(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081351
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/20 20060101AFI20230602BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20230602BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20230602BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20230602BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
H05K3/20 Z
H01L23/12 D
H01L23/12 J
H01L23/36 C
H05K3/38 E
C04B37/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190223
(22)【出願日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2021194467
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 晶
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】五明 美佳
【テーマコード(参考)】
4G026
5E343
5F136
【Fターム(参考)】
4G026BA16
4G026BA17
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5F136FA41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】セラミックス基板の第一の面及び第二の面に接合用ペーストを安定して印刷し、絶縁回路基板を安定して製造する絶縁回路基板の製造方法を提供する。
【解決手段】方法は、セラミックス基板11の第一の面及び第二の面にそれぞれ接合用ペーストを印刷する接合用ペースト印刷工程を有し、セラミックス基板の第一の面に接合用ペーストを印刷し、その後、セラミックス基板を反転し、載置面に凹部52を有する印刷ステージ50に載置し、第一の面に印刷された接合用ペースト25が凹部内に収容されるとともに、吸引部55によってセラミックス基板が固定された状態で、セラミックス基板の第二の面に接合用ペースト25を印刷する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板の第一の面及び第二の面にそれぞれ金属片が接合されて形成された回路層および金属層と、を備えた絶縁回路基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の第一の面及び第二の面にそれぞれ接合用ペーストを印刷する接合用ペースト印刷工程と、
前記接合用ペーストを介して前記セラミックス基板と前記回路層となる金属片とを積層するとともに、前記接合用ペーストを介して前記セラミックス基板と前記金属層となる金属片とを積層する積層工程と、
前記積層した前記金属片および前記セラミックス基板を加熱処理して、前記金属片と前記セラミックス基板とを接合する接合工程と、
を有し、
前記接合用ペースト印刷工程においては、前記セラミックス基板の第一の面に前記接合用ペーストを印刷し、その後、前記セラミックス基板を反転し、載置面に凹部を有する印刷ステージに載置し、前記セラミックス基板の第二の面に前記接合用ペーストを印刷する構成とされており、
前記印刷ステージにおいては、前記凹部の周縁部に前記セラミックス基板の端部が支持される支持部が形成され、かつ、前記凹部の底面側に吸引部が形成されており、
反転した前記セラミックス基板を載置した際に、第一の面に印刷された前記接合用ペーストが前記凹部内に収容されるとともに、前記吸引部によって前記セラミックス基板が固定された状態で、前記セラミックス基板の第二の面に前記接合用ペーストを印刷することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス基板の第一の面に前記接合用ペーストを印刷した後に、印刷した前記接合用ペーストを乾燥し、その後、前記セラミックス基板の第二の面に前記接合用ペーストを印刷することを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックス基板には、スクライブラインが形成されており、前記凹部には、載置された前記セラミックス基板の前記スクライブラインに対応した位置にリブが設けられていること特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記接合用ペーストは、金属粉末と、アクリル樹脂と、アジピン酸エステルからなる可塑剤と、溶剤と、を含有し、前記可塑剤の含有量が3.2mass%以上10.4mass%以下の範囲内とされるとともに、前記可塑剤の重量Aと前記アクリル樹脂の重量Bとの比A/Bが0.2≦A/B≦1.3の範囲内とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された金属層と、を備えた絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、セラミックス基板の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
