(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081975
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルスベクターの産生方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230606BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20230606BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230606BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230606BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/35
C12N7/01
C12N15/09 Z
C12N15/85 Z
【審査請求】有
【請求項の数】34
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023035225
(22)【出願日】2023-03-08
(62)【分割の表示】P 2019556592の分割
【原出願日】2018-04-18
(31)【優先権主張番号】1706090.6
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1718179.3
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】513032275
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、ディベロップメント、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY DEVELOPMENT LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンク,コンラッド
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの産生に必要とされる遺伝子を含む核酸ベクター及びその使用方法を提供する。
【解決手段】アデノ随伴ウイルス(AAV)プロデューサー細胞であって、AAVrep/cap遺伝子、ヘルパーウイルス遺伝子、及びAAVベクター粒子のDNAゲノムをコードする核酸配列を含み、前記核酸配列が、AAVプロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座にすべて一緒に組み込まれる、AAVプロデューサー細胞を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ウイルス(AAV)プロデューサー細胞であって、
AAV rep/cap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、及び
AAVベクター粒子のDNAゲノム
をコードする核酸配列を含み、
前記核酸配列が、AAVプロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座にすべて一緒に組み込まれる、AAVプロデューサー細胞。
【請求項2】
AAV核酸配列が、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13又はその組合せに由来する、請求項1に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項3】
AAV核酸配列が、AAV2、AAV5及び/又はAAV9に由来する、請求項2に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項4】
ヘルパーウイルス遺伝子が、アデノウイルスに由来する、請求項1から3のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項5】
ヘルパーウイルス遺伝子が、アデノウイルスに由来するE4、E2a及びVA遺伝子のすべて又は一部を含む、請求項4に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項6】
転写調節エレメントを付加的に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項7】
転写調節エレメントが、CMVプロモーターである、請求項6に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項8】
転写調節エレメントが、少なくとも1つのTetオペロンを付加的に含む、請求項6又は請求項7に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項9】
テトラサイクリン耐性オペロンリプレッサータンパク質(TetR)を付加的に含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項10】
インスレーターを付加的に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項11】
インスレーターが、核酸配列のそれぞれの間に存在する、請求項10に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項12】
選択マーカーを付加的に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項13】
選択マーカーが、増幅可能な選択マーカーである、請求項12に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項14】
1つ以上の導入遺伝子を付加的に含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項15】
AAVベクター粒子のDNAゲノムが、2つのAAVのITRの間にコードされた1つ以上の導入遺伝子を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項16】
細胞が、哺乳動物細胞である、請求項1から15のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項17】
AAV rep遺伝子によってコードされたAAV rep mRNA分子を標的とする低分子ヘアピン型RNA(shRNA)をコードする核酸配列及びshRNAをコードする核酸配列に作動可能に連結した誘導性プロモーターをさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項18】
アデノウイルスE1A遺伝子、
アデノウイルスE1A遺伝子によってコードされたアデノウイルスE1A mRNA分子を標的とするshRNA、及び
アデノウイルスE1A mRNA分子を標的とするshRNAをコードする核酸配列に作動可能に連結した誘導性プロモーター
をコードする核酸配列をさらに含む、請求項1から17のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項19】
AAV rep mRNA分子又はE1A mRNA分子を標的とするshRNAの核酸配列が、RNAポリメラーゼIIによる転写に適合したマイクロRNAである、請求項1から18のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項20】
誘導性プロモーターが、Tet応答性プロモーターであり、任意選択で、Tet応答性プロモーターが、Ptet-T6プロモーターである、請求項17から19のいずれか一項に記載のAAVプロデューサー細胞。
【請求項21】
非哺乳動物の複製起点及び少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持する能力を含む核酸ベクターであって、
アデノ随伴ウイルス(AAV)rep/cap遺伝子、及び
ヘルパーウイルス遺伝子
をコードする核酸配列を含むことを特徴とし、
AAV rep/cap遺伝子及びヘルパーウイルス遺伝子のそれぞれをコードする核酸配列が、核酸ベクター内に個々の発現カセットとして配置される、核酸ベクター。
【請求項22】
AAVベクター粒子のDNAゲノムをコードする核酸配列を付加的に含む、請求項21に記載の核酸ベクター。
【請求項23】
バクテリア人工染色体、酵母人工染色体、P1-由来人工染色体、フォスミド又はコスミドから選択される、請求項21又は請求項22に記載の核酸ベクター。
【請求項24】
バクテリア人工染色体である、請求項23に記載の核酸ベクター。
【請求項25】
AAV rep遺伝子によってコードされたAAV rep mRNA分子を標的とする低分子ヘアピン型RNA(shRNA)をコードする核酸配列及びshRNAをコードする核酸配列に作動可能に連結した誘導性プロモーターをさらに含む、請求項21から24のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
【請求項26】
アデノウイルスE1A遺伝子、
アデノウイルスE1A遺伝子によってコードされたアデノウイルスE1A mRNA分子を標的とするshRNA、及び
アデノウイルスE1A mRNA分子を標的とするshRNAをコードする核酸配列に作動可能に連結した誘導性プロモーター
をコードする核酸配列をさらに含む、請求項21から25のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
【請求項27】
AAV rep mRNA分子又はE1A mRNA分子を標的とするshRNAの核酸配列が、RNAポリメラーゼIIによる転写に適合したマイクロRNAである、請求項21から26のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
【請求項28】
誘導性プロモーターが、Tet応答性プロモーターであり、任意選択で、Tet応答性プロモーターが、Ptet-T6プロモーターである、請求項25から27のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
【請求項29】
安定なAAVパッケージング細胞株を産生する方法であって、
(a)請求項21から28のいずれか一項に記載の核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること
を含む、方法。
【請求項30】
哺乳動物細胞が、HEK293細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項29又は請求項30に記載の方法によって得られるAAVパッケージング細胞。
【請求項32】
複製欠陥AAVベクター粒子を産生する方法であって、
(a)請求項21から28のいずれか一項に記載の核酸ベクターを、哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること、及び
(c)複製欠陥AAVベクター粒子が産生される条件下で、選択された哺乳動物宿主細胞をさらに培養すること
を含む、方法。
【請求項33】
複製欠陥AAVベクター粒子を単離することをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項32又は請求項33に記載の方法によって得られる複製欠陥AAVベクター粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの産生に必要とされる遺伝子を含む核酸ベクター及びその使用に関する。また、本明細書に記載される核酸ベクターを含むAAVパッケージング細胞株及びプロデューサー細胞株を作製する方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
遺伝子療法では、遺伝子材料は、処置を必要とする対象の内因性細胞に送達される。遺伝子材料は、新規遺伝子を対象に導入するか、又は既存の遺伝子の追加の複製を導入するか、又は対象において欠損している遺伝子の野生型バリアントを導入することができる。ウイルスベクター系は、遺伝子療法に使用するための有効な遺伝子送達方法として提案されてきた(Verma及びSomia (1997) Nature 389:239~242頁)。
【0003】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、アデノウイルス調製物の夾雑物として、1965年に発見された。AAVは、末端に2つの145ヌクレオチド長の逆方向末端反復(ITR)を有する、およそ4.7キロベース(kb)の直鎖状単鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有する。ITRは、それぞれ非構造タンパク質と構造タンパク質をコードする2つのウイルス遺伝子-rep(複製)及びcap(カプシド)に隣接し、AAVゲノムのカプシドへのパッケージング及び感染時の二本鎖DNA合成の開始に必須である。AAVは、細胞培養における生産性感染のために、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)又はワクシニアウイルスなどのヘルパーウイルスと同時感染する必要があるので、ディペンドパルボウイルス属(Dependoparvovirus)(パルボウイルス科(Parvoviridae)の属)に分類される(Atchisonら(1965年) Science 149:754頁;Bullerら(1981) J. Virol. 40:241頁)。
【0004】
AAVベクターは、形質導入及び長期遺伝子発現が実証されており、分裂細胞と静止細胞の両方に感染する能力を有している。さらに、AAVは、現在、疾患を引き起こすことは知られておらず、したがって、インビボで毒性及び炎症をほとんど乃至まったく引き起こさない。これらの特徴によって、AAVは、遺伝子療法適用に対する望ましいベクターとなっている。
【0005】
細胞株において、いくつかのAAVベクター産生方法が一般的に使用される。1つの方法は、AAV ITRに隣接させた目的の遺伝子と同様に、AAV rep/cap遺伝子を安定して保有する細胞株を利用する。組換えAAV粒子の産生は、野生型アデノウイルスによる細胞の感染によって開始される。アデノウイルスは、AAV複製及びビリオン産生のために発現される必要のある遺伝子:E1A、E1B、E2A、E4及びVA RNAをもたらす。この方法は、培養において容易にスケールアップされ、高力価を有するAAVベクターを産生することが示されているが、アデノウイルスをAAV産物から完全に除去するのは、非常に困難な課題である。野生型アデノウイルスの夾雑は、ベクターの安全性及び特異性の観点から非常に望ましくない。
【0006】
AAVベクター産生の代替法は、ヘルパーウイルスによる宿主細胞の感染が関与しない。代わりに、宿主HEK293細胞は、3つのプラスミド:(1)AAV ITRに近接する目的の遺伝子を有するAAV導入ベクター;(2)AAV rep/cap遺伝子を有するプラスミド;及び(3)アデノウイルスからクローニングされたヘルパー遺伝子をもたらすプラスミドにより一時的コトランスフェクトされる。この一時的トランスフェクション方法によって、アデノウイルスを含まない高力価のAAVベクターが生じるが、この方法は、非常に労働集約的であり、費用もかかる。
【0007】
AAVパッケージング細胞株及びプロデューサー細胞株などのAAVベクターの製造において使用されるすべての細胞株は、承認団体(例えば、欧州では欧州医薬品庁(EMA)及び米国では食品医薬品局(FDA))によって設定される品質要求事項を遵守しなければならない。AAVパッケージング細胞株及びプロデューサー細胞株に対する重要な品質要求事項は、それらが野生型AAV又は複製コンピテントAAVを産生しないことである(「Reflection paper on quality, non-clinical and clinical issues related to the development of recombinant adeno-associated viral vectors」、EMA、2010年6月24日を参照のこと)。さらなる重要な品質要求事項は、細胞基質の安定性である。すなわち、細胞株において調製される所与の産物について、意図した使用期間の始まりと終わりに細胞で一貫した産生を得ることができると実証することが必要である(European Pharmacopoeia 7.0;セクション5.2.3を参照のこと)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、既存の方法に関連する1つ以上の不利益を克服するAAVベクターを産生し、安定なAAVパッケージング細胞株及びプロデューサー細胞株を作製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、非哺乳動物の複製起点及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの産生に必須のすべてのAAV遺伝子を有する、バクテリア人工染色体などの、少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持する能力を含む核酸ベクターの使用に関与するパッケージング細胞株及びプロデューサー細胞株を作製する新たな方法を開発した。これによって、組換えAAVベクター粒子の産生に必要とされるすべてのAAV遺伝子、及び選択的抗生物質耐性遺伝子が、プロデューサー細胞のゲノムへと組み込まれ、一時的トランスフェクション方法に関連する問題を改善することが可能となる。
【0010】
非哺乳動物の複製起点を含み、少なくとも25kbのDNA(すなわち、大きなコンストラクトDNA)を保持する能力を有する核酸ベクターの使用には、いくつかの利点がある。第1の例では、ベクターは、哺乳動物宿主細胞ではなく非哺乳動物細胞(例えば、バクテリア細胞などの微生物細胞)において最初に操作され、それらをより共に作用し易くすることができる(例えば、バクテリア人工染色体は、大腸菌(E.coli)において最初に操作され得る)。核酸ベクターが調製されると、その核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞へと導入することができ、核酸ベクターが1つ又はいくつかの内因性染色体へと組み込まれた任意の細胞を、安定な細胞株を単離するために選択することができる。
【0011】
AAVコンストラクトの哺乳動物宿主細胞への導入はまた、単一のステップで起こり、選択圧及びサイレンシング時間枠を低減する助けとなる。これにより、潜在的パッケージング細胞のより速いスクリーニングが可能となり、単一のベクターのみが使用されるので、複数のプラスミドベクターを使用する従来の方法よりも材料のコストが削減される。特に、この系を使用すると、プラスミドの製造コストが削減され、必要とされるトランスフェクション試薬(例えば、ポリエチレンイミン[PEI])が低減され、必要とされるBenzonase(商標)処理の量が削減され(ウイルス収穫物中のDNAの量が低減するので、下流処理で余分なものを除去するために必要なBenzonase(商標)が少なくなる)、検査コストが削減される(ウイルス産物中の残留プラスミドを検査する必要がなくなる)。
【0012】
さらに、AAV産生(パッケージングされる導入遺伝子を含有するトランスファーベクターを用いるか又は用いない)に必須のすべてのウイルス遺伝子は、同一の核酸ベクター内に近接してクローニングされ、ベクターが哺乳動物宿主細胞に導入される際に、ベクターに組み込まれた遺伝子のすべてが内因性哺乳動物宿主細胞のゲノム内の1つの遺伝子座へと組み込まれることになる。これにより、AAV産生に必要とされる遺伝子が、遺伝子サイレンシングを引き起こし得るゲノムの領域へと組み込まれていない、安定なクローンを選択することがより容易になる。このことは、必要とされるAAV遺伝子が、宿主細胞のゲノム内の異なる遺伝子座に無作為に組み込まれ得るいくつかのプラスミドに与えられると、1つ以上の遺伝子に対して起こり得る。
【0013】
したがって、本発明の核酸ベクターの使用によって、AAVパッケージング細胞株及びプロデューサー細胞株の生成における利点がもたらされる。
【0014】
したがって、本発明による第1の態様によれば、アデノ随伴ウイルス(AAV)プロデューサー細胞であって、
AAV rep/cap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、及び
AAVベクター粒子のDNAゲノム
をコードする核酸配列を含み、
前記核酸配列が、AAVプロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座にすべて一緒に組み込まれる、AAVプロデューサー細胞が提供される。
【0015】
本発明のさらなる態様によれば、非哺乳動物の複製起点及び少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持する能力を含む核酸ベクターであって、
アデノ随伴ウイルス(AAV)rep/cap遺伝子、及び
ヘルパーウイルス遺伝子
をコードする核酸配列を含むことを特徴とし、
AAV rep/cap遺伝子及びヘルパーウイルス遺伝子のそれぞれをコードする核酸配列が、核酸ベクター内に個々の発現カセットとして配置される、核酸ベクターが提供される。
【0016】
本発明のさらなる態様によれば、安定なAAVパッケージング細胞株を産生する方法であって、
(a)本明細書で定義される核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること
を含む、方法が提供される。
【0017】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書で定義される方法によって得られるAAVパッケージング細胞が提供される。
【0018】
本発明のさらなる態様によれば、複製欠陥AAVベクター粒子を産生する方法であって、 (a)本明細書で定義される核酸ベクターを、哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること、及び
(c)複製欠陥AAVベクター粒子が産生される条件下で、選択された哺乳動物宿主細胞をさらに培養すること
を含む、方法が提供される。
【0019】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書で定義される方法によって得られる複製欠陥AAVベクター粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の例示的核酸ベクターの一般図である。図は、インスレーター(cHS4)によって分離されたAAVウイルス遺伝子(rep/cap)及びヘルパーウイルス遺伝子(アデノウイルス2[Ad2]由来のE2A、E4及びVA)を含有するバクテリア人工染色体(BAC)構築物を示す。この構築物は、抗生物質耐性マーカー(ZeoR)及び翻訳開始部位(IRES)も含有する。
【
図2】本発明の例示的核酸ベクターの概略図である。図は、すべてが互いにインスレーター(cHS4)によって分離された、AAVウイルス遺伝子(rep/cap)、ヘルパーウイルス遺伝子(アデノウイルス2[Ad2]由来のE2A、E4及びVA)、導入遺伝子に隣接するrep shRNA、E1A shRNA及びITRを含有する直鎖状バクテリア人工染色体(BAC)構築物を示す。この構築物は、抗生物質耐性マーカー(ZeoR)及び翻訳開始部位(IRES)も含有する。
【
図3-1】rep mRNA分子を標的とするよう設計されたshRNAの核酸配列を示す概略図である。
【
図4-1】各発現カセットを、2xcHS4を含有するドナープラスミドへとクローニングし、次いで、発現カセットと2xcHS4の両方をBACへとクローニングする方法を示す概略図である。
【
図5】BAC8a-GFPのプラスミドマップを示す図である。
【
図6】BAC9a-GFPのプラスミドマップを示す図である。
【
