IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特開2023-81127パウチ形電池の内部短絡安全性評価方法、パウチ形電池、電池パック及びパウチ形電池の製造方法
<>
  • 特開-パウチ形電池の内部短絡安全性評価方法、パウチ形電池、電池パック及びパウチ形電池の製造方法 図1
  • 特開-パウチ形電池の内部短絡安全性評価方法、パウチ形電池、電池パック及びパウチ形電池の製造方法 図2
  • 特開-パウチ形電池の内部短絡安全性評価方法、パウチ形電池、電池パック及びパウチ形電池の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081127
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】パウチ形電池の内部短絡安全性評価方法、パウチ形電池、電池パック及びパウチ形電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20230602BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20230602BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20230602BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20230602BHJP
   H01M 50/202 20210101ALI20230602BHJP
   H01M 50/211 20210101ALI20230602BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M10/04 W
H01M10/0585
H01M10/0587
H01M50/105
H01M50/202 501P
H01M50/211
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194844
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 悠
(72)【発明者】
【氏名】杉原 裕理
(72)【発明者】
【氏名】房 楠
【テーマコード(参考)】
5H011
5H028
5H029
5H040
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011AA13
5H011BB04
5H011BB05
5H011CC02
5H011CC06
5H011CC10
5H028AA05
5H028BB04
5H028BB07
5H028BB12
5H028CC02
5H028CC12
5H028HH00
5H028HH01
5H028HH05
5H029AJ12
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ04
5H029BJ14
5H029CJ03
5H029CJ07
5H029DJ01
5H029DJ02
5H029EJ01
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ07
5H029HJ12
5H040AA03
5H040AA18
5H040AS01
5H040AS07
5H040AS11
5H040AT04
5H040AY08
(57)【要約】
【課題】作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させ、電池の安全性をより正確に評価することを可能にするパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法を提供する。
【解決手段】本開示の評価方法は、パウチ形電池の内部短絡時の安全性を評価するための方法である。前記パウチ形電池は、電極群と、金属小片と、外装体と、を備える。前記金属小片は、前記正極、前記負極及び前記セパレータの積層方向に沿った前記金属小片の高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように、前記電極群の外周面と前記外装体との間に配置されている。本開示の評価方法は、加圧治具を用いて、前記外装体を介して、前記金属小片を前記積層方向に加圧して、前記セパレータを局所的に押圧することによって内部短絡を発生させる工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウチ形電池の内部短絡時の安全性を評価するための方法であって、
前記パウチ形電池は、
正極、負極、並びに前記正極及び前記負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなる電極群と、
金属小片と、
前記電極群、及び前記金属小片を内包する外装体と、
を備え、
前記金属小片は、前記正極、前記負極及び前記セパレータの積層方向に沿った前記金属小片の高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように、前記電極群の外周面と前記外装体との間に配置されており、
加圧治具を用いて、前記外装体を介して、前記金属小片を前記積層方向に加圧して、前記セパレータを局所的に押圧することによって内部短絡を発生させる工程を含む、パウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
【請求項2】
前記加圧治具が、前記内部短絡を発生させる工程において、前記外装体と接触する樹脂板を有し、
前記樹脂板と前記外装体との接触面積が、前記金属小片と前記外装体との接触面積よりも大きい、請求項1に記載のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
【請求項3】
前記加圧治具が、前記内部短絡を発生させる工程において、前記外装体と接触する樹脂板を有し、
前記樹脂板を構成する樹脂の硬度は、50以上である、請求項1又は請求項2に記載のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
【請求項4】
前記金属小片が、針金の加工物であり、
前記針金の太さに対する前記高さの比が、8以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
【請求項5】
前記金属小片の前記積層方向から見た形状が、L字状である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
【請求項6】
電極群と、金属小片と、前記電極群及び前記金属小片を内包する外装体と、を備え、
前記電極群は、正極、負極、並びに前記正極及び前記負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなり、
前記金属小片は、前記電極群の外周面と前記外装体との間に、前記正極、前記負極及び前記セパレータの積層方向に沿った前記金属小片の高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように配置されている、パウチ形電池。
【請求項7】
少なくとも1つの請求項6に記載のパウチ形電池と、
前記少なくとも1つのパウチ形電池を収容するケースと
を備える、電池パック。
【請求項8】
正極、負極、並びに前記正極及び前記負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなる電極群を準備する工程と、
0.3mm以上1.5mm以下の直線部を有する金属小片を準備する工程と、
前記直線部の延在方向が前記正極、前記負極及び前記セパレータの積層方向に沿った方向となるように、前記電極群の外周面上に前記金属小片を配置し、前記金属小片の配置状態を維持して外装体の内部に前記電極群及び前記金属小片を収容する工程と、
を含む、パウチ形電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パウチ形電池の内部短絡安全性評価方法、パウチ形電池、電池パック及びパウチ形電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池(以下、単に「電池」という場合がある。)は、電子機器、電気自動車、又は電気貯蔵用の電源として広く使用されている。特に最近では、ハイブリッド自動車等に搭載可能な、高容量で高出力かつエネルギー密度の高い電池が求められている。このような電池は、エネルギー密度が高いという利点がある。一方で、リチウム金属及びリチウムイオンを使用することから、安全性に対する十分な対応策が必要となる。
【0003】
電池の内部短絡時の発熱挙動を評価する方法として、釘刺し試験、異物導入試験(例えば、特許文献1)が知られている。
【0004】
釘刺し試験では、電池に対して、金属釘を突き刺す。金属釘が充電後の電池に突き刺ささると、電池内部の正極、負極及び金属釘間で短絡が発生し、発熱する。釘刺し試験では、このような現象に基づく電池温度又は電池電圧等の変化を観察することで、電池の安全性は評価される。
【0005】
特許文献1は、電池内部の任意の場所で短絡試験を行い、電池の内部短絡安全性を総合的に評価するための評価方法を開示している。
特許文献1に開示の電池は、電極群と、電解質と、外装体と、集電端子とを含む。電極群は、正極と、負極と、正負極を電気的に絶縁する絶縁層とを捲回、又は積層してなる。外装体は、電極群及び電解質を内包する。集電端子は、電極群と外装体とを電気的に接続する。
