(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008140
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】塗布ロール
(51)【国際特許分類】
F16C 13/00 20060101AFI20230112BHJP
B05C 1/02 20060101ALI20230112BHJP
B05C 1/08 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
F16C13/00 A
F16C13/00 B
B05C1/02 102
B05C1/08
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111453
(22)【出願日】2021-07-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000142436
【氏名又は名称】株式会社金陽社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高柳 佳晃
(72)【発明者】
【氏名】石倉 定行
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
【テーマコード(参考)】
3J103
4F040
【Fターム(参考)】
3J103AA02
3J103AA13
3J103AA14
3J103AA23
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3J103FA24
3J103FA30
3J103GA02
3J103GA73
3J103HA02
3J103HA12
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3J103HA37
3J103HA53
3J103HA60
4F040AA02
4F040AA22
4F040AB01
4F040AB04
4F040BA16
4F040BA23
4F040BA26
4F040CB03
4F040CB05
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、水性塗料をむらのない均一な厚さに塗布ができ、長期にわたり親水性を維持することができる、耐久性に優れた塗布ロールを提供することである。
【解決手段】本発明の塗布ロールは支持体と、支持体の表面に配置された1層以上の弾性層とを備え、最表面に位置する弾性層は、変性ゴム及びセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物であり、前記セルロースナノファイバーは、前記変性ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体の表面に配置された1層以上の弾性層とを備え、
最表面に位置する前記弾性層は、変性ゴム及びセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物であり、
前記セルロースナノファイバーは、前記変性ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下含む、塗布ロール。
【請求項2】
支持体と、前記支持体の表面に配置された1層以上の弾性層とを備え、
最表面に位置する前記弾性層は、原料ゴム、変性高分子重合体及びセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物であり、
前記セルロースナノファイバーは、前記原料ゴム及び前記変性高分子重合体の総量100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下含む、塗布ロール。
【請求項3】
最表面に位置する前記弾性層は、含水状態における純水との接触角が100度以下である請求項1または2記載の塗布ロール。
【請求項4】
前記ゴム加硫物は、純水への浸漬試験における質量変化率が20%以下であり、前記セルロースナノファイバーを除いた前記ゴム加硫物の純水への浸漬試験における質量変化率が3%以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の塗布ロール。
【請求項5】
前記原料ゴムは、エチレンプロピレンゴムである請求項2から4のいずれか1項に記載の塗布ロール。
【請求項6】
前記変性高分子重合体が、変性ポリオレフィン樹脂である請求項2から5のいずれか1項に記載の塗布ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールコーター方式に供される塗布ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
各産業において、金属などの剛性の高い材料からなる円筒状の支持体に、ゴム材料を被覆したゴムロール、すなわち塗布ロールが使用されている。
【0003】
