(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008095
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】光デバイス及び光通信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20230112BHJP
G02B 6/125 20060101ALI20230112BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/125
G02B6/122 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111375
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 嘉伸
(72)【発明者】
【氏名】大森 康弘
(72)【発明者】
【氏名】土居 正治
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛彦
(72)【発明者】
【氏名】丸山 眞示
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 輝雄
【テーマコード(参考)】
2H147
2K102
【Fターム(参考)】
2H147AB04
2H147AB11
2H147BA05
2H147BB02
2H147BB03
2H147BE01
2H147BE22
2H147CA01
2H147CA08
2H147EA05A
2H147EA05C
2H147EA13B
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147EA14C
2H147GA25
2K102AA22
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
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2K102BD01
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2K102DA05
2K102DB04
2K102DB08
2K102DC04
2K102DD05
2K102EA03
(57)【要約】
【課題】クロストークを抑制しながら、変調効率及び結合効率の向上を図る光デバイス等を提供することを目的とする。
【解決手段】光デバイスは、薄膜LN(Lithium Niobate)層と、第1の光導波路と、第2の光導波路とを有する。薄膜LN層は、Xカット又はYカットのLN層である。第1の光導波路は、薄膜LN層の結晶軸のZ方向と略直交する方向に沿って薄膜LN層に形成された光導波路である。第2の光導波路は、第1の光導波路に接続する引き回しの光導波路である。第1の光導波路のコアの少なくとも一部は、第2の光導波路のコアに比較して厚くした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Xカット又はYカットの薄膜LN(Lithium Niobate)層と、
前記薄膜LN層の結晶軸のZ方向と略直交する方向に沿って前記薄膜LN層に形成された第1の光導波路と、
前記第1の光導波路に接続する引き回しの第2の光導波路と、を有し、
前記第1の光導波路のコアの少なくとも一部は、
前記第2の光導波路のコアに比較して厚くしたことを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記第2の光導波路は、
前記Z方向と略直交する方向以外の方向に沿って前記薄膜LN層に形成された直線導波路又は曲がり導波路の内、少なくとも何れか一つを含む引き回しの光導波路であることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記第1の光導波路の少なくとも一部は、
リッジ型導波路であって、
前記第2の光導波路の少なくとも一部は、
チャネル導波路であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記第1の光導波路と前記第2の光導波路との間を接合する接合部のコアは、
前記第1の光導波路のコアから前記第2の光導波路のコアに向けて徐々に薄くなるテーパ形状であることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載の光デバイス。
【請求項5】
光を入力する入力部と、
前記入力部からの光を分岐する分岐部と、
前記分岐部にて分岐された、前記第1の光導波路である、往路側の2本の第1の光導波路と、
前記往路側の2本の第1の光導波路に電気信号を印加する電極と、
前記電気信号に応じて前記往路側の2本の第1の光導波路で変調した各光を合波する合波部と、
前記合波部からの変調後の光を通過する前記第2の光導波路と、
