IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

特開2023-81940レーザー印字可能なフィルムおよびそれを用いた包装体
<>
  • 特開-レーザー印字可能なフィルムおよびそれを用いた包装体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081940
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】レーザー印字可能なフィルムおよびそれを用いた包装体
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/26 20060101AFI20230606BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230606BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230606BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230606BHJP
   G09F 3/04 20060101ALI20230606BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20230606BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20230606BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
B41M5/26
B32B27/20 A
B32B27/32 E
B65D65/40 D
G09F3/04 C
C08L23/02
C08K3/08
C08K3/22
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031782
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2021565571の分割
【原出願日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019229924
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石丸 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
(57)【要約】
【課題】 高い透明性を有し、厚み斑に優れた、レーザーによる鮮明な印字が可能なフィルムを提供すること。また同時に、このフィルムを用いて直接印字された包装体を提供すること。
【解決手段】 レーザー照射による印字が可能な層を少なくとも1層有しており、フィルム全体層の中にレーザー照射による印字を可能とする顔料が100ppm以上3000ppm以下で含まれており、ヘイズが1%以上30%以下であり、長手方向または幅方向いずれか一方向における厚み斑が0.1%以上25%以下であることを特徴とするポリオレフィン系フィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー照射による印字が可能な層を少なくとも1層有しており、該レーザー照射による印字が可能な層は5μm以上100μm以下の延伸フィルム層であり、
フィルム全体層の中にレーザー照射による印字を可能とする粒径0.1μm以上10μm未満の顔料が100ppm以上3000ppm以下で含まれており、カラーL*値が90以上98以下であり、長手方向および幅方向両方向における厚み斑が0.1%以上25%以下であることを特徴とするポリオレフィン系フィルム。
【請求項2】
レーザー照射による印字を可能とする顔料が金属を含有し、該金属として、ビスマス、ガドリニウム、ネオジム、チタン、アンチモン、スズ、アルミニウムいずれかの金属単体または金属酸化物のいずれかが少なくとも1種類は含まれていることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系フィルム。
【請求項3】
レーザー照射による印字が可能な層に隣接する少なくとも一方の層に、レーザー照射で印字されない層を設けていることを特徴とする請求項1または2に記載のポリオレフィン系フィルム。
【請求項4】
長手方向または幅方向いずれか一方において、140℃熱風に30分暴露した後の熱収縮率が-0.5%以上10%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルムを用いている蓋材やラベルを含む包装体。
【請求項6】
少なくとも一部分に印字されていることを特徴とする請求項5に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字等の表示を含む包装体に好適に使用することのできるフィルムに関するものである。特に、本発明はレーザーによる印字が可能なポリオレフィン系フィルムに関するもので、これに該当する蓋材やラベルを含む包装体にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品および工業製品に代表される流通物品に包装体が用いられている。これらの包装体の多くは、内容物を保護するだけでなく、製品名や製造月日、原材料等に関する情報を表示する役割も担っている。このような表示の手段としては、例えば特許文献1に記載されているように、インキや熱転写等によって印字することが可能な基材の裏面に、粘着剤が塗布されたラベル(タックラベル)が広く用いられてきた。タックラベルは予め、表示面となるおもて面に情報が印字された状態で剥離紙(台紙)に貼り付けられ、使用時には台紙から剥がして包装体に貼り付けられる。タックラベルを貼り付けた後の台紙は用済みとなるため、ラベルを使用した分だけゴミが増えてしまう。また、ラベルの使用者は、内容物の種類に応じて表示内容の異なるラベルを持たなければならず、内容物の種類が増えるにつれてラベルの管理が煩雑となり、ラベルの貼り間違いが起こるリスクを抱えていた。さらに、通常はラベルの不足に備えて余分に在庫を持つ必要があり、内容物の製造・販売が終了した時点でそのラベルは使い道がないため廃棄されていた。このように、タックラベルは様々な面で欠点を抱えていた。
