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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081775
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】石炭の自然発熱性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/22 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
G01N33/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195771
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】上坊 和弥
(72)【発明者】
【氏名】内田 宗宏
(57)【要約】
【課題】 貯留された状態にある石炭について、石炭を粉砕することなく自然発熱性を評価する。
【解決手段】 貯留された状態にある石炭のうち、所定粒径(Dth)以下である石炭の発熱速度(V_par)を測定する。発熱速度(V_par)及び補正係数(k)から、石炭全体の自然発熱性を評価するための発熱速度(V_all)を求める。補正係数(k)は、所定粒径(Dth)以下の粒度区分に属する石炭の相対発熱速度(Vr_par)に対する、全粒度区分に属する石炭の相対発熱速度(Vr_all)の比率である。相対発熱速度(Vr_par)は、所定粒径(Dth)以下の各粒度区分の相対発熱速度(Vrn)を、所定粒径(Dth)以下の各粒度区分の石炭の質量割合(Wn_par)で加重平均した値である。相対発熱速度(Vr_all)は、全粒度区分の各粒度区分の相対発熱速度(Vrn)を各粒度区分の石炭の質量割合(Wn_all)で加重平均した値である。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留された状態にある石炭のうち、所定粒径以下である石炭について、発熱速度を測定する発熱性試験を行う工程と、
前記発熱性試験で測定した発熱速度と、予め求めた補正係数とに基づいて、貯留された状態にある石炭全体の自然発熱性を評価するための発熱速度を求める工程とを有し、
前記補正係数は、貯留された状態にある石炭を複数の粒度区分に分けたときにおいて、前記所定粒径以下の粒度区分に属する石炭の相対発熱速度に対する、全粒度区分に属する石炭の相対発熱速度の比率であり、
前記所定粒径以下の粒度区分に属する石炭の相対発熱速度は、前記所定粒径以下の各粒度区分の相対発熱速度を、前記所定粒径以下の石炭の総質量に対する各粒度区分の石炭の質量の比率で加重平均した値であり、
全粒度区分に属する石炭の相対発熱速度は、全粒度区分の各粒度区分の相対発熱速度を、全粒度区分の石炭の総質量に対する各粒度区分の石炭の質量の比率で加重平均した値であることを特徴とする石炭の自然発熱性評価方法。
【請求項2】
前記所定粒径は、前記発熱性試験において発熱速度を測定可能な粒径であることを特徴とする請求項1に記載の石炭の自然発熱性評価方法。
【請求項3】
貯留された状態にある石炭を複数の粒度区分に分類し、
各粒度区分に属する石炭について、前記発熱性試験によって発熱速度を測定し、
測定した発熱速度に基づいて、所定の発熱速度を基準とした各粒度区分の相対発熱速度を求め、
各粒度区分の相対発熱速度と、前記質量の比率とに基づいて、前記補正係数を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭の自然発熱性評価方法。
【請求項4】
