(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081852
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】光学干渉フィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022188210
(22)【出願日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】17/457,123
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】502151820
【氏名又は名称】ヴァイアヴィ・ソリューションズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Viavi Solutions Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225543
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 真
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルク ジェイ オケンファス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ジンフイ
(72)【発明者】
【氏名】マリウス グリゴニス
(72)【発明者】
【氏名】カレン デニス ヘンドリックス
(72)【発明者】
【氏名】アンディー シュカブコ
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148GA04
2H148GA12
2H148GA33
2H148GA36
2H148GA51
2H148GA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】層のセットの形成に伴う複雑さを低減することにより、光学フィルタの性能、製造性、及び/又は信頼性が向上する。
【解決手段】光学干渉フィルタが、基板と、基板上に配置された層のセットと、を備え、層のセットは、層の第1のサブセット、及び層の第2のサブセットを有し、各層の第1のサブセットは窒化アルミニウム(AlN)材料を含み、各層の第1のサブセットの応力が、-1000~800メガパスカルであり、層の第1のサブセットは、第1の値を有する第1の屈折率を有し、各層の第2のサブセットは少なくとも1つの他の材料を含み、層の第2のサブセットは、第1の値とは異なる第2の値を有する第2の屈折率を有し、光学干渉フィルタは、第1の値及び第2の値のうち最高値の95%以上の有効屈折率を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、並びに
前記基板上に配置される層のセットと、
を備える光学干渉フィルタであって、
前記層のセットは、
層の第1のサブセット、及び
層の第2のサブセット、
を有し、
各前記層の第1のサブセットは窒化アルミニウム(AlN)材料を含み、
各前記層の第1のサブセットの応力は-1000~800メガパスカルであり、
前記層の第1のサブセットは、第1の値を有する第1の屈折率を有し、
各前記層の第2のサブセットは少なくとも1つの他の材料を含み、
前記層の第2のサブセットは、前記第1の値と異なる第2の値を有する第2の屈折率を有し、
前記光学干渉フィルタは、前記第1の値及び前記第2の値のうち最高値の95%以上の有効屈折率を有する、光学干渉フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の光学干渉フィルタであって、前記光学干渉フィルタの中心波長における角度シフトは、入射角が0度~30度の場合、前記中心波長の1.0%未満である、光学干渉フィルタ。
【請求項3】
請求項1に記載の光学干渉フィルタであって、前記層のセットの正味応力が約0メガパスカルである、光学干渉フィルタ。
【請求項4】
請求項1に記載の光学干渉フィルタであって、前記層の第1のサブセット及び前記層の第2のサブセットは、交互の層順序で前記基板上に配置される、光学干渉フィルタ。
【請求項5】
請求項1に記載の光学干渉フィルタであって、前記少なくとも1つの他の材料は、
シリコン(Si)材料、
水素化シリコン(Si:H)材料、
水素化シリコン-ヘリウム(Si:H-He)材料、
シリコン及び水素材料(SiH)材料、
アモルファスシリコン(a-Si)材料、
窒化シリコン(SiN)材料、
ゲルマニウム(Ge)材料、
水素化ゲルマニウム(Ge:H)材料、
シリコンゲルマニウム(SiGe)材料、
水素化シリコンゲルマニウム(SiGe:H)材料、
炭化ケイ素(SiC)材料、
水素化炭化ケイ素(SiC:H)材料、
二酸化ケイ素(SiO2)材料、
五酸化タンタル(Ta2O5)材料、
五酸化ニオブ(Nb2O5)材料、
酸化ニオブチタン(NbTiOx)材料、
五酸化ニオブタンタル(Nb2-xTaxO5)材料、
二酸化チタン(TiO2)材料、
酸化アルミニウム(Al2O3)材料、
酸化ジルコニウム(ZrO2)材料、
酸化イットリウム(Y2O3)材料、又は
酸化ハフニウム(HfO2)材料、
のうち少なくとも1つを含む、光学干渉フィルタ。
【請求項6】
請求項1に記載の光学干渉フィルタであって、前記層のセットの上に追加の層が配置され、前記追加の層は二酸化ケイ素(SiO2)材料を含む、光学干渉フィルタ。
【請求項7】
請求項1に記載の光学干渉フィルタであって、前記光学干渉フィルタは、800~1600ナノメートルのスペクトル域に関連する光を通過させるように構成される、光学干渉フィルタ。
【請求項8】
層の第1のサブセット、及び
層の第2のサブセット、
を有する層のセットを備える光学干渉フィルタであって、
各前記層の第1のサブセットは、窒化アルミニウム(AlN)材料を含み、
前記層の第1のサブセットは、第1の値を有する第1の屈折率を有し、
各前記層の第2のサブセットは、水素化シリコン-ヘリウム(Si:H-He)材料を含み、
前記層の第2のサブセットは、前記第1の値よりも大きい第2の値を有する第2の屈折率を有し、
前記光学干渉フィルタは、前記第2の値の95%以上の有効屈折率を有する、光学干渉フィルタ。
【請求項9】
請求項8に記載の光学干渉フィルタであって、前記層の第1のサブセット及び前記層の第2のサブセットのうち一方は引張材を含み、また
前記層の第1のサブセット及び前記層の第2のサブセットのうち他方は圧縮材を含む、光学干渉フィルタ。
【請求項10】
請求項8に記載の光学干渉フィルタであって、前記層のセットの正味応力が約0メガパスカルである、光学干渉フィルタ。
【請求項11】
請求項8に記載の光学干渉フィルタであって、前記層のセットの正味応力が特定量の応力にほぼ等しい、光学干渉フィルタ。
【請求項12】
請求項8に記載の光学干渉フィルタであって、
前記第1の値は、500~5500ナノメートルの波長を有する光に対して、1.9~2.2であり、