具体的には、薄膜フィルムへの接着剤の塗布、プリント基板へのレジストの塗布、グラビア印刷における印刷インキの塗布、紙へのサイズ剤の塗布、鋼板への水性塗料の塗布など、塗料を基材の表面に塗布する際に、ゴムロールを用いて塗布する方法(以下、ロールコーター方式と記載)が用いられている。ロールコーター方式で塗布を行う場合には、表面層にゴム状弾性体を被覆した塗布ロールが単独または他のロールと組み合わされて使用されている。
【0004】
従来、塗料の溶媒として有機溶剤が用いられてきた。しかし、近年では地球温暖化等の環境問題への配慮から、水を溶媒とした水性塗料を使用することが多い。
【0005】
ゴム材料は、一般的に疎水性である。水性塗料を塗布するには親水性材質を表面に持つ塗布ロールが好ましい。このため、例えば天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)などの比較的極性の低いゴムではなく、ウレタンゴムやニトリルゴム(NBR)などの極性の高い、すなわち表面エネルギーの大きなゴムが用いられる。また、これらのゴムの変性ゴムや、親水性の配合剤を混合したゴム材質が使用されている。
【0006】
しかし、上述のようなゴムを使用しても、親水性が不足しており、水性塗料を均一な厚さで、むら無く塗布することは困難である。特に薄膜に塗布する場合は、厚さむらが発生しやすく、より高い親水性を表面に持つ塗布ロールが求められている。
【0007】
ゴムロールに親水性を付与する技術は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1には、カルボキシ変性ニトリルゴムに、ポリエチレングリコールを含む親水化用可塑剤を混合して、親水性を付与したゴム組成物が記載されている。
【0008】
特許文献2には、ゴム状弾性体表面に親水化処理により親水性を付与する技術が開示されている。
【0009】
特許文献3には、ゴム表面に親水性のダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)を被覆したコーティングロールが開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1の発明は、ゴム組成物に親水化用可塑剤を用いているため、使用中に親水化用可塑剤が徐々に滲み出し、親水性が低下する。さらに、塗布ロールの硬さの変化及び外径の収縮を生じる虞がある。
【0011】
特許文献2の発明は、ゴム状弾性体の表面のみを親水化しているため、長期の使用により親水性を失った場合、再度親水性を付与するための表面処理を行う必要がある。
【0012】
特許文献3の発明は、塗布ロールが大型化すると、DLCを製膜する装置も大型化して製造設備が高騰化する。
【0013】
また、塗布ロールは、表面の摩耗により表面粗さが変化すると塗布厚さに影響するため、長寿命化の観点から表面粗さが変化しても塗布厚さへの影響の小さいことが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2018-53160号公報
【特許文献2】特開2000-158842号公報
【特許文献3】特開2013-28861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、被塗布部材に水性塗料をむらのない均一な厚さに塗布ができ、長期にわたり親水性を維持することが可能な塗布ロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の塗布ロールは、支持体と、支持体の表面に配置された1層以上の弾性層とを備え、最表面に位置する弾性層は、変性ゴム及びセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物であり、セルロースナノファイバーは、変性ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下含む。
【発明の効果】
【0017】
実施形態に係る塗布ロールによれば、最表面の弾性層が親水性を示すセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物であるため、水性塗料を塗布する際に、むらのない均一な厚さの塗膜を被塗布部材に形成することができる。さらに、薄い塗膜を形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態に従う塗布ロールの一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に従う塗布ロールの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る塗布ロールについて説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る塗布ロールは、ロールコーター方式に供される。
図1に示すように塗布ロール1は、支持体2を備える。支持体2の表面には、1層以上(例えば1層)の弾性層3を備える。
【0021】
図2は、別の形態の塗布ロール1を示す概略断面図である。塗布ロール1は、支持体2の表面に最表面の弾性層3と当該弾性層3より内側に位置する弾性層(下層の弾性層)4とからなる2層の弾性層を備える
【0022】
(支持体)
