(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081116
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】複合膜
(51)【国際特許分類】
H01M 50/457 20210101AFI20230602BHJP
H01M 8/1025 20160101ALI20230602BHJP
H01M 8/1053 20160101ALI20230602BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230602BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20230602BHJP
H01M 50/466 20210101ALI20230602BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20230602BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20230602BHJP
D04H 1/4291 20120101ALI20230602BHJP
D04H 1/4309 20120101ALI20230602BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20230602BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
H01M50/457
H01M8/1025
H01M8/1053
H01B1/06 A
H01M50/44
H01M50/466
H01M50/417
H01M50/414
D04H1/4291
D04H1/4309
B32B5/26
B32B27/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194824
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】503442592
【氏名又は名称】株式会社ユアサメンブレンシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】真宅 晃平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 憲一
(72)【発明者】
【氏名】小久保 樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4L047
5G301
5H021
5H126
【Fターム(参考)】
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK03C
4F100AK04B
4F100AK04C
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK42B
4F100AK42C
4F100AK69B
4F100AK69C
4F100AL04A
4F100AT00A
4F100BA03
4F100DG15B
4F100DG15C
4F100EC03
4F100GB41
4F100JB05B
4F100JB05C
4F100JK02
4L047AA14
4L047AA16
4L047CA07
4L047CC14
5G301CA30
5G301CD01
5H021BB11
5H021CC02
5H021CC04
5H021CC18
5H021EE02
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5H021EE25
5H126AA05
5H126FF03
5H126FF04
5H126FF05
5H126GG18
5H126HH01
5H126HH10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】イオン交換膜を有する複合膜の強度を向上させ、変形を低減させると共に、イオン交換膜の性能を維持した複合膜を提供する。
【解決手段】イオン交換膜の両面に不織布が積層され、前記イオン交換膜と前記不織布が外周部で熱溶着されている複合膜である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換膜の両面に不織布が積層され、前記イオン交換膜と前記不織布が外周部で熱溶着されている複合膜。
【請求項2】
前記イオン交換膜及び前記不織布が四角形であり、前記外周部が、前記四角形の両側2辺、3辺、又は4辺に対応する部位である、請求項1に記載の複合膜。
【請求項3】
