(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081609
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】空気処理装置及びその処理方法
(51)【国際特許分類】
B03C 3/40 20060101AFI20230606BHJP
B03C 3/41 20060101ALI20230606BHJP
B03C 3/53 20060101ALI20230606BHJP
A61L 9/22 20060101ALI20230606BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20230606BHJP
A61L 9/012 20060101ALI20230606BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20230606BHJP
F24F 8/192 20210101ALI20230606BHJP
F24F 8/30 20210101ALI20230606BHJP
F24F 8/97 20210101ALI20230606BHJP
【FI】
B03C3/40 C
B03C3/41 C
B03C3/53
A61L9/22
A61L9/16 Z
A61L9/012
B01D53/14 210
F24F8/192
F24F8/30
F24F8/97
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195456
(22)【出願日】2021-12-01
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】512224729
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】514207083
【氏名又は名称】株式会社園田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】593033980
【氏名又は名称】トワロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167416
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 佳男
(72)【発明者】
【氏名】角谷 晃司
(72)【発明者】
【氏名】松田 克礼
(72)【発明者】
【氏名】野々村 照雄
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 義浩
(72)【発明者】
【氏名】豊田 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】草刈 眞一
(72)【発明者】
【氏名】園田 隆博
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和隆
【テーマコード(参考)】
4C180
4D020
4D054
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180AA17
4C180AA18
4C180AA19
4C180BB06
4C180BB08
4C180CB03
4C180CB08
4C180DD11
4C180EA52X
4C180EB06X
4C180EB29Y
4C180FF01
4C180HH02
4C180HH05
4D020AA03
4D020AA09
4D020AA10
4D020BA19
4D020BA23
4D020CB40
4D020CC21
4D020CD10
4D054AA11
4D054BA01
4D054BA19
4D054BB06
4D054BC21
4D054BC31
(57)【要約】
【課題】本発明は、空気中に浮遊する気体、エアロゾル、飛粒体やウイルス性病原体を容易に捕集するための空気処理装置及びその処理方法を提案することを目的とする。
【解決手段】本発明の空気処理装置は、被捕集成分を含む空気が通過すると該被捕集成分を捕集する装置で、導電性液体を収容し上面が開放された捕集槽と、複数の孔を備えた金属板に複数の突起部を固定した電極板とを備え、該電極板は、突起部の先端が該導電性液体の上面に対向するように捕集槽の上縁面に載せ置かれ、突起部に電荷を供給して静電場が発生すると、静電誘導で捕集槽に収容された導電性液体は、突起部に供給された電荷とは逆の電荷を帯電し、突起部の先端から導電体液体の上面に向かってイオン風が生起し、被捕集成分が前記導電性液体の側に捕集されることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被捕集成分を含む空気が通過すると該被捕集成分を捕集する空気処理装置であって、
