(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081976
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】経カテーテル大動脈弁処置のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20230606BHJP
A61F 2/01 20060101ALI20230606BHJP
A61M 25/06 20060101ALI20230606BHJP
A61M 25/098 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A61F2/24
A61F2/01
A61M25/06 550
A61M25/098
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023035364
(22)【出願日】2023-03-08
(62)【分割の表示】P 2021033598の分割
【原出願日】2016-04-28
(31)【優先権主張番号】62/155,384
(32)【優先日】2015-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/210,919
(32)【優先日】2015-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510015338
【氏名又は名称】シルク・ロード・メディカル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SILK ROAD MEDICAL, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】エリカ・ジェイ・ロジャース
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ピー・ウォレス
(72)【発明者】
【氏名】スマイラ・マクドナルド
(72)【発明者】
【氏名】ミチ・イー・ギャリソン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】全体的により短く、より直線的なアクセス路を提供する、血管内人工大動脈弁植え込み用のアクセスシステムを提供する。
【解決手段】本発明のデバイスおよび方法は、自己大動脈弁への、総頚動脈を経る経頚動脈または鎖骨下アクセス、および心臓への人工弁植え込みを可能にするよう構成される。本発明のデバイスおよび方法は、そのような血管内大動脈弁植え込み術中の塞栓保護のための手段をも提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経カテーテル大動脈弁処置のためのシステムであって、
左もしくは右総頚動脈または左もしくは右鎖骨下動脈のアクセスサイトへの導入に適合する動脈アクセスシース、
ここで、該動脈アクセスシースは、該動脈アクセスシースを通して心臓または大動脈に人工弁を送達するように構成された弁送達システムを受容する大きさおよび形状の第1の腔を有し、該第1の腔は、該動脈アクセスシースの近位端において第1の開口を、また、該動脈アクセスシースの最遠位端において遠位開口を有し、該第1の腔の近位端は、止血バルブとY字型アームとを有する近位コネクタを有し、該止血バルブは、その中に前記弁送達システムを通すのに適合する大きさを有するものであり、
ここで、該動脈アクセスシースはさらに、近位端と遠位開口とを有する灌流用の腔を有し、該灌流用の腔は、使用時に、その遠位開口が遠位頚動脈中に配置され遠位頚動脈を灌流することができるような長さを有し、該灌流用の腔の近位端は近位コネクタを有するものである;および
前記灌流用の腔に灌流流体のソースを流体流通的に接続するシャント内腔を規定するシャント、
を含んでなるシステム。
【請求項2】
灌流用の腔の遠位開口が放射線不透過マーカーを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
シャントが、動脈アクセスシースの第1の腔のY字型アームに着脱可能に接続可能な第1の端、および灌流用の腔の近位端に着脱可能に接続可能な第2の端を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
シャントが、動脈血ソースと灌流用の腔との間に流体通路を形成するように、動脈血ソースに着脱可能に接続可能な第1の端、および灌流用の腔の近位コネクタに着脱可能に接続可能な第2の端を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
動脈血ソースが、大腿動脈中のシースを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
灌流用の腔の少なくとも一部が、動脈アクセスシースの第1の腔と平行に接して配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
シャントが能動的なポンプと組み合わされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
シャントが直列のフィルタをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
アクセスシースが、その遠位端に閉塞バルーンさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
この出願は、下記米国仮出願の優先権を主張する:(1)「経カテーテル大動脈弁処置のためのシステムおよび方法」と表題が付けられ2015年4月30日に出願された米国仮出願番号62/155,384号;および(2)「経カテーテル大動脈弁処置のためのシステムおよび方法」と表題が付けられ2015年8月27日に出願された米国仮出願番号62/210,919号。これら仮出願の全体が、参照によって本明細書に取り込まれ、前述の出願日の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、心臓弁の置換のための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
大動脈心臓弁に欠陥のある患者はしばしば、心臓弁置換術の候補である。従来の処置では、心臓弁が人工弁に外科的に置換される。この手術は、大きな開胸または胸骨正中切開、心肺バイパスおよび心臓停止、疾患心臓弁への外科的アクセスおよび切除、およびその人工機械弁または人工生体弁による置換を伴う。この方法で植え込まれる弁は歴史的に、患者に長期にわたり良好な結果をもたらし、生体弁では10年または15年、機械弁の場合はさらに長い期間にわたり耐久性を示す。しかしながら、心臓弁置換術は高度に侵襲性であり、長い回復期間を要し得、短期および長期の合併症を伴う。この方法は、手術の危険度が高いかまたは手術不能の患者にとっては選択肢たり得ないかもしれない。
【0004】
近年、心臓弁置換のための侵襲性の低い方法が開発されている。経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)または経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)と称されるこの方法は、カテーテルによる送達システムに搭載される折り畳み可能な人工弁が開発されたことにより可能となった。この種の人工弁は、患者に比較的小さい切開または血管アクセスサイトから挿入することができ、心臓を停止することなく拍動する心臓に植え込むことができる。この方法の利点としては、比較的外科的外傷の少ないこと、回復期間が短いこと、合併症発生率の低いことが挙げられる。手術の危険度が高いかまたは手術不能の患者にとって、この方法は、従来の手術に代わる良好な選択肢となる。この技術の例は、Sapien経カテーテル弁(Sapien Transcatheter Valve)(Edwards Lifesciences, Irvine, CA)およびCoreValveシステム(CoreValve System)(Medtronic, Minneapolis, MN)である。米国特許第6454799号(参照によってその全体が本明細書に取り込まれる)に、この技術の例が記載されている。
【0005】
TAVI法を用いて弁を挿入するための経路としては2つの主要な経路がある。1つ目は、大腿動脈からの血管アプローチであり(経大腿アプローチと称される)、経皮的に、または外科的カットダウンと大腿動脈の動脈切開によって行われる。送達システムに搭載された弁は、大腿動脈に挿入されると、逆行的に(血流とは逆方向に)、下行大動脈を上がり、大動脈弓を回って、上行大動脈を経て進入され、自己大動脈弁に渡して配置される。経大腿の大動脈弁送達システムは通常90cmを超える長さを有し、大動脈弓を回って進むことが可能である必要がある。大腿動脈の直径が比較的小さいこと、また、腸骨大腿構造においてアテローム硬化性疾患がしばしば見られることから、送達システムの最大直径は約24フレンチ(0.312”)に制限される。2つ目の経路は、経心尖と称されるもので、小さい開胸を経て心尖部から左心室にアクセスし、弁送達システムを大動脈弁部分へと順行的に(血流と同方向に)進入させる。この経路は経大腿経路よりもはるかに短く直線的ではあるが、心臓壁の外科的穿刺と、後の閉鎖を伴う。
