(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081808
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】成形材料の製造法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20230606BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20230606BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20230606BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230606BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230606BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230606BHJP
B29K 105/14 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
B29B11/16
B29C70/10
B05D1/02 Z
B05D7/24 301E
B05D7/24 303G
B05D7/24 303A
B05D7/00 B
B05D3/00 C
B29K105:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001376
(22)【出願日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2021195150
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598159908
【氏名又は名称】株式会社ワメンテクノ
(72)【発明者】
【氏名】帆足 宗久
【テーマコード(参考)】
4D075
4F072
4F205
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA67
4D075AA76
4D075AA81
4D075BB06Z
4D075BB08Z
4D075BB16X
4D075CA03
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA04
4D075DA25
4D075DB20
4D075DB48
4D075DC05
4D075EA06
4D075EA10
4D075EB22
4D075EB39
4D075EC01
4D075EC07
4D075EC22
4D075EC33
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB06
4F072AB10
4F072AB22
4F072AB31
4F072AB33
4F072AD09
4F072AD44
4F072AE12
4F072AG16
4F072AG22
4F072AH06
4F072AH50
4F072AJ40
4F072AK02
4F072AK06
4F072AK14
4F072AL16
4F072AL17
4F205AA29
4F205AB25
4F205AC02
4F205AD16
4F205AG01
4F205HA06
4F205HA07
4F205HA22
4F205HA34
4F205HA36
4F205HB01
4F205HC08
4F205HC17
(57)【要約】
【課題】遠心抄造において、繊維長の長い補強用の短繊維を使用可能とし、短繊維の繊維長の長短に拘わらずその配向性を高めたシート状成形材料を製造する。
【解決手段】第1の工程は、補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分を必須成分としてこれらを水中で混合し解繊された補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分が水に分散したスラリを調製する。第2の工程は、周壁面を濾材6で構成した円筒体7を中心鉛直軸8の回りに回転させながら、前記濾材上へ円筒体の内側から前記スラリ10を噴射する操作と、スラリ中の水を、円筒体の回転による遠心力で濾材を透過させて排出するとともに、スラリ中の固形分を濾材上に円筒状に堆積させる操作を行なう。第3の工程は、濾材上に堆積し形成された円筒状の堆積物を軸方向に裁断して平面に広げ、シート状成形材料とする。熱成形可能な樹脂固形分の形態を好ましくは短繊維とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の第1から第2の工程を経ることを特徴とする成形材料の製造法。
