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  • 特開-腹膜透析装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008112
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】腹膜透析装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/28 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
A61M1/28 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111403
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】森田 祐卓
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA06
4C077BB01
4C077DD02
4C077EE03
4C077HH02
4C077HH14
4C077HH15
4C077JJ02
4C077JJ15
4C077JJ16
4C077KK27
(57)【要約】
【課題】加温部における透析液の液量が減少しても、安定して所定の目標温度まで透析液を加温できる腹膜透析装置を提供すること。
【解決手段】腹膜透析装置1は、透析液を移送する送液部100と、透析液を加温するヒータ132を有する加温部130と、加温部130における透析液の温度を測定する温度測定部140と、加温部130を制御する制御部160と、を備え、制御部160は、加温部130における透析液の液量を監視する液量監視部161と、加温部130における透析液の液量に応じてヒータ132の出力割合を調整する第1の出力調整部162と、温度測定部140により測定された透析液の測定温度が所定の目標温度よりも小さい場合にヒータ132を駆動させる加温制御部164と、を備え、加温制御部164は、第1の出力調整部162による出力割合でヒータ132の出力を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析液を移送する送液部と、
透析液を加温するヒータを有する加温部と、
前記加温部における透析液の温度を測定する温度測定部と、
前記加温部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記加温部における透析液の液量を監視する液量監視部と、
前記加温部における透析液の液量に応じて前記ヒータの出力割合を調整する第1の出力調整部と、
前記温度測定部により測定された透析液の測定温度が所定の目標温度よりも低い場合に前記ヒータを駆動させる加温制御部と、を備え、
前記加温制御部は、前記第1の出力調整部による出力割合で前記ヒータの出力を制御する腹膜透析装置。
【請求項2】
前記第1の出力調整部は、前記加温部における透析液の液量が所定の液量以上である場合に、前記ヒータの出力割合を1とし、前記加温部における透析液の液量が前記所定の液量未満である場合に、前記加温部における透析液の液量の減少に応じて、前記ヒータの出力割合を1から減少させる請求項1に記載の腹膜透析装置。
【請求項3】
前記第1の出力調整部は、前記液量監視部において監視される透析液の液量が増加している場合、該透析液の液量にかかわらず前記ヒータの出力割合を1とする請求項1又は2に記載の腹膜透析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記測定温度と前記所定の目標温度との温度差に応じて、前記ヒータの出力割合を調整する第2の出力調整部を更に備え、
前記加温制御部は、前記第1の出力調整部による出力割合と前記第2の出力調整部による出力割合とを乗じた割合で前記ヒータの出力を制御する請求項1~3のいずれかに記載の腹膜透析装置。
【請求項5】
前記第2の出力調整部は、前記温度差が所定の値を超える場合に、前記ヒータの出力割合を1とし、前記温度差が前記所定の値以下である場合に、前記温度差の減少に応じて、前記ヒータの出力割合を1から減少させる請求項4に記載の腹膜透析装置。
【請求項6】
前記第1の出力調整部は、前記温度差が所定の値を超える場合に前記加温部における透析液の液量にかかわらず前記ヒータの出力割合を1とする請求項5に記載の腹膜透析装置。
