(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008188
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】電磁接触器の機械ラッチ装置
(51)【国際特許分類】
H01H 50/00 20060101AFI20230112BHJP
H01H 50/32 20060101ALI20230112BHJP
H01H 51/10 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
H01H50/00 J
H01H50/32 B
H01H51/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111550
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】羽澤 耕明
(72)【発明者】
【氏名】蜷川 遼太郎
(57)【要約】
【課題】電磁接触器の機械ラッチ装置において、ラッチ支えの戻りを機械的に阻止する部分の隙間を調整する作業を不要にし、利便性を向上させる。
【解決手段】ラッチ支え22は、変位方向に沿った側面43、及び釈放側を向いたラッチ面44a~44cによって出隅部33が形成されている。スライダ24a~24cは、側面43に向かって付勢されており、ラッチ支え22が釈放側にあるときには、先端が側面43に当接することでラッチ支え22が投入側へ変位することを許容する。また、ラッチ支え22が投入側にあるときには、ラッチ支え22における変位方向の位置に応じて前進し、投入側を向いた端面52がラッチ面44a~44cに対向することで、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁接触器の接点支えに連結されて釈放側と投入側との間で変位可能であり、変位方向に沿った側面、及び釈放側を向いたラッチ面によって出隅部が形成されたラッチ支えと、
前記側面に向かって付勢されており、前記ラッチ支えが釈放側にあるときには、先端が前記側面に当接することで前記ラッチ支えが投入側へ変位することを許容し、前記ラッチ支えが投入側にあるときには、前記ラッチ支えにおける前記変位方向の位置に応じて前進し、投入側を向いた端面が前記ラッチ面に対向することで、前記ラッチ支えが釈放側へ戻ることを前記変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止するスライダと、を備えることを特徴とする電磁接触器の機械ラッチ装置。
【請求項2】
前記スライダは、前記出隅部の稜線に沿って複数並べられ、夫々が進退可能で、前記側面に向かって個別に付勢されており、
前記ラッチ面、及び前記端面の少なくとも一方は、前記変位方向の位置が複数の前記スライダごとに異なることを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器の機械ラッチ装置。
【請求項3】
前記ラッチ面、及び前記端面の少なくとも一方は、前記スライダの側から前記ラッチ支えの側に向かうほど投入側から釈放側に向かうように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器の機械ラッチ装置。
【請求項4】
電磁石によって駆動され、前記ラッチ支えの側から前記スライダに向かって前進するときに、先端で前記スライダを押し返すプランジャを備えることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の電磁接触器の機械ラッチ装置。
【請求項5】
手動操作によって前記スライダを押し返す手動操作部を備えることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の電磁接触器の機械ラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁接触器の機械ラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
停電や電圧降下によって電磁接触器を遮断させたくない回路や、常時、通電の消費電力を抑えたい場合には、電磁接触器の投入状態を機械的に保持することが要求されるため、機械ラッチ装置が電磁接触器に取り付けられる。特許文献1に示される機械ラッチ装置では、接点支えに連動してラッチ支えが投入側に変位したときに、ラッチ支えの肩部にラッチレバーのローラを引掛けることで、ラッチ支えが釈放側に戻ることを機械的に阻止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁接触器の制御コイルを励磁しているとき、ラッチ支えの肩部とローラとの間には僅かな隙間(遊び)が設けられているが、接点支えのストローク量は電磁接触器の機種や、同じ機種の場合でも個体差によって異なるため、隙間の大きさにも違いが生じる。電磁接触器の制御コイルを非励磁にすると、隙間の分だけラッチ支えが戻るため、隙間の大きさによっては、外径の異なるローラに交換するなどして、隙間の調整作業が必要であった。