また、上述の絶縁回路基板においては、セラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属片を接合して回路層とし、セラミックス基板の他方の面に放熱性に優れた金属片を接合して金属層を形成した構造のものが提供されている。
さらに、回路層に搭載した素子等において発生した熱を効率的に放散させるために、セラミックス基板の他方の面側にヒートシンクを接合したヒートシンク付き絶縁回路基板も提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、銅板を接合することにより回路層および金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。この特許文献1においては、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。
【0004】
また、特許文献2においては、銅又は銅合金からなる銅板と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス基板とが、AgおよびTiを含む接合材を用いて接合されたパワーモジュール用基板が提案されている。
さらに、特許文献3には、銅又は銅合金からなる銅板と、窒化ケイ素からなるセラミックス基板とが、AgおよびTiを含む接合材を用いて接合されたパワーモジュール用基板が提案されている。
【0005】
また、特許文献4には、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム板からなる回路層が形成されるとともに他方の面にアルミニウム板からなる金属層が形成された絶縁回路基板が開示されている。ここで、セラミックス基板と回路層及び金属層となるアルミニウム板を接合する際には、Al-Si系ろう材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3211856号公報
【特許文献2】特許第5757359号公報
【特許文献3】特開2018-008869号公報
【特許文献4】特許第3171234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、セラミックス基板の一方の面に回路層を形成し、セラミックス基板の他方の面に金属層を形成する際には、セラミックス基板の両面に接合用ペーストを印刷する必要がある。
印刷ステージ上にセラミックス基板を載置して、セラミックス基板の一面に接合用ペーストを印刷した後、セラミックス基板を反転して印刷ステージ上に載置し、セラミックス基板の他面に接合用ペーストを印刷することになる。
【0008】
すると、最初に印刷した接合用ペーストが印刷ステージに接触することになり、印刷時の圧力によって接合用ペーストが印刷ステージに押し付けられ、接合用ペーストの剥離が発生したり、印刷ステージ上の汚れが接合用ペーストに転写したりするおそれがあった。
特に、粘着性を有する接合用ペーストを印刷した場合には、印刷したセラミックス基板が印刷ステージに強固に張り付いてしまい、容易に取り外すことができなくなるおそれがあった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス基板の第一の面及び第二の面に接合用ペーストを安定して印刷することができ、絶縁回路基板を安定して製造することが可能な絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明の態様1の絶縁回路基板の製造方法は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の第一の面及び第二の面にそれぞれ金属片が接合されて形成された回路層および金属層と、を備えた絶縁回路基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の第一の面及び第二の面にそれぞれ接合用ペーストを印刷する接合用ペースト印刷工程と、前記接合用ペーストを介して前記セラミックス基板と前記回路層となる金属片とを積層するとともに、前記接合用ペーストを介して前記セラミックス基板と前記金属層となる金属片とを積層する積層工程と、前記積層した前記金属片および前記セラミックス基板を加熱処理して、前記金属片と前記セラミックス基板とを接合する接合工程と、を有し、前記接合用ペースト印刷工程においては、前記セラミックス基板の第一の面に前記接合用ペーストを印刷し、その後、前記セラミックス基板を反転し、載置面に凹部を有する印刷ステージに載置し、前記セラミックス基板の第二の面に前記接合用ペーストを印刷する構成とされており、前記印刷ステージにおいては、前記凹部の周縁部に前記セラミックス基板の端部が支持される支持部が形成され、かつ、前記凹部の底面側に吸引部が形成されており、反転した前記セラミックス基板を載置した際に、第一の面に印刷された前記接合用ペーストが前記凹部内に収容されるとともに、前記吸引部によって前記セラミックス基板が固定された状態で、前記セラミックス基板の第二の面に前記接合用ペーストを印刷することを特徴としている。
