(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008150
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】金属製品、金属製品の製造方法及び撥水液剤
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20230112BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C09K3/18 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111480
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白神 徹
【テーマコード(参考)】
4H020
4K044
【Fターム(参考)】
4H020AA03
4H020BA32
4K044AA03
4K044AB10
4K044BA21
4K044BB01
4K044BC02
4K044BC11
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】環境負荷が低く、取り扱いが容易であり、化学的耐久性、撥水性、耐熱性が高い金属製品及びその製造方法を提案する。
【解決手段】本発明の金属部品は、表面の一部又は全部に撥水被膜が形成された金属部品であって、撥水被膜が実質的にハロゲン成分を含まない樹脂であることを特徴にする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の一部又は全部に撥水被膜が形成された金属部品であって、
撥水被膜が実質的にハロゲン成分を含まない樹脂である、金属部品。
【請求項2】
樹脂がシリコーン系樹脂であり、且つシリコーン系樹脂が、メチル基及び/又はフェニル基の有機置換基を有するオルガノポリシロキサン化合物である、請求項1に記載の金属部品。
【請求項3】
オルガノポリシロキサン化合物が、更にエポキシ基、エーテル基、ポリエステル基からなる群より選択される有機置換基を有する、請求項2に記載の金属部品。
【請求項4】
撥水被膜の厚みが100~4000nmである、請求項1~3の何れかに記載の金属部品。
【請求項5】
医療用器具に用いる、請求項1~4の何れかに記載の金属部品。
【請求項6】
表面の一部又は全部に撥水被膜が形成された金属部品の製造方法において、
金属部品を準備する工程と、
金属部品の表面の一部又は全部に、実質的にハロゲン成分を含まない樹脂と有機溶剤とを含む撥水液剤を塗布する工程と、
塗布された撥水液剤を加熱処理により乾燥、熱硬化させて撥水被膜を形成する工程と、を備える、金属部品の製造方法。
【請求項7】
樹脂がシリコーン系樹脂であり、且つシリコーン系樹脂が、メチル基及び/又はフェニル基の有機置換基を有するオルガノポリシロキサン化合物である、請求項6に記載の金属部品の製造方法。
【請求項8】
撥水液剤が、更に表面張力を低下させる表面調整剤を含む、請求項6又は7に記載の金属部品の製造方法。
【請求項9】
撥水被膜の厚みが100~4000nmである、請求項6~8の何れかに記載の金属部品の製造方法。
【請求項10】
金属部品が、医療用器具に用いる金属部品である、請求項6~9の何れかに記載の金属部品の製造方法。
【請求項11】
金属部品の表面の全部又は一部に、撥水被膜を形成するための撥水液剤であって、
実質的にハロゲン成分を含まない樹脂を含む、撥水液剤。
【請求項12】
樹脂がシリコーン系樹脂であり、且つシリコーン系樹脂が、メチル基及び/又はフェニル基の有機置換基を有するオルガノポリシロキサン化合物である、請求項11に記載の撥水液剤。
【請求項13】
オルガノポリシロキサン化合物が、更にエポキシ基、エーテル基、ポリエステル基からなる群より選択される有機置換基を有する、請求項12に記載の撥水液剤。
【請求項14】
樹脂の含有量が10~60質量%である、請求項11~13の何れかに記載の撥水液剤。
【請求項15】
医療用器具の金属部品に用いる、請求項11~14の何れかに記載の撥水液剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性が良好な金属製品、金属製品の製造方法及び撥水液剤に関し、具体的にはシリコーン系樹脂を含む撥水被膜が形成されている金属製品及びその製造方法、更にシリコーン系樹脂を含む撥水液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用機器等に用いる金属製品には、薬品等が接触する機会が多く、耐水性、耐アルカリ性等の化学的耐久性が求められる。
