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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081761
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/18 20060101AFI20230606BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20230606BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20230606BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20230606BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20230606BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20230606BHJP
   C08G 18/28 20060101ALI20230606BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20230606BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A61L27/18
C08G18/48 033
C08G18/73
C08G18/75
C08G18/76 057
C08G18/44
C08G18/28 085
A61L29/06
A61L31/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195737
(22)【出願日】2021-12-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、「有機材料の極限機能創出と社会システム化をする基盤技術の構築及びソフトマターロボティクスへの展開」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】西村 卓真
(72)【発明者】
【氏名】塩路 雄大
(72)【発明者】
【氏名】田部 七大
(72)【発明者】
【氏名】西浦 聖人
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
【テーマコード(参考)】
4C081
4J034
【Fターム(参考)】
4C081AB03
4C081AB13
4C081AB31
4C081AC08
4C081CA21
4C081DA02
4C081EA05
4J034BA07
4J034BA08
4J034CA02
4J034CA04
4J034CA05
4J034CB01
4J034CB03
4J034CB04
4J034CC03
4J034CC08
4J034CC12
4J034CC23
4J034CC26
4J034CC45
4J034CC52
4J034CC62
4J034CC65
4J034CD04
4J034CD12
4J034DA01
4J034DB04
4J034DF02
4J034DF16
4J034DF20
4J034DF21
4J034DF22
4J034DG03
4J034DG04
4J034DG05
4J034DG06
4J034DG08
4J034DG09
4J034DP19
4J034GA05
4J034GA06
4J034GA23
4J034HA01
4J034HA06
4J034HA07
4J034HB12
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034QA01
4J034QA02
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB14
4J034QB15
4J034QB19
4J034QC08
4J034QD01
4J034RA02
4J034RA07
(57)【要約】
【課題】生体親和性と物性を両立することができるポリウレタン樹脂エラストマーを含む医療機器を提供する。
【解決手段】実施形態に係る医療機器は、ポリウレタン樹脂エラストマーと、前記ポリウレタン樹脂エラストマーに含有された水と、を含む。前記ポリウレタン樹脂エラストマーは、構成成分として、ポリエチレングリコールおよびポリイソシアネートを含み、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が200以上2200以下であり、前記ポリウレタン樹脂エラストマーの構成成分100質量%における前記ポリエチレングリコールの量が1質量%以上50質量%未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂エラストマーと、前記ポリウレタン樹脂エラストマーに含有された水と、を含む医療機器であって、
前記ポリウレタン樹脂エラストマーが、構成成分として、ポリエチレングリコールおよびポリイソシアネートを含み、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が200以上2200以下であり、前記ポリウレタン樹脂エラストマーの構成成分100質量%における前記ポリエチレングリコールの量が1質量%以上50質量%未満である、医療機器。
【請求項2】
前記水の含有量が前記ポリウレタン樹脂エラストマーに対して1質量%より多く50質量%未満である、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記ポリイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)=ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびそれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の医療機器。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂エラストマーが、構成成分として、ポリカーボネートジオールをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂エラストマーは、厚みが1mmを超える塗膜または成形物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂エラストマーが乳化体を経ずに得られたものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂エラストマーは、ポリオールと前記ポリイソシアネートとを反応させながら成形されたものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項8】
