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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081145
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/08 20060101AFI20230602BHJP
   B43K 3/00 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
B43K24/08 150
B43K3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194871
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】大西 智温
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353HA01
2C353HC04
2C353HG04
(57)【要約】
【課題】ノック部材の移動距離よりも大きな距離だけ筆記部材を前方へ移動させる筆記具において、安定した筆記部材の出没動作を実現すること。
【解決手段】筆記具10は、軸筒20と、筆記部材15と、出没機構30と、を備え、出没機構は、使用者により前方へ押圧可能なノック部材32と、ノック部材が前方に押圧されたときに、ノック部材の軸方向daの移動距離よりも大きな距離だけ筆記部材を前方へ移動させるストローク増大機構40と、を有し、ストローク増大機構は、ノック部材の前方への移動にともなって、前方へ移動し且つ軸筒の中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ移動するスライド部材50と、後端に受圧面72を有し、前後動可能な被押圧部材70と、前端部62を有し、スライド部材の移動にともなって中心軸線に対する角度が変更されることにより、前端部で受圧面を押圧する押圧部材60と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端開口部を有する軸筒と、前記軸筒内に配置された筆記部材と、前記筆記部材の先端を前記前端開口部から出没させる出没機構と、を備えた筆記具であって、
前記出没機構は、
使用者により前方へ押圧可能なノック部材と、
前記ノック部材が前方に押圧されたときに、前記ノック部材の軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前記筆記部材を前方へ移動させるストローク増大機構と、を有し、
前記ストローク増大機構は、
前記ノック部材の前方への移動にともなって、前方へ移動し且つ前記軸筒の中心軸線に直交する第1方向の一方側から他方側へ移動するスライド部材と、
後端に受圧面を有し、前後動可能な被押圧部材と、
前端部を有し、前記スライド部材の移動にともなって前記中心軸線に対する角度が変更されることにより、前記前端部で前記受圧面を押圧する押圧部材と、を有する、
筆記具。
【請求項2】
前記押圧部材は、前記中心軸線及び前記第1方向と平行な断面において長手方向軸線を有し、
前記ノック部材が前方へ移動すると、前記中心軸線と前記長手方向軸線との間の角度が小さくなる、請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記受圧面は、前記第1方向の前記一方側から前記他方側へ向かうにつれて前方から後方へ向かうように延びる、請求項1又は2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記軸筒の内面に、前記第1方向の前記一方側から前記他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びる傾斜面が形成され、
前記ノック部材が前方へ移動すると、前記スライド部材は、前記傾斜面に沿って移動する、請求項1~3のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項5】
前記スライド部材は、前記押圧部材をガイドするガイド部を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸筒と、軸筒内に配置された筆記部材と、ノック部材の操作に応じて筆記部材を出没させる出没機構と、を備えた筆記具において、ノック部材が操作されたときに、ノック部材の移動距離よりも大きな距離だけ筆記部材を前方へ移動させるものが知られている。
【0003】
