(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081536
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】授粉装置
(51)【国際特許分類】
A01H 1/02 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
A01H1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195316
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000110778
【氏名又は名称】ニシム電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】大熊 康彦
(72)【発明者】
【氏名】多田 宣泰
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AA03
2B030HA07
(57)【要約】
【課題】花粉や雌蕊に対して風圧などの力を加えることなく花粉を効果的に散布する授粉装置を提供することを目的とする。
【解決手段】液体(水)と花粉との混合物を貯留する花粉貯留タンク12と、混合物を吸い込む吸引管13と、吸い込まれた花粉混合液11に振動を加えて当該花粉混合液11のクラスタを生成するクラスタ生成部14と、花粉混合液11に電圧を印加する電極15と、雌蕊に授粉するために花粉混合液11のクラスタを外部に噴霧する噴出口14aと、電極15に印加する電圧を制御する制御部16とを備える。制御部16は、授粉対象となる花の開花状態に応じて適した電圧制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体と花粉との混合物を貯留する花粉貯留タンクと、
前記混合物を吸い込む吸込手段と、
吸い込まれた前記混合物に振動を加えて当該混合物のクラスタを生成する振動生成手段と、
前記混合物に電圧を印加する電圧印加手段と、
雌蕊に授粉するために前記混合物のクラスタを外部に噴霧する噴出口と、
前記電極に印加する電圧を制御する制御手段とを備えることを特徴とする授粉装置。
【請求項2】
請求項1に記載の授粉装置において、
前記吸込手段が前記混合物に印加された電圧による静電気力で前記混合物を吸い込む授粉装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の授粉装置において、
前記電圧印加手段が前記クラスタに電圧を印加することによる静電気力で当該クラスタ化された前記混合物が前記噴出口から外部に噴霧される授粉装置。
【請求項4】
請求項3に記載の授粉装置において、
前記電圧印加手段が、対向する一対の電極を有しており、
前記制御手段が、前記雌蕊の育成態様に応じて前記電極に印加する電圧を直流電圧又は交流電圧に切り替える切替手段を有する授粉装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の授粉装置において、
前記電圧印加手段が、対向する一対の電極を有しており、
前記制御手段が、前記電極に直流電圧を印加する場合に、前記雌蕊の育成態様に応じてそれぞれの前記電極に印加する直流電圧の大きさを調整する調整手段を有する授粉装置。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれかに記載の授粉装置において、
前記電圧印加手段が、対向する一対の電極を有しており、
前記制御手段が、前記電極に交流電圧を印加する場合に、前記雌蕊の育成態様に応じてそれぞれの前記電極に印加する交流電圧の大きさ及び/又は位相を調整する調整手段を有する授粉装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の授粉装置において、
少なくとも前記混合物が噴霧される方向を撮像する撮像手段を備え、
前記制御手段が、前記撮像手段が撮像した撮像情報に基づいて前記雌蕊の育成態様を判定する授粉装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の授粉装置において、
前記混合物に着色剤が混合されており、
少なくとも前記混合物が噴霧される方向を撮像する撮像手段を備え、