前記ポリウレタン樹脂エラストマーが熱可塑性である、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項9】
前記ポリウレタン樹脂エラストマーが、構成成分として、フッ素原子を含有する一価アルコールをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器に関し、より詳細には、生体組織や体液に接触させて使用する用途に用いられる機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生体に由来しない物質の表面に生体組織や血液等が接触した際には、当該物質表面が異物として認識され、当該表面へ生体組織中のタンパク質が非特異吸着を生じて変性すると共に、凝固系、補体系、血小板系等の活性化が生じ、当該表面に血小板等の血球の吸着等を生じることが知られている。
【0003】
これに対して、近年、所定の構造を有する合成高分子の表面に含まれる水分子の状態に着目し、高分子材料と適度に相互作用する水分子を含有可能な表面を高分子材料に形成することによって、当該表面へのタンパク質の非特異吸着や、吸着したタンパク質の変性を防止可能であることが明らかになってきている。そして、当該表面においては、血液等と接触した際の血小板等の粘着頻度が低く、また、生体組織と接触した際に生じる炎症の抑制等が可能であることが明らかになってきている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
上記のような高分子材料と適度に相互作用する水分子が存在することによって、物質表面へのタンパク質の非特異吸着等が抑制等される結果として、これに接触した生体組織や血液等に生じる各種の問題を抑制可能な状態は、一般的に生体親和性(血液適合性)を有すると表現されている。
【0005】
特許文献1には、少なくとも75%が7000~30000の分子量を有するオキシエチレンベースのポリオールである予備重合体単位から誘導され、該ポリオールのヒドロキシル基がポリイソシアネートでキャッピングされてなる生体適合性の水和重合体ゲルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1-271410号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本接着学会誌,Vol.51,No.9,(2015),P.15~25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリエチレングリコールを構成成分として含むポリマーは生体親和性を有する。その一方で、生体組織に接触させて使用される機器においては、血液適合性などの生体親和性とともに引張強度などの物性が要求されることがある。しかるに、構成成分としてポリエチレングリコールを多量に含有するポリウレタン樹脂エラストマーでは、生体親和性は付与することができるものの、引張強度などの物性が損なわれることがある。
【0009】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、血液適合性などの生体親和性と物性とを両立することができるポリウレタン樹脂エラストマーを含む医療機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] ポリウレタン樹脂エラストマーと、前記ポリウレタン樹脂エラストマーに含有された水と、を含む医療機器であって、前記ポリウレタン樹脂エラストマーが、構成成分として、ポリエチレングリコールおよびポリイソシアネートを含み、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が200以上2200以下であり、前記ポリウレタン樹脂エラストマーの構成成分100質量%における前記ポリエチレングリコールの量が1質量%以上50質量%未満である、医療機器。
[2] 前記水の含有量が前記ポリウレタン樹脂エラストマーに対して1質量%より多く50質量%未満である、[1]に記載の医療機器。
[3] 前記ポリイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)=ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびそれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]または[2]に記載の医療機器。
[4] 前記ポリウレタン樹脂エラストマーが、構成成分として、ポリカーボネートジオールをさらに含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の医療機器。
[5] 前記ポリウレタン樹脂エラストマーは、厚みが1mmを超える塗膜または成形物である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の医療機器。
[6] 前記ポリウレタン樹脂エラストマーが乳化体を経ずに得られたものである、[1]~[5]のいずれか1項に記載の医療機器。
[7] 前記ポリウレタン樹脂エラストマーは、ポリオールと前記ポリイソシアネートとを反応させながら成形されたものである、[1]~[6]のいずれか1項に記載の医療機器。
[8] 前記ポリウレタン樹脂エラストマーが熱可塑性である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の医療機器。
[9] 前記ポリウレタン樹脂エラストマーが、構成成分として、フッ素原子を含有する一価アルコールをさらに含む、[1]~[8]のいずれか1項に記載の医療機器。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、生体親和性と物性を両立することができるポリウレタン樹脂エラストマーを含む医療機器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る医療機器は、ポリウレタン樹脂エラストマーと、該ポリウレタン樹脂エラストマーに含有された水と、を含む医療機器であって、該ポリウレタン樹脂エラストマーが、構成成分としてポリエチレングリコールおよびポリイソシアネートを含むものである。