補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分を必須成分としてこれらを水中で混合し解繊された補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分が水に分散したスラリを調製する第1の工程。
周壁面を濾材で構成した円筒体を中心鉛直軸の回りに回転させながら、前記周壁面を構成する濾材上へ円筒体の内側から前記スラリを噴射する操作と、前記噴射されたスラリ中の水を、円筒体の回転による遠心力により周壁面を構成する濾材を透過させて排出し、併せて前記スラリ中の固形分を、周壁面を構成する濾材上に円筒状に堆積させる操作を行なう第2の工程。
【請求項2】
次の第1から第3の工程を経ることを特徴とするシート状成形材料の製造法。
補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分を必須成分としてこれらを水中で混合し解繊された補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分が水に分散したスラリを調製する第1の工程。
周壁面を濾材で構成した円筒体を中心鉛直軸の回りに回転させながら、前記周壁面を構成する濾材上へ円筒体の内側から前記スラリを噴射する操作と、前記噴射されたスラリ中の水を、円筒体の回転による遠心力により周壁面を構成する濾材を透過させて排出し、併せて前記スラリ中の固形分を、周壁面を構成する濾材上に円筒状に堆積させる操作を行なう第2の工程。
周壁面を構成する濾材上に堆積し形成された円筒状の堆積物を軸方向に裁断して平面に広げ、シート状成形材料とする第3の工程。
【請求項3】
次の第1から第3の工程を経ることを特徴とするシート状成形材料の製造法。
補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分を必須成分としてこれらを水中で混合し解繊された補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分が水に分散したスラリを調製する第1の工程。
周壁面を濾材で構成した円筒体を中心鉛直軸の回りに回転させながら、前記周壁面を構成する濾材上へ円筒体の内側から前記スラリを噴射する操作と、前記噴射されたスラリ中の水を、円筒体の回転による遠心力により周壁面を構成する濾材を透過させて排出し、併せて前記スラリ中の固形分を、周壁面を構成する濾材上に円筒状に堆積させる操作を行なう第2の工程。
周壁面を構成する濾材上に堆積し形成された円筒状の堆積物を径方向に扁平にして、2枚重ね状態のシート状成形材料とする第3の工程。
【請求項4】
熱成形可能な樹脂固形分の形態を短繊維とする請求項1から3のいずれかに記載の成形材料の製造法。
【請求項5】
第2の工程において、スラリを噴射する操作を、周壁面を構成する濾材へ円筒体の内側から近接して対向配置された噴射ノズルから行なうことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の成形材料の製造法。
【請求項6】
第2の工程において、スラリを噴射する操作を、円筒体の軸方向上方寄りの領域の濾材に向けて行なうことを特徴とする請求項5記載の成形材料の製造法。
【請求項7】
第1の工程において、水中に増粘剤を添加することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の成形材料の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形可能な樹脂固形分と補強用の短繊維を必須成分とする成形材料ないしシート状成形材料の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、熱成形可能な樹脂固形分の粉末と補強用の短繊維を必須成分として抄造によりシート状成形材料を製造する方法として、以下の遠心抄造の技術を開示している。
すなわち、まず、補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分の粉末を必須成分としてこれらを水に分散させたスラリを調製する。そして、前記スラリを抄造装置に投入する。この抄造装置は、中心鉛直軸の回りに回転可能な円筒体を外装容器に収容した構造で、前記円筒体の周壁面を濾材で構成したものである。
