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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080873
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】電着塗料組成物及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20230602BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20230602BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230602BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20230602BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230602BHJP
   H01B 13/16 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C09D179/08
C09D5/44 A
C09D5/02
C09D7/20
C09D7/63
H01B13/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194415
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】衣川 慶
(72)【発明者】
【氏名】平井 義人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 憲一郎
【テーマコード(参考)】
4J038
5G325
【Fターム(参考)】
4J038DJ031
4J038JB01
4J038MA07
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA12
4J038NA14
4J038NA21
4J038NA26
4J038PA04
4J038PB09
4J038PC02
5G325KA06
5G325KB25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】貯蔵安定性に優れ、従来よりも低温・短時間での硬化・乾燥時間で、塗膜外観が良好であり、耐熱性、絶縁性に優れ、且つ被塗物との接着性に優れる塗膜が得られる電着塗料組成物の提供を課題とする。
【解決手段】塗膜形成樹脂(A)、塩基性化合(B)、有機溶媒(C)及び水(D)を含み、(A)は、単位(2)を有するポリアミド酸誘導体(A1)を含み、(A1)において、カルボキシエステル基の含有率は、カルボキシ基及びカルボキシエステル基の合計中、75モル%未満であり、(B)は、疎水性アミン化合物(B1)及び親水性アミン化合物(B2)を含み、(B1)の水への溶解度は、5μg/100mL超10g/100mL未満、(B2)の水への溶解度は、10g/100mL以上であり、(C)は、非プロトン性溶媒(C1)を含む、電着塗料組成物。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成樹脂(A)、塩基性化合物(B)、有機溶媒(C)及び水(D)を含む電着塗料組成物であって、
前記塗膜形成樹脂(A)は、式(2)で表される構造単位を有するポリアミド酸誘導体(A1)を含み、
前記ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるカルボキシエステル基の含有率は、前記ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるカルボキシ基及びカルボキシエステル基の合計中、75モル%未満であり、
前記塩基性化合物(B)は、疎水性アミン化合物(B1)及び親水性アミン化合物(B2)を含み、
前記疎水性アミン化合物(B1)の水への溶解度は、20℃において、5μg/100mL超、10g/100mL未満であり、前記親水性アミン化合物(B2)の水への溶解度は、20℃において、10g/100mL以上であり、
前記有機溶媒(C)は、非プロトン性溶媒(C1)を含む、電着塗料組成物。
【化1】
[式(2)中、
Arは、炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表し、
Lは、単結合、-O-、炭素数1~3のアルキレン基、炭素数1~3のフルオロアルキレン基又は-CO-を表し、
は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、炭素数1~5のアルキル基である。]
【請求項2】
前記ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるカルボキシエステル基の含有率は、前記ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるカルボキシ基及びカルボキシエステル基の合計中、10モル%超である、請求項1に記載の電着塗料組成物。
【請求項3】
前記疎水性アミン化合物(B1)の含有率は、前記塩基性化合物(B)中、50質量%以上である、請求項1又は2に記載の電着塗料組成物。
【請求項4】
前記非プロトン性溶媒(C1)は、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒、エステル系溶媒及びケトン系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項5】
前記非プロトン性溶媒(C1)の含有率は、前記有機溶媒(C)中、50質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒(C)の含有量が、前記水(D)100質量部に対し、100質量部超、300質量部未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項7】
銅線コイルの被覆に用いられる、請求項1~6のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項8】
被塗物と、前記被塗物の表面に設けられた電着塗膜とを備える物品の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか1項に記載の電着塗料組成物中に前記被塗物を浸漬して電圧を印加し、前記被塗物の表面に析出塗膜を形成する、電着塗装工程、及び、
前記析出塗膜を、100~300℃で、10~180分間乾燥させて前記電着塗膜とする、乾燥工程を含む、物品の製造方法。
【請求項9】
前記被塗物は、銅線コイルである、請求項8に記載の物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電着塗料組成物及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、電着塗料組成物中に被塗物(基材)を浸漬させて電圧を印加することにより、被塗物の表面に塗膜を析出させる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても高い塗着効率で細部にまで均一な塗装を施すことができ、自動的且つ連続的に塗装することができるため、各種被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。また、電着塗装は、被塗物に高い防食性を与えることができる等、被塗物の保護効果にも優れているという利点がある。更に、電着塗料組成物は、水性塗料組成物であるため、溶剤型塗料組成物と比較して、環境に対する負荷が軽減されているという利点もある。
【0003】
近年、自動車搭載用モーター、特に電気自動車(EV車)やハイブリッド車(HV車)に使用される駆動モーターの小型化、高出力化が求められている。それを実現するためには、コイルの電流密度は高いことが好ましいが、同時にコイルの発熱も大きくなる。このため、自動車搭載用モーターのコイルに用いるエナメル線を被覆する絶縁塗膜においては、より一層高いレベルの絶縁性と耐熱性が求められている。
【0004】
このような高い絶縁性と耐熱性の要求を達成するための有力な候補として、ポリイミド樹脂が挙げられる。ポリイミド樹脂は、複数の芳香族がイミド結合を介して結合した剛直で強固な分子構造を持ち、また、イミド環構造が強い分子間力を持つ。そのため、ポリイミド樹脂は、通常の高分子化合物(樹脂組成物)に比べて、優れた電気絶縁性、耐熱性、機械的特性、耐溶剤性、耐薬品性等を示す。しかし、ポリイミド樹脂は前記分子構造に由来して、アミド系溶剤等の特定の有機溶剤にしか分散できず、また、製膜が困難であるため、塗料への適用は困難を伴うものであった。
