(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008148
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】エンドプレート、及びそれを具備する燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2465 20160101AFI20230112BHJP
H01M 8/248 20160101ALI20230112BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230112BHJP
【FI】
H01M8/2465
H01M8/248
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111474
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 悠太
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA23
5H126AA25
5H126AA28
5H126BB06
5H126HH03
5H126HH04
(57)【要約】
【課題】製造コストの削減を図ることが可能なエンドプレートを提供する。
【解決手段】複数の燃料電池セルを配列することで形成されたセル群20の端部に設けられたターミナル部材(ターミナルプレート30)と隣接するように配置されるエンドプレートであって、本体部(スタックマニホールド本体41及びプレッシャプレート本体51)と、シリカ系コーティング剤により形成され、前記本体部と前記ターミナル部材とを絶縁するコーティング層(コーティング層42及びコーティング層52)と、を具備した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池セルを配列することで形成されたセル群の端部に設けられたターミナル部材と隣接するように配置されるエンドプレートであって、
本体部と、
シリカ系コーティング剤により形成され、前記本体部と前記ターミナル部材とを絶縁するコーティング層と、
を具備するエンドプレート。
【請求項2】
前記コーティング層は、
前記本体部に前記シリカ系コーティング剤を吹き付けるスプレー工法、又は、前記シリカ系コーティング剤に前記本体部を浸漬するディッピング工法によって、前記本体部に前記シリカ系コーティング剤を塗布して形成されている、
請求項1に記載のエンドプレート。
【請求項3】
前記エンドプレートは、
前記セル群を配列方向に圧縮する加圧部材である、
請求項1又は請求項2に記載のエンドプレート。
【請求項4】
前記エンドプレートは、
前記セル群に供給される流体の流路が形成された流路部材である、
請求項1又は請求項2に記載のエンドプレート。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のエンドプレートを具備する、
燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるエンドプレート、及びそれを具備する燃料電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池に用いられるエンドプレート、及びそれを具備する燃料電池の技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、複数の燃料電池セルを配列してなる電池セル群、並びに、その電池セル群の各端部に配設されたターミナルプレート及びエンドプレートを備える燃料電池(燃料電池スタック)が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の燃料電池において、エンドプレートは金属板材により構成され、そのエンドプレートの表面には、電着塗装法によって絶縁層(樹脂層)が形成されている。これによって、ターミナルプレートとエンドプレートとを電気的に絶縁することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のように、絶縁層を形成するために電着塗装法を用いる場合、設備が大型で管理が複雑なため、燃料電池の製造コストが高くなる点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、製造コストの削減を図ることが可能なエンドプレート、及びそれを具備する燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、複数の燃料電池セルを配列することで形成されたセル群の端部に設けられたターミナル部材と隣接するように配置されるエンドプレートであって、本体部と、シリカ系コーティング剤により形成され、前記本体部と前記ターミナル部材とを絶縁するコーティング層と、を具備するものである。
【0010】
請求項2においては、前記コーティング層は、前記本体部に前記シリカ系コーティング剤を吹き付けるスプレー工法、又は、前記シリカ系コーティング剤に前記本体部を浸漬するディッピング工法によって、前記本体部に前記シリカ系コーティング剤を塗布して形成されているものである。
【0011】
請求項3においては、前記エンドプレートは、前記セル群を配列方向に圧縮する加圧部材である。