前記制御手段が、前記撮像手段が撮像した撮像情報に基づいて前記着色剤による着色がされてない領域の前記雌蕊に前記混合物が噴霧されるように制御する授粉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工授粉を行う授粉装置に関し、特に電気的な手法を用いて花粉や雌蕊を傷つけることなく人工授粉を行う授粉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、林檎、梅、苺、蜜柑、さくらんぼなどの植物の開花期は、低温等の天候不順に遭遇しやすく、蜜蜂などの訪花昆虫の活動が制限されてしまうことで十分な受粉の機会が得られない場合がある。また、そもそも蜜蜂の数自体が世界的に減少していることもあり、蜜蜂を介した受粉の機会が減少しているという問題がある。そのため、上記のような植物を栽培している農家では人手により人工授粉を行っているが、人工授粉は作業が一時期に集中するため、労働力の確保などの問題を抱えている。
【0003】
上記の問題に関連して、例えば特許文献1~3に示す技術が開示されている。特許文献1に係る技術は、静電気発生器で発生した高電圧電界により開花状態の果実花の雄しべが持つ花粉に静電気を帯電させ、この帯電した雄しべと通常の雌しべとの間に電位差を生じさせ、この電位差により帯電した雄しべを雌しべに受粉させるようにしたものである。
【0004】
特許文献2に係る技術は、雄植物に隣接して収集装置を選択的に配置し、前記収集装置から隔った吸気装置を用いて前記雄植物から花粉を吸入し、且つ、該花粉を保存装置へ移動させ、及び前記保存装置から花粉を選択した雌植物に散布するものであり、収集した花粉に静電気を帯電させるものである。
【0005】
特許文献3に係る技術は、機械的な散布手段により授粉対象となる果樹に花粉を散布して人工授粉を行う人工授粉機であって、リモートコントローラにより無線制御されて飛行を行うドローンと、このドローンに搭載し、かつ花粉を収容した花粉収容部と、この花粉収容部に収容した花粉を所定の排出量に従って順次排出する花粉排出部と、この花粉排出部から排出された花粉を、ドローンからの送風の少なくとも一部により散布を行う花粉散布部とを備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-287622号公報
【特許文献2】特開昭63-219321号公報
【特許文献3】特開2018-14929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に示す技術は花粉に静電気を帯電させる技術であるものの、花粉の散布自体はファンなどの風圧で行うため、花粉自体又は受粉先の雌蕊を傷つけてしまう可能性があるという問題がある。特許文献3に技術はドローンで簡単に花粉を散布することができるものの、やはり送風により花粉を送出するため花粉や雌蕊を傷つけてしまう可能性があるという問題がある。
【0008】
本発明は、花粉や雌蕊に対して風圧などの力を加えることなく花粉を効果的に散布する授粉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る授粉装置は、液体と花粉との混合物を貯留する花粉貯留タンクと、前記混合物を吸い込む吸込手段と、吸い込まれた前記混合物に振動を加えて当該混合物のクラスタを生成する振動生成手段と、前記混合物に電圧を印加する電圧印加手段と、雌蕊に授粉するために前記混合物のクラスタを外部に噴霧する噴出口と、前記電極に印加する電圧を制御する制御手段とを備えるものである。
【0010】
このように、本発明に係る授粉装置においては、液体と花粉との混合物を貯留する花粉貯留タンクと、前記混合物を吸い込む吸込手段と、吸い込まれた前記混合物に振動を加えて当該混合物のクラスタを生成する振動生成手段と、前記混合物に電圧を印加する電圧印加手段と、雌蕊に授粉するために前記混合物のクラスタを外部に噴霧する噴出口と、前記電極に印加する電圧を制御する制御手段とを備えるため、クラスタ化した花粉と液体との混合物を電気的な力で噴霧することができ、花粉や雌蕊に対して風圧などの力により傷付けることなく効果的に散布することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る授粉装置の構成を示す模式図である。
【
図2】第1の実施形態に係る授粉装置を用いた人工授粉の実験を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る授粉装置における制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】第1の実施形態に係る授粉装置における制御部の印可電圧パターンの一例を示す第1の図である。
【
図6】第1の実施形態に係る授粉装置における制御部の印可電圧パターンの一例を示す第2の図である。
【
図7】第1の実施形態に係る授粉装置における制御部の印可電圧パターンの一例を示す第3の図である。
【
