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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081503
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230606BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195261
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
(72)【発明者】
【氏名】綾野 秀樹
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA21
5H770EA25
5H770HA02Y
5H770HA12Y
(57)【要約】
【課題】二相変調の指令値を改善することにより、指令値の急峻な変動を抑制し、電磁騒音を改善することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】制御装置21は、各相の相電圧を生成するための三相変調指令値を演算し、この三相変調指令値が最小となる相の下アームスイッチング素子18D~18FをON状態としてスイッチングを停止する二相変調指令値を演算する指令値演算部30を備え、指令値演算部は、下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を含む所定の規定区間において二相変調指令値が最大となる相の当該二相変調指令値を固定する補正を各相の二相変調指令値に加える指令値補正部35を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングにより三相交流出力を生成するインバータ回路と、該インバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えた電力変換装置において、
前記制御装置は、
前記各相の相電圧を生成するための三相変調指令値を演算し、該三相変調指令値が最小となる相の前記下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止し、又は、前記指令値が最大となる相の前記上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する二相変調指令値を演算する指令値演算部を備え、
該指令値演算部は、
前記下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を含む所定の規定区間において、前記二相変調指令値が最大となる相の当該二相変調指令値を固定する補正を前記各相の二相変調指令値に加え、又は、前記上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を含む所定の規定区間において、前記二相変調指令値が最小となる相の当該二相変調指令値を固定する補正を前記各相の二相変調指令値に加える指令値補正部、
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相は、U相を基準位相とした電圧位相の場合、0°、120°、240°のうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせ、若しくは、それらの全てであり、前記上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相は、U相を基準位相とした電圧位相の場合、60°、180°、300°のうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせ、若しくは、それらの全てであることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記指令値補正部は、前記スイッチングを停止する相が切り替わる位相と所定の位相幅から前記規定区間を設定し、現在の位相が当該規定区間に含まれるか否かを判定する判定部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記指令値補正部は、変調率が高い程狭く、変調率が低い程広くする方向で前記規定区間の幅を変更することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記指令値補正部は、前記規定区間の幅を60°以下とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記指令値演算部は、
前記各相の相電圧指令値を演算する相電圧指令演算部と、
前記各相の相電圧指令値から前記三相変調指令値としての前記各相のパルス幅指令値を演算するパルス幅指令演算部を有し、
該パルス幅指令演算部は、前記パルス幅指令値が最小となる相の前記下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止し、又は、前記パルス幅指令値が最大となる相の前記上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する前記二相変調指令値を演算すると共に、
前記指令値補正部は、前記パルス幅指令値が演算した前記各相の二相変調指令値に前記補正を加えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記指令値演算部は、
前記三相変調指令値としての前記各相の相電圧指令値を演算する相電圧指令演算部と、
前記各相の相電圧指令値から前記各相のパルス幅指令値を演算するパルス幅指令演算部を有し、
前記相電圧指令演算部は、前記相電圧指令値が最小となる相の前記下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止し、又は、前記相電圧指令値が最大となる相の前記上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する前記二相変調指令値を演算すると共に、
前記指令値補正部は、前記相電圧指令値が演算した前記各相の二相変調指令値に前記補正を加えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記各相の上下アームスイッチング素子の接続点における前記相電圧を前記三相交流出力としてモータに印加すると共に、
前記相電圧指令演算部は、前記各相の相電圧指令値を、制御周期毎に前記モータの磁極位置情報を用いて瞬時値演算することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記指令値補正部は、前記各相のパルス幅指令値が、出力可能な最小パルス幅より狭くなること、或いは、最大パルス幅より広くなることを回避する狭幅パルス回避処理を前記二相変調指令値に加えることを特徴とする請求項6乃至請求項8のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記各相の上下アームスイッチング素子の接続点における前記相電圧を前記三相交流出力としてモータに印加することを特徴とする請求項1乃至請求項9のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により三相交流出力を生成する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりモータを駆動するための電力変換装置は、UVW各相の上下アームスイッチング素子により三相のインバータ回路を構成すると共に、各相のスイッチング素子をPWM(Pulse Width Modulation)制御し、正弦波に近い電圧波形(三相交流出力)をモータに印加して駆動するものであった。
【0003】
また、スイッチング素子の損失と発熱を低減する目的で、二相変調と称される方式を適用した電力変換装置も提案されている。この二相変調方式の電力変換装置は、UVWの各相のうちの何れか一相の上下アームスイッチング素子のON/OFF状態を固定し、他の二相の上下アームスイッチング素子のみON/OFF状態を変調させながら制御することにより、三相変調方式よりもスイッチング素子のスイッチング回数を減少させ、スイッチング損失と発熱量を減少させつつ、PWM制御するものであった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-149660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一定周波数のキャリア信号を用いたPWM制御を行う電力変換装置では、キャリア周波数に騒音成分が集中することになる。そのため、キャリア周波数を可聴域外の20kHzや、人間が騒音と感じ難い10kHz以上とする方法が多く採用されているが、上記のような二相変調方式をはじめとする線間変調を用いた場合、出力するPWM信号のパルス幅の変化が正弦波としての変化ではなくなり、PWMのパルス幅が急峻に変化する場合が出てくる。
