(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081222
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】測定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 27/00 20060101AFI20230602BHJP
G01R 29/26 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
H04L27/00 A
G01R29/26 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194995
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】竹内 知明
(72)【発明者】
【氏名】岡野 正寛
(57)【要約】
【課題】シンボル誤り率が大きい劣悪な受信環境においても、受信信号の品質を正確に測定する。
【解決手段】測定装置1は、被測定信号のコンスタレーションデータを量子化して量子化データを生成する量子化部10と、量子化データの複素平面上における領域ごとの生起確率を求める生起確率算出部20と、領域ごとの生起確率を累積した累積確率を算出する累積確率算出部30と、あらかじめ被測定信号の領域ごとの生起確率を累積した累積確率を搬送波対雑音電力比ごとに推定し、参照信号として生成する参照信号生成部40と、参照信号と累積確率算出部30により算出された累積確率との二乗誤差を算出する二乗誤差算出部70と、を備え、二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比を被測定信号の搬送波対雑音電力比として出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定信号のコンスタレーションデータを量子化して量子化データを生成する量子化部と、
前記量子化データの複素平面上における領域ごとの生起確率を求める生起確率算出部と、
前記領域ごとの生起確率を累積した累積確率を算出する累積確率算出部と、
あらかじめ被測定信号の前記領域ごとの生起確率を累積した累積確率を搬送波対雑音電力比ごとに推定し、参照信号として生成する参照信号生成部と、
前記参照信号と前記累積確率算出部により算出された前記累積確率との二乗誤差を算出する二乗誤差算出部と、を備え、
前記二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比を前記被測定信号の搬送波対雑音電力比として出力する測定装置。
【請求項2】
前記二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比を前記搬送波対雑音電力比として出力する選択部を備える、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比と、前記二乗誤差が2番目に小さくなるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比とをそれぞれの二乗誤差で重み付けして、前記搬送波対雑音電力比として出力する第1重み付け部を備える、請求項1に記載の測定装置。
【請求項4】
前記参照信号生成部は、
ランダムなビット列を出力するビット列生成部と、
前記ビット列を所定のキャリア変調方式によりディジタル変調してディジタル変調信号を生成するキャリア変調部と、
搬送波対雑音電力比に応じて雑音を発生する雑音発生部と、
前記ディジタル変調信号に前記雑音を加算して加算信号を生成する加算部と、
前記加算信号のコンスタレーションデータを量子化して参照信号用量子化データを生成する参照信号用量子化部と、
前記参照信号用量子化データの複素平面上における領域ごとの参照信号用生起確率を求める参照信号用生起確率算出部と、
前記領域ごとの参照信号用生起確率を累積して前記参照信号を算出する参照信号用累積確率算出部と、
を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記参照信号生成部は、
搬送波対雑音電力比が既知の被測定信号のコンスタレーションデータを量子化して参照信号用量子化データを生成する参照信号用量子化部と、
前記参照信号用量子化データの複素平面上における領域ごとの参照信号用生起確率を求める参照信号用生起確率算出部と、
前記領域ごとの参照信号用生起確率を累積して前記参照信号を算出する参照信号用累積確率算出部と、
を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記参照信号生成部は、
搬送波対雑音電力比に応じて所定の計算式により複素平面上の領域ごとの参照信号用生起確率を算出する参照信号用生起確率算出部と、
前記領域ごとの参照信号用生起確率を累積して前記参照信号を算出する参照信号用累積確率算出部と、