図8】第2の実施形態に係る授粉装置をドローンに設置した場合の授粉システムの模式図である。
【
図9】第2の実施形態に係る授粉装置における制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図10】第3の実施形態に係る授粉装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る授粉装置について、
図1ないし
図7を用いて説明する。本実施形態に係る授粉装置は、風圧などにより花粉や雌蕊に直接的な力を加えることなく、電気的な作用(静電気力)により花粉を散布して人工授粉を行うものである。また、印加する電圧を制御することで、咲いている花の態様に応じた適切な花粉の散布を実現するものである。
【0013】
図1は、本実施形態に係る授粉装置の構成を示す模式図である。本実施形態に係る授粉装置1は、液体(ここでは、水とする)と花粉とを混合した花粉混合液11を貯留する花粉貯留タンク12と、当該花粉貯留タンク12に接合して毛細管現象により花粉混合液11を吸い込む吸引管13と、吸引された花粉混合液11に超音波などの振動を与えてクラスタを生成するクラスタ生成部14と、生成された花粉混合液11のクラスタに電圧を印加する電極15と、帯電した花粉混合液11のクラスタを所定の方向に向けて噴霧する噴出口14aと、クラスタ生成部14で与える振動の制御や電極15に印加する電圧を制御する制御部16とを備える。
【0014】
花粉貯留タンク12に貯留される花粉混合液11は、予め採取した花と水とを混ぜて軽く振って混合したものである。この花粉混合液11は毛細管現象を利用して花粉貯留タンク12から吸引管13に吸い込まれて、クラスタ生成部14で超音波振動が付加されて微細なクラスタが形成される。形成されたクラスタに電圧が印加されることで、それぞれが帯電したクラスタが静電気力により噴出口14aから受粉対象の雌蕊に向けて噴霧される。
【0015】
なお、クラスタ生成部14で付加される振動は超音波振動に限らず、花粉混合液11がクラスタ化できる程度の振動周波数であればよい。また、クラスタに電圧を印加する電極15は、例えば筒状の単一の電極でもよいし対向する一対の電極であってもよい。本実施形態においては対向する一対の電極であるとする。
【0016】
発明者らの実際に行った実験により、霧吹きなどにより花粉混合液11を噴霧した場合は、花粉や雌蕊が傷ついてしまうことで授粉が成功しないことを確認している。そのため、一般的には、人工授粉を行う場合に綿棒などの柔軟な素材を用いて花粉や雌蕊を傷つけることなく手作業にて一つ一つ丁寧に作業を行うことが必要である。しかしながら、
図1のような構成の授粉装置1を用いて授粉作業を行うことで、花粉や雌蕊を傷つけることなく、非常に効率よく、且つ適正に人工授粉を行うことが可能である。発明者らが実際に梅の花に対して本実施形態に係る授粉装置1で
図2に示すような人工授粉を行ったところ、これまで実を付けることができなかった梅の木に実を付けることができた。
【0017】
本実施形態に係る授粉装置1を用いて
図2の梅の木に授粉した際は、制御部16が電極15に対して直流電圧を印加することで、花粉混合液11のクラスタをプラスに帯電させて噴霧した。
図2の実験においては噴霧された花粉混合液11が風に乗ってうまく授粉したが、制御部16が電極15に印加する電圧を制御することで、花が咲いている態様に応じたより適正な授粉作業が可能となる。
【0018】
図3は、花が咲いている開花状態の典型例を示す図である。植物の種類によって開花状態や受粉の方法は様々に異なるが、ここでは
図3に挙げたような典型的な開花状態に対して、それぞれの開花状態に応じた花粉混合液11の噴霧態様を以下に説明する。
図3(A)は、例えばひまわりの花ように授粉対象となる雌蕊が狭い範囲に密集しているような開花状態の例を示しており、
図3(B)は、授粉対象となる雌蕊が広い範囲に密集しているような開花状態の例を示しており、
図3(C)は、授粉対象となる雌蕊が広い範囲に分散しているような開花状態の例を示している。授粉装置1では、このような開花状態の差に応じて花粉混合液11の噴霧態様を電極15に印加する電圧制御で変化させる。
【0019】
図4は、本実施形態に係る授粉装置1の制御部16の構成を示す機能ブロック図である。制御部16は、授粉を開始する旨の情報である授粉開始情報41や授粉対象となる花の開花状態に関する開花状態情報42を入力する情報入力部43と、入力された情報に応じてクラスタ生成部14に付加する振動を制御する振動制御部44と、入力された開花状態情報42に基づいて電極15に印加する電圧の態様を特定する印加電圧特定部45と、特定された印加電圧の態様で電極15の電圧制御を行う電圧制御部46とを備える。
