(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008201
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】固体電池製造用スラリー組成物及び全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20230112BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230112BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230112BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230112BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20230112BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/052
H01M10/0562
H01B1/22 A
H01G11/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111569
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山内 健司
(72)【発明者】
【氏名】大塚 丈
【テーマコード(参考)】
5E078
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5E078DA11
5G301DA02
5G301DA23
5G301DA26
5G301DA43
5G301DD01
5G301DE01
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM12
5H029CJ02
5H029HJ00
5H029HJ10
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】アルカリ金属を含む無機粉体を含む場合であってもスラリーのゲル化を抑制することができ、また、焼結性にも優れ、低残渣の無機粉体シートを作製して、高性能の全固体電池を製造可能な固体電池製造用スラリー組成物を提供する。
【解決手段】有機溶媒、バインダー樹脂及びアルカリ金属を含む無機粉体を含有し、前記有機溶媒は、芳香族系化合物、脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記バインダー樹脂は、ポリスチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、固体電池製造用スラリー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒、バインダー樹脂及びアルカリ金属を含む無機粉体を含有し、
前記有機溶媒は、芳香族系化合物、脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記バインダー樹脂は、ポリスチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、固体電池製造用スラリー組成物。
【請求項2】
バインダー樹脂のMFR値が10g/10分以下である、請求項1に記載の固体電池製造用スラリー組成物。
【請求項3】
pHが11以上である、請求項1又は2に記載の固体電池製造用スラリー組成物。
【請求項4】
無機粉体はリチウムを含む、請求項1~3のいずれかに記載の固体電池製造用スラリー組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の固体電池製造用スラリー組成物を用いて無機粉体シートを得る工程、前記無機粉体シートを600℃以下で焼成する工程を含む、全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池製造用スラリー組成物及び全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、充放電のサイクル特性に優れるため、多くの電子機器の電源として広く用いられている。一方で、リチウムイオン電池には可燃性の有機溶媒が封入されており、液漏れや爆発等の事故が多発していることから、近年では、無機系固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池(以下「全固体電池」ともいう)が検討されている。全固体電池の製造では、無機電解質とバインダー樹脂とを有機溶媒に分散させたスラリー組成物を塗工乾燥することで均一な厚みの無機粉体シートを作製し、これらを重ねて電池を形成し、焼成することでバインダー樹脂を取り除く、湿式法と呼ばれる工程が用いられる。バインダー樹脂は、塗工によって厚みを制御したり、シートの積層の際に必要になるが、積層体中に残った状態では電気抵抗となって電池の性能に悪影響を及ぼすため、焼成により取り除く必要がある。このため、バインダー樹脂としては、脱脂性に特に優れるアクリル樹脂や、無機粉体の分散性やシート強度に優れるポリビニルアセタール樹脂が用いられている。
【0003】
また、近年、全固体電池の高性能化を実現するうえで、電解質と活物質との間での界面抵抗が問題となっており、このような問題を解決するため、例えば、特許文献1では、高抵抗部位の形成を抑制する抵抗層形成抑制コート層を有する活物質を用いることが開示されている。
また、特許文献2には、界面抵抗低減のために、アルカリ性化合物を有する酸化物粒子の表面の一部又は全部に中和生成物を有する酸化物粒子とすることが開示されている。