【0006】
このパルス幅は各相の相電圧を生成するための指令値であり、この指令値の急峻な変化は、PWM信号の発生タイミングを大きくばらつかせることになる。そして、このPWM信号の発生タイミングのばらつきが、瞬間的にキャリア周波数よりも高い周波数や低い周波数の騒音成分を発生させることとなり、その結果、キャリア周波数を中心とする騒音特性は、図6の上側に示すように、10kHzと20kHzの両側に、側帯波を持つことになる。このキャリア周波数を中心とした騒音の側帯波成分が、耳障りな電磁騒音となる問題があった。
【0007】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、二相変調の指令値を改善することにより、指令値の急峻な変動を抑制し、電磁騒音を改善することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電力変換装置は、各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングにより三相交流出力を生成するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたものであって、制御装置は、各相の相電圧を生成するための三相変調指令値を演算し、この三相変調指令値が最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止し、又は、指令値が最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する二相変調指令値を演算する指令値演算部を備え、この指令値演算部は、下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を含む所定の規定区間において、二相変調指令値が最大となる相の当該二相変調指令値を固定する補正を各相の二相変調指令値に加えるか、又は、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を含む所定の規定区間において、二相変調指令値が最小となる相の当該二相変調指令値を固定する補正を各相の二相変調指令値に加える指令値補正部を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明の電力変換装置は、上記発明において下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相は、U相を基準位相とした電圧位相の場合、0°、120°、240°のうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせ、若しくは、それらの全てであり、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相は、U相を基準位相とした電圧位相の場合、60°、180°、300°のうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせ、若しくは、それらの全てであることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明の電力変換装置は、上記各発明において指令値補正部は、スイッチングを停止する相が切り替わる位相と所定の位相幅から規定区間を設定し、現在の位相が当該規定区間に含まれるか否かを判定する判定部を有することを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明の電力変換装置は、上記各発明において指令値補正部は、変調率が高い程狭く、変調率が低い程広くする方向で規定区間の幅を変更することを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明の電力変換装置は、上記各発明において指令値補正部は、規定区間の幅を60°以下とすることを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明の電力変換装置は、上記各発明において指令値演算部は、各相の相電圧指令値を演算する相電圧指令演算部と、各相の相電圧指令値から三相変調指令値としての各相のパルス幅指令値を演算するパルス幅指令演算部を有し、このパルス幅指令演算部は、パルス幅指令値が最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止するか、又は、パルス幅指令値が最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する二相変調指令値を演算すると共に、指令値補正部は、パルス幅指令値が演算した各相の二相変調指令値に補正を加えることを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明の電力変換装置は、請求項1乃至請求項5の発明において指令値演算部は、三相変調指令値としての各相の相電圧指令値を演算する相電圧指令演算部と、各相の相電圧指令値から各相のパルス幅指令値を演算するパルス幅指令演算部を有し、相電圧指令演算部は、相電圧指令値が最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止するか、又は、相電圧指令値が最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する二相変調指令値を演算すると共に、指令値補正部は、相電圧指令値が演算した各相の二相変調指令値に補正を加えることを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明の電力変換装置は、請求項6又は請求項7の発明において各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加すると共に、相電圧指令演算部は、各相の相電圧指令値を、制御周期毎にモータの磁極位置情報を用いて瞬時値演算することを特徴とする。
【0016】
請求項9の発明の電力変換装置は、請求項6乃至請求項8の発明において指令値補正部は、各相のパルス幅指令値が、出力可能な最小パルス幅より狭くなること、或いは、最大パルス幅より広くなることを回避する狭幅パルス回避処理を二相変調指令値に加えることを特徴とする。
【0017】
請求項10の発明の電力変換装置は、上記各発明において各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングにより三相交流出力を生成するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えた電力変換装置において、制御装置が、各相の相電圧を生成するための三相変調指令値を演算し、この三相変調指令値が最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止し、又は、指令値が最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する二相変調指令値を演算する指令値演算部を備えており、この指令値演算部が、下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を含む所定の規定区間において、二相変調指令値が最大となる相の当該二相変調指令値を固定する補正を各相の二相変調指令値に加えるか、又は、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を含む所定の規定区間において、二相変調指令値が最小となる相の当該二相変調指令値を固定する補正を各相の二相変調指令値に加える指令値補正部を有する構成とした。
【0019】