【0013】
本実施形態に係る医療機器は、生体組織や体液(例えば、血液やリンパ液、組織液など)に接触させて使用する用途に用いられる器具、器械、機械であり、生体親和性を持つことが求められる各種の医療機器が挙げられる。
【0014】
医療機器の具体例としては、血液フィルター、透析装置、血液保存バッグ、血小板保存バッグ、血液回路、人工骨、人工血管、人工臓器(例えば、人工肺、人工心臓、人工膵臓、人工肝臓など。体内埋め込み型でも体外循環型でもよい。)、ペースメーカー、留置針、カテーテル(例えば、血管造影用カテーテル、PTCA用カテーテル等の循環器用カテーテル、胃管カテーテル、胃腸カテーテル、食道チューブ等の消化器用カテーテル、チューブ、尿道カテーテル、尿菅カテーテル等の泌尿器科用カテーテルなど)、ガイドワイヤー、ステント、内視鏡、組織再生用の補修材、薬物徐放システムの担体、塞栓材、細胞工学用の足場のためのマトリックス材料などの医療用器具が挙げられ、また、これらを構成部品として含む医療用の器械や機械でもよい。これらの医療機器においては、その全体が上記の水を含有するポリウレタン樹脂エラストマーにより形成されてもよく、あるいはまた、生体組織や体液に接触する部位の少なくとも一部、好ましくは当該部位の全体が、上記水を含有するポリウレタン樹脂エラストマーにより形成されてもよい。
【0015】
本実施形態によれば、構成成分としてポリエチレングリコールを含むポリウレタン樹脂エラストマーが高い生体親和性を発現する。本明細書において「生体親和性」とは、血小板の粘着頻度や、タンパク質の非特異吸着が抑制される等、生体物質又は生体由来物質と接触した際に異物として認識されにくい特性を意味する。具体的には、例えば、補体活性化や血小板活性化を生じず、組織に対して低侵襲性又は非侵襲性であることを意味する。「生体親和性」には、「血液適合性」である態様も包含される。「血液適合性」とは、主に血小板の粘着や活性化に起因する血液凝固を惹起しないことを意味する。
【0016】
本実施形態に係るポリウレタン樹脂エラストマーが生体親和性を発現する機構は明らかではない。本実施形態に係るポリウレタン樹脂エラストマーについて、示差走査熱量計(DSC)を用いた当該エラストマー中に含まれる水の構造測定から、昇温過程(昇温速度は5℃/min程度)において0℃未満で融解する水の存在が観察されており、ポリウレタン樹脂エラストマーと適度に相互作用する水分子の含有が示唆されている。本明細書では、上記の0℃未満で融解する水を「中間水(低温融解水)」と呼称する。中間水が存在することによって、血小板の吸着が抑制されるなどといった生体親和性(血液適合性)が発現されると考えられる。
【0017】
本実施形態に係るポリウレタン樹脂エラストマーは、構成成分として、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリイソシアネートを含む。ポリウレタン樹脂エラストマーの「構成成分」とは、ポリウレタン樹脂エラストマーを構成するポリマー鎖の一部として組み込まれるポリウレタン樹脂エラストマーの原料成分を意味する。そのため、ポリマー鎖に組み込まれた段階では、ポリエチレングリコールやポリイソシアネートそのものではなく、それらに由来する構造(例えば、ポリエチレングリコールであればポリオキシエチレン構造)を持つ。
【0018】
上記ポリエチレングリコールとして、本実施形態では数平均分子量(Mn)が200以上2200以下のものが用いられる。ポリエチレングリコールの数平均分子量が2200以下であることにより、ポリウレタン樹脂エラストマーの強度低下を抑えることができる。ポリエチレングリコールの数平均分子量は300以上であることが好ましく、より好ましくは400以上であり、500以上でもよい。ポリエチレングリコールの数平均分子量は2000以下であることが好ましく、より好ましくは1500以下であり、更に好ましくは1000以下であり、800以下でもよい。
【0019】
本明細書において、数平均分子量は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により測定され、標準ポリスチレンの分子量と溶出時間から作成した検量線を用いて、測定試料の溶出時間から算出される値である。測定条件に関し、後述する実施例では、カラムにTSKgel Hxl(東ソー株式会社製)を用いて、移動相はTHF、移動相流量は1.0mL/min、カラム温度は40℃、試料注入量は50μL、試料濃度は0.2質量%の条件で測定を行った。
【0020】
上記ポリエチレングリコールとしては、直鎖型ポリエチレングリコール(直鎖型PEG)を用いてもよく、分岐型ポリエチレングリコール(分岐型PEG)を用いてもよく、直鎖型PEGと分岐型PEGを併用してもよい。ここで、直鎖型PEGとは、直鎖状のポリオキシエチレン構造の両末端に水酸基を有するポリオールである。直鎖型PEGを用いることにより、その両末端がウレタン結合より結合されるので、ポリウレタン樹脂エラストマーのポリマー主鎖内にポリオキシエチレン構造を導入することができる。
【0021】
分岐型PEGとは、両端に水酸基を持つ主鎖に対して分岐した部分にポリオキシエチレン構造を持つものであり、例えば、両端に水酸基を有するアルキレン基等に含まれる水素原子を、ポリオキシエチレン構造を有する基で置換した構造のポリオールが挙げられる。分岐型PEGを用いることにより、ポリウレタン樹脂エラストマーのポリマー主鎖ではなく、側鎖部分にポリオキシエチレン構造を導入することができる。親水性のポリオキシエチレン構造を主鎖部分ではなく側鎖部分に導入することにより、少量の導入量でありながらより効果的にポリオキシエチレン構造による効果を発揮して、含水率を高めることができ、より良好な生体親和性を発現することができる。
【0022】
上記ポリエチレングリコールの含有量としては、ポリウレタン樹脂エラストマーの構成成分100質量%において1質量%以上50質量%未満であることが好ましい。ポリエチレングリコールの含有量が多すぎると、引張強度などの物性が低下し、含水状態での強度保持率が低下するので、上記構成成分100質量%におけるポリエチレングリコールの含有量は50質量%未満であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。また、生体親和性の観点から、上記構成成分100質量%におけるポリエチレングリコールの含有量は1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、さらに好ましくは5質量%以上であり、10質量%以上でもよい。ポリオール100質量%中におけるポリエチレングリコールの含有量は、特に限定されず、例えば5質量%以上でもよく、5~60質量%でもよく、8~50質量%でもよく、10~40質量%でもよい。
