IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 藤倉ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-複合材及び複合材の製造方法 図1
  • 特開-複合材及び複合材の製造方法 図2
  • 特開-複合材及び複合材の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081455
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】複合材及び複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/10 20060101AFI20230606BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20230606BHJP
   B29C 70/34 20060101ALI20230606BHJP
   B32B 27/04 20060101ALN20230606BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
B32B25/10
B29C70/68
B29C70/34
B32B27/04 Z
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195147
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】中 拓也
(72)【発明者】
【氏名】古川 義仁
(72)【発明者】
【氏名】木元 尚紀
【テーマコード(参考)】
4F100
4F205
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK04B
4F100AK04J
4F100AK07B
4F100AK07J
4F100AK09B
4F100AK09J
4F100AK17B
4F100AK27B
4F100AK27J
4F100AK28B
4F100AK28J
4F100AK29B
4F100AK29J
4F100AK52B
4F100AN00B
4F100AN02B
4F100BA02
4F100BA13A
4F100DG00A
4F100DH01A
4F100DH02A
4F100EJ062
4F100EJ06B
4F100EJ082
4F100EJ08A
4F100EJ422
4F100GB07
4F100GB31
4F100GB87
4F205AA36
4F205AC03
4F205AD05
4F205AD08
4F205AG03
4F205HA14
4F205HA22
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HF05
4F205HK03
4F205HK04
4F205HT16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】繊維強化プラスチックとゴム材料間の剥離が防止された、繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材を提供する。
【解決手段】繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、前記第1の部材上の少なくとも一部の領域にて前記第1の部材と直接接して形成された、ゴム材料を有する第2の部材と、を有し、前記第1の部材と前記第2の部材が一体化された複合材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、前記第1の部材上の少なくとも一部の領域にて前記第1の部材と直接接して形成された、ゴム材料を有する第2の部材と、を有し、
前記第1の部材と前記第2の部材が一体化された複合材。
【請求項2】
前記第1の部材と前記第2の部材が直接接しており、前記第1の部材と前記第2の部材の間に、接着部材が介装されていない請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記第1の部材及び前記第2の部材がシート状であり、前記複合材が積層体構造を有する請求項1または2に記載の複合材。
【請求項4】
前記ゴム材料が、ニトリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、水素化ニトリルゴム及びシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項5】
前記ゴム材料が、ニトリルゴム、フッ素ゴム及びブチルゴムからなる群から選択された少なくとも1種である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項6】
