(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081616
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】有機溶媒の不純物除去方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
B01J20/26 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195468
(22)【出願日】2021-12-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
(72)【発明者】
【氏名】藤村 侑
(72)【発明者】
【氏名】中馬 高明
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AB07A
4G066AB13A
4G066AC14B
4G066AC17B
4G066BA03
4G066BA16
4G066BA22
4G066CA21
4G066DA20
(57)【要約】
【課題】機械部品、電子部品の製造及び洗浄工程、あるいは化学合成のためなどに用いられる有機溶媒中の不純物を高度に除去する。
【解決手段】有機溶媒から不純物を除去するための除去材であって、非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とする高分子材料よりなる有機溶媒の不純物除去材。この高分子材料は、荷電基として、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を有することが好ましい。この有機溶媒の不純物除去材に、有機溶媒を接触させる有機溶媒の不純物除去方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒から不純物を除去するための除去材であって、非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とする高分子材料よりなることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【請求項2】
請求項1において、前記有機溶媒の含水率が1,000ppm以下であることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【請求項3】
請求項1又は2おいて、前記高分子材料が、荷電基として、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を有することを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記高分子材料が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸に由来する骨格を主骨格とすることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、ATRチャートにおけるメチル基の吸収:Mとベンゼンの吸収:Bとの比:M/B、又は、カルボキシル基の吸収:Cとベンゼンの吸収:Bとの比:C/Bが1以上であることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記不純物が、粒子径30nm以下のシリカ微粒子であることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の有機溶媒の不純物除去材に、有機溶媒を接触させることを特徴とする有機溶媒の不純物除去方法。
【請求項8】
含水率が1,000ppmを超える有機溶媒を脱水処理して含水率1,000ppm以下とする脱水工程と、脱水された有機溶媒を請求項1ないし6のいずれか1項に記載の有機溶媒の不純物除去材に接着させる不純物除去工程とを有する有機溶媒の不純物除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品、電子部品の製造及び洗浄工程、あるいは化学合成のためなどに用いられる有機溶媒中の不純物を除去する有機溶媒の不純物除去材と有機溶媒の不純物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス等において使用される超純水の製造・供給システムは、サブシステムの末端に微粒子除去用のクロスフロー型の限外濾過膜(UF膜)装置を設置し、水回収率90~99%で運転することで、ナノメートルサイズの微粒子の除去を行っている。また、半導体・電子材料洗浄用の洗浄機直前に、ユースポイントポリッシャーとして、ミニサブシステムを設置し、最終段に微粒子除去用のUF膜装置を設置したり、ユースポイントにおける洗浄機内のノズル直前に微粒子除去用のUF膜を設置し、より小さいサイズの微粒子を高度に除去することも検討されている。
【0003】
近年、半導体製造プロセスの発展により、水中の微粒子管理が益々厳しくなってきており、例えば、国際半導体技術ロードマップ(ITRS:International Technology Roadmap for Semiconductors)では、2019年には、粒子径>11.9nmの保証値として、<1000個/Lとすることが求められている。
【0004】
一方で、有機溶媒中の微粒子除去については、上記超純水のように、明確な微粒子管理は設定されていない。しかし、半導体構造の微細化に伴って、パターン倒壊を防ぐために、表面張力の小さな有機溶媒がウエハ洗浄時に用いられるようになってきており、その結果として、有機溶媒中の微粒子等の除去ニーズは高まってきている。
【0005】
従来、超純水製造装置において、水中の微粒子などの不純物を高度に除去して純度を高めるための技術として、次のような提案がなされている。
【0006】