【0006】
鎖骨下動脈からのアクセス、および小さい開胸を経る上行大動脈の直接穿刺といった他のアプローチも知られている。鎖骨下アプローチ(経鎖骨下アプローチ)は、経大腿経路が禁忌である場合に用いられているが、同側総頚動脈から脳血管への血流を遮断することがある。大動脈直接穿刺は通常、血管疾患のような解剖学的問題のために他のすべての経路を排除しなければならない場合に考慮される。大動脈壁の穿刺、および後の閉鎖には、大動脈解離および大動脈破裂を包含する外科的リスクが伴う。
【0007】
大動脈弁への経大腿アプローチは、心尖アプローチまたは他の代替アプローチよりも、医学界において一般的なアプローチである。大腿動脈からの上行大動脈へのアクセスは、介入心臓医にとって標準的な手法である。経大腿アプローチによるバルーン弁形成術は長年実施されている。心尖アクセスまたは直接大動脈穿刺のような外科的アプローチはそれほど一般的ではなく、外科的スキルおよび血管内処置スキルの両方を持つ医師を必要とする;そのような外科的アプローチの手法は依然開発途上にあり、経大腿法および経鎖骨下法に勝る利点をもたらすかは、まだわかっていない。しかしながら、経大腿アプローチおよび経鎖骨下アプローチにも問題点はある。1つには、望ましいアクセス血管が、しばしば細すぎ、および/またはアテローム硬化性疾患を有しており、その場合は、その動脈をアクセスポイントとすることができない、ということである。2つ目の問題は、アクセスポイントから大動脈弁への経路には通常、0.5”またはそれ以下の比較的小さい曲率半径で少なくとも90°の大きな方向転換が1つまたはそれ以上あり、したがって送達システムには一定の可撓性が求められるということである。この可撓性の要求により、弁および送達システムの両方の設計パラメータは制限され、また、送達システムには長さが求められることから、弁の精密な設置におけるコントロールのレベルは低下されることとなる。
【0008】
経大腿アプローチにも心尖アプローチにも、起こりうる合併症として、アクセス操作、疾患弁の前拡張、および人工弁植え込み中の、アテローム性および/または血栓性のデブリス(debris)の遊離、いわゆる「塞栓形成」または「塞栓性デブリス」の形成がある。塞栓性デブリスがもたらす最も重大な事態は、それが血流に乗り、脳循環につながる4つの主要な血管、すなわち左右の頚動脈および左右の椎骨動脈の1つまたはそれ以上を経由して脳に飛遊することである。経大腿TAVI法は、大きなデバイスおよび送達システムコンポーネントを、大動脈弓を通して、頚動脈および椎骨動脈に血液を送る頭頚部血管の起始部を横切って通過させる必要があるので、大動脈弁への経路の途中でデブリスを浮き上らせ、細分し、遊離させる可能性がある。心尖TAVI法は心臓壁の穿刺を伴うので、それにより心室壁または上行大動脈壁から塞栓性デブリスが生じる可能性があり、あるいは心尖穿刺部において血栓または血塊が生じる可能性がある。この血塊もまた、拍動する心臓の激しい動きによって剥がれ、脳に飛遊する可能性がある。いずれのアプローチも人工弁の設置の際にかなりの操作を要する:TAVI植え込みおよび送達用のシステムを自己大動脈弁に渡して前後に動かすので、疾患弁自体からさらなるデブリスを遊離させる可能性ある。人工弁を拡張すると共に、自己大動脈弁を圧縮し、心臓からの血流から取り出すが、このときにも、自己弁のせん断破壊および引裂きによりさらなるデブリスが遊離し、脳に塞栓を形成する可能性がある。
【0009】
最近、米国特許第8460335号(参照によってその全体が本明細書に取り込まれる)に記載されるように、TAVI法において使用するための塞栓フィルタ保護デバイスが知られるようになった。このデバイスは、頭頚部血管の口に渡って一時的なスクリーンを設置し、該血管への血流を許しながら塞栓性粒子の通過は阻止するものである。このデバイスは、比較的大きい塞栓性粒子からの幾分かの保護を提供しうるものの、さらなる血管アクセスおよびデバイス展開を必要とするので、手術にかかる費用と時間を増し、また、人工弁の通過を助けない。さらに、このデバイスは、フィルタの設置および回収中の保護を提供しない;フィルタは大動脈壁に対して展開されるので、フィルタ操作自体が塞栓合併症の原因となりうる危険性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在用いられるシステムおよび方法と比較して、全体的により短く、より直線的なアクセス路を提供する、血管内人工大動脈弁植え込み用のアクセスシステムが必要とされている。それにより、人工大動脈弁のより高度なコントロールおよびより容易な設置を可能にする、より短く、より硬質な送達システムの使用が可能となり得る。また、手術中に脳塞栓合併症からの保護を提供するアクセスシステムも必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
自己大動脈弁への、総頚動脈を経る経頚動脈または鎖骨下アクセス、および心臓または大動脈への人工大動脈弁の経カテーテル植え込みを可能にするデバイスおよび方法を開示する。本発明のデバイスおよび方法は、そのような血管内大動脈弁植え込み術中の塞栓保護のための手段をも提供する。
【0012】
本発明の一側面として、大動脈弁処置のためのシステムであって、
左総頚動脈、右総頚動脈、左鎖骨下動脈または右鎖骨下動脈のアクセスサイトへの導入に適合する動脈アクセスシース、ここで、該動脈アクセスシースは、該動脈アクセスシースを通して心臓に人工弁を送達するように構成された弁送達システムを受容する大きさおよび形状の内腔を含むものであり;および
該動脈アクセスシース上の、動脈を閉塞するのに適する閉塞要素、
を含んでなるシステムを開示する。
【0013】
別の一側面として、大動脈弁処置のためのシステムであって、
左総頚動脈、右総頚動脈、左鎖骨下動脈または右鎖骨下動脈のアクセスサイトへの導入に適合する動脈アクセスシース、ここで、該動脈アクセスシースは、該動脈アクセスシースを通して心臓に人工弁を送達するように構成された弁送達システムを受容する大きさおよび形状の内腔を有するものであり;および
塞栓保護を提供するための、該動脈アクセスシースに連結されたフィルタ、
を含んでなるシステムを開示する。
【0014】
別の一側面として、経頚動脈大動脈弁処置のためのシステムであって、
左総頚動脈、右総頚動脈、左鎖骨下動脈または右鎖骨下動脈のアクセスサイトへの導入に適合する動脈アクセスシース、ここで、該動脈アクセスシースは、該動脈アクセスシースを通して心臓に人工弁を送達するように構成された弁送達システムを受容する大きさおよび形状の内腔を有するものであり;および
該動脈アクセスシースに流体流通的に接続されたリターンシャント、ここで、該シャントは、該動脈アクセスシースからリターンサイトへの血流路を提供するものである、
を含んでなるシステムを開示する。
【0015】
別の一側面として、大動脈弁処置のためのシステムであって、
左もしくは右総頚動脈または左もしくは右鎖骨下動脈のアクセスサイトへの導入に適合する動脈アクセスシース、ここで、該動脈アクセスシースは、該動脈アクセスシースを通して心臓に人工弁を送達するように構成された弁送達システムを受容する大きさおよび形状の第1の管腔を有するものであり;
該動脈アクセスシースの近位域に配置されたY字型アーム;および
該Y字型アームに流体流通的に接続されたフローシャント、ここで、該フローシャントは、遠位頚動脈を灌流するのに適するものである、
を含んでなるシステムを開示する。
【0016】
別の一側面として、大動脈弁処置のためのシステムであって、
左もしくは右総頚動脈または左もしくは右鎖骨下動脈のアクセスサイトへの導入に適合する動脈アクセスシース、ここで、該動脈アクセスシースは、該動脈アクセスシースを通して心臓に人工弁を送達するように構成された弁送達システムを受容する大きさおよび形状の内腔を有するものであり;
該動脈アクセスシースの側部開口、ここで、該側部開口は、該動脈アクセスシースにその先端から入り該側部開口から出て遠位頚動脈を灌流する血液の順行流を可能にするものであり;および
拡張器、ここで、該拡張器は、該アクセスシースの動脈への挿入中は該アクセスシースの内側にあり、アクセスシース挿入中に血液が該シースを通り前記側部開口から流出するのを阻止するものである、
を含んでなるシステムを開示する。
【0017】
別の一側面として、大動脈弁の処置方法であって、
患者の頚部において、総頚動脈の壁に貫通部を形成し;
該貫通部からアクセスシースを導入し;
該動脈を閉塞し;
該アクセスシースを通して自己大動脈弁に渡してガイドワイヤを挿入し;および
該アクセスシースを通して人工弁を導入し、自己大動脈弁の位置またはその付近において該人工弁を経皮的に展開する、
ことを含んでなる方法を開示する。
【0018】
別の一側面として、大動脈弁の処置方法であって、
患者の頚部において、総頚動脈の壁に貫通部を形成し;
該貫通部からアクセスシースを導入し;
塞栓保護を提供するフィルタを動脈内に展開し;
該アクセスシースを通して自己大動脈弁に渡してガイドワイヤを挿入し;および
該アクセスシースを通して人工弁を導入し、自己大動脈弁の位置またはその付近において該人工弁を経皮的に展開する、
ことを含んでなる方法を開示する。
【0019】
