(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081093
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】合成石英ガラスの製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20230602BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C03B8/04 D
C03B20/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194794
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592104944
【氏名又は名称】クアーズテック徳山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】生野 浩人
(72)【発明者】
【氏名】千々松 孝
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AH15
(57)【要約】
【課題】直接法による合成石英ガラスの製造において、製造する合成石英ガラスにおける脈理の発生を抑制すること。
【解決手段】溶融炉3内に配置されたターゲット5に対向して設けられ、珪素塩化物を酸素水素火炎中で加水分解するバーナ4と、前記バーナに連通され、液体状の珪素塩化物を気化するベーキングタンク8と、前記ベーキングタンクに連通され、液体状の珪素塩化物を収納するサブタタンク15と、前記サブタンクと底部同士の配管接続により連通され、液体状の珪素塩化物を収容するとともに、加圧用ガスが供給されるメインタンク21と、前記ベーキングタンクに収容された珪素塩化物の重量を検出する重量検出装置18と、この重量検出装置の出力に基づき制御され、前記ベーキングタンクと前記サブタタンク間に設けられた制御バルブ14とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉内に配置されたターゲットに対向して設けられ、珪素塩化物を酸素水素火炎中で加水分解するバーナと、
前記バーナに連通され、液体状の珪素塩化物を気化するベーキングタンクと、
前記ベーキングタンクに連通され、液体状の珪素塩化物を収納するサブタンクと、
前記サブタンクと底部同士の配管接続により連通され、液体状の珪素塩化物を収容するとともに、加圧用ガスが供給されるメインタンクと、
前記ベーキングタンクに収容された珪素塩化物の重量を検出する重量検出装置と、
この重量検出装置の出力に基づき制御され、前記ベーキングタンクと前記サブタンク間に設けられた制御バルブとを有し、
前記重量検出装置の出力に基づき制御バルブを制御し、珪素塩化物が前記ベーキングタンクから前記バーナに供給されて減少した減少量だけ、珪素塩化物を前記サブタンクから前記ベーキングタンクに供給することを特徴とする合成石英ガラスの製造装置。
【請求項2】
前記サブタンクは、複数のタンクにより構成され、
前記複数のタンクは、タンク底部同士の配管接続により直列に連通されていることを特徴とする請求項1に記載された合成石英ガラスの製造装置。
【請求項3】
前記サブタンクと前記メインタンクとは、収容する珪素塩化物の温度を調整する温度調節機能を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された合成石英ガラスの製造装置。
【請求項4】
原料の液体状の珪素塩化物を収納するサブタンクと、前記サブタンクと底部同士の配管接続により連通され、液体状の珪素塩化物を収容するとともに、加圧用ガスが供給されるメインタンクと、前記サブタンクから供給される液体状の珪素塩化物を気体化するベーキングタンクとを有する製造装置において、前記ベーキングタンクで気体化される珪素塩化物を前記ベーキングタンクからバーナに供給し、溶融炉内で珪素塩化物を前記バーナから噴出させ酸素水素火炎中で加水分解して石英ガラス微粒子を形成し、ターゲット上に堆積してガラス化する合成石英ガラスの製造方法であって、
前記メインタンクから前記サブタンクへ液体状の珪素塩化物を供給する際、