前記イオン交換膜が、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムにカルボン酸モノマー若しくはスルホン酸モノマー又はその両方をグラフト重合してなるイオン交換膜である、請求項1又は2に記載の複合膜。
【請求項4】
前記不織布が、ポリオレフィン系樹脂と親水性樹脂とからなる繊維を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の複合膜
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンであり、前記親水性樹脂が、エチレン-ビニルアルコール共重合体である、請求項4に記載の複合膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池のセパレータ等に用いる複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、酸化銀電池、Ni-Cdアルカリ電池のセパレータ、燃料電池の電解質膜、めっきや電解用の隔膜等として用いられており、補強等の目的で、イオン交換膜に不織布を積層して複合膜とする技術が公知である(特許文献1から5参照)。
【0003】
特許文献1には、「ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムに親水性ビニルモノマーをグラフト重合して得られたグラフト膜の両面に、織布又は不織布である布シートが接合一体化されて構成されており、布シートは、ポリオレフィン系樹脂と親水性樹脂とからなっており、上記親水性樹脂は、エチレン-ビニルアルコール共重合体であり、グラフト膜と布シートとが、エチレン-ビニルアルコール共重合体のゲル化によって接合一体化されていることを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。」(請求項1)が記載され、「請求項1記載の発明においては、親水性樹脂がゲル化して接着剤として機能するので、接着剤を用いることなく繊維同士が接着され、布シートはグラフト膜に接合される。」(段落[0015])と記載されている。
そして、「布シート、グラフト膜、布シートの順に重ね合わせる前又は後に、布シートに水分を吸湿させ、重ね合わせたものを加圧しながら加熱乾燥させてエチレン-ビニルアルコール共重合体のゲル化によって、グラフト膜と布シートとを接合一体化させる」(請求項4)場合、「加熱温度を80℃~150℃」(請求項5)とすることが記載されているが、「80℃未満であると、親水性樹脂のゲル化が不十分となり、150℃より高いと、グラフト膜の親水性が熱によって劣化するからである。」(段落[0025])と記載されている。
【0004】
特許文献2には、「イオン交換基を有するフィルム・・・の両面に、・・・の不織布を融着してなるアルカリイオン水製造用隔膜。」(請求項1)が記載されている。そして、「本発明の隔膜はフィルムと不織布とから構成されるが、フィルムと不織布との接着は、熱融着または超音波融着が適当である。熱融着を行う場合、その条件として温度50~150℃で0.5~1秒程度加熱するのが適当である。融着温度及び時間が余り長すぎると、フィルムが有するイオン交換基や多孔体を一部損傷したり、不織布の一部が溶けすぎてフィルムや不織布の性能を阻害するので好ましくない。」(段落[0014])と記載され、また、実施例には、「厚さ10μmのパーフルオロスルホン酸フィルム(イオン交換容量1.0ミリ当量/g乾燥樹脂、有効膜面積0.03m2 )の両面に、温度130℃で1秒間不織布を熱融着した。」(段落[0017])と記載されている。
【0005】
特許文献3には、「不織布で補強されたイオン交換樹脂を主成分とする固体高分子形燃料電池用電解質膜」(請求項1)について、「不織布で補強されたイオン交換樹脂を主成分とする電解質膜を作製する方法としては、例えば、(1)不織布に、イオン交換樹脂の溶液又は分散液を塗工又は含浸させた後、乾燥し造膜するキャスト法、(2)不織布に、あらかじめ形成しておいたイオン交換樹脂の膜状物を加熱積層して一体化する方法等が挙げられる。」(段落[0047])と記載されている。
そして、実施例には、「・・・イオン交換樹脂の水とエタノール溶液の混合液を溶媒とする溶液(固形分濃度15質量%)を調整した。次いで、・・・イオン交換樹脂中のスルホン酸基の15%をCe
3+でイオン交換した樹脂(以下、イオン交換樹脂(A)という)の溶液を得た。この溶液をダイコートにより旭硝子社製フッ素樹脂・・・の上に流延し、80℃15分間乾燥し、上記イオン交換樹脂(A)からなる補強されていない単層を得た。」(段落[0056])と記載され、また、「
図1の簡易積層装置・・・を用いて、連続PET支持体/厚密化不織布連続体RAP1と、単層とを熱圧着せしめ、連続PET支持体/中間積層体P1を得た。なお、厚密化の際の金属ロール44の温度及びゴムロール45の温度は120℃、ロール加圧の圧力は600mmのロール面長に対して0.026MPa/mであり、連続PET支持体/中間積層体P1の挿入速度は0.15m/分であった。」(段落[0060])と記載されている。