前記第2の光導波路からの変調後の光を通過する、前記第1の光導波路である復路側の第1の光導波路と、
前記復路側の第1の光導波路からの変調後の光を出力する出力部と、を有し、
前記往路側の2本の第1の光導波路及び前記復路側の第1の光導波路のコアは、
前記第2の光導波路のコアに比較して厚くしたことを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の光デバイス。
【請求項6】
前記入力部及び前記出力部のコアは、
前記第2の光導波路のコアに比較して厚くし、
前記分岐部及び前記合波部のコアの厚さは、
前記第2の光導波路のコアと同一にしたことを特徴とする請求項5に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記分岐部内の第1のカプラ内のコア及び前記合波部内の第2のカプラ内のコアは、
前記第1の光導波路のコアの厚さに比較して薄く、前記第2の光導波路のコアの導波路幅に比較して太くしたことを特徴とする請求項5に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記入力部及び前記出力部のコアは、
前記往路側の2本の第1の光導波路のコアに比較して厚くしたことを特徴とする請求項5~7の何れか一つに記載の光デバイス。
【請求項9】
光を入力する入力部と、
前記入力部からの光を分岐する分岐部と、
前記分岐部にて分岐された、前記第1の光導波路である往路側の2本の第1の光導波路と、
前記往路側の2本の第1の光導波路に電気信号を印加する電極と、
前記往路側の2本の第1の光導波路と接続し、前記電気信号に応じて前記往路側の2本の第1の光導波路で変調した光が通過する前記第2の光導波路と、
前記第2の光導波路と接続する、前記第1の光導波路である復路側の2本の第2の光導波路と、
前記復路側の2本の第1の光導波路を通過する変調後の光を合波する合波部と、
前記合波部にて合波した変調後の光を出力する出力部と、を有し、
前記往路側の2本の第1の光導波路及び前記復路側の2本の第1の光導波路のコアは、
前記第2の光導波路のコアに比較して厚くしたことを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の光デバイス。
【請求項10】
光を入力する入力部と、
前記入力部からの光を分岐する分岐部と、
前記分岐部にて分岐された、前記第1の光導波路である往路側の2本の第1の光導波路と、
前記往路側の2本の第1の光導波路と接続する前記第2の光導波路と、
前記第2の光導波路と接続する、前記第1の光導波路である復路側の2本の第2の光導波路と、
前記往路側の2本の第1の光導波路及び前記復路側の2本の第1の光導波路に印加する電極と、
前記復路側の2本の第1の光導波路を通過する変調後の光を合波する合波部と、
前記合波部にて合波した変調後の光を出力する出力部と、を有し、
前記往路側の2本の第1の光導波路及び前記復路側の2本の第1の光導波路のコアは、
前記第2の光導波路のコアに比較して厚くしたことを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の光デバイス。
【請求項11】
光を入力する入力部と、
前記入力部からの光を分岐する分岐部と、
前記分岐部にて分岐された、前記第1の光導波路である往路側の2本の第1の光導波路と、
前記往路側の2本の第1の光導波路に第1の電気信号を印加する第1の電極と、
前記往路側の2本の第1の光導波路と接続し、前記第1の電気信号に応じて前記往路側の2本の第1の光導波路で変調した光が通過する前記第2の光導波路と、
前記第2の光導波路と接続する、前記第1の光導波路である復路側の2本の第1の光導波路と、
前記復路側の2本の第1の光導波路に第2の電気信号を印加する第2の電極と、
前記復路側の2本の第1の光導波路と接続し、前記第2の電気信号に応じて前記復路側の2本の第1の光導波路で変調した光を通過する変調後の光を合波する合波部と、
前記合波部にて合波した変調後の光を出力する出力部と、を有し、
前記往路側の2本の第1の光導波路及び前記復路側の2本の第1の光導波路のコアは、
前記第2の光導波路のコアに比較して厚くしたことを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の光デバイス。
【請求項12】
光を入力する入力部と、
前記入力部からの光を分岐する第1の分岐部と、
前記第1の分岐部にて分岐された光を分岐する第2の分岐部と、
前記第2の分岐部にて分岐された、前記第1の光導波路である前段の往路側の2本の第1の光導波路と、
前記前段の往路側の2本の第1の光導波路に第1の電気信号を印加する第1の電極と、
前記前段の往路側の2本の第1の光導波路と接続し、前記第1の電気信号に応じて前記前段の往路側の2本の第1の光導波路で変調した光が通過する、前記第2の光導波路である前段の第2の光導波路と、
前記前段の第2の光導波路と接続する、前記第1の光導波路である前段の復路側の2本の第1の光導波路と、
