(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008125
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】導電層を有する板状ガラスの処理装置
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
B09B5/00 Z ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111426
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】509154420
【氏名又は名称】株式会社NSC
(72)【発明者】
【氏名】松鶴 健一
(72)【発明者】
【氏名】山内 寛之
(72)【発明者】
【氏名】柏原 康宏
(72)【発明者】
【氏名】森山 英行
(72)【発明者】
【氏名】西山 典孝
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA18
4D004AB03
4D004CA34
4D004CA41
4D004CC12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ガラスを溶解する溶解液を用いて、ガラス破片を含みにくい導電層を、効率よくかつ安全に回収することのできる、板状ガラス処理装置を提供する。
【解決手段】低融点ガラス16を介して導電層14が付着した板状ガラスを処理するための板状ガラス処理装置であって、少なくとも噴射手段、搬送手段および回収手段を有し、噴射手段は、処理チャンバ内で低融点ガラス16を溶解可能な溶解液を上方から板状ガラスに対して噴射し、搬送手段は、処理チャンバ内を経由して板状ガラスを、導電層14が上側になるように搬送ローラで搬送し、回収手段は、板状ガラスから剥がれ落ちた導電層14を回収する。噴射手段は、板状ガラスの上面において溶解液の液流を生じさせ、水平方向の成分を有するように溶解液の噴射をする板状ガラス処理装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点ガラスを介して導電層が付着した導電層付き板状ガラスを処理するための板状ガラス処理装置であって、
前記低融点ガラスを溶解可能な溶解液を上方から前記導電層付き板状ガラスに対して噴射する噴射手段を少なくとも備えた処理チャンバと、
前記処理チャンバ内を経由して前記導電層付き板状ガラスを、導電層付き部分が上側になるように搬送する搬送手段と、
前記導電層付き板状ガラスから剥がれ落ちた導電層を回収するように構成された回収手段と、
を備え、
前記噴射手段は、前記導電層付き板状ガラスの上面において溶解液の液流を生じさせ、水平方向の成分を有するように前記溶解液の噴射をすることを特徴とする板状ガラス処理装置。
【請求項2】
前記回収手段は、溶解液が流入する箇所に設けられた複数枚のフィルタであって、上流から下流に行くにしたがって、フィルタの目の粗さが細かくなるように配列された、耐酸性のフィルタであることを特徴とする、請求項1に記載の板状ガラス処理装置。
【請求項3】
前記噴射手段は、搬送方向と直交するように往復動作をする噴射装置を有する請求項1または2に記載の板状ガラス処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス表面の一部に導電層と低融点ガラスを有する、複数の板状ガラスに対して、低融点ガラスを溶解するように構成された板状ガラス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のリアガラスには、板状ガラス以外に電熱線が存在する。この電熱線は、導電性ペーストから生成される。リアガラスの生成後、焼結した導電層は、滲出した低融点ガラスを介して、リアガラスと接着している。
【0003】
この導電層は、銀やその合金などのリサイクル可能な物質を含んでいることが知られている。
【0004】
これらの物質をリサイクルするため、リアガラスに微粒子を含む流体を衝突させて導電層を回収する方法があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法は、ガラス破片を生じさせ、ガラス破片も含んだ導電性の層を生じさせるため、良質な導電層を回収することが困難であった。
【0007】