前記第2の値は、500~5500ナノメートルの波長を有する光に対して、3.5~3.9である、光学干渉フィルタ。
【請求項13】
請求項8に記載の光学干渉フィルタであって、前記層のセットの上に追加の層が配置され、
前記追加の層は二酸化ケイ素(SiO2)材料を含む、請求項8に記載の光学干渉フィルタ。
【請求項14】
請求項8に記載の光学干渉フィルタであって、前記光学干渉フィルタは、入射角が0度~30度の場合、940nmの波長で7.0ナノメートル(nm)未満の角度シフトを有し、且つ3.7以上の有効屈折率を有する、光学干渉フィルタ。
【請求項15】
請求項8に記載の光学干渉フィルタであって、前記光学干渉フィルタの中心波長における角度シフトは、入射角が0度~30度の場合、前記中心波長の1.0%未満である、光学干渉フィルタ。
【請求項16】
請求項15に記載の光学干渉フィルタであって、前記中心波長が940ナノメートルである、光学干渉フィルタ。
【請求項17】
請求項8に記載の光学干渉フィルタであって、前記光学干渉フィルタは、前記光学干渉フィルタのピーク透過率の90%~100%の透過率と、0度~30度の入射角と、に関連付けられている、光学干渉フィルタ。
【請求項18】
チャンバに不活性ガスを供給するステップであり、前記不活性ガスは、アルゴン(Ar)又はヘリウム(He)のうち少なくとも1つを含む、ステップと、
チャンバへ窒素ガス(N2)を供給するステップと、並びに
前記不活性ガス及び前記N2ガスを供給することに基づいて、アルミニウム(Al)ターゲットをスパッタリングさせて、基板上に窒化アルミニウム(AlN)を含む層の第1のセットを形成するステップと、
を含む方法であって、
前記層の第1のセットを、層の第2のセットと交互になるように前記基板上に形成することにより、層の配列を形成し、
前記層の第2のセットは、水素化シリコン-ヘリウム(Si:H-He)を含み、
前記層の配列は、3.7以上の有効屈折率を有する、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、
前記不活性ガスはHeを含み、
前記層の第1のセットの応力が、-1000~150メガパスカルであり、
前記層の第1のセットの屈折率が、500~5500ナノメートルの波長を有する光に対して、1.9~2.2である、方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、前記不活性ガスはヘリウム(He)を含み、
前記方法はさらに、
前記チャンバに水素(H2)ガスを供給するステップと、
前記不活性ガス及び前記H2ガスを供給することに基づいて、前記シリコン(Si)ターゲットをスパッタリングさせて、Si:H-Heを有する前記層の第2のセットを形成するステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学干渉フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
光学デバイスを利用することにより、光に関する情報を捕捉することができる。例えば、光学デバイスは、光に関連する波長のセットに関する情報を捕捉することができる。光学デバイスは、情報を捕捉するセンサ素子(例えば、光学センサ、スペクトルセンサ、及び/又はイメージセンサ)のセットを含むことができる。例えば、複数の波長に関する情報を捕捉するために、センサ素子アレイを利用することができる。センサ素子アレイは、光学フィルタと関連付けることができる。光学フィルタは、センサ素子アレイを通る第1波長域の光に関連する通過帯域を含んでもよい。光学フィルタは、第2波長域の光がセンサ素子アレイに通過するのを阻止することに関連付けられてもよい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
いくつかの実装形態では、光学干渉フィルタが、基板と、並びに基板上に配置された層のセットと、を備え、層のセットは、層の第1のサブセット、及び層の第2のサブセット、を有し、各層の第1のサブセットは窒化アルミニウム(AlN)材料を含み、各層の第1のサブセットの応力は-1000~800メガパスカルであり、層の第1のサブセットは、第1の値を有する第1の屈折率を有し、各層の第2のサブセットは少なくとも1つの他の材料を含み、層の第2のサブセットは、第1の値と異なる第2の値を有する第2の屈折率を有し、光学干渉フィルタは、第1の値及び第2の値のうち最高値の95%以上の有効屈折率を有する。
【0004】
いくつかの実装形態では、光学干渉フィルタが層のセットを備え、層のセットは、層の第1のサブセット、及び層の第2のサブセットを有し、各層の第1のサブセットは、AlN材料を含み、層の第1のサブセットは、第1の値を有する第1の屈折率を有し、各層の第2のサブセットは、水素化シリコン-ヘリウム(Si:H-He)材料を含み、層の第2のサブセットは、第1の値よりも大きい第2の値を有する第2の屈折率を有し、光学干渉フィルタは、第2の値の95%以上の有効屈折率を有する。
【0005】
いくつかの実施態様では、方法が、チャンバに不活性ガスを供給するステップであり、不活性ガスは、アルゴン(Ar)又はヘリウム(He)のうち少なくとも1つを含む、ステップと、チャンバに窒素ガス(N2)を供給するステップと、並びに、不活性ガス及びN2ガスを供給することに基づいて、アルミニウム(Al)ターゲットをスパッタリングさせて、基板上に窒化アルミニウム(AlN)を含む層の第1のセットを形成するステップと、を含み、層の第1のセットを、層の第2のセットと交互になるように基板上に形成することにより、層の配列を形成し、層の第2のセットは、水素化シリコン-ヘリウム(Si:H-He)を含み、層の配列は、3.7以上の有効屈折率を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本明細書に記載されている例示的な実装形態の概略図である。
【
図2】本明細書に記載されている例示的な光学フィルタの説明図である。
【
図3】本明細書に記載されている光学フィルタを製造するためのスパッタ堆積システムにおける実施例の説明図である。
【
図4A】本明細書に記載されているスパッタリングプロセスを使用して形成されたAlN層の応力を示す例示的なプロットの図表である。
【
図4B】本明細書に記載されているスパッタリングプロセスを使用して形成されたAlN層の応力を示す例示的なプロットの図表である。
【
図5】本明細書に記載されているスパッタリングプロセスを使用して形成されたAlN層のセットの吸光係数及び屈折率の例示的なプロットの図表である。
【
図6】本明細書に記載されている光学フィルタの透過性能を示す例示的なプロットの図表である。
【
図7A】本明細書に記載されている例示的な実装形態の光学特性及び物理特性である。
【
図7B】本明細書に記載されている例示的な実装形態の光学特性及び物理特性である。
【
図7C】本明細書に記載されている例示的な実装形態の光学特性及び物理特性である。
【
