IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電産サンキョー株式会社の特許一覧

特開2023-80973搬送装置における搬送力の測定方法及び測定用治具
<>
  • 特開-搬送装置における搬送力の測定方法及び測定用治具 図1
  • 特開-搬送装置における搬送力の測定方法及び測定用治具 図2
  • 特開-搬送装置における搬送力の測定方法及び測定用治具 図3
  • 特開-搬送装置における搬送力の測定方法及び測定用治具 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080973
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】搬送装置における搬送力の測定方法及び測定用治具
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20230602BHJP
   H02P 7/06 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
G01L5/00 C
G01L5/00 G
H02P7/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194578
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 宗政
【テーマコード(参考)】
2F051
5H571
【Fターム(参考)】
2F051AB06
5H571AA20
5H571HD02
5H571LL29
5H571LL32
(57)【要約】
【課題】磁気カードやICカードなどの搬送物を搬送するカードリーダなどの搬送機構において、搬送力を測定あるいは評価するときに、測定におけるばらつきを小さくし、かつ、工数を削減する。
【解決手段】搬送ローラに接触するように搬送路に測定用の治具を挿入し(ステップ101)、所定の回転方向で搬送モータを駆動した場合には治具が移動しない状態で、その所定の回転方向に回転するように搬送モータを起動して搬送モータの出力トルクを徐々に上昇させ(ステップ102,103)、搬送ローラと治具との間でスリップが発生したことを検出し(ステップ104)、スリップが発生したときの出力トルクを取得して(ステップ105)、その出力トルクに基づいて搬送力を算出あるいは評価する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送物が搬送される通路である搬送路と、搬送モータと、前記搬送路にある前記搬送物に接触し、前記搬送モータによって回転駆動されて前記搬送物を搬送する搬送ローラとを有する搬送機構における搬送力を測定あるいは評価する測定方法であって、
前記搬送ローラに接触するように前記搬送路に測定用の治具を挿入し、
所定の回転方向で前記搬送モータを駆動した場合には前記治具が移動しない状態で、前記所定の回転方向に回転するように前記搬送モータを起動して前記搬送モータの出力トルクを徐々に上昇させ、
前記搬送ローラと前記治具との間でスリップが発生したことを検出し、
前記スリップが発生したときの前記出力トルクに基づいて前記搬送力を算出あるいは評価する、測定方法。
【請求項2】
前記搬送機構において前記搬送ローラは、前記搬送モータによって回転駆動される駆動ローラと、前記駆動ローラに対する従動ローラとからなる、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記搬送機構は複数の前記搬送ローラを備え、前記搬送ローラごとに前記搬送力を算出あるいは評価する、請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記搬送機構において複数の前記搬送ローラが単一の前記搬送モータによって駆動される、請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記搬送モータはDCモータであり、前記搬送モータに加える電流または電圧を制御して前記出力トルクを変化させる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
前記治具において前記搬送路に挿入される部分は前記搬送物と同等の厚さを有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
搬送物が搬送される通路である搬送路と、搬送路の端部に設けられた挿入口と、搬送モータと、前記搬送路にある前記搬送物に接触し、前記搬送モータによって回転駆動されて前記搬送物を搬送する搬送ローラとを有する搬送機構における搬送力を測定あるいは評価するために用いられる治具であって、