前記前段の復路側の2本の第1の光導波路に第2の電気信号を印加する第2の電極と、
前記前段の復路側の2本の第1の光導波路と接続し、前記第2の電気信号に応じて前記前段の復路側の2本の第1の光導波路で変調した光を通過する変調後の光を合波する第1の合波部と、
前記第1の合波部と接続し、前記第1の合波部からの光が通過する、前記第2の光導波路である中段の第2の光導波路と、
前記中段の第2の光導波路と接続する、前記第1の光導波路である後段の往路側の2本の第1の光導波路と、
前記後段の往路側の2本の第1の光導波路に第3の電気信号を印加する第3の電極と、
前記後段の往路側の2本の第1の光導波路と接続し、前記第3の電気信号に応じて前記後段の往路側の2本の第1の光導波路で変調した光を通過する変調後の光を合波する第2の合波部と、
前記第2の合波部と接続し、前記第2の合波部からの光が通過する、前記第2の光導波路である後段の第2の光導波路と、
前記後段の第2の光導波路と接続する、前記第1の光導波路である後段の復路側の第1の光導波路と、
前記後段の復路側の第1の光導波路と接続し、前記後段の復路側の第1の光導波路からの光を出力する出力部と、を有し、
前記前段の往路側の2本の第1の光導波路、前記前段の復路側の2本の第1の光導波路、前記後段の往路側の2本の第1の光導波路及び前記後段の復路側の第1の光導波路のコアは、
前記前段の第2の光導波路、前記中段の第2の光導波路及び前記後段の第2の光導波路のコアに比較して厚くしたことを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の光デバイス。
【請求項13】
電気信号に対する信号処理を実行するプロセッサと、
光を発生させる光源と、
前記プロセッサから出力される電気信号を用いて、前記光源から発生する光を変調する光デバイスとを有し、
前記光デバイスは、
Xカット又はYカットの薄膜LN(Lithium Niobate)層と、
前記薄膜LN層の結晶軸のZ方向と略直交する方向に沿って前記薄膜LN層に形成された第1の光導波路と、
前記第1の光導波路に接続する引き回しの第2の光導波路と、を有し、
前記第1の光導波路のコアの少なくとも一部は、
前記第2の光導波路のコアに比較して厚くしたことを特徴とする光通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイス及び光通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、光変調器のような光デバイスは、表面の光導波路上に信号電極が配置され、信号電極に電圧が印加されると、光変調器の表面に対して垂直方向の電界が光導波路内に発生する。この電界によって光導波路の屈折率が変化するため、光導波路を伝搬する光の位相が変化し、光を変調することが可能となる。すなわち、光変調器の光導波路は、例えば、マッハツェンダ干渉計を構成し、平行に配置された複数の光導波路間の光の位相差により、例えば、XY偏波多重されるIQ信号を出力することができる。
【0003】
図18は、光変調器100の構成の一例を示す平面模式図、
図19は、
図18に示すE-E線断面部位の一例を示す略断面図である。
図18に示す光変調器100は、入力部101と、分岐部102と、2本の光導波路103と、電極部104と、合波部105と、出力部106とを有する。尚、光変調器100の長さ方向をY方向、幅方向をZ方向、厚さ方向をX方向とする。
【0004】
入力部101は、光ファイバからの光を入力する。分岐部102は、入力部101からの光を分岐する。2本の光導波路103は、平行に配置され、分岐部102で分岐された各光を変調する光導波路である。電極部104は、2本の光導波路103に電気信号を印加する電極である。電極部104は、一対の接地電極104Bと、一対の接地電極104Bに挟まれるように配置された信号電極104Aとを有する。信号電極104Aは、光導波路103に電気信号を印加する電極である。接地電極104Bは、光導波路103に印加された電気信号を接地する電極である。各光導波路103は、信号電極104Aからの電気信号に応じて光屈折率を変化させることで光の位相を変化して光を変調する、マッハツェンダ(MZ)の相互作用部である。そして、各光導波路103は、変調後の光を合波部105に出力する。合波部105は、各光導波路103からの変調後の光を合波する。出力部106は、合波部105からの変調後の光を光ファイバに出力する。
【0005】
図19に示す光変調器100は、基板111と、基板111上に積層された中間層112と、中間層112に積層されたLN(LiNbO
3)材料の薄膜LN基板113とを有する。更に、光変調器100は、薄膜LN基板113で形成された2本の光導波路103と、薄膜LN基板113上に形成されたバッファ層114と、バッファ層114上に形成された電極部104とを有する。
【0006】