アースに接地された導電性液体を収容し上面が開放された捕集槽と、複数の孔を備えた金属板に複数の突起部を固定した電極板とを備え、前記電極板は、前記突起部の先端が該導電性液体の上面に対向するように前記捕集槽の上縁面に載せ置かれ、
前記突起部に電荷を供給して静電場が発生すると、静電誘導で前記捕集槽に収容された前記導電性液体は、前記突起部に供給された電荷とは逆の電荷を帯電し、前記突起部の先端から前記導電体液体の上面に向かってイオン風が生起し、前記被捕集成分が前記導電性液体の側に捕集されることを特徴とする空気処理装置。
【請求項2】
前記導電性液体は水であって、前記被捕集成分が水溶性であるときは前記被捕集成分が該水内に溶けこんで捕集され、前記被捕集成分が非水溶性であるときは前記被捕集成分が該水の上面に捕集されることを特徴とする請求項1に記載の空気処理装置。
【請求項3】
前記導電性液体は、液体保持材に保持されて前記捕集槽に収容されたものであることを特徴とする請求項1に記載の空気処理装置。
【請求項4】
前記導電性液体は、ゲル状で前記捕集槽に収容されたものであることを特徴とする請求項1に記載の空気処理装置。
【請求項5】
前記導電性液体は水性であって、前記被捕集成分が水溶性である場合は前記被捕集成分が前記導電性液体内に捕集され、前記被捕集成分が非水溶性である場合は前記被捕集成分が前記導電性液体の上面に捕集されることを特徴とする請求項1のいずれかに記載の空気処理装置。
【請求項6】
前記導電性液体は油性であって、前記被捕集成分が油溶性である場合は前記被捕集成分が前記導電性液体内に溶け込んで捕集され、前記被捕集成分が非油溶性である場合は前記被捕集成分が前記導電性液体の上面に捕集されることを特徴とする請求項1に記載の空気処理装置。
【請求項7】
前記突起部の先端と前記導電性液体の上面との距離は、該先端に印加する電圧と比例して変動して離隔したものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の空気処理装置。
【請求項8】
前記突起部は尖頭であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の空気処理装置。
【請求項9】
被捕集成分は、病原体、農薬、煙草の煙、二酸化炭素、アンモニア、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのほか、空気中に含まれる気体、エアロゾル、飛粒体であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の空気処理装置。
【請求項10】
被捕集成分を含む空気が通過すると該被捕集成分を捕集する空気処理方法であって、
導電性液体を収容し上面が開放された捕集槽と、複数の孔を備えた金属板に複数の突起部を固定した電極板とを備えた空気処理装置において、前記電極板が、前記突起部の先端が該導電性液体の上面に対向するように前記捕集槽の上縁面に載せ置かれ、
前記突起部に電荷を供給して静電場が発生すると、静電誘導で前記捕集槽に収容された前記導電性液体は、前記突起部に供給された電荷とは逆の電荷を帯電し、前記突起部の先端から前記導電体液体の上面に向かってイオン風が生起し、前記被捕集成分が前記導電性液体の側に捕集されることを特徴とする空気処理方法。
【請求項11】
前記導電性液体は水性であって、前記被捕集成分が水溶性である場合は前記被捕集成分が前記導電性液体内に捕集され、前記被捕集成分が非水溶性である場合は前記被捕集成分が前記導電性液体の上面に捕集されることを特徴とする請求項10に記載の空気処理方法。
【請求項12】
前記導電性液体は油性であって、前記被捕集成分が油溶性である場合は前記被捕集成分が前記導電性液体内に溶け込んで捕集され、前記被捕集成分が非油溶性である場合は前記被捕集成分が前記導電性液体の上面に捕集されることを特徴とする請求項10に記載の空気処理方法。
【請求項13】
被捕集成分は、病原体、農薬、煙草の煙、二酸化炭素、アンモニア、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのほか、空気中に含まれる気体、エアロゾル、飛粒体であることを特徴とする請求項10ないし12のいずれかに記載の空気処理方法。
【請求項14】
