、例6、比較例5、及び比較例6のフィルムをそれぞれ例8~例10、比較例7、及び比較例8のフィルムとして使用した。
【0116】
〈例11〉
熱可塑性トップ層として、75μm厚PMMA-PVDF共重合体フィルム(アクリプレン(登録商標)FBA015、三菱ケミカル株式会社(日本国東京都千代田区))を用いた以外は、例1と同様の手順で例11の塗装代替フィルムを得た。
【0117】
〈例12〉
熱可塑性トップ層として、75μm厚ポリカーボネートフィルム(テクノロイ(登録商標)C000、住化アクリル販売株式会社(日本国東京都中央区))を用いた以外は、例1と同様の手順で例12の塗装代替フィルムを得た。
【0118】
〈比較例9〉
アクリルフィルム(テクノロイ(登録商標)S014G)をラミネートする代わりに、表7のトップ層組成物(透明2液硬化型ポリウレタン組成物)を接合層の上にバーコータを用いて塗布して、80℃の熱風オーブンに1時間入れて50μm厚のトップ層を形成した以外は、例1と同様の手順で比較例9の塗装代替フィルムを得た。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
例1~例12及び比較例1~比較例9の塗装代替フィルムの構成を表8に示す。
【表8】
【0125】
塗装代替フィルムを以下の項目について評価した。
【0126】
1.DVT成形性
【0127】
基材として以下を使用した。
【0128】
A.PC-ABS板
表面が鏡面仕上げされた厚さ3mm、150mm×150mm角の正方形のPC-ABS板試験パネル(製品名「平板テストピース」、テクノポリマー製黒色PC-ABS樹脂CK43、MC山三ポリマーズ株式会社(日本国東京都中央区))を75mm×50mmの矩形に切断して得られたものを基材とした。JIS Z8741:1997に従って測定されたPC-ABS板の鏡面仕上げ表面の20°グロスは、85~90であった。
【0129】
B.電着塗装鋼板
厚さ0.8mm、150mm×65mmのカチオン電着塗装鋼板(JIS,G,3141(SPCC,SD)、株式会社テストピース(日本国神奈川県相模原市))を75mm×50mmの矩形に切断して得られたものを基材とした。
【0130】
DVT法を用い、以下の手順で塗装代替フィルムを面積比で200%延伸して基材に貼り付けた。
【0131】
真空圧空成形機として、両面真空成形機NGF0709(布施真空株式会社(日本国大阪府羽曳野市))を用いた。
図3Aに延伸前の真空圧空成形機の概略断面図を示す。真空圧空成形機30の第1真空室31と第2真空室32とを、下釜311、下釜フレーム312、上釜321、上釜フレーム322、及び下釜フレーム312と上釜フレーム322との間に挟み込まれる塗装代替フィルム10によって互いに分離した。第2真空室32の天井部には、加熱用のIRランプヒータ323が上釜321の内壁に取り付けられていた。下釜フレーム312の開口部は260mm×260mmの正方形であった。
【0132】
下釜311の底部に配置された下釜テーブル313の上に、下釜フレーム312の開口部と同じ大きさの内寸を有する、上下が開放した角筒形状の延伸用井戸型治具314を配置した。延伸用井戸型治具314の高さは、面積比で200%延伸された状態で塗装代替フィルム10が基材40に貼り付けられることが予め確認された60mmであった。
【0133】
75mm×50mmの矩形の基材40を、下釜テーブル313の上かつ延伸用井戸型治具314の内側で、面積比で200%延伸された状態で塗装代替フィルム10が基材40に貼り付けられることが予め確認された位置に設置した。
図3Bに基材の配置位置を上面図で示す。
図3Bに示すように、基材40を、延伸用井戸型治具314の中央から90mm離れた4箇所に、その中心が位置するように配置した。
図3Bに一点鎖線で示される円は、面積比で200%延伸された状態で塗装代替フィルム10が基材40に貼り付けられる位置を表す。
【0134】
塗装代替フィルム10を300mm×300mmの正方形に裁断し、下釜フレーム312の上に設置した。下釜フレーム312の厚さは20mmであった。したがって、塗装代替フィルム10と基材40と間隔は、下釜フレーム312の厚さ(20mm)と延伸用井戸型治具314の高さ(60mm)の合計80mmであった。