図7-1】トランスフェクションの72時間後のAdVec RS-D01細胞の顕微鏡画像及びGFP陽性細胞の解析を示す図である。
【
図8】BAC9A-GFP又は三連のプラスミド系対照のいずれかでトランスフェクトしたAdVec RS-D01細胞の溶解物から抽出したDNAに関するqPCRによる産生ベクターの解析を示すグラフである。
【
図9-1】形質導入の72時間後の、形質導入LentiX 293T細胞の顕微鏡画像及びGFP陽性細胞の解析を示す図である。
【
図10】BAC9A-GFPのトランスフェクション後の1ml当たりの細胞数の解析を示すグラフである。
【
図11-1】BAC9A-GFPによるトランスフェクション後のゼオシン選択を受けたAdVec RS-D01懸濁細胞に対するフローサイトメトリーによるGFP陽性細胞の解析を示すグラフである。
【
図12】ポリクローナルゼオシン選択プールから産生されるベクターのqPCR解析を示すグラフである。
【
図13-1】BAC9A-GFPによりトランスフェクトされ、ゼオシン選択されたLentiX 293T細胞のGFP陽性細胞のフローサイトメトリー解析を示すグラフである。
【
図14】接着AdVec細胞の安定なプール由来のベクター産物のqPCR解析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、この発明の属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書で言及されるすべての特許及び刊行物は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0022】
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」又は「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、排他的にXからなってもよく、又はさらなるものを含んでもよい(例えば、X+Y)。
【0023】
用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特徴の範囲を、特定された材料又はステップ及び特許請求される特徴の基本的な特性に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。
【0024】
用語「からなる(consisting of)」は、いずれの付加的成分の存在も排除する。
【0025】
数値xに関して用語「約」は、例えば、x±10%、5%、2%又は1%を意味する。
【0026】
用語「ベクター」又は「核酸ベクター」は、外来の(すなわち、外因性の)遺伝物質を別の細胞に人為的に運び、そこで、それが複製及び/又は発現され得るビヒクルを意味する。ベクターの例として、非哺乳動物核酸ベクター、例えば、バクテリア人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、P1由来人工染色体(PAC)、コスミド又はフォスミドが挙げられる。
【0027】
用語「非哺乳動物複製起点」は、そこで複製が開始され、非哺乳動物起源に由来する核酸配列を意味する。これによって、本発明の核酸ベクターが安定に複製されること、及び宿主細胞が哺乳動物宿主細胞である場合を除いて、それが宿主細胞後代に伝達され得るように好適な宿主細胞(例えば、バクテリア又は酵母細胞などの微生物細胞)内で内因性染色体と共に分離されることが可能となる。哺乳動物宿主細胞において、非哺乳動物複製起点を有する核酸ベクターは、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれるか又は哺乳動物宿主細胞複製時に失われる。例えば、バクテリア人工染色体(BAC)、P1由来人工染色体(PAC)、コスミド又はフォスミドなどの、非哺乳動物複製起点を有する核酸ベクターは、バクテリア細胞(例えば、大腸菌)内で安定に複製し、内因性染色体と共に分離することがきるが、それらが哺乳動物宿主細胞へと導入されると、BAC、PAC、コスミド又はフォスミドは、哺乳動物宿主細胞複製時に組み込まれるか又は失われる。酵母人工染色体(YAC)は、酵母細胞内で安定に複製し、内因性染色体と共に分離することがきるが、それらが哺乳動物宿主細胞に導入されると、YACは、哺乳動物宿主細胞複製時に組み込まれるか又は失われる。したがって、この文脈において、本発明の核酸ベクターは、AAVベクター産生用の安定な細胞株を生成するために哺乳動物細胞に容易に移入できるDNAのリザーバーとして(すなわち、AAVベクター産生に必須の遺伝子のために)作用する。非哺乳動物複製起点の例として、バクテリア複製起点、例えば、oriC、oriV若しくはoriS、又は自律複製配列(ARSエレメント)としても知られる酵母複製起点が挙げられる。
【0028】
本発明の核酸ベクターは、非哺乳動物複製起点を含み、少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持することができる。一実施形態では、核酸ベクターは、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340又は350kbのDNAを保持する能力を有する。「保持する能力」への言及は、その通常の意味を有し、核酸ベクターの挿入サイズの上限が特許請求されるサイズ以上(すなわち、25kb以上のDNA)であることを含意することが理解される。
【0029】
本発明の目的は、単一の構築物(すなわち、核酸ベクター)に、AAVパッケージングに必須の遺伝子を含めることである。したがって、本発明の核酸ベクターは、大きなDNAインサートを保持することができなければならない。疑念を避けるため、「核酸ベクター」又は「人工染色体」への言及は、天然バクテリアプラスミド(例えば、一時的トランスフェクション法で現在使用されているプラスミドなど)は少なくとも25kbのDNAを保持することができないので、これらを指さないと理解される。プラスミドが含有することができる最大サイズのインサートは約15kbである。このような核酸ベクターはまた、一般的に5~11kbの最大インサートを保持するに過ぎないバクテリオファージも指さない。したがって、一実施形態では、本発明の核酸ベクターは、プラスミド、バクテリオファージ又はエピソームではない。
【0030】
一実施形態では、本発明の核酸ベクターは、バクテリオファージではない。
【0031】
用語「内因性染色体」は、バクテリア人工染色体などの外因性核酸ベクターの生成又は導入の前に宿主細胞に見られるゲノム染色体を指す。
【0032】
用語「トランスフェクション」、「形質転換」及び「形質導入」は、本明細書で使用する場合、標的細胞への非哺乳類又はウイルスベクターの挿入について記載するために使用され得る。ベクターの挿入は、通常、バクテリア細胞については形質転換及び真核細胞についてはトランスフェクションと呼ばれるが、ウイルスベクターの挿入はまた形質導入とも呼ばれ得る。当業者であれば、限定されるものではないが、物理的方法(例えば、エレクトロポレーション、細胞スクイージング、ソノポレーション、光学的トランスフェクション、プロトプラスト融合、インペールフェクション(impalefection)、マグネトフェクション(magnetofection)、遺伝子銃又は粒子衝撃)、化学試薬(例えば、リン酸カルシウム、高分岐有機化合物又は陽イオンポリマー)又は陽イオン脂質(例えば、リポフェクション)の使用を含む、通常使用される様々な非ウイルストランスフェクション法を認識するであろう。多くのトランスフェクション法は、プラスミドDNAの溶液と細胞との接触を必要とし、次いで、これらを増殖させ、マーカー遺伝子発現に関して選択する。
【0033】
用語「プロモーター」は、遺伝子発現を駆動する配列を指す。高レベルの発現を駆動するために、高効率プロモーターを使用することが有益であり得る。好適なプロモーターの例として、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、又はヒト延長因子1-アルファ(pEF)プロモーターなどのプロモーターを挙げることができる。
【0034】
用語「選択マーカー」は、核酸配列を活発に発現する細胞を選択する助けをする遺伝子を指す。好適な選択マーカーの例として、抗生物質、例えば、カナマイシン、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ブラストサイジン、又はゼオシン耐性(すなわち、抗生物質耐性遺伝子)をコードする酵素が挙げられる。好適な選択マーカーの別の例は、蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)又は青色蛍光タンパク質(BFP)である。
【0035】
「ゲノム増幅」は、ゲノム(すなわち、遺伝子)の特定のDNA配列が、ゲノム内の他の配列に関して不均衡に複製され、その結果、増幅したDNA配列が、このような不均衡な複製の前にゲノム内に最初に存在するよりも多いコピー数で存在する、プロセスを指す。「増幅した」又は「増幅」は、遺伝子又は核酸配列に関して本明細書で使用する場合、遺伝子増幅によって、宿主細胞株において、2つ以上のコピーで存在する遺伝子又は核酸配列を指す。
【0036】
本明細書で使用される「増幅可能な選択マーカー遺伝子」への言及は、適切な増殖条件下で、その遺伝子の増幅を許容する遺伝子を指す。増幅可能な選択マーカー遺伝子は、発現産物(すなわち、増幅選択マーカー遺伝子によってコードされたタンパク質の発現)を増加させる増幅によって、必須代謝産物の阻害剤又は欠如のいずれかに対して応答することができる。一実施形態では、増幅可能な選択マーカー遺伝子は、栄養要求性宿主を補完することができるものとして特徴付けられてもよい。
【0037】
用語「ポリAシグナル」は、例えば、導入遺伝子の3'側に配置された、宿主因子が転写の間に新生mRNAの末端にポリアデノシン(ポリA)テールを付加することを可能とするポリアデニル化シグナル配列を指す。ポリAテールは、mRNAを酵素分解から保護し、翻訳も補助する、300個までのアデノシンリボヌクレオチドのストレッチである。したがって、本発明の核酸ベクターは、ヒトベータグロビン又はウサギベータグロビンポリAシグナル、シミアンウイルス40(SV40)前期又は後期ポリAシグナル、ヒトインスリンポリAシグナル、又はウシ成長ホルモンポリAシグナルなどのポリAシグナル配列を含み得る。一実施形態では、ポリAシグナル配列は、ヒトベータグロビンポリAシグナルである。
【0038】
用語「イントロン配列」は、RNAスプライシングによって最終遺伝子産物から除去されるヌクレオチド配列を指す。エンハンサー/プロモーター領域の下流及びcDNAインサートの上流でのイントロンの使用は、遺伝子発現のレベルを増加させることが示されている。発現の増加は、特定のcDNAインサートに依存する。したがって、本発明の核酸ベクターは、ヒトベータグロビンイントロン、ウサギベータグロビンイントロンII又はキメラヒトベータグロビン-免疫グロブリンイントロンなどのイントロンを含んでもよい。一実施形態では、イントロンは、ヒトベータグロビンイントロン及び/又はウサギベータグロビンイントロンIIである。
【0039】
用語「パッケージング細胞株」は、AAVパッケージング遺伝子、すなわち、rep及びcap遺伝子、並びに必要とされるヘルパーウイルス遺伝子が安定に挿入された細胞株を指す。あるいは、用語「プロデューサー細胞株」は、例えば、2つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接して目的の導入遺伝子を含有するAAVゲノムが安定に挿入されたパッケージング細胞株を指す。本明細書に記載の核酸ベクターが、パッケージング細胞株(すなわち、少なくともrep、cap及びヘルパーウイルス遺伝子が核酸ベクターに存在し、宿主細胞に組み込まれる場合)又はプロデューサー細胞株(すなわち、核酸ベクターが、rep及びcap遺伝子と共に宿主細胞へと組み込まれるAAVゲノムを付加的に含む場合)を生成するために使用され得ることが、当業者に理解されよう。本明細書に記載のパッケージング及び/又はプロデューサー細胞が、天然のAAVプロウイルスが組み込まれた細胞を指さないこともさらに理解されよう。
【0040】
本明細書で使用される用語「発現構築物」又は「発現カセット」は、1つ以上の組み込まれたポリヌクレオチドの発現を駆動することができる、機能的発現ユニットを指す。このようなカセットは、通常、ポリヌクレオチド並びにポリヌクレオチドの転写及び翻訳に必要な構成成分を含む。例えば、カセットは、プロモーター、翻訳開始シグナル、転写ターミネーター(例えば、ポリA配列)及び/又は自己切断ペプチド配列(例えば、P2A配列)を含む核酸配列(すなわち、組換えDNA)を含んでもよい。一実施形態では、個々の発現カセットは、プロモーター及び/又は転写ターミネーターを含む。一実施形態では、個々の発現カセットは、いずれも単一のプロモーターから転写されるIRESによって分離された2つの遺伝子を含む。疑念を避けるため、このようなカセットへの言及は、3つの異なるプロモーターからいくつかの転写物を生じ、次いで、7つの異なるタンパク質へとスプライシングされるが、AAVゲノムのコンパクトな性質により互いに分離することができないrep/cap遺伝子を含む。したがって、発現カセットは、1つよりも多いプロモーターを含んでもよい。
【0041】
一実施形態では、核酸ベクターにおけるすべての発現カセットは、それらが同じ方向に転写するように配置される。これによって、構築物における発現カセットの全体的発現が改善されることが以前に示されている(Thromら、(2009) Blood 113:5104~5110頁)。
【0042】
用語「安定にトランスフェクトされる」は、導入されたAAV遺伝子を後代(すなわち、娘細胞)に受け渡すことができる細胞株を指し、これはトランスフェクトされたDNAが内因性染色体に組み込まれていたためか、又は外因性染色体の安定な継承を介したものであるためである。
【0043】
核酸ベクター
本発明の一態様によれば、非哺乳動物複製起点及び少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持する能力を含む核酸ベクターであって、
アデノ随伴ウイルス(AAV)rep/cap遺伝子、及び
ヘルパーウイルス遺伝子
をコードする核酸配列を含むことを特徴とし、
AAV rep/cap遺伝子及びヘルパーウイルス遺伝子のそれぞれをコードする核酸配列が、核酸ベクター内に個々の発現カセットとして配置される、核酸ベクターが提供される。
【0044】
AAVベクターを生成するための現在の方法は、宿主細胞へのウイルス遺伝子の一時的トランスフェクションが関与する。しかしながら、コストと労力がかかるため、この方法には多くの欠点が付随してきた。1つの解決策は、一時的トランスフェクションに付随する問題を回避するためにAAVパッケージング遺伝子を安定に組み込むパッケージング細胞株を操作することであろう。
【0045】
核酸ベクターにAAVベクター産生に必要とされる遺伝子のすべてを含むことによって、AAVパッケージングに必要とされる遺伝子のすべてが、単一のステップで、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと挿入され得る。したがって、本明細書で提案されるように、核酸ベクターの使用によって、選択圧が低減され、サイレンシング時間枠が低減され、潜在的なパッケージング細胞のより速いスクリーニングが可能となる。さらに、核酸ベクターに含まれるAAVベクター産生に必要とされる遺伝子はすべて、単一の遺伝子座において、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれる。これによって、個々のウイルス遺伝子がサイレンシングされるリスクが低減され、すべてのウイルス遺伝子が均等に発現されることが保証されることになる。
【0046】
核酸ベクター構築物が、異なる染色体の複数の異なる位置において(すべてのコードされた核酸配列が単一の遺伝子座に存在するにもかかわらず)、宿主細胞のゲノムに1回より多く組み込まれてもよいことが理解されよう。このことは、導入遺伝子の発現レベルを増加させるのに有利である場合があり、AAV力価を潜在的に改善させることができる。
【0047】
一実施形態では、核酸ベクターは、AAVベクター粒子のDNAゲノムをコードする核酸配列を付加的に含む。この核酸配列が転写されると、この核酸配列は、細胞によって産生されたAAVベクター粒子内でカプシド形成され、したがって、AAVベクター粒子の「ゲノム」として作用する。AAVベクター粒子のDNAゲノムは通常、一時的トランスフェクション法に使用される「トランスファープラスミド」に含まれることが理解されよう。トランスファープラスミドは、一般的に、2つのAAVのITRの間で、導入遺伝子(及び、任意選択で、ポリアデニル化[ポリA]シグナル)に作動可能に連結したプロモーター(例えば、CMV)を含有する。したがって、本明細書で使用される「AAVベクター粒子のDNAゲノム」への言及は、AAVのITRに隣接する核酸配列(通常は、目的の導入遺伝子をコードする)を指す。よって、一実施形態では、AAVベクター粒子のDNAゲノムは、2つのAAVのITRの間にコードされた1つ以上の導入遺伝子を含む。
【0048】
一実施形態では、AAVベクター粒子のDNAゲノム(すなわち、トランスファープラスミド)の複数のコピーが、核酸ベクターに含まれる。トランスファープラスミドの複数のコピーは、より高いウイルスベクター力価をもたらすことが期待される。例えば、核酸ベクターは、2つ以上、例えば、3、4、5、6、7、8、9又は10個以上のAAVベクター粒子のDNAゲノム(すなわち、トランスファープラスミド)のコピーを含んでもよい。
【0049】
一実施形態では、核酸ベクターは、1つ又は複数の組換え部位を含有する。これによって、標的配列が、リコンビナーゼ酵素の存在下で、部位特異的に哺乳動物宿主細胞の内因性染色体に組み込まれることを可能とする。リコンビナーゼ酵素は、2つの組換え部位の間の組換え反応を触媒する。
【0050】
多くのタイプの部位特異的組換え系が当技術分野で公知であり、いずれの好適な組換え系を本発明において使用してもよい。例えば、一実施形態では、組換え部位は、ラムダファージのint/att系、バクテリオファージP1のCre/lox系、酵母のFLP/FRT系、ファージMuのGin/gixリコンビナーゼ系、Cinリコンビナーゼ系、大腸菌のPinリコンビナーゼ系及びpSR1プラスミドのR/RS系、又はそれらの任意の組合せから選択されるか、又はそれらに由来する。さらなる実施形態では、組換え部位は、att部位(例えば、ラムダファージ由来)であり、att部位は、ラムダインテグラーゼの存在下で、部位特異的組込みを可能とする。「ラムダインテグラーゼ」への言及は、int/att系と、やはり適合する突然変異インテグラーゼ、例えば、WO2002/097059に記載の修飾ラムダインテグラーゼについての言及を含むことが理解されよう。
【0051】
一実施形態では、核酸ベクターは、バクテリア人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、P1由来人工染色体(PAC)、フォスミド又はコスミドから選択される。さらなる実施形態では、核酸ベクターは、バクテリア人工染色体(BAC)である。
【0052】
バクテリア人工染色体
用語「バクテリア人工染色体」又は「BAC」は、大きな外因性DNAインサートを保持することができるバクテリアプラスミド由来のDNA構築物を指す。これらは、通常およそ350kbの最大DNAインサートを保持することができる。BACは、バクテリアの細胞分裂後にプラスミドの均一な分布を促進する分配遺伝子を含有する、十分に特徴付けられたバクテリア機能的稔性プラスミド(Fプラスミド)から開発された。これは、BACが安定に複製し、内因性バクテリアゲノム(例えば、大腸菌)と共に分離することを可能とする。BACは、通常、少なくとも1コピーの複製起点(例えば、oriS又はoriV遺伝子)、repE遺伝子(プラスミド複製及びコピー数の調節のため)及びバクテリア細胞内でのBACの安定な維持を確保する分配遺伝子(例えば、sopA、sopB、parA、parB及び/又はparC)を含有する。BACは、通常、環状及びスーパーコイル型であり、これは、それらをYACなどの直鎖状人工染色体よりも回収容易とする。これらはまた、エレクトロポレーションなどの簡単な方法を使用して、比較的容易にバクテリア宿主細胞へと導入することができる。
【0053】
一実施形態では、バクテリア人工染色体は、oriS遺伝子を含む。一実施形態では、バクテリア人工染色体は、repE遺伝子を含む。一実施形態では、バクテリア人工染色体は、分配遺伝子を含む。さらなる実施形態では、分配遺伝子は、sopA、sopB、parA、parB及び/又はparCから選択される。なおさらなる実施形態では、バクテリア人工染色体は、sopA及びsopB遺伝子を含む。
【0054】
本発明において使用するためのBACは、例えば、LUCIGEN(商標)(全長骨格配列については、ゲノム受託番号EU101022.1を参照のこと)からのpSMART BACなど、商業供給源から入手可能である。このBACは、L-アラビノース「コピーアップ」系を含有し、これはまた、TrfA複製タンパク質の存在下でのみ活性であるoriVミディアムコピーの複製起点も含有する。TrfAの遺伝子は、L-アラビノース誘導プロモーターaraC-PBADの制御下で、バクテリア宿主細胞のゲノムへと組み込むことできる(Wildら(2002) Genome Res. 12(9):1434~1444頁を参照のこと)。L-アラビノースの添加はTrfAの発現を誘導し、TrfAはoriVを活性化し、細胞当たり50コピーまでプラスミドを複製させる。
【0055】
酵母人工染色体
用語「酵母人工染色体」又は「YAC」は、酵母DNAがバクテリアプラスミドへと組み込まれている染色体を指す。それらは、自律的複製配列(ARS)(すなわち、複製起点)、セントロメア及びテロメアを含有する。BACと異なり、YACは直鎖状であり、したがって、宿主細胞後代に受け渡される際に、染色体の各末端に、その末端を分解から保護する酵母テロメアを含有する。YACは、100~2000kbであれば、ある範囲のDNA挿入サイズを保持することができる。
【0056】
P1由来人工染色体
用語「P1由来人工染色体」又は「PAC」は、P1バクテリオファージ及びバクテリアFプラスミドのDNAに由来するDNA構築物を指す。それらは、通常、およそ100~300kbの最大DNAインサートを保持することができ、大腸菌においてクローニングベクターとして使用される。PACは、精製及びバクテリア宿主細胞への導入が容易であるなど、BACと同様の利点を有する。
【0057】
コスミド及びフォスミド
用語「コスミド」は、バクテリオファージラムダに由来するcos部位を付加的に含有するバクテリアプラスミドに由来するDNA構築物を指す。コスミドは、一般的に、バクテリア複製起点(例えば、oriV)、選択マーカー、クローニング部位及び少なくとも1つのcos部位を含有する。コスミドは、通常、40~45kbの最大DNAインサートを受容することができる。コスミドは、大腸菌細胞感染において標準的なバクテリアプラスミドよりも効率的であることが示されている。用語「フォスミド」は、バクテリアFプラスミドに基づくこと以外は、コスミドと同様の非哺乳動物核酸ベクターを指す。特に、これらは、大きなDNA断片のクローニングを可能とするFプラスミド複製起点及び分配機序を使用する。フォスミドは、通常、40kbの最大DNAインサートを受容することができる。
【0058】
複製欠陥AAVベクター粒子をコードする核酸配列は、野生型遺伝子と同様であるか、又はそれに由来する、すなわち、配列は、野生型ウイルスに含有される配列の、遺伝的に又は他の方法による変更バージョンであり得る。したがって、核酸ベクター又は宿主細胞のゲノムへと組み込まれたウイルス遺伝子はまた、野生型遺伝子のコドン最適化バージョンを指し得る。
【0059】
アデノ随伴ウイルス