更に、特許文献3には、分散質としてガーネット型の固体電解質粒子と、リチウム及びホウ素を含有する化合物粒子とが分散媒に分散された固体電解質スラリーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-266728号公報
【特許文献2】特許第5825455号公報
【特許文献3】特開2021-51912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、アルカリ金属を含む化合物で活物質を被覆するため、スラリー組成物とした際、スラリーが強アルカリ性となってしまい、バインダー樹脂がゲル化してしまうという問題がある。
また、特許文献2では、酸化物粒子を中和生成物で被覆する表面処理を行っているが、このような方法でも、得られるスラリーは強アルカリ性を示し、バインダー樹脂のゲル化の問題が生じる。
更に、特許文献3では、水分によるリチウム及びホウ素を含有する化合物の分解を抑制するために、分散媒である有機溶媒中の水分量を0.007質量%以下に低減しなければならず、生産設備全体を絶乾状態で管理する必要があり、生産設備に多大なコストがかかってしまうという問題があり、より簡易に製造できるスラリーが求められている。
【0006】
本発明は、アルカリ金属を含む無機粉体を含む場合であってもスラリーのゲル化を抑制することができ、また、焼結性にも優れ、低残渣の無機粉体シートを作製して、高性能の全固体電池を製造可能な固体電池製造用スラリー組成物を提供することを目的とする。また、該固体電池製造用スラリー組成物を用いる全固体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、有機溶媒、バインダー樹脂及びアルカリ金属を含む無機粉体を含有し、前記有機溶媒は、芳香族系化合物、脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記バインダー樹脂は、ポリスチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、固体電池製造用スラリー組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、特定の有機溶媒及びバインダー樹脂を組み合わせることで、アルカリ金属を含む無機粉体を含有する構成であっても、バインダー樹脂のゲル化を抑制できることを見出した。また、このようなスラリー組成物を用いることで、焼結性にも優れた無機粉体シートを作製して、高性能の全固体電池を製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
<バインダー樹脂>
本発明の固体電池製造用スラリー組成物は、バインダー樹脂を含有する。
上記バインダー樹脂は、ポリスチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。
ポリスチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂は、主鎖の炭素が分岐構造を多数含み、300℃以上の高温環境では分岐を起点に分解が開始される。このため、分岐を有しないポリエチレン等と比べて空気雰囲気下で比較的低温で分解させることができる。
一方、アクリル樹脂やポリビニルアセタール樹脂も主鎖に分岐構造を有しているが、酸素を有するエステル基やアセタール基はアルカリ性環境ではすぐにケン化してしまうため好ましくない。
ポリスチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂はアルカリ環境下でも安定であり、加水分解する官能基を有してないため、これらの樹脂を用いたスラリーはアルカリ金属を含む無機粉体を含む構成であってもゲル化や急激な粘度変化がなく、塗工することにより無機粉体シートを製造することができる。
【0010】
上記ポリスチレン系樹脂としては、スチレン単独重合体のほか、スチレンと他のモノマーとの共重合体であってもよいが、スチレン単独重合体が好ましい。
スチレン単独重合体として、アタクチック構造を有する汎用ポリスチレン(GPPS)やシンジオタクチック構造を有するシンジオタクチックポリスチレンを挙げることができる。
また、スチレンと他のモノマーとの共重合体として、スチレン-ブタジエン共重合体である耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等を挙げることができる。
なかでもGPPSは他の樹脂成分の添加がなく、好ましく用いることができる。また、GPPSのなかでも、射出グレード、押出グレード等があるが、押出グレードが好ましい。射出グレードは分岐鎖の絡み合いを減らすため分岐構造を持たせる等の樹脂設計がなされている。分岐の少ない直鎖状のグレードを用いる方が無機粉体シートの取り扱い性が向上する。
【0011】
上記ポリスチレン系樹脂としては、具体的には、XC-315(DIC社製)、CR-3500(DIC社製)、NormalFlow(東洋エンジニアリング社製)等を用いることができる。
【0012】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体のほか、プロピレンと他のモノマーとの共重合体であってもよいが、プロピレン単独重合体が好ましい。
プロピレンと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、ブテン-1、ヘキセン-1等のα-オレフィン等が挙げられる。その重合形態は、特に限定されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体等であってもよい。