【0005】
この様な状況の中、ポリイミド樹脂の電着塗装への適用については、その特定の有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂を用いた電着塗装が検討されている(特許文献1、2)。
【0006】
一方、ポリイミド樹脂は、前記のとおり塗料用途として用いられる一般的な有機溶剤に不溶なため、その前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸ともいう)を水分散した電着塗料組成物を用いて電着塗装を行い、その電着塗装被膜を、250~300℃の高温で加熱処理して、ポリアミド酸の脱水環化により、ポリイミド塗膜とする方法も検討されている(特許文献3~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-327905号公報
【特許文献2】特開2005-187914号公報
【特許文献3】特開昭63-111199号公報
【特許文献4】特開平6-252003号公報
【特許文献5】特開平9-124978号公報
【特許文献6】特開平3-6397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2で示されるように、ポリイミド樹脂は水には不溶のため、電着塗料として用いる場合、コロイドの状態で水に分散した電着液とする必要がある。このため、電着塗装被膜に欠陥が生じやすく、得られる電着塗膜の均一性が十分に保証されるものではなく、ポリイミド樹脂の優れた特性を十分に発揮することができなかった。
【0009】
また、特許文献3~6に示される方法では、ポリイミド前駆体のポリアミド酸は容易に加水分解するため、塗料組成物の貯蔵安定性が低く、更に、電着塗装被膜に含まれるポリアミド酸を脱水閉環させイミド化するためには、一定以上の高温且つ長時間の加熱処理をする必要があり、生産性にも問題があった。
【0010】
本開示は、貯蔵安定性に優れ、従来よりも低温・短時間での硬化・乾燥時間で、塗膜外観が良好であり、耐熱性、絶縁性に優れ、且つ被塗物との接着性に優れる塗膜が得られる電着塗料組成物の提供を課題とする。また、電着塗料組成物を用いた物品の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、以下を含む。
[1]塗膜形成樹脂(A)、塩基性化合物(B)、有機溶媒(C)及び水(D)を含む電着塗料組成物であって、
前記塗膜形成樹脂(A)は、式(2)で表される構造単位を有するポリアミド酸誘導体(A1)を含み、
前記ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるカルボキシエステル基の含有率は、前記ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるカルボキシ基及びカルボキシエステル基の合計中、75モル%未満であり、
前記塩基性化合物(B)は、疎水性アミン化合物(B1)及び親水性アミン化合物(B2)を含み、
前記疎水性アミン化合物(B1)の水への溶解度は、20℃において、5μg/100mL超、10g/100mL未満であり、前記親水性アミン化合物(B2)の水への溶解度は、20℃において、10g/100mL以上であり、
前記有機溶媒(C)は、非プロトン性溶媒(C1)を含む、電着塗料組成物。
【0012】
【化1】
【0013】
[式(2)中、
Arは、炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表し、
Lは、単結合、-O-、炭素数1~3のアルキレン基、炭素数1~3のフルオロアルキレン基又は-CO-を表し、
は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、炭素数1~5のアルキル基である。]
[2]前記ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるカルボキシエステル基の含有率は、前記ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるカルボキシ基及びカルボキシエステル基の合計中、10モル%超である、[1]に記載の電着塗料組成物。
[3]前記疎水性アミン化合物(B1)の含有率は、前記塩基性化合物(B)中、50質量%以上である、[1]又は[2]に記載の電着塗料組成物。
[4]前記非プロトン性溶媒(C1)は、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒、エステル系溶媒及びケトン系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
[5]前記非プロトン性溶媒(C1)の含有率は、前記有機溶媒(C)中、50質量%以上である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
[6]前記有機溶媒(C)の含有量が、前記水(D)100質量部に対し、100質量部超、300質量部未満である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
[7]銅線コイルの被覆に用いられる、[1]~[6]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
[8]被塗物と、前記被塗物の表面に設けられた電着塗膜とを備える物品の製造方法であって、
[1]~[7]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物中に前記被塗物を浸漬して電圧を印加し、前記被塗物の表面に析出塗膜を形成する、電着塗装工程、及び、
前記析出塗膜を、100~300℃で、10~180分間乾燥させて前記電着塗膜とする、乾燥工程を含む、物品の製造方法。
[9]前記被塗物は、銅線コイルである、[8]に記載の物品の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、貯蔵安定性に優れ、従来よりも低温・短時間での硬化・乾燥時間で、塗膜外観が良好であり、耐熱性、絶縁性に優れる塗膜が得られる電着塗料組成物が得られる。また、電着塗料組成物を用いた物品の製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の電着塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)、塩基性化合物(B)、有機溶媒(C)及び水(D)を含む。後述するように、塗膜形成樹脂(A)は、ポリアミド酸誘導体(A1)を含み、該ポリアミド酸誘導体(A1)のカルボキシ基を塩基性化合物(B)により中和することで、塗膜形成樹脂(A)が有機溶媒(C)及び水(D)中に分散した電着塗料組成物とすることができる。
【0016】
[塗膜形成樹脂(A)]
前記塗膜形成樹脂(A)は、式(2)で表される構造単位(以下、「構造単位(2)」ともいう)を有するポリアミド酸誘導体(A1)を含む。
【0017】
【化2】
【0018】
[式(2)中、
Arは、炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表し、
Lは、単結合、-O-、炭素数1~3のアルキレン基、炭素数1~3のフルオロアルキレン基又は-CO-を表し、
は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、炭素数1~5のアルキル基である。]
【0019】
前記ポリアミド酸誘導体(A1)において、カルボキシエステル基(すなわち、Rが水素原子以外の場合の-COOR)の含有率(以下、「エステル化率」ともいう)は、カルボキシル基(-COOH)及び前記カルボキシエステル基の合計中、75モル%未満であり、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下であり、好ましくは10モル%超、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは25モル%以上、とりわけ好ましくは35モル%以上である。前記ポリアミド酸誘導体(A1)が、カルボキシエステル基及びカルボキシ基の両方を有し、且つエステル化率が前記範囲内にあることで、前記ポリアミド酸誘導体(A1)の水への分散性が向上するという利点がある。
【0020】
前記エステル化率は、ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるRを全て水素原子とした基準ポリアミド酸誘導体の酸価と、ポリアミド酸誘導体(A1)の酸価から、下記式により算出することができる。
エステル化率(%)=ポリアミド酸誘導体(A1)の酸価/基準ポリアミド酸誘導体の酸価×100
