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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081396
(43)【公開日】2023-06-12
(54)【発明の名称】道路用床版接続構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20230605BHJP
【FI】
E01D19/12
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185112
(22)【出願日】2022-11-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2021189599
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】398062574
【氏名又は名称】カナフレックスコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金尾 茂樹
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG02
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】車両走行方向において高い輪荷重を実現できる、道路用床版接続構造を提供する。
【解決手段】一の道路用床版である前床版1と他の道路用床版である後床版2とを接続する道路用床版接続構造4において、前床版1及び後床版2は、補強繊維を有するとともに端部に接続部を有し、接続部は凸部と凹部とを有し、前床版1の道路長手方向後端の凹部1aと、後床版2の道路長手方向前端の凸部2aと、が係合され、前床版1の道路長手方向後端の凹部1aと、後床版2の道路長手方向前端の凸部2aとの間には、隙間6が形成され、隙間6には、補強繊維入りの充填材3が充填される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の道路用床版と他の道路用床版とを接続する、道路用床版接続構造であって、
前記一の道路用床版、及び、前記他の道路用床版は、端部に接続部を有し、
前記接続部は、凸部と凹部とを有し、
前記一の道路用床版の道路長手方向後端の凹部と、前記他の道路用床版の道路長手方向前端の凸部と、が係合され、
前記一の道路用床版の道路長手方向後端の凸部と、前記他の道路用床版の道路長手方向前端の凹部との間には、隙間が形成され、
前記隙間には、充填材が充填される、道路用床版接続構造。
【請求項2】
前記一の道路用床版及び他の道路用床版は、補強繊維入りのコンクリート製である請求項1に記載する道路用床版接続構造。
【請求項3】
前記充填材によって前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版が離隔不可能に接続され、前記充填材の強度は前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版よりも高い、請求項1又は2に記載の道路用床版接続構造。
【請求項4】
前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版の道路長手方向後端には、鉛直方向且つ道路長手方向の溝を有し、その溝に前記充填材が充填される、請求項1又は2に記載の道路用床版接続構造。
【請求項5】
前記充填材の材質が、補強繊維入りのコンクリート製であり、前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版よりも強固である請求項2に記載する道路用床版接続構造。
【請求項6】
フラットであり略長方形の上面を有し、複数個を該上面の面方向に接続して道路を形成する道路用床版であり、
前方側に、前方段差と、該前方段差内に突出する前方突出鉄筋と、を備え、
後方側に、複数の溝と、他の道路用床版の前方段差に突出する後方突出鉄筋と、を備え、
一の道路用床版と、他の道路用床版と、を接続したとき、該他の道路用床版の前方段差が隙間を形成し、該隙間に充填材が充填される道路用床版。
【請求項7】
一の道路用床版と、他の道路用床版と、を接続したとき、該他の道路用床版の前記前方突出鉄筋が、該一の道路用床版の前記溝内に突出し挿入され、該溝内で前記充填材に固定されることを特徴とする請求項6に記載する道路用床版。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路用床版を接続して道路を形成するための道路用床版接続構造、及び道路用床版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路の長手方向に隣り合って敷設された二枚の板材を接続して構成する道路が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-236258
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ループ筋が突出するプレキャスト床版の端面同士を所定の隙間をあけて突き合せた状態で、端面同士の隙間に間詰コンクリートを打設する床版継手構造が開示されている。ところが、前記従来の床版継手構造の場合、ループ筋の内側にループ筋と直行する補強鉄筋を配筋する作業に手間がかかる。また、プレキャスト床版同士の位置決めが困難である。