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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081631
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】漏油防止構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/027 20120101AFI20230606BHJP
【FI】
F16H57/027
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195487
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 大司
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB01
3J063AC01
3J063BA13
3J063BB01
3J063CD41
3J063XG07
3J063XG16
3J063XG24
3J063XG41
3J063XG52
(57)【要約】
【課題】既存の減速機の筐体を何ら改変することなく後付けでき、エアブリーザから漏れ出る油でその周囲が汚損されるのを確実に防止できる漏油防止構造を提供する。
【解決手段】減速機7の筐体51内の圧力上昇を緩和する際に潤滑油54による筐体51の汚損を防ぐ漏油防止構造であって、筐体51の外側面上に設けられる接続部56に着脱可能に連結される管体2と、この管体2の筐体51側でない端部2aに設けられるエアブリーザ57と、上部に開口4aを有する容器体4からなり、その底面4bを貫通して管体2が配置され、かつこの管体2の周側面に容器体4が一体に固設されてなる漏油受部3と、を備え、筐体51の天面55の最下位置からエアブリーザ57の鉛直下側端部までの高低差は15cm以上である漏油防止構造1による。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機の筐体内の圧力上昇を緩和する際に潤滑油による前記筐体の汚損を防ぐ漏油防止構造であって、
前記筐体の外側面上に設けられる接続部に着脱可能に連結される管体と、
前記管体の前記筐体側でない端部に設けられるエアブリーザと、
上部に開口を有する容器体からなり、その底面を貫通して前記管体が配置され、かつ前記管体の周側面に前記容器体が一体に固設されてなる漏油受部と、を備え、
前記筐体の天面の最下位置から前記エアブリーザの鉛直下側端部までの高低差は15cm以上であることを特徴とする漏油防止構造。
【請求項2】
前記管体及び前記容器体は金属製であり、
前記管体に前記容器体が溶接されていることを特徴とする請求項1に記載の漏油防止構造。
【請求項3】
前記漏油防止構造を平面視した場合に、
前記エアブリーザの周縁と前記漏油受部の前記開口の間は隙間を有し、
前記隙間の大きさが前記エアブリーザの半径以上である領域を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の漏油防止構造。
【請求項4】
前記接続部は筒状をなし、その内側面に雌ネジ部を備え、
前記管体において前記接続部に連結される端部側の外側面は雄ネジ部を備え、
前記接続部と前記管体の間はシール材を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の漏油防止構造。
【請求項5】
前記漏油受部は、その中空部内に収容される漏油吸収材を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の漏油防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機の筐体内の圧力上昇を緩和する際に、筐体の表面等が漏出した潤滑油により汚損されるのを防止するための漏油防止構造に関する。
【0002】
はじめに、図4及び図5を参照しながら、従来のエアブリーザを備えた減速機の概要について説明する。
図4は従来技術に係るエアブリーザを備えた減速機の鉛直方向断面図である。また、図5はエアブリーザの作用を説明するための要部を拡大して示す鉛直方向断面図である。
図4に示すように、減速機50は通常、筐体51内においてシャフト52a~52dによって歯数の異なる歯車53a~53fが軸支され、これらの歯車53a~53fが組み合わされることで、所望のシャフトに入力された回転速度を減速して出力するよう構成されている。