を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記参照信号生成部は、
前記被測定信号の周波数特性に基づいて、周波数ごとにC/N劣化量を推定するC/N劣化推定部と、
前記C/N劣化量の値ごとの生起確率を算出するC/N劣化量生起確率算出部と、
前記参照信号用累積確率算出部により算出された前記参照信号を、前記C/N劣化量生起確率算出部により算出された生起確率で重み付けして出力する第2重み付け部と、
をさらに備える、請求項4から6のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1から7のいずれか一項に記載の測定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上放送並びに固定通信及び移動通信の技術分野に関するものであり、特に、ディジタル信号の伝送における信号品質を評価するための測定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル伝送では、各サービスで利用可能な周波数帯域幅において、より多くの情報が伝送可能なよう、多値変調方式がよく用いられる。周波数利用効率を高めるには、変調信号1シンボル当たりに割り当てるビット数(変調次数)を高めるのが有効であるが、周波数1Hzあたりに伝送可能な情報速度の上限値と信号対雑音比の関係はシャノン限界で制限される。現在利用されている地上デジタル放送では、誤り訂正符号を用いた受信装置における情報訂正が行われている。パリティビットと呼ばれる冗長信号を送るべき情報に付加することで信号の冗長度(符号化率)を制御し、雑音に対する耐性を上げることが可能である。誤り訂正符号と変調方式は密接に関わっており、信号対雑音比に対する周波数利用効率の理論的な上限値はシャノン限界と呼ばれる。シャノン限界に迫る性能を有する強力な誤り訂正符号の一つとしてLDPC(Low Density Parity Check)符号が1962年にギャラガーによって提案されている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、信号点を格子状に配置するのではなく、信号点間距離が一定とはせずに不均一に配置するとともに、LDPC符号等の高効率の誤り訂正符号やビットインターリーブと組み合わせることにより、雑音耐性を向上させることができる(非特許文献2参照)。したがって、より劣悪な受信環境においてもエラーフリー伝送が実現可能となっている。
【0004】
一方、ディジタル信号を伝送する際には、信号を受信する際の信号品質を評価することが重要である。例えば双方向通信の場合には、受信信号の品質に応じて伝送パラメータを変更することにより、高いスループットが得られる。伝送誤りが生じている場合にも伝送パラメータの変更により、スループットは低くとも情報伝送を実現することができる。片方向通信である放送においても受信信号の品質を評価することは、受信マージンを知ることができる他、エラーフリー伝送が不可能な場合でも、あとどの程度受信信号の品質を改善する必要があるのかといったことを把握するという意味で重要である。
【0005】
ディジタル信号の受信信号の品質を評価する際には、受信電界強度といった基本的な電波伝搬に関わる情報の他、ディジタル信号としての評価指標として変調誤差比(MER:Modulation Error Ratio)やエラーベクトル振幅(EVM:Error Vector Magnitude)が用いられる(非特許文献3参照)。MERは式(1)により定義される。ここで、Nは算出に用いるシンボル数、(Ik,Qk)は参照信号、(δIk,δQk)は誤差ベクトルを示す。
【0006】
【0007】
また、参照信号と誤差ベクトルは式(2)の関係にある。ここで(I~k,Q~k)は受信信号である。
【0008】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R. G Gallager. Low density parity check codes. Research Monograph series Cambridge, MIT Press, 1963
【非特許文献2】N. S. Loghin, J. Zollner, B. Mouhouche, D. Ansorregui, J. Kim and S. Park, "Non-Uniform Constellations for ATSC 3.0," in IEEE Transactions on Broadcasting, vol. 62, no. 1, pp. 197-203, March 2016, doi: 10.1109/TBC.2016.2518620.