前記挿入口を介して前記搬送路に挿入可能な本体部と、
前記本体部の一端に接続し前記挿入口を通過不可能な形状を有する係止部と、
を有し、
前記挿入口を介して前記本体部の全体を挿入したときに前記本体部の先端が測定対象の搬送ローラに接触するように、挿入方向に沿った前記本体部の長さが規定されている、治具。
【請求項8】
前記本体部は前記搬送物と同等の厚さを有する、請求項7に記載の治具。
【請求項9】
前記治具は、前記搬送機構において前記挿入口と前記測定対象の搬送ローラとの間の他の搬送ローラが存在するときに用いられるものであって、
前記本体部が前記搬送路に挿入された状態での前記他の搬送ローラの配置位置に対応して、貫通する開口として前記本体部に窓部が設けられている、請求項7または8に記載の治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気カードやICカードなどの搬送物を搬送する搬送装置における搬送力を測定あるいは評価する測定方法と、この測定方法に用いる治具とに関する。
【背景技術】
【0002】
シート状、カード状あるいはベルト状の搬送物を搬送路に沿って搬送する搬送機構は、対をなすローラによって搬送物を挟持しながらローラを回転駆動することにより搬送物を搬送するように構成される。一対のローラの各々をモータで駆動する構成の搬送機構としてもよいが、その場合には搬送機構の構成が複雑になる。より構造が単純である搬送機構として、モータによって回転駆動される駆動ローラと、駆動ローラに向かい合う従動ローラとによって搬送ローラを構成し、駆動ローラと従動ローラとの間に挟まれている搬送物が駆動ローラの回転とともに移動し、搬送物の移動に伴って従動ローラも回転するように構成されたものがある。駆動ローラと従動ローラとを有する搬送機構は、例えば、磁気カードあるいはICカードなどに対してデータの読み書きを行うカードリーダにおいて採用されている。
【0003】
搬送機構においては、搬送物を挟持した状態での一方のローラからの他方のローラに対する押し付け圧が適正であることが重要である。押し付け圧が過少であると磁気カードやICカードなどの搬送物がスリップしてしまい、搬送物を搬送できなくなる。一方、押し付け圧が過大であると搬送モータの負荷が大きくなるとともに搬送機構を構成する各部材に対して過大な力が加わり、搬送機構の故障の原因ともなる。したがって搬送機構の出荷時などに搬送ローラでの押し付け圧が適正であるか否かを検査する必要がある。カードリーダなどとして構成された搬送機構の場合、押し付け圧自体を計測するのは容易ではないので、実際のカードに対してテンションゲージを取り付け、駆動ローラによってカードが搬送するときのカードに加わる搬送力を測定し、搬送力の大きさに基づいて押し付け圧が適切かどうかの判断を行うのが一般的である。
【0004】
特許文献1は、搬送物を挟持する1対のローラの各々にモータが取り付けられている搬送機構において各モータの負荷異常の原因の特定を正確に行うための負荷異常検知装置を開示している。特許文献2は、カードリーダとして構成された搬送機構において搬送物や搬送機構自体を保護するために、搬送状態に応じて駆動モータの出力トルクの上限値を切り替えることを開示している。搬送機構における搬送力の測定とは関係ないが、特許文献3は、搬送機構であるカードリーダにおいて搬送路の清掃を行うための媒体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-215606号公報
【特許文献2】特開2019-26432号公報
【特許文献3】実開平6-77008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カードリーダなどとして構成された搬送機構において従動ローラに対する駆動ローラの押し付け力を評価するときは、上述したように、実際のカードにテンションゲージを取り付け、カードに加わる搬送力を求めていた。この場合、カードに加わる搬送力はテンションゲージの目盛りを目視によって読み取ることによって測定されるので、押し付け力の評価を行うために必要な時間が長くなるとともに、評価結果にもばらつきが生じる。
【0007】
