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特開2023-81482山留壁用の芯材と、山留壁及びその施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081482
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】山留壁用の芯材と、山留壁及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/20 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
E02D5/20 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195227
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岸 俊甫
(72)【発明者】
【氏名】土佐内 優介
(72)【発明者】
【氏名】山黒 寛矢
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 伸也
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 央次
(72)【発明者】
【氏名】小山 健一
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049EA02
2D049GB05
2D049GC11
2D049GD03
2D049GD08
2D049GE03
2D049GE06
(57)【要約】
【課題】貫入抵抗の大きなソイルセメントの内部にスムーズかつ高精度に建て込むことのできる山留壁用の芯材と、この山留壁用の芯材を備えた山留壁とその施工方法を提供すること。
【解決手段】山留壁であるソイルセメント柱列式連続壁60を施工する際に適用される、山留壁用の芯材40であり、芯材10は、その長手方向に延設する吸引管30を備えており、芯材10のソイルセメント50への挿入の際に、吸引管30を介して挿入方向前方にあるソイルセメント50を吸引する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留壁であるソイルセメント柱列式連続壁を施工する際に適用される、山留壁用の芯材であって、
前記芯材は、その長手方向に延設する吸引管を備えており、
前記芯材のソイルセメントへの挿入の際に、前記吸引管を介して挿入方向前方にある前記ソイルセメントを吸引することを特徴とする、山留壁用の芯材。
【請求項2】
前記芯材におけるソイルセメントへの挿入方向の端部が、先端に向かって先細に形成されており、
前記端部にカバープレートが取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の山留壁用の芯材。
【請求項3】
前記芯材が、ウェブと二つのフランジを備えたH形鋼により形成され、
前記フランジが、先端に向かって先細に形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の山留壁用の芯材。
【請求項4】
前記ウェブには、せん断抵抗手段であるスタッドジベルが取り付けられており、
前記スタッドジベルが、前記カバープレートよりも側方に張り出していないことを特徴とする、請求項2、又は請求項2に従属する請求項3に記載の山留壁用の芯材。
【請求項5】
前記ウェブには、せん断抵抗手段である貫通孔が設けられていることを特徴とする、請求項2、又は請求項2に従属する請求項3に記載の山留壁用の芯材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の山留壁用の芯材が、前記ソイルセメントの内部に埋設されていることを特徴とする、山留壁。
【請求項7】
山留壁であるソイルセメント柱列式連続壁を施工する、山留壁の施工方法であって、
地盤を削孔しながらソイルセメントを造成し、前記ソイルセメントが硬化する前に、前記ソイルセメントの内部に芯材を挿入する工程を有し、
前記芯材は、その長手方向に延設する吸引管を備えており、
前記芯材の前記ソイルセメントへの挿入の際に、前記吸引管を介して挿入方向前方にある前記ソイルセメントを吸引して地上に仮排出し、
前記芯材の建込みが完了した後、地上に仮排出した前記ソイルセメントを、前記吸引管を介して前記山留壁の内部に戻しながら、前記吸引管の引き抜きを行うことを特徴とする、山留壁の施工方法。
【請求項8】
前記芯材は、前記ソイルセメントへの挿入方向の端部が、先端に向かって先細に形成され、前記端部にカバープレートが取り付けられていることを特徴とする、請求項7に記載の山留壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留壁用の芯材と、山留壁及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山留め壁には、親杭横矢板壁や鋼製矢板壁等の既製矢板壁と、柱列山留め壁や連続地中壁等の場所打ち壁とがあり、柱列山留め壁には、場所打ち鉄筋コンクリート柱列山留め壁や鋼管柱列山留め壁、ソイルセメント柱列山留め壁(ソイルセメント柱列式連続壁)等がある。