【非特許文献3】ETSI technical report ETR 290: "Measurement guidelines for DVB systems", Errata 1, May 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、既知信号を送信する等により受信側でも送信信号を参照信号として用いることができる場合、MERは受信信号の品質を正確に示すものとなる。しかし、情報伝送を行う場合には受信側では送信信号は既知ではないため、参照信号としてはシンボル判定を行った硬判定結果を用いることになる。このとき劣悪な受信環境においてはシンボル判定によって多くの判定誤りが発生することになるため、MERは受信信号の品質を正確に示すものではなくなってしまう。このことは上記のLDPC符号を用いる場合や、不均一配置のディジタル変調を用いる場合に顕著となる。なお、EVMはMERと密接に関連しており、一般的には一方からもう一方を計算により求めることができ、上記の性質は同一であることから説明は省略する。
【0011】
すなわち、従来のディジタル信号の伝送信号品質を評価する際に用いる指標であるMERやEVMは、特に受信環境が劣悪な場合、シンボル判定時の判定誤りに起因して、正確な評価値とはならない、という問題がある。
【0012】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、シンボル誤り率が大きい劣悪な受信環境においても、受信信号の品質を正確に測定することのできる測定装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、一実施形態に係る測定装置は、被測定信号のコンスタレーションデータを量子化して量子化データを生成する量子化部と、前記量子化データの複素平面上における領域ごとの生起確率を求める生起確率算出部と、前記領域ごとの生起確率を累積した累積確率を算出する累積確率算出部と、あらかじめ被測定信号の前記領域ごとの生起確率を累積した累積確率を搬送波対雑音電力比ごとに推定し、参照信号として生成する参照信号生成部と、前記参照信号と前記累積確率算出部により算出された前記累積確率との二乗誤差を算出する二乗誤差算出部と、を備え、前記二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比を前記被測定信号の搬送波対雑音電力比として出力する。
【0014】
さらに、一実施形態に係る測定装置において、前記二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比を前記搬送波対雑音電力比として出力する選択部を備えてもよい。
【0015】
さらに、一実施形態に係る測定装置において、前記二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比と、前記二乗誤差が2番目に小さくなるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比とをそれぞれの二乗誤差で重み付けして、前記搬送波対雑音電力比として出力する第1重み付け部を備えてもよい。
【0016】
さらに、一実施形態に係る測定装置において、前記参照信号生成部は、ランダムなビット列を出力するビット列生成部と、前記ビット列を所定のキャリア変調方式によりディジタル変調してディジタル変調信号を生成するキャリア変調部と、搬送波対雑音電力比に応じて雑音を発生する雑音発生部と、前記ディジタル変調信号に前記雑音を加算して加算信号を生成する加算部と、前記加算信号のコンスタレーションデータを量子化して参照信号用量子化データを生成する参照信号用量子化部と、前記参照信号用量子化データの複素平面上における領域ごとの参照信号用生起確率を求める参照信号用生起確率算出部と、前記領域ごとの参照信号用生起確率を累積して前記参照信号を算出する参照信号用累積確率算出部と、を備えてもよい。
【0017】
さらに、一実施形態に係る測定装置において、前記参照信号生成部は、搬送波対雑音電力比が既知の被測定信号のコンスタレーションデータを量子化して参照信号用量子化データを生成する参照信号用量子化部と、前記参照信号用量子化データの複素平面上における領域ごとの参照信号用生起確率を求める参照信号用生起確率算出部と、前記領域ごとの参照信号用生起確率を累積して前記参照信号を算出する参照信号用累積確率算出部と、を備えてもよい。
【0018】
さらに、一実施形態に係る測定装置において、前記参照信号生成部は、搬送波対雑音電力比に応じて所定の計算式により複素平面上の領域ごとの参照信号用生起確率を算出する参照信号用生起確率算出部と、前記領域ごとの参照信号用生起確率を累積して前記参照信号を算出する参照信号用累積確率算出部と、を備えてもよい。
【0019】
さらに、一実施形態に係る測定装置において、前記参照信号生成部は、前記被測定信号の周波数特性に基づいて、周波数ごとにC/N劣化量を推定するC/N劣化推定部と、前記C/N劣化量の値ごとの生起確率を算出するC/N劣化量生起確率算出部と、前記参照信号用累積確率算出部により算出された前記参照信号を、前記C/N劣化量生起確率算出部により算出された生起確率で重み付けして出力する第2重み付け部と、をさらに備えてもよい。
【0020】