【0012】
請求項4においては、前記エンドプレートは、前記セル群に供給される流体の流路が形成された流路部材である。
【0013】
請求項5においては、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のエンドプレートを具備するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1においては、製造コストの削減を図ることができる。すなわち、シリカ系コーティング剤を用いることで、当該コーティング剤をスプレー工法又はディッピング工法によって隣接部材に塗布することができるため、設備の小型化・簡素化が可能となり、ひいてはエンドプレートの製造コストの削減を図ることができる。
【0016】
請求項2においては、製造コストの削減を図ることができる。
【0017】
請求項3においては、加圧部材とターミナル部材とを絶縁することができる。
【0018】
請求項4においては、流路部材とターミナル部材とを絶縁することができる。
【0019】
請求項5においては、製造コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池スタックの正面模式図。
【
図2】(a)
図1のA部分拡大図。(b)
図1のB部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明に係る燃料電池の一実施形態に係る燃料電池スタック1について説明する。
【0022】
図1に示す燃料電池スタック1は、燃料電池の最小単位である燃料電池セルを配列して結合したものであり、電気化学反応により発電を行うものである。燃料電池スタック1は、例えば車両に搭載されたモータ等を駆動させる電源として用いられる。燃料電池スタック1としては、例えば高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)等を採用可能である。燃料電池スタック1は、主としてスタックケース10、セル群20、ターミナルプレート30、スタックマニホールド40及びプレッシャプレート50を具備する。
【0023】
スタックケース10は、後述するセル群20(配列された燃料電池セル)を収容するものである。スタックケース10の形状は特に限定されるものではないが、後述するセル群20を収容可能な形状(例えば、中空の箱状や、枠状等)に形成される。スタックケース10の一端部(図例では、左端部)は開放され、後述するスタックマニホールド40によって閉塞される。
【0024】
セル群20は、燃料電池セルを所定の配列方向(図例では、左右方向)に沿って配列して形成されるものである。燃料電池セル(単セル)は、固体高分子膜(電解質膜)を電極板で挟み、それをさらにガス流路が形成されたセパレータで挟むことで形成される。セル群20は、スタックケース10の内側に配置される。
【0025】
ターミナルプレート30は、セル群20の両端(燃料電池セルの配列方向の両端)に配置され、セル群20で発電された電力を外部に取り出すためのものである。ターミナルプレート30は板状に形成される。ターミナルプレート30は、セル群20と共にスタックケース10に収容され、一部(図例では、上部)がスタックケース10の外部に突出するように配置される。なお以下では、左右のターミナルプレート30を区別するために、左側に配置されたターミナルプレート30をターミナルプレート30L、右側に配置されたターミナルプレート30をターミナルプレート30Rとそれぞれ称する場合がある。
【0026】
スタックマニホールド40は、セル群20に供給される流体(水素、空気、冷却水等)が流通可能な流路が形成された部材である。
図1及び
図2(a)に示すように、スタックマニホールド40は、主としてスタックマニホールド本体41及びコーティング層42を具備する。なお、
図2(a)は、
図1のA部分を拡大したものである。また、
図2(a)では便宜上、コーティング層42をハッチングで示している。
【0027】
スタックマニホールド本体41は、スタックマニホールド40の主たる構造体を成すものである。スタックマニホールド本体41は、例えばアルミダイカストにより形成される。スタックマニホールド本体41は、スタックケース10の左端部を閉塞するように配置され、当該スタックケース10に固定される。スタックマニホールド本体41は、後述するコーティング層42を介してターミナルプレート30Lに左方から当接する。
【0028】
コーティング層42は、スタックマニホールド本体41とターミナルプレート30Lとを絶縁する(絶縁性を有する)ものである。コーティング層42は、スタックマニホールド本体41のうち、ターミナルプレート30Lと接する面に形成される。コーティング層42は、シリカ系コーティング剤により形成される。シリカ系コーティング剤としては、ポリシラザン、コロイダルシリカ等を用いることが可能である。本実施形態では、コーティング層42の厚みを5~20ミクロン程度とすることを想定している。コーティング層42は、スタックマニホールド本体41の表面にシリカ系コーティング剤を塗布した後、焼成(熱処理)することで形成することができる。
【0029】