【0003】
例えば上記するソイルセメント柱列式連続壁は仮設構造物である一方、本設構造物である建物の備える地下部の側壁と連結されることにより、ソイルセメント柱列式連続壁を本設構造物である建築物の基礎の一部として利用する形態も存在する。
【0004】
ソイルセメント柱列式連続壁は、円柱状のソイルセメントが相互にラップされるようにして造成され、各ソイルセメントの内部には、H形鋼等により形成される芯材が埋設されている。そして、このソイルセメント柱列式連続壁と本設構造物を連結する形態としては、ソイルセメントのうち、上部の本設構造物側の領域を撤去して芯材の一部を露出させ、芯材の露出部に複数のスタッドジベル等を溶接等することで側方に張り出させ、各スタッドジベル等が埋設されるようにして本設構造物の地下部の側壁を地盤内に構築し、双方の一体化が図られている形態が挙げられる。
【0005】
上記するソイルセメント柱列式連続壁の施工において、地盤に造成されたソイルセメントに対して芯材を挿入して建て込むに当たり、芯材には粘性のあるソイルセメントから大きな貫入抵抗が作用することにより、芯材を精度よく建て込むことが困難であるといった課題がある。従って、ソイルセメントに対して、芯材をスムーズかつ高精度に建て込むことのできる芯材や山留壁の施工方法が望まれる。
【0006】
ここで、特許文献1には、H形鋼からなる山留壁用の芯材に関し、その先端部の少なくとも一方のフランジの側は、フランジが無く、先端部がウェブのみで構成され、フランジが無い先端部のウェブの側部端面は、先方に向かって内方に傾斜し、先端部のウェブが先細りとなるようにウェブ幅が狭められている、山留壁用の芯材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-11695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載される山留壁用の芯材によれば、芯材の先端部のウェブが先細りとなるようにウェブ幅が狭められている構成により、芯材の先端部が溝壁面に接したとしても食い込んだりすることがなく、溝壁面に沿って入っていくことができ、挿入困難になることがないとしている。しかしながら、貫入抵抗となるソイルセメントが存在することに変わりないことから、ウェブを先細りさせただけでは、芯材をスムーズかつ高精度に建て込むことができるかは定かでない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、貫入抵抗の大きなソイルセメントの内部にスムーズかつ高精度に建て込むことのできる山留壁用の芯材と、この山留壁用の芯材を備えた山留壁とその施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による山留壁用の芯材の一態様は、
山留壁であるソイルセメント柱列式連続壁を施工する際に適用される、山留壁用の芯材であって、
前記芯材は、その長手方向に延設する吸引管を備えており、
前記芯材のソイルセメントへの挿入の際に、前記吸引管を介して挿入方向前方にある前記ソイルセメントを吸引することを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、ソイルセメント柱列式連続壁を施工する際に適用される山留壁用の芯材に関し、芯材がその長手方向に延設する吸引管を備え、芯材のソイルセメントへの挿入の際に吸引管を介して挿入方向前方にあるソイルセメントを吸引することにより、貫入抵抗となるソイルセメントが芯材の挿入方向前方から回収されることで芯材に作用する貫入抵抗が大幅に低減され、芯材のスムーズかつ高精度な建て込みを実現できる。例えば、吸引管に連通するバキューム装置を地上に装備しておき、芯材の挿入の際に、駆動するバキュームポンプ等によって芯材の挿入方向前方に存在するソイルセメントが吸引される。
【0012】
ここで、貫入抵抗の低減効果を高めるべく、複数の吸引管を芯材に取り付けておいてもよく、例えば、芯材を形成するH形鋼のウェブとフランジの四つの境界領域のうちの複数箇所に吸引管を設置することができる。また、その他、吸引性能が段階的にアップできるバキュームポンプを適用し、例えば芯材の挿入深度等に応じて貫入抵抗が変化する場合に、貫入抵抗の変化に応じてバキュームポンプの吸引性能を自動調整してもよい。
【0013】
また、本発明による山留壁用の芯材の他の態様は、
前記芯材におけるソイルセメントへの挿入方向の端部が、先端に向かって先細に形成されており、
前記端部にカバープレートが取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、芯材におけるソイルセメントへの挿入方向の端部が先端に向かって先細に形成され、この端部にカバープレートが取り付けられていることにより、先細形状に沿ったカバープレートにてソイルセメントを斜め後方(挿入方向と反対側)へ流し易くすることができ、より一層スムーズな芯材の建て込みを実現できる。