【請求項7】
前記液量監視部は、前記送液部の送液量に基づいて前記加温部における透析液の液量を算出する請求項1~6のいずれかに記載の腹膜透析装置。
【請求項8】
前記送液部は、
ダイヤフラムを有し液体が出入り可能な送液用開口部が形成されたポンプ室と、一端が前記送液用開口部に接続され、他端が分岐してそれぞれ液体供給元及び液体供給先に接続されるチューブと、を備える送液・排液カセットと、
前記ダイヤフラムを一定のストローク幅で往復駆動する駆動手段と、
前記チューブのうち分岐した他端側の流路をそれぞれ開閉する流路開閉機構と、を備え、
前記送液部の送液量は、前記ポンプ室の容量に前記駆動手段の駆動回数を乗じることにより算出される請求項7に記載の腹膜透析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析液を加温する加温部を有する腹膜透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液浄化療法の1つとして、患者の腹腔内に透析液を注入し、所定時間経過後に注入した透析液を排出することで、血液中に含まれる老廃物等を体外に排出する腹膜透析が行われている。腹膜透析を自動で実施する腹膜透析装置は、患者の体内に直接注入される透析液を予め体温程度の所定の温度に加温して保温する加温部を有する。加温部が備えるヒータは、温度センサにより測定された透析液の温度情報に基づいて出力が調整され、透析液が所定の温度に加温されて保温される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4951887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所定の温度に加温された透析液は、患者に注液されるにつれて加温部における液量が減少する。そのため、透析液の温度情報に基づいてヒータの出力を調整すると、加温部における透析液の温度が上昇し過ぎてしまうことがあった。透析液の温度が所定の温度を超えて上昇した場合、患者への注液動作を停止して透析液が所定の温度範囲になるまで待機する必要があり、治療時間が延長してしまう。
【0005】
従って、本発明は、加温部における透析液の液量が減少しても、安定して所定の目標温度まで透析液を加温できる腹膜透析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、透析液を移送する送液部と、透析液を加温するヒータを有する加温部と、前記加温部における透析液の温度を測定する温度測定部と、前記加温部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記加温部における透析液の液量を監視する液量監視部と、前記加温部における透析液の液量に応じて前記ヒータの出力割合を調整する第1の出力調整部と、前記温度測定部により測定された透析液の測定温度が所定の目標温度よりも低い場合に前記ヒータを駆動させる加温制御部と、を備え、前記加温制御部は、前記第1の出力調整部による出力割合で前記ヒータの出力を制御する腹膜透析装置に関する。
【0007】
また、前記第1の出力調整部は、前記加温部における透析液の液量が所定の液量以上である場合に、前記ヒータの出力割合を1とし、前記加温部における透析液の液量が前記所定の液量未満である場合に、前記加温部における透析液の液量の減少に応じて、前記ヒータの出力割合を1から減少させることが好ましい。
【0008】
また、前記第1の出力調整部は、前記液量監視部において監視される透析液の液量が増加している場合、該透析液の液量にかかわらず前記ヒータの出力割合を1とすることが好ましい。
【0009】
また、前記制御部は、前記測定温度と前記所定の目標温度との温度差に応じて、前記ヒータの出力割合を調整する第2の出力調整部を更に備え、前記加温制御部は、前記第1の出力調整部による出力割合と前記第2の出力調整部による出力割合とを乗じた割合で前記ヒータの出力を制御することが好ましい。
【0010】
また、前記第2の出力調整部は、前記温度差が所定の値を超える場合に、前記ヒータの出力割合を1とし、前記温度差が前記所定の値以下である場合に、前記温度差の減少に応じて、前記ヒータの出力割合を1から減少させることが好ましい。
【0011】