【0003】
また、金属製品は、ジェット水流を用いた洗浄、洗剤洗浄、超音波洗浄等が行われる場合がある。更に約300℃での乾熱滅菌処理が行われることもある。そのため、金属製品は、洗浄性が良好であることに加えて、洗浄工程や乾熱滅菌処理を経ても、変質、劣化、剥離等が生じないことが重要になる。
【0004】
特許文献1には、医薬容器の表面にフッ素樹脂系撥水被膜を形成することにより、医薬容器の撥水性、耐水性、耐アルカリ性を改善する方法が提案されている。
【0005】
特許文献2には、医薬容器の表面にフッ素含有撥水被膜を形成することにより、医薬容器の撥水性を改善する方法、更に水を充填してオートクレーブ処理を行った際のSi溶出量を低減する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/179514号
【特許文献2】特開平5-132065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属製品の表面は、親水性が非常に高いため、洗浄に長時間を要していた。また、手術等に用いる医療用器具の場合では、洗浄性が低いために、使い捨てになり、医療費の増大を招いていた。
【0008】
この問題を解消するために、金属製品の表面に撥水被膜を形成することが有効であるが、上記の撥水被膜は、フッ素成分等のハロゲン成分を含むため、環境負荷や取り扱いの点で問題がある。
【0009】
また、金属製品は、約200~300℃の高温で洗浄される場合があるが、上記の撥水被膜は、耐熱性が低いため、高温で変質、劣化、剥離等が生じ易い。
【0010】
そこで、本発明の目的は、環境負荷が低く、取り扱いが容易であり、化学的耐久性、撥水性、耐熱性が高い金属製品及びその製造方法を提案することである。また撥水性が高い撥水被膜を得るための撥水液剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、種々の実験を行い、金属製品の表面にハロゲン成分を含まない樹脂を含む撥水被膜を形成することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の金属部品は、表面の一部又は全部に撥水被膜が形成された金属部品であって、撥水被膜が実質的にハロゲン成分を含まない樹脂であることを特徴にする。ここで、「撥水被膜が実質的にハロゲン成分を含まない」とは、撥水被膜中のハロゲン成分の含有量が0.8質量%未満であることを意味する。
【0012】
また、本発明の金属部品では、樹脂がシリコーン系樹脂であり、且つシリコーン系樹脂が、メチル基及び/又はフェニル基の有機置換基を有するオルガノポリシロキサン化合物であることが好ましい。撥水液剤中に上記シリコーン系樹脂を導入すると、幅広いpHの洗剤で金属製品を洗浄した場合でも、良好な撥水性を維持し得ると共に、撥水被膜の劣化、剥離等を抑制することができる。
【0013】
また、本発明の金属部品では、オルガノポリシロキサン化合物が、更にエポキシ基、エーテル基、ポリエステル基からなる群より選択される有機置換基を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の金属部品では、撥水被膜の厚みが100~4000nmであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の金属部品は、医療用器具に用いることが好ましい。
【0016】
本発明の金属部品の製造方法は、表面の一部又は全部に撥水被膜が形成された金属部品の製造方法において、金属部品を準備する工程と、金属部品の表面の一部又は全部に、実質的にハロゲン成分を含まない樹脂と有機溶剤とを含む撥水液剤を塗布する工程と、塗布された撥水液剤を加熱処理により乾燥、熱硬化させて撥水被膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の金属部品の製造方法は、樹脂がシリコーン系樹脂であり、且つシリコーン系樹脂が、メチル基及び/又はフェニル基の有機置換基を有するオルガノポリシロキサン化合物であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の金属部品の製造方法は、撥水液剤が、更に表面張力を低下させる表面調整剤を含むことが好ましい。
【0019】
また、本発明の金属部品の製造方法は、撥水被膜の厚みが100~4000nmであることが好ましい。これにより、ピンホール等の欠陥が生じ難くなると共に、熱硬化後に生じる応力が低減されるため、撥水被膜の劣化、剥離等を抑制することができる。