前記補正係数を求めるために用いられる石炭は、自然発熱性を評価するための発熱速度を求める石炭と同一の銘柄であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の石炭の自然発熱性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯留された状態にある石炭の自然発熱性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、少量の石炭試料を用いて石炭の自然発熱性を短時間で評価する方法が記載されている。この評価方法について、以下に具体的に説明する。
【0003】
20~80gの石炭粉砕試料を内容器に収容し、この内容器を加温槽に収容する。加温槽の内部に酸素ガスを供給することにより、加温槽内の石炭粉砕試料を自然発熱させる。石炭粉砕試料の温度を測定し、自然発熱に伴う石炭粉砕試料の温度上昇に追従するように加温槽の内部の温度を上昇させる。石炭粉砕試料の温度が所定初期温度から所定終期温度に上昇するまでの時間を測定し、この測定時間に基づいて石炭の自然発熱性を評価する。ここで、測定時間が長いほど、自然発熱が起きにくい石炭であることを評価できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-066296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、石炭粉砕試料を用意するために、石炭を粉砕して所定の粒径以下である石炭を調整している。ここで、粉砕した石炭を用いたときの自然発熱性は、粉砕していない石炭を用いた自然発熱性よりも高く評価されやすい。この理由は、粉砕した石炭では、粉砕面が外気に露出するため、粉砕していない石炭よりも自然発熱しやすくなるためである。
【0006】
自然発熱性の評価対象となる石炭は、ヤードなどに貯留された石炭であるため、粉砕した石炭を用いて自然発熱性を評価してしまうと、貯留された石炭と比べて、自然発熱性を過大に評価してしまう。このため、自然発熱性を評価する上では、貯留された状態にある石炭について、自然発熱性を評価することが好ましい。一方、石炭を粉砕しないと、自然発熱性を評価するための測定が困難となるものが多く、すべての石炭の自然発熱性を測定できないという事情もある。
【0007】
下記表1には、銘柄が互いに異なる3種類の石炭A~Cのそれぞれについて、石炭を粉砕して粒径が3mm以下である石炭と、粒径が3mm以下の区分である非粉砕の石炭とに分けた後、後述する実施例の方法にて自然発熱性を評価した結果を示す。ここでは、自然発熱性の評価値として発熱速度[℃/日]を用いた。
【0008】
【表1】
【0009】
上記表1によれば、石炭A~Cのいずれであっても、石炭を粉砕することによって、非粉砕の石炭よりも発熱速度が上昇することが分かる。したがって、上述したように、粉砕した石炭を用いて自然発熱性を評価してしまうと、貯留された石炭(非粉砕)と比べて、自然発熱性を過大に評価してしまう。
【0010】
また、粉砕した石炭については、石炭A、石炭B、石炭Cの順に発熱速度が高くなるが、非粉砕の石炭については、石炭A及び石炭Cの発熱速度が同等であって、石炭Bの発熱速度が最も高くなる。このように、粉砕した石炭と非粉砕の石炭とでは、発熱速度の高低関係が異なってしまうため、粉砕した石炭について自然発熱性を評価しても、貯留された複数種類の石炭について、自然発熱性の優劣を決めることが難しくなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、石炭の自然発熱性を評価する方法であって、貯留された状態にある石炭のうち、所定粒径以下である石炭について、発熱速度を測定する発熱性試験を行う工程と、発熱性試験で測定した発熱速度と、予め求めた補正係数とに基づいて、貯留された状態にある石炭全体の自然発熱性を評価するための発熱速度を求める工程とを有する。補正係数は、貯留された状態にある石炭を複数の粒度区分に分けたときにおいて、所定粒径以下の粒度区分に属する石炭の相対発熱速度に対する、全粒度区分に属する石炭の相対発熱速度の比率である。
【0012】