【0011】
本発明の態様1の絶縁回路基板の製造方法によれば、セラミックス基板の第一の面及び第二の面に接合用ペーストを印刷する前記接合用ペースト印刷工程において、前記セラミックス基板の第一の面に前記接合用ペーストを印刷し、その後、反転した前記セラミックス基板を、載置面に凹部が形成された印刷ステージに載置し、第一の面に印刷された前記接合用ペーストを前記凹部内に収容するとともに吸引部によって前記セラミックス基板が固定した状態で、前記セラミックス基板の第二の面に前記接合用ペーストを印刷する構成とされているので、前記セラミックス基板の第二の面側に接合用ペーストを印刷する際に、第一の面側に印刷した接合用ペーストが印刷ステージと接触することが抑制され、セラミックス基板の第一の面及び第二の面に接合用ペーストを安定して印刷することができる。また、吸引部によってセラミックス基板が固定されているので、セラミックス基板の第二の面側に接合用ペーストを精度良く印刷することができる。
【0012】
本発明の態様2の絶縁回路基板の製造方法は、本発明の態様1の絶縁回路基板の製造方法において、前記セラミックス基板の第一の面に前記接合用ペーストを印刷した後に、印刷した前記接合用ペーストを乾燥し、その後、前記セラミックス基板の第二の面に前記接合用ペーストを印刷することを特徴としている。
本発明の態様2の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記セラミックス基板の第一の面に印刷され、乾燥された前記接合用ペーストが粘着性を有する場合であっても、前記セラミックス基板の第二の面に前記接合用ペーストを印刷する際に、乾燥後の前記接合用ペーストが印刷ステージに接触することが抑制され、セラミックス基板の第一の面及び第二の面に接合用ペーストを安定して印刷することができる。
【0013】
本発明の態様3の絶縁回路基板の製造方法は、本発明の態様1または態様2の絶縁回路基板の製造方法において、前記セラミックス基板には、スクライブラインが形成されており、前記凹部には、載置された前記セラミックス基板の前記スクライブラインに対応した位置にリブが設けられていることを特徴としている。
本発明の態様3の絶縁回路基板の製造方法によれば、セラミックス基板にスクライブラインが形成されていることから、セラミックス基板の第一の面及び第二の面に接合用ペーストを印刷した後に、セラミックス基板をスクライブラインに沿って分割することで、複数の絶縁回路基板を効率良く製造することができる。また、前記凹部に、載置された前記セラミックス基板の前記スクライブラインに対応した位置にリブが設けられているので、大型のセラミックス基板であっても、吸引固定時や印刷時におけるセラミックス基板のたわみを抑制でき、接合用ペーストの印刷を安定して行うことができる。
【0014】
本発明の態様4の絶縁回路基板の製造方法は、本発明の態様1から態様3のいずれか一つの絶縁回路基板の製造方法において、前記接合用ペーストは、金属粉末と、アクリル樹脂と、アジピン酸エステルからなる可塑剤と、溶剤と、を含有し、前記可塑剤の含有量が3.2mass%以上10.4mass%以下の範囲内とされるとともに、前記可塑剤の重量Aと前記アクリル樹脂の重量Bとの比A/Bが0.2≦A/B≦1.3の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の態様4の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記接合用ペーストが、アクリル樹脂と、アジピン酸エステルからなる可塑剤と、を含有しており、前記可塑剤の含有量が3.2mass%以上10.4mass%以下の範囲内とされるとともに、前記可塑剤の重量Aと前記アクリル樹脂の重量Bとの比A/Bが0.2≦A/B≦1.3の範囲内とされているので、十分な粘着力を有することになるが、セラミックス基板の第一の面及び第二の面に接合用ペーストを安定して印刷することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セラミックス基板の第一の面及び第二の面に接合用ペーストを安定して印刷することができ、絶縁回路基板を安定して製造することが可能な絶縁回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法によって製造された絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面説明図である。
【
図2】本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法における接合用ペースト印刷工程を示す説明図である。
【
図5】接合用ペースト印刷工程において用いられる印刷ステージの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
【0018】
図1に、本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法によって製造された絶縁回路基板10、および、この絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0019】
このパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側(