【0023】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーは、構成成分として、上記ポリエチレングリコールとともに、他のポリオールを含んでもよい。そのような他のポリオールとしては、一般にポリウレタンの合成に使用されるポリオールを用いることができ、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、炭化水素系ポリオール、または分子量200未満の低分子量ポリオールなどが挙げられ、これらをいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、脂肪族ポリオールや脂環式ポリオールを、炭酸エステルやホスゲン等のカーボネート誘導体と反応させることで得られるポリオールが挙げられる。ポリカーボネートポリオールとしては、ポリカーボネートジオールを用いることが好ましく、より好ましくは脂肪族ジオールを構成成分として含むポリカーボネートジオールである。脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどの炭素数1~8の脂肪族ジオールが挙げられ、これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、上記脂肪族ジオールなどの低分子量ポリオールと多価カルボン酸とを反応させてなるエステル化縮合物が挙げられる。多価カルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフラン酸などが挙げられる。また、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0026】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)や、上記脂肪族ジオールなどの低分子量ポリオールに、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキサイドなどのアルキンオキサイドを付加重合して得られたものが挙げられる(但し、上記ポリエチレングリコールは除く)。また、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0027】
炭化水素系ポリオールは、炭化水素鎖の末端を水酸基で終端したものであり、例えば、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、または水添ポリイソプレンポリオールなどが挙げられる。また、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0028】
分子量200未満の低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。また、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
ポリエチレングリコールと併用する他のポリオールとしては、一般的に強度に優れる傾向があることから、ポリカーボネートジオールが好ましい。すなわち、好ましい実施形態に係るポリウレタン樹脂エラストマーは、構成成分として、ポリカーボネートジオールを更に含む。ポリカーボネートポリオールの含有量は、特に限定されないが、ポリエチレングリコールを除いたポリオール成分100質量部のうち、80質量部以上であることが好ましく、より好ましくは90質量部以上であり、更に好ましくは95質量部以上である。ポリウレタン樹脂エラストマーの構成成分100質量%におけるポリカーボネートジオールの含有量は、特に限定されないが、30~90質量%であることが好ましく、より好ましくは35~80質量%であり、40~75質量%でもよい。
【0030】
上記ポリイソシアネートとしては、特に限定されず、1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する種々のポリイソシアネート化合物を用いることができる。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、および芳香族ポリイソシアネート、ならびにこれらの変性体が挙げられ、いずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0031】
上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネートなどが挙げられる。また、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0032】
上記脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート、メチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)=ジイソシアネート(水添MDI)、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。また、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0033】
上記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI、例えば2,4-TDI、2,6-TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI、例えば2,2’-MDI、2,4’-MDI、4,4’-MDI)、ポリメリックMDI、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。また、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0034】
これらポリイソシアネートの変性体としては、例えば、イソシアヌレート変性体、アロファネート変性体、ビュレット変性体、アダクト変性体、カルボジイミド変性体などが挙げられる。
【0035】