所定粒径以下の粒度区分に属する石炭の相対発熱速度は、所定粒径以下の各粒度区分の相対発熱速度を、所定粒径以下の石炭の総質量に対する各粒度区分の石炭の質量の比率で加重平均した値である。全粒度区分に属する石炭の相対発熱速度は、全粒度区分の各粒度区分の相対発熱速度を、全粒度区分の石炭の総質量に対する各粒度区分の石炭の質量の比率で加重平均した値である。
【0013】
所定粒径としては、発熱性試験において発熱速度を測定可能な粒径とすることができる。
【0014】
上述した補正係数は、以下のように求めることができる。まず、貯留された状態にある石炭を複数の粒度区分に分類し、各粒度区分に属する石炭について、発熱性試験によって発熱速度を測定する。そして、測定した発熱速度に基づいて、所定の発熱速度を基準とした各粒度区分の相対発熱速度を求め、各粒度区分の相対発熱速度と、質量の比率とに基づいて、補正係数を求めることができる。
【0015】
補正係数を求めるために用いられる石炭は、自然発熱性を評価するための発熱速度を求める石炭と同一の銘柄とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、貯留された状態にある石炭について、石炭を粉砕することなく、自然発熱性を評価するための発熱速度を適切に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】補正係数kの求め方を説明するフローチャートである。
図2】発熱性試験で用いられる測定装置の構成を示す概略図である。
図3】自然発熱性の評価対象となる石炭の発熱速度を求める処理を説明するフローチャートである。
図4】発熱性試験において、恒温恒湿槽の温度及び石炭の温度の経時変化を示す図である。
図5】石炭の粒径と、発熱速度及び相対発熱速度との関係を示す図である。
図6】5種類の石炭の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態は、貯留された状態にある石炭を自然発熱性の評価対象とする。この石炭のうち、所定粒径以下である石炭について発熱速度を測定し、この発熱速度と後述する補正係数kとに基づいて、貯留された状態にある石炭(言い換えれば、すべての粒径を含む石炭)の発熱速度を求める。この発熱速度に基づいて、貯留された状態にある石炭の自然発熱性を評価することができる。以下、具体的に説明する。
【0019】
自然発熱性の評価対象となる石炭は、貯留された状態にある石炭であればよく、石炭の種類は特に限定されるものではない。ここで、ヤード等に貯留される石炭が自然発熱しやすい石炭である場合には、自然発熱に関する管理が必要になるため、このような石炭を自然発熱性の評価対象とすることができる。例えば、酸素含有率が8[mass%、ドライベース]以上である石炭を自然発熱性の評価対象とすることができる。また、同一銘柄の石炭であっても、ロットが互いに異なる石炭については、それぞれの石炭について、自然発熱性を評価することが好ましい。
【0020】
(補正係数k)
上述した補正係数kは予め求めておくものである。以下、補正係数kの求め方について、図1に示すフローチャートを用いて説明する。
【0021】
ステップS101では、貯留された状態にある石炭を複数の粒度区分に分ける。ここでは、石炭を粉砕せずに、貯留されたままの石炭を用いる。貯留された状態にある石炭には、様々な粒径を有する石炭が含まれるため、複数の粒度区分を設定して、各粒度区分に属する石炭を選別する。例えば、篩い分けによって、各粒度区分に属する石炭を選別することができる。粒度区分の総数や、各粒度区分を規定する粒径の範囲は、適宜決めることができる。石炭を複数の粒度区分に分けた後、各粒度区分に属する石炭の質量を測定し、各粒度区分について、全粒度区分に属する石炭の総質量に対する、各粒度区分に属する石炭の質量の比率(質量割合)[mass%]を求める。
【0022】
ステップS102では、各粒度区分に属する石炭について、発熱速度Vn[℃/日]を測定する。発熱速度Vnの添え字n(nは自然数)は、各粒度区分を意味する。後述する実施例によれば、石炭の粒径が大きいほど、発熱速度Vnが小さくなる。発熱速度Vnは、例えば、以下に説明する発熱性試験によって測定することができる。