特許文献1には、超純水供給装置を構成する前処理装置、一次純水装置、二次純水装置(サブシステム)または回収装置のいずれかに膜分離手段を設け、その後段にアミン溶出の低減処理を施した逆浸透膜を配置することが記載されている。逆浸透膜により微粒子を除去することも可能であるが、以下のことから、逆浸透膜を設けるのは好ましくない。即ち、逆浸透膜を運転するために昇圧しなければならず、透過水量も0.75MPaの圧力で、1m3/m2/day程度と少ない。ところが、UF膜を使用している現行システムでは、0.1MPaの圧力で、7m3/m2/dayと50倍以上の水量があり、逆浸透膜でUF膜に匹敵する水量をまかなうためには膨大な膜面積が必要となる。また、昇圧ポンプを駆動することにより、新たな微粒子や金属類が発生する等のリスクが生じる。
【0007】
特許文献2には、超純水ラインのUF膜の後段にアニオン官能基を有する機能性材料または逆浸透膜を配置することが記載されているが、このアニオン官能基を有する機能性材料または逆浸透膜は、アミン類の低減が目的であり、本発明で除去対象とする粒子径10nm以下の微粒子の除去には適さない。また、逆浸透膜を配置することは、上記特許文献1におけるのと同様に好ましくない。
特許文献3にも、サブシステムにおいて、最終段のUF膜装置の前に逆浸透膜装置を設けることが記載されているが、上記特許文献1と同様の問題がある。
【0008】
特許文献4には、超純水製造ラインに使用する膜モジュールにプレフィルターを内蔵させて粒子を除去することが記載されているが、分離対象となる粒子径が小さくなるほど、透水性が小さくなるという課題がある。
【0009】
特許文献5には、電気脱イオン装置の処理水を、イオン交換基で修飾していない濾過膜を有したUF膜濾過装置で濾過処理した後、イオン交換基で修飾したMF膜を有した膜濾過装置処理することが記載されているが、イオン交換基としては、スルホン酸基やイミノジ酢酸基といったカチオン交換基が例示されているのみである。イオン交換基の定義には、アニオン交換基も含まれるがその種別や除去対象に関する記載はない。
【0010】
特許文献6には、サブシステムにおけるUF膜装置の後段にアニオン吸着膜装置を配置することが記載され、除去対象をシリカとした実験結果が報告されているが、アニオン交換基の種類や微粒子のサイズに関しては記載がない。イオン状シリカを除去する場合には強アニオン交換基が必要であることが一般的に知られている(ダイヤイオン1イオン交換樹脂・合成吸着材マニュアル、三菱化学株式会社、p15)ことから、特許文献5でも強アニオン交換基を有する膜が使用されていると考えられる。
【0011】
特許文献7には、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を含み、かつ、陰イオン交換容量が0.01~10ミリ当量/gであるポリケトン多孔膜が記載されており、このポリケトン多孔膜は、半導体・電子部品製造、バイオ医薬品分野、ケミカル分野、食品工業分野の製造プロセスにおいて、微粒子、ゲル、ウイルスなどの不純物を効率的に除去することができることが記載されている。また、10nm微粒子や多孔膜の孔径未満のアニオン粒子の除去が可能であることを示唆する記載もある。
しかし、特許文献7には、このポリケトン多孔膜を超純水製造プロセスに適用することは記載されていない。
特許文献8には、このようなポリケトン多孔膜を超純水製造プロセスに適用することが記載されているが、有機溶媒中の微粒子、金属、イオン等の不純物の除去については言及していない。
【0012】
上記のとおり、従来、電子部品の製造又は洗浄等に用いられる超純水の製造システムにおいて、水中の不純物の除去についての提案はなされているが、このような用途における有機溶媒中の不純物(微粒子、金属、イオン)を超純水の要求レベルまで除去する材料ないしは装置についての提案はなされていない。
また、電子部品の製造及び洗浄用途以外においても、例えば、機械部品の製造及び洗浄工程、あるいは化学合成においても、製品の歩留まり向上や不純物の影響の排除を目的として、有機溶媒中に含まれる不純物、特に微粒子を高度に除去することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3906684号公報
【特許文献2】特許第4508469号公報
【特許文献3】特開平5-138167号公報
【特許文献4】特許第3059238号公報
【特許文献5】特開2004-283710号公報
【特許文献6】特開平10-216721号公報
【特許文献7】特開2014-173013号公報
【特許文献8】特開2016-155052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術に鑑み、機械部品、電子部品の製造及び洗浄工程、あるいは化学合成のためなどに用いられる有機溶媒中の不純物を高度に除去することができる有機溶媒の不純物除去材及び有機溶媒の不純物除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、有機溶媒に対して、非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とする高分子材料が、高度な不純物除去性能を発揮することを見出した。
即ち、本発明者らは、本発明に到る過程で、以下のような検討を行った。
従来の水中の不純物除去は、不純物とは逆の荷電を有する官能基で吸着除去することが基本であった。そこで、本発明者らは、有機溶媒中であっても同様の考えで、逆荷電基での除去を実施したが、不純物除去率は低かった。このため、基材となる高分子材料について種々検討を重ね、基材となる高分子材料として、非芳香族系の骨格を有するものを用いることで、芳香族系骨格からのπ電子の影響を排除し、吸着除去を妨げる要素を排除することができること、また処理する有機溶媒の含水率が1%(10,000ppm)以下、特に1,000ppm以下であると、除去効果が高くなり、これまで20%以下であった不純物除去率を40%以上に向上させることができることを見出した。