一実施形態において、好ましいポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)=ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびそれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。より好ましくは、ポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)=ジイソシアネート、およびそれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0036】
ポリイソシアネートの含有量は、特に限定されないが、上記構成成分に含まれるイソシアネート基と水酸基の割合(水酸基に対するイソシアネート基のモル比)NCO/OH(インデックス)が0.7~1.6であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4であり、さらに好ましくは1.0~1.2である。ポリウレタン樹脂エラストマーの構成成分100質量%におけるポリイソシアネートの含有量は、特に限定されず、例えば、5~50質量%でもよく、8~40質量%でもよく、10~30質量%でもよい。
【0037】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーは、構成成分として、フッ素原子を含有する一価アルコール(以下、フッ素アルコールという。)をさらに含んでもよい。フッ素アルコールを用いることにより、ポリウレタン樹脂エラストマーの水接触角を小さくすることができる。
【0038】
フッ素アルコールの具体例としては、トリフルオロエタノール、テトラフルオロプロパノール、ペンタフルオロプロパノール、トリフルオロメチルプロパノール、ヘキサフルオロブタノール、ヘプタフルオロブタノール、ペンタフルオロペンタノール、オクタフルオロペンタノール、ノナフルオロペンタノール、トリデカフルオロヘプタノール、ノナフルオロヘキサノール、トリデカフルオロオクタノール、ヘプタデカフルオロデカノール、テトラフルオロベンジルアルコール、トリフルオロメチルベンジルアルコール、トリフルオロメトキシベンジルアルコール、およびこれらのアルキレンオキサイド付加物(例えばエチレンオキサイド付加物)が挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
ポリウレタン樹脂エラストマーの構成成分100質量%におけるフッ素アルコールの含有量は、特に限定されず、例えば、0.1~15質量%でもよく、1~10質量%でもよく、3~8質量%でもよい。
【0040】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーには、触媒、消泡剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤が、本実施形態の目的を損なわない範囲で添加することができる。触媒としては、例えば、スズ系触媒、鉛系触媒、ビスマス系触媒などの金属触媒、アミン触媒などの各種ウレタン重合触媒を用いることができる。
【0041】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーは熱可塑性であることが好ましい。熱可塑性であることにより、加熱により可塑化させて成形加工を行うことができる。熱可塑性であるためには、構成成分であるポリオールおよびポリイソシアネートとして、それぞれ2官能のものを主として用いることが好ましい。但し、得られるポリウレタン樹脂エラストマーが熱可塑性であれば、3官能以上のポリオールおよび/またはポリイソシアネートを含んでもよい。
【0042】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーは、乳化体を経ずに得られたものであることが好ましい。ポリウレタンを水中に乳化分散させた水分散体(水系エマルジョン)を得る場合、乳化剤として界面活性剤が使用され、そのため、得られたポリウレタンには一般に界面活性剤が含まれる。しかしながら、界面活性剤が含まれると耐水性が低下する要因となる。そのため、ポリウレタン樹脂エラストマーは、耐水性の観点から、乳化体を経ずに得られ、界面活性剤を含まないものであることが好ましい。
【0043】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーの含水性能は特に限定されない。一実施形態において、ポリウレタン樹脂エスラトマーの4℃での最大含水率は、1質量%より多く55質量%未満でもよく、5質量%以上50質量%以下でもよい。一実施形態において、ポリウレタン樹脂エスラトマーの37℃での最大含水率は、1質量%より多く50質量%未満でもよく、3質量%以上40質量%以下でもよく、5質量%以上30質量%以下でもよい。ここで、最大含水率とは、ポリウレタン樹脂エラストマーの乾燥質量100質量%に対して、当該ポリウレタン樹脂エラストマーを4℃または37℃の水に浸漬したときに吸収することができる水の最大質量の比率(飽和含水量)であり、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0044】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーの硬度は特に限定されない。一実施形態において、ポリウレタン樹脂エラストマーの乾燥状態での硬度(shoreA)(JIS K7312:1996)は、30以上90以下でもよく、40以上70以下でもよい。
【0045】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーの引張強度(JIS K6251:2017)は特に限定されない。一実施形態において、ポリウレタン樹脂エラストマーの乾燥状態での引張強度は、5MPa以上30MPa以下でもよく、10MPa以上25MPa以下でもよい。
【0046】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーの切断時伸び(JIS K6251:2017)は特に限定されない。一実施形態において、ポリウレタン樹脂エラストマーの乾燥状態での切断時伸びは、300%以上2000%以下でもよく、500%以上1500%以下でもよい。
【0047】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーのガラス転移温度(Tg)は特に限定されない。一実施形態において、ポリウレタン樹脂エラストマーのガラス転移温度(示差走査熱量測定装置により測定)は-55℃以上-25℃以下でもよい。