また、一実施形態係るプログラムは、コンピュータを、上記測定装置として機能させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シンボル誤り率が大きい劣悪な受信環境においても、受信信号の品質を正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施形態に係る測定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る測定装置に入力される受信信号のコンスタレーションの例を示す図である。
【
図3】一実施形態に係る測定装置により生成される生起確率の例を示す図である。
【
図4】一実施形態に係る測定装置における累積確率算出部の構成例を示すブロック図である。
【
図5】一実施形態に係る測定装置により生成される1次元化生起確率の例を示す図である。
【
図6】一実施形態に係る測定装置により生成される累積確率の例を示す図である。
【
図7】一実施形態に係る測定装置により生成される二乗誤差の例を示す図である。
【
図8】一実施形態に係る測定装置の変形例を示すブロック図である。
【
図9】一実施形態に係る参照信号生成部の第1の構成例を示すブロック図である。
【
図10】一実施形態に係る参照信号生成部の第2の構成例を示すブロック図である。
【
図11】一実施形態に係る参照信号生成部の第3の構成例を示すブロック図である。
【
図12】一実施形態に係る参照信号生成部の第4の構成例を示すブロック図である。
【
図13】受信信号の周波数特性の例を示す図である。
【
図14】受信信号のC/N劣化量の例を示す図である。
【
図15】受信信号のC/N劣化量の生起確率の例を示す図である。
【
図16】一実施形態に係る参照信号生成部の第5の構成例を示すブロック図である。
【
図17】計算機シミュレーション系統を示す図である。
【
図18】256QAM NUC,R=12/16の信号点配置を示す図である。
【
図19】256QAM NUC,R=12/16の評価結果を示す図である。
【
図20】4096QAM NUC,R=4/16の信号点配置を示す図である。
【
図21】4096QAM NUC,R=4/16の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る測定装置の構成例を示すブロック図である。
図1に示す測定装置1は、量子化部10と、第1生起確率算出部20と、累積確率算出部30と、参照信号生成部40と、参照信号・C/N記憶部60と、二乗誤差算出部70と、選択部80と、を備える。
【0025】
測定装置1は、受信信号(被測定信号)のコンスタレーションを入力し、受信信号の搬送波対雑音電力比(以下、C/Nという。)を出力する。
【0026】
【0027】
図2に、コンスタレーションデータの例を示す。この例は、キャリア変調が256QAM NUC(Non-Uniform Constellation:不均一コンスタレーション)、誤り訂正符号の符号化率が12/16の場合であり、複素平面上の点として表している。
図2(a)はC/Nが0dBの場合を示しており、
図2(b)はC/Nが20dBの場合を示しており、
図2(c)はC/Nが40dBの場合を示している。
【0028】
【0029】
図3に、第1生起確率算出部20により生成される生起確率の例を示す。
図3は
図2に示したコンスタレーションに基づいて生成された生起確率であり、
図3(a)はC/Nが0dBの場合を示しており、
図3(b)はC/Nが20dBの場合を示しており、
図3(c)はC/Nが40dBの場合を示している。
【0030】
累積確率算出部30は、領域ごとの生起確率を累積した累積確率を算出し、二乗誤差算出部70に出力する。
【0031】
図4に、累積確率算出部30の構成例を示す。
図4に示す累積確率算出部30は、1次元化部31と、ソート部32と、累積部33と、を備える。
【0032】
【0033】
【0034】
図5に、1次元化部31により生成される1次元化生起確率の例を示す。
図5は
図3に示した生起確率に基づいて生成された1次元化生起確率であり、
図5(a)はC/Nが0dBの場合を示しており、
図5(b)はC/Nが20dBの場合を示しており、
図5(c)はC/Nが40dBの場合を示している。
【0035】
ソート部32は、1次元化部31により生成された1次元化生起確率を並べ替える。なおソートは昇順、降順どちらでも構わないことから、特に理由がなければ昇順とすればよい。ソート部32の出力を式(4)に示すようにP2(k)とする。ソート部32は、並べ替えた生起確率(ソート生起確率)を累積部33に出力する。
【0036】
【0037】
累積部33は、ソート部32により生成されたソート生起確率を累積し、式(5)により累積確率P3(k)を算出する。累積部33は、算出した累積確率を二乗誤差算出部70に出力する。
【0038】
【0039】
あるいは、累積部33は、式(6)により累積確率P3(k)を算出してもよい。
【0040】
【0041】
図6に、累積部33により生成される累積確率の例を示す。
図6は