また、端面同士の隙間に打設する間詰コンクリートのコストが多大である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る道路用床版接続構造は、一の道路用床版と他の道路用床版とを接続する、道路用床版接続構造であって、前記一の道路用床版、及び、前記他の道路用床版は、端部に接続部を有し、前記接続部は、凸部と凹部とを有し、前記一の道路用床版の道路長手方向後端の凹部と、前記他の道路用床版の道路長手方向前端の凸部と、が係合され、前記一の道路用床版の道路長手方向後端の凸部と、前記他の道路用床版の道路長手方向前端の凹部との間には、隙間が形成され、前記隙間には、充填材が充填される、ことを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る道路用床版接続構造は、前記道路用床版接続構造において、前記一の道路用床版及び他の道路用床版は、補強繊維入りのコンクリート製である、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る道路用床版接続構造は、前記道路用床版接続構造において、前記充填材によって前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版が離隔不可能に接続され、前記充填材の強度は前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版よりも高い、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る道路用床版接続構造は、前記道路用床版接続構造において、前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版の道路長手方向後端には、鉛直方向且つ道路長手方向の溝を有し、その溝に前記充填材が充填される、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る道路用床版接続構造は、前記道路用床版接続構造において、前記充填材の材質が、前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版よりも強固であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る道路用床版は、フラットであり略長方形の上面を有し、複数個を該上面の面方向に接続して道路を形成する道路用床版であり、
前方側に、前方段差と、該前方段差内に突出する前方突出鉄筋と、を備え、後方側に、複数の溝と、他の道路用床版の前方段差に突出する後方突出鉄筋と、を備え、
一の道路用床版と、他の道路用床版と、を接続したとき、該他の道路用床版の前方段差が隙間を形成し、該隙間に充填材が充填される、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る道路用床版は、前記道路用床版において、一の道路用床版と、他の道路用床版と、を接続したとき、該他の道路用床版の前記前方突出鉄筋が、該一の道路用床版の前記溝内に突出し挿入され、該溝内で前記充填材に固定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る道路用床版接続構造によれば、一の道路用床版の接続部と他の道路用床版の接続部とを係合するだけで、施工することができ、施工が容易である。また、一の道路用床版の道路長手方向後端の凸部と、他の道路用床版の道路長手方向前端の凹部との間に形成された僅かな隙間に、充填材を充填するだけで、一の道路用床版と他の道路用床版とを接続することができる。すなわち、僅かな隙間の充填材のみによって、一の道路用床版と他の道路用床版とを、離隔不可能に接続することができる。このため、施工が容易であるとともに充填材のコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る道路用床版接続構造を示す斜視図である。
図2】接続する前の道路用床版を示す斜視図である。
図3】第一変形例に係る道路用床版を示す斜視図である。
図4】(a)から(f)はそれぞれ、第一変形例に係る道路用床版を示す正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図、及び、底面図である。
図5】(a)から(c)はそれぞれ、第一変形例に係る道路用床版を用いた接続構造を示す平面図、A-A線切断部断面図、B-B線切断部断面図である。
図6】(a)は図4(c)の部分拡大図、(b)は図4(d)の部分拡大図である。
図7】第二変形例に係る道路用床版を示す斜視図である。
図8】(a)から(f)はそれぞれ、第二変形例に係る道路用床版を示す正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図、及び、底面図である。
図9】第三変形例に係る道路用床版を示す斜視図である。
図10】(a)から(f)はそれぞれ、第三変形例に係る道路用床版を示す正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図、及び、底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(道路用床版接続構造4)
まず、図1及び図2を用いて本発明の一実施形態に係る道路用床版接続構造(継手構造)4について説明する。図1及び図2に示す如く、本実施形態において、一の道路用床版である前床版1と、他の道路用床版である後床版2とが接続される。前床版1及び後床版2(以下、総称して単に「床版」と記載する)は補強繊維を有する繊維補強コンクリートであり、ともに道路長手方向の端部に接続部が形成されている。前床版1の前端及び後床版2の後端においても、接続部が形成されるが、図1及び図2においては省略している。
【0015】
床版1,2を構成するセメントの材質は、本願発明の技術的特徴ではなく、限定されない。例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント等、各種セメントが、使用される。これらのなかでも、生産性、強度等の点から、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましい。セメントに対する水の配合割合が多すぎると、床版の強度が低下する傾向にあり、逆に水の配合割合が少なすぎると、成形時にセメント混練物の流動性が低下して成形性を阻害する傾向にある。このため、セメントに対する水の配合割合は、適切な範囲内に収まることが好ましい。セメントは、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化第二鉄(Fe2O3)を含む。
【0016】