前記繊維強化プラスチックが、炭素繊維強化プラスチックである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項7】
前記第1の部材が、繊維配向角度が第1の方向である第1の層を形成する第1の前記繊維強化プラスチックと、繊維配向角度が前記第1の方向とは異なる第2の方向である第2の層を形成する第2の前記繊維強化プラスチックと、を有する多層構造体である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項8】
前記複合材の外表面が、前記第1の部材である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項9】
前記複合材の外表面が、前記第2の部材である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項10】
板状または筒状に成形された請求項1乃至9のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項11】
繊維に樹脂を含ませた未硬化または半硬化材料である第1の前駆体を用意する工程と、
用意された前記第1の前駆体上の少なくとも一部の領域に、未加硫のゴムを有する第2の前駆体を直接積層させて、前記第1の前駆体と前記第2の前駆体との積層体を得る工程と、
得られた前記積層体を加熱処理することで、前記第1の前駆体の前記樹脂を熱硬化させて、繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、前記第2の前駆体の前記未加硫のゴムを加硫してゴム材料を有する第2の部材と、を得て、前記第1の部材と前記第2の部材を一体化する一体化工程と、
を有する複合材の製造方法。
【請求項12】
用意された前記第1の前駆体上に、接着部材を介さずに、直接、加硫剤の配合された未加硫のゴムを有する前記第2の前駆体を積層させる請求項11に記載の複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチックとゴム材料を有する複合材、及び前記複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量性と高強度を兼ね備えていることから、航空機、自動車、自転車等の輸送関連機器、テニスラケット、ゴルフクラブ等のスポーツ用品、耐震補強材等の建築構造物など、工業製品の材料として広汎に使用されている。また、工業製品には、軽量性と高強度だけではなく、美的外観も兼ね備えていることが要求されることもある。上記から、軽量性、高強度及び美的外観を備えた材料として、繊維強化プラスチックに美的外観を備えた部材を接着させた複合材が使用されることがある。
【0003】
従来、軽量性、高強度及び美的外観を備えた上記複合材として、繊維強化プラスチックからなる第1の部材と加飾材との2つの部材を一体化した複合材であり、第1の部材と加飾材との接合部分に熱可塑性樹脂層が形成されており、前記熱可塑性樹脂層が前記第1の部材の強化繊維群の一部の強化繊維を包含している複合材が提案されている(特許文献1)。特許文献1では、加飾材として、プラスチックフィルム、金属板、織物、クロス、不織布、人工皮革等が提案されている。
【0004】
特許文献1では、繊維強化プラスチックと加飾材との間に介装されている熱可塑性樹脂層が、接着剤層として機能しつつ、繊維強化プラスチックの強化繊維の一部を包含していることから、繊維強化プラスチックと加飾材との間に、優れた接着強度が付与されている複合材である。
【0005】
一方で、繊維強化プラスチックを用いた材料には、軽量性と高強度だけではなく、振動減衰性や耐変形性も兼ね備えていることが要求されることもある。上記から、軽量性、高強度及び振動減衰性や耐変形性を備えた材料として、繊維強化プラスチックに接着剤を用いてゴム材料を接着した複合材が使用されることがある。
【0006】
しかし、繊維強化プラスチックに接着剤を用いてゴム材料を接着した複合材では、接着剤の塗布状態にムラが生じることで、繊維強化プラスチックとゴム材料との間の接着性が十分には得られず、繊維強化プラスチックとゴム材料間の接着強度に改善の余地があった。また、繊維強化プラスチックに接着剤を塗布してゴム材料を接着する複合材の製造方法では、接着剤の塗布工程が必要であることから製造工程が煩雑であり、また、接着剤の均一塗布が困難であることから、製造が簡易化できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-44264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、繊維強化プラスチックとゴム材料間の剥離が防止された、繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材、及び製造工程の煩雑化を防止でき、製造が容易である繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、前記第1の部材上の少なくとも一部の領域にて前記第1の部材と直接接して形成された、ゴム材料を有する第2の部材と、を有し、