図8A】本明細書に記載されている例示的な実装形態の光学特性及び物理特性である。
【
図8B】本明細書に記載されている例示的な実装形態の光学特性及び物理特性である。
【
図8C】本明細書に記載されている例示的な実装形態の光学特性及び物理特性である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
例示的な実装形態に関する以下の詳細な説明は、添付の図面を参照する。異なる図面における同一の参照符号は、同一又は類似の要素を特定することがある。以下の説明では、例として分光器を使用する。しかしながら、本明細書に記載されている技術、原理、手順、及び方法は、他の光学センサ及びスペクトルセンサを含むがそれらに限定されない任意のセンサとともに使用してもよい。
【0008】
光学フィルタは、基板上に1つ以上の層を形成することによって製造することができる。例えば、従来の光学フィルタは、少なくとも第1の材料、第2の材料、及び第3の材料の交互層(例えば、水素化シリコン(Si:H)材料、二酸化ケイ素(SiO2)材料、及び五酸化タンタル(Ta2O5)材料の交互層)を備えることにより、特定のスペクトル域(例えば、800~1600ナノメートル(nm)のスペクトル域)に関連する光のうち閾値割合(例えば、光の少なくとも65%)を通過させることができる。しかしながら、少なくとも3つの材料の交互層を形成するのは難しく、また低品質層の形成につながってしまい、そのため、欠陥が導入され、又は従来の光学フィルタを通じて欠陥が伝播する可能性がある。これにより、従来の光学フィルタの性能、製造性、及び/又は信頼性が低下するおそれがある。
【0009】
さらに、多くの場合、従来の光学フィルタにおける1つ以上の層の各層の応力は圧縮性(例えば、層の応力は0メガパスカル(MPa)未満)を示し、そのため、1つ以上の層の応力(例えば、正味応力)が圧縮性を示す。その結果、この圧縮性は従来の光学フィルタを湾曲させる(例えば、屈曲させる)。これにより、1つ以上の層でコーティングの流出が生じ、従来の光学フィルタの性能に影響が出る。またこれにより、従来の光学フィルタが(例えば、平坦な光学フィルタと比較して)より壊れやすくなり、かつ/又は従来の光学フィルタの運搬、取扱い、及び/又は使用が困難になる。
【0010】
さらに、従来の光学フィルタのフィルタ性能は、光学フィルタに向かう光の入射角(AOI)が設定入射角(例えば、0度(法線)、30度、45度など)から閾値入射角(例えば、設定入射角から約10度の偏位、設定入射角から20度の偏位、及び/又は設定入射角から30度の偏位よりも大きい)に変化するときに、劣化することがある。例えば、従来の光学フィルタでは、入射角が増加すると、より低い波長に向かってシフトすることがある。このように、従来の光学フィルタは不要な又は不所望の光を通過させることがあり、このため、通過した光を受光する光学センサの検知精度に影響を与えることがある。
【0011】
角度シフトは、光学フィルタ(例えば、バンドパスフィルタ)の有効屈折率に関連することがある。例えば、より高い有効屈折率は、より低い角度シフトと相関する。有効屈折率は、光学フィルタの構成材料の構成材料毎の屈折率から計算可能である。例えば、高屈折率構成材料層及び低屈折率成分材料層が交互になって形成されたミラーを有する光学フィルタの有効屈折率は、少なくとも部分的に、以下の形の1組の方程式に基づいて計算することができる。
【数1】
ここでn
eff_Hは、ミラー間のスペーサとしての高屈折率層(例えば、閾値より大きい、例として2.0より大きい)を有する光学フィルタの有効屈折率の上限であり、n
eff_Lは、ミラー間のスペーサとしての低屈折率層(例えば、閾値より小さい、例として2.0以下など)を有する光学フィルタの有効屈折率であり、n
Hは、各ミラーの高屈折率層材料の屈折率であり、n
eff_Hのスペーサに使用され、n
Lは、各ミラーの低屈折率層材料の屈折率であり、n
eff_Lのスペーサに使用され、mはスペーサのオーダー(例えば、光学フィルタの設定中心波長の1/2の倍数としてのスペーサの大きさ)である。これらの方程式から、n
eff、n
H、n
Lの間の関係は、次の形になる。
【数2】
有効屈折率の別の計算は、光学フィルタの観測された波長シフト(例えば、角度シフト)に関連し得る。例えば、光学フィルタ(例えば、バンドパスフィルタ)の特定の入射角における波長シフトは、次の方程式に基づいて求めることができる。
【数3】
ここで、λ
θは、入射角θにおける中心波長を表し、λ
0は、光学フィルタが設定されている入射角(例えば、垂直入射角又は別の入射角)における中心波長を表す。上記の方程式は、観測された波長シフトに基づいて有効屈折率を計算するために、再構成することができる。
【数4】
【0012】
上記の方程式は、有効屈折率が高くなれば、フィルタの角度シフトが低くなることを示す。しかしながら、フィルタの有効屈折率の限界値は、フィルタ内の最高屈折率材料の屈折率未満である(式(3))。
【0013】
本明細書に記載されているいくつかの実装形態は、基板上に配置された層のセットを備える光学フィルタを提供する。層のセットは、窒化アルミニウム(AlN)材料を含む層の第1のサブセットと、水素化シリコン-ヘリウム(Si:H-He)材料などの少なくとも1つの他の材料(例えば、AlN材料ではない少なくとも1つの材料)を含む層の第2のサブセットとを、交互に配置したものを備えることができる。いくつかの実装形態において、光学フィルタは、特定のスペクトル域(例えば、800~1600nmのスペクトル域)に関連する光のうち閾値割合(例えば、光の少なくとも90%)を通過させる。このようにして、光学フィルタは、従来の光学フィルタと比較して改善された透過性能を提供する。さらに、光学フィルタは2つの交互層のみを含み、それにより、層のセットの形成に伴う複雑さを低減する。こうすることで、低品質層を形成する可能性が低減し、したがって、欠陥が光学フィルタ内に導入され、又は光学フィルタを通じて伝播させる可能性が低減する。そのため、従来の光学フィルタと比較して、光学フィルタの性能、製造性、及び/又は信頼性が向上する。
【0014】
いくつかの実装形態では、AlN材料を含む層の第1のサブセットの応力を、-1000~800MPaにすることができる。したがって、いくつかの実装形態において、層の第2のサブセットの応力が圧縮応力である場合、AlN材料の応力は引張応力(例えば、0MPa以上)となるように構成することができ、又はその逆にすることができる。このようにして、(例えば、圧縮層の応力と光学フィルタの引張層の応力のバランスをとることにより、)基板上に配置された層のセットによって引き起こされる湾曲の量を最小限に抑えることができる。例えば、層の第1のサブセット及び層の第2のサブセットのうち一方が引張材を備えてもよく、また層の第1のサブセット及び層の第2のサブセットのうち他方が圧縮材を備えてもよく、それにより、層のセットの応力を約0MPa(例えば、公差の範囲内)にすることができる。こうすることで、光学フィルタの湾曲量を最小限に抑え、コーティング流出を低減し、それにより、(例えば、湾曲が生じてしまう従来の光学フィルタと比較して)光学フィルタの性能が改善する。またこうすることで、光学フィルタの耐久性が改善し、並びに/若しくは、湾曲が生じてしまう従来の光学フィルタと比較して、光学フィルタの運搬、取扱い、及び/又は使用がより容易になる。光学フィルタの直径が約200ミリメートル(mm)である場合などの特定の例では、本明細書に記載されているいくつかの実装形態により、光学フィルタの湾曲量を、とりわけ、10mm未満、5mm未満、及び/又は0.1mm未満にすることができる。別の例では、光学フィルタが、波長λに関連する光を通過させるように構成されている場合、本明細書に記載されているいくつかの実装形態により、光学フィルタの湾曲量を、とりわけ、λ/4未満、λ/10未満、及び/又はλ/100未満にすることができる。