支持体は、例えば円柱状の芯金である。支持体として、例えば、鉄、アルミニウム、あるいはステンレス等の金属、または炭素繊維強化プラスチックなど、剛性を有する公知の支持体を使用することができる。支持体は、円筒状の芯金であってもよい。さらに、円筒状の芯金の両端に軸をそれぞれ圧接した形態であってもよい。
【0023】
(弾性層)
弾性層は1層以上で構成され、少なくとも最表面の弾性層は変性ゴム及びセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物(以下、最表面用ゴム加硫物と称する場合がある)である。弾性層は、単層構造であっても、又は多層構造であってもよい。弾性層が単層構造である場合、前記最表面用ゴム加硫物のみで構成される。弾性層が多層構造である場合、最表面の弾性層より下層の弾性層は、ゴム加硫物(以下、下層用ゴム加硫物と称する場合がある)で構成される。このゴム加硫物は、特に限定されるものではなく、塗布ロールの使用条件に応じて適宜選択される。ただし、当該下層用ゴム加硫物はセルロースナノファイバーを含んでも、含まなくてもよい。なお、前記下層の弾性層は2層以上であってもよい。
【0024】
(最表面用ゴム加硫物)
変性ゴムは、その分子骨格に極性基が導入されている。極性基は、後述するようにセルロースナノファイバーとの親和性を向上させ、セルロースナノファイバー同士の凝集を抑制してセルロースナノファイバーの分散性を高める効果がある。前記極性基は、例えばカルボキシル基、酸無水物基、ヒドロキシル基、またはエポキシ基などが挙げられる。それらの中でもカルボキシル基、酸無水物基が導入された変性ゴムは、入手し易い点で好ましい。極性基は、複数種類導入されていてもよい。
【0025】
変性ゴムは、例えばブタンジエンゴム、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴムを変性したゴム、又はこれらを部分的に水素化したゴムを変性したゴムが挙げられる。具体的には、カルボキシル基含有ブタジエンゴム、カルボキシル基含有ニトリルゴム、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム、カルボキシル基含有スチレンブタジエンゴム、カルボキシル基含有水素化スチレンブタジエンゴム、酸無水物変性ブタジエンゴム、酸無水物変性ニトリルゴム、酸無水物変性水素化ニトリルゴム、酸無水物変性スチレンブタジエンゴム、酸無水物変性水素化スチレンブタジエンゴムから選択される1つまたは2つ以上の混合物を用いることができる。
【0026】
変性ゴムは、2種以上の変性ゴムを混合して用いてもよい。
【0027】
セルロースナノファイバーは、その軽量性、弾性率の高さ、及び低環境負荷から、近年ゴムの補強材として注目されている。しかし、発明者らは、セルロースナノファイバーが親水性を有することに着目し、最表面の弾性層を形成するゴム加硫物に配合することによって、当該弾性層に親水性を付与できることを見出した。セルロースナノファイバーは、直径が1nm以上1,000nm以下、長さが直径の10倍以上1,000倍以下であることが好ましい。セルロースナノファイバーは、より好ましくは直径が1nm以上50nm以下、長さが直径の10倍以上1,000倍以下、更に好ましくは直径が同じで、長さが直径の50倍以上1,000倍以下である。
【0028】
セルロースナノファイバーは、ゴム加硫物中の変性ゴム100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の範囲で分散される。セルロースナノファイバーは、好ましくは1質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上10質量部以下である。セルロースナノファイバーの分散量を0.5質量部未満にすると、ゴム加硫物に親水性を十分に付与できず、目的とする特性のゴム加硫物を得ることが困難になる。セルロースナノファイバーの添加量が20質量部を超えると、セルロースナノファイバー同士が凝集し易くなって凝集体がゴム加硫物中に生じる虞がある。セルロースナノファイバーの凝集体がゴム加硫物中に生じると、その部分だけ局所的に膨潤し、最表面の弾性層の平滑性が損なわれる。また、セルロースナノファイバーの材料価格は一般的なゴムの配合剤と比べて高価であるため、添加量の過度な増加は、経済的な面で好ましくない。
【0029】
(下層用ゴム加硫物)
下層用ゴム加硫物は、特に限定されるものではなく、塗布ロールの使用環境に応じて、例えば、硬さ、耐熱性、耐薬品性などの特性に基づいて選択すればよい。例えば、最表面用ゴム加硫物と同様のゴム加硫物を用いてもよいし、変性ゴム単独のゴム加硫物、後述する第2の実施形態で説明する原料ゴムの加硫物又は変性高分子重合体と原料ゴムの混合物のゴム加硫物などを用いてよい。
【0030】
第1の実施形態に係る塗布ロールにおいて、前記最表面用ゴム加硫物中のセルロースナノファイバーの添加量を前記範囲内で比較的多くする場合には、当該最表面用ゴム加硫物から形成される最表面の弾性層は使用時の吸水により膨潤して厚さが増大する。このため、外径の精度を高める観点から、最表面の弾性層の厚さを薄くすることが好ましい。ただし、最表面の弾性層の厚さを薄くすると、その弾性層自体の強度が低下する虞がある。これに対処するために、最表面の弾性層の下にセルロースナノファイバーを含まない弾性層を1層または2層以上配置して多層構造にすることが好ましい。
