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特開2023-81639クレーン、サーバ、及び出力復元システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081639
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】クレーン、サーバ、及び出力復元システム
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/46 20060101AFI20230606BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
B66C13/46 G
B66C13/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195503
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深町 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】南 佳成
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA01
3F204DB04
(57)【要約】
【課題】クレーンの特性の変化を認識できる構造を実現する。
【解決手段】クレーンは、荷物を搬送可能なクレーンであって、制御信号によりクレーンにおける制御対象を制御する制御部と、制御対象の出力を検出する検出部と、制御対象の特性を表し、制御信号に基づいて制御対象の出力を予測する物理モデルと、制御信号とともに、制御対象の出力値と物理モデルの予測値との差分を外部装置に送信する通信制御部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷物を搬送可能なクレーンであって、
制御信号により前記クレーンにおける制御対象を制御する制御部と、
前記制御対象の出力を検出する検出部と、
前記制御対象の特性を表し、前記制御信号に基づいて前記制御対象の出力を予測する物理モデルと、
前記制御信号とともに、前記制御対象の出力値と前記物理モデルの予測値との差分を外部装置に送信する通信制御部と、を備える、
クレーン。
【請求項2】
前記物理モデルは、前記制御対象の特性をリアルタイムで学習可能である、請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記検出部は、前記荷物の位置情報を検出し、
前記物理モデルは、前記制御信号に基づいて前記荷物の位置情報を予測する機能を有し、
前記通信制御部は、前記検出部により検出された前記荷物の位置情報と前記物理モデルにより予測された前記荷物の位置情報との差分を前記外部装置に送信する、請求項1又は2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記通信制御部は、前記物理モデルを構成するパラメータを前記外部装置に送信する、請求項1~3の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項5】
前記制御対象は、前記クレーンのブームを旋回させるためのアクチュエータ、前記ブームを起伏させるためのアクチュエータ、前記ブームを伸縮させるためのアクチュエータ、及び前記クレーンのフックを昇降させるためのアクチュエータのうちの少なくとも一つのアクチュエータである、請求項1~4の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項6】
複数の前記制御対象と、
前記制御対象のそれぞれに対応する複数の前記物理モデルと、を有する、請求項1~5の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載のクレーンに通信接続されるサーバであって、
前記クレーンから前記制御信号、及び、前記制御対象の出力値と前記物理モデルの予測値との差分を取得する取得部と、
前記制御対象の特性を表し、前記制御信号を受け付けてサーバ側出力信号を出力するサーバ側物理モデルと、
前記サーバ側出力信号と前記差分とに基づいて、前記制御対象の出力を復元する復元処理部と、を備える、
サーバ。
【請求項8】
前記取得部は、前記クレーンから前記物理モデルを構成するパラメータを取得し、
前記サーバ側物理モデルは、前記パラメータに基づいて更新される、請求項7に記載のサーバ。
【請求項9】
請求項1~6の何れか一項に記載のクレーンと、
前記クレーンに通信接続されたサーバと、を備える、出力復元システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン、サーバ、及び出力復元システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、荷物の搬送作業に使用されるクレーンが知られている(特許文献1参照)。このようなクレーンは、車両、ブーム、及びフック等を有する。
【0003】
ブームは、車両に対して旋回可能に支持されている。又、ブームは、起伏可能且つ伸縮可能でもある。フックは、ブームの先端部からワイヤロープを介して吊り下げられている。
【0004】
オペレータは、操作部や遠隔操作機を操作することにより、ブームやフックの移動方向及び移動速度を指示できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-62414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなクレーンにおいて、ブーム、ワイヤロープ、及びフックは、アクチュエータにより駆動される。オペレータが操作部又は遠隔操作機を操作すると、オペレータの操作量や操作方向に応じた指令信号が制御部に伝わる。制御部は、受け取った指令信号に基づいて、制御対象であるアクチュエータを駆動する。
【0007】
上述のような制御対象はそれぞれ、所定の特性を有する。この特性は、制御対象固有のものであり、通常は変化しない。ところが、クレーンが長期間使用されると、制御対象が経年劣化して、制御対象の特性が変化する可能性がある。
【0008】
ところで、制御対象の特性が変化した場合、制御対象の出力値を解析することにより、制御対象にどのような変化が生じたのかを知ることができる。ただし、制御対象の出力値をそのまま外部に送信する場合、送信するデータの容量が大きくなってしまう可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、送信データの容量を小さくできるクレーン、サーバ、及び出力復元システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るクレーンの一態様は、
荷物を搬送可能なクレーンであって、
制御信号によりクレーンにおける制御対象を制御する制御部と、
制御対象の出力を検出する検出部と、
制御対象の特性を表し、制御信号に基づいて制御対象の出力を予測する物理モデルと、
制御信号とともに、制御対象の出力値と物理モデルの予測値との差分を外部装置に送信する通信制御部と、を備える。
【0011】
本発明に係るサーバの一態様は、
上述のクレーンに通信接続されるサーバであって、
クレーンから制御信号、及び、制御対象の出力値と物理モデルの予測値との差分を取得する取得部と、
制御対象の特性を表し、制御信号を受け付けてサーバ側出力信号を出力するサーバ側物理モデルと、
サーバ側出力信号と前記差分とに基づいて、制御対象の出力を復元する復元処理部と、を備える。
【0012】
本発明に係る出力復元システムの一態様は、
上述のクレーンと、
クレーンに通信接続されたサーバと、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、送信データの容量を小さくできるクレーン、サーバ、及び出力復元システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係るクレーンの特性変化判定システムの構成を示す図である。
図2図2は、クレーンの側面図である。
図3図3は、クレーンの特性変化判定システムのブロック図である。
図4図4は、操作端末の平面図である。
図5図5は、操作端末の構成を説明するためのブロック図である。
図6図6は、吊り荷移動操作具が操作された場合の荷物の搬送方向(方位)を説明するための操作端末の平面図である。
図7図7は、クレーンの制御部の機能を説明するためのブロック図である。
図8図8は、クレーンの逆動力学モデルを説明するための図である。
図9図9は、クレーンの制御部の構成を示すブロック図である。
図10図10は、クレーンの制御工程を説明するためのフローチャートである。
図11図11は、クレーンの制御工程を説明するためのフローチャートである。
図12図12は、クレーンの制御工程を説明するためのフローチャートである。
図13図13は、クレーンの制御工程を説明するためのフローチャートである。
図14図14は、クレーンの制御工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。尚、後述の実施形態に係るクレーンC、サーバ7、及び出力復元システムSは、本発明に係るクレーン、サーバ、及び出力復元システムの一例であり、本発明は後述の実施形態により限定されない。
