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  • 特開-丸棒材の超音波探傷方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081401
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】丸棒材の超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195034
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 航平
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AB01
2G047BA03
2G047BB02
2G047BC02
2G047BC08
2G047EA09
2G047GG30
(57)【要約】
【課題】表面疵と表層疵を迅速かつ確実に判別できる丸棒材の超音波探傷方法を提供する。
【解決手段】丸棒材Mに向けて斜角探傷用超音波Ubを送信して、丸棒材Mの表面疵M1、ないし表面直下の丸棒材M内部に生じる表層疵M2で反射して戻る反射超音波を受信し、受信信号Sa中の疵エコー信号Skをそのピーク値aの前後に亘って、使用するニューラルネットワーク3につきその学習誤差と学習時間の兼ね合いで予め定めた所定の斜角探傷用超音波Ubの波長換算長さに対応した時間で抽出して、抽出した疵エコー信号Skの信号データをニューラルネットワーク3に与えて学習させ、新たな受信信号中の疵エコー信号Skを上記所定の波長換算長さに対応した時間で抽出したものの信号データを、学習済みのニューラルネットワーク3に与えて疵エコー信号Skに対応する疵が表面疵M1か表層疵M2かを判別させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸棒材に向けて斜角探傷用超音波を送信して、前記丸棒材の表面疵、ないし表面直下の丸棒材内部に生じる表層疵で反射して戻る反射超音波を受信し、受信信号中の疵エコー信号をそのピーク値の前後に亘って、使用するニューラルネットワークの学習誤差と学習時間の兼ね合いで予め定めた所定の前記斜角探傷用超音波の波長換算長さに対応した時間で抽出して、抽出した前記疵エコー信号の信号データを前記ニューラルネットワークに与えて学習させ、新たな受信信号中の疵エコー信号を前記所定の波長換算長さに対応した時間で抽出したものの信号データを、学習済みの前記ニューラルネットワークに与えて前記疵エコー信号に対応する疵が表面疵か表層疵かを判別させることを特徴とする丸棒材の超音波探傷方法。
【請求項2】
前記信号データとして、前記所定の波長換算長さに対応した時間で抽出した前記疵エコー信号の二次元の波形画像データを使用する請求項1に記載の丸棒材の超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は丸棒材の超音波探傷方法に関し、特に表面疵と表面直下の丸棒材内部に生じる表層疵を良好に識別して検出できる超音波探傷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
丸棒材の表面近くの疵を探傷する場合には図6に示すように探傷用の超音波ビームUbの横波を使用しその屈折角(セクタースキャン角)を45度程度に設定して行う。しかし、この方法では、丸棒材Mの表面に開口する表面疵M1(図6(1))と丸棒材Mの表面直下の内部に生じる表層疵M2(図6(2))からの疵エコー信号(図7(1)、(2))がほほ同じ大きさで同じ時間帯に現れることがあるため、往々にして両者を区別することが困難であった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1では異なるセクタースキャン角を設定して、各セクタースキャン角で得られた疵エコー信号の大きさが所定の閾値を超えたときにそれぞれ表面疵あるいは表層疵があるもと判定する探傷方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-225887
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の方法では、セクタースキャン角を変更して同様の探傷を繰り返す必要があるために探傷に時間を要し、ラインを流れる丸棒材の探傷を迅速に行えないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、表面疵と表層疵を迅速かつ確実に判別できる丸棒材の超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明では、丸棒材(M)に向けて斜角探傷用超音波(Ub)を送信して、前記丸棒材(M)の表面疵(M1)、ないし表面直下の丸棒材(M)内部に生じる表層疵(M2)で反射して戻る反射超音波を受信し、受信信号(Sa)中の疵エコー信号(Sk)をそのピーク値(a)の前後に亘って、使用するニューラルネットワーク(3)につきその学習誤差と学習時間の兼ね合いで予め定めた所定の前記斜角探傷用超音波(Ub)の波長換算長さに対応した時間で抽出して、抽出した前記疵エコー信号(Sk)の信号データを前記ニューラルネットワーク(3)に与えて学習させ、新たな受信信号中の疵エコー信号(Sk)を前記所定の波長換算長さに対応した時間で抽出したものの信号データを、学習済みの前記ニューラルネットワーク(3)に与えて前記疵エコー信号(Sk)に対応する疵が表面疵(M1)か表層疵(M2)かを判別させる。
【0008】
本第1発明においては、ニューラルネットワークを使用したことにより従来のようにセクタースキャン角を変更して同様の探傷を繰り返す必要がないから、表面疵と表層疵の判別探傷を迅速に行うことができ、しかも学習誤差と学習時間の兼ね合いで予め定めた所定の波長換算長さに対応した時間で抽出した疵エコー信号の信号データを上記ニューラルネットワークの学習データとしているから、ニューラルネットワークの学習を必要な学習精度で効率的に行うことができる。加えて、新たな受信信号中の疵エコー信号を上記所定の波長換算長さに対応した時間で抽出したものの信号データを、学習済みの前記ニューラルネットワークに与えて前記疵エコー信号に対応する疵が表面疵か表層疵かを判別させているから、ニューラルネットワークの推論時間を短くすることができ、丸棒材搬送のライン速度が速い場合にも対応することができる。
【0009】