【0031】
セルロースナノファイバーは一般的なゴムの配合剤と比較して高価であり、最表面の弾性層のみをセルロースナノファイバーを含む最表面用ゴム加硫物とし、それより内側の弾性層をセルロースナノファイバーを含まないゴム加硫物とした多層構造にすることによって、セルロースナノファイバーの使用量を減らすことができ、経済的な面でも好ましい。
【0032】
第1の実施形態によれば、少なくとも最表面の弾性層を変性ゴムと特定量のセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物により構成することによって、被塗布部材に水性塗料をむらのない均一な厚さに塗布ができ、かつ長期にわたり親水性を維持することが可能な塗布ロールを提供できる。
【0033】
塗布ロールの表面粗さ(最表面の弾性層の表面粗さ)は、算術平均粗さRa(JIS B0601に準拠)で2μm以下とすることが好ましく、より好ましくは1.5μm以下である。表面粗さは、塗布厚さに影響する。塗布ロールを長期間使用すると、表面の摩耗の影響で表面粗さが徐々に細かくなり、塗布厚さが変化する。初期の表面粗さを上記のように算術平均粗さRaで2μm以下のように、細かく仕上げておくことで、表面粗さの変化を小さくすることができ、初期の塗布厚さを維持することができる。また、第1の実施形態に係る塗布ロールは、前述したゴム加硫物で構成される最表面の弾性層が親水性を示し、表面粗さによる塗布厚さの依存性を低減するため、長期間の使用において表面粗さが変化した場合でも、初期の塗布厚さを維持することができる。
【0034】
(接触角)
第1の実施形態に係る塗布ロールの最表面の弾性層は、含水状態における純水との接触角が100度以下であることが好ましい。すなわち、塗布ロールは、水性塗料と常時接しながら使用されるため、最表面の弾性層は使用時に水性塗料の水が含浸した状態である。それ故、前記接触角の測定も、あらかじめ測定試料を純水中に浸漬し、含水状態にしてから純水との接触角を測定している。
【0035】
含水状態における純水との接触角を100度以下とすることによって、塗布ロールの最表面の弾性層の表面に水性塗料が均一に濡れ広がり、厚さむらがなく、かつ薄い塗膜を形成することができる。一方、接触角が100度を超えると、最表面の弾性層の表面における水性塗料の厚さにむらが生じる。
【0036】
(最表面用ゴム加硫物の質量変化率)
第1の実施形態に係る塗布ロールにおいて、最表面の弾性層に用いられる最表面用ゴム加硫物は、純水への浸漬試験(JIS K6258に準拠)による質量変化率が20%以下であることが好ましい。質量変化率が20%を超えると、最表面の弾性層の使用中の吸水による膨潤が大きくなり、塗布ロールとしての外径精度を損なう虞がある。
【0037】
セルロースナノファイバーを除いた最表面用ゴム加硫物の純水への浸漬試験における質量変化率は、3%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。当該セルロースナノファイバーを除いた最表面用ゴム加硫物の質量変化率を3%以下とすることによって、ゴム本来の耐水性を維持しながら、塗布ロールとしての性能の低下を抑制することができる。
【0038】
以下、第1の実施形態に係る塗布ロールの製造方法について説明する。
【0039】
最初に支持体を準備する。支持体の表面は、ブラスト処理、洗浄を行い、接着剤を塗布する。
【0040】
次いで、ゴム組成物を準備する。まず、セルロースナノファイバーの水性分散液と、変性ゴムの水性分散液とを混合して均一に分散させる。セルロースナノファイバーの水性分散液は、例えばセルロースナノファイバーが0.2%以上10%以下の濃度で水中に分散されている水性分散液を用いればよく、そのような分散液は市販されている。変性ゴムの水性分散液は、例えば市販されているゴムラテックスを用いればよい。
【0041】
次いで、混合した分散液を乾燥して水分を除去し、セルロースナノファイバーと変性ゴムのマスターバッチを得る。
【0042】
その後、得られたマスターバッチを混練する。混練する際に、マスターバッチに加硫剤、加硫促進剤を配合し、必要に応じて老化防止剤、加工助剤、充填剤、または可塑剤などの一般的なゴムの配合剤を配合してもよい。混練の方法は特に限定されるものではないが、例えばニーダー混練機、バンバリーミキサー、オープンロールなどの公知の技術を用いればよい。
【0043】
次いで、混練して得られたゴム組成物を支持体に被覆して弾性層を形成する。弾性層を形成する方法は特に限定されるものではないが、例えばゴム組成物をシート状に分出しして支持体表面に巻きつける方法、押出し機を用いて支持体表面に円筒状にゴム組成物を被覆させる方法などにより支持体にゴム組成物を被覆する。次いで、加熱して加硫させた後、回転砥石などを用いて円筒状のゴム加硫物の表面を研磨することにより、所定の外径寸法、表面粗さを有する単一の弾性層を形成して塗布ロールを製造する。
【0044】