本発明の目的は、電磁接触器の機械ラッチ装置において、ラッチ支えの戻りを機械的に阻止する部分の隙間を調整する作業を不要にし、利便性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る電磁接触器の機械ラッチ装置は、電磁接触器の接点支えに連結されて釈放側と投入側との間で変位可能であり、変位方向に沿った側面、及び釈放側を向いたラッチ面によって出隅部が形成されたラッチ支えと、側面に向かって付勢されており、ラッチ支えが釈放側にあるときには、先端が側面に当接することでラッチ支えが投入側へ変位することを許容し、ラッチ支えが投入側にあるときには、ラッチ支えにおける変位方向の位置に応じて前進し、投入側を向いた端面がラッチ面に対向することで、ラッチ支えが釈放側へ戻ることを変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止するスライダと、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ラッチ支えが投入側にあるとき、変位方向の位置に応じてスライダの端面がラッチ面に対向することで、ラッチ支えが釈放側へ戻ることを、変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止する。したがって、ラッチ支えの戻りを機械的に阻止する部分の隙間を調整する作業が不要となり、利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】電磁接触器の機械ラッチ装置を示す図である。
【
図4】三つのスライダを組み合わせた状態を示す図である。
【
図7】スライダの全てが初期位置にある状態を示す図である。
【
図8】スライダの一つが前進した状態を示す図である。
【
図9】スライダの二つが前進した状態を示す図である。
【
図10】スライダの全てが前進した状態を示す図である。
【
図12】電磁接触器の機械ラッチ装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
《第一実施形態》
《構成》
以下の説明では、互いに直交する三方向を、便宜的に、縦方向、幅方向、及び奥行方向とする。なお、奥行方向の手前側は変位方向の釈放側に対応し、奥行方向の奥側は変位方向の投入側に対応する。
図1は、電磁接触器の機械ラッチ装置を示す図である。
停電や電圧降下によって電磁接触器11を遮断させたくない回路や、常時、通電の消費電力を抑えたい場合には、電磁接触器11の投入状態を機械的に保持することが要求されるため、機械ラッチ装置12が電磁接触器11に取り付けられる。ここでは、電磁接触器11の一部を二点鎖線で仮想的に示し、詳細な説明は省略する。
【0010】
以下、機械ラッチ装置12について説明する。ここでは、縦方向の一方から見た構造を示しており、説明を簡単にするために接点部については図示を省略している。機械ラッチ装置12は、ケース21と、ラッチ支え22と、コイルばね23と、スライダ24と、電磁石25と、プランジャ26と、手動操作部27と、を備える。
ケース21は、外形が略直方体であり、電磁接触器11における奥行方向の手前側に取り付けられる。
ラッチ支え22は、ケース21内で幅方向の略中央に配置され、奥行方向の奥側がケース21の開口部13から突出し、電磁接触器11の接点支え14に連結されることで、釈放側と投入側との間で変位可能である。ここでは、接点支え14の一部を二点鎖線で仮想的に示し、詳細な説明は省略する。
【0011】
図2は、ラッチ支えを示す図である。
ラッチ支え22は、基体31と、脚部32と、出隅部33と、b接点部34と、a接点部35と、を備える。
基体31は、変位方向及び縦方向に沿った略板状であり、縦方向の略中央には、変位方向に沿って延び、幅方向に貫通した貫通穴41が形成されている。
脚部32は、基体31の投入側に設けられており、投入側に沿って延びている。脚部32には、投入側の端部に、縦方向に沿って形成された凹溝42が形成されている。凹溝42は、釈放側が幅方向の両側に拡張され、縦方向から見て略T字状に形成されている。凹溝42が電磁接触器11の接点支え14に対して縦方向に沿って嵌め合わされることで(
図1参照)、ラッチ支え22が接点支え14に連動して釈放側と投入側との間で変位可能となる。
【0012】
