IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズの特許一覧

特開2023-81943がんモデル化プラットフォームおよびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081943
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】がんモデル化プラットフォームおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/09 20100101AFI20230606BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230606BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230606BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230606BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C12N5/09
C12N5/071
C12N1/00 A
C12M1/00 C
C12Q1/02
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023031935
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2019505509の分割
【原出願日】2017-08-03
(31)【優先権主張番号】62/370,320
(32)【優先日】2016-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/522,313
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507189574
【氏名又は名称】ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(72)【発明者】
【氏名】スカーダル,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォタノポーロス,コンスタンティノス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】腫瘍モデルとして有用なin vitro細胞構築物であって、患者由来の生きた腫瘍細胞を含む構築物、およびその使用方法を提供する。
【解決手段】(a)生きた腫瘍細胞からなるコアと、(b)コアを囲むシェルとを含み、シェルが生きた良性細胞からなるin vitro細胞構築物を提供する。また、該構築物を作製および使用する方法を提供する。さらに、(a)チャンバー、およびチャンバーと流体連通するチャネルを有するマイクロ流体デバイスと、(b)チャンバー中の生きた腫瘍細胞構築物と、(c)チャンバーおよびチャネル中の増殖培地と、(d)チャンバーおよびチャネルと作動的に結合し、チャンバーからチャネルを通り、チャンバーへ戻って培地を循環させるように構成したポンプと、(e)チャネル中の微孔膜とを備え、それを通して培地が流動するように位置決めした、腫瘍細胞をin vitroで評価するのに有用なデバイスを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)生きた腫瘍細胞からなるコアと、
(b)前記コアを囲む(例えば、被包する)シェルと
を含み、前記シェルが、生きた良性細胞(例えば、組織細胞、良性型または分化型腫瘍細
胞等)からなる、腫瘍モデルとして有用なin vitro細胞構築物(または「オルガ
ノイド」)。
【請求項2】
前記生きた腫瘍細胞が、悪性細胞を含む、請求項1に記載の構築物。
【請求項3】
前記生きた腫瘍細胞が、結腸直腸がん細胞(例えば、HCT116細胞、HT29細胞
、SW480細胞、Caco2細胞等)、中皮腫がん細胞(例えば、高分化型乳頭状中皮
腫細胞)、虫垂がん細胞(例えば、低悪性度虫垂(LGA)細胞)、および/または肉腫
がん細胞を含む、またはからなる、請求項1または2に記載の構築物。
【請求項4】
前記腫瘍細胞および前記良性細胞が、哺乳動物細胞(例えば、ヒト、マウス、ラット、
サル等)を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の構築物。
【請求項5】
前記生きた良性細胞が、上皮細胞を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の構築物。
【請求項6】
前記生きた良性細胞が、Caco-2細胞を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の
構築物。
【請求項7】
前記腫瘍細胞が、検出可能な化合物(例えば、蛍光化合物)を含む、前記請求項のいず
れか1項に記載の構築物。
【請求項8】
前記コアおよび/または前記シェルが、ヒドロゲルを含む、前記請求項のいずれか1項
に記載の構築物。
【請求項9】
1日もしくは2日、または1週から2週、またはそれ以上の期間、培地中で増殖させた
、前記請求項のいずれか1項に記載の構築物。
【請求項10】
対象由来の生きた腫瘍細胞を含む、腫瘍モデルとして有用なin vitro細胞構築
物(または「オルガノイド」)。
【請求項11】
前記生きた腫瘍細胞のコアを囲む(例えば、被包する)シェルをさらに含み、前記シェ
ルが、生きた良性細胞(例えば、組織細胞、良性または分化腫瘍細胞等)からなり、前記
生きた良性細胞が、任意選択的に前記対象由来である、請求項10に記載の構築物。
【請求項12】
前記生きた腫瘍細胞が、悪性細胞を含む、請求項10または11に記載の構築物。
【請求項13】
前記生きた腫瘍細胞が、結腸直腸がん細胞(例えば、HCT116細胞、HT29細胞
、SW480細胞、Caco2細胞等)、中皮腫がん細胞(例えば、高分化型乳頭状中皮
腫細胞)、虫垂がん細胞(例えば、低悪性度虫垂(LGA)細胞)、および/または肉腫
がん細胞を含む、またはからなる、請求項10から12のいずれか1項に記載の構築物。
【請求項14】
前記腫瘍細胞および前記良性細胞が、存在する場合、哺乳動物細胞(例えば、ヒト、マ
ウス、ラット、サル等)を含む、請求項10から13のいずれか1項に記載の構築物。
【請求項15】
前記生きた良性細胞が、上皮細胞を含む、請求項14に記載の構築物。
【請求項16】
前記生きた良性細胞が、Caco-2細胞を含む、請求項14に記載の構築物。
【請求項17】
前記腫瘍細胞が、検出可能な化合物(例えば、蛍光化合物)を含む、請求項10から1
6のいずれか1項に記載の構築物。
【請求項18】
前記コアおよび/または前記シェルが、ヒドロゲルを含む、請求項10から17のいず
れか1項に記載の構築物。
【請求項19】
1日もしくは2日、または1週から2週、またはそれ以上の期間、培地中で増殖させた
、請求項10から18のいずれか1項に記載の構築物。
【請求項20】
前記腫瘍細胞および/または良性細胞が、少なくとも50%、60%、70%、80%
、または90%の生着率を有する方法を使用して調製される、前記請求項のいずれか1項
に記載の構築物。
【請求項21】
1、2、3、または4週培養した構築物中の細胞の平均数に基づいて少なくとも75%
、80%、85%、または90%の生細胞を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の構
築物。
【請求項22】
抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスクリーニングする方法であっ
て、
(a)前記請求項のいずれか1項に記載の少なくとも1つの構築物を提供するステップと

(b)前記化合物を前記構築物にin vitroで接触させるステップと、次いで、
(c)目的の前記化合物の抗腫瘍活性を示す、(例えば、前記化合物と接触していない少
なくとも1つの同様の構築物の腫瘍細胞と比較した、および/または前記シェルの前記生
きた良性細胞と比較した)前記生きた腫瘍細胞の増殖、前記生きた腫瘍細胞の減少(例え
ば、前記腫瘍細胞の増殖の欠如、前記腫瘍細胞の死滅、前記腫瘍細胞による前記シェルへ
の浸潤の減少等)を判定するステップと
を含む、方法。
【請求項23】
前記腫瘍細胞が、腫瘍に侵されている患者から採取される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記腫瘍細胞が、患者の腫瘍から採取される、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つの追加のオルガノイド(例えば、脳、結腸、肺、内皮、心臓、上皮、お
よび/または肝臓オルガノイド)を提供するステップをさらに含み、少なくとも1つの前
記追加のオルガノイドが、少なくとも1つの前記構築物と異なる細胞を含む、請求項22
から24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つの前記追加のオルガノイドが、良性細胞を含み、任意選択的に、良性細
胞が、前記腫瘍細胞と同一の患者から採取される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記良性細胞および/または前記腫瘍細胞が、前記患者由来の生検から得られ、前記化
合物が、前記生検後約1週間以内に、少なくとも1つの前記構築物および/または少なく
とも1つの追加のオルガノイドに接触する、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの前記追加のオルガノイドが、肝臓オルガノイドである、請求項22か
ら27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記腫瘍細胞を検出可能な化合物で標識するステップをさらに含む、請求項22から2
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記化合物が、前記腫瘍細胞の増殖をin vitroで減少させると判定される場合
、前記化合物を前記患者に治療有効量投与するステップをさらに含む、請求項22から2
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記腫瘍細胞についての遺伝子スクリーニング情報に基づいて、目的の前記化合物を同
定するステップをさらに含む、請求項22から30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記腫瘍細胞に対して遺伝子スクリーニング分析を実施するステップをさらに含む、請
求項22から31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記化合物が、プロドラッグである、請求項22から32のいずれか1項に記載の方法
【請求項34】
(a)チャンバー、および前記チャンバーと流体連通するチャネルを有するマイクロ流
体デバイスと、
(b)前記チャンバー中の生きた腫瘍細胞構築物(例えば、オルガノイド)と、
(c)前記チャンバーおよび前記チャネル中の増殖培地と、
(d)前記チャンバーおよびチャネルと作動的に結合し、前記チャンバーから前記チャネ
ルを通り前記チャンバーへ戻って前記培地を循環させるように構成したポンプと、
(e)前記チャネル中の微孔膜(例えば、TRANSWELL(登録商標)微孔膜)と
を備え、それを通して前記培地が流動するように位置決めした、腫瘍細胞をin vit
roで評価するのに有用な(例えば、腫瘍細胞の転移をin vitroで評価するのに
、腫瘍細胞の遊走および/もしくは浸潤をin vitroで評価するのに、腫瘍細胞を
含む構築物の増殖をin vitroで評価するのに、ならびに/または目的の化合物に
対する応答を評価するのに有用な)デバイス。
【請求項35】
前記腫瘍細胞構築物が、ヒドロゲルを含む、請求項34に記載のデバイス。
【請求項36】
前記腫瘍細胞構築物が、単一細胞型からなる、請求項34または35に記載のデバイス
【請求項37】
前記腫瘍細胞構築物が、結腸直腸がん細胞(例えば、HCT116細胞、HT29細胞
、SW480細胞、Caco2細胞等)、中皮腫がん細胞(例えば、高分化型乳頭状中皮
腫細胞)、虫垂がん細胞(例えば、低悪性度虫垂(LGA)細胞)、および/または肉腫
がん細胞を含む、またはからなる、請求項34から36のいずれか1項に記載のデバイス
【請求項38】
前記マイクロ流体デバイスの少なくとも一部が透明であり、前記デバイスが、前記微孔
膜と作動的に結合し、前記微孔膜上で腫瘍細胞を検出する(例えば、撮像する)ように構
成した検出器(例えば、カメラ)をさらに含む、請求項34から37のいずれか1項に記
載のデバイス。
【請求項39】
前記生きた腫瘍細胞構築物が、請求項1から21のいずれか1項に記載の構築物である
、請求項34から38のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項40】
転移活性について腫瘍細胞をin vitroでスクリーニングする方法であって、
(a)前記請求項のいずれか1項に記載のデバイスを提供するステップと、
(b)前記デバイス内に前記培地を循環させるステップと、
(c)前記微孔膜上で捕捉した腫瘍細胞を検出するステップと
を含み、捕捉した腫瘍細胞が多数であるほど(例えば、同様の条件下の他の腫瘍細胞、お
よび/または同様の条件下の非転移性細胞と比較して)、前記腫瘍細胞の転移活性が高く
なることを示す、方法。
【請求項41】
転移活性について腫瘍細胞をin vitroでスクリーニングする方法であって、
(a)生きた腫瘍細胞オルガノイドを含む一次チャンバー、および前記生きた腫瘍細胞オ
ルガノイドと異なる細胞を含む少なくとも1つのオルガノイドを含む少なくとも1つの二
次チャンバーを備える、デバイスを提供するステップと、
(b)前記デバイス内に前記培地を循環させるステップと、
(c)少なくとも1つの前記二次チャンバー中の腫瘍細胞を検出するステップと
を含み、少なくとも1つの前記二次チャンバー中に存在する腫瘍細胞が多数であるほど(
例えば、同様の条件下の他の腫瘍細胞、および/または同様の条件下の非転移性細胞と比
較して)、前記腫瘍細胞の転移活性が高くなることを示す、方法。
【請求項42】
少なくとも1つの前記オルガノイドが、肝臓、結腸、脳、肺、内皮、心臓、または上皮
オルガノイドである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
少なくとも1つの前記オルガノイドが、肝臓オルガノイドおよび追加のオルガノイドを
含み、前記肝臓オルガノイドおよび前記追加のオルガノイドが、流体連通する別々の二次
チャンバー中に存在する、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
抗転移活性および/または抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスク
リーニングする方法であって、
(a)前記請求項のいずれか1項に記載のデバイスを提供するステップと、
(b)前記デバイス内に前記培地を循環させるステップと、
(c)前記化合物を前記腫瘍細胞に(例えば、前記化合物を前記培地に加えることにより
)投与するステップと、次いで、
(d)前記微孔膜上で捕捉した腫瘍細胞を検出するステップと
を含み、捕捉した腫瘍細胞が少数であるほど(例えば、同様の条件下であるが、目的の前
記化合物を投与していない他の腫瘍細胞と比較して)、目的の前記化合物の抗転移活性お
よび/または抗腫瘍活性が高くなることを示す、方法。
【請求項45】
抗転移活性および/または抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスク
リーニングする方法であって、
(a)肝臓オルガノイドを含む第1のチャンバー、および生きた腫瘍細胞オルガノイドを
含む第2のチャンバーを備えるデバイスを提供するステップと、
(b)前記第1のチャンバーから前記第2のチャンバーへ増殖培地を循環させるステップ
と、
(c)目的の化合物を前記肝臓オルガノイドおよび/または前記生きた腫瘍細胞オルガノ
イドに(例えば、前記化合物を前記増殖培地に加えることにより)投与するステップと、
(d)前記試験化合物を投与しない場合の前記生きた腫瘍細胞オルガノイド中に存在する
腫瘍細胞数と比較して、前記第2のチャンバー中の腫瘍細胞の存在の減少(例えば、数ま
たは密度の変化)を判定するステップと
を含む、方法。
【請求項46】
前記試験化合物を投与しない場合の前記第1のチャンバー中に存在する腫瘍細胞数と比
較して、前記第1のチャンバー中の腫瘍細胞の存在の減少(例えば、数または密度の変化
)を判定するステップをさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記デバイスが、前記生きた腫瘍細胞オルガノイドおよび肝臓オルガノイドと異なる細
胞を有する少なくとも1つのオルガノイドを含む、少なくとも1つの追加のチャンバーを
さらに備える、請求項45または46に記載の方法。
【請求項48】
抗転移活性および/または抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスク
リーニングする方法であって、
(a)生きた腫瘍細胞オルガノイドを含む一次チャンバー、および前記生きた腫瘍細胞オ
ルガノイドと異なる細胞を含む追加のオルガノイドを含む、少なくとも1つの二次チャン
バーを備えるデバイスを提供するステップと、
(b)前記デバイス内に培地を循環させるステップと、
(c)前記化合物を前記腫瘍細胞に(例えば、前記化合物を前記培地に加えることにより
)投与するステップと、
(d)前記試験化合物を投与しない場合の前記生きた腫瘍細胞オルガノイドおよび/また
は少なくとも1つの前記二次チャンバー中に存在する腫瘍細胞数と比較して、前記生きた
腫瘍細胞オルガノイドおよび/または少なくとも1つの前記二次チャンバー中の腫瘍細胞
の存在の減少(例えば、数または密度の変化)を判定するステップと
を含む、方法。
【請求項49】
前記追加のオルガノイドが、脳、結腸、肺、内皮、心臓、上皮、および/または肝臓オ
ルガノイドである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記腫瘍細胞が、前記腫瘍に侵されている患者から採取される、請求項40から49の
いずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記化合物が前記腫瘍細胞の転移をin vitroで減少させ、構築物のサイズをi
n vitroで減少させ、腫瘍細胞数をin vitroで減少させ、および/または
腫瘍細胞死をin vitroで誘導すると判定される場合、前記化合物を前記患者に治
療有効量投与するステップをさらに含む、請求項40から50のいずれか1項に記載の方
法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願情報
本出願は、2016年8月3日出願の米国仮特許出願第62/370,320号、およ
び2017年6月20日出願の米国仮特許出願第62/522,313号の利点を主張し
、各開示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
政府支援の声明
本発明は、国立衛生研究所により付与された認可番号1U54TR001362-01
および5UL1TR001420-03の下、政府の支援により行った。政府は、本発明
における一定の権利を有する。
【0003】
本出願は、腫瘍モデルとして使用することができるin vitro細胞構築物(また
は「オルガノイド」)ならびにその作製および使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
高精度医療は、がん患者の治療の向上に素晴らしく有望である。現在、遺伝子プロファ
イリングを腫瘍生検において実施して、鍵となる重要な変異に基づいた薬物選択の範囲を
絞り込むことができるが、特定の患者に絶対的に最良な薬物を選択することは困難なまま
である。患者自身の細胞で作製した腫瘍モデルにより薬物選択をスクリーニングすると、
遺伝子スクリーニングを補完して、最も有効な薬物を決定し得る。このような患者特異的
がんモデルは、腫瘍の増殖およびその転移能に対する薬物の効果についての個別化した予
測的データをもたらし得る。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様は、(a)生きた腫瘍細胞からなるコアと、(b)コアを囲む(例
えば、被包する)シェルとを含み、シェルが、生きた良性細胞(例えば、組織細胞、良性
または分化腫瘍細胞等)からなる、腫瘍モデルとして有用なin vitro細胞構築物
(または「オルガノイド」)である。生きた腫瘍細胞および/または生きた良性細胞は、
対象から、例えば、対象から採取した生検(例えば、腫瘍生検および/または組織生検)
等から得ることができる。
【0006】
本発明の第2の態様は、対象由来の生きた腫瘍細胞を含む、腫瘍モデルとして有用なi
n vitro細胞構築物(または「オルガノイド」)である。いくつかの実施形態では
、生きた腫瘍細胞は、対象から採取した生検(例えば、腫瘍生検)由来である。
【0007】
本発明のさらなる態様は、(a)チャンバー、およびチャンバーと流体連通するチャネ
ルを有するマイクロ流体デバイスと、(b)チャンバー中の生きた腫瘍細胞構築物(例え
ば、オルガノイド)と、(c)チャンバーおよびチャネル中の増殖培地と、(d)チャン
バーおよびチャネルと作動的に結合し、チャンバーからチャネルを通りチャンバーへ戻っ
て培地を循環させるように構成したポンプと、(e)チャネル中の微孔膜(例えば、TR
ANSWELL(登録商標)微孔膜)とを備え、それを通して培地が流動するように位置