図5に示した1次元化生起確率に基づいて生成された累積確率であり、
図6(a)はC/Nが0dBの場合を示しており、
図6(b)はC/Nが20dBの場合を示しており、
図6(c)はC/Nが40dBの場合を示している。例えばC/Nが0dBの場合、累積確率が1に達していないことが分かる。これは、量子化部10において、量子化ビット数で決められる表現可能な範囲を越えた場合に無効データとして出力するためである。
【0042】
参照信号生成部40は、あらかじめ被測定信号の複素領域ごとの生起確率を累積した累積確率をC/Nごとに推定し、参照信号として生成する。該参照信号は、累積確率算出部30により生成される累積確率に相当する。参照信号生成部40は、参照信号をC/Nと紐づけて参照信号・C/N記憶部60に記憶させる。参照信号生成部40の具体的な構成については後述する。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
図7に、二乗誤差算出部70により生成される二乗誤差の例を示す。
図7は
図6に示した累積確率に基づいて生成された二乗誤差であり、
図7(a)はC/Nが0dBの場合を示しており、
図7(b)はC/Nが20dBの場合を示しており、
図7(c)はC/Nが40dBの場合を示している。
【0047】
選択部80は、式(8)及び式(9)に示すように、二乗誤差算出部70から入力される二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応するC/Nを測定結果(被測定信号のC/N)γとして外部に出力する。
【0048】
【0049】
(測定装置1の変形例)
図8に、測定装置1の変形例を示す。
図8に示す測定装置2は、量子化部10と、第1生起確率算出部20と、累積確率算出部30と、参照信号生成部40と、参照信号・記憶部60と、二乗誤差算出部70と、第1重み付け部90と、を備える。測定装置2は、
図1に示した測定装置1と比較して、選択部80の代わりに第1重み付け部90を備えている点が異なっている。
【0050】
二乗誤差算出部70は、算出した二乗誤差を第1重み付け部90に出力する。第1重み付け部90は、式(10)~(12)に示すように、二乗誤差算出部70から入力される二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応するC/Nと、二乗誤差が2番目に小さくなる参照信号に対応するC/Nとをそれぞれの二乗誤差で重み付けして、測定結果(被測定信号のC/N)γとして出力する。
【0051】
【0052】
同様に、第1重み付け部90は、二乗誤差が小さい参照信号に対応する3以上のC/Nを用いて重みづけを行ってもよい。すなわち、測定装置1,2は、二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比を被測定信号のC/Nとして出力する。
【0053】
次に、参照信号生成部40の詳細について説明する。
【0054】
(参照信号生成部40の第1の構成例)
図9に、参照信号生成部40の第1の構成例を示す。
図9に示す参照信号生成部40-1は、ビット列生成部41と、キャリア変調部42と、雑音発生部43と、加算部44と、量子化部45と、第1生起確率算出部46と、累積確率算出部47と、を備える。
【0055】
ビット列生成部41は、ランダムなビット列を生成し、キャリア変調部42に出力する。
【0056】
キャリア変調部42は、ビット列生成部41から入力されるランダムなビット列を整数化した後に所定のキャリア変調方式によりディジタル変調し、ディジタル変調信号を生成する。キャリア変調部42は、ディジタル変調信号を加算部44に出力する。
【0057】
雑音発生部43は、信号雑音電力比γsの白色雑音を発生する。雑音発生部43は、白色雑音を加算部44に出力する。すなわち、雑音発生部43は、C/Nに応じた電力の白色雑音を発生する。
【0058】
加算部44は、キャリア変調部42から入力されるディジタル変調信号に、雑音発生部43から入力される白色雑音を加算して加算信号を生成する。加算部44は、加算信号のコンスタレーションデータを量子化部45に出力する。
【0059】
量子化部45、第1生起確率算出部46、及び累積確率算出部47の処理は、
図1に示した測定装置1の量子化部10、第1生起確率算出部20、及び累積確率算出部30と同じであるため、説明を簡略化する。量子化部45は、加算信号のコンスタレーションデータを量子化して参照信号用量子化データを生成する。第1生起確率算出部46は、参照信号用量子化データの複素平面上における領域ごとの参照信号用生起確率を求める。累積確率算出部47は、領域ごとの参照信号用生起確率を累積して参照信号を算出する。
【0060】
雑音発生部43が信号雑音電力比γsの値を変えてS個の白色雑音を発生させた場合、最終的にC/Nと参照信号のペアがS個生成され、これらは参照信号・C/N記憶部60において記憶される。
【0061】
参照信号生成部40-1は、被測定信号を模擬的に生成し参照信号とするものである。したがって、十分な数のサンプルを収集して参照信号を生成することで測定結果の精度を確保する必要がある。