【0020】
開花状態情報42は、例えば
図3に示したような開花状態のパターンのうち、授粉対象となる花の開花状態がどのパターンに該当するかという情報として入力されてもよいし、授粉対象となる植物の種類が入力されてもよし、第2の実施形態において後述するようにカメラで撮像された撮像情報であってもよい。
【0021】
印加電圧特定部45は、情報入力部43に入力された開花状態情報42に基づいて、授粉対象となる花の開花状態を判定し、その開花状態に適した電圧制御パターンを特定する。例えば、開花状態情報42として植物の種類が入力された場合は、予め登録されている植物の種類に応じた適正な電圧制御パターンをデータベース(図示しない)から抽出し特定する。また、
図3に示したような典型的な開花状態のパターン(雌蕊が狭い範囲に密集しているパターン、雌蕊が広い範囲に密集しているパターン、雌蕊が分散しているパターン等)が開花状態情報42として入力された場合も、それらに応じた適正電圧制御パターンがデータベースから抽出されて特定される。
【0022】
具体的な処理を
図5ないし
図7を用いて説明する。
図5は、対向する電極15(一方を電極15a、他方を電極15bとする)に直流電圧を印可する場合の花粉混合液11の噴霧態様を示す図である。
図5(A)が電極15aに印可される電圧、
図5(B)が電極15bに印可される電圧を示している。直流電圧を印可するので電圧値は常に一定である。このような電圧制御を行った場合は、
図5(C)に示すような噴霧態様で花粉混合液11が噴出する。すなわち、ある程度の指向性を有する状態で一定量の花粉混合液11が噴出する。このような噴霧態様は、
図3(A)に示したような雌蕊が狭い範囲に密集しているパターンに適しており、所定の範囲内に一定量の花粉混合液11が噴霧されて効果的に授粉を行うことが可能である。
【0023】
なお、
図5においては、電極15aに印可する電圧H1と電極15bに印可する電圧H2の大きさを同じ値としているが、それぞれの大きさを異ならせることで噴霧角度を可変にしてもよい。すなわち、例えばH1>H2とした場合は、電極15a側の静電気力が大きくなるため、
図5(C)の図においては下方に向かって花粉混合液11が噴霧される。また、
図5(C)ではクラスタ生成部14の上下に電極15a,15bをそれぞれ配置しているが、さらに左右にも別途一対の電極15c,15d(図示しない)を配置することで、それぞれの電極15a~15dに印可する電圧値を調整することで花粉混合液11の噴霧角度を3次元的に可変させることが可能となる。
【0024】
図6は、対向する電極15a,15bに交流電圧を印可する場合の花粉混合液11の噴霧態様を示す第1の図である。
図6(A)が電極15aに印可される電圧、
図6(B)が電極15bに印可される電圧を示している。
図6においては、電極15aに印可する交流電圧と電極15bに印可する交流電圧とで半周期分位相がずれており、一方の電圧が0である場合に他方の電圧がピークとなる。このような電圧制御を行った場合は、
図6(C)に示すような噴霧態様で花粉混合液11が噴出する。すなわち、あるタイミングでは一方の電極側にのみ電圧が掛かり(電圧が大きくなり)、他方の電極には電圧が掛からない(電圧が小さくなる)状態となり、次の半周期後にはその逆となる。このような状態を半周期ごとに繰り返すことで、花粉混合液11が電極15a側寄りの角度で噴霧される状態と電極15b側寄りの角度で噴霧される状態が繰り返され、結果的に広角で広い範囲に花粉混合液11が噴霧されることとなる。このような噴霧態様は、
図3(B)に示したような雌蕊が広い範囲に密集しているパターンに適しており、広い範囲に一定量の花粉混合液11が噴霧されて効果的に授粉を行うことが可能である。
【0025】
なお、
図6(A)、(B)の右側の波形に示すように、電極15a,15bに印可される電圧はパルスのような矩形波であってもよい。この場合は、
図6(C)において、水平よりも上側に噴霧される状態と下側に噴霧される状態とが半周期ごとに繰り返され、結果的に
図6(C)に示すような広角の範囲に花粉混合液11が噴霧される。
【0026】
図7は、対向する電極15a,15bに交流電圧を印可する場合の花粉混合液11の噴霧態様を示す第2の図である。
図7(A)が電極15aに印可される電圧、
図7(B)が電極15bに印可される電圧を示している。
図7においては、電極15aに印可する交流電圧と電極15bに印可する交流電圧とで位相が一致しており、一方の電圧が0である場合は他方も0、一方の電圧がピークの場合には他方の電圧もピークとなる。このような電圧制御を行った場合は、
