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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081481
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】PCa接合体とその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20230606BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
E04B1/30 K
E04B1/58 505P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195226
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大庭 正俊
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB01
2E125AB12
2E125AC02
2E125AC15
2E125AF01
2E125AF03
2E125AG03
2E125AG13
2E125AG22
2E125AG27
2E125AG48
2E125BA02
2E125BA42
2E125BB09
2E125BD01
2E125BE01
2E125BF04
(57)【要約】
【課題】シース管にグラウトを充填することに依拠する工期の長期化を解消でき、PCa柱の立設姿勢を保持するための措置により発生するダメ処理を不要にできる、PCa接合体とその施工方法を提供すること。
【解決手段】PCa柱10とPCa仕口20とが接合されているPCa接合体50であり、PCa柱10の上方にPCa仕口20が配設され、第1シース管16と第2シース管26に挿通されている第1アンボンドPC鋼材17と第2アンボンドPC鋼材27が機械式継手35を介して繋がれ、それらが本緊張されており、PCa柱10とPCa仕口20の間の第1目地41には第1アンボンドPC鋼材17が定着される第1定着プレート18が配設され、PCa仕口20の上方には第2アンボンドPC鋼材27が定着される第2定着プレート28が配設され、PCa仕口20の上下にはその周方向に延びる無端状で鋼製のバンドプレート24が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート製で第1シース管を備えているPCa柱と、プレキャストコンクリート製で第2シース管と鉄骨梁を備えているPCa仕口とが接合されている、PCa接合体であって、
前記PCa柱の上方に前記PCa仕口が配設され、相互に連通された前記第1シース管と前記第2シース管にそれぞれ挿通されている第1アンボンドPC鋼材と第2アンボンドPC鋼材が機械式継手を介して繋がれ、前記第1アンボンドPC鋼材と前記第2アンボンドPC鋼材が本緊張されており、
前記PCa柱と前記PCa仕口の間の第1目地には、前記第1アンボンドPC鋼材が定着される第1定着プレートが配設され、
前記PCa仕口の上方には、前記第2アンボンドPC鋼材が定着される第2定着プレートが配設されており、
前記PCa仕口の上下には、前記PCa仕口の周方向に延びる無端状で鋼製のバンドプレートが設けられ、上下の前記バンドプレートの間から前記鉄骨梁が側方へ延びていることを特徴とする、PCa接合体。
【請求項2】
前記第1アンボンドPC鋼材は、仮緊張された後に前記本緊張されていることを特徴とする、請求項1に記載のPCa接合体。
【請求項3】
プレキャストコンクリート製で第1シース管を備えているPCa柱と、プレキャストコンクリート製で第2シース管と鉄骨梁を備えているPCa仕口を接合して、PCa接合体を施工する、PCa接合体の施工方法であって、
前記PCa柱の前記第1シース管に挿通されて、上方へ突出する第1アンボンドPC鋼材を仮緊張し、前記PCa柱の上方の第1目地空間に配設した第1定着プレートにて前記第1アンボンドPC鋼材を定着することにより、前記PCa柱を自立させる、A工程と、
前記PCa仕口の前記第2シース管に挿通されて、下方へ突出する第2アンボンドPC鋼材を、機械式継手を介して上方へ突出する前記第1アンボンドPC鋼材と繋ぎ、前記第2アンボンドPC鋼材と前記第1アンボンドPC鋼材を本緊張し、前記PCa仕口の上方の第2目地空間に配設した第2定着プレートにて前記第2アンボンドPC鋼材を定着する、B工程とを有することを特徴とする、PCa接合体の施工方法。
【請求項4】
前記B工程では、前記第1目地空間において、前記第1目地空間に連通する前記第1シース管と前記第2シース管に目地材が入らないように養生を行い、前記第1目地空間に前記目地材を打設し、前記目地材の硬化後に前記本緊張を行うことを特徴とする、請求項3に記載のPCa接合体の施工方法。