特許文献1には、軸筒と、押圧部材と、軸筒内に配置された摺動体及び中間押し部材と、を備えた筆記具が開示されている。軸筒は、傾斜面を有するガイド壁を有しており、摺動体は、ガイド壁の傾斜面と反対方向へ傾斜する傾斜面を有し、軸筒後端開口部方向へ付勢された筆記部材と連動する。中間押し部材は、ガイド壁の傾斜面と摺動体の傾斜面に当接して移動する。押圧部材は、中間押し部材を軸筒後端開口部方向へ押圧できる。この筆記具では、中間押し部材がガイド壁の傾斜面と摺動体の傾斜面に沿って移動する際、摺動体はガイド壁の傾斜面の長さより長い距離を軸筒先端開口部方向へ移動することになる。したがって、摺動体と連動する筆記部材は、押圧部材の押圧ストロークより長い距離を移動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-233895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された筆記具では、押圧部材から受けた押圧力を、比較的小さな厚さを有する中間押し部材のみで摺動体へ伝達しているので、中間押し部材に大きな力がかかり、中間押し部材が変形したり破損したりするおそれがあった。とりわけ、特許文献1に開示された筆記具では、押圧部材による押圧が開始されるときには、中間押し部材の面方向に沿って押圧力が作用するので、中間押し部材が座屈するおそれがあった。中間押し部材が変形したり破損したりした場合には、筆記部材の出没動作が適切に行われなくなる。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、ノック部材の移動距離よりも大きな距離だけ筆記部材を前方へ移動させる筆記具において、安定した筆記部材の出没動作を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による筆記具は、
前端開口部を有する軸筒と、前記軸筒内に配置された筆記部材と、前記筆記部材の先端を前記前端開口部から出没させる出没機構と、を備え、
前記出没機構は、
使用者により前方へ押圧可能なノック部材と、
前記ノック部材が前方に押圧されたときに、前記ノック部材の軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前記筆記部材を前方へ移動させるストローク増大機構と、を有し、
前記ストローク増大機構は、
前記ノック部材の前方への移動にともなって、前方へ移動し且つ前記軸筒の中心軸線に直交する第1方向の一方側から他方側へ移動するスライド部材と、
後端に受圧面を有し、前後動可能な被押圧部材と、
前端部を有し、前記スライド部材の移動にともなって前記中心軸線に対する角度が変更されることにより、前記前端部で前記受圧面を押圧する押圧部材と、を有する。
【0008】
本発明による筆記具において、
前記押圧部材は、前記中心軸線及び前記第1方向と平行な断面において長手方向軸線を有し、
前記ノック部材が前方へ移動すると、前記中心軸線と前記長手方向軸線との間の角度が小さくなってもよい。
【0009】
本発明による筆記具において、
前記受圧面は、前記第1方向の前記一方側から前記他方側へ向かうにつれて前方から後方へ向かうように延びてもよい。
【0010】
本発明による筆記具において、
前記軸筒の内面に、前記第1方向の前記一方側から前記他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びる傾斜面が形成され、
前記ノック部材が前方へ移動すると、前記スライド部材は、前記傾斜面に沿って移動してもよい。
【0011】
本発明による筆記具において、
前記スライド部材は、前記押圧部材をガイドするガイド部を有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ノック部材の移動距離よりも大きな距離だけ筆記部材を前方へ移動させる筆記具において、安定した筆記部材の出没動作を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、筆記具の一例を没入状態で示す縦断面図である。
図2図2は、図1の筆記具のストローク増大機構を拡大して示す縦断面図である。
図3図3は、図1の筆記具を突出状態で示す縦断面図である。
図4図4は、図3の筆記具のストローク増大機構を拡大して示す縦断面図である。
図5図5は、筆記具の軸筒の後軸を中心軸線に沿って切断した状態で示す斜視図である。
図6図6は、突出状態におけるストローク増大機構を拡大して示す斜視図である。
図7図7は、筆記具の分解斜視図である。