特許文献1に開示の評価方法は、電池の電極群内部の正極と負極が対向する箇所に異物を混入させ、加圧子による加圧力で混入部をプレスし、正負極間に介在する絶縁層を局所的に破壊することによって内部短絡を発生させる。更に、特許文献1に開示の評価方法では、プレスの際の電極群と加圧子との接触面積が異物の外接四角形面積よりも大きい。
特許文献1では、異物として金属小片が具体的に用いられている。金属小片は、Ni製金属線をC字状又はL字状に成形されてなる。金属小片は、電極面に対して垂直な方向の金属小片の長さ(以下、「配置後高さ」という。)が0.2mmとなるように、配置される。
具体的に、特許文献1では、電池について内部短絡の発生後の電極群の表面温度が170℃以上に到達するような発熱の発生を、異常発熱の発生と評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-270090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、釘刺し試験で発生させる内部短絡は、現実的に発生し得る内部短絡と大きく異なる。
電池の製造時において、金属釘の直径(例えば、3mm以上)よりもサイズが小さい金属異物が電池の内部に混入した場合、金属異物のサイズ、形状及び硬さ等によっては、微小な領域で内部短絡(以下、「微小内部短絡」という。)が発生するおそれがある。電池の正極及び負極の各々の厚さは、通常、数百μmである。この際、金属異物が貫通する短絡層数(すなわち、正極及び負極の間に配置されたセパレータを貫通した数)は、1層~2層程度で、セパレータに形成される貫通孔のサイズは、比較的小さいと考えられる。
これに対し、釘刺し試験の一例としては、電池に対して、直径3mm以上の金属釘を突き刺して、貫通させる方法がある。そのため、微小内部短絡の場合に対して、短絡層数は多く(例えば、正極が5層、負極が6層からなる電池の短絡層数は10層程度)、セパレータに形成される貫通孔のサイズ(例えば、直径3mm以上)も比較的大きいと考えられる。
そのため、釘刺し試験における内部短絡の発生後の初期温度上昇速度(すなわち、内部短絡が発生した時点からの経過時間(例えば、5秒)に対する電池の表面温度の上昇温度)は、微小内部短絡の発生後の初期温度上昇速度よりも速い。これは、釘刺し試験で内部短絡が発生した場合、貫通孔のサイズが大きくなることと、金属釘と電極との接触により大面積の短絡を形成されることとが主な原因と考えられる。つまり、釘刺し試験は、微小内部短絡を模擬することができないおそれがある。
その結果、釘刺し試験では、微小内部短絡が生じた際の安全性を確保するための安全化技術(例えば、PTC(Positive Temperature Coefficient)機能層の付与技術等)として、電池の安全化技術の有効性(すなわち、電池の安全性)を正確に評価することができないおそれがある。
【0008】
一方、特許文献1に開示の評価方法で発生させる内部短絡(すなわち、微小内部短絡)は、釘刺し試験よりも現実的に発生し得る微小内部短絡に近い。
しかしながら、本発明者らは、特許文献1に開示の評価方法を行ったところ、微小内部短絡の発生後の電池において200℃以上の発熱を伴う熱暴走が観測されないことがわかった。そのため、特許文献1に開示の評価方法では、電池の安全化技術の有効性(すなわち、電池の安全性)を正確に評価することができないおそれがある。
更に、特許文献1に開示の評価方法では、充電した電池を解体して、正極と負極が対向する箇所に異物を混入し、再び電池を組み立てるため、作業性及び安全上の問題がある。
【0009】
本開示は、上記事情に鑑み、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させ、電池の安全性をより正確に評価することを可能にするパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法、パウチ形電池、電池パック及びパウチ形電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0011】
<1> パウチ形電池の内部短絡時の安全性を評価するための方法であって、
前記パウチ形電池は、
正極、負極、並びに前記正極及び前記負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなる電極群と、
金属小片と、
前記電極群、及び前記金属小片を内包する外装体と、
を備え、
前記金属小片は、前記正極、前記負極及び前記セパレータの積層方向に沿った前記金属小片の高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように、前記電極群の外周面と前記外装体との間に配置されており、
加圧治具を用いて、前記外装体を介して、前記金属小片を前記積層方向に加圧して、前記セパレータを局所的に押圧することによって内部短絡を発生させる工程を含む、パウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
<2> 前記加圧治具が、前記内部短絡を発生させる工程において、前記外装体と接触する樹脂板を有し、
前記樹脂板と前記外装体との接触面積が、前記金属小片と前記外装体との接触面積よりも大きい、前記<1>に記載のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
<3> 前記加圧治具が、前記内部短絡を発生させる工程において、前記外装体と接触する樹脂板を有し、
前記樹脂板を構成する樹脂の硬度は、50以上である、前記<1>又は<2>に記載のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
<4> 前記金属小片が、針金の加工物であり、
前記針金の太さに対する前記高さの比が、8以下である、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
<5> 前記金属小片の前記積層方向から見た形状が、L字状である、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法。
<6> 電極群と、金属小片と、前記電極群及び前記金属小片を内包する外装体と、を備え、
前記電極群は、正極、負極、並びに前記正極及び前記負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなり、
前記金属小片は、前記電極群の外周面と前記外装体との間に、前記正極、前記負極及び前記セパレータの積層方向に沿った前記金属小片の高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように配置されている、パウチ形電池。
<7> 少なくとも1つの前記<6>に記載のパウチ形電池と、
前記少なくとも1つのパウチ形電池を収容するケースと
を備える、電池パック。
<8> 正極、負極、並びに前記正極及び前記負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなる電極群を準備する工程と、
0.3mm以上1.5mm以下の直線部を有する金属小片を準備する工程と、
前記直線部の延在方向が前記正極、前記負極及び前記セパレータの積層方向に沿った方向となるように、前記電極群の外周面上に前記金属小片を配置し、前記金属小片の配置状態を維持して外装体の内部に前記電極群及び前記金属小片を収容する工程と、
を含む、パウチ形電池の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させ、電池の安全性をより正確に評価することを可能にするパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法、パウチ形電池、電池パック及びパウチ形電池の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示のある実施形態に係るL字状金属小片の一例を示す斜視図である。
図2】本開示のある実施形態に係るパウチ形リチウム二次電池(積層型)の断面図である。
図3】本開示の他の実施形態に係るパウチ形リチウム二次電池(捲回型)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
以下、図面を参照して、本開示のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法、パウチ形電池、電池パック及びパウチ形電池の製造方法の実施形態について説明する。また、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0016】
(1)パウチ形電池の内部短絡安全性評価方法
本開示のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法は、パウチ形電池の内部短絡時の安全性を評価するための方法である。前記パウチ形電池は、正極、負極、並びに前記正極及び前記負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなる電極群と、金属小片と、前記電極群及び前記金属小片を内包する外装体と、を備える。前記金属小片は、前記正極、前記負極及び前記セパレータの積層方向(以下、単に「積層方向」という。)に沿った前記金属小片の高さ(以下、「配置後高さ」という。)が0.3mm以上1.5mm以下となるように、前記電極群の外周面と前記外装体との間に配置されている。本開示の評価方法は、加圧治具を用いて、前記外装体を介して、前記金属小片を前記積層方向に加圧(プレス)して、前記セパレータを局所的に押圧することによって内部短絡を発生させる工程(以下、「強制内部短絡工程」という。)を含む。