【0003】
上記の問題点を解消するため、特許文献2には、感熱記録層を有した感熱フィルムが開示されている。特許文献2のフィルムは熱によって変色するため、それ自身が表示性能を有する包装体となる。そのため、上記のタックラベルを使用する必要がない。また、特許文献2のようなフィルムを用いた包装体を製袋する工程に、サーマルプリンタ等の印字機を組み込んでおくことによって製袋と表示が一工程で完結するため、省力化・コストダウンにも貢献している。これらのメリットがあるため、最近は包装体自身に直接印字する方式が普及してきている。しかし、基材となるフィルム上に感熱層を設けると、外部との擦れ等によって感熱層が剥がれ落ちる懸念があるため、通常は感熱層の上(表層側)に保護層を設けている。これらの機能層を設ける手段として、コーティングが広く普及している。コーティングは少なくとも、塗布・乾燥・巻き取りの工程を経るため、各機能層の分だけ工程数が増え、生産性が低下してしまう。さらに、これらの機能層は粒子を有しているため、層厚みに応じて透明性が低下してしまう問題もあった。
【0004】
一方、近年の表示(印字)手段としては、上記に挙げたインキや熱だけでなく、レーザーがトリガーとなる技術も普及してきている。例えば特許文献3には、印刷層がレーザー光により印字可能なインキ組成物からなる層を含むレーザー印字用多層積層フィルムが開示されている。このフィルムを用いることにより、レーザーを照射した部分が変色して印字できるようになる。ただし、特許文献3のフィルムのような多層積層フィルムは、特許文献2のフィルムと同じく、フィルム基材上に印刷層を設ける必要があるため、層剥がれや生産性低下の問題は解決できていない。
【0005】
また、特許文献4には、酸化ビスマスからなるレーザーマーキング用添加剤が開示されている。この添加剤をプラスチックへ練りこむことにより、レーザーを照射した部分が変色して印字できるようになる。通常、プラスチック単体はレーザーには反応しないが、この添加剤がレーザーのエネルギーによって励起され、プラスチックを変色させることができる。添加剤はフィルム内部に存在するため、コーティングで起きていた機能層の剥離は起きづらい点で有用である。ただし、添加剤は金属粒子であるため、上記のコーティングと同様、フィルムの透明性を低下させる問題は残っていた。また本発明者らは、粒子をフィルムに練りこむと、フィルムを延伸する際に厚み斑が大きくなってしまう問題を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-362027号公報
【特許文献2】特開2017-209847号公報
【特許文献3】特開2017-196896号公報
【特許文献4】国際公開第2014/188828号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを課題とするものである。すなわち、本発明の課題は、高い透明性を有し、厚み斑に優れた、レーザーによる鮮明な印字が可能なフィルムを提供しようとするものである。また同時に本発明の課題は、このフィルムを用いて直接印字された包装体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成よりなる。
1.レーザー照射による印字が可能な層を少なくとも1層有しており、
フィルム全体層の中にレーザー照射による印字を可能とする顔料が100ppm以上3000ppm以下で含まれており、ヘイズが1%以上30%以下であり、長手方向または幅方向いずれか一方向における厚み斑が0.1%以上25%以下であることを特徴とするポリオレフィン系フィルム。
2.レーザー照射による印字を可能とする顔料が金属を含有し、該金属として、ビスマス、ガドリニウム、ネオジム、チタン、アンチモン、スズ、アルミニウムいずれかの金属単体または金属酸化物のいずれかが少なくとも1種類は含まれていることを特徴とする1.に記載のポリオレフィン系フィルム。
3.レーザー照射による印字が可能な層の厚みが5μm以上100μm以下であることを特徴とする1.または2.いずれかに記載のポリオレフィン系フィルム。
4.カラーL*値が90以上98以下であることを特徴とする1.~3.いずれかに記載のポリオレフィン系フィルム。
5.レーザー照射による印字が可能な層に隣接する少なくとも一方の層に、レーザー照射で印字されない層を設けていることを特徴とする1.~4.いずれかに記載のポリオレフィン系フィルム。
6.長手方向または幅方向いずれか一方において、140℃熱風に30分暴露した後の熱収縮率が-0.5%以上10%以下であることを特徴とする1.~5.いずれかに記載のポリオレフィン系フィルム。
7.前記1.~6.いずれかのポリオレフィン系フィルムを用いている蓋材やラベルを含む包装体。
8.少なくとも一部分に印字されていることを特徴とする7.に記載の包装体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィルムは、高い透明性を有し、厚み斑に優れた、レーザーによる鮮明な印字が可能なフィルムを提供することができる。また同時に本発明の課題は、このフィルムを用いて直接印字された包装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1のフィルムにレーザーを照射して印字した画像
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリオレフィン系フィルムについて説明する。
本発明のポリオレフィン系フィルムは、少なくともレーザー照射による印字が可能な層を1層有すると共に、以下の好ましい特性及び好ましい構成を有する。
【0012】
1.フィルムを構成する原料
1.1.レーザー印字用の顔料