図8図8は、ストローク増大機構の一部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0015】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0016】
本明細書では、筆記具10の中心軸線Aが延びる方向(縦断面図における上下方向)を軸方向da、軸方向daと直交する方向を径方向、中心軸線A周りの円周に沿った方向を周方向とする。軸方向daに沿って、ペン先側を前方とし、ペン先と反対側を後方とする。また、径方向に沿って、中心軸線Aに近づく側を内側又は内方、中心軸線Aから遠ざかる側を外側又は外方とする。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、筆記具10の一例を没入状態で示す縦断面図であり、図2は、筆記具10のストローク増大機構40を拡大して示す縦断面図であり、図3は、筆記具10を突出状態で示す縦断面図であり、図4は、図3の筆記具10のストローク増大機構40を拡大して示す縦断面図である。
【0018】
本実施形態の筆記具10は、筆記部材15と、軸筒20と、出没機構30とを備えている。筆記具10は、中心軸線Aに沿って延びている。筆記部材15は、紙面等の筆記面に筆跡を形成する部材である。筆記部材15は、軸筒20内に収容されている。筆記部材15としては、ボールペン、万年筆、マーカー、シャープペンシル、スタイラスペン等に用いられる部材が挙げられる。本実施形態では、筆記具10がボールペンである例について説明する。この場合、筆記部材15は、ボールペン用のレフィルである。本実施形態の筆記部材15は、インキと、インキを収容する収容筒と、前端部に設けられた筆記部17と、後述の弾発部材38の弾発力を受ける第1受部18と、を有する。第1受部18は、筆記部材15の外面に形成された段部における前方を向く面である。
【0019】
インキとしては、ボールペンに使用可能なインキが特に制限なく使用され得る。一例として、インキとして熱変色性インキを使用することができる。熱変色性インキは、可逆熱変色性インキであってもよい。可逆熱変色性インキとしては、加熱により発色状態から消色状態へ変化し、冷却により消色状態から発色状態へ変化する加熱消色型、加熱により消色状態から発色状態へ変化し、冷却により発色状態から消色状態へ変化する加熱発色型、又は、特定温度域において特定の色彩を呈し、温度により色彩が変化する色彩記憶保持型、等の種々の可逆熱変色性インキが、単独で又は併用して使用されてもよい。
【0020】
軸筒20は、前軸21と、前軸21の後方に配置された中軸22と、中軸22の後方に配置された後軸23と、を含んでいる。軸筒20の中心軸線は、筆記具10の中心軸線Aと一致している。前軸21は、略筒状の形状を有する部材であり、前端に、筆記部材15の先端(筆記部17)が出没可能な前端開口部24を有している。前軸21の内面には、後述の弾発部材38の弾発力を受ける第2受部25が形成されている。第2受部25は、前軸21の内面に形成された段部における後方を向く面である。
【0021】
中軸22は、前軸21の後方に配置された、略筒状の形状を有する部材である。中軸22の前端部が前軸21の後端部に取付けられることにより、中軸22が前軸21に対して連結される。一例として、前軸21の後端部の外周に形成された雄ネジ部に対して、中軸22の前端部の内周に形成された雌ネジ部が螺合することにより、中軸22が前軸21に対して連結される。本実施形態では、中軸22を前軸21から取り外すことにより、筆記部材15を交換することができる。中軸22の内周面には、前方に突出する鋸歯状の複数のカム歯と、カム歯間に形成され軸方向daに延びる溝部と、が形成されている。
【0022】
後軸23は、中軸22の後方に配置された、略筒状の形状を有する部材である。後軸23の前端部が中軸22の後端部に取付けられることにより、後軸23が中軸22に対して連結される。一例として、中軸22の後端部の外周に形成された雄ネジ部に対して、後軸23の前端部の内周に形成された雌ネジ部が螺合することにより、後軸23が中軸22に対して連結される。
【0023】
図5は、後軸23を中心軸線Aに沿って切断した状態で示す斜視図である。本実施形態では、後軸23の内面に、傾斜面26、第1ガイド面27及び第2ガイド面28が形成されている。傾斜面26は、後述のスライド部材50の前面52をガイドする機能を有する。傾斜面26は、後軸23の内面に形成された段部における後方を向く面であり、中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びている。図5に示された例では、傾斜面26は平面である。第1ガイド面27は、軸方向da及び第1方向に平行に延びる平面であり、スライド部材50の側面53をガイドする面である。第2ガイド面28は、軸方向da及び第1方向に平行に延びる平面であり、後述の被押圧部材70の側面74をガイドする面である。