【0017】
本開示において、「パウチ形電池」とは、電極群が柔軟性のある外装体で封止された構造の電池を示す。
本開示において、「電池」は、金属イオン二次電池を含む。本開示において、「金属イオン二次電池」とは、電解質を介して正極と負極との間で行われる金属イオンの挿入反応及び脱離反応(以下、まとめて「電池反応」という。)で電気的エネルギーを供給する充電式の二次電池を示す。
本開示において、「金属小片」とは、強制内部短絡工程において、パウチ形電池に内部短絡を発生させるための導電性を有する部品であって、電池反応に寄与しない金属製の部品である。
本開示において、「加圧治具」とは、パウチ形電池に内部短絡を発生させるために用いられる加圧装置に固定され、強制内部短絡工程において、パウチ形電池の外装体に接触して、押圧する部品を示す。
【0018】
以下、正極、負極、並びに正極及び負極を電気的に絶縁するセパレータが、長尺形状を有し、かつ、扁平状に捲回されてなる電極群を「捲回型電極群」という。
以下、金属イオンがリチウムイオンである金属イオン二次電池を「リチウム二次電池」という。
以下、電極群として捲回型電極群を備えるパウチ形電池を「パウチ形電池(捲回型)」といい、電極群として捲回型電極群を備えるパウチ形リチウム二次電池を「パウチ形リチウム二次電池(捲回型)」という。
以下、正極、負極、並びに正極及び負極を電気的に絶縁するセパレータが、枚葉形状を有し、かつ、積層されてなる電極群を「積層型電極群」という。
以下、電極群として積層型電極群を備えるパウチ形電池を「パウチ形電池(積層型)」といい、電極群として積層型電極群を備えるパウチ形リチウム二次電池を「パウチ形リチウム二次電池(積層型)」という。
【0019】
本開示のパウチ形電池の内部短絡安全性評価方法は、上記の構成を有するため、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させ、電池の安全性をより正確に評価することを可能にする。
この効果は、以下の理由によると推測されるが、これに限定されない。
本開示におけるパウチ形電池では、金属小片は、配置後高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように、電極群の外周面と外装体との間に配置されている。そして、強制内部短絡工程において、加圧治具を用いて、外装体を介して金属小片を積層方向にプレスし、セパレータを局所的に押圧することによってセパレータを破壊することで内部短絡を発生させる。これにより、金属小片は、積層方向において、電極群の内部に「配置後高さ」の長さ分が刺し込まれる。
特許文献1に開示の評価方法では、金属小片の配置後高さは0.2mmである。つまり、特許文献1に記載の評価方法で発生する短絡度合いは、本開示の評価方法で発生する短絡度合いよりも小さい。本開示の評価方法では、金属小片に起因して発生する内部短絡によって、パウチ形電池の表面温度は、特許文献1に記載の評価方法の電極群の表面温度(170℃)よりも高い温度(例えば300℃以上)になりやすい。本発明者らの検討によれば、パウチ形リチウム二次電池の表面温度が230℃に達すると、パウチ形リチウム二次電池は熱暴走しやすいことが実験的に明らかになっている。つまり、本開示の評価方法で発生する内部短絡によって、パウチ形電池の安全性を正確に評価することが可能になる。
釘刺し試験では、電池に対して、金属釘を貫通させる。つまり、本開示の評価方法で発生する短絡層数は、釘刺し試験で発生する短絡層数よりも少ない。そのため、パウチ形電池の初期温度上昇速度は釘刺し試験の初期温度上昇速度よりも遅い。換言すると、本開示の評価方法では、内部短絡が発生した直後において、セパレータが正極と負極との間に介在した状態が維持されやすい。つまり、本開示の評価方法による内部短絡は、現実的に発生し得る内部短絡に近い。本開示の評価方法は、釘刺し試験よりも現実的に発生し得る内部短絡に近い環境で、安全化技術の有効性を正確に評価することを可能にする。
更に、本開示の評価方法では、充電したパウチ形電池を解体して、正極と負極が対向する箇所に異物を混入する必要はない。その結果、本開示の評価方法は、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させることができる。
以上により、本開示の評価方法は、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させ、電池の安全性をより正確に評価することを可能にすると推測される。
【0020】
(1.1)パウチ形電池
本開示におけるパウチ形電池は、電極群と、金属小片と、外装体と、を備える。電極群は、正極、負極、並びに正極及び負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなる。外装体は、電極群及び金属小片を内包する。金属小片は、配置後高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように、電極群の外周面と外装体との間に配置されている。
【0021】
電池は、金属イオン二次電池(例えば、アルカリ金属イオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池等)であることが好ましく、安全性評価の観点から、アルカリ金属イオン二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池等)であることがより好ましく、リチウムイオン二次電池であることがさらに好ましい。
アルカリ金属イオン二次電池とは、金属イオンがアルカリ金属イオンである金属イオン二次電池を示す。マグネシウムイオン二次電池とは、金属イオンがマグネシウムイオンである金属イオン二次電池を示す。ナトリウムイオン二次電池とは、金属イオンがナトリウムイオンである金属イオン二次電池を示す。
【0022】
(1.1.1)金属小片
まず、図1を参照して、金属小片について説明する。電極群、及び外装体等のパウチ形電池の他の構成要素の詳細については、後述する。
【0023】
金属小片は、強制内部短絡工程において、パウチ形電池の内部短絡を発生させるために用いられる。
【0024】
金属小片の形状は、配置後高さが0.3mm以上1.5mm以下となる3次元形状を有することが好ましい。金属小片を特定の一方向(例えば、積層方向)から見た形状としては、例えば、L字状、V字状、U字状、C字状、S字状、Z字状、W字状、I字状、コ字状(rectangular U-shaped)、平板の一部に突起部を有する形状(以下、「突出形状」という。)等が挙げられる。突出形状としては、例えば、画鋲状、T字状等が挙げられる。なかでも、金属小片を特定の方向から見た形状は、加工性の観点から、L字状であることが好ましい。
【0025】
金属小片のサイズは、配置後高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように電極群の外周面と外装体との間に配置することができるサイズであれば特に限定されず、安全化技術の種類及び金属小片の形状等に応じて適宜選択される。
【0026】
金属小片の材質としては、金属であればよく、例えば、ニッケル、アルミニウム、銅、銀、チタン、ステンレス鋼(SUS)、鉄、これらの合金等が挙げられる。なかでも、金属小片の材質は、電池内部に発生しうる金属異物を模擬する観点から、ニッケルであることが好ましい。
【0027】
金属小片は、針金の加工物であることが好ましい。金属小片は、針金を折り曲げ加工した折り曲げ加工物であってもよい。
【0028】
針金の断面形状は、特に限定されず、例えば、円形状、楕円、多角形状(例えば、三角形、四角形、五角形等)等が挙げられる。なかでも、針金の断面形状は、セパレータを安定して破壊する観点から、四角形状であることが好ましい。
【0029】
針金の太さは、特に限定されず、針金の材質等に応じて適宜選択される。
針金の太さは、加工性の観点から、好ましくは0.05mm~1mm、より好ましくは0.1mm~0.5mmである。
【0030】
本開示において、「針金の太さ」とは、針金の断面形状が円形状である場合は針金の断面の直径を示し、針金の断面形状が楕円の場合は短径を示す。また、針金の断面形状が多角形状である場合は針金の断面形状の外周を構成する複数の辺のうち、1辺の長さが最も短い辺の長さを示す。例えば、針金の断面形状が四角形状である場合、針金の太さは、針金の断面形状の外周を構成する4つの辺のうち、1辺の長さが最も短い辺の長さを示す。
【0031】
金属小片は、針金の太さに対する配置後高さの比(配置後高さ/針金の太さ;以下、「アスペクト比」という。)が8以下である小片が好ましい。
【0032】
金属小片は、針金の加工物であり、かつアスペクト比が上記範囲内であることが好ましい。この場合、金属小片をパウチ形電池内部に固定するための圧力(例えば、外装体のテンションに起因する圧力)が金属小片に掛かっても、金属小片自体は変形しにくい。つまり、金属小片は、外装体からの圧力で固定されつつ、外装体に内包される前の形状を維持しやすい。更に、パウチ形電池の外部からの圧力が金属小片にかかっても、金属小片は変形しにくい。これにより、本開示のパウチ形電池は取扱性に優れ、かつ製造されやすい。
【0033】
金属小片のアスペクト比は、特に限定されず、金属小片の材質、安全化技術の種類等に応じて適宜選択される。