基板111は、例えば、Si又はLN等の材料の基板である。中間層112は、LNよりも光屈折率の低い、例えば、SiO2の層である。薄膜LN基板113は、光の閉じ込めが強く小型化が有利となる薄膜基板である。尚、薄膜LN基板113の結晶軸は、Z方向である。
【0007】
光導波路103は、薄膜LN基板113で形成されるため、例えば、挿入損失や伝送特性の面で優れている。薄膜LN基板113は、Xカット基板であるため、構造対称性によりチャープフリー動作が可能であり、長距離伝送に適している。各光導波路103は、接地電極104Bと信号電極104Aとの間に配置される。信号電極104Aは、例えば、金や銅等の金属材料の電極である。接地電極104Bは、例えば、アルミニウム等の金属材料の電極である。バッファ層114は、光導波路103上を伝搬する光が電極部104で吸収されるのを防ぐために設けられる、例えば、SiO2の層である。
【0008】
薄膜LN基板113の結晶方向は、信号進行方向(Y方向)と直交する幅方向(Z方向)である。各光導波路103は、信号電極104Aから接地電極104Bへの電界方向の電界に応じて光屈折率が変化する。
【0009】
図20は、TEモード及びTMモードの一例を示す説明図である。光導波路103には、光フィールドの電界の主成分の方向によって2つのモードが存在する。
図20に示すように、電界の主成分が平面方向のTEモードと、電界の主成分が垂直方向のTMモードとがある。尚、
図20中の矢印は、電界の主成分の方向、
図20中の点線の範囲は、光の分布範囲である。
【0010】
Xカットの薄膜LN基板113の光変調器100は、
図20の(A)に示すように、光導波路103の平面方向にZ方向が位置するため電極部104から印加される電界によって変調される信号光は平面方向の電界を主成分とするTEモードである。従って、電界の主成分が垂直方向のTMモードは、光変調器100の動作には不要なモードと言える。
【0011】
また、光変調器100の変調効率は、電界を印加する各光導波路103の相互作用部の長さ、すなわち光学長の影響が大きく、変調効率を維持したまま、小型化を図るためには相互作用部を長くして相互作用部を折り返す構造が求められている。
【0012】
図21は、折り返し構造の光変調器100Aの構成の一例を示す平面模式図、
図22は、
図21に示すF-F線断面部位及びG-G線断面部位の一例を示す略断面図である。尚、
図18及び
図19に示す光変調器100と同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
図21に示す光変調器100Aの光導波路は、往路側の光導波路103A(103)と、折り返しの光導波路108と、復路側の光導波路103B(103)とを有する。
【0013】
往路側の光導波路103A及び復路側の光導波路103Bは、伝搬方向(伝搬角度)が0度であるY方向に沿って薄膜LN基板113に形成された光導波路である。
図22の(A)に示すF-F線断面部位は、往路側の光導波路103Aに相当する。往路側の光導波路103Aのコアの厚さはHa10とする。尚、往路側の光導波路103A及び復路側の光導波路103Bのコアの厚さは同一である。
【0014】
折り返しの光導波路108は、伝搬方向(伝搬角度)が0度以外、例えば、90度であるZ方向に沿って薄膜LN基板113に形成された光導波路である。
図22の(B)に示すG-G線断面部位は、折り返しの光導波路108に相当する。折り返しの光導波路108のコアの厚さはHb10とする。尚、往路側の光導波路103A及び復路側の光導波路103Bのコアの厚さHa10は、折り返しの光導波路108のコアの厚さHb10と同一とする。
【0015】
図23Aは、光導波路103のコアの厚さを1μmとしたの場合の実効屈折率に対する伝搬角度の依存性の一例を示す説明図である。光導波路103のコアの厚さを1μmとした場合、Xカットの薄膜LN基板113では、平面方向の屈折率が光導波路103の伝搬方向によって変化するため、TEモードの実効屈折率も変化することになる。また、垂直方向の屈折率は光導波路103の伝搬方向によらず一定のため、TMモードの実効屈折率は光導波路103の伝搬方向が変化してもほとんど変化がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007-264487号公報
【特許文献2】特開2011-102891号公報
【特許文献3】国際公開第2018/031916号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
光変調器100Aでは、光導波路103の伝搬角度としてY方向を0度、Z方向を90度とした場合、
図23Aに示すように、光導波路103の伝搬角度が90度に近づくに連れてTEモードの実効屈折率が高くなる。従って、光変調器100Aでは、光導波路103のコアを厚くした場合、TEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率とが一致する伝搬角度が発生する。その結果、信号光のTEモードが不要光のTMモードに変換されて、TEモードに対して不要なTMモードがクロストークとなる。