【0062】
(参照信号生成部の第2の構成例)
図10に、参照信号生成部40の第2の構成例を示す。
図10に示す参照信号生成部40-2は、復調部48と、量子化部45と、第1生起確率算出部46と、累積確率算出部47と、を備える。
【0063】
復調部48は、外部から信号品質(C/N)が既知の被測定信号を入力し、該被測定信号を復調して復調信号を生成する。復調部48は、復調信号のコンスタレーションデータを量子化部45に出力する。量子化部45は、復調信号のコンスタレーションデータを量子化する。
【0064】
量子化部45、第1生起確率算出部46、及び累積確率算出部47の処理は、
図1に示した測定装置1の量子化部10、第1生起確率算出部20、及び累積確率算出部30と同じであるため、説明を簡略化する。量子化部45は、復調信号のコンスタレーションデータを量子化して参照信号用量子化データを生成する。第1生起確率算出部46は、参照信号用量子化データの複素平面上における領域ごとの参照信号用生起確率を求める。累積確率算出部47は、領域ごとの参照信号用生起確率を累積して参照信号を算出する。
【0065】
参照信号生成部40-2にS個の被測定信号を入力させた場合、最終的にC/Nと参照信号のペアがS個生成され、これらは参照信号・C/N記憶部60において記憶される。
【0066】
参照信号生成部40-2は、外部において信号品質が既知の被測定信号を用意することが必要になるが、測定装置1,2のアナログ信号処理や復調処理における特性等を測定結果から除外する校正の意味を持ち、被測定信号そのものの品質評価を行う場合に適している。
【0067】
(参照信号生成部の第3の構成例)
図11に、参照信号生成部40の第3の構成例を示す。
図11に示す参照信号生成部40-3は、第2生起確率算出部49と、累積確率算出部47と、を備える。参照信号生成部40-1及び参照信号生成部40-2が備える第1生起確率算出部46は前述のとおり、入力されるデータを数え上げ、全データ数で除することにより生起確率を算出するのに対し、第2生起確率算出部49は計算式により生起確率を算出する点が異なっている。
【0068】
第2生起確率算出部49は、式(13)により生起確率を算出する。ここで、Mは信号点数、(Im,Qm)はm番目の信号点の座標を示す。また、σ2は雑音電力を示し、規定の信号点が正規化されている場合、信号雑音電力比γsの逆数となる。すなわち、第2生起確率算出部49は、C/Nに応じて所定の計算式により複素平面上の領域ごとの参照信号用生起確率を算出する。
【0069】
【0070】
参照信号生成部40-3にS個のC/Nを入力させた場合、最終的にC/Nと参照信号のペアがS個生成され、これらは参照信号・C/N記憶部60において記憶される。
【0071】
参照信号生成部40-3は、計算式に従って生起確率を算出し、参照信号を生成することから、数多くのサンプルを収集することなく一意に参照信号を生成できるという利点がある。一方で、信号に加わっている雑音が白色でガウス分布に従うことを前提としていることから、実際の被測定信号に加わっている雑音に有色な特性が含まれている場合には信号品質の評価結果に誤差が生じる。
【0072】
(参照信号生成部の第4の構成例)
図12に、参照信号生成部40の第4の構成例を示す。
図12に示す参照信号生成部40-4は、ビット列生成部41と、キャリア変調部42と、雑音発生部43と、加算部44と、量子化部45と、第1生起確率算出部46と、累積確率算出部47と、C/N劣化推定部50と、第3生起確率算出部51と、第2重み付け部52と、を備える。参照信号生成部40-4は、
図9に示した参照信号生成部40-1と比較すると、外部から周波数特性が入力される点、並びにC/N劣化推定部50、第3生起確率算出部51、及び第2重み付け部52を備えている点が異なっている。参照信号生成部40-1と共通の構成については説明を省略する。参照信号生成部40-4は、コンスタレーションデータの他に周波数特性に関わるデータも入手できる場合に用いることができる。
【0073】
受信信号の周波数fにおける周波数特性をHfとすると、受信信号を周波数特性で除することによってチャネル等化を行う場合、受信信号に含まれる雑音成分が強調されることにより、チャネル等化後の信号品質に式(14)で示す信号品質劣化が生じる。そこで、C/N劣化推定部50は、被測定信号の周波数特性に基づいて、式(14)により、周波数ごとにC/N劣化量Gfを推定する。C/N劣化推定部50は、推定したC/N劣化量Gfを第3生起確率算出部51に出力する。
【0074】
【0075】
図13に受信信号の周波数特性の例を示し、
図14に受信信号の周波数ごとのC/N劣化量の例を示す。
【0076】
第3生起確率算出部51は、C/N劣化推定部50から周波数ごとのC/N劣化量Gfが入力され、C/N劣化量Gfの値ごとの生起確率を算出する。具体的には、第3生起確率算出部51は、参照信号・C/N記憶部60における測定範囲の量子化幅δγと同じ幅でC/N劣化量Gfを量子化し、それぞれの劣化量Δγに関する生起確率を算出しPG(Δγ)として出力する。