金属小片のアスペクト比は、耐変形性の観点から、好ましくは8以下、より好ましくは0.5~7.5、さらに好ましくは1~5である。
【0034】
(1.1.2)金属小片の配置
金属小片は、上述したように、電極群の外周面と外装体との間に配置される。この際、積層方向から見た金属小片の形状が、上述した金属小片を特定の一方向から見た形状となるように、金属小片が配置されることが好ましい。この際、金属小片の積層方向の長さを配置後高さとみなすことができる。これにより、金属小片は、電極群の外周面上に配置された状態を外装体に内包されても維持しやすく(例えば、金属小片が外装体に内包されても転倒しにくい等)、配置後高さを上記範囲内に調整しやすい。
なかでも、積層方向から見た金属小片の形状は、L字状であることが好ましい。これにより、金属小片は、電極群の外周面上に配置された状態を外装体に内包されてもより維持しやすく、配置後高さを上記範囲内により調整しやすい。
【0035】
金属小片が配置される電極群の外周面の部位は、特に限定されない。
捲回型電極群の外周面は、対向する一対の主平面と、一対の湾曲側面とを有する。主平面と湾曲側面とは交互に連続的に形成されている。電極群が捲回型電極群である場合、金属小片は、捲回型電極群の一対の主平面の一方の面上に配置されていることが好ましい。
積層型電極群の外周面は、積層方向に対して直交する、対向する一対の主平面を有する。電極群が積層型電極群である場合、金属小片は、積層型電極群の一対の主平面の一方の面上に配置されていることが好ましい。
【0036】
金属小片が配置される個数は、特に限定されず、1個以上であればよく、安全化技術の種類等に応じて適宜選択される。
【0037】
(1.1.3)金属小片の一例
次に、図1を参照して、金属小片の一例について説明する。図1は、本開示のある実施形態に係るL字状金属小片の斜視図である。
【0038】
本発明の一実施形態に係るL字状金属小片100は、断面形状が四角形状である角形の針金の折り曲げ加工物である。L字状金属小片100は、第1角形直線部110と、第2角形直線部120とを有する。第1角形直線部110と第2角形直線部120とは、第1角形直線部110が延在する方向と第2角形直線部120が延在する方向とが互いに直交している。第1角形直線部110と第2角形直線部120とは一体化している。
【0039】
本開示において、第1角形直線部110の一端部から第1角形直線部110が延在する方向をX軸正方向と規定し、その反対側の方向をX軸負方向と規定する。以下、X軸正方向とX軸負方向とを区別しない場合、X軸正方向又はX軸負方向を「X軸方向」という。第2角形直線部120の一端部から第2角形直線部120が延在する方向をY軸正方向と規定し、その反対側の方向をY軸負方向と規定する。Y軸正方向とY軸負方向とを区別しない場合、Y軸正方向又はY軸負方向を「Y軸方向」という。X軸方向及びY軸方向に直交する任意の方向をZ軸正方向と規定し、その反対側の方向をZ軸負方向と規定する。以下、Z軸正方向とZ軸負方向とを区別しない場合、Z軸正方向又はZ軸負方向を「Z軸方向」という。
【0040】
L字状金属小片100は、そのZ軸方向が積層方向に沿った方向となるように、電極群の外周面上に配置される。L字状金属の積層方向(Z軸方向)から見た形状は、L字状である。第1角形直線部110のZ軸方向の長さL1(図1参照)と、第2角形直線部120のZ軸方向の長さL1(図1参照)とは同一である。第1角形直線部110のY軸方向の長さL2(図1参照)と、第2角形直線部120のX軸方向の長さL2(図1参照)とは同一である。第1角形直線部110のX軸方向の長さL3(図1参照)(以下、「第1長さL3」という。)と、第2角形直線部120のY方向の長さL4(図1参照)(以下、「第2長さL4」という。)とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
以下、第1角形直線部110のZ軸方向の長さL1と、第2角形直線部120のZ軸方向の長さL1と区別しない場合、第1角形直線部110のZ軸方向の長さL1又は第2角形直線部120のZ軸方向の長さL1を単に「高さL1」という。
以下、第1角形直線部110のY軸方向の長さL2と、第2角形直線部120のX軸方向の長さL2とを区別しない場合、第1角形直線部110のY軸方向の長さL2又は第2角形直線部120のX軸方向の長さL2を「厚さL2」という。
【0042】
高さL1(図1参照)は、配置後高さに相当する。高さL1は、配置後高さが上記範囲内となれば特に限定されず、安全化技術の種類等に応じて適宜選択される。
高さL1は、好ましくは0.3mm~1.5mm、より好ましくは0.5mm~1.0mmである。
【0043】
厚さL2(図1参照)は、特に限定されず、高さL1、L字状金属小片100の材質及び安全化技術の種類等に応じて適宜選択され、高さL1に対する厚さL2の比が上述したアスペクト比の範囲内となるように、高さL1に応じて選択されることが好ましい。厚さL2は、加工性の観点から、好ましくは0.05mm~1.0mm、より好ましくは0.1mm~0.5mmである。
【0044】
第1長さL3は、特に限定されず、安全化技術の種類等に応じて適宜選択される。第1長さL3は、電極群の外周面上に配置された状態を維持しやすいことから、好ましくは0.5mm~7mm、より好ましくは1mm~5mm以下である。
【0045】
第2長さL4は、特に限定されず、安全化技術の種類等に応じて適宜選択される。第2長さL4としては、第1長さL3として例示した長さと同様の長さが挙げられる。
【0046】
(1.2)強制内部短絡工程
強制内部短絡工程では、上述したように、加圧治具を用いて、外装体を介して、金属小片を積層方向にプレスして、セパレータを局所的に押圧することによって内部短絡を発生させる。
【0047】
(1.2.1)加圧装置
強制内部短絡工程では、加圧装置を用いられる。加圧装置は、釘刺し圧壊試験装置のような公知の装置を用いることができる。加圧装置には、加圧治具が固定される。
【0048】
加圧治具の金属小片と接触する面(以下、「接触面」という。)の外形は、特に限定されず、方形(例えば、正方形、長方形)、円形、楕円形等が挙げられる。
接触面の形状は、特に限定されず、平面、曲面等が挙げられる。中でも、接触面の形状は、金属小片を安定して押圧できることから、平面であることが好ましい。
【0049】
加圧治具の構成として、特許文献1に記載の加圧子の構成を参照することができる。
【0050】
加圧治具は、前記内部短絡を発生させる工程において、外装体と接触する樹脂板を有し、樹脂板と外装体との接触面積が、金属小片と外装体との接触面積よりも大きいことが好ましい。
【0051】
外装体を介して金属小片を積層方向にプレスすると、金属小片が電極群に含まれるセパレータを突き破って、内部短絡が発生する。この際、セパレータは延伸性を有する。そのため、樹脂板と外装体との接触面積を、金属小片と外装体との接触面積よりも大きくすることで、プレス加圧力が金属小片の局部に集中せずに、金属小片は全体が均等に加圧され、再現性の高い内部短絡を発生させることができる。
【0052】
樹脂板を構成する樹脂の硬度(以下、「樹脂硬度」という。)は、特に限定されない。
樹脂硬度の下限は、50以上であることが好ましい。これにより、金属小片が樹脂板に埋没することなく、金属小片の全体を安定して押圧することができる。樹脂硬度の測定方法は、JIS6253に準拠したデューロメータ硬度(タイプA)である。
JIS6253に準拠したデューロメータ硬度(タイプA)は、90以上の硬度を区別することができない。樹脂硬度の上限について、JIS6253に準拠して測定したデューロメータ硬度(タイプA)は、90以上であってもよい。樹脂硬度のデューロメータ硬度(タイプA)が90以上である場合、ASTM D785に準拠して測定したロックウェル硬さ(Mスケール)が150以下であることが好ましい。
【0053】
具体的に、樹脂硬度が上記範囲内である樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、クロロプレン樹脂、スチレン-ブタジエンゴム等が挙げられる。
【0054】
(1.2.2)加圧(プレス)
加圧装置が加圧治具をパウチ形電池に押し込む速度(以下、「プレス速度」という。)は、特に限定されない。
プレス速度は、加圧停止等の制御が容易であることから、好ましくは0.01mm/秒~100mm/秒、より好ましくは0.1mm/秒~20mm/秒である。
【0055】
加圧治具の押し込み(加圧治具の降下)を停止するタイミング(加圧を開放するタイミング)は、例えば、上記電池の電圧が、加圧を開始する前の電圧から0.1V以上の降下を検出した時点が好ましい。短絡が認められない場合は、加圧力が30kNに達するまで加圧してもよい。
【0056】
(2)パウチ形電池
本開示のパウチ形電池は、電極群と、金属小片と、前記電極群及び前記金属小片を内包する外装体と、を備える。前記電極群は、正極、負極、並びに正極及び負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなる。前記金属小片は、前記電極群の外周面と前記外装体との間に、前記正極、前記負極及び前記セパレータの積層方向に沿った前記金属小片の高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように配置されている。
【0057】
本開示のパウチ形電池は、上記の構成を有するため、例えば、本開示の評価方法に用いられると、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させ、熱暴走に対する電池の安全性をより正確に評価することを可能にすることができる。