シリカ系コーティング剤は、スプレー工法、ディッピング工法等によってをスタックマニホールド本体41に塗布することが可能である。スプレー工法とは、シリカ系コーティング剤をスタックマニホールド本体41の表面に吹き付けて塗布する工法である。スプレー工法では、シリカ系コーティング剤の吹き付け量を調整することで、コーティング層42の厚みを調整することが可能である。
【0030】
また、ディッピング工法とは、シリカ系コーティング剤の液中にスタックマニホールド本体41を浸漬して、スタックマニホールド本体41の表面にシリカ系コーティング剤を塗布する工法である。ディッピング工法では、シリカ系コーティング剤の粘度、浸漬したスタックマニホールド本体41を液中から引き上げる速度等を調整することで、コーティング層42の厚みを調整することが可能である。
【0031】
このようにスプレー工法やディッピング工法では、電着塗装法のように電気を流す必要がないため、スタックマニホールド本体41の導電性の有無にかかわらずシリカ系コーティング剤を塗布することができる。また、スプレー工法やディッピング工法を用いることで、スタックマニホールド本体41の表面が複雑な形状を有していたとしても、シリカ系コーティング剤を容易に塗布することができる。
【0032】
スタックマニホールド本体41に塗布されたシリカ系コーティング剤は、焼成(熱処理)されることで硬化し、コーティング層42として形成される。焼成温度は適宜選択することが可能であるが、本実施形態では150℃以下(100℃程度)の比較的低温で所定の時間焼成することを想定している。このように比較的低温で焼成することで、アルミダイカストにより形成されたスタックマニホールド本体41の内部欠陥、ひずみ等の発生を抑制することができる。
【0033】
プレッシャプレート50は、セル群20を配列方向に圧縮するものである。
図1及び
図2(b)に示すように、プレッシャプレート50は、主としてプレッシャプレート本体51及びコーティング層42を具備する。なお、
図2(b)は、
図1のB部分を拡大したものである。また、
図2(b)では便宜上、コーティング層52をハッチングで示している。
【0034】
プレッシャプレート本体51は、プレッシャプレート50の主たる構造体を成すものである。プレッシャプレート本体51は、例えばアルミダイカストにより形成される。プレッシャプレート本体51は、ターミナルプレート30Rの右側に配置される。プレッシャプレート本体51は、例えばスタックケース10に設けられたボルト等(不図示)によって左方に向かって押し付けられる。これによってセル群20及びターミナルプレート30は、プレッシャプレート50とスタックマニホールド40との間で左右方向に圧縮された状態で保持される。
【0035】
コーティング層52は、プレッシャプレート本体51とターミナルプレート30Rとを絶縁する(絶縁性を有する)ものである。コーティング層52は、プレッシャプレート本体51のうち、ターミナルプレート30Rと接する面に形成される。なお、コーティング層52の素材や形成方法は、コーティング層42と概ね同様であるため、説明は省略する。
【0036】
このように、スタックマニホールド40及びプレッシャプレート50にコーティング層42及びコーティング層52を形成することで、ターミナルプレート30とスタックマニホールド40及びプレッシャプレート50とを絶縁することができる。また、コーティング層42及びコーティング層52を形成することで、スタックマニホールド40及びプレッシャプレート50の耐食性を向上させることもできる。
【0037】
本実施形態のようにコーティング層42・52によってスタックマニホールド40及びプレッシャプレート50とターミナルプレート30とを絶縁する構成とすることで、別途絶縁部材を設ける必要がなくなる。これによって、燃料電池スタック1の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0038】
また、シリカ系コーティング剤により形成されたコーティング層42及びコーティング層52は比較的高い硬度を有している。例えば、本実施形態のコーティング層42及びコーティング層52(シリカ系コーティング剤によるコーティング)は、鉛筆硬さで5~9H程度の硬度を有している。これに対して、他の絶縁体の鉛筆硬さをロックウェル硬さから換算すると、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂の鉛筆硬さはB~H、PI(ポリイミド)樹脂の鉛筆硬さはH~2H程度である。このようにコーティング層42及びコーティング層52は他の絶縁体と比較して高い硬度を有しているため、異物(例えばスタックマニホールド40やプレッシャプレート50の切削くず等)からスタックマニホールド40及びプレッシャプレート50を保護することができる。
【0039】
以上の如く、本実施形態に係るエンドプレート(スタックマニホールド40及びプレッシャプレート50)は、
複数の燃料電池セルを配列することで形成されたセル群20の端部に設けられたターミナル部材(ターミナルプレート30)と隣接するように配置されるエンドプレートであって、
本体部(スタックマニホールド本体41及びプレッシャプレート本体51)と、
シリカ系コーティング剤により形成され、前記本体部と前記ターミナル部材とを絶縁するコーティング層(コーティング層42及びコーティング層52)と、
を具備するものである。