請求項10ないし13のいずれかに記載の空気処理方法を用いて前記導電性溶液に回収された前記被捕集成分を、前記導電性溶液からサンプリングすることにより一定量の空気に存在している量を定量し、連続的にモニタリングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電場を発生させて形成した静電場スクリーン(静電場の幕)の原理を適用し、空気中に浮遊する気体、エアロゾル、飛粒体を回収したり、ウイルス性病原体の飛沫感染を排除したりするための空気処理装置及びその処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行を受けて、世界保健機関(WHO)は、環境の浄化と消毒が最も重要であること、また、手指衛生、呼吸器系のエチケット、物理的な距離、発熱や呼吸器系の症状がある人との無防備な接近接触を避けることの重要性を継続的に強調している。
呼吸器系の感染症は、さまざまな大きさの飛沫を介して感染する。直径5~10μm以上の飛沫は呼吸器飛沫と呼ばれ、直径5μm未満の飛沫はエアロゾル(飛沫核)と呼ばれています。最近の研究では、COVID-19ウイルスは、空気感染ではなく、主に呼吸器系の飛沫や接触経路を介して人と人との間で感染することが報告されている。飛沫は、人が咳をしたり、くしゃみをしたり、話したりしたときに発生するので、病原体を含んだこれらの呼吸器系の飛沫を捕捉することができれば、人から人への感染の拡大を防ぐことができると思われる。
【0003】
一般的に空気清浄機は電気集塵装置の仕組みを利用したものであり、電極間でコロナ放電を発生させて塵埃を帯電させる帯電部と、この帯電部により帯電された塵埃をクーロン力で集塵板に付着させる集塵部とで構成される。
例えば、特許文献1に係る電気集塵装置は、放電電極と対向電極との間でコロナ放電を発生させて空気中の塵埃を帯電させる帯電部と、この帯電部で帯電された塵埃を捕集する高圧電極と集塵電極とからなる集塵部とを備えたものであって、対向電極と集塵電極とを一体化した共用対向電極を空気の流れに沿って平行に複数配列すると共に、これらの共用対向電極間に平板状の半絶縁性樹脂からなる高圧電極を配置し、この高圧電極の上流側端部にその長手方向に沿って所定間隔毎に半絶縁性樹脂からなる複数の電極支持部を設け、ワイヤーで構成される放電電極を電極支持部で支持し、共用対向電極と対向するように配置している。このような空気清浄機においては、浮遊ウイルスをコロナ放電により正又は負の電荷を与え帯電させ、帯電したウイルスを逆の極性に帯電させた導体で捕集することになる。なお、捕集したウイルスは紫外線やオゾン、クレベリンを使用して不活化する。
【0004】
また、特許文献2、3及び非特許文献1には、米国のエアドッグ社製の空気清浄機の構成が示されている。当該空気清浄機には「TPAフィルタ」と呼ばれる特殊なフィルタが搭載されている。「TPAフィルタ」は、プレフィルタとイオン化ワイヤーフレームと集塵フィルタとオゾン除去フィルタとからなり、該イオン化ワイヤーフレームに電磁場をつくることにより有害物質をプラスイオンで帯電させ、磁石のようにフィルタに汚れを吸着して除去する仕組みである。この仕組みにより、一般的な空気清浄機に使用されている紙フィルタ「HEPAフィルタ」では除去が困難な、ウイルスより細かい0.1μm以下の微細粒子0.0146μmの除去を実現できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3702726号公報
【特許文献2】米国特許9868123B2
【特許文献3】米国特許9735568B
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】エアドッグ社(日本法人)ホームページhttps://airdogjapan.com/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の空気清浄機や特許文献1に係る電気集塵装置は、フィルタの目詰まりに対する清掃のわずらわしさやフィルタそのものの定期的な交換が必要である。また、特許文献2、3及び非特許文献1に記載されている米国のエアドッグ社製の空気清浄機は、従来の空気清浄機等に比較して、フィルタの目詰まりは起きにくいとしているものの、フィルタのメンテナンスは必要であり、装置そのものは複雑な構造であり高価である。
【0008】
そこで、上記問題に鑑み、本発明は、空気中に浮遊する気体、エアロゾル、飛粒体やウイルス性病原体を容易に捕集するための空気処理装置及びその処理方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の空気処理装置は、被捕集成分を含む空気が通過すると該被捕集成分を捕集する装置で、導電性液体を収容し上面が開放された捕集槽と、複数の孔を備えた金属板に複数の突起部を固定した電極板とを備え、該電極板は、突起部の先端が該導電性液体の上面に対向するように捕集槽の上縁面に載せ置かれ、突起部に電荷を供給して静電場が発生すると、静電誘導で捕集槽に収容された導電性液体は、突起部に供給された電荷とは逆の電荷を帯電し、突起部の先端から導電体液体の上面に向かってイオン風が生起し、被捕集成分が前記導電性液体の側に捕集されることを特徴とする。