【0016】
[実施形態]
図1図14を参照して、本発明の実施形態に係るクレーンC、サーバ7、及び出力復元システムSについて説明する。以下、出力復元システムSの概要について説明した後、出力復元システムSが備えるクレーンC及びサーバ7の構造について説明する。尚、本発明に係る出力復元システムSは、後述する全ての構成を備えてもよいし、一部の構成を備えなくてもよい。
【0017】
先ず、出力復元システムSの概要について説明する。建築現場において、荷物Wを搬送するためにクレーンCが使用される。クレーンCのオペレータは、操作部217又は操作端末3を操作してクレーンCを動作させる。
【0018】
クレーンCは、オペレータの操作に基づいて、伸縮ブーム204の姿勢及び/又はワイヤロープの繰り出し量を変えることにより、荷物Wを搬送する。尚、クレーンCは、予め設定されたプログラムに基づいて動作してもよい。
【0019】
クレーンCは、伸縮ブーム204の姿勢を変えるためのアクチュエータやワイヤロープの繰り出し量を変えるためのアクチュエータを有する。これら各アクチュエータは、制御部29(制御システム42)の制御対象9(図9参照)である。
【0020】
本実施形態の場合、制御部29(制御システム42)は、制御対象9をフィードバック制御するフィードバック制御部42aと、フィードバック制御部42aと協働して制御対象9をフィードフォワード制御するフィードフォワード制御部42bと、を有する。
【0021】
フィードフォワード制御部42bは、調整可能な重み係数ωを含む物理モデルである。フィードフォワード制御部42bは、フィードバック制御部42aにおいて生成される信号(第一信号)を含む教師信号に基づいて重み係数ωを調整することにより、制御対象9の特性をリアルタイムで学習する(同定する)。
【0022】
フィードフォワード制御部42bにおける学習(以下、単に「学習」と称する。)が完了すると、重み係数ωは、制御対象9の特性に対応する所定値に収束する。つまり、制御対象9の特性が変化しなければ、学習が完了した状態において、重み係数ωは一定又はほぼ一定の値に収束する。
【0023】
逆に言えば、制御対象9の特性が変わった場合、学習が完了した状態における重み係数ωは、制御対象9の特性が変わる前の重み係数と異なる。よって、重み係数の変化を見ることにより、制御対象9の特性の変化の有無を確認できる。
【0024】
そこで、実施形態の場合、クレーンCは、重み係数ωを、所定のタイミングで、クレーンCに通信接続されたサーバ7に送信する機能を有する。そして、サーバ7は、クレーンCから取得した重み係数ωの変化の有無に基づいて、制御対象9の特性の変化の有無を判定する機能を有する。
【0025】
又、制御対象9の特性が変化したことを検知した場合に、制御対象9の特性がどのように変化したのかを知ることが重要である。このためには、制御対象9の出力値を解析することが有効である。そこで、本実施形態に係るクレーンCは、制御対象9の出力値を検出するための検出部26(例えば、旋回用センサ260、伸縮用センサ261、起伏用センサ263、及び/又は巻回用センサ264)を有している。
【0026】
このような検出部26の検出値(つまり、制御対象9の出力値)は、クレーンCにおいて順次記憶される。ところで、この検出値をそのままサーバ7に送信する場合、データ容量が大きいため、通信回線の負荷が高くなり送信時間が長くなってしまう可能性がある。
【0027】
そこで、本実施形態のクレーンCは、制御対象9の出力値を予測可能な物理モデル8(図9参照)を備えている。そして、クレーンCは、制御対象9の出力値と物理モデル8の予測値との差分を算出し、この差分をサーバ7に送信する機能を有している。
【0028】
このような差分は、制御対象9の出力値と比べて桁数が少ないため、データ容量が小さい。この結果、通信回線の負荷が軽減され、送信時間を短縮することができる。
【0029】
又、サーバ7は、受け取った差分に基づいて、制御対象9の出力値を復元する機能を有する。サーバ7により復元された制御対象9の出力値を解析することにより、サーバ7のオペレータは、制御対象9の特性がどのように変化したのかを認識できる。以下、本実施形態に係る出力復元システムSの具体的な構成について説明する。
【0030】
出力復元システムSは、図1に示すように、複数のクレーンC1、C2、C3と、サーバ7と、を備える。出力復元システムSは、複数のクレーンC1、C2、C3が、サーバ7に、ネットワークNを介して接続された構成を有する。
【0031】
尚、出力復元システムSにおける複数のクレーンC1、C2、C3の数は、1機であってもよいし、2機以上であってもよい。以下、便宜的に、クレーンC1、C2、C3を、クレーンCと称する。
【0032】
図1に示すように、クレーンCは、不特定の場所に移動可能な移動式クレーンである。クレーンCは、車両1、クレーン装置2、及び操作端末3(図3参照)を有する。
【0033】
車両1は、複数の車輪11を有し、エンジン12を動力源として走行する。車両1は、四隅にアウトリガ13を有する。
【0034】
クレーン装置2は、荷物Wを吊り上げる装置である。クレーン装置2は、旋回台201、旋回台カメラ202、旋回用油圧モータ203、伸縮ブーム204、ブームカメラ206、ジブ205、メインフックブロック207、及びサブフックブロック209を有する。
【0035】
又、クレーン装置2、起伏用油圧シリンダ211、メインウインチ212、メインワイヤロープ213、サブウインチ214、サブワイヤロープ215、キャビン216、及び操作部217を有する。又、クレーン装置2は、記憶部27、通信部28、及び制御部29を有する。
【0036】
旋回台201は、クレーン装置2を旋回可能な状態で、車両1に対して支持している。
【0037】
旋回用油圧モータ203は、旋回台201に設けられている。旋回用油圧モータ203は、制御対象9及びアクチュエータの一例に該当する。旋回用油圧モータ203は、旋回台201を回転させる。旋回用油圧モータ203は、電磁比例切換弁である旋回用バルブ250(図3参照)によって操作される。
【0038】
又、旋回台201には、旋回台201の旋回角度θz及び/又は旋回速度を検出する旋回用センサ260(図3参照)が設けられている。旋回用センサ260は、制御対象9である旋回用油圧モータ203の出力に関する情報(出力値)を検出する検出部26に該当する。
【0039】
尚、旋回用センサ260が検出する旋回用油圧モータ203の出力に関する情報は、旋回角度及び旋回速度に限定されない。旋回用センサ260が検出する旋回用油圧モータ203の出力に関する情報は、旋回用油圧モータ203の回転に関する情報(回転量、回転方向、及び/又は回転速度等)であってもよい。
【0040】
旋回台カメラ202は、旋回台201の周辺を撮像する。旋回台カメラ202は、旋回台201における前端部且つ左右両端部に設けられた一対の前側旋回台カメラ202fと、旋回台201における後端部且つ左右両端部に設けられた一対の後側旋回台カメラ202rと、を有する。
【0041】
一対の前側旋回台カメラ202fは、ステレオカメラとして機能する。一対の前側旋回台カメラ202fは、クレーンCにより吊られた荷物Wの位置に関する情報(以下、単に「荷物Wの位置情報」と称する。)を検出する荷物位置検出部の一例に該当する。荷物位置検出部は、検出部の一例に該当する。
【0042】
尚、荷物位置検出部は、後述するブームカメラ206であってもよい。又、荷物位置検出部は、ミリ波レーダー、加速度センサ、又はGNSS等であってもよい。
【0043】
伸縮ブーム204は、ワイヤロープを支持する可動支柱である。伸縮ブーム204は、複数のブームが、テレスコピック状に組み合わされた構成を有する。伸縮ブーム204の基端部は、揺動可能な状態で、旋回台201に支持されている。
【0044】
伸縮ブーム204は、伸縮用油圧シリンダ218により伸縮させられる。伸縮用油圧シリンダ218は、制御対象9且つアクチュエータの一例に該当する。伸縮用油圧シリンダ218は、電磁比例切換弁である伸縮用バルブ251(図3参照)によって操作される。
【0045】
尚、伸縮ブーム204には、伸縮ブーム204の長さに関する情報を検出する伸縮用センサ261、及び、伸縮ブーム204の先端を中心とする方位に関する情報を検出する方位センサ262が設けられている。伸縮用センサ261は、制御対象9である伸縮用油圧シリンダ218の出力に関する情報(出力値)を検出する検出部26に該当する。
【0046】
尚、伸縮用センサ261が検出する伸縮用油圧シリンダ218の出力に関する情報は、伸縮ブーム204の長さに関する情報に限定されない。伸縮用センサ261が検出する伸縮用油圧シリンダ218の出力に関する情報は、伸縮用油圧シリンダ218の伸縮に関する情報(伸縮量、伸縮方向、及び/又は伸縮速度等)であってもよい。
【0047】
ジブ205は、伸縮ブーム204の先端部に支持されている。
【0048】
ブームカメラ206(図3参照)は、伸縮ブーム204の先端部に設けられており、荷物W及び荷物Wの周辺を含む所定領域を撮像可能に構成されている。
【0049】
