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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081611
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/16 20160101AFI20230606BHJP
   H02P 21/26 20160101ALI20230606BHJP
   H02P 21/09 20160101ALI20230606BHJP
【FI】
H02P21/16
H02P21/26
H02P21/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195460
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】小沼 雄作
(72)【発明者】
【氏名】杉本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】林 孝亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505CC01
5H505DD05
5H505EE41
5H505EE42
5H505EE55
5H505GG02
5H505GG08
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ05
5H505JJ06
5H505JJ25
5H505LL14
5H505LL15
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL29
5H505LL34
(57)【要約】
【課題】二次抵抗値に誤差がある場合でも、振動現象を防止し、速度偏差が無い速度制御を実現できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】誘導モータの出力周波数、出力電圧及び出力電流を可変にする信号を前記誘導モータに出力する電力変換器と、電力変換器を制御する制御部とを有し、制御部は、出力電流から、一次電流の方向とそれに直交する方向を回転座標系とした制御軸における電圧、電流を演算し、電圧および電流から、第1の速度推定値と第2の速度推定値を演算し、第1の速度推定値から速度制御の演算をし、第2の速度推定値から一次周波数指令値を演算する電力変換装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導モータの出力周波数、出力電圧及び出力電流を可変にする信号を前記誘導モータに出力する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
前記出力電流から、一次電流の方向とそれに直交する方向を回転座標系とした制御軸における電圧、電流を演算し、
前記電圧および電流から、第1の速度推定値と第2の速度推定値を演算し、
前記第1の速度推定値から速度制御の演算をし、
前記第2の速度推定値から一次周波数指令値を演算する電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記第2の速度推定値からベクトル制御演算をする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
m軸の電圧指令値と電流検出値と、t軸の電流指令値と、m軸およびt軸の磁束指令値と、前記誘導モータの電気回路パラメータと、前記一次周波数指令値から前記第1の速度推定値を演算する電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
t軸の電圧指令値と電流検出値と、m軸の電流指令値と、m軸およびt軸の磁束指令値と、前記誘導モータの電気回路パラメータと、前記一次周波数指令値から前記第1の速度推定値を演算する電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
m軸およびt軸の電圧指令値と電流検出値から電力の外積を演算し、
m軸およびt軸の電流検出値と、前記誘導モータの電気回路パラメータと、前記第2の速度推定値と、前記一次周波数指令値から電力の外積モデルを演算し、
電力の外積と電力の外積モデルから前記第2の速度推定値を演算する電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
m軸およびt軸の電圧指令値と電流検出値から電力の内積を演算し、
m軸およびt軸の電流検出値と、前記誘導モータの電気回路パラメータと、前記第2の速度推定値と、前記一次周波数指令値から電力の内積モデルを演算し、
電力の内積と電力の内積モデルから前記第2の速度推定値を演算する電力変換装置。
【請求項7】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記誘導モータが低速域であると判定している電力変換装置。
【請求項8】
請求項4に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記誘導モータが中高速域であると判定している電力変換装置。
【請求項9】
請求項5に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記誘導モータが低速域であると判定している電力変換装置。
【請求項10】
請求項6に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記誘導モータが中高速域であると判定している電力変換装置。
【請求項11】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記電圧および電流と、前記第1の速度推定値、前記第2の速度推定値を、外部装置にフィードバックして解析してもらい、その解析に従い前記誘導モータの抵抗値やインダクタンス値を修正する電力変換装置。