【0024】
後軸23の後端には、頭冠29が取り付けられている。頭冠29は、一例として、後軸23の後端部の内周に形成された雌ネジ部に対して、頭冠29の前端部の外周に形成された雄ネジ部が螺合することにより、頭冠29が後軸23に対して連結される。頭冠29は、後述のノック部材32の操作部32aが挿通される貫通孔を有している。頭冠29は、ノック部材32が軸筒20から後方へ抜け出ることを妨げる機能を有している。
【0025】
出没機構30は、筆記具10を、前軸21の前端開口部24から筆記部材15の先端部が突出する突出状態と、前端開口部24から筆記部材15の先端部が没入する没入状態と、を交互に切り換えるための機構である。出没機構30は、ノック部材32と、係合部材34と、回転カム部材36と、弾発部材38と、ストローク増大機構40と、を含んでいる。
【0026】
ノック部材32は、使用者により操作されることが意図された部材である。ノック部材32は、操作部32aと、操作部32aの前方に位置する拡径部32bと、を含んでいる。操作部32aは、使用者の指等で押圧される部分である。操作部32aは、頭冠29に設けられた貫通孔を通って後方に突出している。没入状態及び突出状態において、操作部32aの後端は軸筒20の後端から後方に突出する。本実施形態では、没入状態及び突出状態において、操作部32aの後端は頭冠29から後方に突出する。拡径部32bは、操作部32aの径方向寸法よりも大きな径方向寸法を有する。頭冠29の貫通孔の内径は、操作部32aは通過可能であるが、拡径部32bは通過不能である大きさを有している。したがって、ノック部材32は、頭冠29の貫通孔を通って後方へ抜け出ることがない。拡径部32bの前面には、凹部32cが形成されている。本実施形態では、後述の押圧部材60の後端部64の少なくとも一部が、凹部32c内に位置する。
【0027】
係合部材34は、全体として略円筒状の形状を有する部材である。係合部材34の前端には、前方に突出するカム歯34aが形成されている。また、係合部材34の外周面には、軸筒20(中軸22)内周面に形成された溝部に係合する突出部34bが形成されている。係合部材34は、突出部34bが軸筒20の溝部に係合した状態で、軸方向daに移動可能且つ周方向に回転不能に配置されている。
【0028】
回転カム部材36は、その外面に、軸方向daに延びるとともに軸筒20の溝部に係合する複数の突条36aを有している。突条36aの後端には、軸方向da及び周方向に対して傾斜したカム面36bが形成されている。カム面36bは、係合部材34のカム歯34aと係合する。
【0029】
弾発部材38は、例えばコイルスプリングである。弾発部材38は、筆記部材15の第1受部18と、軸筒20(前軸21)の第2受部25との間に圧縮状態で配置されている。したがって、弾発部材38は、軸筒20に対して筆記部材15を後方へ向けて常に付勢している。
【0030】
本実施形態の出没機構30では、使用者がノック部材32を前方へ押圧すると、ストローク増大機構40、係合部材34及び回転カム部材36を介して筆記部材15が前方に向かって移動し、筆記部材15の先端部が前端開口部24から前方へ突出する。ノック部材32の前方への押圧が解除されても、筆記部材15は、筆記部材15の先端部が前端開口部24から前方へ突出した状態を維持する。使用者がノック部材32を前方へ押圧すると、筆記部材15が前方に向かって微小距離だけ移動する。ノック部材32の前方への押圧が解除されると、弾発部材38の弾発力により、筆記部材15が後方に向かって付勢され、筆記部材15の先端部が前端開口部24から没入する。なお、このような出没動作を実現する、軸筒20の溝部、係合部材34及び回転カム部材36の具体的な構造及び動作は公知であるので詳細な説明は省略する。一例として、特開昭63-233895号公報(特許文献1)に開示された機構を用いることが可能である。
【0031】
本実施形態では、筆記具10は、使用者によりノック部材32が前方に押圧されたときに、ノック部材32の軸方向daに沿った前方への移動距離よりも、筆記部材15の軸方向daに沿った前方への移動距離の方が大きくなるように構成されている。このような機能を実現するストローク増大機構40について、主に図2及び図4図8を参照して説明する。図6は、突出状態におけるストローク増大機構40を拡大して示す斜視図であり、図7は、筆記具10の全体の分解斜視図であり、図8は、ストローク増大機構40の一部の分解斜視図である。