メインフックブロック207及びサブフックブロック209はそれぞれ、荷物Wを吊るための吊り具である。メインフックブロック207は、メインワイヤロープ213が巻き掛けられる複数のフックシーブと、荷物Wを吊るメインフック208と、を有する。サブフックブロック209は、荷物Wを吊るサブフック210を有する。
【0050】
起伏用油圧シリンダ211は、伸縮ブーム204を起立又は倒伏させる。起伏用油圧シリンダ211は、制御対象9且つアクチュエータの一例に該当する。起伏用油圧シリンダ211は、電磁比例切換弁である起伏用バルブ252(図3参照)によって操作される。
【0051】
伸縮ブーム204には、起伏角度θxを検出する起伏用センサ263(図3参照)が設けられている。起伏用センサ263は、制御対象9である起伏用油圧シリンダ211の出力に関する情報を検出する検出部26に該当する。
【0052】
尚、起伏用センサ263が検出する起伏用油圧シリンダ211の出力に関する情報は、起伏角度に限定されない。起伏用センサ263が検出する起伏用油圧シリンダ211の出力に関する情報は、起伏用油圧シリンダ211の伸縮に関する情報(伸縮量、伸縮方向、及び/又は伸縮速度等)であってもよい。
【0053】
メインウインチ212及びサブウインチ214はそれぞれ、メインワイヤロープ213及びサブワイヤロープ215の繰り入れ又は繰り出しを行う。
【0054】
メインウインチ212は、メインワイヤロープ213が巻きつけられたメインドラム(不図示)を有する。メインドラムは、メインドラム用油圧モータ219の駆動力に基づいて回転する。メインドラム用油圧モータ219は、制御対象9且つアクチュエータの一例に該当する。
【0055】
メインドラム用油圧モータ219は、電磁比例切換弁であるメインドラム用バルブ253(図3参照)によって操作される。
【0056】
サブウインチ214は、サブワイヤロープ215が巻きつけられるサブドラム(不図示)を有する。サブドラムは、サブドラム用油圧モータ220の駆動力に基づいて、回転する。サブドラム用油圧モータ220は、制御対象9且つアクチュエータの一例に該当する。
【0057】
サブウインチ214は、電磁比例切換弁であるサブドラム用バルブ254(図3参照)によって操作される。
【0058】
尚、メインウインチ212及びサブウインチ214にはそれぞれ、メインワイヤロープ213及びサブワイヤロープ215の繰り出し量を検出する巻回用センサ264(図3参照)が設けられている。巻回用センサ264、制御対象9であるメインドラム用油圧モータ219及び/又はサブドラム用油圧モータ220の出力に関する情報(出力値)を検出する検出部26に該当する。
【0059】
尚、巻回用センサ264が検出するメインドラム用油圧モータ219及び/又はサブドラム用油圧モータ220の出力に関する情報は、メインワイヤロープ213及びサブワイヤロープ215の繰り出し量に限定されない。巻回用センサ264が検出するメインドラム用油圧モータ219及び/又はサブドラム用油圧モータ220の出力に関する情報は、メインドラム用油圧モータ219及び/又はサブドラム用油圧モータ220の回転に関する情報(回転量、回転方向、及び/又は回転速度等)であってもよい。
【0060】
キャビン216は、旋回台201に搭載されており、操縦席(不図示)を有する。
【0061】
操作部217は、操作入力部の一例に該当し、キャビン216内に設けられている。操作部217は、車両1を走行操作するための操作部、及び、クレーン装置2を操作するための操作部を含む。
【0062】
具体的には、操作部217は、旋回操作具230、起伏操作具231、伸縮操作具232、メインドラム操作具233、及びサブドラム操作具234等を有する(図3参照)。
【0063】
以上のような操作部217は、各操作具230~234の操作(傾倒方向及び/又は傾倒量)に応じた操作信号を生成する。そして、操作部217は、生成した操作信号をクレーンC(クレーン装置2)の制御部29に送信する。
【0064】
記憶部27は、情報を記憶する。本実施形態の場合、記憶部27は、後述のフィードフォワード制御部42bの重み係数wα1、wα2、wα3、wα4(以下、単に「重み係数wα」と称することもある。)を記憶する。記憶部27は、フィードフォワード制御部42bにおいて重み係数wαが調整される毎に、重み係数wαを順次記憶してもよい。
【0065】
又、記憶部27は、検出部26の検出値である制御対象9の出力値を記憶する。記憶部27は、検出部26による検出が実施される毎に、検出部26の検出値を順次記憶する。
【0066】
通信部28は、例えば、運転室に設けられており、後述のサーバ7の通信部71に、インターネットやローカルネットワーク等のネットワークを介して通信接続される。通信部28は、サーバ7の通信部71と通信を確立して、情報を送る又は受け取る。通信部28は、サーバ7の通信部71から取得した情報を、制御部29に送る。
【0067】
制御部29は、制御対象9であるクレーン装置2のアクチュエータを制御する。制御部29は、キャビン216内に設けられている。
【0068】
制御部29は、実体的には、CPU、ROM、RAM、及びHDD等がバスで接続される構成、又は、ワンチップのLSI等からなる構成であってよい。制御部29は、各アクチュエータ、切換えバルブ、及びセンサ等の動作を制御するための種々のプログラムやデータを格納している。
【0069】
制御部29は、旋回台カメラ202、ブームカメラ206、旋回操作具230、起伏操作具231、伸縮操作具232、メインドラム操作具233、及びサブドラム操作具234に接続されている。
【0070】
制御部29は、旋回台カメラ202及びブームカメラ206から画像情報を取得する。又、制御部29は、旋回操作具230、起伏操作具231、伸縮操作具232、メインドラム操作具233、及びサブドラム操作具234から操作信号を取得する。
【0071】
制御部29は、操作端末3の端末側制御部38に接続されている。制御部29は、操作端末3から、操作信号を取得する。
【0072】
制御部29は、旋回用バルブ250、伸縮用バルブ251、起伏用バルブ252、メインドラム用バルブ253、及びサブドラム用バルブ254に接続されている。
【0073】
制御部29は、検出部26に接続されている。制御部29は、検出部26から制御対象9の出力に関する情報を取得する。具体的には、旋回用センサ260から、旋回用油圧モータ203の出力に関する情報(例えば、旋回台201の旋回角度θz)を取得する。
【0074】
制御部29は、伸縮用センサ261から、伸縮用油圧シリンダ218の出力に関する情報(例えば、伸縮ブーム204の長さLb)を取得する。制御部29は、起伏用センサ263から、起伏用油圧シリンダ211の出力に関する情報(例えば、起伏角度θx)を取得する。
【0075】
制御部29は、巻回用センサ264から、メインドラム用油圧モータ219及び/又はサブドラム用油圧モータ220の出力に関する情報(例えば、メインワイヤロープ213及び/又はサブワイヤロープ215の繰り出し量l(n))を取得する。又、制御部29は、方位センサ262から方位に関する情報を取得する。
【0076】
制御部29は、旋回操作具230、起伏操作具231、伸縮操作具232、メインドラム操作具233、及びサブドラム操作具234から取得した操作信号に基づいて、各操作具に対応するアクチュエータを作動するための作動信号Mdを生成する。そして、制御部29は、旋回用バルブ250、伸縮用バルブ251、起伏用バルブ252、メインドラム用バルブ253、及びサブドラム用バルブ254に作動信号Mdを送る。尚、制御部29は、後述の操作端末3から取得した操作信号に基づいて、作動信号Mdを生成してもよい。
【0077】
制御部29は、記憶部27の動作を制御する。制御部29は、後述のフィードフォワード制御部42bの重み係数wαを記憶するように、記憶部27を制御する。例えば、制御部29は、フィードフォワード制御部42bにおいて、重み係数wαが調整される毎に、重み係数wαを記憶するように記憶部27を制御する。
【0078】
制御部29は、通信部28の動作を制御する。よって、制御部29の一部の機能は、通信制御部の一例に該当する。制御部29は、フィードフォワード制御部42bにおける重み係数wαを、所定のタイミングで、サーバ7の通信部71に送信するように、通信部28の動作を制御する。
【0079】
例えば、制御部29は、フィードフォワード制御部42bにおける重み係数wαの調整が完了した場合(つまり、学習が完了した場合)に、フィードフォワード制御部42bにおける重み係数wαを、所定のタイミングで、サーバ7の通信部71に送信するように、通信部28を制御する。
【0080】
或いは、制御部29は、フィードフォワード制御部42bにおいて重み係数wαが調整される毎(つまり、学習毎)に、フィードフォワード制御部42bにおける重み係数wαを、サーバ7の通信部71に送信するように、通信部28を制御する。
【0081】
制御部29は、後述の物理モデル8の出力値(予測値)と、検出部26から取得した制御対象9(各アクチュエータ)の出力値との差分を算出する。そして、制御部29は、後述の目標速度信号Vdとともに、この差分をサーバ7に送信するように、通信部28を制御する。
【0082】
操作端末3は、操作入力部の一例に該当し、図4及び図5に示すように、オペレータが、荷物Wの移動方向及び移動速度に関する指示を入力するための装置である。操作端末3は、記述の操作部217とは別に設けられている。オペレータは、クレーンCを動かす際、操作端末3を操作してもよいし、操作部217を操作してもよい。