決めした、腫瘍細胞をin vitroで評価するのに有用な(例えば、腫瘍細胞の転移
をin vitroで評価するのに、腫瘍細胞の遊走および/もしくは浸潤をin vi
troで評価するのに、腫瘍細胞を含む構築物の増殖をin vitroで評価するのに
、ならびに/または目的の化合物、例えば、薬物もしくはプロドラッグ等に対する応答を
評価するのに有用な)デバイスである。
【0008】
本発明の別の態様は、腫瘍細胞をin vitroで評価するのに有用な(例えば、腫
瘍細胞の転移をin vitroで評価するのに、腫瘍細胞の遊走および/もしくは浸潤
をin vitroで評価するのに、腫瘍細胞を含む構築物の増殖をin vitroで
評価するのに、ならびに/または目的の化合物、例えば、薬物もしくはプロドラッグ等に
対する応答を評価するのに有用な)デバイスであり、このデバイスが、各チャンバーに少
なくとも1つのオルガノイドを有する2つ以上のチャンバーを備える。デバイス内に存在
する、この1つまたは複数のオルガノイドは、単一の対象から得た細胞から作製してもよ
い。いくつかの実施形態では、デバイスは、第1のチャンバー中に生きた腫瘍細胞オルガ
ノイドを、第2のチャンバー中に肝臓オルガノイドを含む。生きた腫瘍細胞オルガノイド
および肝臓オルガノイドは、同一の対象から得た細胞から形成してもよく、これにより個
別化した分析を提供することができる。
【0009】
前述および他の本発明の目的および態様を以下に、より詳細に説明する。本発明を様々
な形態で具体化することができることが理解されるべきであり、本明細書に記載する実施
形態に制限するものとして解釈されるべきではない。むしろ、このような実施形態は、こ
の開示が漏れなく完全であり、この開示により本発明の範囲が当業者に十分に伝わるよう
に提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】改変された3D in vitroモデル使用して、高精度医療治療レジメンの情報を個々の患者に応じて、よりよく提供するための概念を示す図である。実線矢印は、現行技術の高精度医療のパイプラインであり、この場合、治療は、患者の腫瘍遺伝子プロファイルに基づいて患者のために判定される。しかし、実際には、鍵となる重要な変異の同定後であっても、腫瘍専門医は、可能性のある薬物のいくつかの選択肢を押しつけられることが多く、結果として、最適な治療は何かについての最も妥当とされる推測または見込みが生じることとなる。破線矢印は、患者の細胞で作製したオルガノイドを導入することにより、生検した腫瘍細胞の遺伝子スクリーニングを補完し、最終的に、患者にとって最適な療法を予測することができることを示す。
図2A】マイクロ流体デバイス層の組立を示す模式図である。上から下の順に、チューブ、流体出入口を有するポリスチレン(PS)スライド、オルガノイド用チャンバーおよび対応する流体出入口を有する接着フィルム、スライドガラス、ならびにフォトマスク層である。
図2B】in situパターニング技術を示す模式図である。マイクロ流体チャンバー(i)をHAヒドロゲル、光開始剤および腫瘍細胞を含有するヒドロゲル混合物で満たし(ii)、次いで、フォトマスクを通してUV照明に曝露する(iii)。曝露したヒドロゲルを架橋し(iv)、その後、清浄な緩衝液を使用して非架橋ゲルを洗い流す(v)。最後に、インキュベーションのために、洗い流した緩衝液を培地と置き換える(vi)。
図2C】コンピュータ制御蠕動ポンプにより流動が促進される、各オルガノイド用の低容量、閉ループ流体回路を特徴とする測定装置全体を示す模式図である。
図2D】7日目および14日目のLIVE/DEADアッセイ後のデバイス上の腫瘍構築物の最大投影共焦点画像および分割画像である。それぞれ93.3%および86.4%のパーセント生存率を示す。
図3A-3F】パネルa~f(i)は、LIVE/DEADアッセイ後の腫瘍構築物の最大投影共焦点画像であり、パネルa~f(ii)は、Imarisソフトウェアを使用した分割画像である。中灰色は死細胞を表し、明灰色は生細胞を表す。パネルa)は、>90%の生存率を有する1週目の対照の画像である。パネルb)は、2週目の対照の画像である。パネルc)は、7日間カルボプラチンおよびペメトレキセド薬物の影響下にあった構築物を示す。パネルd)は、7日間カルボプラチンおよびペメトレキセド薬物の影響下にあった構築物を示す。パネルe)は、7日間シスプラチンおよびペメトレキセド薬物の影響下にあった構築物を示す。パネルf)は、7日間シスプラチンおよびペメトレキセド薬物の影響下にあった構築物を示す。
図3G】対照および薬物で処置したオルガノイドの分割画像から得た生存率(生細胞/死細胞)測定値を示すグラフである。薬物曝露は7日目に開始した。有意性:*p<0.1、**p<0.05、***p<0.01
図4A.4B】患者由来の腫瘍構築物における、バイオマーカーによる治療薬スクリーニングを示す図である。パネルA)では、腫瘍生検試料の遺伝子分析により、PBRM1およびBAP1の2つの変異を同定した。EZH2阻害剤であるDZNepにより標的とし得るものとしてBAP1変異を同定した。パネルB)では、MTSミトコンドリア代謝アッセイにより、DZNep薬物で処置したオルガノイドと比較して、対照オルガノイドが最も増殖性であり、細胞数の減少に比例してミトコンドリア代謝の低下が生じたことが示された。反対に、HCT116オルガノイドは、DZNepに対して負に応答するようには見えない。
図4C-4F】患者由来の腫瘍構築物における、バイオマーカーによる治療薬スクリーニングを示す図である。パネルC)では、さらに、アネキシンVおよびKi67バイオマーカー画像を使用して分析を行ったところ、すべての薬物処置物が、アネキシンVをKi67に対して高い割合で有し、アポトーシス細胞量の増加を示した。アネキシンVおよびKi67蛍光バイオマーカーの代表的画像を、DZNep処置物について示す。赤色染色(白黒画像中の中灰色)は、アネキシンVであり、緑色染色(白黒画像中の明灰色)は、Ki67である。スケールバーは、100umを示す。パネルD)では、さらに、アネキシンVおよびKi67バイオマーカー画像を使用して分析を行ったところ、すべての薬物処置物が、アネキシンVをKi67に対して高い割合で有し、アポトーシス細胞量の増加を示した。アネキシンVおよびKi67蛍光バイオマーカーの代表的画像を、DZNep処置物について示す。赤色染色(白黒画像中の中灰色)は、アネキシンVであり、緑色染色(白黒画像中の明灰色)は、Ki67である。スケールバーは、100umを示す。パネルE)では、中皮腫オルガノイドにおいてDZNep濃度が上昇するにつれて、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色したオルガノイド切片が正常形態を失い、核のないゴースト細胞が出現することを示す。パネルF)では、Eの中皮腫オルガノイドとは反対に、HCT116細胞は、Eの中皮腫オルガノイドのような用量依存的変化を示さず、DZNepが中皮腫オルガノイドにおいて、HCT116オルガノイドよりも効果的に細胞死を誘導することを示唆する。
図5A】培養することが難しい腫瘍由来の生存可能なオルガノイドを示す図である。パネルA)低悪性度虫垂(LGA)を示す。
図5B】培養することが難しい腫瘍由来の生存可能なオルガノイドを示す図である。パネルB)高分化型乳頭状腹膜中皮腫を示す。
図5C】培養することが難しい腫瘍由来の生存可能なオルガノイドを示す図である。パネルC)臨床診療において既に疑われているように、LGAオルガノイドは、療法に応答しないが、高悪性度虫垂腫瘍オルガノイドは、療法に応答することを示す。
図5D】培養することが難しい腫瘍由来の生存可能なオルガノイドを示す図である。パネルD)希少な肉腫からの生存可能な腫瘍オルガノイドの構築を示す。
図6図6Aは、2D薬物試験プロトコルを示す図である。図6Bは、種々の濃度の抗がん剤で処置後の2次元微小環境におけるHCT116、HT29、CACO2、およびSW480結腸直腸がん細胞株のパーセント相対細胞生存率の値を示すグラフである。A=レゴラフェニブ(μM)B=ソラフェニブ(μM)C=トラメチニブ(nM)D=5-FU(mM)E=ダブラフェニブ(μM)。
図7図7Aは、3D薬物試験プロトコルを示す図である。図7Bは、種々の濃度の抗がん剤で処置後の3次元微小環境におけるHCT116、HT29、CACO2、およびSW480結腸直腸がん細胞株のパーセント相対細胞生存率の値を示すグラフである。A=レゴラフェニブ(μM)B=ソラフェニブ(μM)C=トラメチニブ(nM)D=5-FU(mM)E=ダブラフェニブ(μM)。
図8】HCT116およびCACO2結腸直腸細胞株についてレゴラフェニブ、ソラフェニブ、および5-FUを用いた、2Dおよび3D薬物スクリーニングの結果を比較したグラフである。p値により判定した有意差を再度表示する(<0.10=* <0.05=** <0.01=***)。
図9A】環状オルガノイド薬物試験プロトコルを示す図である。
図9B】レゴラフェニブによるHCT116の標的細胞死、ならびに5-FUによるHCT116およびCACO2の両方の普遍的細胞死を詳細に示す7日目の顕微鏡画像である。緑色(白黒画像中の明灰色)蛍光色素(カルセインAM)は、生細胞を示し、一方、赤色(白黒画像中の中灰色)蛍光色素(エチジウムホモダイマー1)は、死細胞を示す(スケールバー=200μm)。
図9C】各濃度のレゴラフェニブおよび5-FUの比率、ならびにそれに対する無処置の場合の比率である対照の比率を示すグラフである。
図10】デバイスを通して培地を循環させる、マイクロ流体デバイスの内部構成要素および外部構成要素を表す図である。
図11】カペシタビンを5-FUの薬物活性形態へ代謝して、心臓および肺オルガノイドにおいて細胞死の増加を誘導するのに肝臓オルガノイドを必要とすることを示すLIVE/DEADの結果を示す画像である。
図12】小型化したシステムにおけるLIVE/DEADの結果を示す画像であり、肝臓が存在すると、カペシタビンが毒性薬物である5-FUに代謝されて、心臓および肺に毒性を生じることを示す。肝臓なしでは、この代謝は発生せず、心臓および肺オルガノイド生存率は低下しない。
図13】標準サイズのシステムおよび小型化したシステムにおける最初のバイオマーカー分析のグラフである。
図14】テープ流体工学と接着フィルムおよび/または両面テープ(DST)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ならびにポリジメチルシロキサン(PDMS)構成要素を組み込むハイブリッドマイクロリアクター作製戦略の図である。
図15A】本発明の態様による2つのチャンバーを有するデバイス例の異なる構成要素および/または図である。
図15B】本発明の態様による2つのチャンバーを有するデバイス例の異なる構成要素および/または図である。
図15C】本発明の態様による2つのチャンバーを有するデバイス例の異なる構成要素および/または図である。
図15D】本発明の態様による2つのチャンバーを有するデバイス例の異なる構成要素および/または図である。
図16】本発明の態様による6つのチャンバーを有するデバイス例を示す図である。
図17】本発明の態様によるデバイス構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
これより本発明を、本発明の実施形態を示す添付の図面を参照して、以下、より詳細に
記載する。ただし、本発明は、多様な形態で具体化することができ、本明細書に記載する
実施形態に制限されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、このような実施形態
は、この開示が、漏れなく完全であり、この開示により本発明の範囲が当業者に十分に伝
わるように提供するものである。
【0012】
本明細書において使用する用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、
本発明を制限することを意図するものではない。本明細書において使用する場合、文脈上
明白に他に指示しない限り、単数形「a」、「an」および「the」は、複数形をも含
むことを意図する。用語「含む」または「含んでいる」は、本明細書において使用する場
合、記述した特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分および/または、その群もしくは
組合せの存在を明示するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、
成分および/または、その群もしくは組合せの存在または追加を排除しないことが、さら
に理解される。
【0013】
他に定義しない限り、本明細書において使用する、すべての用語(技術的および科学的
用語を含む)は、本発明の属する分野の当業者により一般に理解されるものと同一の意味
を有する。一般に使用される辞書において定義されるもの等の用語が、その意味と本明細
書および特許請求の範囲との関連において一致した意味を有するものとして解釈されるべ
きであり、本明細書において、そのように明示的に定義しない限り、理想的な、または過
度に形式的な意味に解釈されるべきではないことが、さらに理解される。公知の機能また
は構造は、簡潔性および/または明確性のため、詳細に記載しない場合がある。本明細書
において言及する、すべての出版物、特許出願、特許および他の参考文献は、引用するこ
とにより本明細書の一部をなすものとする。用語において矛盾する場合は、本明細書が支
配する。
【0014】
また、本明細書において使用する場合、「および/または」は、関連する列挙した項目
のうちの1つまたは複数の、任意またはすべての可能な組合せ、ならびに選択的に解釈す
る場合(「または」)、組合せが不足していることを言及および包含する。
【0015】
文脈上他に指示しない限り、本明細書において記載する本発明の種々の特徴は、任意の
組合せで使用し得ることを特に意図する。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実
施形態において、本明細書に記載する、いかなる特徴または特徴の組合せも除外または省
略し得ることを意図する。例示すると、本明細書が、複合体が成分A、BおよびCを含む
ことを示す場合、A、BもしくはCのいずれか、またはその組合せは、省略および排除し
得ることを特に意図する。
【0016】
本明細書において使用する場合、移行句「本質的にからなる」(および文法的変化形)
は、主張する本発明の列挙した材料またはステップ「ならびに基本的および新規の特徴に
実質的に影響しないもの」を包含するものとして解釈されるべきである。したがって、本
明細書において使用する用語「本質的にからなる」は、「含んでいる」と等価であると解
釈されるべきではない。
【0017】
本明細書において使用する用語「約」は、量または濃度等の測定可能な値を指す場合、
限定されないが、特定の値の±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらに±0
.1%等、特定の値の±20%までの変動、ならびに特定の値を指すことを意味する。例
えば、「約X」は、Xが測定可能な値である場合、XならびにXの±20%、±10%、
±5%、±1%、±0.5%、またはさらに±0.1%の変動を含むことを意味する。本
明細書において提供する、測定可能な値の範囲は、他の任意の範囲および/またはその範
囲内のそれぞれの値を含んでもよい。
【0018】
本発明において使用する「細胞」は、一般に、動物細胞、特に哺乳動物および霊長類の
細胞であり、その例は、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、
またはヤギを含むが、それに限定されない。細胞は、肝臓、腸、膵臓、リンパ節、平滑筋
、骨格筋、中枢神経、末梢神経、皮膚、免疫系等の特定の細胞または組織型に少なくとも
ある程度分化していることが好ましい。いくつかの細胞は、下記にさらに考察するように
、がん細胞であってもよく、この場合、いくつかの細胞は、また下記にさらに考察するよ
うに、任意選択的にあるが、好ましくは、検出可能な化合物を(天然に、または組換え技
術により)発現する。
【0019】
本明細書において使用する「対象」は、一般に、ヒト対象であるが、本発明の態様では
、他の動物対象、特に獣医科用の哺乳動物対象(例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ヒツ
ジ)を用いて実行し得る。対象は、男性または女性および乳児、若年、青年、成年、なら
びに老年を含む、いかなる年齢の対象であってもよい。
【0020】
「オルガノイド」は、本明細書において「細胞構築物」および「3次元組織構築物」と
互換的に使用し、3次元または多層構造(単層とは対照的な)に作製した、典型的には担
体培地中の生細胞の組成物を指す。適した担体培地は、下記に記載するような、架橋した
ヒドロゲル等のヒドロゲルを含む。ヒドロゲルのさらなる例として、引用することにより
本明細書の一部をなすものとする、国際出願PCT/US2015/055699に記載
されているものが挙げられるが、これらに限定されない。オルガノイドは、モデルまたは
模倣とする特定の組織または臓器に応じて、1つの分化細胞型、または2つ以上の分化細
胞型を含むことができる。いくつかのオルガノイドは、下記にさらに考察するように、が
ん細胞を含むことができる。オルガノイドが、がん細胞を含む場合、オルガノイドは、組
織細胞を含むことができ、かつ/または細胞外マトリックス(または、それに由来するタ
ンパク質またはポリマー)、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸他、その
組合せを含むもの等の細胞を含まない組織模倣体を含むことができる。したがって、いく
つかの実施形態では、細胞外マトリックス、または架橋したマトリックスと共に細胞を混
合して、オルガノイドまたは構築物を形成するが、他の実施形態では、スフェロイドまた
はオルガノイド等の細胞凝集体を予備形成し、次いで、細胞外マトリックスと混合しても
よい。いくつかの実施形態では、オルガノイドは、腫瘍性オルガノイドおよび/または非
腫瘍性オルガノイドである。
【0021】
いくつかの実施形態では、オルガノイドは、ヒト由来細胞である細胞を含み、いくつか
の実施形態では、オルガノイドは、ヒト由来細胞からなる細胞を含む。本発明のオルガノ
イドは、in vivoの細胞により産生されたバイオマーカーと同一の、1つまたは複
数(例えば、1、2、3、4、またはそれ以上)のバイオマーカーを発現および/または
産生し得る。例えば、in vivoの肝臓細胞は、アルブミンを産生し、肝臓細胞を含
む本発明のオルガノイドは、アルブミンを発現し得る。いくつかの実施形態では、オルガ
ノイドは、in vivoの相当する細胞が産生および/または発現する、同一の量また
は平均量の±20%、±10%、もしくは±5%の量のバイオマーカーを発現し得る。バ
イオマーカーの例として、アルブミン、尿素、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(G
ST)(例えば、α-GST)、ケモカイン(例えば、IL-8、IL-1β等)、プロ
スタサイクリン、SB100B、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、ミエリン塩基
性タンパク質(MBP)、ホルモン(例えば、テストステロン、エストラジオール、プロ
ゲステロン等)、インヒビンA/B、乳酸脱水素酵素(LDH)、および/または腫瘍壊
死因子(TNF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
いくつかの実施形態では、本発明のオルガノイドは、直径が約200μm~約350μ
mであり、例えば、約200、250、300、または350μmである。オルガノイド
は、合計で約1,500または2,000~約3,000または3,500個の細胞を含
むことができる。本発明のオルガノイドは、例えば、任意の3次元形状または多層形状等
、任意の適した形状であってもよい。いくつかの実施形態では、本発明のオルガノイドは
、スフェロイドの形態である。いくつかの実施形態では、本発明のオルガノイドは、懸濁
液または培地(例えば、架橋したヒドロゲル)中に自己組織化させてもよい。
【0023】
本明細書において使用する「増殖培地」は、本発明を実行するのに使用する細胞を維持
する、任意の天然または人口の増殖培地(典型的には水性液体)であってもよい。例とし
ては、必須培地もしくは最小必須培地(MEM)、またはその変形、例えば、イーグル最
小必須培地(EMEM)およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ならびに血液
、血清、血漿、リンパ液他、その合成模倣体を含むもの等が挙げられるが、これらに限定
されない。いくつかの実施形態では、増殖培地は、pH変色指示薬(例えば、フェノール
レッド)を含む。
【0024】
本明細書において使用する「候補化合物」または「目的の化合物」は、原発部位から第
2の部位へのがん細胞拡大の阻害活性を判定する、または、がん細胞生存率の低下におけ
る活性および/もしくは抗腫瘍活性を判定する、任意の化合物であってもよい。実証のた
めに、マリマスタット(N-[2,2-ジメチル-1-(メチルカルバモイル)プロピル
]-2-[ヒドロキシ-(ヒドロキシカルバモイル)メチル]-4-メチル-ペンタンア
ミド)を、試験化合物として使用する。しかし、任意の化合物が使用可能であり、一般的
には、タンパク質、ペプチド、核酸、および低分子の有機化合物(脂肪族、芳香族、およ
び混合脂肪族/芳香族化合物)等の有機化合物が使用可能である。候補化合物は、組合せ
技術によりランダムに生成する技術、および/または特定の標的に基づいて合理的にデザ
インする技術を含む、任意の適した技術により生成することができる。例えば、A.M.