【0015】
すなわち、特許文献1に記載の芯材のように、芯材の先端部のウェブが先細りしているのみの構成では、先細りしていないフランジの先端部がソイルセメントから貫入抵抗を受ける部位となり得るが、本態様のように芯材の端部の全域に先細形状(例えば側面視V字状もしくは略V字状)のカバープレートが取り付けられていることにより、挿入方向前方のソイルセメントをカバープレートに沿って斜め後方へ流すことで、作用し得る貫入抵抗を効果的に低減できる。
【0016】
また、本発明による山留壁用の芯材の他の態様において、
前記芯材が、ウェブと二つのフランジを備えたH形鋼により形成され、
前記フランジが、先端に向かって先細に形成されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、二つのフランジが先端に向かって先細に形成されていることにより、二つのフランジの先端とウェブの先端にてカバープレートを安定的に支持することができる。例えば、特許文献1に記載のように先端が先細のウェブに対してカバープレートを取り付ける場合、カバープレートが中央の一枚のウェブのみで支持されることから安定性に欠けることになり、カバープレートを安定的に支持するために別途の補強リブ等が必要になる。
【0018】
また、本発明による山留壁用の芯材の他の態様において、
前記ウェブには、せん断抵抗手段であるスタッドジベルが取り付けられており、
前記スタッドジベルが、前記カバープレートよりも側方に張り出していないことを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、ウェブにせん断抵抗手段であるスタッドジベルが取り付けられている形態において、スタッドジベルがカバープレートよりも側方に張り出していないことにより、ソイルセメントからスタッドジベルに対して貫入抵抗が作用することを抑制できる。
【0020】
ソイルセメント柱列式連続壁が本設構造物である建物の備える地下部の側壁と連結され、ソイルセメント柱列式連続壁が本設構造物である建築物の基礎の一部として利用される形態においては、建物の自重等に起因する鉛直荷重を、ソイルセメント柱列式連続壁を介して地盤に伝達することができる。この際、芯材に伝達された鉛直荷重は、スタッドジベルを介して周囲のソイルセメントに効果的に伝達され、ソイルセメントを介して鉛直荷重が地盤に伝達されるスムーズな荷重伝達機構を形成することができる。
【0021】
また、本発明による山留壁用の芯材の他の態様において、
前記ウェブには、せん断抵抗手段である貫通孔が設けられていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、ウェブにせん断抵抗手段である貫通孔が設けられていることにより、貫通孔にソイルセメントが入り込むことによって、ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構が形成される。また、この形態において、貫通孔に鉄筋を貫通させてもよく、この場合は鉄筋による抵抗力がさらに付加されることになる。
【0023】
また、本発明による山留壁の一態様は、
前記山留壁用の芯材が、前記ソイルセメントの内部に埋設されていることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、本発明の山留壁用の芯材をソイルセメントの内部に備えていることにより、芯材が高い建て込み精度で立設していることから初期強度を発揮できる高品質な山留壁となる。
【0025】
また、本発明による山留壁の施工方法の一態様は、
山留壁であるソイルセメント柱列式連続壁を施工する、山留壁の施工方法であって、
地盤を削孔しながらソイルセメントを造成し、前記ソイルセメントが硬化する前に、前記ソイルセメントの内部に芯材を挿入する工程を有し、
前記芯材は、その長手方向に延設する吸引管を備えており、
前記芯材の前記ソイルセメントへの挿入の際に、前記吸引管を介して挿入方向前方にある前記ソイルセメントを吸引して地上に仮排出し、
前記芯材の建込みが完了した後、地上に仮排出した前記ソイルセメントを、前記吸引管を介して前記山留壁の内部に戻しながら、前記吸引管の引き抜きを行うことを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、ソイルセメントの内部に芯材を挿入する工程において、芯材のソイルセメントへの挿入の際に吸引管を介して挿入方向前方にあるソイルセメントを吸引して地上に仮排出することにより、貫入抵抗となるソイルセメントが芯材の挿入方向前方から回収されることで芯材に作用する貫入抵抗が大幅に低減され、芯材のスムーズかつ高精度な建て込みを実現できる。さらに、芯材の建込みが完了した後、地上に仮排出したソイルセメントを、吸引管を介して山留壁の内部に戻しながら吸引管の引き抜きを行うことにより、仮排出したソイルセメントを無駄なく山留壁の施工に供することができる。