【0083】
操作端末3は、筐体30、吊り荷移動操作具31、端末側旋回操作具32、端末側伸縮操作具33、端末側メインドラム操作具34、端末側サブドラム操作具35、及び端末側起伏操作具36等の操作具を有する。
【0084】
又、操作端末3は、端末側表示部37及び端末側制御部38を有する。操作端末3は、吊り荷移動操作具31又は各操作具の操作に基づいて荷物Wの目標速度信号Vdを生成し、生成した目標速度信号Vdを制御部29に送信する。
【0085】
尚、荷物Wが、一つの操作具の操作により移動する場合、この一つの操作具の傾倒方向及び/又は傾倒量に応じた操作信号が生成される。一方、荷物Wが複数の操作具の操作により移動する場合、これら複数の各操作具の傾倒方向及び/又は傾倒量に応じた操作信号が生成される。
【0086】
吊り荷移動操作具31は、オペレータが、水平面における荷物Wの移動方向及び/又は速さを指示する際に操作される操作具である。
【0087】
端末側旋回操作具32は、オペレータがクレーン装置2の旋回に関する方向及び/又は速さを指示するための操作具である。端末側伸縮操作具33は、オペレータが伸縮ブーム204の伸縮に関する方向及び/又は速さを指示するための操作具である。
【0088】
端末側メインドラム操作具34は、オペレータがメインウインチ212の回転に関する方向及び/又は速さ(つまり、メインフック208の移動方向及び/又は速さ)を指示するための操作具である。端末側サブドラム操作具35は、オペレータがサブウインチ214の回転に関する方向及び/又は速さ(つまり、サブフック210の移動方向及び/又は速さ)を指示するための操作具である。
【0089】
端末側起伏操作具36は、オペレータが伸縮ブーム204の起伏に関する方向及び/又は速さを指示するための操作具である。
【0090】
端末側表示部37は、クレーンCの姿勢情報及び/又は荷物Wの情報等の様々な情報を表示する。
【0091】
端末側制御部38は、図5に示すように、操作端末3を制御する。端末側制御部38は、筐体30内に設けられている。端末側制御部38は、実体的には、CPU、ROM、RAM、及びHDD等がバスで接続される構成、又は、ワンチップのLSI等からなる構成であってよい。
【0092】
端末側制御部38は、吊り荷移動操作具31、端末側旋回操作具32、端末側伸縮操作具33、端末側メインドラム操作具34、端末側サブドラム操作具35、端末側起伏操作具36、及び端末側表示部37等の動作を制御する。
【0093】
端末側制御部38は、吊り荷移動操作具31、端末側旋回操作具32、端末側伸縮操作具33、端末側メインドラム操作具34、端末側サブドラム操作具35、及び端末側起伏操作具36から、各操作具の傾倒方向及び/又は傾倒量に応じた操作信号を取得する。
【0094】
端末側制御部38は、取得した操作信号から、荷物Wの目標速度信号Vdを生成する。又、端末側制御部38は、クレーン装置2の制御部29に有線又は無線で接続され、生成した荷物Wの目標速度信号Vdをクレーン装置2の制御部29に送信する。
【0095】
次に、図6を参照して、操作端末3の動作例について説明する。先ず、伸縮ブーム204の先端は、図6に示すように、北を向いていると仮定する。この状態において、オペレータは、吊り荷移動操作具31を、上方向に対して左方向に傾倒角度θ2=45°の方向に任意の傾倒量だけ傾倒操作する。すると、端末側制御部38は、吊り荷移動操作具31の傾倒方向及び傾倒量に対応する操作信号を、吊り荷移動操作具31に設けられたセンサ(不図示)から取得する。
【0096】
更に、端末側制御部38は、取得した操作信号に基づいて、吊り荷移動操作具31の傾倒量に応じた速さで荷物Wを移動させるための目標速度信号Vdを、単位時間t毎に算出する。そして、操作端末3は、算出した目標速度信号Vdを単位時間t毎にクレーン装置2の制御部29に送信する。
【0097】
クレーン装置2の制御部29は、操作端末3から目標速度信号Vdを単位時間t毎に受信すると、方位センサ262が取得した伸縮ブーム204の先端の方位に基づいて、荷物Wの目標軌道信号Pdを算出する。更に、クレーン装置2の制御部29は、算出した目標軌道信号Pdに基づいて、荷物Wの目標位置である荷物Wの目標位置座標p(n+1)を算出する。
【0098】
そして、制御部29は、旋回用バルブ250、伸縮用バルブ251、起伏用バルブ252、メインドラム用バルブ253、及びサブドラム用バルブ254のうち、目標位置座標p(n+1)に荷物Wを移動させるために動作させることが必要なバルブに関する作動信号Mdを生成する。
【0099】
クレーンCは、作動信号Mdに基づいて、吊り荷移動操作具31の傾倒方向に向けて、吊り荷移動操作具31の傾倒量に応じた速さで荷物Wを搬送する。この際、クレーンCは、荷物Wを搬送するために動作させる必要があるアクチュエータを作動信号Mdによって制御する。尚、本実施形態において、操作端末3は、キャビン216内に設けられている。但し、操作端末は、クレーンCに無線接続される遠隔操作端末であってもよい。
【0100】
次に、図7図13を参照して、クレーン装置2の制御部29において荷物Wの目標軌道信号Pd、及び、伸縮ブーム204の先端の目標位置座標q(n+1)を算出する工程について説明する。
【0101】
尚、図7は、操作信号及び荷物Wの目標速度信号Vdが操作端末3(操作入力部)において生成される構成を示している。但し、変形例として、操作信号は、操作部217において生成されてもよい。このような変形例の場合、目標速度信号Vdは、操作信号に基づいて、操作部217又はクレーンC(クレーン装置2)の制御部29において生成されてよい。クレーンCにおいて目標速度信号Vdを生成する機能部を目標速度信号生成部(不図示)と称する。変形例については、後述の説明を適宜読み替えればよい。
【0102】
制御部29は、既述の各エレメント以外に、目標軌道算出部290、ブーム位置算出部291、及び作動信号生成部292を有する。又、制御部29は、荷物位置検出部である一対の前側旋回台カメラ202fから、荷物Wの現在位置情報を取得する。
【0103】
目標軌道算出部290は、図7に示すように、荷物Wの移動方向及び/又は速さに対応する荷物Wの目標速度信号Vdを操作端末3から単位時間t毎に取得する。そして、目標軌道算出部290は、取得した荷物Wの目標速度信号Vdに基づいて、荷物Wの目標軌道信号Pdαを算出する。本実施形態の場合、荷物Wの目標速度信号Vdは、制御部29(後述の制御システム42)において、制御対象9の制御に用いられる制御信号の一例に該当する。
【0104】
具体的には、目標軌道算出部290は、取得した目標速度信号Vdを積分して単位時間t毎の荷物Wのx軸方向、y軸方向、及びz軸方向それぞれの目標軌道信号Pdαを算出する。ここで、添え字αは、x軸方向、y軸方向、及びz軸方向のいずれかを表す。
【0105】
ブーム位置算出部291は、目標軌道算出部290から目標軌道信号Pdαを取得する。ブーム位置算出部291は、旋回用センサ260から旋回台201の旋回角度θz(n)を取得する。又、ブーム位置算出部291は、伸縮用センサ261から伸縮長さlb(n)を取得する。又、ブーム位置算出部291は、起伏用センサ263から起伏角度θx(n)を取得する。
【0106】
ブーム位置算出部291は、巻回用センサ264から使用しているワイヤロープ(メインワイヤロープ213又はサブワイヤロープ215)の繰り出し量l(n)を取得する。
【0107】
ブーム位置算出部291は、荷物Wの現在位置情報を取得する。ブーム位置算出部291は、一対の前側旋回台カメラ202fから荷物Wの現在位置情報を取得してよい。或いは、ブーム位置算出部291は、一対の前側旋回台カメラ202fから取得した荷物Wの画像情報に基づいて、荷物Wの現在位置情報を取得してもよい。
【0108】
ブーム位置算出部291が取得した旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、及び起伏角度θx(n)はそれぞれ、伸縮ブーム204の姿勢情報の一例に該当する。
【0109】
ブーム位置算出部291は、取得した伸縮ブーム204の姿勢情報に基づいて、伸縮ブーム204の先端の現在位置座標q(n)を取得する。
【0110】
ブーム位置算出部291は、取得した荷物Wの現在位置情報に基づいて荷物Wの現在位置座標p(n)を算出する。又、ブーム位置算出部291は、荷物Wの現在位置座標p(n)と伸縮ブーム204の現在位置座標q(n)とに基づいてワイヤロープの繰り出し量l(n)を算出する。
【0111】
又、ブーム位置算出部291は、目標軌道信号Pdαから単位時間t経過後の荷物Wの位置である荷物Wの目標位置座標p(n+1)を算出する。更に、ブーム位置算出部291は、荷物Wの現在位置座標p(n)と荷物Wの目標位置座標p(n+1)とに基づいて、荷物Wを吊っているワイヤロープ(メインワイヤロープ213/又はサブワイヤロープ215)の方向ベクトルe(n+1)を算出する。
【0112】