本発明のフィルムをレーザー印字可能なものとするためには、レーザー照射によってフィルムを変色させる機能を有する顔料(以下、単に顔料と称する場合がある)を添加することが必要である。通常、フィルムを構成するポリオレフィン樹脂自身は、レーザー光にはほとんど反応しないため、レーザー照射によって印字することはできない。顔料はレーザー光のエネルギーによって励起され、周囲にあるポリオレフィン樹脂を炭化させる(レーザー照射の好ましい条件については後述する)。また、ポリオレフィン樹脂の炭化に加え、顔料の種類によってはそれ自身が黒色に変化するものもある。これら単独または複合の色変化により、フィルムへ印字することが可能となる。フィルムへの印字精度を考慮すると、顔料自身も変色するものを使用するのが好ましい。
【0013】
顔料の種類としては、ビスマス、ガドリニウム、ネオジム、チタン、アンチモン、スズ、アルミニウムのいずれかの金属単体または金属酸化物が挙げられる。また、顔料の粒径は、0.1μm以上10μm以下であると好ましい。顔料の粒径が0.1μm未満であると、レーザー照射時の色変化が十分でなくなるおそれがある。また、粒径が10μmを超えると、フィルムのヘイズが30%を、カラーb値が2を超えやすくなってしまう。粒径は0.5μm以上9μm以下であるとより好ましい。これらの条件を満たす顔料としては、「TOMATEC COLOR」(東罐マテリアル・テクノロジー製)、「Iriotec(登録商標)」(メルクパフォーマンスマテリアル社製)等が販売されており、これらを好適に使用することができる。
【0014】
レーザー印字層の中に添加する顔料量としては、100ppm以上3000ppm以下の必要がある。顔料の添加量が100ppm未満であると、レーザーによる印字濃度が十分でなくなるため好ましくない。一方、顔料の添加量が3000ppmを超えると、フィルムのヘイズやカラー値、厚み斑が所定の範囲を超えやすくなるため好ましくない。顔料添加によるヘイズやカラー値への影響については、顔料自身が着色されている点に加え、顔料粒子が光を散乱するために起こる。
また、フィルムを延伸した場合、顔料粒子を含有するとフィルムの厚み斑が悪化する現象が発生する。フィルムの厚み斑への影響については、顔料粒子を含むフィルムを延伸する場合に、延伸応力が低下するためと考えられる。顔料の添加量は150ppm以上2950ppm以下であるとより好ましく、200ppm以上2900ppm以下であるとさらに好ましい。
また、本発明では、フィルム全層あたりに換算したときに必要とされる顔料の添加量も100ppm以上3000ppm以下であってよい。レーザー印字層以外の他の層を設けた場合、フィルム全層あたりに換算した顔料量は、レーザー印字層の量よりも少なくなる計算となる。ただし、本発明においては全層厚みの大半(50%以上)がレーザー印字層によって構成される点と、他の層の厚みを増すと相対的にレーザー印字層が薄くなりすぎてしまい印字精度が犠牲になる点を考慮すれば、フィルム全層あたりに換算した顔料量がレーザー印字層に含まれる顔料量と近似してよい。
【0015】
本発明のフィルムを構成するポリオレフィン樹脂の中にレーザー顔料を配合する方法として、例えば、ポリオレフィンレジンを製造する任意の段階において添加することができる。また、ベント付き混練押出し機を用いて溶媒に分散させた粒子のスラリーとポリオレフィン系樹脂原料とをブレンドする方法や、粒子とポリオレフィンとを混練押出機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。これらの中でも、粒子とポリオレフィンとを混練押出機を用いてブレンドする方法(マスターバッチ化)が好ましい。
【0016】
1.2.ポリオレフィン原料の種類
本発明のフィルムを構成するポリオレフィン原料は特に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で自由に使用することができる。ポリオレフィン原料の例としては、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等のホモポリマーが挙げられる。ポリプロピレンを用いる場合、立体規則性は特に限定されず、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックいずれであってもよく、それぞれが任意の割合で含まれていてよい。また、ポリエチレンを用いる場合、その密度(分岐度)は特に限定されず、高密度(HDPE)、直鎖状低密度(LLDPE)、低密度(LDPE)いずれであってもよい。また、上記のホモポリマー以外にも、異種のモノマーを2種類以上共重合した原料を使用してもよく、共重合に使用されるモノマーとしては、例えばエチレンやα―オレフィン等が挙げられ、α―オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセンなどが挙げられる。共重合の形態は、ランダム共重合、ブロック共重合いずれであっても構わない。さらに、上記に挙げた原料以外にも、ポリオレフィンエラストマーやアイオノマーを用いてもよい。
原料としてのポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に限定されず任意のものを用いることができるが、1~10g/10分であると好ましい。MFRが1g/10分未満だと原料の溶融粘度が高くなりすぎるため、製膜中の押出工程における樹脂圧力が高くなりすぎてしまい、フィルター変形等を起こしやすくなり好ましくない。一方、MFRが10g/10分を超えると分子量が極端に低下してしまうため、製膜中に破断が起きやすくなったり、耐ブロッキング性が低下したりするおそれがある。MFRは2g/10分以上8g/10分であるとより好ましく、3g/10分以上7g/10分であるとさらに好ましい。
【0017】
1.3.レーザー顔料以外の添加剤
本発明のフィルムを構成するポリオレフィン樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤、滑剤(アンチブロッキング剤)などを添加することができる。これらの中で、フィルムの滑り性を良好にする滑剤を少なくともフィルムの最表層に添加することが好ましい。滑剤としては、シリカ等の微粒子や脂肪酸アミド類やアルキルスルホン酸塩、ステアリン酸類、エルカ酸アミド類等の低分子量化合物等、任意のものを選択することができる。