【0006】
特許文献4には、「吸着性官能基を有するフィルムと、該フィルムの少なくとも一方の面に積層配置された吸着性官能基を有する繊維よりなる不織布とを有し、該フィルムと不織布とが一体化した複合膜であって、該複合膜の該不織布が積層配置された面に凹部及び/又は凸部が形成されていることを特徴とする複合膜。」(請求項1)、「請求項1において、該フィルムがイオン交換樹脂よりなるフィルムであり、該不織布がイオン交換樹脂のナノファイバーよりなる不織布であることを特徴とする複合膜。」(請求項2)が記載されている。
そして、「第1図の通り、第1の加熱ロール1と第2の加熱ロール2との間に、イオン交換樹脂よりなるフィルム3とイオン交換樹脂よりなる不織布4,4との積層体5を通過させ、不織布4,4をフィルム3に圧着させてイオン交換フィルタ6とする。一方の加熱ロール1にはエンボス加工用の突起1aが設けられており、イオン交換フィルタ6には第2図(a)の通り一方の面に凹部7が形成され、他方の面に凸部8が形成される。」(段落[0029])と記載され、また、実施例には、「加熱ロール1,2の表面温度を80℃に設定し、8MPaで不織布4とフィルム3とを圧着させると共に、凹部7及び凸部8を形成し、イオン交換フィルタを製造した。」(段落[0070])と記載されている。
【0007】
特許文献5には、「フィブリル状、織布状、又は不織布状のフルオロカーボン重合体補強材で補強されたスルホン酸基を含有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜を固体高分子電解質とする固体高分子電解質型の燃料電池。」(請求項1)が記載されている。
そして、「上記補強材の陽イオン交換膜への適用方法は特に限定されず、例えば・・・陽イオン交換膜を構成するスルホン酸型パーフルオロカーボン重合体フィルムとシート状の補強材とを熱溶融により成形する方法等も採用される。熱溶融による成形法としては平板プレス、真空プレス等のバッチ法や連続ロールプレス法等の連続法が挙げられる。」(段落[0009])と記載され、また、実施例には、「イオン交換容量1.1ミリ当量/g乾燥樹脂のCF2=CFO(CF2CFCF3)O(CF2)2SO2Fとテトラフルオロエチレンとの共重合体に、本共重合体の1重量%のPTFE製のフィブリルを混合した後、220℃で押出し製膜し、厚さ100μmのフィルムを得た。220℃でロールを用いて、共重合体と共重合体との間にポリテトラフルオロエチレンにより構成される織布を貼合わせ積層した・・・」(段落[0017])と記載されている。
【0008】
また、イオン交換膜を製造する方法として、フイルムにアクリル酸、メタアクリル酸又はスチレンスルホン酸をグラフト重合する方法が公知であり(特許文献6参照)、さらに、不織布に、カルボン酸モノマー(アクリル酸、カルボキシル基)とスルホン酸モノマー(スチレンスルホン酸、スルホン基)を結合させることも公知である(特許文献7、8参照)。
【0009】
特許文献6には、「合成樹脂よりなるフイルムに電子線を照射し、後該照射フイルムをアクリル酸、メタアクリル酸又はスチレンスルホン酸からなる温度30~50℃の範囲のモノマー溶液に浸漬して、グラフト率が30~90%の範囲でグラフト重合を行うことを特徴とする電池用セパレータの製造方法。」(請求項1)、「合成樹脂がポリオレフイン系樹脂又は弗素含有樹脂である特許請求の範囲第1項記載の電池用セパレータの製造方法。」(請求項2)が記載されている。そして、実施例には、上記の「アクリル酸、メタアクリル酸又はスチレンスルホン酸からなる温度30~50℃の範囲のモノマー溶液」として、「アクリル酸19部、キシレン78部、四塩化炭素3部よりなる温度40℃の溶液」(実施例1、4)、「モール塩0.16%を含有するメタアクリル酸、水、二塩化エチレンを容積比で夫々50:40:10の割合で含む溶液」(実施例2)、「ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ベンゼン、キシレンの容積比30:50:20からなる溶液」(実施例3)が記載されている。
【0010】
特許文献7には、「 ポリオレフィン系樹脂を構成材料とする基材への電離放射線の照射によりアクリル系モノマーとスルホン酸基を持つモノマーまたはその塩をグラフト共重合することを特徴とするポリオレフィン系基材の改質方法。」(請求項1)が記載されている。そして、実施例には、「・・・のポリプロピレン製不織布からなる試料に、加圧電圧250KeVの電子線を5Mrad照射した後、蒸留水455mlに、モール塩(純度99.5重量%,試薬特級)をグラフト反応溶液1リットル当り 2.5g加え溶解した後、アクリル酸(純度98重量%,試薬特級)を49.2g加え、スチレンスルホン酸カリウム(純度91.2重量%,試薬特級)16.6gを加え溶解させたグラフト反応溶液(全モノマー濃度1.62mol/l)を、試料1枚当り500mlの反応溶液量として、液温60℃にて30分間浸漬し、グラフト反応を行なった。」(段落[0027])と記載されている。