床版1,2を構成するセメントが補強繊維を含んだ場合には、補強繊維としては、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維等のポリオレフィン系繊維、アラミド繊維、炭素繊維、鋼繊維、ガラス繊維、鉱物繊維等が挙げられる。補強繊維の繊維長は特に限定されない。補強繊維の繊維長が長い方が補強効果の点では有利であるが、その一方で、繊維長が長くなるほど分散性が低下し、成形体内で補強繊維が偏在して、却って床版1,2の強度を低下させる場合もある。また、補強繊維の太さも特に限定はない。床版1,2を構成するセメントは、補強繊維を含まなくともよい。
【0017】
充填材3の材質は、例えば、高強度の接合力と優れた防水性とを備えた樹脂モルタルである。充填材3の材質は、例えばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂またはポリエレア樹脂等からなる合成樹脂と、砂等の細骨材と、が混合された樹脂モルタルである。なお、充填材3の材質は、弾性ゴム等であってもよい。
【0018】
充填材3に含まれる補強繊維は、例えば、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維等のポリオレフィン系繊維、アラミド繊維、炭素繊維、鋼繊維、ガラス繊維等である。これらの繊維の中でも、ビニロン繊維は、耐久性が高く、セメントとの親和性に優れるので好ましい。補強繊維の繊維長は特に限定されないが、短繊維であることが好ましく、例えば15~45mmの範囲が好ましい。補強繊維の繊維長が15mm未満では補強効果が不足する傾向がみられる。補強繊維の繊維長が長い方が補強効果の点では有利である。一方で、繊維長が長くなるほど分散性が低下し、成形体内で補強繊維が偏在して、却ってパネル強度を低下させる場合もある。また、補強繊維の太さにも特に限定はないが、通常、10~1000μmのものが用いられる。
【0019】
前床版1、後床版2及び充填材3に含まれる補強繊維の配合量は、前記セメント100重量部に対して0.2~6重量部とすることが好ましい。補強繊維の配合量が少ないと、補強効果も低く、パネル強度も低くなる。補強繊維の配合量が多いほどパネル補強効果においては有利であるものの、補強繊維の配合量が過剰であるとセメント混練物中での分散性が悪くなり、補強繊維が偏在して、パネル強度が不均一になり、却ってパネル強度を低下させるおそれがある。このような観点から、補強繊維の配合量のより好ましい範囲は、セメント100重量部に対して0.4~4重量部である。
【0020】
上記補強繊維の配合量を考慮して、充填材3の強度が、床版1,2の強度よりも高く設定される。また、充填材3の材質は、床版1,2の強度よりも強固である。このため、車両等の荷重による衝撃は、床版1,2が僅かに弾性変形して、主として床版1,2が吸収する。また、床版1,2の上面の面積が充填材3の上面面積よりも大きいことによっても、車両等の荷重による衝撃は、床版1,2が僅かに弾性変形して、床版1,2が吸収する。衝撃に対する垂直方向の面積が大きい程、弾性変形量が大きいからである。
【0021】
すなわち、床版1,2の上面の面積が充填材3の上面の面積よりも大きいこと、及び、床版1,2の強度が充填材3の強度よりも小さいこと、によって、車両等の荷重による衝撃が効率的に床版1,2へ吸収される。これにより、道路用床版接続構造4の強度を高め、寿命を長くすることができる。また、通常、X軸方向において、床版1と床版2との接続部である充填材3の位置に応力集中が生じる。充填材3の強度を、床版1及び2の強度よりも高くすることにより、集中的に負荷のかかる位置をなくし、全体として応力集中の生じる位置をなくすことができる。このため、破損に対する強度を向上させることができる。
【0022】
各部材の強度の具体的な数値は、圧縮強度において、床版1,2の場合、40~60N/mmであるのに対して、充填材3の場合、90~110N/mmである。充填材3の圧縮強度は、床版1,2の圧縮強度に対して、1.5~2.75倍である。例えば、床版1及び2の圧縮強度が約50N/mmであるのに対して、充填材3の圧縮強度が約100N/mmであり、充填材3の圧縮強度は、床版1,2の圧縮強度に対して、約2倍である。
【0023】
床版1,2を構成する繊維補強コンクリート材は、その軽量化を目的として、多孔質であってもよい。なお、「多孔質」であるとは、例えば、発泡剤や起泡剤等を用いて床版1,2の内部に独立気泡および連続気泡等の気泡を含ませることを意味する。また、床版1,2を構成する繊維補強コンクリート材は、その軽量化を目的として、樹脂発泡体をさらに含んでいてもよい。
【0024】
それぞれの床版の接続部は、凸部と凹部とを有している。具体的には図2に示す如く、前床版1の道路長手方向後端には凹部1a及び凸部1cが形成され、凸部1cの下面には後方段差8が形成される。また、後床版2の道路長手方向前端には凸部2a及び凹部2cが形成され、凸部2aの上面には前方段差7が形成される。互いに連結した床版1及び2からなるユニットを道路長手方向に複数組連結するためには、前床版1の道路長手方向前端に、凸部2aと同形状の凸部及び凹部2cと同形状の凹部が形成され、後床版2の道路長手方向後端に、凹部1aと同形状の凹部及び凸部1cと同形状の凸部が形成される。
【0025】
図2に示す如く、前床版1の凹部1aと後床版2の凸部2aとが係合される。この際、前方段差7の上方に後方段差8が位置する。また、前床版1の道路長手方向後端の凸部1cと、後床版2の道路長手方向前端の凹部2cと、によって、隙間6が形成される。そして、この隙間6及び溝1bには、図1に示す如く補強繊維入りの充填材3が充填される。この充填材3により、前床版1と後床版2とが離隔不可能に接続される。溝1bの形状は、特に限定されず、先細形状、湾曲形状等でもよい。
【0026】
なお、凹部1aと凸部2aとは、係合されるだけで充填材によって固着されることはない。すなわち、上下方向において、前床版1と後床版2とが充填材によって固着されるのは、上半分(4割~6割)であり、下半分(6割~4割)においては、固着されない。このため、現場施工する充填材の量を低減できる。
【0027】