また、前記第1の出力調整部は、前記温度差が所定の値を超える場合に前記加温部における透析液の液量にかかわらず前記ヒータの出力割合を1とすることが好ましい。
【0012】
また、前記液量監視部は、前記送液部の送液量に基づいて前記加温部における透析液の液量を算出することが好ましい。
【0013】
また、前記送液部は、ダイヤフラムを有し液体が出入り可能な送液用開口部が形成されたポンプ室と、一端が前記送液用開口部に接続され、他端が分岐してそれぞれ液体供給元及び液体供給先に接続されるチューブと、を備える送液・排液カセットと、前記ダイヤフラムを一定のストローク幅で往復駆動する駆動手段と、前記チューブのうち分岐した他端側の流路をそれぞれ開閉する流路開閉機構と、を備え、前記送液部の送液量は、前記ポンプ室の容量に前記駆動手段の駆動回数を乗じることにより算出されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の腹膜透析装置によれば、加温部における透析液の液量に応じて加温部の出力割合を調整することにより、安定して透析液を加温することができるので、注液動作の中断の発生を抑制でき、治療時間の延長を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る腹膜透析装置の外観図である。
図2】本発明の一実施形態に係る腹膜透析装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の腹膜透析装置の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、本実施形態の腹膜透析装置1の構成について、図1及び図2を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る腹膜透析装置1は、腎不全患者に対して実施する腹膜透析を実施する場合に用いられる。腹膜透析装置1は、患者の腹腔内に対して透析液を注入し、透析液を腹腔内に一定時間貯留した後に体内の老廃物が混じった透析液を排出する。患者は、この腹膜透析装置1を用いて、上記注液、貯留及び排液で構成されるサイクルを1日に複数回繰り返す。
【0018】
腹膜透析装置1は、図1及び図2に示すように、装置本体180と、この装置本体180に取り付けられる一定量の透析液を吸引及び送出する送液・排液カセット10と、送液・排液カセット10を動作させる駆動手段110と、送液・排液カセット10の流路を開閉する流路開閉機構120と、透析液バッグを加温する加温部130と、温度測定部140と、操作部150と、制御部160と、データ格納部170と、を備える。送液・排液カセット10、駆動手段110及び流路開閉機構120は、送液部100を構成する。
【0019】
装置本体180は、図1に示すように、腹膜透析装置1の外形を構成し、カセット装着部182と、カセット蓋部183と、を備える。
【0020】
送液・排液カセット10は、カセット装着部182に着脱可能に構成される。送液・排液カセット10は、チャンバ11と、チューブ13と、を備える。カセット蓋部183は、カセット装着部182に対して開閉可能に取り付けられ、カセット装着部182に装着された送液・排液カセット10を覆う。
【0021】
チャンバ11は、光透過性を有する硬質の合成樹脂(例えば、硬質のポリ塩化ビニル)により構成され、所定の容量(例えば、50mL)に形成される。チャンバ11は、同形の球面の一部である第1半円球状部材14A及び第2半円球状部材14Bが貼り合わされて所定の容量に形成される。
【0022】
ダイヤフラム12は、弾性を有する膜部材であり、例えば、シリコーン、塩化ビニール樹脂、天然ゴム、熱可塑性エラストマー等の合成樹脂材料で形成され、0.2~0.5mm程度の厚さを有する。チャンバ11の内部は、ダイヤフラム12によりポンプ室11Aと圧力室11Bとに区画される。
【0023】
ポンプ室11Aを構成する第1半円球状部材14Aの球面の中央には、移送対象の液体が出入り可能な送液用開口部14aが形成され、圧力室11Bを構成する第2半円球状部材14Bの球面の中央には、後述の駆動手段110からの作動流体が出入り可能な印加用開口部14bが形成される。
【0024】