前記ベーキングタンクと前記サブタンク間に設けられた制御バルブは閉じることなく、前記メインタンク内の珪素塩化物の液面の高さが前記サブタンク内の珪素塩化物の液面の高さと同じ高さになるよう、前記サブタンクとメインタンクの底部同士を連通する配管を介して、前記メインタンクから前記サブタンクに珪素塩化物を供給することを特徴とする合成石英ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記メインタンクと前記サブタンクとに収容する珪素塩化物の温度を、前記ベーキングタンクに収容する珪素塩化物の温度に近い温度に保持することを特徴とする請求項4に記載された合成石英ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成石英ガラスの製造装置及び製造方法に関し、例えば半導体、液晶等の製造に用いられる光学部材(レンズ、フォトマスク等)に用いられる合成石英ガラスの製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成石英ガラスを製造する際に、原料として珪素塩化物が用いられる。珪素塩化物は常温では液体であるが、一般的に多く用いられている製造方法である直接法においては、合成石英ガラスの製造では気相反応を用いる。そのため、珪素塩化物を気体にする必要がある。直接法において、珪素塩化物を気化するためにベーキングタンクが用いられる。ベーキングタンクは珪素塩化物を沸点以上に加熱することで気化させるが、効率よく気化させるためにその容量には限りがある。そのため、合成石英ガラスの製造中には定期的にベーキングタンク内に珪素塩化物がチャージされることになる。
【0003】
ベーキングタンクへのチャージ方法として、特許文献1(特開2001-48551号公報)には、ベーキングタンクの上流側にタンクを設けた構成が開示されている。
具体的に説明すると、
図6に示すように、特許文献1に開示された合成石英ガラスの製造装置50は、溶融炉51と、高温に加温された恒温槽であるベーキング装置52と、前記ベーキング装置52に接続され、原料である液体状の珪素塩化物Mを収容するメインタンク53とを備える。
【0004】
メインタンク53は、珪素塩化物をこのメインタンク53に供給する原料供給源80に原料側バルブ81を介して接続されている。
また、このメインタンク53には、収納された液体状の珪素塩化物Mを加圧する加圧用ガスN2のN2供給源82が、加圧用バルブ83を介して接続されている。
【0005】
溶融炉51は耐火物からなる炉体54を有し、炉体54の内部にはインゴット形成用のターゲット55が配設されている。また、炉体54の上部にはバーナ56を有し、このバーナ56の先端はターゲット55の方向に向けられている。
バーナ56は、ベーキング装置52のベーキングタンク57の上部に連通パイプ60により連通されている。また、バーナ56は、支燃ガスであるO2のO2供給源65と、可燃ガスであるH2のH2供給源66と連通しており、珪素塩化物を酸素水素火炎中で加水分解するようになされている。
【0006】
ベーキング装置52は、前記のようにベーキングタンク57を有し、このベーキングタンク57には、配管69及び流量制御バルブ70を介して前記メインタンク53が接続されている。
また、ベーキングタンク57の底部には重量検出装置であるロードセル67が設けられ、ベーキングタンク57内の珪素塩化物Mの重量を検出できるようになっている。ロードセル67は、例えばPID制御を行う制御装置75に接続されている。制御装置75は、ロードセル67の出力に従い、流量制御バルブ70を制御し、メインタンク53からベーキングタンク57に珪素塩化物を供給する。
【0007】
具体的には、制御装置75は、ロードセル67の出力により、ベーキングタンク57からバーナ56に供給される珪素塩化物Mの重量を取得し、同じ重量の珪素塩化物Mをメインタンク53からベーキングタンク57に補充供給するよう流量制御バルブ70を制御するようになされている。
この構成によれば、ベーキングタンク57内の珪素塩化物量が常に一定となる。そのため、特許文献1には、珪素塩化物の蒸発量が安定し、気化する珪素塩化物の流量が一定となり、合成石英ガラスの脈理の発生を抑えることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に開示された構成においては、メインタンク53に原料である珪素塩化物を原料供給源80からチャージする際、メインタンク53内への珪素塩化物Mが増加するにつれ、タンク内空間部の圧力が徐々に上昇する。タンク内空間部の圧力が高くなると、珪素塩化物のタンク内への供給が停止するため、断続的に大気開放用のバルブ(図示せず)を開けて、圧力を逃がす必要がある。