弾性層を2層以上有する多層構造の弾性層の場合、最初に支持体に下層の弾性層を成形し、加硫、研磨を行った後に、当該下層の弾性層に最表面の弾性層を成形すればよい。また、最初に下層の弾性層を成形した後、当該弾性層を加硫する前に最表面の弾性層を成形して、加硫、研磨を行ってもよい。下層の弾性層に対する最表面の弾性層の接着を強固にするために、層間に接着剤を更に塗布してもよい。さらに、最表面の弾性層の厚さを薄く成形する場合、最表面用ゴム組成物にトルエンなどの溶媒を加え、溶液化したものをコーティングして成形してもよい。
【0045】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る塗布ロールは、第1の実施形態で説明したのと同様な
図1、又は
図2に示す構造、すなわち支持体と当該支持体の表面に設けられた1層以上の弾性層とを備える。
【0046】
(弾性層)
弾性層は1層以上で構成され、少なくとも最表面の弾性層は原料ゴム、変性高分子重合体及びセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物(以下、最表面用ゴム加硫物と称する場合がある)である。弾性層は、単層構造であっても、又は多層構造であってもよい。弾性層が単層構造である場合、前記最表面用ゴム加硫物のみで構成される。弾性層が多層構造である場合、最表面の弾性層より下層の弾性層(以下、下層用ゴム加硫物と称する場合がある)は、ゴム加硫物で構成される。このゴム加硫物は、特に限定されるものではなく、塗布ロールの使用条件に応じて適宜選択される。ただし、当該下層用ゴム加硫物はセルロースナノファイバーを含んでも、含まなくてもよい。なお、前記下層の弾性層は2層以上であってもよい。
【0047】
(最表面用ゴム加硫物)
前記原料ゴムは、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル基含有ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、水素化スチレンブタジエンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム及びクロロプレンゴムなどから選択される1つまたは2つ以上の混合物のゴムを用いることができる。
【0048】
前記原料ゴムの中で、極性を有する原料ゴムは、例えばニトリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴムなどであり、非極性の原料ゴムは例えばエチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴムなどである。
【0049】
中でもエチレンプロピレンゴムは耐水性に優れ、前記原料ゴムに用いることで、塗布ロールの耐久性をより高めることができる。
【0050】
前記変性高分子重合体は、例えば変性されたゴムまたは樹脂である。変性されたゴムまたは樹脂は、その分子骨格に極性基が導入されている。極性基は、後述するようにセルロースナノファイバーとの親和性を向上させ、セルロースナノファイバー同士の凝集を抑制してセルロースナノファイバーの分散性を高める効果がある。前記極性基は、例えばカルボキシル基、酸無水物基、ヒドロキシル基、またはエポキシ基などが挙げられる。それらの中でもカルボキシル基、酸無水物基が導入された変性高分子重合体は、入手し易い点で好ましい。極性基は、複数種類導入されていてもよい。
【0051】
変性されたゴムは、第1の実施形態で説明したのと同様のものを用いることができる。
【0052】
変性された樹脂は、例えば、変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体などが挙げられ、これらを、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸で変性されたものが例示される。
【0053】
変性高分子重合体は、2種以上の変性高分子重合体を混合して用いてもよい。
【0054】
第2の実施形態において、前記変性高分子重合体は融点が比較的低く、前記原料ゴムとの混練工程における加工性が向上する、変性されたポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体を用いることが好ましい。さらに、変性ポリオレフィン樹脂は例えばエチレンプロピレンゴムなどの極性の低い原料ゴムとの相溶性が良好であるため、好ましい。
【0055】
原料ゴムと変性高分子重合体の混合物は、以下の4つの形態がある。
1)極性を有する原料ゴムと変性ゴムとの混合物。
2)極性を有する原料ゴムと変性樹脂(変性ポリオレフィン)との混合物。
3)非極性の原料ゴムと変性ゴムとの混合物。
4)非極性の原料ゴムと変性樹脂(変性ポリオレフィン)との混合物。
【0056】
発明者らは、前記4)の形態の混合物において、変性ポリオレフィンが非極性の原料ゴムと相溶する特徴を有することを見出した。このような混合物を含む最表面用ゴム加硫物は、当該非極性の原料ゴムの優れた耐水性により親水性に加えて高い耐久性を発現することが可能になる。
【0057】