【0018】
そこで、光導波路103のコアの厚さを薄くした場合、TMモードに対するクロストークを抑制できる。
図23Bは、光導波路103のコアの厚さを0.4μmとした場合の実効屈折率に対する伝搬角度の依存性の一例を示す説明図である。光導波路103のコアの厚さを、例えば、0.4μmとした場合、TEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率とが一致する伝搬角度が発生しないため、TEモードに対するクロストークを抑制できる。
【0019】
しかしながら、光変調器100Aでは、クロストークを抑制する上で光導波路103のコアの厚さを薄くした場合、薄膜LN基板113への光の閉じ込めが弱くなる。
図24は、光導波路103のコアの厚さに応じて変調効率の変化の一例を示す説明図である。光変調器100Aでは、光導波路103のコアの厚さを薄くした場合、薄膜LN基板113への光の閉じ込めが弱くなるため、変調効率が劣化することになる。
図25は、光導波路103のコアの厚さに応じて結合効率の変化の一例を示す説明図である。光変調器100Aでは、光導波路103のコアの厚さを薄くした場合、薄膜LN基板113への光の閉じ込めが弱くなるため、コアの厚さが薄くしたことによる光モードフィールドの縮小による光ファイバとの結合効率が劣化することになる。従って、光変調器100Aでは、TEモードに対するクロストークの抑制と、変調効率及び結合効率の改善とがトレードオフの関係にある。
【0020】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、クロストークを抑制しながら、変調効率及び結合効率の向上を図る光デバイス等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本願が開示する光デバイスは、1つの態様において、薄膜LN(Lithium Niobate)層と、第1の光導波路と、第2の光導波路とを有する。薄膜LN層は、Xカット又はYカットのLN層である。第1の光導波路は、薄膜LN層の結晶軸のZ方向と略直交する方向に沿って薄膜LN層に形成された光導波路である。第2の光導波路は、第1の光導波路に接続する引き回しの光導波路である。第1の光導波路のコアの少なくとも一部は、第2の光導波路のコアに比較して厚くした。
【発明の効果】
【0022】
本願が開示する光デバイス等の1つの態様によれば、クロストークを抑制しながら、変調効率及び結合効率の向上を図る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施例1の光通信装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施例1の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すA-A線断面部位及びB-B線断面部位の一例を示す略断面図である。
【
図4】
図4は、接合部位の一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施例2の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図6】
図6は、
図5に示すA-A線断面部位及びB-B線断面部位の一例を示す略断面図である。
【
図7】
図7は、
図5に示すA-A線断面部位及びB-B線断面部位の変形例を示す略断面図である。
【
図8】
図8は、実施例3の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図10】
図10は、実施例4の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図11】
図11は、実施例5の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図13】
図13は、実施例6の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図14】
図14は、実施例7の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図15】
図15は、実施例8の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図16】
図16は、実施例9の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図17】
図17は、
図16に示すA-A線断面部位、B-B線断面部位及びD-D線断面部位の一例を示す略断面図である。
【
図18】
図18は、光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図20】