このような減速機50では、個々の歯車53a~53fが噛み合う際の摩擦を軽減するために、筐体51内において歯車53a~53f及びシャフト52a~52dの一部が潤滑油54に浸漬された状態で収容されている。
このような減速機50では、外気温や減速機50の運転状況により潤滑油54の温度の上昇が起こる。そして、潤滑油54の温度上昇に伴って潤滑油54が揮発するなどして筐体51内の圧力上昇し、減速機50の安全な運転に支障が生じる場合がある。
このため、減速機50は通常、筐体51内の圧力を大気圧に近付けた状態に維持しておくために、筐体51にエアブリーザ57を備えている。
【0003】
より具体的には図4及び図5に示すように、減速機50は通常、その天面55や側面の上方側にエアブリーザ57を取設するための接続部56を備えており、この接続部56に例えば螺着される接続管58を介してエアブリーザ57が着脱可能に又は着脱不可な状態で設置されている。
また、エアブリーザ57は、例えば図5に示すように、接続部56に設けられる接続管58の上端側に螺着されるエアー導出部59を備えており、このエアー導出部59に形成されるエアー導出孔60から筐体51内の空気を外部に導出することができる。
つまり、図4に示す減速機50の筐体51内において圧力が上昇すると、筐体51内の空気Pが、図5に示すように、接続管58及びエアブリーザ57のエアー導出部59を通じて外部に放出される。この結果、減速機50の筐体51内の圧力は、大気圧に近い状態に維持される。
【0004】
他方、減速機50の筐体51から外部に放出される空気は、通常潤滑油54を含んでおり、このような空気をエアー導出部59のエアー導出孔60からそのまま放出すると、エアブリーザ57の周囲が潤滑油54により汚損されてしまう。
このため、エアブリーザ57は例えば図5に示すように、エアー導出部59に設けられ、エアー導出孔60を閉塞することなく被覆するキャップ62を備えている。
ただし、エアー導出部59がキャップ62を備えていても、エアー導出孔60から空気とともに筐体51内に収容される潤滑油54の一部が放出されてしまうため、依然としてエアブリーザ57の周囲が漏れ出た潤滑油54により汚損されるという課題があった。
このような事情に鑑み、エアブリーザ57を構成するエアー導出部59は、エアー導出孔60を囲むようにさらにフィルタ受部59aを備えており、このフィルタ受部59aに短筒状のフィルタ61を備えている。
この結果、エアー導出部59におけるエアー導出孔60から潤滑油54を含んだ空気が導出された際に、潤滑油54の一部又は全部をフィルタ61により吸着して除去することができる。
【0005】
ところが、減速機50の運転状況や使用される潤滑油54の性質によっては、筐体51内において潤滑油54の液位の急激な上昇が起こる場合があり、筐体51内の空気が放出される際に、多量の潤滑油54が空気とともに放出されてしまう場合がある。
この場合、図5に示すように、エアブリーザ57内に収容されるフィルタ61で除去し切れなかった潤滑油Qが、エアブリーザ57の周囲である筐体51の天面55に漏れ出てこれらを汚損するという課題が生じてしまっていた。
上述のような課題に対処するための先願としては、例えば以下に示すようなものが知られている。
【0006】
特許文献1には「減速機の内圧上昇抑制構造」という名称で、減速機の内圧上昇を抑制するための構造に関する発明が開示されている。
特許文献1の図11には、減速機の筐体である収容体6を貫通する連通孔13に設けられ、筐体内の空気を大気中に逃すバルブ70の基部に取設される受け皿85が開示されている。また、この受け皿85は、バルブ70から漏れ出た潤滑油を受け止めるためのものである。
そして、特許文献1に開示される発明が上述のような受け皿85を備える場合は、同文献の図11に示すカバー80Cが受け止めた潤滑油がカバー80Cから垂れても、この垂れた潤滑油を受け皿85によって受け止めて、潤滑油の流出を抑制できるという効果が発揮される。
【0007】
特許文献2には「パワーディバイダの油漏れ防止構造」という名称で、建設機械に設けられるエンジンと油圧ポンプとを連結するパワーディバイダの油漏れ防止構造に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される発明であるパワーディバイダの油漏れ防止構造は、内燃機関によって回転駆動される歯車が収容されるハウジング内に、この歯車の潤滑油が貯留され、このハウジングの上部には、上記潤滑油を供給し、かつハウジング内の空間を大気に開放する略L字状の管路が設けられ、この管路は、ハウジングの一方の側壁からハウジングの内部空間に挿入され、軸線方向一端部が内部空間に臨んで開放する水平管と、この水平管のハウジング外に突出した軸線方向他端部から上方に屈曲して連なる立上がり管とを有し、この立上がり管の上端部にはエアブリーザが装着されるパワーディバイダにおいて、水平管は、上記一方の側壁に内部空間を挟んで対向する他方の側壁に形成される凹所に軸線方向一端部が嵌まり込み、この軸線方向一端部には下方に向けて開口する透孔が形成され、上記一方の側壁の内壁面に垂直な軸線に対して軸線方向一端部が軸線方向他端部よりも下方となるように予め定める角度を成して傾斜して設けられることを特徴とするものである。