前記スラリは円筒体の内側に投入され溜められる。そして、円筒体を中心鉛直軸の回りに高速で回転させてスラリに遠心力を作用させることにより、スラリ中の水は、円筒体の周壁面を構成する濾材を透過して円筒体とその外装容器の間の空間に排出され、さらに外部へ排出される。同時に、スラリ中の固形分(補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分)は円筒体の周壁面を構成する濾材上に堆積される。前記濾材上に堆積していく補強用の短繊維は、その長さ方向が、円筒体の回転による遠心力の作用により円筒体の回転方向と同じ向きに揃い配向した状態となる。
このようにして円筒体の周壁面を構成する濾材上に形成された円筒状の堆積物を軸方向に裁断して平面に広げ、適宜乾燥してシート状成形材料とする。
【0003】
上記の遠心抄造の技術により製造したシート状成形材料は、補強用の短繊維の長手方向が、円筒体の回転方向に相当する一方向に配向したものとなっている。すなわち、このシート状成形材料においては、補強用の短繊維の長手方向が円筒体の回転方向と交叉する方向に向いたりシート状成形材料の厚さ方向に向いたりすることが少なくなっている。従って、このシート状成形材料を加熱加圧成形した成形品には、補強用の短繊維の配向方向と一致する方向の引張り強度や引張り弾性の機械強度向上が期待できる。
機械強度の向上は、補強用の短繊維の繊維長が長くなるほど望める。しかし、前記繊維長が長くなると、遠心力が働いているスラリ中で分散している補強用の短繊維は、円筒体の周壁面を構成する濾材上へ移動し到達するまでの間にその一部が絡み合い、毛玉状の凝集体になりやすい。この凝集体が生成されたままのスラリを抄造すると、凝集体が存在する箇所では短繊維が配向せず、凝集体が存在する近傍では凝集体の存在が補強用の短繊維の配向を乱したシート状成形材料となる。このようなシート状成形材料を加熱加圧成形した成形品には、補強用の短繊維の配向が乱れた部分が点在することになり、成形品の機械強度低下の原因となる。繊維長の長い補強用の短繊維を選択しても、その効果を十分に発現できないのである。
このようなことから、スラリ中で補強用の短繊維の凝集体が生成するのを抑えるために、補強用の短繊維の繊維長は徒に長くすることはできない。補強用の短繊維の繊維長を10mm以下にすることが望ましいとされている。また、補強用の短繊維の繊維長を長くしない場合であっても、多くはないが少なからず凝集体は生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、抄造によりシート状成形材料を製造するにあたり、補強用の短繊維の繊維長を長くすることには制約があり、補強用の短繊維の繊維長を長くして成形品の機械強度向上を図ることは難しかった。
本発明が解決しようとする課題は、遠心抄造に繊維長の長い補強用の短繊維を使用できるようにし、また、補強用の短繊維の繊維長の長短に拘わらず補強用の短繊維の絡み合いによる凝集を抑え、補強用の短繊維の配向性を高めて、機械強度の大きい成形品の成形に寄与する成形材料ないしシート状成形材料を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係る第1の発明は、次の第1から第2の工程を経る。
第1の工程では、補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分を必須成分としてこれらを水中で混合し解繊された補強用の短繊維と熱成形可能な樹脂固形分が水に分散したスラリを調製する。
第2の工程では、周壁面を濾材で構成した円筒体を中心鉛直軸の回りに回転させながら、前記周壁面を構成する濾材上へ円筒体の内側から前記スラリを噴射する操作と、円筒体の回転による遠心力により、スラリ中の水を周壁面の濾材を透過させて排出するとともに、スラリ中の固形分を、周壁面を構成する濾材上に円筒状に堆積させる操作を行なう。
【0007】
第2の発明は、第2の工程までは上記第1の発明と同様であり、第3の工程では、周壁面を構成する濾材上に堆積し形成された円筒状の堆積物を軸方向に裁断して平面に広げ、シート状成形材料とする。
【0008】
第3の発明は、第2の工程までは上記第1の発明と同様であり、第3の工程では、周壁面を構成する濾材上に堆積し形成された円筒状の堆積物を径方向に扁平にして、2枚重ね状態のシート状成形材料とする。
【0009】
第4の発明は、上記第1から第3のいずれかの発明において、熱成形可能な樹脂固形分の形態を短繊維とする。
【0010】
第5の発明は、上記第1から第4のいずれか発明の第2の工程においてスラリを噴射する操作を、周壁面を構成する濾材へ円筒体の内側から近接して対向配置された噴射ノズルから行なう。
【0011】
第6の発明は、上記第5の発明におけるスラリを噴射する操作を、円筒体の軸方向上方寄りの領域の濾材に向けて行なう。