本発明の目的は、搬送機構における搬送力を測定あるいは評価する方法であって、測定におけるばらつきを小さくし、工数を削減できる方法と、この方法において用いられる測定用の治具とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の測定方法は、搬送物が搬送される通路である搬送路と、搬送モータと、搬送路にある搬送物に接触し、搬送モータによって回転駆動されて搬送物を搬送する搬送ローラとを有する搬送機構における搬送力を測定あるいは評価する測定方法であって、搬送ローラに接触するように搬送路に測定用の治具を挿入し、所定の回転方向で搬送モータを駆動した場合には治具が移動しない状態で、所定の回転方向に回転するように搬送モータを起動して搬送モータの出力トルクを徐々に上昇させ、搬送ローラと治具との間でスリップが発生したことを検出し、スリップが発生したときの出力トルクに基づいて搬送力を算出あるいは評価する。
【0009】
本態様の測定方法によれば、搬送ローラと治具との間でスリップが発生したことを検出してそのときのモータの出力トルク(回転開始トルク)に基づいて搬送力を算出あるいは評価するので、テンションゲージの目盛りの読み取りなどに起因する測定のばらつきの影響を受けなくなり、また、測定工程の自動化が容易になるとともに工数を削減することができる。
【0010】
本態様の測定方法では、搬送機構において搬送ローラは、搬送モータによって回転駆動される駆動ローラと、駆動ローラに対する従動ローラとからなっていてもよい。本発明に基づく測定方法では、駆動ローラと従動ローラからなる搬送ローラにおける搬送力をより正確に求めることができる。
【0011】
本態様の測定方法では、搬送機構が複数の搬送ローラを備えているときに、搬送ローラごとに搬送力を算出あるいは評価することが好ましい。搬送ローラごとに搬送力を算出あるいは評価することで、搬送機構における不具合の特定などをより細かく行うことができる。また、これらの複数の搬送ローラは、単一の搬送モータによって駆動されていてもよい。本態様によれば、複数の搬送ローラが単一の搬送モータによって駆動されているときにも搬送ローラごとに搬送力の測定や評価を行うことができる。
【0012】
本態様の測定方法では、搬送モータはDCモータであり、搬送モータに加える電流または電圧を制御して出力トルクを変化させることが好ましい。DCモータを使用することによって、出力トルクの容易に変化させることができるとともに、回転開始トルクの容易に検出できるようになる。
【0013】
本態様の測定方法では、治具において搬送路に挿入される部分は搬送物と同等の厚さを有することが好ましい。このような治具を用いることにより、実際の環境により近い状態で搬送力を測定あるいは評価できるようになり、搬送ローラにおける押し付け圧が適正かどうかの判断も確実に行えるようになる。
【0014】
本発明の他の態様の測定用治具は、搬送物が搬送される通路である搬送路と、搬送路の端部に設けられた挿入口と、搬送モータと、搬送路にある搬送物に接触し、搬送モータによって回転駆動されて搬送物を搬送する搬送ローラとを有する搬送機構における搬送力を測定あるいは評価するために用いられる治具であって、挿入口を介して搬送路に挿入可能な本体部と、本体部の一端に接続し挿入口を通過不可能な形状を有する係止部と、を有し、挿入口を介して本体部の全体を挿入したときに本体部の先端が測定対象の搬送ローラに接触するように、挿入方向に沿った本体部の長さが規定されている。
【0015】
本態様の治具によれば、挿入口を通過不可能な形状を有する係止部を有するので、上述した本態様の測定方法を容易に実施することができるようになる。
【0016】
本態様の治具では、本体部は搬送物と同等の厚さを有することが好ましい。このように治具を構成することにより、実際の環境により近い状態で搬送力を測定あるいは評価できるようになり、搬送ローラにおける押し付け圧が適正かどうかの判断も確実に行えるようになる。
【0017】
搬送機構において挿入口と測定対象の搬送ローラとの間の他の搬送ローラが存在するときに用いられるときには、本態様の治具は、本体部が搬送路に挿入された状態での他の搬送ローラの配置位置に対応して、貫通する開口として本体部に窓部が設けられていることが好ましい。このように窓部を設けることにより、搬送ローラごとに搬送力を測定あるいは評価することを容易に行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、搬送機構における搬送力を測定あるいは評価するときに、測定におけるばらつきを小さくし、かつ、工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a),(b)は、それぞれ、搬送機構の一例であるカードリーダを示す側面視断面図及び平面視断面図である。
図2】カードリーダの構成を示すブロック図である。
図3】搬送力の測定過程を示すフローチャートである。