【0048】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーの水接触角は特に限定されない。一実施形態において、ポリウレタン樹脂エラストマーの含水状態での水接触角は、20°以上95°以下でもよく、30°以上80°以下でもよい。水接触角が小さいほど、抗血栓性に優れると言われている。
【0049】
上記ポリウレタン樹脂エラストマーを合成する方法は特に限定されず、通常のポリウレタンと同様に合成することができる。好ましくは、上記ポリエチレングリコール、任意成分としての他のポリオール、およびイソシアネートを、溶剤を使用せずに反応させることにより合成することである。
【0050】
本実施形態に係る医療機器におけるポリウレタン樹脂エラストマーの成形方法は、特に限定されず、例えば、二液硬化法により成形してもよく、熱溶融法により成形してもよい。
【0051】
二液硬化法は、上記構成成分を含むA液とB液を混合してポリウレタン樹脂エラストマーを合成する際に、その混合液から直接、医療機器における所定の形状にポリウレタン樹脂エスラトマーを成形する方法である。すなわち、この場合、ポリウレタン樹脂エラストマーは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させながら成形されたものである。
【0052】
二液硬化法の一例として、ポリエチレングリコールおよび他のポリオールを含むA液とポリイソシアネートを含むB液とを混合し、混合液をコーティング法や射出成形法などの公知の成形法を用いて所定の形状に成形しつつ硬化させてもよい。他の一例として、ポリエチレングリコールとポリイソシアネートを混合し反応させることでイソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを得た後、該ウレタンプレポリマーをB液として、当該B液と他のポリオールを含むA液とを混合し、混合液をコーティング法や射出成形法などを用いて所定の形状に成形しつつ硬化させてもよい。さらに他の一例として、上記他のポリオールとポリイソシアネートを混合し反応させることでイソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを得た後、該ウレタンプレポリマーをB液として、当該B液とポリエチレングリコールを含むA液とを混合し、混合液をコーティング法や射出成形法などを用いて所定の形状に成形しつつ硬化させてもよい。
【0053】
熱溶融法は、上記構成成分を混合してポリウレタン樹脂エラストマーを合成した後、その熱可塑性を利用してポリウレタン樹脂エラストマーを加熱溶融して医療機器における所定の形状に成形する方法である。
【0054】
熱溶融法の一例として、ポリエチレングリコール、他のポリオールおよびポリイソシアネートを混合し硬化させることによりポリウレタンの硬化物を得た後、該硬化物を加熱溶融し、溶融したポリウレタンをコーティング法や射出成形法などの公知の成形法を用いて所定の形状に成形してもよい。他の一例として、ポリエチレングリコールとポリイソシアネートを混合し反応させることでイソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを得た後、該ウレタンプレポリマーを他のポリオールと混合し硬化させることによりポリウレタンの硬化物を得た後、該硬化物を加熱溶融し、溶融したポリウレタンをコーティング法や射出成形法などの公知の成形法を用いて所定の形状に成形してもよい。更に他の一例として、上記他のポリオールとポリイソシアネートを混合し反応させることでイソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを得た後、該ウレタンプレポリマーをポリエチレングリコールと混合し硬化させることによりポリウレタンの硬化物を得た後、該硬化物を加熱溶融し、溶融したポリウレタンをコーティング法や射出成形法などの公知の成形法を用いて所定の形状に成形してもよい。
【0055】
医療機器におけるポリウレタン樹脂エスラトマーの形状は、特に限定されず、上述した種々の医療機器において、その全体に対応する形状や、あるいはまた、それら医療機器のうち、生体組織や体液に接触する部位の少なくとも一部または全体に対応する形状や、当該部位の少なくとも一部または全体を被覆する被膜状であってもよい。例えば、板状、柱状、中空状のほか、人工骨のような立体的な形状の全体をポリウレタン樹脂エスラトマーで形成してもよい。
【0056】
好ましい一実施形態において、上記ポリウレタン樹脂エラストマーが乳化体を経ずに得られたものである場合、厚みの大きい塗膜または成形物を成形することができる。そのため、ポリウレタン樹脂エスラトマーは、厚みが1mmを超える塗膜または成形物であることが好ましい。該塗膜または成形物の厚みは、2mm以上であることが好ましい。塗膜または成形物の厚みの上限は特に限定されず、例えば100mm以下でもよい。ここで、塗膜の厚みとは膜厚をいう。成形物の厚みとは、板状の場合は板厚をいい、中空状の場合は内周面と外周面間の幅(肉厚)をいい、柱状や人工骨のような立体的な形状の場合は縦横高さのうち最も寸法の小さい方向での寸法をいう。
【0057】
このようにしてポリウレタン樹脂エラストマーを成形した後、該ポリウレタン樹脂エラストマーを水に含浸させることにより、ポリウレタン樹脂エラストマーに水を含有させることができる。
【0058】
本実施形態に係る医療機器おいて、ポリウレタン樹脂エラストマーが含有する水は、蒸留水や脱イオン水などの純水でもよいが、生理食塩水などの水溶液でもよい。
【0059】
医療機器におけるポリウレタン樹脂エスラトマーの水の含有量は、特に限定されないが、ポリウレタン樹脂エラストマーに対して1質量%より多く50質量%未満であることが好ましい。ここで、水の含有量は、ポリウレタン樹脂エラストマーの乾燥質量100質量%に対する、当該ポリウレタン樹脂エラストマーに含まれている水の質量比率である。水の含有量は、3~40質量%であることが好ましく、より好ましくは5~30質量%であり、更に好ましくは10~25質量%である。
【実施例0060】
実施例及び比較例において使用した原料を以下に示す。
[ポリエチレングリコール]
・PEG#200:日油株式会社製「PEG#200」(数平均分子量200)
・PEG-600S:第一工業製薬株式会社製「PEG-600S」(数平均分子量600)
