(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081462
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】既設暗渠の更生構造
(51)【国際特許分類】
E02B 11/00 20060101AFI20230606BHJP
F16L 1/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
E02B11/00 A
F16L1/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195167
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000207562
【氏名又は名称】タキロンシーアイシビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】森田 佳伸
(72)【発明者】
【氏名】西谷 朋之
(57)【要約】
【課題】石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在する既設暗渠の更生管の周囲に浸入した水が滞留し、更生管に浮力がかかって浮き上がったり、周囲の地盤が流出して陥没事故を起こしたりすることのない既設暗渠の更生構造を提供すること。
【解決手段】内部に水路を形成する更生管2と、更生管2と既設暗渠1との間に充填、硬化されてなる充填材3と、充填材3と既設暗渠1の側壁部11との境界に設けた面状部材4と、面状部材4と既設暗渠1との境界に、更生管2の管軸方向に設けた、既設暗渠1の側壁部11を通して周囲の地盤から浸入した水が導入される導水管5とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設暗渠の更生構造であって、
内部に水路を形成する更生管と、
前記更生管と前記既設暗渠との間に充填、硬化されてなる充填材と、
前記充填材と前記既設暗渠との境界に、前記更生管の管軸方向に設けた、前記既設暗渠の壁部を通して周囲の地盤から浸入した水が導入される導水管と
を備えてなることを特徴とする既設暗渠の更生構造。
【請求項2】
前記充填材と前記既設暗渠の少なくとも側壁部との境界に面状部材を設け、該面状部材を伝って周囲の地盤から浸入した水が前記導水管に導入されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の既設暗渠の更生構造。
【請求項3】
前記更生管が、前記既設暗渠の内周面に沿って、前記更生管の管軸方向に間隔をあけて設置した第1の補強部材を兼ねた環状の固定部材と、該固定部材に配設した連結部材と、該連結部材と、前記更生管の管軸方向に隣接する固定部材に配設した連結部材に架設される帯状の内面材とを備えてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の既設暗渠の更生構造。
【請求項4】
前記更生管が、前記固定部材の外周側に環状に設けた第2の補強部材を備えてなることを特徴とする請求項3に記載の既設暗渠の更生構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在する既設暗渠の更生構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、市街地において古くから石積やコンクリート等により構築された渠(水路)が使用されている。
これらの渠は、当初開渠だったものを、都市開発等により渠の上部を覆って暗渠にし、道路等として使用されているものがある。
しかし、石積やコンクリートの崩れや亀裂等による劣化が進み、渠としての機能や強度が担保されない状況となっている。
【0003】
これに対する方策として、既設暗渠を更新する方法と更生する方法がある。
既設暗渠を更新する方法は、既設暗渠を一旦取り除く必要があり、膨大な労力及びコストがかかるとともに、大規模な通行止め等により市民生活にも影響を及ぼすという欠点がある。
このため、上記の問題点がない、既設暗渠を暗渠の状態で更生する方法が要請されていた。
【0004】
ところで、既設渠や既設暗渠を更生する方法として、従来、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂製の更生管を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
特許文献1及び2に開示された方法は、既設渠を更生するという目的を一応は達成できるものの、更生管自体によっては暗渠の強度の大きな向上を期待できないことから、地表面を道路等として使用している強度が低下した既設暗渠の強度を担保することは困難であった。
また、既設暗渠の場合、石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在することがあるが、特許文献1及び2に開示された方法では、更生管の周囲に浸入した水が滞留し、更生管に浮力がかかって浮き上がったり、周囲の地盤(土)が流出して陥没事故を起こしたりするおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-294679号公報
【特許文献2】特開2012-219985号公報
【特許文献3】特許第5746443号公報