【0015】
さらに、本明細書に記載されているいくつかの実装形態は、有効屈折率が低角度シフト光学フィルタ内にある最高屈折率材料の屈折率の95%よりも大きい、低角度シフト光学フィルタを提供する。例えば、低角度シフト光学フィルタは、以下の形の有効屈折率を有することができる。
【数5】
【0016】
付加的に、又は代替的に、低角度シフト光学フィルタは、低角度シフト光学フィルタ内にある最高屈折率材料の屈折率の100%超、110%超、120%超などの有効屈折率を有することができる。このようにして、低角度シフト光学フィルタは、低角度シフト光学フィルタを通過する不要な又は不所望の光の量を低減し、それにより、低角度シフト光学フィルタを通過する光を受光する光学センサの検知精度を向上させる。
【0017】
図1は、本明細書に記載されている例示的な実装形態100の概略図である。
図1に示されるように、例示的な実装形態100はセンサシステム110を含む。センサシステム110は、光学システムの一部であってもよく、センサの判定に対応する電気出力を供給してもよい。センサシステム110は、光学フィルタ130を含む光学フィルタ構造体120、及び光学センサ140を含む。例えば、光学フィルタ構造体120が、通過帯域フィルタリング機能を実行する光学フィルタ130を含んでもよい。別の例では、光学フィルタ130が光学センサ140のセンサ素子アレイに位置合わせされてもよい。
【0018】
本明細書に記載されているいくつかの実施形態は、センサシステム内の光学フィルタに関して説明されることがあるが、本明細書に記載されている実施形態は、別のタイプのシステムで使用してもよく、センサシステムの外部で使用してもよく、又はその他の構成で使用してもよい。
【0019】
図1に、また参照符号150によってさらに示されるように、入力光信号が1つ以上の入射角θで光学フィルタ構造体120に向けられる。例えば、入力光信号150-1及び150-2を、入射角θ
0(例えば、設定入射角)及びθで光学フィルタ120に向けることができる。入力光信号は、特定のスペクトル域(例えば、800nm~1000nmのスペクトル域等の、約900nmを中心とするスペクトル域;800nm~1600nmのスペクトル域;800nm~1100nmのスペクトル域;1400nm~1600nmのスペクトル域、例えば、1550nmのピーク波長;500nm~5500nmのスペクトル域;又は別のスペクトル域)に関連する光を含んでもよいが、これらに限定されない。例えば、光学センサ140が光の測定を実行できるようにするために、光送信機が光学センサ140に光を向けてもよい。別の例では、光送信機が、とりわけ、検査機能、検知機能、又は通信機能などの別の機能用に、別のスペクトル域の光を向けてもよい。
【0020】
図1に、また参照符号160によってさらに示されるように、光信号のうち第1のスペクトル域を有する第1の部分は、光学フィルタ130及び光学フィルタ構造体120を通過しない。例えば、誘電体薄膜層の誘電体フィルタ積層体が、光学フィルタ130の高屈折率材料層及び低屈折率材料層を含んでもよく、この誘電体フィルタ積層体によって、光の第1の部分を第1の方向に反射させ、又は吸収等させることができる。この場合、光の第1の部分は、光学フィルタ130に入射する光のうち、光学フィルタ130の通過帯域に含まれない閾値部分であってもよく、例えば、約900nmを中心とする特定のスペクトル域内にはない光のうちの95%超であってもよい。参照符号170によって示されるように、光信号の第2の部分は、光学フィルタ130及び光学フィルタ構造体120を通過する。例えば、光学フィルタ130は、光のうち第2のスペクトル域を有する第2の部分を、光学センサ140に向かう第2の方向に通過させることができる。この場合、光の第2の部分は、光学フィルタ130に入射する光のうち、光学フィルタ130の帯域通過に含まれる閾値部分であってもよく、例えば、約900nmを中心とするスペクトル域内にある入射光のうちの50%超であってもよい。光の第2の部分は、本明細書でより詳細に説明するように、閾値角度シフト未満で光学フィルタ130を通過することができる。
【0021】
図1にさらに示されるように、光信号の第2の部分が光学センサ140を通過することに基づいて、光学センサ140は、とりわけ、画像、周囲光検知、物体の存在の検出、測定の実行、又は通信の容易化に使用等するために、センサシステム110用の出力電気信号180を供給することができる。いくつかの実装形態では、光学フィルタ130及び光学センサ140の別の配置を利用することができる。例えば、光学フィルタ130は、光信号の第2の部分を入力光信号と同一線上で通過させるのではなく、光信号の第2の部分を、別の位置にある光学センサ140に向かう別の方向に向けてもよい。
【0022】
上記のように、
図1は一例として提示される。他の例は、
図1に関して説明したものとは異なる場合がある。
【0023】
図2は例示的な光学フィルタ200の図である。いくつかの実装形態では、光学フィルタ200が光学干渉フィルタであってもよく、及び/又は、とりわけ、スペクトルフィルタ、マルチスペクトルフィルタ、バンドパスフィルタ、ブロッキングフィルタ、長波パスフィルタ、短波パスフィルタ、ダイクロイックフィルタ、線形可変フィルタ、円形可変フィルタ、ファブリペローフィルタ、ベイヤフィルタ、プラズモンフィルタ、フォトニック結晶フィルタ、ナノ構造若しくはメタマテリアルフィルタ、吸収フィルタ、ビームスプリッタ、偏光ビームスプリッタ、ノッチフィルタ、反射防止フィルタ、反射材、又はミラーのうち少なくとも1つを備えてもよい。
図2は、光学フィルタ200の例示的な積み重ねを示す。
図2にさらに示されるように、光学フィルタ200は、基板210と、層のセット220を含む。
【0024】
基板210は、ガラス基板、ポリマー基板、ポリカーボネート基板、金属基板、シリコン(Si)基板、ゲルマニウム(Ge)基板、又は(例えば、とりわけ、フォトダイオード(PD)、PDアレイ、アバランシェフォトダイオード(APD)、APDアレイ、電荷結合素子(CCD)センサ、及び/又は相補型金属酸化物半導体(CMOS)センサを備える)能動素子ウェハを含んでもよい。いくつかの実装形態では、基板210の厚さが、20ミクロン(μm)、50μm、及び/又は500μm以上であってもよい。付加的に、又は代替的に、基板の厚さは、特定の厚さ閾値以下であってもよい。特定の厚さ閾値は、例えば5ミリメートル(mm)以下であってもよい。