【0077】
図15に、第3生起確率算出部51により生成されるC/N劣化量の生起確率の例を示す。この例では、C/N劣化量が約-2dBの生起確率が最も高く、次にC/N劣化量が約7dBの生起確率が高い。
【0078】
第2重み付け部52は、累積確率算出部47により算出された累積確率を、第3生起確率算出部51により算出された生起確率で重み付けして出力する。具体的には、第2重み付け部52は、式(15)により、周波数特性が存在する場合の累積確率を算出し、参照信号・C/N記憶部60に出力する。
【0079】
【0080】
(参照信号生成部40の第5の構成例)
図16に、参照信号生成部40の第5の構成例を示す。
図16に示す参照信号生成部40-5は、第2生起確率算出部49と、累積確率算出部47と、C/N劣化推定部50と、第3生起確率算出部51と、第2重み付け部52と、を備える。参照信号生成部40-5は、
図11に示した参照信号生成部40-3と比較すると、外部から周波数特性が入力される点、並びにC/N劣化推定部50、第3生起確率算出部51、及び第2重み付け部52を備えている点が異なっている。参照信号生成部40-5は、コンスタレーションデータの他に周波数特性に関わるデータも入手できる場合に用いることができる。
【0081】
第2重み付け部52は、累積確率算出部47から累積確率が入力され、第3生起確率算出部51からC/N劣化量の値ごとの生起確率が入力され、前述のとおり式(15)により周波数特性が存在する場合の累積確率を算出し、参照信号・C/N記憶部60に出力する。なお、第2重み付け部52に入力される累積確率は、
図12に示した参照信号生成部40-4では
図9に示した参照信号生成部40-1における累積確率算出部47が出力する累積確率であるのに対して、参照信号生成部40-5では
図11に示した参照信号生成部40-3における累積確率算出部47が出力する累積確率である点において異なっている。各構成部の説明は前述のとおりであるため省略する。
【0082】
また、同様にして、
図10に示した参照信号生成部40-2に対して、C/N劣化推定部50、第3生起確率算出部51、及び第2重み付け部52をさらに備える構成としてもよい。
【0083】
(シミュレーション結果)
次に、参照信号生成部40-5を備える測定装置2の、シミュレーションによる品質評価結果を示す。
【0084】
図17に、計算機シミュレーションの系統図を示す。シミュレーション装置100は、被測定信号生成部101によりOFDM変調が施された被測定信号を生成する。被測定信号はOFDM復調部102によりOFDM復調が施された後、チャネル推定部103により伝搬路応答が推定され、チャネル等化部104により該伝搬路応答に基づいて信号のひずみを補正(等化)した等化信号を生成する。MER算出部105は、従来と同じ手法により、等化信号のMERを算出する。C/N推定部106は、参照信号生成部40-5を備える測定装置2と同じ処理を行い、等化信号のC/Nを推定する。
【0085】
図18に、キャリア変調が256 QAM(NUC)で誤り訂正符号の符号化率が12/16のコンスタレーションを示す。エラーフリー伝送が可能なC/Nの下限値(所要C/N)は約20dBである。また、2次変調としてFFTサイズが16384のOFDMを用い、チャネル推定用に周波数間隔は6、時間間隔は2の分散パイロットを用いた。
【0086】
図19に、
図18に示したコンスタレーションを用いたときの、加法性白色ガウス雑音(AWGN)環境(
図19(a))及びマルチパス環境(
図19(b))における評価結果を示す。小さい黒丸は送信信号を参照した場合のMERを示し、大きい黒丸は従来の測定装置によるMERの測定結果を示し、白丸は測定装置2によるC/Nの測定結果を示している。この図から、従来の測定装置の測定結果では、式(1)により求めたMERは横軸のC/Nが概ね25dB程度よりも小さい場合に実際の値よりも大きな値となっているのに対し、測定装置2により推定されるC/Nは、式(1)において送信シンボルを参照信号として求めたC/Nと一致しており、所要C/N約20dBを大幅に下回る受信環境においても正確な測定結果が得られていることが分かる。
【0087】
図20に、キャリア変調が4096 QAM(NUC)で誤り訂正符号の符号化率が4/16のコンスタレーションを示す。この場合のように、変調次数が大きい場合には受信環境が同一でも変調次数が小さい場合と比較してシンボル誤り率が大きくなる。また、誤り訂正符号の符号化率が低い場合、一般に信号点配置はより不均一性が大きくなることから同様にシンボル誤り率が大きくなる。
【0088】
図21に、
図20に示したコンスタレーションを用いたときの、加法性白色ガウス雑音環境(
図21(a))及びマルチパス環境(