【請求項5】
前記A工程と前記B工程を繰り返して、2以上の階層に対応する前記PCa接合体を施工することを特徴とする、請求項3又は4に記載のPCa接合体の施工方法。
【請求項6】
前記PCa仕口の上下には、前記PCa仕口の周方向に延びる無端状で鋼製のバンドプレートが設けられており、
上下の前記バンドプレートの間から前記鉄骨梁が側方へ延びていることを特徴とする、請求項3乃至5のいずれか一項に記載のPCa接合体の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCa接合体とその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、RC(Reinforced Concrete)造の柱と梁の柱梁接合部や、RC造の柱とS(Steel)造の梁のハイブリッド構造の柱梁接合部を、現場におけるコンクリート打設により施工する場合、工期の長期化が課題としてあり、高層建築物の場合はこの課題が一層顕著になる。そこで、上下の柱と双方の柱を繋ぐ仕口とをいずれもプレキャストコンクリート(以下、適宜「PCa」とする)製とし、PCa柱とPCa仕口(いずれもPCa部材に含まれる)を現場に搬送して組み付けてPCa接合体とすることにより、最小限のグラウト充填のみで一体化を図る接続方法が適用されることがある。このPCa接合体の施工方法によれば、高層建築物を含め、工期を格段に短縮できるとともに、柱梁接合部がPCa部材により形成されることから、構造信頼性の高い建築物を施工することが可能になる。PCa接合体の施工方法の中でも、PCa部材同士をPC(Prestressed Concrete)鋼棒やPC鋼線等の緊張材にて緊張し、相互に締め付けることによってプレキャストプレストレストコンクリート(以下、適宜「PCaPC」とする)接合体を施工することにより、工期のより一層の短縮を図ることができる。本明細書では、PCaPC接合体はPCa接合体に含まれるものとし、その構成部材であるPCaPC部材はPCa部材に含まれるものとする。
【0003】
ここで、特許文献1には、プレキャストプレストレストコンクリート部材からなる柱と梁との接合部にあらかじめ鉄筋用シース管を埋設しておき、柱と梁との接合と同時あるいは接合後に所定鉄筋量の鉄筋を鉄筋用シース管内に収容し、PC鋼材の緊張により接合部の固定を行うとともに、鉄筋を鉄筋用シース管内に固定保持してPC鋼材と鉄筋とで接合部における発生ひび割れの分散制御を行うようにした、プレキャストプレストレスト鉄筋コンクリート架構の接合部構造が提案されている。PC鋼材であるPCケーブルは、柱と梁の内部に埋設されている金属製のシース管内に挿通され、PCケーブルの緊張後にシース管内にはグラウトが充填されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許平9-105173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1をはじめとして、従来のPCa部材同士が接合されたPCa接合体(PCaPC接合体)においては、PCa部材の備えるシース管の内部に挿通されている緊張材が緊張された後、シース管内にグラウトが充填されることにより、緊張材がボンド状態とされてPCa接合体が施工される。そのため、各階のPCa接合体を施工するたびにグラウト充填作業が必要になることに依拠して、工期の長期化が課題となる。
【0006】
また、例えばRC造のPCa柱の施工に際しては、横架材を設置するまでの段階でPCa柱の立設姿勢を保持するために、PCa柱の側面に控え部材を取り付け、控え部材の一端をスラブに設置した治具に固定する措置が講じられる。そのため、PCa柱を自立させた後は、控え部材の取り外しとスラブからの治具の撤去を要することになる。この治具の撤去に際しては、治具を固定する治具周辺のコンクリートを斫る等して治具を撤去した後、斫り箇所を修繕する、所謂ダメ処理が生じることから、このダメ処理の手間も課題となる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、PCa柱と、鉄骨梁を備えているPCa仕口とが接合されているPCa接合体に関し、シース管にグラウトを充填することに依拠する工期の長期化を解消でき、PCa柱の立設姿勢を保持するための措置により発生するダメ処理を不要にできる、PCa接合体とその施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明によるPCa接合体の一態様は、