【0032】
本実施形態のストローク増大機構40は、後軸23の内面に形成された傾斜面26、第1ガイド面27及び第2ガイド面28、スライド部材50、押圧部材60並びに被押圧部材70を含んでいる。上述したように、傾斜面26は、後軸23の内面に形成された段部における後方を向く面であり、中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びている(図5参照)。
【0033】
スライド部材50は、ノック部材32から受けた前方へ向かう押圧力を押圧部材60へ伝達する部材である。スライド部材50は、ノック部材32の前方に配置されている。とりわけ、スライド部材50は、軸筒20(後軸23)の傾斜面26とノック部材32との間に配置されている。スライド部材50は、ノック部材32の前方への移動にともなって、前方へ移動し且つ中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ移動することができるように構成されている。
【0034】
スライド部材50は、前方を向く前面52と、軸方向da及び第1方向d1の両方に直交する第2方向に対向する一対の側面53と、を有している。図8に示されているように、前面52は、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びている。図示された例では、前面52は平面である。スライド部材50が前方に押圧されると、前面52が軸筒20(後軸23)の傾斜面26に沿ってスライドする。これにより、スライド部材50は、前方へ移動し且つ第1方向d1の一方側から他方側へ移動する。各側面53は、軸方向da及び第1方向d1に対して平行に延びており、一対の側面53は互いに平行である。図示された例では、側面53はいずれも平面である。一対の側面53は、それぞれ軸筒20(後軸23)の第1ガイド面27にガイドされる。これにより、スライド部材50の周方向の回転が規制されている。
【0035】
スライド部材50には、凹部54が形成されている。凹部54は、軸方向da及び第1方向d1に延びており、軸方向daの両端及び第1方向d1の他方側に開口している。凹部54は、第2方向において互いに対面する一対の側面56を含む。各側面56は、軸方向da及び第1方向d1に対して平行に延びており、一対の側面56は互いに平行である。図示された例では、側面56はいずれも平面である。一対の側面56は、押圧部材60をガイドするガイド部を構成する。したがって、本明細書では、一対の側面56をガイド部56と呼ぶこともある。
【0036】
スライド部材50は、押圧部材60に当接する当接部58を有している。当接部58は、押圧部材60の当接面68に当接可能に構成されている。図8に示された例では、当接部58は、前面52と凹部54との間の接続部に形成されており、第2方向に延びている。当接部58が押圧部材60の当接面68を押圧することにより、スライド部材50から押圧部材60へ押圧力が伝達される。図示された例では、当接部58は、面取り部を有してもよい。面取り部は、丸みを帯びた形状を有してもよい。一例として、面取り部は、第2方向に直交する断面において円弧状の形状を有してもよい。当接部58が面取り部を有していると、押圧部材60の当接面68に傷が生じることを抑制することができる。
【0037】
押圧部材60は、スライド部材50から受けた押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材である。押圧部材60は、前端部62と、後端部64と、側面66と、を有している。押圧部材60は、スライド部材50の移動にともなって中心軸線Aに対する角度が変更されるように構成されている。そして、押圧部材60は、その角度が変更されることにより、前端部62で被押圧部材70の受圧面72を押圧する。押圧部材60は、スライド部材50の凹部54の一対の側面56の間に位置しており、一対の側面56により構成されるガイド部56により、第2方向d2の移動が規制されている。
【0038】