【0010】
導電性液体が水である場合で、被捕集成分が水溶性であるときは被捕集成分が水内に溶けこんで捕集されるし、他方、被捕集成分が非水溶性であるときは被捕集成分が水の上面に捕集されることになる。
また、導電性液体は、液体保持材に保持されて捕集槽に収容されるようにしてもよいし、ゲル状で捕集槽に収容されるようにしてもよい。
さらに、導電性液体が水性である場合は、上述の水の場合と同様に、被捕集成分が水溶性である場合は被捕集成分が導電性液体内に捕集され、被捕集成分が非水溶性である場合は被捕集成分が導電性液体の上面に捕集されることになる。そして、導電性液体は油性である場合は、被捕集成分が油溶性である場合は被捕集成分が導電性液体内に溶け込んで捕集され、被捕集成分が非油溶性である場合は被捕集成分が導電性液体の上面に捕集されることになる。
【0011】
電極板は、使用する金属板をパンチング加工金型やレーザー加工で孔を穿って形成し、釘のような尖頭突起状の金属棒を複数固定することで構成することができる。なお、突起部は先端が尖頭であることが望ましい。また、突起部の先端と水の水面との距離が該先端に印加する電圧と比例して変動して離隔するように調整するとよい。より詳細には、当該距離が5~15mm程度に調整するとよい。
【0012】
被捕集成分は、病原体、農薬、煙草の煙、二酸化炭素、アンモニア、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのほか、空気中に含まれる気体、エアロゾル、飛粒体である。
【0013】
本発明の空気処理方法は、被捕集成分を含む空気が通過すると該被捕集成分を捕集する方法であって、導電性液体を収容し上面が開放された捕集槽と、複数の孔を備えた金属板に複数の突起部を固定した電極板とを備えた空気処理装置において、電極板が突起部の先端が該導電性液体の上面に対向するように捕集槽の上縁面に載せ置かれ、突起部に電荷を供給して静電場が発生すると、静電誘導で捕集槽に収容された導電性液体は、突起部に供給された電荷とは逆の電荷を帯電し、突起部の先端から導電体液体の上面に向かってイオン風が生起し、被捕集成分が導電性液体の側に捕集されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上述の空気処理方法を用いて導電性溶液に回収された被捕集成分を、導電性溶液からサンプリングすることにより一定量の空気に存在している量を定量し、連続的にモニタリングする方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の空気処理装置及び空気処理方法によれば、静電場スクリーンの原理を適用し、導電性液体を電極とすることで、帯電した病原体を水やその他導電性液体に容易に捕集することができるほか、空気中に含まれる農薬、煙草の煙、二酸化炭素、アンモニア、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのほか、空気中に含まれる気体、エアロゾル、飛粒体を捕集することができる。フィルタが不要であり、メンテナンスは水の入れ替えだけで済むので利便性が高い。また、例えば水にクレベリン等任意の不活剤を添加ができ、水に溶ける極性の高い物質であれば回収も可能となり、不活化のリサイクルが可能である。さらに、捕集した病原体を生きた状態で回収でき、モニタリングも可能となるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る空気処理装置1を示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る空気処理装置1の電極板10を示す図である。
【
図3】本発明に係る空気処理装置1の基本原理を示すための図である。
【
図4】本発明に係る空気処理装置1において、イオン風が生起する状態を示すための図である。
【
図5】本発明に係る空気処理装置1において、イオン風が生起することで、被捕集成分Xを導電性液体Fに捕集する様子を示す概念図である。
【
図6】本発明の実施例2に係る空気処理装置2を示す図である。
【
図7】空気処理装置2の電界中での印加電圧とコロナ放電(a)、マイナスイオン発生(b)、イオン風の体積流量(c)の関係を示すグラフである。
【
図8】(a)は、 異なる電圧で負に帯電させた空気処理装置2の接地水に捕捉されたFITCを示すグラフで、(b)は、 空気処理装置2の電界中でのFITCの捕捉とマイナスイオンの発生について示すグラフである。
【
図9】互いに連結された3台の空気処理装置とオゾン発生装置(OG)を含むトータルシステムTSの模式図である。
【
図10】実施例3に係るトータルシステムに使用されるオゾン発生器の模式図である。
【