Stock et al.Targets for anti-metastatic
drug development、Curr.Pharm.Des.19(28):5
127-34(2013)を参照されたい。いくつかの実施形態では、候補化合物は、本
発明の試験および/または方法の実施中に活性薬物に変換可能な、プロドラッグである。
いくつかの実施形態では、プロドラッグは、肝臓オルガノイドにより活性薬物に変換され
る。
【0025】
本明細書において使用する「検出可能な化合物」は、蛍光タンパク質(例えば、赤色蛍
光タンパク質、緑色蛍光タンパク質等);酵素、蛍光、もしくは放射性基、または他の標
識と結合した抗体が特異的に結合する抗原タンパク質またはペプチド;あるいは他の任意
の適した検出可能な化合物であってもよい。検出可能な化合物は、がん細胞において天然
発生するもの(例えば、非がん細胞よりも、がん細胞において高レベルで発現する細胞マ
ーカータンパク質)、または遺伝子工学/組換えDNA技術によりがん細胞中に挿入され
る(すなわち、異種性の)ものであってもよい。
【0026】
本発明を実行するのに使用する細胞は、動物細胞(例えば、トリ、爬虫類、両生類等)
であることが好ましく、いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞(例えば、イヌ、ネコ、
マウス、ラット、サル、類人猿、ヒト)であることが好ましい。細胞は、分化または未分
化の細胞であってもよいが、いくつかの実施形態では、組織細胞(例えば、肝実質細胞等
の肝臓細胞、膵臓細胞、心筋細胞、骨格筋細胞等)である。
【0027】
細胞の選択は、作製する特定のオルガノイドに依存する。例えば、肝臓オルガノイドで
は、肝臓実質細胞を使用し得る。末梢または中枢神経オルガノイドでは、末梢神経細胞、
中枢神経細胞、グリア細胞、またはその組合せを使用し得る。骨オルガノイドでは、骨芽
細胞、破骨細胞、またはその組合せを使用し得る。肺オルガノイドでは、肺気道上皮細胞
を使用し得る。リンパ節オルガノイドでは、濾胞樹状リンパ細胞、線維芽細網リンパ細胞
、白血球、B細胞、T細胞、またはその組合せを使用し得る。平滑または骨格筋オルガノ
イドでは、平滑筋細胞、骨格筋細胞、またはその組合せを使用し得る。皮膚オルガノイド
では、皮膚ケラチノサイト、皮膚メラノサイト、またはその組合せを使用し得る。細胞は
、組成物へ最初に組み込む際に分化していてもよく、またはその後に分化する未分化細胞
を使用してもよい。上記の組成物のうちのいずれかに追加の細胞を加えてもよく、また下
記のように、一次または「第1」のオルガノイドに下記のがん細胞を加えてもよい。
【0028】
本発明において使用するがん細胞は、メラノーマ、癌腫、肉腫、芽細胞種、神経膠腫、
および星状細胞種の細胞等を含むが限定されない、任意の型のがん細胞であってもよい。
いくつかの実施形態では、本発明において使用するがん細胞は、本明細書で教示する方法
においてN-カドヘリンを発現し、かつ/または上皮間葉転換を示す。がん細胞は、腸(
小腸、大腸、結腸)、肺、乳房、前立腺、皮膚、骨、脳、肝臓、膵臓、子宮、子宮頸部、
精巣、および卵巣がん細胞等を含むが限定されない、任意の原発組織由来のがん細胞であ
ってもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、がん治療を受けている対象もしくは患者、
および/または、がんを有する対象もしくは患者、および/または免疫不全を有する対象
等の対象から得ることが可能である。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、生検か
ら得た腫瘍細胞等の腫瘍細胞であり、このような細胞から作製したオルガノイドを使用し
て、潜在的に有効な薬物および/または治療をスクリーニングすることができる。生検か
ら得た腫瘍オルガノイドの例としては、中皮腫、結腸直腸、虫垂、肺、メラノーマ、およ
び肉腫オルガノイドが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、
細胞は、組織生検から得た良性細胞を含む。細胞は、脳、肝臓、腸、膵臓、リンパ節、平
滑筋、骨格筋、中枢神経、末梢神経、皮膚、免疫系等の特定の細胞または組織型に少なく
ともある程度分化していてもよい。生検から得た細胞(例えば、腫瘍および/または良性
)を使用して、本発明のオルガノイドを形成および/または作製することができ、生じた
オルガノイドを本発明の方法および/またはデバイスにおいて、生検後約1、2、3、4
、5、6、7、もしくは8日の間に作製および/または使用することができる。いくつか
の実施形態では、限定されないが、蛍光化合物(例えば、色素、タンパク質他)で等、検
出可能な化合物で細胞を標識してもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、本発明のオルガノイドは、不死化細胞株由来の細胞から作製
せず、かつ/または不死化細胞株由来の細胞を含まない。本発明のオルガノイドは、腫瘍
細胞ならびに/または限定されないが、初代細胞および/もしくは幹細胞(例えば、人工
多能性幹細胞および/または分化型iPS由来細胞)等の高機能細胞を含み、かつ/ある
いは使用して作製してもよい。
【0031】
本明細書に記載する本発明の態様および特徴は、本発明の属する分野の当業者に自明で
ある既知の材料、方法および技術、またはその変形に従って実行することができる。例え
ば、Skardal A、Devarasetty M、et al.A reduct
ionist metastasis-on-a-chip platform for
in vitro tumor progression modeling and
drug screening.Biotechnology and Bioeng
ineering 113(9)、2020~32(2016);Skardal A、
Devarasetty M、et al.A hydrogel bioink to
olkit for mimicking native tissue bioche
mical and mechanical properties in biopr
inted tissue constructs.Acta Biomaterial
ia 25、24~34(2015);Bhise N、Manoharan V、et
al.A liver-on-a-chip platform with biop
rinted hepatic spheroids.Biofabrication
8(1);014010(2016)を参照されたい。
【0032】
上述のように、本発明は、(a)生きた腫瘍細胞からなるコアと、(b)コアを囲む(
例えば、被包する)シェルとを含み、シェルが、生きた良性細胞(例えば、組織細胞、良
性または分化腫瘍細胞等)からなる、腫瘍モデルとして有用なin vitro細胞構築
物(または「オルガノイド」)を提供する。
【0033】
いくつかの実施形態では、生きた腫瘍細胞は、悪性細胞を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、生きた腫瘍細胞は、結腸直腸がん細胞(例えば、HCT11
6細胞、HT29細胞、SW480細胞、Caco2細胞等)を含む、またはからなる。
【0035】
いくつかの実施形態では、腫瘍細胞および良性細胞は、哺乳動物細胞(例えば、ヒト、
マウス、ラット、サル等)を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、生きた良性細胞は、上皮細胞を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、生きた良性細胞は、Caco-2細胞を含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、腫瘍細胞は、検出可能な化合物(例えば、蛍光化合物)を含
む。
【0039】
いくつかの実施形態では、コアおよび/またはシェルは、ヒドロゲルを含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、構築物は、1日もしくは2日、または1週から2週、または
それ以上の期間、培地中で増殖させる。
【0041】
いくつかの実施形態によれば、対象由来の生きた腫瘍細胞を含む腫瘍モデルとして有用
なin vitro細胞構築物(または「オルガノイド」)を提供する。いくつかの実施
形態では、生きた腫瘍細胞は、例えば、対象の腫瘍等の対象から採取および/または由来
する。生きた腫瘍細胞は、腫瘍生検から採取および/または由来し得る。いくつかの実施
形態では、生きた腫瘍細胞は、オルガノイドのコアを形成し、オルガノイドは、生きた良
性細胞のシェルを含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、対象由来の生きた良性細胞を含むオルガノイドを提供する。
良性細胞は、例えば、対象の組織等の対象から採取および/または由来し得る。いくつか
の実施形態では、生きた良性細胞は、組織生検から採取および/もしくは由来し得、かつ
/または組織特異的であり得る。生きた良性細胞を含むオルガノイドは、生きた腫瘍細胞
を含むオルガノイドから分離(例えば、デバイスの異なるチャンバー中で別々に形成およ
び/または存在)することができる。いくつかの実施形態では、単一の対象から採取およ
び/または由来する細胞を用いて(例えば、対象由来の1つまたは複数の生検を使用して
)、対象由来の腫瘍生検から得た生きた腫瘍細胞を含む少なくとも1つのオルガノイド、
および対象由来の生きた肝臓細胞を含む少なくとも1つの別のオルガノイドを有する、少
なくとも2つ(例えば、2、3、4、5、6、7、8つ、またはそれ以上)の異なるオル
ガノイドを形成する。いくつかの実施形態では、単一の対象から採取および/または由来
する細胞を用いて(例えば、対象由来の1つまたは複数の生検を使用して)、対象由来の
腫瘍生検から得た生きた腫瘍細胞を含む少なくとも1つのオルガノイド、および肝臓腫瘍
細胞と同一の組織型である、対象由来の生きた良性細胞を含む少なくとも1つの別のオル
ガノイドを有する、少なくとも2つ(例えば、2、3、4、5、6、7、8つ、またはそ
れ以上)のオルガノイドを形成する。
【0043】
本発明のオルガノイドは、療法および/または治療の開始前に任意選択的に、患者の治
療を決定するのに使用可能な患者特異的モデル系を提供することができる。いくつかの実
施形態では、限定されないが、遺伝子バイオマーカー評価および/または遺伝子プロファ
イリング等の追加のスクリーニング方法に加えて任意選択的に、抗腫瘍活性について目的
の化合物をスクリーニングすることができる。いくつかの実施形態では、本発明のオルガ
ノイドおよび/または方法により、細胞バイオマーカー認識、バイオマーカー発現の定量
、および/もしくは化学療法薬物有効性のリアルタイム試験が可能となり、かつ/または
提供され得る。
【0044】
抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスクリーニングする方法を(a
)本明細書に記載の生きた腫瘍細胞を含む少なくとも1つの構築物を提供するステップと
、(b)化合物を構築物にin vitroで接触させるステップと、次いで(c)目的
の化合物の抗腫瘍活性を示す、(例えば、化合物に接触していない少なくとも1つの同様
の構築物の腫瘍細胞と比較した、および/または構築物を囲むシェル中に存在し、かつ/
もしくは別のオルガノイド中に存在する生きた良性細胞と比較した)生きた腫瘍細胞の増
殖、生きた腫瘍細胞の増殖の減少(例えば、腫瘍細胞の増殖の欠如、腫瘍細胞の死滅、腫
瘍細胞によるシェルへの浸潤の減少等)を判定するステップとにより実行することができ
る。いくつかの実施形態では、腫瘍に侵されている患者から腫瘍細胞を採取する。いくつ
かの実施形態では、目的の化合物は、プロドラッグである。いくつかの実施形態では、化
合物が腫瘍細胞の増殖をin vitroで減少させると判定される場合、本発明の方法
は、化合物を患者に治療有効量投与するステップをさらに含むことができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象(例えば、患者)から腫瘍生検を得る
ステップ、およびこの細胞を使用して本発明のオルガノイドを調製するステップを含む。
腫瘍生検は、変異を同定するために一部または全部を遺伝子配列決定することができ、同
定した任意の変異が、対象の治療(例えば、抗腫瘍活性)のための目的の化合物の1つま
たは複数を指示および/または示唆することができる。本発明の方法は、遺伝子配列決定
において同定した目的の化合物の1つまたは複数をスクリーニングするステップ、ならび
に目的の化合物の1つまたは複数のそれぞれ、および/またはその組合せを、腫瘍生検由
来の細胞を使用して作製したオルガノイドと接触させるステップを含むことができる。本
発明の方法は、目的の化合物の1つまたは複数が腫瘍細胞の増殖をin vitroで減
少させると判定される場合、目的の化合物の1つまたは複数を、腫瘍生検を採取した対象
に治療有効量投与するステップをさらに含むことができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象由来の腫瘍生検から得た生きた腫瘍細
胞から腫瘍細胞オルガノイドを調製するステップ、および同一の対象または異なる源から
得た生きた肝臓細胞から肝臓オルガノイドを調製するステップを含む。いくつかの実施形
態では、生きた腫瘍細胞および生きた肝臓細胞を同一の対象から得る。生きた腫瘍細胞オ
ルガノイドおよび肝臓オルガノイドは、相互に流体連通して(例えば、デバイス、例えば
、本明細書に記載のデバイスで)作製することができ、生きた腫瘍細胞オルガノイドおよ
び/または肝臓オルガノイドと目的の化合物を接触させることができる。さらに、生きた
腫瘍細胞オルガノイドにおける生きた腫瘍細胞の増殖を判定することができる。いくつか
の実施形態では、目的の化合物は、肝臓オルガノイドが代謝して活性薬物を生成すること
ができ、活性薬物の活性が判定可能となる(例えば、生きた腫瘍細胞および/または肝臓
細胞の増殖がプロドラッグおよび/または活性薬物の影響を受ける場合、この活性を判定
することができる)プロドラッグである。1つまたは複数の追加のオルガノイドを本発明
の方法において使用してもよい。いくつかの実施形態では、化合物1つまたは複数の追加
のオルガノイドは、同一の対象から得ることができ、対象の同一の組織または異なる組織
由来であってもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、本発明の方法および/またはデバイスは、2つ以上(例えば
、2、3、4、5、6、7つまたはそれ以上)の目的の化合物の平行スクリーニングを提
供および/または可能とすることができる。いくつかの実施形態では、目的の化合物の2
つ以上のうちの少なくとも1つは、プロドラッグである。
【0048】
いくつかの実施形態では、本発明の方法および/またはデバイスは、その細胞を使用し
て本発明の方法および/またはデバイスにおいて使用した本発明のオルガノイドを作製し
た、対象由来の生検(例えば、腫瘍生検)を得た後、約1週または2週以内に(例えば、
約2、3、4、5、6、7、8、9、または10日以内に)、結果(例えば、薬物スクリ
ーニング結果および/または治療分析)を提供および/または可能とすることができる。
【0049】
また、(a)チャンバー、およびチャンバーと流体連通するチャネルを有するマイクロ
流体デバイスと、(b)チャンバー中の生きた腫瘍細胞構築物(例えば、オルガノイド)
と、(c)チャンバーおよびチャネル中の増殖培地と、(d)チャンバーおよびチャネル
と作動的に結合し、チャンバーからチャネルを通り、チャンバーへ戻って培地を循環させ
るように構成したポンプと、(e)チャネル中の微孔膜(例えば、TRANSWELL(
登録商標)微孔膜)とを備え、それを通して培地が流動するように位置決めした、腫瘍細
胞をin vitroで評価するのに有用なデバイスを本明細書において記載する。いく
つかの実施形態では、デバイスは、腫瘍細胞の転移をin vitroで評価するのに、
腫瘍細胞の遊走および/もしくは浸潤をin vitroで評価するのに、腫瘍細胞を含
む構築物の増殖をin vitroで評価するのに、ならびに/または目的の化合物に対
する応答を評価するのに有用である。いくつかの実施形態では、デバイスは、構築物のサ
イズをin vitroで、腫瘍細胞数をin vitroで、かつ/または腫瘍細胞死
をin vitroで評価するのに有用であり得る。
【0050】
いくつかの実施形態では、腫瘍細胞をin vitroで評価するのに有用なデバイス
は、各チャンバー中に少なくとも1つのオルガノイドを有し、相互に流体連通する2つ以
上のチャンバーを備える。デバイスは、腫瘍細胞の転移をin vitroで評価するの