本発明のフィルムを構成するポリオレフィン樹脂の中に添加剤を配合する方法として、例えば、ポリオレフィンレジンを製造する任意の段階において添加することができるが、添加剤とポリオレフィンとを混練押出機を用いてブレンドする方法が好ましい。
【0018】
2.フィルムの層構成
2.1.層構成
本発明のフィルムは、1.1.「レーザー印字用の顔料」で記載した顔料を含む、レーザー照射による印字が可能な層(以下、レーザー印字層と記載)を少なくとも1層有している必要がある。フィルムの層構成としては、レーザー印字層のみの単層であってもよく、レーザー印字層以外の層を積層させてもよい。レーザーによる印字は上記のとおり、レーザー印字層を構成するポリオレフィン樹脂を炭化させることで成り立つ。そのため、レーザー印字層のみの単層構成であると、印字部分を指などで触った場合、触り心地がザラザラとした感触となりやすい。そこで、レーザー印字層の少なくとも一方の片面に、レーザー照射に反応しない層を積層させることで、レーザー印字による手触り感の違いが生じにくくなるため好ましい。最も好ましい層構成は、レーザー照射に反応しない層で、レーザー印字層を挟みこんだ(中心層とした)2種3層構成である。
本発明のフィルムには、フィルム表面の印刷性や滑り性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることも可能であり、本発明の要件を逸しない範囲で任意に設けることができる。フィルムの層構成が2種3層の場合、中心層をレーザー印字層とし、例えば最表層には滑剤を含有させたり、コロナ処理を施したりして、層ごとに異なる機能をもたせることができる。
【0019】
また、本発明のフィルムは、包装体としての意匠性を向上させるため、レーザー照射による印字以外に、文字や図柄を設けてもよい。これらの文字や図柄を構成する材料としては、グラビア印刷用のインキやフレキソ印刷用のインキ等、公知のものを用いることができる。印刷層数は1層であってもよく、複数層であってもよい。印刷を複数色にして意匠性を向上させるためには、複数層からなる印刷層があると好ましい。印刷層は、最表層、中間層いずれに位置しても構わない。
【0020】
2.2.レーザー印字層の厚み
レーザー印字層の厚みは、5μm以上100μm以下であると好ましい。レーザー印字層の厚みが5μm未満であると、レーザー光を照射したときの印字濃度が低下し、文字を視認しにくくなるため好ましくない。一方、レーザー印字層の厚みが100μmを超えると、ヘイズやカラー値が所定の範囲を超えやすくなるため好ましくない。レーザー印字層の厚みは10μm以上95μm以下であるとより好ましく、15μm以上90μm以下であるとさらに好ましい。
【0021】
3.フィルムの特性
3.1.ヘイズ
本発明のフィルムは、ヘイズが1%以上30%以下であると好ましい。ヘイズが30%を超えると、フィルムの透明性が失われ、包装体としたときに内容物の視認性が劣るだけでなく、レーザー照射によって得られる文字が視認しにくくなるため好ましくない。従来開示されている単なるレーザーマーキングによる変色の技術に対し、本発明のフィルムはレーザー照射によってできた文字を読み取れる必要があるため、高度な鮮明性を必要とする。ヘイズは25%以下であるとより好ましく、20%以下であるとさらに好ましい。一方、ヘイズの値は低ければ低いほど透明性が向上するため好ましいが、本発明の技術水準では1%が下限であり、下限が2%となっても実用上は十分である。
【0022】
3.2.カラーL*値
本発明のフィルムは、カラーL*値が90以上98以下であると好ましい。カラーL*値はフィルムの明度を表しており、値が高いほど明度は高くなる。カラーL*値が90未満であると、フィルムがくすんだ色合いを呈するようになり、包装体としたときの見栄えが劣るように見えるだけでなく、レーザー照射によって得られる文字が視認しにくくなるため好ましくない。上記のヘイズで記載した内容と同じく、本発明のフィルムはレーザー照射によってできた文字を読み取れる必要があるため、高度な鮮明性を必要とする。カラーL*値は90.5以上であるとより好ましく、91以上であるとさらに好ましい。一方、カラーL*値は、本発明の技術水準では98が上限であり、上限が97.5となっても実用上は十分である。
【0023】
3.4.厚み斑
本発明のフィルムは、長手方向または幅方向いずれか一方向における厚み斑が0.1%以上25%以下であると好ましい。ここでの厚み斑とは、連続接触式厚み計を用いてフィルムの厚みを任意の長さにわたって測定したとき、最大値と最小値との差を平均値で割り返した値を指す。厚み斑の値が小さければ小さいほど厚み精度が良好となる。厚み斑が25%を超えると、ロールとして巻き取ったときにシワやたるみ、凹凸といった巻き不良が発生しやすくなるため好ましくない。厚み斑は23%以下であるとより好ましく、21%以下であるとさらに好ましい。一方、厚み斑の下限に関して、本発明の技術水準においては0.1%が限界である。厚み斑の下限は1%であっても十分である。長手方向及び幅方向の両方向において、上記の厚み斑の範囲内であることがさらに好ましい。
【0024】
3.5.厚み
本発明のフィルム全層の厚みは、8μm以上200μm以下であると好ましい。フィルムの厚みが8μmより薄いとハンドリング性が悪くなり、印刷等の二次加工の際に扱いにくくなるため好ましくない。一方、フィルム厚みが200μmを超えても構わないが、フィルムの使用重量が増えてケミカルコストが高くなるので好ましくない。フィルムの厚みは13μm以上195μm以下であるとより好ましく、18μm以上190μm以下であるとさらに好ましい。
【0025】
3.6.熱収縮率
本発明のフィルムは長手方向または幅方向いずれか一方において、140℃熱風に30分暴露した後の熱収縮率が-0.5%以上10%以下であると好ましい。熱収縮率が10%を超えると、ヒートシール等の加熱を含む加工の際にフィルムが変形しやすくなるため好ましくない。熱収縮率の上限は9.8%以下であるとより好ましく、9.6%以下であるとより好ましい。一方、熱収縮率は低ければ低いほど好ましいが、本発明の技術水準だと-0.5%が下限である。熱収縮率の下限が-0.3%であっても実用上は十分である。長手方向及び幅方向の両方向において、上記の熱収縮率の範囲内であることがさらに好ましい。