【0058】
パウチ形電池の電池容量は、特に限定されず、パウチ形電池の用途に応じて適宜選択される。
パウチ形電池の電池容量は、好ましくは0.5Ah~10Ah、より好ましくは1Ah~5Ahである。電池容量が小さいと発熱自体が小さくなって温度変化が検出しづらくなり、電池容量が大きいと取り扱いが難しくなる。
パウチ形電池(捲回型)の電池容量の調整方法は、例えば、電極の塗布長さを調節する方法、電極組成比を調整する方法、電極塗布量を調整する方法、活物質の種類を変更する方法等が挙げられる。パウチ形電池(積層型)の電池容量の調整方法は、例えば、正極、負極及びセパレータを積層する回数を調整する方法、電極組成比を調整する方法、電極塗布量を調整する方法、活物質の種類を変更する方法等が挙げられる。
【0059】
(2.1)金属小片
金属小片としては、上述した「(1.1.1)金属小片」において例示した金属小片と同様のものが挙げられる。
【0060】
(2.2)外装体
外装材は、特に限定されず、フィルム外装体等が挙げられる。フィルム外装体の材質は、強制内部短絡工程を実行できる材質であれば特に限定されず、樹脂、金属等が挙げられる。フィルム外装体の構造は、単層構造でもよく、多層構造でもよい。フィルム外装体の構造が多層構造である場合、フィルム外装体は、リチウム二次電池に用いられる公知のラミネート外装体であってもよい。リチウム二次電池用ラミネート外装体は、例えば、芯材として金属層(例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔等)を有する。フィルム外装体の厚さは、強制内部短絡工程を実行できる厚さであれば特に限定されず、例えば、10μm~5mmである。
【0061】
(2.3)電極群
電極群は、積層型電極群又は捲回型電極群であり、パウチ形電池の用途等に応じて適宜選択される。
電極群は、上述したように、正極、負極、及びセパレータを有する。電極群の材質は、パウチ形電池の種類に応じて適宜選択され、公知の材質であってもよい。
【0062】
以下、パウチ形リチウム二次電池の電極群の材質について説明する。
【0063】
(2.3.1)正極
正極は、正極集電体と、正極合材層とを備える。正極合材層は、正極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0064】
(2.3.1.1)正極集電体
正極集電体の材質としては、例えば、金属又は合金が挙げられる。詳しくは、正極集電体の材質として、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、銅等が挙げられる。
正極集電体の厚さは、例えば、5μm~100μmである。
【0065】
(2.3.1.2)正極合材層
正極合材層は、正極活物質及びバインダーを含有する。
正極合材層の厚さは、例えば、5μm~200μmである。
【0066】
(2.3.1.2.1)正極活物質
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、パウチ形電池の用途等に応じて、適宜調整され得る。
正極活物質は、下記式(X)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCM」という場合がある。)を含むことが好ましい。リチウム含有複合酸化物(X)は、単位体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れるという利点を有する。
【0067】
LiNiCoMn … 式(X)
【0068】
式(X)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、a、b及びcの合計は、0.99以上1.00以下である。
【0069】
NCMの具体例としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.5Co0.3Mn0.2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1等が挙げられる。
【0070】
正極活物質の含有量の下限は、正極合材層の全量に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。
正極活物質の含有量の上限は、正極合材層の全量に対して、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99質量%以下である。
【0071】
(2.3.1.2.2)バインダー
バインダーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等)、ゴム粒子(例えば、スチレン-ブタジエンゴム粒子等)等が挙げられる。バインダーは1種を単独で使用でき、必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
正極合材層中におけるバインダーの含有量は、正極合材層の物性(例えば、電解液浸透性、剥離強度等)と電池性能との両立の観点から、正極合材層の全量に対して、好ましくは0.1質量%以上4質量%以下である。
【0072】
(2.3.1.2.3)導電助剤等
正極合材層は、公知の導電助剤、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0073】
(2.3.2)負極
負極は、負極集電体と、負極合材層と、を備える。負極合材層は、負極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0074】
(2.3.2.1)負極集電体
負極集電体の材質としては、例えば、金属又は合金が挙げられる。詳しくは、負極集電体の材質として、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、ニッケルメッキ鋼材、銅等が挙げられる。
負極集電体の厚さは、例えば、5μm~100μmである。
【0075】
(2.3.2.2)負極合材層
負極合材層は、負極活物質及びバインダーを含有する。
負極合材層の厚さは、例えば、5μm~200μmである。
【0076】
(2.3.2.2.1)負極活物質
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限はない。負極活物質は、リチウムイオンをドープ及び脱ドープすることが可能な炭素材料(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等)であることが好ましい。
【0077】
(2.3.2.2.2)バインダー
負極合材層に含まれるバインダーとしては、正極合材層に含まれるバインダーとして例示したものと同様のものが挙げられる。
負極合材層に含まれるバインダーは、正極合材層に含まれるバインダーと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
負極合材層に含まれるバインダーの含有量は、特に限定されず、正極合材層に含まれるバインダーの含有量として例示したものと同様であればよい。
【0078】
(2.3.2.2.3)導電助剤等
負極合材層は、公知の導電助剤、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0079】
(2.3.3)セパレータ
セパレータとしては、例えば、多孔質の樹脂平板が挙げられる。多孔質の樹脂平板の材質としては、樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、この樹脂を含む不織布等が挙げられる。
【0080】
(2.4)非水電解質
本開示のパウチ形リチウム二次電池は、一般的に、非水電解質を含有する。非水電解質は、非水電解液、固体電解質、及びゲル電解質のいずれであってもよい。非水電解質は、パウチ形電池の種類に応じて適宜選択され、公知の材質であってもよい。
【0081】
以下、パウチ形リチウム二次電池の非水電解液について説明する。非水電解液は、電解質、及び非水溶媒を含有することが好ましい。
【0082】
(2.4.1)電解質
電解質は、フッ素を含むリチウム塩(例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)等)、及びフッ素を含まないリチウム塩(例えば、過塩素酸リチウム(LiClO)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl)等)の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0083】
非水電解液における電解質の濃度は、好ましくは0.1mol/L以上3mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以上2mol/L以下である。
【0084】
(2.4.2)非水溶媒
非水電解液は、一般的に、非水溶媒を含有する。
【0085】
非水溶媒は、環状カーボネート類(例えば、エチレンカーボネート(EC)等)、及び鎖状カーボネート類(例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0086】
非水溶媒の含有量の上限は、非水電解液の全量に対して、好ましくは99質量%以下、好ましくは97質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