【0011】
特許文献8には、「 ポリオレフィン系樹脂の織布又は不織布からなるアルカリ電池用セパレーターにおいて、該織布又は不織布表面にスルホン基とカルボキシル基とが結合されていることを特徴とするアルカリ電池用セパレーター。」(請求項1)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3758739号公報
【特許文献2】特開平6-296964号公報
【特許文献3】特開2009-252723号公報
【特許文献4】特開2012-148482号公報
【特許文献5】特開平6-231779号公報
【特許文献6】特公昭61-18307号公報
【特許文献7】特開平7-138391号公報
【特許文献8】特開2001-283816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の複合膜は、イオン交換膜と不織布が、不織布の構成成分である親水性樹脂のゲル化によって接合一体化されているため、強度が十分ではなく、また、変形し易いという問題があった。また、イオン交換膜と不織布が全面で熱溶着、熱圧着されている特許文献2、3及び5に記載の複合膜は、イオン交換膜の性能が十分に発揮されず、そして、特許文献4に記載の複合膜のように、イオン交換膜と不織布を低い温度で圧着した場合は、強度の向上が十分ではないという問題があった。なお、特許文献6から8には、イオン交換膜を補強することは記載されていない。
【0014】
本発明の課題は、イオン交換膜を有する複合膜の強度を向上させ、変形を低減させると共に、イオン交換膜の性能を維持することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一側面に係る複合膜は、イオン交換膜の両面に不織布が積層され、前記イオン交換膜と前記不織布が外周部で熱溶着されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一側面に係る複合膜においては、イオン交換膜と不織布が外周部で熱溶着されていることにより、強度が向上し、変形が低減されると共に、熱溶着された外周部以外の中心部は、イオン交換膜の性能が、そのまま維持されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、イオン交換膜の両面に不織布を積層し、(a)が両側2辺、及び(b)が4辺を熱溶着した複合膜を示す写真である。
【
図2】
図2は、グラフト膜とEVOH不織布の溶着強度と溶着時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
初めに、本明細書によって開示される複合膜の概要について説明する。
本発明の第1の実施形態は、イオン交換膜の両面に不織布が積層され、前記イオン交換膜と前記不織布が外周部で熱溶着されている複合膜である。
イオン交換膜は、多角形であっても円形であってもよい。
ここで、前記イオン交換膜と前記不織布の外周部とは、両者が多角形の場合、多角形の2辺以上の辺に対応する前記イオン交換膜と前記不織布の部位を意味し、両者が円形の場合、円の外周に対応する前記イオン交換膜と前記不織布の部位を意味する。
【0019】
第1の実施形態の複合膜は、前記イオン交換膜と前記不織布が高温で熱溶着されていることにより、不織布の構成成分である親水性樹脂のゲル化によって両者が接合一体化されている複合膜、及び両者が低温で熱圧着されている複合膜と比較して、強度が向上し、変形が低減されるという効果を奏する。また、前記イオン交換膜と前記不織布が外周部で熱溶着されていることにより、両者が全面で熱溶着されている複合膜と比較して、イオン交換膜の性能が、そのまま維持されるという効果を奏する。
【0020】
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態の複合膜において、前記イオン交換膜及び前記不織布が四角形であり、前記外周部が、前記四角形の両側2辺、3辺、又は4辺に対応する部位である。
ここで、前記イオン交換膜及び前記不織布において、前記四角形の両側2辺、3辺、又は4辺に対応する部位は、両側2辺、3辺、又は4辺に対応する部位の全てではなく、それぞれの辺に対応する部位の一部を除く部位、又は、それぞれの辺に対応する部位の一部であってもよい。例えば、前記イオン交換膜と前記不織布の4辺の一部を熱溶着、例えば、4隅を熱溶着する場合も含む。
【0021】