【請求項12】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
低速域と中高速域の制御を切替える切替周波数値や、
速度推定値を演算するオブザーバ時定数や比例制御あるいは積分制御に設定する制御応答を、外部装置から設定もしくは変更する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術は、特許文献1に記載のように、一次電流の方向(t軸)とそれに直交する方向(m軸)を回転座標系の制御軸(mt軸)として、m軸の電圧指令値からm軸の誘導起電力値を推定し、磁束で除算することで(数式1)に従い速度推定値ωr0 ^を算出している。
【0003】
【数1】
ここに、vmc *:m軸の電圧指令値、ωs *:すべり周波数指令値、ω1 *:一次周波数指令値、it *:t軸の電流指令値、imc:m軸の電流検出値、R1 *:一次抵抗値の設定値、R2*: 一次側に換算した二次抵抗値の設定値、Lσ *:漏れインダクタンス値の設定値、M*:相互インダクタンス値の設定値、L2 *:二次インダクタンス値の設定値、Tobs:外乱オブザーバ時定数、TACR:電流制御遅れ相当の時定数、s:ラプラス演算子
【0004】
この技術により、(数式1)に用いる設定値R1 *と誘導モータの一次抵抗値R1に誤差がある場合でも、速度推定値ωr0 ^に推定誤差(ωr0 ^-ωr)は生じることなく、安定な速度制御が行える記述がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-182989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、誘導モータの一次抵抗値R1の誤差(R1 *-R1)に低感度ではある。しかし、(数式1)に用いる設定値R2 *と誘導モータの二次抵抗値R2に誤差(R2 *-R2)があると、すべり周波数指令値ωs *とすべり周波数ωsに誤差(ωs *-ωs)が生じ、誘導モータの速度推定値ωr0 ^に偏差や振動が発生する。その結果、モータ速度およびトルクにも振動が継続する。
【0007】
本発明の目的は、二次抵抗値に誤差がある場合でも、振動現象を防止し、速度偏差が無い速度制御を実現できる電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、誘導モータの出力周波数、出力電圧及び出力電流を可変にする信号を前記誘導モータに出力する電力変換器と、前記電力変換器を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、前記出力電流から、一次電流の方向とそれに直交する方向を回転座標系とした制御軸における電圧、電流を演算し、前記電圧および電流から、第1の速度推定値と第2の速度推定値を演算し、前記第1の速度推定値から速度制御の演算をし、前記第2の速度推定値から一次周波数指令値を演算する電力変換装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、二次抵抗値に誤差がある場合でも、誘導モータの速度やトルクの振動現象を防止し、速度偏差が無い速度制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電力変換装置と誘導モータとを備える実施例1における構成図。
図2】d-q軸のベクトル図。
図3】実施例1におけるm-t軸のベクトル図。
図4】従来技術を用いた場合の負荷運転特性(R1 *に誤差あり)。
図5】従来技術を用いた場合の負荷運転特性(R1 *およびR2 *に誤差あり)。
図6】実施例1における速度・周波数・位相演算部の構成図。
図7】実施例1における第2の速度推定演算部の構成図。
図8】実施例1における第1の速度推定演算部の構成図。
図9】実施例1を用いた場合の負荷運転特性(R1 *およびR2 *に誤差あり)。
図10】本発明の実施を検証するための構成図。
図11】電力変換装置と誘導モータとを有する実施例2における構成図。
図12】電力変換装置と誘導モータとを有する実施例3における構成図。
図13】実施例3における速度・周波数・位相演算部の構成図。
図14】実施例3における第2の速度推定演算部の構成図。
図15】実施例3における第1の速度推定演算部の構成図。
図16】電力変換装置と誘導モータとを有する実施例4における構成図。
図17】実施例4における速度・周波数・位相演算部の構成図。
図18】電力変換装置と誘導モータとIOTコントローラとを有する実施例5における構成図。
図19】電力変換装置と誘導モータと外部装置とを有する実施例6における構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施例を詳細に説明する。
【実施例0012】
図1は、電力変換装置と誘導モータとを備える実施例1における構成図を示す。本実施例は、誘導モータに速度センサを用いない速度センサレスベクトル制御で駆動する電力変換装置のドライブ制御に関する。
【0013】
また、本実施例は、誘導モータ内の巻線温度により変化する一次抵抗値や二次抵抗値にともなうトルク脈動の抑制や、速度指令値と回転速度の速度偏差をなくす、安定で高精度なモータ制御を含めた電力変換装置に関するものである。
【0014】
誘導モータ1は、磁束軸成分(d軸)の電流により発生する磁束φ2dと、磁束軸に直交するトルク軸成分(q軸)の電流iqによりトルクtmを発生する。
【0015】
電力変換器2は、スイッチング素子としての半導体素子を備える。電力変換器2は、3相交流の電圧指令値vu *、vv *、vw *を入力し、3相交流の電圧指令値vu *、vv *、vw *に比例した電圧値を出力する。電力変換器2の出力に基づいて、誘導モータ1は駆動され、誘導モータ1の出力電圧と出力周波数および出力電流は可変に制御される。スイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使うようにしてもよい。