チューブ13は、非分岐部15と分岐部16とを有し、非分岐部15側の端部(一端)がポンプ室11Aの送液用開口部14aに接続される。そして、非分岐部15の他端が分岐して分岐部16となり、それぞれ液体供給元及び液体供給先に接続される。チューブ13は、可撓性及び光透過性を有する合成樹脂(例えば、軟質のポリ塩化ビニル)により構成される。チューブの非分岐部15と分岐部16とは一体的に形成されていてもよいし、接続部材を介して複数本のチューブをつなげて構成してもよい。
チューブ13は、チューブの非分岐部15と、チューブの分岐部16を構成する複数本のチューブ16a、16b、16c、16d、16eとが接続されて構成される。
【0025】
チューブ16a~16eは、透析液供給源(後述の加温用透析液バッグ190a、補充用透析液バッグ190b、濃度変更用透析液バッグ190c)、透析液送出先(患者Pの腹腔内、排液バッグ190e)、及び透析液送出元(患者Pの腹腔内)にそれぞれ接続される。
【0026】
チューブ16aは、加温部130に載置された加温用透析液バッグ190aに接続される。チューブ16bは、補充用透析液バッグ190b(本実施形態では、3つの補充用透析液バッグ190b)に接続される。チューブ16cは、補充用透析液バッグ190bに収容された透析液とは異なる濃度の透析液が収容された濃度変更用透析液バッグ190cに接続される。チューブ16dは、患者Pの腹腔内に接続され、患者Pの腹腔内に透析液を注入及び患者Pの腹腔内に注入された透析液(透析排液)を排出する。チューブ16eは、排液を収容する排液バッグ190eに接続される。
尚、それぞれのチューブは、直接又は接続部材を介してバッグ等に接続される。
【0027】
駆動手段110は、圧力室11Bに流体を出し入れして圧力を印加するポンプ111と、ポンプ111を駆動させる駆動源としてのドライバ112と、を備え、ダイヤフラム12を一定のストローク幅で往復駆動させる。
【0028】
ポンプ111は、圧力室11Bに交互に陽圧と陰圧とを印加可能な構成であればどのようなものでもよく、本実施形態においては、シリンダ111aとピストン111bで構成されるポンプ111を用いた。ポンプ111は、ドライバ112によるピストン駆動によってエアチューブ114及び印加用開口部14bを介して圧力室11Bに陽圧又は陰圧を加え、ダイヤフラム12を駆動する。
【0029】
シリンダ111aと圧力室11Bとの間を繋ぐエアチューブ114には、その中ほどから分岐した部分にバルブ115及び圧力センサ116が設けられている。バルブ115は、圧力室11Bに過度の圧力が印可されないよう圧力センサ116からのフィードバックを受け駆動される。バルブ115としては、例えば、公知のダイヤフラム式電磁バルブ等が用いられ、圧力センサ116としては、例えば、圧電素子あるいはピエゾ抵抗効果を用いた半導体圧力センサ等が用いられる。
【0030】
流路開閉機構120は、5本のチューブ16a~16eの各々に対して配置されるクランプ部121と、これらクランプ部121を駆動する駆動源(不図示)と、を備える。クランプ部121は、チューブ13のうち分岐した他端側(分岐部16側)に設けられ、分岐した流路をそれぞれ開閉し、ポンプ室11Aと液体供給元及び液体供給先との連通状態を変更する。
【0031】
加温部130は、装置本体180の上面部に設けられる。加温部130は、透析液が収容された加温用透析液バッグ190aが載置される載置部131と、加温用透析液バッグ190aを加温するヒータ132と、を備える。ヒータ132は、例えば、セラミックヒータ等の電熱体で構成され、その駆動の出力割合は、ON/OFF制御方式やインバータ制御方式等により制御される。加温部130は、ヒータ132により、載置部131に載置された加温用透析液バッグ190a内の透析液を所定の温度にバッグ越しに加温する。
【0032】
温度測定部140は、載置部131に配置され(図1参照)、加温用透析液バッグ190a内の透析液の温度をバッグ越しに測定する。
【0033】
操作部150は、液晶パネル及び各種操作ボタンを含んで構成される。液晶パネルには、透析液の送液量等の各種情報が表示される。
【0034】
制御部160は、データ格納部170に格納されたデータや、操作部150からの入力データに基づいて、駆動手段110及び流路開閉機構120の駆動を制御する。
制御部160は、液量監視部161と、第1の出力調整部162と、第2の出力調整部163と、加温制御部164と、を備え、加温部130のヒータ132の駆動及び出力調整を行う。液量監視部161、第1の出力調整部162、第2の出力調整部163及び加温制御部164による加温部130の制御方法については、後に詳しく説明する。