なお、本開示において、酸価は固形分換算での値を示し、JIS K 0070に準拠した方法により測定することができる。また、基準ポリアミド酸誘導体は、後述するポリアミド酸誘導体(A1)の原材料(芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)と芳香族ジアミン(Y)の反応物)としてよい。
【0021】
ポリアミド酸誘導体(A1)は、加熱により、イミド結合を形成し、ポリイミド樹脂となる。具体的には、構造単位(2)におけるアミド結合とカルボキシ基とが反応し、脱水閉環してイミド結合を形成する。また、構造単位(2)におけるアミド結合とカルボキシエステル基とが反応し、脱アルコール閉環してイミド結合を形成する(以下、前記いずれの場合も「イミド化反応」ともいう)。そのため、本開示の電着塗料組成物を被塗物の表面に電着塗装してポリアミド酸塗装被膜(析出塗膜)を形成した後、更に、加熱によりアミド結合とカルボキシ基又はカルボキシエステル基とを反応させ閉環させることで、ポリイミド結合を形成し、ポリアミド酸塗装被膜(析出塗膜)をポリイミド樹脂塗膜とすることができる。
【0022】
特定の理論に拘束されないが、本発明者らの検討によれば、本開示において前記ポリアミド酸誘導体(A1)の構造単位(2)がカルボキシル基を含むことで、前記塗膜形成樹脂(A)の水への分散性を確保することができ、本開示の電着塗料組成物は、電着塗料としての機能を発揮することができる。また、同様に、本発明者らの検討によれば、前記ポリアミド酸誘導体(A1)が構造単位(2)としてカルボキシエステル基(すなわち、-COOR)を含むことで、前記塗膜形成樹脂(A)を水に分散させた場合においても、前記塗膜形成樹脂(A)の加水分解を抑制でき、電着塗料組成物の貯蔵安定性を向上できる。
【0023】
前記ポリアミド酸誘導体(A1)は、構造単位(2)に加え、式(1)で表される単位(以下、「構造単位(1)」ともいう)を更に有していてもよい。
【0024】
【化3】
【0025】
[式(1)中、
Arは、炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表し、
Lは、単結合、-O-、炭素数1~3のアルキレン基、炭素数1~3のフルオロアルキレン基又は-CO-を表す。]
【0026】
構造単位(1)においても、構造単位(2)と同様、アミド結合とカルボキシ基とが反応し、脱水閉環してイミド結合を形成するイミド化反応が進行し得る。前記ポリアミド酸誘導体(A1)が構造単位(1)を含む場合、構造単位(1)に含まれるカルボキシ基も前記エステル化率の算出の際、ポリアミド酸誘導体(A1)に含まれるカルボキシ基に算入される。
【0027】
前記ポリアミド酸誘導体(A1)が構造単位(1)を含む場合、構造単位(2)に含まれるカルボキシエステル基の含有率は、構造単位(1)及び構造単位(2)に含まれるカルボキシ基及びカルボキシエステル基の合計中、好ましくは75モル%未満であり、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、とりわけ好ましくは50モル%以下であり、好ましくは10モル%超、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは25モル%以上、とりわけ好ましくは35モル%以上である。
【0028】
式(1)及び式(2)において、Arで表される芳香族炭化水基としては、ベンゼンテトライル基、チオフェンテトライル基、ピリジンテトライル基等の単環の芳香族炭化水素基;ナフタレンテトライル基、ビフェニルテトライル基、ビスフェニルエーテルテトライル基、ベンゾフェノンテトライル基、ビフェニルエーテルテトライル基、ビスフェニルプロパンテトライル基、エチリデンジフェニルテトライル基、イソプロピリデンジフェニルテトライル等の多環の芳香族炭化水素基等が挙げられる。Arで表される芳香族炭化水素基は、フッ素原子、トリフルオロメチル基、メチル基等の置換基を有していてもよい。Arで表される芳香族炭化水素基の炭素数は、6~20であり、好ましくは6~18、より好ましくは6~12である。式(1)及び式(2)におけるArは、互いに同一でも異なっていてもよい。また、複数の構造単位(1)間で、複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数の構造単位(2)間で、複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0029】
式(1)及び式(2)において、Lは、それぞれ独立に、単結合、-O-、炭素数1~3のアルキレン基、炭素数1~3のフルオロアルキレン基又は-CO-を表し、好ましくは-O-、-CH-又は-CO-であり、特に好ましくは-O-である。式(1)及び式(2)におけるLは、互いに同一でも異なっていてもよい。また、複数の構造単位(1)間で、複数のLは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数の構造単位(2)間で、複数のLは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0030】
式(2)において、Rで表される基は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。複数の構造単位(2)間で、複数のRは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0031】
前記ポリアミド酸誘導体(A1)のうち、構造単位(1)を有する部分は、芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)と芳香族ジアミン(Y)とを反応することにより製造できる。
【0032】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)は、ピロメリット酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフタル酸二無水物、及び2,3,3’,4’-ビフタル酸二無水物、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-〔2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス(1,2)-ベンゼンジカルボン酸二無水物)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、ビストリフルオロメチル化ピロメリット酸、ビス(ジカルボキシルフェニル)エーテル二無水物、チオフェンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2、3、5、6-ピリジンテトラカルボン酸二無水物、等の芳香族酸二無水物を挙げることができる。前記芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)は、1種のみを用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
前記芳香族ジアミン(Y)としては、4,4’-ジアミノフェニルエーテル、4,4’-ジアミノフェニルメタン、2,2’-トリフルオロメチルベンジジン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチル-1,1’-ビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル、4,4’-メチレンビス(ベンゼンアミン)、4,4’-オキシビス(ベンゼンアミン)、3,4’-オキシビス(ベンゼンアミン)、3,3’-カルボキシルビス(ベンゼンアミン)、1-メチルエチリジン-4,4’-ビス(ベンゼンアミン)、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチリジン-4,4’-ビス(ベンゼンアミン)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ビス-4(4-アミノフェニル)プロパン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル、2,2-ビス〔4(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4-(又は、3,4’-、3,3’-、2,4’-)ジアミノ-ビフェニルエーテル、等を挙げることができる。前記芳香族ジアミン(Y)は、1種のみを用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、カルボキシル基を有するジアミン及び/又は酸無水物と組み合わせても良い。これらの組合せを選ぶ際、これらの組み合わせが溶剤可溶となる組成を選ぶ必要がある。