本発明に係る道路用床版接続構造4においては、車両走行方向において、車両からの下方向への高い輪荷重に対する耐久性を実現することができた。具体的には、床版1,2の接続付近で、試験機のローラーから下方向へ負荷をかけ、走行方向にローラーを往復運動させる輪荷重走行疲労試験を行った。試験は、16tから4万回毎に2tずつ荷重を上げ、40tでトータル52万回走行させる階段載荷方法で行い、疲労破壊せずに終了した。すなわち、この道路用床版接続構造4での、ローラーから下方向への高い輪荷重に耐久できるという効果が生じる。前床版1と後床版2とが充填材3によって固着されるのは、上半分であるにもかかわらず、前記試験に耐えることができた。
【0028】
以上説明した本発明に係る道路用床版接続構造4によれば、前床版1の接続部と後床版2の接続部とを係合するだけで、施工することができ、施工が容易である。前方段差7に前床版1の接続部を係合することにより、前床版1と後床版2との位置決めが容易である。また、凸部1cと凹部2cとによって形成された僅かな隙間6に、充填材3を充填するだけで、前床版1と後床版2とを接続することができる。すなわち、僅かな隙間6の充填材3のみによって、前床版1と後床版2とを、離隔不可能に接続することができる。このため、施工が容易であるとともに充填材3のコストを低減することができる。なお、前床版1の凸部1c及び後床版2の凹部2cの中の、充填材3と接触する部分は、凸凹面とする目荒しが施されている。これにより、凸部1c及び凹部2cと充填材3との接着力を向上させることができる。
【0029】
(固定構造5(第一変形例))
次に、第一変形例に係る床版1A,2Aを用いた道路用床版接続構造4について、図3から図6を用いて説明する。本変形例に係る床版1A,2Aにおいては、前記実施形態に係る床版1,2と同じ構成については同符号を付して詳細な説明を省略する。
【0030】
図5に示す如く、道路用床版接続構造4は固定構造5を備える。固定構造5は、凹部2cを形成する前方段差7と、凹部2cに連続する複数の溝1bと、を備える。固定構造5は、さらに、後床版2Aに内蔵され、前端部がU字形状(コの字形状)である複数の前方突出鉄筋9を備える。前方突出鉄筋9は、U字形状の中のL字部分が、溝1b内に突出する。固定構造5は、さらに、前床版1Aに内蔵され、後端部がU字形状(コの字形状)である複数の内蔵鉄筋10と、前床版1Aに内蔵され、少なくとも後端部が直線状である複数の後方突出鉄筋11と、を備える。固定構造5は、さらに、後床版2Aに内蔵され、Y軸方向に直線状に延びる複数の横鉄筋12と、前床版1Aに内蔵され、Y軸方向に直線状に延びる複数の横鉄筋13と、を備える。
【0031】
内蔵鉄筋10と後方突出鉄筋11とは、溶接や固定具等によって固定される。前方突出鉄筋9は、前端付近が凹部2c及び溝1b内に突出する。後方突出鉄筋11の後端付近は、凹部2c内に突出する。横鉄筋12と前方突出鉄筋9とは、溶接によって固定される。横鉄筋13と内蔵鉄筋10とは、溶接によって固定される。
【0032】
固定構造5は、前方突出鉄筋9が凹部2c及び溝1b内に突出するとともに、後方突出鉄筋11の後端付近が凹部2c内に突出する。このため、凹部2c及び溝1b内に充填材3を注入し固化されることにより、2本の鉄筋9,11を介して、前床版1Aと後床版2Aとを強固に連結固定することができる。前方突出鉄筋9は、前端付近が凹部2c及び溝1b内に突出するため、前床版1Aと後床版2Aとが互いにY軸方向にスライドすることが防止される。このため、前床版1Aと後床版2Aとが強固に固定される。また、前方突出鉄筋9と、溝1b内の充填材3と、後床版2Aを構成する補強繊維入りコンクリートと、は一体化される。また、溝1b内の充填材3と、前床版1Aを構成する補強繊維入りコンクリートと、は一体化される。これにより、前床版1Aと後床版2Aとが強固に固定される。
【0033】
前方突出鉄筋9が溝1bの内側壁に圧入される構成であってもよい。これにより、前方突出鉄筋9が溝1bの内側壁から外れることなく固定される。前方突出鉄筋9の前方端付近に拡径部(エンドバンド)を設け、拡径部が溝1bの内側壁に圧入される構成であってもよい。前方突出鉄筋9が溝1bの内側壁から外れることなく固定されるとともに、前方突出鉄筋9が溝1b内から、ずれることがなく、抜出することがない。
【0034】
固定構造5は、前床版1Aの複数の溝1bに、後床版2Aの複数の前方突出鉄筋9が、各々係合される。複数の溝1b及び前方突出鉄筋9は、長手方向(X軸方向)に対して直角方向(Y軸方向)に複数個配列されている。このため、Y軸方向において、前床版1Aと後床版2Aとが互いにずれることはない。しかも、溝1b及び前方突出鉄筋9は、Y軸方向に複数個配列されているため、溝1bと前方突出鉄筋9と間での抵抗力を高めることができる。この抵抗力は、溝1b及び前方突出鉄筋9の数が多い程大きく、溝1b及び前方突出鉄筋9の数は、Y軸方向で50~300mmあたり1個であることが好ましい。また、前方突出鉄筋9の前方端は、溝1bの根本1dに当接するように構成してもよい。前床版1Aと後床版2Aとの位置決めが容易となる。
【0035】
図5(b)に示すように、前床版1Aの溝1bの根本1dは、重なり幅W1が生じる程度に、前方段差7の上に係合されるように構成されている。図5(c)に示すように、前床版1Aの凸部1cは、重なり幅W2が生じる程度に、前方段差7の上に係合される。すなわち、固定構造5は、Y軸方向全てにおいて、後床版2Aの前方段差7の上に前床版1Aを載置して係合できるように構成されている。このため、前床版1Aと後床版2Aとを安定した状態に強固に固定できる。また、製造中に充填材3が前床版1A及び後床版2Aの下面まで漏れることはない。また、道路として使用している時に、前床版1A及び後床版2Aの下面の水分が、前床版1Aと後床版2Aとの接触面から、前床版1A及び後床版2Aの上面に噴出することがない。
【0036】
(他の変形例)
本発明に係る床版は、図7及び図8に示す如く、第二変形例に係る床版1B,2Bであってもよい。本変形例に係る床版1B,2Bは、第一変形例に係る床版1A,2Aにおいて鉄筋が突出しない構成である。本変形例に係る床版1B,2Bにおいても、複数個が図1に示すように、充填材3によって接続される。
【0037】
本発明に係る床版は、図9及び図10に示す如く、第三変形例に係る床版1C,2Cであってもよい。本変形例に係る床版1C,2Cは、第二変形例に係る床版1B,2Bにおいて溝を有しない構成である。本変形例に係る床版1C,2Cにおいても、複数個が図1に示すように、充填材3によって接続される。