【0013】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、具体的には、ノバテックMA3H(日本ポリプロ社製)、ノバテックEA9(日本ポリプロ社製)、ノバテックFY4(日本ポリプロ社製)等を用いることができる。
【0014】
上記バインダー樹脂は、焼結性が悪化しない範囲で、エチレン変性、カルボン酸変性のポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂を用いることができる。
エチレン変性とすることで、可塑剤との親和性が高まり、無機粉体シートの巻取り性や破断伸びを向上させることができる。また、カルボン酸変性とすることで、無機粉体の分散性を向上させることができる。
上記バインダー樹脂における上記変性構造の導入率は、0モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましく、0.5%以上であることが更に好ましく、10モル%以下であることが好ましく、8モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましい。
上記バインダー樹脂における上記変性構造の導入率が上記範囲内であると、焼結性を充分に維持することができる。
【0015】
上記バインダー樹脂は、ISO-1133によるメルトフローインデックス(MFR値)が10g/10分以下であることが好ましい。
MFR値は、好ましくは8g/10分以下、より好ましくは6g/10分以下、更に好ましくは4g/10分以下であり、下限は特に限定されないが、例えば0g/10分以上である。
上記MFR値が上記上限以下であると、得られる無機粉体シートの強度を充分に高めることができ、取り扱い性に優れるとともに、より薄い無機粉体シートを作製することができる。
【0016】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物における上記バインダー樹脂の含有量は、1重量%以上であることが好ましく、2重量%以上であることがより好ましく、4重量%以上であることが更に好ましく、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、8重量%以下であることが更に好ましい。
【0017】
<有機溶媒>
本発明の固体電池製造用スラリー組成物は、有機溶媒を含有する。
上記有機溶媒は、芳香族系化合物、脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種である。
上記有機溶媒を含有することで、無機粉体シートを作製する際に、塗工性、乾燥性、無機粉末の分散性等に優れたものであることが好ましい。
【0018】
上記芳香族系化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メチルベンジルキシレン、1,4-ジメチル-2-(1-フェニルエチル)ベンゼン、エチルベンゼン等のアルキルベンゼン等の芳香族炭化水素、フェノール、ベンジルアルコール、クレゾール等の芳香族アルコール、アセトフェノン等の芳香族ケトン等が挙げられる。
上記脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、n-ヘプタン、イソペンタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン等のほか、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、α-オレフィン、イソブチレン誘導体等のオレフィン系溶剤が挙げられる。芳香族系化合物としては芳香族炭化水素及び芳香族アルコールが好ましい。
上記脂環式炭化水素としては、例えば、リモネン、ジペンテン、テルピネン、ネソール、シネン、オレンジフレーバー、テルピノレン、フェランドレン、メンタジエン、テレベン、ジヒドロサイメン、モスレン、イソテルピネン、クリトメン、カウツシン、カジェプテン、オイリメン、ピネン、テレビン、メンタン、ピナン、テルペン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等のアルキルシクロヘキサン等が挙げられる。
なかでも、トルエン、ベンジルアルコール、メチルシクロヘキサン、キシレン、エチルベンゼン、イソパラフィンが好ましい。
なお、これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記有機溶媒の沸点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上であり、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下、更により好ましくは190℃以下である。
上記沸点が上記下限以上であると、蒸発が早くなりすぎず、取り扱い性をより向上させることができる。上記沸点が上記上限以下であると、無機粉体シートへの有機溶媒の残留を少なくすることができ、シート強度を向上させることが可能となり、また、印刷性を更に向上させることができる。
【0020】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物における上記有機溶媒の含有量は、20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることが更に好ましく、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物は、上記有機溶媒以外に脂肪族アルコール等の他の溶剤を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物における上記有機溶媒の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は60重量%である。上記範囲内とすることで、塗工性、無機粉体の分散性を向上させることができる。