【0034】
前記ポ芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)と芳香族ジアミン(Y)とを反応させる際、末端封止剤として、無水コハク酸、無水フタル酸、無水マレイン酸を共存させてもよい。
【0035】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)と芳香族ジアミン(Y)との反応の際に用いられる反応溶媒は、好ましくは有機溶媒、より好ましくは極性有機溶媒であり、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルホルムアルデヒド及びジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。前記反応溶媒は、1種のみを用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)と芳香族ジアミン(Y)とを反応させる際の温度は、例えば0~100℃であってよく、更に0~60℃であってよい。また、反応時間は、10分~50時間であってよく、20分~30時間であってよい。前記反応時間の調整により、数平均分子量を制御可能である。
【0037】
構造単位(2)を有する部分は、構造単位(1)に含まれるカルボキシ基に、アルキル化剤を用いて炭素数1~5のアルキル基を導入することで製造できる。前記アルキル化剤としては、塩酸-メタノール試薬、塩酸-ブタノール試薬等の塩酸-アルコール試薬;酸塩化ホウ素-メタノール試薬、三フッ化ホウ素-メタノール試薬、三フッ化ホウ素-プロパノール試薬、三フッ化ホウ素-イソプロピルアルコール試薬、三フッ化ホウ素-ブタノール試薬、三塩化ホウ素-クロロエタノール試薬等のハロゲン化ホウ素-アルコール試薬;ヨウ化メチル、臭化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチル、ヨウ化プロピル、臭化プロピル、ヨウ化ブチル、臭化ブチル、ヨウ化ペンチル、臭化ペンチル等の炭素数1~5のハロゲン化アルキル;N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジブチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジ-tert-ブチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジネオペンチルアセタール、アセトンジメチルアセタール等のアセタール類;トリメチルシリルジアゾメタン、N-メチル-N-ニトロソパラトルエンスルホンアミド、N-メチル-N-ニトロソウレタン、1-メチル-3-ニトロ-1-ニトロソグアニジン等のジアゾメタン誘導体類;オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリプロピル、オルトギ酸トリブチル等のオルトギ酸アルキルエステル類;N,N’-ジイソプロピル-O-メチルイソウレア、N,N’-ジイソプロピル-O-エチルイソウレア、O,N,N’-トリイソプロピルイソウレア、N,N’-ジイソプロピル-O-tert-ブチルイソウレア等のアルキルイソウレア類;1-メチル-3-パラトリルトリアゼン、1-エチル-3-パラトリルトリアゼン、1-イソプロピル-3-パラトリルトリアゼン等のトリアゼン類;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジブチル等の炭酸エステル類;硫酸ジメチル、フルオロ硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル、硫酸ジエチル、メタンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸エチル、硫酸ジプロピル、メタンスルホン酸プロピル、パラトルエンスルホン酸プロピル、硫酸ジイソプロピル、メタンスルホン酸イソプロピル、硫酸ジブチル、パラトルエンスルホン酸ブチル、メタンスルホン酸2-クロロエチル、メタンスルホン酸2,2,2-トリフルオロエチル、パラトルエンスルホン酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル等の硫酸エステル類;オルト酢酸アルキルエステル等が挙げられる。必要に応じて、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ピリジン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)等の塩基を併用してもよい。
【0038】
また、構造単位(2)を有する部分は、芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)のカルボキシル基がエステル化された化合物(X2)と芳香族ジアミン(Y)とを反応させることにより製造してもよい。前記化合物(X2)は、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)の炭素数1~5のアルキルエステルであることが好ましい。
【0039】
前記ポリアミド酸誘導体(A1)の数平均分子量は、貯蔵安定性及び電着塗装により得られる塗装被膜(析出塗膜)の均一性の観点から、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは20,000~90,000である。
なお本開示において、数平均分子量は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算値である。
【0040】
前記塗膜形成樹脂(A)におけるポリアミド酸誘導体(A1)の含有率は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0041】
前記塗膜形成樹脂(A)は、ポリアミド酸誘導体(A1)以外に、その他のポリアミド酸誘導体を含んでいてもよい。その他のポリアミド酸誘導体としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応物のうち、ポリアミド酸誘導体(A1)以外のもの(具体的には、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、その他のジアミンとの反応物;その他のテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン又はその他のジアミンとの反応物)が挙げられる。前記テトラカルボン酸としては、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物;3,4,3’,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビス(ジカルボキシルフェニル)スルホン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロオクテンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、5(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)3-メチル-3シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物等のその他のテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。前記ジアミンとしては、前記芳香族ジアミン;4,4’-ジアミノフェニルスルホン、2,4(又は、2,5)-ジアミノトルエン、1,4-ベンゼンジアミン、1,3-ベンゼンジアミン、6-メチル-1,3-ベンゼンジアミン、4,4’-チオビス(ベンゼンアミン)、4,4’-スルホニル(ベンゼンアミン)、3,3’-スルホニル(ベンゼンアミン)、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,6-ジアミノピリジン、3,3’-ジニトロ-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス〔4(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エチル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、ビス〔4(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ベンジジン-3,3-ジカルボン酸、ジアミノシラン化合物等のその他のジアミンが挙げられる。
【0042】