本実施形態では、押圧部材60は、中心軸線A及び第1方向d1と平行な断面において長手方向軸線Aを有する。長手方向軸線Aは、中心軸線A及び第1方向d1と平行な断面において押圧部材60の寸法を任意の方向に沿って測定したときに、その寸法が最大となるような方向である。長手方向軸線Aは、前端部62と後端部64とを結ぶ直線が延びる方向と一致する。図2に示されているように、没入状態において、長手方向軸線Aは、軸方向da及び第1方向d1に対して傾斜した方向に延びている。本実施形態では、図2及び図4に示されているように、ノック部材32の前後方向の移動にともなって、中心軸線Aと長手方向軸線Aとの間の角度が変化する。とりわけ、ノック部材32が前方に移動すると、ノック部材32に押されて、押圧部材60の全体が前方に移動するとともに、スライド部材50に押されて、中心軸線Aと長手方向軸線Aと間の角度が変化する。図2及び図4から理解できるように、突出状態における中心軸線Aと長手方向軸線Aと間の角度θは、没入状態における中心軸線Aと長手方向軸線Aと間の角度θよりも小さい。すなわち、ノック部材32が前方へ移動すると、中心軸線Aと長手方向軸線Aとの間の角度が小さくなる。なお、中心軸線Aと長手方向軸線Aと間の角度とは、中心軸線A及び第1方向d1と平行な断面において中心軸線Aと長手方向軸線Aとによって形成される2つの角度のうち、小さい方の角度を指す。
【0039】
押圧部材60は、全体として略角柱形状を有している。この場合、押圧部材60は、前端部62と後端部64とを接続する4つの側面66を有している。前端部62及び後端部64には、丸みを帯びた形状が付与されている。とりわけ、前端部62及び後端部64は、いずれも、第2方向に直交する断面において円弧状の輪郭を有している。より詳細には、前端部62及び後端部64は、いずれも、第2方向に直交する断面において半円状の輪郭を有している。前端部62及び後端部64が丸みを帯びた形状を有していることによって、押圧部材60がスムーズにその角度を変更できるとともに、ノック部材32及び被押圧部材70に傷が生じることを抑制することができる。なお、後端部64は、ノック部材32の前端に当接する。また、本実施形態では、後端部64の少なくとも一部が、ノック部材32の凹部32c内に位置する。これにより、押圧部材60の後端部64が第2方向d2に位置ずれすることを抑制することができる。
【0040】
4つの側面66のうちの1つの側面66は、スライド部材50の当接部58が当接する当接面68となっている。とりわけ、4つの側面66のうち、後方及び第1方向d1の一方側を向く側面66が、当接面68となっている。4つの側面66は、いずれも平面であってもよい。また、側面66と前端部62との間、側面66と後端部64との間、及び、隣り合う2つの側面66の間には、面取り部が形成されてもよい。
【0041】
被押圧部材70は、押圧部材60から押圧力を受ける部材である。被押圧部材70は、押圧部材60から受けた押圧力を係合部材34へ伝達する。被押圧部材70は、前後動可能に構成されており、後端に設けられた受圧面72と、第2方向に対向する一対の側面74と、を有している。受圧面72は、押圧部材60からの押圧力を受ける面である。本実施形態では、受圧面72は、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて前方から後方へ向かうように延びている。受圧面72は、平面であってもよい。また、受圧面72は、曲面等の平面以外の形状を有してもよい。なお、受圧面72は、中心軸線Aに対して傾斜していなくてもよい。すなわち、受圧面72は、中心軸線Aに直交して延びてもよい。
【0042】
各側面74は、軸方向da及び第1方向d1に対して平行に延びており、一対の側面74は互いに平行である。図示された例では、側面74はいずれも平面である。一対の側面74は、それぞれ軸筒20(後軸23)の第2ガイド面28にガイドされる。これにより、被押圧部材70の周方向の回転が規制されている。なお、被押圧部材70の前方部分は、係合部材34内に挿入されている。被押圧部材70と係合部材34とは、互いに固定されてもよいし、固定されていなくてもよい。
【0043】
本実施形態の筆記具10は、ノック部材32からの押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材として、スライド部材50及び押圧部材60の2つの部材を有している。この場合、ノック部材からの押圧力を1つの部材(例えば特許文献1の中間押し部材)で被押圧部材へ伝達する従来技術と比較して、各部材に作用する力を分散させることができる。これにより、ノック部材32からの押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材が変形したり破損したりすることを、効果的に抑制することができる。したがって、安定して筆記部材15の出没動作を行うことが可能になる。
【0044】
次に、主に図1図4を参照して、筆記具10の出没動作について説明する。図1及び図2は、筆記具10を没入状態で示しており、図3及び図4は、筆記具10を突出状態で示している。
【0045】