原料ゴムの配合割合は、原料ゴムと変性高分子重合体の総量100質量部に対して1質量部以上99質量部以下であることが好ましい。より好ましくは40質量部以上95質量部以下であり、更に好ましくは60質量部以上95質量部以下である。原料ゴムが99質量部を超えると、セルロースナノファイバーが凝集しやすくなる虞がある。また、変性高分子重合体は、マスターバッチ化の製造コストが高いため、極力減らすことが経済的にも好ましく、原料ゴムを60質量部以上(変性高分子重合体が40質量部以下)とするのが好ましい。
【0058】
前記セルロースナノファイバーは、第1の実施形態で説明したのと同様なものを用いることができる。セルロースナノファイバーは、ゴム加硫物中の原料ゴム及び変性高分子重合体の総量100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の範囲で分散される。セルロースナノファイバーは、好ましくは1質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上10質量部以下である。このようなセルロースナノファイバーの配合割合の規定は、第1の実施形態で説明したのと同様の理由によるものである。
【0059】
(下層用ゴム加硫物)
下層用ゴム加硫物は、特に限定されるものではなく、塗布ロールの使用環境に応じて、例えば、硬さ、耐熱性、耐薬品性などの特性に基づいて選択すればよい。例えば、最表面用ゴム加硫物と同様のゴム加硫物を用いてもよいし、原料ゴムのゴム加硫物又は原料ゴムと変性高分子重合体の混合物のゴム加硫物などを用いてよい。
【0060】
第2の実施形態によれば、少なくとも最表面の弾性層を原料ゴムと、変性高分子重合体と、特定量のセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物により構成することによって、第1の実施形態と同様に、被塗布部材に水性塗料をむらのない均一な厚さに塗布ができ、かつ長期にわたり親水性を維持することが可能な塗布ロールを提供できる。
【0061】
また、第2の実施形態によれば、最表面用ゴム加硫物に原料ゴムを用いるため、原料コストを抑えた塗布ロールを提供できる。
【0062】
また、第2の実施形態の塗布ロールによれば、原料ゴムによる耐水性が向上できるため、長寿命の塗布ロールを提供できる。
【0063】
第2の実施形態に係る塗布ロールにおいて、その表面粗さ(最表面の弾性層の表面粗さ)、最表面の弾性層の含水状態における純水との接触角、及び最表面用ゴム加硫物の質量変化率は第1の実施形態で説明したのと同様な値に規定することが好ましい。
【0064】
以下、第2の実施形態に係る塗布ロールの製造方法について説明する。
【0065】
第2の実施形態に係る塗布ロールの製造方法は、セルロースナノファイバーと変性高分子重合体のマスターバッチに、更に原料ゴムを加えて混練してゴム組成物を調製する以外、実質的に第1の実施形態で説明した塗布ロールの製造方法と同様である。
【0066】
すなわち、セルロースナノファイバーと変性高分子重合体のマスターバッチを得た後、得られたマスターバッチを原料ゴムと混練してゴム組成物を得る。混練する際に、マスターバッチと原料ゴムの他に、加硫剤、加硫促進剤を配合し、必要に応じて老化防止剤、加工助剤、充填剤、または可塑剤などの一般的なゴムの配合剤を配合してもよい。混練の方法は特に限定されるものではないが、例えばニーダー混練機、バンバリーミキサー、オープンロールなどの公知の技術を用いればよい。
【0067】
次いで、得られたゴム組成物を支持体に被覆し、弾性層を形成する。その後、加熱して加硫させた後、ゴム加硫物の表面を研磨し、塗布ロールを製造する。
【0068】
セルロースナノファイバーは、原料ゴムに対する分散性が劣る。第2の実施形態の塗布ロールの製造方法のように、セルロースナノファイバーと変性高分子重合体のマスターバッチを予め調製し、その後マスターバッチに原料ゴムを混練することによって、セルロースナノファイバーが良好に分散したゴム組成物を得ることができる。
【0069】
[実施例]
以下、実施例を詳細に説明する。
【0070】
(実施例1)
(セルロースナノファイバーと変性高分子重合体のマスターバッチの調製)
セルロースナノファイバーの水性分散液(アウロ・ヴィスコ、王子ホールディングス(株)製、固形分濃度2.0%)1,000gに対して、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(Nipol LX511A、日本ゼオン(株)製、固形分濃度46%)217gの比率で材料を準備し、ホモジナイザーを用いて混合し、均一に分散させた。得られたセルロースナノファイバーの水性分散液と、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスとの混合液を、80℃の恒温槽内で72時間乾燥し、セルロースナノファイバーを20質量部含むマスターバッチを調製した。
【0071】
(セルロースナノファイバーを含むゴム組成物の作製)
原料ゴムは用いずに、前記マスターバッチ120質量部と、加硫促進助剤として酸化亜鉛(酸化亜鉛2種、正同化学工業(株)製)5質量部と、加工助剤としてステアリン酸(ルナックS-70V、花王(株)製)1質量部と、加硫のための硫黄(微粉硫黄、鶴見化学工業(株)製)1.5質量部と、加硫促進剤としてCZ(N-シクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド)(ノクセラーCZ-G、大内新興化学工業(株)製)1質量部をオープンロールで混練し、カルボキシル基含有ニトリルゴム100質量部に対してセルロースナノファイバー(CNF)を20質量部含む最表面用ゴム組成物を作製した。その後、カレンダーで厚さ0.5mmのシートに分出した。