【0023】
図2には、発熱性試験で用いられる測定装置の概略構成を示す。発熱性試験は、恒温恒湿槽1に石炭試料を収納し、空気雰囲気での低温酸化発熱による石炭試料の温度上昇に追随するように恒温恒湿槽1の内部温度を設定して温度の上昇速度(発熱速度V)を測定するものである。
【0024】
所定の内容積(例えば、225[L])を有する恒温恒湿槽1の内部には、円筒状鋼鉄製容器であるペール缶2(例えば、外径300[mm]高さ220[mm])が設置される。ペール缶2には、石炭試料が充填される。ここで、ペール缶2の下部に断熱材を敷き詰め、断熱材上に石炭試料を充填することにより、所定高さ(例えば、約100[mm])を有する石炭試料層を形成するようにしてもよい。なお、断熱材としては、例えば、セラミックファイバーボード等を使用することができる。石炭試料が充填される容器としては、ペール缶2の代わりに、断熱容器(例えば、真空断熱容器)を用いることができる。断熱容器を用いることにより、容器を介した熱の移動が発熱性試験に悪影響を与えることを抑制することができる。
【0025】
石炭試料層の内部には温度センサ3aが配置されており、温度センサ3aによって石炭試料の温度を測定することができる。例えば、石炭試料層の上面から70[mm]の深さ位置に温度センサ3aを配置し、この温度センサ3aによって測定された温度を石炭試料の代表温度とすることができる。一方、ペール缶2の外部には、恒温恒湿槽1の内部温度を測定するための温度センサ3bが配置されている。
【0026】
恒温恒湿槽1の内部には水タンク4が配置されており、水タンク4は、恒温恒湿槽1の内部湿度を一定湿度(例えば、50[%])に維持するために用いられる。また、恒温恒湿槽1には、ガス供給配管を介してガスが供給されるようになっており、このガスは加熱器5によって加熱される。恒温恒湿槽1の内部温度は、恒温恒湿槽1に供給されるガスの温度によって調整することができる。具体的には、制御部6は、温度センサ3a,3bの測定結果に基づいて、加熱器5による加熱を制御することにより、恒温恒湿槽1に供給されるガスの温度を調整して恒温恒湿槽1の内部温度を調整することができる。恒温恒湿槽1に供給されたガスは、恒温恒湿槽1から排出される。
【0027】
発熱性試験を行うときには、まず、定温制御モードにおいて、窒素ガスを所定流量(例えば、30[L/分])で恒温恒湿槽1に供給することにより、恒温恒湿槽1の内部温度及び石炭試料の温度が初期温度(例えば、60[℃])に維持されるようにする。恒温恒湿槽1の内部温度及び石炭試料の温度が初期温度に維持された後、定温制御モードから温度追従制御モードに切り替える。
【0028】
温度追従制御モードでは、恒温恒湿槽1の内部温度を石炭試料の温度に追随させる。ここで、恒温恒湿槽1の制御目標温度(例えば、60.0[℃])が変化しないように、石炭試料の温度にバイアス値を設定して恒温恒湿槽1の制御温度を設定し、窒素ガスを恒温恒湿槽1に供給しながら所定期間(例えば、半日以上)だけ待機する。この所定期間は、恒温恒湿槽1に供給するガスを窒素ガスから酸素含有ガス(例えば空気)に切り替えた後において、低温酸化反応による石炭試料の温度上昇を把握しやすくするために設定している。
【0029】
所定期間が経過した後、恒温恒湿槽1に供給するガスを窒素ガスから酸素含有ガス(例えば空気)に切り替える。酸素含有ガスを所定流量(例えば、30[L/分])で恒温恒湿槽1に供給することにより、石炭試料では低温酸化反応が進行し、石炭試料の温度が上昇する。ここでは、温度追従制御モードにおいて、恒温恒湿槽1の内部温度を石炭試料の温度に追随させているため、石炭試料の温度上昇に応じて、恒温恒湿槽1の内部温度が上昇する。
【0030】