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科に属する、ディペンドパルボウイルス属の一部である。AAVは、およそ4.7キロベース(kb)から6kbの長さまでの単鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有する小さな、無エンベロープの、正二十面体ウイルスである。いくつかの血清型が発見され、これまでに最も広範に調査された血清型として、AAV血清型2(AAV2)がある。
【0060】
AAVゲノムは、2つの145ベースの逆方向末端反復(ITR)に近接する2つのオープンリーディングフレームであるrep及びcapからなる。これらのITR塩基対によって、相補的DNA鎖の合成が可能となる。rep及びcap遺伝子(総称して、rep/cap遺伝子とも称され得る)が翻訳されて、複数の別個のタンパク質が生成される。rep遺伝子は、タンパク質Rep78、Rep68、Rep52、Rep40をコードし、これらはAAVライフサイクルに必要とされ、cap遺伝子は、VP1、VP2、VP3をコードし、これらはカプシドタンパク質である。AAVトランスファープラスミドを構築する際に、導入遺伝子はITR間に配置され、rep及びcapがトランスで供給される。これによって、宿主細胞によって産生されたAAVが複製欠陥であることが確認される。
【0061】
AAV repコード配列は、ウイルスゲノムの複製に必要であり、新たなビリオンへとパッケージングされる少なくともこれらの複製タンパク質をコードする。rep遺伝子は、一般的に、少なくとも1つの大きなrepタンパク質(すなわち、Rep78/68)及び1つの小さなrepタンパク質(すなわち、Rep52/40)をコードするが、本明細書に記載の実施形態では、rep遺伝子は、AAV repタンパク質のすべてをコードする必要はない。したがって、一実施形態では、repタンパク質は、Rep78タンパク質並びにRep52及び/又はRep40タンパク質を含む。代替の実施形態では、repタンパク質は、Rep68並びにRep52及び/又はRep40タンパク質を含む。さらなる実施形態では、repタンパク質は、Rep68並びにRep52タンパク質、Rep68及びRep40タンパク質、Rep78及びRep52タンパク質、又はRep78及びRep40タンパク質を含む。なおさらなる実施形態では、repタンパク質は、Rep78、Rep68、Rep52及びRep40タンパク質を含む。
【0062】
AAV capコード配列は、機能的AAVカプシドを形成する(すなわち、DNAをパッケージングして、標的細胞に感染することができる)構造タンパク質をコードする。典型的には、capコード配列は、AAVカプシドサブユニットのすべてをコードするが、機能的カプシドが生成される限り、すべてのカプシドサブユニットがコードされなくてもよい。一実施形態では、capタンパク質は、VP1、VP2及び/又はVP3を含む。
【0063】
AAVのITR配列は、それぞれ145ベースを含み、AAVゲノムの複製及びカプシドへのパッケージングに必要な唯一のシス作用エレメントである。典型的には、ITRは、ベクターゲノムの5'及び3'末端にあり、異種核酸(導入遺伝子)に隣接するが、それと連続的である必要はない。ITRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0064】
AAVのITRは、これらに限定されないが、血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11、若しくは13、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV、又は現在知られているか若しくは後に発見される任意の他のAAVを含む、任意のAAV由来のものであってよい。AAVのITRは、末端反復が所望の機能、例えば、複製、ウイルスのパッケージング、及び/又は組込みなどを媒介する限り、ネイティブ末端反復を有する必要はない(例えば、ネイティブAAV ITR配列は、挿入、欠失、切断及び/又はミスセンス突然変異によって変更されてもよい)。
【0065】
AAVへの言及は、本明細書で使用する場合、これらに限定されないが、AAV血清型1(AAV1)、AAV血清型2(AAV2)、AAV血清型3(血清型3A及び3Bを含む)(AAV3)、AAV血清型4(AAV4)、AAV血清型5(AAV5)、AAV血清型6(AAV6)、AAV血清型7(AAV7)、AAV血清型8(AAV8)、AAV血清型9(AAV9)、AAV血清型10(AAV10)、AAV血清型11(AAV11)、AAV血清型12(AAV12)、AAV血清型13(AAV13)、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV、及び現在知られているか若しくは後に発見される任意の他のAAVを含む。例えば、Fieldsら、Virology、第2巻、第69章(第4版、Lippincott-Raven Publishers)を参照のこと。
【0066】
AAVへの言及は、限定されないが、天然に存在しないカプシドタンパク質を有するAAVを含む人工AAV血清型を含んでもよい。このような人工カプシドは、1つのAAV血清型配列(例えば、VP1カプシドタンパク質の断片)を、同一のAAV血清型の非連続的部分である別のAAV血清型(公知又は新規の)から、非AAVウイルス源から、又は非ウイルス源から得ることができる異種配列と組み合わせて使用して、任意の好適な技術によって生成することができる。人工AAV血清型は、限定されないが、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドであってもよい。
【0067】
一実施形態では、rep/cap遺伝子及び/又はAAVベクター粒子のDNAゲノムをコードする核酸配列(すなわち、AAV核酸配列)は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13又はその組合せに由来する。さらなる実施形態では、rep/cap遺伝子及び/又はAAVベクター粒子のDNAゲノムは、AAV2、AAV5及び/又はAAV9に由来する。
【0068】
あるいは、一実施形態では、rep配列は、cap配列をもたらしているものと異なるAAV血清型に由来する。したがって、一実施形態では、rep配列は、異なるAAV血清型のcap配列とフレーム内で融合して、キメラAAVベクターを形成する。例えば、一実施形態では、rep遺伝子は、AAV2に由来し、cap遺伝子は、AAV2又はAAV5に由来して、それぞれ、AAV2様粒子及びAAV5様粒子を産生する。これらは、rep2cap2及びrep2cap5と命名される場合もある。
【0069】
ネイティブITR、repタンパク質、及びカプシドサブユニットの配列と同様に、AAVの種々の血清型のゲノム配列は、当技術分野で公知である。このような配列は、文献又は公開データベース、例えば、GenBankにおいて見つけることができる。例えば、その開示が、AAV核酸及びアミノ酸配列を教示するために、参照により本明細書に組み込まれるGenBank受託番号NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、AY631966、AX753250、EU285562、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852及びAY530579を参照のこと。
【0070】
組織特異性は、カプシドの血清型によって決定されると考えられ、したがって、AAVベクターのシュードタイピングを使用して、それらの向性範囲を変更することができる。これによって、AAVは、特異的細胞型を優先的に形質導入するための有用な系となる。表1に、特異的組織の形質導入に最適な血清型をまとめる。
【0071】
【0072】
「シュードタイピング」への言及は、異なるウイルス血清型に由来するカプシド及びゲノムの混合を指す。これらの血清型は、スラッシュを使用して示され、例えば、AAV2/5は、AAV血清型5由来のカプシドにパッケージングされたAAV血清型2のゲノムを含有するウイルスを示す。これらのシュードタイピングされたウイルスによって、向性を変更するだけでなく、形質導入の効率を改善することができる。例えば、AAV2/5は、AAV2/2によって効率的に形質導入されないニューロンを標的とし、脳内でより広範に分布し、形質導入効率の改善を示す。これらのハイブリッドウイルスの多くは、当技術分野において十分に特徴付けられている。
【0073】
用語AAVベクター、AAV粒子、AAVベクター粒子、組換えAAV粒子、組換えAAVベクター粒子及びrAAVは、互換的に使用され、本明細書で使用する場合、それぞれ、プロデューサー細胞又はパッケージング細胞によって産生されるITRを含むDNAゲノムを有するか又は有さないAAVカプシドを指す。
【0074】
ヘルパーウイルス遺伝子
rep及びcapタンパク質に加えて、AAVは、それ自体で複製する能力を有さないため、AAV複製に必要な遺伝子を含有するヘルパーウイルス又はプラスミドを必要とする。ヘルパーウイルスの非存在下で、AAVを、第19染色体の特定の部位で、宿主細胞のゲノムへと組み込んでもよい。AAV複製に必要なヘルパーウイルスの配列は、当技術分野で公知であり、例えば、Cell & Gene Therapy Insights、「Gene Therapy And Viral Vectors: Advances and Challenges」(http://insights.bio/cell-and-gene-therapy-insights/?bio_spottax=gene-therapy-vectors-advances-and-challenges)を参照のこと。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルス又はヘルペスウイルスベクターによって与えられる。ヘルパーウイルス遺伝子は、タンパク質及び非コードRNAをコードする。
【0075】
一実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、アデノウイルスに由来する。さらなる実施形態では、アデノウイルスは、アデノウイルス2及びアデノウイルス5から選択される。
【0076】
一実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、アデノウイルス、特に、アデノウイルス2に由来するE4、E2a及びVA遺伝子のすべて又は一部を含む。ネイティブアデノウイルス遺伝子のすべてがAAV複製に必要な訳ではなく、例えば、E4遺伝子のオープンリーディングフレーム6(ORF6)にコードされたE4 34kDタンパク質のみがAAV複製に必要であることが見出された。したがって、さらなる実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、E4 ORF6コード領域、アデノウイルスE2a 72kDコード領域(E2a 72kD DNA-結合タンパク質をコードする)及びVA遺伝子を含む。なおさらなる実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、アデノウイルスE1a及びE1b遺伝子をさらに含む。
【0077】
代替の実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、ヘルペスウイルスに由来する。さらなる実施形態では、ヘルペスウイルスは:単純ヘルペスウイルス(HSV)、Epstein-Barrウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)及び偽性狂犬病ウイルス(PRV)から選択される。
【0078】
各ヘルパーウイルス遺伝子は、それぞれのオリジナルプロモーターによって、又は異種プロモーターによって制御され得る。
【0079】
AAVベクター産生に必要なヘルパーウイルス遺伝子を核酸ベクター/宿主細胞へと組み込むことによって、この方法は、野生型ヘルパーウイルスとの同時感染を必要としないため、ヘルパーウイルスフリー方法と考えられ得ると理解される。したがって、これによって、ベクターの安全性及び特異性の点から非常に望ましい野生型ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)の夾雑が回避される。
【0080】
付加的成分
本発明の核酸ベクターは、さらなる付加的成分を含んでもよい。これらの付加的特徴は、例えば、翻訳のために転写産物を安定化させ、遺伝子発現のレベルを増加させ、遺伝子転写のオン/オフを切り替える助けをするために使用され得る。
【0081】
本発明により産生されるAAVベクター粒子は、遺伝子療法の方法において使用することができる。したがって、一実施形態では、核酸ベクターは、1以上の導入遺伝子(異種核酸と称される場合もある)を付加的に含む。この導入遺伝子は、標的疾患を治療又は改善するために使用することができる遺伝子産物をコードする治療上活性な遺伝子であり得る。これには、例えば、標的遺伝子が宿主細胞において正しく発現されない場合が含まれ、したがって、標的遺伝子の正しいバージョンが導入遺伝子として導入される。したがって、導入遺伝子は、潜在的治療対象の遺伝子であり得る。導入遺伝子は、別の細胞型、若しくは別の種から得られるか、又は合成によって調製されたものであってもよい。あるいは、導入遺伝子は、宿主細胞から得られたものであってもよいが、ネイティブ遺伝子に存在するものとは異なる調節領域に作動可能に連結されていてもよい。あるいは、導入遺伝子は、宿主細胞に存在する遺伝子の異なる対立遺伝子又はバリアントであってもよい。
【0082】
導入遺伝子は、例えば、アンチセンスRNA、リボザイム、タンパク質(例えば、腫瘍抑制タンパク質)、毒素、抗原(抗体又はヘルパーT細胞又は細胞傷害性T細胞を誘導するために使用され得る)又は抗体(例えば、一本鎖抗体)をコードし得る。ITRに隣接する任意の遺伝子は、ゲノムのサイズが5キロベース(kb)より小さい限り、AAVカプシドへと有効にパッケージングされ得る。したがって、一実施形態では、導入遺伝子は、5kb長未満、例えば、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5又は1kb長未満である。
【0083】
導入遺伝子を含有する複数のトランスファーベクターのコピーは、より高い導入遺伝子の産生をもたらすことが期待され、したがって、一実施形態では、核酸ベクターは、複数の導入遺伝子のコピー、例えば、2以上、特に、3以上の導入遺伝子のコピーを含む。
【0084】
場合によっては、疾患を処置するために2以上の遺伝子産物が必要とされ、したがって、さらなる実施形態では、核酸ベクターは、2以上、例えば、3以上、又は4以上の異なる導入遺伝子を付加的に含む。
【0085】
遺伝子療法の目的は、治療目的で生細胞の遺伝物質を修飾することであり、これは、治療効果を達成するための機能的遺伝子の細胞への挿入が関与する。本明細書に記載の核酸ベクター及び宿主細胞を使用して産生されたAAVベクターは、標的細胞を形質導入し、潜在的治療対象の遺伝子の発現を誘導するために使用することができる。したがって、AAVベクターは、これらに限定されないが、遺伝的障害、がん、及びある特定のウイルス感染を含む状態に罹患している、ヒト対象などの哺乳動物対象の処置のために使用することができる。
【0086】
導入遺伝子は、インビトロ、エクスビボ、又はインビボで細胞において産生されるのが望ましい任意のポリペプチド又はRNAをコードし得る。例えば、AAVベクターは、培養細胞及びそれらから単離された発現遺伝子産物へと導入されてもよい。
【0087】
核酸配列が、適切な制御配列に作動可能に関連し得ることが、当業者によって理解されよう。例えば、核酸配列は、転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター、及び/又はエンハンサーなどの発現制御エレメントと作動可能に関連し得る。
【0088】
一実施形態では、核酸ベクターは、転写調節エレメントを付加的に含む。例えば、本明細書に記載のエレメントはいずれも、発現が制御可能なようにプロモーターに作動可能に連結することができる。一実施形態では、プロモーターは、ウイルスプロモーターである。一実施形態では、プロモーターは、高効率プロモーター、例えば、CMVプロモーターである。このプロモーターは、非哺乳動物核酸ベクターにコードされたエレメントの高レベルの発現を促進するという利点を有する。さらなる実施形態では、CMVプロモーターは、ヒトサイトメガロウイルス株AD169に由来する配列を含む。この配列は、ゲノム受託番号X17403、例えば、塩基対173731~174404から取得可能である。代替の実施形態では、プロモーターは、シミアンウイルス40由来のSV40後期プロモーターである。本明細書で言及されるプロモーターは、例えば、調節タンパク質の存在下で、全体的に又は部分的に、構成的に作用しているか又は誘導可能であり得る、公知のプロモーターを含んでもよい。
【0089】
誘導性発現制御エレメントは、典型的には、核酸配列の発現に対して調節をもたらすことが望ましいこれらの適用において有利である。遺伝子送達に対して誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的、例えば、筋肉特異的(心筋、骨格筋及び/又は平滑筋特異的を含む)、神経組織特異的(脳特異的を含む)、眼特異的(網膜特異的及び角膜特異的を含む)、肝特異的、骨髄特異的、膵臓特異的、脾臓特異的及び肺特異的な、プロモーター/エンハンサーエレメントであり得る。他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、ホルモン誘導性及び金属誘導性エレメントを含む。例示的誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントとして、これらに限定されないが、Tetオン/オフエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、及びメタロチオネインプロモーターが挙げられる。
【0090】
一実施形態では、プロモーターは、少なくとも1つのTetオペロンを付加的に含む。Tetオペロン(テトラサイクリン制御転写活性化)は、転写が、抗生物質であるテトラサイクリン又はその誘導体のうちの1つ(例えば、ドキシサイクリン)の存在下で、可逆的にオン又はオフを切り替えられる、誘導性遺伝子発現の方法において使用され得る。本質的に、Ptetプロモーターは、細胞からテトラサイクリン抗生物質を排出させるタンパク質であるTetR、リプレッサー、及びTetAを発現させる。本発明では、Tetオペロンは、存在しても非存在でもよく、例えば、一実施形態では、Tetオペロンは、プロモーターに存在してもよい。
【0091】
Tetオペロン系は、核酸ベクター内に含有されるウイルス配列の発現を制御するために使用され得る。簡単に述べれば、Tetリプレッサータンパク質は、プロモーターへと導入されるTetオペロン部位に結合することによって発現を遮断する。したがって、TetリプレッサーがTetオペロンと結合している場合には、遺伝子発現は見られない。テトラサイクリン又はドキシサイクリンを添加すると、Tetリプレッサーは隔離されてプロモーター活性を可能とし、したがって、遺伝子発現がオンにされる。Tetオペロン系は、Invitrogeから入手可能なpcDNA(商標)4/TO哺乳動物発現ベクターにおいて使用されるTetオペロンなど、広く入手可能である。
【0092】
一実施形態では、核酸ベクターは、テトラサイクリン耐性オペロンリプレッサータンパク質(「Tetリプレッサー」又は「TetR」)を付加的に含む。さらなる実施形態では、Tetリプレッサーは、コドンが最適化されている。
【0093】
一実施形態では、核酸ベクターは、クロマチンインスレーターなどのインスレーターを付加的に含む。用語「インスレーター」は、プロモーターとエンハンサーの間の相互作用を遮断する遺伝子配列を指す。さらなる実施形態では、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)は、ウイルス核酸配列のそれぞれの間(すなわち、(i)AAV rep/cap遺伝子、(ii)ヘルパーウイルス遺伝子、及び(iii)AAVベクター粒子のDNAゲノムをコードする核酸配列の間)に存在する。さらなる実施形態では、インスレーターは、ヘルパーウイルス遺伝子(例えば、E1A、E1B、E2A、E4及び/又はVA)のそれぞれの間に存在してもよい。これは、隣接するウイルス核酸配列間のプロモーター干渉(すなわち、ある転写単位からのプロモーターが隣接する転写単位の発現を損なう場合)を防ぐ助けをする。これは、複製コンピテントウイルスを生じるウイルス配列間の組換えのリスクを最小限とする助けとなるとも考えられる。さらに、これらが、細胞のゲノムへと安定に組み込まれる場合、近くの発現カセットのサイレンシングを低減する助けとなるとも考えられる(Moriarityら、(2013) Nucleic Acids Res. 41:e92頁;Yahataら、(2007) J. Mol. Biol. 374:580~590頁)。
【0094】
核酸ベクターの、核酸配列のそれぞれの間にインスレーターが存在すれば、これらは核酸ベクター内に個々の発現カセットとして配置されてもよいことが理解されよう。例えば、各核酸配列(すなわち、AAVベクター粒子をコードするもの)は、その固有のプロモーター及び/又はイントロン及び/又はポリAシグナルを有する。
【0095】
一実施形態では、クロマチンインスレーターは、ニワトリ(Gallus gallus)HS4(cHS4)インスレーター配列(例えば、ゲノム受託番号U78775.2、塩基対1~1205を参照のこと)と少なくとも90%の配列同一性、例えば、少なくとも95%の配列同一性を有する。さらなる実施形態では、インスレーターは、2つのタンデムcHS4インスレーター配列(およそ2.4キロベース)、すなわち、2×cHS4を含む。
【0096】
一実施形態では、核酸ベクターは、rep転写物(rep mRNA分子)を標的とするshRNAをコードする核酸配列を含む。このようにして、Repタンパク質の発現を制御することが可能になる。shRNA自体の発現は、誘導性プロモーターの制御下にあり得る。転写レベルでRepタンパク質の発現を制御する利点は、効率的なAAVベクター産生に必要とされる種々のrep及びcap転写物の正しい化学量論量を維持するために、rep及びcap遺伝子のネイティブプロモーターのすべて(P5、P19及びP40)を維持することが可能であることである。これは、rep及びcap遺伝子は修飾される必要がないため、それらの完全性は影響を受けないことも意味する。
【0097】
さらなる実施形態では、核酸ベクターは、E1A転写物を標的とするshRNAをコードする核酸配列を含む。E1A転写物を標的とするshRNAは、E1A発現の制御を介して間接的に作用する、Rep発現のさらなるレベルの制御をもたらす。これは、アデノウイルスE1Aヘルパーウイルス遺伝子を構成的に発現する細胞株において特に有利である。アデノウイルスE1Aヘルパー遺伝子産物は、Repタンパク質を発現するために使用されるAAV P5プロモーターの活性化を可能とする宿主タンパク質YY1に結合するのと同様に、E1B、E2及びE4などの他のアデノウイルスヘルパー遺伝子のプロモーターを活性化する(Qiaoら(2002) J. Virol. 76:1904頁)。
【0098】
E1Aの発現を制御するさらなる利点は、アポトーシスを誘導するその能力の結果として、宿主細胞に対して毒性であることが知られているE4発現の間接的制御である(Lavoieら(1998) JCB 140:637頁;Shtrichman及びKleinberger(1998) J. Virol. 72:2975頁)。AAVベクター粒子産生の間に、抗E1A shRNAの発現が遮断され、E1AとE4両方の発現の調節が可能となり、効率的なAAVベクター産生に必要とされるヘルパー機能が活性化され得る。
【0099】
一実施形態では、AAV rep mRNA分子又はE1A mRNA分子を標的とするshRNAをコードする核酸配列は、例えば、RNAポリメラーゼIIによる転写を可能とするように適合されたマイクロRNAである。適合されたマイクロRNAは、マイクロRNA配列が、shRNAのセンス鎖の上流及び/又はガイド鎖の下流に付加されることを意味する。