【0023】
<無機粉体>
本発明の固体電池製造用スラリー組成物は、無機粉体を含有する。
上記無機粉体は、アルカリ金属を含有する。
上記無機粉体を含有することで、得られる電池の特性を充分に高めることができる。
上記アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムであり、リチウムが好ましい。
【0024】
上記アルカリ金属を含有する無機粉体としては、例えば、Li2S-P2S5系材料、Li2S-GeS2系材料、Li2S-GeS2-P2S5系材料、Li2S-SiS2系材料、Li2S-B2S3系材料、Li3PO4-P2S5系材料等の硫化物材料が挙げられる。また、上記硫化物材料にハロゲン化リチウムを添加した材料(例、LiI-Li2S-P2S5、LiCl-LiI-Li2S-P2S5、LiBr-LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-B2S3等)が挙げられる。なかでも、Li2S-P2S5系材料の硫化物系無機粉体は高価な希土類を含まず、高いイオン電導性をもつため好ましい。
また、容量の大きな電池を設計するためにLiを含有するアルカリ金属酸化物からなる活物質を用いることが好ましい。具体的には、Li7La3Zr2O12等のリチウムランタンジルコニウム含有複合酸化物(LLZ系)、Alドープ-LLZO、リチウムランタンチタン含有複合酸化物(LLT系)、Alドープ-LLT系、リン酸リチウム系等の複合酸化物材料等が挙げられる。また、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物、リチウム-マンガン-ニッケル化合物等が挙げられる。
【0025】
上記無機粉体は、リチウム金属化合物でコーティングされていてもよい。
コーティングに用いるリチウム金属化合物は特に限定されず、例えば、リチウムニオブ酸、リチウムチタン酸、リチウムケイ酸、リチウムホウケイ酸、リチウムホウ酸、リチウムリン酸、リチウム亜リン酸等が挙げられる。
【0026】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物における上記無機粉体の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限が10重量%、より好ましい下限が20重量%、更に好ましい下限が30重量%、好ましい上限が90重量%、より好ましい上限が80重量%、更に好ましい上限が70重量%、更により好ましい上限が60重量%、特に好ましい上限が50重量%である。上記下限以上とすることで、充分な粘度を有し、優れた塗工性を有するものとすることができ、上記上限以下とすることで、無機粉体の分散性に優れるものとすることができる。
【0027】
<その他>
本発明の固体電池製造用スラリー組成物は、更に、可塑剤を含有していてもよい。
上記可塑剤としては、例えば、1,3-ジ-tert-ブチルトルエン、α-メチルスチレンダイマー、低分子ポリオレフィンワックス、液状ポリオレフィン等が挙げられる。また、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等の芳香族系可塑剤を用いることができる。
【0028】
上記可塑剤の沸点は240℃以上390℃未満であることが好ましい。上記沸点を240℃以上とすることで、乾燥工程で蒸発しやすくなり、成形体への残留を防止できる。また、390℃未満とすることで、残留炭素が生じることを防止できる。なお、上記沸点は、常圧での沸点をいう。
【0029】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物における上記可塑剤の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、より好ましい下限は0.5重量%、好ましい上限は3.0重量%、より好ましい上限は2.0重量%である。上記範囲内とすることで、可塑剤の焼成残渣を少なくすることができる。
【0030】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物は、更に、有機過酸化物等の焼結助剤を含有していてもよい。
上記有機過酸化物としては、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、2,3-ジメチルー2,3-ジフェニルブタン等が挙げられる。
上記有機過酸化物は、10時間半減期温度が150℃以上であることが好ましい。
【0031】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物は、更に、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
上記界面活性剤は特に限定されず、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