温度追従制御モードが設定されている間、恒温恒湿槽1の内部温度の変化を記録する。この温度変化には、窒素ガスを供給している間の温度変化と、酸素含有ガスを供給している間の温度上昇とが含まれ、窒素ガスを供給している間の温度変化から温度変化速度が求められ、酸素含有ガスを供給している間の温度上昇から温度上昇速度が求められる。ここで、窒素ガスを供給したときの温度変化速度と、酸素含有ガスを供給したときの温度上昇速度との差分を、低温酸化反応による温度上昇速度(すなわち、発熱速度V)とすることができる。
【0031】
ステップS101の処理で設定された各粒度区分において、上述したように発熱速度Vnを測定することにより、各粒度区分と相対発熱速度Vrnとの関係性を求めることができる。相対発熱速度Vrnは、測定したすべての粒度区分における発熱速度Vnのうち、任意の1つの発熱速度Vnを基準としたときの相対的な値であり、具体的には、各粒度区分の発熱速度Vnを基準となる発熱速度Vnで除算した値となる。例えば、基準となる発熱速度Vnとしては、最も高い発熱速度Vnとしたり、最も低い発熱速度Vnとしたりすることができる。
【0032】
なお、相対発熱速度Vrnを求める場合において、発熱速度Vnの測定ばらつきの影響を軽減するため、任意の粒度区分と相対発熱速度Vrnの関係性を求め、この関係性に基づき所定粒度区分(測定した粒度区分と異なってもよい)の相対発熱速度Vrnを求めてもよい。また、発熱速度Vnが測定できない粒度区分にあっては、上述した関係性を外挿して発熱速度Vnを求めることができる。
【0033】
図1に戻り、ステップS103では、所定粒径Dth以下の粒度区分に属する石炭について、以下に説明する相対発熱速度Vr_parを求める。所定粒径Dth以下の粒度区分は、ステップS101の処理で設定したすべての粒度区分のうちの一部の粒度区分となる。所定粒径Dthは、適宜決めることができるが、図2で説明した測定装置で使用しやすい石炭の粒径であればよく、言い換えれば、ペール缶2に充填しやすい石炭の粒径であればよい。例えば、所定粒径Dthとしては、20[mm]、15[mm]、10[mm]又は3[mm]とすることができる。
【0034】
相対発熱速度Vr_parは、所定粒径Dth以下の範囲内で分けられた複数の粒度区分のそれぞれの相対発熱速度Vrn[-]を、所定粒径Dth以下の各粒度区分の質量割合Wn_par[mass%]で加重平均した値であり、下記式(1)によって表される。ここで、相対発熱速度Vrn及び質量割合Wn_parにおける添え字n(nは自然数)は、所定粒径Dth以下の各粒度区分を意味する。
【0035】
【数1】
【0036】
上記式(1)において、相対発熱速度Vrnは、上述したように、ステップS102の処理で測定された各粒度区分の発熱速度Vnから求められる。質量割合Wn_parは、所定粒径Dth以下である石炭の総質量に対する、所定粒径Dth以下の各粒度区分に属する石炭の質量の比率[mass%]である。質量割合Wn_parは、ステップS101の処理で測定された各粒度区分に属する石炭の質量から求めることができる。
【0037】
ステップS104では、すべての粒度区分について、以下に説明する相対発熱速度Vr_allを求める。すべての粒度区分とは、ステップS101の処理で設定したすべての粒度区分である。相対発熱速度Vr_allは、すべての粒度区分のそれぞれの相対発熱速度Vrn[-]を、すべての粒度区分のそれぞれの質量割合Wn_all[mass%]で加重平均した値であり、下記式(2)によって表される。ここで、相対発熱速度Vrn及び質量割合Wn_allにおける添え字n(nは自然数)は、各粒度区分を意味する。
【0038】
【数2】
【0039】
上記式(2)において、相対発熱速度Vrnは、上述したように、ステップS102の処理で測定された各粒度区分の発熱速度Vnから求められる。質量割合Wn_allは、すべての粒度区分に属する石炭の総質量に対する、各粒度区分に属する石炭の質量の比率[mass%]である。相対発熱速度Vr_allは、すべての粒度区分を対象としているのに対して、上述した相対発熱速度Vr_parは、所定粒径Dth以下の粒度区分を対象としている。すなわち、相対発熱速度Vr_allの算出に用いられる質量割合Wn_allの分母(すべての粒度区分に属する石炭の総質量)は、相対発熱速度Vr_parの算出に用いられる質量割合Wn_parの分母(所定粒径Dth以下である石炭の総質量)とは異なる。