前記第1の部材と前記第2の部材が一体化された複合材。
[2]前記第1の部材と前記第2の部材が直接接しており、前記第1の部材と前記第2の部材の間に、接着部材が介装されていない[1]に記載の複合材。
[3]前記第1の部材及び前記第2の部材がシート状であり、前記複合材が積層体構造を有する[1]または[2]に記載の複合材。
[4]前記ゴム材料が、ニトリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、水素化ニトリルゴム及びシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも1種である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の複合材。
[5]前記ゴム材料が、ニトリルゴム、フッ素ゴム及びブチルゴムからなる群から選択された少なくとも1種である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の複合材。
[6]前記繊維強化プラスチックが、炭素繊維強化プラスチックである[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の複合材。
[7]前記第1の部材が、繊維配向角度が第1の方向である第1の層を形成する第1の前記繊維強化プラスチックと、繊維配向角度が前記第1の方向とは異なる第2の方向である第2の層を形成する第2の前記繊維強化プラスチックと、を有する多層構造体である[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の複合材。
[8]前記複合材の外表面が、前記第1の部材である[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の複合材。
[9]前記複合材の外表面が、前記第2の部材である[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の複合材。
[10]板状または筒状に成形された[1]乃至[9]のいずれか1つに記載の複合材。
[11]繊維に樹脂を含ませた未硬化または半硬化材料である第1の前駆体を用意する工程と、
用意された前記第1の前駆体上の少なくとも一部の領域に、未加硫のゴムを有する第2の前駆体を直接積層させて、前記第1の前駆体と前記第2の前駆体との積層体を得る工程と、
得られた前記積層体を加熱処理することで、前記第1の前駆体の前記樹脂を熱硬化させて、繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、前記第2の前駆体の前記未加硫のゴムを加硫してゴム材料を有する第2の部材と、を得て、前記第1の部材と前記第2の部材を一体化する一体化工程と、
を有する複合材の製造方法。
[12]用意された前記第1の前駆体上に、接着部材を介さずに、直接、加硫剤の配合された未加硫のゴムを有する前記第2の前駆体を積層させる[11]に記載の複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合材の態様によれば、繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、前記第1の部材上の少なくとも一部の領域にて前記第1の部材と直接接して形成された、ゴム材料を有する第2の部材と、を有し、前記第1の部材と前記第2の部材が一体化されていることにより、繊維強化プラスチックを有する第1の部材とゴム材料を有する第2の部材間の剥離が防止された、繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材を得ることができる。
【0011】
本発明の複合材の態様によれば、前記第1の部材と前記第2の部材が直接接しており、前記第1の部材と前記第2の部材の間に、接着部材が介装されていないことにより、接着部材に起因した接着ムラが防止されるので、第1の部材と第2の部材間の剥離が防止される。
【0012】
本発明の複合材の態様によれば、前記ゴム材料が、ニトリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、水素化ニトリルゴム及びシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも1種であることにより、第1の部材と第2の部材間に密着性が得られ、さらに剥離を防止することができる。
【0013】
本発明の複合材の態様によれば、前記ゴム材料が、ニトリルゴム、フッ素ゴム、及びブチルゴムからなる群から選択された少なくとも1種であることにより、第1の部材と第2の部材間に確実に密着性が得られ、さらに確実に剥離を防止する。