【0026】
4.フィルムの製造条件
4.1.原料混合、供給
本発明のポリオレフィン系フィルムを製造するにあたり、上記「1.フィルムを構成する原料」で記載したとおり、フィルムにはレーザー照射によって印字可能となる顔料を含有させる必要がある。顔料はマスターバッチ化して用いるのが好ましいため、通常は2種類以上の原料を混合する。従来、押し出し機に2種以上の原料を混合して投入すると、原料の供給にバラツキ(偏析)が生じ、それにより厚み斑が悪化する問題が起きていた。それを防止して本発明における所定範囲内の厚み斑とするために、押出し機の直上の配管やホッパーに攪拌機を設置して原料を均一に混合した後に溶融押出しをすることが好ましい。
【0027】
4.2.溶融押し出し
本発明のフィルムは、上記1.「フィルムを構成する原料」で記載した原料を、上記4.1.「原料混合、供給」で記載した方法で押出機に原料を供給し、押出機より原料を溶融押し出しして未延伸のフィルムを形成し、それを以下に示す所定の方法により延伸することによって得ることができる。なお、フィルムがレーザー印字層とそれ以外の層を含む場合、各層を積層させるタイミングは延伸の前後いずれであっても構わない。延伸前に積層させる場合、各層の原料となる樹脂をそれぞれ別々の押し出し機によって溶融押し出しし、樹脂流路の途中でフィードブロック等を用いて接合させる方法を採用するのが好ましい。延伸後に積層させる場合、それぞれ別々に製膜したフィルムを接着剤によって貼りあわせるラミネート、単独または積層させたフィルムの表層に溶融させたポリオレフィン樹脂を流して積層させる押出ラミネートを採用するのが好ましい。生産性の観点からは、延伸前に各層を積層させる方法が好ましい。
【0028】
原料樹脂の溶融押出の方法としては公知の方法を用いることができ、バレルとスクリューが具備された押出機を用いる方法が好ましい。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。押出温度は200℃以上300℃以下であると好ましい。押出温度が200℃未満だと、ポリオレフィン樹脂の溶融粘度が高くなりすぎて押出圧力が増加し、メルトライン中のフィルターが変形してしまうため好ましくない。加熱温度が300℃を超えると、樹脂の熱分解が進行してしまい、延伸中に破断が起きやすくなるので好ましくない。
【0029】
また、ダイス口部から樹脂を吐出するときのせん断速度は高い方がフィルムの幅方向の厚み斑(特に最大凹部)が低減できるため好ましい。せん断速度が高い方が、Tダイ出口での樹脂吐出時の圧力が安定するためである。好ましいせん断速度は100sec-1以上であり、更に好ましくは150sec-1以上、特に好ましくは170sec-1以上である。ドラフト比は高い方が長手方向の厚み斑が良好となり好ましいが、ドラフト比が高いとダイスの樹脂吐出部に樹脂カス等が付着し、生産性が悪くなるので高すぎるのは好ましくない。ダイス出口でのせん断速度は、以下の式(1)から求めることができる。

γ=6Q/(W×H) ・・式(1)
γ:せん断速度(sec-1
Q:原料の押出し機からの吐出量(cm/sec)
W:ダイス出口の開口部の幅(cm)
H:ダイス出口の開口部の長さ(リップギャップ)(cm)
【0030】
その後、押し出しで溶融されたフィルムを急冷することにより、未延伸のフィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
フィルムは、無延伸、一軸延伸(縦(長手)方向または横(幅)方向のいずれか少なくとも一方向への延伸)、二軸延伸いずれの方式で製膜されてもよい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を実施する縦延伸-横延伸による逐次二軸延伸法に主眼を置いて説明する。
【0031】
4.3.第一(縦)延伸
第一方向(縦または長手方向)の延伸は、未延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸にあたっては、予熱ロールでフィルム温度が100℃~180℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が100℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸しにくくなり、破断が生じやすくなるため好ましくない。また180℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、ロールへのフィルムの巻き付きや連続生産によるロールの汚れやすくなるため好ましくない。
フィルム温度が100℃~180℃になったら縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上10倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。縦延伸倍率を1.1倍以上とすれば、フィルムの長手方向に分子配向を与えて機械強度を増すことができる。一方、縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるので10倍以下であることが好ましい。縦延伸倍率は1.5倍以上9.5倍以下であるとより好ましく、2倍以上9倍以下であるとさらに好ましい。
【0032】
4.4.第二(横)延伸
第一(縦)延伸の後、テンター内でフィルムの幅方向(長手方向と直交する方向)の両端際をクリップによって把持した状態で、120℃~180℃で3~20倍程度の延伸倍率で横延伸を行うのが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が110℃~170℃になるまで行うとよい。
縦延伸と同じく、横延伸倍率も1.1倍以上とすれば、フィルムの幅方向に分子配向を与えて機械強度を増すことができる。横延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるので20倍以下であることが好ましい。縦延伸倍率は1.5倍以上19.5倍以下であるとより好ましく、2倍以上19倍以下であるとさらに好ましい。