【0035】
次に、以上の腹膜透析装置1の動作の一例につき説明する。
腹膜透析装置1は、まず、補充用透析液バッグ190bから加温用透析液バッグ190aに所定量の透析液の送液を行い、透析液を所定の温度に加温する(加温工程)。その後、適温に加温された加温用透析液バッグ190a内の透析液を患者Pの腹腔内に注液する(注液工程)。患者Pの腹腔内で透析液が一定時間貯留された後、透析液を排液する(排液工程)。また、患者Pの腹腔内に透析液を注入した後、透析液を患者Pの腹腔内に貯留している間に次の注液工程に備えて、加温工程を行う。
【0036】
(加温工程)
補充用透析液バッグ190bから加温用透析液バッグ190aへの送液を行う方法について説明する。腹膜透析装置1は、流路開閉機構120により所定の1本のチューブ(例えば、チューブ16b)の流路を開放し、他のチューブの流路を閉止した状態で、ポンプ111によりチャンバ11の圧力室11Bの空気を吸引し、流路が開放されているチューブからチャンバ11のポンプ室11Aに透析液(この場合、補充用透析液バッグ190bに収容された透析液)を吸引する。次いで、流路開閉機構120を操作して流路を開放するチューブを変更する(例えば、チューブ16aの流路を開放し、他のチューブの流路を閉止する)。この状態において、チャンバ11の圧力室11Bに空気を導入することで、チャンバ11のポンプ室11Aに吸引された透析液を送出(この場合、加温用透析液バッグ190aに透析液を送出)する。これにより、一定量(チャンバ11の容積)の透析液が吸引及び送出される。これを繰り返し行うことで、加温用透析液バッグ190aの収容可能量(例えば、2L~3L)の透析液を、補充用透析液バッグ190bから加温用透析液バッグ190aに送液する。収容可能量の透析液が送液された後又は透析液の送液中に、加温部130により透析液の加温が行われる。
【0037】
(注液工程)
患者Pに対して透析液を注液する方法について説明する。腹膜透析装置1は、流路開閉機構120により所定の1本のチューブ(例えば、チューブ16a)の流路を開放し、他のチューブの流路を閉止する。この状態で、ポンプ111によりチャンバ11の圧力室11Bの空気を吸引することで、流路が開放されているチューブからチャンバ11のポンプ室11Aに透析液(この場合、加温用透析液バッグ190aに収容された透析液)を吸引する。次いで、流路開閉機構120を操作して流路を開放するチューブを変更する(例えば、チューブ16dの流路を開放し、他のチューブの流路を閉止する)。この状態において、チャンバ11の圧力室11Bに空気を導入することで、チャンバ11のポンプ室11Aに吸引された透析液を送出(この場合、患者Pの腹腔内に透析液を送出)する。これにより、一定量(チャンバ11の容積)の透析液が吸引及び送出される。
【0038】
(排液工程)
患者Pの腹腔内で一定時間貯留された透析液の排液を行う方法について説明する。腹膜透析装置1は、流路開閉機構120により所定の1本のチューブ(例えば、チューブ16d)の流路を開放し、他のチューブの流路を閉止する。この状態で、ポンプ111によりチャンバ11の圧力室11Bの空気を吸引することで、流路が開放されているチューブからチャンバ11のポンプ室11Aに透析液(この場合、患者Pの腹腔内の透析液)を吸引する。次いで、流路開閉機構120を操作して流路を開放するチューブを変更する(例えば、チューブ16eの流路を開放し、他のチューブの流路を閉止する)。この状態において、チャンバ11の圧力室11Bに空気を導入することで、チャンバ11のポンプ室11Aに吸引された透析液を送出(この場合、排液バッグ190eに透析液を排出)する。これにより、一定量(チャンバ11の容積)の透析液が吸引及び送出される。
【0039】
以上のように、流路開閉機構120により流路を開放するチューブを変更しながら上記操作を繰り返すことで、加温工程により加温された透析液を患者Pの腹腔内へ注入する注液工程、患者Pの腹腔内からの透析液の回収及び回収した透析液を排液バッグ190eへ排出する排液工程、が行われる。
【0040】
次に、加温部130の制御方法について詳細に説明する。制御部160は、加温工程、注液工程において、加温用透析液バッグ190aに貯留された透析液を所定の温度に加温して、所定の温度範囲内となるよう加温部130を制御する。本実施形態では、加温部130における透析液の温度を好適に制御するための構成として、制御部160は、液量監視部161と、第1の出力調整部162と、第2の出力調整部163と、加温制御部164と、を備える。