そのため、本発明の目的は、ガラスを溶解する溶解液を用いて、ガラス破片を含みにくい導電層を、効率よくかつ安全に回収することのできる、板状ガラス処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る板状ガラス処理装置は、低融点ガラスを介してガラス板表面の一部と付着している導電層を有する、連続的に搬送されるガラス板に対して用いる。この板状ガラスは、例えば、自動車に用いられるリアガラスである。導電層は、銀やその合金などのリサイクル可能な物質を含んでいる。もっとも、これらの物質は電熱線の性能によって含有率が異なる。この処理装置は、導電層を剥離・回収するように、リアガラスを処理するものである。
【0009】
この回収装置は、少なくとも噴射手段、搬送手段および回収手段を備えている。
【0010】
噴射手段に用いられる溶解液は、例えばフッ酸を含む人体に悪影響を及ぼすおそれのある液であるため、チャンバ内で処理される。なお、溶解液はフッ酸に限定されない。
【0011】
処理チャンバは、覆いに囲まれ外気に触れないように構成された装置である。この装置は、ガラスを溶解する溶解液と化学的雰囲気を含む気体を外部と遮断して処理することができるため、これらの液体や気体が処理チャンバ外に漏出せず、安全に利用できる。
【0012】
処理チャンバは、主に低融点ガラスを溶解するための溶解液を噴射する、噴射装置を有する。溶解液は、リアガラスに対して、少なくとも上方の複数箇所から噴射される。
【0013】
さらに、この噴射装置は、水平方向の成分を有するように、溶解液を噴射する。水平方向の成分を有する溶解液が、導電層および低融点ガラスの長手部分における低融点ガラスと反応するため、同低融点ガラスを容易に溶解させることができる。
【0014】
また、複数の噴射装置は、同一方向に噴射を行うため、リアガラスの上面に液流を発生させる。この液流は、リアガラスの上面に沿って低融点ガラスを削る力となる。それゆえ、発生した液流は、低融点ガラスの溶解を促進し、導電層を剥がす力としても働き、効率的に導電層を剥離させることができる。
【0015】
溶解液は、後述する搬送ローラ側のリアガラス主面にほとんど接触しないため、リアガラス全体を反応させる方法に比べて、ガラスを溶解する際にスラッジの析出を抑えることができる。
【0016】
搬送手段は、上述の処理チャンバ内を経由してリアガラスを搬送するものである。例えば、連続して直線的に配置された搬送ローラを用いる。導電層を有する側が上方に向くように、リアガラスを搬送ローラ上に配置する。このように搬送手段を利用することで、複数枚のリアガラスを効率よく処理することができる。
【0017】
この搬送手段を行うと、溶解液は搬送ローラ側のリアガラス主面に接触する可能性が低いため、リアガラス全体を反応させる方法に比べて、ガラスを溶解する際に生じるスラッジの量を抑えることができる。
【0018】
導電層の回収手段は、処理チャンバ内で、リアガラスから剥がれ落ちた導電層を回収する方法である。例えば、回収にあたって網状の構造を用いて、主に導電層と溶解液を分離する。
【0019】
導電層に含まれる上述の物質の含有率に応じて、溶解液に対する導電層の比重は変化する。そのため、溶解液中に沈殿する導電層も存在すれば、溶解液中に浮遊する導電層も存在する。そこで、上述のように導電層を濾しとる方法を採用することで、導電層の比重に関わらず導電層を容易に回収することができる。
【0020】
一定の枚数を処理した後、定期的に網状の構造物に堆積した導電層の取り出し作業を行い、導電層を回収することができる。
【0021】
上記一連の手段を終えたリアガラスは、処理チャンバから搬出することができる。この搬出したリアガラスは、導電層をほとんど有しないため、リサイクルが容易な状態となっている。
【0022】
さらに、噴射手段における噴射装置は、特定の方向に往復動作を行うことが望ましい。往復動作によって、導電層および低融点ガラスの長手部分の双方に液流を生じさせ、より効率的な低融点ガラスの溶解が可能になる。
【0023】
これらに加えて、上述の回収手段は、溶解液が流入する箇所に設けられた、耐酸性の複数枚のフィルタであることが好ましい。これらのフィルタは、上流から下流に行くにしたがって、フィルタの目の粗さが細かくなるように配列される。
【0024】
溶解液が流入する箇所にフィルタを複数枚設けると、導電層を濾しとる表面積が大きくなり、回収手段の交換頻度を抑え、より効率的に導電層を回収することができる。また、溶解液はフッ酸をはじめとする酸性溶液であることから、耐酸性の樹脂等で製造されたフィルタであれば、長期的に利用でき、運用コストを下げることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、ガラスを溶解する溶解液を用いて、ガラス破片を含みにくい導電性の層を、効率よくかつ安全に回収することのできる、板状ガラス処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施形態に係る一例として、湾曲リアガラスを模式的に示す図である。