上述のような特許文献2に開示される発明によれば、パワーディバイダが備えられる例えば作業機械が最大限傾斜した状態であっても、水平管は、水平または軸線方向一端部が軸線方向他端部よりも下方となる状態にあるので、管路内の潤滑油は、透孔からハウジングの内部空間に流れ落ち、潤滑油が管路内に溜まることがない。また管路の透孔からエアブリーザまでの距離を大きくして、潤滑油が透孔から管路内に侵入しても、エアブリーザから外部に押し出されにくい。さらに、水平管の軸線は、歯車に向かっていないので、撒上げられる潤滑油が水平管の透孔から深部に入り込むことがない。このように、特許文献2に開示される発明によれば、1つの管路によって、潤滑油が管路を介して外部に漏れ出ることを確実に防ぐことができる。
【0008】
特許文献3には「立形回転機の軸受装置」という名称で、軸受けの軸貫通部からの油漏れを防止するシール機構を備えた立形回転機の軸受装置に関する考案が開示されている。
特許文献3に開示される考案である立形回転機の軸受装置は、回転軸を支承する軸受機構が内蔵された油槽と、上記回転軸の貫通部からの油漏れを防止するためのシール空気導入機構および導入されたシール空気を再び外部に排出すると共に、該シール空気に含まれる油を捕獲するエアブリーザを有するシール空気排出機構を備えた立形回転機の軸受装置において、上記エアブリーザに至るシール空気に含まれる油を捕獲するオイルトラップを設け、かつこのオイルトラップおよび上記エアブリーザによって捕獲された油を、上記シール空気排出管とは別個に上記油槽に戻す油戻り管を設けたことを特徴とするものである。
上述のような特許文献3に開示される考案によれば、シール空気に含まれる油滴をエアブリーザにより手前に設置したオイルトラップで捕獲し、油戻り管で油槽に戻すよう構成したことで、エアブリーザが目詰まりすることなく、かつエアブリーザ管の通風抵抗も増大することなく安定した動作により十分なシール効果を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-190317号公報
【特許文献2】特開平10-169760号公報
【特許文献3】実全昭60-121528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の特許文献1に開示される発明の場合は、受け皿85(特許文献1の図11を参照)を備えることで、カバー80Cから垂れた油によりバルブ70の周囲が汚損されるのを防止できると考えられるものの、筐体内の油の液位上昇の程度が大きい場合は、受け皿85を備えていても完全に漏油を防げない可能性があった。
【0011】
特許文献2に開示される発明の場合は、エアブリーザからの油の漏出を好適に防止できると考えられるものの、例えば先の図4及び図5に示すような既存の減速機50において当該発明を実施しようすると、筐体の内部構造までも改変する必要があり、その作業が極めて煩雑な上、減速機50を改変するためのコストが嵩むという課題があった。
さらに、先の図4及び図5に示すような既存の減速機50を、特許文献2に開示される発明を備えた減速機に交換する場合は、設備投資に要するコストが一層嵩むという課題があった。
【0012】
特許文献3に開示される考案の場合も、エアブリーザからの油の漏出を好適に防止できると考えられるものの、上述の特許文献2に開示される場合と同様の課題を有する。
さらに、特許文献3に開示される考案の場合は、エアブリーザを含む漏油防止構造が複雑化するため、そのメンテナンスに手間がかかるという課題もある。
さらに、特許文献3に開示される考案では、エアブリーザからの漏出が起こらない理由が、オイルトラップが正常に機能しているからなのか、あるいはオイルトラップに意図しない閉塞が起きているからなのかを容易に判別することができない。
そして、特に後者の場合は、軸受装置を安全に運転することができないという致命的な不具合が生じる懸念があった。