【0100】
一実施形態では、AAV rep mRNAを標的とするshRNAは、Rep78、Rep68、Rep52及びRep40タンパク質をコードする1つ以上のAAV rep mRNA分子に結合する。一実施形態では、AAV rep mRNAを標的とするshRNAは、Rep78及びRep68タンパク質をコードするAAV rep mRNA分子に結合する。さらなる実施形態では、shRNAは、Rep78、Rep68、Rep52及びRep40タンパク質をコードするrep mRNA分子のすべてに結合する。
【0101】
一実施形態では、AAV rep mRNA分子を標的とするshRNAをコードする核酸配列は、5'-TTTGACGTAGAATTCATGCTC-3'を含む。この配列は、標的鎖(ガイド鎖としても公知)配列である。当業者は、ヘアピンであるshRNAが、相補的センス鎖配列及びそれらの間のループ配列を必要とすることを認識するであろう。標的鎖は、標的鎖がRISCへと負荷されるものであることを保証するためにセンス鎖に対して3'である。
【0102】
AAV2 rep遺伝子の領域(野生型AAV2のヌクレオチド190~540)を、シス作用Rep依存性エレメント(CARE)として特定した。CAREは、シスで存在する場合に、AAV DNAゲノムの複製及びカプシド形成を強化することが示された。これは、rep及びcap遺伝子のDNAコピーをより多く産生することによるものであってもよい。CAREは、アデノウイルス及びRepタンパク質の存在下における、組み込まれた配列の増幅に関与することも示された(Nonyら(2001) J. Virol. 75:9991頁;Tessierら(2001) J. Virol. 75:375頁)。CAREは、Repタンパク質によって結合され、ウイルス複製及びパッケージングの間のAAVゲノムの増幅の開始部位であることが示されている。実験モデルでは、AAVゲノムの二本鎖染色体外コピーが産生され、およそ100倍にゲノムを増幅する。rep標的shRNA(又はマイクロRNA適応shRNA)の次にこのエレメントを配置することは、このエレメントも、AAVゲノムと一緒に増幅されることを意味する。したがって、Repが発現される場合、AAV rep mRNA分子を標的とするshRNAをコードするDNA配列の過剰な複製が産生され、それによって、Rep抑制の自己調節フィードバックループが作出される。
【0103】
したがって、一実施形態では、AAV rep mRNA分子及び/又はE1A mRNA分子を標的とするshRNAをコードする核酸配列は、シス作用Rep依存性エレメント(CARE)(すなわち、野生型AAV2のヌクレオチド190~540)をコードする核酸配列に隣接するか又は非常に近位に位置する。非常に近位であることは、shRNAをコードする核酸配列の増幅を引き起こすのに十分近いことを意味する。さらなる実施形態では、逆方向では、CAREをコードする核酸配列は、shRNAをコードする核酸配列に対して3'に位置する。shRNAをコードする核酸配列に対して3'にCARE配列を付加することによって、CAREによって増幅されたshRNAをコードする核酸配列のストレッチについて、全長shRNA及びプロモーターを含むこれらの配列のみが転写されることになることを保証することが可能である。これは、部分的なshRNA配列を有する内因性Droshaタンパク質の過負荷を防ぐ助けとなる。
【0104】
当業者は、AAV rep及びcap遺伝子によってコードされたmRNA分子などの、特異的標的配列に対して有効なshRNAを設計するために当技術分野で利用可能な方法を認識するであろう。例えば、有効なshRNA設計に対する基準が、Dowら(Dowら(2012) Nat. Protoc. 7:374頁)に概説されている。さらに、Dowらにおいて概説される有効なshRNAに対する基準に従うshRNA標的配列を見出し、ランク付けするオンラインツールは、Adamsら(Adamsら(2017)、Biomaterials 139:102頁)で言及されるように利用可能である。
【0105】
shRNAプラスミドが調製され、細胞内へと導入されると、Repタンパク質の有効なノックダウンが、当技術分野で周知の方法を使用して、例えば、定量的PCR分析又はMooreら(2010)に記載されているウエスタンブロットによって確認され得る。
【0106】
一実施形態では、rep転写物を標的とするshRNA及び/又はE1A転写物を標的とするshRNAの発現は、Ptetプロモーターの制御下にある。例えば、“tet-オフ"系は、AAVベクター産生に必要とされる遺伝子を発現するために使用され得る。tet-応答性トランス活性化タンパク質であるtTAは、構築物から構成的に発現されることになる。標準的細胞培養条件下で、tTAタンパク質は、tet-オペロン含有プロモーターに結合し、repを標的とするshRNAの転写を活性化し、細胞におけるRepの発現をノックダウンする。細胞が、AAVベクター粒子の産生が進行するための正しい濃度に到達すると、細胞へのドキシサイクリン(DOX)の添加によって、tTAトランス活性化タンパク質が不安定になり、その結果、rep転写物を標的とするshRNAの転写が終わり、Repが細胞によって発現可能となる。
【0107】
「オフ」状態である場合に低いバックグラウンド発現を有するが、「オン」状態で高い活性化レベルを保持する、Ptetプロモーターは、Loewら(Loewら、(2010) BMC Biotechnology 10:81頁)に記載されるPtet-T6である。オリジナルtet-応答性プロモーターであるPtet-1、及びその改良された市販の誘導体であるPtet-14(Ptightとしても公知)のように、Ptet-T6は、最小のCMV即時初期プロモーターの上流に、タンデムに、7つのtetオペロン結合配列及びハクサイ黄化モザイクウイルス由来の修飾5'非翻訳配列を含有する。一実施形態では、Ptetプロモーターは、Ptet-T6である。
【0108】
一実施形態では、核酸ベクターは、選択マーカーを付加的に含む。これによって、複製欠損AAVベクター粒子をコードする核酸配列が組み込まれた細胞が選択されるのが可能になる。さらなる実施形態では、選択マーカーは、薬物耐性遺伝子、例えば、抗生物質耐性遺伝子、例えば、ゼオシン、カナマイシン又はピューロマイシン耐性遺伝子、特に、ゼオシン(ZeoR)耐性遺伝子である。なおさらなる実施形態では、ゼオシン耐性遺伝子は、ストレプトアロテイカス・ヒンダスタンス(Streptoalloteichus hindustans)のble遺伝子に由来し、例えば、ゲノム受託番号X52869.1の塩基対3~377を参照のこと。
【0109】
遺伝子増幅という自然現象は、細胞株によって産生される組換え産物の力価を増加させる方法として、生物製剤工業において活用されている。組換え遺伝子が、宿主細胞のゲノムへと組み込まれている場合、組換え遺伝子のコピー数及び付随して発現される組換えタンパク質の量は、組換え遺伝子が、宿主細胞のゲノムへと組み込まれた後に増幅した細胞株を選択することによって増加され得る。したがって、一実施形態では、選択マーカーは、増幅可能な選択マーカーである。
【0110】
遺伝子増幅は、宿主細胞を増幅可能な選択マーカー遺伝子により安定にトランスフェクトすることによって誘導されてもよい。安定にトランスフェクトされた宿主細胞は、増幅可能な選択マーカーを阻害することが知られている、濃度の増大した毒性薬物にさらされる。例えば、トランスフェクトされた細胞は、毒性薬物を含有する培地中で、親細胞(すなわち、トランスフェクトされていない細胞)をプレーティングした後3から5日以内に、細胞の死滅が98%より多くに達する濃度で毒性薬物を含有する培地中で培養されてもよい。このような阻害を介して、増幅可能な選択マーカーの発現レベルが増加し、結果として、用いられる濃度の薬物に対する耐性を有する細胞集団が選択され得る。
【0111】
本発明の核酸ベクターは、その中に含有される発現カセットのすべて(すなわち、核酸ベクターDNA)が、宿主細胞のゲノム内の単一の遺伝子座に一緒に組み込まれるのを可能とする。遺伝子増幅のプロセスが、増幅可能な選択マーカー遺伝子及び周辺DNA配列の増幅の原因であるため、組み込まれた核酸ベクターDNAにおける残りのDNA配列も増幅されることとなる。このようにして、本発明の核酸ベクターを使用することによって、宿主細胞のゲノムへと安定に組み込まれたウイルスベクター遺伝子の遺伝子増幅のためのプロセスを提供することが可能である。
【0112】
各増幅可能な選択マーカーは、増幅及び選択レジームの間に細胞培養培地に添加される関連する選択薬剤(すなわち、毒性薬物)を有する。好適な増幅可能な選択マーカー/選択薬剤の組合せとして、アデノシンデアミナーゼ/デオキシコホルマイシン、アスパラギン酸カルバモイル基転移酵素/N(ホスホアセチル)-L-アスパラギン酸、ジヒドロ葉酸レダクターゼ/メトトレキサート、グルタミン合成酵素/メチオニンスルホキシミン、メタロチオネイン-I/重金属が挙げられる。
【0113】
一実施形態では、増幅可能な選択マーカー遺伝子及び/又は選択マーカーは、発現カセット内に提供される。
【0114】
一実施形態では、増幅可能な選択マーカーは、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)である。DHFR選択方法は、dhfr遺伝子(増幅可能な選択マーカー遺伝子)を核酸ベクターに組み込み、それによって、DHFR選択圧を核酸ベクター内の他の発現カセットに誘導することが関与する。宿主細胞を、核酸ベクターによりトランスフェクトし、DHFR阻害剤であるメトトレキサート(MTX)の濃度を増加させながら増殖させて、宿主ゲノムへと組み込まれたdhfr遺伝子、及びそれに付随して、残りの組み込まれた核酸ベクターDNAを増幅した細胞を選択する。
【0115】
一実施形態では、dhfr遺伝子は、ゲノム受託番号NM_010049.3に対して少なくとも60%の配列同一性、例えば、少なくとも70%、80%、90%又は100%の配列同一性を含む。
【0116】
別の実施形態では、増幅可能な選択マーカーは、グルタミン合成酵素(GS)である。GS選択方法は、gs遺伝子を核酸ベクターに組み込み、それによって、GS選択圧を核酸ベクター内の他の発現カセットに誘導することが関与する。宿主細胞を、核酸ベクターによりトランスフェクトし、GS阻害剤であるメチオニンスルホキシミン(MSX)の濃度を増加させながら増殖させて、宿主ゲノムへと組み込まれたgs遺伝子及び、それに付随して、残りの組み込まれた核酸ベクターDNAを増幅した細胞を選択する。
【0117】
gs遺伝子の核酸配列を含む発現構築物は、当技術分野で公知のgs遺伝子をコードする発現構築物の核酸配列を含有してもよい(例えば、それに含まれる配列が参照により本明細書に組み込まれる、WO874462)。
【0118】
このようにして、増幅可能な選択マーカー及び関連する選択薬剤を使用することによって、関連する薬剤の新たな(増加した)濃度で増殖する細胞の選択を可能とする培養期間の後、選択圧を保有するゲノム領域が増幅し、それによって、増幅可能な選択マーカーのコピー数が増加する。結果として、ウイルス遺伝子を含む核酸ベクターの発現カセットが、増幅可能な選択マーカー遺伝子を含む発現カセットと一緒に、単一の遺伝子座において宿主ゲノムへと組み込まれると、これらの発現カセットも増幅される。したがって、このような増幅及び選択の繰り返しによって増殖する細胞株が、次いで、力価/収率に関してスクリーニングされ、最も優れたクローンが、AAVウイルスベクター粒子の次の産生のために選択される。
【0119】
好ましい実施形態では、宿主細胞は、増幅可能な選択マーカーに対して陰性である。すなわち、宿主細胞の内因性染色体は、内因性の増幅可能な選択マーカー遺伝子を含まない。例えば、増幅可能な選択マーカーとしてDHFRを使用する場合、DHFR-陰性宿主株、例えば、CHO DG44又はCHO DUX-B11を用いることが好ましい。
【0120】
しかし、本発明は、特定の宿主細胞株の選択に限定されない。急速な増殖速度を有し(すなわち、12時間以下の倍加時間)、同様か又はそれより早い速度で内因性の増幅可能な選択マーカー遺伝子を増幅させることなく、合理的な速度で増幅可能な選択マーカーを増幅させることができる任意の細胞株を、本発明の方法において使用することができる。
【0121】
優性マーカー(すなわち、外因性の増幅可能な選択マーカー)によりトランスフェクトした細胞株を、選択薬剤の濃度を増加させても増殖する細胞の能力が、増幅可能な選択マーカーのコピー数の増加と相関することを決定することによって特定する(これは、サザンブロッティングによって増幅可能なマーカーのコピー数の増加を実証することによって直接的に、又はノーザンブロッティング、若しくはqPCRによって増幅可能なマーカーから生じるmRNAの量の増加を実証することによって間接的に測定することができる)。
【0122】
宿主細胞が内因性の増幅可能な選択マーカー遺伝子を含む場合、核酸ベクターは、増幅可能な選択マーカーに加えて、選択マーカーをコードする核酸配列をさらに含んでもよい。これによって、関連する選択薬剤による選択の間の内因性の増幅可能な選択マーカー遺伝子の増幅の問題が回避される。宿主細胞は、選択マーカーと同様に、増幅可能な選択マーカーを含む核酸ベクターによりトランスフェクトされる。トランスフェクトされた宿主細胞は、まず、選択マーカーの抗生物質、例えば、ゼオシン又はハイグロマイシンpの下で増殖する能力について選択される。次いで、細胞は、選択薬剤、例えば、MTXの濃度を増加させても増殖する能力について選択される。
【0123】
一実施形態では、核酸ベクターは、ポリAシグナルを付加的に含む。ポリAシグナルの使用は、mRNAを酵素分解から保護し、翻訳を補助するという利点を有する。さらなる実施形態では、ポリAシグナルは、SV40、ウシ成長ホルモン及び/又はヒトベータグロビンから得られるか又はそれに由来する。一実施形態では、ポリAシグナルは、SV40初期ポリAシグナルに由来する(例えば、ゲノム受託番号EF579804.1、マイナス鎖からの塩基対2668から2538を参照のこと)。一実施形態では、ポリAシグナルは、ヒトベータグロビンポリAシグナルに由来する(例えば、ゲノム受託番号GU324922.1、塩基対3394から4162を参照のこと)。
【0124】
一実施形態では、核酸ベクターは、イントロン配列を付加的に含む。エンハンサー/プロモーター領域の下流並びにcDNAインサート(すなわち、導入遺伝子)の上流のイントロンの使用によって、インサートの発現レベルが増加することが知られている。さらなる実施形態では、イントロン配列は、ヒトベータグロビンイントロン又はウサギベータグロビンイントロンIIの配列である。一実施形態では、ヒトベータグロビンイントロンは、ゲノム受託番号KM504957.1(例えば、塩基対476から1393)で取得可能な配列に由来する。一実施形態では、ウサギベータグロビンイントロンIIは、ゲノム受託番号V00882.1(例えば、塩基対718から1290)で取得可能な配列に由来する。
【0125】
一実施形態では、核酸ベクターは、アデノウイルスのrep/cap遺伝子に挿入されたイントロンを含む。好ましい実施形態では、イントロンは、ラムダファージDNAの断片を埋め込んだβ-グロビンイントロンである。
【0126】
AAV ITR-隣接導入遺伝子(すなわち、組換えDNAゲノム)がAAV Rep及びCapを発現する細胞内に存在する場合、Repタンパク質は、導入遺伝子に隣接するITRに結合し、複製を開始して、単鎖のITR隣接導入遺伝子のコピーを産生する。次いで、Repは、このssDNAのパッケージングをガイドして、細胞核内のAAVカプシドをアセンブルする。
【0127】
一実施形態では、核酸ベクターは、単鎖結合(SSB)タンパク質をコードする核酸配列を含む。一実施形態では、SSBタンパク質は、大腸菌のSSBタンパク質である。
【0128】
ITR隣接遺伝子療法導入遺伝子とAAV rep/cap遺伝子の間に重複する配列は存在しないが、rep及びcapが、非相同組換えによってITR間に挿入されてしまった野生型複製コンピテントAAVを生成する可能性が依然としてある(Allenら、(1997) Journal of Virology 71:6816~6822頁)。したがって、rAAVベクター粒子の産生は、遺伝子療法ベクター粒子から分離することができない野生型AAVベクター粒子の産生も生じ得る。AAVは、ヒトのいずれの疾患にも関連せず、低い免疫原性を有するが、このことは依然として安全性の懸念を提起する。
【0129】
ITRによるrep/capの組換えを試みる及び妨げるいくつかの方法は、rep及びcapを別々のプラスミドに分割すること、又はAAV ITRのD-配列における遠位の10ヌクレオチドを除去すること、及びいずれのITRも欠くアデノウイルスヘルパー遺伝子を使用することなど、文献において試験されてきた。しかし、これらの方法は、一般的に、rAAVパッケージング効率の低下、したがって、ベクター収率の低減をもたらす。Caoら(Caoら、(2000) Journal of Virology 74:11456~11463頁)は、大きな埋込みを有するイントロン(padded intron)をrep/capプラスミドのrep遺伝子へと挿入することによって、複製コンピテントAAVの産生を遮断する方法を試験した。この追加のイントロンをmRNA処理の間にスプライシングすると、その結果、Repタンパク質は依然として生じるが、この追加のイントロンはまた、AAV遺伝子が導入遺伝子に隣接するITRにより組み換えられた場合には、もはやAAVカプシドに有効にパッケージングできないサイズまで、それらの長さを増加させた。彼らが使用したイントロンは、Rep78/68開始コドンから333bp下流の位置のrepのP5プロモーターの下流に挿入された850bpのヒトβ-グロビンイントロンであった。追加のイントロンを用いてこのrep/capプラスミドを試験する実験では、細胞がベクターにより形質導入された場合の視野当たりのGFP陽性細胞の平均数で示されるように、追加のイントロンを有さないrep/capが使用された場合と比較して、GFP導入遺伝子を有するrAAVの収率に差は見られなかった。β-グロビンイントロンをさらに拡大するために、彼らは、イントロンが、種々のEcoRI+HindIIIで消化されたラムダファージゲノム片をイントロンのMfeI部位へと挿入することによって埋め込まれたプラスミドを作出した。埋込みを有するイントロンを有するこれらのプラスミドを使用して産生したrAAVを使用してレシピエント細胞に形質導入する場合、トランスフェクションの36時間後のPCRによって、複製コンピテントAAVを細胞内で検出することはできなかった。さらに、彼らは、2.35kbのイントロンを生じる、1.5kbのラムダファージDNA断片を埋め込んだβ-グロビンイントロンを含有するrep/capプラスミドが、いずれの追加のイントロンも有さないrep/capプラスミドを使用して産生したベクターと比較した場合に、5~10倍、rAAVの収率を増加させることを見出した。この2.35kbのイントロンプラスミドを使用した場合に、抗Rep抗体でプローブしたプロデューサー細胞溶解物のウエスタンブロッティングにより、Rep52とRep40バリアントの比率の増加が示された。Repバリアントの化学量論のこの変化は、組換えGFP導入遺伝子のパッケージングに関して正の影響を有し得る。これは、この埋込みを有するイントロンが、複製コンピテントAAVを産生する尤度の有意な低下及び組換えベクターの収率の有意な増加の両方を示したからである。
【0130】
一実施形態では、核酸ベクターは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(WPRE)を付加的に含む。WPREの存在によって、発現が増強され、それ自体、高レベルの発現を達成するのに有益である傾向があることが示された。さらなる実施形態では、WPREは、ゲノム受託番号J04514.1(例えば、塩基対1093から1684)で取得可能な配列に由来する。
【0131】
一実施形態では、核酸ベクターは、配列内リボソーム進入部位(IRES)を付加的に含む。IRESは、末端非依存的方式における翻訳開始を可能とする。IRESは、通常、5'-capの下流(開始複合体のアセンブリーに必要とされる)で、ウイルスの5'-非翻訳領域(UTR)に見られる構造RNAエレメントである。IRESは、翻訳開始因子によって認識され、cap非依存性翻訳を可能とする。さらなる実施形態では、IRESは、脳心筋炎ウイルス(Encephalomyocarditis virus)(EMCV)ゲノム(例えば、ゲノム受託番号KF836387.1、塩基対151~724を参照のこと)に由来する。
【0132】
一実施形態では、核酸ベクターは、多重クローニング部位(MCS)を付加的に含む。MCSは、多重制限部位(例えば、10、15又は20部位)を含有する核酸ベクター内の短いDNAセグメントである。これらの部位は、通常、エンドヌクレアーゼが一箇所でのみ切断することを保証するために核酸ベクター内に一度しか見られない。これは、ウイルス遺伝子が適切なエンドヌクレアーゼ(すなわち、制限酵素)を使用して容易に挿入されることを可能とする。
【0133】
これらのカセットが核酸ベクター内に任意の順序で配置されていてもよいことが当業者には理解されよう。例示的実施形態では、核酸ベクターは、以下のインサートを含む:ヘルパーウイルス遺伝子(例えば、アデノウイルス)をコードする核酸配列、AAV rep/cap遺伝子をコードする核酸配列、テトラサイクリン耐性オペロンリプレッサータンパク質(TetR)、内部リボソーム進入部位、及び選択マーカー(例えば、ゼオシン耐性選択マーカー)(すなわち、Rep-Cap-ヘルパーウイルス-Tetリプレッサー-IRES-抗生物質耐性マーカー-残りのBAC配列(「BAC骨格」、例えば、pSMARTBAC))。核酸ベクターは、AAVベクター粒子のDNAゲノム、例えば、任意選択で、プロモーター及び/又はポリAシグナルを含む、2つのAAV ITR間にコードされた導入遺伝子をさらに含んでもよい。これは、選択マーカーの後に挿入されてもよい(すなわち、Rep-Cap-ヘルパーウイルス-Tetリプレッサー-IRES-抗生物質耐性マーカー-AAVゲノム-残りのBAC配列(「BAC骨格」、例えば、pSMARTBAC))。
【0134】
さらなる実施形態では、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)は、以下をコードする核酸配列の間に存在する:(i)AAV rep/cap遺伝子;(ii)ヘルパーウイルス遺伝子;及び(iii)AAVベクター粒子のDNAゲノム(例えば、2つのAAV ITR間の導入遺伝子)。さらなる実施形態では、プロモーターは、以下をコードする核酸配列の前に存在する:(i)AAV rep/cap遺伝子;(ii)ヘルパーウイルス遺伝子;及び(iii)AAVベクター粒子のDNAゲノム。
【0135】
一実施形態では、核酸ベクターは、以下のインサートを含む:プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスヘルパー遺伝子E2A、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスヘルパー遺伝子E4、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスヘルパー遺伝子VA、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、AAV rep/cap遺伝子をコードする核酸配列、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、選択マーカー(例えば、ゼオシン耐性選択マーカー)、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、2つのAAV ITR間のプロモーターに対する導入遺伝子作動可能リンカー及びマルチクローニング部位を含む核酸配列。
【0136】