【0016】
直流電源3は、電力変換器2に直流電圧および直流電流を供給する。
【0017】
電流検出器4は、誘導モータ1の3相の交流電流iu、iv、iwの検出値iuc、ivc、iwcを出力する。また電流検出器4は、誘導モータ1の3相の内の2相、例えば、U相とW相の相電流を検出し、交流条件(iu+iv+iw=0)からV相の線電流をiv=-(iu+iw)として求めてもよい。本実施例では、電流検出器4を、電力変換装置内に設けた例を示したが、電力変換装置の外部に設けてもよい。
【0018】
制御部は、以下に説明する座標変換部5、座標変換部6、速度・周波数・位相演算部7、基準位相演算部8、励磁電流・磁束設定部9、速度制御演算部10、座標変換部11、座標変換部12、mt軸ベクトル制御演算部13、座標変換部14、座標変換部15を備える。そして、制御部は、誘導モータ1の出力電圧値と出力周波数値および出力電流を可変に制御するように電力変換器2の出力を制御する。
【0019】
制御部は、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSP(Digital Signal Processor)などの半導体集積回路(演算制御手段)によって構成される。制御部は、いずれかまたは全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することができる。制御部のCPU(Central Processing Unit)が、メモリなどの記録装置に保持するプログラムを読み出して、上記した座標変換部5などの各部の処理を実行する。
【0020】
次に、制御部の各構成要素について、説明する。
【0021】
座標変換部5は、3相の交流電流iu、iv、iwの検出値iuc、ivc、iwcと位相推定値θdcからd軸およびq軸の電流検出値idc、iqcを出力する。
【0022】
座標変換部6は、d軸およびq軸の電流検出値idc、iqcと位相推定角θmtからm軸およびt軸の電流検出値imc、itcを出力する。
【0023】
速度・周波数・位相演算部7は、m軸およびt軸の電圧指令値vmc **、vtc **、m軸およびt軸の電流指令値im *、it *、m軸およびt軸の電流検出値imc、itc、m軸およびt軸の磁束指令値φm *、φt *、第2の速度推定値ωr ^、一次周波数指令値ω1 *および誘導モータ1の電気回路パラメータ(R1、R2’、Lσ、M、L2)に基づいて、誘導モータ1の第1の速度推定値ωr ^、すべり周波数指令値ωs *および位相推定値θdcを出力する。
【0024】
基準位相演算部8は、すべり周波数指令値ωs *を用いてm軸からd軸までの位相推定角θmtを出力する。
【0025】
励磁電流・磁束設定部9は、正極性である励磁電流指令値id *と、正極性であるd軸の二次磁束指令値φ2d *および、「0」であるq軸の二次磁束指令値φ2q *を出力する。
【0026】
速度制御演算部10は、速度指令値ωr *と速度推定値ωr ^の偏差(ωr *-ωr ^)からq軸の電流指令値iq *を出力する。
【0027】
座標変換部11は、d軸およびq軸の電流指令値id *、iq *と位相推定角θmtからm軸およびt軸の電流指令値im *、i *を出力する。
【0028】
座標変換部12は、d軸およびq軸の二次磁束指令値φ2d *、φ2q *と位相推定角θmtからm軸およびt軸の磁束指令値φm *、φt *を出力する。
【0029】
mt軸ベクトル制御演算部13は、m軸およびt軸の電流指令値im *、it *と電流検出値imc、itcの偏差である(im *-imc)、(it *-itc)からm軸およびt軸の電圧指令値vmc *、vtc *を出力する。
【0030】
座標変換部14は、m軸およびt軸の電圧指令値vmc *、vtc *と位相推定角θmtからd軸およびq軸の電圧指令値vdc *、vqc *を出力する。
【0031】
座標変換部15は、d軸およびq軸の電圧指令値vdc *、vqc *と位相推定値θdcから3相交流の電圧指令値vu *、vv *、vw *を出力する。
【0032】
最初に、本発明と関係する一次電流を基準とするmt軸について説明する。mt軸は回転座標系であり、制御軸である。図2は、dq軸上のベクトル図である。磁束の方向をd軸、d軸より90度(π/2)進んだ方向をq軸としている。ここで、d軸の電流idとq軸の電流iqおよび一次電流i1は(数式2)の関係にある。
【0033】
【数2】
【0034】
またidとi1の位相角θφは、d軸の電流idとq軸の電流iqから(数式3)を用いて演算する。
【0035】
【数3】
【0036】
図3は、mt軸のベクトル図である。一次電流の方向をt軸、このt軸と直交する方向をm軸としている。ここで、m軸の電流imとt軸の電流itおよび一次電流i1は(数式4)の関係にある。
【0037】
【数4】
【0038】
さらにm軸からd軸までの推定位相角θmtは(数式5)である。
【0039】
【数5】
【0040】
従来の技術である(数式1)に示す速度推定演算を用いた速度センサレス制御の基本動作について説明する。
【0041】
励磁電流・磁束設定部9は、誘導モータ1内でd軸の二次磁束値φ2dを発生させるために必要な電流指令値id *を出力する。また速度制御演算部10において、速度指令値ωr *に速度推定値ωr0 ^が追従するように、(数式6)に従いq軸の電流指令値iq *を演算する。
【0042】
【数6】
ここに、Kp_asr:速度制御の比例ゲイン、Ki_asr:速度制御の積分ゲイン
【0043】
mt軸ベクトル制御演算部13は、(数式7)に従い、m軸およびt軸の電流指令値im *、it *に電流検出値imc、itcが追従するようにPI(比例+積分)制御を行い、m軸およびt軸の電圧指令値vmc *、vtc *を演算し、電力変換器2の出力電圧を制御する。電圧指令値vmc *、vtc *は、m軸、t軸のフィードバック電圧成分である。