本第2発明では、前記信号データとして、前記所定の波長換算長さに対応した時間で抽出した前記疵エコー信号の二次元の波形画像データを使用する。
【0010】
本第2発明においては、信号データとして二次元の波形画像データを使用することによって、一次元の波形データを使用するのに比して、表面疵と表層疵の判別精度がより向上する。
【0011】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の丸棒材の超音波探傷方法によれば、ラインを流れる丸棒材の表面疵と表層疵を迅速かつ確実に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明方法を適用する超音波探傷装置の構成を示す図である。
図2】探触子で得られる受信信号の波形図とその部分拡大図である。
図3】受信信号をデジタル化したデータ列の一例を示す概念図である。
図4】畳み込みニューラルネットワークの概略構成を示す図である。
図5】波長換算長さに対する平均学習誤差と平均学習時間の関係を示すグラフである。
図6】従来例を示す斜角探傷の概念的断面図である。
図7】従来例を示す疵エコー信号の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0015】
図1には本発明の超音波探傷方法を実施する装置の構成を示す。図1において、金属製丸棒材Mの外周面に対向させて、単一の広帯域超音波振動子を有する探触子1が設けられている。探触子1は、本実施形態では約45度のセクタースキャン角を有し丸棒材Mの表面およびその直下の表層を含む領域に至る、斜角探傷用超音波たる横波超音波ビームUbを生成している。この超音波ビームUbは普通1.5~3波長の長さのパルス波である。超音波ビームUbが表面疵M1あるいは表層疵M2を含む丸棒材Mの各部で反射されて生じる反射超音波は探触子1で受信されて、受信信号Saとして判別装置2へ入力する。
【0016】
図2には受信信号Saの一例を示す。受信信号Saには表面疵M1あるいは表層疵M2で反射された疵エコー信号Skが含まれており、これは図中の四角で囲った時間領域内の信号である。受信信号Saは判別装置2内に設けられたAD変換回路(図示略)に入力する。AD変換回路は受信信号Saの正負の最大振幅範囲をカバーできる入力レンジを有し、受信信号SaはAD変換回路で、所定サンプリング時間毎の、振幅に応じた数列(一次元データ列)からなるデジタル信号Sd(図3)に変換される。なお、図3は8ビットのAD変換回路を使用した場合のデジタル信号Sdの一例である。
【0017】
判別装置2内では、受信信号Saに対応した各デジタル信号Sdのデータ列から疵エコー信号Skのピーク値a(図2)に対応するデータを検出して、当該ピークデータを中央として詳細を後述する前後所定数に亘るデータ(学習データ)を抽出する。この学習データは、図2の四角で囲った時間領域内の疵エコー信号Skに対応するデータである。
【0018】
学習データは判別装置2内に構成されている公知の構成の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)3に与えられる。CNN3は図4に示すような、適当数(例えば9層)の畳み込み層31とプーリング層32、および全結合層33を有しており、複数の既知の表面疵M1と表層疵M2を有する丸棒材Mに、上述のように超音波ビームUbを当てて得られる各受信信号Sa中の疵エコー信号Skに基づく複数の学習データが与えられて学習する。
【0019】
ところで、学習データは上述のように、ピークデータの前後の所定数のデータを抽出したものであるが、発明者の実験によれば、学習データのデータ数を多くすればそれに応じて学習精度が向上するというわけではないことが判明した。これを図5で説明する。
【0020】
図5は、抽出される疵エコー信号Skの長さを波長(λ)換算で横軸に、平均学習誤差(Crossentropy loss ave.:線x)と平均学習時間(learning time ave.:線y)をそれぞれ縦軸にして描いたグラフである。図中の各箱ひげ図は、複数の学習データの順番を入れ替える等によって各10個のCNN3のモデルを作成し、各モデルに対してその学習誤差を測定して得たものである。抽出される疵エコー信号Skの波長(λ)換算長さ(学習データのデータ数に相当)は2.0波長から9.0波長まで0.5波長刻みとなっている。
【0021】
図5より明らかなように、平均学習時間(線y)は波長(λ)換算長さが多くなるほど、つまり学習データのデータ数が多くなるほど長くなるが、平均学習誤差(線x)は、波長(λ)換算長さが5.0λ以下では当該波長(λ)換算長さが長くなるほど小さくなるものの、波長(λ)換算長さが5.0λ以上だと、それ以上波長(λ)換算長さが長くなっても、つまり学習データのデータ数が多くなっても平均学習誤差はそれほど変わらない。したがって、学習時間と学習誤差の兼ね合いから、この例では疵エコー信号Skのピーク値を中央にしてその前後に5.0λの長さに亘る疵エコー信号に対応する学習データのデータ数でCNN3の学習を行うのが学習時間を短くしかつ学習誤差も小さくできる最適の条件ということになる。ただし、学習誤差を可能な限り小さくすることを優先する場合には、平均学習時間が長くなっても、波長(λ)換算長さをもっと長くすなわち学習データのデータ数をもっと多くする選択もあり得る。
【0022】
このような過程で学習させた学習済みCNN3に、学習データと同様の5.0λに相当するデータ数の疵エコー信号を与えることによって、表面疵あるいは表層疵の判定確率を十分大きくすることができ、判定閾値を上げて疵エコー信号に対応する疵が表面疵か表層疵かを精度良く識別することができる。
【0023】
なお、上記実施形態では5.0λの長さの信号に対応する学習データのデータ数とするのが最適としたが、使用するCNN3の畳み込み層31等の層数が変われば図5のグラフは変化するから、常に5.0λの長さの信号に対応する学習データのデータ数が最適であるわけではない。
【0024】
また、上記実施形態では学習データとして、疵エコー信号Skの一次元のデータ列を使用したが、疵エコー信号Skの波形をそのまま二次元の画像データとしたものを使用しても良い。
【符号の説明】
【0025】
1…超音波振動子、2…判別装置、3…ニューラルネットワーク、M…丸棒材、M1…表面疵、M2…表層疵、Sa…受信信号、Sk…疵エコー信号、Ub…斜角探傷用超音波。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7