【0013】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、既存の減速機の筐体を何ら改変することなく後付けでき、かつエアブリーザからの漏油を起き難くすることができ、さらにエアブリーザからの漏油が起きた場合でも減速機の筐体やその周囲が汚損されるのを防止できる漏油防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための第1の発明である漏油防止構造は、減速機の筐体内の圧力上昇を緩和する際に潤滑油による筐体の汚損を防ぐ漏油防止構造であって、筐体の外側面上に設けられる接続部に着脱可能に連結される管体と、この管体の筐体側でない端部に設けられるエアブリーザと、上部に開口を有する容器体からなり、その底面を貫通して管体が配置され、かつこの管体の周側面に容器体が一体に固設されてなる漏油受部と、を備え、筐体の天面の最下位置からエアブリーザの鉛直下側端部までの高低差は15cm以上であることを特徴とするものである。
上記構成の第1の発明において、管体は、減速機の筐体から鉛直上方にエアブリーザを離間させた状態で保持するという作用を有する。加えて、減速機の筐体の天面の最下位置からエアブリーザの鉛直下側端部までの高低差を15cm以上に設定しておくことで、減速機の筐体において潤滑油の液位の大幅な上昇が起きた場合でも、エアブリーザから潤滑油が溢れ出るのを好適に抑制するという作用を有する。
また、エアブリーザは、減速機の筐体内の圧力が上昇した際に、筐体内の空気の一部を筐体の外に導出して、筐体内の気圧を大気圧に近い状態に保つという作用を有する。
さらに、漏油受部を構成する容器体は、エアブリーザから漏れ出た潤滑油を受け止めて収容するという作用を有する。また、この容器体の底面を貫通して配される管体に上述の容器体が一体に固設されることで、容器体に収容される潤滑油が管体と容器体の接合部分から漏れ出るのを防ぐという作用を有する。加えて、管体と容器体が一体化していることで、減速機の筐体に対して管体着脱する際に、併せて容器体も筐体に対して着脱することができるので、漏油受部の取扱いを容易にするという作用を有する。
【0015】
第2の発明は、上述の第1の発明であって、管体及び容器体は金属製であり、管体に容器体が溶接されていることを特徴とするものである。
上記構成の第2の発明は、上述の第1の発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第2の発明において管体及び容器体をともに金属製により構成するとともに、管体に容器体を溶接して一体化することで、それぞれの構成要素の強度、耐熱性及び耐久性が高まるとともに、これらの接合部の強度も高まるという作用を有する。
この場合、減速機の運転に伴って筐体に継続的に振動が作用する場合でも、管体や容器体が破損したり、これらの接合部に隙間が生じたりする等の不具合が生じるのを防ぐという作用を有する。
【0016】
第3の発明は、上述の第1又は第2の発明であって、漏油防止構造を平面視した場合に、エアブリーザの周縁と漏油受部の開口の間は隙間を有し(ただし、漏油受部の開口はエアブリーザの周縁の外側に配されている)、この隙間の大きさがエアブリーザの半径以上である領域を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による作用と同じ作用を有する。また、上述の第3の発明において漏油防止構造を平面視した際に、エアブリーザの周縁と漏油受部の開口の間が隙間を有しているということは、エアブリーザの全てが、漏油受部を構成する容器体上に配されていることを意味する。この場合、エアブリーザから空気とともに潤滑油が漏れ出た場合に、漏れ出た潤滑油の全てを容器体で受け止めることができる。
さらに、第3の発明では漏油防止構造を平面視した場合に、エアブリーザの周縁と漏油受部の開口の隙間の大きさが、エアブリーザの半径以上である領域を備えていることで、この部分から容器体の底面側を覗き込んで目視によりその内部(底面側)の様子を確認することができる。
つまり、第3の発明が上述のような隙間を有することで、容器体の底面側が視認可能になり、これによりエアブリーザからの漏油の有無を容易に確認することが可能になる。
【0017】
第4の発明は、上述の第1乃至第3のいずれかの発明であって、接続部は筒状をなし、その内側面に雌ネジ部を備え、管体において接続部に連結される端部側の外側面は雄ネジ部を備え、接続部と管体の間はシール材を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第4の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による作用と同じ作用を有する。また、上述の第4の発明では、上端側にエアブリーザを備えるとともに、その胴部に漏油受部を備える管体を、筐体側に設けられる接続部に螺着して取設することができる。この場合、接続部と管体の螺合部分から、筐体内に収容される潤滑油が漏れ出るのを抑制することができる。