【0010】
しかしながら、前記大気開放用のバルブを開けて、圧力を逃がす作業を行う際に、メインタンク53内において珪素塩化物Mへの加圧状況が大きく変化するため、珪素塩化物のチャージ後において、N2供給源82からのN2ガスによる珪素塩化物Mへの加圧状態が安定しないうちは、ベーキングタンク57へのチャージ制御の精度が低下するという課題があった。そのため、ベーキングタンク57内の珪素塩化物Mの量が一時的に変化し、その影響で気化された珪素塩化物の流量が変化して、製造中の合成石英ガラスに脈理が発生するという課題があった。
【0011】
また、前記したように、メインタンク53に原料である珪素塩化物を原料供給源80からチャージする際、メインタンク53内を大気開放する作業を行う。そのため、メインタンク53への珪素塩化物のチャージを行う間、ベーキングタンク57に連通する配管69に設けられた流量制御バルブ70を閉じる必要がある。
【0012】
しかしながら、流量制御バルブ70を閉じた際に、配管69内の流れが急に止まるため、ベーキングタンク57内において、珪素塩化物Mの液面に揺れが生じ、ベーキングタンク57内の空間部に圧力変動が生じる虞があった。この圧力変動が生じると、ベーキングタンク57内で気化された珪素塩化物Mの流量が変化し、製造中の合成石英ガラスに脈理が発生するという課題があった。
【0013】
本発明は、上記事情のもとになされたものであり、直接法による合成石英ガラスの製造において、製造する合成石英ガラスにおける脈理の発生を抑制することのできる合成石英ガラスの製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る合成石英ガラスの製造装置は、溶融炉内に配置されたターゲットに対向して設けられ、珪素塩化物を酸素水素火炎中で加水分解するバーナと、前記バーナに連通され、液体状の珪素塩化物を気化するベーキングタンクと、前記ベーキングタンクに連通され、液体状の珪素塩化物を収納するサブタンクと、前記サブタンクと底部同士の配管接続により連通され、液体状の珪素塩化物を収容するとともに、加圧用ガスが供給されるメインタンクと、前記ベーキングタンクに収容された珪素塩化物の重量を検出する重量検出装置と、この重量検出装置の出力に基づき制御され、前記ベーキングタンクと前記サブタンク間に設けられた制御バルブとを有し、前記重量検出装置の出力に基づき制御バルブを制御し、珪素塩化物が前記ベーキングタンクから前記バーナに供給されて減少した減少量だけ、珪素塩化物を前記サブタンクから前記ベーキングタンクに供給することに特徴を有する。
尚、前記サブタンクは、複数のタンクにより構成され、前記複数のタンクは、タンク底部同士の配管接続により直列に連通されていることが望ましい。
また、前記サブタンクと前記メインタンクとは、収容する珪素塩化物の温度を調整する温度調節機能を備えることが望ましい。
【0015】
このように本発明の構成によれば、ベーキングタンクに連通するサブタンクに対し珪素塩化物をチャージするためのメインタンクを備え、このメインタンクからサブタンクへの珪素塩化物のチャージの際、両タンク内の珪素塩化物の液面高低差を利用し、両タンクの底部同士を繋ぐ配管を介してサブタンクへの珪素塩化物の移送を行うことができる。
このとき、サブタンクとベーキングタンクとの間の制御バルブを閉じる必要がない。そのため、ベーキングタンク内において珪素塩化物の液面を揺らすような圧力変動が生じることがない。
また、サブタンクにおいては、大気開放動作を行わないため、サブタンク内の空間部において急激な圧力変動は生じない。そのため、ベーキングタンクにおける珪素塩化物の供給制御に影響せず、製造する合成石英ガラスにおける脈理の発生を抑制することができる。
【0016】
また、前記課題を解決するためになされた本発明に係る合成石英ガラスの製造方法は、原料の液体状の珪素塩化物を収納するサブタンクと、前記サブタンクと底部同士の配管接続により連通され、液体状の珪素塩化物を収容するとともに、加圧用ガスが供給されるメインタンクと、前記サブタンクから供給される液体状の珪素塩化物を気体化するベーキングタンクとを有する製造装置において、前記ベーキングタンクで気体化される珪素塩化物を前記ベーキングタンクからバーナに供給し、溶融炉内で珪素塩化物を前記バーナから噴出させ酸素水素火炎中で加水分解して石英ガラス微粒子を形成し、ターゲット上に堆積してガラス化する合成石英ガラスの製造方法であって、前記メインタンクから前記サブタンクへ液体状の珪素塩化物を供給する際、前記ベーキングタンクと前記サブタンク間に設けられた制御バルブは閉じることなく、前記サブタンク内の珪素塩化物の液面の高さが前記サブタンク内の珪素塩化物の液面の高さと同じ高さになるよう、前記サブタンクとメインタンクの底部同士を連通する配管を介して、前記メインタンクから前記サブタンクに珪素塩化物を供給することに特徴を有する。