【0025】
層のセット220(例えば、光学フィルタ層のセット)は、基板210上に(例えば、直接上に)配置されてもよく、また層の1つ以上のサブセットを含んでもよい。例えば、層のセット220は、層の第1のサブセット230(例えば、層の第1のサブセット230-1~230-(N+1)(N≧1))(本明細書ではA層とも称する)と、層の第2のサブセット240(例えば、層の第2のサブセット240-1~240-N)(本明細書ではB層とも称する)とを含んでもよい。いくつかの実施態様において、層の第1のサブセット230及び層の第2のサブセット240は、(A-B)
m(m≧1)の順序、(A-B)
m-Aの順序、(B-A)
mの順序、B-(B-A)
mの順序、又は別の順序などの、特定の順序(例えば、交互の層順序)で配列されてもよい。例えば、
図2に示されるように、層230の第1のサブセット及び層240の第2のサブセットは(A-B)
N-Aの順序で配列され、光学フィルタ200の表面(例えば、上面)上にA層(例えば、層230-1)が配列され、基板210の表面(例えば、上面)上にA層(例えば、層230-(N+1))が配列される。
【0026】
いくつかの実装形態において、層のセット220は、(例えば、
図2に示されるように)基板210の片面(例えば、上面)上に配置されてもよい。代替として、層のセット220の第1の部分が基板210の第1の表面(例えば、上面)上に配置されてもよく、また層のセット220の第2の部分が基板210の第2の表面(例えば、底面)上に配置されてもよい。例えば、層の第1のサブセット230の第1の部分及び層の第2のサブセット240の第1の部分が、第1の特定の順序で基板210の第1の表面上に配置されてもよく、また層の第1のサブセット230の第2の部分及び層の第2のサブセット240の第2の部分が、第2の特定の順序で基板210の第2の表面上に配置されてもよい。
【0027】
いくつかの実装形態では、1つ以上の保護層、(例えば、層のセット220に環境保護を与える)1つ以上のキャップ層、及び/又は1つ以上の他のフィルタリング機能(例えば、とりわけブロッカー又は反射防止コーティング)を与える1つ以上の層などの、1つ以上の他の層を光学フィルタ200に含めてもよい。例えば、片面構成では、誘電体層(例えば、二酸化ケイ素(SiO2)材料、二酸化ジルコニウム(ZrO2)材料、及び/又は酸化イットリウム(Y2O3)材料などの酸化物材料;窒化ケイ素(Si3N4)材料、窒化チタン(TiN)材料、及び/又は窒化ジルコニウム(ZrN)材料などの窒化物材料;及び/又は環境保護を与える別の材料を含む)などの追加の層(例えば、キャップ層)が、層のセット220の表面(例えば、上面)上に配置されてもよい。別の例として、両面構成では、第1の追加層が、層のセット220の第1の部分の表面(例えば、上面)上に配置されてもよく、また第2の追加層が、層のセット220の第2の部分の表面(例えば、底面)上に配置されてもよい。
【0028】
層の第1のサブセット230は窒化アルミニウム(AlN)材料を含んでもよい。例えば、層の第1のサブセット230の各層230がAlN材料を含んでもよい。層の第2のサブセット240は、とりわけ、シリコン(Si)材料、シリコン及び水素(SiH)材料、水素化シリコン(Si:H)材料、水素化シリコン-ヘリウム(Si:H-He)材料、アモルファスシリコン(a-Si)材料、窒化シリコン(SiN)材料、ゲルマニウム(Ge)材料、水素化ゲルマニウム(Ge:H)材料、シリコンゲルマニウム(SiGe)材料、水素化シリコンゲルマニウム(SiGe:H)材料、炭化シリコン(SiC)材料、水素化炭化シリコン(SiC:H)材料、二酸化シリコン(SiO2)材料、五酸化タンタル(Ta2O5)材料、五酸化ニオブ(Nb2O5)材料、酸化ニオブチタン(NbTiOx)材料、五酸化ニオブタンタル(Nb2-xTaxO5)材料、二酸化チタン(TiO2)材料、酸化アルミニウム(Al2O3)材料、酸化ジルコニウム(ZrO2)材料、酸化イットリウム(Y2O3)材料、又は酸化ハフニウム(HfO2)材料などの、少なくとも1つの他の材料(例えば、AlN材料以外の少なくとも1つの他の材料)を含んでもよい。例えば、層の第2のサブセット240の各層240は、少なくとも1つの他の材料を含んでもよい。
【0029】
いくつかの実装形態では、層の第1のサブセット230の応力(例えば、正味応力)が、-1000~800MPa(例えば、-1000MPa以上800MPa以下)であってもよい。付加的に、又は代替的に、層の第1のサブセット230の各層230の応力が、-1000~800MPaであってもよい。すなわち、層の第1のサブセット230における特定の層230の応力が-1000~800MPaであってもよく、層の第1のサブセット230における別の特定の層230の応力が-1000~800MPaであってもよい。特定の層230の応力は、他の特定の層230の応力と同じであってもよいし、又は異なっていてもよい。例えば、特定の層230の応力は引張応力(例えば、0MPa以上)でもよく、他の特定の層230の応力は圧縮応力(例えば、0MPa未満)でもよく、又はその逆であってもよい。
【0030】
いくつかの実装形態では、層のセット220の応力(例えば、正味応力)を約ゼロ(0)MPa(例えば、公差が5MPa以下として、公差の範囲内)にすることができる。したがって、層の第1のサブセット230及び層の第2のサブセット240のうち少なくとも一方が引張材料を備えてもよく、また層の第1のサブセット230及び層の第2のサブセット240のうち他方が(例えば、層のセット220の応力を約0MPaにさせる)圧縮材料を備えてもよい。例えば、層の第1のサブセット230は引張材料を含んでもよく、層の第2のサブセット240は圧縮材料を含んでもよく、又はその逆であってもよい。別の例として、層の第1のサブセット230は、引張AlN材料を含んでもよく、層の第2のサブセット240は少なくとも1つの圧縮性の他の材料(例えば、とりわけ、圧縮Si材料、圧縮Si:H材料、圧縮Si:H-He材料、又は圧縮a-Si材料のうち少なくとも1つ)を含んでもよい。いくつかの実装形態では、層のセット220の応力(例えば、正味応力)が、特定量の応力にほぼ等しくてもよい(例えば、公差が5MPa以下として、公差の範囲内)。例えば、層の第1のサブセット230及び層の第2のサブセット240は、層のセット230の応力が350MPaなどの特定量の応力に等しくなるように、圧縮材料及び/又は引張材料の特定の構成を含んでもよい。
【0031】