第2の実施形態の複合膜は、外周部を、前記のように特定することにより、強度の向上とイオン交換膜の性能の維持のバランスを図ることができる。
【0022】
本発明の第3の実施形態は、第1又は第2の実施形態の複合膜において、前記イオン交換膜が、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムにカルボン酸モノマー若しくはスルホン酸モノマー又はその両方をグラフト重合してなるイオン交換膜である。
【0023】
第3の実施形態の複合膜は、イオン交換膜を、前記のように特定することにより、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基が解離し、イオン伝導性が出るという効果を奏する。
【0024】
本発明の第4の実施形態は、第1から第3のいずれかの実施形態の複合膜において、前記不織布が、ポリオレフィン系樹脂と親水性樹脂とからなる繊維を含む。
【0025】
本発明の第5の実施形態は、第4の実施形態の複合膜において、前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンであり、前記親水性樹脂が、エチレン-ビニルアルコール共重合体である。
【0026】
第4又は第5の実施形態の複合膜は、不織布に、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の親水性樹脂を含ませることで、イオン交換膜の性能を向上させることができる。
【0027】
本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」という。)に係るイオン交換膜の構成及びその製造方法、並びに、複合膜の構成及びその製造方法について詳述する。
【0028】
(イオン交換膜)
イオン交換膜としては、特許文献1及び6に記載されたポリオレフィン系樹脂からなるフィルムにカルボン酸モノマー(アクリル酸、メタクリル酸)をグラフト重合したグラフト膜、又は、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムにスルホン酸モノマー(スチレンスルホン酸)をグラフト重合したグラフト膜等が挙げられるが、本実施形態においては、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムにカルボン酸モノマーとスルホン酸モノマーの両方をグラフト共重合してなるイオン交換膜が好ましい。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン又はポリプロピレンが好ましい。
ポリエチレンに、アクリル酸とスチレンスルホン酸をグラフト共重合したイオン交換膜(グラフト膜)の構造式を以下に示す。
【0029】
【0030】
上記のグラフト膜は、強酸性陽イオン交換膜であり、酸性、中性、アルカリ性すべてのpHにおいて使用可能である。したがって、後述する陽イオン交換膜の全ての用途に使用可能である。
また、微孔膜ではなく、電解液中でイオン交換基が解離し、膨潤することで、分子鎖の隙間を、分子、イオン、水が移動可能となる膜である。電解液によって電気抵抗値が変わる。
グラフト膜単体の厚さは乾燥状態で約50から60μmであり、膨潤すると、厚さは約70μmになり、寸法は10%から15%増加する。
透気度はほぼゼロである。
【0031】
上記の構造式において、ポリエチレンフィルム基材に、アクリル酸のみをグラフト重合させたカルボキシル基を有するグラフト膜は、弱酸性陽イオン交換膜である。
液の濃度にもよるが、おおよそpH9以上において、カルボキシル基が解離でき、イオン伝導性を生じる。それ以下のpHにおいて、電気が全く流れないわけではないが、電気抵抗値が高くなる。
したがって、この弱酸性陽イオン交換膜は、アルカリ電池のセパレータとすることが好ましい。また、アルカリ電池だけでなく、アルカリ性電解液を用いるめっきや電解用隔膜としての用途も考えられる。
【0032】
上記の構造式において、ポリエチレンフィルム基材に、スチレンスルホン酸のみをグラフト重合させたスルホン酸基を有するグラフト膜は、強酸性陽イオン交換膜である。
このグラフト膜は、スルホン酸基が、全pH領域で解離して、プロトン伝導体として機能するので、燃料電池の固体電解質膜に用いることができる。また、スルホン酸基が、アルカリ金属成分を除去する能力を効果的に発揮することができるので、透析、食塩などの塩類水溶液の濃縮、脱塩などの用途に用いることもできる。
【0033】
ポリエチレンフィルムにカルボン酸モノマーとスルホン酸モノマーの両方をグラフト共重合してなる本実施形態に係る強酸性イオン交換膜(グラフト膜)の製造工程を以下に示す。
【表1】
【0034】