出隅部33は、基体31における幅方向の一方側で、且つ貫通穴41よりも投入側に形成されており、変位方向に沿った側面43、及び釈放側を向いた三つのラッチ面44a~44cによって形成されている。すなわち、側面43は、変位方向及び縦方向に沿った平面であり、ラッチ面44a~44cは、縦方向及び幅方向に沿った平面である。ラッチ面44a~44cは、出隅部33の稜線に沿って並んでおり、夫々、変位方向の位置が異なっている。ここでは、縦方向の一方側から他方側に向かって、ラッチ面44a、ラッチ面44b、ラッチ面44cの順に、変位方向の位置が釈放側へ上ってゆくように、階段状に設定されている。夫々の段差高さは同一であり、例えば0.5mm程度である。出隅部33は、バリが生じないように僅かに面取りされていることが望ましい。
【0013】
b接点部34は、縦方向に貫通した略角筒状であり、基体31における幅方向の一方側で、且つ貫通穴41よりも釈放側に形成され、図示しない可動接触子を弾性支持する。b接点部34は、ラッチ支え22が釈放側にあるときに可動接触子を図示しない固定接触子に接触させ、ラッチ支え22が投入側にあるときに可動接触子を固定接触子から離間させる。
a接点部35は、縦方向に貫通した略角筒状であり、基体31における幅方向の他方側で、且つb接点部34よりも釈放側に形成され、図示しない可動接触子を弾性支持する。a接点部35は、ラッチ支え22が釈放側にあるときに可動接触子を図示しない固定接触子から離間させており、ラッチ支え22が投入側にあるときに可動接触子を固定接触子に接触させる。
【0014】
図3は、スライダの単品図である。
幅方向において、ラッチ支え22の側面43に近い側を内側とし、ラッチ支え22の側面43から遠い側を外側とする。図中の(a)は、スライダ24を幅方向の外側、縦方向の一方側、及び奥行方向の手前側から見た斜視図であり、図中の(b)は、スライダ24を幅方向の内側、縦方向の他方側、及び奥行方向の奥側から見た斜視図である。スライダ24は、幅方向に延びており、幅方向の内側に向かって突出した爪部51が形成されている。爪部51における奥行方向の奥側には、奥行方向の奥側を向いた端面52と、ラッチ支え22の側面43に対向する対向面53と、が形成されている。縦方向から見て、爪部51の先端から対向面53までの距離は、基体31における一方側の側面から出隅部33の側面43までの距離よりも短い。
【0015】
スライダ24における縦方向の両側面には、連結凹部54及び連結凸部55が一つずつ形成されている。具体的には、縦方向における一方側の側面には、幅方向の外側に連結凹部54が形成され、幅方向の内側に連結凸部55が形成されており、縦方向における他方側の側面には、幅方向の外側に連結凸部55が形成され、幅方向の内側に連結凹部54が形成されている。すなわち、連結凹部54及び連結凸部55は、縦方向の両側面で、幅方向の配置が反対になっている。連結凹部54は、縦方向に向かって凹となり幅方向に沿って延びる長穴であり、幅方向の寸法は、スライダ24のストローク量に対応している。連結凸部55は、縦方向に向かって凸となる円柱状であり、直径は、連結凹部54における奥行方向の寸法未満であり、縦方向の寸法は、連結凹部54の深さ未満である。
【0016】
図1に示すように、ケース21には、縦方向及び幅方向に沿った摺動面15が形成されており、スライダ24は、摺動面15に接触した状態で進退可能である。スライダ24には、姿勢を維持して摺動面15に対して平行度を保つことが求められる。
スライダ24には、奥行方向の手前側に向かって突出し、縦方向及び奥行方向に沿った受板部56が形成されている。受板部56には、幅方向の外側に向かって突出する円柱状の突起部57が形成されている。
図1に示すように、コイルばね23は、突起部57の外周側に嵌め込まれ、ケース21の内周面と受板部56との間に挟まれることで、スライダ24をラッチ支え22の側面43に向かって付勢する。
【0017】
図4は、三つのスライダを組み合わせた状態を示す図である。
機械ラッチ装置12は、共通した部品である三つのスライダ24a~24cを備えており、これらは出隅部33の稜線に沿って、つまり縦方向に沿って並べられ、互いに組み合わされている。すなわち、隣り合うスライダ24同士が、互いの連結凹部54に連結凸部55を差し込むことで、組み合わされている。ここでは、縦方向の一方側から他方側に向かって、スライダ24a、スライダ24b、スライダ24cの順に並んでいる。連結凹部54は、幅方向に沿って延びる長穴であるため、スライダ24a、スライダ24b、及びスライダ24cの夫々が幅方向に沿って進退可能となる。
【0018】
図5は、スライダの断面図である。
ここでは、三つのスライダ24a~24cをケース21に組み合わせてあり、連結凸部55の中心を通り縦方向及び幅方向に沿った断面を、奥行方向の手前側から見た状態を示す。スライダ24a~24cは、幅方向の外側に位置する連結凸部55が連結凹部54に対して幅方向の最も外側に位置しており、幅方向の内側に位置する連結凸部55が連結凹部54に対して幅方向の最も内側に位置している。したがって、スライダ24cがスライダ24bよりも幅方向の内側へ前進することは阻止され、スライダ24bがスライダ24aよりも幅方向の内側へ前進することは阻止される。