いくつかの実装形態では、層のセット220の各層が特定の厚さに関連付けられてもよい。例えば、層の第1のサブセット230又は層の第2のサブセット240からなる層が、5~2000nmの厚さを有してもよい。いくつかの実装形態では、層の第1のサブセット230又は層の第2のサブセット240は、とりわけ、層の第1のサブセット230に対する第1の厚さ及び層の第2のサブセット240に対する第2の厚さ、層の第1のサブセット230の第1の部分に対する第1の厚さ及び層の第1のサブセット230の第2の部分に対する第2の厚さ、あるいは層の第2のサブセット240の第1の部分に対する第1の厚さ及び層の第2のサブセット240の第2の部分に対する第2の厚さなどの、複数の厚さに関連付けられてもよい。したがって、層の厚さ及び/又は層の量は、目的とする通過帯域、目的とする透過率、及び/又は別の光学特性などの、光学フィルタ200の目的とする光学特性のセットに基づいて選択することができる。例えば、層の厚さ及び/又は層の量は、光学フィルタ200を、(例えば、中心波長が約900nmである)800~1000nmのスペクトル域、800nm~1600nmのスペクトル域、800nm~1100nmのスペクトル域、(例えば、ピーク波長が1550nmである)1400nm~1600nmのスペクトル域、500~5500nmのスペクトル域、又は別のスペクトル域用に利用する(例えば、これらのスペクトル域に関連する光を通過させる)ことができるように、選択されてもよい。
【0032】
いくつかの実装形態において、層のセット230は、特定のスペクトル域に関連する光のうち閾値割合を通過させるように構成されてもよい。例えば、層のセット230は、(例えば、中心波長が約900nmである)800~1000nmのスペクトル域に関連する光のうち閾値割合を通過させるように構成されてもよい。閾値範囲は、例えば85%以上であってもよい。いくつかの実装形態では、層の第1のサブセット230の吸光係数が、500nm~5500nmの波長を有する光に対して0.001未満であってもよい。
【0033】
いくつかの実装形態において、層の第1のサブセット230は、第1の値を有する第1の屈折率を有してもよく、また層の第2のサブセット240は、(例えば、第1の値とは異なる)第2の値を有する第2の屈折率を有してもよい。例えば、層の第1のサブセット230の屈折率は、500~5500nmの波長を有する光に対して1.9~2.2であってもよく、及び/又は層の第2のサブセット240の屈折率は、500~5500nmの波長を有する光に対して3.5~3.9であってもよい。いくつかの実装形態において、光学フィルタ200は、第1の値及び第2の値のうち最高値の95%以上の有効屈折率を有してもよい。例えば、層230の第1のサブセット及び層240の第2のサブセットが特定の層順序(例えば、高屈折率及び低屈折率層が交互になる層順序)で配列される場合、層230の第1のサブセット及び層240の第2のサブセットは、例えば、第1の値及び第2の値のうち最高値の95%以上の有効屈折率を達成するようにサイズ決めしてもよい。いくつかの実装形態において、光学フィルタ200は、第1の値及び第2の値のうち最高値の100%以上(例えば、最大で最高値の110%、120%、130%、140%、又は150%)の有効屈折率を有してもよい。したがって、例えば、層240の第2のサブセットの屈折率が3.5~3.9であり、層230の第1のサブセットの屈折率よりも大きい場合、有効屈折率は、3.7、4.0、4.5、5.0、及び/又は5.5以上であってもよい。
【0034】
いくつかの実装形態において、層のセット230は、スパッタリングプロセスを使用して形成してもよい。例えば、層のセット230をマグネトロンスパッタリングプロセス(例えば、パルスマグネトロンスパッタリングプロセス)を使用して形成し、それにより、基板210上に層の第1のサブセット230及び/又は層の第2のサブセット240を(例えば、交互の層順序で)スパッタリングしてもよい。このようにして、光学フィルタ200を製造してもよい。光学フィルタ200の製造に関するさらなる詳細は、
図3に関連して本明細書に記載されている。
【0035】
上記のように、
図2は一例として提示される。他の例は、
図2に関して説明したものとは異なる場合がある。
【0036】
図3は、本明細書に記載の光学フィルタ(例えば、光学フィルタ200)を製造するためのスパッタ堆積システムの実施例300の図である。スパッタ堆積システムは、マグネトロンスパッタリングプロセスなどのスパッタリングプロセスを可能にするために使用することができる。
【0037】
図3に示されるように、実施例300は、真空チャンバ310、(例えば、
図2に関連して本明細書に記載されている基板210に対応する)基板320、陰極330、ターゲット331、陰極電源340、陽極350、プラズマ活性化源(PAS)360、及びPAS電源370を含む。ターゲット331は、アルミニウム(Al)材料を含んでもよい。PAS電源370は、PAS360に電力を供給するために利用してもよく、無線周波数(RF)電源を含んでもよい。陰極電源340は、陰極330に電力を供給するために利用してもよく、パルス直流(DC)電源を含んでもよい。
【0038】
図3に関して、窒素ガス(N
2)及び/又は不活性ガス(例えば、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、及び/又はネオン(Ne)を含む)の存在下でターゲット331をスパッタリングすることにより、基板320上に少なくとも1つの層として窒化アルミニウム(AlN)を堆積させることができる。例えば、N
2ガス及び不活性ガスをそれぞれ真空チャンバ310に供給し、それにより、ターゲット331をスパッタリングして(例えば、本明細書にさらに記載されているように)基板320上にAlNを含む層の第1のセットを形成することができる。いくつかの実装形態では、層の第1のセットを、Si、Si:H、Si:H-He、a-Si、及び/又は(例えば、
図2に関して本明細書に記載されている層の第2のサブセット240に関して)本明細書に記載されている任意の他の材料を含む層の第2のセットなどの、少なくとも1つの他の材料を含む層の第2のセットと交互になるように基板上に形成することによって、層の配列を形成してもよい。層の第2のセットは、例えば、別のガス(例えば、水素ガス(H
2))及び不活性ガス(例えば、Ar、He、及び/又はNeを含む)を真空チャンバ310に供給し、別のターゲット(例えば、シリコンターゲット)をスパッタリングして、第2の組の層(例えば、この例では、Si:H又はSi:H-Heを含む)を形成することによって、基板上に(例えば、本明細書にさらに記載されているのと同様の方法で)形成されてもよい。
【0039】
いくつかの実装形態において、層の配列は、層の形成物の有効屈折率が最高屈折率材料の値の95%以上(例えば、最大で110%、120%、130%、140%、又は150%)となるように、特定の層順序(例えば、高屈折率層及び低屈折率層が交互になる層順序)で配列されてもよい。したがって、例えば、有効屈折率は、(例えば、第2のサブセットの層の屈折率が3.5~3.9の屈折率であり、第1のサブセットの層の屈折率よりも大きい場合、)3.7、4.0、4.5、5.0、及び/又は5.5以上であってもよい。
【0040】