本発明の塗料組成物は、必要に応じて、前記ポリアミド酸誘導体(A1)以外の他の塗膜形成樹脂を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂として、例えば、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂等が挙げられる。硬化電着塗膜の耐熱性及び絶縁性向上の観点からエポキシ樹脂が好ましい。また、このような他の塗膜形成樹脂を用いる場合における含有量は、塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して10質量%未満であるのが好ましく、5質量%未満であるのがより好ましい。一実施態様において、その他の塗膜形成樹脂は、それ自体を水溶化又は水分散した後、ポリアミド酸誘導体(A1)、塩基性化合物(B)及び有機溶媒(C)と混合してもよい。また、一実施態様において、その他の塗膜形成樹脂は、ポリアミド酸誘導体(A1)と混合した後、塩基性化合物(B)及び有機溶媒(C)と混合し、ディスパー等の分散装置を用いて分散することにより、電着塗料組成物中に分散してよい。
【0043】
前記塗膜形成樹脂(A)の含有率は、電着塗料組成物中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0044】
[塩基性化合物(B)]
前記塩基性化合物(B)は、疎水性アミン化合物(B1)及び親水性アミン化合物(B2)を含む。本開示において、疎水性アミン化合物(B1)及び親水性アミン化合物(B2)を含むアミン化合物は、分子中にアミノ基を1個以上有する化合物を表す。
【0045】
本開示における疎水性アミン化合物(B1)は、前記アミン化合物のうち、水への溶解度が、20℃において、5μg/mL超10g/100mL未満であるものを表す。特定の理論に拘束されないが、本発明者らの検討によれば、疎水性アミン化合物(B1)は、水への溶解度が低いことで、塗膜形成樹脂(A)との親和性が高く、形成される電着塗装被膜(析出塗膜)中に残存し、ポリアミド酸誘導体から、ポリイミド樹脂を形成する際、触媒として有効に作用し得る。また、疎水性であっても、一定量の水への溶解性を有することで、得られる電着塗料組成物の貯蔵安定性を向上できる。前記疎水性アミン化合物(B1)の水への溶解度は、20℃において、好ましくは10μg/100mL以上、より好ましくは1mg/100mL以上、更に好ましくは5mg/100mLであり、好ましくは8g/mL以下、より好ましくは1g/mL以下、更に好ましくは100mg/100mLである。
【0046】
前記疎水性アミン化合物(B1)としては、比較的炭素数の多いアルキル基が結合しているトリアルキルアミンが挙げられ、具体的に、式(b1)で表される化合物(以下、「化合物(b1)」ともいう)のうち、前記水への溶解度を有するものが挙げられる。
NR (b1)
[式(b1)中、
、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基又はフェニルアルキル基を表す。
但し、R、R及びRの炭素数の合計は、6以上20以下である。]
【0047】
、R、Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフェニル基若しくはベンジル基が挙げられる。R、R及びRは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0048】
、R及びRの炭素数の合計は、好ましくは6~15、より好ましくは6~12である。
【0049】
疎水性アミン化合物(B1)としては、ポリアミド酸誘導体(A1)のイミド化反応の観点から、ジメチルデシルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、アニリン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ジメチルアニリン、ジメチルベンジルアミンが好ましく、ジメチルデシルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンがより好ましい。
【0050】
前記疎水性アミン化合物(B1)は、1種のみを用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
前記疎水性アミン化合物(B1)の沸点は、好ましくは80℃以上、より好ましく150℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、例えば260℃以下、更に250℃以下、とりわけ240℃以下であってよい。上記範囲内にあることで、ポリアミド酸誘導体(A1)のイミド化反応を良好な範囲で確保できるという利点がある。
【0052】
塩基性化合物(B)中、疎水性アミン化合物(B1)の含有率は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上であり、好ましくは95モル%以下、より好ましくは92モル%以下、さらに好ましくは88モル%以下である。疎水性アミン化合物(B1)の含有率が上記範囲内にあることで、ポリアミド酸誘導体(A1)のイミド化反応の反応性が良好になるという利点がある。
【0053】
本開示における親水性アミン化合物(B2)は、前記アミン化合物のうち、水への溶解度が、20℃において、10g/100mL以上であるものを表す。特定の理論に拘束されないが、本発明者らの検討によれば、親水性アミン化合物(B2)の水への溶解度が高いことで、塗膜形成樹脂(A)に含まれるカルボキシ基を中和し、得られる電着塗料組成物の貯蔵安定性を高めることができ、また電着塗膜への残存を抑制し得る。前記親水性アミン化合物(B2)の水への溶解度は、20℃において、好ましくは15g/100mL以上、より好ましくは20g/100mL以上である。なお、本開示において、水と混和し得る化合物の水への溶解度は、無限大とする。
【0054】
前記親水性アミン化合物(B2)としては、アルカノールアミンや、比較的炭素数の少ないアルキル基が結合しているトリアルキルアミンが挙げられ、具体的には、式(b2)で表される化合物(以下、「化合物(b2)」ともいう)のうち、前記水への溶解度を有するものが挙げられる。
NR (b2)
[式(b2)中、
、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~10のヒドロキシアルキル基を表す。
但し、R、R及びRがいずれもアルキル基であって、これらのアルキル基の炭素数の合計は5以下であるか、又は、R、R及びRの少なくとも1つが炭素数1~10のヒドロキシアルキル基である。]
【0055】
、R、Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。R、R、Rで表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~2である。
【0056】
、R、Rで表されるヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基等が挙げられる。R、R、Rで表されるヒドロキシアルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~4である。
【0057】
、R及びRのうち、好ましくは1以上がヒドロキシアルキル基であり、より好ましくは2以上がヒドロキシアルキル基であり、更に好ましくは全てがヒドロキシアルキル基である。
【0058】
、R及びRは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0059】
親水性アミン化合物(B2)としては、トリメチルアミン、ジエチルメチルアミン、N,N-ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミンが好ましく、トリエタノールアミンがより好ましい。
【0060】
前記親水性アミン化合物(B2)は、1種のみを用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
前記親水性アミン化合物(B2)の含有量は、前記疎水性アミン化合物(B1)100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは12質量部以上であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは25質量部以下である。親水性アミン化合物(B2)の含有量が上記範囲内にあることで、得られる電着塗料組成物の貯蔵安定性を良好にできるという利点がある。
【0062】
前記疎水性アミン化合物(B1)及び親水性アミン化合物(B2)の合計の含有率は、前記塩基性化合物(B)中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、好ましくは100質量%以下である。
【0063】