本発明の他の側面、特徴および利点は、本発明の原理を例示により説明するものである、以下のさまざまな態様の説明により、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、閉塞要素が取り付けられたアクセスシースの例の側面図である。
【
図2】
図2は、フィルタ要素が取り付けられたアクセスシースの例の側面図である。
【
図6】
図6は、正常な循環を示す血管構造を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、血管構造中に展開された、アクセスシースの別の態様を示す。
【
図7B】
図7Bは、血管構造中に展開された、アクセスシースの別の態様を示す。
【
図8A】
図8Aは、血管構造中に展開された、アクセスシースの別の態様を示す。
【
図8B】
図8Bは、血管構造中に展開された、アクセスシースの別の態様を示す。
【
図9】
図9は、血管構造中に展開された、アクセスシースの別の態様を示す。
【
図10】
図10は、血管構造中に展開された、アクセスシースの別の態様を示す。
【
図11】
図11は、血管構造中に展開された、アクセスシースの別の態様であって、その閉塞要素が左総頚動脈を閉塞しているものを示す。
【
図12】
図12は、血管構造中に展開された、アクセスシースの別の態様であって、その閉塞要素が右総頚動脈を閉塞しているものを示す。
【
図13】
図13は、血管構造中に展開された、アクセスシースの別の態様であって、その閉塞要素が無名動脈を閉塞しているものを示す。
【
図14】
図14は、アクセスシース110を通してガイドワイヤ119に従って血管内人工弁を展開する送達システムを示す。
【
図15A】
図15Aは、フィルタが動脈口に渡って展開される大きさおよび形状である態様を示す。
【
図15B】
図15Bは、フィルタが動脈口に渡って展開される大きさおよび形状である態様を示す。
【
図15C】
図15Cは、フィルタが動脈内に、動脈口から遠位において展開される大きさおよび形状である、別の態様を示す。
【
図17A】
図17Aは、大動脈弓内ですべての頭頚部血管の口に渡って展開される大きさおよび形状を有するフィルタを有するアクセスシースの態様を示す。
【
図17B】
図17Bは、大動脈弓内ですべての頭頚部血管の口に渡って展開される大きさおよび形状を有するフィルタを有するアクセスシースの態様を示す。
【
図17C】
図17Cは、大動脈弓内で大動脈弓を横断して展開される大きさおよび形状を有するフィルタを有するアクセスシースの態様を示す。
【
図17D】
図17Dは、大動脈弓内で大動脈弓を横断して展開される大きさおよび形状を有するフィルタを有するアクセスシースの態様を示す。
【
図18A】
図18Aは、上行大動脈中に展開される大きさおよび形状を有するフィルタを有するアクセスシースの別の態様を示す。
【
図18B】
図18Bは、上行大動脈中に展開される大きさおよび形状を有するフィルタを有するアクセスシースの別の態様を示す。
【
図19】
図19は、上行大動脈中に展開される大きさおよび形状を有する閉塞要素を有するアクセスシースの態様を示す。
【
図22】
図22は、経頚動脈人工大動脈弁および送達システムの態様を示す。
【
図23】
図23は、経頚動脈人工大動脈弁および送達システムの別の態様を示す。
【
図24】
図24は、経頚動脈人工大動脈弁および送達システムの、フィルタ要素を有する態様を示す。
【
図25】
図25は、経頚動脈人工大動脈弁および送達システムの、閉塞要素を有する態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
自己大動脈弁への動脈アクセス、例えば総頚動脈を経る経頚動脈アクセス、または鎖骨下動脈を経る鎖骨下アクセス、および心臓または大動脈への人工大動脈弁の植え込みを可能にするデバイスおよび方法を開示する。本発明のデバイスおよび方法は、そのような血管内大動脈弁植え込み術中の塞栓保護のための手段をも提供する。
【0022】
一態様において、大動脈弁への経頚動脈または鎖骨下アクセスは、動脈の経皮的穿刺または直接的なカットダウンによってなされる。総頚動脈をより大きく切開した場合、経皮的血管閉鎖は困難であるので、カットダウンが有利であり得る。所望により、手術終了時の閉鎖を容易にするために、動脈切開部位にプレステッチ(pre-stitch)を配し得る。総頚動脈または鎖骨下動脈に通すのに適合する大きさの、拡張器およびガイドワイヤを備えたアクセスシースを準備する。アクセスシースを動脈中、大動脈弓に向かって下方に挿入する。例えば近位の動脈および/または大動脈の疾患の状態や、頚動脈または無名動脈の大動脈への進入角度といった要因に基づいて、左または右の総頚動脈または鎖骨下動脈のいずれかをアクセスサイトとして選択し得る。次いで、頚動脈をアクセスサイトから遠位で閉塞し得る。この閉塞は、アクセスが直接的な外科的カットダウンおよび動脈切開による場合は、血管鉗子、血管ループまたはルンメル止血器(Rummel tourniquet)によって行い得る。あるいは、手術中にアクセスサイトから遠位の頚動脈に塞栓粒子が入るのを阻止するために、動脈の閉塞に適した閉塞要素、例えば閉塞バルーンを、アクセスシース自体に装備してもよい。
【0023】
図1は、内腔を有する長い本体からなる例示動脈アクセスシース110の側面図である。一態様において、シースは10~60cmの動作長さを有し、ここで、動作長さは、使用時に動脈に挿入可能なシースの部分である。シース内腔の直径は、血管内弁送達システムの挿入を受容するのに十分な大きさ、例えば18フレンチ~22フレンチ(0.236”~0.288”)である。一態様において、送達システムの内径は、約0.182”と小さい。アクセスシース110は、その上に配置された拡張可能な閉塞要素129を有することができる。閉塞要素129は、動脈内の流通を閉塞する大きさに拡張されるように形成される。閉塞要素129は、動脈または大動脈の任意の位置に置くことができる。一態様において、閉塞要素は閉塞バルーンである。
【0024】
シース110を動脈内に配置したら、閉塞要素129を動脈内で拡張して動脈を閉塞し、場合によりシースを適所に固定する。動脈アクセスシース110はY字型アームを含み得、これは、造影剤または食塩液の送達用、吸引用、および/またはシャントと流体流通的に接続し得るものであり、ここで、シャントは、動脈アクセスシース110からリターンサイト、例えば静脈リターンサイトまたは回収レザバへの血流のためのシャント内腔または通路を提供する。これに関連して、逆行または逆向きの血流状態を動脈の少なくとも一部においてつくることができる。シース110はまた、膨張用の管腔を経て閉塞バルーンを膨張させるためのY字型アーム、および血管内弁送達システムをシースに導入するための止血バルブを含み得る。あるいは、閉塞要素が機械的閉塞構造物である場合、シース110は駆動要素を含み得る。血管内弁送達システムは、人工弁およびデリバリーカテーテルを含み得る。一態様において、デリバリーカテーテルは、30、40、60、70または80cmの動作長さを有する。
【0025】
一態様において、アクセスシース110を通して動脈への吸引を行い得る。これに関連して、他の頭頚部血管部分に入るか、または下流に飛遊して末梢血管に至る可能性のある塞栓デブリスを捕捉し得るように、アクセスシース110をY字型アーム112を介して吸引ソースに接続し得る。吸引ソースは、能動的なもの、例えば心臓切開手術用吸引ソース、ポンプまたはシリンジであってよい。あるいは、例えばY字型アーム112をシャントに流体流通的に接続し、該シャントを、常圧もしくは減圧の回収レザバまたは患者の静脈リターンサイトのような、より低圧のソースに接続することによって、受動的流動条件をつくることもできる。受動的流動の速度は、例えばシャント内の流路制限を調節することによって、調節することができる。
【0026】
一態様において、アクセスシステムに、一方または両方の頚動脈に塞栓保護を提供する1つまたはそれ以上の塞栓保護要素を装備し得る。例えば、アクセスシステムに、一方または両方の頚動脈に塞栓保護を提供するフィルタを含ませ得る。この態様の一変化形において、フィルタを、対側頚動脈、上腕動脈または鎖骨下動脈から導入し、大動脈弓内でその口に渡って配置する。シースのアクセスサイトが左総頚動脈である場合、フィルタを無名動脈(腕頭動脈ともいう)の口に渡って配置しうる。シースのアクセスサイトが右総頚動脈である場合は、フィルタを左総頚動脈口に渡って配置し得る。この態様の一変化形において、フィルタを、無名動脈および左総頚動脈の両方に渡って展開するか、または頭頚部血管(無名動脈、左総頚動脈および左鎖骨下動脈)3つ全部に渡って展開する。フィルタ要素はアクセスシース110と一体化されていてよい。あるいは、フィルタ要素は、アクセスシース110と適合する別個の要素であってもよい。例えば、フィルタ要素は、アクセスシースにスライド式に連結された同軸要素、またはアクセスシースに並べて(side-by-side)配置された要素であり得る。フィルタ要素は、動脈に折り畳まれた状態で挿入できるが、標的サイトでは拡張して、動脈の口に渡ってフィルタ要素を設置できるように、拡張可能なフレームを含み得る。
【0027】
図2は、フィルタ要素111が取り付けられた例示アクセスシース110の側面図である。
図3は、フィルタ要素111の正面図で、フィルタ要素111の一例を示すものである。