【0012】
第7の発明は、上記第1から第6のいずれかの発明において、第1の工程で、水中に増粘剤を添加する。
【発明の効果】
【0013】
本発明による成形材料ないしシート状成形材料は、背景技術で説明したシート状成形材料と同様に、補強用の短繊維の長手方向が、円筒体の回転方向に相当する一方向に配向したものとなっている。円筒体の周壁面を構成する濾材上へ円筒体の内側からスラリを噴射するので、遠心力が働いているスラリ中で補強用の短繊維が円筒体の周壁面を構成する濾材上へ移動するという特許文献1において説明したような過程がなくなり、補強用の短繊維が絡み合って凝集体が生成するのを抑制することができる。凝集体が生成していなければ、濾材上へ噴射したスラリ中の補強用の短繊維は、スラリ中の水分が濾材を透過しきるまでの間は動きを拘束されないので、その長さ方向が円筒体の回転による遠心力の作用で円筒体の回転方向と同じ向きに揃い配向する。
上述のように、本発明においては、遠心力が働いているスラリ中で補強用の短繊維が円筒体の周壁面を構成する濾材上へ移動するという過程がないので、繊維長の長い補強用の短繊維を採用してもその凝集が抑えられ、補強用の短繊維の長さ方向が揃った配向性の高い成形材料ないしシート状成形材料を製造することができる。補強用の短繊維の長さ方向が揃う効果は、補強用の短繊維の繊維長の長短に拘わらず得られるので、この成形材料ないしシート状成形材料を成形することにより、補強用の短繊維の選択した繊維長に見合う効果を十分に発現し機械強度の大きい成形品を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明における第1の工程を示す説明図である。
【
図2】
図2は、本発明における第2の工程において、円筒体の周壁面を構成する濾材上へスラリを噴射する状態を示す説明図である。
【
図3】
図3は、本発明における第2の工程において、スラリ中の固形分を濾材上に円筒状に堆積させる状態を示す説明図である。
【
図4】
図4は、本発明における第3の工程を示す説明図である。
【
図5】
図5は、本発明における第3の工程の他の例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例における成形品を厚さ方向に切断した切断面の拡大写真であり、(a)は当該切断面を円筒体の軸方向に相当する方向に見た切断面(
図8におけるA-A'線に沿う切断面)を示し、(b)は当該切断面を円筒体の回転方向に相当する方向に見た切断面(
図8におけるB-B'線に沿う切断面)を示す。
【
図7】
図7は、本発明の比較例における成形品を厚さ方向に切断した切断面の拡大写真であり、(a)は当該切断面を円筒体の軸方向に相当する方向に見た切断面(
図8におけるA-A'線に沿う切断面)を示し、(b)は当該切断面を円筒体の回転方向に相当する方向に見た切断面(
図8におけるB-B'線に沿う切断面)を示す。
【
図8】成形品を厚さ方向に切断した切断面の拡大写真を撮る際の円筒体の回転方向に相当する方向ならびに円筒体の軸方向に相当する方向と切断方向の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するに当たり、熱成形可能な樹脂固形分は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、硬化性ウレタン樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)などである。
熱成形可能な樹脂固形分の形態は、短繊維、粒体、粉体のいずれでもよい。しかし、粒体や粉体の形態は、補強用の短繊維が短繊維の長さ方向に配向しようとするときに障害物となることがあるので、補強用の短繊維と同様に短繊維の形態を選択することが好ましい。短繊維の形態とする場合、繊維径4~20μm、繊維長4~20mm程度に適宜設定する。
補強用の短繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、セラミックス繊維、金属繊維などである。補強用の短繊維は、繊維径4~20μm、繊維長1~30mm程度に適宜設定する。本発明においては、繊維同士が絡み合って凝集体を生成することが抑制されるので、補強用の短繊維の繊維長は長めであっても差し支えない。むしろ長めに設定する。
【0016】
熱成形可能な樹脂固形分と補強用の短繊維のほかに、適宜配合材を加えることができる。例えば、充填材としてタルク、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、黒鉛、カーボンブラック、ガラス、金属酸化物、金属水酸化物などの粉末を適宜選択することができる。