プレキャストコンクリート製で第1シース管を備えているPCa柱と、プレキャストコンクリート製で第2シース管と鉄骨梁を備えているPCa仕口とが接合されている、PCa接合体であって、
前記PCa柱の上方に前記PCa仕口が配設され、相互に連通された前記第1シース管と前記第2シース管にそれぞれ挿通されている第1アンボンドPC鋼材と第2アンボンドPC鋼材が機械式継手を介して繋がれ、前記第1アンボンドPC鋼材と前記第2アンボンドPC鋼材が本緊張されており、
前記PCa柱と前記PCa仕口の間の第1目地には、前記第1アンボンドPC鋼材が定着される第1定着プレートが配設され、
前記PCa仕口の上方には、前記第2アンボンドPC鋼材が定着される第2定着プレートが配設されており、
前記PCa仕口の上下には、前記PCa仕口の周方向に延びる無端状で鋼製のバンドプレートが設けられ、上下の前記バンドプレートの間から前記鉄骨梁が側方へ延びていることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、PCa柱の第1シース管とPCa仕口の第2シース管にそれぞれ挿通されている1アンボンドPC鋼材と第2アンボンドPC鋼材が、機械式継手を介して繋がれ、双方のアンボンドPC鋼材が本緊張されていることにより、シース管にグラウトを充填することに依拠する工期の長期化を解消することができる。
【0010】
ここで、PCa仕口の平面視形状は例えば矩形(長方形や正方形)であり、4つの側面から側方に鉄骨梁が張り出す形態の他、1つ乃至3つの側面から側方に鉄骨梁が張り出す形態がある。また、PCa仕口の上下において、PCa仕口の周方向に延びる無端状で鋼製のバンドプレートが設けられていることにより、鉄骨梁からPCa仕口やPCa柱への応力伝達性能を向上させ、PCa接合体を備えた建築物の耐震性能を高めることができる。尚、上記するように、本態様のPCa接合体はPCaPC接合体を含み、PCa仕口はPCaPC仕口を含み、PCa柱はPCaPC柱を含んでいる。
【0011】
また、本発明によるPCa接合体の他の態様において、
前記第1アンボンドPC鋼材は、仮緊張された後に前記本緊張されていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、第1アンボンドPC鋼材が、仮緊張された後に本緊張されていることにより、施工過程では、第1アンボンドPC鋼材の仮緊張によりPCa柱を自立させることができるため、PCa柱の立設姿勢を保持するための従来の措置、すなわち、PCa柱の側面に控え部材を取り付け、控え部材の一端をスラブに設置した治具に固定する措置により発生するダメ処理を不要にできる。
【0013】
また、本発明によるPCa接合体の施工方法の一態様は、
プレキャストコンクリート製で第1シース管を備えているPCa柱と、プレキャストコンクリート製で第2シース管と鉄骨梁を備えているPCa仕口を接合して、PCa接合体を施工する、PCa接合体の施工方法であって、
前記PCa柱の前記第1シース管に挿通されて、上方へ突出する第1アンボンドPC鋼材を仮緊張し、前記PCa柱の上方の第1目地空間に配設した第1定着プレートにて前記第1アンボンドPC鋼材を定着することにより、前記PCa柱を自立させる、A工程と、
前記PCa仕口の前記第2シース管に挿通されて、下方へ突出する第2アンボンドPC鋼材を、機械式継手を介して上方へ突出する前記第1アンボンドPC鋼材と繋ぎ、前記第2アンボンドPC鋼材と前記第1アンボンドPC鋼材を本緊張し、前記PCa仕口の上方の第2目地空間に配設した第2定着プレートにて前記第2アンボンドPC鋼材を定着する、B工程とを有することを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、B工程において、PCa柱の第1シース管とPCa仕口の第2シース管にそれぞれ挿通されている1アンボンドPC鋼材と第2アンボンドPC鋼材を機械式継手を介して繋ぎ、双方のアンボンドPC鋼材を本緊張することにより、シース管にグラウトを充填することに依拠する工期の長期化を解消することができる。また、A工程において、PCa柱の備える第1アンボンドPC鋼材を仮緊張して自立させることにより、PCa柱の立設姿勢を保持するための従来の措置を適用する際に発生するダメ処理を不要にできる。
【0015】
また、本発明によるPCa接合体の施工方法の他の態様において、
前記B工程では、前記第1目地空間において、前記第1目地空間に連通する前記第1シース管と前記第2シース管に目地材が入らないように養生を行い、前記第1目地空間に前記目地材を打設し、前記目地材の硬化後に前記本緊張を行うことを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、PCa柱とPCa仕口の間の第1目地空間において、第1目地空間に連通する第1シース管と第2シース管に目地材が入らないように養生を行った後に第1目地空間に目地材を打設することにより、シース管内にある緊張材のアンボンド状態を保持しながら、第1目地空間における目地を施工することができる。ここで、目地材としては、モルタル等のグラウトが挙げられる。