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。テンターの横延伸ゾーンに対し、その次の最終熱処理ゾーンでは温度が高いため、中間ゾーンを設けないと最終熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込んでしまう。この場合、横延伸ゾーンの温度が安定しないため、フィルムの厚み斑が25%を超えやすくなるだけでなく、熱収縮率などの物性にもバラツキが生じてしまう。そこで、横延伸後のフィルムは中間ゾーンを通過させて所定の時間を経過させた後、最終熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや最終熱処理ゾーンからの熱風を遮断することが重要である。中間ゾーンの通過時間は、1秒~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。一方、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0033】
4.5.熱処理
中間ゾーンの通過後は熱処理ゾーンにて、130℃以上190℃以下で熱処理すると好ましい。熱処理ではフィルムの結晶化を促進されるため、延伸工程で生じた熱収縮率を低減させやすくなる。熱処理温度が130℃未満であると、熱収縮率を10%以下としにくくなるため好ましくない。一方、熱処理温度が190℃を超えると、ヘイズが30%を超えやすくなるため好ましくない。熱処理温度は135℃以上185℃以下であるとより好ましく、130℃以上180℃以下であるとさらに好ましい。
【0034】
熱処理ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下であると好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度が設定温度に到達しないまま熱処理ゾーンを通過してしまうため、熱処理の意味をなさなくなる。通過時間は長ければ長いほど熱処理の効果が上がるため、5秒以上であるとより好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
【0035】
熱処理の際、テンターのクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(幅方向へのリラックス)によって幅方向の熱収縮率を低減させることができる。そのため、最終熱処理では、0%以上20%以下の範囲で幅方向へのリラックスを行うと好ましい(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)。幅方向へのリラックス率が高いほど幅方向の収縮率は下がるものの、リラックス率(横延伸直後のフィルムの幅方向への収縮率)の上限は使用する原料や幅方向への延伸条件、熱処理温度によって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のフィルムにおいては、幅方向へのリラックス率は20%が上限である。また、熱処理の際に、長手方向におけるクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(長手方向へのリラックス)も可能である。
【0036】
4.6.冷却
熱処理ゾーン通過後は、冷却ゾーンにて10℃以上30℃以下の冷却風を用いて、通過時間2秒以上20秒以下でフィルムを冷却するのが好ましい。その後、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、フィルムロールが得られる。
【0037】
5.他のフィルムとの積層
本発明のポリオレフィン系フィルムは本発明の趣旨を逸脱しない限り、別のポリオレフィン系フィルムや、他の素材からなるフィルムと積層することもできる。他の素材からなるフィルムの樹脂種としては、特に限定されず、例えば、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂などが挙げられ、これらを複合的に含んでいてもよい。また、本発明のポリオレフィン系フィルムと積層させるフィルムは、少なくとも一部にガスバリア層を含むものであってもよい。ガスバリア層の原料種は特に限定されず、従来から公知の材料を使用することができ、所望のガスバリア性等を満たすために目的に合わせて適宜選択することができる。ガスバリア層の原料種としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛、鉄、マンガン等の金属、これら金属の1種以上を含む無機化合物があり、該当する無機化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物等が挙げられる。これらの無機物または無機化合物は単体で用いてもよいし、複数で用いてもよい。
【0038】
6.包装体の構成、製造方法
本発明のポリオレフィン系フィルム、または本発明のポリオレフィン系フィルムと他のフィルムとの積層体(この項6.では、これらをまとめて「本発明のフィルム」と記載する)は、包装体として好適に使用することができる。包装体としては例えば、縦ピロー、横ピロー、ガゼット袋といったヒートシールによって製袋される袋、溶断シールによって製袋される溶断袋等が挙げられる。さらに、プラスチック容器の蓋材や、センターシールによって筒状に形成されたボトル用ラベルも包装体に含まれる。
包装体は、少なくとも一部が本発明のフィルムで構成されていればよい。また、本発明のフィルムは包装体のどの層に設けてもよいが、印字の視認性を考慮すると、本発明のフィルムより外側に不透明なフィルムを配置するのは好ましくない。
本発明のフィルムを有する包装体を製造する方法は特に限定されず、ヒートバー(ヒートジョー)を用いたヒートシール、ホットメルトを用いた接着、溶剤によるセンターシール等の従来公知の製造方法を採用することができる。
【0039】
7.レーザーの種類
