(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082094
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】腎代替療法の管理におけるインスリン様増殖因子結合タンパク質7および組織メタロプロテアーゼ阻害物質2の使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
G01N33/53 D
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052930
(22)【出願日】2023-03-29
(62)【分割の表示】P 2020511871の分割
【原出願日】2018-05-07
(31)【優先権主張番号】62/502,728
(32)【優先日】2017-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511053023
【氏名又は名称】アスチュート メディカル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】マクファーソン,ポール
(72)【発明者】
【氏名】カンプフ,ジェームズ,パトリック
(57)【要約】 (修正有)
【課題】腎代替療法を管理するための方法および組成物を提供する。
【解決手段】IGFBP7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)の尿中濃度および/またはTIMP-2(組織メタロプテロテアーゼ阻害物質2)の尿中濃度から決定されるリスクスコアを、患者から入手して決定し、患者の処置を管理するために使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本出願の明細書に記載される発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全ての表、図面、および特許請求の範囲を含む全体が本明細書中参照によって組み込まれている、2017年5月7日に出願の米国特許仮出願第62/502,728号の利益を請求する。
【背景技術】
【0002】
以下の本発明の背景の論述は、単に、読み手の本発明の理解を支援するために提供されており、本発明に対する従来技術を記載または構成することを認めるものではない。
【0003】
腎臓は、身体からの水および溶質の排泄に関与している。この機能として、酸-塩基の均衡の維持、電解質の濃度の制御、血液量の制御、および血圧の制御が挙げられる。よって、損傷および/または疾患を介した腎機能の喪失は、かなりの疾病率および死亡率をもたらす。腎損傷の詳細な論述は、全体が本明細書中参照により組み込まれているHarrison’s Principles of Internal Medicine, 17th Ed., McGraw Hill, New York, pages 1741-1830に提供されている。腎臓の疾患および/または損傷は、急性または慢性であり得る。急性および慢性の腎疾患は、以下のように記載されている(全体が本明細書中参照により組み込まれているCurrent Medical Diagnosis & Treatment 2008, 47th Ed, McGraw Hill, New York, pages 785-815出典):「急性腎不全は、数時間~数日間にわたる腎機能の悪化であり、血中の窒素性廃棄物(尿素窒素など)およびクレアチニンの滞留をもたらす。これら物質の滞留は、高窒素血症と呼ばれる。慢性腎不全(慢性腎疾患)は、数か月~数年にわたる腎機能の異常な喪失からもたらされる。」
【0004】
急性腎不全(ARF、急性腎障害またはAKIとしても知られている)は、急激な(通常約48時間~1週間以内に検出される)糸球体濾過の低下である。この濾過能の喪失は、通常腎臓により排泄される窒素性廃棄産物(尿素およびクレアチニン)および非窒素性廃棄産物の滞留、尿量の低減、またはその両方をもたらす。ARFの約5%は入院を併発し、4~15%は心肺バイパス手術を併発し、最大30%が集中治療室への入院を併発することが報告されている。ARFは、因果関係において、腎前性、腎実質性、または腎後性に分類され得る。さらに腎実質性疾患は、糸球体、尿細管、間質、および血管の異常にさらに分割され得る。ARFの主な原因を、以下の表に記載する。これは、全体が本明細書中参照により組み込まれているMerck Manual, 17th ed., Chapter 222から出典されている。
【0005】
【0006】