没入状態では、弾発部材38の弾発力により、筆記部材15が後方に向けて付勢されている。これにより、回転カム部材36及び係合部材34も後方に向けて付勢され、係合部材34の突出部34bが軸筒20(中軸22)内周面に形成された溝部の最後部に位置する。係合部材34が軸方向daにおける移動範囲の最後部に位置することにより、被押圧部材70、押圧部材60、スライド部材50及びノック部材32は、それぞれ軸方向daにおける移動範囲の後方部分に位置する。没入状態において、スライド部材50は、第1方向d1の一方側に位置する。このときの押圧部材60の長手方向軸線Aと中心軸線Aとの間の角度はθである。軸方向daに沿った押圧部材60の長さはLである。また、被押圧部材70の受圧面72と押圧部材60の前端部62との当接部分と、被押圧部材70の前端との間の軸方向daに沿った長さはLである。
【0046】
使用者がノック部材32を前方へ向けて押圧すると、弾発部材38の弾発力に抗してノック部材32が前方へ移動する。スライド部材50及び押圧部材60は、ノック部材32から前方へ向かう押圧力を受けて、それぞれ前方へ移動する。スライド部材50の前面52が軸筒20(後軸23)の内面に形成された傾斜面26に沿ってスライドすることにより、スライド部材50は、第1方向d1の一方側から他方側へ向けて移動する。このとき、スライド部材50の当接部58が押圧部材60の当接面68に当接して当接面68を押圧する。とりわけ、当接部58は、押圧部材60の当接面68を、第1方向d1の他方側へ向けて押圧する。
【0047】
押圧部材60は、スライド部材50からの押圧力を受けて、前端部62が第1方向d1の他方側へ向けて移動する。このとき、第1方向d1における押圧部材60の後端部64の位置は変化しない。したがって、中心軸線Aに対する押圧部材60の角度が変更される。とりわけ、中心軸線Aと長手方向軸線Aと間の角度は、没入状態における中心軸線Aと長手方向軸線Aと間の角度θよりも小さくなる。これにより、軸方向daに沿った押圧部材60の長さは大きくなる。したがって、被押圧部材70の受圧面72が中心軸線Aに対して傾斜していない場合であっても、押圧部材60からの押圧力を受けて前方に移動する被押圧部材70の前方への移動ストロークは、ノック部材32の前方への移動ストロークよりも大きくなる。筆記部材15は、係合部材34及び回転カム部材36を介して被押圧部材70と一体的に前方へ移動する。したがって、ノック部材32の軸方向daに沿った前方への移動距離よりも、筆記部材15の軸方向daに沿った前方への移動距離の方が大きくなる。
【0048】
本実施形態では、被押圧部材70の受圧面72は、中心軸線Aに対して傾斜している。とりわけ、受圧面72は、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて前方から後方へ向かうように延びている。中心軸線Aに対する押圧部材60の角度が変更されることにともなって、被押圧部材70の受圧面72と押圧部材60の前端部62との当接部分は、第1方向d1の一方側から他方側へ移動する。これにより、当該当接部分と被押圧部材70の前端との間の軸方向daに沿った長さは、没入状態における当該当接部分と被押圧部材70の前端との間の軸方向daに沿った長さLよりも大きくなる。したがって、押圧部材60の後端部64から被押圧部材70の前端までの軸方向daに沿った長さは、さらに大きくなる。この場合、ノック部材32の軸方向daに沿った前方への移動距離よりも、筆記部材15の軸方向daに沿った前方への移動距離の方がさらに大きくなる。
【0049】
ノック部材32がさらに前方へ移動すると、筆記具10は、突出状態となる。突出状態では、スライド部材50は、第1方向d1の他方側に位置する。このときの押圧部材60の長手方向軸線Aと中心軸線Aとの間の角度はθである。軸方向daに沿った押圧部材60の長さはLである。また、被押圧部材70の受圧面72と押圧部材60の前端部62との当接部分と、被押圧部材70の前端との間の軸方向daに沿った長さはLである。このとき、角度θは角度θよりも小さい。長さLは長さLよりも大きい。また、長さLは長さLよりも大きい。
【0050】
本実施形態の筆記具10は、前端開口部24を有する軸筒20と、軸筒20内に配置された筆記部材15と、筆記部材15の先端を前端開口部24から出没させる出没機構30と、を備えた筆記具10であって、出没機構30は、使用者により前方へ押圧可能なノック部材32と、ノック部材32が前方に押圧されたときに、ノック部材32の軸方向daの移動距離よりも大きな距離だけ筆記部材15を前方へ移動させるストローク増大機構40と、を有し、ストローク増大機構40は、ノック部材32の前方への移動にともなって、前方へ移動し且つ軸筒20の中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ移動するスライド部材50と、後端に受圧面72を有し、前後動可能な被押圧部材70と、前端部62を有し、スライド部材50の移動にともなって中心軸線Aに対する角度が変更されることにより、前端部62で受圧面72を押圧する押圧部材60と、を有する。