【0041】
液量監視部161は、加温部130における透析液の液量(加温用透析液バッグ190a内の液量)を測定又は算出により監視する。
本実施形態では、液量監視部161は、送液部100の送液量に基づいて加温部130における透析液の液量を算出する。具体的には、液量監視部161は、ポンプ室11Aの容量に駆動手段110の駆動回数を乗じることにより加温部130における透析液の液量を算出する。尚、加温部130における透析液の液量は、加温部130に重量計を設けて測定してもよい。
【0042】
第1の出力調整部162は、液量監視部161により求められた加温部130における透析液の液量に基づいて、ヒータ132の駆動の出力割合を調整する。本実施形態では、第1の出力調整部162は、加温部130における透析液の液量が所定の液量以上である場合に、ヒータ132の出力割合を1とし、加温部130における透析液の液量が所定の液量未満である場合に、加温部130における透析液の液量の減少に応じて、ヒータ132の出力割合を1から減少させる。
また、第1の出力調整部162は、加温部130における透析液の測定温度と予め設定された目標温度との温度差が所定の値を超える場合には、加温部130における透析液の液量にかかわらずヒータ132の出力割合を1とする。
また、第1の出力調整部162は、液量監視部161において監視される透析液の液量が増加している場合、透析液の液量にかかわらずヒータ132の出力割合を1とする。
【0043】
第2の出力調整部163は、加温部130における透析液の測定温度と目標温度との温度差に基づいて、ヒータ132の駆動の出力割合を調整する。本実施形態では、第2の出力調整部163は、加温部130における透析液の測定温度と予め設定された目標温度との温度差が所定の値を超える場合に、ヒータ132の出力割合を1とし、温度差が所定の値以下である場合に、温度差の減少に応じて、ヒータ132の出力割合を1から減少させる。
【0044】
加温制御部164は、温度測定部140により測定された透析液の測定温度に基づいてヒータ132を制御する。具体的には、加温制御部164は、温度測定部140により測定された透析液の測定温度が予め設定された目標温度より低い場合に、ヒータ132を駆動させる。ヒータ132の駆動の出力割合は、第1の出力調整部162及び第2の出力調整部163により調整される。より詳細には、ヒータ132の駆動の出力割合は、第1の出力調整部162による出力割合と第2の出力調整部163による出力割合とを乗じた割合に調整される。
【0045】
まず、加温工程における加温部130の制御について説明する。
加温工程において、加温制御部164は、加温用透析液バッグ190aへ所定量(収容可能量、本実施形態では、一例として3L)の透析液の送液が完了された後、又は加温用透析液バッグ190aへの透析液の送液中に、透析液の測定温度が目標温度よりも低い状態で加温部130のヒータ132を駆動する。
【0046】
加温用透析液バッグ190aへ所定量(収容可能量、本実施形態では、一例として3L)の透析液の送液が完了された後に加温制御部164による制御が開始される場合、加温部130における透析液の液量は所定の液量以上となっており、第1の出力調整部162によるヒータ132の出力割合は1とされる。そのため、この場合のヒータ132の出力割合は、第2の出力調整部163により決定される。
【0047】
第2の出力調整部163は、一例として、目標温度(体温付近の温度、例えば37℃)と、温度測定部140により測定された透析液の測定温度との温度差に応じて、ヒータ132の出力割合を調整する。本実施形態では、一例として、測定温度と目標温度との温度差が所定の値(例えば、1.5℃)を超える場合(透析液の温度が低い場合)に、出力割合を1とし、温度差が所定の範囲内(例えば、0.5℃以上1.5℃以下)の場合に、出力割合を1/3とし、温度差が所定の値(例えば、0.5℃)未満である場合に、出力割合を0とする。また、本実施形態では、ヒータ132の駆動のON/OFFを繰り返すON/OFF制御方式を用い、一例として、ヒータ132の駆動をONとする時間を1秒とし、OFFとする時間を2秒として、これを繰り返して出力割合を1/3とする。
【0048】
次に、注液工程における加温部130の制御について説明する。