このような指令値補正部による補正により、下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を含む所定の規定区間、又は、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を含む所定の規定区間における二相変調指令値の変化を緩やかなものとし、急峻な変化を抑えて、側帯波を抑制することが可能となる。
【0020】
これにより、例えば請求項10の発明の如くモータに三相交流出力を印加して運転する場合の電磁騒音を効果的に低減することができるようになるものである。
【0021】
この場合、請求項2の発明の如く下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を、U相を基準位相とした電圧位相の場合、0°、120°、240°のうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせ、若しくは、それらの全てとし、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相は、U相を基準位相とした電圧位相の場合、60°、180°、300°のうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせ、若しくは、それらの全てとすることで、側帯波をより効率よく抑制して、騒音の側帯波成分を低減することができるようになる。
【0022】
また、請求項3の発明の如く指令値補正部が、スイッチングを停止する相が切り替わる位相と所定の位相幅から規定区間を設定し、現在の位相が当該規定区間に含まれるか否かを判定する判定部を有するようにすれば、判定部により現在の位相が規定区間であるか否かを的確に把握し、スイッチングを停止する相が切り替わる位相の付近で発生する騒音を、より効果的に抑制することができるようになる。
【0023】
ここで、規定区間における二相変調指令値の変化が緩やかになるということは、スイッチング素子をスイッチングする回数が増えることになる。一方、運転騒音が高くなる変調率の高い領域では側帯波による電磁騒音も気にならなくなる。
【0024】
そこで、請求項4の発明の如く指令値補正部が、変調率が高い程狭く、変調率が低い程広くする方向で規定区間の幅を変更するようにすれば、変調率の高い領域では規定区間を狭くしてスイッチング素子のスイッチング回数の増加を抑制し、変更率の低い領域では規定区間を広くして、より効果的な静音化を図ることが可能となる。
【0025】
また、請求項5の発明の如く指令値補正部が、規定区間の幅を60°以下とすることで、二相変調指令値の変化が急峻な領域のみを補正することができるようになり、より効果的な静音化を図ることが可能となる。
【0026】
尚、指令値補正部が補正を加える二相変調指令値は、請求項6の発明の如きパルス幅指令値であってもよく、請求項7の発明の如き相電圧指令値であってもよい。
【0027】
ここで、請求項8の発明の如く各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加する場合、相電圧指令演算部が、各相の相電圧指令値を、制御周期毎にモータの磁極位置情報を用いて瞬時値演算するようにすれば、電磁騒音を抑制しながらモータ駆動に必要な電圧指令値を逐次演算することができるようになるため、より効果的に本発明の利点が得られるようになる。
【0028】
更に、請求項9の発明の如く指令値補正部が、各相のパルス幅指令値が、出力可能な最小パルス幅より狭くなること、或いは、最大パルス幅より広くなることを回避する狭幅パルス回避処理を二相変調指令値に加えるようにすれば、狙い通りのパルス幅を出力できなくなる不都合を回避することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施例の電力変換装置の電気回路図である。
図2】各変調値におけるUVW各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを示す図である。
図3図2中の(c)のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwと補正後のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを示す図である。
図4】パルス幅指令値を固定する相を選択する位相等を説明する図である。
図5】本発明の電力変換装置の制御を説明するフローチャートである(実施例1)。
図6】従来の二相変調と本発明の電力変換装置の制御による騒音特性を比較する図である。
図7】狭幅パルス回避処理を説明するための最小パルス幅を示す図である。
図8】狭幅パルス回避処理を説明する各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを示す図である。
図9】パルス幅指令値が最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する場合の本発明の電力変換装置の制御による各相のパルス幅指令値の変化を纏めて示す図である。
図10】パルス幅指令値が最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する場合の本発明の電力変換装置の制御による各相のパルス幅指令値の変化を纏めて示す図である。
図11】120°~240°の位相のみパルス幅指令値が最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止し、その他の位相ではパルス幅指令値が最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する場合の本発明の電力変換装置の制御による各相のパルス幅指令値を示す図である。
図12】本発明の電力変換装置の他の実施例の制御を説明するフローチャートである(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0031】
本発明を適用した実施例の電力変換装置1は、電気自動車等の車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路を構成する所謂インバータ一体型電動圧縮機のモータ8を駆動するものである。
【0032】
(1)電力変換装置1の回路構成
図1において実施例の電力変換装置1は、三相のインバータ回路28と、制御装置21を備えている。インバータ回路28は、直流電源(車両のバッテリ:例えば、350V)29の直流電圧を三相交流電圧(三相交流出力)に変換してモータ8に印加する回路である。この場合、実施例のモータ8はIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0033】
インバータ回路28は、U相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wを有しており、各相のハーフブリッジ回路19U~19Wは、それぞれ上アームスイッチング素子18A~18Cと、下アームスイッチング素子18D~18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A~18Fには、それぞれフライホイールダイオード31が逆並列に接続されている。各上下アームスイッチング素子18A~18Fは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0034】
そして、インバータ回路28の上アームスイッチング素子18A~18Cのコレクタは、直流電源29及び平滑コンデンサ32の上アーム電源ライン(正極側母線)10に接続されている。一方、インバータ回路28の下アームスイッチング素子18D~18Fのエミッタは、直流電源29及び平滑コンデンサ32の下アーム電源ライン(負極側母線)15に接続されている。
【0035】
この場合、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aのエミッタと下アームスイッチング素子18Dのコレクタが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bのエミッタと下アームスイッチング素子18Eのコレクタが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cのエミッタと下アームスイッチング素子18Fのコレクタが直列に接続されている。