【0014】
本発明の複合材の製造方法の態様では、繊維に樹脂を含ませた未硬化または半硬化材料である第1の前駆体上の少なくとも一部の領域に、未加硫のゴムを有する第2の前駆体を直接積層させて積層体を得、前記積層体を加熱処理することで、前記第1の前駆体の前記樹脂を熱硬化させて繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、前記第2の前駆体の前記未加硫のゴムを加硫してゴム材料を有する第2の部材と、を得るとともに、前記第1の部材と前記第2の部材を一体化する。すなわち、前記積層体を加熱処理することで、繊維に樹脂を含ませた未硬化または半硬化材料であるプリプレグを熱硬化処理し、さらには未加硫のゴムを加硫して、繊維強化プラスチックと加硫されたゴム材料を同時に得るとともに、得られた繊維強化プラスチックと加硫されたゴム材料を一体化する。
【0015】
従って、本発明の複合材の製造方法の態様によれば、繊維強化プラスチックを有する第1の部材とゴム材料を有する第2の部材を一体化するにあたり、接着剤の塗布工程自体が必要ではなく、接着剤の均一塗布も必要ではない。上記から、本発明の製造方法の態様によれば、繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材の製造工程の煩雑化を防止でき、前記複合材の製造を容易化できる。また、本発明の複合材の製造方法の態様によれば、前記積層体を加熱処理することで、前記第1の前駆体の前記樹脂を熱硬化させて繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、前記第2の前駆体の前記未加硫のゴムを加硫してゴム材料を有する第2の部材と、を得るとともに、前記第1の部材と前記第2の部材を一体化するので、繊維強化プラスチックを有する第1の部材とゴム材料を有する第2の部材間の剥離を防止した、繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材を得ることができる。
【0016】
本発明の複合材の製造方法の態様によれば、前記第1の前駆体上に、接着部材を介さずに、直接、未加硫のゴムを有する前記第2の前駆体を積層させることにより、接着部材に起因した接着ムラを防止できるので、第1の部材と第2の部材間の剥離を防止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の複合材の実施形態例の概要を示す説明図である。
図2】本発明の複合材の外表面が第1の部材である態様を示す、複合材を分解した説明図である。
図3】本発明の複合材の外表面が第2の部材である態様を示す、複合材を分解した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の複合材について、詳細を説明する。図1は、本発明の複合材の実施形態例の概要を示す説明図である。本発明の複合材1は、繊維強化プラスチックを有する第1の部材10と、第1の部材10上の少なくとも一部の領域にて第1の部材10と直接接して形成された、ゴム材料を有する第2の部材20と、を有し、第1の部材10と第2の部材20が一体化された、繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材である。本発明の複合材1は、第1の部材10が第2の部材20に接着されていることで、第1の部材10が第2の部材20に接合された接合部30を形成し、第1の部材10と第2の部材20が一体化されている。本発明の複合材1は、第1の部材10上の少なくとも一部の領域が第2の部材20と直接接した状態で一体化されている。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施形態例に係る複合材1は、第1の部材10と第2の部材20が直接接している接合部30には、第1の部材10と第2の部材20との間に、接着剤等の接着部材が介装されていない。本発明の複合材1では、第1の部材10上の少なくとも一部の領域が第2の部材20と直接接した状態で第2の部材20と一体化されていればよく、第2の部材20上の少なくとも一部の領域が第1の部材10と直接接した状態で第1の部材10に一体化されていればよい。
【0020】
本発明の実施形態例に係る複合材1では、第2の部材20に対向する第1の部材10の略全面が、第2の部材20と直接接した状態で第2の部材20に一体化されている。また、第1の部材10に対向する第2の部材20の略全面が、第1の部材10と直接接した状態で第1の部材10に一体化されている。従って、複合材1では、第1の部材10と第2の部材20が対向している接合部30全体にわたって、接着部材が介装されていない。
【0021】