前記塩基性化合物(B)は、アミン化合物以外に、その他の塩基性化合物を含んでいてもよい。前記その他の塩基性化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金水酸化物等が挙げられる。
【0064】
本開示において、塩基性化合物(B)の含有量は、塩基性化合物(B)による、前記ポリアミド酸誘導体(A1)の中和率、すなわち、以下の式で求められるモル換算の中和率が、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上であり、好ましくは200%以下、より好ましくは120%以下となる範囲である。
中和率(%)=[(塩基性化合物(B)の塩基価数×塩基性化合物(B)のモル数)/(ポリアミド酸誘導体(A1)のカルボキシ基のモル数)]×100
【0065】
塩基性化合物(B)の使用量が、前記下限以上であると、電着塗料組成物の製造性(乳化性)が良好であり、前記上限以下であると、電着塗料組成物の製造性(乳化性)及び貯蔵安定性が良好である。
【0066】
[有機溶媒(C)]
前記有機溶媒(C)は、非プロトン性溶媒(C1)を含む。本開示において、非プロトン性溶媒(C1)は、プロトン供与性でない溶媒を意味する。前記非プロトン性溶媒(C1)としては、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒、エステル系溶媒及びケトン系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含むことが好ましい。前記非プロトン性溶媒(C1)を含むことで、得られる塗料組成物の貯蔵安定性が向上し、且つ得られる塗膜の連続性及び平滑性が向上するという利点がある。
【0067】
前記アミド系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N-ジメチルプロピレン尿素、N,N-2-トリメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等が挙げられる。前記スルホン系溶媒としては、環状スルホン系溶媒が好ましく、スルホラン等が挙げられる。前記スルホキシド系溶媒としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。前記エステル系溶媒としては、環状エステル系溶媒が好ましく、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。前記ケトン系溶媒としては、環状ケトン系溶媒が好ましく、シクロヘキサノン等が挙げられる。前記有機溶媒(C)としては、アミド系溶媒が好ましく、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N-ジメチルプロピレン尿素、N,N-2-トリメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドがより好ましく、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N-ジメチルプロピレン尿素、N,N-2-トリメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドが更に好ましい。前記アミド系溶媒は、単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよい。その他の非プロトン性溶媒(C1)として、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられる。
【0068】
前記非プロトン性溶媒(C1)の含有率は、前記有機溶媒(C)中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、好ましくは100質量%以下である。前記非プロトン性溶媒(C1)の含有率がこのような範囲内にあることで、得られる塗料組成物の貯蔵安定性が向上し、且つ得られる塗膜の連続性及び平滑性が向上するという利点がある。
【0069】
前記有機溶媒(C)は、前記非プロトン性溶媒(C1)以外のその他の有機溶媒(C)を含んでいてもよい。前記その他の有機溶媒としては、極性溶媒が好ましく、メタノール、エタノール等のアルコール等が挙げられる。
【0070】
前記有機溶媒(C)の含有量は、後述する水(D)100質量部に対し、好ましくは100質量部以上、より好ましくは120質量部以上であり、好ましくは300質量部以下、より好ましくは250質量部以下である。前記有機溶媒(C)の含有量がこのような範囲内にあることで、得られる塗膜の製膜性が向上するという利点がある。
【0071】
[水(D)]
水(D)としては、当該分野で用いられる水を適宜使用でき、イオン交換水を用いることが好ましい。前記有機溶媒(C)及び水(D)の合計の含有率は、電着塗料組成物中、好ましくは80質量%以上であり、好ましくは98質量%以下である。
【0072】
[顔料]
前記電着塗料組成物は、必要に応じて顔料を含んでもよい。顔料としては、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アゾレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロ等の着色顔料;シリカ化合物、シリカアルミナ化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物(炭酸カルシウム等)、窒化物、硫酸バリウム、層状ケイ酸塩化合物(カオリン、クレー、タルク等)、層状複水酸化物、石灰炭、ジルコニア、イットリア、酸化亜鉛等の体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料等が挙げられる。
【0073】
前記電着塗料組成物が顔料を含む場合、顔料の分散容易性の観点から、予め顔料をアニオン性顔料分散樹脂に分散させ、顔料分散ペーストとして、電着塗料組成物の製造に用いることが好ましい。前記顔料分散ペーストは、水性媒体及び必要に応じて用いる中和塩基を含んでいてよい。
【0074】
アニオン性顔料分散樹脂としては、アクリル酸エステル、アクリル酸及びアゾニトリル化合物等を用いて調製される変性アクリル樹脂を用いてよい。
【0075】
前記中和塩基としては、例えば、アンモニア;ジエチルアミン、エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、エチルアミノエチルアミン、ヒドロキシエチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルアミン等の有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等が挙げられる。原料分散ペーストにおける固形分の含有率は、例えば35~70質量%、更に40~65質量%であってよい。
【0076】
前記水性媒体としては、前記有機溶媒(C)及び水(D)の混合物を用いてよい。
【0077】
前記顔料分散ペーストは、アニオン性顔料分散樹脂、顔料、水性媒体、そして必要に応じて中和塩基を混合し、該混合物中の顔料の粒子径が、例えば15μm以下となるまで、ボールミル、サンドグラインドミル等の分散装置で分散させることにより製造できる。
【0078】
前記顔料分散ペーストとして、例えば、WAJ-AAT-907ブラック、WAJ-AAT-825バイオレット、WAJ-AAT-731ブルー(以上、トーヨーケム社製)、エマコールNSオーカー4622(山陽色素社製)等の市販品を用いてよい。
【0079】
電着塗料組成物が顔料を含む場合、顔料の含有率は、電着塗料組成物の全固形分中、2~50質量%であることが好ましい。これにより、良好な電着塗膜が得られるとともに、電着塗料組成物の貯蔵安定性が良好となる。
なお、本開示において、電着塗料組成物の全固形分は、電着塗料組成物の有機溶媒(C)及び水(D)を除いた部分を表す。
【0080】
[添加剤]
電着塗料組成物は、その他必要に応じて、分散剤、粘性調整剤、表面調整剤、消泡剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、触媒等の添加剤を含んでいてよい。
【0081】
[電着塗料組成物の製造方法]
本開示の電着塗料用成物は、各成分を混合することにより調製することができる。具体的には、本開示の電着塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)、塩基性化合物(B)、有機溶媒(C)及び必要に応じて用いられるその他の成分(顔料、添加剤等)をそれぞれ加えて混合し、得られた混合物と水(D)とを混合し、分散させることにより製造できる。電着塗料組成物の更に具体的な製造方法として、例えば下記方法が挙げられる。
【0082】