このように構成することにより、製造コストの削減を図ることができる。すなわち、シリカ系コーティング剤を用いることで、当該コーティング剤をスプレー工法又はディッピング工法によってエンドプレートに塗布することができるため、設備の小型化・簡素化が可能となり、ひいてはエンドプレート(燃料電池)の製造コストの削減を図ることができる。
【0040】
また、前記コーティング層(コーティング層42及びコーティング層52)は、
前記本体部(スタックマニホールド本体41及びプレッシャプレート本体51)に前記シリカ系コーティング剤を吹き付けるスプレー工法、又は、前記シリカ系コーティング剤に前記本体部を浸漬するディッピング工法によって、前記本体部に前記シリカ系コーティング剤を塗布して形成されているものである。
このように構成することによって、製造コストの削減を図ることができる。
【0041】
また、前記エンドプレートは、
前記セル群20を前記配列方向に圧縮する加圧部材(プレッシャプレート50)である。
このように構成することにより、プレッシャプレート50とターミナルプレート30とを絶縁することができる。
【0042】
また、前記エンドプレートは、
前記セル群20に供給される流体の流路が形成された流路部材(スタックマニホールド40)である。
このように構成することにより、スタックマニホールド40とターミナルプレート30とを絶縁することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る燃料電池(燃料電池スタック1)は、
前記エンドプレート(スタックマニホールド40及びプレッシャプレート50)を具備するものである。
このように構成することにより、製造コストの削減を図ることができる。
【0044】
なお、本実施形態に係る燃料電池スタック1は、本発明に係る燃料電池の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るターミナルプレート30は、本発明に係るターミナル部材の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るスタックマニホールド40及びプレッシャプレート50は、本発明に係るエンドプレートの実施の一形態である。
また、本実施形態に係るスタックマニホールド本体41及びプレッシャプレート本体51は、本発明に係る本体部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るコーティング層42及びコーティング層52は、本発明に係るコーティング層の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るプレッシャプレート50は、本発明に係る加圧部材の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るスタックマニホールド40は、本発明に係る流路部材の実施の一形態である。
【0045】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0046】
例えば、本実施形態で例示した各部の形状等は特に限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。具体的には、スタックケース10、セル群20、ターミナルプレート30、スタックマニホールド40及びプレッシャプレート50の形状や構成は限定するものではなく、任意に変更することができる。
【0047】
また本実施形態では、スタックマニホールド40及びプレッシャプレート50の両方にコーティング層42・52を形成した例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、いずれか一方にのみコーティング層を形成することも可能である。
【0048】
また本実施形態では、ターミナルプレート30に隣接する部材(エンドプレート)としてスタックマニホールド40及びプレッシャプレート50を例示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、スタックマニホールド40に代えて、流体の流路が形成されていない単純な板状部材(エンドプレート)をターミナルプレート30に隣接するように配置することも可能である。この場合、当該エンドプレートにコーティング層を形成することが望ましい。
【0049】
また本実施形態では、
図2に示すように、コーティング層42・52が、スタックマニホールド40及びプレッシャプレート50のうちターミナルプレート30と接する面に形成された例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、コーティング層42・52が形成される範囲は限定するものではない。すなわち、コーティング層42・52は、少なくともターミナルプレート30と接する面に形成されていればよく、さらにその他の面に形成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 燃料電池スタック
10 スタックケース
20 セル群
30 ターミナルプレート
40 スタックマニホールド
41 スタックマニホールド本体
42 コーティング層
50 プレッシャプレート
51 プレッシャプレート本体
52 コーティング層