注液工程において制御部160は、流路開閉機構120及びポンプ111を制御して、患者Pの腹腔内に適温に加温された透析液を注液するよう制御する。
【0049】
加温制御部164は、加温工程と同様に注液工程においても第2の出力調整部163によりヒータ132の出力調整を行うが、注液工程が進むにつれて、加温部130における透析液の液量は減少していく。そのため、温度差に基づいた第2の出力調整部163による調整だけでは、液量に対してヒータ132の出力が大きすぎることにより、加温部130における透析液の温度が所定の目標温度を超えて上昇し過ぎてしまうおそれがある。
【0050】
そこで、本実施形態では、第1の出力調整部162において、加温部130における透析液の液量に応じて、ヒータ132の出力割合を調整させる。
具体的には、第1の出力調整部162は、加温部130における透析液の液量が所定の液量(例えば、加温用透析液バッグ190aの収容可能量が3Lに対して、2L)以上である場合に、ヒータ132の出力割合を1とし、所定の液量(2L)未満である場合に、透析液の液量の減少に応じて、ヒータ132の出力割合を1から減少させてヒータ132の出力割合を調整する。これにより、加温部130における透析液の液量が少なくなった場合にヒータ132の出力割合を減少させられるので、透析液が所定の温度を超えて加温されることを低減でき、安定して所定の目標温度まで透析液を加温できる。
【0051】
また、加温工程や注液工程の途中において、何らかの理由で加温部130による加温が中断されて、加温部130における透析液の測定温度と所定の目標温度との温度差が前述の所定の値(例えば、1.5℃)を超えるような場合、第1の出力調整部162は、加温部130における透析液の液量にかかわらず、ヒータ132の出力割合を1とする。これにより、第2の出力調整部163による出力割合が1となる条件であるときに、第1の出力調整部162による出力割合も1とすることで、速やかに透析液を所定の温度に加温することができる。
【0052】
尚、加温用透析液バッグ190aへの透析液の送液中に加温制御部164による制御を開始する場合、液量監視部161において監視される透析液の液量は時間の経過と共に増加していく。この場合、第1の出力調整部162は、透析液の液量にかかわらずヒータ132の出力割合を1とする。これにより、加温工程において加温用透析液バッグ190aに透析液を送液している状態において、透析液を速やかに適温まで加温することができる。よって、加温工程における加温に係る時間を短縮できるので注液工程までの待機時間を短縮でき、治療時間を短縮することができる。
【0053】
以上説明した本実施形態の腹膜透析装置1及びその制御方法によれば、以下のような作用効果を奏する。
【0054】
(1)腹膜透析装置1を、送液部100と、ヒータ132を有する加温部130と、加温部における透析液の温度を測定する温度測定部140と、加温部130を制御する制御部160と、を含んで構成し、制御部160を、加温部130における透析液の液量を監視する液量監視部161と、加温部130における透析液の液量に応じてヒータ132の出力割合を調整する第1の出力調整部162と、温度測定部140により測定された透析液の測定温度が所定の目標温度よりも低い場合にヒータ132を駆動させる加温制御部164と、を含んで構成した。そして加温制御部164に、第1の出力調整部162による出力割合でヒータ132の出力を制御させた。これにより、透析液の液量に応じてヒータ132の出力を調整できるので、安定して透析液を加温することができる。よって、加温部130における透析液の液量が減少して行く注液工程において、透析液の温度の上昇のし過ぎによる注液動作の中断の発生を低減でき、治療時間の延長を抑制できる。
【0055】
(2)第1の出力調整部162を、加温部130における透析液の液量が所定の液量以上である場合に、ヒータ132の出力割合を1とし、所定の液量未満である場合に、加温部130における透析液の液量の減少に応じて、ヒータ132の出力割合を1から減少させた。これにより、液量が所定の液量以上に多い場合では、ヒータ132の出力を最大にして速やかに透析液を加温し、また、適切な出力調整で保温すると共に、液量が所定の液量未満に減った場合にも、液量に応じてヒータ132の出力を減少させることにより、温度が上昇し過ぎることを抑制し、安定して透析液を加温することができる。よって、加温工程にかかる時間を短縮し、注液工程においては、適切に透析液の保温を行うことができるので、治療時間の延長を抑制できる。