【0044】
【数7】
ここに、Kp_m:m軸の電流制御の比例ゲイン、Ki_m:m軸の電流制御の積分ゲイン、Kp_t:t軸の電流制御の比例ゲイン、Ki_t:t軸の電流制御の積分ゲイン
【0045】
基本動作の説明のため、速度・周波数・位相演算部7は、速度推定値ωr ^の代わりに(数式1)により速度推定値ωr0 ^を演算する。また、すべり周波数演算部71は(数式8)に従い、すべり周波数指令値ωs *を演算する。
【0046】
【数8】
ここに、T2 =L2/R2:二次時定数値、TACR:電流制御遅れ相当の時定数
【0047】
さらに、速度推定値ωr0 ^とすべり周波数指令値ωs *を用いて、(数式9)に従い、速度・周波数・位相演算部7は、一次周波数指令値ω1 *を演算する。
【0048】
【数9】
【0049】
位相推定演算部75は、(数式10)に従い誘導モータ1の磁束軸の位相θdcを演算する。
【0050】
【数10】
【0051】
磁束軸の位相θdの推定値である位相推定値θdcを制御の基準に、センサレス制御により演算する。以上が基本動作である。
【0052】
図4に、速度推定演算に従来技術である特許文献1を用いた場合の負荷運転特性を示す。この例では、(数式1)に用いる一次抵抗値の設定R1 *を誘導モータ1の実際の一次抵抗値R1の0.5倍に設定し、二次抵抗値の設定R2 *を、誘導モータ1の実際の二次抵抗値R2の1.0倍に設定している。誘導モータ1を低速域の1Hz(速度指令値ωr *)で運転する。同図におけるA点からB点までランプ状に負荷トルクを200%まで与えている。
【0053】
誘導モータ1の回転速度ωrと速度推定値ωr0 ^は一致しており、一次抵抗値の設定R1 *には低感度である。しかし、(数式1)に用いる二次抵抗値の設定R2*に誤差があると、センサレス制御は不安定になることがある。
【0054】
図5に、速度推定演算に(数式1)に用いる二次抵抗値の設定値R2 *を、誘導モータ1の二次抵抗値R2の0.5倍に設定した負荷運転特性を示す。
【0055】
誘導モータ1の回転速度ωrは定常的にも速度推定値ωr0 ^より低下し、図中に示すB点以降から誘導モータ1のトルクτmや回転速度ωrの振動が徐々に大きくなり、このような振動現象が発生する問題があった。
【0056】
これは(数式1)に示す速度推定演算がm軸の電圧情報のみ利用しており、トルクや回転速度を振動させる要因となっていた。この解決法として、速度制御演算にフィードバックする速度推定値ωr^と一次周波数指令値ω1 *にフィードバックする速度推定値ωr ^^の2種類を演算する。
【0057】
上述の振動はm軸とt軸の両方に含まれるため、電圧指令値(vmc **、vtc **)と電流検出値(imc、itc)を用いて、電力の外積を利用して第2の速度推定値ωr ^^を演算する。第2の速度推定値^^を用いて一次周波数指令値ω1 *を演算することで、二次抵抗値R2の誤差(R2 *-R2)をキャンセルするとともに振動現象を抑制する。
【0058】
さらに第1の速度推定演算にも前述の一次周波数指令値ω1 *を用いることで、m軸の誘導起電力を利用した速度推定値ωr ^は適正な値となり、精度よく速度制御演算にフィードバックすることができる。
【0059】
上述の理由で、本発明を用いれば、回転速度ωrの低下や振動現象を改善することができる。以下、本実施例の速度推定の技術について説明する。
【0060】
図6に、速度・周波数・位相演算部7のブロックを示す。すべり周波数演算部71はq軸の電流指令値iq *、d軸の二次磁束指令値φ2d *、相互インダクタンス値Mの設定値M*、および二次時定数T2の設定値T2 *を用いて、すべり周波数指令値ωs *を上述した(数式8)に従い演算する。
【0061】
特許文献1では、(数式1)より速度推定値ωr0 ^を演算した。本実施例では、第2の速度推定演算部72は、電力の外積を用いた第2の速度推定値ωr ^^を演算する。また、第1の速度推定演算部73は、m軸の誘導起電力を用いた第1の速度推定値ωr ^を演算する。
【0062】
加算部74には、すべり周波数指令値ωs *と第2の速度推定値ωr ^^が入力され、(数式11)により一次周波数指令値ω1 *を出力する。
【0063】
【数11】
【0064】
位相推定演算部75は、一次周波数指令値ω1 *が入力し、上述した(数式10)に従い位相推定値θdcを出力する。
【0065】
図7に、第2の速度推定演算部72の構成を示す。電力の外積の演算部721では、m軸およびt軸の電圧指令値vmc *、vtc *と、m軸およびt軸の電流検出値imc、itcを用いて、電力の外積値Ecp ^を(数式12)に従い演算する。
【0066】
【数12】
【0067】
電力の外積モデル演算部722では、m軸およびt軸の電流検出値imc、itc、第2の速度推定値ωr ^^、一次周波数指令値ω1 *、誘導モータ1の電気回路パラメータR2*、Lσ *、M*、L2 *、m軸およびt軸の磁束指令値φm *、φt *用いて、外積モデル値Ecp *を(数式13)に従い演算する。
【0068】
【数13】
【0069】
減算部723では、電力の外積値Ecp ^と外積モデル値Ecp *が入力され、その偏差であるΔEcpを出力する。減算部723の出力であるΔEcpはPI制御演算部724に入力され、P(比例)+I(積分)制御演算により(数式14)に従い第2の速度推定値ωr ^^を演算する。
【0070】
【数14】
ここに、Kp_omg:速度推定演算の比例ゲイン、Ki_omg:速度推定演算の積分ゲイン
【0071】
図8に、第1の速度推定演算部73の構成を示す。t軸の電流指令値it *は、電流制御遅れ相当の時定数TACRの一次遅れ演算部731に入力され、その出力it * tdに漏れインダクタンスLσに関係するゲイン732が乗じられ、一次周波数指令値ω1 *とともに乗算部733に入力され、漏れインダクタンスに関係する電圧降下が演算される。
【0072】