図20は、TEモード及びTMモードの一例を示す説明図である。
【
図21】
図21は、折り返し構造の光変調器の構成の一例を示す平面模式図である。
【
図22】
図22は、
図21に示すF-F線断面部位及びG-G線断面部位の一例を示す略断面図である。
【
図23A】
図23Aは、光導波路のコアの厚さを1μmとした場合の実効屈折率に対する伝搬角度の依存性の一例を示す説明図である。
【
図23B】
図23Bは、光導波路のコアの厚さを0.4μmとした場合の実効屈折率に対する伝搬角度の依存性の一例を示す説明図である。
【
図24】
図24は、光導波路のコアの厚さに応じて変調効率の変化の一例を示す説明図である。
【
図25】
図25は、光導波路のコアの厚さに応じて結合効率の変化の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願が開示する光デバイス等の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【実施例0025】
図1は、実施例1の光通信装置1の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示す光通信装置1は、出力側の光ファイバ2A(2)及び入力側の光ファイバ2B(2)と接続する。光通信装置1は、DSP(Digital Signal Processor)3と、光源4と、光変調器5と、光受信器6とを有する。DSP3は、デジタル信号処理を実行する電気部品である。DSP3は、例えば、送信データの符号化等の処理を実行し、送信データを含む電気信号を生成し、生成した電気信号を光変調器5に出力する。また、DSP3は、受信データを含む電気信号を光受信器6から取得し、取得した電気信号の復号等の処理を実行して受信データを得る。
【0026】
光源4は、例えば、レーザダイオード等であって、所定の波長の光を発生させて光ファイバ4Aを通じて光変調器5及び光受信器6へ供給する。光変調器5は、DSP3から出力される電気信号によって、光源4から供給される光を変調し、得られた光送信信号を光ファイバ2Aに出力する光デバイスである。光変調器5は、例えば、LN(Lithium Niobate:ニオブ酸リチウム)の光導波路とコプレーナ(CPW:Coplanar Waveguide)構造の信号電極とを備えるLN光変調器等の光デバイスである。
【0027】
光受信器6は、光ファイバ2Bから光信号を受信し、光源4から供給される光を用いて受信光信号を復調する。そして、光受信器6は、復調した受信光信号を電気信号に変換し、変換後の電気信号をDSP3に出力する。
【0028】
図2は、実施例1の光変調器5の構成の一例を示す平面模式図である。
図2に示す光変調器5は、入力部11と、分岐部12と、往路側の2本の第1の光導波路13A(13)と、電極部14と、合波部15と、第2の光導波路16と、復路側の第1の光導波路13B(13)と、出力部17とを有する。尚、光変調器5の長さ方向(伝搬方向)をY方向、幅方向(平面方向)をZ方向、厚さ方向をX方向とする。
【0029】
入力部11は、光ファイバ4Aからの光を入力する。尚、光ファイバ4Aからの光は、光源4からの光である。分岐部12は、入力部11からの光を分岐する。往路側の2本の第1の光導波路13Aは、平行に配置され、分岐部12にて分岐された各光を変調する、マッハツェンダ(MZ)の相互作用部の光導波路である。往路側の2本の第1の光導波路13Aは、例えば、コアと、コアの両脇にコアの厚さよりも薄いスラブとを有するリッジ型導波路である。往路側の2本の第1の光導波路13Aは、後述する薄膜LN層33の結晶軸のZ方向と略直交する方向、例えば、Y方向に沿って薄膜LN層33に形成された光導波路である。
【0030】
電極部14は、往路側の2本の第1の光導波路13Aに電気信号を印加する電極である。往路側の2本の第1の光導波路13Aは、電極部14からの電気信号に応じて光屈折率が変化して光を変調し、各変調後の光を合波部15に出力する。電極部14は、信号電極14Aと、一対の接地電極14Bとを有する。信号電極14Aは、往路側の第1の光導波路13Aに電気信号を印加する電極である。接地電極14Bは、往路側の第1の光導波路13Aに印加された電気信号を接地する電極である。往路側の2本の第1の光導波路13Aは、信号電極14Aからの電気信号に応じて光屈折率を変化させることで光の位相を変化して光を変調し、変調後の光を合波部15に出力する。合波部15は、往路側の2本の第1の光導波路13Aで変調した変調後の各光を合波する。光変調器5は、往路側の2本の第1の光導波路13Aと電極部14とで変調部20を成す。
【0031】
第2の光導波路16は、合波部15からの変調後の光を通過する折り返しの光導波路である。第2の光導波路16は、Z方向と略直交する方向以外の方向に沿って薄膜LN層33に形成された直線導波路又は、伝搬方向が滑らかに変化する曲がり導波路の内、少なくとも何れか一つを含む光導波路である。