【特許文献4】特開2017-198305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の既設暗渠を暗渠の状態で更生する方法の問題点に鑑み、石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在する既設暗渠の更生管の周囲に浸入した水が滞留し、更生管に浮力がかかって浮き上がったり、周囲の地盤が流出して陥没事故を起こしたりすることのない既設暗渠の更生構造を提供することを第1の目的とする。
【0007】
また、本発明は、更生管によって、地表面を道路等として使用している強度が低下した既設暗渠の強度を担保することができる既設暗渠の更生構造を提供することを第2の目的
とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記第1の目的を達成するため、本発明の既設暗渠の更生構造は、
内部に水路を形成する更生管と、
前記更生管と前記既設暗渠との間に充填、硬化されてなる充填材と、
前記充填材と前記既設暗渠との境界に、前記更生管の管軸方向に設けた、前記既設暗渠の壁部を通して周囲の地盤から浸入した水が導入される導水管と
を備えてなることを特徴とする。
【0009】
また、前記充填材と前記既設暗渠の少なくとも側壁部との境界に面状部材を設け、該面状部材を伝って周囲の地盤から浸入した水が前記導水管に導入されるようにすることができる。
【0010】
さらに、上記第2の目的を達成するため、前記更生管が、前記既設暗渠の内周面に沿って、前記更生管の管軸方向に間隔をあけて設置した第1の補強部材を兼ねた環状の固定部材と、該固定部材に配設した連結部材と、該連結部材と、前記更生管の管軸方向に隣接する固定部材に配設した連結部材に架設される帯状の内面材とを備えてなるようにすることができる。
【0011】
また、前記更生管が、前記固定部材の外周側に環状に設けた第2の補強部材を備えてなるようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の既設暗渠の更生構造によれば、充填材と既設暗渠との境界に、更生管の管軸方向に設けた、既設暗渠の壁部を通して周囲の地盤から浸入した水が導入される導水管を備えることにより、石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在する既設暗渠の更生管の周囲に浸入した水を、導水管を介して排出することで、更生管の周囲に浸入した水が滞留することがなく、更生管に浮力がかかって浮き上がったり、周囲の地盤が流出して陥没事故を起こしたりすることを防止することができる。
【0013】
また、充填材と既設暗渠の少なくとも側壁部との境界に面状部材を設け、面状部材を伝って周囲の地盤から浸入した水が導水管に導入されるようにすることにより、周囲の地盤から浸入した水を、導水管を介してより確実に排出することができる。
【0014】
また、更生管が、既設暗渠の内周面に沿って、更生管の管軸方向に間隔をあけて設置した第1の補強部材を兼ねた環状の固定部材と、該固定部材に配設した連結部材と、該連結部材と、更生管の管軸方向に隣接する固定部材に配設した連結部材に架設される帯状の内面材とを備えてなるようにすることにより、第1の補強部材を兼ねた環状の固定部材を備えた更生管及び充填材によって、地表面を道路等として使用している強度が低下した既設暗渠の強度を担保することができる。
【0015】
また、更生管が、固定部材の外周側に環状に設けた第2の補強部材を備えてなるようにすることにより、強度が低下した既設暗渠の強度をより確実に担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の既設暗渠の更生構造の一実施例を示し、(a)は横断面図、(b)は更生管の表層拡大断面図である。
【
図2】同既設暗渠の更生構造の変形実施例を示す横断面図である。
【
図3】従来の既設管の更生構造の例を示し、(a)は円形断面の既設管の更生構造を示す説明図、(b)は矩形断面の既設管の更生構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の既設暗渠の更生構造の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に、本発明の既設暗渠の更生構造の一実施例を示す。
この既設暗渠の更生構造は、石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在する既設暗渠1を更生するためのもので、内部に水路を形成する更生管2と、更生管2と既設暗渠1との間に充填、硬化されてなる充填材3と、充填材3と既設暗渠1の側壁部11との境界に設けた面状部材4と、充填材3(面状部材4を設ける場合は、面状部材4。)と既設暗渠1との境界に、更生管2の管軸方向に設けた、既設暗渠1の側壁部11を通して周囲の地盤から浸入した水が導入される導水管5とを備えるようにしている。
【0019】
ところで、本実施例が対象としている既設暗渠1は、側壁部11を石積で、底部12をコンクリートで、天面部13をPC桁で支持されたコンクリート床板で、それぞれ構成されているが、本発明の既設暗渠の更生構造は、これに限定されるものではなく、石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在する既設暗渠を広く対象にしている。
【0020】
更生管2には、老朽化した下水道管等の既設管を更生するために用いられている公知の更生管を転用することができるが、本実施例においては、
図3に記載した更生管(FFT工法協会「ストリング工法」(登録商標))(特許文献3及び4参照。)を転用するようにしている。