【0072】
(塗布ロールの製造)
芯径が200mm、長さが2000mmの鉄製の芯金表面をブラスト加工し、ゴム用接着剤を塗布した後、分出した最表面用ゴム組成物のシートを芯金に巻き付けて成形し、これを加熱炉に投入して加硫した。その後、加硫した最表面用ゴム組成物の表面を回転砥石で研磨することにより、芯金の表面に弾性層が形成された塗布ロールを製造した。得られた塗布ロールの外径は250mmに調整した。
【0073】
(実施例2)
実施例1と同様のセルロースナノファイバーの水性分散液2,500gに対して、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス217gの比率で材料を準備し、ホモジナイザーを用いて混合し、均一に分散させた。得られたセルロースナノファイバーの水性分散液と、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスとの混合液を、80℃の恒温槽内で72時間乾燥し、セルロースナノファイバーを50質量部含むマスターバッチを調製した。
【0074】
次いで、原料ゴムとしてニトリルゴム(ニポールDN3350、日本ゼオン(株)製)96質量部と、前記のマスターバッチ6質量部に、実施例1と同様に酸化亜鉛、ステアリン酸、硫黄、加硫促進剤をオープンロールで混練して、最表面用ゴム組成物を作製した。この最表面用ゴム組成物には、セルロースナノファイバー(CNF)がニトリルゴムとカルボキシル基含有ニトリルゴムの総量100質量部に対して2質量部含まれていた。その後、カレンダーで厚さ0.5mmのシートに分出した。
【0075】
前記分出した最表面用ゴム組成物のシートを用いて、実施例1と同様な方法により芯径が200mm、長さが2000mmの鉄製の芯金に巻き付け、加硫し、研磨して塗布ロールを製造した。得られた塗布ロールは、芯金に厚さ25mmの最表面の弾性層を有し、外径250mm、長さ2000mmであった。
【0076】
(実施例3)
実施例1と同様のセルロースナノファイバーの水性分散液1,250gに対して、変性ポリエチレンの水性分散液(アローベースSB-1200、ユニチカ(株)製、全固形分濃度25%)400gの比率で材料を準備し、ホモジナイザーを用いて混合し、均一に分散させた。得られたセルロースナノファイバーの水性分散液と、変性ポリエチレンの水性分散液との混合液を、60℃の恒温槽内で72時間かけて乾燥して、セルロースナノファイバーが25質量部含まれるマスターバッチを作製した。
【0077】
次いで、原料ゴムとしてエチレンプロピレンゴム(JSR EP342、JSR(株)製)92質量部と、得られた前記マスターバッチ10質量部と、実施例1と同様な材料で同様な量の酸化亜鉛、ステアリン酸と、加硫のための有機過酸化物としてジクミルパーオキサイト(パークミルD-40、日油(株)製)5.4質量部と、共架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC、三菱ケミカル(株)製)2.0質量部をオープンロールで混練し、変性ポリエチレン及びエチレンプロピレンゴムの総量100質量部に対してセルロースナノファイバー(CNF)が2質量部含む最表面用ゴム組成物を作製した。その後、カレンダーで厚さ0.5mmのシートに分出した。
【0078】
実施例1と同様の鉄製の芯金を準備し、芯金にセルロースナノファイバーを含まない硬さ70(タイプA)(JIS K6253に準拠)のEPDM配合物(下層用ゴム組成物)を成形した。その後、加硫、研磨して、芯金表面に厚さ22mmの下層弾性層を形成した。
【0079】
次いで、下層弾性層の表面にゴム系接着剤を塗布して、分出した最表面用ゴム組成物のシートを用いて、実施例1と同様な方法により下層の弾性層表面に巻き付け、加硫し、研磨し、厚さが3mmの最表面の弾性層を形成して多層構造の塗布ロールを製造した。得られた塗布ロールは外径250mm、長さ2000mmであった。
【0080】
(比較例1)
原料ゴムとして実施例2と同様のニトリルゴム99.4質量部と、実施例2で作製したマスターバッチ0.9質量部とを用いた以外、実施例2と同様な方法によりセルロースナノファイバーを含む最表面用ゴム組成物を作製した。この最表面用ゴム組成物には、セルロースナノファイバー(CNF)がニトリルゴムとカルボキシル基含有ニトリルゴムの総量100質量部に対して0.3質量部含まれていた。その後、カレンダーで厚さ0.5mmシートに分出した。次いで、分出した最表面用ゴム組成物のシートを用いて、実施例1と同様な方法により芯径が200mm、長さが2000mmの鉄製の芯金に巻き付け、加硫し、研磨して、塗布ロールを製造した。得られた塗布ロールは、芯径が200mm、長さが2000mmの鉄製の芯金に厚さ25mmの最表面の弾性層を有し、外径250mm、長さ2000mmであった。
【0081】
(比較例2)