さらに、第4の発明では、筐体側の接続部と管体の螺合部分にシール材が介設されていることで、減速機の運転に伴って筐体に継続的に振動が作用しても、筐体側の接続部と管体の螺合部分から潤滑油が筐体の外に漏出するのを抑制するという作用を有する。
【0018】
第5の発明は、上述の第1乃至第4のいずれかの発明であって、漏油受部は、その中空部内に収容される漏油吸収材を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第5の発明は、上述の第1乃至第4のそれぞれの発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第5の発明では、漏油受部がその中空部内に漏油吸収材を備えていることで、エアブリーザから漏れ出て漏油受部を構成する容器体内に収容される潤滑油を、漏油吸収材に吸収させた状態で保持することができる。
この場合、漏油受部の清掃作業は、漏油受部内に収容される漏油吸収材の交換作業になる。
【発明の効果】
【0019】
上述のような第1の発明によれば、減速機の筐体の天面の最下位置からエアブリーザの鉛直下側端部までの高低差として15cm以上を確保することで、筐体内に収容される潤滑油の液面が大きく上昇した場合でも、エアブリーザから潤滑油を漏出し難くすることができる。
つまり、第1の発明によれば、減速機の筐体の内部構造を改変したり、エアブリーザの下流側にオイルトラップを設けることなしに、エアブリーザから潤滑油が漏れ出るリスクを確実に低減することができる。
さらに、エアブリーザを支持する管体に一体に漏油受部が固設されていることで、エアブリーザから漏れ出て漏油受部に収容された潤滑油が、管体と漏油受部の接合部分から外に漏れ出るのを防止できる。
この場合、減速機の天面やエアブリーザの周辺が、エアブリーザから漏れ出た潤滑油で汚損されるのを確実に防止できる。
【0020】
第2の発明は、上述の第1の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第2の発明によれば、漏油受部を構成する容器体と管体がともに金属製であり、かつこれらが溶接により一体化されていることで、第2の発明に係る漏油防止構造の強度、耐熱性と及び耐久性を向上させることができる。
よって、第2の発明によれば、減速機の運転に伴い第2の発明に係る漏油防止構造に継続的に振動が作用した場合でも、管体と漏油受部の接合部分に隙間が生じる恐れがないので、漏油受部に収容された潤滑油がこれらの接合部分から外部に漏れ出すこともない。
この結果、第2の発明によれば、減速機の天面やエアブリーザの周辺が、エアブリーザから漏れ出た潤滑油により汚損されるのを一層確実に防ぐことができる。
【0021】
第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第3の発明によれば、エアブリーザの周縁と漏油受部の開口との隙間から、漏油受部の底縁側を覗き込んで目視により確認することができる。この場合、エアブリーザからの潤滑油の漏出の有無、並びに漏出量を容易に確認することができる。
さらに、エアブリーザからの潤滑油の漏出の有無の確認並びに、漏出量の確認が容易に行えることで、減速機内に生じた異常な状態を容易に察知することができる。
つまり、通常通り減速機を運転しているにもかかわらず、潤滑油の漏出量が通常より少ない又はない場合は、筐体内の潤滑油が不足している可能性がある。
他方、通常通り減速機を運転しているにも関わらず、潤滑油の漏出量が通常より多い場合は、筐体内の潤滑油が過剰であったり、歯車等の異常により減速機の筐体内において異常な発熱が起こっていたりする可能性がある。
よって、第3の発明の発明によれば、減速機の筐体内から溢れ出る潤滑油によって筐体やエアブリーザ周辺が汚損されるのを確実に防止しつつ、減速機の内部の様子を間接的に監視することができる。
【0022】
第4の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第4の発明によれば、減速機の運転に伴って漏油防止構造を構成する管体に継続的に振動が作用した場合でも、管体と筐体側の接続部の螺合部分に緩みが生じるのを防ぐことができる。
この場合、管体と減速機の筐体側の接続部の螺合部分から筐体内の潤滑油が漏出するのを好適に防ぐことができる。
【0023】
第5の発明は、上述の第1乃至第4のそれぞれの発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第5の発明によれば、減速機の筐体内の潤滑油がエアブリーザから溢れ出て漏油受部に収容される場合に、漏油受部内の潤滑油を漏油吸収材に吸収した状態で保持することができる。