図11】実施例3に係るトータルシステムに使用されるオゾン発生器において、オゾンの生産性とオゾン発生器への印加電圧との間の正の相関関係(a)と、オゾン発生器で発生したマイクロバブルにさらされたファージの致死率の時間変化(b)を示すグラフである。
【
図12】(a)は、 実施例3に係るトータルシステムに使用される空気処理装置のうち1台~3台を用いて空気中に噴霧したファージの捕捉について示すグラフである。
【
図13】公知技術での静電場スクリーン発生装置の静電場及び静的電場の形成を簡単に説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。各図において、同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は、本発明を理解するために誇張して表現している場合もあり、必ずしも縮尺どおり精緻に表したものではないことに留意されたい。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に示した具体的な用途や形状・寸法などには限定されるものではない。以下、図面を参照しつつ、本発明の空気処理装置の実施形態を説明する。
【0018】
本発明は、本願発明者が以前に開発した、特にSD-スクリーン(単印加・双極型静電場スクリーン)と呼ばれる静電場スクリーン発生装置の原理を利用してさらに改良し発明に至ったものである。実施例を説明する前に、
図13を参照しながら、公知技術(特許第5252449号)に示されるSD-スクリーンの原理について説明する。被覆体01は、軟質塩化ビニル01bに鉄棒01aを通して作製される。この被覆体1の片側には、ステンレス製のアース網(アース電極)02がある。被覆体01とアース網02(アース電極)の間隔は3mmとして、各層面が平行になるように配置する。まず、被覆体01に電圧を印加すると各被覆体の周りに静電場が形成される。この静電場にアース網02(アース電極)を挿入するのである。そうすると、例えば被覆体01にマイナス電圧を印加すると、アース網02(アース電極)の被覆体に対向する側がプラスに分極する。すなわち、静電場にアース網02(アース電極)を挿入することにより、静電場空間に正負一対の電極を作り、静電場の内部に電場(以下、「静的電場」という。)を形成させるのである。この静的電場には、常に可動電荷をマイナス極(被覆体01)からプラス極(アース網02)に押しやる力が働き、虫等が入ると虫等の持つ電荷が押し出され、押し出された電荷はアース網02(アース電極)に吸収される。そうすると、電荷を奪われた虫等はプラスに帯電し、マイナス極(被覆体01)に強く誘引・捕捉される原理であり、「電界発生方式」ともいわれる。
電界発生方式は、公衆衛生上の問題を引き起こす生物的・非生物的な空気中の有害物質を制御する画期的な技術である。ウイルスや細菌、カビの胞子などの感染性粒子、花粉症の原因となる花粉粒、通常の防虫ネットを通過する小型飛翔性害虫、一部のアレルゲン、受動喫煙の原因となるタバコの煙などが含まれる。既存の電界発生方式は、いずれも電界中に被捕集成分を直接捕捉する方法であった。
本発明では、上述の原理を利用し、かつ、水を電極とするとともに帯電した被捕集成分を水等の導電性液体そのものに捕集する仕組みであり、コストの低減化を図ることを目的として提案されていることが理解されるであろう。
【実施例0019】
実施例1においては、空気処理装置1の基本的構造と被捕集成分の捕集の基本的原理を図面に基づき説明する。
まず、空気処理装置1の基本的構造を説明する。
図1は、本発明に係る空気処理装置1を示す斜視図である。
図2は、本発明に係る空気処理装置1の電極板10を示す図で、(a)は平面図であり、(b)は下方から斜めに見上げた状態を示す斜視図である。
図3は、本発明に係る空気処理装置1の基本原理を説明するための図である。
【0020】
図1ないし3を参照する。
図1ないし3に示すとおり、本発明の空気処理装置1は、導電性液体Fを収容し上面が開放された捕集槽11と、複数の孔102を備えた金属板100に複数の突起部101を固定した電極板10とを備える。被捕集成分を含む空気が捕集槽11を通過すると該被捕集成分を捕集し、通過した空気Aは浄化されることになる。
電極板10は、突起部101の先端が導電性液体Fの上面に対向するように捕集槽11の上縁面に載せ置かれている。電極板10には電圧印加装置12からリード線Lを介して電荷が印加される。また、捕集槽11に収容されている導電性液体Fにはリード線Lを介した接地がなされる。電極板10は、使用する金属板をパンチング加工金型やレーザー加工で孔102を穿って形成して基板100とし、釘のような尖頭突起状の金属棒を突起部101として複数固定することで構成することができる。なお、突起部101は先端が尖頭であることが望ましい。また、突起部101の先端と導電性液体Fの液面との距離が該先端に印加する電圧と比例して変動して離隔するように調整するとよい。より詳細には、当該距離が5~15mm程度に調整するとよい。過度の放電を防止するためである。