上記ノニオン系界面活性剤としては特に限定されないが、HLB値が10以上20以下のノニオン系界面活性剤であることが好ましい。ここで、HLB値とは、界面活性剤の親水性、親油性を表す指標として用いられるものであって、計算方法がいくつか提案されており、例えば、エステル系の界面活性剤について、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとし、HLB値を20(1-S/A)等の定義がある。具体的には、脂肪鎖にアルキレンエーテルを付加させたポリエチレンオキサイドを有するノニオン系界面活性剤が好適であり、具体的には例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等が好適に用いられる。なお、上記ノニオン系界面活性剤は、熱分解性がよいが、大量に添加すると固体電池製造用スラリー組成物の熱分解性が低下することがあるため、含有量の好ましい上限は5重量%である。
【0032】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物のpHは11以上であることが好ましい。
pHが11以上であると、得られる電池の性能を充分に高めることができる。
上記pHは、例えば、pH試験紙等を用いることで確認することができる。
【0033】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物の粘度は特に限定されないが、20℃においてB型粘度計を用いプローブ回転数を5rpmに設定して測定した場合の粘度の好ましい下限が0.1Pa・s、好ましい上限が100Pa・sである。
上記粘度を0.1Pa・s以上とすることで、ダイコート印刷法等により塗工した後、得られる無機粉体シートが所定の形状を維持することが可能となる。また、上記粘度を100Pa・s以下とすることで、ダイの塗出痕が消えない等の不具合を防止して、印刷性に優れるものとすることができる。
【0034】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物を作製する方法は特に限定されず、従来公知の攪拌方法が挙げられ、具体的には、例えば、上記バインダー樹脂、上記無機粉体、上記有機溶媒及び必要に応じて添加される可塑剤等の他の成分を3本ロール、高速撹拌機等で攪拌する方法等が挙げられる。
【0035】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物を、片面離型処理を施した支持フィルム上に塗工し、有機溶媒を乾燥させ、シート状に成形することで、無機粉体シートを製造することができる。
上記無機粉体シートは、厚みが1~20μmであることが好ましい。
【0036】
上記無機粉体シートの製造方法としては、例えば、本発明の固体電池製造用スラリー組成物をロールコーター、ダイコーター、スクイズコーター、カーテンコーター等の塗工方式によって支持フィルム上に均一に塗膜を形成する方法等が挙げられる。
【0037】
上記無機粉体シートを製造する際に用いる支持フィルムは、耐熱性及び耐溶剤性を有するとともに可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。支持フィルムが可撓性を有することにより、ロールコーター、ブレードコーターなどによって支持フィルムの表面に固体電池製造用スラリー組成物を塗布することができ、得られる無機粉体シート形成フィルムをロール状に巻回した状態で保存し、供給することができる。
【0038】
上記支持フィルムを形成する樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフロロエチレン等の含フッ素樹脂、ナイロン、セルロース等が挙げられる。
上記支持フィルムの厚みは、例えば、20~100μmが好ましい。
また、支持フィルムの表面には離型処理が施されていることが好ましく、これにより、転写工程において、支持フィルムの剥離操作を容易に行うことができる。
【0039】
本発明の固体電池製造用スラリー組成物を塗工乾燥することで無機粉体シートを製造することができる。また、上記無機粉体シートを焼成して全固体電池を製造することができる。更に、本発明の固体電池製造用スラリー組成物、無機粉体シートを、誘電体グリーンシート、電極ペーストに用いることで積層セラミクスコンデンサを製造することもできる。
【0040】
上記全固体電池を製造する方法としては、電極活物質及び電極活物質層用バインダーを含有する電極活物質層用スラリーを成形して電極活物質シートを作製する工程、前記電極活物質シートと本発明の無機粉体シートとを積層して積層体を作製する工程、及び、前記積層体を焼成する工程とを有する製造方法が挙げられる。
【0041】
上記電極活物質としては特に限定されず、例えば、ガラス粉末、セラミック粉末、蛍光体微粒子、珪素酸化物等、金属微粒子等が挙げられる。
【0042】
上記ガラス粉末は特に限定されず、例えば、酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラス等のガラス粉末や、CaO-Al2O3-SiO2系、MgO-Al2O3-SiO2系、LiO2-Al2O3-SiO2系等の各種ケイ素酸化物のガラス粉末等が挙げられる。
また、上記ガラス粉末として、SnO-B2O3-P2O5-Al2O3混合物、PbO-B2O3-SiO2混合物、BaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物、ZnO-Bi2O3-B2O3-SiO2混合物、Bi2O3-B2O3-BaO-CuO混合物、Bi2O3-ZnO-B2O3-Al2O3-SrO混合物、ZnO-Bi2O3-B2O3混合物、Bi2O3-SiO2混合物、P2O5-Na2O-CaO-BaO-Al2O3-B2O3混合物、P2O5-SnO混合物、P2O5-SnO-B2O3混合物、P2O5-SnO-SiO2混合物、CuO-P2O5-RO混合物、SiO2-B2O3-ZnO-Na2O-Li2O-NaF-V2O5混合物、P2O5-ZnO-SnO-R2O-RO混合物、B2O3-SiO2-ZnO混合物、B2O3-SiO2-Al2O3-ZrO2混合物、SiO2-B2O3-ZnO-R2O-RO混合物、SiO2-B2O3-Al2O3-RO-R2O混合物、SrO-ZnO-P2O5混合物、SrO-ZnO-P2O5混合物、BaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物等も用いることができる。なお、Rは、Zn、Ba、Ca、Mg、Sr、Sn、Ni、Fe及びMnからなる群より選択される元素である。