【0038】
上記の変形例に係る床版1B,2B(1C,2C)において、充填材3の材質は、床版1,2の材質よりも強固である。一方で、床版1,2と充填材3とは、原料がセメントであるため、親和性が良く、強固に接続され、離隔することがない。すなわち、床版1,2と充填材3に、垂直荷重を付加しても、床版1,2と充填材3との接続部が破壊することはない。
【符号の説明】
【0039】
1 前床版(一の道路用床版) 1A 前床版(第一変形例)
1B 前床版(第二変形例) 1C 前床版(第三変形例)
1a 凹部 1b 溝
1c 凸部 1d 根元
2 後床版(他の道路用床版) 2A 後床版(第一変形例)
2B 後床版(第二変形例) 2C 後床版(第三変形例)
2a 凸部 2c 凹部
3 充填材 4 道路用床版接続構造(継手構造)
5 固定構造 6 隙間
7 前方段差 8 後方段差
9 前方突出鉄筋 10 内蔵鉄筋
11 後方突出鉄筋 12 横鉄筋
13 横鉄筋


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の道路用床版と他の道路用床版とを接続する、道路用床版接続構造であって、
前記一の道路用床版、及び、前記他の道路用床版は、端部に接続部を有し、
前記接続部は、凸部と凹部とを有し、
前記一の道路用床版の道路長手方向後端の凹部と、前記他の道路用床版の道路長手方向前端の凸部と、が係合され、
前記一の道路用床版の道路長手方向後端の凸部と、前記他の道路用床版の道路長手方向前端の凹部との間には、隙間が形成され、
前記隙間には、充填材が充填され
前記一の道路用床版、前記他の道路用床版、及び前記充填材は、補強繊維入りのコンクリート製であり、
前記充填材によって前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版が離隔不可能に接続され、前記充填材の強度は前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版よりも高い、道路用床版接続構造。
【請求項2】
前記充填材の圧縮強度は、前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版の圧縮強度に対して、1.5~2.75倍である、請求項1に記載の道路用床版接続構造。
【請求項3】
前記一の道路用床版、前記他の道路用床版、及び前記充填材の補強繊維の配合量は、前記充填材の強度が前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版よりも高くなる程度である、請求項1に記載の道路用床版接続構造。
【請求項4】
前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版の道路長手方向後端には、鉛直方向且つ道路長手方向の溝を有し、その溝に前記充填材が充填される、請求項1又は2に記載の道路用床版接続構造。
【請求項5】
前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版は、
前方側に、道路長手方向に対して直角方向に複数個配列された前方突出鉄筋を備え、
後方側に、道路長手方向に対して直角方向に複数個配列された溝を備え、
前記一の道路用床版と、前記他の道路用床版と、を接続したとき、該他の道路用床版の前記前方突出鉄筋が、該一の道路用床版の前記溝内に突出し挿入され、該溝内で前記充填材に固定される、請求項1に記載の道路用床版接続構造。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路用床版を接続して道路を形成するための道路用床版接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路の長手方向に隣り合って敷設された二枚の板材を接続して構成する道路が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-236258
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ループ筋が突出するプレキャスト床版の端面同士を所定の隙間をあけて突き合せた状態で、端面同士の隙間に間詰コンクリートを打設する床版継手構造が開示されている。ところが、前記従来の床版継手構造の場合、ループ筋の内側にループ筋と直行する補強鉄筋を配筋する作業に手間がかかる。また、プレキャスト床版同士の位置決めが困難である。また、端面同士の隙間に打設する間詰コンクリートのコストが多大である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る道路用床版接続構造は、一の道路用床版と他の道路用床版とを接続する、道路用床版接続構造であって、前記一の道路用床版、及び、前記他の道路用床版は、端部に接続部を有し、前記接続部は、凸部と凹部とを有し、前記一の道路用床版の道路長手方向後端の凹部と、前記他の道路用床版の道路長手方向前端の凸部と、が係合され、前記一の道路用床版の道路長手方向後端の凸部と、前記他の道路用床版の道路長手方向前端の凹部との間には、隙間が形成され、前記隙間には、充填材が充填され、前記一の道路用床版、前記他の道路用床版、及び前記充填材は、補強繊維入りのコンクリート製であり、前記充填材によって前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版が離隔不可能に接続され、前記充填材の強度は前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版よりも高い、ことを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る道路用床版接続構造は、前記道路用床版接続構造において、前記充填材の圧縮強度は、前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版の圧縮強度に対して、1.5~2.75倍である、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