【0021】
更生管2は、具体的には、既設暗渠1の内周面に沿って、更生管2の管軸方向に間隔をあけて設置した異形鉄筋からなる第1の補強部材を兼ねた環状の固定部材21と、固定部材21に配設した連結部材22と、連結部材22と、間隔を規定するスペーサを介して、更生管2の管軸方向に隣接する固定部材21に配設した連結部材22に架設される高密度ポリエチレン等の合成樹脂製の帯状の内面材23と、隣接する内面材23同士を連結し、その隙間を覆う高密度ポリエチレン・熱可塑性エラストマ等の合成樹脂製のファスナ24とを備え、さらに、本実施例では、固定部材21の外周側に環状に設けた異形鉄筋からなる第2の補強部材25を備えるようにしている。
ここで、隣接する固定部材21間、隣接する第2の補強部材25間及び固定部材21とその外周側に環状に設けた第2の補強部材25間には、必要に応じて、補強筋26a、26bを配設するようにしている。
第1の補強部材を兼ねた固定部材21、第2の補強部材25及び補強筋26a、26bのサイズ(径)や配置及び充填材3の打設厚さ等は、強度が低下した既設暗渠1の強度を担保できるように構造設計を行うようにする。特に、石積で構成された既設暗渠1は、耐力を考慮できない(しにくい)ため、更生管2及び充填材3で構造設計を行うようにする。
これにより、第1の補強部材を兼ねた環状の固定部材21と、さらに、第2の補強部材25とを備えた更生管2及び充填材3によって、地表面を道路等として使用している強度が低下した既設暗渠1の強度を担保することができるようにしている。
【0022】
充填材3には、高流度・高強度モルタルを好適に用いることができる。
【0023】
面状部材4は、本実施例においては、石積で構成された既設暗渠1の側壁部11を通して周囲の地盤から浸入した水を、導水管5に案内、導入されるようにするとともに、流動
性を有する打設した充填材3が既設暗渠1側に漏洩することを防止するために、充填材3と既設暗渠1の側壁部11との境界のみ(
図2に示す変形実施例は、充填材3と石積で構成された既設暗渠1の側壁部11との境界のみ)に設けるようにしているが、既設暗渠1の構造によっては、底部12や天面部13にも設けるようにすることができる。
【0024】
面状部材4には、上記目的を達成できる機能を有する、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂製の遮水シート(例えば、タキロンシーアイ社製「ビノン」(登録商標))のほか、エンボス型排水・保護マット(例えば、タキロンシーアイシビル社製「ジオフロー」(登録商標))、面状排水材(例えば、タキロンシーアイシビル社製「グリシート」(商品名))等の遮水性と導水性を備えた面状部材を用いることができる。
【0025】
導水管5は、既設暗渠1の側壁部11を通して周囲の地盤から浸入した水が導入され、導入された水を、外部に排水、例えば、適宜箇所で更生管2の内部に形成された水路に導入させるようにするためのもので、石積で構成された既設暗渠1の側壁部11の最下部位置(又は複数設ける場合は、既設暗渠1の側壁部11の最下部位置及び上部位置や中間位置)で、充填材3(面状部材4を設ける場合は、面状部材4。)と既設暗渠1との境界の、更生管2及び充填材3の強度に影響を及ぼさない箇所に敷設する。
【0026】
導水管5には、上記目的を達成できる機能を有する、ポリエチレン等の合成樹脂製の有孔管やメッシュ管(例えば、タキロンシーアイシビル社製の集排水外圧管「スーパー管W型」(商品名)、同暗渠排水パイプ「ダブルドレン」(商品名))等を用いることができる。
【0027】
この既設暗渠の更生構造によれば、充填材3(面状部材4を設ける場合は、面状部材4。)と既設暗渠1との境界に、更生管2の管軸方向に設けた、既設暗渠1の側壁部11を通して周囲の地盤から浸入した水が導入される導水管5を備えることにより、石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在する既設暗渠1の更生管2の周囲に浸入した水を、導水管5を介して排出することで、更生管2の周囲に浸入した水が滞留することがなく、更生管2に浮力がかかって浮き上がったり、周囲の地盤が流出して陥没事故を起こしたりすることを防止することができる。
そして、この既設暗渠の更生構造は、既設暗渠1を掘削せずに施工することができることから、コストの軽減及び工期の短縮化を図るとともに、周囲への影響を最小限に抑えることができる。
【0028】
以上、本発明の既設暗渠の更生構造について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の既設暗渠の更生構造は、石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在する既設暗渠の更生管の周囲に浸入した水が滞留し、更生管に浮力がかかって浮き上がったり、周囲の地盤が流出して陥没事故を起こしたりすることがなく、また、更生管によって、地表面を道路等として使用している強度が低下した既設暗渠の強度を担保することができることから、石積やコンクリート等で構成された壁部を通して周囲の地盤から水が浸入する箇所が存在する既設暗渠の更生の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 既設暗渠
11 側壁部
12 底部
13 天面部
2 更生管
21 固定部材(第1の補強部材)
22 連結部材
23 内面材
24 ファスナ
25 第2の補強部材
26a 補強筋
26b 補強筋
3 充填材
4 面状部材
5 導水管