乗算部733の出力値とm軸の電圧指令値vmc *は加算部734に入力される。m軸の磁束指令値φm *は、一次側に換算した二次抵抗値R2*と相互インダクタンスMに関係するゲイン735が乗じられ、ゲイン735の出力は加算部734の出力とともに加算部736に入力される。
【0073】
m軸の電流検出値imcは、漏れインダクタンスLσとオブザーバ時定数Tobsおよび合成抵抗値Rσ *(R1 *+R2*)に関係するゲイン737が乗じられ、ゲイン737の出力は加算部736の出力とともに加算部738に入力される。
【0074】
加算部738の出力は速度推定応答のオブザーバ時定数Tobsを持つ一次遅れ演算部739に入力される。m軸の電流検出値imcは、漏れインダクタンスLσとオブザーバ時定数Tobsに関係するゲイン7310が乗じられる。ゲイン7310の出力は一次遅れ演算部739の出力とともに、減算部7311に入力される。
【0075】
t軸の磁束指令値φt *は相互インダクタンスMと二次インダクタンスL2に関係するゲイン7312が乗じられ、ゲイン7312の出力は減算部7311の出力とともに除算部7313に入力される。除算部7313の出力はー1であるゲイン7314を乗じて、第1の速度推定値ωr ^を(数式15)に従い演算する。
【0076】
【数15】
【0077】
なお、図8は、(数式15)を等価変換した機能ブロック図である。
【0078】
図9に、本実施例における負荷運転特性を示す(図5に用いた条件を設定している)。図5図9に開示した負荷特性を比較すれば、第1の速度推定値ωr ^は回転速度ωrに一致し、第2の速度推定値ωr ^^ > ωr ^の関係であることがわかる。一次周波数指令値ω1 *と一次周波数ω1は(数式16)の関係にある。
【0079】
【数16】
【0080】
(数式16)において、第2の速度推定値ωr ^^、すべり周波数指令値ωs *、回転速度ωrおよび、すべり周波数ωsを用いると、同式は(数式17)のように書き換えることができる。
【0081】
【数17】
【0082】
(数式17)を第2の速度推定値ωr ^^について整理すると(数式18)となる。
【0083】
【数18】
【0084】
つまり、二次抵抗値R2の設定値R2 *に関係するすべり周波数指令値ωs *とすべり周波数ωsとの誤差(ωs *-ωs)が第2の速度推定値ωr ^^に含まれることになる。第2の速度推定値ωr ^^を用いて一次周波数指令値ω1 *を演算するため一次周波数指令値ω1 *は適正値となり、前述の(数式15)より第1の速度推定値ωr ^を算出することで、第1の速度推定値ωr ^は回転速度ωrに一致することになる。
【0085】
第1の速度推定値ωr ^と第2の速度推定値ωr ^^は一致しないが、トルクが安定するB点以降では回転速度ωrは速度指令値ωr *図9では1Hz)に一致する。
【0086】
つまり、本実施例によれば、二次抵抗値R2の誤差(R2 *-R2)がある場合でも、誘導モータの速度やトルクの振動現象の防止、および、速度指令値と回転速度の差分(ωr *-ωr)である速度偏差を無くした高安定で高精度な速度制御を実現できる。
【0087】
上記の説明では、第1の速度推定値もしくは第2の速度推定値の演算は、電圧指令値や電流検出値を誘導モータの出力電圧や出力電流の例として説明した。第1の速度推定値もしくは第2の速度推定値の演算において、出力電圧として電圧検出値を、出力電流として電流指令値を使ってもよい。
【0088】
ここで、図10を用いて、本実施例を実施した場合の検証をするための構成について説明する。誘導モータ1を駆動する電力変換装置20に、電圧検出器21、電流検出器22を取り付け、誘導モータ1のシャフトにはエンコーダ23を取り付ける。
【0089】
mt軸の電圧・電流・磁束の演算部24には、第1ステップとして、電圧検出器21の出力である三相交流の電圧検出値(vuc、vvc、vwc)、三相交流の電流検出値(iuc、ivc、iwc)とエンコーダの出力である位置θが入力され、ベクトル電圧成分のvdc ^、vqc ^、ベクトル電流成分のidc ^、iqc ^と、位置θを微分した検出値ωrc、またベクトル電流成分よりすべり周波数の推定値ωs ^を演算する。
【0090】
さらに第2ステップとして、検出したベクトル電流成分のidc ^、iqc ^と誘導モータ1の電気回路パラメータ(汎用インバータに搭載されているオフライン・オートチューニングの結果あるいは設計値)を用いて、推定位相角θmt ^を(数式19)より、m軸およびt軸の電圧成分のvmc ^、vmc ^を(数式20)より、電流成分のimc ^、itc ^を(数式21)より、磁束成分のφm ^、φt ^を(数式22)より、それぞれ導出する。
【0091】
電力の外積の演算部25では、(数式12)、(数式13)に対応する(数式23)、(数式24)を用いて電力の外積値Ecp ^_est、Ecp *_estをそれぞれ演算する。これらEcp ^_estとEcp *_estが一致すれば本発明を採用していることが明白となる。また、(数式25)を用いた第2の速度推定値ωr ^^を算出して観測してもよい。
【0092】
【数19】
【0093】
【数20】
【0094】
【数21】
【0095】
【数22】
【0096】
【数23】
【0097】
【数24】
【0098】
【数25】
【実施例0099】
図11は、電力変換装置と誘導モータとを有する実施例2における構成図である。実施例1では、mt軸ベクトル制御演算部は、電圧指令値vmc *、vtc *を、m軸、t軸のフィードバック電圧成分として演算した例(フィードバック演算)である。本実施例はフィードバック演算とフィードフォワード演算を併用するベクトル制御演算を実行する例である。
【0100】
速度・周波数・位相演算部7aとmt軸ベクトル制御演算部13aは、それぞれ図1の速度・周波数・位相演算部7とmt軸ベクトル制御演算部13に相当するブロックである。図11において、誘導モータ1~座標変換部6、基準位相演算部8~座標変換部12、座標変換部14~座標変換部15は、図1と同一である。