複合材1では、第1の部材10を構成する繊維強化プラスチックの表面部とその近傍におけるマトリックスの一部が、第2の部材20を構成するゴム材料の表面部とその近傍に入り込んでおり、第2の部材20を構成するゴム材料の表面部とその近傍の一部が、第1の部材10を構成する繊維強化プラスチックの表面部とその近傍に入り込んでいることで、第1の部材10が第2の部材20に接合されて接合部30を形成し、第1の部材10と第2の部材20が一体化されている。すなわち、複合材1の接合部30において、第1の部材10は第2の部材20に対してアンカー効果を発揮し、第2の部材20は第1の部材10に対してアンカー効果を発揮していることにより、第1の部材10と第2の部材20が一体化されている。
【0022】
本発明の実施形態例に係る複合材1の形状は、特に限定されず、図1の複合材1では、第1の部材10及び第2の部材20がシート状であり、複合材1は、シート状の積層体構造を有している。
【0023】
第1の部材10及び第2の部材20が、いずれもシート状である場合、第1の部材10の厚さは、特に限定されず、例えば、0.05mm以上10mm以下、より具体的には、0.10mm以上5.0mm以下が挙げられる。また、第2の部材20の厚さは、特に限定されず、第1の部材10の厚さと同じでもよく、異なっていてもよい。第2の部材20の厚さとしては、例えば、0.05mm以上10mm以下、より具体的には、0.10mm以上5.0mm以下が挙げられる。
【0024】
複合材1は、繊維強化プラスチックを有する第1の部材10と、第1の部材10表面上の少なくとも一部の領域にて第1の部材10と直接接した、ゴム材料を有する第2の部材20と、を有し、第1の部材10と第2の部材20が上記アンカー効果によって一体化されていることにより、繊維強化プラスチックを有する第1の部材10とゴム材料を有する第2の部材20との間の剥離が防止された、繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材である。また、図1に示す複合材1では、第1の部材10と第2の部材20が接合部30全体にわたって直接接しており、第1の部材10と第2の部材20の間に、接着部材が介装されていないことにより、接着部材に起因した接着ムラや接合部における接合強度の不均一化が防止されているので、第1の部材10と第2の部材20との間の剥離が防止される。
【0025】
第1の部材10を構成する繊維強化プラスチックとしては、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)、セルロース繊維強化プラスチック等が挙げられる。これらのうち、軽量性、高強度、剛性の点から、炭素繊維強化プラスチックが好ましい。繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂として、樹脂成分は特に限定されない。具体的には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、特にエポキシ樹脂が好ましい。第1の部材10を構成する繊維強化プラスチックは、繊維にマトリックス樹脂を含浸させた中間材である未硬化(または半硬化)熱硬化性プリプレグを加熱処理等により熱硬化させた部材である。
【0026】
本発明の実施形態例に係る複合材1では、第1の部材10は、繊維配向角度が第1の方向である第1の繊維強化プラスチック層11(11-1)と、繊維配向角度が前記第1の方向とは異なる第2の方向である第2の繊維強化プラスチック層11(11-2)と、を有する多層構造体である。第1の部材10は、繊維配向角度が異なるように複数層の繊維強化プラスチックの構造体とすることで、第1の部材10の面方向全体における強度が向上する。なお、図1では、説明の便宜上、第1の部材10は、2層の繊維強化プラスチック層11からなる多層構造体としているが、3層以上の繊維強化プラスチック層11を有する多層構造体としてもよい。3層以上の繊維強化プラスチック層11を有する多層構造体の場合、繊維配向角度が第1の方向とも第2の方向とも異なる第3の方向である第3の繊維強化プラスチック層11、繊維配向角度が第1の方向とも第2の方向とも第3の方向とも異なる第4の方向である第4の繊維強化プラスチック層11等、繊維配向角度が相互に異なる繊維強化プラスチック層11を設けてもよい。また、第1の部材10は、1層の繊維強化プラスチック層11からなる構造体としてもよい。
【0027】
第2の部材20を構成するゴム材料としては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム等のニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム(FKM)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム(ACM)、イソプレンゴム(IR)、スチレンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、クロロプレンゴム(CR)、塩素化ポリエチレン、天然ゴム(NR)等が挙げられる。これらのゴム材料は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。第2の部材20を構成するゴム材料は、未加硫のゴムを加熱処理等により加硫させた部材である。