【0135】
基材40及び塗装代替フィルム10を設置した後、上釜321及び上釜フレーム322を下降させ、下釜フレーム312の上に設置された塗装代替フィルム10を上釜フレーム322と下釜フレーム312で挟み込んだ。その後、第1真空室31及び第2真空室32の内部を減圧しながら、IRランプヒータ323で塗装代替フィルム10を成形温度である165℃±5℃になるまで加熱した。このとき、成形温度に到達する前に真空状態(2~4kPa)に到達した。成形温度は、真空圧空成形機30の設定温度、及び後述する手順で予め作成した、真空圧空成形機30の設定温度と塗装代替フィルム10の実温度の対応関係に基づいて得られた値であった。
【0136】
成形温度に到達した時点でDVT成形を開始した。延伸用井戸型治具314が下釜フレーム312に接触するまで下釜テーブル313を上昇させた。第1真空室31の内部の真空状態を維持しながら、第2真空室32の内部圧力を200~205kPaとすることで、第1真空室31と第2真空室32との間に圧力差を生じさせ、これにより塗装代替フィルム10を延伸しながら基材40に貼り付けた。
図3Cに延伸後の真空圧空成形機の概略断面図を示す。基材40の中央部では、塗装代替フィルム10が面積比で200%延伸されて貼り付けられていた。
【0137】
第1真空室31及び第2真空室32の内部をそれぞれ大気圧に戻した後、延伸された塗装代替フィルム10が貼り付けられた基材40を取り出した。カッターナイフを用いて余剰の塗装代替フィルム10を基材40の端部に沿ってトリミングすることにより、DVT成形性の評価サンプルを得た。
【0138】
真空圧空成形機の設定温度と真空圧空成形機の内部で加熱された塗装代替フィルムの実温度との間には、一般に差異があることが知られている。そのため、本実施例では、真空圧空成形機の設定温度と塗装代替フィルムの実温度との対応関係を予め決定し、DVT成形時の塗装代替フィルムの実温度は、真空圧空成形機の設定温度及び上記対応関係に基づき得られる値とみなした。
【0139】
DVT成形時の塗装代替フィルムの実温度の測定は、温度・電圧計測ユニットNR-TH08及びマルチ入力データロガーNR-500(いずれも株式会社キーエンス(日本国大阪府大阪市))と、熱電対(記号0.1×1P K-2-H-J2(K-H)、ワイヤー:Kタイプ、二宮電線工業株式会社(日本国神奈川県相模原市))とを用いて行った。
【0140】
熱電対の測定部位である金属部が塗装代替フィルム10に接触しないように、塗装代替フィルム10の表面に熱電対を耐熱テープで貼り付けた。熱電対が貼り付けられた面を上向きにして、塗装代替フィルム10を下釜フレーム312の上に設置した。
【0141】
上釜321及び上釜フレーム322を下降させ、下釜フレーム312の上に設置された塗装代替フィルム10を上釜フレーム322と下釜フレーム312で挟み込んだ。その後、IRランプヒータ323で塗装代替フィルム10を加熱した。熱電対の測定値が165±5℃となった時点の真空圧空成形機の設定温度は136℃であった。この対応関係に基づいて、DVT成形時には、真空圧空成形機の設定温度を136℃とすることで、塗装代替フィルム10が165±5℃に加熱されたものとみなした。
【0142】
2.接着力
DVT成形性と同じ条件で接着された試験片を幅10mmの短冊状に切断し、引張試験機(テンシロン(登録商標)万能試験機、型番:RTC-1210A、株式会社エー・アンド・デイ(日本国東京都豊島区))を用いて温度23℃、剥離速度200mm/分で180度剥離を行ったときの接着力を測定した。自動車外装の塗装代替用途では、接着力が6.4N/10mm以上であることが求められる。
【0143】
3.不透明性(隠蔽性)
不透明性試験は、塗装代替フィルムの隠蔽性(下地の色を隠す能力)を評価する試験である。DVT法に用いられる塗装代替フィルムは、延伸後に着色層が薄くなりその不透明性が低下することから、延伸後であっても十分な不透明性を維持することが求められる。DVT法を用いて、塗装代替フィルムを165℃±5℃に加熱し、DVT成形性で使用した黒色のPC-ABS板の鏡面仕上げ表面に、延伸前の塗装代替フィルムの面積を100%としたときに、面積比で100%(無延伸)又は面積比で200%となるように延伸して貼り付けて、測定試料を作製した。測定試料のL*、a*、b*の値を、分光測色計(CM-3700d、コニカミノルタジャパン株式会社(日本国東京都港区))を用いて測定した。基準として無延伸の塗装代替フィルムが貼り付けられた黒色PC-ABSフラットパネルの値をL1