【0101】
速度・周波数・位相演算部7aにおいて、図6の速度・周波数・位相演算部7で算出した第2の速度推定値ωr ^^と一次周波数指令値ω1 *を出力する。
【0102】
また、mt軸ベクトル制御演算部13aにおいて、d軸およびq軸の電流指令値id *、iq *を座標変換したm軸およびt軸の電流指令値im *、it *、誘導モータ1の電気回路パラメータ(R1 *、R2*、Lσ *、M*、L2 *)、m軸およびt軸の磁束指令値φm *、φ *、第2の速度推定値ωr ^^、一次周波数指令値ω1 *を用いて、(数式26)に従う。本実施例では、フィードフォワード演算としての電圧基準値vmc0 *、vmt0 *を演算する。
【0103】
【数26】
【0104】
また、mt軸ベクトル制御演算部13aには、m軸の電流指令値im *、m軸の電流検出値imc、t軸の電流指令値it *、t軸の電流検出値itcが入力される。
【0105】
ここでは(数式27)に従い、電流指令値im *、it *に電流検出値imc、itcが追従するようにPI(比例+積分)制御を行い、m軸およびt軸の電圧補正値Δvm *、Δvt *を出力する。m軸およびt軸の電圧補正値Δvm *、Δvt *は、フィードバック演算である。
【0106】
【数27】
【0107】
さらに(数式28)に従い電圧指令値vmc **、vtc **を演算した後、座標変したd軸およびq軸の電圧指令値vdc *、vqc *により、電力変換器2の出力電圧を制御する。
【0108】
【数28】
【0109】
本実施例によれば、mt軸のベクトル制御演算部にフィードフォワード演算を追加したことで、より安定した速度制御を実現することができる。
【実施例0110】
図12は、電力変換装置と誘導モータとを有する実施例3における構成図である。実施例1では、特に低速域において、第1の速度推定演算にはm軸の誘導起電力を利用し、第2速度推定演算には電力の外積を利用する速度推定方式であった。
【0111】
本実施例は、中高速域において、第1の速度推定演算は、t軸の誘導起電力を利用し、第2の速度推定演算には電力の内積を利用する速度推定演算をする。速度・周波数・位相演算部7bは、図1の速度・周波数・位相演算部7に相当するブロックである。図12において、誘導モータ1~座標変換部6、基準位相演算部8~座標変換部15は、図1と同一である。
【0112】
図13に、速度・周波数・位相演算部7bの構成を示す。すべり周波数演算部7b1、加算部7b4、位相推定演算部7b5は、図6のすべり周波数演算部71、加算部74、位相推定演算部75と同一である。
【0113】
本実施例では、第2の速度推定演算部7b2において、電力の内積を用いて第2の速度推定値ωr ^^ nを演算する。また、第1の速度推定演算部7b3において、t軸成分の誘導起電力を用いて第1の速度推定値ωr ^ nを演算する。
【0114】
加算部7b4では、すべり周波数指令値ωs *と第2の速度推定値ωr ^^ nが入力され、(数式29)により一次周波数指令値ω1 *を出力する。
【0115】
【数29】
【0116】
位相推定演算部7b5は、一次周波数指令値ω1 *が入力され、上述した(数式10)に従い位相推定値θdcを出力する。
【0117】
図14に、実施例3における第2の速度推定演算部7b2の構成を示す。電力の内積の演算部7b21において、m軸およびt軸の電圧指令値vmc *、vtc *と電流検出値imc、itcを用いて、電力の内積値Edp ^を(数式30)に従い演算する。
【0118】
【数30】
【0119】
電力の内積モデル演算部7b22では、m軸およびt軸の電流検出値imc、itc、第2の速度推定値ωr ^^ n、誘導モータ1の電気回路パラメータR1 *、R2 ’*、M*、L2*、m軸およびt軸の磁束指令値φm *、φt *用いて、内積モデル値Edp *を(数式31)に従い演算する。
【0120】
【数31】
【0121】
減算部7b23では、電力の内積値Edp ^と内積モデル値Edp *が入力され、その偏差であるΔEdpを出力する。減算部7b23の出力であるΔEdpにー1であるゲイン7b24を乗じて、PI制御演算部7b25に入力され、P(比例)+I(積分)制御演算により(数式32)に従い第2の速度推定値ωr ^^ nを演算する。
【0122】
【数32】
【0123】
図15に、実施例3における第1の速度推定演算部7b3の構成を示す。m軸の電流指令値im *は、電流制御遅れ相当の時定数TACRの一次遅れ演算部7b31に入力され、その一次遅れ演算部7b31の出力im * tdに漏れインダクタンスLσに関係するゲイン7b32が乗じられる。
【0124】
ゲイン7b32の出力が一次周波数指令値ω1 *とともに乗算部7b33に入力され、乗算部7b33では漏れインダクタンスに関係する電圧降下が演算される。
【0125】
乗算部7b33の出力値とt軸の電圧指令値vtc *は、減算部7b34に入力される。t軸の磁束指令値φt *は、一次側に換算した二次抵抗値R2*と相互インダクタンスM*に関係するゲイン7b35が乗じられる。ゲイン7b35の出力は減算部7b34の出力とともに加算部7b36に入力される。
【0126】
t軸の電流検出値itcは、漏れインダクタンスLσとオブザーバ時定数Tobsおよび合成抵抗値Rσ *に関係するゲイン7b37が乗じられ、ゲイン7b37の出力は加算部7b36の出力とともに加算部7b38に入力される。
【0127】
加算部7b38の出力は速度推定応答のオブザーバ時定数Tobsを持つ一次遅れ演算部7b39に入力される。
【0128】
t軸の電流検出値itcは、漏れインダクタンスLσとオブザーバ時定数Tobsに関係するゲイン7b310が乗じられ、ゲイン7b310の出力は一次遅れ演算部7b39とともに、減算部7b311に入力される。
【0129】
m軸の磁束指令値φm *は、相互インダクタンスMと二次インダクタンスL2に関係するゲイン7b312が乗じられ、ゲイン7b312の出力は減算部7b311の出力とともに除算部7b313に入力され、除算部7b313の出力は(数式33)に従い第1の速度推定値ωr ^ nを演算する。