図2に概略図として表されたさらなる実施形態では、核酸ベクターは、以下のインサートを含む:IRESを含む選択マーカーに作動可能に連結したtTA遺伝子、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスヘルパー遺伝子E2A、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスヘルパー遺伝子E4、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスヘルパー遺伝子VA、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、AAV rep及びcap遺伝子をコードする核酸配列、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、プロモーターに作動可能に連結したAAV rep遺伝子によってコードされたAAV rep mRNA分子を標的とするshRNAをコードする核酸配列、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスE1A遺伝子によってコードされたアデノウイルスE1A mRNA分子を標的とするshRNAをコードする核酸配列、インスレーター(例えば、クロマチンインスレーター)、2つのAAV ITR間のプロモーターに対する導入遺伝子作動可能リンカー及びマルチクローニング部位を含む核酸配列。
【0137】
核酸配列は、順次、核酸ベクターへと導入され得る。これによって、必要とされる核酸配列のすべてが、核酸ベクターへと組み込まれることに成功することを保証するための、各組込み後の選択を可能とする。あるいは、少なくとも2つ以上の核酸配列が、同時に、核酸ベクターへと導入される。
【0138】
本明細書に記載の追加の遺伝子は、当技術分野で公知の標準的分子クローニング技法によって、例えば、制限エンドヌクレアーゼ及びライゲーション技法を使用して、核酸ベクターへと導入され得る。さらに、核酸ベクター、特に、BAC、PAC、フォスミド及び/又はコスミドは、標準的技法、例えば、エレクトロポレーションによって、バクテリア宿主細胞(例えば、大腸菌細胞、特に大腸菌株DH10B)へと導入され得る。
【0139】
使用
本発明のさらなる態様によれば、AAVパッケージング又はプロデューサー細胞株を産生する際に使用するための本明細書で定義される核酸ベクターが提供される。
【0140】
本明細書に記載の核酸ベクターは、AAVベクター産生を大幅に簡単にするAAVパッケージング細胞株を作出するために使用することができる。導入遺伝子が核酸ベクターに含まれていれば、これがプロデューサー細胞株の作出のために使用されることが理解されよう。
【0141】
本明細書に記載されるように、一時的トランスフェクションに付随する困難を克服するために、安定なAAVパッケージング(又はプロデューサー)細胞株を開発することが有用となる。本明細書に記載の核酸ベクターは、AAVパッケージングに必要とされる必須遺伝子を含有する大きなDNAインサートを保持することができ、これは、次いで、哺乳動物宿主細胞の内因性ゲノムに一ステップで組み込まれ得るため、前記パッケージング細胞株の産生に使用することができる。
【0142】
宿主細胞
本発明のさらなる態様によれば、
AAV rep/cap遺伝子、及び
ヘルパーウイルス遺伝子
をコードする核酸配列を含むAAVベクター粒子を産生するためのAAVパッケージング細胞であって、
前記核酸配列がすべて、AAVパッケージング細胞のゲノム内の単一の遺伝子座に一緒に組み込まれる、AAVパッケージング細胞が提供される。これらの核酸配列は、複製コンピテントウイルスを形成する組換えのいずれのリスクも妨げる、個々の発現カセットとして存在することが理解されよう。
【0143】
大きな核酸ベクターにAAVベクター産生に必要なウイルス遺伝子のすべてを含めることの利点は、それらがまず、取り扱い及び操作がはるかに容易な微生物細胞(例えば、バクテリア又は酵母細胞)で調製し、その後、一ステップで哺乳動物細胞へと組み込むことができることである。これは、選択圧を和らげ、一旦、ウイルス遺伝子が哺乳動物宿主細胞に組み込まれれば、サイレンシング時間枠を低減する。この方法の特有な特徴は、パッケージング細胞株を作出するために必要とされる遺伝子のすべてが、内因性ゲノム中に無作為に分散するのではなく、内因性ゲノム内の単一の遺伝子座に存在することである。これは、ウイルス遺伝子が内因性ゲノムに無作為に組み込まれ、これにより不均一なレベルの発現を生じ得る従来の方法と比較して、ウイルス遺伝子のすべてが同じ遺伝子座に位置するため、同じレベルで発現するAAVパッケージング細胞を産生するという利点を有する。
【0144】
核酸ベクター構築物を、異なる染色体の複数の異なる位置において(コードされた核酸配列のすべてが単一の遺伝子座に存在するにもかかわらず)、宿主細胞のゲノムに2回以上組み込んでもよいことが理解されよう。したがって、「単一の遺伝子座」への言及は、核酸配列がすべて、AAVパッケージング細胞のゲノム内の複数の遺伝子座に一緒に位置する可能性を除外しない。これは、導入遺伝子の発現レベルを増加させるのに有益であり得、潜在的にAAVの力価を改善することができる。qPCRによって、個々のクローンに由来する細胞集団間の構築物挿入のコピー数を比較することが可能である。
【0145】
一実施形態では、AAVパッケージング細胞は、AAVベクター粒子のDNAゲノムをコードする核酸配列を付加的に含む。これもまた、AAV rep/cap遺伝子及びヘルパーウイルス遺伝子をコードする核酸配列と共に単一の遺伝子座に位置し得る。AAVベクター粒子のDNAが宿主細胞内に存在する場合、この細胞をAAVプロデューサー細胞と称することができることが理解されよう。
【0146】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、
AAV rep/cap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、及び
AAVベクター粒子のDNAゲノム
をコードする核酸配列を含むAAVベクター粒子を産生するためのAAVプロデューサー細胞であって、
前記核酸配列がすべて、AAVプロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座に(すなわち、個々の発現カセットとして)一緒に組み込まれる、AAVプロデューサー細胞が提供される。
【0147】
一実施形態では、AAVパッケージング細胞は、哺乳動物細胞である。さらなる実施形態では、哺乳動物細胞は、HEK293細胞、CHO細胞、Jurkat細胞、KS62細胞、PerC6細胞、HeLa細胞又はそれらの誘導体若しくは機能的等価物から選択される。なおさらなる実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、HEK293細胞であるか、又はHEK293細胞に由来する。このような細胞は、接着細胞株(すなわち、それらは表面に結合して単層として増殖する)又は懸濁適応/非接着細胞株(すなわち、それらは培養培地中、懸濁状態で増殖する)であり得る。なおさらなる実施形態では、HEK293細胞は、HEK293T細胞である。用語「HEK293細胞」は、バイオテクノロジーに慣用されるヒト胎児腎293細胞株を指す。特に、HEK293T細胞は、それらが、既に、E1A及びE1Bヘルパーウイルス遺伝子を含有し、E2A、E4ORF6及びVAヘルパー因子だけが提供される必要があるため、AAVベクターの産生に慣用される。好適な市販の細胞株の他の例として、T-REX(商標)(Life Technologies)細胞株が挙げられる。
【0148】
一実施形態では、宿主細胞は、宿主細胞の同種の野生株と比較して、単鎖結合(SSB)タンパク質を過剰発現する。一実施形態では、宿主細胞は、単鎖結合(SSB)タンパク質をコードする外因性核酸配列を含む。
【0149】
核酸ベクターに関して以上に記載した実施形態はすべて、本発明のAAVパッケージング/プロデューサー細胞にも適用可能であることが理解されよう。
【0150】
方法
本発明のさらなる態様によれば、安定なAAVパッケージング細胞株を産生する方法であって、
(a)本明細書に記載されている核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること
を含む、方法が提供される。
【0151】
本明細書に記載の方法は、AAVのすべての血清型及びキメラ、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、並びにそれらの任意のキメラの産生に好適であることが理解されよう。
【0152】
一実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、HEK293細胞、HEK6E細胞、CHO細胞、Jurkat細胞、KS62細胞、PerC6細胞、HeLa細胞又はそれらの誘導体若しくは機能的等価物から選択される。さらなる実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、HEK293細胞であるか、又はHEK293細胞に由来する。このような細胞は、接着細胞株(すなわち、それらは表面に結合して単層として増殖する)又は懸濁適応/非接着細胞株(すなわち、それらは培養培地中、懸濁状態で増殖する)であり得る。なおさらなる実施形態では、HEK293細胞は、HEK293T細胞又はHEK6E細胞である。好適な市販の細胞株の他の例として、T-REX(商標)(Life Technologies)細胞株が挙げられる。
【0153】
当業者であれば、核酸ベクターを宿主細胞に導入することは、当技術分野で公知の好適な方法、例えば、脂質媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、細胞(例えば、マイクロセル)融合、エレクトロポレーション又は微粒子衝撃を使用して実施され得ることを認識するであろう。一実施形態では、核酸ベクターは、エレクトロポレーションによって宿主細胞へと導入される。核酸ベクターを導入するのに使用するための方法の選択は、使用する哺乳動物宿主細胞の種類に応じて選択され得ることが理解されよう。
【0154】
一旦、哺乳動物宿主細胞内にあれば、核酸ベクターは、哺乳動物宿主細胞の内因性ゲノムに無作為に組み込まれる。したがって、本方法は、核酸ベクターにコードされた核酸が組み込まれた哺乳動物宿主細胞を選択することを付加的に含む(例えば、ゼオシン耐性マーカーなどの抗生物質耐性選択マーカーを使用する)。
【0155】
当業者であれば、例えば、核酸ベクターが自然状態で環状であれば(例えば、BAC、PAC、コスミド又はフォスミド)、それを直鎖化するなど、核酸ベクターの組込みを助長する方法を認識するであろう。核酸ベクターは、内因性ゲノム内の選択された部位に組込みをガイドするための、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体と相同性を共有する領域を付加的に含み得る。さらに、組換え部位が核酸ベクター上に存在すれば、これらは標的組換えに使用可能である。例えば、核酸ベクターは、Creリコンビナーゼと組み合わせた場合に(すなわち、P1バクテリオファージに由来するCre/lox系を使用する)、標的組込みを可能とするloxP部位を含有し得る。あるいは(又はさらに)、組換え部位は、att部位(例えば、ラムダファージ由来)であり、このatt部位は、ラムダインテグラーゼの存在下での部位特異的組込みを可能とする。これは、ウイルス遺伝子が、高い且つ/又は安定な発現を可能とする内因性ゲノム内の遺伝子座に標的化されることを可能とする。
【0156】
標的化組込みの他の方法も当技術分野で周知である。例えば、選択された染色体遺伝子座での標的組換えを助長するために、ゲノムDNAの標的切断を誘導する方法を使用することができる。これらの方法は、多くの場合、二重鎖切断(DSB)を誘導するための操作された切断系又は非相同末端結合(NHEJ)若しくは修復テンプレート(すなわち、相同性特異的修復又はHDR)を使用する修復などの天然プロセスにより切断の修復を誘導するための内因性ゲノムのニックの使用を含む。
【0157】
切断は、特異的切断をガイドするためにCRISPR/Cas9系を、操作されたcrRNA/tracr RNA(「シングルガイドRNA」)と共に使用する、及び/又はアルゴノート系に基づくヌクレアーゼ(例えば、T.サーモフィラス(T. thermophilus)由来、「TtAgo」として知られる、Swartsら(2014) Nature 507(7491):258~261頁を参照されたい)を使用する、操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)などの特異的ヌクレアーゼの使用を介して起こり得る。これらのヌクレアーゼ系のうちの1つを使用する標的切断は、HDR又はNHEJのいずれかにより媒介されるプロセスを使用して、特定の標的位置に核酸を挿入するために活用することができる。したがって、一実施形態では、本方法は、少なくとも1つのヌクレアーゼを使用して、核酸ベクターにコードされた核酸配列を哺乳動物宿主細胞のゲノム(すなわち、内因性染色体)に組み込むことを付加的に含み、少なくとも1つのヌクレアーゼは、核酸配列が細胞のゲノムへと組み込まれるように、哺乳動物宿主細胞のゲノムを切断する。さらなる実施形態では、ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR/Casヌクレアーゼ系及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0158】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書で定義される方法によって得られるAAVパッケージング又はプロデューサー細胞が提供される。
【0159】
本明細書で定義される方法を使用して得られる細胞株は、高力価のAAVベクターを産生するために使用することができる。ウイルス力価は、AAV粒子のゲノムコピー数を与える定量的PCR(qPCR)によって、及び感染ウイルス力価のTCID50測定をもたらすELISAによって測定することができる。2つの測定値を比較することによって、AAVバッチに関する形質導入の効率を決定することができる。
【0160】
本明細書で用語「高力価」についての言及は、患者細胞などの標的細胞を形質導入できるAAVベクター粒子の有効量を指す。一実施形態では、高力価は、濃縮せずに106TU/ml(TU=形質導入単位)を超えるものである。
【0161】
一実施形態では、本明細書で定義される方法はスケーラブルであるため、培養培地の任意の所望の体積、例えば、10ml(例えば、振盪フラスコ内で)から10L、50L、100L、又はそれより多く(例えば、ウェーブバイオリアクター系及び撹拌タンクなどのバイオリアクター)で実行することができる。
【0162】
本発明のさらなる態様によれば、複製欠陥AAVベクター粒子を産生する方法であって、 (a)本明細書で定義される核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、
(b)培養物内で、ベクターにコードされた核酸配列が哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれた哺乳動物宿主細胞を選択すること、及び
(c)選択された哺乳動物宿主細胞を複製欠陥AAVベクター粒子が産生される条件下でさらに培養すること
を含む、方法が提供される。
【0163】
以上に記載されるように、一実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、HEK293細胞、CHO細胞、Jurkat細胞、KS62細胞、PerC6細胞、HeLa細胞又はそれらの誘導体若しくは機能的等価物から選択される。さらなる実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、HEK293細胞であるか、又はHEK293細胞に由来する。このような細胞は接着細胞株(すなわち、それらは表面に結合して単層として増殖する)又は懸濁適応/非接着細胞株(すなわち、それらは培養培地中、懸濁状態で増殖する)であり得る。なおさらなる実施形態では、HEK293細胞は、HEK293T細胞である。好適な市販の細胞株の他の例として、T REX(商標)(Life Technologies)細胞株が挙げられる。
【0164】
本明細書に記載の方法において使用される条件は、使用される宿主細胞によって異なることが当業者によって理解されよう。典型的な条件、例えば、使用される培養培地又は温度は、当技術分野で周知である。一実施形態では、培養は、哺乳動物宿主細胞を加湿条件下でインキュベートすることによって実施される。さらなる実施形態では、加湿条件は、トランスフェクト細胞を37℃で、5%CO2にてインキュベートすることを含む。一実施形態では、培養は、10%(vol/vol)ウシ胎仔血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、無血清UltraCULTURE(商標)培地(Lonza、カタログ番号12-725F)、又はFreeStyle(商標)Expression培地(Thermo Fisher、カタログ番号12338-018)から選択される培養培地を使用して実施される。
【0165】
適切な培養方法は、当業者に周知である。例えば、細胞は、懸濁液中及び/又は動物成分不含条件で培養することができる。一実施形態では、細胞は、培養培地の任意の体積、10ml(例えば、振盪フラスコ内で)から10L、50L、100L、又はそれより多く(例えば、バイオリアクター内で)で培養するのに好適である。
【0166】
本明細書に記載されるように、特許請求される発明の使用によって、プラスミドの製造コストが削減され、トランスフェクション試薬(例えば、ポリエチレンイミン[PEI])の必要性低減され、必要とされるBenzonase(商標)処理の量が削減され(ウイルス収穫物中のDNAの量が低減するので、下流処理で余分なものを除去するために必要なBenzonase(商標)が少なくなる)、検査コストが削減される(ウイルス産物中の残留プラスミドを検査する必要がなくなる)。これらの利点はすべて、本発明の態様として考慮され得る。
【0167】
一実施形態では、本方法は、複製欠陥AAVベクター粒子を単離することを付加的に含む。例えば、一実施形態では、単離は、フィルターを使用することによって実施される。さらなる実施形態では、フィルターは、低タンパク質結合膜(例えば、0.22μm低タンパク質結合膜又は0.45μm低タンパク質結合膜)、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はポリエーテルスルホン(PES)人工膜である。
【0168】
一旦、哺乳動物宿主細胞内にあれば、核酸ベクターに存在する核酸配列は、内因性ゲノム内の無作為な単一遺伝子座(又は複数回、したがって、2つ以上の遺伝子座)に組み込まれ得る。組込みステップは、以上に記載されるように、例えば、直鎖化及び/又は共通相同性領域を使用して助長され得る。組換え部位もまた、標的化組換えのために使用され得る。
【0169】
標的遺伝子が抗生物質耐性遺伝子などの選択マーカーと共に内因性染色体に組み込まれる場合、本方法は、ウイルス核酸が組み込まれるのに成功した哺乳動物宿主細胞を選択することを付加的に含み得る。
【0170】
一旦単離されると、AAVベクター粒子は、インビボ適用のために濃縮され得る。濃縮方法として、例えば、超遠心分離、沈降又は陰イオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。超遠心分離は、小規模でのAAVベクター濃縮のための迅速法として有用である。あるいは、陰イオン交換クロマトグラフィー(例えば、Mustang Q陰イオン交換膜カートリッジを使用する)又は沈降(例えば、PEG 6000を使用する)は、大容量のAAVベクター上清を処理するために得に有用である。
【0171】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書で定義される方法によって得られる複製欠陥AAVベクター粒子が提供される。
【0172】
以下、本発明を下記の限定されない例を参照してさらに詳細に説明する。
【0173】
[実施例]
[実施例1]
AAVバクテリア人工染色体の設計
本発明の核酸ベクターは、当技術分野で公知の方法を使用して設計することができる。詳細な例示的方法を本明細書に提供する:
Gibsonクローニングプライマーを、PCMVプロモーター、IRES、及びゼオシン耐性遺伝子をPCMV-イントロン-tTA-ZeoR-ポリAの順で含む構築物中のテトラサイクリン制御トランス活性化因子(tTA)遺伝子を増幅するよう設計する。そのプライマーは、GibsonアセンブリーによるpSMART BAC骨格(Lucigen Corp.)へのクローニングを可能にする。連続的iBrickクローニング(参照により本明細書に組み込まれるLiuら(2014) PLoS One 9(10):e110852頁)のためのPI-PspIに対する制限部位が、ポリAとプラスミドの間に含まれる。
【0174】
タンデムな2つのニワトリHS4(cHS4)インスレーターを、以下の通り、PI-PspI部位へとZeoRポリAの3'にクローニングする。pMA-BACmod-GSKCOTR-IR-Zeo由来の2xcHS4断片を、I-SceIフォワードプライマー及びPI-PspIリバースプライマーを使用して増幅する。I-SceI部位と2xcHS4インスレーターの間が、MluI及びNheIに対する制限部位である。この断片を、pCR-Blunt II TOPO(Thermo Fisher)へとサブクローニングする。これを、BACドナーベクターとして使用する。
【0175】
pCR-Blunt II TOPOの2xcHS4断片を、I-SceI及びPI-PspIで消化する。pSMART BACを、PI-PspIで消化し、脱リン酸化する。次いで、I-SceI及びPI-PspIで消化された2xcHS4を、PI-PspI部位へとクローニングする。これによって、5' PI-PspI部位が抑止(abrogate)され、2xcHS4の下流にインタクトPI-PspI部位が残る。
【0176】
iBrickクローニングによってpSMART BACへと挿入される他のカセットのすべてを、BACドナーベクターの2xcHS4の上流のMluI及びNheI部位へとクローニングする。次いで、これらを、I-SceI及びPI-PspIで消化することができ、毎回、3'末端に2xcHS4が含まれる。MluIフォワードプライマー及びXbaIリバースプライマーを使用するか又は遺伝子合成にこれらの部位を含むことによって、全体として2xcHS4の上流のNheIを抑止するが、ZeoRの下流に挿入される最初のcHS4は抑止されない。この方法の例外である遺伝子カセットは、MluI部位を含有し、したがって、2xcHS4とは別に、iBrickクローニングを使用してBACへと挿入されるE2A、並びにNheI及びXbaI部位を含有し、したがって、リバースプライマーがAvrIIミスマッチ部位(ドナープラスミドにおけるNheIとの適合性末端)を含むはずであるVAである。
【0177】
AAV rep/cap遺伝子をBACドナーベクターの2xcHS4インスレーターの上流にクローニングする。次いで、これを、BACへとiBrickクローニングする。
【0178】
次に、アデノウイルスヘルパー遺伝子のそれぞれを、2xcHS4インスレーターの上流のBACドナーベクターへとクローニングする。これらをまた、BACへとiBrickクローニングする。
【0179】
BAC構築物全体を、宿主細胞へと安定にトランスフェクトし、安定な細胞株を作製する。次いで、細胞株を、AAV力価について試験する。
【0180】
[実施例2]
追加の構成成分によるAAV BACの設計及び合成
それへとクローニングされる、rAAV粒子産生に必要とされるすべての遺伝子エレメント(すなわち、発現カセット):AAV rep/cap遺伝子;ヘルパーウイルス遺伝子及びAAVベクター粒子の組換えDNAゲノムを含有するBACを作出した。さらに、追加の構成成分も以下に概説するように含まれた。