【0056】
(3)第1の出力調整部162に、液量監視部161において監視される透析液の液量が増加している場合、透析液の液量にかかわらずヒータ132の出力割合を1とさせた。これにより、加温工程において加温用透析液バッグ190aに透析液を送液している状態において、透析液を速やかに適温まで加温することができる。よって、加温工程における加温に係る時間を短縮できるので注液工程までの待機時間を短縮でき、治療時間を短縮することができる。
【0057】
(4)制御部160を、測定温度と所定の目標温度との温度差に応じて、ヒータ132の出力割合を調整する第2の出力調整部163を含んで構成し、加温制御部164に、第1の出力調整部162による出力割合と第2の出力調整部163による出力割合とを乗じた割合でヒータ132の出力を制御させた。これにより、透析液の測定温度及び透析液の液量の両方に基づいてヒータ132の出力割合を調整するので、更に安定して透析液を所定の目標温度まで加温することができる。
【0058】
(5)第2の出力調整部163に、温度差が所定の値を超える場合に、ヒータ132の出力割合を1とし、温度差が所定の値以下である場合に、温度差の減少に応じて、ヒータ132の出力割合を1から減少させた。これにより、加温部130における透析液の測定温度と所定の目標温度との温度差に応じて多段階にヒータ132の出力割合を調整できるので、更に安定して透析液を所定の目標温度まで加温することができる。
【0059】
(6)第1の出力調整部162に、温度差が所定の値を超える場合に加温部130における透析液の液量にかかわらずヒータ132の出力割合を1とさせた。これにより、第2の出力調整部163による出力割合が1となる条件の場合に、第1の出力調整部162による出力割合も1とすることで、速やかに透析液を所定の温度に加温することができる。
【0060】
(7)液量監視部161に、送液部100の送液量に基づいて加温部130における透析液の液量を算出させた。これにより、加温部130に重量計等を別途設けることなく、加温部130における透析液の液量を算出することができる。
【0061】
(8)送液部1を、ダイヤフラム12を有し液体が出入り可能な送液用開口部14aが形成されたポンプ室11Aと、一端が送液用開口部14aに接続され、他端が分岐してそれぞれ液体供給元及び液体供給先に接続されるチューブ13と、を備える送液・排液カセット10と、ダイヤフラム12を一定のストローク幅で往復駆動するための駆動手段110と、チューブ13のうち分岐した他端側の流路をそれぞれ開閉する流路開閉機構120と、を含んで構成し、送液部100の送液量を、ポンプ室11Aの容量に駆動手段110の駆動回数を乗じることにより算出した。これにより、送液部100による送液量を簡単に算出することができる。よって、液量監視部161は、加温部130における透析液の液量を簡単に算出することができる。
【0062】
以上、本発明の腹膜透析装置1の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
例えば、上述の実施形態では、第2の出力調整部163で、所定の目標温度と透析液の測定温度との温度差に応じて、出力割合を3段階(1、1/3、0)で調整するものとしたがこれに限らない。例えば、温度差に応じて更に細かく多段階で出力割合を調整してもよいし、ON/OFF(1、0)のみで調整してもよい。
【0063】
また、本実施形態では、第2の出力調整部163によりヒータ132の出力調整を多段階に行う場合を一例として示したが、第2の出力調整部163において、加温部130における透析液の温度が所定の目標温度よりも小さい場合はヒータ132の出力をONとし、所定の目標温度以上の場合は、ヒータ132の出力をOFFとするように制御してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 腹膜透析装置
10 送液・排液カセット
100 送液部
110 駆動手段
120 流路開閉機構
130 加温部
132 ヒータ
140 温度測定部
150 操作部
160 制御部
161 液量監視部
162 第1の出力調整部
163 第2の出力調整部
164 加温制御部
170 データ格納部
180 装置本体
図1
図2