【0032】
復路側の第1の光導波路13Bは、第2の光導波路16からの変調後の光を通過する光導波路である。復路側の第1の光導波路13Bは、薄膜LN層33の結晶軸のZ方向と略直交する方向に沿って薄膜LN層33に形成された光導波路である。出力部17は、光ファイバ2Aと接続し、復路側の第1の光導波路13Bからの変調後の光を光ファイバ2Aに出力する。
【0033】
図3は、
図2に示すA-A線断面部位及びB-B線断面部位の一例を示す略断面図である。
図3に示す光変調器5は、基板31と、基板31上に積層された中間層32と、中間層32に積層された薄膜LN層33と、薄膜LN層33で形成された2本の第1の光導波路13とを有する。更に、光変調器5は、薄膜LN層33上に積層されたバッファ層34と、バッファ層34上に形成された電極部14とを有する。
【0034】
基板31は、例えば、SiO2(二酸化ケイ素)、TiO2(二酸化チタン)、Si又はLN等の材料の基板である。中間層32は、LNよりも光屈折率の低い、例えば、SiO2又はTiO2の層である。薄膜LN層33は、LN結晶の薄膜を用いた基板であって、所定箇所を上方へ突起する凸形状の第1の光導波路13が形成される。LN材料であるため、光の閉じ込めが強く小型化が有利となる。
【0035】
薄膜LN層33は、Xカットの基板である。薄膜LN層33は、LN(LiNbO3)材料の基板である。往路側の2本の第1の光導波路13Aは、薄膜LN層33で形成され、その材料は、LNであるため、例えば、挿入損失や伝送特性の面で優れている。光変調器5は、構造対称性によりチャープフリー動作が可能であり、長距離伝送に適している。
【0036】
バッファ層34は、第1の光導波路13を伝搬する光が電極部14で吸収されるのを防ぐために設けられる、例えば、SiO2の層である。中間層32とバッファ層34との間には、厚さが0.5~3μmの薄膜LN層33が挟まれている。薄膜LN層33に形成された凸形状の第1の光導波路13となる突起の幅は、例えば、1~8μm程度である。薄膜LN層33及び第1の光導波路13は、バッファ層34によって被覆されている。
【0037】
信号電極14Aは、例えば、金や銅等の金属材料からなり、幅が2~10μm、厚みが1~20μmの電極である。接地電極14Bは、例えば、アルミニウム等の金属材料からなり、厚みが1μm以上の電極である。DSP3から出力される電気信号に応じた駆動電圧が信号電極14Aによって伝送されることにより、信号電極14Aから接地電極14Bへ向かう方向の電界が発生し、この電界が第1の光導波路13に印加される。その結果、第1の光導波路13への電界印加に応じて第1の光導波路13の屈折率が変化し、第1の光導波路13を伝搬する光を変調することが可能となる。
【0038】
往路側の2本の第1の光導波路13Aは、薄膜LN層33の結晶軸のZ方向を90度、Y方向を0度とした場合、光変調器5のチップ内に形成される光導波路の内、ほぼ0度のY方向に沿って形成される直線の光導波路である。往路側の2本の第1の光導波路13Aのコアの厚さは、
図3の(A)に示すようにHaとする。尚、ほぼ0度には、0度の他に、例えば、0度を狙って光導波路を製造される際に第1の光導波路13の製造誤差の範囲、例えば、±20度以内を含むものとする。往路側の2本の第1の光導波路13Aは、薄膜LN層33の結晶軸のZ方向と略直交する方向に沿って薄膜LN層33に形成されるため、第2の光導波路16のコアの厚さHbに比較して厚くしたので、変調効率及び結合効率を改善できる。復路側の第1の光導波路13B、入力部11及び出力部17のコアの厚さも、往路側の2本の第1の光導波路13Aのコアと同様に、
図3の(A)に示すようにX方向の厚みをHaとする。
【0039】
第2の光導波路16のコアは、Z方向に直交しない方向、すなわちほぼ0度のY方向以外の方向に沿って薄膜LN層33に形成される光導波路とし、
図3の(b)に示すように、そのコアの厚さをHbとする。尚、Z方向に直交しない方向とは、例えば、実際にY方向からズレる角度よりも大きく、かつ、Z方向の90度以下の範囲である。第2の光導波路16は、Z方向と略直交する方向以外の方向に沿って薄膜LN層33に形成されるため、第1の光導波路13の厚さHaに比較して薄くしたので、TEモードに対する不要なTMモードのクロストークを抑制できる。尚、分岐部12及び合波部15のコアも、第2の光導波路16のコアと同一の厚さHbとする。尚、第2の光導波路16、分岐部12及び合波部15は、第1の光導波路13と接続する引き回しの第2の光導波路とする。
【0040】
図4は、接合部位の一例を示す説明図である。第1の光導波路13のコアと合波部15のコアとの間を接合する接合部位は、第1の光導波路13のコアと合波部15のコアとの高さが異なる。尚、合波部15のコアは、第2の光導波路16のコアの厚さと同一である。つまり、往路側の2本の第1の光導波路13A、復路側の第1の光導波路13B、入力部11及び出力部17のコアは、第2の光導波路16のコアに比較して厚くした。