【0028】
これらのゴム材料のうち、第1の部材10と第2の部材20間に密着性が得られ、さらに剥離を防止することができる点から、ニトリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴムが好ましく、第1の部材10と第2の部材20間に確実に密着性が得られ、さらに確実に剥離を防止する点から、ニトリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴムが特に好ましい。
【0029】
なお、第2の部材20には、ゴム材料に加えて、加硫剤が配合される。必要に応じて、老化防止剤、加工助剤、粘着付与剤、加硫促進助剤、充填剤、可塑剤、加硫促進剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0030】
次に、本発明の実施形態例に係る複合材1における第1の部材10と第2の部材20の積層構造について説明する。図2は、本発明の複合材の外表面が第1の部材である態様を示す、複合材を分解した説明図である。図3は、本発明の複合材の外表面が第2の部材である態様を示す、複合材を分解した説明図である。なお、図2、3では、複合材1における第1の部材10と第2の部材20の積層構造を説明するために、第1の部材10の層と第2の部材20の層からなる積層構造を、各層に分解している。
【0031】
図2に示すように、複合材1として、複合材1の外表面が第1の部材10である積層構造とすることができる。図2では、シート状である複合材1の主表面を形成する両外表面が、繊維強化プラスチックを有する第1の部材10である。従って、ゴム材料を有する第2の部材20の層は、繊維強化プラスチックを有する第1の部材10の層間に介装されている状態となっている。なお、図2では、ゴム材料を有する第2の部材20の層は、2つ設けられており、第2の部材20の層と第2の部材20の層との間に6層の繊維強化プラスチック層11からなる第1の部材10の層が介装されている。また、それぞれの第2の部材20の層の表面上に、それぞれ、2層の繊維強化プラスチック層11からなる第1の部材10の層が設けられている。図2における第1の部材10の層数と繊維強化プラスチック層11の層数と第2の部材20の層数は、説明の便宜上の層数であり、複合材1の使用条件等に応じて、第1の部材10の層数と繊維強化プラスチック層11の層数と第2の部材20の層数は、適宜選択可能である。
【0032】
複合材1の外表面が第1の部材10であり、ゴム材料を有する第2の部材20の層が第1の部材10の層間に介装されている積層構造の複合材1では、曲げ等によって破断するまでの変形量が大きくなり、複合材1の耐変形性が向上する。また、複合材1の外表面が第1の部材10であり、第1の部材10の層間に第2の部材20の層が介装されている積層構造の複合材1では、振動減衰性が向上する。
【0033】
また、図3に示すように、複合材1として、複合材1の外表面が第2の部材20である積層構造とすることもできる。図3では、シート状である複合材1の主表面を形成する両外表面が、ゴム材料を有する第2の部材20である。従って、繊維強化プラスチックを有する第1の部材10の層は、ゴム材料を有する第2の部材20の層間に介装されている状態となっている。なお、図3では、ゴム材料を有する第2の部材20の層は、2つ設けられており、第2の部材20の層と第2の部材20の層との間に10層の繊維強化プラスチック層11からなる第1の部材10の層が介装されている。図3における第1の部材10の層数と繊維強化プラスチック層11の層数と第2の部材20の層数は、説明の便宜上の層数であり、複合材1の使用条件等に応じて、第1の部材10の層数と繊維強化プラスチック層11の層数と第2の部材20の層数は、適宜選択可能である。また、複合材1の外表面を形成する第2の部材20以外に、第1の部材10の層間に、さらに、第2の部材20の層が介装されていてもよい。
【0034】
複合材1の外表面が第2の部材20であり、繊維強化プラスチックを有する第1の部材10の層が第2の部材20の層間に介装されている積層構造の複合材1では、複合材1の破断時に第1の部材10の繊維が飛散することを防止できるので、複合材1の破断時の安全性が向上する。また、複合材1の外表面がゴム材料を有する第2の部材20であることにより、複合材1に、例えば、耐油性、耐候性、耐久性、耐薬品性、耐オゾン性等のゴム材料由来の効果も付与することができる。また、複合材1の外表面が第2の部材20であり、第2の部材20の層間に第1の部材10の層が介装されている積層構造の複合材1では、振動減衰性が向上する。