・YmerN180:Perstorp社製「YmerN180」(分岐型PEG、数平均分子量623)
・PEG#1000:日油株式会社製「PEG#1000」(数平均分子量1000)
・YmerN120:Perstorp社製「YmerN120」(分岐型PEG、数平均分子量1000)
・PEG#2000:日油株式会社製「PEG#2000」(数平均分子量2000)
・PEG#4000:日油株式会社製「PEG#4000」(数平均分子量4000)
【0061】
[ポリカーボネートジオール]
・UH-100:1,6-ヘキサンジオールのポリカーボネートジオール、宇部興産株式会社製「ETERNACOLL UH-100」(数平均分子量1000)
[フッ素アルコール]
・フッ素アルコール:F(CF(CH(OCHCHOH、第一工業製薬株式会社製(分子量672)
[ジメチロールプロピオン酸]
・Bis-MPA:、Perstorp社製「BiS-MPA」(分子量134)
【0062】
[ポリイソシアネート]
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート、旭化成株式会社製「デュラネート50M」
・HDIプレポリマー:2官能HDI系プレポリマー、旭化成株式会社製「デュラネートD201」
・変性MDI:カルボジイミド変性MDI、BASF INOAC Polyurethanes社製「ルプラネートMM-103」
・水添MDI:Evonik社製「VESTANAT H12MDI」
・IPDI:イソホロンジイソシアネート、Evonik社製「VESTANAT IPDI」
【0063】
[添加剤]
・スズ系触媒:日東化成株式会社製「ネオスタンU-810」
・ビスマス系触媒:日東化成株式会社製「ネオスタンU-600」
・消泡剤:シリコーン系消泡剤、信越化学工業株式会社製「シリコンKS-69」
・トリエチルアミン:中和剤、株式会社ダイセル製「トリエチルアミン」
【0064】
[実施例2-1]
20質量部のPEG-600Sと17質量部のHDIを混合し、70℃にて1時間撹拌することでイソシアネート基末端のウレタンプレポリマー(B液)を得た。B液の粘度は600mPa・s(25℃)であった。A液として、63質量部のUH-100と0.01質量部のスズ系触媒と0.1質量部の消泡剤を混合した。40℃に温調したB液と70℃に温調したA液とを混合し、膜厚が2mmになるようにテフロン(登録商標)コーティングシャーレに投入して、80℃で16時間加熱硬化することでポリウレタン樹脂エラストマーからなる厚み2mmの塗膜を得た。
【0065】
[実施例2-2]
20質量部のPEG-600S、63質量部のUH-100、17質量部のHDI、0.01質量部のスズ系触媒、および0.1質量部の消泡剤を混合し、80℃にて16時間加熱硬化することで、膜厚5cmのブロック状硬化物を得た。上記ブロック状硬化物を190℃で加熱溶融した後、膜厚が2mmになるようにテフロン(登録商標)コーティングシャーレに投入して、80℃で16時間加熱硬化することでポリウレタン樹脂エスラトマーからなる厚み2mmの塗膜を得た。
【0066】
[実施例1,3~14および比較例1~4]
各成分の使用量を下記表1~3に示す配合(質量部)のとおりに変更し、その他は実施例2-1と同様の方法により、実施例1,3~14および比較例1~4のポリウレタン樹脂エスラトマーからなる厚み2mmの塗膜を得た。
【0067】
表1~3中のPEG含有量は、ポリウレタン樹脂エスラトマーの構成成分100質量%におけるポリエチレングリコールの含有量(質量%)である。また、NCO/OHindexは、ポリウレタン樹脂エスラトマーの構成成分に含まれるイソシアネート基と水酸基のモル比である。
【0068】
実施例および比較例で得られた塗膜をシャーレから剥離した厚み2mmのシートについて、乾燥状態での物性として、硬度、引張強度、切断時伸び、およびTgを測定した。また、含水状態での物性として、最大含水率(4℃)、最大含水率(37℃)、引張強度保持率、水接触角、および中間水を測定ないし評価した。これらの測定・評価方法は以下のとおりである。
【0069】
<乾燥状態での物性>
[硬度]
上記シートの硬度(shoreA)を、JIS K7312:1996に準拠して、ゴム硬度計(高分子計器株式会社製、商品名:アスカーA型硬度計)により測定した。
【0070】
[引張強度、切断時伸び]
上記シートについて、JIS K6251:2017に準じて、ダンベル状3号形で切り抜いた試験片を引張速度300mm/minにて、温度23℃(相対湿度55%)で引張試験を行い、引張強度(MPa)および切断時の伸び(%)を測定した。
【0071】
[ガラス転移温度Tg]
上記シートについて、示差走査熱量測定装置(株式会社リガク製「Thermo plus EVO DSC8230L」)を用いて測定した(昇温速度5℃/min)。
【0072】
<含水状態での物性>
[最大含水率(4℃)、最大含水率(37℃)]
上記シートを2cm×4cmに切断して評価サンプルとした。評価サンプルについて、試験液としての水道水(4℃および37℃)に24時間浸漬する前後の質量を測定して、下記式により質量増加率を算出することにより、当該質量増加率をポリウレタン樹脂エラストマーの最大含水率(4℃)および最大含水率(37℃)として求めた。
質量増加率(%)={(浸漬後質量-浸漬前質量)/浸漬前質量}×100
【0073】
[引張強度保持率]
上記シートを水に浸漬させた状態にて室温(25℃)で7日間維持した後、水から出した直後の引張強度を、上記乾燥状態での引張強度と同様にして測定した。下記式により引張強度保持率を求め、下記評価基準により評価した。
引張強度保持率(%)=(水浸漬後の引張強度/水浸漬前の引張強度)×100
・評価基準
○:引張強度保持率60%以上
△:引張強度保持率40%以上60%未満
×:引張強度保持率40%未満
【0074】
[水接触角]
上記シートを水に浸漬させた状態にて室温(25℃)で7日間維持した後、水から出した直後の水接触角を測定した。水から出した直後のシートの表面に水を塗布し、接触角測定装置(協和界面科学社製の接触角計「Drop Master 500」)を用いて接触角(°)を測定した。この接触角を「水接触角」と呼ぶ。
【0075】
[中間水]
示差走査熱量測定装置(株式会社リガク製「Thermo plus EVO DSC8230L」)を用いてDSC測定を実施して、昇温過程での中間水由来の吸熱ピークの有無を評価し、当該吸熱ピークがある場合を中間水「あり」として「○」で示し、当該吸熱ピークがない場合を中間水「なし」として「×」で示した。測定手順およびDSC測定条件は以下のとおりである。