【0036】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点(U相電圧Vu)は、モータ8のU相の電機子コイルに接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点(V相電圧Vv)は、モータ8のV相の電機子コイルに接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点(W相電圧Vw)は、モータ8のW相の電機子コイルに接続されている。
【0037】
(2)制御装置21の構成
次に、制御装置21はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、実施例では車両のECUから回転数指令値を入力し、モータ8からモータ電流(相電流)を入力して、これらに基づき、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18FのON/OFF状態(スイッチング)を制御する。具体的には、各スイッチング素子18A~18Fのゲートに印加するゲート電圧を制御する。
【0038】
実施例の制御装置21は、指令値演算部30と、PWM信号生成部36と、ゲートドライバ37と、モータ8に流れる各相のモータ電流(相電流)であるU相電流iu、V相電流iv、W相電流iwを測定するためのカレントトランスから成る電流センサ26A、26B、26Cを有している。
【0039】
(2-1)指令値演算部30
指令値演算部30は、相電圧指令演算部33と、パルス幅指令演算部34と、指令値補正部35を有しており、各電流センサ26A~26Cは相電圧指令演算部33に接続されている。尚、実施例では電流センサ26AはU相電流iuを測定し、電流センサ26BはV相電流ivを測定し、電流センサ26CはW相電流iwを測定するが、電流センサ26AによりU相電流iuを測定し、電流センサ26BによりV相電流ivを測定して、W相電流iwはこれらから計算により求めてもよい。また、各相のモータ電流を検出する方法については実施例のように電流センサ26A~26Cで測定する以外に、下アーム電源ライン15の電流値をシャント抵抗により検出し、その電流値とモータ8の運転状態から相電圧指令演算部33が推定する方法などがあることから、各相電流を検出・推定する方法に関しては、特に限定しない。
【0040】
(2-2)相電圧指令演算部33
指令値演算部30の相電圧指令演算部33は、モータ8の電気角、電流指令値と相電流から得られるd軸電流、q軸電流に基づくベクトル制御により、モータ8の各相の電機子コイルに印加するU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwを生成するための三相変調の相電圧指令値Vu*(以下、U相電圧指令値Vu*)、Vv*(以下、V相電圧指令値Vv*)、Vw*(以下、W相電圧指令値Vw*)を演算し、生成する。
【0041】
この場合、相電圧指令演算部33は、d軸電流及びq軸電流から得られるd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqにより、下記数式(I)を用いて各相の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を算出する。尚、数式(I)中のVm、及び、θmは数式(II)からそれぞれ求められる。また、θvはθ+θmとする(θv=θ+θm)。更に、θはU相を基準とした磁極位置、θmは磁極位置に対する電圧位相差、θvは電圧位相である。
【0042】
【数1】
【0043】
(2-3)パルス幅指令演算部34
指令値演算部30のパルス幅指令演算部34は、相電圧指令演算部33により演算され、出力された各相の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*から、下記数式(III)を用いて、直流電圧Vdcで正規化(0~1に補正)された各相のパルス幅指令値Cu1(U相パルス幅指令値)、Cv1(V相パルス幅指令値)、Cw1(W相パルス幅指令値)を演算し、出力する。これらパルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1は、後述する線間変調前の値(線間変調しない値)であり、本発明のこの実施例における三相変調指令値となる。
【0044】
【数2】
【0045】
更に、この実施例のパルス幅指令演算部34は、上記パルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1から、数式(IV)を用いて線間変調(実施例では二相変調)を行う。数式(IV)中のCu、Cv、Cwは線間変調後の各相のパルス幅指令値(U相パルス幅指令値Cu、V相パルス幅指令値Cv、W相パルス幅指令値Cw)であり、本発明のこの実施例における二相変調指令値となる。
【0046】
【数3】
【0047】
尚、数式(IV)中のCmodは線間変調(二相変調)を行うための変調値である。この変調値Cmodが0(Cmod=0)である場合は、パルス幅指令値Cu、Cv、Cwは線間変調を行わない、即ち、線間変調前のパルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1と同一となり、その波形は図2の(a)に示される。
【0048】
一方、変調値Cmodを下記数式(V)、(VI)とした場合、線間変調が行われ、その波形はそれぞれ図2の(b)、(c)のようになる。
Cmod=1-max(Cu1、Cv1、Cw1) ・・・(V)
Cmod=-min(Cu1、Cv1、Cw1) ・・・(VI)
【0049】
数式(V)中のmax(Cu1、Cv1、Cw1)は、パルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1(この実施例における三相変調指令値)のうちの最大となる相の値を意味しており、数式(V)ではこの値を1から差し引いたCmodを全てのパルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1に加算するので、最大となる相のパルス幅指令値は1となり、その相の上アームスイッチング素子がON状態として固定されることになる。そして、その他の2相の値は図2の(b)に示すような波形となり、それら2相の上下アームスイッチング素子がON/OFFされることになるので、Cu、Cv、Cwが二相変調指令値となる。
【0050】
数式(VI)中のmin(Cu1、Cv1、Cw1)は、パルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1(三相変調指令値)のうちの最小となる相の値を意味しており、数式(VI)ではこの値Cmodを全てのパルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1から差し引くので、最小となる相のパルス幅指令値は0となり、その相の下アームスイッチング素子がON状態として固定されることになる。そして、その他の2相の値は図2の(c)に示すような波形となり、それら2相の上下アームスイッチング素子がON/OFFされることになるので、Cu、Cv、Cwが二相変調指令値となる。
【0051】
(2-4)指令値補正部35
指令値演算部30の指令値補正部35は、パルス幅指令演算部34が演算した各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwに対して、図3に示すような補正を加える。図3の上側は図2の(c)の場合、即ち、パルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1のうち、最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合の波形を示しているが、図2の(b)の場合、即ち、パルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1のうち、最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合にも同様である。
【0052】
そして、例えば図2の(c)の場合、指令値補正部35は図3の上側に示すパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを、図3の下側に示すような波形に補正する。即ち、図3の場合、下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を中心とした所定の規定区間において、パルス幅指令値Cu、Cv、Cwが最大となる相のパルス幅指令値を固定する補正を全ての相に加え、それにより、指令値が低下する相の指令値の変化が滑らかに漸減するようにし、指令値が増大する相の指令値の変化が滑らかに漸増するようにするものであるが(図3の下側)、この指令値補正部35による補正動作については後に詳述する。