図4】測定用の治具を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。本発明は、シート状、カード状あるいはベルト状の搬送物を搬送路に沿って搬送する搬送機構における搬送力を測定し評価する方法に関するものである。ここでは、搬送物が磁気カード、IC(集積回路)付き磁気カードあるいはICカードといったカード形状の情報記録媒体であり、搬送機構が、カード形状の情報記録媒体に対してデータの読み書きを行うカードリーダとして構成されている場合を説明する。カードリーダは、例えばATM(現金自動預け払い機:Automated Teller Machine)などの上位装置に搭載されて使用される。もちろん、本発明が対象とする搬送物はカード形状の情報記録媒体に限定されるものではなく、搬送機構もカードリーダとして構成されているものに限定されるものではない。
【0021】
まず、搬送機構として構成されたカードリーダについて説明する。図1(a)はカードリーダ10の構成を示す側面視断面図であり、図1(b)はカードリーダ10の構成を示す平面視断面図である。カードリーダ10は、例えばIC付き磁気カードであるカードCを搬送物としてこのカードCを搬送しながらカードCに対してデータの読み書きを行う。カードCは略長方形の板状に形成されており、長手方向がこのカードCの搬送方向とされる。カードリーダ10にはカードCが搬送される通路である直線状の搬送路40が、カードリーダ10の前後方向に延びるように設けられている。搬送路40の一端には挿入口41が形成されており、ATMなどの上位装置30(図2参照)にカードリーダ10を搭載したときに利用者が上位装置30の外部から挿入口41を介してカードリーダ10内にカードCを挿入できるようになっている。図において、挿入口41からカードCをカードリーダ10内に挿入するときのカードCの挿入方向が矢印で示されている。搬送路40の他端には補助挿入口42が形成されている。補助挿入口42は、カードリーダ10の検査や保守を行うときにカードCや治具などをカードリーダ10内に挿入するために用いられる。当然のことながら、補助挿入口42からカードCや治具を挿入するときの挿入方向は、挿入口41を利用するときの挿入方向とは逆方向となる。搬送路40の両側には一対の側板であるガイド部43が設けられており、ガイド部43の相互の間隔が搬送路40における通路幅となっている。この通路幅は、カードCの幅と同じか若干大きくなっている。
【0022】
搬送路40には、搬送路40の通路幅方向のほぼ中央の位置において、カードCの搬送方向に沿って、3組の搬送ローラが設けられている。挿入口41に最も近い搬送ローラは、搬送路40の下面側に設けられた駆動ローラ51aと搬送路40の上面側に設けられた従動ローラ51bからなり、補助挿入口42に最も近い搬送ローラは、搬送路40の下面側に設けられた駆動ローラ53aと搬送路40の上面側に設けられた従動ローラ53bからなる。挿入口41と補助挿入口42のほぼ中間の位置に設けられた搬送ローラは、搬送路40の下面側に設けられた駆動ローラ52aと搬送路40の上面側に設けられた従動ローラ52bからなる。各搬送ローラは、駆動ローラ51a,52a,53aと従動ローラ51b,52b,53bとによってカードCを挟み込んで送り出す機能を有する。駆動ローラ51a,52a,53aは、後述するようにモータ60の駆動力により回転し、従動ローラ51b,52b,53bは、駆動ローラ51a,52a,53aの回転に追従して、あるいは駆動ローラ51a,52a,53aの回転によって動くカードCの摺動に追従して回転する。搬送路40の下面側には、カードCにおける磁気ストライプの位置に対応して磁気ヘッド46が設けられている。搬送路40の上面側には、カードCにおけるICチップ端子の位置に対応してIC接点ブロック47が設けられている。
【0023】
モータ60の駆動力を駆動ローラ51a,52a,53aに伝達する動力伝達部材は、歯付ベルト71,72を含んでいる。モータ60の出力はまず、モータ60の回転軸に取り付けられた歯車61と歯付ベルト71を介して、駆動ローラ52aを支持する軸体56に設けられた歯車部である大径歯車部56bに伝達される。軸体56には大径歯車部56bよりも小さな径の歯車部である小径歯車部56aも設けられており、小径歯車部56aは大径歯車部56bの回転に連動して回転する。駆動ローラ51aを支持する軸体55、及び駆動ローラ53aを支持する軸体57にもそれぞれ歯車部55a,57aが設けられている。駆動ローラ52aの軸体56の小径歯車部56aと、駆動ローラ51a及び駆動ローラ53aの軸体55,57の歯車部55a,57aとは、歯付ベルト72で連結されており、これらは互いに連動して回転する。駆動ローラ52aの前後には歯付ベルト72のテンショナー74,75が配置されており、これにより歯付ベルト72には一定の張力が付与されている。結局このカードリーダ10では、駆動ローラ51a,52a,53aはいずれも、単一のモータ60により駆動される。ここではカードリーダ10に設けられる搬送ローラすなわち駆動ローラと従動ローラとの組み合わせが3組であるものとしたが、搬送ローラの数は3組に限られるものではなく、2組以下あるいは4組以上であってもよい。