【0035】
複合材1は、輸送関連機器、スポーツ用品、建築構造物などの用途に応じて、板状、筒状等、所望の形状に成形して使用することができる。
【0036】
次に、本発明の複合材の製造方法について説明する。本発明の複合材の製造方法は、(1)繊維に樹脂を含ませた未硬化または半硬化材料である第1の前駆体を用意する工程と、(2)用意された前記第1の前駆体上の少なくとも一部の領域に、未加硫のゴムを有する第2の前駆体を直接積層させて、前記第1の前駆体と前記第2の前駆体との積層体を得る工程と、(3)得られた前記積層体を加熱処理することで、前記第1の前駆体の前記樹脂を熱硬化させて、繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、前記第2の前駆体の前記未加硫のゴムを加硫してゴム材料を有する第2の部材と、を得て、前記第1の部材と前記第2の部材を一体化する一体化工程と、を有する。
【0037】
(1)繊維に樹脂を含ませた未硬化または半硬化材料である第1の前駆体を用意する工程
炭素繊維等の強化繊維に熱硬化性樹脂等の樹脂を含ませた未硬化または半硬化材料であるプリプレグを用意する工程である。第1の前駆体として、単層プリプレグを使用してもよく、また、プリプレグを複数積層させた積層プリプレグを使用してもよく、複合材の使用条件等に応じて、プリプレグの積層数は適宜選択可能である。
【0038】
(2)第1の前駆体上に未加硫のゴムを有する第2の前駆体を直接積層させて積層体を得る工程
第1の前駆体である(積層)プリプレグ表面に、加硫剤の配合された未加硫のゴムを有する第2の前駆体を積層させる工程である。この工程では、第1の前駆体上に、接着部材を介さずに、直接、未加硫のゴムを有する第2の前駆体を積層させる。第1の前駆体上に第2の前駆体を積層させるにあたり、必要に応じて、第1の前駆体と第2の前駆体の積層体に対して、例えば、プレスが行われてもよい。
【0039】
(3)一体化工程
一体化工程では、第1の前駆体と第2の前駆体の積層体を加熱処理することで、第1の前駆体の樹脂を熱硬化させてプリプレグから繊維強化プラスチックを形成して、繊維強化プラスチックを有する第1の部材を得、さらには第2の前駆体の未加硫のゴムを加硫してゴム材料を有する第2の部材を得るとともに、第1の部材と第2の部材を一体化する。すなわち、一体化工程では、第1の前駆体と第2の前駆体の積層体を加熱処理することで、繊維に樹脂を含ませた未硬化または半硬化材料であるプリプレグを熱硬化処理し、さらには未加硫のゴムを加硫して、繊維強化プラスチックと加硫されたゴム材料を同時に得るとともに、得られた繊維強化プラスチックと加硫されたゴム材料を一体化する。プリプレグから繊維強化プラスチックを形成する際に、第1の前駆体を構成する樹脂の一部が、第2の前駆体を構成する未加硫のゴムに入り込むとともに、未加硫のゴムを加硫してゴム材料を形成する際に、第2の前駆体を構成する未加硫のゴムの一部が、第1の前駆体を構成する樹脂に入り込む。上記した第1の前駆体と第2の前駆体の相互作用によって、第1の部材と第2の部材が接合されて接合部を形成し、第1の部材と第2の部材が一体化される。結果として、第1の部材を構成する繊維強化プラスチックの表面部とその近傍におけるマトリックス樹脂の一部が、第2の部材を構成するゴム材料の表面部とその近傍に入り込み、第2の部材を構成するゴム材料の表面部とその近傍の一部が、第1の部材を構成する繊維強化プラスチックの表面部とその近傍に入り込んだ接合部を形成する。
【0040】
第1の前駆体と第2の前駆体の積層体を加熱処理する方法としては、第1の前駆体に適合した加熱処理条件を適宜選択することができる。
【0041】
本発明の複合材の製造方法によれば、繊維強化プラスチックを有する第1の部材とゴム材料を有する第2の部材を一体化するにあたり、接着剤の塗布工程自体が必要ではなく、従って、接着剤の均一塗布も必要ではない。上記から、繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材の製造工程の煩雑化を防止でき、複合材の製造を容易化できる。また、本発明の複合材の製造方法では、第1の前駆体と第2の前駆体の積層体を加熱処理することで、第1の前駆体の樹脂を熱硬化させて繊維強化プラスチックを有する第1の部材と、第2の前駆体の未加硫のゴムを加硫してゴム材料を有する第2の部材と、を得るとともに、第1の部材と第2の部材を一体化することもできるので、繊維強化プラスチックを有する第1の部材とゴム材料を有する第2の部材間の剥離が防止された、繊維強化プラスチックとゴム材料との複合材を得ることができる。
【0042】
また、本発明の複合材の製造方法では、第1の前駆体上に、接着部材を介さずに、直接、未加硫のゴムを積層させるので、接着部材に起因した接着ムラを防止でき、第1の部材と第2の部材間の剥離を防止することができる。