【0019】
ケース21は、縦方向に分割可能である。一方側の内周面において、幅方向の内側には連結凹部58が形成され、幅方向の外側には連結凸部59が形成されており、夫々がスライダ24aの連結凸部55及び連結凹部54に組み合わされている。ケース21における他方側の内周面においても、幅方向の外側には連結凹部58が形成され、幅方向の外側には連結凸部59が形成されており、夫々がスライダ24cの連結凸部55及び連結凹部54に組み合わされている。連結凹部58及び連結凸部59は、何れも連結凹部54及び連結凸部59と同等である。
【0020】
縦方向の一方側では、スライダ24aの連結凸部55がケース21の連結凹部58に対して幅方向の最も外側に位置しており、ケース21の連結凸部59がスライダ24aの連結凹部54に対して幅方向の最も内側に位置している。したがって、スライダ24aが幅方向の内側へ前進することは許容される。縦方向の他方側では、スライダ24cの連結凸部55がケース21の連結凹部58に対して幅方向の最も外側に位置しており、ケース21の連結凸部59がスライダ24cの連結凹部54に対して幅方向の最も内側に位置している。したがって、スライダ24cが幅方向の内側へ前進することは許容される。
上記より、スライダ24a及び24cの夫々がケース21の内周面に嵌め合わされているので、スライダ24a~24cの全ては、幅方向の進退だけが許容され、奥行方向への変位は規制されている。また、スライダ24aが前進しているときだけ、スライダ24b及びスライダ24cの前進が許容され、スライダ24a及びスライダ24bが前進しているときだけ、スライダ24cの前進が許容される。
【0021】
図1に示すように、電磁石25は、ケース21内でラッチ支え22よりも幅方向の他方側に配置されている。ここでは、電磁石25を二点鎖線で仮想的に示し、詳細な説明は省略するが、図示しないスプール、制御コイル、ヨーク、及び復帰ばねを備えている。そして、制御コイルへの通電によって励磁されると、復帰ばねの弾発力に抗してプランジャ26を幅方向の一方側へ前進させ、制御コイルへの通電を停止し非励磁状態にすると、復帰ばねがプランジャ26を幅方向の他方側へと後退させる。
プランジャ26は、電磁石25のスプールに挿入された継鉄であり、幅方向の一方側に突出した円柱状の突出棒28が形成されている。突出棒28は、ラッチ支え22の貫通穴41を介して幅方向の一方側へ突き抜けており、半球状に形成された先端がスライダ24bの受板部56に対向している。
【0022】
図6は、手動操作部を示す図である。
手動操作部27は、奥行方向に延びており、縦方向の一方側及び他方側の双方に突出した一対の支軸61によって、回動可能にケース21に支持される。手動操作部27は、奥行方向の手前側がケース21から露出し、ユーザによって操作可能となる。手動操作部27には、支軸61よりも奥行方向の奥側に、奥行方向に延び、縦方向及び奥行方向に沿った受板部62が形成されており、受板部62には、奥行方向の奥側に、幅方向の内側から外側に向かう凸部63が形成されている。
【0023】
図1に示すように、受板部62は、スライダ24a~24cの各受板部56とラッチ支え22の基体31との間に配置され、凸部63の先端は、スライダ24a~24cの各受板部56に接触する。したがって、スライダ24a~24cの何れかが幅方向の内側へ前進すると、受板部56が凸部63を押すことで、手動操作部27が回動し奥行方向の手前側が幅方向の外側へと変位する。一方、電磁石25でプランジャ26を幅方向の一方側へ前進させると、突出棒28が受板部62を介して受板部56を押してスライダ24a~24cの全てを幅方向の外側へと後退させる。また、ユーザが手動操作部27を操作し、奥行方向の手前側を幅方向の内側へ変位させると、凸部63が受板部56を押してスライダ24a~24cの全てを幅方向の外側へと後退させる。
【0024】
《動作》
次に、第一実施形態の主要な動作について説明する。
図7は、スライダの全てが初期位置にある状態を示す図である。
図中の(a)は、縦方向の一方側から見た状態であり、図中の(b)は奥行方向の手前側から見た状態である。ここでは、接点支え14に連動してラッチ支え22が釈放側にあり、スライダ24a~24cの全ては、先端がラッチ支え22における出隅部33の側面43に当接している。すなわち、スライダ24a~24cの全ては、コイルばね23の弾発力に抗して幅方向の外側へと後退した初期位置にある。このとき、ラッチ支え22は投入側に変位することが許容されている。
【0025】
図8は、スライダの一つが前進した状態を示す図である。