【0041】
実施例1の光変調器5は、Xカットの薄膜LN層33と、薄膜LN層33の結晶軸のZ方向と略直交する方向に沿って薄膜LN層33に形成された第1の光導波路13と、第1の光導波路13に接続する引き回しの第2の光導波路16と、を有する。第1の光導波路13のコアの少なくとも一部は、第2の光導波路16のコアに比較して厚くする。第1の光導波路13は、結晶軸のZ方向と略直交する方向、例えば、Y方向に沿って形成されるため、そのコアは、第2の光導波路16のコアに比較して厚くするため、変調効率及び結合効率が改善される。更に、第2の光導波路16は、第1の光導波路13のコアに比較して薄くするため、TEモードに対する不要なTMモードのクロストークを抑制できる。つまり、クロストークを抑制しながら、変調効率及び結合効率を改善できる。
【0042】
第2の光導波路16は、Z方向と略直交する方向以外の方向に沿って薄膜LN層33に形成された直線導波路又は曲がり導波路の内、少なくとも何れか一つを含む。その結果、第2の光導波路16は、第1の光導波路13のコアに比較して薄くするため、TEモードに対する不要なTMモードのクロストークを抑制できる。
【0043】
尚、説明の便宜上、Xカットの薄膜LN層33を例示したが、Yカットの薄膜LN層を使用した光変調器5でも良い。光変調器5は、Yカットの薄膜LN層33と、薄膜LN層の結晶軸のZ方向と略直交する方向に沿って薄膜LN層33に形成された第1の光導波路13と、第1の光導波路13に接続する引き回しの第2の光導波路16とを有する。そして、第1の光導波路13のコアの少なくとも一部は、第2の光導波路16のコアに比較して厚くする構造にした。その結果、第1の光導波路13は、結晶軸のZ方向と略直交する方向、例えば、Y方向に沿って形成されるため、そのコアは、第2の光導波路16のコアに比較して厚くするため、変調効率及び結合効率が改善される。更に、第2の光導波路16は、第1の光導波路13のコアに比較して薄くするため、TEモードに対する不要なTMモードのクロストークを抑制できる。つまり、クロストークを抑制しながら、変調効率及び結合効率を改善できる。
【0044】
第1の光導波路13と第2の光導波路16との間を接合する接合部位には、コアの一部を厚さHbでほぼ0度方向に沿って形成される光導波路が含まれるようにしても良い。
【0045】
第1の光導波路13内のコアの厚さは、全長にわたってHaにしなくても、一部のコアの厚さをHaにしても良く、適宜変更可能である。第2の光導波路16内のコアの厚さも、全長にわたってHbにしなくても良く、一部のコアの厚さをHbにしても良い。
【0046】
第1の光導波路13と接続する引き回しの光導波路として、第2の光導波路16、分岐部12及び合波部15を例示したが、これに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0047】
尚、実施例1の第1の光導波路13及び第2の光導波路16はリッジ型導波路で構成する場合を例示したが、これに限定されるものではなく、その実施の形態につき、実施例2として以下に説明する。
往路側の2本の第1の光導波路13A、入力部11、復路側の第1の光導波路13B及び出力部17のコアは、リッジ型導波路であって、コアの厚さはHaとする。第2の光導波路16A、分岐部12及び合波部15のコアは、チャネル導波路であって、コアの厚さはHbとする。つまり、往路側の2本の第1の光導波路13A、復路側の第1の光導波路13B、入力部11及び出力部17のコアは、第2の光導波路16Aのコアに比較して厚くした。
実施例2の光変調器5Aは、往路側の第1の光導波路13A及び復路側の第1の光導波路13Bをリッジ型導波路とし、第2の光導波路16Aをチャネル導波路とする。更に、光変調器5Aは、往路側の第1の光導波路13A及び復路側の第1の光導波路13Bのコアの厚さを第2の光導波路16Aのコアの厚さに比較して厚くした。その結果、第1の光導波路13は、結晶軸のZ方向と略直交する方向、例えば、Y方向に沿って形成されるため、そのコアは、第2の光導波路16Aのコアに比較して厚くするため、変調効率及び結合効率が改善される。更に、第2の光導波路16Aは、第1の光導波路13のコアに比較して薄くするため、TEモードに対する不要なTMモードのクロストークを抑制できる。つまり、クロストークを抑制しながら、変調効率及び結合効率を改善できる。
尚、説明の便宜上、第1の光導波路13をリッジ型導波路、第2の光導波路16Aをチャネル導波路にする場合を例示したが、第1の光導波路13をチャネル導波路、第2の光導波路16Aをリッジ型導波路にしても良く、適宜変更可能である。
尚、実施例2では、第2の光導波路16Aのコアをチャネル導波路で構成する場合を例示したが、第2の光導波路16Aのコアをチャネル導波路やリッジ型導波路に混在させても良く、適宜変更可能である。第1の光導波路13のコアをチャネル導波路やリッジ型導波路に混在させても良い。