「1.架橋&ラジカル化」は、次工程で膜に機能を付与するための基点を作製するための工程である。電子線加速器を用いて、ポリエチレンフィルムに電子線を照射し、架橋し、ラジカル化する。例えば、ポリエチレンフィルムに、N2雰囲気中で、加速電圧200万ボルト、ビーム電流10mAの電子線を3Mradから20Mrad照射して、ラジカル化ポリエチレンフィルムとする。ラジカル化ポリエチレンフィルムは、ラジカルが失活しないように、-25℃以下の低温で移送および保管する。
【0035】
「2.グラフト重合」は、上記のラジカル化ポリエチレンフィルムを冷凍庫から取り出し、カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等)とスルホン酸(塩)を含有するモノマー反応溶液に投入して、グラフト重合反応させ、ラジカル化ポリエチレンフィルムにカルボキシル基とスルホ基(スルホン酸基)の両方を導入する工程である。これにより、グラフト膜(イオン交換膜)に、上記のような機能が付与される。
【0036】
「3.コンディショニング」は、グラフト膜に、酸処理、アルカリ処理、水洗処理を順次行う工程である。これにより、膜付着物の洗浄、及び、膜の化学処理ができる。
【0037】
「4.加工」は、グラフト膜を、カットし、不織布との辺溶着加工を行う工程である。この工程の詳細については、以下に記載する。
【0038】
(辺溶着工程)
不織布-グラフト膜-不織布の3層積層品に圧力をかけ、熱溶着することが好ましい。好ましい熱溶着条件は、溶着圧0.02MPaから0.35MPa、溶着時間0.1秒から2.5秒、加熱温度130℃から280℃であり、より好ましい熱溶着条件は、溶着圧0.1MPaから0.2MPa、溶着時間1.0秒から1.5秒、加熱温度180℃から220℃である。
グラフト膜(イオン交換膜)は、四角形にカットし、同じ大きさにカットした2枚の不織布で挟み、両側2辺、又は4辺を熱溶着することが好ましい。場合によって、3辺を熱溶着してもよい。四角形以外の多角形にカットし、その2辺以上を熱溶着すること、又は円形にカットし、その外周部を熱溶着することもできる。
【0039】
不織布は、ポリオレフィン系樹脂と親水性樹脂とからなる繊維を含むことが好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンであることが好ましい。親水性樹脂は、エチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0040】
不織布としては、乾式不織布及び湿式不織布のいずれを用いてもよい。乾式不織布とは、空気中に分散された繊維を適当な方法によって集積したウェブからなるものである。このウェブは、接着剤や熱接着性繊維によって構成繊維同士を接合したり、ニードルや高圧水流の作用によって構成繊維同士を交絡させたりすることによって、その構成繊維同士が互いに結合して一体化されて、不織布となる。湿式不織布とは、繊維材料を水中に分散させてなるスラリーを、網上に流した後に脱水することによって形成されるウェブからなるものである。このウェブも、乾式不織布の場合と同様にして、構成繊維同士が互いに結合して一体化されて、不織布となる。
不織布の目付は特に限定されないが、目付が大きくなって厚みが増すほど、アルカリ電池用セパレータとする場合、電極の挿入量が減少するので、目付は60g/m2以下であるのが好ましい。
【0041】
四角形の強酸性イオン交換膜(グラフト膜)を、エチレン-ビニルアルコール共重合体繊維を含むポリエチレン及びポリプロピレンの複合繊維からなる同じ四角形の不織布で挟み、不織布-グラフト膜-不織布の3層積層品とし、両側2辺、又は4辺を熱溶着(ヒートシール)した複合膜を
図1に示す。
【0042】
上記の複合膜は、以下の機能を有する。
複合膜の熱溶着部分には液は含侵せず膨潤しない。
複合膜を電解液に浸漬させてもばらばらにならない。
グラフト膜が膨潤(グラフト膜単体では10%前後寸法変化が生じる)しても、熱溶着部分に寸法変化は実質的に生じない。
両側二辺を熱溶着した上下解放型の複合膜の場合、液抜き等でも膜に圧が生じない。
不織布はグラフト膜の物理的な保護材としての機能も有する。
【実施例0043】
(実施例)
<グラフト膜の作製>
反応液(30L)を、イオン交換水(20L)、アクリル酸AAc(5.4kg)、スルホン酸ナトリウムSSS(7.5kg)、モール塩(23.5g)、硫酸(約40g、pH=2から3)に調液した。硫酸酸性(pH≒2)は、硫酸を攪拌しながら滴下し、pH試験紙を用いて調製した。2時間程度十分に窒素ばっ気し、液温をあらかじめ20℃に調整した上記の反応液に、ポリエチレン基材(40μm)をPET不織布に挟み込んでから投入した。ポリエチレン基材投入から、1時間半後に液循環用ポンプを起動し、液温を25℃以下に制御することで、鍵反応となる選択的アクリル酸重合を進行させた。反応開始から2時間後に液温を45℃に上昇させることで、スルホン酸基を導入した。