る道路用床版接続構造は、前記道路用床版接続構造において、前記一の道路用床版、前記他の道路用床版、及び前記充填材の補強繊維の配合量は、前記充填材の強度が前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版よりも高くなる程度である、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る道路用床版接続構造は、前記道路用床版接続構造において、前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版の道路長手方向後端には、鉛直方向且つ道路長手方向の溝を有し、その溝に前記充填材が充填される、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る道路用床版接続構造は、前記道路用床版接続構造において、前記一の道路用床版及び前記他の道路用床版は、前方側に、道路長手方向に対して直角方向に複数個配列された前方突出鉄筋を備え、後方側に、道路長手方向に対して直角方向に複数個配列された溝を備え、前記一の道路用床版と、前記他の道路用床版と、を接続したとき、該他の道路用床版の前記前方突出鉄筋が、該一の道路用床版の前記溝内に突出し挿入され、該溝内で前記充填材に固定される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る道路用床版接続構造によれば、一の道路用床版の接続部と他の道路用床版の接続部とを係合するだけで、施工することができ、施工が容易である。また、一の道路用床版の道路長手方向後端の凸部と、他の道路用床版の道路長手方向前端の凹部との間に形成された僅かな隙間に、充填材を充填するだけで、一の道路用床版と他の道路用床版とを接続することができる。すなわち、僅かな隙間の充填材のみによって、一の道路用床版と他の道路用床版とを、離隔不可能に接続することができる。このため、施工が容易であるとともに充填材のコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る道路用床版接続構造を示す斜視図である。
図2】接続する前の道路用床版を示す斜視図である。
図3】第一変形例に係る道路用床版を示す斜視図である。
図4】(a)から(f)はそれぞれ、第一変形例に係る道路用床版を示す正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図、及び、底面図である。
図5】(a)から(c)はそれぞれ、第一変形例に係る道路用床版を用いた接続構造を示す平面図、A-A線切断部断面図、B-B線切断部断面図である。
図6】(a)は図4(c)の部分拡大図、(b)は図4(d)の部分拡大図である。
図7】第二変形例に係る道路用床版を示す斜視図である。
図8】(a)から(f)はそれぞれ、第二変形例に係る道路用床版を示す正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図、及び、底面図である。
図9】第三変形例に係る道路用床版を示す斜視図である。
図10】(a)から(f)はそれぞれ、第三変形例に係る道路用床版を示す正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図、及び、底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(道路用床版接続構造4)
まず、図1及び図2を用いて本発明の一実施形態に係る道路用床版接続構造(継手構造)4について説明する。図1及び図2に示す如く、本実施形態において、一の道路用床版である前床版1と、他の道路用床版である後床版2とが接続される。前床版1及び後床版2(以下、総称して単に「床版」と記載する)は補強繊維を有する繊維補強コンクリートであり、ともに道路長手方向の端部に接続部が形成されている。前床版1の前端及び後床版2の後端においても、接続部が形成されるが、図1及び図2においては省略している。
【0013】
床版1,2を構成するセメントの材質は、本願発明の技術的特徴ではなく、限定されない。例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント等、各種セメントが、使用される。これらのなかでも、生産性、強度等の点から、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましい。セメントに対する水の配合割合が多すぎると、床版の強度が低下する傾向にあり、逆に水の配合割合が少なすぎると、成形時にセメント混練物の流動性が低下して成形性を阻害する傾向にある。このため、セメントに対する水の配合割合は、適切な範囲内に収まることが好ましい。セメントは、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化第二鉄(Fe2O3)を含む。
【0014】
床版1,2を構成するセメントが補強繊維を含んだ場合には、補強繊維としては、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維等のポリオレフィン系繊維、アラミド繊維、炭素繊維、鋼繊維、ガラス繊維、鉱物繊維等が挙げられる。補強繊維の繊維長は特に限定されない。補強繊維の繊維長が長い方が補強効果の点では有利であるが、その一方で、繊維長が長くなるほど分散性が低下し、成形体内で補強繊維が偏在して、却って床版1,2の強度を低下させる場合もある。また、補強繊維の太さも特に限定はない。床版1,2を構成するセメントは、補強繊維を含まなくともよい。
【0015】
充填材3の材質は、例えば、高強度の接合力と優れた防水性とを備えた樹脂モルタルである。充填材3の材質は、例えばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂またはポリエレア樹脂等からなる合成樹脂と、砂等の細骨材と、が混合された樹脂モルタルである。なお、充填材3の材質は、弾性ゴム等であってもよい。
【0016】