本発明のフィルムに照射するレーザーの種類(波長)としては、例えばCO2レーザー(10600nm)、YAGレーザー(1064nm)、YVOレーザー(1064nm)、ファイバーレーザー(1090nm)、グリーンレーザー(532nm)、UVレーザー(355nm)が挙げられる。これらのレーザー種は特に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に使用することができる。上記の中でも、YAGレーザー、YVOレーザー、ファイバーレーザー、グリーンレーザー、UVレーザーの使用が好ましく、Nd:YAGレーザー、ファイバーレーザー、グリーンレーザー、UVレーザーの使用が特に好ましい。
本発明のフィルムを有する包装体は、食品、医薬品、工業製品等の様々な物品の包装材料として好適に使用することができる。
【実施例0040】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
<ポリオレフィン原料>
[原料A]
ポリオレフィンAとして、住友ノーブレン(登録商標)FS2011DG3(住友化学製のポリプロピレン(PP))を用いた。
[原料B]
ポリオレフィンBとして、スミカセン(登録商標)FV407(住友化学製の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE))を用いた。
【0041】
[混合例1]
ポリオレフィンAとレーザー顔料「IRIOTEC(登録商標)8825」(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製)を重量比95:5で混合(ドライブレンド)し、下記混合例2と同様の方法でポリオレフィンCを得た。
【0042】
[混合例2]
上記のポリオレフィンAと、レーザー顔料「TOMATEC COLOR42-920A(主成分Bi)」(東罐マテリアル・テクノロジー社製)を重量比95:5で混合(ドライブレンド)してスクリュー押出機に投入し、溶融・混合させた。この溶融樹脂をストランドダイから円柱状に連続的に吐出し、ストランドカッターで裁断することによってチップ状のポリオレフィンDを得た。
【0043】
【表1】
【0044】
[実施例1]
レーザー印字層(A層)の原料としてポリオレフィンAとポリオレフィンBを質量比95:5で混合し、それ以外の層(B層)の原料としてポリオレフィンAを単独(100%)で用いた。
A層及びB層の混合原料はそれぞれ別々のスクリュー押出機に投入し、A層、B層ともに250℃で溶融させてTダイからせん断速度280sec-1で押し出した。なお、押出機の直上には攪拌機を取り付けており、この撹拌機によって混合原料を攪拌しながら押出機へ投入した。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムは中心層がA層、両方の最表層がB層(B/A/Bの2種3層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、A層とB層の厚み比率が90/10(B/A/B=5/90/5)となるように吐出量を調整した。
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が155℃になるまで予備加熱した後に4.5倍に延伸した。
【0045】
縦延伸後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が125℃になるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)へ8.2倍に延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
【0046】
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを熱処理ゾーンに導き、165℃で7秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に7%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを30℃の冷却風で5秒間冷却した。両縁部を裁断除去して幅400mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ20μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性は上記の方法によって評価した。製造条件と評価結果を表2示す。
【0047】
[実施例2~7]
実施例2~7も実施例1と同様にして、原料の混合条件、吐出条件、縦延伸温度、縦延伸倍率、横延伸温度、横延伸倍率、熱処理温度を種々変更したポリオレフィンフィルムを連続的に製膜した。なお、実施例4~7は無延伸フィルムである。また、実施例5のフィルムはA層とB層の2種2層構成(厚み比率がA/B=80/20)であり、実施例6のフィルムはA層のみの単層フィルムである。各フィルムの製造条件と評価結果を表2に示す。
【0048】
[比較例1~4]
比較例1~4も実施例1と同様にして、原料の混合条件、吐出条件、縦延伸温度、縦延伸倍率、横延伸温度、横延伸倍率、熱処理温度を種々変更したポリオレフィンフィルムを連続的に製膜した。なお、比較例2は無延伸フィルムである。各フィルムの製造条件と評価結果を表2に示す。
【0049】
<フィルムの評価方法>
フィルムの評価方法は以下の通りである。測定サンプルとしては、フィルム幅方向の中央部のものを用いた。なお、フィルムの面積が小さいなどの理由で長手方向と幅方向が直ちに特定できない場合は、仮に長手方向と幅方向を定めて測定すればよく、仮に定めた長手方向と幅方向が真の方向に対して90度違っているからといって、とくに問題を生ずることはない。
【0050】
[フィルムの厚み]
フィルムをA4サイズ(21.0cm×29.7cm)に1枚切り出して試料とした。この試料の厚みを、マイクロメーターを用いて場所を変えて10点測定し、厚み(μm)の平均値を求めた。
【0051】
[フィルム全層に含まれるレーザー印字顔料の種類、量]
・Nd、Bi、Sb、Sn、Pの定量