に、腫瘍細胞の遊走および/もしくは浸潤をin vitroで評価するのに、腫瘍細胞
を含む構築物の増殖をin vitroで評価するのに、ならびに/または目的の化合物
に対する応答を評価するのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、デバイスは、構
築物のサイズをin vitroで、腫瘍細胞数をin vitroで、かつ/または腫
瘍細胞死をin vitroで評価するのに有用であり得る。デバイス内に存在する1つ
または複数のオルガノイドを、単一の対象から得た細胞から作製してもよい。いくつかの
実施形態では、デバイスは、第1のチャンバー中に生きた腫瘍細胞オルガノイドを、およ
び第2のチャンバー中に肝臓オルガノイドを含む。生きた腫瘍細胞オルガノイドおよび肝
臓オルガノイドは、同一の対象から得た細胞から形成してもよく、これにより個別化した
分析を提供することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、デバイスは、生きた腫瘍細胞オルガノイドを含む一次チャン
バー;異なるオルガノイドを含む少なくとも1つの二次チャンバー;一次および二次チャ
ンバーに接続し、それらの間に流体連通(例えば、増殖培地の流動等)を可能とする少な
くとも1つの一次導管;ならびに任意選択的に、一次チャンバー、各二次チャンバー、お
よび一次導管中に増殖培地を備えることができる。いくつかの実施形態では、2つ以上(
例えば、2、3、4、5、6、7、8つまたはそれ以上)の二次チャンバーを備え、それ
ぞれが他と異なる細胞を含むオルガノイドを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも
1つの二次チャンバーは、肝臓オルガノイドを含み、任意選択的に、この同一の対象から
得た細胞から生きた腫瘍細胞オルガノイドおよび肝臓オルガノイドを作製する。追加のデ
バイスの例としては、その全内容を本明細書に組み込む、国際出願PCT/US2016
/054611に記載のものが挙げられるが、これに限定されない。
【0052】
2つのチャンバーを備えるデバイスの例を図15に示す。5つのチャンバーを有するデ
バイスの別の例を、異なる段階で培地がデバイスのチャンバーを通してどのように流動し
得るかと共に図16に示す。図17は、本発明の態様に従って検出可能な化合物で標識し
た細胞(例えば、腫瘍細胞)を追跡するのに使用可能なデバイス構造の模式図を示す。
【0053】
いくつかの実施形態では、腫瘍細胞構築物は、ヒドロゲルを含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、腫瘍細胞構築物は、単一細胞型からなる。
【0055】
いくつかの実施形態では、腫瘍細胞構築物は、結腸直腸がん細胞(例えば、HCT11
6細胞、HT29細胞、SW480細胞、Caco2細胞等)を含む、またはからなる。
【0056】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体デバイスの少なくとも一部は透明であり、この
デバイスは、微孔膜と作動的に結合し、微孔膜上で腫瘍細胞を検出する(例えば、撮像す
る)ように構成した検出器(例えば、カメラ)をさらに備える。
【0057】
いくつかの実施形態では、本発明の方法において使用するデバイスは、組織容量の割合
に対して生理的または超生理的な流体を供給するように構成することができる。例えば、
デバイスのチャンバーの1つまたは複数は、約2μL~約10μLの範囲の平均的容量を
有することができる。いくつかの実施形態では、デバイスのチャンバーの1つまたは複数
は、約2、3、4、5、6、7、8、9、または10μLの平均的容量を有することがで
きる。いくつかの実施形態では、デバイス(例えば、1、2、3、4、5、6、またはそ
れ以上のチャンバーを備える装置)では、例えば、約95、90、85、80、75、7
0、65、60、55、50、45、40μLもしくはそれ以下等、約100μL未満の
量の液体を使用し、かつ/または約100μL未満の容量を有してもよい。本明細書にお
いて使用するデバイスの容量は、デバイスのチャンバーおよびチャネルを満たす容量を指
す。いくつかの実施形態では、デバイスは、約50μL未満の量の液体を使用し、かつ/
または約50μL未満の容量を有してもよい。
【0058】
本発明のオルガノイドは、少なくとも1、2、3、4週間、またはそれ以上、生存可能
であり得る。いくつかの実施形態では、デバイス内の、かつ/または本発明の方法におい
て使用するオルガノイドは、少なくとも1、2、3、4週間、またはそれ以上、生存可能
であり得る。いくつかの実施形態では、本発明のオルガノイドは、生存可能であってもよ
く、1、2、3、4週、またはそれ以上、オルガノイド中に存在する細胞の平均数に基づ
いて、少なくとも約75%以上(例えば、約80%、85%、90%、95%またはそれ
以上)生存する細胞を含むことができる。
【0059】
本明細書に記載する場合、細胞および/または細胞試料を本発明の方法において使用し
て、本発明のオルガノイドを形成することができる。本発明の方法では、生存可能なオル
ガノイドを作製することができる。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、例えば、
約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%
、98%、またはそれ以上等の少なくとも50%以上の生着率を達成することができる。
例えば、90%の生着率は、生存可能なオルガノイドまたは複数のオルガノイド(例えば
、オルガノイドのセット)を本発明の方法により獲得および/または作製する回数の90
%を意味する。つまり、90%の生着率では、本発明の方法に従って作製した場合、10
細胞試料のうちの9細胞試料(例えば、腫瘍細胞試料)により、生存可能なオルガノイド
または複数のオルガノイドが得られることとなる。オルガノイドまたは複数のオルガノイ
ドを本発明の別の方法および/または診断において使用することができる。いくつかの実
施形態では、細胞および/または細胞試料は、例えば、中皮腫生体試料および/またはG
I腫瘍生体試料等の腫瘍由来であり得る。
【0060】
転移活性について腫瘍細胞をin vitroでスクリーニングする方法は、(a)本
明細書に上述のように、デバイスを提供するステップと、(b)デバイス内に培地を循環
させるステップと、(c)微孔膜上で捕捉した腫瘍細胞を定量的または定性的に検出する
ステップとにより実行することができ、この場合、捕捉した腫瘍細胞が多数であるほど(
例えば、同様の条件下の他の腫瘍細胞、および/または同様の条件下の非転移性細胞と比
較して)、腫瘍細胞の転移活性が高くなることを示す。
【0061】
転移活性について腫瘍細胞をin vitroでスクリーニングする方法は、(a)本
明細書に上述のように、デバイス(例えば、生きた腫瘍細胞オルガノイドを含む一次チャ
ンバー、および少なくとも1つの二次チャンバーを備えるデバイス)を提供するステップ
と、(b)デバイス内に培地を循環させるステップと、(c)二次チャンバーのうちの1
つまたは複数の中に存在する(例えば、任意選択的に、二次チャンバー中に存在するオル
ガノイド上または/および中の)腫瘍細胞を定量的または定性的に検出するステップとに
より実行することができ、この場合、二次チャンバーのうちの1つまたは複数の中に存在
する腫瘍細胞が多数であるほど(例えば、同様の条件下の他の腫瘍細胞、および/または
同様の条件下の非転移性細胞と比較して)、腫瘍細胞の転移活性が高くなることを示す。
抗転移活性および/または抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスクリ
ーニングする方法は、(a)本明細書に上述のように、デバイスを提供するステップと、
(b)デバイス内に培地を循環させるステップと、(c)化合物を腫瘍細胞に(例えば、
化合物を培地に加えることにより)投与するステップと、次いで(d)微孔膜上で捕捉し
た腫瘍細胞を定量的または定性的に検出するステップとにより実行することができ、この
場合、捕捉した腫瘍細胞が少数であるほど(例えば、同様の条件下であるが、目的の化合
物を投与していない他の腫瘍細胞と比較して)、目的の化合物の抗転移活性が高くなるこ
とを示す。いくつかの実施形態では、腫瘍細胞は、腫瘍に侵されている患者から採取する
。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、化合物が腫瘍細胞の転移をin vitr
oで減少させ、構築物のサイズをin vitroで減少させ、腫瘍細胞数をin vi
troで減少させ、および/または腫瘍細胞死をin vitroで誘導すると判定され
る場合、化合物を患者に治療有効量投与するステップをさらに含む。
【0062】
抗転移活性および/または抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスク
リーニングする方法は、(a)本明細書に上述のように、デバイスを提供するステップと
、(b)デバイス内に培地を循環させるステップと、(c)化合物を腫瘍細胞に(例えば
、化合物を培地に加えることにより)投与するステップと、次いで(d)一次チャンバー
および/または二次チャンバー中に存在する腫瘍細胞を定量的または定性的に検出するス
テップとにより実行することができ、この場合、チャンバー中に存在する腫瘍細胞が少数
であるほど(例えば、同様の条件下であるが、目的の化合物を投与していない他の腫瘍細
胞と比較して)、目的の化合物の抗転移活性および/または抗腫瘍活性が高くなることを
示す。いくつかの実施形態では、腫瘍に侵されている患者から腫瘍細胞を採取する。いく
つかの実施形態では、本発明の方法は、化合物が腫瘍細胞の転移をin vitroで減
少させ、構築物のサイズをin vitroで減少させ、腫瘍細胞数をin vitro
で減少させ、および/または腫瘍細胞死をin vitroで誘導すると判定される場合
、化合物を患者に治療有効量投与するステップをさらに含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、抗転移活性および/または抗腫瘍活性につ
いて目的の化合物をin vitroでスクリーニングするステップを含むことができ、
この方法は、(a)本明細書に上述のように、デバイスを提供するステップと、(b)肝
臓オルガノイドを含む第1のチャンバーから生きた腫瘍細胞オルガノイドを含む第2のチ
ャンバーへ増殖培地を循環させるステップと、(c)肝臓オルガノイドおよび/または生
きた腫瘍細胞オルガノイドに目的の化合物を(例えば、増殖培地に化合物を加えることに
より)投与するステップと、(d)試験化合物を投与しない場合の生きた腫瘍細胞オルガ
ノイド中に存在する腫瘍細胞数と比較して、第2のチャンバー中の腫瘍細胞の存在の減少
(例えば、数または密度の変化)を判定するステップとを含む。良性および/または腫瘍
細胞を任意選択的に含む、1つまたは複数の追加のオルガノイド、例えば、限定されない
が、脳、結腸、肺、内皮、心臓、上皮等のオルガノイドは、デバイスの追加のチャンバー
の1つまたは複数中に存在してもよく、このチャンバーは、相互に流体連通する。
【0064】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、抗転移活性および/または抗腫瘍活性につ
いて目的の化合物をin vitroでスクリーニングするステップを含むことができ、
この方法は、(a)本明細書に上述のように、デバイス(例えば、生きた腫瘍細胞オルガ
ノイドを含む一次チャンバー、および異なるオルガノイド(例えば、良性細胞を含むオル
ガノイド)を含む少なくとも1つの二次チャンバーを備えるデバイス)を提供するステッ
プと、(b)デバイス内に培地を循環させるステップと、(c)化合物を腫瘍細胞に(例
えば、化合物を培地に加えることにより)投与するステップと、(d)試験化合物を投与
しない場合の生きた腫瘍細胞オルガノイドおよび/または二次チャンバー中に存在する腫
瘍細胞数と比較して、一次チャンバー(例えば、生きた腫瘍細胞オルガノイドと関連する
)および/または二次チャンバー中の腫瘍細胞の存在の減少(例えば、数または密度の変
化)を判定するステップとを含む。1つまたは複数の二次チャンバー中の異なるオルガノ
イドの例は、良性および/または腫瘍細胞を含むことができ、脳、結腸、肺、内皮、心臓
、上皮、肝臓等のオルガノイドを含むが、これらに限定されない。
【0065】
本発明の方法は、限定されないが、蛍光化合物(例えば、色素、タンパク質他)等の検
出可能な化合物を含む標識細胞(例えば、腫瘍細胞)を含むことができる。本発明の前述
および他の態様を以下の実施例においてさらに説明する。
【実施例0066】
[実施例1]
本プロジェクトの第1の目的は、正常な宿主組織に囲まれた結腸直腸がん腫瘍の3Dモ
デルを評価することであった。改変した同心円状の環状構築物は、結腸直腸腫瘍コアおよ
び結腸上皮の外輪から構成されており、還元主義的であるが、生理的に適切な環境下の腫
瘍をモデル化する。この構築物を使用して、腫瘍コアの増殖、観察された任意の腫瘍細胞
の上皮層への浸潤、および薬物の有効性を測定した。ヒアルロン酸およびゼラチンベース
のヒドロゲル中に懸濁した細胞で構築物を作製した。4つの結腸直腸がん細胞型のうちの
1つを使用して腫瘍コアを作製し、これにより4レベルの悪性度のモデルを作製した。H
CT116細胞は、最も悪性であり、次いでHT29、SW480、およびCaco2細
胞であった。Caco2細胞が健常な上皮細胞に最も類似しているため、Caco2細胞
をまた、外輪に使用した。腫瘍コアを蛍光標識し、蛍光造影を使用して、7~14日の経
過を通じて腫瘍コアを監視した。この期間の後、腫瘍コアは、高密度となることが示され
たが、浸潤は、ほとんど見られなかった。Caco2外輪およびSW480コアで作製し
た環状構築物をまた、化学療法剤であるレゴラフェニブで処置した。MTSアッセイによ
り、処置後、生存可能な細胞の量の減少が確認され、LIVE/DEAD染色により、レ
ゴラフェニブが、より腫瘍原性が低いCaco2細胞よりも構築物の内輪を選択的に標的
としたことが示された。
【0067】
第2の目的は、3D結腸直腸がん腫瘍構築物から転移する細胞数を定量化するシステム
を開発することであった。マイクロ流体灌流デバイスをデザインして、循環する転移細胞
を、デバイス内のチャネル中に封着したTranswell膜上で捕捉した。ポリジメチ
ルシロキサン(PDMS)のソフトリソグラフィーを使用してデバイスを作成した。ヒド
ロゲル中に懸濁した単一腫瘍細胞型からなる腫瘍構築物を適切なチャンバー中に配置し、
デバイスを密封、固定した。デバイス内を通して培地を循環させ、約2週間、2~3日毎
に画像を取得した。2週間後、Transwell膜上で細胞を観察したところ、デバイ
スが、腫瘍構築物から循環に入った腫瘍細胞の定量化を支援することが可能であることを
示した。さらなる試験を実行して、悪性度の異なるレベルの腫瘍細胞が、異なる遊走数を
定量的に示すかどうかを確認する。
【0068】
要約すれば、このような2つのモデル、3D同心円環状腫瘍モデルおよびマイクロ流体
循環腫瘍細胞定量デバイスは、腫瘍細胞の増殖、腫瘍細胞応答に対する薬物の効果、およ
び循環する細胞の定量化を試験する新規の方法をもたらす。
【0069】
[実施例2]
3D腫瘍オルガノイドを新鮮腫瘍生検から直接マイクロエンジニアリングにより作製し
て、療法の開始前の治療最適化の実施を可能とする、患者特異的モデルシステムを作成し
た。ここで、患者から摘出した中皮腫腫瘍生体試料を使用して、このプラットフォームの
初期導入を実証する。tumor-on-a-chipマイクロ流体デバイス内で、生存
可能な3D腫瘍構築物を生物学的に作製および維持する能力について示す。次いで、on
-chip化学療法スクリーニングにより、薬物のシスプラチンおよびペメトレキセドに
対する患者の応答を模倣することを実証する。最後に、遺伝子バイオマーカー評価により
同定した候補化合物の有効性をin vitroで実証する。
【0070】
方法
薄膜マイクロ流体デバイスの作製
マイクロ流体デバイス作製方法は、他で既に公表されている方法に基づく。カッティン
グプロッター(GraphTec-CE6000-40)を使用して、両面接着フィルム
にチャネルを形成し、パターン層の底表面を清浄な顕微鏡スライドガラスに接着した。チ
ャネルへの流体送達のための出入口として作用するようにボール盤で空けた穴を特徴とす
るポリスチレンスライド(Tedpella.Inc)を上表面に接着した。デバイス構
築の後、PTFEチューブを各ポートに接続し、UV硬化ポリエステル樹脂を使用して固
定した。
【0071】
患者の病歴
患者は、衰弱性悪液質、ECOG2機能ステータスおよび腹部膨満を呈している50歳