図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方側(
図1において下側)に配設されたヒートシンク31と、を備えている。
【0020】
はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
半導体素子3は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。
【0021】
絶縁回路基板10は、
図1に示すように、絶縁層となるセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の第一の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の第二の面(
図1において下面)に形成された金属層13と、を備えている。
【0022】
セラミックス基板11(絶縁層)は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミニウム)やSi3N4(窒化ケイ素)等で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されている。本実施形態では、セラミックス基板としてAlN(窒化アルミニウム)を用い、厚さは0.635mmに設定されている。
なお、セラミックス基板11としてSi3N4(窒化ケイ素)を用いる場合、厚さは0.32mmとすることが好ましい。
【0023】
回路層12は、
図3に示すように、セラミックス基板11の第一の面に銅、銅合金、アルミニウム、又は、アルミニウム合金からなる金属片22が接合されることにより形成されている。銅又は銅合金としては、無酸素銅やタフピッチ銅等を用いることができる。アルミニウム又はアルミニウム合金としては純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)やA3003合金、A6063合金などの圧延板等を用いることができる。本実施形態においては、回路層12を構成する金属片22として、無酸素銅の圧延板を打抜いたものが用いられている。
この回路層12には、上述の金属片22をパターン状に接合することで回路パターンが形成されており、その第一の面(
図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。ここで、回路層12の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.8mmに設定されている。
【0024】
金属層13は、
図3に示すように、セラミックス基板11の第二の面に銅、銅合金、アルミニウム、又は、アルミニウム合金からなる金属片23が接合されることにより形成されている。金属片23としては、無酸素銅やタフピッチ銅、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)やA3003合金、A6063合金などの圧延板等で構成されたものを用いることができる。本実施形態においては、金属層13を構成する金属片23として、無酸素銅の圧延板が用いられている。ここで、金属層13の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.8mmに設定されている。
【0025】
ヒートシンク31は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク31は、熱伝導性が良好な材質で構成されており、本実施形態においては、アルミニウム又はアルミニウム合金(例えばA6063合金等)で構成されている。このヒートシンク31の厚さは、3mm以上10mm以下の範囲内に設定されている。
なお、ヒートシンク31と絶縁回路基板10の金属層13とは、固相拡散接合されている。
【0026】
次に、本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、
図2から
図5を用いて説明する。
【0027】
(接合用ペースト印刷工程S01)
まず、セラミックス基板11の第一の面のうち複数の金属片22が接合される予定の領域に、本実施形態である接合用ペースト25を印刷する。また、セラミックス基板11の第二の面のうち金属片23が接合される予定の領域に、本実施形態である接合用ペースト25を印刷する。そして、印刷した接合用ペースト25を乾燥させることで、
図3に示すように、セラミックス基板11の第一の面及び第二の面に、乾燥後の接合用ペースト25aを配置する。
なお、接合用ペースト25の塗布厚さは、乾燥後の接合用ペースト25aにおいて5μm以上20μm以下の範囲内となるように、設定することが好ましい。また、アクリル樹脂の含有量は3.2mass%以上8.0mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
また、アジピン酸エステルからなる可塑剤として、例えば、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)などを用いることができる。溶剤としては、α-テルピネオール、テキサノール(イソ酪酸3-ヒドロキシ-2,2,4-トリメチルペンチル)やブチルカルビトールアセタートなどを用いることができる。