図3の態様において、フィルタ要素111は、頭頚部血管内に適合し、それを遮断する大きさおよび形状を有する。一態様において、展開されるフィルタは、長い方の寸法が約2、3、4または5cm、短い方の寸法が約1、1.5または2cmである。
図3に示すのは例であって、フィルタ要素111の形状はさまざまであってよいと理解すべきである。例えば、フィルタ要素の形状は、卵型、丸型、長円形または方形であり得る。フィルタ材料は、織られた繊維製品材料もしくは編まれた繊維製品材料であるか、ポリウレタンのようなポリマーの有孔膜であり得る。フィルタの孔は、40、100、150、200もしく300ミクロンまたはその間のいずれの大きさであってもよい。フィルタ要素の拡張可能なフレームは、ばね材料、例えばステンレス鋼またはニチノールのワイヤまたはリボンから形成し得る。
【0028】
フィルタ要素を伴う態様において、さらに、弁植え込み前のフィルタ展開中および弁植え込み後のフィルタ回収中に塞栓保護を提供する閉塞手段および/または吸引手段をシステムの一部とすることができる。フィルタ要素自体が、植え込み処置中の第1の塞栓保護手段であり得る。
図4に示すように、シース110に閉塞要素129およびフィルタ要素111の両方を装備してもよい。
【0029】
この態様の別の一変化形において、
図5Aに示すように、シース110は、上行大動脈に渡って展開され、それにより頭頚部血管すべてを塞栓デブリスから保護する大きさおよび形状の大動脈フィルタ要素113を含む。このフィルタ要素の形状はさまざまであり得る。一態様において、フィルタ要素の形状は、円錐形または末端が閉じられたチューブ状であり得る。フィルタ要素の拡張可能なフレームは、展開されたときに大動脈の全直径を横断する大きさおよび形状を有する。例えば、拡張可能なフレームは、直径が12mmから30mmに拡張し得るループであり得る。あるいは、拡張可能なフレームは、一端または両端で連結された一連のストラットで、大動脈の直径に渡ってフィルタ要素を展開するように外向きに拡張するものであり得る。フィルタ材料は、織られた繊維製品材料もしくは編まれた繊維製品材料であるか、ポリウレタンのようなポリマーの有孔膜でありうる。フィルタの孔は、約40、100、150、200もしく300ミクロンまたはその間のいずれの大きさであってもよい。
【0030】
フィルタ要素の拡張可能なフレームは、ばね材料、例えばステンレス鋼またはニチノールのワイヤまたはリボンから形成し得る。上記の変化形と同様、この変化形にも、フィルタ展開中およびフィルタ回収中に保護を提供する閉塞手段および吸引手段を含めることができる。大動脈フィルタ要素113は、シースと一体化されているか、またはシースと適合性の別個のデバイスであってよく、例えばアクセスシースと同軸に、またはアクセスシースに並べて置くことができる。
図5Bに示すように、シース110の一態様は、大動脈フィルタ要素113および閉塞要素129の両方を含み得る。
【0031】
図6は、正常な順行の循環を示す血管構造の図である。
図6に示す血管の名称は次の通りである:ACA:前大脳動脈;MCA:中大脳動脈;PCA:後大脳動脈;ICA:内頚動脈;ECA:外頚動脈;LCCA:左総頚動脈;RCCA:右総頚動脈;LSCA:左鎖骨下動脈;RSCA:右鎖骨下動脈;IA:無名動脈;AAo:上行大動脈;DAo:下行大動脈;AV:大動脈弁。
【0032】
ある状況では、アクセスシース110の進入ポイントの上流の頚動脈を頚動脈または無名動脈に還流するメカニズムを提供することが望ましい場合がある。アクセスシース110が頚動脈または無名動脈と同じくらいの大きさである場合、該動脈内の流れは本質的に、アクセスシースが該動脈に挿入されるとき、アクセスシースによって遮断され得る。この状況では、シースによる頚動脈の遮断により、上流の脳血管の灌流が十分でなくなる場合がある。アクセスシース110の一態様において、シースは、上流の頚動脈および脳血管を灌流するメカニズムを含む。
【0033】
図7Aに、血管構造中に置かれたそのようなアクセスシース110の例示態様を示す。アクセスシースの近位は、アクセスシースの単一モノリシック構造の一部である2つの平行な内腔を有する。第1の腔775は、シースの近位端からシースの遠位先端に延び、近位端において、シャント用Y字型アーム755、およびシース近位端に位置する止血バルブ777と流体流通的に接続される。第1の腔775は、止血バルブ777からの経カテーテル大動脈弁および送達システムを受容しそのデリバリーを可能にする大きさおよび形状を有する。例えば、第1の腔は、その遠位開口が心臓または大動脈に配置されるような長さを有する。第2の腔769は、第1の腔と隣接する位置にあって、シースの近位端からシャフト中間位置765の遠位開口まで延び、近位で第2の還流用Y字型アーム767と流体流通的に接続される。第2の腔は遠位の位置765に開口を有する。第2の腔769は、アクセスシース挿入サイトから遠位の頚動脈への血液のシャントを可能にする大きさおよび形状を有する。シースの当該位置に、使用者がその開口を蛍光透視により可視化するのを容易にするために、放射線不透過シャフトマーカーを配置し得る。該還流用の腔は、使用時にその遠位開口が遠位頚動脈に位置し、それを灌流することができるような長さを有する。第1の腔の近位端は、止血バルブ777とY字型アームとを有する近位コネクタを有する。前記のように、止血バルブは、動脈弁送達システムを通す大きさを有する。灌流用腔の近位端も、近位コネクタを有する。近位コネクタおよび/またはY字型アームは、シャントの取り付けを可能にする。
【0034】
Y字型アーム755はフローシャント760に着脱可能に接続され、フローシャントは第2のY字型アーム767に着脱可能に接続される。このシャントは、第1の腔775と第2の腔769とを流体流通的に接続するシャント内腔を規定する。Y字型アーム755とフローシャント760の間に、シャント760接続時の洗い流しおよび造影剤注入を可能にするコック栓779を配置し得る。シースを動脈内に配置すると、動脈圧によって血液が動脈アクセスシースの第1の腔775の遠位に流入し、第1の腔からY字型アーム755を経てシャント760に入り、Y字型アーム767を経てシース内に戻る。血流はその後、平行する腔769を通って位置765において遠位頚動脈に入り、動脈シース110の遠位の血管構造を灌流する。この過程で生じる塞栓が大脳動脈に流れないように、フローシャント760に直列のフィルタ要素762を含めることができる。シース110、シャント760および腔769が十分な灌流を抑制する流動制限を生じる場合に、血流を起こして所望レベルの脳灌流を提供するために、フローシャント760に能動ポンプ770を組み合わせることができる。このことは、弁をアクセスシース110の第1の腔775から送達する場合に特に当てはまり得る。
【0035】
図7Bは、
図7Aの態様の一変化形を示す。Y字型アーム767はシャント760と平行する腔769とを流体流通的に接続し、管腔は、動脈内に配置されたとき、シャント760からの血液を位置765において動脈に再導入する。この態様において、シャント760はシースの第1の腔775に流体流通的に接続されない。シャント760は、アクセスシースからY字型アーム755を経由して血液を受け取るのではなく、第2のシースを経由して別の動脈血ソース、例えば大腿動脈もしくは鎖骨下動脈または対側頚動脈に接続され得る。この変化形において、シャントの血流は、アクセスシースの第1の腔775を通る弁の送達による制限を受けない。この態様においては、血液ソースが処置域から離れており、シャントの血液において遠位塞栓の危険性が小さいので、シャントライン中にフィルタ762は必要ではない。しかしながら、シースの洗い流しおよび造影剤注入のために、Y字型アーム755を依然使用し得る。別の変化形において、
図8Aに示すように、動脈アクセスシース110は、近位域でY字型アーム755に流体流通的に接続された、単一の腔775を有する。腔775は、止血バルブ777からの経カテーテル大動脈弁および送達システムを受容しその送達を可能にする大きさおよび形状を有する。Y字型アーム755はフローシャント760に接続され、フローシャントは、アクセスシース110が導入される動脈アクセスポイントから遠位の頚動脈に導入される大きさおよび形状を有する第2の動脈シース802に接続される。シャント760が接続されているときに洗い流しおよび造影剤注入を可能にするコック栓779を、Y字型アーム755とフローシャント760の間に置くことができる。シースが動脈内に適切に配置されるとき、動脈圧により、シース110の腔775内への流れが起こり、これが第1の腔からY字型アーム755を経て、シャント760を通過し、第2のカテーテル802を通過して、動脈アクセスポイントから上流の頚動脈に戻されて、動脈シース110から遠位の血管構造を灌流する。前記と同様に、この過程で生じる塞栓が大脳動脈に流れないように、フローシャント760にフィルタ要素762を含めることができる。例えば弁をアクセスシース110の腔775から送達する場合、シース110およびシャント760が十分な灌流を抑制する流動制限を生じる場合に、血流を起こして所望レベルの脳灌流を提供するように、フローシャントに能動ポンプ770を組み合わせることができる。
【0036】
図8Bは、