この場合、潤滑油を吸収した漏油吸収材を交換するだけで、第5の発明に係る漏油受部の清掃作業を完了することができる。
よって、第5の発明によれば、そのメンテナンス作業を簡便化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る漏油防止構造を備えた減速機の鉛直方向断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る漏油防止構造の要部を拡大して示す鉛直方向断面図である。
図3】本発明の実施形態の変形例に係る漏油防止構造の要部を拡大して示す鉛直方向断面図である。
図4】従来技術に係るエアブリーザを備えた減速機の鉛直方向断面図である。
図5】エアブリーザの作用を説明するための要部を拡大して示す鉛直方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る漏油防止構造及びそれを備えた減速機について図1乃至図3を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
[1-1;本発明の基本構成について]
はじめに、図1及び図2を参照しながら、本発明の実施形態に係る漏油防止構造及びそれを備える減速機について説明する。
図1は本発明の実施形態に係る漏油防止構造を備えた減速機の鉛直方向断面図である。また、図2は本発明の実施形態に係る漏油防止構造の要部を拡大して示す鉛直方向断面図である。なお、先の図4及び図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施形態に係る減速機7は、先の図4及び図5に示す減速機50におけるエアブリーザ57及び接続管58を、本実施形態に係る漏油防止構造1に置き換えてなるものである。
【0027】
また、本実施形態に係る漏油防止構造1は、減速機7の筐体51内の圧力上昇を緩和するために設けられ、エアブリーザ57を備えている。
より具体的には、本実施形態に係る漏油防止構造1は、減速機7の筐体51の外側面上に突設される接続部56に着脱可能に連結される管体2と、この管体2の筐体51側でない上端2aに着脱可能に又は着脱不可に設けられるエアブリーザ57と、管体2の胴部に一体に固設される漏油受部3と、を備えてなるものである。
また、上述のような漏油防止構造1において漏油受部3は、上部に開口4aを有する容器体4の底面4bに貫通孔4cが形成されるとともに、この貫通孔4cに管体2が挿通され、さらに管体2の周側面に容器体4の底面4bが一体に固設されてなるものである。
さらに、上述のような漏油防止構造1では、図2に示すように、減速機7の筐体51の最下位置からエアブリーザ57の鉛直下側端部57aまでの高低差Hが15cm以上に設定されている。
【0028】
なお、本実施形態に係る減速機7では、漏油防止構造1を筐体51の天面55側に設ける場合を例に挙げて説明しているが、筐体51の側面でかつ天面55寄りに漏油防止構造1を突設してもよい。この場合も、減速機7の筐体51の最下位置からエアブリーザ57の鉛直下側端部までの高低差Hが15cm以上となるよう管体2の長さを設定すればよい。
さらに、本実施形態に係る減速機7では筐体51の最下位置からエアブリーザ57の鉛直下側端部までの高低差Hの上限値については特に設定していないが、15cmを超えて大幅に大きく設定しておくことのメリットは特にないと考えられる。
【0029】
[1-2;本発明の基本構成による作用・効果について]
上述のような本実施形態に係る漏油防止構造1によれば、減速機7の筐体51の天面55から鉛直上方側にエアブリーザ57を離間させた状態で保持しておくことができる。
この場合、減速機7の筐体51内おいて潤滑油の温度上昇が起こってその液位が大きく上昇した場合でも、エアブリーザ57のエアー導出孔60から潤滑油54が溢れ出るのを好適に抑制することができる。
さらに、本実施形態に係る漏油防止構造1では、エアブリーザ57から潤滑油54が溢れ出た場合でも、溢れ出た潤滑油54を漏油受部3で受け止めて保持しておくことができる。
さらに、本実施形態に係る漏油防止構造1では、漏油受部3を構成する容器体4が管体2の周側面上に一体に固設されているので、漏油受部3に収容される潤滑油54が管体2と容器体4の接合部から外部に漏れ出る心配がない。
この結果、本実施形態に係る漏油防止構造1によれば、減速機7の筐体51の天面55やエアブリーザ57の周辺が、エアブリーザ57から溢れ出た潤滑油54で汚損されるのを確実に防止できる。
【0030】