ブーム位置算出部291は、逆動力学により、荷物Wの目標位置座標p(n+1)及びワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)に基づいて、単位時間t経過後の伸縮ブーム204の先端の位置である伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)を算出する。そして、ブーム位置算出部291は、算出した伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)を、作動信号生成部292に送る。
【0113】
作動信号生成部292は、ブーム位置算出部291から伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)を取得する。そして、作動信号生成部292は、取得した伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)に基づいて、各アクチュエータの作動信号Mdを生成する。
【0114】
作動信号生成部292は、旋回用バルブ250、伸縮用バルブ251、起伏用バルブ252、メインドラム用バルブ253、及びサブドラム用バルブ254のうちの少なくとも一つのバルブの作動信号Mdを生成する。
【0115】
ここで、図8を参照しつつ、ブーム位置算出部291が、伸縮ブーム204の先端の目標位置座標q(n+1)を算出する方法について説明する。先ず、制御部29(具体的には、ブーム位置算出部291)は、クレーンCの逆動力学モデルを定める。逆動力学モデルは、XYZ座標系に定義され、原点OをクレーンCの旋回中心とする。
【0116】
又、制御部29は、逆動力学モデルにおいて、q、p、lb、θx、θz、l、f、及びeをそれぞれ定義する。qは、例えば伸縮ブーム204の先端の現在位置座標q(n)を示す。pは、例えば荷物Wの現在位置座標p(n)を示す。
【0117】
lbは、例えば伸縮ブーム204の伸縮長さlb(n)示す。θxは、例えば起伏角度θx(n)を示す。θzは、例えば旋回角度θz(n)を示す。lは、例えばワイヤロープの繰り出し量l(n)を示す。fはワイヤロープの張力fを示す。eは、例えばワイヤロープの方向ベクトルe(n)を示す。
【0118】
このように定まる逆動力学モデルにおいて、伸縮ブーム204の先端の目標位置qと荷物Wの目標位置pとの関係が、荷物Wの目標位置p、荷物Wの質量m、及びワイヤロープのばね定数kに基づいて式(1)によって表される。そして、伸縮ブーム204の先端の目標位置qは、荷物Wの時間の関数である式(2)によって算出される。
【0119】
【数1】
【0120】
【数2】

f:ワイヤロープの張力
:ばね定数
m:荷物Wの質量
q:伸縮ブーム204の先端の現在位置又は目標位置
p:荷物Wの現在位置又は目標位置
l:ワイヤロープの繰出し量
e:方向ベクトル
g:重力加速度
【0121】
又、ワイヤロープの繰り出し量l(n)は、以下の式(3)から算出される。ワイヤロープの繰り出し量l(n)は、伸縮ブーム204の先端位置である伸縮ブーム204の現在位置座標q(n)と荷物Wの位置である荷物Wの現在位置座標p(n)の距離で定義される。
【0122】
【数3】
【0123】
又、ワイヤロープの方向ベクトルe(n)は、以下の式(4)から算出される。ワイヤロープの方向ベクトルe(n)は、ワイヤロープの張力fの単位長さのベクトルである。ワイヤロープの張力fは、荷物Wの現在位置座標p(n)と単位時間t経過後の荷物Wの目標位置座標p(n+1)とに基づいて算出される荷物Wの加速度から重力加速度を減算して算出される。
【0124】
【数4】
【0125】
そして、単位時間t経過後の伸縮ブーム204の先端の目標位置である伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)は、上記式(2)をnの関数で表した式(5)から算出される。ここで、αは、伸縮ブーム204の旋回角度θz(n)を示している。このように、伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)は、逆動力学により、ワイヤロープの繰り出し量l(n)、荷物Wの目標位置座標p(n+1)、及び方向ベクトルe(n+1)に基づいて算出される。
【0126】
【数5】
【0127】
次に、クレーンCの制御システム42の構成について説明する。尚、制御システム42は、クレーンCにおける制御部29のエレメントにより構成されたシステムと捉えてよい。よって、制御システム42の構成要素は、制御部29の構成要素でもある。
【0128】
制御システム42は、フィードバック制御部42a、フィードフォワード制御部42b、及び物理モデル8を有する。
【0129】
フィードバック制御部42aは、目標軌道算出部290、ブーム位置算出部291、作動信号生成部292、及び荷物位置検出部である前側旋回台カメラ202fを含む。このようなフィードバック制御部42aは、クレーンC又はクレーンCの構成部材(具体的には、アクチュエータ)である制御対象9をフィードバック制御する。
【0130】
具体的には、フィードバック制御部42aは、荷物Wの目標速度信号Vd(制御信号)を取得すると、目標軌道算出部290において、荷物Wのx軸方向、y軸方向、及びz軸方向の目標軌道信号Pdαを算出する。
【0131】
次に、フィードバック制御部42aは、荷物位置検出部(本実施形態の場合、前側旋回台カメラ202f)から取得した荷物Wの現在位置情報に基づいて荷物Wの現在位置座標P(n)を算出する。
【0132】
そして、フィードバック制御部42aは、荷物Wの現在位置座標P(n)を、目標軌道信号Pdαにフィードバック(ネガティブフィードバック)する。
【0133】
フィードバック制御部42aは、荷物Wの現在位置座標P(n)により目標軌道信号Pdαを補正することにより(本実施形態の場合、現在位置座標P(n)と目標軌道信号Pdαとの差分をとることにより)、目標軌道信号Pd1αを生成する。目標軌道信号Pd1αは、第一信号の一例に該当する。この目標軌道信号Pd1αは、後述のフィードフォワード制御部42bが実施する学習の教師信号である。
【0134】
次に、フィードバック制御部42aは、ブーム位置算出部291において、目標軌道信号Pd2αと、各センサから取得したクレーンCの姿勢情報(旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、起伏角度θx(n)、及び繰り出し量l(n))と、旋回台カメラ202から取得した荷物Wの現在位置情報と、に基づいて単位時間t経過後の伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)を算出する。尚、目標軌道信号Pd2αは、目標軌道信号Pd1αが、後述のフィードフォワード制御部42bの出力により補正された信号である。
【0135】
次に、フィードバック制御部42aは、作動信号生成部292において、目標位置座標q(n+1)に基づいて制御対象9(各アクチュエータ)の作動信号Mdを生成する。フィードバック制御部42aは、作動信号MdによってクレーンCの制御対象9を作動させることにより荷物Wを搬送する。
【0136】
フィードフォワード制御部42bは、重み係数wα(具体的には、wα1、wα2、wα3、wα4)を有する物理モデルにより構成されている。
【0137】
フィードフォワード制御部42bは、フィードバック制御部42aにおいて生成される第一信号(具体的には、目標軌道信号Pd1α)を含む教師信号に基づいて重み係数wαを調整することにより、制御対象9の特性をリアルタイムで学習する機能を有する。
【0138】
本実施形態の場合、フィードフォワード制御部42bは、制御対象9の特性をリアルタイムで学習することにより、制御対象9の所謂逆モデルを実現する。
【0139】
フィードフォワード制御部42bの重み係数wαの初期値は、クレーンCの動作毎に設定される。
【0140】
フィードフォワード制御部42bの重み係数wαの初期値は、予め決められた任意の値であってよい。又、重み係数wαの初期値は、記憶部27に予め記憶された重み係数wαであってもよい。又、重み係数wαの初期値は、クレーンCの初期状態(換言すれば、未使用状態又は正常時)における制御対象9に対応する重み係数wαであると好ましい。
【0141】
重み係数wαの初期値は、後述のサーバ7の記憶部73に記憶された基準モデルの重み係数wαsであってもよい。この場合、制御システム42(具体的には、フィードフォワード制御部42b)は、サーバ7から、基準モデルの重み係数wαsを取得し、取得した重み係数wαsをフィードフォワード制御部42bの重み係数として設定する。
【0142】
又、フィードフォワード制御部42bは、フィードバック制御部42aと協働して制御対象9をフィードフォワード制御する機能を有する。
【0143】
フィードフォワード制御部42bは、下記式(6)に示すような伝達関数G(s)で表現されるローパスフィルタLpと捉えることができる。ローパスフィルタLpは、所定の周波数以上の周波数を減衰させる。
【0144】
フィードフォワード制御部42bの伝達関数G(s)は、A、B、及びCを係数とし、wα1、wα2、wα3、及びwα4を重み係数とし、sを微分要素として部分分数分解した形式で表現される。ここで、添え字αは、x軸、y軸、及びz軸のいずれかを表す符号である。
【0145】
つまり、式(6)により示される伝達関数G(s)は、x軸、y軸、及びz軸毎に設定されている。換言すれば、伝達関数G(s)を有する物理モデルは、x軸、y軸、及びz軸毎に設定されている。このように、伝達関数G(s)は、1次遅れの伝達関数を重ね合わせたものとして表現される。