【0020】
また、本発明の金属部品の製造方法は、金属部品が、医療用器具に用いる金属部品であることが好ましい。
【0021】
本発明の撥水液剤は、金属部品の表面の全部又は一部に、撥水被膜を形成するための撥水液剤であって、実質的にハロゲン成分を含まない樹脂を含むことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の撥水液剤は、樹脂がシリコーン系樹脂であり、且つシリコーン系樹脂が、メチル基及び/又はフェニル基の有機置換基を有するオルガノポリシロキサン化合物であることが好ましい。
【0023】
また、本発明の撥水液剤は、オルガノポリシロキサン化合物が、更にエポキシ基、エーテル基、ポリエステル基からなる群より選択される有機置換基を有することが好ましい。
【0024】
また、本発明の撥水液剤は、樹脂の含有量が10~60質量%であることが好ましい。これにより、撥水液剤の粘性を調整し易くなり、撥水被膜の厚みを均一化し易くなる。
【0025】
また、本発明の撥水液剤は、医療用器具の金属部品に用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、環境負荷が低く、取り扱いが容易であり、化学的耐久性、撥水性、耐熱性が高い金属製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、金属製品及びその製造方法の好適な実施形態を説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
[撥水液剤]
撥水被膜を形成するための撥水液剤は、実質的にハロゲン成分を含まない樹脂を有する。樹脂としては、例えば、アルキルエチレン尿素系樹脂、アルキルケテンダイマー系樹脂、シリコーン系樹脂、ピリジニウム塩系樹脂が挙げられるが、その中でも、シリコーン系樹脂は、撥水性と耐熱性が良好であるため好ましい。
【0029】
シリコーン系樹脂は、オルガノポリシロキサン化合物を含み、その分子内にメチル基、フェニル基、エポキシ基、エーテル基、ポリエステル基からなる群より選択される一種又は二種以上の有機置換基を有することが好ましく、特にメチル基及び/又はフェニル基の有機置換基を有することが好ましい。上記有機置換基を有するオルガノポリシロキサン化合物を導入すると、撥水被膜が幅広いpHの洗剤と高温で長期間接触した状態でも、良好な撥水性を維持し得ると共に、撥水被膜の劣化、剥離等を抑制することができる。また耐熱性が高く、硬度も高い撥水被膜を得ることができる。
【0030】
オルガノポリシロキサン化合物は、少なくとも1つのシロキサン構造を含む。シロキサン構造は、下記に示す構造であり、単鎖、鎖状およびかご状構造からなる複合構造でもよく、側鎖Rは水素原子又は炭化水素基を示している。有機側鎖(R≠H)を持つオリゴマー及びポリマーシロキサンユニットからなる重合シロキサンは、ポリシロキサン(SiOR1R2)n(n≧1)として表記され、R1及びR2はメチル基、フェニル基、エポキシ基、エーテル基及びポリエステル基からなる群より選択される一種又は二種以上の有機置換基を有する。
【0031】
【0032】
ポリシロキサンの代表的な例を以下に示す。
メチルポリシロキサン:(SiO(CH
4))
n(n≧1)
フェニルポリシロキサン:(SiO(C
6H
6))
n(n≧1)
ジメチルポリシロキサン:(SiO(CH
3)
2)
n(n≧1)
【化3】
【化4】
【化5】
【0033】
撥水液剤中の樹脂、好ましくはシリコーン系樹脂、特にオルガノポリシロキサン化合物の含有量は、質量%で、1%以上、5%以上、10%以上、特に15%以上が好ましく、60%以下、50%以下、45%以下、特に40%以下が好ましい。樹脂の含有量が多過ぎると、撥水液剤の粘性が高くなって、均質な肉厚で金属製品の表面に塗布することが困難になり、結果として、乾燥や熱硬化の際に、撥水被膜内の残留応力によって、亀裂や剥離が生じ易くなる。
【0034】
撥水液剤に含まれるオルガノポリシロキサン化合物は、ジメチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサンおよびメチルポリシロキサンを含むことが好ましい。これらを含むと、撥水性を高めることができるとともに、温度に対する安定性を高めることができる。モル比率をジメチルポリシロキサン:フェニルポリシロキサン:メチルポリシロキサン=A:B:Cとした場合、A 0.1~4.0、B 0.1~4.0、C 0.1~4.0、好ましくはA 0.3~3.0、B 0.4~2.5、C 0.4~2.5、より好ましくはA 0.6~2.0、B 0.7~1.5、C 0.7~1.5である。両者の質量比率が上記範囲外になると、撥水性を十分に高めることが困難になるとともに、耐熱性を損なうことになる。