AlN層を形成するために、陽極350及び/又はPAS360を通じて真空チャンバ310内に不活性ガスを供給することができる。N2ガスは、N2ガスを活性化するPAS360を通じて真空チャンバ310内に導入される。付加的に、又は代替的に、陰極330によってN2ガスを活性化でき(例えば、この場合、N2ガスを真空チャンバ310の別の部分から導入でき)、又は陽極350によってN2ガスを活性化することができる(例えば、この場合、陽極350によってN2ガスを真空チャンバ310内に導入できる)。PAS360は、陰極330の閾値近傍内に位置してもよく、そうすることで、PAS360からのプラズマと陰極330からのプラズマを積み重ねることが可能になる。PAS360を使用することにより、AlNを比較的高い堆積速度で堆積することができる。いくつかの実装形態では、AlNを、約0.05nm/s~約2.0nm/sの堆積速度、約0.5nm/s~約1.2nm/sの堆積速度、約0.8nm/sの堆積速度で、又は同様の速度で堆積することができる。
【0041】
いくつかの実装形態では、(例えば、形成後の)AlN層の応力は、不活性ガスの組成物及び/又は真空チャンバ310に供給される不活性ガスの量を制御することに基づいて調整することができる。例えば、不活性ガスがArを含む場合、不活性ガス中のArの量及び/又は真空チャンバ310に供給される不活性ガスの量は、AlN層の応力が-230~800MPaになるように制御することができる。付加的に、又は代替的に、不活性ガスがArを含む場合、不活性ガス中のArの量及び/又は真空チャンバ310に供給される不活性ガスの量は、AlNを含む層の第1のセットの応力(例えば、正味応力)が-230~800MPaになるように制御することができる。別の例として、不活性ガスがHe及び/又はNeを含む場合、不活性ガス中のHe及び/若しくはNeの量、並びに/又は真空チャンバ310に供給される不活性ガスの量は、AlN層の応力が-1000~150MPaになるように制御することができる。付加的に、又は代替的に、不活性ガスがHe及び/又はNeを含む場合、不活性ガス中のHe及び/若しくはNeの量、並びに/又は真空チャンバ310に供給される不活性ガスの量は、AlNを含む第1の組の層の応力が-1000~150MPaになるように制御することができる。
【0042】
本明細書ではスパッタリングプロセスについて説明されているが、特定のジオメトリ及び特定の実装形態に関して、他のジオメトリ及び他の実装形態も可能である。例えば、N2ガスは、別の方向から、及び/又は、とりわけ、カソード330の閾値近傍内にある別のガスマニホールドから注入されてもよい。本明細書では構成要素の異なる構成に関して説明されているが、異なる材料、異なる製造プロセスなどを使用して、AlNの異なる相対濃度を達成することもできる。
【0043】
上記のように、
図3は一例として提示される。他の例は、
図3に関して説明したものとは異なる場合がある。
【0044】
図4A~
図4Bは、本明細書に記載されているスパッタリングプロセス(例えば、マグネトロンスパッタリングプロセス)を使用して形成されたAlN層の応力を示す例示的なプロット400の図表である。
図4Aに示されるように、AlN層の応力は、Arを含む不活性ガスが120~370標準立方センチメートル/分(sccm)の流量で(例えば、
図3に関して本明細書に記載されているスパッタ堆積システムの真空チャンバ310に)供給されるときに、-230~650MPaになるように設定することができる。
図4Bに示されるように、AlN層の応力は、Heを含む不活性ガスが0~500sccmの流量で(例えば、
図3に関して本明細書に記載されているスパッタ堆積システムの真空チャンバ310に)供給されるときに、-950~175MPaとなるように設定することができる。いくつかの実装形態では、Arを含む不活性ガスも、120~370sccmの流量で(例えば、
図3に関して本明細書に記載されているスパッタ堆積システムの真空チャンバ310に)供給される。
【0045】
【0046】
図5は、本明細書に記載されているスパッタリングプロセス(例えば、マグネトロンスパッタリングプロセス)を使用して形成されたAlN層のセットの吸光係数(k)及び屈折率(r)の例示的なプロット500である。
図5に示されるように、吸光係数は、500~2000nmの波長を有する光に対して0.001未満にすることができる。
図5にさらに示されるように、屈折率は、500~2000nmの波長を有する光に対して2.2未満にすることができる。
【0047】
上記のように、
図5は一例として提示される。他の実施例は、
図5に関して説明したものとは異なる場合がある。
【0048】
図6は、本明細書に記載されている光学フィルタ(例えば、光学フィルタ200)の透過性能を示す例示的なプロット600の図表である。光学フィルタは、AlN材料を含む層の第1のサブセット(例えば、層の第1のサブセット230)と、Si:H材料を含む層の第2のサブセット(例えば、層の第2のサブセット240)と、を含む層のセット(例えば、層のセット220)を備える。
図6に示されるように、光学フィルタは、920~960nmの波長を有する光のうち約85%超(ピークが約92%である)を透過させることができる。これに対し、Ta
2O
5材料を含む層の第1のサブセットと、Si:H材料を含む層の第2のサブセットと、を有する層のセットを備える代替的な光学フィルタは、920~960nmの波長を有する光のうち約60%超(ピークが約67%である)を透過させることができる。したがって、本明細書に記載されている光学フィルタは、920~960nmのスペクトル域における代替の光学フィルタと比較して、改善された透過性能を有する。
【0049】
上記のように、
図6は一例として提示される。他の例は、
図6に関して説明したものとは異なる場合がある。
【0050】
図7A~7Cは、本明細書に記載されている例示的な実装形態の光学特性及び物理的特性の図表700/710/720である。
【0051】
図7Aに示されるように、図表700は、光学フィルタ(例えば、本明細書に記載されている光学フィルタ200)の角度シフト性能を示す。光学干渉フィルタの中心波長における角度シフトは、入射角(
図7Aにθとして示される)が0度~30度の場合、中心波長の1.0%未満にすることができる。例えば、光学フィルタが中心波長を940ナノメートル(nm)に設定されている場合、光学フィルタは、最大30度の入射角で、例えば9.4nm未満の角度シフトを有し得る。いくつかの実装形態では、光学フィルタが、最大30度の入射角で、7.0nm未満の角度シフトを有し得る。この場合、光学フィルタは、例えば、3.7、4.0、4.5、5.0、及び/又は5.5以上の有効屈折率を達成することができる。いくつかの実装形態において、光学フィルタは、中心波長で、80%超、85%超、90%超、及び/又は95%超などの透過率閾値を超える透過率(例えば、入射角が0~30度のときの光学フィルタのピーク透過率)を達成することができる。さらに、光学フィルタは、+/-10%未満、+/-5%未満、又は+/-1%未満のリップル(ripple)を達成することができ、リップルとは、入射角が0度~30度の場合の通過帯域にわたる透過率の偏位を表す。