加えて、本実施形態に係る漏油防止構造1によれば、管体2に漏油受部3が固設されているので、減速機7の筐体51から管体2を取り外した際に、漏油受部3も一緒に取り外すことができる。これにより、筐体51への本実施形態に係る漏油防止構造1の着脱作業を簡便化することができる。
さらに、上述のような本実施形態に係る漏油防止構造1は、既存の減速機7の筐体51に容易に取設することができる。つまり、本実施形態に係る漏油防止構造1は、先の図4及び図5に示す従来技術に係る減速機7における筐体51に何ら変更を加えることなく取設することができる。
よって、本実施形態に係る漏油防止構造1によれば、既存の減速機50をそのまま使用しつつ、その筐体51の天面55やエアブリーザ57の周辺の潤滑油54による汚損を確実に防止できる。
【0031】
[1-3;本発明の細部構造について]
本実施形態に係る漏油防止構造1では、漏油受部3を構成する容器体4及び管体2を共に金属製にするとともに、管体2の周側面に容器体4を溶接してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、本実施形態に係る漏油防止構造1における管体2と容器体4の接合部に、図1及び図2に示すような溶接痕4dが形成される。
そしてこの場合は、実施形態に係る漏油防止構造1における管体2や容器体4を例えば合成樹脂により構成する場合と比べて、これらの強度、耐熱性及び耐久性を向上させることができる。また、これらの接合方法として溶接を採用することで、これらの接合強度を大幅に高めることもできる。
より具体的には、管体2の周側面上に容器体4を螺着してこれらを一体化することもできると考えられるが、この場合は、減速機7の運転に伴って発生する振動が管体2と容器体4の接合部分に継続的に作用した際に、これらの接合部分に緩みが生じてしまう懸念がある。
そして、管体2と容器体4の接合部分に緩みが生じた場合は、漏油受部3に収容される潤滑油54が、管体2と容器体4の接合部分に生じた隙間から外部に漏出してしまう懸念がある。
他方、本実施形態に係る漏油防止構造1において、管体2に容器体4が溶接される場合は、上述のような不具合は起こらない。
よって、管体2に容器体4を溶接して一体化する場合は、漏油受部3において保持される潤滑油54が漏油受部3から漏れ出て、筐体51の天面55や、管体2の基部周辺が汚損されるのを確実に防止できる。
【0032】
ただし、管体2の周側面上に容器体4を螺着する場合で、かつこれらの接合部に例えば合成樹脂製等からなるシール材を介設する場合は、管体2と容器体4の接合部の緩みを防止できる場合がある。
よって、管体2と容器体4の接合部に上述のようなシール材を介設する場合は、管体2の周側面上に容器体4を螺着してもよい。
【0033】
また、本実施形態に係る漏油防止構造1では、この漏油防止構造1を平面視した際に、図2に示すように、エアブリーザ57の周縁57bと漏油受部3の開口4aの間に隙間Xを形成しておくとともに、この隙間Xの大きさをエアブリーザの半径以上となるよう設定しておいてもよい(任意選択構成要素)。ただし、漏油受部3の開口4a位置の内側にエアブリーザ57の周縁57bが配設される。
この場合、エアブリーザ57の周縁57bと漏油受部3の開口4aの間に形成され、エアブリーザ57の半径以上の大きさを有する隙間Xから、漏油受部3の内部の様子を覗き見て確認することができる。
この場合、エアブリーザ57からの潤滑油54の漏出の有無、並びに潤滑油54の漏出量を容易に確認することができる。
【0034】
そして、エアブリーザ57からの潤滑油54の漏出の有無、並びに潤滑油54の漏出量を確認することで、管体2や7エアブリーザ57内部の閉塞の有無や、減速機7の筐体51内の状態を間接的に監視することもできる。
つまり、エアブリーザ57からの潤滑油54の漏出が起きているという事実から、管体2や7エアブリーザ57に閉塞が起こっていないことを確認することができる。
また、本実施形態に係る漏油防止構造1における漏油受部3を定期的に観察していて、例えば恒常的にある程度の量の潤滑油54の漏出が認められる場合、減速機7の運転状況に大幅な変更がないにも関わらず、エアブリーザ57からの潤滑油54の漏出が止まる、あるいは急激な減少が起こった場合は、筐体51内の潤滑油54の量が不足している可能性がある。
さらに、例えば恒常的にある程度の量の潤滑油54の漏出が認められる場合で、減速機7の運転状況の大幅な変更がないにも関わらず、潤滑油54の漏出量が増えた場合は、筐体51内において何らかの不具合が生じて、潤滑油54の急激な温度上昇が起きている可能性がある。