【
図2】本実施形態に係る板状ガラス処理装置の概略構成を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る板状ガラス処理装置の概略構成を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る剥離手段における溶解液の噴射および回収手段の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る剥離手段における剥離する様子の一例を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る剥離手段における溶解液の噴射および回収手段の一例を示す図である。
【
図7】回収手段における別の実施形態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図を用いて本発明に係る板状ガラス処理装置の一実施形態を説明する。
図1(A)に示すとおり、導電層および低融点ガラス12は、車のリアガラス10上に、電熱線として用いられている。リアガラス10は、黒色部18も有する。なお、リアガラス10は本来湾曲した形状をしているが、図示では模式的に平面形状として記載している。
【0028】
図1(B)に示すとおり、導電層14は、低融点ガラス16を介してリアガラス10に固着している。導電層14は、銀やその合金等の物質を含む。これらの物質は、有用な資源であり、リサイクルすることができる。もっとも、リアガラスに含まれこれらの物質は、電熱線の性能によって、含有率が異なる。
【0029】
導電層14を取り出すためには、例えばフッ酸を含む溶解液を用いて、導電層14をリアガラス10と接着させている低融点ガラス16を溶解する方法を採用する。
【0030】
図2および
図3は、板状ガラス処理装置の概略構成を示している。板状ガラス処理装置は、例えば搬入部22、複数の処理チャンバ、洗浄部34、搬出部36で構成される。複数の処理チャンバは、さらに前処理チャンバ24、第1の処理チャンバ26、第2の処理チャンバ28、第3の処理チャンバ30、第4の処理チャンバ32とで構成される。また、搬入部22から搬出部36までは、搬送ローラ20が設置されており、リアガラス10を連続的に搬送することができる。なお、処理チャンバは上記数量に限定されないうえ、搬送手段はリアガラス10を搬送することができれば上記手段に限定されない。
【0031】
搬入部22は、作業員による手動作業またはロボット等による自動作業によって搬入されるリアガラス10を、受け入れ可能になるように構成される。リアガラス10は、上方に導電層および低融点ガラス12があるように搬送され、搬送ローラ20側に反った状態で搬送される。
【0032】
前処理チャンバ24は、搬入部22から搬送されるリアガラス10を、次の処理チャンバ以降に受け入れるように構成される。第1から第4までの各処理チャンバは、リアガラス10に対して、低融点ガラス16を溶解するために、フッ酸を含む溶解液を噴射する噴射装置40を複数有する。この溶解液は、主に低融点ガラス16を溶解し、リアガラス10から導電層14を剥離する。各処理チャンバは、同一の内容で操作されるものであるが、チャンバごとに溶解液の濃度や噴射装置40の圧力を適宜変更することは構わない。
【0033】
噴射装置40は、例えば搬送方向およびその直交方向に複数構成される。溶解液を噴射する際、処理チャンバ内の噴射装置40が水平方向の成分を有するように噴射し、溶解液に液流を発生させる。
【0034】
複数の噴射装置40を同一方向に噴射させるとき、例えば
図4に示すとおり、図示の右側方向に噴射装置40が動作し、同方向に溶解液44が流れる。この溶解液44が多量にかつ速い液流を生じることによって、低融点ガラス16を削る力が発生する。
【0035】
さらに、溶解液44は、低融点ガラス16を溶解するフッ酸を含む溶解液であることから、上記液流とあいまって、導電層14の剥離を促進する。
【0036】
より詳細に説明するため、
図5を用いる。
図5は、導電層14が剥離するリアガラス10の一部を拡大したものである。
図5(A)は、剥離手段を行う前の状態を示した図である。導電層14は、リアガラス10に対して、低融点ガラス16を介して接着している。
【0037】
剥離手段を開始後、溶解液44が液流を伴って低融点ガラス16を溶解する。導電層14は、柔軟性を有するため、低融点ガラス16が溶解され始めると
図5(B)のように液流に従って動く。
【0038】
すなわち、導電層および低融点ガラス12の長手部分に対して、溶解液44の液流を衝突させると、効率よく導電層を回収することができるということである。水平方向の成分を有していれば、例示方向の噴射に限られない。