【0028】
本実施形態で用いられる接合用ペースト25は、金属粉末と、アクリル樹脂と、アジピン酸エステルからなる可塑剤と、溶剤と、を含有するものとされている。
そして、接合用ペースト25は、可塑剤の含有量が3.2mass%以上10.4mass%以下の範囲内とされるとともに、可塑剤の重量Aとアクリル樹脂の重量Bとの比A/Bが0.2≦A/B≦1.3の範囲内とされている。
【0029】
なお、本実施形態である接合用ペースト25においては、接合用ペーストを100mass%として、金属粉末の含有量は、50mass%以上90mass%以下の範囲内とすることが好ましく、溶剤の含有量は、5.8mass%以上31.6mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、各含有量は、接合用ペースト25全体を100mass%とした時である。
【0030】
また、金属粉末は、接合する部材に応じて適宜選択される。AlNやSi3N4からなるセラミックス基板と銅または銅合金を接合する際は、AgとCuとTi等、活性金属または活性金属の水素化物が含有されているろう材を用いる。AlNやSi3N4からなるセラミックス基板とアルミニウムまたはアルミニウム合金を接合する際は、アルミニウムとケイ素、またはアルミニウムと銅等が混合されたろう材を用いる。
本実施形態では、AlNからなるセラミックス基板11と無酸素銅からなる金属片22,23を接合することから、金属粉末として、Ag粉末と活性金属であるTi粉末との混合粉末を用いている。また、AgとTiの混合比(質量比)は、Ag/Ti=1.2以上26.7以下の範囲内としている。AlNやSi3N4からなるセラミックス基板とアルミニウムまたはアルミニウム合金を接合する際は、アルミニウムとケイ素、またはアルミニウムと銅等の混合粉末を用いる。
さらに、金属粉末の平均粒径は、1μm以上5μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
ここで、接合用ペースト印刷工程S01について、
図4および
図5を用いて説明する。
接合用ペースト印刷工程S01においては、例えば、
図5に示す印刷ステージ50を用いて、セラミックス基板11の第一の面及び第二の面に接合用ペースト25を印刷する。
【0032】
この印刷ステージ50においては、
図5に示すように、セラミックス基板11が載置される載置面に開口する凹部52が形成されている。この凹部52の載置面における開口面積は、セラミックス基板11の面積よりもわずかに小さくされており、凹部52の周縁部にセラミックス基板11の端部が支持される支持部53が形成されている。なお、本実施形態においては、凹部52に、リブ54が形成されている。リブの幅は0.5mm以上とすることが好ましい。印刷した接合用ペースト25の端部からリブ54までの距離は0.1mm以上とすることが好ましい。
また、この凹部52の底面側には、吸引部55が形成されている。この吸引部55は、凹部52の底面側に配置されてチャンバー56と、凹部52の底面に開口するとともにチャンバー56に連通する吸引孔57と、吸引装置58とを備えている。
【0033】
ここで、凹部52の深さは、印刷される接合用ペースト25の印刷厚さの10倍以上20倍以下の範囲内となるように設定することが好ましい。
また、凹部52の周縁部に形成される支持部53の幅は1mm以上となるように設定することが好ましい。
さらに、支持部53の端部と印刷される接合用ペースト25の端部との距離が0.1mm以上20mm以下の範囲内となるように、凹部52及び支持部53を形成することが好ましい。
【0034】
接合用ペースト印刷工程S01においては、セラミックス基板11を印刷ステージ50の凹部52の上に載置する。
なお、本実施形態においては、セラミックス基板11には、分割するためのスクライブライン11Aが形成されており、このスクライブライン11Aが、凹部52のリブ54に位置するように、セラミックス基板11が印刷ステージ50上に載置する。
【0035】
そして、吸引部55で吸引することによってセラミックス基板11を固定し、セラミックス基板11の第一の面に接合用ペースト25を印刷する。
なお、このときの吸引圧力を0.05MPa以上0.2MPa以下の範囲内とすることが好ましい。また、スキージ圧(印圧)を0.1MPa以上0.2MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
次に、セラミックス基板11の第一の面に印刷した接合用ペースト25を乾燥させ、乾燥後の接合用ペースト25aを形成する。乾燥条件は、乾燥温度を100℃以上155℃以下の範囲内、乾燥時間を5分以上30分以下の範囲内、とすることが好ましい。この乾燥工程でほとんどの溶媒は揮発する。乾燥雰囲気としては、大気雰囲気、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気、真空雰囲気などで乾燥することができる。
本実施形態では、接合用ペースト25が、上述のように、アクリル樹脂とアジピン酸エステルからなる可塑剤とを含有し、可塑剤の含有量が3.2mass%以上10.4mass%以下の範囲内とされるとともに、可塑剤の重量Aとアクリル樹脂の重量Bとの比A/Bが0.2≦A/B≦1.3の範囲内とされていることから、乾燥後にも可塑剤が残存してアクリル樹脂の粘着性が確保されることで、乾燥後の接合用ペースト25aにおいて粘着力が発現することになる。