【0027】
また、本発明による山留壁の施工方法の他の態様において、
前記芯材は、前記ソイルセメントへの挿入方向の端部が、先端に向かって先細に形成され、前記端部にカバープレートが取り付けられていることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、芯材におけるソイルセメントへの挿入方向の端部が先端に向かって先細に形成され、この端部にカバープレートが取り付けられていることにより、先細形状に沿ったカバープレートにてソイルセメントを斜め後方へ流し易くすることができ、より一層スムーズな芯材の建て込みを実現できる。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明の山留壁用の芯材、山留壁とその施工方法によれば、貫入抵抗の大きなソイルセメントの内部にスムーズかつ高精度に建て込むことのできる山留壁用の芯材と、この山留壁用の芯材を備えた山留壁とその施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態に係る山留壁用の芯材の一例を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る山留壁の施工方法の一例の工程図である。
図3図2に続いて、実施形態に係る山留壁の施工方法の一例の工程図である。
図4図3に続いて、実施形態に係る山留壁の施工方法の一例の工程図である。
図5図4に続いて、実施形態に係る山留壁の施工方法の一例の工程図であって、かつ、実施形態に係る山留壁の一例を示す縦断面図である。
図6】山留壁が建築物の基礎の一部として利用される例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態に係る山留壁用の芯材と、山留壁及びその施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0032】
[実施形態に係る山留壁用の芯材]
はじめに、図1を参照して、実施形態に係る山留壁用の芯材の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る山留壁用の芯材の一例を示す斜視図である。
【0033】
山留壁用の芯材40は、H形鋼により形成される芯材10(芯材本体)と、芯材10の挿入方向の端部15に取り付けられているカバープレート20と、芯材10の長手方向に延設する吸引管30とを有する。
【0034】
芯材10は、ウェブ11と二つのフランジ12を有し、各フランジ12の端部12aは、挿入方向に向かってテーパー状(正面視略V字状)に先細に形成されている。
【0035】
図示例の芯材10は、ウェブ11に複数(図示例は、ウェブ11の片面に二つで両面に計四つ)のスタッドジベル18が溶接接合されている。ここで、スタッドジベル18は、カバープレート20よりも側方に張り出していない。このことにより、ソイルセメントからスタッドジベル18に対して貫入抵抗が作用することを抑制できる。尚、後述するように、このスタッドジベル18は、建物に接続された山留壁において、当該建物の自重である鉛直荷重を芯材10からソイルセメントに伝達するせん断抵抗手段の一例である。
【0036】
カバープレート20は、二つのフランジ12の端部12aの先細ライン(略V字状ライン)に沿うように鋼板が曲げ加工等された部材であり、二つのフランジ12の端部12aとウェブ11の端部11aに対して溶接接合されている。
【0037】
吸引管30は、芯材10のウェブ11と一方のフランジ12の境界領域に固定されており、図示例は二つの吸引管30が芯材10に固定されている。ここで、吸引管30は、一つでもよいし、三つ以上であってもよい。
【0038】
芯材10には、その長手方向に間隔を置いて複数の湾曲した被係合片17が取り付けられている。
【0039】
一方、吸引管30には、その長手方向に間隔を置いて複数のバネ等からなる付勢部材36が取り付けられており、各付勢部材36には湾曲した係合フック35が取り付けられている。付勢部材36は、係合フック35の先端が吸引管30に当接する方向であるZ方向に吸引管30を常時付勢している。
【0040】
芯材10に対して吸引管30を取り付ける際は、芯材10の各被係合片17に吸引管30を挿通させ、各被係合片17の下方位置に対応する係合フック35を位置合わせした後、吸引管30を上方へ若干引き込むことにより、付勢部材36にてZ方向に付勢されている係合フック35が被係合片17にて持ち上げられた後に被係合片17に係合される。
【0041】
尚、最終的に吸引管30を芯材10から取り外す際は、吸引管30を挿入方向前方に僅かに押し込むことで、係合フック35が被係合片17にて持ち上げられて双方の係合状態が解除された後、吸引管30を上方に引き上げることで、吸引管30が各被係合片17を通過して芯材10から取り外されることになる。