【0044】
得られたグラフト膜の電気抵抗値は、NaCl水溶液(3質量%)による中性領域を測定(グラフト膜を室温で1時間浸漬)したところ、167mΩ・in2であった。これに加え、H2SO4水溶液(0.25M)による酸性領域も測定した(グラフト膜を室温で1時間浸漬)ところ、酸性領域中での電気抵抗値は低く(13.5mΩ・in2)なっており、ポリエチレン基材に、アクリル酸基と共に、スルホン酸基が導入されていることを確認した。
【0045】
反応終了後、平型トレーを用いて蒸留水、1Mシュウ酸水溶液、1MKOH水溶液、1M硫酸にそれぞれ1時間以上浸漬させた。これらの後処理の各段階で、グラフト膜のコンディショニングを行った。シュウ酸水溶液でグラフト膜中に存在するモール塩由来の鉄イオンを捕集した。次にKOHのアルカリ水溶液の処理では、スルホン酸イオンの水和を促してグラフト膜を膨潤させた。
最後のプロトン化処理では硫酸によりグラフト膜の収縮を確認した。
【0046】
反応終了後のグラフト膜は膨潤しており、自由な状態で乾燥させると“しわ”が発生した。 そのため、グラフト膜をPET不織布で挟み込み、その上下に吸水タオルを敷き、負荷が均ーになるようにおもりを掛けて乾燥させた。厚みは、77μm(wet)から58μm(dry)になった。
【0047】
<複合膜の作製>
ポリオレフィン系樹脂であるポリエチレン及びポリプロピレンと親水性樹脂であるポリオレフィン芯鞘構造を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体との配合割合が質量比で60:40であり、目付が40g/m2である不織布を用意した。
【0048】
上記のようにして乾燥させて得た、四角形のグラフト膜を、EVOH不織布からなる同じ大きさの四角形の不織布で挟み、不織布-グラフト膜-不織布の3層積層品とし、両側2辺、又は4辺を熱溶着(ヒートシール)して、
図1に示す縦685mm、横330mmの(a)の複合膜(2辺溶着品)、及び、縦360mm、横375mmの(b)の複合膜(4辺溶着品)を作製した。
熱溶着(ヒートシール)の条件は、溶着圧0.18MPa、溶着時間1.5秒、加熱温度200℃とした。
【0049】
グラフト膜と不織布を幅10mmで片面熱溶着したサンプルの引張強度試験を、幅15mm、初期つかみ距離70mm、引張速度20mm/minの試験条件[JIS Z 0238;7項, (1998)]で行った。引張強度は、Dryで20N/15mm、Wetで6.5N/15mmであり、水浸漬でも十分な強度が得られた。1か月水浸漬させても熱溶着部は強度を保っていた。
【0050】
一般に、熱溶着の評価には引張試験法が使われている。フィルム同士を溶着した際には大きく2つの溶着状態に分かれ、界面のみで接着した剥がれ溶着(Peel seal)と溶融面が破断した破れシール(Tear seal)である。2つの状態は加熱温度と時間によって変化し、特にインパルスシーラーにおいては加熱時間(溶着時間)に依存する。引き裂き応力は接着面の応力ラインに作用するため、破断点までは接着線から数nmから数mmで決まる。溶着強度の信頼性が高く外観の安定した状態を得るためには、剥がれ溶着(Peel seal)の状態を見極める必要がある。
図2に、グラフト膜とEVOH不織布の溶着強度と溶着時間の関係を示した。
溶着時間(1.0秒未満150℃以下の片面溶着)が短いと不織布の溶融が見られず、 引張強度が低く“シール不足状態”となる。溶着時間(1.0秒以上180℃以上の片面溶着)が適切であると接着面の透明度が上がり、充分な溶着強度の“剥がれ溶着(Peel seal)状態”を得る。溶着時間(2.0秒以上250℃以上)が長いと破れ溶着(Tear seal)状態となり、充分な引張強度は得られるがフィルムは破断し、外観が悪くなる。破れ溶着(Tear seal)状態は安定した溶着強度が得られるため、破れ溶着強度を測定した後に剥がれ溶着(Peel seal)状態を評価するのがよい。実際には、溶着圧によっても溶着時間が変化するため、前試験を実施し、溶着時間を決定する必要がある。
【0051】
(比較例)
実施例で用いた縦685mm、横330mmの四角形のグラフト膜を、エチレン-ビニルアルコール共重合体繊維を含むポリエチレン及びポリプロピレンの複合繊維からなる同じ大きさの四角形の不織布で挟み、不織布-グラフト膜-不織布の3層積層品とし、ラミネート加工した。
上記の3層積層品を90℃、2時間で熱圧着し、ラミネート加工したところ、グラフト膜が収縮し、“しわ”が発生した。圧力を均ーにするためネットスペーサを挿入し、2枚の多孔質板に挟んで乾燥速度を速めたが、“しわ”による不安定な品質は取り除くことができなかった。この3層積層品は、特許文献1に記載されたセパレータと同様に、グラフト膜と不織布とが、エチレン-ビニルアルコール共重合体のゲル化によって接合一体化されている。