【0035】
撥水液剤は、有機溶媒と均一に混合された状態で、金属製品の表面に塗布されることが好ましい。有機溶媒は、特に限定されないが、例えばブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソプロピルアセテート等である。これらの有機溶媒は、複数の種類を混合して用いてもよいし、1種類のみを用いてもよい。また、撥水液剤中の有機溶媒の含有量は、質量%で、1%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、特に25%以上が好ましく、80%以下、60%以下、特に40%以下が好ましい。
【0036】
撥水液剤は、表面張力を調整する表面調整剤を含んでもよい。これにより、金属製品の表面に塗布した後、撥水被膜の平滑性を高めることができる。撥水液剤中の表面調整剤の含有量は、質量%で、好ましくは0~10%、より好ましくは0~5%、特に0.5~1%である。
【0037】
撥水液剤は、更にアミノ酸、クエン酸、酢酸、シュウ酸等の有機酸を含んでもよい。これにより、高pHの溶液に対しても優れた耐薬品性を保つことができる。有機酸は、複数の種類を混合して用いてもよいし、1種類のみを用いてもよい。また、撥水液剤中の有機酸の含有量は、質量%で、0.1%以上、0.5%以上、特に1%以上が好ましく、10%以下、8%以下、5%以下、特に4%以下が好ましい。有機酸の含有量が多過ぎると、撥水液剤を塗布した際に、撥水液剤が金属製品の表面を侵食するおそれがある。
【0038】
撥水液剤(撥水被膜)中に、ハロゲン成分、特にフッ素成分、塩素成分を実質的に含まないことが好ましい。これにより、環境負荷を低減し、また取り扱い性を高めることができる。
【0039】
撥水被膜のラマンスペクトルのピーク強度は、波数範囲900~1250cm-1、1500~1650cm-1、2500~3000cm-1において、それぞれガウス関数でフィッティング処理を行った際のベースに対して1.1倍以上であることが好ましい。これにより、幅広いpHの洗剤で洗浄した場合でも、良好な撥水性を維持し得ると共に、撥水被膜の劣化、剥離等を抑制することができる。
【0040】
[撥水液剤の塗布方法]
撥水液剤を均質に塗布するため、金属製品を予め洗浄することが好ましい。洗浄方法は、特に限定されないが、エアーブローによる埃等の除去、精製水、アセトン等による溶媒洗浄等を行うことができる。
【0041】
撥水液剤を塗布する方法は、特に指定されず、ディッピング方式やスプレー方式、静電噴霧方式などを適用することができる。
【0042】
[撥水被膜の形成]
撥水液剤を金属製品の表面に塗布した後、熱処理により乾燥、熱硬化を行い、撥水被膜を形成することが好ましい。乾燥工程は、撥水液剤中の有機溶剤を揮発させる工程である。熱硬化工程は、撥水液剤を脱水縮合反応させて、金属製品の表面と強固に結合させる工程である。
【0043】
乾燥工程における乾燥温度は、40℃以上、45℃以上、特に50℃以上が好ましく、180℃以下、170℃以下、特に150℃以下が好ましい。乾燥温度が低過ぎると、撥水液剤から有機溶媒が十分に除去されず、撥水被膜に白濁や剥離等が生じ易くなる。また、乾燥温度が高過ぎると、熱硬化反応が生じて、撥水被膜に白濁や剥離等が生じ易くなる。
【0044】
乾燥時間は、5分間以上、10分間以上、15分間以上、特に20分間以上が好ましく、120分間以下、100分間以下、特に80分間以下が好ましい。乾燥時間が短過ぎると、撥水液剤から有機溶媒が十分に除去されず、撥水被膜に白濁や剥離等が生じ易くなる。乾燥時間が長過ぎると、金属製品の生産性が低下する。
【0045】
熱硬化工程における熱硬化温度は185℃以上、190℃以上、特に200℃以上が好ましく、350℃以下、325℃以下、特に300℃以下が好ましい。熱硬化温度が低過ぎると、熱硬化反応が十分に生じず、金属製品の撥水性を高め難くなる。一方、熱硬化温度が高過ぎると、撥水液剤の熱分解が生じて、撥水被膜に欠陥が生じるおそれがあり、最悪の場合は、撥水被膜が消失する可能性がある。
【0046】
熱硬化時間は5分間以上、10分間以上、特に15分間以上が好ましく、150分間以下、140分間以下、特に120分間以下が好ましい。熱硬化時間が短過ぎると、熱硬化反応が十分に生じず、金属製品の撥水性を高め難くなる。一方、熱硬化時間が長過ぎると、金属製品の生産性が低下する。
【0047】