AKIを定義および検出するために一般に記録される基準は、急激な(通常約2~7日以内または入院期間内の)血清クレアチニンの上昇である。AKIを定義および検出するための血清クレアチニンの上昇の使用は良好に確立されているが、血清クレアチニンの上昇の大きさおよびAKIを定義するためにこれを測定する時間は、刊行物によってかなりばらつきがある。従来では、血清クレアチニンの比較的大きな増加、たとえば100%、200%、2mg/dLを超える値に対する少なくとも100%の増加、および他の定義が、AKIを定義するために使用されていた。しかしながら、近年では、AKIを定義するために、比較的小さな血清クレアチニンの上昇を使用する傾向がある。血清クレアチニンの上昇、AKI、および関連する健康のリスクの間の関係は、その中に列挙されている参照文献を含み全体が参照により本明細書中に組み込まれている、Praught and Shlipak, Curr Opin Nephrol Hypertens 14:265-270, 2005 and Chertow et al, J Am Soc Nephrol 16: 3365-3370, 2005に概説されている。これら刊行物に記載されるように、現在、AKI(急性の腎機能悪化:acute worsening renal function)ならびに死亡および他の有害な予後のリスクの増大は、血清クレアチニンの非常に小さな増加に関連することが知られている。これらの増加は、相対的な値(パーセント)または名目上の値として決定され得る。損傷前の値と比較して20%程度の小さな血清クレアチニンの相対的な増加は、AKI(acutely worsening renal function)および健康リスクの増加を表すことが報告されているが、AKIおよび健康リスクの増加を定義するための、より一般的に報告される値は、少なくとも25%の相対的な増加である。0.3mg/dL、0.2mg/dL、またはさらには0.1mg/dL程度の小さな名目上の増加は、WRF(腎機能の悪化:worsening renal function)および死亡のリスクの増加を表すことが報告されている。たとえば2日間、3日間、7日間、または患者が入院するかもしくは集中治療室に入ると定義される様々な期間の範囲にある、様々な、血清クレアチニンがこれら閾値まで上昇するまでの期間が、AKIを定義するために使用されている。これら研究は、WRFまたはAKIでは特定の閾値である血清クレアチニンの上昇(またはこの上昇に関する期間)が存在しないことを表しており、むしろ、血清での度合の増加に伴いリスクが持続的に増加することを表している。
【0007】
臨床試験および臨床診療においてAKIを定義するために血清クレアチニンを使用するための一元管理した分類システムに関するコンセンサスに至るための試みにおいて、全体が参照により本明細書中に組み込まれているBellomoらのCrit Care. 8(4):R204-12, 2004は、AKI患者を層別化するために以下の分類を提案している:
「リスク」:ベースラインと比較して1.5倍増加した血清クレアチニン、または6時間にわたる尿産生<0.5ml/kg体重/hr;
「損傷」:ベースラインと比較して2.0倍増加した血清クレアチニン、または12時間にわたる尿産生<0.5ml/kg/hr;
「不全」:ベースラインと比較して3.0倍増加した血清クレアチニン、または24時間にわたるクレアチニン>355μmol/l(44超の上昇を伴う)もしくは0.3ml/kg/hr未満の尿量、または少なくとも12時間にわたる無尿;
これに2つの臨床転帰が含まれる:
「喪失」:4週間超の腎代替療法の必要性が続くこと。
「ERSD」:末期の腎疾患-3ケ月超の透析が必要。
【0008】
これら基準は、RIFLE基準と呼ばれており、腎臓の状態を分類するための有用な臨床ツールを提供する。それぞれの全体が本明細書中参照により組み込まれているKellum, Crit. Care Med. 36: S141-45, 2008およびRicci et al., Kidney Int. 73, 538-546, 2008に論述されるように、RIFLE基準は、多くの研究で検証されているAKIの統一された定義を提供する。
【0009】
さらに最近では、その全体が本明細書中参照により組み込まれているMehta et al., Crit. Care 11:R31(doi:10.1186.cc5713), 2007は、以下の、RIFLEから改変した、AKI患者を層別化するための同様の分類を提案している:
「ステージI」:0.3mg/dL以上(≧26.4μmol/L)の血清クレアチニンの増加、またはベースラインと比較して150%(1.5倍)以上の増加、または6時間超にわたる1時間あたり0.5mL/kg未満の尿量;
「ステージII」:ベースラインと比較して200%超(2倍超)の血清クレアチニンの増加、または12時間超にわたる1時間あたり0.5mL/kg未満の尿量;
「ステージIII」:ベースラインと比較して300%超(3倍超)の血清クレアチニンの増加、または少なくとも44μmol/Lの急性的な増加を併発する血清クレアチニン≧354μmol/L、または24時間にわたる1時間あたり0.3mL/kg未満の尿量、または12時間にわたる無尿。
【0010】