図8Aの態様の一変化形を示す。この場合、第2の動脈シース802は、シャントまたはフローライン760に着脱可能または固定的に接続され、該シャントまたはフローラインは、別のシースを経由して別の動脈ソース、例えば大腿動脈もしくは鎖骨下動脈または対側頚動脈に接続される。この変化形において、シャントの血流は、アクセスシースの腔775を通る弁の送達による制限を受けない。この態様において、血液ソースは処置域から離れており、シャントの血液において遠位塞栓の危険性は小さいので、シャントライン中にフィルタ762を置く必要はない。しかしながら、シースの洗い流しおよび造影剤注入のために、Y字型アーム755を依然使用し得る。
【0037】
上記の
図7Aおよび
図7Bならびに
図8Aおよび
図8Bの態様において、動脈アクセスシース110はその遠位端に、頚動脈を閉塞し頚動脈への塞栓流入阻止を支援するように形成された閉塞要素(図示せず)を有し得る。これら態様においてはさらに、フローシャント760、および場合によってはポンプ770および/または第2のシース802を、カテーテルを用いる大動脈弁置換術における経頚動脈アクセスと頚動脈シャントを可能にする単一キット中の別個の構成要素として供し得る。
【0038】
図面には総頚動脈へのシース挿入を示すが、同様のシースまたはシース/シャントシステムを、鎖骨下アクセス用にも設計し得る。
【0039】
別の一態様において、
図9に示すように、アクセスシース110は、シース110の遠位端と近位端の間に少なくとも1つの側部開口805を有し得る。シースの挿入中に側部開口805を塞ぐ拡張器を、シース110の内側に配置し得る。拡張器は、動脈内へのシース挿入を支援するために用いられる。アクセスシース110が動脈に挿入され、拡張器が外されると、拡張器はもはや開口805を塞がないので、血液は側部開口805を通ってアクセスシース110から出て遠位頚動脈に流入し得る。血管内弁送達システムをアクセスシース110を通して動脈に導入する際、送達システムによりシースおよび動脈を通る血流が制限され得、脳灌流レベルが低下し得る。しかしながら、この手技は一時的で、その限られた時間の間の脳灌流低下は臨床的問題とはならないであろう。
図10に示すこの態様の一変化形において、側部開口805は、開口805を覆うフィルタ905を備え得る。フィルタ905は、塞栓デブリスが大脳動脈に向かって下流に飛遊しないよう、塞栓デブリスを捕捉するように形成される。血管内弁がシース110に挿入されるときに、デブリスが前方に押され、シースの遠位端から動脈内に押し出されることがないように、フィルタ905はシース110から外側に膨らむ大きさおよび形状を有する。一態様において、該フィルタは、塞栓遠位フィルタ材料と同様の組成の、非常に薄い有孔フィルムまたは織られた材料である。フィルタの孔は約150、200または250ミクロンであり得る。
図9および10には総頚動脈へのシース挿入を示すが、同様のシースを鎖骨下アクセス用にも設計し得、鎖骨下アクセスの場合はシース挿入サイトは頚動脈の場合よりもさらに遠い位置にあるので、側部開口はシースのより先端に近い位置に設け得る。
【0040】
図7~10に示す態様におけるシースは場合により、シースが血管内に挿入されると展開され得る位置決め要素を含み得る。位置決め要素は、側部開口805が血管内の所望の位置に留まるようにシースを血管内の適所に置くために使用し得る。この位置決め機構は、展開可能な突出部材、例えばループ、組み紐、アームまたは他の突出機構の形状を取り得る。位置決め機構は、動脈内へのシースの挿入中は引き込んでおくことができ、シースが挿入され開口が血管壁の内側にもたらされた後に展開することができる。シースの固定は、例えば、シースをそれが適所に配置されたら患者に固定することを可能とする、アクセスシース110のY字型アームにおけるアイレットまたは他の機構によって行うこともできる。
【0041】
経頚動脈アクセスシース110から送達されるように形成されている弁および送達システムの例を
図20に示す。経大腿または鎖骨下アプローチと比較して、経頚動脈アクセスサイトからの経路はかなり短く直線的である。その結果、送達システムはより短くすることができ、また、その近位部はかなり硬質とすることができ、これらのことはプッシュおよびトルクのより高度なコントロールを可能とし得るので、結果として、人工弁の位置決めおよび展開の精密さを高めることができる。遠位部は、上行大動脈を回って大動脈弁輪の適所へと精密に辿ることができるように、高い可撓性を有する。本送達システムの材質は、前記の大きい硬さを提供するよう、従来の送達システムと比較して、強化された、デュロメータ硬さのより大きい、および/またはより肉厚な材質を含み得る。
【0042】
バルーン拡張型人工大動脈弁205が、血管内弁送達システム200の遠位端に搭載される。該送達システムは、内部シャフト210の遠位端に先細の遠位チップ220および拡張可能なバルーン215を有する。一態様において、該システムは、該デバイスの長軸に沿ってスライド可能で、送達中の弁をバルーン上の適所に維持する外部スリーブ、例えばプッシャースリーブ230をも有する。近位のコントロールアセンブリは、前記プッシャースリーブを引き込むための機構、例えば近位ハンドル240上のスライディングボタン270を含む。
図20において、プッシャースリーブ230は、プッシャースリーブ230による妨げなしに弁を拡張し得るように弁および隣接バルーンから引き離された状態で示す。コネクタ250は、バルーン215のバルーン膨張腔への膨張デバイスの接続を可能にする。近位の回転式止血バルブ260は、システムの洗い流し、また、弁送達システムを適所へとガイドワイヤ(図示せず)に従って進める間のガイドワイヤ周囲の封止を可能にする。
【0043】
弁送達システムは、経頚動脈アクセスサイトから大動脈弁輪への弁の送達を可能にする動作長さを持つように形成される。とりわけ、弁送達システム200の動作長さは、45~60cmの間である。送達システムのシャフトも、右または左頚動脈アクセスサイトからの送達に適するように形成される。特に、シャフトは硬い近位部280およびより可撓性の遠位部290を有する。一態様において、遠位部は、硬い近位部と比較して2~4倍の可撓性を有する。一態様において、可撓性の遠位部は、弁送達システムの総動作長さの4分の1ないし3分の1を占める。特に、可撓性の遠位部は10cm~20cmの範囲である。別の一態様において、弁送達システムは、可撓性の遠位部と可撓性の近位部の間の可撓性を有する1つまたはそれ以上の長さ部分からなる遷移部を有する。
【0044】
経頚動脈デリバリー用に構成された弁および送達システムの別の例を
図21に示す。血管内弁送達システム300の遠位端に自己拡張型人工大動脈弁305が搭載される。該送達システムは、内部シャフト310の遠位端に先細の遠位チップ320を有する。弁305は内部シャフト310上に配置され、デバイスの長軸に沿ってスライド可能な引き込み式スリーブ330内に収容される。近位のコントロールアセンブリは、引き込み式スリーブを引き込むための機構、例えばスライディングボタン370を含む。一態様において、弁305の最初の位置決めが不正確であった場合に位置決めのやり直しを可能とするために、弁305およびスリーブ330は、スリーブを再度遠位方向に進めて弁に当て、弁を折り畳むことができるように設計される。近位の回転式止血バルブ360は、システムの洗い流し、また、弁送達システムを適所へとガイドワイヤ(図示せず)に従って進める間のガイドワイヤ周囲の封止を可能にする。
【0045】
前記態様と同様、この弁送達システムも、経頚動脈アクセスサイトから大動脈弁輪への弁の送達を可能にする動作長さを持つように形成される。特に、弁送達システム300の動作長さは、45~60cmの間である。送達システムのシャフトも、右または左頚動脈アクセスサイトからの送達に適するように形成される。特に、シャフトは硬い近位部380およびより可撓性の遠位部390を有する。一態様において、遠位部は、硬い近位部と比較して2~4倍の可撓性を有する。一態様において、可撓性の遠位部は、弁送達システムの総動作長さの4分の1ないし3分の1を占める。特に、可撓性の遠位部は10cm~20cmの範囲である。別の一態様において、弁送達システムは、可撓性の遠位部と可撓性の近位部の間の可撓性を有する1つまたはそれ以上の長さ部分からなる遷移部を有する。
【0046】
次に使用方法の例を説明する。一態様において、本発明の方法は通常、患者の頚部から総頚動脈壁への貫通部を形成し;該貫通部からアクセスシースを、その先端を下方に向けて該動脈の口へと導入し;アクセスシースを通してガイドワイヤを、上行大動脈中へ、さらに自己大動脈弁に渡して挿入し;アクセスシースを通して人工弁を導入し、自己大動脈弁の位置またはその付近で人工弁を経皮的に展開する、という各ステップを含む。一態様においては、シース先端から遠位(上流)で動脈を閉塞する。
【0047】
具体的には、最初に、例えば経皮穿刺、または直接的な外科的カットダウンおよび頚動脈穿刺、のいずれかによって、アクセスシース110を血管構造に挿入する。前記のとおり、大動脈弁への経頚動脈アプローチは、LCCA経由で行うことができる。適切な位置に配置したら、LCCAを閉塞するように閉塞要素129を拡張させ得る。これを
図11に示す。別の一態様においては、
図12に示すように、大動脈弁への経頚動脈アプローチをRCCA経由で行うことができ、閉塞要素129によりRCCAを閉塞し得る。別の一態様においては、