【0017】
また、本発明によるPCa接合体の施工方法の他の態様において、
前記A工程と前記B工程を繰り返して、2以上の階層に対応する前記PCa接合体を施工することを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、A工程とB工程を繰り返して2以上の階層に対応するPCa接合体を施工することにより、階層ごとに工期の短縮が図られるため、高層建築物や高さが100m以上の超高層建築物を施工する際の工期短縮メリットは一層顕著になる。
【0019】
また、本発明によるPCa接合体の施工方法の他の態様において、
前記PCa仕口の上下には、前記PCa仕口の周方向に延びる無端状で鋼製のバンドプレートが設けられており、
上下の前記バンドプレートの間から前記鉄骨梁が側方へ延びていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、PCa仕口がバンドプレートを備えていることにより、鉄骨梁からPCa仕口やPCa柱への応力伝達性能に優れたPCa接合体を施工することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明から理解できるように、本発明のPCa接合体とその施工方法によれば、シース管にグラウトを充填することに依拠する工期の長期化を解消でき、PCa柱の立設姿勢を保持するための措置により発生するダメ処理を不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係るPCa接合体の一例の分解斜視図であって、PCa仕口の内部を視認可能にした図である。
図2】実施形態に係るPCa接合体の一例の斜視図である。
図3】PCa仕口の他の例の斜視図であって、内部を視認可能にした図である。
図4】実施形態に係るPCa接合体を備えた、ハイブリッド架構体の一例の斜視図である。
図5】実施形態に係るPCa接合体の施工方法の一例の工程図である。
図6図5に続いて実施形態に係るPCa接合体の施工方法の一例の工程図である。
図7図6に続いて実施形態に係るPCa接合体の施工方法の一例の工程図である。
図8図7に続いて実施形態に係るPCa接合体の施工方法の一例の工程図である。
図9図8に続いて実施形態に係るPCa接合体の施工方法の一例の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係るPCa接合体とその施工方法の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0024】
[実施形態に係るPCa接合体]
はじめに、図1乃至図4を参照して、実施形態に係るPCa接合体の一例と、PCa接合体を備えたPCa架構体の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係るPCa接合体の一例の分解斜視図であって、PCa仕口の内部を視認可能にした図であり、図2は、実施形態に係るPCa接合体の一例の斜視図である。また、図3は、PCa仕口の他の例の斜視図であって、内部を視認可能にした図である。さらに、図4は、実施形態に係るPCa接合体を備えた、ハイブリッド架構体の一例の斜視図である。
【0025】
PCa接合体(PCaPC接合体)50は、PCa柱(PCaPC柱)10とPCa仕口(PCaPC仕口)20を相互に接続することにより形成される。例えば、建築物の各階の架構は、図4に示すように、複数のPCa接合体50が併設され、各PCa接合体50が鉄骨梁60により接続されることにより形成され、各階の架構が上下に積層されることにより、ハイブリッド架構体100が形成される。ここで、「ハイブリッド架構体」とは、プレキャストのRC(Reinforced Concrete)造の柱であるPCa柱10と、同様にプレキャストのRC造の仕口であるPCa仕口20と、PCa仕口20同士を繋ぐ鉄骨梁60とを備えた構造である。PCa仕口20は詳細には、鉄骨梁の一部を形成するブラケット22を内蔵している、SRC(Steel Reinforced Concrete)造とも言える。
【0026】