【0017】
これら熱成形可能な樹脂固形分と補強用の短繊維と配合材は、シート状成形材料を用いて成形する成形品に求められる特性に応じ、適宜選択して組合せる。
【0018】
本発明を実施するに当たり、第1の工程は、例えば、
図1に示すように、回転羽根1を備えたスラリ調製槽2内の水3に熱成形可能な樹脂固形分4と補強用の短繊維5を投入し回転羽根1を回転して混合する。こうして解繊した補強用の短繊維5と熱成形可能な樹脂固形分4を水3に分散させたスラリを調製する。
この時、水3に増粘剤を添加して混合すると、収束している補強用の短繊維5の解繊が促進され、補強用の短繊維5と熱成形可能な樹脂固形分4がスラリ中で良好に分散した状態にすることができる。増粘剤を添加すると、水3の粘度が増すので、前記混合中において、収束している補強用の短繊維5と水3の間で両者の滑りが少なくなる。結果として、収束している補強用の短繊維5に水の剪断力が働いて解繊が促進されるのである。
【0019】
本発明を実施するに当たり、第2の工程は、例えば、
図2に示すように、周壁面を濾材6で構成した円筒体7を中心鉛直軸8の回りに回転可能に外装容器9に収容した構成の抄造装置を使用する。濾材6には、不織布、フェルト、目の細かい(80メッシュ程度)金網などを適宜選択する。円筒体7の回転は、駆動モータ13の回転を駆動ベルト14により中心鉛直軸8に伝えて行なう。
円筒体7を中心鉛直軸8の回りに回転させながら、第1の工程で調製したスラリ10を貯留槽11から円筒体7の内側に導き、濾材6上に噴射する。スラリ10を噴射する操作は、例えば、濾材6へ円筒体7の内側から近接して対向配置された噴射ノズル12から行なう。
そして、
図3に示すように、円筒体7の回転による遠心力により、濾材6上のスラリ10中の水は濾材6を透過させて排出する。15は外装容器9の底部に取り付けた水3の排出管であり、濾材6を透過させて外装容器9に溜まる水3は排出管15から外部へ放出する。前記水の排出と併せて、スラリ10中の固形分を濾材6上に円筒状に堆積させる操作を行なう。16は円筒状の堆積物である。濾材6上へ噴射したスラリ中の補強用の短繊維は、スラリ中の水分が濾材6を透過しきるまでの間は動きを拘束されないので、その長さ方向が円筒体7の回転による遠心力の作用で円筒体7の回転方向と同じ向きに揃い配向する。円筒状の堆積物16は、そのまま成形材料となる。
【0020】
スラリ10を噴射する操作は、円筒体7の軸方向上方寄り領域の濾材6に向けて行なうことができる。この場合でも、スラリ10は、重力により濾材6上を円筒体7の軸方向下方へ移動するので、円筒状の堆積物16はその厚みが軸方向全体に亘ってばらつきの小さいものとなる。このようなことから、噴射ノズル12の開口は、円筒体7の軸方向に長く設定しなくても済む。
また、この遠心力による脱水で、堆積物16中の水分含有量を好ましくは20~30質量%に調整する。
【0021】
本発明を実施するに当たり、第3の工程を付加するときは、
図4に示すように、円筒状の堆積物16を軸方向に裁断し(
図4(a))、広げて(
図4(b))、シート状成形材料17(
図4(c))とする。シート状成形材料17を構成している補強用の短繊維は、その長手方向が円筒体の回転方向に相当する方向に良好に揃い配向している。
【0022】
本発明を実施するに当たり、第3の工程は、
図5に示すようにすることもできる。円筒状の堆積物16(
図5(a))を径方向に扁平にし(
図5(b))、2枚重ね状態のシート状成形材料17'(
図5(c))とする。シート状成形材料17'を構成している補強用の短繊維は、その長手方向が円筒体の回転方向に相当する方向に良好に揃い配向している。
【実施例0023】
以下、本発明の実施例を説明する。
<実施例1>
図1において説明したように、回転羽根1を備えたスラリ調製槽2内の水3に、熱成形可能な樹脂固形分4としてポリアミド繊維(繊維径12μm、繊維長10mm)と補強用の短繊維5として炭素繊維(繊維径4μm、繊維長9mm)を投入し、回転羽根1を回転してこれらを混合する。そして、増粘剤としてアニオン性ポリアクリルアミド(商品名:NSフロックA-44、メーカ名:サンセン産業有限会社)を添加してさらに撹拌を行ない、解繊された炭素繊維とポリアミド繊維を水3に分散させたスラリを調製する。
配合量は、水100質量部に対し、ポリアミド繊維0.02質量部、炭素繊維0.03質量部とした。また、増粘剤の添加量を0.0003質量部とした。
上記のスラリを抄造する抄造装置は、
図2において説明したように、周壁面を濾材6で構成した円筒体7を中心鉛直軸8の回りに回転可能に外装容器9に収容して構成する。濾材6は、ポリエステル短繊維で構成された不織布製とした。円筒体7の寸法は、軸方向高さ360mm、内径760mmとした。