男性である。組織診断について診断的腹腔鏡検査を実施し、これにより類上皮悪性腹膜中
皮腫の診断が確定した。彼の腫瘍の高精度医療分析により、利用可能な標的薬物または臨
床試験が存在しない、2つのゲノム変化(BAP1スプライス部位1729+1G>Aお
よびPBRM1 N258fs×6)が明らかとなった。iv造影剤を用いたコンピュー
タ断層撮影(CT)により、腹膜腔外に疾患の徴候なくして、多量の悪性腹水が示された
。彼は、腹腔内温熱化学療法(HIPEC)を併用した腫瘍縮小術(CRS)について検
査を受けた。腫瘍の体積が過度であるため、その時点で完全なCRSを達成する見込みは
なかった。したがって、彼には、腫瘍体積の縮小を目指して、最新の全身化学療法が勧め
られた。シスプラチン-ゲムシタビンを6サイクル、その後シスプラチンに伴う聴器毒性
の懸念のため、カルボプラチン-ゲムシタビンを単一サイクル用いることにより彼を治療
した。彼は、シスプラチンベースの化学療法に対して良好な臨床応答を示し、反復病期診
断CTとカルボプラチンベースの化学療法前に実施する臨床検査との両方において、その
悪性腹水が、ほとんど完全に消失した。続いて、彼を手術室へ誘導し、CRS/シスプラ
チンベースのHIPECを施術したところ、術後経過に特筆すべきことはなかった。外科
的診査の間およびHIPEC前に、その大網疾患の区域を剪刀で切除し、氷中に置き、腫
瘍オルガノイドを構築するために研究室へ直ちに移した。
【0072】
腫瘍生体試料の入手および細胞処理
細胞処理のために摘出から1時間以内に腫瘍を研究室へ運んだ。受け取るとすぐに、2
%のペニシリン-ストレプトマイシンを含むリン酸緩衝液(PBS)中で5分間3サイク
ル腫瘍を洗浄し、次いで、2%のペニシリン-ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変
イーグル培地(DMEM)中で5分間2サイクル洗浄した。腫瘍をそれぞれ刻み、37℃
のシェーカープレート上で、2%のペニシリン-ストレプトマイシンおよび10%のコラ
ゲナーゼ/ヒアルロニダーゼを含むDMEM中に入れて18時間置いた(10X Col
lagenaze/hyaluronidase in DMEM、STEMCELL
Technologies、Seattle、WA)。次いで、消化分解された腫瘍を1
00μmの細胞フィルターによりろ過し、遠心分離してペレットを生成する。血漿および
非細胞物質を除去し、9mLの脱イオン水を含む1mLのBD PharmLyse中に
5分間、ペレットを再懸濁した(BD PharmLyse、San Diego、CA
)。コニカルビーカーを50mLまで脱イオン水で満たし、遠心分離した、細胞を溶解し
た溶解緩衝液を吸引し、細胞ペレットを使用可能なものとした。
【0073】
細胞外マトリックスヒドロゲルの調製および基本的オルガノイド形成
ECM模倣HA/ゼラチンベースヒドロゲル(HyStem-HP、ESI-BIO、
Alameda、CA)を上述のように調製した15、18、27。簡潔には、チオール
化HA成分(Glycosil)およびチオール化ゼラチン成分(Gelin-S)を0
.05%w/vの光開始剤2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メ
チルプロピオフェノン(Sigma、St.Louis、MO)を含む滅菌水中に溶解し
て、1%w/vの溶液を調製した。ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA
)架橋剤(Extralink、ESI-BIO)を光開始剤溶液中に溶解して、2%w
/vの溶液を調製した。次いで、Glycosil、Gelin-S、およびExtra
linkをそれぞれ2:2:1の容量比で混合した。腫瘍構築物形成では、調製した溶液
を、ボルテックスを細胞の再懸濁に使用することにより完全に混合し(2,000万細胞
/mL)、その後、1秒間の紫外線曝露(365nm、18Wcm-2)により架橋およ
びオルガノイド形成を開始する。
【0074】
Tumor-on-a-chipバイオファブリケーション
発明者らの以前の研究に類似のフォトパターニング技術を使用して、マイクロ流体デバ
イス内で腫瘍構築物を生物学的に作製した15。ここで、チャネル形成に使用した同一の
カッティングプロッター技術により1~3mmの開口を特徴とするフォトマスクをアルミ
箔で作製し、適合するパターニングした接着フィルムでマイクロ流体デバイスの底表面に
接着した。次いで、ヒドロゲル前駆物質の溶液を、密度2,000万細胞/mLの患者の
中皮腫生検由来の細胞と混合した。混合物を各デバイスチャネルに入口から導入し、オル
ガノイド構築物を1秒間、接着したフォトマスクを通して紫外光に曝露することにより(
365nm、18Wcm-2)明確化した。このように曝露することによってチオレンの
段階的架橋反応を迅速に開始し、これにより3Dカラム中で細胞を被包した。最後に、曝
露しない前駆物質/細胞混合物をリン酸緩衝食塩水でデバイスから洗い流して、各チャネ
ル中に3D患者由来中皮腫構築物を残した。細胞構築物を有するデバイスの各チャネルを
、DMEMを有する別々のリザーバーに接続した。MP2 Precision mic
ro-peristaltic pump(Elemental Scientific
Inc.Omaha、NE)に接続したシラスティックチューブにより、チャネルを通
してリザーバーから培地を流した。流動を開始し、10μL/分に維持した。
【0075】
組織学的評価
5μm厚のオルガノイド切片をパラフィンで包埋した構築物から作製し、次いで、染色
するために脱パラフィンした。IHCを使用してバイオマーカーであるサイトケラチン5
/6(CK5/6)、カルレチニン、およびトロンボモジュリンを可視化した。Dako
Protein Block存在下で15分間のインキュベーションによりブロッキン
グを実施した。一次抗体CK5/6(Abcam、ab17133、マウス中で産生)お
よびカルレチニン(Abcam、ab702、ウサギ中で産生)またはCK5/6および
トロンボモジュリン(Abcam、ab109189、ウサギ中で産生)をDako A
ntibody Diluentで1:200に希釈して、スライド上の切片に適用し、
室温で1時間インキュベートした。次に、適切な種反応性を有するAlexa Fluo
r 488またはAlexa Fluor 594二次抗体をDako Antibod
y Diluentで1:200に希釈して、すべての試料に適用し、室温で1時間放置
した(抗マウスAlexa Fluor 488および抗ウサギAlexa Fluor
594、Life Technologies、Carlsbad、CA、A-110
70)。次いで、カバースリップで覆う前にDapiで5分間、切片をインキュベートし
た。後続のバイオマーカーによる実験では、アネキシンVおよびKi67染色(Abca
m、Cambridge、MA、それぞれab14196およびab16667)に同一
プロトコルを使用した。Leica DM400B複合顕微鏡を使用して蛍光画像を取得
し、分析のためにオーバーレイした。
【0076】
シスプラチン、カルボプラチン、およびペメトレキセド薬物試験
第1週の終わりに、2つの構築物について後述のようにLIVE/DEAD染色を実施
して、薬物の添加前に細胞が生きていたことを確かめた。薬物の2つの組合せを考えて、
このがんモデルについて試験した。DMEM中に混合した0.1μmおよび10μmの2
つの異なる濃度のシスプラチン+ペメトレキセドおよびカルボプラチン+ペメトレキセド
である。DMEMリザーバーを2mLの容量のこの薬物混合物に置き換えた。
【0077】
LIVE/DEAD染色(哺乳動物細胞用LIVE/DEAD Viability/
Cytotoxicity Kit、Life Technologies、Grand
Island、NY)を薬物曝露期間の終わりの7日目に実施した。はじめに、循環す
る培地を清浄なPBSでデバイスチャネルから洗い流し、次いで、2μMのカルセインA
Mおよび2μMのエチジウムホモダイマー1を含有する、PBSとDMEM(1:1)の
混合物1mLを導入した。構築物を60分間インキュベートし、その後、チャネルを清浄
なPBSで再び洗い流した。Olympus Fluo View(商標)FV1000
共焦点顕微鏡を使用してin situ造影を実施した。赤色および緑色蛍光の両方に適
したフィルターを使用して、各構築物について5μmのzスタックを取得し、次いで、オ
ーバーレイした。
【0078】
Imaris MeasurementPro(Bitplane、Concord、
MA)を使用して共焦点画像を処理した。このソフトウェアにより、各カラーチャネルの
画像を細胞のサイズ、形状、および蛍光強度について分析し、細胞の位置を標識した。整
合性のために、各画像の450μm×900μmの面積を考慮した。赤色チャネル(死(
DEAD))で識別した細胞の総数と比較して、緑色チャネル(生(LIVE))で識別
した細胞の総数の定量化により細胞生存率を算出した。
【0079】
バイオマーカーによる実験薬物試験
腫瘍生体試料を採取した患者は、ウェイクフォレストバプテストメディカルセンター(
Wake Forest Baptist Medical Center)の総合がん
センター(Comprehensive Cancer Center)における高精度
医療プログラムに参加し、生検の一部は、腫瘍中の潜在的なアクショナブル変異の同定の
ために送られることとなった。匿名化したデータは、BAP1遺伝子に陽性の変異を示し
、zesteホモログ2エンハンサー(EZH2)阻害剤を実験的な標的療法として試験
するのに有利な条件を示した。
【0080】
腫瘍構築物をもう一度生物学的に作製し、その後、薬物スクリーニング前に3日間、こ
れを維持した。次いで、患者のオルガノイドを、細胞培養培地中で0.1μM、1μM、
および10μMの濃度のヒストンメチルトランスフェラーゼEZH2阻害剤である薬物3
-デアザネプラノシンA(3-deazaneplanocin A)(DZNep)に
96時間のインキュベーション期間、曝した。EZH2阻害に応答することがわかってい
る結腸直腸がん細胞株であるHCT116細胞を使用して生物学的に作製したオルガノイ
ドを、陽性対照として並行して試験した。MTSアッセイおよび免疫組織化学的検査によ
り薬物の効果を定量化した。MTSアッセイ(CellTiter 96 One So
lution Reagent Promega、Madison、WI)により、ミト
コンドリア代謝を定量化して相対的細胞数を判定した。波長490nmの調節可能なプレ
ートリーダーシステムであるMolecular Devices SpectrumM
ax M5(Molecular Devices)上で吸光度値を測定した。
【0081】
5μm厚のオルガノイド切片についてバイオマーカーアネキシンVおよびKi67を使
用して免疫組織化学染色を実施した。パラフィンに包埋し、薄片にし、次いで、IHC染
色のために脱パラフィンした、以前に染色しなかったオルガノイドから切片を採取した。
一次抗体アネキシンVをDako Antibody Diluentで1:200の濃
度に希釈してスライドに適用し、室温で60分間放置した(アネキシンV、Abcam、
Cambridge、MA、ab14196)。平行して、別の試料について、一次抗体
Ki67をDako Antibody Diluentで1:200の濃度に希釈して
適用した(Ki67、Abcam、ab16667)。Alexa488二次抗体をDa
ko Antibody Diluentで1:200の濃度に希釈して、すべての試料
に適用し、室温で1時間放置した(Alexa 488、Life Technolog
ies、Carlsbad、CA、A-11070)。Leica DM400B複合顕
微鏡を使用して蛍光画像を取得し、アネキシンVおよびKi67についてGFPの隣り合
う切片の画像を取り、分析のためにオーバーレイした。アネキシンVの画像を赤色に着色
し(白黒画像中の中灰色)、Ki67の画像を緑色に着色した(白黒画像中の明灰色)。
【0082】
結果
高精度医療による腫瘍オルガノイド戦略
発明者らの目的は、有効性について抗がん剤を試験し、次いで、治療最適化の情報を提
供することが可能な、患者特異的腫瘍からなるプラットフォームを開発することであった
。個別化した高精度医療の概念は、以下のように働く。腫瘍生検を患者から採取する場合
、生体試料のうちのいくつかまたはすべては、ドラッガブルな標的を示し得る変異を同定
するために、一部または全部を遺伝子配列決定する。続いて、このようなバイオマーカー
のうち1つを標的とする、FDAが認可した薬物が利用可能であるか、または臨床試験が
進行中である場合、患者が受ける、その薬物または試験のための療法は、それに応じて調
整することとなる(図1-実線矢印)。至適条件下では、この戦略は、標準的化学療法に
おいて、より有効な療法をもたらす。しかし、実際には、頻繁に多重変異が同定され、明
確で最良な治療がないことにより可能性のある薬物の一連の選択肢が生じ、このような薬
物ならびに可能性のある実験薬物を試験する追加手段が必要となる。発明者らの方法は、
遺伝子プロファイリングのために送られた同一の生体試料材料を使用して形成した、患者
由来の腫瘍オルガノイドを組み込むことである。この方法では(図1-破線矢印)、生体
試料の一部を採用して、細胞を支持する細胞外マトリックスヒドロゲル生体材料を用いた
多数のマイクロスケール3D腫瘍オルガノイドを生物学的に作製する。次いで、遺伝子ス
クリーニングで同定した薬剤を試験するようにデザインした薬物スクリーニングに、この
ようなオルガノイドを使用し、これによって、その患者にどの薬剤が最も有効かを判定す
る。
【0083】
患者特異的tumor-on-a-chipバイオファブリケーション
図2のパネルA~Cは、薄膜マイクロ流体デバイスの生物学的作製、腫瘍オルガノイド
のin situ組込み、および一般的デバイス操作のプロセスを表す。6つの独立した
腫瘍オルガノイドを収容することが可能なデバイスは、流体チャネルおよびオルガノイド
チャンバーを遮断する接着フィルムからなり、これは、出入口を有するポリスチレンスラ
イドとフォトマスクを接着したスライドガラスとの間に挟まれている(図2、パネルA)
。患者の腫瘍由来の細胞を含有するヒドロゲル前駆物質溶液を使用して腫瘍オルガノイド
をパターン形成し、この腫瘍オルガノイドを6チャネルそれぞれの中に導入し、フォトマ
スクの開口を通してオルガノイドとして光重合した(図2、パネルB)。オルガノイドを
生物学的に作製した後、マイクロ蠕動ポンプおよび培地リザーバーにチューブを介してデ
バイスを接続し、その後、オルガノイド培地の流動を開始した(図2、パネルC)。
【0084】
はじめに、循環するDMEM存在下で7日間または14日間、各腫瘍構築物を放置した
。生存可能な患者由来腫瘍モデルを維持するプラットフォームの能力を検証するために、
発明者らは、7日目および14日目に、オルガノイドについてLIVE/DEAD分析を
実施した(図2、パネルD)。結果は、7日目には90%より高く、14日目には85%
より高い、高細胞生存率を示し、これによって、発明者らのデバイス構造およびその支持
ヒドロゲルマトリックスにより、実験法の拡張のために、患者由来細胞を支持することが
可能であることを実証した。
【0085】
Tumor-on-a-chipが患者の薬物応答と相関する生存可能な患者由来モデル
および化学療法薬試験を支持する
7日目に、腫瘍構築物のサブセットを、2つの異なる用量である、カルボプラチン/ペ
メトレキセドおよびシスプラチン/ペメトレキセドの各化学療法薬混合物のうちの1つ、
または薬物なしに曝露した。7日の治療の後、LIVE/DEAD分析をすべてのオルガ
ノイドについて実施した(図3、パネルa(i)~f(i)およびa(ii)~f(ii
))。対照(薬物なし)条件下では、腫瘍構築物を観察して高生存率に維持したところ、
デバイス内で合計14日後、87%までの統計学的に有意な低下を示した。しかし、薬物
混合物に曝露したオルガノイドは、生細胞率の大幅な低下を示した。カルボプラチン/ペ
メトレキセドで処置した試料では、0.1μMの循環濃度の場合は生存率が52.1%に
、10μMの場合は39.8%に低下したことを発明者らは確認した。高用量では、低用
量よりも2桁高い濃度であったが、認められた生存率の変化は、低い有意性しか有さず(
p<0.1)、潜在的に中等度の薬物効果を示した。対照的に、シスプラチン/ペメトレ
キセドで処置したオルガノイドでは、0.1μMの濃度の場合は39.0%、10μMの
場合は11.8%までの生存率の低下がもたらされた。これらは、相互(p<0.05)
と対照測定(それぞれp<0.05およびp<0.001)の両方と比較して有意な低下
を示した。したがって、シスプラチン/ペメトレキセドは、発明者等のデバイスにおいて