図13に示すように、大動脈弁への経頚動脈アプローチをRCCA経由で行うことができ、閉塞要素129により無名動脈IAを閉塞し得る。閉塞要素129によって達成される閉塞は、例えば血管鉗子、血管ループまたはルンメル止血器を用いる頚動脈の直接のクランピングによって達成することもできる。
【0048】
アクセスシースを配置し、閉塞、吸引および/またはフィルタ要素による塞栓保護手段を配備したら、シース110内を通して下向きに上行大動脈中へ、さらに自己大動脈弁に渡して挿入されるガイドワイヤ119(例えば0.035”または0.038”のガイドワイヤ)によって、大動脈弁へのアクセスを得る。弁植込みの前に、適当な大きさの拡張バルーン、例えば弁形成バルーンによって、自己大動脈弁の前拡張を行い得る。ガイドワイヤ119を用いてバルーンを弁に渡して配置し、バルーンを膨張させ、収縮させ、次いで取り除き、その間、ガイドワイヤは適所に留め置く。
【0049】
次いで、血管内人工弁205および送達システム200を、アクセスシース110を通し、ガイドワイヤ119に従って挿入して、自己大動脈弁サイトに弁205を配置する(
図14に示す)。次いで、人工弁205を植込む。植込みステップの最後に、超音波、蛍光透視下の造影剤注入、または他の造影手段によって、植込んだ人工弁205の機能にアクセスすることができる。送達システム200の設計によっては、弁の最終展開の前に、最適な弁の機能および位置を達成するために人工弁205を必要に応じて調節することができる。その後、送達システム200およびガイドワイヤ119をアクセスシース110から抜去する。送達システム200およびガイドワイヤ119の抜去後、塞栓保護手段を取り去る。その際、シースの先端、閉塞要素および/またはフィルタ要素に取り付く塞栓デブリスがあればそれを捕捉するために、吸引を続けることができる。
【0050】
その後、アクセスシース110を抜去し、アクセスサイトを閉鎖する。外科的カットダウンによる直接穿刺によりアクセスした場合は、予め配置しておいたステッチを絞ることによって、または手による縫合もしくは外科用血管閉鎖デバイスによって、血管を閉鎖する。これについては、後で詳しく説明する。皮下アクセスを行った場合は、皮下閉鎖の方法およびデバイスを用いてアクセスサイトの止血を行い得る。一態様においては、貫通部を通して動脈アクセスシースを導入する前に、貫通部のサイトに閉鎖デバイスを適用する。閉鎖デバイスの種類はさまざまであり得る。
【0051】
前記のアクセスサイトは、左総頚動脈または右総頚動脈のいずれかである。他のアクセスサイトも可能で、その例は左もしくは右の鎖骨下動脈、または左または右の上腕動脈である。これらの動脈からは、大動脈弁に達するのに、より長くおよび/またはより曲がりくねった経路を要する一方で、例えば患者の頭部から距離を置いての操作が可能であること、過去の頚動脈内膜切除術や他の頚部手術もしくは照射によるような頚部の解剖学的構造上の不都合を回避できること、またはアクセスサイトに合併症が起こった場合の危険度が比較的小さいこと、といった、頚動脈アクセスに勝る利点ももたらされ得る。さらに、頚動脈の疾患、または頚動脈が小さいために、総頚動脈アクセスが排除されることもある。これらのアクセスサイトのいずれを用いる場合も、TAVI中に頭頚部血管を閉塞、吸引および/またはフィルタ掛けすることで、手術のスピードと正確さを高めることができ、塞栓合併症の発生率を低下することができる。
【0052】
閉塞要素およびフィルタを包含するさまざまな形態の塞栓保護を説明した。すべての頭頚部血管に対して、塞栓保護の手段としてフィルタを用いるさらなる態様を、以下説明する。
図15Aおよび
図15Bには、フィルタ123が、アクセスする頚動脈の対側(反対側)の動脈(右頚動脈からアクセスする場合は左頚動脈であり、左頚動脈からアクセスする場合は無名動脈である)の口に渡って展開される大きさおよび形状を有する態様を示す。
図15Cに示す別の態様においては、フィルタ123は、動脈口から遠位で動脈中に展開される大きさおよび形状を有する。フィルタ123は、対側の頚動脈アクセスサイトから、または上腕もしくは鎖骨下動脈アクセスサイトから入れることができる。血流は順行でフィルタを通って対側動脈へと流れ得るので、塞栓粒子の頭頚部循環への流入を阻止することができる。
【0053】
図16A、
図16Bおよび
図16Cに示す別の態様においては、フィルタは、アクセスシース110の腔(その主たる腔または別の腔)を通って送達される大きさおよび形状を有する。
図16Aにおいては、フィルタ124は上行大動脈中に展開される大きさおよび形状を有する。この態様において、弁は大動脈弁の位置へフィルタ材料を通り抜けて送達される。このフィルタは、弁の通過を可能にする予め形成されたスリットまたは開口を有し得る。予め形成されるスリットは、スリットにより形成される孔の大きさを最小限にしながら弁の通過を可能にするよう、フィルタ材料に形成することができる。例えば、スリットのパターンを、一方向弁を形成するものにすることで、人工弁システムは心臓へと通過することができ、スリットは心臓からの血流によって閉じることができる。あるいは、フィルタ材料を、例えば誘導針によって穿孔することができ、導入針は次いで、ガイドワイヤを、フィルタ材料を通過して自己弁に渡して送達することができる。次いで、弁送達システムを、ガイドワイヤに従って、フィルタ材料を通過して標的サイトへと進める。
【0054】
図16Bにおいて、フィルタ124は大動脈弓に大動脈弓のどの壁にも接触するように送達される大きさおよび形状を有する。
図16Cにおいては、フィルタ124は同時にいずれの頭頚部血管の開口部にも渡って送達される大きさおよび形状を有する。この態様において、フィルタをアクセスシースから、大動脈弓の上面におけるフィルタの位置決めを支援する側口を通して出すことができる。
図16Bおよび
図16Cに示す態様においては、フィルタ124はシース開口に対して下流に配置されるので、弁は送達されるためにフィルタを通り抜ける必要がない。
図16Bおよび
図16Cの態様は、主シース腔を通して送達され、心臓から出た脈打つ血流の助けにより大動脈中に配置される。
図16Bおよび
図16Cにおいて、フィルタがシースを出て大動脈中に送達されると、フィルタ材料は血流に引っ張られ、シースに対して遠位のフィルタの配置は血流によって自然に支援される。該デバイスは、手術の終了時にシースを通して回収されるまで、その位置に留められる。
【0055】
別の一態様においては、
図17A、
図17B、
図17Cおよび
図17Dに示すように、塞栓フィルタをアクセスシース110上に構築し、大動脈弓内に展開させる。
図17Aおよび
図17Bにおいては、フィルタ111は、大動脈弓の上面に渡って、いくつかまたはすべての頭頚部血管の口の覆うように展開される大きさおよび形状を有する。この態様において、アクセスサイトである頚動脈と対側頚動脈の両方がフィルタ111により保護されるので、弁植え込み手技中にシース上に塞栓保護のための閉塞バルーンは必要ない。しかしながら、フィルタの展開および回収中に塞栓デブリスのリスクがあり得るので、弁植え込みに先立つフィルタの展開中および弁植え込み後のフィルタの回収中の塞栓保護として、閉塞バルーンおよび吸引機能を保持することが有利であり得る。
図17Cおよび
図17Dにおいては、大動脈フィルタ113は、弁植え込み手技中にすべての下流血管がフィルタ113により塞栓デブリスから保護されるように、大動脈弓内で大動脈を横断して展開される大きさおよび形状を有する。
【0056】
別の一態様においては、
図18Aおよび
図18Bに示すように、大動脈フィルタをアクセスシース110上に構築し、上行大動脈中に展開させる。
図18Aに示すように、大動脈フィルタ113が、シース110の遠位部に取り付けられる。使用時に、アクセスシースの遠位部は上行大動脈中に配置され、次いでフィルタ113が、フィルタによってすべての下流血管が保護されるように、大動脈を横断して拡張される。フィルタの展開は、例えばシースの外側の引き込み可能なスリーブ(これを引き込むと拡張可能なフィルタが露出する)によって達成し得る。一形態において、引き込み可能なスリーブをどのくらい引き込むかに応じて、フィルタ展開長さを変えることができる。このような調節により、使用者はフィルタを、フィルタの長さおよび直径に応じてさまざまな大きさに拡張することができる。あるいは、フィルタをワイヤフレームまたはワイヤ構造によって前に押し出して展開することもできる。上記と同様、フィルタの展開の程度は、患者の解剖学的構造に応じて、フレームの露出の程度を変えることによって、変えることができる。
図18Aに示すこの態様の一変化形においては、フィルタ113は、血液を濾過するよりもむしろ、弁送達中に大動脈を閉塞するように閉塞性であり得る。この態様の一変化形においては、
図18Bに示すように、フィルタ113は大動脈中を遠位に延びる形状を有する。この態様においては、フィルタはより大きい表面積を有し、流速に及ぼす影響を少なくできる可能性がある。
【0057】