【実施例0043】
次に、本発明の複合材の実施例を説明するが、本発明の複合材は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1~3
未加硫のゴムと加硫剤を、下記表1の配合割合にて配合後、混合して、実施例1~3で使用する、第2の部材の前駆体である第2の前駆体を調製した。未加硫のゴムとしては、ニトリルゴム(実施例1)、フッ素ゴム(実施例2)、ブチルゴム(実施例3)を使用した。
なお、下記表1中に記載していないが、適宜各種添加剤(老化防止剤、加工助剤、粘着付与剤、加硫促進助剤、充填剤、可塑剤、加硫促進剤等)を配合している。
【0045】
実施例1~3で使用する第1の前駆体(第1の部材の前駆体)は、以下の通りである。
・P2255S-15:シート厚0.122mm、樹脂量24.0質量%、炭素繊維量76.0%のプリプレグのシート、東レ株式会社
【0046】
評価項目は以下の通りである。
(1)剥離試験
第1の前駆体のプリプレグを(0°/90°)の積層構造で積層し、1.22mmの積層プリプレグのシートとした。次に、得られた積層体をシートプレス機に入れ、8Kgf/cm、150℃、60分の条件にて加熱処理をし、第1の部材と第2の部材が一体化された複合材の試験サンプルを調製した。得られた試験サンプルについて、第1の部材と第2の部材が一体化された複合材から第2の部材を引き剥がす剥離試験を行った。剥離試験は、試験速度50mm/分、JIS K 6854に順じて実施し、複合材から第2の部材を引き剥がす際の最大荷重(単位:N)を測定した。剥離試験回数を5回とし、その平均値の最大荷重にて、繊維強化プラスチックとゴム材料間の剥離防止性を評価した。最大荷重100N以上を、繊維強化プラスチックとゴム材料間の剥離防止性に優れた複合材として「合格」と判定した。
【0047】
(2)表面観察
上記剥離試験後の試験サンプルについて、第1の部材の接合部側表面と第2の部材の接合部側表面を光学顕微鏡(倍率100倍)にて観察し、以下の基準で繊維強化プラスチックとゴム材料間の一体性を評価した。
○:第1の部材の接合部側表面にゴム材料の断片が多く付着し、第2の部材の接合部側表面に炭素繊維やマトリックス樹脂が多く付着していることから、第1の部材と第2の部材がアンカー効果によって強固に一体化されている。
△:第1の部材の接合部側表面にゴム材料の断片が僅かに付着し、第2の部材の接合部側表面に炭素繊維やマトリックス樹脂が僅かに付着していることから、第1の部材と第2の部材がアンカー効果によって一体化されている。
×:第1の部材の接合部側表面にゴム材料の断片が全く付着していない、及び/または第2の部材の接合部側表面に炭素繊維やマトリックス樹脂が全く付着していないことから、第1の部材と第2の部材がアンカー効果によって接合されていない。
【0048】
評価結果を下記表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
上記表1に示すように、第1の前駆体と第2の前駆体の積層体を加熱処理することで、プリプレグを熱硬化処理し、さらには未加硫のゴムを加硫して、繊維強化プラスチックと加硫されたゴム材料を同時に得るとともに、繊維強化プラスチックと加硫されたゴム材料を一体化した実施例1~3では、複合材から第2の部材を引き剥がす際の最大荷重が100N以上であり、また、第1の部材と第2の部材がアンカー効果によって強固に一体化されていた。従って、実施例1~3では、繊維強化プラスチックとゴム材料間の剥離が防止された複合材を得ることができた。
【0051】
(3)曲げ試験(耐変形性)
実施例として、上記した実施例1~3の、第1の部材と第2の部材が一体化された複合材の試験サンプルを使用した。また、比較例1では、第1の部材の層((90°/0°))のみの試験サンプルとした。
【0052】
JIS K 7074に順じて曲げ試験を行い、試験サンプルが破断するまでの変位量を測定し、以下の基準で評価した。
○:変位量5.0mm以上
△:変位量3.5mm以上5.0mm未満
×:変位量3.5mm未満
【0053】
評価結果を下記表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
上記表2に示すように、繊維強化プラスチックと加硫されたゴム材料を一体化した実施例1~3では、変位量が大きく、耐変形性に優れていた。一方で、ゴム材料を有する第2の部材が形成されていない比較例1では、変位量が小さく、耐変形性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の複合材は、繊維強化プラスチックとゴム材料間の剥離が防止されているので、輸送関連機器、スポーツ用品、建築構造物など、広汎な分野の材料として利用価値が高い。
【符号の説明】
【0057】
1 複合材
10 第1の部材
11 繊維強化プラスチック層
20 第2の部材
図1
図2
図3