【0181】
トランスフェクトされた哺乳動物細胞で発現されるAAV Repのレベルを制御するために、条件プロモーター(Ptet-T6)の制御下で、構築物に、shRNA標的Rep及びE1Aを含むことが決定された。
【0182】
BACはまた、テトラサイクリン感受性転写活性化因子であるtTAを含む。通常の増殖条件下で、構築物がゲノムへと安定に組み込まれる懸濁適応HEK293細胞がshRNAを発現し、Rep及びE1A発現はノックダウンされることとなった。細胞が、rAAV粒子産生に好適な密度に達すると、ドキシサイクリン(DOX)を増殖培地に添加することができた。これによって、tTA転写活性化因子が不安定になり、shRNAの転写がオフになり、Rep及びE1Aの産生及びrAAV粒子産生の進行が可能となった。
【0183】
埋込みを有するイントロンをまた、複製コンピテントAAV(rcAAV)の形成の尤度を低減し、プロデューサー細胞におけるrAAV粒子の収率の増加という余分の利益を有するために、rep遺伝子へと挿入した(Caoら、(2000) Journal of Virology 74:11456から11463頁)。
【0184】
2.1:埋込みを有するヒトβ-グロビンイントロン配列の設計及び合成
Caoら(Caoら、(2000) Journal of Virology 74:11456~11463頁)は、PCRによってヒトβ-グロビンイントロンBを増幅させ、断片をプラスミドへとクローニングすることによって、埋込みを有するイントロンを作出した。ラムダファージDNAを、EcoRI+HindIIIで消化し、1.5kbの断片を、β-グロビン遺伝子のMfeI部位へとクローニングした。
【0185】
インシリコでこの作業を再現するために、ヒト(Homo sapiens)のβ-グロビン遺伝子(受託番号AH001475)及び腸内細菌ファージラムダの全ゲノム配列(受託番号J02459)を、GenBankからのSnapGeneソフトウェア(GSL Biotech LLC)へとインポートした。β-グロビンイントロンBを、ヌクレオチド2057~2906の間の850bpとしてGenBank配列に注釈を付けた。EcoRI+HindIIIで消化されたラムダファージゲノム配列についてシミュレーションしたアガロースゲルにより、予測した1.5kbの断片の代わりに、1.375及び1.709kbの断片が明らかとなった。1.375kbのEcoRI/HindIII断片は、5'末端にEcoRI部位及び3'末端にHindIII部位を含有した。この配列をコピーし、β-グロビンイントロンB配列のヌクレオチド位174におけるMfeI部位へと貼り付けた。得られた埋込みを有するイントロン配列は、2225bp長であった。それが挿入されるrep2遺伝子の領域と相同な配列を含有するプライマーを有するこの断片を増幅するために、配列を、rep2の挿入部位に隣接する配列と相同な配列の5'(TGGACGTTTCCTGAGTCAG;配列番号1)及び3'(ATTCGCGAAAAACTGATTCAG;配列番号2)末端に付加した。次いで、この配列を合成し、T pG.AAV2.R2C2及びpG.AAV2.R2C5へとライゲーションして、それぞれ、pG.AAV2.R2C2-イントロン及びpG.AAV2.R2C5-イントロンを形成した。
【0186】
2.2:AAV rep mRNA分子を標的とするshRNAの設計及び合成
P19プロモーターの下流のAAV2 rep遺伝子転写物を標的とするshRNAを設計した。repイントロンに存在する配列を除いて、P19の下流の配列のみを標的とすることは、4つのrep mRNAバリアントのすべてがノックダウンの標的とされることを意味する。
【0187】
21-ヌクレオチドshRNA配列を、Dowら(Dowら、(2012) Nature Protocols 7: 347~393頁)に概説される有効なshRNAに対する基準に従うAAV2由来のrep及びcap遺伝子並びにAAV5由来のcapの領域に対する相同性に関して設計した。これらの基準は以下の通りである:
- 1位のA又はT
- 40~80%のA/T含量
- 1~14位の50%を超えるA/T含量
- (1~14位のA/T%)/(15~21位のA/T%)≧1
- 20位にAが存在しない
13位のA若しくはT又は14位のT
- 「AAAAAA」、「TTTTT」、「CCCC」又は「GGGG」が存在しない
【0188】
これらの基準は、AAV2 rep遺伝子の逆相補鎖に適用した。AAV2 cap遺伝子とAAV5 cap遺伝子の間の相同性領域(AAV2 GenBank配列AF043303のヌクレオチド3086~3106)が、これらの基準に合致することが判明した。この配列を標的とするshRNAは、AAV2及びAAV5におけるRep及びCap発現の両方をノックダウンするために有効に使用することができた。配列全体にわたって手作業で検索して基準に合致する配列を探すことに加えて、P19プロモーターの下流のAAV2 rep遺伝子の配列を、有効なshRNAに対する基準に従うshRNA標的配列を見出してランク付けするオンラインツールである、Adamsら(Adamsら(2017)、Biomaterials 139:102頁)において言及されるマイクロRNA適応shRNAデザインツールのカスタムシークエンスボックスへとコピーペーストした。
【0189】
このツールによって、リバース鎖の21ヌクレオチド長の配列に対して、これらの基準が適応され、センス鎖の標的の配列が提供された。10より大きいと設定したmiRNAスコアに関して、ウェブサイトでは、多くの可能なshRNA標的が見出された。ウェブサイトでは、いくつかの標的を、最も高いmiRNAスコアを有するとしてランク付けし、RNAポリメラーゼIIプロモーターから十分に発現されるそれらの尤度を示す。これらは、AAV2 repイントロンに2つの標的配列を含み、したがって、これらの配列は、rep68又はrep40転写物に対して有効ではない。しかし、イントロンの外側の、3つの最も高くランク付けされた標的を使用した:rep2 shRNA 11(16.4)、shRNA 13(14.4)及びshRNA 14(13.7)。これらの配列の逆相補鎖変換を導出した。これらの標的鎖(ガイド鎖としても公知)は、マイクロRNA適応shRNAの短いヘアピンループの3'末端を形成することになる。逆相補鎖変換配列を以下の表に示す。
【0190】
【0191】
Dowら(Dowら、(2012) Nature Protocols 7:347~393頁)の
図2で概説されるように、Cヌクレオチドを、A又はTで開始するこれらのセンス鎖配列の5'末端に付加し、Aヌクレオチドを、G又はCで開始するこれらのセンス鎖配列の5'末端に付加した。
【0192】
次いで、miR-30aループ配列を、各センス鎖配列(5'-TAGTGAAGCCACAGATGTA-3'(配列番号10))の3'末端に付加した。
【0193】
ヘアピンを形成するために、標的鎖配列を、ループの3'に付加した。ガイド鎖としても知られる、この配列の3'末端では、C又はAが、それぞれ、センス鎖の5'に付加される場合、A又はCヌクレオチドが付加される。
【0194】
RNAポリメラーゼIIプロモーター(P
CMV)を有するプラスミド由来のshRNA配列を発現させるために、shRNA配列は、マイクロRNA適応であった。これは、センス鎖の上流にマイクロRNA配列5'-AAGGTATATTGCTGTTGACAGTGAGCG-3'(配列番号11)、ガイド鎖の下流に5'-TGCCTACTGCCTCGGACT-3'(配列番号12)を付加することを意味する。マイクロRNA適応shRNAを、プラスミドpG3のマルチクローニング部位へとクローニングするために、NheI及びXhoIに対する制限部位を、それぞれ、5'及び3'末端に付加した。マイクロRNA適応shRNAの配列を
図3に示す。
【0195】
2.3:E1A mRNA分子を標的とするshRNAの設計及び合成
Ad5 E1A遺伝子のセンス鎖(GenBank受託番号AC_000008のヌクレオチド560~1545)を、2.2においてAdamsらで言及されたマイクロRNA適応shRNA設計ツールのカスタム配列ボックスへとコピーペーストした。
【0196】
10より大きいと設定したmiRNAスコアに関して、ウェブサイトでは、10.1から10.9の範囲のスコアを有する5つの可能なshRNA標的が見出された。これらの配列の逆相補鎖変換を導出した。これらの標的鎖は、マイクロRNA適応shRNAの短いヘアピンループの3'末端を形成した。逆相補鎖変換配列を以下の表に示す。
【0197】
【0198】
2.2でなされたように、Cヌクレオチド、又はAヌクレオチドを、適宜、センス鎖配列の5'末端に付加し、次いで、miR-30aループ配列を各センス鎖配列の3'末端に付加した。ヘアピンを形成するために、標的鎖配列をループの3'に付加し、A又はCヌクレオチドを、適宜、2.2でなされたように付加した。
【0199】
RNAポリメラーゼIIプロモーター(Ptet-T6)を有するプラスミドからshRNA配列を発現させるために、配列を、2.2でなされたように、マイクロRNA適応とした。Ptet-T6プロモーターとポリA配列の間にマイクロRNA適応shRNAをクローニングするために、XbaI及びXhoIに対する制限部位を、それぞれ、5'及び3'末端に付加した。
【0200】
2.4:RNA Pol IIプロモーターである、Ptet-T6を含有するtet-オペロンの設計及び合成
7個のtet-オペロンタンデム配列を有するPtet-T6プロモーターの配列を、Loewら(Loewら、(2010) BMC Biotechnology 10:81頁)から得た。5'末端に、pMA-BACmod.GSKCOTR-IR-ZeoR由来のポリAの3'末端に相同な20bpの配列を付加し、Ptet-T6の下流に、pG3_cPPT.PGK-EGFP.WPREのEGFP遺伝子の5'末端に相同な20bpの配列を付加した。全配列を合成した。
【0201】
2.5:AAVドナープラスミドの設計及び合成
発現カセットがiBrickクローニング(Liuら(2014) PLoS One 9:e110852頁に概説される)によってクローニングされる前に、中間体として作用するドナープラスミドを構築した。ドナープラスミドであるpDonorは、ニワトリβ様グロビン遺伝子クラスター由来のcHS4エレメントの2つのタンデムなコピー(2xcHS4)の上流に、発現カセットの方向性クローニング(directional cloning)のためのMluI及びNheI制限部位を含有する。2xcHS4は、本発明の核酸ベクターのような、大きな構築物の近位にクローニングされた発現カセット間のプロモーター干渉を緩和するインスレーターとして作用し、また、オープンクロマチン状態を維持する助けとなる。pDonorはまた、MluI部位の上流にI-SceI部位を、2xcHS4の下流にPI-PspI部位を含有する。これらのメガヌクレアーゼ部位によって、pDonorへとクローニングされた任意の断片がこれら2つの酵素で消化されるのが可能となり、3'末端において、2xcHS4と一緒に、BACなどの大きな遺伝子構築物の単一のPI-PspI部位へと方向性クローニングされる。これは、pDonorへとクローニングされ、次いで、BACに移入したいずれの発現カセットも、2xcHS4により3'末端に埋め込まれることを意味する。
【0202】
各発現カセットを、2xcHS4を含有するドナープラスミドへとクローニングし、次いで、発現カセットと2xcHS4の両方をBACへとクローニングする方法を、
図4に模式的に示す。この図では、「エレメント」は発現カセットを示す。
【0203】
2.5.1:2xcHS4ドナープラスミドの調製
ドナープラスミドを調製するために、5'末端にI-SceI部位及び3'末端にPI-PspIを有するpMA.BACmod.GSKCOTR-IR-ZeoRから2xcHS4を増幅するために、PCRをセットアップした。PCR(全体積25μlは以下の構成成分を含有した):
【0204】
【0205】
【0206】
ThermoFisher Scientificからプライマーを入手した。下線を付したヌクレオチドは、I-SceI又はPI-PspIのいずれかに対する制限部位を挿入するために、プライマーに含まれるオーバーハングを示す。
【0207】
Bio-Rad C1000 Touchサーマルサイクラーを使用して、PCR熱サイクルを実施した。テンプレートとしてpMA.BACmod.GSKCOTR-IR-ZeoRを使用する反応のための条件は以下の通りであった:
【0208】
熱サイクルの後、PCR反応を、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する1%のアガロースゲルで、80Vで1時間、ゲル電気泳動に供した。PCR産物をゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen、カタログ番号28706)を使用してDNAを精製した。
【0209】
0.5μlのpCR-Blunt II-TOPO(Thermo Fisher、カタログ番号K280002)、1μlの塩溶液及び4.5μlのゲル精製したPCR産物を含有するライゲーションをセットアップした。ライゲーションを室温で5分間インキュベートし、次いで、2μlのライゲーションを使用して、1バイアルのOneShot TOP10化学的コンピテント大腸菌(Thermo Fisher、カタログ番号C404003)を形質転換した。形質転換した細胞を、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天プレートに広げ、37℃で終夜インキュベートした。
【0210】
形質転換プレートからコロニーを選び取り、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天プレートで継代培養した。継代培養したコロニーを50μg/mlのカナマイシンを含有する3mlのLBブロス培養液中で、穏やかに撹拌しながら、37℃で終夜増殖させた。次の日に、QiaPrep Spin Miniprepキット(Qiagen、カタログ番号27106)を使用して、プラスミドDNAをブロス培養物から抽出した。ミニプレップのそれぞれにおけるDNA濃度を、Nanodropを使用して計算し、プラスミドプレップのそれぞれの1ugをEcoRIで消化して、クローニングした2xcHS4を放出させた。消化物を37℃で2時間インキュベートし、次いで、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%のアガロースゲルで、80Vで1時間、ゲル電気泳動に供した。ミニプレップを、M13フォワードプライマー及びリバースプライマーを使用して、Sangerシークエンスした。シークエンスアラインメントによって、5'のI-SceI及び3'のPI-PspI部位を有する2xcHS4 PCR断片が、pCR-Blunt II-TOPOへとクローニングされたことが示された。
【0211】
2.5.2:発現カセットの2xcHS4ドナープラスミドへのクローニング
プライマー配列
【0212】
【0213】
2.5.2.1:アデノウイルス2 E4及びVAのPCR
5'末端にMluI部位を有するpG3.Ad2ヘルパーGSK及び3'末端にNheIとの適合性末端を有する酵素からアデノウイルス2 E4及びVA領域を増幅するために、PCRをセットアップした。E4を増幅するために使用したリバースプライマーはXbaI部位を含み、一方、VAはNheI及びXbaIに対する内部制限部位を含有するため、VAのリバースプライマーは、NheIとも適合性であるAvrIIを含有した。PCR反応は、上記2.5.1と同じ構成成分を含有した。
【0214】
Bio-Rad C1000 Touchサーマルサイクラーを使用して、PCR熱サイクルを実施した。反応条件は、テンプレートとしてpMA.BACmod.GSKCOTR-IR-ZeoRを使用して、以下の通りであった:
【0215】
PCR反応を、2.5.1のように、ゲル電気泳動に供した。ゲルによって、正確な3.21kbのE4及び0.76kbのVA断片が増幅されたことが確認された。Qiaquickゲル抽出キットを使用して、PCR産物をDNA精製した。
【0216】
2.5.2.2:rep2に埋込みを有するイントロンを有するAAV rep2/cap2及びrep2/cap5のPCR
5'末端にMluI部位及び3'末端にXbaI部位を有するpG.AAV2.R2C2-イントロン及びpG2.AAV5.R2C5-イントロンからAAV rep/capを増幅するために、PCRをセットアップした。PCRには、総体積が25μlのQ5 DNAポリメラーゼ2×マスターミックスを利用した。熱サイクル条件は、2.5.2.1で使用したものと同じであった。
【0217】
熱サイクルの後に、PCR反応物を上述のようにゲル電気泳動に供した。ゲルによって、正確な6.62kbのR2C2-イントロン及び6.59kbのR2C5-イントロン断片が増幅されたことが確認された。PCR産物をDNA精製した。
【0218】
2.5.2.3:PCR断片のPCR-Blunt II-TOPOへのクローニング
0.5μlのpCR-Blunt II-TOPO、1μlの塩溶液及び4.5μlの各ゲル精製したPCR産物(E4、VA、R2C2-イントロン、及びR2C5-イントロン)を含有するライゲーションをセットアップした。ライゲーションを室温で5分間インキュベートし、次いで、2μlの各ライゲーションを使用して、OneShot TOP10化学的コンピテント大腸菌のバイアルを形質転換した。形質転換した細胞を、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天プレートに広げ、37℃で終夜インキュベートした。
【0219】
コロニーをLB寒天プレートで継代培養し、次いで、2.5.1でなされたように、終夜増殖させた。プラスミドDNAをブロス培養物から抽出し、DNA濃度を、2.5.1でなされたように計算した。pCR-BluntプラスミドプレップのE4、R2C2-イントロン及びR2C5-イントロンそれぞれ1ugをMluI+XbaIで消化し、一方、pCR-Bluntプラスミドプレップ中のVAをMluI+AvrIIで消化した。消化物を37℃で2時間インキュベートし、次いで、ゲル電気泳動に供した。
【0220】
pCR-Blunt骨格は、およそ3.47kb長である。ゲルによって、正確な3.2kbのE4、0.74kbのVA、6.60kbのR2C2-イントロン及び6.57kbのR2C5-イントロン断片がpCR-Bluntから消化されたことが確認された。PCR産物を、外科用メスを使用してゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キットを使用してDNAを精製した。
【0221】
pCR-Blunt.E4及びpCR-Blunt.VAを、M13 F及びM13 Rプライマーを用いてSangerシークエンスし、正確であることを確認した。
【0222】
2.5.2.4:サブクローニングしたPCR断片のpDonorへのクローニング
pDonorプラスミドをMluI+NheIで消化し、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%のアガロースゲルで、80Vで1時間、アガロースゲル電気泳動に供した。
【0223】
6.05kbの断片を、外科用メスを使用してゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キットを使用してDNAを精製した。次いで、1μlのFastAPデホスホリラーゼ(Thermo Fisher、カタログ番号EF0651)を添加することによって、ゲル精製断片を脱リン酸化して消化し、これを37℃で10分間、続いて、75℃で5分間インキュベートした。次いで、2μlの消化したpDonor、6μlのゲル精製したE4、VA、R2C2-イントロン及びR2C5-イントロン消化物、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応物をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0224】
体積が2μlの各ライゲーションを使用して、Stbl3化学的コンピテント大腸菌(Thermo Fisher、カタログ番号C737303)を形質転換した。形質転換した細胞を、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天プレートに広げ、37℃で終夜インキュベートした。
【0225】
コロニーをLB寒天プレートで継代培養し、継代培養したコロニーをブロス培養で増殖させ、プラスミドDNAを、2.5.1のように抽出した。ミニプレップのそれぞれにおけるDNA濃度を、Nanodropを使用して計算し、プラスミドプレップのそれぞれ1ugを消化した。
pDonor.E4コロニーをKpnIで消化し、pDonor.VAコロニーをXbaIで消化し、pDonor.R2C2-イントロン及びpDonor.R2C5-イントロンをSpeIで消化した。消化物を37℃で2時間インキュベートし、次いで、2.5.1のようにゲル電気泳動に供した。
【0226】
これらのゲルにより、pDonor.E4、pDonor.VA、pDonor.R2C2-イントロン及びpDonor.R2C5-イントロンのコロニーが、正確な制限プロファイルを有することが示された。pDonor.R2C2-イントロン及びpDonor.R2C5-イントロンをSangerシークエンスした。このシークエンスによって、正確なR2C2-イントロン及びR2C5-イントロン断片が、pDonorへとクローニングされたことが示された。
【0227】
2.6 rep2 shRNAのpG3.Ptet-T6-MCS-ポリAへのクローニング
Rep2 shRNAを、Ptet-T6プロモーターの下流にクローニングした。
【0228】
プラスミドpG3.AAV rep2 shRNA11及びpG3.Ptet-T6-MCS-ポリAを、NheI+XhoIで消化し、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%のアガロースゲルで、80Vで70分間、アガロースゲル電気泳動に供した。
【0229】
114bpのrep2 shRNA 11断片及び2.31kbのpG3.Ptet-T6-MCS-ポリA断片をゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キットを使用してDNAを精製した。次いで、2μlのゲル精製したpG3.Ptet-T6-MCS-ポリA、6μlのゲル精製したrep2 shRNA 11、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応物をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0230】
体積が2μlのライゲーションを使用して、Stbl3化学的コンピテント大腸菌を形質転換した。形質転換した細胞を、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天プレートに広げ、37℃で終夜インキュベートした。
【0231】
コロニーを継代培養し、増殖させ、2.5.1のようにDNA抽出し、次いで、MluI+XbaIで消化した。消化物を37℃で2時間インキュベートし、次いで、ゲル電気泳動に供した。
【0232】
ゲルにより、消化物が正確なサイズの639bpの断片を放出したことが示された。このプラスミドにpG3.Ptet-T6-rep2 shRNA 11という名称を与えた。DNA断片を、外科用メスを使用してゲルから切り出し、DNA精製した。次いで、2μlのMluI+NheIで消化したpDonor、6μlのゲル精製したPtet-T6-rep2 shRNA 11断片、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応物をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0233】