、カルボプラチン/ペメトレキセドよりも有意に有効であった。このような結果を図3
パネルgに纏める。
【0086】
このようなデータは、2つの中心的な成果を有する。第一に、このデータは、広範な試
験のために、生体工学により作製したオルガノイド系において長期的に、患者の腫瘍生検
由来の細胞を持続することが可能であることを実証する。発明者らの知るところでは、本
発明は、この能力を初めて報告したものである。第二に、このデータは、このようなオル
ガノイドをin vitroで薬物スクリーニングすることが実行可能であり、細胞生存
率の薬物依存的低下をもたらすことを示す。治療の施行前に患者特異的方法で薬物有効性
を原理的に確立することができるため、これは、療法デザインに対して有望な利点となる
。例えば、このような測定において、発明者らの結果は、シスプラチン/ペメトレキセド
を、カルボプラチン/ペメトレキセドよりも優れた治療選択肢として提案する。個別化医
療の性質として、患者において2つの薬剤の有効性を体系的に比較することができない。
しかし、決定的には、患者をシスプラチン/ペメトレキセドで治療して、良好な応答を得
た。これは、患者特異的薬物の有効性が、発明者らのin vitroシステムにおいて
正確に再現可能であることを示唆する。
【0087】
遺伝子バイオマーカー同定による実験薬物スクリーニング
高精度医療試験により、腫瘍生体試料において既知の2つの変異を同定した。BAP1
スプライス部位1729+1G>AおよびPBRM1 N258fs×6である。BAP
1(BRCA1関連タンパク質1)は、脱ユビキチン化酵素28であり、一方、PBRM
1は、いくつかのがんと関連する腫瘍抑制遺伝子29である。試験時には、中皮腫または
他の任意の腫瘍型において、いずれの変異もFDA認可療法と関連しなかった。
【0088】
しかし、さらなる調査において、発明者らは、動物モデルおよびin vitro試験
において、DNAのメチル化および転写抑制に関与する酵素であるEZH2を阻害するこ
とにより30、BAP1の変異を標的として成功してきたことを確認した(図4、パネル
A)。したがって、発明者らは、EZH2阻害剤であるDZNepを使用して、薬物スク
リーニング実験を実施した。対照集団として、広範に研究されている結腸直腸がん細胞株
HCT116を使用して、オルガノイドを作製した。重要なことには、HCT116細胞
は、DZNep31で処置すると、細胞周期が停止するが、必ずしも顕著なレベルの細胞
死を受けないことがわかっており、したがって、発明者らは、HCT116細胞が、この
試験に適切な対照であると考えた。
【0089】
発明者らの結果は、薬物治療後、HCT116の増殖の有意な減少は無かったが、中皮
腫の増殖の有意な減少があったことを示す(図4、パネルB)。HCT116および中皮
腫の対照は類似していたが、DZNepで処置した中皮腫は、薬物濃度の上昇とともに、
対照と比較して増殖が減少したことを示した。DZNep濃度が上昇するにつれて、細胞
増殖は減少した。さらに、HCT116と中皮腫とで比較すると、すべての治療薬濃度に
ついて、中皮腫細胞増殖が有意に減少することが示される。両方の細胞型について、すべ
ての条件にわたってアネキシンVおよびKi67免疫組織化学的検査を実行した。アネキ
シンVでは、DZNep濃度の上昇とともに中皮腫が増加するように見え、これは、アポ
トーシス細胞の増加を表す(図4、パネルC)。しかし、すべてのHCT116条件にわ
たって増殖の微小変化が見られ、これは、DZNepが増殖に大きく影響しなかったこと
を示す(図4、パネルD)。各オルガノイドについてヘマトキシリンおよびエオシン染色
を行ったところ、中皮腫の代表的な画像では、DZNepで処置した場合、ゴースト細胞
および核のないゴースト細胞を示す(図4、パネルE)。この応答は、中皮腫またはHC
T116対照では見られず、HCT116のいかなる処置物においても存在しない(図4
、パネルF)。中皮腫のみが応答したことにより、DZNepが患者試料の増殖を測定可
能に減少させ、HCT116が応答を示さない適切な陽性対照として作用したことが、さ
らに示される。
【0090】
考察
腫瘍DNAを配列決定してアクショナブルな遺伝子変異を同定する高精度腫瘍学が、が
ん治療の療法決定における標準的な臨床診療となる態勢は整っている。しかし、現在、い
かなる既報の遺伝子変異と可能性のある薬物との相関性も治療開始前には確認できず、そ
の上、たった11%の高精度医療を試験した患者のみが、高精度医療が導く治療に従うこ
ととなる。さらに、組織型、悪性度および腫瘍体積に基づく、がんの生物学的挙動には多
変性がある。
【0091】
研究では、患者由来の異種移植片(PDX)を使用して患者の腫瘍の進行および薬物治
療応答を試験してきた。このようなモデルは、マウス由来細胞が浸潤する原因となる生検
または腫瘍試料を留置する、免疫不全マウスを必要とすることがない。細胞はまた、その
新たな環境に適応し、初期試料から遺伝的浮動を示しており、これにより、やはり理想的
とは言えないものとなっている。PDX技術の広範な採用における1つのさらなる制限要
因は、免疫不全マウス中に導入した場合、最も悪性の腫瘍生体試料のみが「生着」に成功
することである。一般的に25~33%のパーセント成功率範囲であると認められる、そ
の乏しい生着率により、大多数のがん患者に対するPDX技術の適応性およびその予測的
応用が制限されている。本明細書に記載の研究、および平行して進行中の試験の初期では
、発明者らの方法に対する主要な批評は、PDXの生着率の割合を発明者らが改善するこ
とができたかというものであった。注目すべきことには、これは、発明者らのプラットフ
ォームにおいては、驚くほど簡単なものであった。図2に示すように、発明者らは、培養
の7日目および14日目に高い細胞生存率を確認している。さらに、発明者らが、他の中
皮腫生体試料および他のGI腫瘍生体試料を用いて同様の試験を実施する場合、発明者ら
は、90%より高い生着率を観察した。10%の非生着率が、低悪性度虫垂粘液性腫瘍患
者から得た無細胞試料を反映している可能性があることに言及することは重要である。上
記は、現時点ですべての高悪性度の試料が、オルガノイドを増殖させたという知見から生
じる。これは、意味のあることであり、3D、ECM微小環境支持オルガノイド技術を使
用することによって、PDX技術により可能なものよりも、より多くの患者にとって採用
可能なモデルを作製することが可能であり得ることを我々に示す。非常に見込みのある一
方で、生着効率のさらなるこの証拠のため、有意なさらなる確認試験が必要とされる。
【0092】
この一連の実験では、生着率および生存率評価を越えて、発明者らは、1)患者と腫瘍
オルガノイドとの相関性および2)実験薬物のバイオマーカーによる試験、の2つのさら
なる概念実証のシナリオの実現可能性を実証する。第一に、発明者らは、中皮腫オルガノ
イドプラットフォームを使用して、この型のがんに臨床的に使用する、一般的な化学療法
レジメンのうちの2つをスクリーニングした。特に、発明者らは、シスプラチンおよびペ
メトレキセド対カルボプラチンおよびペメトレキセドの組合せに対するオルガノイドの応
答を試験した(図3)。マイクロ流体システムを介して循環する培地中へ注入することに
より7日間、薬物に曝露すると、シスプラチン-ペメトレキセド治療が、より有効であっ
たことを示す、明確な結果がもたらされた。生細胞に対する死細胞の比率は、相対的濃度
のカルボプラチンおよびペメトレキセドと比較して、10μMのシスプラチンおよびペメ
トレキセドの治療においてより高かった。発明者らが、そのプラットフォームにより薬物
スクリーニング試験の実施に成功することができるという点では、この結果は、それ自体
で、発明者らのプラットフォームを立証する。しかし、より重要なことには、このような
オルガノイドを導出した患者はまた、そのシスプラチンベース化学療法の終わりに実施し
たCT造影において、その多量の腹水が、ほとんど完全に消失したことにより実証された
ように、シスプラチンベースの化学療法に対して劇的に応答した。実際には、この患者は
、その腫瘍がシスプラチンベースの治療に応答しなければ、有効な対象ではなかった。こ
れは、重要なことであり、患者と発明者らのオルガノイド技術との、このような相関的結
果は、臨床適用を目的としたこの方法を実証するために、発展し続ける上で重要なデータ
セットである。
【0093】
第二に、発明者らは、患者の腫瘍生体試料の一部を使用した遺伝子試験結果を確認した
。この報告は、この腫瘍に特異的な2つの変異が同定されたことを示した。BAP1スプ
ライス部位1729+1G>AおよびPBRM1 N258fs×6である。上記のよう
に、BAP1は、脱ユビキチン化酵素28であり、一方、PBRM1は、いくつかのがん
と関連する腫瘍抑制遺伝子29である。このような試験時には、中皮腫または他の任意の
腫瘍型において、いずれの変異もFDA認可療法と関連せず、進行中のいずれの適切な臨
床試験とも関連しなかった。しかし、発明者らは、動物モデルおよびin vitro試
験において、EZH2を阻害することにより30、BAP1の変異を標的としてきたこと
を確かに確認した。したがって、発明者らは、遺伝子分析において示される、このような
バイオマーカーが、アクショナブルな標的として確かに使用され得たかどうかを問う試験
シナリオとして、EZH2阻害剤であるDZNepを使用して、薬物スクリーニング実験
を実施した(図4)。実際に、この化合物による治療において、発明者らは、一般的には
細胞数に比例する一測定基準である、ミトコンドリア代謝の低下を認めた。その上、発明
者らは、アポトーシスを示す、アネキシンVの発現の増加傾向に対して、増殖細胞を示す
、Ki67の発現の減少傾向を認めた。さらに、H&E染色により、細胞形態および損傷
のない細胞核が、化合物により用量依存的に損傷を受けることが示される。広範に使用さ
れているHCT116結腸直腸がん細胞株から同一の方法で作製したオルガノイドは、同
様に応答しなかった。むしろ、DZNepは、濃度にかかわらず、その間でほとんど効果
を有さないように見えた。
【0094】
循環系を有する平行化したマイクロ流体プラットフォームにおいて、このような3D腫
瘍モデルを導入することによって、発明者らは、単一デバイス上で複数の薬物の種類およ
び用量を評価する能力を有するだけでなく、発明者らは、遠隔部位への転移前に発生する
、腫瘍の進行、遊走、および循環系への血管内浸潤の動態を可視化し、追跡する有利な条
件をも得る。
【0095】
[実施例3]
in vitroで90%より高い生着率で(対して2D細胞培地では10%未満)、
患者腫瘍由来オルガノイドの複数のセットが作製されており、これは、最も高悪性度の生
体試料のみが増殖する、患者由来の異種移植片(PDX)モデルにおける既報の生着率2
5~33%と比較して有利である。この乏しい生着率により、多くのがん患者のための予
測診断へPDX技術を応用することが制限されている。発明者らの腫瘍オルガノイド系を
薬物スクリーニングに引き続き使用して、患者と同様に、その腫瘍オルガノイドが異なる
薬物に対する選択的応答を維持することを実証している。現在までに、結腸直腸がん、高
および低悪性度虫垂転移部位から網、卵巣および肝臓まで、腹膜中皮腫、ならびに四肢の
肉腫を含む、一次細胞の多様な群と、その転移部位から患者特異的オルガノイドのセット
が作製されている。1)腫瘍オルガノイド薬物応答とオルガノイドを導出する患者の薬物
応答との相関性、2)患者の腫瘍におけるドラッガブルな変異の同定に基づいてデザイン
した療法の有効性を試験する能力、および3)培養することが難しい腫瘍集団から、生存
可能なオルガノイドを構築することを実証する、いくつかの例を本明細書に記載する。
【0096】
発明者らは、希少で単離および培養することが難しいがん型から、生存可能な腫瘍オル
ガノイドモデルを作製する能力を実証した。例えば、発明者らは、低悪性度虫垂(LGA
)腫瘍(図5、パネルA)、および従来から「良性」中皮腫と呼ばれる、高分化型乳頭状
中皮腫(図5、パネルB)から生存可能な患者特異的腫瘍オルガノイドを作製した。この
両方は、緩慢な増殖パターンおよび予測できない形質転換能力を有する。現在まで、一次
細胞から低い増殖指数で細胞培養物を構築することは、本質的に不可能であった。重要な
ことには、治療によく応答する高悪性度オルガノイドおよび2D培養物と比較して、発明
書らのLGAオルガノイドは、化学療法剤に応答しない(図5、パネルC)。このような
データは、LGAが確かに化学療法抵抗性の腫瘍であり、したがって、化学療法を用いた
LGA患者の治療は有益ではなく、その治療に無用の毒性を残すという初めての有用で確
実な証拠となり得る。さらに、発明者らは最近に四肢の肉腫を処理し、発明者らのプラッ
トフォームにおいて高生存率をも示す患者特異的肉腫オルガノイドのセットを作製した(
図5、パネルD)。このような肉腫オルガノイドは、薬物スクリーニング試験において現
在、採用されている。
【0097】
[実施例4]
悪性腫瘍細胞に対する正常細胞型の制限は、細胞間相互作用の変化により、および物理
的障壁により維持される(Lodish H、Berk A、Zipursky SL、
et al.2000)。抗がん剤は、循環系を介して腫瘍へ移動し、血管外組織を貫通
して、臓器の内部に存在する、がん細胞を標的とすることに成功しなければならない(T
annock et al.2002)。環状オルガノイドモデルでは、異なる細胞型に
囲まれる浸潤性のがん型を含む単純な3D微小臓器、またはオルガノイドを作製し、次い
で、特異的抗がん剤を使用して内部の浸潤性細胞株を標的とすることにより、抗がん剤送
達のin vivoプロセスを再現することを試みる。さらに、本明細書に記載の実験を
実施して、in vivoで見られる環境と同様の3D微小環境に外部および内部の細胞
型の両方が存在する場合、抗がん剤が、外部の細胞型とは対照的に、内部の、より浸潤性
の細胞株を標的とすることに成功するかどうかを判定した(前述の3D薬物スクリーニン
グにより有効性を判定した)。
【0098】
抗がん剤の有効性について細胞外微小環境の影響を調査するために、種々の濃度の抗が
ん剤(レゴラフェニブ、ソラフェニブ、トラメチニブ、5-フルオロウラシル、およびダ
ブラフェニブ)を4つの結腸直腸がん細胞株(HCT116、HT29、SW480、お
よびCACO2)に投与し、さらに、これをヒアルロン酸ベースのヒドロゲルに包埋、ま
たはウェルプレートのウェル中に直接播種した。ヒアルロン酸ベースのヒドロゲルに包埋
した結腸直腸がん細胞は、in vitro3次元微小環境中のがん細胞を模擬し、ウェ
ル中に直接播種した細胞は、従来の2次元微小環境中で増殖したがん細胞とした。
【0099】
2D腫瘍構築物薬物スクリーニング
単層培地中に存在する結腸直腸がん細胞株を用いた2D薬物スクリーニングを行って、
in vivoの悪性腫瘍に典型的に見られる細胞ECM間相互作用を欠く、従来の薬物
スクリーニングの実践において抗がん剤の有効性を判定した。
【0100】
ウェル中に直接播種したがん細胞に4~5時間を与えて、ウェル底部に再接着させた。
その後、抗がん剤溶液を培地の代わりに投与し(図6、パネルA)、2日後にMTSアッ
セイを実行して細胞生存率を判定した。抗がん剤のMTS吸光度の結果を、薬物なしの対
照のMTS値の結果と比較して示す(図6、パネルB)。100μMの濃度のレゴラフェ
ニブおよびソラフェニブ、ならびに100mMの濃度の5-FUでは、細胞生存率は、使
用した結腸直腸がん細胞株の4つすべてについて、対照の生存率の20%未満に留まった
。しかし、ダブラフェニブおよびトラメチニブによるスクリーニングでは、高濃度の他の
3つの抗がん剤と異なる結果がもたらされた。100μMの濃度のダブラフェニブは、H
CT116細胞について約36%からSW480細胞について約93%の範囲の相対細胞
生存率の値を生じ、100nMの濃度のトラメチニブは、CACO2細胞について約39
%~SW480細胞について約58%の範囲の相対細胞生存率の値を生じた。1mMの濃
度の5-FUで処置した場合、相対細胞生存率は、SW480細胞については約39%で
あり、HCT116、HT29、およびCACO2細胞については10%~22%未満に
留まった。このような値は、最も低い濃度の他の抗がん剤の相対細胞生存率の値よりも、
かなり低かった。
【0101】
3D腫瘍構築物薬物スクリーニング
結腸直腸がん細胞株について3D薬物スクリーニングを行い、さらに、ヒアルロン酸ベ
ースのヒドロゲル構築物に包埋して、ヒアルロン酸の存在下での細胞ECM間相互作用が
、抗がん剤の有効性にどのように影響するかを観察した。
【0102】
ポリジメチルシロキサン、すなわちPDMSを使用してウェル底部をコートした。ヒア
ルロン酸ベースのヒドロゲルで細胞を包埋し、5日を与えて、その3次元環境に順化させ
、5日目に異なる抗がん剤溶液を投与した(図7、パネルA)。7日目にMTSアッセイ