【0052】
図7B及び7Cに示されるように、図表710及び720は、光学フィルタの例示的な積層及び層厚の例を示す。この場合、光学フィルタは、AlN材料(例えば、500~5500nmの波長を有する光に対して1.9~2.2の屈折率を有する)を含む層と、Si:H-He材料(例えば、500~5500nmの波長を有する光に対して3.5~3.9の屈折率を有する)を含む層とを交互に重ねることによって製造される。光学フィルタは、閾値厚さ(例えば、1つ又は2つ以上の層の次に最も厚い層よりも200%超で厚い厚さ、かつ例えば、次に最も厚い層よりも500%未満で厚い厚さ)よりも大きい1つ又は2つの「厚い層」を含む。いくつかの実装形態では、光学フィルタが2つの厚い層を含んでもよく、またこれらの厚い層同士が10%~25%ずれていてもよい。例えば、2つの厚い層のうち小さい方の層の厚さは、2つの厚い層のうち大きい方の層の厚さよりも10%~25%小さくてもよい。
【0053】
上述のように、
図7A~7Cは、単なる一例として提示される。他の例は、
図7A~
図7Cに関して説明したものとは異なる場合がある。
【0054】
図8A~8Cは、本明細書に記載されている例示的な実装形態の光学特性及び物理的特性の図表800/810/820である。
【0055】
図8Aに示されるように、図表800は光学フィルタ(例えば、本明細書に記載されている光学フィルタ200)の角度シフト性能を示す。光学干渉フィルタの中心波長における角度シフトは、入射角(
図8Aにθとして示される)が0度~30度の場合、中心波長の1.0%未満にすることができる。例えば、光学フィルタが中心波長を940ナノメートル(nm)に設定されている場合、光学フィルタは、最大30度の入射角で、例えば、9.4nm未満の角度シフトを有することができる。いくつかの実装形態では、光学フィルタが、最大30度の入射角で7.0nm未満の角度シフトを有することができる。この場合、光学フィルタは、例えば、3.7、4.0、4.5、5.0、及び/又は5.5以上の有効屈折率を達成することができる。いくつかの実装形態において、光学フィルタは、中心波長で、80%超、85%超、90%超、及び/又は95%超などの透過率閾値を超える透過率(例えば、入射角が0~30度のときの光学フィルタのピーク透過率)を達成することができる。さらに、光学フィルタは、+/-10%未満、+/-5%未満、又は+/-1%未満のリップルを達成することができ、リップルは、入射角が0~30度の場合の通過帯域にわたる透過率の偏位を表す。
【0056】
図8B及び8Cに示されるように、図表810及び820は、光学フィルタの積層例及び層厚の例を示す。この場合、光学フィルタは、AlN材料(例えば、500~5500nmの波長を有する光に対して1.9~2.2の屈折率を有する)を含む層と、Si:H-He材料(例えば、500~5500nmの波長を有する光に対して3.5~3.9の屈折率を有する)を含む層とを交互に重ねることによって製造される。また光学フィルタは、SiO
2材料を含む追加の層(例えば、本明細書に記載されているようなキャップ層)を備えることもできる。
【0057】
上述のように、
図8A~8Cは単なる一例として提示される。他の例は、
図8A~8Cに関して説明したものと異なってもよい。
【0058】
前述の開示は例示及び説明を与えるものだが、網羅的であること、又は実装形態を開示されている厳密な形態に限定することを意図するものではない。修正及び変形は、上記の開示に照らしてなされてもよく、又は実装形態の実施から得られてもよい。
【0059】
本明細書で使用する場合、用語「コンポーネント」は、ハードウェア、ファームウェア、又はハードウェアとソフトウェアの組合せとして広く解釈されるように意図される。本明細書に記載されているシステム及び/又は方法がハードウェア、ファームウェア、及び/又はハードウェアとソフトウェアの組合せの異なる形態で実装されてもよいことは、明らかであろう。これらのシステム及び/又は方法を実施するために使用される実際の専用制御ハードウェア又はソフトウェアコードは、実装形態を限定するものではない。したがって、システム及び/又は方法の動作及び挙動は、特定のソフトウェアコードを参照することなく本明細書に記載され、本明細書の説明に基づいてシステム及び/又は方法を実装するためにソフトウェア及びハードウェアが使用されてもよいことが理解される。
【0060】
本明細書で使用される場合、閾値を満たすとは、文脈に応じて、閾値よりも大きい、閾値以上、閾値よりも小さい、閾値以下、閾値に等しい、閾値に等しくない等の値を指すことがある。
【0061】
特徴の特定の組合せが特許請求の範囲に記載され、かつ/又は本明細書に開示されているが、これらの組合せは、様々な実装形態の開示を限定することを意図するものではない。実際、これらの特徴の多くは、特許請求の範囲に具体的に記載されていない、及び/又は本明細書に開示されていない方法で組み合わせることができる。以下に列挙される各従属クレームは、1つの請求項のみに直接依存するが、様々な実装形態の開示は、請求項のセットにおける他のすべての請求項と組み合わせられた各従属クレームを含む。本明細書で使用する場合、項目のリスト「のうちの少なくとも1つ」を指す語句は、単一要素を含む、それらの項目の任意の組合せを指す。一例として、「a、b、又はcのうちの少なくとも1つ」は、a、b、c、a-b、a-c、b-c、及びa-b-c、ならびに同じ項目の倍数との任意の組合せを包含することが意図される。
【0062】
本明細書で使用される要素、行為、又は命令は、そうであると明示的に記載されない限り、重要又は必須であると解釈されるべきではない。また、本明細書で使用される場合、冠詞「a」及び「an」は1つ以上の項目を含むことが意図され、本明細書で使用される場合、冠詞「the」は冠詞「the」に関連して参照される1つ以上の項目を含むことが意図され、「1つ以上(the one or more)」と互換的に使用され得る。さらに、本明細書で使用される場合、用語「セット(set)」は、1つ以上の項目(例えば、関連する項目、無関係な項目、又は関連する項目と無関係な項目の組合せ)を含むことが意図され、「1つ以上」と互換的に使用され得る。また、本明細書で使用する場合、用語「有する(have, has, having)」などは、オープンエンドの用語であることが意図される。さらに、「~に基づく(based on)」という語句は、特に明記しない限り、「~に少なくとも部分的に基づく(based, at least in part, on)」ように意図される。また、本明細書で使用される場合、用語「又は(or)」は、連続して使用される場合に包括的であることが意図され、明示的に別段の定め(例えば、「いずれか」又は「一方のみ」と組み合わせて使用される場合)がない限り、「及び/又は(and/or)」と互換的に使用され得る。
【外国語明細書】