このように、エアブリーザ57からの漏油の有無、及び漏油量をこまめに観察することで、減速機7に生じた不具合が致命的な状況に至る前に、点検やメンテナンスを実施できる可能性がある。
【0035】
したがって、本実施形態に係る漏油防止構造1において、漏油受部3内を目視により確認可能に構成しておくことで、漏油受部3の清掃の要否を容易に判断できる上、減速機7の異常発見も容易になる。
この結果、本実施形態に係る漏油防止構造1を備えた減速機7を安定した状態で継続的に運転することができるというメリットを有する。
【0036】
また、本実施形態に係る漏油防止構造1を減速機7の筐体51に取設する際の取設構造として、例えば図1及び図2に示すような形態を採用してもよい。
すなわち、図1及び図2に示すように、減速機7の筐体51に突設される接続部56を筒体56aにしてその内側に雌ネジ部56bを備えるとともに、管体2の下端2b側の外側面に雄ネジ部2cを備え、これらの螺着部分に例えば合成樹脂製のシール材5を介設してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、減速機7の運転に伴って本実施形態に係る漏油防止構造1の管体2と筐体51側の接続部56の連結部分に継続的に振動が作用しても、これらの間に緩みが生じるのを好適に防ぐことができる。
この結果、筐体51側の接続部56と管体2の連結部分から、筐体51内に収容される潤滑油54が漏出するのを防ぐことができる。
よって、筐体51側の接続部56に管体2を螺着するとともに、これらの間にシール材5を介設しておくことで、接続部56と管体2の連結部分から潤滑油54が漏出して、筐体51の天面55や、管体2の基部の周辺が汚損されるのを確実に防止できる。
【0037】
[2:本発明の変形例について]
最後に、図3を参照しながら、本実施形態の変形例に係る漏油防止構造について説明する。
図3は、本発明の実施形態の変形例に係る漏油防止構造の要部を拡大して示す鉛直方向断面図である。なお、図1及び図2、並びに図4及び図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先の図1及び図2に示す漏油防止構造1における漏油受部3の中空部内に漏油吸収材6を備えたものが本実施形態の変形例に係る漏油防止構造1’である。
なお、変形例に係る漏油防止構造1’において用いられる漏油吸収材6としては、例えば吸油性を有する天然繊維、合成繊維、あるいはポリマー等からなるシート材を用いることができる。また、このような漏油吸収材6は、使用後に破棄されるため安価なウエスでもよい。
【0038】
このように、本実施形態の変形例に係る漏油防止構造1’が漏油受部3の中空部内に漏油吸収材6を備えている場合は、漏油受部3から漏出した潤滑油54を漏油吸収材6により吸収して保持することができる。
この場合、漏油受部3内に溜まった潤滑油54の清掃作業は、潤滑油54が含浸された漏油吸収材6を交換するだけでよいので、その作業を簡便化することができる。
【0039】
さらに、本実施形態に係る漏油防止構造1’(又は漏油防止構造1)と筐体51側の接続部56との連結構造は、図3に示すように管体2と筒体56aの間にシール材5が介設されていなくともよい(任意選択構成要素)。
より具体的には、管体2の下端2b側に形成される雄ネジ部2cと、接続部56を構成する筒体56aの内側面に形成される雌ネジ部56bとの螺着領域を十分に大きくしておくことで、減速機7の運転に伴って継続的に振動が作用した場合でも、これらの螺着部分に緩みが生じるのを好適に防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上説明したように本発明は、既存の減速機の筐体に対して何ら改変を行うことなく容易に後付けでき、かつエアブリーザからの漏油を起き難くすることができ、さらにエアブリーザからの漏油が起きた場合でも減速機の筐体やその周囲が汚損されるのを防止できる漏油防止構造であり、発電設備等に関する技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1,1’…漏油防止構造 2…管体 2a…上端 2b…下端 2c…雄ネジ部 3…漏油受部 4…容器体 4a…開口 4b…底面 4c…貫通孔 4d…溶接痕 5…シール材 6…漏油吸収材 7…減速機 50…減速機 51…筐体 52a~52d…シャフト 53a~53f…歯車 54…潤滑油 55…天面 56…接続部 56a…筒体 56b…雌ネジ部 57…エアブリーザ 57a…鉛直下側端部 57b…周縁 58…接続管 59…エアー導出部 59a…フィルタ受部 60…エアー導出孔 61…フィルタ 62…キャップ P…エアー Q…潤滑油(漏油)
図1
図2
図3
図4
図5