【0040】
ステップS105では、ステップS103の処理で求められた相対発熱速度Vr_parと、ステップS104の処理で求められた相対発熱速度Vr_allに基づいて補正係数k[-]を求める。補正係数kは、相対発熱速度Vr_parに対する相対発熱速度Vr_allの値であり、下記式(3)によって表される。補正係数kは、後述するように、自然発熱性の評価対象となる石炭の発熱速度を求めるときに用いられる。
【0041】
【数3】
【0042】
(石炭の自然発熱性の評価)
次に、石炭の自然発熱性を評価する方法について説明する。自然発熱性の評価では、以下に説明するように、評価対象となる石炭の発熱速度V_allを求める。そして、この発熱速度V_allに基づいて、評価対象となる石炭が自然発熱しやすいか否かを評価したり、複数種類の石炭について、自然発熱しやすい順序又は自然発熱しにくい順序を評価したりすることができる。図3は、評価対象となる石炭の発熱速度V_allを求める処理を説明するフローチャートである。
【0043】
ステップS201では、評価対象となる石炭から、所定粒径Dth以下である石炭を選別する。評価対象となる石炭は、ヤード等に貯留された状態にある石炭であって、粉砕処理が行われていない石炭である。ここで、所定粒径Dthは、上述したステップS103の処理で説明した所定粒径Dthと同じである。例えば、評価対象となる石炭に対して篩い分けを行うことにより、所定粒径Dth以下である石炭を選別することができる。
【0044】
ステップS202では、ステップS201で選別した石炭(所定粒径Dth以下の石炭)について、上述した発熱性試験を行うことにより、発熱速度V_parを測定する。ステップS203では、ステップS202の処理で測定した発熱速度V_parと、図1に示す処理で予め求められた補正係数kとに基づいて、自然発熱性の評価対象となる石炭であって、すべての粒径を含む石炭の発熱速度V_allを求める。発熱速度V_allは、発熱速度V_parに補正係数kを乗算した値であり、下記式(4)によって表される。この発熱速度V_allに基づいて、ヤード等に貯留された状態にある石炭の自然発熱性を評価することができる。
【0045】
【数4】
【0046】
本実施形態において、補正係数kを求めるときの石炭と、自然発熱性を評価するときの石炭とは、銘柄が同一の石炭であってもよいし、銘柄が互いに異なる石炭であってもよい。また、銘柄が同一の石炭としては、ロットが同じである石炭であってもよいし、ロットが異なる石炭であってもよい。銘柄が同一の石炭であったり、銘柄及びロットが同一である石炭であったりすれば、自然発熱性を評価する精度を向上させることができる。
【0047】
一方、銘柄が互いに異なる石炭であっても、上記式(4)から求められた発熱速度V_allに基づいて自然発熱性の評価を行うことができる。ここで、発熱速度V_allを求めるための補正係数kは、上述したように、所定粒径Dth以下の粒度区分に属する石炭の相対発熱速度Vr_parと、すべての粒度区分に属する石炭の相対発熱速度Vr_allとから求められる。銘柄が互いに異なる石炭であっても、ヤード等に貯留される石炭の最大粒径は同等(例えば、約50[mm])であり、粒度範囲は互いに共通している。このため、相対発熱速度Vr_par,Vr_allのそれぞれを規定する粒度範囲は、銘柄が互いに異なる石炭であっても共通することになる。したがって、銘柄が互いに異なる石炭であっても、共通する補正係数kを用いて発熱速度V_allを求めることができ、この発熱速度V_allに基づいて自然発熱性の評価を行うことができる。
【0048】