尚、前記サブタンクと前記メインタンクとに収容する珪素塩化物の温度を、前記ベーキングタンクに収容する珪素塩化物の温度に近い温度に保持することが望ましい。
【0017】
このような方法によれば、メインタンクからサブタンクへの珪素塩化物のチャージの際、サブタンクとベーキングタンクとの間の制御バルブを閉じる必要がない。そのため、ベーキングタンク内において珪素塩化物の液面を揺らすような圧力変動が生じることがない。
また、サブタンクにおいては、大気開放動作を行わないため、サブタンク内の空間部において急激な圧力変動は生じない。そのため、ベーキングタンクにおける珪素塩化物の供給制御に影響せず、製造する合成石英ガラスにおける脈理の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、直接法による合成石英ガラスの製造において、製造する合成石英ガラスにおける脈理の発生を抑制することのできる合成石英ガラスの製造装置及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の合成石英ガラスの製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の合成石英ガラスの製造方法について説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の合成石英ガラスの製造方法について説明するための他のブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の合成石英ガラスの製造方法について説明するための他のブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の合成石英ガラスの製造方法について説明するためのフローである。
【
図6】
図6は、従来の合成石英ガラスの製造装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかる本発明に係る合成石英ガラスの製造装置および製造方法について説明する。
図1は、本発明の合成石英ガラスの製造装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明に係わる合成石英ガラスの製造装置1は、直接法による合成石英ガラスを製造するための溶融炉2と、高温に加温された恒温槽であるベーキング装置7と、前記ベーキング装置に接続され、原料の液体珪素塩化物Mを収容するサブタンク15と、前記サブタンク15と例えば同形状に形成され、サブタンク15に連通するメインタンク21とを備える。
【0021】
溶融炉2は耐火物からなる炉体3を有し、炉体3の内部にはインゴット形成用のターゲット5が配設されている。また、炉体3の上部にはバーナ4を有し、このバーナ4の先端はターゲット5の方向に向けられている。
バーナ4は、石英ガラス製の多重管構造に形成されている。このバーナ4は、ベーキング装置7が有するベーキングタンク8の上部に、連通パイプ9により連通されている。またバーナ4には、支燃ガスであるO2のO2供給源12と、可燃ガスであるH2のH2供給源13とが連通されている。即ち、珪素塩化物を酸素水素火炎中で加水分解するようになされている。
【0022】
ベーキング装置7は、前記したようにベーキングタンク8を有し、このベーキングタンク8には、制御バルブ14を介して前記サブタンク15が接続されている。制御バブル14としては流量を調整、制御する流量制御バルブでも良く、また、流れをON・OFFする制御バブルのいずれも用いることができるが、より精度を上げるためには流量制御バブルを用いることが好ましく、以下、流量制御バブルを用いる場合で説明をする。
サブタンク15は、収容する珪素塩化物Mの温度を、ベーキングタンク8に収容される珪素塩化物Mの温度に近づけて保持するためのヒータ等の温度調節部27を備え、ベーキングタンク8内の温度による珪素塩化物の蒸発量に与える影響が小さくなるようになされている。
【0023】