充填材3に含まれる補強繊維は、例えば、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維等のポリオレフィン系繊維、アラミド繊維、炭素繊維、鋼繊維、ガラス繊維等である。これらの繊維の中でも、ビニロン繊維は、耐久性が高く、セメントとの親和性に優れるので好ましい。補強繊維の繊維長は特に限定されないが、短繊維であることが好ましく、例えば15~45mmの範囲が好ましい。補強繊維の繊維長が15mm未満では補強効果が不足する傾向がみられる。補強繊維の繊維長が長い方が補強効果の点では有利である。一方で、繊維長が長くなるほど分散性が低下し、成形体内で補強繊維が偏在して、却ってパネル強度を低下させる場合もある。また、補強繊維の太さにも特に限定はないが、通常、10~1000μmのものが用いられる。
【0017】
前床版1、後床版2及び充填材3に含まれる補強繊維の配合量は、前記セメント100重量部に対して0.2~6重量部とすることが好ましい。補強繊維の配合量が少ないと、補強効果も低く、パネル強度も低くなる。補強繊維の配合量が多いほどパネル補強効果においては有利であるものの、補強繊維の配合量が過剰であるとセメント混練物中での分散性が悪くなり、補強繊維が偏在して、パネル強度が不均一になり、却ってパネル強度を低下させるおそれがある。このような観点から、補強繊維の配合量のより好ましい範囲は、セメント100重量部に対して0.4~4重量部である。
【0018】
上記補強繊維の配合量を考慮して、充填材3の強度が、床版1,2の強度よりも高く設定される。また、充填材3の材質は、床版1,2の強度よりも強固である。このため、車両等の荷重による衝撃は、床版1,2が僅かに弾性変形して、主として床版1,2が吸収する。また、床版1,2の上面の面積が充填材3の上面面積よりも大きいことによっても、車両等の荷重による衝撃は、床版1,2が僅かに弾性変形して、床版1,2が吸収する。衝撃に対する垂直方向の面積が大きい程、弾性変形量が大きいからである。
【0019】
すなわち、床版1,2の上面の面積が充填材3の上面の面積よりも大きいこと、及び、床版1,2の強度が充填材3の強度よりも小さいこと、によって、車両等の荷重による衝撃が効率的に床版1,2へ吸収される。これにより、道路用床版接続構造4の強度を高め、寿命を長くすることができる。また、通常、X軸方向において、床版1と床版2との接続部である充填材3の位置に応力集中が生じる。充填材3の強度を、床版1及び2の強度よりも高くすることにより、集中的に負荷のかかる位置をなくし、全体として応力集中の生じる位置をなくすことができる。このため、破損に対する強度を向上させることができる。
【0020】
各部材の強度の具体的な数値は、圧縮強度において、床版1,2の場合、40~60N/mm2であるのに対して、充填材3の場合、90~110N/mm2である。充填材3の圧縮強度は、床版1,2の圧縮強度に対して、1.5~2.75倍である。例えば、床版1及び2の圧縮強度が約50N/mm2であるのに対して、充填材3の圧縮強度が約100N/mm2であり、充填材3の圧縮強度は、床版1,2の圧縮強度に対して、約2倍である。
【0021】
床版1,2を構成する繊維補強コンクリート材は、その軽量化を目的として、多孔質であってもよい。なお、「多孔質」であるとは、例えば、発泡剤や起泡剤等を用いて床版1,2の内部に独立気泡および連続気泡等の気泡を含ませることを意味する。また、床版1,2を構成する繊維補強コンクリート材は、その軽量化を目的として、樹脂発泡体をさらに含んでいてもよい。
【0022】
それぞれの床版の接続部は、凸部と凹部とを有している。具体的には図2に示す如く、前床版1の道路長手方向後端には凹部1a及び凸部1cが形成され、凸部1cの下面には後方段差8が形成される。また、後床版2の道路長手方向前端には凸部2a及び凹部2cが形成され、凸部2aの上面には前方段差7が形成される。互いに連結した床版1及び2からなるユニットを道路長手方向に複数組連結するためには、前床版1の道路長手方向前端に、凸部2aと同形状の凸部及び凹部2cと同形状の凹部が形成され、後床版2の道路長手方向後端に、凹部1aと同形状の凹部及び凸部1cと同形状の凸部が形成される。
【0023】
図2に示す如く、前床版1の凹部1aと後床版2の凸部2aとが係合される。この際、前方段差7の上方に後方段差8が位置する。また、前床版1の道路長手方向後端の凸部1cと、後床版2の道路長手方向前端の凹部2cと、によって、隙間6が形成される。そして、この隙間6及び溝1bには、図1に示す如く補強繊維入りの充填材3が充填される。この充填材3により、前床版1と後床版2とが離隔不可能に接続される。溝1bの形状は、特に限定されず、先細形状、湾曲形状等でもよい。
【0024】
なお、凹部1aと凸部2aとは、係合されるだけで充填材によって固着されることはない。すなわち、上下方向において、前床版1と後床版2とが充填材によって固着されるのは、上半分(4割~6割)であり、下半分(6割~4割)においては、固着されない。このため、現場施工する充填材の量を低減できる。
【0025】
本発明に係る道路用床版接続構造4においては、車両走行方向において、車両からの下方向への高い輪荷重に対する耐久性を実現することができた。具体的には、床版1,2の接続付近で、試験機のローラーから下方向へ負荷をかけ、走行方向にローラーを往復運動させる輪荷重走行疲労試験を行った。試験は、16tから4万回毎に2tずつ荷重を上げ、40tでトータル52万回走行させる階段載荷方法で行い、疲労破壊せずに終了した。すなわち、この道路用床版接続構造4での、ローラーから下方向への高い輪荷重に耐久できるという効果が生じる。前床版1と後床版2とが充填材3によって固着されるのは、上半分であるにもかかわらず、前記試験に耐えることができた。
【0026】
以上説明した本発明に係る道路用床版接続構造4によれば、前床版1の接続部と後床版2の接続部とを係合するだけで、施工することができ、施工が容易である。前方段差7に前床版1の接続部を係合することにより、前床版1と後床版2との位置決めが容易である。また、凸部1cと凹部2cとによって形成された僅かな隙間6に、充填材3を充填するだけで、前床版1と後床版2とを接続することができる。すなわち、僅かな隙間6の充填材3のみによって、前床版1と後床版2とを、離隔不可能に接続することができる。このため、施工が容易であるとともに充填材3のコストを低減することができる。なお、前床版1の凸部1c及び後床版2の凹部2cの中の、充填材3と接触する部分は、凸凹面とする目荒しが施されている。これにより、凸部1c及び凹部2cと充填材3との接着力を向上させることができる。