【0016】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0017】
[1] 有機溶媒から不純物を除去するための除去材であって、非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とする高分子材料よりなることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【0018】
[2] [1]において、前記有機溶媒の含水率が1,000ppm以下であることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【0019】
[3] [1]又は[2]において、前記高分子材料が、荷電基として、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を有することを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【0020】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記高分子材料が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸に由来する骨格を主骨格とすることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【0021】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、ATRチャートにおけるメチル基の吸収:Mとベンゼンの吸収:Bとの比:M/B、又は、カルボキシル基の吸収:Cとベンゼンの吸収:Bとの比:C/Bが1以上であることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【0022】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記不純物が、粒子径30nm以下のシリカ微粒子であることを特徴とする有機溶媒の不純物除去材。
【0023】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載の有機溶媒の不純物除去材に、有機溶媒を接触させることを特徴とする有機溶媒の不純物除去方法。
【0024】
[8] 含水率が1,000ppmを超える有機溶媒を脱水処理して含水率1,000ppm以下とする脱水工程と、脱水された有機溶媒を[1]ないし[6]のいずれかに記載の有機溶媒の不純物除去材に接着させる不純物除去工程とを有する有機溶媒の不純物除去方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、機械部品、電子部品の製造及び洗浄工程、あるいは化学合成のためなどに用いられる有機溶媒から、微粒子、金属、イオンなどの不純物を高度にかつ効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例及び比較例で不純物除去材として用いた高分子材料のATRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0028】
本発明の有機溶媒の不純物除去材は、非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とする高分子材料よりなるものである。
非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とする高分子材料は、芳香族系骨格によるπ電子の影響が小さく、有機溶媒の不純物除去能に優れる。
なお、本発明における非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とする高分子材料とは、主たる骨格部分が非芳香族化合物に基づくものであればよく、骨格同士の架橋部分は芳香族化合物に基づくものであつてもよい。
【0029】
高分子材料としては、例えば、ポリ((メタ)アクリル酸-ジビニルベンゼン)等を骨格とするポリ(メタ)アクリル酸-スチレン系高分子材料;ポリ(メタクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル-二メタクリル酸エチレン)、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル-トリメチロールプロパントリメタクリレート)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等を骨格とする(メタ)アクリル系高分子材料、ポリアクリル酸エステル等を骨格とするアクリル系イオン交換樹脂、ポリアクリルアミド等を骨格とするアクリル系イオン交換樹脂;ポリ(ビニルアルコール-トリアリルイソシアヌレート)等を骨格とするポリビニルアルコール系高分子材料;ポリ(2-ヒドロキシエチルビニルエーテル-ジエチレングリコールビニルエーテル)、ポリ(クロロエチルビニルエーテル-トリエチレングリコールビニルエーテル)等を骨格とするポリビニルエーテル系高分子材料等が挙げられる。
【0030】
これらの高分子材料の中でも、工業的に多用されることから、ポリ(メタ)アクリル酸-スチレン系高分子材料、ポリアクリル酸-スチレン系高分子材料、(メタ)アクリル系高分子材料、アクリル系高分子材料等のアクリル酸及び/又はメタクリル酸に由来する骨格を主骨格とするものが好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸-スチレン系高分子材料が特に好ましい。
【0031】
高分子材料の形態には特に制限はなく、多孔質の平膜や中空糸膜、粒子状、繊維状の糸や不織布が挙げられる。平膜や不織布は折り畳んでプリーツ形状にしてもよく、糸は巻き回して糸巻きフィルターにしてもよい。
【0032】