図21(b))における評価結果を示す。小さい黒丸は送信信号を参照した場合のMERを示し、大きい黒丸は従来の測定装置によるMERの測定結果を示し、白丸は測定装置2によるC/Nの測定結果を示している。この図から、従来の測定装置の測定結果では、C/Nが高い場合でも信号点配置の不均一性が起因して3dB以上の測定誤差が生じているのに対し、測定装置2により推定されるC/Nは、先の例と同様に所要C/N約20dBを大幅に下回る受信環境においても正確な測定結果が得られていることが分かる。
【0089】
(プログラム)
上述した測定装置1,2として機能させるために、プログラム命令を実行可能なコンピュータを用いることも可能である。ここで、コンピュータは、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、ワークステーション、PC(Personal Computer)、電子ノートパッドなどであってもよい。プログラム命令は、必要なタスクを実行するためのプログラムコード、コードセグメントなどであってもよい。
【0090】
コンピュータは、プロセッサと、記憶部と、入力部と、出力部と、通信インターフェースとを備える。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、SoC(System on a Chip)などであり、同種又は異種の複数のプロセッサにより構成されてもよい。プロセッサは、記憶部からプログラムを読み出して実行することで、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。なお、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェアで実現することとしてもよい。入力部は、ユーザの入力操作を受け付けてユーザの操作に基づく情報を取得する入力インターフェースであり、ポインティングデバイス、キーボード、マウスなどである。出力部は、情報を出力する出力インターフェースであり、ディスプレイ、スピーカなどである。通信インターフェースは、外部の装置と通信するためのインターフェースであり、例えばLAN(Local Area Network)インターフェースである。
【0091】
プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。このような記録媒体を用いれば、プログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録された記録媒体は、非一過性(non-transitory)の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリなどであってもよい。また、このプログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0092】
例えば、測定装置1,2として機能させるためのプログラムは、被測定信号のコンスタレーションデータを量子化して量子化データを生成すステップと、量子化データの複素平面上における領域ごとの生起確率を求めるステップと、領域ごとの生起確率を累積した累積確率を算出するステップと、あらかじめ被測定信号の領域ごとの生起確率を累積した累積確率を搬送波対雑音電力比ごとに推定し、参照信号として生成するステップと、参照信号と累積確率との二乗誤差を算出するステップと、二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応する搬送波対雑音電力比を被測定信号の搬送波対雑音電力比として出力するステップと、をコンピュータに実行させる。
【0093】
また、測定装置1,2は、1つ又は複数の半導体チップにより構成されてもよく、該半導体チップは、測定装置1,2の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを実行するCPUを搭載してもよい。
【0094】
以上のように本発明では、受信信号を量子化して生起確率を算出し、累積確率を求めるとともに、参照信号と累積確率との二乗誤差を求め、該二乗誤差が最小となるときの参照信号に対応するC/Nを受信信号品質として推定するため、シンボル誤り率が大きい劣悪な受信環境においても、受信信号品質を正確に測定することが可能となる。
【0095】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを統合したり、1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1,2 測定装置
10 量子化部
20 第1生起確率算出部
30 累積確率算出部
31 1次元化部
32 ソート部
33 累積部
40,40-1,40-2,40-3,40-4,40-5 参照信号生成部
41 ビット列生成部
42 キャリア変調部
43 雑音発生部
44 加算部
45 量子化部
46 第1生起確率算出部
47 累積確率算出部
48 復調部
49 第2生起確率算出部
50 C/N劣化推定部
51 第3生起確率算出部
52 第2重み付け部
60 参照信号・記憶部
70 二乗誤差算出部
80 選択部
90 第1重み付け部