図1に戻り、PCa柱10は、直方体状のPCaコンクリート体11を有し、PCaコンクリート体11の内部には複数(図示例は4本)の第1シース管16が埋設されており、各第1シース管16には第1アンボンドPC鋼材17が挿通されている。ここで、第1アンボンドPC鋼材17はPC鋼棒であるが、その他、PC鋼線等であってもよい。ここで、PCa柱10は、図示を省略するが、鉛直方向に延設する複数の組立筋を有し、各組立筋の外周を包囲する複数の矩形枠状の帯筋を有している。
【0027】
第1アンボンドPC鋼材17は、PCaコンクリート体11の上端11aから上方に突出しており、本緊張された状態でナット19を締め付けることにより、第1定着プレート18がPCaコンクリート体11の上端11aに定着され、第1アンボンドPC鋼材17の緊張状態が保持される。ここで、第1アンボンドPC鋼材17には、以下で詳説するように、施工段階において仮緊張と本緊張の2段階の緊張が実施される。
【0028】
第1シース管16にはグラウトが充填されておらず、従って、第1アンボンドPC鋼材17は、文字通り第1シース管16の内部においてアンボンド状態となっている。
【0029】
一方、PCa仕口20は、図2に示すように、直方体状のPCaコンクリート体21を有し、PCaコンクリート体21の内部における各第1シース管16に対応する位置には、複数(図示例は4本)の第2シース管26が埋設されており、各第2シース管26には第2アンボンドPC鋼材27が挿通されている。ここで、第2アンボンドPC鋼材27はPC鋼棒である。
【0030】
第1アンボンドPC鋼材17の上端と第2アンボンドPC鋼材27の下端は、カップラー等の機械式継手35を介して相互に繋がれる。
【0031】
第2アンボンドPC鋼材27は、PCaコンクリート体21の上端21aから上方に突出しており、本緊張された状態でナット29を締め付けることにより、第2定着プレート28がPCaコンクリート体21の上端21aに定着され、第2アンボンドPC鋼材27の本緊張状態が保持される。より詳細には、本緊張により、第1アンボンドPC鋼材17と第2アンボンドPC鋼材27の双方が同時に本緊張される。
【0032】
第2シース管26にもグラウトは充填されておらず、従って、第2アンボンドPC鋼材27は、文字通り第2シース管26の内部においてアンボンド状態となっている。
【0033】
図1及び図2に示すように、PCa仕口20は、直方体状のPCaコンクリート体21の内部には、相互に交差したH形鋼により形成される鉄骨梁22A,22Bが埋設されており、各鉄骨梁22A,22BはPCaコンクリート体21の4つの側面から側方に張り出して四つのブラケットを形成している。ここで、図示例は、連続する1本の鉄骨梁22Aに対して2本の鉄骨梁22Bが溶接接合されており、十字状の鉄骨梁22の交点が平面視においてPCaコンクリート体21の中央に配設されているが、十字状の鉄骨梁22の交点がPCaコンクリート体21の中央からずれた位置に偏位している形態であってもよい。さらに、4つの側面のうちの1つ乃至3つの側面から鉄骨梁22が張り出す形態であってもよい。
【0034】
PCaコンクリート体21の側面のうち、側方に張り出すブラケット22と干渉しない領域には、鋼製の囲み板23が配設され、囲み板23とブラケット22の境界が溶接接合されている。この囲み板23は、鉛直スティフナーとして機能する。
【0035】
この構成により、PCa仕口20のPCaコンクリート体21の全側面は、側方に張り出すブラケット22と囲み板23とによって完全に包囲される。この囲み板23により、PCa仕口20のせん断耐力を高めることができる。さらに、製作工場では、図1に示す状態から囲み板23の内部にコンクリートを充填してPCaコンクリート体21を製作することから、囲み板23はPCaコンクリート体21製作時の型枠を兼用する。
【0036】
PCa仕口20の4つの側面を包囲する囲み板23の上下には、PCa仕口20の周方向に延びる無端状(図示例は矩形枠状)で鋼製のバンドプレート24が配設され、各ブラケット22の上下のフランジに溶接接合やボルト接合等されている。
【0037】
また、バンドプレート24の内側には、リブプレート25が溶接接合されており、リブプレート25がPCaコンクリート体21の内部に埋設されることにより、PCaコンクリート体21に対するバンドプレート24の強固な接続が図られている。
【0038】
PCaコンクリート体21の周囲にある囲み板23が上下のバンドプレート24にて外側から巻き付けられることにより、鉄骨梁60からPCa仕口20とPCa柱10への応力伝達性能を高めることができる。
【0039】
PCa柱10とPCa仕口20の間には、第1目地41が形成され、第1定着プレート18は第1目地41に埋設されている。
【0040】
ここで、図1及び図2に示すPCa仕口20は、囲み板タイプのPCa仕口と称することができる。
【0041】