【0042】
カバープレート20には、吸引管30の端部が取り外し可能に設置される吸引口20aが開設されており、山留壁用の芯材40をソイルセメント内に挿入するに当たり、吸引口20aに吸引管30の端部を設置しておく。
【0043】
吸引管30は、地上にあるバキュームポンプ71(図2参照)に連通しており、山留壁用の芯材40をソイルセメント内にX1方向に挿入して建て込む際に、バキュームポンプ71を駆動することで、挿入方向前方にあるソイルセメントが吸引口20aへX2方向に吸引され、吸引管30をX3方向に流通したソイルセメントは地上に仮排出される。ここで、「仮排出」とは、一時的に排出して所定の場所に溜め置いた後、最後には元のソイルセメント内に戻すことを意味する。
【0044】
山留壁用の芯材40によれば、芯材10に対してその長手方向に延設する吸引管30が取り付けられていることから、芯材10のソイルセメントへの挿入の際に吸引管30を介して挿入方向前方にあるソイルセメントを吸引することにより、貫入抵抗となるソイルセメントが芯材10の挿入方向前方から回収される。このことにより、芯材10に作用する貫入抵抗が大幅に低減され、芯材10のスムーズかつ高精度な建て込みを実現できる。
【0045】
さらに、芯材10におけるソイルセメントへの挿入方向の端部15が先端に向かって先細に形成され、この端部15にカバープレート20が取り付けられていることにより、先細形状に沿った面状のカバープレート20にてソイルセメントを斜め後方であるY1方向へ流し易くすることができ、より一層スムーズな芯材10の挿入を実現できる。
【0046】
また、芯材10の二つのフランジ12が先端に向かって先細に形成されていることにより、二つのフランジ12の端部12aとウェブ11の端部11aにてカバープレート20を安定的に支持することができる。
【0047】
ここで、図示を省略するが、吸引管30による挿入方向前方のソイルセメントの吸引のみでスムーズな芯材10の建て込みが可能である場合は、芯材10のフランジの先端を先細にしなくてもよいし、さらにはカバープレート20を設置しなくてもよい。
【0048】
[実施形態に係る山留壁の施工方法及び山留壁]
次に、図2乃至図5を参照して、実施形態に係る山留壁の施工方法と山留壁の一例について説明する。ここで、図2乃至図5は順に、実施形態に係る山留壁の施工方法の一例の工程図であり、図5はさらに、実施形態に係る山留壁の一例を示す縦断面図である。
【0049】
図2に示すように、地盤Gに対して、ソイルセメント柱列式連続壁(山留壁の一例)のための削孔を行い、削孔内にソイルセメント50を造成する。
【0050】
ソイルセメント50は、地盤Gを掘削することにより発生する土砂と、多軸混練オーガー機等(図示せず)の先端から吐出されるセメントミルクを混合撹拌することにより造成される。
【0051】
地上には、バキュームポンプ71を設置し、山留壁用の芯材40を構成する吸引管30を送り出し管74を介してバキュームポンプ71に連通させる。
【0052】
バキュームポンプ71を、別途の送り出し管75を介して仮溜め槽72に連通させ、吸引管30からX3方向に流通し、送り出し管74をX4方向に流通してバキュームポンプ71に吸引されたソイルセメント51を、送り出し管75を介してX5方向に流通させ、仮溜め槽72に仮排出できるように構成する。
【0053】
仮溜め槽72には吐出ポンプ73を収容しておき、吐出ポンプ73にはさらに別途の送り出し管76を取り付ける。
【0054】
図2に戻り、地盤Gに造成されているソイルセメント50の内部に、ソイルセメント50が硬化する前に芯材10を挿入する。
【0055】
ソイルセメント50内へ山留壁用の芯材40を挿入する際には、バキュームポンプ71を駆動し、芯材10の挿入方向前方のソイルセメント50をX2方向に吸引することにより、芯材10の前方にソイルセメント50の存在しない僅かな空隙Sを形成する。この空隙Sにより、X1方向へ挿入される芯材10に対してソイルセメント50から作用し得る貫入抵抗が抑制されることになる。ここで、バキュームポンプ71が吸引性能を段階的にアップできる形態の場合は、芯材10の挿入深度に応じて貫入抵抗が変化する際に、貫入抵抗の変化に応じてバキュームポンプ71の吸引性能を自動調整させることで、常時芯材10の前方に空隙Sを形成することが可能になる(以上、ソイルセメント50の内部に芯材10を挿入する工程)。
【0056】
図3に示すように、ソイルセメント50の内部の所定深度まで山留壁用の芯材40を挿入することにより、芯材10の建て込みが完了する。
【0057】
この芯材10の建て込みの過程で、ソイルセメント50の一定量が吸引管30を介して仮溜め槽72に仮排出されていることから、ソイルセメント50の天端面は地表から落ち込んだレベルとなる。
【0058】
次に、図4に示すように、吐出ポンプ73に接続される送り出し管76に対して別途の送り出し管77を接続し、送り出し管77を吸引管30の上端に接続する。
【0059】