上記抄造装置は、スラリ10の貯留槽11を備えている。円筒体7を1000rpmの速度で回転しながら、スラリ10は、貯留槽11から円筒体7の内側に導かれ、濾材6上に噴射される。スラリ10を噴射する操作は、濾材6へ円筒体7の内側から近接し対向配置された噴射ノズル12から行なう。噴射ノズル12は、円筒体7の軸方向上方約1/3の領域の濾材6に向けて軸方向長さ140mm、幅3mmの寸法で開口している。この開口面と濾材6の間隙は10mmに設定した。
そして、
図3において説明したように、濾材6上に噴射されたスラリ10中の水は、円筒体7の回転による遠心力により、濾材6を透過させて排出するとともにスラリ中の固形分を濾材6上に円筒状に堆積させる操作をする。噴射ノズル12からスラリ10を噴射する操作は、スラリ180リットルの量を10分の時間で行なった。16は、前記操作によって形成された円筒状の堆積物である。
次に、円筒状の堆積物16を円筒体7から取り出し、
図4において説明したように、円筒状の堆積物16を軸方向に裁断し(
図4(a))、広げて(
図4(b))、シート状成形材料17(
図4(c))とした。シート状成形材料17を構成する炭素繊維は、その長手方向が円筒体の回転方向に相当する方向に良好に揃い配向していることを確認した。また、シート状成形材料17の見かけ上の厚みは1mmであり、各部位の厚みのばらつきは、円筒体の軸方向に相当する方向、円筒体の回転方向に相当する方向とも±8%内外であった。
【0024】
<比較例1>
実施例1におけるスラリ10を、濾材6上へ噴射するのではなく、円筒体7に溜めて円筒体7を中心鉛直軸8の回りに回転させ、その遠心力によりスラリ中の水は濾材6を透過させて排出し、スラリ中の固形分を濾材6上に円筒状に堆積させた。以下、
図4において説明した工程を経てシート状成形材料を製造した。
【0025】
<比較例2>
増粘剤を添加しない実施例1におけるスラリを使用して、以下、比較例1と同様にシート状成形材料を製造した。
【0026】
上記実施例1、比較例1~2の各シート状成形材料を乾燥した後、それぞれ16枚重ねて加熱加圧成形に供し、成形品(長さ250mm×幅10mm×厚み2mm)を作製した。成形品18の長手方向は、補強用の短繊維の配向方向(円筒体の回転方向に相当する方向)と一致している。成形品の長手方向の機械強度の比較の結果を表1に示す。
実施例1と比較例1の対比から明らかなように、補強用の短繊維の繊維長が同じであっても、本発明によれば、補強用の短繊維の配向が良好であるためにより高い機械強度の成形品を得られることがわかる。また、比較例1と比較例2の対比から、スラリを調製する工程で増粘剤を添加することによって補強用の短繊維の配向が良好になり、成形品の機械強度が向上することがわかる。
【0027】
【0028】
次に、実施例1と比較例1における成形品を厚さ方向に切断した切断面の拡大写真について説明する。尚、
図8には、成形品18の当該断面の拡大写真を撮る際の円筒体の回転方向に相当する方向ならびに円筒体の軸方向に相当する方向と切断方向の関係を示した。
図6は、本発明の実施例1における成形品を厚さ方向に切断した切断面の拡大写真であり、(a)は当該切断面を円筒体の軸方向に相当する方向に見た切断面(
図8におけるA-A'線に沿う切断面)を示し、(b)は当該切断面を円筒体の回転方向に相当する方向に見た切断面(
図8におけるB-B'線に沿う切断面)を示している。濃い灰色の樹脂マトリックス中に補強用の短繊維である炭素繊維が薄い灰色ないし白色で見てとれる。(a)では一方向に揃った細長い形状(炭素繊維の繊維長方向断面が現れている)が主体であり、(b)では円形の形状(炭素繊維の径方向断面が現れている)が主体である。このことから、補強用の短繊維の繊維長方向が円筒体の回転方向に相当する方向に良好に配向していることを理解できる。
一方、
図7は、本発明の比較例1における成形品を厚さ方向に切断した切断面の拡大写真であり、(a)は当該切断面を円筒体の軸方向に相当する方向に見た切断面(
図8におけるA-A'線に沿う切断面)を示し、(b)は当該切断面を円筒体の回転方向に相当する方向に見た切断面(
図8におけるB-B'線に沿う切断面)を示している。(a)(b)とも、炭素繊維の繊維長方向断面と径方向断面が混在して現れていることが見てとれ、補強用の短繊維の配向が十分でないことを理解できる。
本発明による成形材料ないしシート状成形材料を成形した成形品は、補強用の短繊維の配向方向の機械強度が優れているので、板バネの用途に適用できる。また、建築構造物の表面に固定する補強材の用途に適用できる。