図15A~18Bのいずれの態様においても、アクセスした頚動脈を遮断するように、閉塞バルーン129をシース110に取り付けることができる。さらに、弁送達後のフィルタ回収ステップにおいて、塞栓デブリスが下流血管に飛遊するリスクを最小限にするために、アクセスシースにY字型アーム112から、受動的または能動的な吸引を適用し得る。場合により、浮き上ったデブリスの洗い去りを補助するために、シースのチャネルを通すかまたは別の洗浄用カテーテルによる洗浄(irrigation)を適用することもできる。上述のように、アクセス血管は大動脈フィルタで保護されるから、手技中に閉塞バルーン129ならびに吸引および/または洗浄機能は必要ない。しかしながら、上述のように、フィルタの展開および回収中に保護を提供するために、閉塞、吸引および/または洗浄機能をシステムに含めることができる。
【0058】
図15A~18Bの態様のいずれにおいても、塞栓フィルタ材料は、有孔ポリマーフィルム、織られるかもしくは編まれたメッシュ材料、または特定の有孔性を有する他の材料であってよい。一態様において、フィルタ材料の孔は80~150ミクロンである。一態様において、フィルタ材料の孔は100~120ミクロンである。一態様において、フィルタ材料は、手術中にその上に血栓が形成されるのを防止するために、ヘパリンまたは他の抗凝固剤でコーティングされる。
【0059】
別の一態様において、
図19に示すように、アクセスシース110は大動脈閉塞要素114を有する。この閉塞要素は、上行大動脈を閉塞する大きさおよび形状を有する。使用時にアクセスシース110は右または左頚動脈から導入され、その遠位が上行大動脈中に配置される。前拡張バルーンが弁に渡して配置される。弁の前拡張に先立ち、例えば高頻度ペーシングまたはアトロピンにより、心臓の血流を止めるかまたは顕著に低速化し、閉塞要素114を膨張または拡張させて上行大動脈を閉塞する。その後、遠位塞栓のリスクを伴わずに、弁前拡張ステップを行う。閉塞要素114の収縮に先立ち、シース110のサイドアーム112から、上行大動脈に吸引を適用し得る。場合により、浮き上ったデブリスの洗い去りを補助するために、シースのチャネルまたは別の洗浄用カテーテルから、洗浄を適用することもできる。
【0060】
閉塞要素114を収縮させた後、心臓の血流を再開し得る。次に、弁を植込みのために配置する。先のステップと同様に、例えば高頻度ペーシングまたはアトロピンにより、心臓の血流を停止または顕著に低速化し、閉塞要素114を膨張または拡張させて、広がっている大動脈を閉塞する。その後、遠位塞栓のリスクを伴わずに、弁植え込みステップを行う。閉塞要素114の収縮に先立ち、シース110のサイドアーム112から、上行大動脈に吸引を適用し得る。次いで、閉塞要素114を収縮させ、新たに植込まれた弁を適所に有する心臓の血流を再開する。バルーンの材料は、ノンコンプライアント、コンプライアントまたはセミコンプライアント構造を持つように形成し得る。バルーンは、PET、シリコーン、エラストマー、ナイロン、ポリエチレンまたは他の任意のポリマーもしくはコポリマーから形成し得る。
【0061】
この構成において、閉塞要素114は、液体造影剤による膨張により拡張されるバルーンであり得る。この構成において、シースは、膨張デバイスに接続し得るさらなる膨張用腔を有する。あるいは、閉塞要素は機械的に拡張し得る閉塞要素、例えば組み紐、ケージ、または拡張可能な他の機械的構造で、拡張したときに血管中に封止を形成するカバリングを有するものであってもよい。
【0062】
別の構成において、
図20Aおよび
図20Bに示すように、第1のアクセスシース110を、大動脈弁へのアクセスを提供するように経頚動脈的に動脈中に展開する。第1のアクセスシース110は、前記のように、脳塞栓保護を提供し、また、ガイドワイヤ119を血管構造中に大動脈弁に渡して導入するために用いられるように形成される。さらに第2のアクセスシース1805を、反対側から大動脈弁輪にアクセスする別のアクセスサイト、例えば経心尖アクセスサイトから、左心室内に導入する。第2のアクセスシース1805は、人工弁405を植込むために経心尖アクセス用に形成された送達システム400を導入するために使用することができる。この態様においては、
図20Aに示すように、第2のアクセスシース1805を用いて、まず、第1のアクセスシース110を通して挿入されたガイドワイヤ119の遠位端1815を掴むかまたは他の方法で捕えるように形成されたスネアデバイス1810を導入し得る。あるいは、
図20Bに示すように、スネア1810を第1のアクセスシース110を通して導入し、ガイドワイヤ119を第2のアクセスシース1805を通して導入してもよい。ガイドワイヤがどちら側で導入され捕えられるかに関わらず、ガイドワイヤの両端が外部的に固定されるように、スネアを引き戻すことができる。そのようなガイドワイヤ119の両端固定は、ガイドワイヤ遠位端を固定しない手術の場合と比較して、人工弁405配置のための、より中心的で軸方向に向けられた安定な線路を提供する。次いで、人工弁405を、第2のアクセスシース1805を通し、ガイドワイヤ119に従って配置し、大動脈弁輪中で展開することができる。この態様において、第1のシース110は、経カテーテル弁を通過させる必要がないので、第2のアクセスシース1805よりも細いものであってよい。
【0063】
図20Aおよび20Bの態様の一変化形において、
図21に示すように、経頚動脈弁送達システム200および弁205を、第1のシース110を通して送達し得る。このアプローチの利点は、
図20Aおよび20Bのアプローチと比較して、心尖に穿つ孔が小さくて済むということである。一方で、第1のアクセスサイトには、より太いシースが必要である。この方法の態様において、第1のアクセスサイトを
図20および
図21には経頚動脈アクセスとして示すが、鎖骨下または経大腿動脈アクセスサイトとすることもできる。
【0064】
別の一態様において、経頚動脈弁送達システムは、遠位塞栓保護要素をも含む。
図24に示すように、弁送達システム200は、弁を所望の位置に展開するよう弁送達システム200が配置されるときに上行大動脈を横断して拡張される大きさおよび形状を有する拡張可能なフィルタ要素211を含む。フィルタの展開は、シースの外側の引き込み可能なスリーブによって達成し得、ここで、該スリーブは、引き込まれると拡張可能なフィルタを露出する。あるいは、フィルタを展開するのに、フィルタをワイヤフレームまたはワイヤ構造によって前方に押し進めてもよい。フィルタ要素は、弁送達システムのプッシャースリーブ230に固定するか、フィルタ要素を弁とは無関係に配置できるように可動式のアウタースリーブに固定することができる。後者の場合、弁が自己弁の位置に到達する前にフィルタを配置し拡張することができ、それにより、弁を自己弁の位置に渡す手術ステップ中に下流血流を遠位塞栓から保護することができる。
【0065】
この態様の一変化形において、
図25に示すように、弁送達システム200は、弁を所望の位置に展開するよう弁送達システム200が配置されるときに上行大動脈を閉塞する大きさおよび形状を有する閉塞要素212を含む。閉塞要素212は、液体造影剤による膨張により拡張されるバルーンであり得る。この構成において、弁送達システム200は、膨張デバイスに接続し得るさらなる膨張用腔を有する。あるいは、閉塞要素は、機械的に拡張し得る閉塞要素、例えば組み紐、ケージ、または拡張可能な他の機械的構造で、拡張したときに血管中に封止を形成するカバリングを有するものであってもよい。閉塞要素は、弁送達システムのプッシャースリーブ230に固定するか、または弁とは無関係に配置できるように可動式のアウタースリーブに固定することができる。
【0066】
頚動脈へのアクセスが外科的カットダウンによるものであった場合、標準的な血管手術技法を用いてアクセスサイトを閉鎖し得る。巾着縫合用の糸をシース挿入前に適用しておき、シース抜去後にアクセスサイトを結紮するために用いることができる。アクセスサイトが皮下アクセスである場合は、多様な血管閉鎖要素を用いることができる。一態様においては、血管閉鎖要素は、アンカー部分、および閉鎖部分、例えば自動閉鎖部分を含む機械的要素である。アンカー部分は、フック、ピン、ステープル、クリップ、タイン(tine)、縫合糸等を含み得、これを、貫通部が完全に開いている状態で、貫通部付近の、総頚動脈の外側の面に取り付けることにより、自動閉鎖要素を固定する。自動閉鎖要素はまた、ばね様または他の自動閉鎖部分をも含み得、これは、シースの抜去時に、動脈壁の組織を寄せ集めて閉鎖を提供するようにアンカー部分を閉ざすことができる。通常、そのような閉鎖は十分なものであり得るので、貫通部を閉鎖または封止するさらなる手段は必要ない。しかしながら、シース抜去後の自動閉鎖要素による封止の補助を提供することが望ましい場合もあり得る。例えば、自動閉鎖要素および/または該要素の適用域の組織に、止血材料、例えば生体吸収性ポリマー、コラーゲンプラグ、グルー、シーラント、凝固因子、または他の凝血促進剤を適用することができる。あるいは、他の封止プロトコル、例えば電気焼灼、縫合、クリップ留め、ステープル留め等によって、組織または自動閉鎖要素を封止することもできる。別の一態様においては、自動閉鎖要素は、血管外壁にクリップ、グルー、バンドまたは他の手段によって取り付けられる、自動閉鎖メンブラン材料または自動閉鎖ガスケット材料であってよい。自動閉鎖メンブランは、通常、血液の圧力に対抗して閉鎖し得る、スリットまたは交差する切り目のような内部開口を有し得る。そのような自動閉鎖要素はいずれも、切開による手術において適用されるか、または経皮的に展開されるように設計し得る。