発熱速度V_allに基づいて石炭の自然発熱性を評価すれば、ヤード等に貯留された石炭に対する発熱対策を検討することができる。例えば、自然発熱性が相対的に高いと評価された石炭については、ヤード等に石炭を貯留する期間を短縮したり、石炭の抜熱のための散水を強化したり、空気を侵入しにくくするように石炭を填圧したり、過度の発熱を抑制するための薬剤を石炭に散布したりすることができる。
【実施例0049】
以下、実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限るものではない。
【0050】
(補正係数kの特定)
酸素含有率が互いに異なる5つの石炭A~D(2)を用意した。これらの石炭は、ヤードに貯留された石炭であって、粉砕されていない石炭である。下記表2には、5つの石炭の酸素含有率を示す。下記表2に示す石炭D(1),D(2)は、同一の銘柄であって、ロットが互いに異なる石炭である。下記表2に示すように、石炭D(1),D(2)のロットが異なると、酸素含有率も異なる。なお、下記表2に示す石炭A,B,Cは、上記表1に示す石炭A,B,Cと同じである。
【0051】
【表2】
【0052】
石炭D(1)を複数の粒度区分に分類し、各粒度区分に属する石炭D(1)について、上述した測定装置(図2参照)を用いて発熱速度Vnを測定した。
【0053】
発熱速度Vnの測定方法は、上述した通りであり、図4には、発熱速度Vnの測定において、恒温恒湿槽1の内部温度及び石炭の温度の経時変化の一例を模式的に示す。図4において、左側縦軸は恒温恒湿槽1の内部温度[℃]であり、右側縦軸は石炭の温度[℃]であり、横軸は時間[日]である。なお、図4では、恒温恒湿槽1の温度変化と石炭の温度変化とを分かりやすくするために、左側縦軸及び右側縦軸の温度をずらしている。
【0054】
図4に示すように、時間t0で測定を開始してから時間t1までは、定温制御モードでの制御が行われ、時間t1以降では、温度追従制御モードでの制御が行われる。ここで、時間t0から時間t2までは、恒温恒湿槽1に窒素ガスを供給し、時間t2以降では、恒温恒湿槽1に酸素含有ガス(空気ガス)を供給した。
【0055】
上述した発熱速度の測定結果を図5及び下記表3に示す。図5において、左側縦軸は測定結果である発熱速度Vn[℃/日]であり、右側縦軸は相対発熱速度Vrn[-]であり、横軸は石炭D(1)の粒径[mm]である。なお、横軸の粒径は、粒度区分の幾何平均径である。本実施例において、相対発熱速度Vrnは、すべての粒度区分の発熱速度Vnのうち、最も高い発熱速度Vn_maxに対する各粒度区分の発熱速度Vnの比率(Vn/Vn_max)である。ここで、発熱速度Vn_maxの相対発熱速度Vrnは1.0となり、相対発熱速度Vrnは、0以上1.0以下の範囲内の値を取り得る。
【0056】
下記表3には、各粒度区分の相対発熱速度Vrn[-]を示す。下記表3から分かる通り、石炭D(1)の粒径が大きいほど、相対発熱速度Vrn(言い換えれば、発熱速度Vn)が低くなる。なお、粒径が25[mm]以上である粒度区分については、発熱速度Vnを測定することができず相対発熱速度Vrnを求めることができなかったため、図5に示す関係に基づく外挿法によって相対発熱速度Vrnを求めた。
【0057】
【表3】
【0058】
次に、上記表3に示す各粒度区分の相対発熱速度Vrnと、各粒度区分に属する石炭D(1)の質量割合Wn_par,Wn_allとに基づいて、相対発熱速度Vr_par及び相対発熱速度Vr_allをそれぞれ求めた。相対発熱速度Vr_parは上記式(1)から求められ、相対発熱速度Vr_allは上記式(2)から求められる。
【0059】
下記表4には、石炭D(1)について、すべての粒度区分を対象としたときの各粒度区分の質量割合Wn_allと、所定粒径Dth以下の粒度区分を対象としたときの各粒度区分の質量割合Wn_parとを示す。本実施例では、所定粒径Dthを3[mm]とした。図6には、石炭A~D(2)について、粒径[mm]及び積算篩下質量(mass%)の関係(粒度分布)を示す。