【0027】
(固定構造5(第一変形例))
次に、第一変形例に係る床版1A,2Aを用いた道路用床版接続構造4について、図3から図6を用いて説明する。本変形例に係る床版1A,2Aにおいては、前記実施形態に係る床版1,2と同じ構成については同符号を付して詳細な説明を省略する。
【0028】
図5に示す如く、道路用床版接続構造4は固定構造5を備える。固定構造5は、凹部2cを形成する前方段差7と、凹部2cに連続する複数の溝1bと、を備える。固定構造5は、さらに、後床版2Aに内蔵され、前端部がU字形状(コの字形状)である複数の前方突出鉄筋9を備える。前方突出鉄筋9は、U字形状の中のL字部分が、溝1b内に突出する。固定構造5は、さらに、前床版1Aに内蔵され、後端部がU字形状(コの字形状)である複数の内蔵鉄筋10と、前床版1Aに内蔵され、少なくとも後端部が直線状である複数の後方突出鉄筋11と、を備える。固定構造5は、さらに、後床版2Aに内蔵され、Y軸方向に直線状に延びる複数の横鉄筋12と、前床版1Aに内蔵され、Y軸方向に直線状に延びる複数の横鉄筋13と、を備える。
【0029】
内蔵鉄筋10と後方突出鉄筋11とは、溶接や固定具等によって固定される。前方突出鉄筋9は、前端付近が凹部2c及び溝1b内に突出する。後方突出鉄筋11の後端付近は、凹部2c内に突出する。横鉄筋12と前方突出鉄筋9とは、溶接によって固定される。横鉄筋13と内蔵鉄筋10とは、溶接によって固定される。
【0030】
固定構造5は、前方突出鉄筋9が凹部2c及び溝1b内に突出するとともに、後方突出鉄筋11の後端付近が凹部2c内に突出する。このため、凹部2c及び溝1b内に充填材3を注入し固化されることにより、2本の鉄筋9,11を介して、前床版1Aと後床版2Aとを強固に連結固定することができる。前方突出鉄筋9は、前端付近が凹部2c及び溝1b内に突出するため、前床版1Aと後床版2Aとが互いにY軸方向にスライドすることが防止される。このため、前床版1Aと後床版2Aとが強固に固定される。また、前方突出鉄筋9と、溝1b内の充填材3と、後床版2Aを構成する補強繊維入りコンクリートと、は一体化される。また、溝1b内の充填材3と、前床版1Aを構成する補強繊維入りコンクリートと、は一体化される。これにより、前床版1Aと後床版2Aとが強固に固定される。
【0031】
前方突出鉄筋9が溝1bの内側壁に圧入される構成であってもよい。これにより、前方突出鉄筋9が溝1bの内側壁から外れることなく固定される。前方突出鉄筋9の前方端付近に拡径部(エンドバンド)を設け、拡径部が溝1bの内側壁に圧入される構成であってもよい。前方突出鉄筋9が溝1bの内側壁から外れることなく固定されるとともに、前方突出鉄筋9が溝1b内から、ずれることがなく、抜出することがない。
【0032】
固定構造5は、前床版1Aの複数の溝1bに、後床版2Aの複数の前方突出鉄筋9が、各々係合される。複数の溝1b及び前方突出鉄筋9は、長手方向(X軸方向)に対して直角方向(Y軸方向)に複数個配列されている。このため、Y軸方向において、前床版1Aと後床版2Aとが互いにずれることはない。しかも、溝1b及び前方突出鉄筋9は、Y軸方向に複数個配列されているため、溝1bと前方突出鉄筋9と間での抵抗力を高めることができる。この抵抗力は、溝1b及び前方突出鉄筋9の数が多い程大きく、溝1b及び前方突出鉄筋9の数は、Y軸方向で50~300mmあたり1個であることが好ましい。また、前方突出鉄筋9の前方端は、溝1bの根本1dに当接するように構成してもよい。前床版1Aと後床版2Aとの位置決めが容易となる。
【0033】
図5(b)に示すように、前床版1Aの溝1bの根本1dは、重なり幅W1が生じる程度に、前方段差7の上に係合されるように構成されている。図5(c)に示すように、前床版1Aの凸部1cは、重なり幅W2が生じる程度に、前方段差7の上に係合される。すなわち、固定構造5は、Y軸方向全てにおいて、後床版2Aの前方段差7の上に前床版1Aを載置して係合できるように構成されている。このため、前床版1Aと後床版2Aとを安定した状態に強固に固定できる。また、製造中に充填材3が前床版1A及び後床版2Aの下面まで漏れることはない。また、道路として使用している時に、前床版1A及び後床版2Aの下面の水分が、前床版1Aと後床版2Aとの接触面から、前床版1A及び後床版2Aの上面に噴出することがない。
【0034】
(他の変形例)
本発明に係る床版は、図7及び図8に示す如く、第二変形例に係る床版1B,2Bであってもよい。本変形例に係る床版1B,2Bは、第一変形例に係る床版1A,2Aにおいて鉄筋が突出しない構成である。本変形例に係る床版1B,2Bにおいても、複数個が図1に示すように、充填材3によって接続される。
【0035】
本発明に係る床版は、図9及び図10に示す如く、第三変形例に係る床版1C,2Cであってもよい。本変形例に係る床版1C,2Cは、第二変形例に係る床版1B,2Bにおいて溝を有しない構成である。本変形例に係る床版1C,2Cにおいても、複数個が図1に示すように、充填材3によって接続される。
【0036】
上記の変形例に係る床版1B,2B(1C,2C)において、充填材3の材質は、床版1,2の材質よりも強固である。一方で、床版1,2と充填材3とは、原料がセメントであるため、親和性が良く、強固に接続され、離隔することがない。すなわち、床版1,2と充填材3に、垂直荷重を付加しても、床版1,2と充填材3との接続部が破壊することはない。
【符号の説明】
【0037】
1 前床版(一の道路用床版) 1A 前床版(第一変形例)
1B 前床版(第二変形例) 1C 前床版(第三変形例)
1a 凹部 1b 溝
1c 凸部 1d 根元
2 後床版(他の道路用床版) 2A 後床版(第一変形例)
2B 後床版(第二変形例) 2C 後床版(第三変形例)
2a 凸部 2c 凹部
3 充填材 4 道路用床版接続構造(継手構造)
5 固定構造 6 隙間
7 前方段差 8 後方段差
9 前方突出鉄筋 10 内蔵鉄筋
11 後方突出鉄筋 12 横鉄筋
13 横鉄筋