非水溶媒の含有量の下限は、非水電解液の全量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0087】
(2.4.3)電解液添加剤
非水電解液は、電解液添加剤を含有してもよい。これにより、パウチ形リチウム二次電池の充放電サイクルにおいて、本来の電池反応ではない副反応を進行しにくくすることができる。電池反応は、正極及び負極にリチウムイオンが出入り(インターカレート)する反応を示す。副反応は、負極による非水電解液の還元分解反応、正極による非水電解液の酸化分解反応、正極活物質中の金属元素の溶出等を含む。
電解液添加剤としては、特に制限はなく、公知のものを任意に用いることができ、例えば、特開2019-153443号公報に記載の添加剤を用いることができる。
【0088】
(2.5)パウチ形電池の一例
図2及び図3を参照して、本開示のパウチ形電池の一例について具体的に説明する。図2は、本開示のある実施形態に係るパウチ形リチウム二次電池(積層型)1Aの概略断面図である。図3は、本開示の他の実施形態に係るパウチ形リチウム二次電池(捲回型)1Bの概略断面図である。なお、図3では、正極11、正極集電体11A、正極合材層11B、負極12、負極集電体12A、負極合材層12B及びセパレータ13の一部は省略されている。
【0089】
(2.5.1)パウチ形リチウム二次電池(積層型)の一例
本開示のある実施形態に係るパウチ形リチウム二次電池(積層型)1Aは、図2に示すように、積層型電池群10Aと、正極リード21と、負極リード22と、外装体30と、L字状金属小片100とを備える。
積層型電池群10A及びL字状金属小片100は、外装体30の内部に封入されている。L字状金属小片100は、積層型電池群10Aの外周面と外装体30との間に配置されている。
【0090】
積層型電池群10Aは、正極11と、セパレータ13と、負極12とが積層されてなる。正極11は、正極集電体11Aの両方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなる。負極12は、負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなる。正極11の正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極合材層11Bと、正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極合材層12Bとは、セパレータ13を介して対向している。
【0091】
正極集電体11Aには、正極リード21が取り付けられている。負極集電体12Aには、負極リード22が取り付けられている。正極リード21及び負極リード22の各々は、外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。
【0092】
パウチ形リチウム二次電池(積層型)1Aの外装体30の内部には、非水電解液が注入されている。非水電解液は、正極合材層11B、セパレータ13、及び負極合材層12Bに浸透している。パウチ形リチウム二次電池(積層型)1Aでは、隣接する正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bによって、1つの単電池層14が形成されている。
【0093】
L字状金属小片100は、Z軸方向が積層方向に沿った方向となるように、積層型電池群10Aの外周面上に配置される。つまり、配置後高さは、L字状金属小片100の高さL1と同一である。換言すると、パウチ形リチウム二次電池(積層型)1Aでは、配置後高さが0.3mm以上1.5mm以下の範囲内である。
【0094】
なお、パウチ形リチウム二次電池(積層型)1Aでは、正極11は、正極集電体11Aの片方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなり、負極12は、負極集電体12Aの片方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなってもよい。
正極リード21及び負極リード22の各々が外装体30の内部から外部に向けて突出する方向は、外装体30に対して同一方向であってもよい。
外装体30と隣接する負極12の両面の主面上には、負極合材層12Bが形成されていてもよい。
【0095】
(2.5.2)パウチ形リチウム二次電池(捲回型)の一例
本開示の他の実施形態に係るパウチ形リチウム二次電池(捲回型)1Bは、図3に示すように、捲回型電池群10Bと、正極リード21と、負極リード22と、外装体30と、L字状金属小片100とを備える。
捲回型電池群10B及びL字状金属小片100は、外装体30の内部に封入されている。L字状金属小片100は、捲回型電池群10Bの外周面と外装体30との間に配置されている。
【0096】
捲回型電池群10Bは、負極12、セパレータ13、正極11及びセパレータ13をこの順で積層した電極層が扁平形状に捲回されてなる。正極11は、正極集電体11Aの両方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなる。負極12は、負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなる。捲回型電池群10Bの最外層には、負極集電体12Aが位置する。
【0097】
捲回型電池群10Bの最外層に位置する負極集電体12Aは、負極リード22が取り付けられている。捲回型電池群10Bの最内層に位置する正極集電体11Aは、正極リード21が取り付けられている。
【0098】
パウチ形リチウム二次電池(捲回型)1Bの外装体30の内部には、非水電解液が注入されている。非水電解液は、正極合材層11B、セパレータ13、及び負極合材層12Bに浸透している。パウチ形リチウム二次電池(捲回型)1Bでは、隣接する正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bによって、1つの単電池層14が形成されている。
【0099】
L字状金属小片100は、Z方向が積層方向に沿った方向となるように、捲回型電池群10Bの外周面上に配置される。つまり、配置後高さは、L字状金属小片100の高さL1と同一である。換言すると、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)1Bでは、配置後高さが0.3mm以上1.5mm以下の範囲内である。
【0100】
なお、捲回型電池群10Bの最外層には、負極合材層12Bが形成されていてもよい。
【0101】
(3)電池パック
本開示の電池パックは、少なくとも1つの本開示のパウチ形電池と、少なくとも1つのパウチ形電池を収容するケースとを備える。
【0102】
ケースの形状は、少なくとも1つのパウチ形電池を収容することができる形状であれば、特に限定されない。
【0103】
ケースは、内部に少なくとも1つの熱交換用流路を有することが好ましい。熱交換用流路は、冷却用媒体を流通させるための空間を示す。パウチ形電池は、電池反応の進行に伴い、発熱する場合がある。ケースの熱交換用流路内に冷却用媒体を循環させることで、ケースに収容される複数のパウチ形電池を冷却し、複数のパウチ形電池の各々の温度を調整することができる。
冷却用媒体としては、冷却用液体(例えば、水、油、グリコール系水溶液等)、冷却用気体(例えば、空気、窒素ガス等)等が挙げられる。
【0104】
ケースを構成する材質は、金属であってもよいし、樹脂であってもよい。金属としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金(ステンレス、真鍮、リン青銅等)等が挙げられる。樹脂としては、熱可塑性樹脂(エラストマーを含む)、熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0105】
ケースは、冷却プレートを有していてもよい。冷却プレートは、内部に少なくとも1つの熱交換用流路を有する。冷却プレートの熱交換用流路内に冷却用媒体を循環させることで冷却プレートに熱的に接触する複数のパウチ形電池を冷却し、複数のパウチ形電池の各々の温度を調整することができる。
冷却プレートの材質は、金属であってもよいし、樹脂であってもよい。冷却プレートは、公知の冷却プレートであってもよい。
【0106】
(4)パウチ形電池の製造方法
本開示のパウチ形電池の製造方法は、後述する電極群を準備する工程(以下、「電極群準備工程」という。)と、後述する金属小片を準備する工程(以下、「金属小片準備工程」という。)と、後述する外装体の内部に前記電極群及び前記金属小片を収容する工程(以下、「収容工程」という。)を含む。
【0107】
本開示の製造方法は、上記の構成を有するため、本開示のパウチ形電池が得られる。
【0108】
収容工程は、電極群準備工程及び金属小片準備工程が実行された後に実行される。電極群準備工程及び金属小片準備工程が実行される順序は特に限定されず、電極群準備工程が実行された後に金属小片準備工程が実行されてもよいし、金属小片準備工程が実行された後に電極群準備工程が実行されてもよい。
【0109】
(4.1)電極群準備工程
電極群準備工程では、正極、負極、並びに正極及び負極を電気的に絶縁するセパレータが積層又は扁平状に捲回されてなる電極群を準備する。これにより、本開示における捲回型電極群又は積層型電極群が得られる。
電極群を準備する方法は、特に限定されず、公知の方法であればよい。
【0110】
(4.2)金属小片準備工程