【0024】
なお、搬送路40の下面側にある駆動ローラ51a,52a,53aは、搬送路40の上面側にある従動ローラ51b,52b,53bによって隠されることになるので、図1(b)には駆動ローラ51a,52a,53aは描かれていない。また駆動ローラ51a,52a,53aの軸体55~57は搬送路40の下側にあるので、図1(b)の搬送路40の領域ではこれらの軸体55~57は破線で描かれている。図1では、説明を容易にするため、従動ローラ51b,52b,53bの軸体は描かれていない。
【0025】
図2は、電子機器としてのカードリーダ10の機能構成を示すブロック図である。カードリーダ10の全体的な動作制御を行なう制御部20が設けられており、制御部20は、カードリーダ10が搭載されるATMなどの上位装置30と通信を行うことができる。制御部20は、例えば、マイクロコンピュータあるいはマイクロプロセッサなどによって構成されてソフトウェアによって動作する。磁気ヘッド46及びIC接点ブロック47も制御部20に接続している。モータ60にはその回転軸に接続したエンコーダ62が付属しており、エンコーダ62によってモータ60の回転位置を検出できるようになっている。モータ60はDC(直流)モータであり、駆動回路21を介して制御部20によって制御される。制御部20は、モータ60に対する位置指令や電流指令(あるいはトルク指令)を駆動回路21に出力し、駆動回路21は、制御部20からの指令に基づいてサーボ制御によりモータ60を駆動する。実際にモータ60を駆動するときは、モータ60のトルクを制御するために、モータ60はパルス幅変調(PWM;Pulse Width Modulation)で駆動される。サーボ制御のために、モータ60の回転位置情報がエンコーダ62から駆動回路21に入力する。モータ60の回転位置情報は、エンコーダ62から制御部20にも入力する。
【0026】
このカードリーダ10では、上位装置30からの指令により制御部20がモータ60の駆動を制御してカードリーダ10へのカードCの取り込みや吐き出しを行い、また搬送路40上に位置するカードCに対するデータの読み書きを行う。さらに、制御部20を動作する制御するプログラムには、カードリーダ10の診断や検査のためのルーチンが含まれている。以下、図1及び図2を用いて説明したカードリーダ10における搬送力を測定あるいは評価する手順について説明する。搬送力の測定または評価は、例えば搬送ローラごとにその搬送ローラにおける従動ローラ51b,52b,53bに対する駆動ローラ51a,51b,51cの押し付け力が適正かどうかを判定するために行われる。そのため、搬送力の測定または評価は、搬送ローラごとに実施される必要がある。
【0027】
図3は、本実施形態における搬送力の測定または評価の過程(測定過程ともいう)を示すフローチャートである。まず、ステップ101において、挿入口41あるいは補助挿入口42から測定用の治具を搬送路40内に挿入する。このとき測定用の治具が、測定対象の搬送ローラのみに接触するように、図1に示すカードリーダ10の場合であれば、測定対象の搬送ローラの駆動ローラと従動ローラとの間に治具が挟持され、他の搬送ローラの駆動ローラや従動ローラには治具が接触しないようにする。またこの治具は、測定対象の搬送ローラに接触したのちは、搬送路40への挿入方向に関してさらに奥にまで進まないように構成されている。ここで用いる治具は、カードCと同等の厚さを有してカードCと同様の材質で形成されたものであり、その形状等の詳細については後述する。ステップ101の処理は、例えば作業員の手によって、あるいはロボットを用いて実行される。その誤、制御部20における検査ルーチンの実行が開始する。
【0028】
検査ルーチンが開始すると、制御部20は、ステップ102において、モータ60を起動し、ステップ103においてモータ60の出力トルクを徐々に大きくし、ステップ104において、モータ60が回転を開始したかを検出する。モータ60の回転方向は、治具をその搬送路40への挿入方向に沿ってさらに奥まで搬送させる方向とする。治具は搬送方向に沿ってさらに奥にまで進まないようになっているので、出力トルクが小さいときは、搬送ローラと治具との摩擦により、モータ60からの駆動力が加わっていても搬送ローラ、具体的には駆動ローラは回転せず、したがってモータ60も回転しない。モータ60が回転を開始したかどうかは、エンコーダ62の出力を監視することによって検出することができる。ステップ104においてモータ60が回転を開始したことを検出しないときは、制御部20は、ステップ102からの処理を繰り返す。