図中の(a)は、縦方向の一方側から見た状態であり、図中の(b)は奥行方向の手前側から見た状態である。ここでは、接点支え14に連動してラッチ支え22が投入側にあり、スライダ24aだけが幅方向の内側へ前進し、スライダ24aの対向面53が出隅部33の側面43に当接している。このとき、スライダ24aの端面52が出隅部33のラッチ面44aに対向することで、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを機械的に阻止している。奥行方向の奥側から見て、スライダ24aの端面52は、ラッチ面44bには重ならないように設定されている。
【0026】
図9は、スライダの二つが前進した状態を示す図である。
図中の(a)は、縦方向の一方側から見た状態であり、図中の(b)は奥行方向の手前側から見た状態である。ここでは、接点支え14に連動してラッチ支え22が
図8の状態よりも投入側にあり、スライダ24a、24bだけが幅方向の内側へ前進し、スライダ24a、24bの対向面53が出隅部33の側面43に当接している。このとき、スライダ24bの端面52が出隅部33のラッチ面44bに対向することで、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを機械的に阻止している。奥行方向の奥側から見て、スライダ24bの端面52は、ラッチ面44aにも僅かに重なるように、且つラッチ面44cには重ならないように設定されている。なお、スライダ24aの端面52も出隅部33のラッチ面44aに対向しているが、一段分の高さだけ隙間が生じている。
【0027】
図10は、スライダの全てが前進した状態を示す図である。
図中の(a)は、縦方向の一方側から見た状態であり、図中の(b)は奥行方向の手前側から見た状態である。ここでは、接点支え14に連動してラッチ支え22が
図9の状態よりも投入側にあり、スライダ24a~24cの全てが幅方向の内側へ前進し、スライダ24a~24cの全ての対向面53が出隅部33の側面43に当接している。このとき、スライダ24cの端面52が出隅部33のラッチ面44cに対向することで、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを機械的に阻止している。奥行方向の奥側から見て、スライダ24cの端面52は、ラッチ面44bにも僅かに重なるように設定されている。なお、スライダ24bの端面52も出隅部33のラッチ面44bに対向しているが、一段分の高さだけ隙間が生じている。また、スライダ24aの端面52も出隅部33のラッチ面44aに対向しているが、二段分の高さだけ隙間が生じている。
【0028】
次に、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを機械的に阻止したラッチ状態を解除する動作について説明する。一つはプランジャ26を駆動する方法である。すなわち、電磁石25でプランジャ26を幅方向の一方側へ前進させることで、突出棒28が受板部62を介して受板部56を押して、スライダ24a~24cの全てを幅方向の外側へ後退させる。もう一つは手動操作部27を手動操作する方法である。すなわち、ユーザが手動操作部27を操作し、奥行方向の手前側を幅方向の内側へ変位させることで、凸部63が受板部56を押して、スライダ24a~24cの全てを幅方向の外側へ後退させる。このように、スライダ24a~24cの全てが初期位置に戻ることで、ラッチ支え22のラッチ状態が解除される。
【0029】
《作用》
次に、第一実施形態の主要な作用について説明する。
接点支え14のストローク量は電磁接触器11の機種によって異なるため、従来構造では、ラッチ支えの戻りを機械的に阻止する部分の隙間を調整する作業が必要であった。
そこで、第一実施形態における電磁接触器11の機械ラッチ装置12は、ラッチ支え22と、スライダ24a~24cと、を備えている。ラッチ支え22は、電磁接触器11の接点支え14に連結されて釈放側と投入側との間で変位可能であり、変位方向に沿った側面43、及び釈放側を向いたラッチ面44a~44cによって出隅部33が形成されている。スライダ24a~24cは、側面43に向かって付勢されており、ラッチ支え22が釈放側にあるときには、先端が側面43に当接することでラッチ支え22が投入側へ変位することを許容する。また、ラッチ支え22が投入側にあるときには、ラッチ支え22における変位方向の位置に応じて前進し、投入側を向いた端面52がラッチ面44a~44cに対向することで、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止する。これにより、ラッチ支え22の戻りを機械的に阻止する部分の隙間を調整する作業が不要となり、利便性を向上させることができる。
【0030】