【0053】
(2-5)PWM信号生成部36
PWM信号生成部36は、パルス幅指令演算部34により演算されたパルス幅指令値Cu、Cv、Cw(指令値補正部35により補正されたパルス幅指令値Cu、Cv、Cw)を入力し、キャリア信号との大小を比較することによって、インバータ回路28のU相インバータ19U、V相インバータ19V、W相インバータ19Wの駆動指令信号となるPWM信号を生成し、出力する。
【0054】
ゲートドライバ37は、PWM信号生成部36から出力されるPWM信号に基づき、U相インバータ19Uのスイッチング素子18A、18Dのゲート電圧と、V相インバータ19Vのスイッチング素子18B、18Eのゲート電圧と、W相インバータ19Wのスイッチング素子18C、18Fのゲート電圧を発生させる。
【0055】
そして、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18Fは、ゲートドライバ37から出力されるゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。このゲートドライバ37は、スイッチング素子18A~18Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
【0056】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ8のU相の電機子コイルに印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ8のV相の電機子コイルに印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ8のW相の電機子コイルに印加(出力)される。
【0057】
(3)指令値補正部35の補正動作
次に、図3図12を参照しながら、この実施例における指令値補正部35による補正動作について説明する。
(3-1)判定部35aによる規定区間の判定
指令値補正部35は、判定部35aを有している。この判定部35aは、現在の電圧位相θv(数式(I)中の電圧位相θv)が前述した規定区間に含まれるか否かを判定する。実施例の規定区間はスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を中心とし、当該中心位相の前後、所定の位相幅θwで設定された区間であり、線間変調が図2の(c)の場合と(b)の場合で異なる。
【0058】
即ち、パルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1のうち、最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする図2の(c)の線間変調の場合、数式(I)中の電圧位相θvで見たとき、下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相は必ず0°と120°と240°になるので、判定部35aは下記の数式(VII)、(VIII)、(IX)が成立する場合、現在の電圧位相θv(現在の位相)が規定区間に含まれると判定する。即ち、この場合、 0°と120°と240°が中心位相となる。
0°-θw<θv<0°+θw ・・・(VII)
120°-θw<θv<120°+θw ・・・(VIII)
240°-θw<θv<240°+θw ・・・(IX)
【0059】
また、パルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1のうち、最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする図2の(b)の線間変調の場合、数式(I)中の電圧位相θvで見たとき、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相は必ず60°と180°と300°になるので、判定部35aは下記の数式(X)、(XI)、(XII)が成立する場合、現在の電圧位相θv(現在の位相)が規定区間に含まれると判定する。即ち、この場合、 60°と180°と300°が中心位相となる。
60°-θw<θv<60°+θw ・・・(X)
180°-θw<θv<180°+θw ・・・(XI)
300°-θw<θv<300°+θw ・・・(XII)
【0060】
尚、実施例では規定区間の幅が最大で60°(即ち、規定区間の幅は60°以下)となるように位相幅θwを設定する。これにより、二相変調指令値(この実施例ではパルス幅指令値Cu、Cv、Cw)の変化が急峻な領域のみを後述する如く補正することができる。
【0061】
(3-2)指令値補正動作
そして、判定部35aが、現在の電圧位相θvが上記規定区間にあるものと判定した場合、指令値補正部35は下記数式(XIII)を用いて、数式(IV)中の変調値Cmodを算出する。
【0062】
【数4】
【0063】
尚、数式(XIII)中のCx1bufは前回のキャリア周期のパルス幅指令値、Cx1は今回のキャリア周期のパルス幅指令値であり、xはu、v、wの何れかが選択されることになる。即ち、Cu1bufについては前回のCu1が代入されて保存され、Cv1bufについては前回のCv1が代入されて保存され、Cw1bufについては前回のCw1が代入されて保存される。尚、指令値補正部35は規定区間以外の位相で上記代入をキャリア周期毎に行っており、電圧位相θvが規定区間に入った場合には、上記代入を行わない。また、数式(XIII)中のCnは後述する狭幅パルス回避処理を実行する場合の加算値であり、狭幅パルス回避処理を実行しない場合は、加算値Cn=0とする。
【0064】
また、図4の左端は上述した中心位相、その右はパルス幅指令値を後述する如く規定区間に入ったときの値に固定する相であり、数式(XIII)中の前記xはこの欄に基づいて選択される。また、その右はON状態に固定するスイッチング素子のアームの上下、その右は前記加算値Cnの正負値である。尚、右端の位相θaについては後に説明する。
【0065】
数式(XIII)中のCx1buf-Cx1は、例えば図3の上側(図2の(c))の如くパルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1のうち、最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合、例えば中心位相が120°の規定区間では、前記xはvが選択され、前回のパルス幅指令値Cv1bufから今回のパルス幅指令値Cv1を差し引いた値(Cv1buf-Cv1)を意味する。
【0066】
即ち、指令値補正部35は、現在の電圧位相θvが規定区間(120°-θw<θv<120°+θw)に入った場合、その入ったときのパルス幅指令値Cv1bufに対して現在のパルス幅指令値Cv1が増えた場合はその分を数式(IV)で全ての相から減算し、減った場合はその分を数式(IV)で全ての相に加算することになる。そして、規定区間に入った後は、Cv1bufへのCv1の代入は行わないようにすることで、V相のパルス幅指令値Cvは規定区間に入ったときの値(パルス幅指令値Cv1buf)に固定され(図3の下側の破線四角の範囲)、U相のパルス幅指令値Cuは、規定区間に入ってからの位相の進行につれて変化するCv1buf-Cv1の値が加算され、図3の下側に示されるように漸減するかたちに補正されると共に、W相のパルス幅指令値Cwも、規定区間に入ってからの位相の進行につれて変化するCv1buf-Cv1の値が加算され、図3の下側に示されるように漸増するかたちに補正されることになる(前述した加算値はCn=0とした場合)。
【0067】
尚、上記のような補正は、図2の(b)の如くパルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1のうち、最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合でも同様であり、その場合の規定区間の中心位相は60°と180°と300°となって、前述した数式(X)、(XI)、(XII)により判定部35aが規定区間にあるか否かを判定し、指令値補正部35が数式(XIII)により、変調値Cmodを算出することになる。