同様に、Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Acute Kidney Injury Work Group. KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury, Kidney inter., Suppl. 2012; 2: 1-138は、RIFLEおよびAKINの両方を表しており、以下のAKIステージのガイドラインを提供する:
【表2】
【0011】
CIN Consensus Working Panel(その全体が本明細書中参照により組み込まれているMcCollough et al, Rev Cardiovasc Med. 2006;7(4):177-197)は、造影剤誘発性腎障害(Contrast induced nephropathy)(AKIの一種である)を定義するために25%の血清クレアチニンの上昇を使用する。様々なグループが、AKIを検出するために、血清クレアチニンを使用するためのわずかに異なる基準を提案しているが、0.3mg/dLまたは25%などの血清クレアチニンの小さな変化が、AKI(worsening renal function)を検出するために十分であること、血清クレアチニンの変化の大きさが、AKIの重症度および死亡率のリスクの指標であることは、一致している。
【0012】
対照的に、慢性腎疾患(CKD)は、不可逆的なネフロンの喪失を特徴とする異なる臨床的な実体である。進行性の腎機能の低下が数か月または数年にわたり観察され、この症状は、慢性的な損傷がはるかに進行するまでは、症状がある場合であってもわずかしかない。従来より、CKDは、糸球体硬化症および尿細管間質性線維症の同時発症を特徴とする。ポドサイトの損傷および喪失は、多くの糸球体の病理機序が糸球体硬化症をもたらすように収束する、鍵となる機序として同定されている。メサンギウム細胞は、糸球体における主要なマトリックス形成細胞であり、また糸球体硬化プロセスにとって極めて重要であり、活性化(α平滑筋アクチン陽性)間質性の線維芽細胞または筋線維芽細胞は、尿細管間質性線維症の発症に重要である。慢性腎不全では、尿細管が損傷して水分が失われる。AKIでみられる尿量減少(oliguia)とは対照的に、CKDは、通常、多尿(尿量の増加)をもたらす。
【0013】
Merck Manualは、急性腎不全と慢性腎疾患との間を、これら症状は異なる治療を用いる異なる病態であるため、区別する必要があることを論述している(特に、1846ページの右側のカラム、セクション「Diagnosis」の最初の文章である“the first step is to determine whether the renal failure is acute, chronic or super-imposed on chronic,および1847ページの表222-4の“Classification of Acute Versus Chronic Renal Failureを参照)。近年、見込みのある、多施設での研究において、AKIに関する2つの新規のバイオマーカーが、重篤な成年患者の発見コホートにおいて同定され、その後、臨床アッセイを使用して検証され、不均一な、重篤な患者の独立した検証コホートにおいて、既存のAKIのマーカーと比較された。尿中のインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)および組織メタロプロテアーゼ阻害物質2(TIMP-2)は、AKIに関するリスクを検出するための既存の方法と直接比較する際に改善した性能特性を有するだけでなく、臨床データにわたりさらなる有意な情報をも提供する、強力なマーカーである。IGFBP7およびTIMP-2は、それぞれ、非常に早期の細胞損傷の間のG1細胞周期の停止の現象に関与していることが注目すべき点であり、腎臓の尿細管細胞は、実験的な敗血症または虚血由来の損傷後に短期間のG1細胞周期の停止に入ることが示されている。たとえばYang et al., J. Infect. 58:459-464, 2009;Witzgall et al., J. Clin. Invest. 93:2175-2188, 1994を参照されたい。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、患者に腎代替療法の使用を誘導するための方法および組成物を提供することである。
【0015】
第1の態様では、本発明は、腎代替療法の必要のある患者を管理するための方法であって、
(i)IGFBP7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)の尿中濃度、(ii)組織メタロプロテアーゼ阻害物質2(TIMP-2)(tissue inhibitor of metalloproteinase 2)の尿中濃度、または(iii)IGFBP7の尿中濃度およびTIMP-2の尿中濃度の複合であるリスクスコアを、前記対象から得た尿サンプル中のIGFBP7の濃度および/またはTIMP-2の濃度を測定することにより計算して、前記リスクスコアを提供するステップと、
前記リスクスコアを、リスクスコアの閾値と比較して、前記リスクスコアが前記リスクスコアの閾値を超える場合、前記対象を、腎臓のストレスを有すると決定する、ステップと、