・測定手順
(1)上記シートを純水に浸漬させ、4℃×72時間以上の条件で含水状態のサンプルを作製した。
(2)含水状態のサンプルを取り出し、直ちに測定を行った。
(3)試料を約5mg、DSC試験用のアルミパンに採取し、窒素雰囲気下でDSC測定を実施した。
・DSC測定条件
測定温度は-100℃~37℃とした。温度プログラムは、37℃から-100℃まで5℃/minで降温し、-100℃で5分間保持した後、-100℃から37℃まで5℃/minで昇温するように設定した。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
結果は表1に示すとおりである。比較例1,2では、ポリウレタン樹脂エスラトマーの構成成分にポリエチレングリコールを含んでいないので、含水率が小さく、中間水の存在も認められなかった。比較例3,4では、ポリエチレングリコールの量が多すぎたため、引張強度が小さく、含水状態での強度保持率に劣っていた。比較例5では、ポリエチレングリコールの分子量が大きすぎたため、引張強度が小さく、含水時にゲル状になり、含水状態での物性を測定することができなかった。
【0080】
これに対し、実施例1~14であると、引張強度や切断時伸びが高く、含水状態での強度保持率にも優れたものでありながら、中間水の存在を確認することができた。
【0081】
[血小板粘着試験]
実施例2-1、実施例8、実施例14、比較例1および比較例2で作製した各シートについて、血小板粘着試験を実施した。血小板粘着試験は以下の方法で行った。
【0082】
アメリカ合衆国で採血された実験用購入血であるヒト全血は、採血後5日以内で実験に使用した。冷蔵状態にあったヒト全血を室温下で30分程度置くことで常温に戻した。その後、転倒混和を3回行い、遠心分離機(テーブルトップ遠心機2420、KUBOTA)により1500rpmで5分間遠心分離した。この時の上澄み(淡黄色半透明)を約500μL採取し、これを多血小板血漿(Platelet Rich Plasma; PRP)とした。採取後、さらに4000rpmで10分間遠心分離し、上澄み(淡黄色透明)を約2mL採取し、これを少血小板血漿(Platelet Poor Plasma; PPP)とした。血球計算盤を用いてPBS(-)にて800倍に薄めたPRP中の血小板をカウントすることでPRP中の血小板濃度を算出し、播種濃度が3.0×10cells/cmになるようにPRPをPPPで希釈し、血小板懸濁液を調製した。
【0083】
実施例および比較例の各シートを予め室温(25℃)にて生理食塩水で十分に湿潤させた。該シートの表面に、上記で調製した血小板懸濁液を450μL(約300μL/cm)載せて、37℃で1時間インキュベートすることで血小板を粘着させた。その後、血小板懸濁液を除去し、PBSにより洗浄を2回行った後、1%グルタルアルデヒド(25%グルタルアルデヒド、polyscience, Inc. 01909を1/25にPBS(-)で希釈したもの)溶液に浸漬して37℃で2時間インキュベートすることで粘着した血小板をシート上に固定化させた。固定化後、PBS(-)(10分)、PBS(-):水=1:1(8分)、水(8分、10分)に各1回ずつ浸漬させることで洗浄を行った。洗浄後、3時間風乾させたのちに、シリカゲルを入れた容器内で1日以上乾燥を行った。乾燥後、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope; SEM、KEYENCE、3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡VE-9800)でシート表面を観察することで、各シート表面に粘着した血小板の数をカウントした。
【0084】
一方、血液適合性を示さないことが知られているPET(ポリエチレンテレフタレート)膜表面に対して、上記と同様の方法で血小板を粘着させた際の血小板粘着数をカウントしてネガティブコントロールとし、当該PET表面でのカウント数で上記各シート表面での血小板粘着数を除することにより標準化した値を「血小板粘着指数」とした。当該血小板粘着指数によれば、評価に使用する血液の状態に由来する血小板粘着頻度の相違が除外され、サンプル表面が示す血液適合性の程度を適正に評価することができる。
【0085】
また、生体親和性を示す表面における血小板粘着の程度を明らかにするために、高い生体親和性を示すことが知られているPMEA(ポリ-2-メトキシエチルアクリレート)と、MPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスリルコリン)をBMA(ブチルメタアクリレート)と共重合させて非水溶化したポリマーについても、上記と同時に血小板粘着試験を行い、これをポジティブコントロールとした。
【0086】
結果を表4に示す。表4には、実施例2-1、実施例8、実施例14、比較例1および比較例2について、表1~3に示した各成分の配合と物性評価、並びに最大含水率(25℃)の測定結果についても示す。ここで、最大含水率(25℃)は、評価サンプルを24時間浸漬する水道水の温度を25℃とし、その他は上述した最大含水率(4℃)と同様にして測定した。
【0087】
【表4】
【0088】
表4に示すように、ポリウレタン樹脂エスラトマーが構成成分としてポリエチレングリコールを含有していない比較例1,2では、生体親和性を示さないPETと同程度の血小板粘着を生じた。これに対し、構成成分としてポリエチレングリコールを含む実施例2-1,8および14では、高い生体親和性を示すPMEAやMPCポリマーの15程度以下の血小板粘着指数と同等以下の血小板粘着指数を示し、血小板の吸着が抑制されていた。このことから、これら実施例のポリウレタン樹脂エスラトマーは高い生体親和性を示すことが分かり、生体親和性と引張強度などの物性を両立できることが分かる。
【0089】
また、血小板粘着指数が高く生体親和性を示さない比較例1,2では中間水が存在しないのに対し、血小板粘着指数が小さく生体親和性を示す実施例2-1,8および14では中間水が存在していた。このことから、中間水が存在する他の実施例のポリウレタン樹脂エスラトマーについても、同様に血小板粘着指数が小さく、高い生体親和性を示すことが分かり、生体親和性と物性を両立することができる。
【0090】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0091】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。