【0021】
次に、空気処理装置1による、被捕集成分Xの捕集の基本的原理を図面に基づき説明する。
図4は、本発明に係る空気処理装置1において、イオン風が生起する状態を示すための図であり、
図5は、本発明に係る空気処理装置1において、イオン風が生起することで、被捕集成分Xを導電性液体Fに捕集する様子を示す概念図である。
【0022】
図4を参照する。
図4は、本発明に係る空気処理装置1において、イオン風が生起する状態を示すための図であり、(a)は電極板10に電荷が印加される前の状態を示す図であり、(b)は電極板10に電荷が印加された状態を示す図であり、(c)はイオン風Iが生起した状態を示す図である。実施例1においては、
図4(b)に示すとおり、電圧印加装置12から電極板10に負の電荷を供給しているが、突起部101と導電性液体Fとの間に静電場が発生する。すなわち、静電誘導で捕集槽11に収容された導電性液体Fは、突起部101に供給された電荷とは逆の電荷、すなわち正の電荷を帯電することになる。そうすると、
図4(c)に示すとおり、突起部101の先端から導電体液体Fの上面に向かってイオン風Iが生起することになる。なお、ここでは、誘電被覆体11は負極として負極誘電被覆体としたが、その極性を逆にして、正極誘導被覆体とする構成も可能である。極性を入れ替える点以外は同じ原理であるので、極性が逆の構成の説明は省略する。
【0023】
図5は、本発明に係る空気処理装置1において、イオン風が生起することで、被捕集成分Xを導電性液体Fに捕集する様子を示す概念図であり、(a)は被捕集成分Xを含む空気Aが捕集槽内に入ってくる様子を示す図であり、(b)は被捕集成分Xが導電性液体Fに捕集された様子を示す図である。
図5(a)は
図4(c)と同じ状態を示しており、この状態で被捕集成分Xを含む空気Aが電極板10に設けられた複数の孔102を通過して捕集槽内に入ると、イオン風Iの生起に伴い、被捕集成分Xは導電性液体Fの側に捕集されることになる。そうすると、空気Aは被捕集成分Xが捕集され空気Acに処理され、イオン風の発生により溶液Fの水面を跳ね返り捕集槽11から矢印に示すとおり出ることになる。
【0024】
なお、導電性液体Fが水である場合で、被捕集成分Xが水溶性であるときは被捕集成分Xは水内に溶けこんで捕集されるし、他方、被捕集成分Xが非水溶性であるときは被捕集成分Xは水の上面に捕集されることになる。
また、導電性液体Fは、例えば、スポンジ等液体保持材に保持されて捕集槽11に収容されるようにしてもよいし、寒天のようなゲル状で捕集槽11に収容されるようにしてもよい。
さらに、導電性液体Fが水性である場合は、上述の水の場合と同様に、被捕集成分Xが水溶性である場合は被捕集成分Xが導電性液体Fに溶け込んで捕集され、被捕集成分Xが非水溶性である場合は被捕集成分Xは導電性液体Fの上面に捕集されることになる。水性の導電性液体とは、例えば水性アルコール等である。
導電性液体Fは油性である場合は、被捕集成分Xが油溶性である場合は被捕集成分Xが導電性液体Fに溶け込んで捕集され、被捕集成分Xが非油溶性である場合は被捕集成分Xが導電性液体Fの上面に捕集されることになる。油性の導電性液体とは、例えば油性アルコール等である。
【0025】
なお、上述した被捕集成分は、病原体、農薬、煙草の煙、二酸化炭素、アンモニア、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのほか、空気中に含まれる気体、エアロゾル、飛粒体である。
ウイルスや細菌を含む流体試料は、適切なネブライザを用いて霧状の粒子にすることができることから、実施例2において、本願発明者等は、質量メジアン径(MMD)が5μmのミスト粒子を生成するネブライザを用いて、水や微生物のサンプルを霧化し、当該霧化したサンプルを、本発明に係る空気処理装置2で捕集できることを実証した。なお、生成されたミスト粒子のサイズ範囲は1~10μmであり、50%以上の生成粒子の直径は~5 μmであった。このサイズ範囲は、呼吸器系の飛沫(5~10μm)やエアロゾル(≦5μm)のサイズに対応している。また、本実験では、COVID-19ウイルスのモデルとして、Pseudomonas syringae var. syringaeの病原性バクテリオファージ(ファージ)φ6を用いた。これは、このファージが脂質エンベロープとスパイクを備えた、COVID-19ウイルスに類似する六角二十面体構造を有しているためである。