【0029】
モータ60の出力を大きくしていると、ある時点で搬送力が搬送ローラと治具との摩擦力に打ち勝ち、搬送ローラと治具との間でスリップが起きて搬送ローラが回転を開始し、モータ60も回転を開始する。ステップ104においてモータ60が回転を開始したことを検出したら、制御部20は、ステップ105において、そのときのモータ60の出力トルク値を取得して記憶し、その後、ステップ106において、モータ60を停止させて検査ルーチンの実行を終了する。DCモータであるモータ60の電流トルク特性は既知であり、制御部20は、駆動回路21に出力した電流指令に基づいてモータ60の出力トルク値を知ることができる。出力トルク値の算出の具体的な方法は、例えば特許文献2に記載されている。スリップが始まったときのモータ60の出力トルクを回転開始トルク値と呼ぶことにする。回転開始トルク値を搬送ローラ(特に駆動ローラ)の半径で除算することにより、モータ60から搬送ローラを介して治具に加わる搬送力を算出できる。この算出される搬送力は、テンションゲージを用いる従来の検査方法で得られるテンション値と同等のものである。最後に、ステップ107において、作業員の手によってあるいはロボットによって搬送路40から治具を引き抜き、これにより一連の測定過程が終了する。測定対象の搬送ローラが複数ある場合には、搬送ローラごとに測定過程を実行する。その場合、搬送ローラごとに異なる治具を使用する。
【0030】
次に、ステップ105で得られた回転開始トルク値、あるいは回転開始トルク値から算出される搬送力を用いた評価について説明する。カードリーダ10には、搬送力の適正値、あるいは回転開始トルク値の適正値が予め定められているものとする。測定過程によって得られた搬送力あるいは回転開始トルク値がそれらの適正値よりも小さいときは、その原因は、従動ローラに対する駆動ローラの押し付け力が過少であって搬送物のスリップが起きやすい、搬送ローラに駆動力を伝達するベルトの張力が不足している、ベルトが歯付きベルトであるときには歯飛びが起きている、あるいは搬送ローラの表面が汚れている、などであると考えられる。一方、搬送力あるいは回転開始トルク値が適正値よりも大きいときは、従動ローラに対する駆動ローラの押し付け力が過大である、ベルトの張力が課題である、あるいはモータ60も含めてモータ60から搬送ローラまで駆動力を伝達する経路に異常がある、などがその原因であると考えられる。本実施形態に基づく方法によれば、テンションゲージなどを用いることなく搬送機構の搬送力を測定あるいは評価することができるので、搬送機構を検査するときの検査工数を削減することが可能になるとともに、測定時のばらつきを減らすことが可能になる。また検査ルーチンといったソフトウェアを用いて測定過程を実行できるので、カードリーダ10側の機械的な改造などを伴なわずに検査工程を自動化することができる。
【0031】
次に、本実施形態で用いる測定用の治具について説明する。本実施形態で用いられる治具は、上述したように、測定対象の搬送ローラのみに接触するように搬送路40に挿入されるものであって、測定対象の搬送ローラに接触した後は、モータ60によって搬送ローラが駆動されても挿入方向に沿って搬送路40のさらに奥までは進まないように構成されたものである。このような治具は、測定対象の搬送ローラごとに用意されるものである。図1に示すカードリーダ10の場合であれば、それぞれが駆動ローラと従動ローラとからなる搬送ローラが3組設けられているので、治具も3種類用意される。図4は、図1に示すカードリーダ10において用いられ、補助挿入口42の側から搬送路40に挿入される治具を説明する図である。図4において(a)は、参考のために搬送路40の構成を示す平面図であり、(b)は最も挿入口41に近い側の搬送ローラ(駆動ローラ51a及び従動ローラ51b)に対して用いられる治具81を示し、(c)は搬送路40のほぼ中間位置に設けられる搬送ローラ(駆動ローラ52a及び従動ローラ52b)に対して用いられる治具82を示し、(d)は最も補助挿入口42に近い側の搬送ローラ(駆動ローラ53a及び従動ローラ53b)に対して用いられる治具83を示している。いずれの治具81~83も、搬送路40内に挿入される本体部86と本体部86の一端に接続する係止部87とを備えている。本体部86は略長方形の形状を有し、本体部86の幅Wは、カードCの幅と同じであり、搬送路40の通路幅と同じかそれよりも若干小さくなっている。本体部86の厚さは、カードCの厚さと同等である。カードリーダ10における搬送物であるカードCの厚さは、例えば0.7~0.8mmとされているので、本体部86の厚さも0.7~0.8mmとされる。本体部86の材質、特に本体部86の表面の材質は、カードCと同じであることが好ましい。