【0130】
【数33】
【0131】
なお、図15は、(数式33)を等価変換した機能ブロック図である。
【0132】
(数式31)において第2項には漏れインダクタンス値Lσおよびその設定値Lσ *は含まれず、(数式33)においてはim *=0より漏れインダクタンス値に低感度となり、第1の速度推定値ωr ^ nおよび第2の速度推定値ωr ^^ nは、漏れインダクタンスの誤差にロバストとなり、安定で高精度な速度制御を実現することができる。
【実施例0133】
図16は、電力変換装置と誘導モータとを有する実施例4における構成図である。実施例1では、特に低速域において、m軸の起電力を用いて第1の速度推定値ωr ^を、電力の外積を利用して第2の速度推定値ωr ^^を演算する速度推定の例であった。
【0134】
本実施例は、低速域において第1の速度推定値ωr ^および第2の速度推定値ωr ^^を、中高速域において第1の速度推定値ωr ^ nおよび第2の速度推定値ωr ^^ nを用いる実施例である。
【0135】
速度・周波数・位相演算部7cは、図1の速度・周波数・位相演算部7に相当するブロックである。図16において、誘導モータ1~座標変換部6、基準位相演算部8~座標変換部15は、図1と同一である。
【0136】
図17に、速度・周波数・位相演算部7cの構成を示す。すべり周波数演算部7c1、加算部7c4、位相推定演算部7c5は、図6の71、74、75と同一である。
【0137】
本実施例では、電力の外積を利用した速度推定演算部72において、図7に示すPI制御演算部724であるPI制御の出力値ωr ^^を出力し、電力の内積を利用した速度推定演算部7b2において、図14に示すPI制御演算部7b25の出力値ωr ^^ nを出力する。
【0138】
切替演算部7c10において、低速域では速度推定値ωr ^^を、中高速域では速度推定値ωr ^^ nを選択し、どちらか一方を第2の速度推定値ωr ^^ nnとして出力する。
【0139】
また、m軸の誘導起電力を利用した速度推定演算部73において、図8に示すゲイン7314の出力値ωr ^を演算する。また、t軸の誘導起電力を利用した速度推定演算部7b3において、図15に示す除算部7b313の出力値ωr ^ nを出力する。
【0140】
切替演算部7c11において、低速域では速度推定値ωr ^を、中高速域では速度推定値ωr ^ nを選択し、どちらか一方を第1の速度推定値ωr ^ nnとして出力する。
【0141】
前述した低速域と中高速域とは、速度指令値ωr *の絶対値が定格回転数の10%程度以下の場合は低速域であると判定し、低速域に対応した速度推定値を選択するように切替演算部7c10、7c11が速度推定値を切り替える。
【0142】
速度指令値ωr *の絶対値が定格回転数の10%程度以上の場合は中高速域であると判定し、中高速域に対応した速度推定値を選択するように切替演算部7c10、7c11が速度推定値を切り替える。
【0143】
あるいは、一次抵抗値と換算した二次抵抗値の加算値に関係する降下電圧と、誘導起電力に関係する降下電圧を比較して、(数式34)が成立するかどうかを制御部が判定するようにしてもよい。具体的には、(数式34)が成立する場合は誘導モータが低速域であり切替演算部7c10、7c11が、低速域に対応した速度推定値を選択する。それ以外の(数式34)が成立しない場合は、誘導モータが中高速域であり切替演算部7c10、7c11が、中高速域に対応した速度推定値を選択するように制御してもよい。
【0144】
【数34】
【0145】
本実施例のように、低速域と高速域において、速度推定値を切替えることにより、全速度域で、安定で高精度な速度制御を実現することができる。
【実施例0146】
図18は、電力変換装置と誘導モータとIOT(Internet of Things)コントローラとを有する実施例5における構成図である。実施例1から実施例4では、電力変換器のコントローラ(マイクロコンピユータなど)に誘導モータ1の電気回路パラメータを設定する構成である。
【0147】
本実施例は、制御の状態量を上位の外部装置であるIOTコントローラにフィードバックし、機械学習した電気回路パラメータを電力変換器の制御部であるコントローラに再設定する方式である。
【0148】
図18における誘導モータ1~座標変換部15は図1と同一である。16は機械学習を実行するIOTコントローラである。
【0149】
本実施例は、電圧指令値vmc *、vtc *と電流検出値imc、itc、第1の速度推定値ωr ^および第2の速度推定値ωr ^^、すべり周波数指令値ωs *を、上位のIOTコントローラ16にフィードバックする。IOTコントローラ16は、電流検出波形などから機械学習する。IOTコントローラ16が機械学習した電気回路パラメータ(R1 *、R2 *、Lσ *、M*、L2 *)を電力変換器2の制御部であるコントローラに再設定する方式である。
【0150】
本実施例を用いても、実施例1より安定で高精度な制御特性を実現することができる。
【実施例0151】
図19は、電力変換装置と誘導モータと外部装置とを有する実施例6における構成図である。本実施例は、誘導モータ駆動システムに本実施例を適用したものである。図19において、ソフトウェア20aは、図1の制御部などと同一である。
【0152】
図1の構成要素である誘導モータ1は、電力変換装置20により駆動される。電力変換装置20には、図1の座標変換部5、座標変換部6、速度・周波数・位相演算部7、基準位相演算部8~座標変換部15がソフトウェア20aとして実装される。また、図1の電力変換器2、直流電源3、電流検出器4がハードウェアとして実装されている。
【0153】