スライダ24a~24cは、出隅部33の稜線に沿って複数並べられ、夫々が進退可能で、側面43に向かって個別に付勢されている。また、ラッチ面44a~44cは、変位方向の位置が複数のスライダ24a~24cごとに異なる。これにより、ラッチ支え22の位置に応じて、スライダ24a~24cの何れかの端面52が、ラッチ面44a~44cの何れかに対向し、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを、変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止することができる。スライダ24a~24cは、全て共通した部品であるため、製造コストの増大を抑制でき、且つ組み合わせの順序を間違える等の誤組み付けを防止できる。また、スライダ24a~24cは、連結凹部54及び連結凸部55によって互いに組み合わされているため、組み立てが容易である。
【0031】
機械ラッチ装置12は、プランジャ26を備えている。プランジャ26は、電磁石25によって駆動され、ラッチ支え22の側からスライダ24a~24cに向かって前進するときに、先端でスライダ24a~24cを押し返す。これにより、ラッチ支え22のラッチ状態を容易に解除することができる。
機械ラッチ装置12は、手動操作部27を備えている。手動操作部27は、変位方向に延び、出隅部33の稜線に沿った支軸61でケース21に回動可能に支持され、釈放側がユーザによって操作されるときに、投入側でスライダ24a~24cを押し返す。これにより、ラッチ支え22のラッチ状態を容易に解除することができる。
【0032】
次に、比較例について説明する。
図11は、比較例を示す図である。
図中の(a)は、縦方向の一方側から見た図である。図において、ラッチ支え71は肩部72を備えており、ラッチレバー73はローラ74を備えている。比較例では、ラッチ支え71が投入側に変位したときに、ラッチ支え71の肩部72にラッチレバー73のローラ74を引掛けることで、ラッチ支え71が釈放側に戻ることを機械的に阻止していた。図中の(b)は、ラッチ支え71の戻りを機械的に阻止する部分の拡大図である。電磁接触器11の制御コイルを励磁しているとき、肩部72とローラ74との間には僅かな隙間d(遊び)が設けられているが、接点支え14のストローク量は電磁接触器11の機種によって異なるため、隙間dの大きさにも違いが生じる。電磁接触器11の制御コイルを非励磁にすると、隙間dの分だけラッチ支え71が戻るため、隙間dの大きさによっては、外径の異なるローラ74に交換するなどして、隙間dの調整作業が必要であった。
【0033】
《変形例》
第一実施形態では、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを変位方向に沿った三つの位置で機械的に阻止する構成について説明したが、これに限定されるものではない。したがって、スライダ24及びラッチ面44の数量を変更することによって、変位方向に沿った二つの位置や四つ以上の位置で機械的に阻止する構成としてもよい。
第一実施形態では、三つのスライダ24a~24cを組み合わせ、スライダ24a、スライダ24b、スライダ24cの順に、幅方向の内側へ前進できる構成について説明したが、これに限定されるものではない。したがって、スライダ24a~24cの夫々を独立して進退できる構成としてもよい。
【0034】
第一実施形態では、スライダ24a~24cの端面52の位置は全て同一で、ラッチ面44a~44cの位置を互いに異ならせる構成について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ラッチ面44a~44cの位置を全て同一にし、代わりにスライダ24a~24cにおける端面52の位置を互いに異ならせてもよい。この構成でも、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止することができる。したがって、ラッチ面44、及び端面52の少なくとも一方で、変位方向の位置をスライダ24a~24cごとに異ならせればよい。
【0035】
《第二実施形態》
《構成》
第二実施形態は、ラッチ支え22の戻りを機械的に阻止する部分の構造を変化させたものであり、それ以外は前述した第一実施形態と同様の構成であるため、共通する部分については同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
図12は、電磁接触器の機械ラッチ装置を示す図である。
ここでは、前述した出隅部33、スライダ24、及び手動操作部27を、新たな出隅部81、スライダ82、及び手動操作部83に変更してある。
【0036】
図13は、ラッチ支えを示す図である。
出隅部81は、基体31における幅方向の一方側で、且つ貫通穴41よりも投入側に形成されており、変位方向に沿った側面86、及び釈放側を向いたラッチ面87によって形成されている。側面86は、変位方向及び縦方向に沿った平面である。ラッチ面87は、スライダ82の側からラッチ支え22の側に向かうほど投入側から釈放側に向かうように傾斜しており、縦方向及び幅方向に沿った平面に対して例えば20度前後の傾斜角度である。出隅部81は、バリが生じないように僅かに面取りされていることが望ましい。