前記比較のステップが、前記対象が腎臓のストレスを有することを表す場合に、前記対象を、間欠的血液透析での処置と比較して少ない腎臓のストレスをもたらす腎代替療法の方法で前記対象を処置するステップと
を含む、方法に関する。
【0016】
特定の実施形態では、間欠的血液透析での処置と比較して少ない腎臓のストレスをもたらす腎代替療法の方法は、持続的腎代替療法または長期間の間欠的腎代替療法(PIRRT)である。PIRRTは、本明細書中使用される場合、SLEDD(sustained low efficiency (daily) dialysis)、SLEDD-f(sustained low efficiency (daily) diafiltration)、EDD(extended daily dialysis)、SCD(slow continuous dialysis)、go slow dialysis、およびAVVH(accelerated venovenous hemofiltration)を含む。
【0017】
特定の実施形態では、リスクスコアは、関数計算におけるIGFBP7およびTIMP-2の各濃度を含む数学関数の使用により、計算される。例として、リスクスコアは、IGFBP7の濃度およびTIMP-2の濃度の乗算により、計算され得る。好ましい実施形態では、リスクスコアは、([TIMP-2]×[IGFBP7])/1000(式中、IGFBP7の濃度およびTIMP-2の濃度は、それぞれng/mLで測定される)である。
【0018】
特定の例示的な実施形態では、リスクスコアは、([TIMP-2]×[IGFBP7])/1000(式中、IGFBP7の濃度およびTIMP-2の濃度は、それぞれng/mLで測定され、閾値は、約2.0である)。他の例示的な実施形態では、リスクスコアは、ng/mLで測定された[TIMP-2]であり、この閾値は約12.0である。さらなる他の例示的な実施形態では、リスクスコアは、ng/mLで測定された[IGFBP7]であり、この閾値は、約150.0である。
【0019】
2つの集団を区別するための特定の試験の性能は、ROC解析を使用して確立することができる。たとえば、腎臓の状態の1つ以上の将来的な変化を罹患しやすい「第1の」下位集団と、罹患しにくい「第2の」下位集団とから確立されたROC曲線を使用して、ROC曲線を計算することができ、この曲線下面積は、この試験の質の測定値を提供する。好ましくは、本明細書中記載される試験は、0.5超、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、および最も好ましくは少なくとも0.95のROC曲線面積を提供する。
【0020】
特定の態様では、測定したIGFBP7および/またはTIMP-2の濃度は、連続変数として処理され得る。たとえば、いずれかの特定の濃度を、対応する、対象の腎機能の将来的な低減の確率、損傷の発症、分類などに変換することができる。さらなる別の代替的な態様では、「第1の」下位集団(腎臓の状態の1つ以上の将来的な変化、損傷の発症、分類などにかかりやすい)およびこれら素因を有さない「第2の」下位集団などの「ビン」に、対象の集団を分ける際の、許容可能なレベルの特異度および感度を提供できる閾値が、提供される。閾値は、以下の試験の正確性の尺度のうちの1つ以上により、第1の集団および第2の集団に分けるために選択される:
1超、好ましくは少なくとも約2以上または約0.5以下、より好ましくは少なくとも約3以上または約0.33以下、さらにより好ましくは少なくとも約4以上または約0.25以下、さらにより好ましくは少なくとも約5以上または約0.2以下、および最も好ましくは少なくとも約10以上または約0.1以下のオッズ比;
対応する、0.2超、好ましくは約0.3超、より好ましくは約0.4超、さらにより好ましくは少なくとも約0.5、さらにより好ましくは約0.6、さらにより好ましくは約0.7超、さらにより好ましくは約0.8超、より好ましくは約0.9超、および最も好ましくは約0.95の感度を伴う、0.5超、好ましくは少なくとも約0.6、より好ましくは少なくとも約0.7、さらにより好ましくは少なくとも約0.8、さらにより好ましくは少なくとも約0.9、最も好ましくは少なくとも約0.95の特異度;
対応する、0.2超、好ましくは約0.3超、より好ましくは約0.4超、さらにより好ましくは少なくとも約0.5、さらにより好ましくは約0.6、さらにより好ましくは約0.7超、さらにより好ましくは約0.8超、より好ましくは約0.9超、および最も好ましくは約0.95超の特異度を伴う、0.5超、好ましくは少なくとも約0.6、より好ましくは少なくとも約0.7、さらにより好ましくは少なくとも約0.8、さらにより好ましくは少なくとも約0.9、および最も好ましくは少なくとも約0.95の感度;
少なくとも約75%の特異度と組み合わせた少なくとも約75%の感度;
1超、少なくとも約2、より好ましくは少なくとも約3、さらにより好ましくは少なくとも約5、および最も好ましくは少なくとも約10の陽性尤度比(「感度/(1-特異度)として計算」);または