【0067】
別の一態様においては、血管閉鎖要素は、縫合に基づく血管閉鎖デバイスである。縫合に基づく血管閉鎖デバイスは、1本またはそれ以上の縫合糸を、その端をシース抜去後に引き締めるとステッチがアクセスサイトに止血を提供するように、血管アクセスサイトに渡って配置することができる。縫合糸は、動脈切開部から手術用シースを挿入するのに先立って、または動脈切開部からのシースの抜去後に適用することができる。このデバイスは、縫合糸の配置後は、手術用シースの配置前および配置中以外は動脈切開部の一時的止血を維持することができ、また、手術用シースの抜去後、縫合糸の引き締め前以外は一時的止血を維持することができる。「頚動脈を処置するためのシステムおよび方法」と表題が付けられた米国特許出願番号12/834,869号(参照によってその全体が本明細書に取り込まれる)に、閉鎖デバイスの例が記載され、さらに、関連するさまざまな他のデバイス、システムおよび方法であって、本明細書に開示するデバイス、システムおよび方法と組み合わせ得るものが記載されている。
【0068】
この明細書が多くの特質を含む一方、これらは、請求される発明または請求されることができるものの範囲の限定と解釈されるべきではないが、むしろ、特定の実施形態に対して具体的な特徴の説明と解釈されるべきである。独立した実施形態の文脈で、この明細書で説明された特定の特徴は、単一の実施形態で組み合わせて実施することもできる。反対に、単一の実施形態の文脈で説明された様々な特徴は、独立して、またはいかなる適した副次的な組み合わせでも、複数の実施形態で実施することもできる。さらに、特徴は、特定の組み合わせで作動するように、上で説明されていてもよく、最初はそのように請求されてもよいが、請求された組み合わせからの1つ以上の特徴は、いくつかの場合、組み合わせから削除されることができ、請求された組み合わせは、副次的な組み合わせ、またはバリエーションの副次的な組み合わせに向けられてもよい。同様に、操作は、図では、特定の順番で描かれているが、これは、所望の結果を達成するために、このような操作が、示された特定の順番または連続的な順番で実行されること、または全ての示された操作が実行されることを必要とするものと理解されるべきではない。
【0069】
様々な方法およびデバイスの実施形態は、特定のバージョンを参照して、ここで詳細に説明されたが、他のバージョン、実施形態、使用方法、およびそれの組み合わせも考えられる点が評価されるべきである。それゆえに、添付の特許請求の範囲の精神および範囲は、ここに含まれた実施形態の説明に限定されるべきではない。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経カテーテル大動脈弁処置のためのシステムであって、
左もしくは右総頚動脈または左もしくは右鎖骨下動脈のアクセスサイトへの導入に適合する動脈アクセスシース、
ここで、該動脈アクセスシースは、心臓または大動脈に人工弁を送達するように構成された弁送達システムを受容するように構成された第1の腔を有し、該第1の腔は、該動脈アクセスシースの近位端において第1の開口を、また、該動脈アクセスシースの最遠位端において遠位開口を有し、該第1の腔の近位端は、止血バルブとY字型アームとを有する近位コネクタを有し、該止血バルブは、その中に前記弁送達システムを通すのに適合する大きさを有するものであり、
ここで、該動脈アクセスシースはさらに、近位端と遠位開口とを有する灌流用の腔を有し、該灌流用の腔は、使用時に、動脈を灌流するように構成されている;および
前記灌流用の腔に灌流流体の外部ソースを流体流通的に接続するように構成されたシャント、
ここで、該シャントは、灌流される動脈以外の場所から灌流流体を受け取るものであり、該灌流される動脈以外の動脈は、大腿動脈、鎖骨下動脈および頚動脈からなる群から選択される1つである、
を含んでなるシステム。
【請求項2】
前記灌流用の腔の遠位開口が放射線不透過マーカーを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記外部ソースが、大腿動脈中のシースを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
シャントが能動的なポンプと組み合わされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
シャントが直列のフィルタをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
アクセスシースが、その遠位端に閉塞バルーンさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記シャントがフィルタを含まない、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記灌流される動脈が頚動脈である、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
弁送達システムをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記弁送達システムの内部シャフトに着脱可能に搭載された人工大動脈弁をさらに含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記弁送達システムは全長が45~60cmの間である、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記シャントが、第2のY字型アームを介して前記灌流用の腔に接続している、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記シャントが、前記灌流用の腔に着脱可能に、流体流通的に接続している、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記弁送達システムは、前記動脈アクセスシースの第1の腔内に適合し、かつ
内部シャフト;
該内部シャフトと同軸に配置され前記内部シャフト上にスライド可能に配置された外部スリーブ;
前記外部スリーブに連結されたアクチュエータ、ここで該アクチュエータは、前記外部スリーブを第1の位置から人工大動脈弁が露出する第2の位置まで引き込むように駆動させることができるものである、請求項9に記載のシステム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0069
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0069】
様々な方法およびデバイスの実施形態は、特定のバージョンを参照して、ここで詳細に説明されたが、他のバージョン、実施形態、使用方法、およびそれの組み合わせも考えられる点が評価されるべきである。それゆえに、添付の特許請求の範囲の精神および範囲は、ここに含まれた実施形態の説明に限定されるべきではない。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
経カテーテル大動脈弁処置のためのシステムであって、
左もしくは右総頚動脈または左もしくは右鎖骨下動脈のアクセスサイトへの導入に適合する動脈アクセスシース、
ここで、該動脈アクセスシースは、該動脈アクセスシースを通して心臓または大動脈に人工弁を送達するように構成された弁送達システムを受容する大きさおよび形状の第1の腔を有し、該第1の腔は、該動脈アクセスシースの近位端において第1の開口を、また、該動脈アクセスシースの最遠位端において遠位開口を有し、該第1の腔の近位端は、止血バルブとY字型アームとを有する近位コネクタを有し、該止血バルブは、その中に前記弁送達システムを通すのに適合する大きさを有するものであり、
ここで、該動脈アクセスシースはさらに、近位端と遠位開口とを有する灌流用の腔を有し、該灌流用の腔は、使用時に、その遠位開口が遠位頚動脈中に配置され遠位頚動脈を灌流することができるような長さを有し、該灌流用の腔の近位端は近位コネクタを有するものである;および
前記灌流用の腔に灌流流体のソースを流体流通的に接続するシャント内腔を規定するシャント、
を含んでなるシステム。
(態様2)
灌流用の腔の遠位開口が放射線不透過マーカーを有する、態様1に記載のシステム。
(態様3)
シャントが、動脈アクセスシースの第1の腔のY字型アームに着脱可能に接続可能な第1の端、および灌流用の腔の近位端に着脱可能に接続可能な第2の端を有する、態様1に記載のシステム。
(態様4)
シャントが、動脈血ソースと灌流用の腔との間に流体通路を形成するように、動脈血ソースに着脱可能に接続可能な第1の端、および灌流用の腔の近位コネクタに着脱可能に接続可能な第2の端を有する、態様1に記載のシステム。
(態様5)
動脈血ソースが、大腿動脈中のシースを含む、態様1に記載のシステム。
(態様6)
灌流用の腔の少なくとも一部が、動脈アクセスシースの第1の腔と平行に接して配置される、態様1に記載のシステム。
(態様7)
シャントが能動的なポンプと組み合わされる、態様1に記載のシステム。
(態様8)
シャントが直列のフィルタをさらに含む、態様1に記載のシステム。
(態様9)
アクセスシースが、その遠位端に閉塞バルーンさらに含む、態様1に記載のシステム。
【外国語明細書】