【0037】
図14は、スライダを示す図である。
図中の(a)は、スライダ82を幅方向の外側、縦方向の一方側、及び奥行方向の手前側から見た斜視図であり、図中の(b)は、スライダ82を幅方向の内側、縦方向の他方側、及び奥行方向の奥側から見た斜視図である。スライダ82には、奥行方向の奥側を向いた、つまり投入側を向いた端面91が形成されている。端面91は、スライダ82の側からラッチ支え22の側に向かうほど投入側から釈放側に向かうように傾斜しており、縦方向及び幅方向に沿った平面に対する傾斜角度は、ラッチ面87の傾斜角度と同等にしてある。
【0038】
スライダ82には、奥行方向の手前側に向かって突出し、縦方向及び奥行方向に沿った受板部92が形成されており、受板部92は、プランジャ26における突出棒28の先端に対向する。スライダ82には、縦方向の両側に、奥行方向に向かって凹となる一対の凹溝93が形成されている。具体的には、奥行方向の手前側に突出し、幅方向及び奥行方向に沿った側壁94同士の狭間によって、縦方向から見て、奥行方向に延びる略U字状の凹溝93が形成されている。スライダ82には、幅方向の内側に向かって凹となる有底の丸穴95が形成されている。
図12に示すように、コイルばね23は、丸穴95の内側に挿入され、ケース21の内周面と丸穴95の底面との間に挟まれることで、スライダ82をラッチ支え22の側面86に向かって付勢する。
【0039】
図15は、手動操作部を示す図である。
手動操作部83は、奥行方向に延びており、縦方向の一方側及び他方側の双方に突出した一対の支軸61によって、ケース21に回動可能に支持される。手動操作部83は、奥行方向の手前側がケース21から露出し、ユーザによって操作可能となる。手動操作部83には、支軸61よりも奥行方向の奥側に、縦方向の一方側及び他方側の双方に突出した一対の突起96が形成されている。突起96は、軸状であり、
図12に示すように、スライダ82の凹溝93に回動可能な状態で嵌り合う。
【0040】
したがって、スライダ82が幅方向の内側へ前進すると、側壁94が突起96を押すことで、手動操作部83が回動し奥行方向の手前側が幅方向の外側へと変位する。手動操作部83が回動するとき、突起96は支軸61を中心とする円軌道となるが、奥行方向に延びる凹溝93によってスライダ82との係合が保たれる。一方、電磁石25でプランジャ26を幅方向の一方側へ前進させると、突出棒28が受板部92を押してスライダ82を幅方向の外側へと後退させる。また、ユーザが手動操作部83を操作し、奥行方向の手前側を幅方向の内側へ変位させると、突起96が側壁94を押してスライダ82を幅方向の外側へと後退させる。
【0041】
《動作》
次に、第二実施形態の主要な動作について説明する。
図16は、スライダの動作を示す図である。
図中の(a)は、スライダ82が初期位置にある状態である。ここでは、接点支え14に連動してラッチ支え22が釈放側にあり、スライダ82は、先端がラッチ支え22における出隅部81の側面86に当接している。すなわち、スライダ82は、コイルばね23の弾発力に抗して幅方向の外側へと後退した初期位置にある。このとき、ラッチ支え22は投入側に変位することが許容されている。
【0042】
図中の(b)は、スライダ82が初期位置から前進した状態である。ここでは、接点支え14に連動してラッチ支え22が投入側にあり、スライダ82が幅方向の内側へと前進している。このとき、スライダ82の端面91が出隅部81のラッチ面87に接触することで、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを機械的に阻止している。
図中の(c)は、スライダ82が初期位置から前進した状態である。ここでは、接点支え14に連動してラッチ支え22が(b)の状態よりも投入側にあり、スライダ82が(b)の状態よりも幅方向の内側へと前進している。このとき、スライダ82の端面91が出隅部81のラッチ面87に接触することで、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを機械的に阻止している。
【0043】
次に、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを機械的に阻止したラッチ状態を解除する動作について説明する。一つはプランジャ26を駆動する方法である。すなわち、電磁石25でプランジャ26を幅方向の一方側へ前進させることで、突出棒28が受板部92を押して、スライダ82を幅方向の外側へと後退させる。もう一つは手動操作部83を手動操作する方法である。すなわち、ユーザが手動操作部83を操作し、奥行方向の手前側を幅方向の内側へ変位させることで、突起96が側壁94を押して、スライダ82を幅方向の外側へと後退させる。このように、スライダ82が初期位置に戻ることで、ラッチ支え22のラッチ状態が解除される。