1未満、約0.5以下、より好ましくは約0.3以下、および最も好ましくは約0.1以下の陰性尤度比((1-感度)/特異度として計算)。
上記尺度のいずれかの文脈における用語「約」は、所定の測定値の±5%を表す。
【0021】
また、対象の腎臓状態を評価するために、複数の閾値が使用され得る。たとえば、腎臓状態の1つ以上の将来的な変化、損傷の発症、分類などにかかりやすい「第1の」下位集団、およびこれらにかかりにくい「第2の下位集団」を、単一のグループに組み合わせることができる。次に、このグループは、3つ以上の均等な部分(細分化の数に応じた、三分位値、四分位値、五分位値など)に細分される。どの細分に対象が入るかに基づき、オッズ比が、対象に割り当てられる。三分位値を検討する場合、最低または最高の三分位値が、他の細分の比較のための基準として使用され得る。この基準の細分は、1のオッズ比が割り当てられる。第2の三分位値は、第1の三分位値と比較したオッズ比を割り当てられる。すなわち、第2の三分位値にある対象は、第1の三分位値の対象と比較して、腎臓状態の1つ以上の将来的な変化を3倍罹患しやすいとされ得る。また第3の三分位値は、第1の三分位値と比較したオッズ比である。
【0022】
特定の実施形態では、IGFBP7の尿中濃度および/またはTIMP-2の尿中濃度は、対象から得られた尿サンプルをイムノアッセイ器具に導入することにより測定され;このイムノアッセイ器具は、固相と、固相の第1の位置に固定したIGFBP7抗体および前記固相の第2の位置に固定したTIMP-2抗体のうちの1つまたは両方とを含み;前記器具は、前記第1の位置および前記第2の位置のうちの1つまたは両方と前記尿サンプルを接触させる。この器具は、第1の位置に固定したIGFBP7抗体に結合するIGFBP7の量を測定し、これから尿サンプル中のIGFBP7の濃度を決定し;かつ/または前記器具は、第2の位置に固定したTIMP-2抗体に結合するTIMP-2の量を測定し、これから尿サンプル中のTIMP-2の濃度を決定する。
【0023】
特定の実施形態では、上記器具は、任意選択で、尿サンプル中のIGFBP7の濃度およびTIMP-2の濃度をリスクスコアに数学的に組み合わせ;任意選択で、上記器具は、上記リスクスコアをヒトが読み取り可能な形態で記録する。
【0024】
サンドイッチイムノアッセイが好ましい。これら実施形態では、患者から得られた尿サンプルは、検出可能な標識とコンジュゲートした第2のIGFBP7抗体および検出可能な標識とコンジュゲートした第2のTIMP-2抗体とさらに接触され得る;ここで第1のサンドイッチ複合体が、IGFBP7抗体、尿サンプルに存在するIGFBP7、および第2のIGFBP7の間で形成され;第2のサンドイッチ複合体が、TIMP-2抗体、尿サンプルに存在するTIMP-2、および第2のTIMP-2抗体の間で形成され;IGFBP7抗体に結合するIGFBP7の量は、第1の位置で結合した検出可能な標識を検出する器具により決定され;TIMP-2抗体に結合するTIMP-2の量は、第2の位置で結合した検出可能な標識を検出する器具により決定される。
【0025】
用語「約」は、本文書全体で使用される場合、所定の値の±10%を表す。
【0026】
計算したリスクスコアに基づき患者を管理することは、間欠的血液透析での処置と比較して腎臓のストレスを低減する腎代替療法の方法で対象を処置するステップを含む。様々な実施形態では、患者は、集中治療室の患者であり;患者は、急性腎不全を有しており、;患者は敗血症を有しており;かつ/または患者は、外科手術から回復中である。
【0027】
腎代替療法の使用は、当該分野で理解されており、本明細書中参照により組み込まれている以下の刊行物のうちの1つ以上に記載されるように、行われ得る:
Tolwani AJ, Wheeler TS, Wille KM. Sustained low-efficiency dialysis. Contrib Nephrol 2007; 156:320.
Naka T, Baldwin I, Bellomo R, et al. Prolonged daily intermittent renal replacement therapy in ICU patients by ICU nurses and ICU physicians. Int J Artif Organs 2004; 27:380.
Bellomo R, Baldwin I, Fealy N. Prolonged intermittent renal replacement therapy in the intensive care unit. Crit Care Resusc 2002; 4:281.
Marshall MR, Golper TA, Shaver MJ, Chatoth DK. Hybrid renal replacement modalities for the critically ill. Contrib Nephrol 2001; :252.