まず、前記塗膜形成樹脂(A)及び有機溶媒(C)を混合し、次いで塩基性化合物(B)を混合する。得られた混合物を水(D)中に滴下し、又は、得られた混合物に水性媒体を加え、分散又は溶解させて、水分散体を得る。
他の製造方法の例として、まず、前記塗膜形成樹脂(A)、塩基性化合物(B)及び有機溶媒(C)を混合し、得られた混合物を水(C)に滴下し、又は、得られた混合物に水(C)を加え、分散又は溶解させて、水分散体を得る。
【0083】
なお、電着塗料組成物の製造において、必要に応じて用いられるその他の成分は、任意の適切なタイミングで加えることができる。また、混合、分散又は溶解は、例えば、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、ペブルミル、サンドグラインドミル、ポットミル、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機分散機、混錬機等を用いて実施できる。
【0084】
被塗物と、本開示の電着塗料組成物から形成される電着塗膜とを備える物品の製造方法も本開示の技術的範囲に包含される。
【0085】
[物品製造方法]
前記物品の製造方法は、本開示の電着塗料組成物中に前記被塗物を浸漬して電圧を印加し、前記被塗物の表面に析出塗膜を形成する、電着塗装工程、及び、
前記析出塗膜を、80~300℃で、10~180分間乾燥させて電着塗膜とする、乾燥工程を含む。ある態様では、前記乾燥工程は、乾燥温度及び/又は乾燥時間を段階的に設定してもよく、例えば、80~120℃で10~30分間乾燥させ、続いて140~180℃で10~30分間乾燥させ、更に200~240℃で10~30分間乾燥させてもよい。
【0086】
前記電着塗料組成物を塗装する被塗物としての基材は、導電性のあるものであれば特に限定されない。例えば、金属(鉄、鋼、銅、アルミニウム、マグネシウム、スズ、亜鉛等及びこれら金属を含む合金等)、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらに表面処理(例えば、リン酸系、クロム酸系又はジルコニウム系の化成処理)を施したもの、並びにこれらの成型物等が用いられる。
【0087】
前記電着塗装工程において、着塗料組成物の浴温は、10℃~40℃であることが好ましく、10℃~30℃であることがより好ましい。印加電圧は、10V~200Vであることが好ましく、30V~100Vであることがより好ましい。電圧を印加する時間は、1秒~300秒であることが好ましく、30秒~180秒であることがより好ましい。
【0088】
電着塗装工程の後、乾燥工程の前に、析出塗膜を水洗又は溶剤洗浄する工程を実施してもよい。前記水洗は、電着塗料が付着した被塗物を洗浄し、電着液を除去することを目的とするものである。前記水洗手段としては特に限定されず、通常の洗浄装置を使用することができ、例えば、電着液の限外ろ過によって得られたろ液を洗浄液とし、電着被覆された被塗物を洗浄する装置を挙げることができる。
【0089】
前記乾燥工程において、乾燥温度は、例えば、5~180分であってよく、更に10~180分であってよく、特に10~120分間であってよい。前記焼付け及び乾燥手段としては、通常の加熱乾燥装置を使用することができ、具体的には、熱風乾燥炉、近赤外線加熱炉、遠赤外線加熱炉、誘導加熱炉等を挙げることができる。
【0090】
得られる電着塗膜の膜厚は、5~25μmであることが好ましい。
【0091】
本開示の電着塗料組成物及び物品の製造方法は、分割銅線等の複雑な形状の被塗物、具体的には、銅線コイルに好ましく用いることができる。特に、ジェネレータコイル等の絶縁性及び耐熱性が要求される被塗物にも、好ましく用いることができる。
【実施例0092】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0093】
(製造例1)
塗膜形成樹脂(A1:ポリアミド酸誘導体)の製造例
かくはん機、還流冷却器及び温度計を取り付けた反応容器に、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル 73.2質量部とN-メチル-2-ピロリドン 823.6質量部を仕込み、かくはんしながら50℃に昇温して溶解させた。次に、溶解物に、3,4,3’,4’-ジフェニルテトラカルボン酸ジ無水物 107.6質量部を徐々に添加した。添加終了後1時間かくはんを継続し、最後に無水フタル酸 0.2質量部を添加して、更に30分かくはんし、ポリアミド酸(I-1)1,004.4質量部(固形分濃度:18.0質量%)を得た。
【0094】
続いて、かくはん機、還流冷却器及び温度計を取り付けた反応容器に、ポリアミド酸(I-1)1,004.4質量部及びN-メチル-2-ピロリドン 300.0質量部を加えてかくはんしながら、炭酸カリウム 37.6質量部を添加した。更に、ヨードプロパン56.0質量部を添加した後、45℃に昇温し、7時間かくはんした。その後室温まで冷却し、ろ過操作を行って、ポリアミド酸(I-1)のカルボキシ基の一部をエステル化した反応物1,360.4質量部を得た。得られた反応物を、ステンレス容器に入れた大容量のアセトンに注ぎ、再沈殿させ、濾過操作を行って、固形物を分離した。更に、得られた固形物を、40℃で加熱真空乾燥を24時間行い、ポリアミド酸誘導体(A1-1)(エステル化率:45モル%)を得た。
【0095】
(製造例2~13)
製造例1において、テトラカルボン酸二無水物(X1)及び芳香族ジアミン化合物(Y1)の種類及び量を、表1に示す通りに変更し、ポリアミド酸の種類及び量と、アルキル化剤の種類及び量を、表2に示す通りに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリアミド酸誘導体(A1-2)~(A1-10)、(a1-1)~(a1-3)を得た。なお、ポリアミド酸(I-4)及び(I-5)は、テトラカルボン酸二無水物(X1)と芳香族ジアミン化合物(Y1)との反応時間をそれぞれ30分、1,440分とすることで、数平均分子量を調整した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
(実施例1)
電着塗料組成物の調製例
前記ポリアミド酸誘導体(A1)の100.0質量部、疎水性アミン化合物(B1)としてトリブチルアミン 34.6質量部、親水性アミン化合物(B2)としてトリエタノールアミン 5.3質量部、溶媒(C1)としてN-メチル-2-ピロリドン 1,740質量部を混合し(ポリアミド酸誘導体混合物)、ディスパーでかくはんしながら徐々に脱イオン水1,160質量部を混合することによって、電着塗料組成物を得た。
【0099】
(実施例2~17、19~20、比較例1~8、10)
塗膜形成樹脂(A)、塩基性化合物(B)、有機溶媒(C)、水(D)及び必要に応じて用いるその他樹脂(z)を、表3に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗料組成物を得た。
【0100】
(実施例18)
ポリアミド酸誘導体(A1-1)95.0質量部とその他の樹脂(z1)5.0質量部とをディスパーを用いて混合分散した後、疎水性アミン化合物(B1)としてトリブチルアミン 34.6質量部、親水性アミン化合物(B2)としてトリエタノールアミン 5.3質量部、溶媒(C1)としてN-メチル-2-ピロリドン 1,740質量部を混合し、ディスパーでかくはんしながら徐々に脱イオン水1,160質量部を混合することによって、電着塗料組成物を得た。
【0101】
(比較例9)
かくはん装置、冷却管、窒素導入管、温度調整機に連結した温度計を装備した2Lの反応容器に、イソプロピルアルコール700質量部を仕込み、窒素雰囲気下で80℃に加熱した。この反応容器に、メタクリル酸メチル322質量部、アクリル酸ブチル140質量部、スチレン105質量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル84質量部、アクリル酸49質量部及びアゾイソブチロニトリル7質量部の混合溶液を、3時間かけて等速滴下し、その後、80℃で2時間保持することにより、アクリル樹脂(固形分濃度:50質量%、酸価:55mgKOH/g、水酸基価:52mgKOH/g、数平均分子量:30,000)を得た。
【0102】
前記アクリル樹脂328質量部、サイメル235(オルネクスジャパン社製、固形分量濃度:100%)86質量部及びトリエチルアミン11質量部を、ディスパーでかくはんしながら、ジノニルナフタレンスルホン酸3.75質量部を加えて混合した。得られた混合物を、脱イオン水を用いて固形分10質量%に希釈して、電着塗料組成物を得た。
【0103】
実施例及び比較例で使用した材料の詳細は以下のとおりである。
ポリアミド酸誘導体の原材料
芳香族テトラカルボン酸二無水物(X1)