原料ゴムとして実施例2と同様のニトリルゴム50質量部と、実施例2と同様に作製したマスターバッチ75質量部とを用いた以外、実施例2と同様な方法によりセルロースナノファイバーを含む最表面用ゴム組成物を作製した。この最表面用ゴム組成物には、セルロースナノファイバー(CNF)がニトリルゴムとカルボキシル基含有ニトリルゴムの総量100質量部に対して25質量部含まれていた。その後、カレンダーで厚さ0.5mmのシートに分出した。次いで、分出した最表面用ゴム組成物のシートを用いて、実施例1と同様な方法により芯径が200mm、長さが2000mmの鉄製の芯金に巻き付け、加硫し、研磨して、塗布ロールを製造した。得られた塗布ロールは、芯径が200mm、長さが2000mmの鉄製の芯金に厚さ25mmの最表面の弾性層を有し、外径250mm、長さ2000mmであった。
【0082】
(接触角の評価)
実施例1~3及び比較例1,2で得られた最表面用ゴム組成物をプレス成型で加熱、加硫して厚さ2mmのシートとし、10mm×50mmに打ち抜いた。その後、打抜きシートの表面を平面研削盤で研磨して接触角測定用の試料を作製した。
【0083】
得られた試料を純水中に浸漬し、25℃の室温下で7日間放置した。純水から試料を取り出し、表面の余分な水滴を除去した後、純水を用いて接触角を測定した。接触角の測定は接触角計CA-X(協和界面化学(株))を用いて、液滴量1.8μLとして、滴下してから10秒後の接触角を測定した。
【0084】
(耐水試験)
実施例1~3及び比較例1,2で得られた最表面用ゴム加硫物を用いて前記接触角の測定で使用したのと同様の厚さ2mmのゴムシートとし、これを10mm×50mmに打ち抜き、試料とした。
【0085】
また、実施例1~3及び比較例1,2で用いた最表面用ゴム組成物からセルロースナノファイバーを除いたゴム加硫物を準備し、同様に厚さ2mmのゴムシートとし、これを10mm×50mmに打ち抜き、試料とした。
【0086】
それぞれの試料について、JIS K6258に準拠して耐水試験を行った。耐水試験は、各試料を温度40℃の純水に28日間浸漬して行った。
【0087】
評価は、質量変化率、硬さ変化で行った。また、耐水試験後の外観についても観察した。
【0088】
質量変化率は、試料を純水に浸漬する前の質量と、上記耐水試験後の質量とを測定し、下記の式(1)により計算した。
Δm100=(m2-m1)/m1×100 ・・・(1)
ここで、Δm100:質量変化率(%)、m1:浸漬前の質量(mg)、m2:浸漬後の質量(mg)である。
【0089】
硬さ変化は、試料を純水に浸漬する前の硬さ(タイプA)と、上記耐水試験後の硬さ(タイプA)とを測定し、下記の式(2)により計算した。
SH=H1-H0 ・・・(2)
ここで、SH:硬さ変化、H0:浸漬前の硬さ(タイプA)、H1:浸漬後の硬さ(タイプA)である。
【0090】
(使用評価)
実施例1~3及び比較例1,2で得られた塗布ロールは、水性塗料を樹脂フィルムに塗布する工程に用いた。6か月間継続して使用し、耐久性の評価を行った。耐久性は、3か月以上良好に使用出来れば○、6か月以上良好に使用出来れば◎、3か月持たずに不具合が発生した場合は×とした。
【0091】
【0092】
表1から明らかなように実施例1~3の塗布ロールは、フィルム表面にむらなく均一な厚さに水性塗料を塗布することができ、さらに3か月以上良好に使用することができた。
【0093】
特に、実施例3の塗布ロールは、実施例1及び2の塗布ロールよりも耐久性に優れ、6か月以上良好に使用することができた。これは、原料ゴムに極性の低いエチレンプロピレンゴムを使用しているためと考えられる。
【0094】
さらに、実施例3の塗布ロールは弾性層が多層構造であり、最表面の弾性層にのみセルロースナノファイバーを含むゴム加硫物を成形しているため、弾性層全体に占めるセルロースナノファイバーの使用量を削減することができた。
【0095】
比較例1の塗布ロールは、初期から塗布厚さのむらが発生し、塗布ロールとして使用することができなかった。これは、最表面用ゴム組成物(ゴム加硫物)に含まれるセルロースナノファイバーの含有量が、ニトリルゴムとカルボキシル基含有ニトリルゴムの総量100質量部に対して、本発明の範囲(0.5質量部以上20質量部以下)の下限未満の0.3質量部であるために、親水性が不足した結果と考えられる。
【0096】
比較例2の塗布ロールは、初期から塗布むらが発生し、塗布ロールとして使用することができなかった。ロールの表面を観察すると、局所的に膨潤による凹凸が発生しており、外径の精度が損なわれたため、塗布むらが発生したと考えられる。凹凸が発生しているゴムの内部を電子顕微鏡で観察すると、セルロースナノファイバーの凝集体が存在していた。これは、最表面の弾性層に含まれるセルロースナノファイバーの含有量が、ニトリルゴムとカルボキシル基含有ニトリルゴムの総量100質量部に対して、本発明の範囲(0.5質量部以上20質量部以下)の上限を超える25質量部であるために、セルロースナノファイバー同士が凝集し易くなって凝集体が最表面用ゴム加硫物中に生じことに起因すると考えられる。
【0097】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1…塗布ロール、2…支持体、3、4…弾性層。