体積が2μlのライゲーションを使用して、Stbl3化学的コンピテント大腸菌を形質転換した。形質転換した細胞を、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天プレートに広げ、37℃で終夜インキュベートした。次の日に、プレートを点検したところ、多くのコロニーがプレート上で増殖していた。
【0234】
コロニーを継代培養し、増殖させ、2.5.1のようにDNA抽出し、次いで、XhoIで消化した。消化物を、37℃で2時間インキュベートし、次いで、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%のアガロースゲルで、80Vで70分間、ゲル電気泳動に供した。ゲルにより、すべてのクローンが4.03kb及び2.67kbの断片の正確な制限パターンを有することが示された。このプラスミドに、pDonor.Ptet-T6-rep2 shRNA 11という名称を与えた。
【0235】
2.7 pDonorからBACへの発現カセットの連続的クローニング
各連続的クローニングステップに関して、BAC構築物が大きくなるにつれて、各付加的発現カセットを切断及びクローニングする標準的制限酵素の使用も、構築物における各酵素に対する切断部位が複数となるため、すぐに困難となる。さらに、各発現カセット間に2xcHS4インスレーターを含むことは、構築物が多くの繰り返しを含有し、Gibsonアセンブリーを禁止させることを意味する。これらの理由により、各発現カセットを、iBrickクローニング(Liuら、(2014) PLoS One 9:e110852頁)を使用してクローニングした。このクローニング方法は、BACへとクローニングされることを意図する発現カセットのいずれにおいても出現しない程の長さの部位を認識する、メガヌクレアーゼ制限部位であるPI-PspI及びI-SceIを利用する。これらの酵素の切断部位はまた、非対称であり、適合性オーバーハングを生じる。このことは、2xcHS4の上流のドナープラスミド(pDonor)における各発現カセットが、5'末端に位置するI-SceI及び3'末端の2xcHS4の下流に位置するPI-PspIを有するこのプラスミドから消化され得ることを意味する。次いで、この断片を、BACの単一のPI-PspI部位へと方向性クローニングし、断片の5'末端のPI-PspI部位を抑止して発現カセットの下流に新たなPI-PspI部位を作出して、次の発現カセットのこの部位へのクローニングを可能とする。
【0236】
プライマー配列
【0237】
【0238】
すべてのプライマーは、ThermoFisher Scientificから入手した。下線を付したヌクレオチドは、PCR産物において、Gibsonクローニング反応において隣接してアセンブルされる配列との重複領域をもたらすプライマーに含まれる5'オーバーハングを示す。
【0239】
2.7.1: GibsonアセンブリーのためのpSMARTBAC2及びGSKCOtTA-IR-ZeoRのPCR
市販のBACである、pSMART BAC 2を、安定なrAAV構築物の骨格となるよう選択した。このBACは、大腸菌にクロラムフェニコールに対する耐性を与え、その複製起点(OriV)が、BAC-Optimised Replicator細胞のアラビノースによって誘導可能であるTrfAに結合されるまで、細胞当たりのコピーが1に維持される。この骨格へとクローニングされる第1の発現カセットは、GSKCOtTA-IR-ZeoRであった。これは、GibsonアセンブリーによってpSMARTBAC2へとクローニングされた。いくつかの標準的制限酵素に対する切断部位を含有する複数のクローニング部位を欠く2つの別々の断片としてのpSMARTBAC2(断片1:pSMARTBAC Gib F A & pSMARTBAC-tTA Gib R A及び2:pSMARTBAC-tTA Gib F B & pSMARTBAC Gib R B)及び単一断片としてのGSKCOtTA-IR-ZeoR(断片3:tTA-pSMARTBAC Gib F C & tTA-pSMARTBAC Gib R C)を増幅するために、重複プライマーを設計した。GSKCOtTA-IR-ZeoRの3'末端とpSMARTBAC2の間のプライマーの重複は、PI-PspIに対する認識配列を含有し、その結果、各後続の遺伝子エレメントは、iBrickクローニングによって、この部位へとクローニングされ得る。
【0240】
各PCR反応物は、25μlの総体積と2.5.1で設定した構成成分を有した。
【0241】
Bio-Rad C1000 Touchサーマルサイクラーを使用して、PCR熱サイクルを実施した。3つ全ての反応のための条件は以下の通りであった:
【0242】
次いで、PCR反応物をゲル電気泳動に供した。ゲルによって、各反応において、正確なサイズの断片が増幅されたことが確認された。断片を切り出し、DNA精製した。
【0243】
3つの精製PCR断片のそれぞれを3.3μlの等しい体積で、0.2mlのPCRチューブ内で合わせ、10μlのNEBuilder HiFi DNAアセンブリーマスターミックス(NEB、カタログ番号E2621)を添加し、上下にピペッティングして混合した。チューブを、サーマルサイクラー内で、50℃にて1時間インキュベートした。
【0244】
アセンブリー反応の後、各反応液を2μlの体積で使用して、10-ベータコンピテント大腸菌のバイアルを形質転換した。形質転換した細胞を、34μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートに広げ、37℃で終夜インキュベートした。
【0245】
コロニーをプレートから選び取り、34μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートで継代培養した。継代培養したコロニーを12.5μg/mlのクロラムフェニコールを含有する3mlのLBブロス培養液中で、穏やかに撹拌しながら、終夜増殖させた。QiaPrep Spin Miniprepキットを使用して、プラスミドDNAをブロス培養物から抽出した。ミニプレップのそれぞれにおけるDNA濃度を、Nanodropを使用して計算した。BACプレップをNdeIで消化して、6977bpと3732bpの断片を作出した。消化物を、37℃で2時間インキュベートし、次いで、ゲル電気泳動に供し、これにより正確な制限パターンを確認した。
【0246】
2.7.2:2xcHS4及びアデノウイルス2 E2Aのクローニング
次に、2xcHS4を、GSKCOtTA-IR-ZeoRの下流に、次いで、アデノウイルスE2A領域にクローニングした。これは、MluIに対する内部制限部位を含有するため、E2Aを、2xcHS4の上流のpDonorへとサブクローニングすることはできなかった。結果として、E2Aは、3'末端における2xcHS4との組合せ断片としてよりも、個々にクローニングされる必要があった。
【0247】
アデノウイルス2 E2A領域を、プライマーであるE2A I-SceI F及びE2A PI-PspI R並びにQ5 DNAポリメラーゼ(NEB、カタログ番号M0491S)を使用して、pG3.Ad2ヘルパーGSKからPCRにより増幅した。Bio-Rad C1000 Touchサーマルサイクラーで使用した条件は以下の通りであった。
【0248】
5'末端にI-SceI部位、及び3'末端にPI-PspI部位を含有するE2A PCRを、ゲル電気泳動に供した。正確なサイズの5.39kbの断片が存在し、ゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キットを使用してDNA精製した。精製したDNAを、pCR-Blunt II TOPOへとライゲーションし、このライゲーションを使用して、OneShot TOP10化学的コンピテント大腸菌のバイアルを形質転換させ、これを、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天プレートに広げ、37℃で終夜インキュベートした。コロニーを終夜継代培養し、継代培養したコロニーを2.5.1のように増殖させた。次の日に、プラスミドDNAを、QiaPrep Spin Miniprepキットを使用して、ブロス培養物から抽出した。DNA濃度を計算し、各プラスミド1μgを、30μlの体積のI-SceIで、37℃で2時間消化した。PI-PspIは、他の酵素との適合性緩衝液のいずれにおいても作用しないので、体積は、22.4μlの追加の滅菌H2Oを添加することによって増加させ、次いで、6μlの緩衝液、0.6μlの100×BSA溶液及び1μlのPI-PspIを添加したため、消化物の体積は、ここで、60μlであった。さらに、5'及び3'末端に、それぞれ、I-SceI及びPI-PspIを有する2xcHS4断片を得るために、pDonorを同様にしてこれらの酵素で消化した。これらの消化物を、65℃で2時間インキュベートし、次いで、ゲル電気泳動に供した。
【0249】
ゲルにより、正確な5.36kbの断片がpCR-Blunt.E2Aクローンの消化物から放出され、正確な2.76kbの断片がpDonorから放出されたことが確認された。これらの断片をゲルから切り出し、DNA精製した。pCR-Bluntコロニーを、M13 F及びM13 Rを用いてSangerシークエンスした。シークエンスによって、E2Aがクローニングされたことを確認した。
【0250】
pSMARTBAC.GSKCOtTA-IR-ZeoRクローン1のミニプレップを滅菌水で希釈し、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞を形質転換するために使用し、次いで、これを、34μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートで終夜増殖させた。このプレートに由来するコロニーを使用して、12.5μg/mlのクロラムフェニコール及び1×アラビノース誘導溶液を含有するLBブロス培養液を感染させ、穏やかに撹拌しながら37℃で増殖させた。次の日に、プラスミドDNAを、QiaPrep Spin Miniprepキットを使用して、ブロス培養物から抽出した。ミニプレップのDNA濃度を、Nanodropを使用して計算し、DNA 1μgを、サーマルサイクラー内で、30μlの体積のPI-PspIで、65℃にて2時間消化した。この後に、反応物を室温まで冷却し、1ユニットのFastAPデホスホリラーゼを添加した。次いで、反応物を37℃で10分間、次いで、75℃で5分間インキュベートして、FastAP熱感受性アルカリホスファターゼ(Fast AP)(Thermo Fisher、カタログ番号EF0651)を不活性化した。
【0251】
次いで、2μlの消化したpSMARTBAC2.GSKCOtTA-IR-ZeoR、6μlの精製した2xcHS4消化物、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応をセットアップし、反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0252】
0.6μlの体積のライゲーション反応を使用して、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞を形質転換させ、コロニーを培養で増殖させ、上記のようにDNA抽出した。各プラスミド1μgを、NEB緩衝液3.1中のSwaI及びMluIで、37℃にて2時間消化し、次いで、ゲル電気泳動に供した。
【0253】
ゲルにより、正確な制限パターンの10,690bp及び2784bp断片がすべてのコロニーに存在することが確認された。持続性のグリセロールストックを、クローン1から作製し、この構築物には、BAC2という短縮名を与えた。
【0254】
E2AをBAC2 PI-PspI部位へとクローニングするために、BAC2クローンのうちのクローン1をPI-PspIで消化して、前述したように、FastAPで脱リン酸化した。次いで、2μlの消化したBAC2クローン1、6μlの精製したE2A I-SceI+PI-Psp消化物、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0255】
0.6μlの体積のこの反応物を使用して、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞を形質転換させ、コロニーを培養で増殖させ、上記のようにDNA抽出した。各プラスミド1μgを、EcoRI+XbaIで消化した。消化物を、ゲル電気泳動に供した。ゲルにより、すべてのクローンが、これら2つの酵素で消化した場合に、正確な9.3、7.8及び1.74kbの断片を有することが確認された。
【0256】
コロニーを、12.5μg/mlのクロラムフェニコール及び1×アラビノース誘導溶液を含有する80mlのLBブロス培養液中で、穏やかに撹拌しながら37℃で終夜増殖させた。次の日に、プラスミドDNAを、QiaPrep Miniprepキットを使用して、ブロス培養物から抽出した。これらのプレップをSangerシークエンスした。配列データにより、E2Aが、2xcHS4の下流のBACへとクローニングされるのに成功したことが確認された。この構築物には、BAC3という短縮名を与えた。
【0257】
次に、別の2xcHS4をE2Aの下流にクローニングした。BAC3クローン1のミニプレップをPI-PspIで消化し、前述したようにFastAPで脱リン酸化した。次いで、2μlの消化したBAC3クローン1、6μlの精製した2xcHS4 I-SceI+PI-PspI消化物、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0258】
0.6μlの体積のこの反応物を使用して、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞を形質転換させ、次いで、34μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートで終夜増殖させた。次の日に、2つのコロニーをプレートで増殖させ、選び取り、終夜継代培養した。これらの継代培養したコロニーを使用して、12.5μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLBブロス培養液3mlを感染させ、穏やかに撹拌しながら30℃で終夜インキュベートした。次の日に、1×アラビノース誘導溶液を添加し、培養物をさらに3時間増殖させた。プラスミドDNAを、QiaPrep Spin Miniprepキットを使用して、ブロス培養物から抽出した。ミニプレップのそれぞれのDNA濃度を、Nanodropを使用して計算し、各プラスミド1μgを、SwaI+XhoIで消化した。消化物を、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%のアガロースゲルで、80Vで70分間、ゲル電気泳動に供した。これらの消化物により、両コロニーが、これら2つの酵素で消化された場合に、正確な17,083及び4519bpの断片を有することが示された。この構築物には、BAC4という短縮名を与えた。
【0259】
2.7.3:アデノウイルス2 E4.2xcHS4のクローニング
BAC4は、前述したように、PI-PspIで消化し、FastAPで脱リン酸化した。プラスミドpDonor.E4を、総反応体積30μlで、37℃にて3時間、I-SceIで消化した。この後、反応物の体積を、22.4μlの滅菌H2O、6μlの10×PI-PspI反応緩衝液、0.6μlの100×BSA溶液及び1μlのPI-PspIを添加することによって、60μlまで増加させた。次いで、反応物を、65℃で、さらに3時間インキュベートし、次いで、ゲル電気泳動に供した。
【0260】
5.7kbのE4.2xcHS4断片をゲルから切り出し、DNA精製した。次いで、2μlの消化したBAC4、6μlの精製したE4.2xcHS4 I-SceI+PI-PspI消化物、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0261】
0.6μlの体積のこの反応物を使用して、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞を形質転換させ、終夜増殖させ、終夜継代培養し、LBブロスで30℃にて終夜増殖させ、次いで、上記BAC4と同様にDNA抽出した。1μgの各プラスミドをHpaIで消化した。消化物を、0.8%アガロースのゲル電気泳動に供した。このゲルにより、すべてのクローンが、HpaIで消化された場合に、20.69及び6.61kpの断片の正確な制限プロファイルを有することが示された。この構築物には、BAC5という短縮名を与えた。
【0262】
2.7.4:アデノウイルス2 VA.2xcHS4のクローニング
BAC5を、前述したように、PI-PspIで消化し、FastAPで脱リン酸化した。プラスミドpDonor.VAを、総反応体積30μlで、37℃にて3時間、I-SceI+SfiIで消化した。その他の場合には、SfiIはVA.2xcHS4から分離することができない断片を生じるため、SfiIを使用して、プラスミドの骨格を切断した。この後、反応物の体積を、22.4μlの滅菌H2O、6μlの10×PI-PspI反応緩衝液、0.6μlの100×BSA溶液及び1μlのPI-PspIを添加することによって、60μlまで増加させた。次いで、反応物を、65℃で、さらに3時間インキュベートし、次いで、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%のアガロースゲルで、80Vで70分間、ゲル電気泳動に供した。
【0263】
3.25kbのVA.2xcHS4断片を、外科用メスを用いてゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キットを使用してDNA精製した。次いで、2μlの消化したBAC5、6μlの精製したVA.2xcHS4 I-SceI+PI-PspI消化物、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0264】
0.6μlの体積のこの反応物を使用して、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞を形質転換させ、終夜増殖させ、終夜継代培養し、LBブロスで30℃にて終夜増殖させ、次いで、上記のようにDNA抽出した。1μgの各プラスミドをHpaI+SwaIで消化した。消化物を、0.8%アガロースのゲル電気泳動に供した。このゲルにより、クローン2~4が、正確な20.69kb、8.46kb及び1.4kbの断片を有することが示された。この構築物には、BAC6という短縮名を与えた。
【0265】
2.7.5:rep2cap2-イントロン.2xcHS4及びrep2cap5-イントロン.2xcHS4のクローニング
構築物として、AAV2(R2C2)及びAAV5(R2C5)の安定な産生のためのBACを作製したところ、この後の段階で、BACに相違が存在した。
【0266】
BAC6は、前述したように、PI-PspIで消化し、FastAPで脱リン酸化した。プラスミドpDonor.R2C2-イントロン及びpDonor.R2C5-イントロンを、総反応体積30μlで、37℃にて3時間、I-SceIで消化した。この後、反応物の体積を、22.4μlの滅菌H2O、6μlの10×PI-PspI反応緩衝液、0.6μlの100×BSA溶液及び1μlのPI-PspIを添加することによって、60μlまで増加させた。次いで、反応物を、65℃で、さらに3時間インキュベートし、次いで、0.8%のアガロースゲルで、ゲル電気泳動に供した。
【0267】
9.10kb及び9.07kbのR2C2-イントロン.2xcHS4及びR2C5-イントロン.2xcHS4断片をゲルから切り出し、DNA精製した。次いで、2μlの消化したBAC6、6μlの精製したR2C2-イントロン.2xcHS4又はR2C5-イントロン.2xcHS4 I-SceI+PI-PspI消化物、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0268】
0.6μlの体積のこれらの反応物を使用して、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞を形質転換させ、終夜増殖させ、終夜継代培養し、LBブロスで30℃にて終夜増殖させ、次いで、上記のようにDNA抽出した。1μgの各プラスミドをClaI+SwaIで消化した。消化物を、0.8%アガロースのゲル電気泳動に供した。このゲルにより、消化物が、正確な20.59kb、10.15kb、4.84kb及び3.08kbの断片を有することが示された。この構築物には、BAC7aという短縮名を与えた。
【0269】
R2C5-イントロンBACライゲーションでは、BACレプリケーターエレクトロコンピテント細胞を形質転換させることに失敗したため、このライゲーションを使用して、化学的コンピテントStbl3細胞を形質転換させ、次に、上記のように、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞で処理した。1μgの各プラスミドをClaI+SwaIで消化した。消化物を、0.8%アガロースのゲル電気泳動に供した。この消化物により、BAC6へのR2C5-イントロン.2xcHS4の挿入に対する正確な制限プロファイル(21.59、10.15、4.82及び3.08kbの断片)が示された。この構築物には、BAC7bという短縮名を与えた。
【0270】
2.7.6:rep2及びE1A-標的shRNAのクローニング
rep2 shRNA 11をBACへとクローニングした。前述したように、BAC7a及びBAC7bをPI-PspIで消化し、FastAPで脱リン酸化した。プラスミドpDonor.Ptet-T6-rep2 shRNA 11を、総反応体積30μlで、37℃にて3時間、I-SceIで消化した。この後、反応物の体積を、22.4μlの滅菌H2O、6μlの10×PI-PspI反応緩衝液、0.6μlの100×BSA溶液及び1μlのPI-PspIを添加することによって、60μlまで増加させた。次いで、反応物を、65℃で、さらに3時間インキュベートし、次いで、0.8%のアガロースゲルで、ゲル電気泳動に供した。
【0271】
より小さな3.15kbの断片をゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キットを使用して、DNA精製した。次いで、2μlの消化したBAC7a又はBAC7b、6μlの精製したPtet-T6-rep2 shRNA 11.2xcHS4 I-SceI+PI-PspI消化物、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0272】
0.6μlの体積のこれらの反応物を使用して、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞を形質転換させ、次いで、34μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートで終夜増殖させた。Ptet-T6-rep2 shRNA 11.2xcHS4からBAC7aライゲーションプレートへと、及びPtet-T6-rep2 shRNA 11.2xcHS4からBAC7bライゲーションプレートへと、コロニーを選び取り、終夜継代培養し、次いで、上述のように後続の処理を行った。1μgの各プラスミドをNdeI+SwaIで消化した。消化物を、0.8%アガロースのゲル電気泳動に供した。
【0273】
このゲルにより、BAC7aへとクローニングされたPtet-T6-rep2 shRNA 11.2xcHS4及びBAC7bへとクローニングされたPtet-T6-rep2 shRNA 11.2xcHS4に対する正確な制限プロファイルが示された。この構築物には、それぞれ、BAC8a及びBAC8bという短縮名を与えた。BAC8aをSanger シークエンスした。結果により、GSKCOtTA-IR-Zeo、E2A、E4、VA、R2C2-イントロン及びPtet-T6-rep2 shRNA 11がすべて存在し、この構築物において正確であったことが示された。