図3に示すPCa仕口20Aは、囲み板23を廃し、縦方向に延設する複数の仕口内組立筋31を囲繞する複数の帯筋32を備えている点でPCa仕口20と相違する。各帯筋32は、PCa仕口20Aの周方向に亘り延設している。
【0042】
また、ブラケット22の端部には鉛直スティフナー33が溶接接合されており、囲み板23と同様にPCa仕口20Aのせん断耐力が高められている。
【0043】
図3に示すPCa仕口20Aは、横補強筋タイプのPCa仕口と称することができる。
【0044】
ここで、図示を省略するが、図3に示すようにPCa仕口20Aの周方向に亘り延設している帯筋32に代えて、PCa仕口の各隅角部にある複数の仕口内組立筋を複数のU字型補強筋で外側から拘束する形態が適用されてもよい。このU字型補強筋は複数の仕口内組立筋の外側から差し込まれることから、差し筋タイプのPCa仕口と称することができる。
【0045】
PCa接合体50によれば、PCa柱10の第1シース管16とPCa仕口20の第2シース管26にそれぞれ挿通されている1アンボンドPC鋼材17と第2アンボンドPC鋼材27が、機械式継手35を介して繋がれ、双方のアンボンドPC鋼材17,27が本緊張されていることにより、シース管16,26にグラウトを充填することに依拠する工期の長期化を解消することができる。
【0046】
また、以下で詳説するように、PCa柱10を建て込んだ後、第1アンボンドPC鋼材17は仮緊張されるようになっており、この第1アンボンドPC鋼材17の仮緊張により、PCa柱10を控え部材なく自立させることができる。そして、自立しているPCa柱10に対してPCa仕口20を設置し、第1アンボンドPC鋼材17と第2アンボンドPC鋼材27を機械式継手35を介して繋いだ後、第1アンボンドPC鋼材17と第2アンボンドPC鋼材27が本緊張される。
【0047】
この施工により、PCa柱10の立設姿勢を保持するための従来の措置、すなわち、PCa柱の側面に控え部材を取り付け、控え部材の一端をスラブに設置した治具に固定する措置により発生するダメ処理を不要にできる。
【0048】
図4に示すように、各階ごとに、複数のPCa接合体50が併設され、各PCa接合体50のブラケット22が鉄骨梁60とスプライスプレート65及び不図示のハイテンションボルトを介して接続されることにより、各階の架構が形成される。そして、各階の架構が上下に積層されることにより、所定階のハイブリッド架構体100が形成される。ここで、図4には、例えば1階と2階を構成するハイブリッド架構体100の一部を示しているが、数十階に亘り積層されることにより、高層建築物や超高層建築物を構成するハイブリッド架構体となる。
【0049】
ハイブリッド架構体100によれば、RC造とS造のそれぞれの利点を活かした、大スパンの建築物や高層建築物を実現できる。また、PCa仕口20の周囲にバンドプレート24が配設されていることにより、可及的にシンプルな補強構造にて高い耐震性能を実現できる。
【0050】
[実施形態に係るPCa接合体の施工方法]
次に、図5乃至図9を参照して、実施形態に係るPCa接合体の施工方法の一例について説明する。ここで、図5乃至図9はこの順に、実施形態に係るPCa接合体の施工方法の一例の工程図である。尚、以下の説明では、下階と上階の関係にある2層に亘るPCa接合体50の施工方法を説明するが、この下階や上階は、例えばn階建ての建築物における1階からn階までの全ての階層における上下関係にある2つの階に適用できるものである。
【0051】
PCa接合体の施工方法では、まず、図5に示すように、下階のPCa柱10を不図示のスラブ上に建て込む。
【0052】
PCa柱10は、PCaコンクリート体11の内部に、鉛直方向に延設する複数の組立筋11bと、各組立筋11bの外周を包囲する複数の矩形枠状の帯筋11cを備えており、さらに、上記する複数の第1シース管16を備え、各第1シース管16の内部に第1アンボンドPC鋼材が挿通されている。
【0053】
図示例のPCa柱10が1階のPCa柱10である場合は、不図示の基礎スラブにPC鋼棒を埋設しておき、その一部を基礎スラブの上方に突出させておく。PCa柱10の建て込みに際しては、基礎スラブ上に突出すPC鋼棒の上端と第1アンボンドPC鋼材17の下端を機械式継手を介して繋いだ後に、PCa柱10の建て込みを行う。一方、PCa柱10が2階以上の階層のPCa柱である場合は、不図示の下階のPCa仕口の上方に突出する第2アンボンドPC鋼材の上端と第1アンボンドPC鋼材17の下端を機械式継手を介して繋いだ後に、PCa柱10の建て込みを行う。
【0054】
PCa柱10を建て込んだ後、各第1アンボンドPC鋼材17を仮緊張し、PCa柱10の上方の第1目地空間42に配設した第1定着プレート18にて第1アンボンドPC鋼材17を定着することにより、PCa柱10を自立させる(以上、A工程)。