また、ベーキングタンク8の底部には重量検出装置であるロードセル18が設けられている。ベーキングタンク8内の珪素塩化物Mの重量を検出できるようになっている。ロードセル18は、例えばPID制御を行う制御装置19に接続されている。制御装置19は、ロードセル18の出力に従い、流量制御バルブ14を制御し、サブタンク15からベーキングタンク8に珪素塩化物Mを供給する。具体的には、制御装置19は、ロードセル18の出力により、ベーキングタンク8からバーナ4に供給される珪素塩化物の重量を取得し、同じ重量の珪素塩化物をサブタンク15からベーキングタンク8に補充供給するよう流量制御バルブ14を制御するようになされている。
【0024】
また、メインタンク21は、原料である液体状の珪素塩化物Mをこのメインタンク21に供給する原料供給源16に、原料側バルブ22を介して接続されている。この原料供給源16からメインタンク21への液体状の珪素塩化物の供給は、原料側バルブ22の開閉制御によってなされる。
さらに、このメインタンク21には、収納された液体状の珪素塩化物Mを加圧する加圧用ガス、例えばN2のN2供給源17が、加圧用バルブ23を介して接続されている。
また、メインタンク21は、サブタンク15と同様に、収容する珪素塩化物Mの温度を、ベーキングタンク8に収容される珪素塩化物Mの温度に近づけて保持するためのヒータ等の温度調節部28を備え、ベーキングタンク8内の温度による珪素塩化物の蒸発量に与える影響が小さくなるようになされている。
【0025】
メインタンク21とサブタンク15とは、それぞれの底面に接続された連通パイプ25により接続されている(即ち底部同士の配管接続により連通する)。連通パイプ25には、バルブ26が設けられ、このバルブ26を開くと、液面高低差による珪素塩化物の移送が可能となり、サブタンク15に収容された液体状の珪素塩化物Mの液面高さと、サブタンク21に収容された液体状の珪素塩化物Mの液面高さとが等しくなるように構成されている。例えば、サブタンク15に収容されている液体状の珪素塩化物が減少し、サブタンク15に液体状の珪素塩化物を追加補充したい場合、メインタンク21内に十分な量の珪素塩化物をチャージした後、連通パイプ25の制御バルブ26を開く。それにより、連通パイプ25を介して、メインタンク21からサブタンク15へ、両者に収容される珪素塩化物Mの液面高さが同じになるよう珪素塩化物が移送されることになる。
【0026】
より詳しく説明すると、
図2に示すように、メインタンク21の底面にかかる圧力F
A=ρgh
A(ρは珪素塩化物の密度、gは重力加速度)とし、サブタンク15の底面にかかる圧力F
B=ρgh
Bとすると、連通パイプ25内では、圧力はどの方向にも等しいため、ρgh
A=ρgh
Bとなる。即ち、メインタンク21内の液面高さh
Aと、サブタンク15内の液面高さh
Bとは等しくならなければならない。そのため、珪素塩化物Mがチャージされて液面が高くなったメインタンク21から、珪素塩化物Mの液面が低い状態のサブタンク15へ、連通パイプ25を介して珪素塩化物の移送が行われ、メインタンク21内の液面高さh
Aと、サブタンク15内の液面高さh
Bとは等しい状態で、この移送が停止することになる。
【0027】
このように構成された合成石英ガラスの製造装置においては、次のようにして合成石英ガラスが製造される。
最初に原料供給源16から液体状の珪素塩化物をメインタンク21にチャージする。このとき、加圧用バルブ23を閉じて加圧状態を停止し、大気開放バルブ24を開けてタンク内圧力を大気圧まで下げる。また、連通パイプ25のバルブ26は閉じた状態とする。
次いで大気開放バルブ24を閉じて大気側と遮断し、原料側バルブ22を開けて珪素塩化物を供給する(
図5のステップS1)。
【0028】
尚、この原料チャージにおいて、メインタンク21内は、大気開放バルブ24が閉じられた状態で珪素塩化物が供給されるため、タンク内圧力が上昇し、所定の圧力を超過すると、原料側バルブ22が閉じられる。このとき、珪素塩化物のチャージ量が不十分の場合は、再度、大気開放バルブ24を開いてタンク内圧力を下げ、原料側バルブ22を開けて、珪素塩化物の供給を再開すればよい。
【0029】
図3に示すように、メインタンク21に原料である珪素塩化物Mがチャージされた状態となると、メインタンク21からサブタンク15への珪素塩化物Mの移送(チャージ)が行われる。
具体的には、メインタンク21において大気開放バルブ24と原料側バルブ22は閉じられた状態とされ、連通パイプ25のバルブ26が開かれる。また、加圧用バルブ23は閉じた状態となされる。
このようなバルブ制御により、