【0274】
次に、E1A shRNA 5をBACへとクローニングした。前述したように、BAC8aをPI-PspIで消化し、FastAPで脱リン酸化した。I-SceI+PI-PspI消化したPtet-T6-E1A shRNA 5.2xcHS4断片を、このBAC消化物に関するライゲーションに使用した。ライゲーションは、4μlの消化したBAC、4μlの消化したPtet-T6-E1A shRNA 5.2xcHS4、1μlの10×リガーゼ緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有した。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。
【0275】
0.6μlの体積のこの反応物を使用して、エレクトロコンピテントBACレプリケーター細胞を形質転換させ、次いで、34μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートで終夜増殖させた。次の日に、プレートにコロニーは増殖していなかった。ライゲーションを使用して、Stbl3大腸菌のバイアルを形質転換させ、上記のように処理した。1μgの各プラスミドをEcoRIで消化した。消化物を、0.8%アガロースのゲル電気泳動に供した。このゲルにより、BAC8aのEcoRI消化物と比較してさらに3.0kbの断片を含有する、BAC8aへのPtet-T6-E1A shRNA 5.2xcHS4の挿入に対する正確な制限プロファイルが示された。この構築物には、BAC9aという短縮名を与えた。
【0276】
2.7.7 BACへのGFPトランスファーベクターのクローニング
BACへとGFPトランスファーベクター(pDonor.AAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6)をクローニングする前に、トランスファーベクターを修飾して、そのネイティブプロモーターと共に大腸菌のssb遺伝子(GenBank(J01704))を組み込んだ。
【0277】
EGFPトランスファーベクタープラスミドである、pG.AAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6は、ITRに隣接するトランスファーベクター配列の外側に、特有のEcoRI制限部位を有する。このプラスミドをEcoRIで消化した。消化物を37℃で2時間インキュベートし、次いで、0.8%アガロースのゲル電気泳動に供した。直鎖化したプラスミドをゲルから切り出し、DNA精製した。精製した断片をFastAPで脱リン酸化した。次いで、これを、EcoRIで消化したssb+ネイティブプロモーター断片を用いるライゲーションで使用した。ライゲーション反応は、2μlの消化したトランスファーベクター、6μlの消化したssb+ネイティブプロモーター断片、1μlの10×リガーゼ緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有した。ライゲーションを、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。この構築物は、pDonor.AAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6.ssbという名称であった。
【0278】
GFPトランスファーベクターを、rep/cap遺伝子及びアデノウイルスヘルパー遺伝子を含有するBACへとクローニングするために、前述したように、BAC8a及びBAC9aをPI-PspIで消化し、FastAPで脱リン酸化した。トランスファーベクタープラスミドpDonor.AAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6.ssbを、総反応体積30μlで、37℃にて3時間、I-SceIで消化した。この後、反応物の体積を、22.4μlの滅菌H2O、6μlの10×PI-PspI反応緩衝液、0.6μlの100×BSA溶液及び1μlのPI-PspIを添加することによって、60μlまで増加させた。次いで、反応物を、65℃で、さらに3時間インキュベートし、次いで、0.8%のアガロースゲルで、ゲル電気泳動に供した。
【0279】
各反応のために、より小さな断片をゲルから切り出し、DNA精製した。次いで、2μlの消化したBAC8a又はBAC9a、6μlの精製したAAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6.ssb I-SceI+PI-PspI消化物、1μlのライゲーション緩衝液及び1μlのT4 DNAリガーゼを含有するライゲーション反応をセットアップした。反応物を、サーマルサイクラー内で、16℃にて終夜インキュベートした。GFPトランスファーベクターを含有する構築物には、それぞれ、BAC8a-GFP又はBAC9a-GFPという名称を与えた。BAC8a-GFP及びBAC9a-GFPのプラスミドマップを、それぞれ、
図5及び6に示す。
【0280】
[実施例3]
AAVによる安定なプロデューサー細胞株(懸濁細胞)の生成
安定な細胞株は、AdVec 293懸濁細胞にBAC9a-GFPをトランスフェクトすることによって確立した。一時的トランスフェクション対照として、AdVec 293細胞を、rep/capプラスミド、ヘルパープラスミド(アデノウイルス由来のヘルパー遺伝子を有する)及びpG.AAV.CMV.GFP.P2A.fluc.W6(ITRに隣接するGFP導入遺伝子を有するトランスファーベクター)を、モル比に基づいて1:1:1の比で用いて同時トランスフェクトした。
【0281】
3.1 AdVec 293 RS-D01懸濁細胞
AdVec懸濁細胞を、1ml当たり0.4×106個の細胞で、BalanCD培地(2%のGlutaMAX及び1%のPluronic F-68を含む)において維持し、2~3日毎に分割した。細胞を、37℃、5%のCO2、110rpmでインキュベートした。小規模の培養物を、より高い回転(140rpm)で維持して、通気を助けた。
【0282】
3.2 AdVec 293 RS-D01懸濁細胞のトランスフェクション
トランスフェクションの前に、細胞を、4℃で10分間、500rpmで遠心分離し、上清を除去し、細胞懸濁液を新鮮な予め温めたBalanCD培地に再懸濁させ、計数し、通気キャップを有する125mlのエルレンマイヤーフラスコに、1ml当たり1×106個の細胞を播種した。
【0283】
トランスフェクトされる細胞の各1mlについて、1μgのプラスミド及び1.3μlのPEIproを使用した。
【0284】
pG.AAV.CMV.GFP.P2A.fluc.W6を有するGSKヘルパー及びrep/capプラスミドを使用する対照rAAVトランスフェクションとして、プラスミドを、モル比に基づいて1:1:1の比でトランスフェクトした。
【0285】
3.2.1 トランスフェクションミックスの調製
1) 2つのビジューを標識する
a) DNA及びOptiMEM
b) B-PEIpro及びOptiMEM
2) トランスフェクションミックスを構成する:-
a) ビジューAにおいて、プラスミドDNAを予め温めたOptiMEMに添加する
b) ビジューBにおいて、PEIproを予め温めたOptiMEMに添加する
c) 室温で5分間インキュベートする
d) DNA/OptiMEMをPEIpro/OptiMEMに添加する
e) 室温で30分間インキュベートする
f) トランスフェクションミックスを細胞懸濁液に滴下添加する。
g) 37℃、5%のCO2、140rpmで72時間、インキュベーターを振盪させてトランスフェクションをインキュベートする。
対照のrAAVトランスフェクションを、トランスフェクションの72時間後に、2000×gで5分間遠心分離することによって回収した。上清を除去し、細胞をAAV溶解緩衝液に溶解させた。
【0286】
3.2.2 フローサイトメトリー及び顕微鏡検査によるトランスフェクション効率の決定
トランスフェクションの72時間後に、100μlの培養物を、96ウェルの黒色平底プレートに添加した。
【0287】
細胞を、Olympiaの顕微鏡及びPixar InStudioソフトウェアを使用して画像処理した。
【0288】
画像処理後、4%のPFA溶液100μlをウェル毎に添加した。細胞を、FlowJoソフトウェアを使用して、MACS Quant 10でのGFP発現について解析した。
【0289】
図7(A)は、トランスフェクションの72時間後のAdVec RS-D01細胞の顕微鏡画像を示す。
図7(B)は、トランスフェクション後の、MACS Quantアナライザー及びFlowJoソフトウェアによるGFP陽性細胞の解析を示す。
【0290】
図7の画像及びフローサイトメトリーのデータは、BAC9A-GFPが、AdVec RS-D01懸濁細胞へのトランスフェクション後に発現していることを示す。トランスフェクション効率は、三連のプラスミド系より低いが、これは、BAC9A-GFPがより大きな構築物であることを予期させる。
【0291】
3.2.3 細胞数及び細胞生存能の決定
100μlトランスフェクション培養物を、ViCellカップ内の900μlのBalanCDに添加し、ViCell Xrを使用して解析した。
【0292】
3.3 ドキシサイクリンを使用するトランスフェクト細胞由来のrAAVの小規模誘導
トランスフェクションの72時間後に、1mlの培養物を、24ディープウェル懸濁培養プレートの2ウェルに添加した。1つのウェルには、1mlのBalanCD培地を添加した(誘導されていない)。他のウェルには、4μg/mlのドキシサイクリンを含む1mlのBalanCD培地を添加した(2μg/mlの最終濃度、誘導されている)。細胞を、37℃、5%のCO2、140rpmで48時間インキュベートした。
【0293】
誘導の48時間後に、細胞を、2000×gで5分間遠心分離することによって回収した。上清を除去し、細胞を、細胞1ml当たり100μlのAAV溶解緩衝液(50mMのTris、150mMのNaCl、2mMのMgCl2、pH8.5)中に溶解させ、室温で5分間ボルテックスし、次いで、-80℃で凍結させた。細胞溶解液は、3ラウンドの-80℃及び37℃での凍結、解凍を受けた。溶解液を、37℃で30分間、Benzonase(商標)(50U/ml)で処理し、次いで、4000×gで20分間遠心分離することによって清澄化した。溶解液を、新しい予め冷やしたチューブに取り出し、qPCR解析のためのDNA抽出液として2×5μl、形質導入のために4×10μl及び50μlのアリコートとした。
【0294】
3.4 細胞溶解液から生じたrAAVのqPCRによる決定
DNAseI-耐性AAVゲノムを、Roche High Pure Viral Nucleic Acidキットを使用して、インタクト粒子から単離し、ITR2のqPCRによって定量した。
【0295】
3.4.1 Roche High Pure Viral Nucleic Acidキットを使用するDNAの単離
5μlのウイルス溶解液を、氷上で解凍させ、195μlの1×D-PBSを試料毎に添加した。ウイルスDNAを、製造業者のプロトコールに従って、Roche High Pure Viral Nucleic Acidキットを使用して抽出した。
【0296】
3.4.2 ITR2のqPCR
qPCR滴定方法は、Aurnhammerら(Aurnhammerら、(2012) Human gene therapy methods 23、18~28頁)に記載されているように、AAV ITR配列の定量に基づく。
【0297】
試料の希釈
6.4.1から精製したAAVゲノムを、DEPC処理水を使用して、96ウェルプレートにおいて希釈した。
ITR2のqPCRのための試料希釈スキーム
【0298】
【0299】
基準
直鎖化したトランスファーベクタープラスミド(pG.AAV.CMV.GFP.P2A furin.fLuc.W6)は、参照試料としての役割を果たす。初期基準アリコートD0は、1μl当たり1.30×109個のプラスミドのコピーを含有する。ITR基準D0の連続希釈物は、以下のように調製した。
AAVゲノムコピー数の定量のための基準希釈曲線
【0300】
【0301】
ゲノム力価を、以下の等式によって計算した。
【0302】
【0303】
AAVゲノムは一本鎖であるが、プラスミドDNAは二本鎖であるため、補正因子の2を適用しなければならない。
【0304】
ITRのqPCRマスターミックスは、以下の配合に従って調製した。
ITRのqPCRマスターミックスの調製
【0305】
【0306】
12μlのマスターミックスをウェル毎に添加し、各試料希釈液Sx-0から-1を8μl添加した。さらに、標準曲線のD1からD7を8μl、プレートに添加した。標準曲線は二連で解析した。
【0307】
最終PCRのプレートを、StepOnePlusリアルタイムPCR機器を使用して解析した。サイクル条件を以下に記載する。
ITRのqPCRサイクル条件
段階 期間(秒)
変性(1サイクル)
95℃で20秒
増幅(40サイクル)
95℃で1秒
60℃で20秒
【0308】
図8は、産生したベクターの、BAC9A-GFP(pSMART.BAC.AAV.R2C2.9A-GFP.ssb)又はトランスファーベクターとしてpG.AAV.CMV.GFP.P2A.fluc.W6を使用する三連のプラスミド系対照のいずれかでトランスフェクトしたAdVec RS-D01溶解細胞から抽出したDNAに関するqPCRによる解析を示す。トランスフェクトした細胞を回収し、溶解させ、Benzonase(商標)で処理した。DNAを抽出し、ITRプライマーを使用するqPCRのために使用した。
【0309】
3.4.3 rAAV溶解液によるLentiX 293T細胞の形質導入
LentiX 293T細胞を、37℃、5%のCO2で、LentiX培地中で維持し、3~4日毎に分割した。
【0310】
形質導入の24時間前に、細胞を、96ウェル黒色平底プレートのLentiX培地へと、1ウェル当たり8000個の細胞を播種し、終夜インキュベートした。
【0311】
形質導入の日に、10μlのrAAV溶解液を、96ウェル平底プレートの90μl LentiX培地中に希釈した。対照の溶解液-1.5×1013vg/mlのrAAV2を、1:10(-1)で希釈し、次いで、再度(-2)及び再度(-3)希釈した。
【0312】
細胞の播種培地を除去し、希釈した溶解液を細胞に添加し、37℃、5%のCO2で、72時間インキュベートした。形質導入の72時間後に、細胞を、InStudioソフトウェア及びOlympiaの顕微鏡を使用して、GFP発現について画像処理した。形質導入培地を除去し、0.5%のEDTAを含む100μlのD-PBSをウェル毎に添加し、ウェル由来の細胞を洗浄するために使用した。4%のPFA 100μlをウェル毎に添加し、細胞を、MACS Quant 10及びFlowJoソフトウェアを使用して、GFP発現について解析した。
【0313】
図9(A)は、形質導入の72時間後の、形質導入されたLentiX 293T細胞の顕微鏡画像を示す。
図9(B)は、形質導入後の、MACS Quantアナライザー及びFlowJoソフトウェアによるGFP陽性細胞の解析を示す。
【0314】
トランスフェクトしたAdVec RS-D01懸濁細胞由来の溶解液を、LentiX 293T細胞に適用した。BAC9A-GFP(pSMART.BAC.AAV.R2C2.9A-GFP.ssb)又はpG.AAV.CMV.GFP.P2A.fluc.W6を使用する三連のプラスミド系対照のいずれかを用いて、AdVec RS-D01細胞をトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を回収し、Benzonase(商標)で処理した。
【0315】
トランスフェクトした細胞溶解液のqPCRによって、BAC9A-GFP及び三連のプラスミド系トランスフェクションを使用する一時的トランスフェクションにより、ベクターが生成されたことが示される(
図8)。これらの溶解液を使用して、LentiX 293T細胞に形質導入した場合、72時間後に、両方の系でGFP陽性細胞が見られた(
図9)。フローサイトメトリーによって解析したGFP陽性細胞の数は、AAV2.CMV.GFP.P2A.fluc.W6対照溶解液で見られるよりも少ないが、BAC9A-GFPから生じたベクターが機能的であることを助長し示すものである。
【0316】
3.5 ゼオシンを使用する安定に組み込まれたpSMART.BAC.AAVプラスミドを有する細胞の選択
【0317】
3.5.1 高用量選択
トランスフェクションの72時間後に、AdVec RS-D01細胞培養物を、4℃で10分間、500rpmで遠心分離し、培地を除去し、細胞ペレットを、500μg/mlのゼオシンを含む懸濁細胞培地中に再懸濁させた。培養物を、高用量選択で、6日間インキュベートし、選択培地を2日毎に変えた。
【0318】
培地を変えた場合、細胞計数及び生存能は、上記方法を使用して評価し、細胞は、上述したように(3.2.2)、イメージング及び/又はフローサイトメトリーによってGFP発現について評価した。
【0319】
3.5.2 低用量選択
高用量のゼオシンの6日後に、培地を、300μg/mlのゼオシンを含む懸濁選択培地に変え、培地を2日毎に変えた。この点から、300μg/mlのゼオシン含有培地中で、培養を維持した。
【0320】
図10は、BAC9A-GFPのトランスフェクション後の、1ml当たりの細胞数の解析である。各時点での生存細胞数を決定するための、ViCell Xrを使用する選択下のトランスフェクトした培養物の解析により、ゼオシンを使用する選択が作用していることが示される。ゼオシン選択下の模擬細胞は、数が低減し、3週間後には完全に死滅したが、選択下にない模擬細胞は依然として生存している。BAC9A-GFP(SMART.BAC.AAV.R2C2.9A-GFP.ssb)細胞培養物は、徐々に数が低減するが、3週間後にも安定な集団を維持しており、これらの細胞内に、BAC9A-GFPが組み込まれたことを示す。
【0321】
図11は、pSMART.BAC.AAV.R2C2.9A-GFP.ssbによるトランスフェクション後の、ゼオシン選択下での、AdVec RS-D01懸濁細胞に対するフローサイトメトリーによるGFP陽性細胞の解析である。細胞を毎週の時点で解析した。
【0322】
フローサイトメトリーによる週毎のトランスフェクトされた細胞プールの
図11における解析によって、高濃度ゼオシンの1週間後に、両方の培養物は、35%を超えるGFP陽性細胞の有する。2週間後には、培養物1はGFP陽性細胞のほとんどを失い、BACはトランスフェクトされたが高比率の細胞に組み込まれていない一方、培養物2では、BACは高比率の細胞に組み込まれ、選択後に残っている集団が組み込まれた細胞株を反映し始めるため、GFP陽性細胞のパーセンテージは、2週間目から3週間目に増加することが示唆される。選択は、培養物2に関して依然として続いている。培養物1由来のGFP陽性細胞の損失により、この培養物で見られるベクターの欠如を説明することができる(
図12)。
【0323】
3.5.3 ドキシサイクリンを使用して選択した細胞のポリクローナル集団からのrAAVの誘導 1mlの細胞株培養物を、24ディープウェル懸濁培養プレートの2ウェルに添加した。
【0324】
1つのウェルには、1mlのBalanCD培地を添加した(誘導されていない)。他のウェルでは、4μg/mlのドキシサイクリンを含む1mlのBalanCD培地を添加した(2μg/mlの最終濃度、誘導されている)。細胞を、37℃、5%のCO2、140rpmで48時間インキュベートした。
【0325】
誘導の48時間後に、細胞を、2000×gで5分間遠心分離することによって回収した。上清を除去し、細胞を、細胞1ml当たり50μlのAAV溶解緩衝液(50mMのTris、150mMのNaCl、2mMのMgCl2)中に溶解させ、室温で5分間ボルテックスし、次いで、-80℃で凍結させた。細胞溶解液は、3ラウンドの-80℃及び37℃での凍結、解凍を受けた。溶解液を、37℃で30分間、Benzonase(商標)(50U/ml)で処理し、次いで、4000×gで20分間遠心分離することによって清澄化した。溶解液を、新しい予め冷やしたチューブに取り出し、qPCR解析のためのDNA抽出液として2×5μl、形質導入のために4×10μlのアリコートとした。
【0326】
図12は、ポリクローナル選択プールから生じたベクターのqPCR解析を示す。BAC9A-GFPによりトランスフェクトされたAdVec RS-D01細胞を、1カ月間ゼオシンを使用して、安定にトランスフェクトされた細胞について選択した。これらの細胞を、2μg/mlのドキシサイクリンを用いて、48時間誘導した。細胞を回収し、溶解させ、Benzonase(商標)で処理した。DNAを抽出し、3.4と同じプロトコールを使用して、ITRプライマーを使用するqPCRのために使用した。
【0327】
安定なプール培養物からのベクター産生の解析により、ウイルスベクター粒子が、依然としてプールのうちの1つ(培養物2)において作製されるが、培養物1では作製されないことが示される。このことは、BAC9A-GFP(SMART.BAC.AAV.R2C2.9A-GFP.ssb)系が機能的であり、AAVベクターを生じる安定な細胞株を生じるために使用され得ることを示す。
【0328】
増殖培地へのドキシサイクリンの添加は、BAC9A-GFP細胞株から生じるベクターの力価を増加させなかったようであるが、誘導は、時間が短すぎて、shRNA生成の低下及びRep発現の増加からの効果が見られない可能性のある48時間のみであった。あるいは、この系は、リーキーである可能性があり、ドキシサイクリンによって抑制されるRep shRNAの非存在下でさえ、Repが産生されている。
【0329】
図13は、1カ月の選択下で、AdVec RS-D01細胞からの溶解液によるLentiX 293T細胞の形質導入を示す。AdVec RS-D01細胞をBAC9A-GFPでトランスフェクトし、次いで、1カ月間ゼオシンを使用して選択した。次いで、これらの細胞プールを、2μg/mlのドキシサイクリンを使用して48時間誘導した。細胞を回収し、溶解させ、Benzonase(商標)で処理した。溶解液を、LentiX 293T細胞に適用し、形質導入の72時間後に、フローサイトメトリーによってGFP陽性細胞について評価した。
【0330】
BAC9A-GFPプールからの溶解液によるLentiX 293T細胞の形質導入により、産生されるベクターの量は少ない場合があるが、生物学的には機能的であることが示される。qPCRデータに見られる1μl当たりのゲノムコピーの低さは、フローサイトメトリーによって解析されるGFP陽性細胞のパーセンテージを反映するが、一部のベクターが、この初期段階でさえ作製されていることを示す。
【0331】
[実施例4]
AAVによる安定なプロデューサー細胞株(接着細胞)の生成
安定な細胞株を、BAC8A-GFP及びBAC9A-GFP構築物で、接着HEK293細胞をトランスフェクトすることによって生成した。
【0332】
図14は、接着AdVec細胞安定プールからのベクター産生のqPCR解析を示す。細胞を、BAC8A-GFP(pSMART.BAC.AAV.R2C2.8A-GFP.ssb)又はBAC9A-GFP(pSMART.BAC.AAV.R2C2.9A-GFP.ssb)のいずれかでトランスフェクトした。BAC8A-GFP及びBAC9A-GFPによりトランスフェクトされた細胞を、それぞれ、2及び4週間、ゼオシン選択下に置いた。
【0333】
これによって、BAC8A-GFP系及びBAC9A-GFP系の両方が機能的であり、AAVベクター粒子を産生する安定な細胞株を生じるために使用できることが示される。
試薬及び化学物質
【0334】
【0335】
【0336】
【0337】
本明細書に記載の実施形態が、本発明のすべての態様に適用されることは理解されよう。さらに、これらに限定されないが、この明細書で引用した特許及び特許出願を含むすべての刊行物は、十分に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0338】
【配列表】
【外国語明細書】