ウイルス性ファージφ6(NBRC105899)および宿主細菌P. syringae var. syringae(MAFF810047)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(東京都)から購入した。このファージは、宿主細菌細胞に溶解感染して増殖させ、ポリエチレングリコールで沈殿させた後、既述の方法に従って遠心分離法で精製した。最終的に得られたファージ粒子のペレットを滅菌水に溶解し、異なる希釈を行って、二重層寒天法による1mlあたりのプラーク形成単位(PFU)を測定した。具体的には、ファージ溶液を宿主細菌細胞の一晩培養液と混合した。次に、この混合物を溶かしたアガロース(0.6% w/v)と混合し、最後にペトリ皿に入れた寒天(1.2% w/v)で固めたSSE培地の上に流し込んだ。一晩インキュベートした後、プラークを数えた。ファージ液を106、107、108PFU/mLに調製し、後述の霧化に使用した。
電極板20の尖頭突起部201の尖頭から常時発生するコロナ放電(連続コロナ電流)は、-1~-10kVの電圧範囲で測定され、ミスト粒子に吸引力を及ぼしていた。コロナ放電による電流を内蔵のガルバノメータで記録し、コロナ放電の光芒を暗視野で長時間露光して撮影した。また、高感度風速計(Climomaster 6533; Kanomax、Tokyo、Japan)を用いて、コロナ放電により発生した電極板20の尖頭突起部201の尖頭から水面への気流(イオン風I)の速度を空気処理装置2の上部出口で測定し、Q(m3/min)=V(m2)×A(m/s)×60(s)の式で体積流量(m3/min)を算出した。さらに、吹出口の外側に設置したゲルディエン社製大気イオンカウンタ(NKMH-103;北斗電子、兵庫県)を用いて、気流に含まれるマイナスイオンの数を推定した。
この実験では、コンプレッサ式ネブライザ(アトマイザ)(NE-C-28;オムロン株式会社、京都、日本)(内蔵水タンクの容量、7 mL;ミスト発生速度、0.35 mL/min;MMD、5 μm)を用いて、フルオレセインイソチオシアネート(以下、「FITC」という。)(富士フィルム和光純薬株式会社、大阪、日本)またはファージ粒子を含む液体試料を霧化した。ネブライザのノズルは、空気処理装置2から20cmの高さに設置し、ミストは四角い筐体部23内に向かって噴出させた。
第1回目の実験では、帯電していない空気処理装置2に向けてFITC水(100 μg/mL)を連続的に噴出させ、ミスト粒子が水面から跳ね返り、噴出力によって空気処理装置2外に弾かれることを目視で確認した。次に、異なる電圧(-1~-10kV)で空気処理装置2の電極板20を負に帯電させ、FITC水を30秒間噴出させて、各電圧で水面に捕捉されたミスト粒子の量(ミスト粒子から水面に移行したFITCの量)を測定した。水中のFITC量は、あらかじめ形成した光学濃度ベースの検量線から推定した。FITCミストの捕捉の様子は、青色発光ダイオード(旭電機、大阪)の照明下でビデオ撮影した。
ここで、放電とは、電界中の気体の絶縁破壊により、対向する極の間に電位差に応じた電流が発生することと定義されている。一方の極(電気を受ける側)に接地された導体があると、この導体が無制限(この実験では電圧印加装置の最大電流10mA)に電気を受けるので、放電が起こりやすくなる。電界中では、まずコロナ放電が発生し、印加電圧が高くなるか、あるいは極間の距離が短くなると、グロー放電(または表面放電)からブラシ状の放電へと変化し、両極間でアーク放電が発生して放電が停止する。本実施例の焦点は、電界中でのグロー・コロナ放電の発生であり、複数の負電荷を帯びた金属の尖頭突起部が、既報の原理に従って水面に向けてマイナスイオンとイオン風Iを発生させることである。
コロナ放電発生電界では、適切に帯電された非絶縁導体極は、適切な距離に置かれた反対側の極に対してコロナ放電を発生させ、二次的に周囲の空気中に多数の電荷を発生させ、これらの電荷は被捕集成分Xに付与され、その被捕集成分Xを帯電させることができる。この電界の中で、帯電した被捕集成分Xは反対側の電極に引き寄せられる。空気処理装置2の構成では、水面が正の電荷を持つ捕集極として機能したといえる。
ファージフリーのミスト粒子を捕らえる最初のアッセイでは、FITCを含んだ水をアトマイザから噴出させた。アトマイザからのミスト粒子を目視で確認することができた。実際に、ミスト粒子は水面に到達し、その表面から跳ね返ってきたのである。この方法により、ミストの跳ね返りを止めるために空気処理装置2にかけるべき最適な電圧を簡単かつ効果的に決定することができた。この方法では、ミストの跳ね返りを止めるために空気処理装置2に印加すべき最適な電圧を、簡単かつ効果的に決定することができた。本実施例においては、空気処理装置2にかける電圧が-8kVになると、ミスト粒子の跳ね返りが抑えられることがわかる。さらに、この電圧で空気処理装置2にFITCミストを連続的に注入すると、水に溶け込んだFITCの量が連続的に増加することがわかった。