【0051】
このような筆記具10によれば、ノック部材32からの押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材として、スライド部材50及び押圧部材60の2つの部材を有しているので、ノック部材からの押圧力を1つの部材(例えば特許文献1の中間押し部材)で被押圧部材へ伝達する従来技術と比較して、各部材に作用する力を分散させることができる。これにより、ノック部材32からの押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材が変形したり破損したりすることを、効果的に抑制することができる。したがって、安定して筆記部材15の出没動作を行うことが可能になる。
【0052】
本実施形態の筆記具10では、押圧部材60は、中心軸線A及び第1方向d1と平行な断面において長手方向軸線Aを有し、ノック部材32が前方へ移動すると、中心軸線Aと長手方向軸線Aとの間の角度が小さくなる。
【0053】
このような筆記具10によれば、ノック部材32が前方へ移動したときに、軸方向daに沿った押圧部材60の長さが大きくなる。したがって、押圧部材60からの押圧力を受けて前方に移動する被押圧部材70の前方への移動ストロークは、ノック部材32の前方への移動ストロークよりも大きくなる。したがって、ノック部材32の軸方向daに沿った前方への移動距離よりも、筆記部材15の軸方向daに沿った前方への移動距離の方が大きくなる。
【0054】
本実施形態の筆記具10では、受圧面72は、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて前方から後方へ向かうように延びる。
【0055】
このような筆記具10によれば、ノック部材32が前方へ移動したときに、被押圧部材70の受圧面72と押圧部材60の前端部62との当接部分と被押圧部材70の前端との間の軸方向daに沿った長さは、没入状態における当該当接部分と被押圧部材70の前端との間の軸方向daに沿った長さLよりも大きくなる。したがって、押圧部材60の後端部64から被押圧部材70の前端までの軸方向daに沿った長さは、さらに大きくなる。この場合、ノック部材32の軸方向daに沿った前方への移動距離よりも、筆記部材15の軸方向daに沿った前方への移動距離の方が大きくなる。
【0056】
本実施形態の筆記具10では、軸筒20の内面に、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びる傾斜面26が形成され、ノック部材32が前方へ移動すると、スライド部材50は、傾斜面26に沿って移動する。
【0057】
このような筆記具10によれば、簡単な構成により、ノック部材32の前方への移動にともなって、スライド部材50を、第1方向d1の一方側から他方側へ移動させることができる。
【0058】
本実施形態の筆記具10では、スライド部材50は、押圧部材60をガイドするガイド部56を有する。
【0059】
このような筆記具10によれば、ガイド部56により押圧部材60がガイドされるので、押圧部材60の第2方向d2の移動が規制される。したがって、スライド部材50から押圧部材60へ押圧力を安定して伝達することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 筆記具
15 筆記部材
17 筆記部
18 第1受部
20 軸筒
21 前軸
24 前端開口部
25 第2受部
22 中軸
23 後軸
26 傾斜面
27 第1ガイド面
28 第2ガイド面
29 頭冠
30 出没機構
32 ノック部材
32a 操作部
32b 拡径部
32c 凹部
34 係合部材
34a カム歯
34b 突出部
36 回転カム部材
36a 突条
36b カム面
38 弾発部材
40 ストローク増大機構
50 スライド部材
52 前面
53 側面
54 凹部
56 側面(ガイド部)
58 当接部
60 押圧部材
62 前端部
64 後端部
66 側面
68 当接面
70 被押圧部材
72 受圧面
74 側面
A 中心軸線
長手方向軸線
da 軸方向
d1 第1方向
d2 第2方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8