【0146】
【数6】
【0147】
図9及び上記式(6)に示すように、フィードフォワード制御部42bは、四次の伝達関数G(s)を部分分数分解した1次遅れの伝達関数である第1モデルG1(s)、第2モデルG2(s)、第3モデルG3(s)、及び第4モデルG4(s)が重ね合わせられている。
【0148】
又、フィードフォワード制御部42bは、伝達関数G(s)のゲインを重み係数として、第1モデルG1(s)に重み係数wα1、第2モデルG2(s)に重み係数wα2、第3モデルG3(s)に重み係数wα3、及び第4モデルG4(s)に重み係数wα4が割り当てられている。
【0149】
既述のようにフィードフォワード制御部42bは、フィードバック制御部42aで補正された荷物Wの目標軌道信号Pd1αに基づいて、各モデルの重み係数wα1、wα2、wα3、及びwα4をリアルタイムで調整することにより、制御対象9の特性を学習する。
【0150】
このようなフィードフォワード制御部42bに荷物Wの目標速度信号Vdが入力されると、フィードフォワード制御部42bは、補正信号Pffoutを出力する。
【0151】
本実施形態の場合、フィードバック制御部42aにおいて生成される目標軌道信号Pd1αが、補正信号Pffoutにより補正されて、目標軌道信号Pd2αとなる。フィードフォワード制御部42bにおける信号の流れは、図9に示す通りであるので、詳しい説明は省略する。
【0152】
尚、フィードフォワード制御部42bは、目標軌道信号Pdαと荷物Wの現在位置座標p(n)との差分である目標軌道信号Pd1αが小さくなるように、重み係数wαを調整する。
【0153】
従って、フィードフォワード制御部42bの学習が進むほど、目標軌道信号Pd1αは小さくなる。換言すれば、フィードフォワード制御部42bの学習が進むほど、目標軌道信号Pd2αに含まれるフィードフォワード制御部42bの出力(つまり、補正信号Pffout)の割合が大きくなる。
【0154】
フィードフォワード制御部42bの学習が完了した状態では、制御システム42は、フィードフォワード制御部42bの出力(つまり、補正信号Pffout)に基づいて、制御対象9(各アクチュエータ)を制御する状態となる。
【0155】
尚、フィードフォワード制御部42bは、制御対象9のそれぞれに対応して設けられてよい。又、フィードフォワード制御部42bは、制御対象9の特性を学習する機能を備えていれば、制御対象9を制御する機能を備えていなくてもよい。
【0156】
物理モデル8は、例えば、制御対象の応答特性を数学的に表現した数学モデルと、当該数学モデルと制御対象とのずれを補正するための学習モデル(例えば、ニューラルネットワークを用いた学習モデル)とにより構成されている。このような物理モデル8は、制御対象9の特性をリアルタイムで学習する(同定する)機能を有する。
【0157】
物理モデル8における学習モデルがニューラルネットワークにより構成される場合、物理モデル8は、複数のパラメータを有する。物理モデル8は、教師信号(不図示)に基づいて学習モデルのパラメータを調整して、制御対象9の特性を学習する。物理モデル8の学習が終了すると、物理モデル8は、制御対象9の特性と同等の特性を有する物理モデルとなる。尚、物理モデル8の学習方法は、従来から知られているニューラルネットワークの学習方法と同様である。又、物理モデル8は、学習機能を備えていなくてもよい。つまり、物理モデル8は、学習モデルを備えず、制御対象の応答特性を数学的に表現した数学モデルにより構成されてもよい。
【0158】
物理モデル8は、図9に示すように、入力信号として荷物Wの目標速度信号Vdを受け付ける。そして、物理モデル8は、制御対象9の出力値O(n)の予測値P(n)を出力する。本実施形態の場合、物理モデル8への入力信号は、目標速度信号Vdである。但し、物理モデル8への入力信号は、目標速度信号Vdに限定されない。物理モデル8への入力信号は、目標軌道信号Pd2α又は作動信号Mdであってもよい。
【0159】
又、物理モデル8は、入力信号として荷物Wの目標速度信号Vdを受け付け、荷物Wの現在位置の予測値を出力してもよい。つまり、物理モデル8は、学習により、荷物Wの現在位置を予測することが可能となる。
【0160】
次に図9図13を参照して、クレーンCの制御システム42において作動信号Mdを生成するための荷物Wの目標軌道信号Pdの算出方法及び伸縮ブーム204の先端の目標位置座標q(n+1)の算出方法について詳細に記載する。尚、以下の説明における「制御システム42」なる文言は、「制御部29」なる文言に適宜読み替えてよい。
【0161】
制御システム42は、図10のステップS100において、目標軌道算出工程Aを開始する。制御システム42は、目標軌道算出工程Aが終了すると、ステップS200において、ブーム位置算出工程Bを開始する。制御システム42は、ブーム位置算出工程Bが終了すると、ステップS300において、作動信号生成工程Cを開始する。そして、制御システム42は、作動信号生成工程Cが終了すると、ステップS400において、差分送信工程Dを開始する。制御システム42は、ステップS100~S400を適宜繰り返す。
【0162】
目標軌道算出工程Aにおいて、制御システム42は、図11に示す制御処理を実施する。
【0163】
ステップS110において、制御システム42は、制御部29の目標軌道算出部290によって荷物Wの目標速度信号Vdを取得したか否か判定する。荷物Wの目標速度信号Vdを取得した場合(ステップS110において“YES”)、制御システム42は、制御処理をステップS120に移行させる。
【0164】
一方、荷物Wの目標速度信号Vdを取得していない場合(ステップS110において“NO”)、制御システム42は、制御処理を、再びステップS110に移行させる。
【0165】
ステップS120において、制御システム42は、荷物Wの現在位置座標p(n)を取得する。具体的には、制御システム42は、一対の前側旋回台カメラ202fによって荷物Wを撮影する。そして、制御システム42は、一対の前側旋回台カメラ202fから取得した撮像情報に基づいて、任意に定めた基準位置O(例えば、伸縮ブーム204の旋回中心)を原点として荷物Wの現在位置座標p(n)を算出する。
【0166】
ステップS130において、制御システム42は、荷物Wの目標軌道信号Pdαを取得する。具体的には、制御システム42は、目標軌道算出部290によって取得した荷物Wの目標速度信号Vdを積分して荷物Wの目標軌道信号Pdαを算出する。
【0167】
ステップS140において、制御システム42は、目標軌道信号Pd1αを取得する。具体的には、制御システム42は、フィードバック制御部42aにより、荷物Wの現在位置座標p(n)と目標軌道信号Pdαとの差分である目標軌道信号Pd1αを算出する。
【0168】
ステップS150において、制御システム42(具体的には、フィードフォワード制御部42b)は、目標軌道信号Pd1αを教師信号として、フィードフォワード制御部42bの重み係数wα(具体的には、重み係数wα1、wα2、wα3、wα4)を調整する。
【0169】
ステップS160において、制御システム42は、目標軌道信号Pd2αを取得する。具体的には、制御システム42は、目標軌道信号Pd1αをフィードフォワード制御部42bの出力である補正信号Pffoutにより補正することにより、目標軌道信号Pd2αを算出する。そして、目標軌道算出工程Aを終了する。
【0170】
ブーム位置算出工程Bにおいて、制御システム42は、図12に示す制御処理を実施する。
【0171】
ステップS210において、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、伸縮ブーム204の先端の現在位置座標q(n)を取得する。具体的には、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、取得した旋回台201の旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、及び伸縮ブーム204の起伏角度θx(n)に基づいて伸縮ブーム204の先端の現在位置座標q(n)を算出する。
【0172】
ステップS220において、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、ワイヤロープ(メインワイヤロープ213又はサブワイヤロープ215)の繰り出し量l(n)を取得する。具体的には、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、荷物Wの現在位置座標p(n)と伸縮ブーム204の現在位置座標q(n)とに基づいて、上記式(3)を用いてワイヤロープの繰り出し量l(n)を算出する。
【0173】
ステップS230において、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、荷物Wの目標位置座標p(n+1)を取得する。具体的には、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、荷物Wの現在位置座標p(n)を基準として、目標軌道信号Pd2αに基づいて単位時間t経過後の荷物Wの目標位置である荷物Wの目標位置座標p(n+1)を算出する。