図7(C)に示すような噴霧態様で花粉混合液11が噴出する。すなわち、あるタイミングでは双方の電極15a,15bに電圧が掛からず、次の半周期後には双方の電極15a,15bに電圧が掛かる状態となる。このような状態を半周期ごとに繰り返すことで、花粉混合液11が噴霧されたりされなかったりが繰り返され、結果的に対象となる雌蕊を標的にして噴霧する花粉の量を抑えながら間欠的で脈動するような状態で花粉混合液11が噴霧されることとなる。このような噴霧態様は、
図3(C)に示したような雌蕊が分散しているパターンに適しており、対象となる雌蕊を標的として噴霧する花粉量を抑えながら効果的に授粉を行うことが可能である。噴霧方向は、上述したように、電極15a,15bのそれぞれに掛かる電圧値を可変にすることで調整することができ、更に左右方向に別途一対の電極15c,15dを備えることで噴霧角度を3次元的に調整し、標的とする雌蕊にピンポイントに花粉混合液11を噴霧することが可能となる。
【0027】
なお、
図7(A)、(B)に示すように、電極15a,15bに印可される電圧は正弦波でもよいしパルスのような矩形波であってもよい。
【0028】
このように、制御部16が電極15に印可する電圧を制御することで、授粉対象となる花の開花状態に応じて適正な花粉混合液11の噴霧を行うことが可能となり、授粉効率を上げることができる。
【0029】
図4に戻って、印可電圧特定部45で上記のような電圧制御パターンが特定されると、電圧制御部46が電極15に対して特定された電圧制御パターンで電圧を印可する。一方で、振動制御部44は、授粉開始情報41に基づいてクラスタ生成部14への振動を開始するが、その際に開花状態情報42に基づいて振動周波数を特定するようにしてもよい。
【0030】
具体的には例えば、授粉対象となる花の開花状態が極めて密の状態であったり、奥の方まで花粉を運ぶ必要があるような場合は、振動周波数を高めに設定することで生成される花粉混合液11のクラスタを細かくして奥の方の花にまで花粉を運びやすくする。逆に、授粉対象となる花の開花状態が粗の状態であれば、振動周波数を低めに設定することで生成される花粉混合液11のクラスタを大きめにして一つ一つの花に確実に花粉が受粉できるようにする。このように、開花状態に応じて花粉混合液11のクラスタサイズを振動で制御することで、より効果的な授粉を可能にする。
【0031】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る授粉装置について、
図8及び
図9を用いて説明する。本実施形態に係る授粉装置は、例えばドローンなどの飛翔体に設置され、カメラによる撮像を行いながら授粉対象となる花に花粉混合液を噴霧するものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0032】
例えば海外などの大規模プランテーションで人工授粉を行う場合は、第1の実施形態に係る授粉装置を用いたとしても多くの人手が必要となる。本実施形態においては、授粉装置を飛翔体(本実施形態においてはドローンとする)に搭載し、ドローンの制御により効率良く人工授粉を行う。
【0033】
図8は、本実施形態に係る授粉装置をドローンに設置した場合の授粉システムの模式図、
図9は、本実施形態に係る授粉装置における制御部の構成を示す機能ブロック図である。
図8において、ドローン80の前方(
図8の紙面手前方向)に花粉混合液11を噴出するような状態で授粉装置1が設置されており、この前方方向はカメラ81により常時撮像され、その撮像情報は授粉装置1に入力されている。前記第1の実施形態における
図4の授粉開始情報41や開花状態情報42は、
図9においてドローン80に設置されているカメラ81で撮像された撮像情報となる。
【0034】
図9において、情報入力部43がカメラ81からの撮像情報を入力し、画像解析部82が撮像情報を解析する。具体的には、カメラ81で撮像された撮像情報に予め設定されている授粉対象となる花が映り込んでいるかどうかをパターンマッチングやAI機能により判断し、授粉対象となっている花が映り込んでいると判断される場合に、授粉を開始する旨の情報(
図4の場合の授粉開始情報41に相当)として印可電圧特定部45及び振動制御部44にその情報が渡される。同時に、情報入力部43に入力された撮像情報は、画像解析部82により解析されて開花状態のパターンが特定される。特定された開花状態に関する情報(
図4の場合の開花状態情報42に相当)は、印可電圧特定部45及び振動制御部44にて利用される。その他の処理については、第1の実施形態の場合と同じである。
【0035】