【0068】
その場合、指令値補正部35は、例えば現在の電圧位相θvが規定区間(60°-θw<θv<60°+θw)に入った場合、その入ったときのパルス幅指令値Cw1bufに対して現在のパルス幅指令値Cw1が増えた場合はその分を数式(IV)により全ての相から減算し、減った場合はその分を数式(IV)により全ての相に加算することになる。そして、規定区間に入った後は、Cw1bufへのCw1の代入は行わないようにすることで、W相のパルス幅指令値Cwは規定区間に入ったときの値(パルス幅指令値Cw1buf)に固定され、V相のパルス幅指令値Cvは、規定区間に入ってからの位相の進行につれて変化するCw1buf-Cw1の値が加算され、漸増するかたちに補正されると共に、U相のパルス幅指令値Cuも、規定区間に入ってからの位相の進行につれて変化するCw1buf-Cw1の値が加算され、漸減するかたちに補正されることになる(図9の(c)に示す。これも加算値Cn=0)。
【0069】
以上の動作をフローチャートに纏めたものを図5に示す。ステップS1で前述した数式(I)、(II)、(III)により、パルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1を算出する。次に、ステップS2で前述した数式(VII)~(XII)により、電圧位相θvが前述した規定区間に含まれるか否か判定し、規定区間でない場合はステップS3に進んで前述した数式(V)又は(VI)により変調値Cmodを算出し、ステップS4で前述した数式(IV)で線間変調を行い、パルス幅指令値Cu、Cv、Cwを算出する。次に、ステップS5で今回のパルス幅指令値Cu1をCu1bufに代入し、今回のパルス幅指令値Cv1をCv1bufに代入し、今回のパルス幅指令値Cw1をCw1bufに代入する。これらが次のキャリア周期で前回の値となる。
【0070】
一方、ステップS2で電圧位相θvが規定区間である場合、ステップS6に進んで前述した数式(XIII)により変調値Cmodを算出する。次に、ステップS7にて前述した数式(IV)で線間変調を行い、パルス幅指令値Cu、Cv、Cwを算出する。その後は、ステップS1に戻るので、上述したCx1bufへの今回のパルス幅指令値Cx1の代入は行わない。従って、最大相又は最小相が規定区間に入ったときのパルス幅指令値に固定されることになる。
【0071】
このように、指令値補正部35が下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を中心とした所定の規定区間において、パルス幅指令値(この場合の二相変調指令値)が最大となる相の当該パルス幅指令値を固定する補正を各相のパルス幅指令値に加え、又は、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を中心とした所定の規定区間において、パルス幅指令値が最小となる相の当該パルス幅指令値を固定する補正を各相のパルス幅指令値に加えるようにした。
【0072】
このような指令値補正部35による補正により、規定区間におけるパルス幅指令値の変化を緩やかなものとし、急峻な変化を抑えて、側帯波を抑制することが可能となる。これにより、実施例の如くモータ8に三相交流出力を印加して運転する場合の電磁騒音を効果的に低減することができるようになる。
【0073】
この場合、実施例では下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を、U相を基準位相とした電圧位相の場合、0°、120°、240°とし、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を、U相を基準位相とした電圧位相の場合、60°、180°、300°としたので、側帯波をより効率よく抑制して、騒音の側帯波成分を低減することができるようになる。
【0074】
また、実施例では指令値補正部35が、スイッチングを停止する相が切り替わる位相と所定の位相幅θwから規定区間を設定し、現在の位相が当該規定区間に含まれるか否かを判定する判定部35aを有しているので、判定部35aにより現在の位相が規定区間であるか否かを的確に把握し、スイッチングを停止する相が切り替わる位相の付近で発生する騒音を、より効果的に抑制することができるようになる。
【0075】
図6は従来の二相変調の騒音特性(上側)と本発明の電力変換装置1の上述した制御による騒音特性(下側)を比較して示した図である。縦軸が騒音特性である。この図からも明らかな如く、従来(上側)に比べ、本発明(下側)によればキャリア周波数(実施例では10kHz)周辺の側帯波が抑制できている。
【0076】
尚、実施例では下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を、U相を基準位相とした電圧位相の場合、0°、120°、240°とし、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を、U相を基準位相とした電圧位相の場合、60°、180°、300°としたが、それに限らず、前者の場合は0°、120°、240°のうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせとし、後者の場合は60°、180°、300°のうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせとして二相変調指令値の補正動作を実行するようにしてもよい。
【0077】
また、実施例では上記切り替わる位相を規定区間の中心位相としたが、それに限らず、前後が異なる幅であってもよい。即ち、上記切り替わる位相から差し引く位相幅θwと加算する位相幅θwが異なる値であってもよく、切り替わる位相を含む規定区間に電圧位相が含まれるか否かが判定できればよい。但し、上記切り替わる位相を規定区間の中心位相とした方がより効果的である。
【0078】
(4)規定区間の幅の変更制御
ここで、規定区間におけるパルス幅指令値Cu、Cv、Cw(二相変調指令値)の変化が緩やかになるということは、スイッチング素子をスイッチングする回数が増えることになる。一方、変調率が高い運転領域では、モータ8の運転騒音が高くなるので、側帯波による電磁騒音も気にならなくなる。
【0079】
そこで、指令値補正部35は、変調率に応じて前述した位相幅θwを変更する。具体的には、変調率が高い程、規定区間の幅が狭く、変調率が低い程、規定区間の幅が広くなるように位相幅θwを変更する。但し、規定区間の幅を広げる変更は、前述した60°を限界とする。これにより、変調率の高い領域では規定区間を狭くしてスイッチング素子のスイッチング回数の増加を抑制し、変調率の低い領域では規定区間を広くして、より効果的な静音化を図ることができるようになる。
【0080】
(5)狭幅パルス回避処理
また、特に実施例のようにPWMでモータ8に電圧を印加する場合、図7の(a)において上アーム電圧で示すように、上アームスイッチング素子を最小パルス幅でスイッチングさせるためには、下アームスイッチング素子を、その下に下アーム電圧で示すパルス幅でスイッチングさせる必要がある。これが出力できる最小パルス幅になる。即ち、上アーム電圧(パルス)は狭くても、下アーム電圧(パルス)は広くなってしまい、これ以上狭いパルス幅は出力することができない。
【0081】
従って、制御装置によりパルス幅指令値が、下アーム電圧のパルス幅を示す場合には、パルス幅指令値は図7の(a)に示すように、0.0付近の小さい値として出力することができない。また、制御装置によりパルス幅指令値が、上アーム電圧のパルス幅を示す場合には、パルス幅指令値は図7の(b)に示すように、1.0付近の大きな値として出力することができない。
【0082】
上記のようにパルス幅指令値が0.0、或いは、1.0付近では狙い通りのパルス幅が出力できない可能性があるため、本発明ではそのパルス幅を狭幅パルスと称し、実施例の指令値補正部35は、係る狭幅パルスを回避するため、前述した加算値Cnを0以外の値として、図8の(a)に示すパルス幅指令値Cu、Cv、Cw(図3の下側と同じ)が、図8の(b)に示すような波形となるような狭幅パルス回避処理を実行する。
【0083】