・テトラカルボン酸(X1-1):3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
・テトラカルボン酸(X1-2):ピロメリット酸二無水物
芳香族ジアミン化合物(Y)
・芳香族ジアミン化合物(Y-1):4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
・芳香族ジアミン化合物(Y-2):p-フェニレンジアミン
アルキル化剤
・ヨードメタン;式(2)のR1のアルキル基の炭素数:1
・ヨードプロパン:式(2)のR1のアルキル基の炭素数:3
・ヨードペンタン:式(2)のR1のアルキル基の炭素数:5
・ヨードヘキサン:式(2)のR1のアルキル基の炭素数:6
その他のジアミン化合物
・ジアミン化合物(y-1):1,3-ビス(4-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン
塩基性化合物(B)
疎水性アミン化合物(B1)
・疎水性アミン化合物(B1-1):トリブチルアミン;水への溶解度(20℃):300mg/100mL、沸点:215℃
・疎水性アミン化合物(B1-2):N,N-ジメチルデシルアミン;水への溶解度(20℃):8.6mg/100mL、沸点:235℃
・疎水性アミン化合物(B1-3):トリエチルアミン;水への溶解度(20℃):17g/100mL、沸点:89℃
・疎水性アミン化合物(B1-4):トリオクチルアミン;水への溶解度(20℃):0.005mg/100mL、沸点:365℃
親水性アミン化合物(B2)
・親水性アミン化合物(B2-1):トリエタノールアミン;水への溶解度(20℃):10g/100mL、沸点:335℃
・親水性アミン化合物(B2-2):N,N-ジエチルメチルアミン;水への溶解度(20℃):311g/100mL、沸点:64℃
有機溶媒(C)
非プロトン性溶媒(C1)
・非プロトン性溶媒(C1-1):N-メチルピロリドン(アミド系溶媒)
・非プロトン性溶媒(C1-2):N,N-ジメチルホルムアミド(アミド系溶媒)
その他の性溶媒
・その他の溶媒(c-1):メタノール
水(D)
・脱イオン水
その他樹脂
・(z1)jER-825;(エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)
【0104】
電着塗膜(試験板)の調製
被塗物である無酸素銅板(C1100P)を、過硫酸ソーダ18質量%水溶液中に40℃で1分間浸漬し、取り出して脱イオン水による水洗を行った。次に、4質量%硫酸水溶液中に室温で2分間浸漬し、取り出して脱イオン水による水洗を行ったものを試験に供した。
【0105】
前記で得られた電着塗料組成物を含む液温30℃の電着浴に、被塗物を全て埋没させた後、直ちに電圧の印加を開始し、30秒間昇圧し80Vに達してから150秒間保持する条件で電圧を印加して、被塗物上に析出塗膜を形成した。得られた析出塗膜を、100℃、150℃及び200℃で各15分間加熱し乾燥させて、膜厚18μmの電着塗膜を有する電着塗装板を得た。
【0106】
(3)評価項目
[電着塗料組成物の製造性]
前記電着塗料組成物の調製において、ポリアミド酸誘導体混合物に純水を添加した際の塗料組成物の状態を目視観察し、電着塗料組成物の製造性を評価した。評価基準は以下のとおりである。評点〇以上を合格とした。
◎:ポリアミド酸誘導体の析出が認められない。
○:ポリアミド酸誘導体の析出が僅かに認められる。
×:ポリアミド酸誘導体の析出が認められる
【0107】
[貯蔵安定性]
前記実施例及び比較例で得られた電着塗料組成物を、23℃で静置した。1日ごとに、前記電着塗膜(試験板)の調製方法で電着塗膜を作製した。得られた電着塗装被膜(析出塗膜)の状態を目視で観察し、電着塗料組成物の貯蔵安定性を評価した。評価基準は以下のとおりである。評点△以上を合格とした。
◎:電着塗装被膜の白濁が15日以上発生しなかった
○:電着塗装被膜の白濁が10日以上15日未満発生しなかった
△:電着塗装被膜の白濁が2日以上10日未満発生しなかった
×:電着塗装被膜の白濁が2日未満で発生した
【0108】
[塗膜外観]
前記実施例及び比較例で得られた電着塗膜の外観を目視にて観察し評価した。評価基準は以下のとおりである。評点△以上を合格とした。
◎:連続性があり、且つ平滑で均一な膜厚の塗膜が得られる。
○:連続性があり、且つ平滑な塗膜が得られる。
△:連続性はあるが、平滑な塗膜が得られない。(比較例9、10の調整のために追加)
×:連続性が無く、平滑な塗膜が得られない。
【0109】
[付着性(碁盤目試験)]
前記実施例及び比較例で得られた試験板の塗膜に、カッターにより1mmの間隔で縦横11本ずつの切れ目を入れ、その上にセロハンテープ(登録商標)(ニチバン社製)を貼付してはがし、100個のマス目のうち、残存したマス目の数をカウントし、付着性を評価した(碁盤目試験)。なお、100/100は、塗膜のはく離面積が0%である場合を示し、例えば、80/100は、塗膜のはく離面積が20%である場合を示し、50/100は、塗膜のはく離面積が50%である場合を示す。評価基準は以下のとおりである。
◎:100/100
〇:90/100~99/100
△:80/100~89/100
×:79/100以下
【0110】
[耐熱性]
前記実施例及び比較例で得られた試験板を、パーフェクトジェットオーブン(espec社製)を用いて、220℃で500時間、耐熱試験を実施した。試験後の塗膜の膜厚を測定し、以下の式に従って、塗膜の残存率を算出し、塗膜の耐熱性を評価した。評価基準は以下のとおりである。評点△以上を合格とした。なお、塗膜の膜厚測定は、過電流膜厚計LH-370(kett社製)を用いた。
塗膜の残存率(%)=試験後の塗膜の膜厚/試験前の塗膜の膜厚×100
◎:塗膜の残存率が97%以上である。
○:塗膜の残存率が95%以上97%未満である。
△:塗膜の残存率が90%以上95%未満である。
×:塗膜の残存率が90%未満である。
【0111】
[絶縁性]
前記実施例及び比較例で得られた試験板について、JIS C 2110-1:2016に準拠した方法で、絶縁破壊の強さを測定した。
すなわち、耐電圧試験機MODEL8504(鶴賀電機社製;電極サイズ:10mmφ)を用い、試験板をグリセリン中に浸漬し、検出電流を50mA、昇圧速度を100V/秒として、電圧を上昇させながら、連続して電圧を印加して塗膜の絶縁性を評価した。塗膜の絶縁破壊が生じた、すなわち電流50mAを検出した電圧を絶縁破壊電圧とした。評価基準は以下のとおりである。評点〇以上を合格とした。なお、試験温度は23で行った。
◎:絶縁破壊が生じた電圧が1.5kVを超える。
〇:絶縁破壊が生じた電圧が1.0kV以上1.5kV未満である。
×:絶縁破壊が生じた電圧が1.0kV未満である。
【0112】
【表3A】
【0113】
【表3B】
【0114】
【表3C】
【0115】
【表3D】
【0116】
【表3E】
【0117】
【表3F】
【0118】
実施例1~20は、本発明の実施例であり、電着塗料組成物の貯蔵安定性が良好であり、低温、短時間での硬化・乾燥が可能であって、得られた塗膜の外観、耐熱性、絶縁性が良好であることが確認された。
【0119】
比較例1は、塗膜形成樹脂が、式(2)で表される構造単位を有しない例であり、電着塗膜の耐熱性及び絶縁性が十分に満足できるものではなかった。
比較例2は、塗膜形成樹脂が、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を有しない例であり、電着塗膜の耐熱性及び絶縁性が十分に満足できるものではなかった。
比較例3は、塗膜形成樹脂のエステル化率が75%以上となる例であり、電着塗膜の耐熱性及び絶縁性が十分に満足できるものではなかった。
比較例4は、疎水性アミン化合物の水への溶解度が5μg/100mL以下となる例であり、電着塗料組成物の製造性が不良であり、また、電着塗料組成物の貯蔵安定性も十分に満足できるものではなかった。製膜が困難であったため、塗膜性能に関する試験は実施していない。
比較例5は、疎水性アミン化合物を含まない例であり、電着塗膜の外観、耐熱性及び絶縁性が十分に満足できるものではなかった。
比較例6は、非プロトン性極性溶媒を含まない例であり、電着塗料組成物の製造性及び貯蔵安定性が不良であった。製膜が困難であったため、塗膜性能に関する試験は実施していない。
比較例7は、水を含まない例であり、電着塗料組成物の製造性に劣り、貯蔵安定性が十分に満足できるものでなかった。また、得られた塗膜の塗膜外観及び接着性が十分に満足できるものではなかった。
比較例8は、塗膜形成樹脂(A)が、ポリアミド酸誘導体(A1)を含まない例であり、得られた塗膜の接着性、耐熱性及び絶縁性が十分に満足できるものではなかった。
比較例9は、親水性アミン化合物(B2)を含まない例であり、電着塗料組成物の製造性に劣り、貯蔵安定性も不良であった。製膜が困難であったため、塗膜性能に関する試験は実施していない。