これらの高分子材料は荷電基を有することが好ましい。荷電基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、水酸基、フェノール基、ピリジン基、アミド基などがあるがこの限りではない。これらの官能基はH型、OH型だけでなく、Cl、Naなどの塩型であってもよい。本発明では、これらの官能基が少なくとも一種類以上導入された高分子材料を使用してもよいし、それぞれ異なった官能基が導入された高分子材料を複数種用いて、異なる荷電基をもつ混合高分子材料としてもよい。
これらの荷電基のうち、不純物除去能の観点から、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、カルボキシル基が好ましく、4級アンモニウム基が特に好ましい。
【0033】
高分子材料が、非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とすることは、ATR(Attenuated Total Reflection:全反射測定)法による測定で確認することができる。
即ち、ATR法による吸収測定チャートで、ベンゼン等の芳香族化合物に基づく吸収が、非芳香族化合物に基づく吸収よりも小さいものは、非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とすると評価することができる。
具体的には、後掲の実施例の項に記載の方法で測定されるATRチャートにおけるメチル基の吸収:Mとベンゼンの吸収:Bとの比:M/B、又は、カルボキシル基の吸収:Cとベンゼンの吸収:Bとの比:C/Bが1以上であるものは、非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とすると評価することができ、本発明で用いる高分子材料として好適である。
このM/B又はC/Bの値は、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.5以上である。
【0034】
このような本発明の不純物除去材で除去する有機溶媒中の不純物としては、各種の無機微粒子、有機微粒子や金属微粒子、イオン、ゲル、ウイルスなどが挙げられるが、本発明は特に粒子径30nm以下の微粒子、とりわけシリカ微粒子の除去に有効である。なお、有機溶媒中の不純物濃度については特に制限はないが、通常1~1,000ppm程度である。
【0035】
不純物除去材と有機溶媒とを接触させるには、有機溶媒を収容した容器内に不純物除去材を投入し、浸漬させる方法のほか、不純物除去材を収容したカラムに有機溶媒を通液する方法や、不純物除去材が多孔膜である場合、有機溶媒を透過させる形態にて接触させる方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の処理対象とする有機溶媒としては、特に限定はないが、その代表的なものを挙げれば次のものがある。
メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロルエチレン、パクロルエチレン、1,1,1-トリクロルエタン、フロン113、クロルベンゼン、o-、m-、p-ジクロルベンゼン、o-、m-、p-ジクロルベンゼン、o-、m-、p-クロルトルエンなどのハロゲン化炭化水素;エチルエーテルなどのエーテル類;PO、BOなどのエポキシ類;ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類;アセトン、MEK、MIBKなどのケトン類;酢酸エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどのエステル類;N-メチル-2-ピロリドン(NMP);上記有機溶媒の2種以上の混合溶媒。
【0037】
本発明は、特に、イソプロピルアルコール(IPA)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)など、半導体製造プロセスで使用される有機溶媒の処理に好適である。
【0038】
本発明においては、このような有機溶媒を含水率10,000ppm以下、特に1,000ppm以下として不純物除去材と接触させることが、不純物除去効率の観点から好ましい。
即ち、後掲の実施例3,4に示されるように、非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とする高分子材料を用いても、処理する有機溶媒の含水率が10,000ppmを超えると不純物除去効果が劣る傾向がある。このため、処理する有機溶媒の含水率は、10,000ppm以下、特に1,000ppm以下とすることが好ましい。通常、有機溶媒の含水率の下限は50ppm程度である。
【0039】
有機溶媒の含水率を上記上限以下とするには、有機溶媒を無水硫酸ナトリウム等の脱水材で処理する方法、膜で脱水する方法、含水率の低い有機溶媒と混合する方法等が挙げられる。これらは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
従って、本発明により有機溶媒中の不純物を除去する方法としては、本発明の不純物除去材と有機溶媒とを接触させるに先立ち、上記のような有機溶媒の脱水工程を行う方法が挙げられる。
【実施例0041】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の効果をより具体的に説明する。以下の実施例は本発明の一態様であり、処理対象の有機溶媒、不純物除去材、除去対象の微粒子等は、以下の実施例で用いたものに何ら限定されるものではない。
【0042】
[シリカ微粒子除去]
以下の実施例及び比較例では、次の不純物除去材と試験液調製材料を用い、下記の試験方法で接触させた。
【0043】
<不純物除去材>
JA800:三菱ケミカル株式会社製
「リライトJA800」
骨格:ポリ(アクリル酸-ジビニルベンゼン)
荷電基:4級アンモニウム基
C104E:Purolite Corp.製