大規模ブランテーションや花が密になっている状態での授粉作業では、狭い場所にも侵入可能なようにドローン80を小型化する(マイクロドローンを使用する)と共に、その数を増やすことが望ましい。この場合、ドローン80に設置する授粉装置1も小型化する必要があることから、花粉貯留タンク12に貯留できる花粉混合液11の量や電源の容量も必然的に小規模なものとなってしまう。このような場合に、花粉混合液11の噴霧態様を例えば
図7に示したような間欠運転にすることで、電力消費や花粉混合液11の無駄な散布を抑えることができる。
【0036】
なお、上記においては、印可電圧特定部45や振動制御部44が花の開花状態に応じて適正な処理を行うものであるが、本実施形態においては、それに加えてドローン80の電源の残量に応じて電圧制御や振動制御を行うようにしてもよい。例えば、電源の残量が十分にある場合は、上記のように開花状態に合わせた電圧制御や振動制御を行い、電源の残量が所定値以下まで減った場合には、開花状態に関係なく省電力を優先して間欠的な噴霧を行うようにモード切り替えを行うような機能を有してもよい。
【0037】
また、ドローン80による授粉を行わない場合は、授粉装置1をドローン80から取り外して単体で使用できる構造とし、その場合は授粉装置1とカメラ81をセットで取り外して使用できる構造としてもよい。
【0038】
さらに、ドローン80の飛行経路は、操作者による操作情報に基づいて決定されてもよいし、予め設定された経路を自動飛行するようにプログラムで制御してもよいし、カメラ81からの撮像情報に基づいて授粉対象となる花の位置を特定し、それに向かって自動飛行するようにプログラミング制御してもよい。
【0039】
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態に係る授粉装置について、
図10を用いて説明する。前記第1の実施形態においては、花粉貯留タンク12に接合する吸引管13が毛細管現象により花粉混合液11を吸い込む構成について説明したが、毛細管現象を十分に作用させるためにはある程度細い吸引管13を用いる必要があり、花粉混合液11の噴霧量を十分に確保できない場合があり得る。そこで、本実施形態においては、花粉混合液11の噴霧量を確保するために太めの吸引管13を用いた場合に、確実に吸引管13に花粉混合液11を吸引する構成について説明する。なお、本実施形態において前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0040】
図10は、本実施形態に係る授粉装置の構成を示す模式図である。
図10(A)において、
図1の場合と異なるのは、吸引管13が太くなっていることと、この吸引管13に電圧を印加する電極15aを備えることである。
図10(A)においては、噴霧する花粉混合液11の量を十分に確保するための吸引管13の内径を太めにしているが、そうすると毛細管現象だけでは十分な量の花粉混合液11を吸引管13に引き込むことができない。そのため、電極15aに電圧を印加することで、静電気力により花粉混合液11を吸引管13に引き込む。このとき、発生させる静電気力を十分に大きくすることで、
図1における電極15がなくても花粉混合液11のクラスタを吸引力で遠くまで噴霧することが可能であるため、電極15は必ずしも備える必要はない。ただし、より遠くに噴霧したい場合や、
図5ないし
図7に示したような開花状態に応じた電圧制御を行う場合には電極15を備える構成とするのが望ましい。
【0041】
また、
図10(B)に示すように、電極15aを長尺状の電極にして噴出口14aの先まで延在させることで、電極15aと電極15との機能を兼ね備えた一体的な電極として構成してもよい。
【0042】
このように、花粉混合液11の噴霧量を増やすために吸引管13を太くした場合には、この吸引管13に電圧を印加することで静電気力により花粉混合液11を吸引することができ、多くの花粉混合液11を効率よく授粉することが可能になる。
【0043】
なお、前記各実施形態において、花粉混合液11を花粉に影響がない着色剤(例えば、同種の植物から抽出可能な植物性由来の着色剤等)で着色するようにしてもよい。そうすることで授粉作業を行った箇所とそうでない箇所を目視で容易に確認することが可能となる。また、
図2においてドローンで撮像する場合においても、着色領域とそうでない領域とを画像処理で判定することで、非着色領域のみに授粉作業を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 授粉装置
11 花粉混合液
12 花粉貯留タンク
13 吸引管
14 クラスタ生成部
14a 噴出口
15(15a,15b) 電極
16 制御部
41 授粉開始情報
42 開花状態情報
43 情報入力部
44 振動制御部
45 電圧特定部
46 電圧制御部
80 ドローン
81 カメラ