図4に示すように、連通パイプ25を介して、メインタンク21からサブタンク15へ、両者に収容される珪素塩化物Mの液面高さが同じになるよう珪素塩化物が移送される(
図5のステップS2)。
【0030】
このようにサブタンク15への珪素塩化物のチャージにおいては、メインタンク21内とサブタンク15内の珪素塩化物Mの液面高低差を利用するものであるから、サブタンク15とベーキングタンク8との間の流量制御バルブ14を閉じる操作は行われない。そのため、ベーキングタンク8内において珪素塩化物Mの液面を揺らすような圧力変動が生じることがない。また、サブタンク15においては、大気開放動作を行わないため、サブタンク15内の空間部において急激な圧力変動は生じない。そのため、ベーキングタンク8における珪素塩化物の供給制御に影響せず、製造する合成石英ガラスにおける脈理の発生が抑制される。
【0031】
サブタンク15への珪素塩化物の移送が完了し、サブタンク15からベーキングタンク8へ珪素塩化物を供給する場合、メインタンク21において加圧用バルブ23が開かれ、メインタンク21内が加圧用N
2による圧力で加圧される(
図5のステップS3)。
このとき、メインタンク21内の液面高さh
Aと、サブタンク15内の液面高さh
Bとは等しい状態であるため、メインタンク21内の液面に加わる圧力PAとメインタンク15内の液面に加わる圧力PBとは等しくなる。そのため、サブタンク15内にもメインタンク21における加圧用N
2による圧力と同じ圧力が生じ、このN
2の圧力により、液体状の珪素塩化物がベーキング装置7のベーキングタンク8に所定量供給されることになる(
図5のステップS4)。このときの珪素塩化物の供給量は、ロードセル18により検出され、この出力は制御装置19に送られ、供給量が予め設定、記憶されている値に達すると、制御装置19より流量制御バルブ14を制御し、珪素塩化物の供給が止められる(
図5のステップS5,S6)。
【0032】
ベーキングタンク8に供給された液体状の珪素塩化物Mは、ベーキングタンク8が高温のベーキング装置7内に設けられているので、加熱され、気化してベーキングタンク8の上部に延伸する連通パイプ9を通り所定流量がバーナ4に供給される。バーナ4に供給された気体珪素塩化物は、O
2供給源12から供給される支燃ガス用O
2、H
2供給源13から供給される可燃ガスのH
2により酸素水素火炎中で加水分解される。このバーナ4中で、加水分解された珪素塩化物から合成石英(SiO
2)が合成され、バーナ4の下方に設けられたターゲット5に堆積し、合成石英ガラスが製造される(
図5のステップS7)。
【0033】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、ベーキングタンク8に連通するサブタンク15に対し珪素塩化物をチャージするためのメインタンク21を備え、このメインタンク21からサブタンク15への珪素塩化物のチャージの際、両タンク内の珪素塩化物Mの液面高低差を利用し、両タンクの底面同士を繋ぐ連結パイプ26を介してサブタンク15への珪素塩化物の移送を行う。
このとき、サブタンク15とベーキングタンク8との間の流量制御バルブ14を閉じる必要がない。そのため、ベーキングタンク8内において珪素塩化物の液面を揺らすような圧力変動が生じることがない。また、サブタンク15においては、大気開放動作を行わないため、サブタンク15内の空間部において急激な圧力変動は生じない。
そのため、ベーキングタンク8における珪素塩化物の供給制御に影響せず、製造する合成石英ガラスにおける脈理の発生を抑制することができる。
【0034】
尚、前記実施の形態においては、サブタンク15を1つ設けた構成としたが、本発明にあっては、その構成に限定されるものではなく、上記と同等の構造を有するサブタンク15を必要な珪素塩化物の量に合わせて、複数のタンクで直列に連結(底部同士を配管で連通させる)した構成としてもよい。これにより、原料供給源16からメインタンク21への一度の珪素塩化物原料の供給で大きな合成石英ガラスインゴットの製造を行うことができ、生産効率をより高めることができる。
【実施例0035】
本発明に係る合成石英ガラスの製造装置および製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
[実施例1]
実施例1では、
図1に示した装置構成のように、ベーキングタンク8の上流側にサブタンク15と、メインタンク21を設置し、合成石英ガラスの製造を行った。