そして、芯材10に設置されていた吸引管30を、既に説明した態様で芯材10から取り外し、吸引管30を地上にある不図示のウインチや人手により上方へX6方向に引き抜いていく。
【0060】
この吸引管30の引き抜きの際に吐出ポンプ73を駆動させ、仮溜め槽72に仮排出されているソイルセメント51を送り出し管76,77を介してX7方向へ送り出し、吸引管30を介してソイルセメント50へX8方向に戻す。
【0061】
このように、吸引管30の引き抜きと並行して仮排出されているソイルセメント51をソイルセメント50内に戻すことにより、図5に示すように、芯材10とソイルセメント50により形成される山留壁60が施工される。
【0062】
ソイルセメント柱列式連続壁60は、その先端が十分な先端支持力が得られる硬質地盤まで到達するように設計されてもよいし、先端が硬質地盤に到達していないものの、ソイルセメント柱列式連続壁60の周面と地盤Gとの間の周面摩擦力によって鉛直荷重を支持するように設計されてもよい。
【0063】
この施工方法によれば、ソイルセメント50の内部に芯材10を挿入する工程において、芯材10のソイルセメント50への挿入の際に吸引管30を介して挿入方向前方にあるソイルセメント50を吸引して地上に仮排出することにより、貫入抵抗となるソイルセメント50が芯材10の挿入方向前方から回収されることで芯材10に作用する貫入抵抗が大幅に低減され、芯材10のスムーズかつ高精度な建て込みを実現できる。
【0064】
さらに、芯材10の建込みが完了した後、地上に仮排出したソイルセメント51を、吸引管30を介して山留壁の内部に戻しながら吸引管30の引き抜きを行うことにより、仮排出したソイルセメント51を無駄なく山留壁60の施工に供することができる。
【0065】
次に、図6を参照して、山留壁60の適用例について説明する。ここで、図6は、山留壁が建築物の基礎の一部として利用される例を示す縦断面図である。
【0066】
図示する建築物90は、地盤G内にある建物80の備える地下部81の側壁82が、建物80の周囲に施工されているソイルセメント柱列式連続壁60に対して複数のスタッドジベル19を介して接続されることにより構成されている。例えば平面視矩形の建物80の地下部81の側壁82の周囲に、平面視矩形枠状のソイルセメント柱列式連続壁60が造成され、ソイルセメント柱列式連続壁60を構成する複数の芯材10にそれぞれ複数のスタッドジベル19が接続され、各スタッドジベル19と地下部81が接続される。
【0067】
ここで、建物80の平面視形状は多様であり、建物80の平面視形状に応じた枠状にソイルセメント柱列式連続壁60が造成される。また、地下水位の状態や、山留壁周辺における地盤改良等の有無に応じて、山留壁としては、少なくともH形鋼等の鋼材を構成要素とする親杭横矢板壁が適用されてもよい。さらに、底盤83は、鋼管杭やPHC杭、PRC杭、SC杭といった既製杭や、場所打ち杭等により支持されていてもよい。
【0068】
建物80は、RC造、S造、SRC造や、これらのハイブリッド構造の建物のいずれであってもよく、建物80には、オフィスビルやマンション、体育館やショッピングモール、各種公共建物等、様々な形態が含まれる。
【0069】
図示例のソイルセメント柱列式連続壁60は、建物80を施工する際の山留壁であることに加えて、建物80が施工された後は、建物80の地下部81に接続されることにより、建物80の基礎として機能する。
【0070】
建物80の自重等による鉛直荷重Nは、複数のスタッドジベル19を介して芯材10に伝達され、芯材10の備えるスタッドジベル18を介して周囲のソイルセメント50に伝達される。
【0071】
スタッドジベル18はせん断抵抗手段であり、スタッドジベル18に対してせん断力Qが作用することで鉛直荷重Nをソイルセメント50に伝達する。ここで、せん断抵抗手段は、図示例のスタッドジベル18の他にも、芯材10のウェブに開設されている不図示の貫通孔と、この貫通孔に入り込んでいるソイルセメントであってもよい。
【0072】
以上の軸力伝達の流れにより、建物80の自重等による鉛直荷重Nは、ソイルセメント柱列式連続壁60を介して地盤Gに伝達される。尚、地震時や強風時の押し込み荷重等も、同様に伝達される。
【0073】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0074】
10:芯材(芯材本体)
11:ウェブ
11a:端部
12:フランジ
12a:端部
15:挿入方向の端部(端部)
17:被係合片
18:スタッドジベル(せん断抵抗手段)
19:スタッドジベル
20:カバープレート
20a:吸引口
30:吸引管
35:係合フック
36:付勢部材
40:山留壁用の芯材
50:ソイルセメント
60:ソイルセメント柱列式連続壁(山留壁)
71:バキュームポンプ
72:仮溜め槽
73:吐出ポンプ
74:74,75,76,77:送り出し管
80:建物
81:地下部
82:側壁
83:底盤
90:建築物
G:地盤
S:空隙
N:鉛直荷重
Q:せん断力
図1
図2
図3
図4
図5
図6