特に、PbO-B2O3-SiO2混合物のガラス粉末や、鉛を含有しないBaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物又はZnO-Bi2O3-B2O3-SiO2混合物等の無鉛ガラス粉末が好ましい。
【0043】
上記セラミック粉末は特に限定されず、例えば、アルミナ、フェライト、ジルコニア、ジルコン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ランタン、チタン酸ネオジウム、チタン酸ジルコン鉛、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、錫酸バリウム、錫酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、フォルステライト等が挙げられる。
また、ITO、FTO、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タングステン、ランタンストロンチウムマンガナイト、ランタンストロンチウムコバルトフェライト、イットリウム安定化ジルコニア、ガドリニウムドープセリア、酸化ニッケル、ランタンクロマイト等も使用することができる。
上記蛍光体微粒子は特に限定されず、例えば、蛍光体物質としては、ディスプレイ用の蛍光体物質として従来知られている青色蛍光体物質、赤色蛍光体物質、緑色蛍光体物質などが用いられる。青色蛍光体物質としては、例えば、MgAl10O17:Eu、Y2SiO5:Ce系、CaWO4:Pb系、BaMgAl14O23:Eu系、BaMgAl16O27:Eu系、BaMg2Al14O23:Eu系、BaMg2Al14O27:Eu系、ZnS:(Ag,Cd)系のものが用いられる。赤色蛍光体物質としては、例えば、Y2O3:Eu系、Y2SiO5:Eu系、Y3Al5O12:Eu系、Zn3(PO4)2:Mn系、YBO3:Eu系、(Y,Gd)BO3:Eu系、GdBO3:Eu系、ScBO3:Eu系、LuBO3:Eu系のものが用いられる。緑色蛍光体物質としては、例えば、Zn2SiO4:Mn系、BaAl12O19:Mn系、SrAl13O19:Mn系、CaAl12O19:Mn系、YBO3:Tb系、BaMgAl14O23:Mn系、LuBO3:Tb系、GdBO3:Tb系、ScBO3:Tb系、Sr6Si3O3Cl4:Eu系のものが用いられる。その他、ZnO:Zn系、ZnS:(Cu,Al)系、ZnS:Ag系、Y2O2S:Eu系、ZnS:Zn系、(Y,Cd)BO3:Eu系、BaMgAl12O23:Eu系のものも用いることができる。
【0044】
上記金属微粒子は特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、アルミニウム、タングステンやこれらの合金等からなる粉末等が挙げられる。
また、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等との吸着特性が良好で酸化されやすい銅や鉄等の金属も好適に用いることができる。これらの金属粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、金属錯体のほか、種々のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等を使用してもよい。
【0045】
上記電極活物質は、リチウム又はチタンを含有することが好ましい。具体的には例えば、LiO2・Al2O3・SiO2系無機ガラス等の低融点ガラス、Li2S-MxSy(M=B、Si、Ge、P)等のリチウム硫黄系ガラス、LiCoO2等のリチウムコバルト複合酸化物、LiMnO4等のリチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウムジルコニウム複合酸化物、リチウムハフニウム複合酸化物、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.5P0.5O4)、リン酸チタンリチウム(LiTi2(PO4)3)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、Li4/3Ti5/3O4、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe2(PO4)3)、Li2-SiS系ガラス、Li4GeS4-Li3PS4系ガラス、LiSiO3、LiMn2O4、Li2S-P2S5系ガラス・セラミックス、Li2O-SiO2、Li2O-V2O5-SiO2、LiS-SiS2-Li4SiO4系ガラス、LiPON等のイオン導電性酸化物、Li2O-P2O5-B2O3、Li2O-GeO2Ba等の酸化リチウム化合物、LixAlyTiz(PO4)3系ガラス、LaxLiyTiOz系ガラス、LixGeyPzO4系ガラス、Li7La3Zr2O12系ガラス、LivSiwPxSyClz系ガラス、LiNbO3等のリチウムニオブ酸化物、Li-β-アルミナ等のリチウムアルミナ化合物、Li14Zn(GeO4)4等のリチウム亜鉛酸化物等が挙げられる。
【0046】