ここで、加算値Cnは図4に示したように、最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合には負の値とし、最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合には正の値とする。これにより、出力できない程狭いパルス幅指令値、或いは、広いパルス幅指令値を出す領域を無くし、狙い通りのパルス幅を出力できなくなる不都合を回避することができるようになる。
【0084】
以上の制御によるパルス幅指令値の波形を図9図10に纏めて示す。図9は最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合、図10は最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合をそれぞれ示している。
【0085】
また、各図の(a)は変調値Cmod=0の場合の値、(b)は指令値補正部35で補正しないときの数式(IV)で算出された値、(c)は指令値補正部35により数式(XIII)で補正した場合(加算値Cn=0)の値、(d)は前述した狭幅パルス回避処理を行った後の各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwをそれぞれ示している。
【0086】
ここで、図11は120°~240°の位相のみパルス幅指令値が最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止し、その他の位相ではパルス幅指令値が最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する線間変調の場合の各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを示している。
【0087】
同様に図11の(a)は変調値Cmod=0の場合である。このような線間変調の場合にも、0°、180°を規定区間として指令値補正部35による前述同様の補正動作を実行し、更に、前述した狭幅パルス回避処理を実効することで、図11の(c)に示すような波形として電磁騒音の低減を図ることが可能である。尚、図11の(b)は指令値補正部35の補正を行わない場合の波形である。
【実施例0088】
(6)本発明の他の実施例の制御
次に、本発明の他の実施例(実施例2)について説明する。前述した実施例(実施例1)では、指令値演算部30のパルス幅指令演算部34が線間変調を行い、二相変調指令値であるパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを演算し、指令値補正部35はこのパルス幅指令演算部34が演算したパルス幅指令値Cu、Cv、Cwに補正を加えるようにしたが、それに限らず、相電圧指令演算部33にて線間変調を行い、それによって演算された二相変調指令値に指令値補正部35が補正を加え、その後、パルス幅指令演算部34にてパルス幅指令値を演算するようにしてもよい。その場合の制御を以下に説明する。尚、この実施例でも電力変換装置1の回路構成は、基本的には図1と同様であるものとする。
【0089】
(6-1)この実施例の相電圧指令演算部33
また、この実施例の場合も相電圧指令演算部33は、前述した数式(I)を用いて各相の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を算出する。この実施例の場合、各相の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*が本発明の三相変調指令値となる。
【0090】
一方、この実施例の相電圧指令演算部33は、上記各相の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*から、下記数式(XIV)を用いて線間変調(実施例では二相変調)を行う。数式(XIV)中のVu**、Vv**、Vw**は線間変調後の各相の相電圧指令値(U相電圧指令値Vu**、V相電圧指令値Vv**、W相電圧指令値Vw**)であり、本発明のこの実施例における二相変調指令値となる。
【0091】
【数5】
【0092】
尚、数式(XIV)中のv0はこの実施例での線間変調(二相変調)を行うための変調値である。この変調値v0=0である場合は、相電圧指令値Vu**、Vv**、Vw**は線間変調を行わない、即ち、線間変調前の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と同一となる。一方、変調値v0を下記数式(XV)、(XVI)とした場合、線間変調が行われる。
【0093】
【数6】
【0094】
数式(XV)中のmax(Vu*(θv)、Vv*(θv)、Vw*(θv))は、電圧位相θvにおける相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*(この実施例における本発明の三相変調指令値)のうちの最大となる相の値を意味しており、数式(XV)ではこの値をVdc/2から差し引いたv0を全ての相電圧指令値Vu**、Vv**、Vw**に加算するので、最大となる相の相電圧指令値はVdc/2となり、その相の上アームスイッチング素子がON状態として固定されることになる。そして、その他の2相の上下アームスイッチング素子がON/OFFされることになるので、Vu**、Vv**、Vw**が二相変調指令値となる。
【0095】
数式(XVI)中のmin(Vu*(θv)、Vv*(θv)、Vw*(θv))は、電圧位相θvにおける相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*(三相変調指令値)のうちの最小となる相の値を意味しており、数式(XVI)ではこの値を-Vdc/2から差し引いたv0を全ての相電圧指令値Vu**、Vv**、Vw**から差し引くので、最小となる相の相電圧指令値は-Vdc/2となり、その相の下アームスイッチング素子がON状態として固定されることになる。そして、その他の2相の上下アームスイッチング素子がON/OFFされることになるので、Vu**、Vv**、Vw**が二相変調指令値となる。
【0096】
(6-2)この実施例のパルス幅指令演算部34
この実施例のパルス幅指令演算部34は、相電圧指令演算部33により演算され、出力された各相の相電圧指令値Vu**、Vv**、Vw**から、下記数式(XVII)を用いて、直流電圧Vdcで正規化(0~1に補正)された各相のパルス幅指令値Cu(U相パルス幅指令値)、Cv(V相パルス幅指令値)、Cw(W相パルス幅指令値)を演算し、出力する。
【0097】
【数7】
【0098】
以後のPWM信号生成部36やゲートドライバ37の動作は前述した実施例の場合と同様である。
【0099】
(6-3)この実施例の指令値補正部35
この実施例の指令値補正部35は、相電圧指令演算部33が演算した各相の相電圧指令値Vu**、Vv**、Vw**に対して補正を加える(図1の破線矢印で示す)。例えば、最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合には、下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を中心とする前述した実施例と同様の規定区間において、相電圧指令値Vu**、Vv**、Vw**が最大となる相の相電圧指令値を固定する補正を全ての相に加え、それにより、指令値が低下する相の指令値の変化が滑らかに漸減するようにし、指令値が増大する相の指令値の変化が滑らかに漸増するようにする。
【0100】
(7)この実施例の指令値補正部35の補正動作
以下、この実施例における指令値補正部35による補正動作について説明する。尚、この場合の指令値補正部35の判定部35aの動作も前述した実施例と同様であり、数式(VII)~(XII)を用いて現在の電圧位相θv(現在の位相)が規定区間に含まれるか否かを判定する。但し、前述の説明におけるパルス幅指令値Cu1、Cv1、Cw1は相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に置き換わる。また、図4中のパルス幅指令値固定相も相電圧指令値固定相に置き換わるものとする。更に、規定区間の組み合わせも前述した実施例の場合と同様である。
【0101】
(7-1)指令値補正動作
そして、この場合も判定部35aが、現在の電圧位相θvが上記規定区間にあるものと判定した場合、指令値補正部35は下記数式(XVIII)、(XIX)を用いて、数式(XIV)中の変調値v0を算出する。
【0102】
【数8】
【0103】