熱硬化後の撥水被膜の厚みは、好ましくは100nm以上、120nm以上、300nm以上、500nm以上、520nm以上であり、4000nm以下、2500nm以下、2000nm以下、特に1500nm以下であることが好ましい。これにより、ピンホール等の欠陥が生じ難くなると共に、熱硬化後に生じる応力が低減されるため、撥水被膜の劣化、剥離等を抑制することができる。
【0048】
[金属製品]
撥水被膜を形成する金属部品の金属材料として種々のものを使用することができる。例えば、SUS、チタン、チタンニッケル合金、コバルトクロム合金、タンタル、ニオブ等を上げることができる。
【0049】
本発明の金属製品は、種々の用途に適用することができる。例えば、洗浄による繰り返し使用が想定される内視鏡の鉗子、カテーテル用の金属チューブ等に用いることが好ましい。
【実施例0050】
実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は例示であり、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0051】
[試料No.1]
メチル基、フェニル基を含むオルガノポリシロキサン化合物(シリコーン系樹脂)30質量%、ブチルアルコール15質量%、イソプロピルアセテート10質量%、イソプロピルアルコール45質量%の割合で混合、溶解させた後、更にクエン酸2質量%を添加して混合、溶解することにより、撥水液剤を準備した。なお、オルガノポリシロキサン化合物に含まれ
るジメチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン及びメチルポリシロキサンは1.3:1:1のモル比率に調整されたものである。
【0052】
撥水液剤をスピンコートによりSUS基板上に塗布した。撥水液剤を塗布したガラス基板を60℃に加熱された乾燥機内で60分間乾燥させた。次に210℃~225℃に加熱された乾燥機内で60分間の熱硬化処理を行い、SUS基板の表面に1500nm厚の撥水被膜を形成した。
【0053】
熱硬化処理後のSUS基板について、接触角測定器(あすみ技研製B100)と精製水を用いて、水滴の接触角を測定したところ、接触角は88.7°であった。
【0054】
[試料No.2]
メチル基を含むオルガノポリシロキサン化合物(シリコーン系樹脂)30質量%、ブチルアルコール15質量%、イソプロピルアセテート10質量%、イソプロピルアルコール45質量%の割合で混合、溶解させた後、更にクエン酸2質量%を添加して混合、溶解することにより、撥水液剤を準備した。なお、オルガノポリシロキサン化合物に含まれるジメチルポリシロキサン及びメチルポリシロキサンは1.3:1.0のモル比率に調整されたものである。
【0055】
撥水液剤をスピンコートによりSUS基板上に塗布した。撥水液剤を塗布したガラス基板を60℃に加熱された乾燥機内で60分間乾燥させた。次に210℃~225℃に加熱された乾燥機内で60分間の熱硬化処理を行い、SUS基板の表面に1500nm厚の撥水被膜を形成した。
【0056】
熱硬化処理後のSUS基板について、接触角測定器(あすみ技研製B100)と精製水を用いて、水滴の接触角を測定したところ、接触角は85.7°であった。
【0057】
[化学的耐久性評価]
試料No.1、2に係る撥水被膜付きSUS基板について、精製水にて3回ずつ洗浄した後、pH11に調整した水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した。その後、121℃で60分間熱処理を行った後、撥水被膜が溶液に充填されている状態で蛍光灯などの光源にかざし、撥水被膜に亀裂や剥離がないかを確認したところ、亀裂や剥離は認められなかった。
【0058】
試料No.1、2に係る撥水被膜付きSUS基板について、精製水にて3回ずつ洗浄した後、pH4に調整した塩酸水溶液に浸漬した。その後、121℃で60分間熱処理を行った後、撥水被膜が溶液に充填されている状態で蛍光灯などの光源にかざし、撥水被膜に亀裂や剥離がないかを確認したところ、亀裂や剥離は認められなかった。
【0059】
[耐熱性評価]
試料No.1、2に係る撥水被膜付きSUS基板について、300℃60分間の熱処理を行った後、水滴との接触角を測定したところ、接触角の低下は認められなかった。
【0060】
[試料No.3]
試料No.1と同一のSUS基板を用い、撥水被膜を形成せずに、水滴の接触角を測定したところ、接触角は64.7°であった。
【0061】
上記から分かるように、試料No.1、2は、試料No.3に比べて、撥水性が良好であり、少なくとも300℃の耐熱性を有し、化学的耐久性が良好であった。