【0060】
【表4】
【0061】
質量割合Wn_allは、すべての粒度区分における石炭D(1)の総質量に対する、各粒度区分に属する石炭D(1)の質量の比率であり、上記式(2)に示すように、相対発熱速度Vr_allを求めるために用いられる。質量割合Wn_parは、所定粒径Dth(3[mm])以下である石炭D(1)の総質量に対する、所定粒径Dth(3[mm])以下の各粒度区分に属する石炭D(1)の質量の比率であり、上記式(1)に示すように、相対発熱速度Vr_parを求めるために用いられる。質量割合Wn_parは、各粒度区分の質量割合Wn_allから求めることができる。
【0062】
石炭D(1)について、相対発熱速度Vr_par及び相対発熱速度Vr_allと、上記式(3)から求めた補正係数kを下記表5に示す。また、石炭A~C,D(2)のそれぞれについても、上述した石炭D(1)と同様の方法によって、相対発熱速度Vr_par及び相対発熱速度Vr_allを求めるとともに、補正係数kを求めた。この結果も下記表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
(自然発熱性の評価)
石炭A~D(2)のそれぞれについて、粒径が所定粒径Dth(=3[mm])以下である石炭を篩い分けによって選別した。この選別した石炭について、上述した測定装置(図2参照)を用いて発熱速度V_parを測定した。また、測定した発熱速度V_parと、上記表5に示す補正係数kとに基づいて、評価値としての発熱速度V_allを求めた。発熱速度(評価値)V_allは、測定した発熱速度V_parに補正係数kを乗算した値であり、すべての粒径を含む各石炭A~D(2)の発熱速度(推定値)である。この結果を下記表6に示す。
【0065】
一方、下記表6には、石炭A~D(2)のそれぞれについて、すべての粒径を含む石炭を用いて上述した測定装置(図2参照)によって測定した発熱速度(測定値)V_allも示す。ここで、石炭B,D(1),D(2)は、ペール缶2(図2参照)に均一に充填することができず、温度センサ3aを石炭試料層の内部に適切に配置することができなかったため、発熱速度(測定値)V_allを測定することができなかった。
【0066】
【表6】
【0067】
上記表6によれば、石炭A,Cのそれぞれについて、発熱速度(評価値)V_all及び発熱速度(測定値)V_allに大きなずれは見られなかった。したがって、補正係数kを予め求めておき、所定粒径Dth以下である石炭(非粉砕)の発熱速度V_parを測定すれば、すべての粒径を含む石炭の発熱速度V_allを把握できることが分かった。特に、石炭B,D(1),D(2)は、上記の通り、全粒度区分の発熱速度(測定値)V_allを測定することができなかったが、全粒度区分の発熱速度を評価することができた。
【0068】
本実施例のように発熱速度(評価値)V_allを求めれば、発熱速度(自然発熱性)の高低関係を把握することができる。具体的には、石炭D(2)は石炭D(1)よりも自然発熱性が高く、石炭D(1)は、石炭A~Cよりも自然発熱性が高いことが分かった。また、石炭A~Cについては、同程度の自然発熱性を有することが分かった。
【0069】
粒径が3mm以下である石炭の発熱速度V_parに着目すると、石炭Aは石炭Bよりも発熱速度が低くなるが、図6に示す粒度分布によれば、石炭Aは石炭Bよりも相対的に粒径が小さいため、発熱速度(評価値)V_allについては、石炭A及び石炭Bが同程度であることが分かった。また、石炭D(1),D(2)は、ロットが異なるだけであるが、発熱速度(評価値)V_allは大きく異なるため、ロット毎に自然発熱性を評価する必要があることが分かった。
【符号の説明】
【0070】
1:恒温恒湿槽、2:ペール缶、3a,3b:温度センサ、4:水タンク、5:加熱器、
6:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6