【0032】
係止部87は、カードリーダ10の補助挿入口42の開口の周縁部分と係合することにより、係止部87が設けられていない方の端部から治具81~83を搬送路40内に挿入したときに、挿入方向に沿った本体部86の長さL1~L3を超えて治具81~83が搬送路40内に挿入されないようにするものである。例えば係止部87は、補助挿入口42を通過不可能な形状に構成される。治具81~83を板状の部材として構成するのであれば、係止部87の幅は補助挿入口42での開口幅よりも大きくされ、治具81~83は全体としてT字型の形状を有することになる。このような係止部87を設けることにより、挿入方向に治具81~83が動くような回転方向でモータ60を駆動したときに、治具81~83がそれ以上移動しないようになる。
【0033】
挿入口41から最も近い搬送ローラ(駆動ローラ51a及び従動ローラ51b)すなわち補助挿入口42から最も遠い搬送ローラに対応する治具81の本体部86は、補助挿入口42からその搬送ローラまでの距離よりもやや長い長さL1を有する。その結果、治具81の本体部86を搬送路40に完全に挿入した状態において、本体部86の先端が駆動ローラ51aと従動ローラ51bとによって挟み込まれることになる。このとき、治具81が残り2つの搬送ローラ(駆動ローラ52a及び従動ローラ52bからなる搬送ローラと駆動ローラ53a及び従動ローラ53bからなる搬送ローラ)と接触しないようにするために、それらの搬送ローラに対応する位置において本体部86には窓部88が設けられている。図示したものでは、残り2つの搬送ローラに共通のものとして略長方形の窓部88が、本体部86を貫通する開口として設けられている。
【0034】
同様に、挿入口41と補助挿入口42の中間にある搬送ローラ(駆動ローラ52a及び従動ローラ52b)に対応する治具82の本体部86は、補助挿入口42からその搬送ローラまでの距離よりもやや長い長さL2を有する。その結果、治具82の本体部86を搬送路40に完全に挿入した状態において、本体部86の先端が駆動ローラ52aと従動ローラ52bとによって挟み込まれることになる。このとき、治具82が補助挿入口42側の搬送ローラ(駆動ローラ53a及び従動ローラ53b)と接触しないようにするために、その搬送ローラに対応する位置において本体部86には窓部88が設けられている。さらに、補助挿入口42に最も近い搬送ローラ(駆動ローラ53a及び従動ローラ53b)に対応する治具83の本体部86は、補助挿入口42からその搬送ローラまでの距離よりもやや長い長さL3を有する。その結果、治具83の本体部86を搬送路40に完全に挿入した状態において、本体部86の先端が駆動ローラ52aと従動ローラ52bとによって挟み込まれることになる。治具83では、その対象とする搬送ローラとその治具83が挿入される補助挿入口42との間に他の搬送ローラが存在しないので、本体部86を貫通する開口である窓部は設けられていない。
【0035】
以上、本実施形態に用いる治具81~83について説明したが、搬送力の測定に用いる治具を補助挿入口42ではなく挿入口41から搬送路40内に挿入してもよく、挿入口41から治具を搬送路40に挿入するときは、それに対応した寸法や形状を有する治具を使用する。また、治具として全体として板状形状のものを説明したが、搬送路40に挿入可能な形状を有する本体部と挿入口41や補助挿入口42を通過できない形状の係止部とを備えるものであれば、治具は全体として板状の形状でなくでもよく、特に係止部が本体部の厚さ方向に突出するようなものであってもよい。
【0036】
以上説明した実施形態によれば、カードリーダ10の搬送ローラの押し付け圧の検査を行うときに、テンションゲージなどを用いることなく検査を行うことができる。または搬送力や回転開始トルクを求めるための一連の処理を、ソフトウエア処理により、具体的には制御部20が検査ルーチンを実行することによって実現することができる。これらにより、本実施形態によれば、カードリーダ10の検査工程を実行するときに工数を削減することが可能になるとともに、測定時のばらつきを減らすことが可能になる。
【符号の説明】
【0037】
10…カードリーダ;20…制御部;21…駆動回路;40…搬送路;41…挿入口;42…補助挿入口;43…ガイド部;51a,52a,53a…駆動ローラ;51b,52b,53b…従動ローラ;60…モータ;62…エンコーダ;71,72…歯付きベルト;81,82,83…治具;86…本体部;87…係止部;88…窓部。
図1
図2
図3
図4