尚、数式(XVIII)は最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合であり、数式(XIX)は最小となる相の下アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合である。
【0104】
また、図4の右端に記載した位相θaは、図4の各中心位相における規定区間に入ったときの位相を意味しており、Vx*(θa)は規定区間に入ったときの相電圧指令値となる。そして、Vx*(θa)やVx*(θv)中のxはu、v、wの何れかが選択されることになる。また、数式(XVIII)、(XIX)中のVnは、この実施例で前述した狭幅パルス回避処理を実行する場合の加算値であり、狭幅パルス回避処理を実行しない場合は、加算値Vn=0とする。
【0105】
数式(XIX)中のmin(Vu*(θa)、Vv*(θa)、Vw*(θa))は、規定区間に入ったときの位相θaにおいて相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*のうちの最小となる相の値を意味しており、これを-Vdc/2から差し引くことは位相θaのときの数式(XVI)となる。また、数式(XIX)では規定区間に入ったときのVx*(θa)から電圧位相θvのときのVx*(θv)を差し引いている。
【0106】
数式(XIX)の場合、例えば中心位相が120°の規定区間では、前記xはvが選択され、変調値v0は規定区間に入ったときのVv*(θa)から電圧位相θvのときのVv*(θv)を差し引き、更に、Vdc/2を差し引き、規定区間に入ったときの位相θaにおいて相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*のうちの最小となる相の値も差し引くことになる(加算値Vn=0の場合)。
【0107】
即ち、指令値補正部35は、現在の電圧位相θvが規定区間(120°-θw<θv<120°+θw)に入った場合、その入ったときの相電圧指令値Vv*(θa)に対して現在の相電圧指令値Vv*(θv)が増えた場合はその分を数式(XIV)で全ての相から減算し、減った場合はその分を数式(XIV)で全ての相に加算することになる。これにより、V相の相電圧指令値Vvは規定区間に入ったときの値(Vv*(θa))に固定され、U相の相電圧指令値Vu*は、規定区間に入ってからの位相の進行につれて変化するVv*(θa)-Vv*(θv)の値が加算され、漸減するかたちに補正されると共に、W相の相電圧指令値Vw*も、規定区間に入ってからの位相の進行につれて変化するVv*(θa)-Vv*(θv)の値が加算され、漸増するかたちに補正されることになる(前述した加算値はVn=0とした場合)。
【0108】
尚、上記のような補正は、相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*のうち、最大となる相の上アームスイッチング素子をON状態として固定し、他の2相の上下アームスイッチング素子をON/OFFする線間変調の場合でも同様であり、その場合の規定区間の中心位相は60°と180°と300°となって、前述した数式(X)、(XI)、(XII)により判定部35aが規定区間にあるか否かを判定し、指令値補正部35が数式(XVIII)により、変調値v0を算出することになる。
【0109】
その場合、指令値補正部35は、例えば現在の電圧位相θvが規定区間(60°-θw<θv<60°+θw)に入った場合、その入ったときの相電圧指令値Vw*(θa)に対して現在の相電圧指令値Vw*が増えた場合はその分を数式(XIV)により全ての相から減算し、減った場合はその分を数式(XIV)により全ての相に加算することになる。これにより、W相の相電圧指令値Vw*は規定区間に入ったときの値(相電圧指令値Vw*(θa))に固定され、V相の相電圧指令値Vv*は、規定区間に入ってからの位相の進行につれて変化するVw*(θa)-Vw*(θv)の値が加算され、漸増するかたちに補正されると共に、U相の相電圧指令値Vu*も、規定区間に入ってからの位相の進行につれて変化するVw*(θa)-Vw*(θv)の値が加算され、漸減するかたちに補正されることになる(加算値Vn=0の場合)。
【0110】
以上の動作をフローチャートに纏めたものを図12に示す。ステップS8で前述した数式(I)、(II)により、相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を算出する。次に、ステップS9で前述した数式(VII)~(XII)により、電圧位相θvが前述した規定区間に含まれるか否か判定し、規定区間でない場合はステップS10に進んで前述した数式(XV)又は(XVI)により変調値v0を算出し、ステップS11で前述した数式(XIV)で線間変調を行い、相電圧指令値Vu**、Vv**、Vw**を算出する。次に、ステップS12で前述した数式(XVII)によりパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを算出する。
【0111】
一方、ステップS9で電圧位相θvが規定区間である場合、ステップS13に進んで前述した数式(XVIII)又は(XIX)により変調値v0を算出する。これにより、最大相又は最小相が規定区間に入ったときの相電圧指令値に固定されることになる。その後はステップS11に向かい、前述した数式(XIV)で線間変調を行い、相電圧指令値Vu**、Vv**、Vw**を算出し、ステップS12で前述した数式(XVII)によりパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを算出する。
【0112】
このように、この実施例では指令値補正部35が下アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を中心とした所定の規定区間において、相電圧指令値(この場合の二相変調指令値)が最大となる相の当該相電圧指令値を固定する補正を各相の相電圧指令値に加え、又は、上アームスイッチング素子をON状態としてスイッチングを停止する相が切り替わる位相を中心とした所定の規定区間において、相電圧指令値が最小となる相の当該相電圧指令値を固定する補正を各相の相電圧指令値に加えるようにした。
【0113】
このような指令値補正部35による補正により、この実施例においても規定区間における相電圧指令値の変化を緩やかなものとし、急峻な変化を抑えて、側帯波を抑制することが可能となる。これにより、同様にモータ8に三相交流出力を印加して運転する場合の電磁騒音を効果的に低減することができるようになる。
【0114】
特にこの実施例では、位相θaを用いて規定区間に入ったときの値を復元するため、前述した実施例(実施例1)の如く現在の値を前回の値として代入する必要が無くなり、値のバッファが不要となる。また、この実施例においても前述した規定区間の幅の変更制御や狭幅パルス回避処理が行われるものとする。
【0115】
尚、前述した相電圧指令演算部33が用いる数式(I)は、制御周期毎にモータ8の磁極位置θ(磁極位置情報)を用いて瞬時電圧指令値を演算する形式とされている。従って、数式(XV)、及び、数式(XVI)は、この瞬時電圧指令値を用いた演算ができる形式となる。また、数式(XIII)でも、数式(I)により求めた瞬時電圧指令値を用いた演算を行うことができる。このことにより、前記各実施例での各演算は、相電圧指令演算部33が、制御周期毎に瞬時値演算した各相の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を用いることができる演算式とされており、これにより、電磁騒音を抑制しながら、モータ8の駆動に必要な電圧指令値を逐次求めることができる構成とされている。
【0116】
また、実施例では電動圧縮機のモータ8を駆動制御する電力変換装置1に本発明を適用したが、請求項8、請求項10以外の発明ではそれに限らず、インバータ回路にて各種機器を駆動制御する場合に本発明は有効である。
【符号の説明】
【0117】
1 電力変換装置
8 モータ
18A~18F 上下アームスイッチング素子
19U U相インバータ
19V V相インバータ
19W W相インバータ
21 制御装置
28 インバータ回路
30 指令値演算部
33 相電圧指令演算部
34 パルス幅指令演算部
35 指令値補正部
35a 判定部
36 PWM信号生成部
37 ゲートドライバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12