金属小片準備工程では、0.3mm以上1.5mm以下の直線部を有する金属小片を準備する。これにより、配置後高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように電極群の外周面と外装体との間に配置され得る金属小片が得られる。
【0111】
金属小片を準備する方法は、特に限定されず、特定の長さの針金を折り曲げ加工する方法等が挙げられる。針金から特定の長さの針金を切断する方法は、特に限定されず、機械加工、レーザー加工等が挙げられる。特定の長さの針金を折り曲げ加工する方法は、特に限定されず、公知の方法であればよい。
【0112】
(4.3)収容工程
収容工程では、前記直線部の延在方向が積層方向に沿った方向となるように、電極群の外周面上に金属小片を配置し、金属小片の配置状態を維持して外装体の内部に電極群及び金属小片を収容する。
【0113】
本開示において、「金属小片の配置状態」とは、前記直線部の延在方向が積層方向に沿った方向となるように、電極群の外周面上に金属小片を配置した状態を示す。
【0114】
収容工程を実行することにより、積層方向に沿った前記金属小片の高さが0.3mm以上1.5mm以下となるように、前記電極群の外周面と前記外装体との間に金属小片が配置されたパウチ形電池が得られる。
【0115】
外装体の内部に電極群及び金属小片を収容する方法は、特に限定されず、公知の方法であればよい。
【実施例0116】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0117】
[1]実施例1
[1.1]電極群準備工程
パウチ形リチウム二次電池(捲回型)を作製するために、以下のようにして、捲回型電極群を作製した。
【0118】
[1.1.1]正極の作製
[1.1.1.1]正極合材スラリーの調製
正極合材スラリーの調製には、5Lのプラネタリーディスパを用いた。
正極活物質としての「NCM523」(即ち、LiNi0.5Co0.2Mn0.3) 920質量部、導電助剤としての「Super-P」(TIMCAL社製、導電性カーボン) 20質量部、及び導電助剤としての「KS-6」(TIMREX社製、鱗片状黒鉛) 20質量部を10分間混合して、正極用混合物を得た。
正極用混合物に、「N-メチルピロリドン」(以下、「NMP」という。) 100質量部を加え、更に20分間混合して、第1正極用混合液を得た。
「NMP」に「PVDF」(株式会社クレハ製の「W#7200」)を添加して、「PVDF」の含有量が「PVDF溶液」の総量に対して8質量%となるように、「PVDF溶液」を調製した。
第1正極用混合液に、「PVDF溶液」 150質量部を加えて、30分間混練した後、更に「PVDF溶液」 150質量部を加えて30分間混練し、更に「PVDF溶液」 200質量部を加えて30分間混練して、第2正極用混合液を得た。
第2正極用混合液に、「PVDF溶液」 80質量部を加えて30分間混練し、粘度調整のために「NMP」 27質量部を加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。
以上により、固形分濃度60質量%の正極合材スラリーを得た。
【0119】
[1.1.1.2]塗工・乾燥
正極合材スラリーの塗工には、ダイコーターを用いた。
正極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が19.0mg/cmになるように、正極合材スラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ:20μm、幅:200mm)の一方の主面の一部に塗布し乾燥した。次いで、アルミニウム箔の他方の主面(未塗工面)の一部に、正極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が19.0mg/cmになるように、正極合材スラリーを塗布し乾燥した。
こうして得た両面塗工アルミニウム箔(塗工量は両面合計で38.0mg/cm)を、真空乾燥オーブンで130℃、12時間乾燥した。
【0120】
[1.1.1.3]プレス
両面塗工アルミニウム箔のプレスには、35トンプレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記乾燥後の両面塗工アルミニウム箔を、35トンプレス機にて、プレス密度が2.9±0.05g/cmになるようにプレスした。正極合材層の厚さは、両面合計で131μmであった。
【0121】
[1.1.1.4]スリット
プレス後の両面塗工アルミニウム箔をスリットすることにより、正極を得た。正極の表面側には、正極塗工面(サイズ:56mm×334mm)とタブ溶接余白とが形成され、正極の裏面には、正極塗工面(サイズ:56mm×408mm)とタブ溶接余白とが形成されていた。
【0122】
[1.1.2]負極の作製
[1.1.2.1]負極合材スラリーの調製
負極合材スラリーの調製には、5Lのプラネタリーディスパを用いた。
負極活物質としての「天然黒鉛」 960質量部、及び導電助剤としての「Super-P」(導電性カーボン、BET比表面積62m/g) 10質量部を混合して負極用混合物を得た。
「蒸留水」に「カルボキシメチルセルロース」(以下、「CMC」という。)を、「CMC」の含有量が「CMC水溶液」の総量に対して1質量%となるように添加して、「CMC水溶液」を調製した。
負極用混合物に、「CMC水溶液」 450質量部を加え、30分間混合して、第1負極用混合液を得た。
第1負極用混合液に、「CMC水溶液」 300質量部を加えて30分間混練し、更に「CMC水溶液」 250質量部を加えて30分間混練して、第2負極用混合液を得た。
第2負極用混合液に、バインダーとしての「スチレンブタジエンゴム」(40質量%乳化液) 50質量部を加えて30分間混合した後、真空脱泡を30分間行った。
以上により、固形分濃度45質量%の負極合材スラリーを得た。
【0123】
[1.1.2.2]塗工・乾燥
負極合材スラリーの塗工には、ダイコーターを用いた。
負極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が11.0mg/cmになるように、負極合材スラリーを、負極集電体としての銅箔(厚さ:10μm)の一方の主面の一部に塗布し乾燥した。次いで、銅箔の他方の主面(未塗工面)の一部に、負極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が11.0mg/cmになるように、負極合材スラリーを塗布し乾燥した。
こうして得た両面塗工銅箔(塗工量は両面合計で22.0mg/cm)を、真空乾燥オーブンで120℃、12時間乾燥した。
【0124】
[1.1.2.3]プレス
両面塗工銅箔のプレスには、小型プレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、乾燥後の両面塗工銅箔を、小型プレス機にて、プレス密度が1.45±0.05g/cmになるようにプレスした。負極合材層の厚さは、両面合計で152μmであった。
【0125】
[1.1.2.4]スリット
プレス後の両面塗工銅箔をスリットすることにより、負極を得た。負極の表面側には、負極塗工面(サイズ:58mm×372mm)とタブ溶接余白とが形成され、裏面側には、負極塗工面(サイズ:58mm×431mm)とタブ溶接余白とが形成されていた。
【0126】
[1.1.3]捲回型電極群の作製
セパレータとして、多孔質膜(材質:ポリエチレン、空隙率:45%、幅:60mm、厚さ:25μm)を用いた。
負極とセパレータと正極とセパレータを順に重ねて捲回し、捲回体を得た
次いで、得られた捲回体をプレス成型し、扁平状の捲回型電極群を得た。正極の余白部分に正極タブとしてアルミニウム製タブを超音波接合機で接合し、負極の余白部分に負極タブとしてニッケル製タブを超音波接合機で接合した。得られた捲回型電極群を、真空乾燥機にて70℃で12時間減圧乾燥させた。捲回型電極群の最外層には、負極が位置していた。
【0127】
[1.2]金属小片準備工程
断面が0.2mm×0.3mmの四角形状のニッケル製針金を、2mm長さに切断した後、L字状となるようにして成型してL字状金属小片を得た。得られたL字状金属小片の高さL1(図1参照)は0.3mm、厚さL2(図1参照)は0.2mm、第1長さL3(図1参照)は1mm、第2長さL4(図1参照)は1mmであった。
【0128】
[1.3]収容工程
L字状金属小片を、正極、セパレータ及び負極の積層方向から見た形状がL字状となるように、捲回型電極群の外周面上に配置した。この際、L字状金属小片の積層方向の長さ(高さL1)は0.3mmであった。
次いで、捲回型電極群の最表層に位置する負極上にL字状金属小片を配置した状態で、捲回型電極群及びL字状金属小片をラミネートシート(芯材の材質:アルミニウム)で挟み込み、ラミネートシートの3辺を加熱シールし、ラミネート体を得た。
【0129】
エチレンカーボネート(以下、EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、EC:EMC=30:70(体積比)で混合することにより、非水溶媒としての混合溶媒を得た。
上記混合溶媒に対し、電解質としてのLiPF6を、最終的に得られる非水電解液中の濃度が1モル/リットル(以下、「1M」ともいう)となるように溶解させ、添加剤としてのビニレンカーボネート(VC)を、最終的に得られる非水電解液に対する含有量が2.0質量%となるように溶解させ、非水電解液を得た。
【0130】