上記電極活物質層用バインダーとしては、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂の他、(メタ)アクリル樹脂を用いることができる。
【0047】
上記電極活物質シートと本発明の無機粉体シートとを積層する方法としては、それぞれシート化した後、熱プレスによる熱圧着、熱ラミネート等を行う方法等が挙げられる。
【0048】
上記焼成する工程において、加熱温度の好ましい下限は250℃、好ましい上限は600℃である。
【0049】
上記製造方法により、全固体電池を得ることができる。
上記全固体電池としては、正極活物質を含有する正極層、負極活物質を含有する負極層、及び、正極層と負極層との間に形成された固体電解質層を積層した構造を有することが好ましい。
本発明の固体電池製造用スラリー組成物を用いて無機粉体シートを得る工程、上記無機粉体シートを600℃以下で焼成する工程を含む全個体電池の製造方法もまた本発明の1つである。
【0050】
上記積層セラミクスコンデンサを製造する方法としては、上記無機粉体シートに導電ペーストを印刷、乾燥して、誘電体シートを作製する工程、及び、前記誘電体シートを積層する工程を有する製造方法が挙げられる。
【0051】
上記導電ペーストは、導電粉末を含有するものである。
上記導電粉末の材質は、導電性を有する材質であれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅及びこれらの合金等が挙げられる。これらの導電粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記導電ペーストを印刷する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、ダイコート印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。
【0053】
上記積層セラミクスコンデンサの製造方法では、上記導電ペーストを印刷した誘電体シートを積層することで、積層セラミクスコンデンサが得られる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、アルカリ金属を含む無機粉体を含む場合であってもスラリーのゲル化を抑制することができ、また、焼結性にも優れ、低残渣の無機粉体シートを作製して、高性能の全固体電池を製造可能な固体電池製造用スラリー組成物を提供することができる。また、該固体電池製造用スラリー組成物を用いる全固体電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0056】
(実施例1)
リービッヒ冷却管、温度調整可能な油槽、攪拌羽根を設置したセパラブルフラスコに、バインダー樹脂としてポリスチレン樹脂(ポリスチレンホモポリマー、DIC社製、XC-315、MFR値3.2g/10分)100重量部と、有機溶媒としてトルエン(沸点110℃)1000重量部とを加えた。その後、油槽を昇温して80℃で6時間攪拌してポリスチレン樹脂を溶解させた。
減圧ポンプ、溶媒トラップをセットし、減圧ポンプで1時間処理して、微量に含まれる未反応モノマーや水分を含有したトルエンを回収して、樹脂固形分が12重量%であるポリスチレン樹脂溶液を得た。なお、樹脂固形分は乾燥法により評価した。
高速撹拌機用のポリ容器に、得られたポリスチレン樹脂溶液33.3重量部(樹脂4重量部)を秤取し、表1の配合となるように有機溶媒を追加し、可塑剤として1,3-ジ-tert-ブチルトルエンを添加し、密閉状態の容器を高速回転させて、樹脂溶液を均一に混合させた。
得られた樹脂溶液に導電性無機粉体としてLi7La3Zr2O12(豊島製作所社製LLZ)を40重量部添加し、更に容器を密閉状態で高速回転させて無機粉体を分散させ、スラリー組成物を作製した。
【0057】
(実施例2~6、比較例1、3~4)
バインダー樹脂、有機溶媒、可塑剤の種類及び配合を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
なお、有機溶媒、バインダー樹脂、可塑剤としては、以下のものを用いた。
<有機溶媒>
ベンジルアルコール(沸点205℃)
エチルシクロヘキサン(沸点160℃)
キシレン(沸点139℃)
エチルベンゼン(沸点136℃)
液状パラフィンNAS-3(沸点195℃)、日油社製
酢酸ブチル(沸点126℃)
<バインダー樹脂>
CR-3500:ポリスチレンホモポリマー、DIC社製
NormalFlow:ポリスチレンホモポリマー、東洋エンジニアリング社製
ノバテックFY4:ポリプロピレンホモポリマー、日本ポリプロ社製
ノバテックEA9:ポリプロピレンホモポリマー、日本ポリプロ社製
ノバテックMA3H:ポリプロピレンホモポリマー、日本ポリプロ社製
エスレックBM-S:ポリビニルアセタール樹脂、積水化学社製
HighFlow:ポリスチレンホモポリマー、東洋エンジニアリング社製
<可塑剤>
α-メチルスチレンダイマー
ジオクチルフタレート
エクセレックス07500:液状ポリオレフィン、三井化学社製
ユニトールP-801:水酸基変性ポリオレフィン、三井化学社製
ルーカントHC-40:エチレン-α-オレフィンコポリマー、三井化学社製
ジブチルフタレート
【0058】
(比較例2)
冷却管、温度調整可能な油槽、窒素導入管、攪拌羽根を設置したセパラブルフラスコに、モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)100重量部と、有機溶媒として酢酸ブチル100重量部とを加えた。油槽を80℃に設定し、重合開始剤としてパーロイルL(日油社製)を添加してモノマーを重合させた。乾燥法を用いて樹脂固形分を評価したところ、モノマーがほぼ100%重合してポリマーとなっていることを確認した。酢酸ブチルを600重量部追加して希釈した後、実施例1と同様に微量に含まれる未反応モノマーや水を含有した酢酸ブチルを回収して、樹脂固形分が15重量%である樹脂溶液を得た。