【0174】
ステップS240において、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、ワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)を取得する。具体的には、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、荷物Wの現在位置座標p(n)と荷物Wの目標位置座標p(n+1)とに基づいて荷物Wの加速度を算出する。
【0175】
そして、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、荷物Wの加速度と重力加速度とを用いて上記式(4)からワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)を算出する。
【0176】
ステップS250において、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)を取得する。具体的には、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、取得したワイヤロープの繰り出し量l(n)とワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)とに基づいて、上記式(5)から伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)を算出する。そして、制御システム42(具体的には、ブーム位置算出部291)は、ブーム位置算出工程Bを終了する。
【0177】
作動信号生成工程Cにおいて、制御システム42は、図13に示す制御処理を実施する。
【0178】
ステップS310において、制御システム42(具体的には、作動信号生成部292)は、伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)に基づいて、単位時間t経過後の旋回台201の旋回角度θz(n+1)、伸縮長さLb(n+1)、起伏角度θx(n+1)、及びワイヤロープの繰り出し量l(n+1)を取得する(算出する)。
【0179】
ステップS320において、制御システム42(具体的には、作動信号生成部292)は、バルブの作動信号Mdを生成する。
【0180】
具体的には、制御システム42(具体的には、作動信号生成部292)は、取得した旋回角度θz(n+1)、伸縮長さLb(n+1)、起伏角度θx(n+1)、及びワイヤロープの繰り出し量l(n+1)に基づいて、制御対象9を制御するための作動信号Mdを生成する。
【0181】
作動信号Mdは、荷物Wを目標位置座標p(n+1)に搬送するために動作させる必要がある制御対象9(各アクチュエータ)に対応するバルブを動作させるための作動信号である。
【0182】
つまり、作動信号Mdは、旋回用バルブ250、伸縮用バルブ251、起伏用バルブ252、メインドラム用バルブ253、及び/又はサブドラム用バルブ254のうち、荷物Wを目標位置座標p(n+1)に搬送するために動作させる必要がある少なくとも一つのバルブの作動信号Mdと捉えてよい。
【0183】
そして、制御システム42(具体的には、作動信号生成部292)は、作動信号生成工程Cを終了する。
【0184】
差分送信工程Dにおいて、制御システム42は、図14に示す制御処理を実施する。
【0185】
先ず、ステップS410において、制御システム42は、制御対象9の制御信号を取得する。本実施形態の場合、制御対象9の制御信号は、目標速度信号Vdである。
【0186】
次に、ステップS420において、制御システム42は、取得した制御対象9の制御信号を、物理モデル8に入力する。
【0187】
次に、ステップS430において、制御システム42は、物理モデル8の出力信号(予測値P(n))を取得する。物理モデル8は、制御対象9の特性を学習済みのモデルである。このため、物理モデル8の出力信号(予測値P(n))は、制御対象9における出力信号O(n)の予測値と捉えてよい。
【0188】
次に、ステップS440において、制御システム42は、検出部26から、制御対象9の出力信号O(n)を取得する。
【0189】
次に、ステップS450において、制御システム42はステップS430において取得した物理モデル8の出力信号(予測値P(n))と、ステップS440において取得した制御対象9の出力信号O(n)との差分(以下、「出力値の差分情報」と称する。)を算出する。
【0190】
次に、ステップS460において、制御システム42はステップS450において取得した出力値の差分情報を、サーバ7に送信する。尚、制御システム42は、物理モデル8における学習モデルのパラメータに異常な変化の兆候が表れた場合にのみ、当該差分情報をサーバ7に送信するように構成されてもよい。
【0191】
制御システム42は、上記ステップS410~ステップS460を繰り返し実行する。尚、制御システム42は、差分送信工程Dにおいて、物理モデル8が予測した荷物Wの現在位置に関する情報と、荷物位置検出部により検出された荷物Wの位置に関する情報との差分(以下、「位置の差分情報」と称する。)を算出してもよい。そして、制御システム42は、この差分に関する情報をサーバ7に送信してもよい。上記ステップS410~ステップS460の順番は、適宜入れ替えて良い。
【0192】
クレーンCの制御システム42は、目標軌道算出工程A、ブーム位置算出工程B、及び作動信号生成工程Cを繰り返すことにより、伸縮ブーム204の目標位置座標q(n+1)に基づいて生成した作動信号Mdにより、各アクチュエータを制御する。又、制御システム42は、作動信号生成工程Cが終了する毎に差分送信工程Dを実行する。
【0193】
又、本実施形態の場合、制御システム42(制御部29)は、適宜のタイミングで、フィードフォワード制御部42bの重み係数wα(具体的には、wα1、wα2、wα3、wα4)を、サーバ7に送信する。
【0194】
制御システム42(制御部29)は、例えば、後述のサーバ7からリクエストを受信した場合に、重み係数wαをサーバ7に送信する。この際、制御システム42(制御部29)は、例えば、記憶部27から重み係数wαを取得し、取得した重み係数wαをサーバ7に送信する。
【0195】
制御システム42(制御部29)は、例えば、上述のステップS150(図11参照)において、フィードフォワード制御部42bの重み係数wαが調整される毎に、重み係数wαを、サーバ7に送信する。
【0196】
又、制御システム42(制御部29)は、例えば、フィードフォワード制御部42bにおける学習の進度が所定条件に該当した場合に、重み係数wαを、サーバ7に送信する。
【0197】
制御システム42(制御部29)は、学習の進度が所定条件に該当した場合に、例えば、記憶部27から重み係数wαを取得し、取得した重み係数wαをサーバ7に送信する。
【0198】
上記所定条件とは、例えば、重み係数wαの変動率が所定値以下となった場合である。又、上記所定条件とは、例えば、重み係数wαの変動幅が所定値以下となった場合である。
【0199】
以下、サーバ7の構成について説明する。サーバ7は、図1に示すように、ネットワークNを介して、クレーンCに接続されている。サーバ7は、外部装置の一例に該当する。
【0200】
尚、サーバ7は、有線又は無線によりクレーンCに接続されていればよい。サーバ7は、クレーンCの作業現場から離れた遠隔地に設けられていてもよい。又、サーバ7は、クレーンCの作業現場の一画に設けられていてもよい。又、サーバ7は、クレーンCに通信接続可能な状態で、クレーンCに組み込まれていてもよい。
【0201】
又、サーバ7は、クレーンCから、既述の重み係数wαを取得してもよい。そして、サーバ7は、取得した重み係数wαを用いた演算を実施する機能を有する。重み係数wαを用いた演算は、例えば、後述の表示部74への表示、及び、重み係数wαを用いたクレーンCの特性変化の判定等の種々の演算を含む。
【0202】
具体的には、サーバ7は、図3に示すように、通信部71と、取得部72と、記憶部73と、表示部74と、制御部75と、を有する。
【0203】
通信部71は、クレーンCの通信部28に、例えば、インターネット等のネットワークNを介して通信接続される。尚、通信部71とクレーンCの通信部28との通信方式は、特に限定されない。
【0204】
通信部71は、クレーンCの通信部28と通信を確立して、情報を送る又は受け取る。通信部71は、クレーンCの通信部28から取得した情報を、取得部72に送る。
【0205】
具体的には、通信部71は、所定のタイミングで、クレーンCから、制御対象9の出力値O(n)と物理モデル8の予測値P(n)との差分に関する情報を取得する。
【0206】
又、通信部71は、クレーンCから、制御対象9及び物理モデル8への入力信号である目標速度信号Vdを取得する。又、通信部71は、クレーンCから、上述の位置の差分情報を取得してもよい。又、通信部71は、所定のタイミングで、クレーンCから物理モデル8のパラメータを取得してもよい。又、通信部71は、所定のタイミングで、クレーンCから重み係数wαを取得してもよい。
【0207】
取得部72は、通信部71から情報を取得する。取得部72は、通信部71がクレーンCから取得した種々の情報を適宜のタイミングで取得する。