【0055】
次に、図6に示すように、PCa仕口20を不図示のクレーンで吊りながら自立しているPCa柱10の上方に移載し、PCa仕口20の第2シース管26にある第2アンボンドPC鋼材27を下方へ落とし込み、対応する第1アンボンドPC鋼材17の上端と第2アンボンドPC鋼材27の下端を機械式継手35を介して繋ぐ。
【0056】
ここで、第2シース管26の下方は、管径が拡大している拡幅シース管26Aとなっており、この拡幅シース管26Aの内部に機械式継手35が収容されるようになっている。
【0057】
また、第1定着プレート18の上面には、上方に突出する第1アンボンドPC鋼材17を囲繞する養生部材37を設置し、上下の第2シース管26や第1シース管16に対して、後工程において第1目地空間42に打設される目地材が入り込まないように養生を行う。ここで、養生部材37には、例えばジャバラジョイントが適用される。
【0058】
次に、図7に示すように、PCa柱10の上方に第1目地空間42を確保した状態でPCa仕口20を架設し、第1目地空間42に対して目地材を打設して第1目地41を施工する。ここで、目地材には、モルタル等のグラウトが適用される。
【0059】
第1目地41を施工した後、第2アンボンドPC鋼材27を緊張することにより、相互に連続する第1アンボンドPC鋼材17と第2アンボンドPC鋼材27を本緊張する。
【0060】
この本緊張により、PCa柱10とPCa仕口20が接合され、PCa接合体50が施工される(以上、B工程)。
【0061】
PCa接合体の施工方法では、上記A工程とB工程を繰り返して、2以上の階層に対応するPCa接合体50を施工する。具体的には、上階のPCa柱10を不図示のクレーンで吊りながら施工済みのPCa接合体50の上方に移載し、PCa柱10の第1シース管16にある第1アンボンドPC鋼材17を下方へ落とし込み、対応する第2アンボンドPC鋼材27の上端と第1アンボンドPC鋼材17の下端を機械式継手35を介して繋ぐ。
【0062】
ここで、第1シース管16の下方は、管径が拡大している拡幅シース管16Aとなっており、この拡幅シース管16Aの内部に機械式継手35が収容されるようになっている。
【0063】
また、第2定着プレート28の上面には、上方に突出する第2アンボンドPC鋼材27を囲繞する養生部材37を設置し、上下の第1シース管16や第2シース管26に対して、後工程において第2目地空間44に打設される目地材が入り込まないように養生を行う。
【0064】
次に、図9に示すように、PCa仕口20の上方に第2目地空間44を確保した状態でPCa柱10を架設し、第2目地空間44に対して目地材を打設して第2目地43を施工する。その後、図6及び図7と同様の施工を行うことにより、上階のPCa接合体50を施工する。
【0065】
図示するPCa接合体の施工方法によれば、B工程において、PCa柱10の第1シース管16とPCa仕口20の第2シース管26にそれぞれ挿通されている1アンボンドPC鋼材17と第2アンボンドPC鋼材27を機械式継手35を介して繋ぎ、双方のアンボンドPC鋼材17,27を本緊張することにより、シース管16,26にグラウトを充填することに依拠する工期の長期化を解消することができる。
【0066】
また、A工程において、PCa柱10の備える第1アンボンドPC鋼材17を仮緊張して自立させることにより、PCa柱10の立設姿勢を保持するための従来の措置を適用する際に発生するダメ処理を不要にできる。
【0067】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0068】
10:PCa柱(PCaPC柱)
11:PCaコンクリート体
11a:上端
11b:組立筋
11c:帯筋
16:第1シース管
16A:拡幅シース管
17:第1アンボンドPC鋼材(アンボンドPC鋼材)
18:第1定着プレート
19:ナット
20,20A:PCa仕口(PCaPC仕口)
21:PCaコンクリート体
21a:上端
22,22A、22B:鉄骨梁(ブラケット)
23:囲み板
24:バンドプレート
25:リブプレート
26:第2シース管
26A:拡幅シース管
27:第2アンボンドPC鋼材(アンボンドPC鋼材)
28:第2定着プレート
29:ナット
31:仕口内組立筋
32:帯筋
33:鉛直スティフナー
35:機械式継手
37:養生部材(ジャバラジョイント)
41:第1目地
42:第1目地空間
43:第2目地
44:第2目地空間
50:PCa接合体(PCaPC接合体)
60:鉄骨梁
65:スプライスプレート
100:ハイブリッド架構体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9