ラミネート体に対し、加熱シールされていない残りの一辺から、非水電解液を、4.70±0.10g注液した後、真空引きしながら上記残りの一辺を加熱シールし、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体を得た。
【0131】
パウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体に対して初期充放電操作を行った。詳しくは、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体を、大気下、25℃で24時間保持し、0.1Cで4.2V(SOC:100%)まで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)し、30分間休止した後、2.8Vまで0.2Cで定電流放電(0.2C-CC)した。
これにより、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)を得た。外装体の表面において、L字状金属小片が配置された部位は、他の部位に対して突出していた。これにより、L字状金属小片が配置された部位を、目視により確認した。また、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)において、L字状金属小片の転倒及び変形の発生は、確認できなかった。
【0132】
[1.4]強制内部短絡工程
パウチ形リチウム二次電池(捲回型)について、短絡時の安全性評価として、以下の強制内部短絡試験を行った。
【0133】
[1.4.1]内部短絡安全性試験
パウチ形リチウム二次電池(捲回型)を0.1Cで4.2V(SOC100%)まで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)した。
【0134】
加圧装置として、釘刺し圧壊試験装置(東洋システム製の「TYS-94DM45」)を準備した。加圧装置の加圧治具は、ベークライト製の平板加圧ユニットと、平板加圧ユニットに固定された樹脂板とからなる。樹脂板は、接触面を構成する。樹脂板は、厚さ2mm、たてよこ長さ10mm×10mmのアクリル樹脂(樹脂硬度:JIS6253に準拠するデューロメータ硬度(タイプA):90以上、ASTM D785に準拠するロックウェル硬さ(Mスケール):90)の平板であった。つまり、アクリル樹脂の外装体と接触する面積は、L字状金属小片の外装体と接触する面積よりも大きい。
【0135】
L字状金属小片が接触している外装体の表面が上側(重力方向とは反対方向)になるように、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)を加圧装置に固定した。次いで、プレス速度0.5mm/秒で、樹脂板でL字状金属小片が配置されている部位を圧迫した。上記電池の電圧が、加圧を開始する前の上記電圧から0.1V以上の降下した時点で、加圧装置による加圧を開放した。これにより、L字状金属小片を介して正極と負極とを短絡させた。
この際、L字状金属小片が接触している側の外装体の表面に装着した熱電対によって、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)の表面温度を経時的に測定した。
【0136】
[1.4.2]評価基準
加圧装置によるプレスを開始した時点から60分経過するまで、経時的に測定されたパウチ形リチウム二次電池(捲回型)の表面温度の測定値を用いて、熱暴走に至ったか否かを判断した。具体的に、300℃以上の発熱現象が確認された場合、熱暴走に至ったと判断し、300℃以上の発熱現象が確認されなかった場合、熱暴走に至っていないと判断した。
【0137】
サンプル数(N)を4個とし、下記の基準で、熱暴走率を評価した。電池の安全化技術の有効性(すなわち、電池の安全性)を評価するために許容できるランクは「A」である。
【0138】
<ランク>
A:発熱現象を確認したサンプル数が1つ以上であった
B:発熱現象を確認したサンプルがなかった。
【0139】
測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0140】
[2]実施例2~実施例10、比較例1及び比較例2
配置後高さ、電極群構造、電池容量及び金属小片を表1に示すように変更したことの他は、実施例1と同様にして、熱暴走率を評価した。測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0141】
[3]比較例3
L字状金属小片を捲回型電極群の外周面上に配置したことを、後述する第1手順に変更したことの他は、実施例2と同様にして、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体(正極/セパレータ/L字状金属小片/負極/外装体)を得た。第1手順は、捲回型電極群の最外周に位置する負極を開いて、最外周に位置する負極と正極との間の負極側で、かつ負極の幅方向の中央部にL字状金属小片を配置して、L字状金属小片を捲回型電極群の内部に配置したことを示す。
パウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体に対して初期充放電操作を実施したところ、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体が短絡した。そのため、比較例3では、熱暴走率の評価を行うことができなかった。
【0142】
[4]比較例4
L字状金属小片を実施例4のL字状金属小片に変更したことの他は、比較例3と同様にして、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体を得た。
パウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体に対して初期充放電操作を実施したところ、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体が短絡した。そのため、比較例4では、比較例3と同様に、熱暴走率の評価を行うことができなかった。
【0143】
【表1】
【0144】
表1中の「熱暴走率」において、「X/4」(Xは0~4の整数)とは、4つのサンプルのうち300℃以上の発熱現象を確認したサンプル数がXつであったことを示す。例えば、「0/4」は、4つのサンプルのうち300℃以上の発熱現象を確認したサンプルがなかったことを示し、「4/4」は、4つのサンプルのうち300℃以上の発熱現象を確認したサンプル数が4つであったことを示す。
【0145】
比較例1及び比較例2の強制内部短絡工程では、加圧治具を用いて、外装体を介して、L字状金属小片を積層方向に加圧して、セパレータを局所的に押圧することによって内部短絡を発生させた。しかしながら、比較例1及び比較例2のパウチ形リチウム二次電池では、配置後高さが0.2mmであり、0.3mm~1.5mmの範囲外であった。そのため、比較例1及び比較例2の熱暴走率の評価は「B」であった。換言すると、比較例1及び比較例2の評価方法では、熱暴走に至る内部短絡を発生させることができなかった。つまり、比較例1及び比較例2の評価方法は、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させ、電池の安全性をより正確に評価することを可能にすることができないことがわかった。
【0146】
比較例3及び比較例4のパウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体では、L字状金属小片が捲回型電極群の内部に配置されていた。そのため、比較例3及び比較例4のパウチ形リチウム二次電池(捲回型)前駆体は、短絡していた。つまり、比較例3及び比較例4では、パウチ形リチウム二次電池(捲回型)を作製することができなかった。つまり、比較例3及び比較例4の評価方法は、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させ、電池の安全性をより正確に評価することを可能にすることができないことがわかった。
【0147】
実施例1~実施例10の強制内部短絡工程では、加圧治具を用いて、外装体を介して、L字状金属小片を積層方向に加圧して、セパレータを局所的に押圧することによって内部短絡を発生させた。実施例1~実施例10のパウチ形リチウム二次電池では、配置後高さが0.3mm~1.0mmであり、0.3mm~1.5mmの範囲内であった。そのため、実施例1~実施例10の熱暴走率の評価は「A」であった。換言すると、実施例1~実施例10の評価方法では、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させることができた。つまり、実施例1~実施例10の評価方法は、作業の安全性を確保しながら熱暴走に至る内部短絡を発生させ、電池の安全性をより正確に評価することを可能にすることができることがわかった。
【0148】
実施例1~実施例10の評価方法では、特許文献1に開示の金属異物よりも大きなサイズの金属小片を電極群の外周面上に配置して内部短絡を形成することで、短絡発熱の発生が促進され、熱暴走に至りやすくなったと考えられる。
【符号の説明】
【0149】
1A パウチ形リチウム二次電池(積層型)
1B パウチ形リチウム二次電池(捲回型)
10A 積層型電極群
10B 捲回型電極群
11 正極
11A 正極集電体
11B 正極合材層
12 負極
12A 負極集電体
12B 負極合材層
13 セパレータ
14 単電池層
21 正極リード
22 負極リード
30 外装体
100 L字状金属小片
図1
図2
図3