またデジタル・オペレータ20b、パーソナル・コンピュータ28、タブレット29、スマートフォン30などの上位の外部装置により、ソフトウェア20aの「低速域/中高速域の切替周波数であるωchg26」、「速度推定値を演算するオブザーバ時定数や比例制御あるいは積分制御に設定する制御応答であるωc27」を設定・変更することができる。
【0154】
本実施例を誘導モータ駆動システムに適用すれば、速度センサレスベクトル制御において安定で高精度な制御特性を実現することができる。また「低速域/中高速域の切替周波数26であるωchg」、「速度推定の制御応答27であるωc」は、プログラマブル・ロジック・コントローラ、コンピュータと接続するローカル・エリア・ネットワーク、IOTコントローラなどのフィールドバス上に設定してもよい。
【0155】
さらに、本実施例では実施例1を用いて開示してあるが、実施例2から実施例5であっても良い。
【0156】
ここまでの実施例1から実施例6においては、電力の外積値Ecp ^である(数式12)と電力の外積モデル値Ecp *である(数式13)、およびm軸の誘導起電力を利用した速度推定演算式である(数式15)において、演算に電流検出値imc、imcを用いたが、電流指令値im *、it *を代用してもよい。
【0157】
また、電力の内積値Edp ^である(数式30)と電力の内積モデル値Edp *である(数式31)、およびt軸の誘導起電力を利用した速度推定演算式である(数式33)において、演算に電流検出値imc、imcを用いたが、電流指令値im *、it *を代用してもよい。
【0158】
さらに、実施例1から実施例6の実施例においては、m軸およびt軸の電圧指令値をvmc *、vtc *である(数式7)あるいはvmc **、vtc **である(数式28)を演算した。それに限らず、電流指令値im *、it *と電流検出値imc、itcからベクトル制御演算に使用する(数式35)に示す中間的な電流指令値im **、it **を作成し、第2の速度推定値ωr ^^、一次周波数指令値ω1 *および誘導モータ1の電気回路パラメータを用いて(数式36)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0159】
【数35】
ここに、Kp_m2:m軸の電流制御の比例ゲイン、Kim_2:m軸の電流制御の積分ゲイン、Kp_t2:t軸の電流制御の比例ゲイン、Kit_2:t軸の電流制御の積分ゲイン
【0160】
【数36】
ここに、Tm:m軸の電気時定数(Lσ/R*)、Tt:t軸の電気時定数(Lσ/R*)、R*:=R1 *+ R2 ’*
【0161】
あるいは、mt軸のベクトル制御演算部は、電流指令値im *、it *と電流検出値imc、itcから、ベクトル制御演算に使用するm軸の比例演算成分の電圧補正値Δvm_p *、m軸の積分演算成分の電圧補正値Δvm_i *、t軸の比例演算成分の電圧修正値Δvt_p *、t軸の積分演算成分の電圧修正値Δvt_i * を(数式37)により作成し、第2の速度値推定ωr ^^、一次周波数指令値ω1 *および誘導モータ1の電気回路パラメータを用いた(数式38)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0162】
【数37】
ここに、Kp_m3:m軸の電流制御の比例ゲイン、Kim_3:m軸の電流制御の積分ゲイン、Kp_t3:t軸の電流制御の比例ゲイン、Kit_3:t軸の電流制御の積分ゲイン
【0163】
【数38】
【0164】
なお実施例1から実施例5の実施例において、電力変換器2を構成するスイッチング素子としては、Si(シリコン)半導体素子であっても、SiC(シリコンカーバイト)やGaN(ガリュームナイトライド)などのワイドバンドギャップ半導体素子であってもよい。
【符号の説明】
【0165】
1…誘導モータ、2…電力変換器、3…直流電源、4…電流検出器、5…座標変換部、6…座標変換部、7、7a、7b、7c…速度・周波数・位相演算部、71…すべり周波数演算部、72、7b2…第2の速度推定演算部、73、7b3…第1の速度推定演算部、7c10、7c11…切替演算部、8…基準位相演算部、9…励磁電流・磁束設定部、10…速度制御演算部、11…座標変換部、12…座標変換部、13…mt軸ベクトル制御演算部、14…座標変換部、15…座標変換部、20…電力変換装置、20a…電力変換装置のソフトウェア、20b…電力変換装置のデジタル・オペレータ、21…電圧検出器、22…電流検出器、23…エンコーダ、24…mt軸の電圧・電流・磁束の演算部、25…電力の外積の計算部、26…所定の低速域/中高速域の切替周波数、27…速度推定演算の制御応答、28…パーソナル・コンピュータ、29…タブレット、30…スマートフォン、id *…d軸の電流指令値、iq *…q軸の電流指令値、idc…d軸の電流検出値、iqc…q軸の電流検出値、vdc *、 vdc **…d軸の電圧指令値、vqc *、vqc **…q軸の電圧指令値、φ2d *…d軸の二次磁束指令値、φ2q *…q軸の二次磁束指令値、im *…m軸の電流指令値、it *…t軸の電流指令値、imc…m軸の電流検出値、itc…t軸の電流検出値、vmc **、vmc **、vmc ***、vmc ****…m軸の電圧指令値、vtc *、vtc **、vtc ***、vmc ****…t軸の電圧指令値、φm *…m軸の磁束指令値、φt *…t軸の磁束指令値、ωr *…速度指令値、ωr…誘導モータの回転速度、ωr ^、ωr ^ n、ωr ^ nn…第1の速度推定値、ωr ^^、ωr ^^ n、ωr ^^ nn…第2の速度推定値、ωs *…すべり周波数指令値、ω1 *…一次周波数指令値、θmt…d軸とm軸との位相角である位相推定角、θdc…位相推定値、Ecp^…電力の外積値、Ecp*…電力の外積モデル値、Edp^…電力の内積値、Edp*…電力の内積モデル値、vu、vv、vv…三相の交流電圧指令値、iu、iv、iv…三相の交流電流、iuc、ivc、ivc…三相の交流電流の検出値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19