【0037】
次に、第一の面に接合用ペースト25(乾燥後の接合用ペースト25a)が印刷されたセラミックス基板11を反転して、印刷ステージ50の凹部52の上に載置する。なお、本実施形態においては、セラミックス基板11には、分割するためのスクライブライン11Aが形成されており、このスクライブライン11Aが、凹部52のリブ54に位置するように、セラミックス基板11が印刷ステージ50上に載置する。このように、セラミックス基板11を載置することで、セラミックス基板11の第一の面に印刷された接合用ペースト25(乾燥後の接合用ペースト25a)が凹部52に収容されることになる。
【0038】
そして、吸引部55で吸引することによってセラミックス基板11を固定し、セラミックス基板11の第二の面に接合用ペースト25を印刷する。
なお、このときの吸引圧力を0.05MPa以上0.2MPa以下の範囲内とすることが好ましい。また、スキージ圧(印圧)を0.1MPa以上0.2MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
次に、セラミックス基板11の第二の面に印刷した接合用ペースト25を乾燥させ、乾燥後の接合用ペースト25aを形成する。乾燥条件は、乾燥温度を100℃以上155℃以下の範囲内、乾燥時間を5分以上30分以下の範囲内、とすることが好ましい。
このようにして、セラミックス基板11の第一の面及び第二の面に接合用ペースト25(乾燥後の接合用ペースト25a)が印刷されることになる。
【0040】
(積層工程S02)
次に、乾燥後の接合用ペースト25aを介して、分割したセラミックス基板11の第一の面に回路層12となる金属片22を積層し、セラミックス基板11の第二の面に金属層13となる金属片23を積層する。
本実施形態においては、積層工程S02では、乾燥後の接合用ペースト25aを介して積層したセラミックス基板11と金属片22,23を積層方向に加圧してもよい。このときの加圧条件は、加圧圧力が0.05MPa以上0.5MPa以下の範囲内、加圧時間が5秒以上60秒以下の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
本実施形態においては、接合用ペースト25として、金属粉末と、アクリル樹脂と、アジピン酸エステルからなる可塑剤と、溶剤と、を含有し、可塑剤の含有量が3.2mass%以上10.4mass%以下の範囲内とされるとともに、可塑剤の重量Aとアクリル樹脂の重量Bとの比A/Bが0.2≦A/B≦1.3の範囲内とされたものを用いているので、乾燥後に十分な粘着力を有しており、積層した金属片22,23の位置ずれを抑制することが可能となる。
【0042】
(接合工程S03)
そして、乾燥後の接合用ペースト25aを介して積層したセラミックス基板11と金属片22,23とを熱処理して接合する。加熱温度は金属片によって適宜選択される。金属片が銅や銅合金であった場合は、AgとCuの共晶点以上、アルミニウムまたはアルミニウム合金であった場合はアルミニウムと接合用金属ペースト内に含まれる金属との共晶点以上とされている。
本実施形態では金属層22,23として無酸素銅が用いられているため、接合工程S03における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上とされており、具体的には、790℃以上830℃以下の範囲内とされている。また、接合工程S03における保持時間は、5分以上60分以下の範囲内とされている。なお、接合工程S03における加熱温度は、800℃以上820℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、接合工程S03における保持時間は、10分以上30分以下の範囲内とすることが好ましい。
さらに、加熱保持後の冷却速度は、特に限定はないが、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0043】
(分割工程S04)
次に、第一の面に金属片22を接合し、第二の面に金属片23を接合したセラミックス基板11を、スクライブライン11Aに沿って分割する。
【0044】
以上のような工程によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0045】
(ヒートシンク接合工程S05)
次に、この絶縁回路基板10の金属層13の他方側にヒートシンク31を積層し、絶縁回路基板10とヒートシンク31とが積層した積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、アルミニウムと銅との共晶温度未満の加熱温度で保持することにより、金属層13とヒートシンク31を固相拡散接合する。
このヒートシンク接合工程S05における接合条件は、真空条件は10-3Pa以下、加熱温度は510℃以上545℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間が45分以上120分以下の範囲内に設定されている。
【0046】
(半導体素子接合工程S06)
次いで、回路層12の一方の面に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、加熱炉内においてはんだ接合する。