を行い、結果は、対照値の結果と比較して示した(図7、パネルB)。100μMの濃度
のレゴラフェニブおよびソラフェニブでは、細胞生存率は、使用した結腸直腸がん細胞株
の4つすべてについて、対照の生存率の25%未満に留まった。この唯一の例外は、10
0μMのレゴラフェニブをCACO2細胞に投与した場合であり、パーセント相対細胞生
存率は、約48%まで上昇した。100mMの5-FUを用いてスクリーニングすると、
SW480細胞に使用した場合の48%からHCT116細胞に投与した場合の81%の
間の相対細胞生存率の値が生じた。しかし、10mMの濃度の5-FUのみが、4つの細
胞株すべてについて、SW480細胞の9%からHT29細胞の50%の間の範囲の細胞
生存率の値を生じた。100μMの濃度では、ダブラフェニブは、HCT116およびS
W480細胞株を標的とする上で高い有効性を示し、38%および43%の相対細胞生存
率の値を示した。これは、HT29およびCACO2細胞株と対照的であり、93%およ
び75%のより高い細胞生存率の値を示した。100μMの濃度のトラメチニブでは、4
つの結腸直腸がん細胞株について、狭い範囲内に収まる相対細胞生存率の結果がもたらさ
れ、SW480細胞で54%およびHT29細胞で74%の値であった。
【0103】
2Dおよび3D薬物スクリーニングの比較
2Dおよび3D薬物スクリーニングについて有意差統計を実行して、いずれかの環境に
ある場合、結腸直腸がん細胞が抗がん剤に異なって反応したかどうかを確かめた。このよ
うな薬物スクリーニングにおける薬物に対する細胞応答の有意差は、細胞とヒアルロン酸
との間の細胞ECM間相互作用が原因であることを示唆する。レゴラフェニブ、ソラフェ
ニブ、および5-フルオロウラシルに対するHCT116およびCACO2の応答は、こ
のような細胞型間の形態学的相違および類似のためである。この試験の後の部分において
、このような細胞および薬物を使用する。
【0104】
同一の細胞株に同一の濃度の抗がん剤溶液を与えても、2次元対3次元in vitr
o微小環境に置いた場合、細胞が薬物治療に異なって応答したことは明白である。HCT
116およびCACO2にレゴラフェニブ、ソラフェニブ、および5-フルオロウラシル
を使用した、2次元薬物スクリーニングの結果と3次元薬物スクリーニングの結果との間
に細胞生存率における有意差が認められた(図8)。HCT116細胞では、両者の結果
は、レゴラフェニブを用いた、2Dスクリーニングと3Dスクリーニングとの間で有意に
異なり(両方<0.05)、ソラフェニブについて1つが有意に異なり(<0.10)、
2つが5-FUについて有意に異なった(両方<0.01)。CACO2細胞では、両者
の結果は、レゴラフェニブを用いた、2Dスクリーニングと3Dスクリーニングとの間で
有意に異なり(両方<0.01)、ソラフェニブについて3つが有意に異なり(2つは<
0.01および1つは<0.05)、5-FUについて3つが有意に異なった(2つは<
0.01および1つは<0.10)。
【0105】
HCT116細胞では、ソラフェニブの10μM溶液および5-FUの10mM溶液を
除いて、3D薬物スクリーニングを行うと、相対細胞生存率の値は2D薬物スクリーニン
グよりも高かった。CACO2細胞では、レゴラフェニブおよびソラフェニブの10μM
溶液ならびに5-FUの10mM溶液を除いて、3D薬物スクリーニングを行うと、相対
細胞生存率の値は2D薬物スクリーニングよりもやはり高かった。2Dおよび3D薬物ス
クリーニング(図8)の結果を比較すると、レゴラフェニブが、CACO2細胞よりもH
CT116細胞の細胞生存率の変化に対して、より有意な影響を与えたこと、ソラフェニ
ブが、HCT116細胞よりもCACO2細胞の細胞生存率の変化に対して、より有意な
影響を与えたこと(HCT116は、両方のスクリーニングにおいて既に大きく影響され
ていたが)、および5-FUが、HCT116細胞とCACO2細胞の両方の細胞生存率
を有意に変化させたことがわかる。3D薬物スクリーニングの間、100μMの濃度のレ
ゴラフェニブおよびソラフェニブでは、CACO2細胞と比べてHCT116細胞は、4
8%に対して21%、および25%に対して15%と低いパーセント相対細胞生存率の値
を示した。100mMの濃度の5-FUにより、10mMの5-FUの薬物スクリーニン
グの間の生存率よりもはるかに高い生存率の値が生じたため、3D微小環境におけるHC
T116細胞およびCACO2細胞の両方についての10mMの濃度の5-FUの結果に
注目した場合、これらの相対細胞生存率は、18%および22%と、ほぼ同様の値まで低
下したことが明らかである。
【0106】
環状オルガノイド薬物スクリーニング
環状オルガノイド試験では、3Dヒアルロン酸ベースヒドロゲル微小環境での異なる細
胞型間の細胞ECM間相互作用または細胞間相互作用が、特定のがん細胞を標的とする上
で、抗がん剤の有効性および特異性に影響するかどうかを、3D薬物スクリーニングにお
いて、これまでに観察したように試験した。
【0107】
ポリジメチルシロキサン、すなわちPDMSを再度使用してウェル底部をコートした。
HCT116細胞をヒアルロン酸ヒドロゲルに包埋し、PDMS表面上に構築物を作製し
た。ヒアルロン酸ゲルに同様に包埋したCACO2細胞を使用して、HCT116内輪構
築物を囲む外輪を作製した(図9、パネルA)。100μMの濃度のレゴラフェニブを投
与した場合、3D微小環境において、HCT116細胞が、CACO2細胞と比較して低
い相対細胞生存率の値を示したため(21%対48%)、また5-FUが、3D微小環境
において、相対細胞生存率の低下に対して同様の効果を示したため、このような薬物を当
量濃度(1μM、10μM、および100μM)で環状構築物に投与して、比較のため2
つの細胞株について、このような薬物の有効性を観察、定量化した。
【0108】
7日目にLIVE/DEAD染色を環状構築物に行い、Axiovert顕微鏡上で撮
像した(図9、パネルB)。画像ソフトウェア、MATLABを使用して、環状構築物に
ついて%死滅:%生存(または%赤色(白黒画像中の中灰色)対%緑色(白黒画像中の明
灰色))の比率を導いた。次いで、値をグラフ化して、各濃度のレゴラフェニブおよび5
-FUの比率、ならびにそれに対する無処置の場合の比率である対照の比率を示した(図
9、パネルC)。100μMでは、レゴラフェニブおよび5-FUは共に、0.98の%
死滅:%生存率を示した。これは、HCT116およびCACO2細胞のおよそ半数が生
存しており、半数が抗がん剤により標的とされたことを意味する。1μMおよび10μM
の濃度のレゴラフェニブおよび5-FUを投与した場合に相対細胞生存率を分析すると、
%死滅:%生存率は、5-FU溶液について、レゴラフェニブ溶液についてよりも大幅に
高くなる。1μMでの%死滅:%生存率は、レゴラフェニブについての0.48とは対照
的に、5-FUについては0.95であり、10μMでの%死滅:%生存率は、レゴラフ
ェニブについての0.08とは対照的に、5-FUについては0.78である。3濃度の
レゴラフェニブおよび5-FUの%死滅:%生存率は、たった0.03である対照の%死
滅:%生存率の値よりも実質的に高かった。
【0109】
パネルBのlive-dead画像に注目すると、赤色(白黒画像中の中灰色)の細胞
の大部分が外輪(画像の左側)ではなく内輪(画像の右側)中に現れるため、内部のHC
T116細胞は、CACO2細胞よりも大幅にレゴラフェニブに影響されたように見える
。対照的に、赤色(白黒画像中の中灰色)エチジウムホモダイマー1色素で染色されてい
た死細胞が内部(HCT116)および外部(CACO2)の輪の両方に現れるため、5
-FUは、両方の細胞型を同程度、標的としているように見える。さらに、抗がん剤の濃
度を10倍に上昇させると、薬物による標的細胞死が観察可能に増加する。
【0110】
転移を定量化するマイクロ流体デバイス
PDMSベースマイクロ流体デバイス(図10)を開発して、がん細胞を3Dヒアルロ
ン酸ベース構築物に包埋し、簡易循環系を流動する抗がん剤溶液を投与した場合、がん細
胞転移の比率がどのように変化するかを判定した。さらに、マイクロ流体デバイスによっ
て、抗がん剤が、「一次」腫瘍構築物およびtranswell膜上で捕捉した「二次」
がん細胞中で、がん細胞生存率にどのように影響するかの判定を目指した。
【0111】
7日実行して、培地循環に入った細胞をtranswell膜上で捕捉する上でのデバ
イスの実現可能性を観察することを意図して、2つのマイクロ流体デバイスを設定した。
HCT116細胞を包埋した3D構築物を両方のデバイスの「構築チャンバー」中に留置
した。一方のデバイスの流体リザーバーに無処置の培地を加え(対照)、他方のデバイス
の流体リザーバーにソラフェニブの10μM溶液を加えた。1日目および7日目にZei
ss Axiovert 200M 487-1顕微鏡を用いて、対照デバイスの構築物
およびtranswell膜の画像を取得した。1日目から7日目の間に対照デバイスの
transwell膜上で捕捉した細胞の増加が、緑色膜色素であるDiOが示すように
認められた。デバイスを解体した後、7日目にtranswell膜を共焦点顕微鏡上で
撮像し、また、このデバイスにより、3D構築物外に遊走し循環に入った細胞の捕捉に成
功したことを確認した。デバイスの流量は、0.20mL/分と記録された。
【0112】
ソラフェニブ10μMの薬物培地溶液を循環させるデバイスは、3日目に内部の真菌感
染の徴候を示したため、この観察の後、解体、廃棄した。結果として、このデバイスから
収集することができたはずのいかなるデータも失われた。デバイスの出口からの微量な漏
出が、真菌混入の原因であると特定された。
【0113】
考察
このような試験は、3D細胞外微小環境が、抗がん剤の有効性を判定する上で重要な役
割を果たすことを確立した。4つの結腸直腸がん細胞株は、ヒアルロン酸ベースヒドロゲ
ルに包埋および被包し、5つの抗がん剤を投与した後、細胞生存率において有意差を示し
た。環状オルガノイドは、3Dヒドロゲル環境に包埋した場合、異なるがん細胞を標的と
する薬物の定性的比較を可能とし、環状オルガノイドが、細胞の遊走を測定する方法をも
たらし得ることを示した。開発したマイクロ流体デバイスは、転移性がん細胞を捕捉する
能力を示し、3D構築物および補足した細胞の継続的顕微鏡観察を可能とし、個別化化学
療法薬物スクリーニングのためのモデルおよびプラットフォームとしての使用を提案する
【0114】
材料および方法
がん細胞株の由来
使用するHCT-116、HT-29、SW-480、およびCACO-2結腸直腸が
ん細胞株は、ウェイクフォレスト大学医学部(Wake Forest Univers
ity School of Medicine)のCell and Viral V
ector Core Laboratoryに由来した。15cmの細胞培養プレート
で細胞を培養し、DMEM高グルコース溶液(HyClone、Utah、USA)、1
0%のウシ胎仔血清、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、および1%のL-グルタ
ミンを含む標準DMEM-10(ダルベッコ改変イーグル培地)を細胞増殖培地として使
用した。
【0115】
2D薬物スクリーニング
滅菌および細胞継代:培地を細胞培養プレートから吸引し、10mLのPBS(25℃
)を各プレート中にピペットで滴下した。細胞培養プレートを操作して、プレート中の細
胞全体をPBSで覆い、次いで、このPBSをプレート外に吸引した。0.05%のトリ
プシン5mL(37℃)を各細胞培養プレート中にピペットで滴下した。次いで、細胞培
養プレートを37℃のインキュベーターに約8分間置いた。この後、5mLのDMEM-
10培地を各プレートに加えた。次いで、10mLの細胞および培地の成分を4つの清浄
な15mLの遠心管に入れた。
【0116】
血球計数器上での細胞の計数およびローディング:1000μLの単一チャネルピペッ
トで15mL遠心管中に細胞を再懸濁し、各細胞株のチューブから新たな15mL遠心管
中へ100μLを移した。次いで、400μLのDMEM-10培地および500μLの
Gibcoトリパンブルー染色(0.4%)(Thermo-Fischer Scie
ntific、Massachusetts、USA)色素をそれぞれの遠心管中にピペ
ットで滴下した。その第2の遠心管を1:10に希釈して細胞計数を促進し、トリパンブ
ルー染色を加えることにより、細胞計数対象から死細胞を除外した。10μLの1:10
に希釈した試料を2~20μLの単一チャネルピペットで滴下し、予め消毒した血球計数
器の血球計算盤内に載せた。生細胞を計数し、計算を実行して各がん細胞株の存在する細
胞の総数を確定した。
【0117】
細胞播種:10mLのDMEM-10、細胞、およびトリプシンを含む最初の15mL
遠心管を遠心分離機に入れた。遠心分離設定は、1500RPMおよび最大加速度で5分
間であった。その後、培地とトリプシンの混合物をチューブから吸引して、細胞ペレット
を未損傷のままで放置した。次いで、5mLのDMEM-10を各チューブ中にピペット
で滴下して、そのプロセス中に細胞を再懸濁した。算出した5mLの細胞培地溶液の体積
を確定して、それぞれ4つの結腸直腸がん細胞株の25,000細胞を、ポリスチレン製
透明底96ウェルプレートの各ウェル中に直接播種したことを確認した。次いで、100
μLのDMEM-10培地をウェル中に直接ピペットで滴下した。96ウェルプレートを
37℃および5%のCO2で5時間インキュベートして、培地を吸引し抗がん剤溶液を加
えるまで、ウェル底部に細胞を再接着させた。
【0118】
スクリーニングのための抗がん剤の添加:このスクリーニングで使用する抗結腸直腸が
ん薬物は、5-FU、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、トラメチニブ、およびダブラフェ
ニブ(Sigma-Aldrich、Missouri、USA)を含んだ。高濃度の薬
物原液の溶液を、DMSOを用いて調製した。低濃度の薬物原液の溶液は、抗がん剤原液
をDMEM-10培地と混合することにより調製した。5-FUについては、1mM、1
0mM、および100mMの薬物溶液を調製し、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、および
ダブラフェニブについては、1μM、10μM、および100μMの薬物溶液を調製し、
トラメチニブについては、1nM、10nM、および100nMの薬物溶液を調製した。
培地をウェルから注意深く吸引し、200μLの種々の薬物-培地溶液を、細胞を含むウ
ェル中に入れた。各抗がん剤濃度について、異なる細胞型のそれぞれを有する、3つの複
製を作製して、平均値を算出し、得たデータについて統計を行った。次いで、ウェルプレ
ートを37℃および5%のCO2で24時間インキュベートした。
【0119】
細胞生存率アッセイ:抗がん剤溶液への曝露から48時間後、細胞生存率を判定した。
CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution C
ell Proliferation(MTS)アッセイ(Promega、Wisco
nsin、USA)により細胞の生存率を調べた。抗がん剤-培地溶液をウェルから吸引
し、200μLのMTS試薬をウェル中に注意深くピペットで滴下した。MTS試薬を含
んだ細胞のインキュベーション時間は、約45分であった。別の96ウェルプレート上で
細胞生存率アッセイを実施し、EnVision Multilabel Plate
Reader(PerkinElmer、California、USA)により吸光度
を定量化した。
【0120】
薬物スクリーニング用3Dがんオルガノイド
PDMSによるウェルコーティングおよび細胞単離:ポリジメチルシロキサン、すなわ
ちPDMS(DOW Corning、North Carolina、USA)を1:
10の硬化剤比率で使用して96ウェルプレートの底部をコートし、次いで、プレートを
80℃のオーブンに少なくとも1時間入れた。4つの結腸直腸がん細胞型すべてについて
、それぞれ100,000細胞を含む(10,000,000/μL)3Dヒアルロン酸
ベースヒドロゲル構築物10μLを96ウェルプレートのウェル中に入れるために、上述
のもの(A)と同一の方法で細胞を継代した。細胞数に応じて、細胞-培地溶液として新
たな15mL遠心管中で所望の数の細胞を単離し、遠心分離に供した。
【0121】
単一細胞型構築物のヒドロゲル成分:ヒアルロン酸ベースヒドロゲル(ESI BIO
、California,USA)をHeprasil、Gelin-S、およびExt
ralink PEGDA 2-ARMアクリレート架橋剤の3つの成分の混合物を使用
して作製した。2:2:1の容量比で、このような成分を混合した。その混合前に、0.