高速撹拌機用のポリ容器に、樹脂溶液40重量部(6重量部)を秤取し、表1の配合となるように有機溶媒を追加し、可塑剤としてジブチルフタレートを添加し、密閉状態の容器を高速回転させて、樹脂溶液を均一に混合させた。
得られた樹脂溶液に導電性無機粉体としてLi7La3Zr2O12(豊島製作所社製LLZ)を40重量部添加し、更に容器を密閉状態で高速回転させて無機粉体を分散させ、スラリー組成物を作製した。
【0059】
<評価>
実施例、比較例で用いたバインダー樹脂、実施例、比較例で得られたスラリー組成物について以下の評価を行った。結果を表1及び2に示した。
【0060】
(1)MFR値
ISO1133に準拠してMFRを測定した。なお、ISO1133では樹脂の種類によって測定条件が設定されており、以下の通りの測定条件にて測定を行った。
ポリスチレン樹脂:温度200℃、荷重5kg
ポリプロピレン樹脂:温度230℃、荷重16kg
ポリビニルアセタール樹脂:温度150℃、荷重5kg
ポリメタクリル酸メチル:温度230℃、荷重3.8kg
【0061】
(2)スラリー組成物のpH
得られたスラリー組成物をスポイトでpH試験紙(アドバンテック社製)に塗布し、変色度からスラリー組成物のpHを測定し、以下の基準で評価した。なお、pHが低い場合、スラリー組成物に含まれるアルカリ金属の量が少なく、得られる電池性能が劣っているといえる。
〇:pH11以上で、スラリー組成物が強アルカリ性であった。
×:pH11未満で、スラリー組成物が強アルカリ性ではなかった。
【0062】
(3)スラリー組成物のゲル化
得られたスラリー組成物を含む高速撹拌機用のポリ容器を露点温度-30℃に調整した室内で開封し、スパチュラでかき回して、スラリーのゲル化状態を確認し、以下の基準で評価した。
〇:スラリーは流動性を持ち、凝固物等が見られなかった。
△:スラリーは流動性を持っていたが、1時間以内に凝固した。
×:スラリーは容器を開けた時点でゲル化していた。
【0063】
(4)スラリー組成物の印刷性
「(3)スラリー組成物のゲル化」において流動性を示したスラリー組成物について、露点-30℃のドライルーム内でガラス板上に固定したテフロン(登録商標)シート上にアプリケーターを用いて塗工し、120℃に設定した送風オーブンで30分間乾燥させ、無機粉体シートを作製し、以下の基準で評価した。印刷性に優れる場合、均一なシートが作製でき、高性能の全固体電池を作製できるといえる。
〇:塗工面が平滑で緻密なシートが作製できた。
△:カスレやハジキ、にじみが発生する等の不具合が見られた。
×:流動性を示さず、印刷することができなかった。又は、流動性が悪く、厚み一定の塗工ができなかった。
【0064】
(5)無機粉体シートの取り扱い性
「(4)スラリー組成物の印刷性」で得られた無機粉体シートからテフロン(登録商標)シートを剥がし、ピンセットで無機粉体シートを焼成用のセラミック板に乗せ、シートの状態を目視にて確認し、以下の基準で評価した。取り扱い性に優れる場合、電極を作製しやすくなり、電池を作製しやすいといえる。
〇:試験片に割れヒビが見られなかった。
△:多少の割れが確認できたが、シート形状を保っており、焼成試験を行うことが可能であった。
×:スラリーが流動性を示さず、無機粉体シートを作製できなかった。又は、シートが細かく割れて粉々になってしまった。
【0065】
(6)無機粉体シートの焼結性
「(5)無機粉体シートの取り扱い性」において、セラミック板の上に乗せた状態の無機粉体シートを電気炉で焼成した。焼成条件は、600℃で30分間脱脂後、1000℃で5時間保持して焼成を行った。焼成後のシート断面を電子顕微鏡にて観察し、以下の基準で評価した。焼結性が高い場合、均一で不純物の少ないシートを作製でき、より高性能の全固体電池を作製できるといえる。
〇:ボイドや焼成残渣(煤)が無く、緻密な無機粉焼結体が得られた。
△:一部に焼成残渣(煤)が見られた。
×:無機粉体シートが作製できなかった。又は、ボイドや焼成残渣(煤)による空隙が所々に見られた。
【0066】
【0067】
【0068】
比較例1及び2ではいずれもゲル化や急激な増粘が発生し、良好なシートを作製できなかった。比較例3ではゲル化による流動性の低下は見られなかったが、印刷して乾燥させたシートは細かく割れてシート形状を維持することができなかった。更に、比較例4ではゲル化による流動性の低下は見られなかったものの、印刷時にアプリケーターの筋が消えず、皮膜にハジキが発生し、焼結後にボイドや空隙ができていた。これらのスラリー組成物を用いた場合、シートを緻密に積層することができず、高性能の全固体電池を作製できない。一方、実施例1~6では、アルカリ金属を多量に含む場合でも、スラリー組成物のゲル化を抑制でき、印刷性も良好であった。また、一部で多少の割れが確認できたが、焼結後はボイドや煤がなく、緻密なシートを作製することができた。このようなスラリー組成物を用いた場合、シートを緻密に積層することができ、より高性能の全固体電池を作製できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、アルカリ金属を含む無機粉体を含む場合であってもスラリーのゲル化を抑制することができ、また、焼結性にも優れ、低残渣の無機粉体シートを作製して、高性能の全固体電池を製造可能な固体電池製造用スラリー組成物を提供することができる。また、該固体電池製造用スラリー組成物を用いる全固体電池の製造方法を提供することができる。