【0044】
《作用》
次に第二実施形態の主要な作用について説明する。
第二実施形態における電磁接触器11の機械ラッチ装置12は、ラッチ支え22と、スライダ82と、を備えている。ラッチ支え22は、電磁接触器11の接点支え14に連結されて釈放側と投入側との間で変位可能であり、変位方向に沿った側面86、及び釈放側を向いたラッチ面87によって出隅部81が形成されている。スライダ82は、側面86に向かって付勢されており、ラッチ支え22が釈放側にあるときには、先端が側面86に当接することでラッチ支え22が投入側へ変位することを許容する。また、ラッチ支え22が投入側にあるときには、ラッチ支え22における変位方向の位置に応じて前進し、投入側を向いた端面91がラッチ面87に対向することで、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止する。これにより、ラッチ支え22の戻りを機械的に阻止する部分の隙間を調整する作業が不要となり、利便性を向上させることができる。
【0045】
ラッチ面87及び端面91の双方は、スライダ82の側からラッチ支え22の側に向かうほど投入側から釈放側に向かうように傾斜している。これにより、ラッチ支え22の位置に応じて、スライダ82の端面91がラッチ面87に対向し、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを、変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止することができる。しかも、ラッチ支え22の戻りを機械的に阻止する部分の隙間をゼロにすることができる。したがって、電磁接触器11の制御コイルを非励磁にしても、ラッチ支え22の戻りを抑制することができる。また、ラッチ面87の輪郭に応じてスライダ82が従動するカム構造において、ラッチ面87には段差がないので、スライダ82は段付き感のない滑らかな動作が可能となる。また、出隅部81のラッチ面87やスライダ82の端面91に高度な寸法精度が求められるわけではないため、製造コストの増大を抑制できる。さらに、スライダ82は、単一の部品であるため、部品点数の増大を抑制でき、組み立ても容易である。
【0046】
機械ラッチ装置12は、プランジャ26を備えている。プランジャ26は、電磁石25によって駆動され、ラッチ支え22の側からスライダ82に向かって前進するときに、先端でスライダ82を押し返す。これにより、ラッチ支え22のラッチ状態を容易に解除することができる。
機械ラッチ装置12は、手動操作部83を備えている。手動操作部83は、変位方向に延び、出隅部81の稜線に沿った支軸61で回動可能に支持され、釈放側がユーザによって操作されるときに、投入側でスライダ82を押し返す。これにより、ラッチ支え22のラッチ状態を容易に解除することができる。
他の作用効果については、前述した第一実施形態と同様である。
【0047】
《変形例》
第二実施形態では、ラッチ面87、及び端面91の双方で、スライダ82の側からラッチ支え22の側に向かうほど投入側から釈放側に向かうように傾斜させる構成について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、ラッチ面87、及び端面91の何れか一方で、スライダ82の側からラッチ支え22の側に向かうほど投入側から釈放側に向かうように傾斜させるだけでもよい。この構成でも、ラッチ支え22が釈放側へ戻ることを変位方向に沿った複数の位置で機械的に阻止することができる。したがって、ラッチ面87、及び端面91の少なくとも一方で、スライダ82の側からラッチ支え22の側に向かうほど投入側から釈放側に向かうように傾斜させればよい。
【0048】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。
【符号の説明】
【0049】
11…電磁接触器、12…機械ラッチ装置、13…開口部、14…接点支え、15…摺動面、21…ケース、22…ラッチ支え、23…コイルばね、24…スライダ、24a…スライダ、24b…スライダ、24c…スライダ、25…電磁石、26…プランジャ、27…手動操作部、28…突出棒、31…基体、32…脚部、33…出隅部、34…b接点部、35…a接点部、41…貫通穴、42…凹溝、43…側面、44…ラッチ面、44a…ラッチ面、44b…ラッチ面、44c…ラッチ面、51…爪部、52…端面、53…対向面、54…連結凹部、55…連結凸部、56…受板部、57…突起部、58…連結凹部、59…連結凸部、61…支軸、62…受板部、63…凸部、71…ラッチ支え、72…肩部、73…ラッチレバー、74…ローラ、81…出隅部、82…スライダ、83…手動操作部、86…側面、87…ラッチ面、91…端面、92…受板部、93…凹溝、94…側壁、95…丸穴、96…突起、d…隙間