【0208】
記憶部73は、情報を記憶する。本実施形態の場合、記憶部73は、クレーンCにおける物理モデル8と同等の物理モデル(以下、「サーバ側物理モデル」と称する。)を記憶している。サーバ側物理モデルは、クレーンCにおける物理モデル8と同じ構成を有する。よって、サーバ側物理モデルは、クレーンCの物理モデル8と同様にクレーンCにおける制御対象9の特性を表す物理モデルと捉えてよい。
【0209】
又、記憶部73は、クレーンCにおける制御対象9(例えば、各アクチュエータ)の特性を、フィードフォワード制御部42bと同じ物理モデルにより表現した(換言すれば、同定した。)基準モデルを記憶している。
【0210】
基準モデルは、クレーンCの初期状態(換言すれば、未使用状態又は正常時)における制御対象9を同定したモデルと捉えてよい。基準モデルは、例えば、図9に示すフィードフォワード制御部42bと同じ構成を有する。よって、基準モデルの伝達関数G(s)は、上記式6と同じである。
【0211】
基準モデルは、クレーンCの初期状態における制御対象9の特性に対応した重み係数wαsを有する。本実施形態の場合、基準モデルの重み係数wαsは、クレーンCのフィードフォワード制御部42bにおける重み係数wα1、wα2、wα3、wα4に対応する。
【0212】
(表示部)
表示部74は、情報を表示する。表示部74は、例えば、ディスプレイ又はモニタである。
【0213】
(制御部)
制御部75は、サーバ7を構成する各エレメント71~74の動作を制御する。
【0214】
制御部75は、例えば、サーバ7のオペレータからの操作入力に応じて、情報の送信をクレーンCに要求するためのリクエストをクレーンCに送信するように、通信部71を制御する。サーバ7のオペレータは、サーバ7に設けられた入力部76(例えば、キーボード又はタッチパネル)を介して操作入力を入力する。
【0215】
制御部75は、クレーンCから取得した重み係数wαを表示部74に表示する。具体的には、制御部75は、クレーンCから取得した重み係数wαを、時系列に沿って表示部74に表示する。よって、表示部74には、サーバ7のオペレータが、クレーンCのフィードフォワード制御部42bで実施された学習における重み係数wαの変化を確認できる態様で、重み係数wαが表示される。
【0216】
サーバ7のオペレータは、表示部74に表示された重み係数wα(特に、学習が完了した時点の重み係数wα)を確認することにより、クレーンCの制御対象9の特性が変化したか否かを判定できる。
【0217】
つまり、既述のように、クレーンCにおける制御対象9の特性が変化しなければ、フィードフォワード制御部42bの学習が完了した状態において、学習毎の重み係数は、一定又はほぼ一定の値となる。
【0218】
一方、クレーンCの制御対象9の特性が変わった場合、学習が完了した状態における重み係数は、制御対象9の特性が変わる前の重み係数と異なる。つまり、学習が完了した状態における重み係数の変化を見ることにより、サーバ7のオペレータは、制御対象9の特性の変化の有無を確認できる。
【0219】
又、制御部75は、クレーンCから取得した重み係数wαとともに、記憶部73に記憶された基準モデルの重み係数wαsを表示部74に表示してもよい。サーバ7のオペレータは、表示部74に表示された、クレーンCの重み係数wαと、基準モデルの重み係数wαsとを比較することにより、クレーンCの制御対象9の特性が変化したか否かを判定できる。
【0220】
又、制御部75は、クレーンCから取得した重み係数wα(具体的には、クレーンCのフィードフォワード制御部42bにおいて学習が完了した状態の重み係数wα)と、記憶部73に記憶された基準モデルの重み係数wαsとを比較することにより、クレーンCの制御対象9の特性が変化したか否かを判定する機能を有してもよい。
【0221】
例えば、制御部75は、クレーンCから取得した重み係数wαと基準モデルの重み係数wαsとの差が、所定値よりも小さい場合に、クレーンCの制御対象9の特性が変化していないと判定する。
【0222】
一方、制御部75は、クレーンCから取得した重み係数wαと基準モデルの重み係数wαsとの差が、所定値以上の場合に、クレーンCの制御対象9の特性が変化していると判定する。そして、制御部75は、上述の判定の結果(比較結果)を、出力してもよい(例えば、表示部74に表示してもよい)。又、制御部75は、上述の判定の結果を、クレーンCに送信してもよい。
【0223】
このような構成によれば、サーバ7のオペレータ及び/又はクレーンCのオペレータは、容易にクレーンCの制御対象9の特性が変化したか否かを認識できる。
【0224】
又、制御部75は、記憶部73に記憶されたサーバ側物理モデル、取得部72から取得した制御対象9及び物理モデル8への入力信号(具体的には、目標速度信号Vd)、及び取得部72から取得した出力値の差分情報に基づいて、クレーンCにおける制御対象9の出力値O(n)を復元する。よって、制御部75は、9の出力値O(n)を復元する復元処理部としても機能を有する。
【0225】
具体的には、制御部75は、取得した制御対象9及び物理モデル8への入力信号を、サーバ側物理モデルに入力する。サーバ側物理モデルは、クレーンCにおける物理モデル8と同じ特性を有している。このため、サーバ側物理モデルは、上記入力信号に対して、クレーンCにおける物理モデル8の予測値P(n)と同じ値を出力する。サーバ側物理モデルの出力値は、サーバ側出力信号の一例に該当する。
【0226】
そして、制御部75は、サーバ側物理モデルの出力値に、取得部72から取得した出力値の差分情報を加算する。サーバ側物理モデルの出力値と、取得部72から取得した出力値の差分情報との加算値は、クレーンCにおける制御対象9の出力値O(n)に等しい。よって、制御部75は、制御対象9の出力値O(n)を復元することができる。
【0227】
又、制御部75は、記憶部73に記憶されたサーバ側物理モデル、取得部72から取得した制御対象9及び物理モデル8への入力信号(具体的には、目標軌道信号Pd2α)、及び取得部72から取得した位置の差分情報に基づいて、荷物位置検出部の検出値であるクレーンCにおける荷物Wの位置情報を復元してもよい。
【0228】
又、制御部75は、クレーンCから物理モデル8のパラメータを取得した場合、当該パラメータをサーバ側物理モデルに適用して、サーバ側物理モデルを更新する。これにより、サーバ側物理モデルは、常に、クレーンCにおける物理モデル8と同等の特性を有することができる。
【0229】
(本実施形態の作業・効果)
以上のように、本実施形態の場合、クレーンCは、上述の出力値の差分情報をサーバ7に送信する。この出力値の差分情報は、制御対象9の出力値O(n)と比べて桁数が小さい。よって、クレーンCからサーバ7に送信されるデータの容量を大幅に減らすことができる。
【0230】
又、サーバ7は、記憶部73に記憶されたサーバ側物理モデル、クレーンCから所得した制御対象9及び物理モデル8への入力信号、及びクレーンCから所得した出力値の差分情報に基づいて、制御対象9の出力値O(n)を復元できる。よって、サーバ7のオペレータは、サーバ7により復元された制御対象9の出力値O(n)を解析することにより、制御対象9の特性がどのように変化したのかを認識できる。
【産業上の利用可能性】
【0231】
本発明は、移動式クレーンに限らず、種々のクレーンに適用できる。
【符号の説明】
【0232】
S 出力復元システム
C、C1、C2、C3 クレーン
W 荷物
1 車両
11 車輪
12 エンジン
13 アウトリガ
2 クレーン装置
201 旋回台
202 旋回台カメラ
202f 前側旋回台カメラ
202r 後側旋回台カメラ
203 旋回用油圧モータ
204 伸縮ブーム
205 ジブ
206 ブームカメラ
207 メインフックブロック
208 メインフック
209 サブフックブロック
210 サブフック
211 起伏用油圧シリンダ
212 メインウインチ
213 メインワイヤロープ
214 サブウインチ
215 サブワイヤロープ
216 キャビン
217 操作部
218 伸縮用油圧シリンダ
219 メインドラム用油圧モータ
220 サブドラム用油圧モータ
230 旋回操作具
231 起伏操作具
232 伸縮操作具
233 メインドラム操作具
234 サブドラム操作具
250 旋回用バルブ
251 伸縮用バルブ
252 起伏用バルブ
253 メインドラム用バルブ
254 サブドラム用バルブ
26 検出部
260 旋回用センサ
261 伸縮用センサ
262 方位センサ
263 起伏用センサ
264 巻回用センサ
27 記憶部
28 通信部
29 制御部
290 目標軌道算出部
291 ブーム位置算出部
292 作動信号生成部
3 操作端末
30 筐体
31 吊り荷移動操作具
32 端末側旋回操作具
33 端末側伸縮操作具
34 端末側メインドラム操作具
35 端末側サブドラム操作具
36 端末側起伏操作具
37 端末側表示部
38 端末側制御部
39 端末側方位センサ
42 制御システム
42a フィードバック制御部
42b フィードフォワード制御部
7 サーバ
71 通信部
72 取得部
73 記憶部
74 表示部
75 制御部
76 入力部
8 物理モデル
9 制御対象
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14