試料0.1gをマイクロウェーブ試料分解装置(アントンパール社製、Multiwavepro)のテフロン(登録商標)容器に精秤し、濃硝酸6mLを加え、専用のフタ、外容器に入れて装置に設置した。装置中で最終200℃にて60分間加熱処理を行った。その後、室温まで冷却し処理液を50mLデジチューブに入れ、処理後のテフロン(登録商標)容器を超純水で洗浄しながら同チューブに入れ、50mL定容とし、測定サンプルを準備した。その後、処理液を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、SPECTROBLUE)で測定し、目的元素の標準液で作成した検量線により試料中の金属元素量を定量した。試料中の元素含有量をA(ppm)、前処理液中の元素濃度をB(mg/L)、空試験液中の元素濃度(測定ブランク)をC(mg/L)とし、試料0.1g中の金属元素量を下記式(2)により求めた。

A=(B-C)×50/0.1 式(2)
【0052】
・その他の金属元素の定量
試料0.1gを白金製るつぼに秤量し、ホットプレート上で400℃まで予備炭化を行った。その後、ヤマト科学社製電気炉FO610型を用いて、550℃で8時間灰化処理を実施した。灰化後、6.0Nの塩酸を3mL添加し、ホットプレート上にて100℃で酸分解を行い、塩酸が完全に揮発するまで加熱処理を行った。酸分解終了後に、1.2Nの塩酸20mLを用いて定容した。その後、処理液を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、SPECTROBLUE)で測定し、目的元素の標準液で作成した検量線により試料中の金属元素量を定量した。試料中の元素含有量をA(ppm)、前処理液中の元素濃度をB(mg/L)、空試験液中の元素濃度(測定ブランク)をC(mg/L)とし、試料0.1g中の金属元素量を下記式(3)により求めた。

A=(B-C)×20/0.1 式(3)
【0053】
[ヘイズ]
JIS-K-7136に準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、300A)を用いて測定した。測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0054】
[カラーL*値]
分光式色差計(日本電色株式会社製、ZE-6000)を用い、反射法によりフィルム
サンプル1枚でL*値を測定した。
【0055】
[長手方向の厚み斑]
フィルムを長手方向11m×幅方向40mmのロール状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて測定速度5m/min.でフィルムの長手方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは10m)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、下式(4)からフィルムの長手方向の厚み斑を算出した。

厚み斑={(Tmax.-Tmin.)/Tave.}×100 (%) ・・式(4)
【0056】
[幅方向の厚み斑]
フィルムを長手方向40mm×幅方向500mmの幅広な帯状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、測定速度5m/min.でフィルム試料の幅方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは400mm)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、上式4からフィルムの幅方向の厚み斑を算出した。
【0057】
[熱収縮率]
長手方向および幅方向に対して幅10mm、長さ250mmに切り取り、200mm間隔で印を付け、5gfの一定張力下で印の間隔(A)を測定する。次いで、フィルムを無荷重下の状態で、140℃で30分間加熱処理した後、5gfの一定張力下で印の間隔(B)を測定し、式(5)より熱収縮率を求めた。このようにして求めた熱収縮率に対して、長手方向および幅方向の熱収縮率を求めた。

熱収縮率(%)={(A-B)/A}×100 式(5)
【0058】
[レーザー照射による印字評価(目視)]
フィルムにレーザーを照射して文字を「0123456789」と印字し、印字濃度を目視で評価した。印字機には、波長355nmの紫外線(UV)レーザーマーカー(MD-U1000、キーエンス社製)を用い、レーザーパワー40%、スキャンスピード1000mm/秒、パルス周波数40kHz、スポット可変-20の条件でレーザーを照射した。印字濃度は、以下の基準で判定した。

判定〇 目視で文字を認識することができる
判定× 目視で文字を認識することができない
【0059】
【表2】

[フィルムの製造条件と評価結果]
実施例1から7までのフィルムはいずれも表2に掲載した物性に優れており、良好な評価結果が得られた。
一方、比較例1~4は以下の理由により、いずれも好ましくない結果となった。
比較例1は、レーザー顔料を含有していないため、レーザーを照射しても印字されなかった。
比較例2は、レーザー印字層の厚みが113μmと厚いため、ヘイズとカラーL*値が所定の範囲を超えてしまい、包装体として使用したときの外観適性にはなくなってしまった。
比較例3は、レーザー顔料の濃度が0.3%と高く、金属(Bi)が4200ppm含まれていたため、ヘイズとカラーL*値が所定の範囲を超えてしまうだけでなく、幅方向の厚み斑が25%を超えてしまった。比較例3のフィルムは、ロールとして巻き取ったときも厚み斑の悪さに起因したシワが発生してしまった。
比較例4は、原料を溶融押出するときに撹拌機を使用せず、せん断速度が低い条件としたため、長手方向の厚み斑が悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリオレフィンフィルムは、高い透明性を有し、厚み斑に優れた、レーザーによる鮮明な印字が可能なフィルムを提供することができるので、ラベル等の用途に好適に使用することができる。また同時にこのフィルムを用いて直接印字された包装体を提供することができる。
図1