「Purolite(登録商標)104E」
骨格:ポリ(アクリル酸-ジビニルベンゼン)
荷電基:カルボキシル基
KR-FA:栗田工業株式会社製
「KR-FA」
骨格:ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)
荷電基:4級アンモニウム基
【0044】
<試験液調製材料>
有機溶媒:イソプロピルアルコール(関東化学社製電子工業用ELグレードIPA)
有機溶媒含水率:40,000~70,000ppm、1,000ppm以下
(カールフィッシャー法により測定)
モデル微粒子:コアフロント社製シリカ微粒子「sicastar」(粒子径30nm)
含水率調整用純水:超純水(比抵抗18.2MΩ・cm以上)
【0045】
<試験方法>
シリカ微粒子50ppmを含むイソプロピルアルコール100mLに不純物除去材10gを浸漬させ、30分間振盪撹拌し、除去操作を行った。その後、イソプロピルアルコールをサンプリングし、モリブデン青吸光光度法によってイソプロピルアルコール中のシリカ濃度を測定した。除去操作前後のイソプロピルアルコール中のシリカ濃度から、シリカ微粒子除去率を算出した。
【0046】
[実施例1~4,比較例1,2]
表1に示す含水率に調整したIPAを表1に示す不純物除去材で処理し、シリカ微粒子除去率を求め、結果を表1に示した。
【0047】
【0048】
表1より、アクリル酸のような非芳香族骨格を主骨格とする高分子材料を用いることで、シリカ微粒子の除去率を20%以上にできることが分かる。また、有機溶媒の含水率を1,000ppm以下にすることによって、シリカ微粒子の除去能が更に向上することが分かる。
【0049】
[リン酸除去]
以下の実施例では、次の不純物除去材と試験液調製材料を用い、下記の試験方法で接触させた。
【0050】
<不純物除去材>
JA800:三菱ケミカル株式会社製
「リライトJA800」
骨格:ポリ(アクリル酸-ジビニルベンゼン)
荷電基:4級アンモニウム基
【0051】
<試験液調製材料>
有機溶媒:イソプロピルアルコール(関東化学社製電子工業用ELグレードIPA)
有機溶媒含水率:20,000~30,000ppm、1,000ppm以下
(カールフィッシャー法により測定)
リン酸:特級リン酸(85%以上)(キシダ化学)
含水率調整用純水:超純水(比抵抗18.2MΩ・cm以上)
【0052】
<試験方法>
特級リン酸100ppm(リン酸として85ppm)を含むイソプロピルアルコール100mLに不純物除去材10gを浸漬させ、30分間振盪撹拌し、除去操作を行った。その後、イソプロピルアルコールをサンプリングし、イオンクロマト法によってイソプロピルアルコール中のリン酸濃度を測定した。除去操作前後のイソプロピルアルコール中のリン酸濃度から、リン酸除去率を算出した。
【0053】
[実施例5,6]
表2に示す含水率に調整したIPAを表2に示す不純物除去材で処理し、リン酸除去率を求め、結果を表2に示した。
【0054】
【0055】
表2より、アクリル酸のような非芳香族骨格を主骨格とする高分子材料を用いることで、リン酸の除去率を20%以上にできることが分かる。また、有機溶媒の含水率を1,000ppm以下にすることによって、リン酸の除去能が更に向上することが分かる。
【0056】
[赤外吸収スペクトル測定]
・装置:
Cary 630 FTIR分光光度計(アジレント・テクノロジー株式会社製)
・試料:
上記実施例及び比較例で不純物除去材として用いた高分子材料を乳鉢ですりつぶして、ATR法にて測定した。
・結果:
不純物除去材として用いた高分子材料のATRチャートを
図1に示す。
スチレン骨格や架橋剤のジビニルベンゼンは、パラ置換ベンゼンであり、波数800~850cm
-1に吸収がある。メチル基は4級アミンを構成するが、メチル基等のアルカンは波数1400~1500
-1に強い吸収がある。また、カルボキシル基やエステルは、1650~1750cm
-1に強い吸収がある。
荷電基である4級アンモニウム基を特徴付ける波数を1480cm
-1、カルボキシル基を特徴付ける波数を1700cm
-1とし、パラ置換ベンゼンを特徴付ける波数826cm
-1に対する吸光度の比を評価した結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
表3に示すように、KR-FAは、M/B、C/Bがいずれも1未満であるのに対して、JA800はM/Bが1以上であり、C104EはC/Bが1以上となっており、非芳香族性が強いことが分かる。
なお、上記の測定において、今回使用した波数は、芳香族の骨格に起因する部分と官能基に起因する部分を抽出したものであり、同様の目的で異なる波数を選択することも可能である。
請求項1又は2おいて、前記高分子材料が、荷電基として、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を有することを特徴とする有機溶媒の不純物除去方法。
非芳香族化合物に由来する骨格を主骨格とする高分子材料よりなる有機溶媒の不純物除去材に、有機溶媒を接触させることにより、該有機溶媒中の不純物を除去する方法であって、
該不純物が、粒子径30nm以下のシリカ微粒子であることを特徴とする有機溶媒の不純物除去方法。
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記高分子材料が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸に由来する骨格を主骨格とすることを特徴とする有機溶媒の不純物除去方法。
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記有機溶媒の不純物除去材のATRチャートにおけるメチル基の吸収:Mとベンゼンの吸収:Bとの比:M/B、又は、カルボキシル基の吸収:Cとベンゼンの吸収:Bとの比:C/Bが1以上であることを特徴とする有機溶媒の不純物除去方法。