*、a1
*、b1
*とし、面積比200%で塗装代替フィルムが貼り付けられた黒色PC-ABSフラットパネルの値をL2
*、a2
*、b2
*としたときに、色差ΔE*を以下の式:
ΔE*=[(L2
*-L1
*)2+(a2
*-a1
*)2+(b2
*-b1
*)2]1/2
で計算して求めた。自動車外装の塗装代替用途では、ΔE*が1未満であることが求められる。
【0144】
4.熱収縮
DVT成形性と同じ条件で接着された試験片の中央に
図4のように幅40mmの格子状の切れ目を入れ、95℃で144時間(6日間)置いた。切れ目の開きを4箇所で測定し、4箇所の測定値の平均を熱収縮の指標とした。切れ目の開きが1.0mm以下を合格、1.0mm超を不合格とした。
【0145】
5.光沢度
DVT成形性と同じ条件で接着された試験片の表面の60度光沢度を携帯用光沢計GMX-202(株式会社村上色彩研究所(日本国東京都中央区))を用いて測定した。自動車外装の塗装代替用途では、60度光沢度は85以上であることが望ましく、85未満75以上であれば使用可能である。
【0146】
6.耐薬品性
DVT成形性と同じ条件で接着された試験片の表面に(A)1質量%HCl水溶液、(B)1質量%NaOH水溶液、又は(C)30質量%H3PO4水溶液を0.2mL滴下し、85℃で30分置いた後、洗剤及び水を用いて洗い流した。洗浄後の表面における液滴の痕跡の有無を目視で観察した。自動車外装の塗装代替用途では、液滴の痕跡がないことが求められる。
【0147】
7.耐候性
DVT成形性と同じ条件で接着された試験片に、JIS K 5600-7-7:2008に準拠して、ブラックパネル温度計の表示温度63℃にて波長300nm~400nmの光の積算エネルギー量が750MJ/m2となるように促進耐候性試験を行った。積算エネルギー量750MJ/m2は3年間の屋外暴露に相当する。促進耐候性試験前後の試験片の60度光沢度及びL*、a*、b*を測定した。促進耐候性試験前の60度光沢度をG1、促進耐候性試験後の60度光沢度をG2としたときに、光沢度保持率(%)=G2/G1を算出した。また、促進耐候性試験前の値をL1
*、a1
*、b1
*とし、促進耐候性試験後の値をL2
*、a2
*、b2
*としたときに、色差ΔE*を以下の式:
ΔE*=[(L2
*-L1
*)2+(a2
*-a1
*)2+(b2
*-b1
*)2]1/2
で計算して求めた。自動車外装の塗装代替用途では、光沢度保持率が80%以上、かつΔE*が3未満であることが求められる。
【0148】
8.200%伸び時引張強度
長さ約100mm、幅25mmに切断した塗装代替フィルムに、長さ方向に50mmの間隔を空けて、幅25mmの3M(登録商標)耐熱ポリイミドテープ5413(スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))を塗装代替フィルムの両面に貼り付けることにより、3M(登録商標)耐熱ポリイミドテープ5413で塗装代替フィルムの2つの短辺が挟まれた測定試料を作製した。引張試験機(テンシロン(登録商標)万能試験機、型番:RTC-1210A、株式会社エー・アンド・デイ(日本国東京都豊島区))のチャックの間隔を55mmとして、チャックに3M(登録商標)耐熱ポリイミドテープ5413が接触するようにして測定試料を固定した。恒温槽をチャック部全体を覆うように配置し、恒温槽内部の温度表示が120℃に到達した時点で測定を開始し、温度120℃、引張速度150mm/分で塗装代替フィルムを200%伸び(元の長さの2倍)まで延伸したときの引張強度を測定した。測定を2回行って平均値を求めた。自動車外装の塗装代替用途では、200%伸び時の引張強度が、温度120℃で0.6MPa以上であることが求められる。
【0149】
塗装代替フィルムの評価結果を表9~表11に示す。
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることは当業者には明らかである。