1%のIrgacure光開始剤(Sigma-Aldrich、Missouri、U
SA)を3つの成分のそれぞれに加え、3つの成分を37℃のインキュベーター中に約3
0分間置いて可溶化した。
【0122】
オルガノイド構築物の形成:可溶化してすぐに、15mL遠心管から培地を吸引し(遠
心分離後)、細胞をペレットとして単離した。細胞を含む遠心管中にヒドロゲル成分を直
接加え、細胞をその混合物中に注意深く再懸濁した。10μLのゲル-細胞溶液をPDM
Sでコートしたウェルの中央に置いた。細胞を含むすべてのウェルについて、これを継続
し、各細胞型について繰り返した。この時点の後、Blue Wave 200スポット
ライト(Dymax、Connecticut、USA)からのUV光にゲルを曝露して
、ヒドロゲルを凝固させることができる。または、ゲルがそのままで形成するのを約30
分待つことが可能である。次いで、DMEM-10培地をウェル中に置き、構築物を5日
間インキュベートした。
【0123】
抗がん剤スクリーニングおよび細胞生存率:5日目に同じ5つの抗がん剤を加え、7日
目に細胞生存率アッセイを行った。
【0124】
抗がん剤効果比較用環状オルガノイド
環状オルガノイド構築物のヒドロゲル成分:環状オルガノイドの作製に使用したヒアル
ロン酸ベースヒドロゲルは、Heprasil、Gelin-S、およびPEGDA 2
-ARMアクリレート架橋剤(Extralink)、およびアルキン-PEG-アルキ
ン 2-ARM架橋剤(ESI BIO、California、USA)の4つの成分
の混合物であった。4:4:1:1の容量比で、このような成分を混合した。その混合前
に、0.1%のIrgacure光開始剤を4つの成分のそれぞれに加え、3つの成分を
37℃のインキュベーター中に約30分間置いて可溶化した。HCT116およびCAC
O2細胞を上述の継代方法で単離し、PDMSを使用して96ウェルプレート底部をコー
トした。
【0125】
環状オルガノイド構築物の形成:HCT116細胞ペレットを含む15mL遠心管にヒ
ドロゲルの4つの成分を加え、細胞をこの混合物中に再懸濁した。ヒドロゲルを含む10
μLのHCT116をウェルの中央に置き、96ウェルプレートをアルミ箔で覆って約3
5分間そのままにしておいた。この間、PEGDA 2-ARMアクリレートは、ゲルを
架橋し、一方、UV感受性2-ARMアルキン-PEG-アルキンは、架橋されずに留ま
る。
【0126】
PEGDAが架橋するのを待つ間に、単離したCACO2細胞を含む15mL遠心管に
4つのヒドロゲル成分を加え、細胞をゲル中に再懸濁する。96ウェルプレート上を覆う
アルミ箔を除去し、構築物を検査して、これらが既に凝固したかどうかを見る。凝固した
場合、CACO2を包埋したヒドロゲルを25μL採取し、HCT116構築物の周辺に
注意深く置く。ピペットの先端を使用して、四方の構築物周辺のCACO2ゲルを物理的
に移動する。Blue Wave 200スポットライトからのUV光を使用して、両方
のゲルを共に架橋し、融合した環状構築物を形成する。DMEM-10培地を加えて、ウ
ェルを満たす。
【0127】
抗がん剤スクリーニング:5日目に、1μM、10μM、および100μMの5-FU
の薬物溶液を環状構築物に加え、1μM、10μM、および100μMのレゴラフェニブ
の薬物溶液を別の環状構築物に加えた。各薬物濃度について3つの複製を作製し、また薬
物なしの対照も維持した。
【0128】
Live-Dead染色および顕微鏡検査:7日目に、環状構築物をLive-Dea
d染色に供し、Axiovert 200M 487-1顕微鏡(Carl Zeiss
AG、Oberkochen、Germany)上で構築物を撮像した。カルセインA
Mおよびエチジウムホモダイマー1染色(Thermo-Fischer Scient
ific、Massachusetts、USA)を1.0μl/mLの当量濃度で含む
培地に環状構築物を曝露した。Live-Dead染色溶液への曝露前後に構築物をPB
Sで2回洗浄した。MATLAB(Math Works、Massachusetts
、USA)ソフトウェアを使用してパーセント赤色対パーセント緑色率を算出し、レゴラ
フェニブおよび5-FUの存在下で、HCT116-CACO2環状構築物について薬物
の有効性を判定した。%赤色対%緑色率は、%死滅:%生存細胞率を表す。
【0129】
マイクロ流体デバイス
構築:Graphtec Studioソフトウェアを利用して、新規のマイクロ流体
デバイスの型を作成した。デバイスの型は、Graphtec ce6000-60プロ
ッター(Graphtec、Tokyo、Japan)を使用して、アルミ箔を片面に接
着した両面テープにエッチングし、次いで、この型を細胞培養プレートと物理的に接着し
た。20mLのPDMS(1:10の硬化剤比率)をプレート中に入れ、次いで、PDM
Sを80℃のオーブンに一晩入れて凝固させた。翌日すぐに、このPDMS型をプレート
から切断した。
【0130】
8.0μmのIsopore Trasnwell Membrane Filter
s(Merck Millipore、Massachusetts、USA)を切断し
て、細胞捕捉のためにtrasnwell膜を備えるデバイス区画のサイズに特別に適合
させた。Plasma Cleaner PDC-32G(Harrick Plasm
a Inc.、New York、USA)を使用して、PDMS層に結合するプラズマ
によって2つのPDMS層間にtranswell膜を仕掛けた。その使用前に実験室フ
ード内で、70%のエタノール溶液を用いてデバイスのPDMS層を消毒した。
【0131】
実行:HCT116細胞を継代し、DiO膜色素(Thermo-Fischer S
cientific、Massachusetts、USA)を用いて、5μL/mLの
DMEM-10培地で約20分間、細胞を処置した。100,000個のHCT116細
胞を含む(10,000,000/μL)ヒアルロン酸ベースヒドロゲル構築物10μL
をオルガノイドチャンバーに入れた。PDMS層を共にプレスし、プラスチッククランプ
をデバイスのいずれかの面に使用して、PDMS層を4本のネジで適所に固定した。無処
置の培地3mLを流体リザーバーに加えた。Axiovert 200M 487-1顕
微鏡を使用して、構築物およびtranswell膜について撮像を行い、7日目に、t
ranswell膜について共焦点顕微鏡(Leica Camera、Wetzlar
、Germany)で撮像した。
【0132】
[実施例5]オルガノイドに組み込んだ5つの薬物のスクリーニング
実験の目的:肝臓オルガノイド代謝機能についての複合オルガノイド毒性の依存性を評
価する。一例として、肝臓の代謝活性は、いくつかの薬物の結果および有効性に重度に影
響し得る。例えば、一般的に第1に選択されるがん治療薬である5FUは、腫瘍だけでな
く、体内の多くの細胞に対して細胞傷害性である。したがって、5FUは、通常、プロド
ラッグであるカペシタビンの形態で投与され、これは、肝臓を通過するまで基本的に不活
性であり、その活性形態へと代謝される。
【0133】
実験のデザインおよび結果:肝臓、心臓、肺、精巣、および脳オルガノイドを含む、5
つの組織プラットフォームの作製を開始し、薬物試験の開始前に7日間維持した。この時
点で、肝臓モジュールをプラットフォームの半分から除去した。カペシタビン(20uM
)をすべてのプラットフォームに投与し、その後、曝露から7日後(全試験のうちの14
日目)にlive/dead染色または心拍挙動により生存率を評価した。
【0134】
結果は、肝臓が存在すると、カペシタビンが毒性薬物である5-FUに代謝されて、心
臓および肺に毒性を生じることを実証した(図11)。肝臓なしでは、この代謝は発生せ
ず、心臓および肺オルガノイド生存率は低下しない。驚くべきことに、脳オルガノイドは
、両方の群において損傷を受けた(図11)。LIVE/DEADの結果は、カペシタビ
ンを5-FUの薬物活性形態に代謝して、心臓および肺オルガノイドにおいて細胞死の増
加を誘導するのに肝臓オルガノイドを必要とすることを示す。
【0135】
1、3、5、7、9、11、13、および15日目に、尿素、アルブミン、α-GST
、IL-8、およびIL-1βを含む可溶性バイオマーカーを培地のアリコットから定量
化した(図13)。培地のアリコットを質量分析に送って、カペシタビンの5-FUへの
代謝を検証した。
【0136】
[実施例6]小型化したマイクロ流体プラットフォームにおけるオルガノイドに組み込ん
だ5つの薬物のスクリーニング
設置面積および流体量を小型化したマイクロ流体プラットフォームを作成し、このプラ
ットフォーム上で同一の複合的な薬物試験が可能かどうかを評価した。流体量を最小化す
ると、システム循環における関連バイオマーカーの信号対雑音比を増加させることができ
る。
【0137】
実験のデザインおよび結果:接着フィルムをベースとしたマイクロ流体プラットフォー
ムを下記のように作製した。実施例4に記載のフルスケールのプラットフォームと同様に
、肝臓、心臓、肺、精巣、および脳オルガノイドを含む、5つの組織構築物作製を開始し
、薬物試験の開始前に7日間維持した。この時点で、肝臓モジュールをプラットフォーム
の半分から除去した。カペシタビン(20uM)をすべてのプラットフォームに投与し、
その後、曝露から7日後(全試験のうちの14日目)にlive/dead染色または心
拍挙動により生存率を評価した。
【0138】
小型化したシステムでは、肝臓が存在すると、カペシタビンが毒性薬物である5-FU
に代謝されて、心臓および肺に毒性を生じる(図12)。肝臓なしでは、この代謝は発生
せず、心臓および肺オルガノイド生存率は低下しない。重要なことには、このプラットフ
ォームにおいて、脳オルガノイド生存率は高い(図12)。LIVE/DEADの結果は
、カペシタビンを5-FUの薬物活性形態に代謝して、心臓および肺オルガノイドにおい
て細胞死の増加を誘導するのに肝臓オルガノイドを必要とすることを示す。さらに、脳オ
ルガノイドは生存可能であり、このことは、特定の理論に拘束されることは望まないが、
おそらくシステムの容量をスケールダウンすると、培地がより良く調製され、脳オルガノ
イド生存率を支持することを示唆する。これは、他のオルガノイドタイプと共に、このシ
ステムにおいて、脳オルガノイドを維持することが可能であることを実証する。
【0139】
7日目および15日目に、尿素、アルブミン、α-GST、IL-8、およびIL-1
βを含む可溶性バイオマーカーを培地のアリコットから定量化した(図13)培地のアリ
コットを質量分析に送って、カペシタビンの5-FUへの代謝を検証した。
【0140】
小型化したシステムのデザイン
このシステムは、標準サイズのシステム等、他のシステムと比較して、培地に曝露され
るPDMSの表面積を削減または除去し、これにより薬物化合物、毒素、可溶性タンパク
質、および分泌化合物が、デバイス壁上またはデバイス壁中へ吸着または吸収される機会
を減少させる。デバイス製造戦略は、テープマイクロ流体工学、レーザー切断PMMA、
およびいくつかのPDMS成型をベースとしており、これによりデバイスの培地と接触す
るPDMS表面積の量を著しく最小化する。図14は、この作製方法の概要を提示する。
【0141】
前述は、本発明の説明であり、その制限として解釈されるべきものではない。本発明は
、特許請求の範囲に含まれる、その等価物と共に、以下の特許請求の範囲により定義する
。本明細書に引用する出版物、特許出願、特許、特許公開、GenBankにより認めら
れた配列および/またはSNP受託番号、ならびに他の参考文献はすべて、参照を示す文
章および/または段落に関する教示のため、引用することにより本明細書の一部をなすも
のとする。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A-3F】
図3G
図4A.4B】
図4C-4F】
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2023-04-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生きた腫瘍細胞と、
生きた免疫細胞と
を含み、
前記生きた腫瘍細胞と前記生きた免疫細胞とが単一の対象由来である、腫瘍モデルとして有用なin vitro細胞構築物。
【請求項2】
前記生きた腫瘍細胞が、前記単一の対象からの、腫瘍生検由来である、請求項1に記載の構築物。
【請求項3】
前記生きた腫瘍細胞が、結腸直腸がん細胞、中皮腫がん細胞、虫垂がん細胞、メラノーマがん細胞、神経膠腫がん細胞、肺がん細胞、卵巣がん細胞、乳房がん細胞、前立腺がん細胞、肝臓がん細胞、および/または肉腫がん細胞を含む、請求項1に記載の構築物。
【請求項4】
前記生きた免疫細胞が、樹状細胞、リンパ細胞、白血球、B細胞、T細胞、およびこれらの任意の組み合わせから選択される、請求項1に記載の構築物。
【請求項5】
前記生きた免疫細胞が、リンパ節由来である、請求項1に記載の構築物。
【請求項6】
1週間の培養で増殖した前記構築物が、1週間培養した前記構築物中の細胞の平均数に基づいて、少なくとも75%の生きた細胞を含む、請求項1に記載の構築物。
【請求項7】
前記構築物が、約200μm~約350μmの直径を有する、請求項1に記載の構築物。
【請求項8】
前記構築物がヒドロゲルをさらに含む、請求項1に記載の構築物。
【請求項9】
前記ヒドロゲルが、ヒアルロン酸、およびコラーゲンを含む、請求項8に記載の構築物。
【請求項10】
前記ヒドロゲルが、架橋したヒドロゲルである、請求項8に記載の構築物。
【請求項11】
前記生きた腫瘍細胞と、前記生きた免疫細胞とが、前記構築物中に、ヒドロゲル1mLあたり、合計で約2,000万細胞の量で存在する、請求項8に記載の構築物。
【請求項12】
前記生きた腫瘍細胞、および/または前記生きた免疫細胞が、検出可能な化合物を含む、請求項1に記載の構築物。
【請求項13】
前記構築物が、合計で約1,500から約3,500個の細胞を含む、請求項1に記載の構築物。
【請求項14】
抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスクリーニングする方法であって、
前記化合物を、請求項1に記載の構築物にin vitroで接触させるステップと、次いで、
前記生きた腫瘍細胞の増殖を決定するステップであって、前記生きた腫瘍細胞の増殖の減少が、前記目的の化合物の抗腫瘍活性を示す、ステップと
を含む方法。
【請求項15】
腫瘍細胞、および/または免疫細胞をin vitroで評価する方法であって、
請求項1に記載の構築物をin vitroで培養するステップと、次いで、
前記生きた腫瘍細胞、および/または免疫細胞を評価するステップと
を含む方法。
【請求項16】
腫瘍細胞、および/または免疫細胞をin vitroで評価するのに有用なデバイスであって、
チャンバー、および前記チャンバーと流体連通するチャネルを有するマイクロ流体デバイスと、
前記チャンバー中の請求項1に記載の構築物と、
前記チャンバーおよび前記チャネル中の増殖培地と、
前記チャンバーおよび前記チャネルと作動的に結合したポンプであって、前記チャンバーから前記チャネルを通り、前記チャンバーへ戻って前記培地を循環させるように構成したポンプと
を含むデバイス。
【請求項17】
前記チャネル中の微孔膜であって、それを通して前記培地が流動するように位置決めした微孔膜をさらに含む請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
抗腫瘍活性についてがん細胞をin vitroでスクリーニングする方法であって、
請求項16に記載のデバイスを提供するステップであって、前記デバイスが、前記構築物を含む一次チャンバーと、がん細胞を含む少なくとも1つのオルガノイドを含む少なくとも1つの二次チャンバーとを含む、ステップと、
前記デバイス内に前記培地を循環させるステップと、
前記少なくとも1つの二次チャンバー内に存在するがん細胞の量を検出するステップであって、前記少なくとも1つの二次チャンバー内に存在するがん細胞数の減少が抗腫瘍活性を示す、ステップと
を含む方法。
【請求項19】
抗転移活性および/または抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスクリーニングする方法であって、
請求項17に記載のデバイスを提供するステップと、
前記デバイス内に前記培地を循環させるステップと、
前記化合物を前記構築物に投与するステップと、次いで、
前記微孔膜に捕捉されたがん細胞を検出するステップであって、捕捉されたがん細胞が少数であるほど、前記目的の化合物の抗転移活性および/または抗腫瘍活性が高いことを示す、ステップと
を含む方法。
【請求項20】
抗転移活性および/または抗腫瘍活性について目的の化合物をin vitroでスクリーニングする方法であって、
請求項16に記載のデバイスを提供するステップであって、前記デバイスが、前記構築物を含む一次チャンバーと、前記腫瘍細胞とは異なる細胞を含む追加のオルガノイドを含む少なくとも1つの二次チャンバーとを含む、ステップと、
前記デバイス内に培地を循環させるステップと、
前記化合物を前記構築物に投与するステップと、
前記目的の化合物が投与されない場合に前記構築物および/または前記少なくとも1つの二次チャンバー内に存在するがん細胞の数と比較して、前記構築物および/または前記少なくとも1つの二次チャンバー内に存在するがん細胞の減少を決定するステップと
を含む方法。
【外国語明細書】