メインタンク21への珪素塩化物のチャージ、並びにメインタンク21からサブタンク15への珪素塩化物のチャージにおいては、上記実施の形態と同様に実施した。
即ち、最初に原料供給源16から液体状の原料珪素塩化物をメインタンク21にチャージした。このとき、また、連通パイプ25の制御バルブ26は閉じた状態で、加圧用バルブ23を閉じて加圧状態を停止し、大気開放バルブ24を開けてタンク内圧力を大気圧まで下げた。次いで大気開放バルブ24を閉じて大気側と遮断し、原料側バルブ22を開けて珪素塩化物をチャージした。
【0036】
次いで、メインタンク21において大気開放バルブ24と原料側バルブ22を閉じた状態で、連通パイプ25の制御バルブ26を開いた。
これにより珪素塩化物がチャージされて液面が高くなったメインタンク21から、珪素塩化物の液面が低い状態のサブタンク15へ、両タンクの液面高さが等しくなるまで連通パイプ25を介して珪素塩化物のチャージを行った。
以上のメインタンク21への珪素塩化物のチャージ、及びメインタンク21からサブタンク15への珪素塩化物のチャージを1日1回実施し、20日間をかけて合成石英ガラスの製造を行った。
製造した合成石英ガラスは、所定形状に切断後、研磨し、JOGIS J11-2008(日本光学硝子工業会規格)に基づいて、脈理の観察を行った。
その結果、実施例1で製造した合成石英ガラスには、脈理の存在は確認されなかった。
【0037】
[比較例1]
比較例1では、
図6に示した従来の装置構成に従い、ベーキングタンク57の上流側にメインタンク53を設置し、合成石英ガラスの製造を行った。また、ベーキングタンク57に収容された珪素塩化物の重量をロードセル67により検出し、その結果に基づき、メインタンク53とベーキングタンク57との間に設けられた流量制御バルブ70を制御することにより、ベーキングタンク57内の珪素塩化物の量を一定に保つようにした。
製造工程の最初に、原料供給源から液体状の原料珪素塩化物をメインタンク53にチャージした。このとき、流量制御バルブ70を閉じ、加圧用バルブ83を閉じて加圧状態を停止し、大気開放バルブを開けてタンク内圧力を大気圧まで下げた。次いで大気開放バルブを閉じて大気側と遮断し、原料側バルブ81を開けてメインタンク53に珪素塩化物をチャージした。チャージ完了後、流量制御バルブ70を開けた状態とした。
【0038】
以上のメインタンク53への珪素塩化物のチャージを1日1回実施し、20日間をかけて合成石英ガラスの製造を行った。
製造した合成石英ガラスは、所定形状に切断後、研磨し、JOGIS J11-2008(日本光学硝子工業会規格)に基づいて、脈理の観察を行った。
その結果、比較例1で製造した合成石英ガラスには、周期的な脈理の存在が確認された。この脈理の発生間隔の周期は、1日ごとの周期に相当する間隔であった。
【0039】
[比較例2]
比較例2では、比較例1と同様に、ベーキングタンク57の上流側にメインタンク53を設置し、合成石英ガラスの製造を行った。メインタンク53とベーキングタンク57との間は、流量制御バルブ70ではなく、バルブ開閉のみを行うことのできるON/OFFバルブを用いた。
製造工程の最初に、原料供給源から液体状の原料珪素塩化物をメインタンク53にチャージした。このとき、ON/OFFバルブを閉じ、加圧用バルブ83を閉じて加圧状態を停止し、大気開放バルブを開けてタンク内圧力を大気圧まで下げた。次いで大気開放バルブを閉じて大気側と遮断し、原料側バルブを開けてメインタンク53に珪素塩化物をチャージした。チャージ完了後、ON/OFFバルブを開けた状態とした。
【0040】
以上のメインタンク53への珪素塩化物のチャージを1日1回実施し、20日間をかけて合成石英ガラスの製造を行った。
製造した合成石英ガラスは、所定形状に切断後、研磨し、JOGIS J11-2008(日本光学硝子工業会規格)に基づいて、脈理の観察を行った。
その結果、比較例2で製造した合成石英ガラスには、ガラス全体にわたり多数の脈理の存在が確認された。
また、比較例1の結果と比較して、ガラス全体に多数の脈理が発生したことから、サブタンク15からベーキングタンク8へ珪素塩化物を供給する際の流量を制御バルブ14により制御し、ベーキングタンク8内に珪素塩化物の量を一定に保つことの有効性を確認した。
【0041】
以上の実施例の結果、本発明によれば、ベーキングタンクへの珪素塩化物のチャージの際におけるベーキングタンク内の気圧の急激な変動を抑制し、製造する合成石英ガラスにおいて、脈理の発生を抑制することができることを確認した。