【0039】
また、リアガラス10が処理チャンバ内で噴射を受ける際、搬送ローラ20側のリアガラス10には溶解液44が流れにくい。溶解液44がリアガラスの当該部分に作用しにくいため、リアガラス10全体としてスラッジの析出が少なくなる。そのため、回収の際にスラッジの分別が不要となり、導電層の回収が容易になる。
【0040】
噴射手段における別の実施形態として、噴射装置40が特定の方向に往復動作を行い、導電層および低融点ガラス12の長手部分の双方から液流を生じさせる方法がある。
【0041】
図6に示す通り、噴射装置40が図示の左側方向に動作し、同方向に溶解液44が流れる。上記と同様に溶解液44の液流が発生することによって、導電層14の剥離を促進させる。
図4と
図6のような往復動作を繰り返すことで、低融点ガラス16に対して別方向から力を加えることができる。例えば、リアガラス10が、導電層および低融点ガラス12の向きと、搬送向きとを同一方向となるように搬送されるとき、噴射装置40を搬送方向と直交する方向に往復動作させる。
【0042】
このように噴射装置40が往復動作をすることによって、導電層および低融点ガラス12の長手部分の双方から溶解を促進させることができる。
【0043】
上記一連の噴射手段を行う際、前処理チャンバ24から洗浄部34までには覆いがあり、溶解液44は漏れなく回収され、チャンバ内の気体は集気パイプ38を経由して処理される。そのため、板状ガラス処理装置は、全体として気密的にかつ水密的に閉塞されている。フッ酸を含む溶解液が外部に流出せず、かつフッ素イオンを含む気体が飛散することもない。
【0044】
噴射手段後に、板状ガラス処理装置は、リアガラス10に残存する溶解液44を、洗浄部34の工程で洗い流す(
図2および3を参照)。
【0045】
全工程を終えたリアガラス10は、搬出部36において搬出される。搬出部36では、作業員による手動作業またはロボット等による自動作業によって搬出される。
【0046】
搬出されたリアガラス10は、導電層14がほとんど含まれておらず、リサイクルが容易な状態になっている。
【0047】
以下、導電層14の回収手段を説明する。
図4および
図6に示すとおり、板状ガラス処理装置は、搬入ローラ20の下部に、回収手段として、網状の構造42を有している。主に導電層14を含んだ溶解液44が、重力にしたがって下に流れる際、この網状の構造42で主に導電層14を濾し、溶解液44を流すことができる。
【0048】
電熱線の性能は、導電層14に含まれる銀やその合金等の含有率に左右されるため、リアガラスの商品ごとにこれらの物質の含有率は異なる。溶解液に対する導電層の比重は変化する。そのため、溶解液中に沈殿する導電層も存在すれば、溶解液中に浮遊する導電層も存在する。そこで、上述のように導電層14を濾しとる方法を採用することで、導電層の比重に関わらず導電層を容易に回収することができる。
【0049】
一定の枚数を処理すると、網状の構造42の上に主に導電層14が堆積するため、この導電層14を回収する。
【0050】
さらに、
図7に示すとおり、上述の回収手段は、フィルタの目の粗さが異なる耐酸性の複数枚のフィルタ46を設けることが望ましい。溶解液が流入する箇所にフィルタ46を複数枚設けると、導電層14を濾しとる表面積が大きくなり、より効率的に導電層14を回収することができる。また、溶解液44はフッ酸を含む酸性溶液であることから、耐酸性の樹脂等で製造されたフィルタであれば、長期的に利用でき、運用コストを下げることができる。
【0051】
図7のとおり、溶解液が流入する箇所に設けられた複数枚のフィルタ46は、上流から下流に行くにしたがって、フィルタの目の粗さが粗いものから細かいものになるように並んでいる。溶解液44がこれらのフィルタを通過すると、フィルタの目の粗いフィルタ46にサイズの大きい導電層14が堆積する。目の細かいフィルタ46には、比較的サイズの小さい導電層14が堆積する。
【0052】
上述のいずれの実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本願発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本願発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
10-リアガラス
12-導電層および低融点ガラス
14-導電層
16-低融点ガラス
18-黒色部
20-搬送ローラ
22-搬入部
24-前処理チャンバ
26-第1の処理チャンバ
28-第2の処理チャンバ
30-第3の処理チャンバ
32-第4の処理チャンバ
34-洗浄部
36-搬出部
38-集気パイプ
40-噴射装置
42-網状の構造
44-溶解液
46-フィルタ