上記のようにして、
図1に示すパワーモジュール1が製造される。
【0047】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、接合用ペースト印刷工程S01において、セラミックス基板11の第一の面に接合用ペースト25を印刷し、乾燥させた後、反転したセラミックス基板11を印刷ステージ50の上に載置し、セラミックス基板11の第一の面に印刷された接合用ペースト25(乾燥後の接合用ペースト25a)を凹部52に収容し、吸引部55によってセラミックス基板11が固定された状態で、セラミックス基板11の第二の面に接合用ペースト25を印刷する構成とされているので、第二の面側に接合用ペースト25を印刷する際に、第一の面側に印刷した接合用ペースト25(乾燥後の接合用ペースト25a)が印刷ステージ50と接触することが抑制され、セラミックス基板11の第一の面及び第二の面に接合用ペースト25を安定して印刷することができる。また、吸引部55によってセラミックス基板11が固定されているので、セラミックス基板11の第二の面側に接合用ペースト25を精度良く印刷することができる。
【0048】
本実施形態においては、セラミックス基板11の第一の面に接合用ペースト25を印刷した後に、印刷した接合用ペースト25を乾燥し、その後、セラミックス基板11の第二の面に接合用ペースト25を印刷する構成としているので、乾燥後の接合用ペースト25aが粘着性を有する場合であっても、セラミックス基板11の第二の面に接合用ペースト25を印刷する際に、乾燥後の接合用ペースト25aが印刷ステージ50に接触することが抑制され、セラミックス基板11の第一の面及び第二の面に接合用ペースト25を安定して印刷することができる。
【0049】
また、本実施形態においては、セラミックス基板11にスクライブライン11Aが形成されており、印刷ステージ50の凹部52に、載置されたセラミックス基板11のスクライブライン11Aに対応した位置にリブ54が設けられているので、大型のセラミックス基板11であっても、吸引固定時や印刷時におけるセラミックス基板11のたわみを抑制でき、接合用ペースト25の印刷を安定して行うことができる。また、接合用ペースト25を印刷した後に、セラミックス基板11をスクライブライン11Aに沿って分割することで、複数の絶縁回路基板10を効率良く製造することが可能となる。
【0050】
さらに、本実施形態においては、接合用ペースト25として、金属粉末と、アクリル樹脂と、アジピン酸エステルからなる可塑剤と、溶剤と、を含有し、前記可塑剤の含有量が3.2mass%以上10.4mass%以下の範囲内とされるとともに、前記可塑剤の重量Aと前記アクリル樹脂の重量Bとの比A/Bが0.2≦A/B≦1.3の範囲内とされたものを用いているので、十分な粘着力を有することになるが、上述のように凹部52を有する印刷ステージ50を用いているので、セラミックス基板11の第一の面及び第二の面に接合用ペースト25を安定して印刷することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0052】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0053】
また、本実施形態では、絶縁回路基板(金属層)とヒートシンクとを固相拡散接合によって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ろう付け、TLP等の他の接合方法を適用してもよい。
さらに、本実施形態では、ヒートシンクをアルミニウムから成るものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅等で構成されていてもよいし、内部に冷却媒体が流通される流路を備えたものであってもよい。
【0054】
また、本実施形態では、スクライブラインが形成されたセラミックス基板を用いており、印刷ステージの凹部にリブを形成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、スクライブラインが形成されていないセラミックス基板に対して、リブが形成されていない凹部を有する印刷ステージを用いて、接合用ペーストを印刷するものであってもよい。
【0055】
さらに、本実施形態では、接合用ペーストを印刷した後に乾燥させる構成として説明したが、これに限定されることはなく、乾燥を実施しなくてもよい。
また、本実施形態では、接合用ペーストとして、金属粉末と、アクリル樹脂と、アジピン酸エステルからなる可塑剤と、溶剤と、を含有するものを、例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他の組成の接合用ペーストを用いてもよい。
さらに、本実施形態ではセラミックス基板11の第一の面に回路層12を形成し、第二の面に金属層13を形成したが、第一の面に金属層13を形成し、第二の面に回路層12を形成してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 パワーモジュール
3 半導体素子
10 絶縁回路基板
11 セラミックス基板
12 回路層
13 金属層
22 金属片
23 金属片
25 接合用ペースト
50 印刷ステージ
52 凹部
53 支持部
54 リブ
55 吸引部