Marshall MR, Golper TA. Low-efficiency acute renal replacement therapy: role in acute kidney injury. Semin Dial 2011; 24:142.
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Ricci Z, Ronco C, D’Amico G, et al. Practice patterns in the management of acute renal failure in the critically ill patient: an international survey. Nephrol Dial Transplant 2006; 21:690.
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Kellum and Ronco, The 17th Acute Disease Quality Initiative International Consensus Conference: Introducing Precision Renal Replacement Therapy. Blood Purif 2016;42:221-223。
【0028】
健康状態、特に腎臓の充足性のさらなる臨床兆候を、本明細書中記載される方法において、IGFBP7および/またはTIMP-2の測定値と組み合わせてもよい。このような臨床兆候は、次のうちの1つ以上を含み得る:患者のベースラインの尿量の値、患者の血清クレアチニンのベースラインの変化、人口統計の情報(たとえば体重、性別、年齢、人種)、病歴(たとえば家族歴、外科手術の種類、既存の疾患、たとえば、動脈瘤、うっ血性心不全、子癇前症、子癇、真性糖尿病、高血圧、冠動脈疾患、タンパク尿症、腎不全、または敗血症、曝露する毒素の種類、たとえばNSAID、シクロスポリン、タクロリムス、アミノグリコシド、ホスカルネット、エチレングリコール、ヘモグロビン、ミオグロビン、イホスファミド、重金属、メトトレキサート、放射線不透過性造影剤、またはストレプトゾトシンなど)、他の臨床変数(たとえば血圧、体温、呼吸速度)、リスクスコア(APACHEスコア、PREDICTスコア、UA/NSTEMIのTIMIリスクスコア、フラミンガムリスクスコア、Thakarら(J. Am. Soc. Nephrol. 16: 162-68, 2005)、Mehranら(J. Am. Coll. Cardiol. 44: 1393-99, 2004)、Wijeysunderaら(JAMA 297: 1801-9, 2007)、GoldsteinおよびChawla(Clin. J. Am. Soc. Nephrol. 5: 943-49, 2010)、またはChawlaら(Kidney Intl. 68: 2274-80, 2005)のリスクスコア)、糸球体濾過率、推定糸球体濾過率、尿産生率、血清中または血漿中のクレアチニンの濃度、尿中クレアチニン濃度、ナトリウムの部分排泄率、尿中ナトリウムの濃度、血清中または血漿中クレアチニン対する尿中クレアチニンの比、尿比重、尿浸透圧、血漿中尿素窒素に対する尿中尿素窒素の比、血漿中のクレアチニンに対するBUNの比、尿中ナトリウム/(尿中クレアチニン/血漿中クレアチニン)として計算される腎不全指数、血清中または血漿中好中球ゼラチナーゼ(NGAL)の濃度、尿中のNGALの濃度、血清中または血漿中のシスタチンCの濃度、血清中または血漿中の心筋トロポニンの濃度、血清中または血漿中のBNPの濃度、血清中または血漿中のNTproBNPの濃度、および血清中または血漿中のproBNPの濃度。IGFBP7および/またはTIMP-2のアッセイ結果と組み合わせられ得る他の腎機能の測定は、本明細書中の以下、ならびにそれぞれの全体が参照により本明細書中に組み込まれているHarrison’s Principles of Internal Medicine, 17th Ed., McGraw Hill, New York, pages 1741-1830、およびCurrent Medical Diagnosis & Treatment 2008, 47th Ed, McGraw Hill, New York, pages 785-815に記載されている。
【0029】
本明細書中記載される方法は、患者に関する腎代替療法の開始時に使用することができ、かつ/または進行中の腎代替プロトコルのためのモニタリングツールとして使用することができる。よって特定の態様では、患者は、リスクスコアを提供するための尿サンプルを対象から得る時点で、腎代替療法を受けている。
【0030】
進行中の腎代替療法をモニタリングするためにリスクスコアを使用する特定の態様では、リスクスコアは、閾値と比較されてもよく、このリスクスコアが上記閾値を超える場合、進行中の腎代替療法により対象から除去される体液量の速度または量が低減し得るか、かつ/または前記進行中の腎代替療法による溶質のクリアランス速度が低減し得る。多くの場合、このクリアランス速度は、単位時間あたりの体外循環路による排出産物および毒素が除去された血液の量を同定する、「用量(dose)」の観点から記載されている。これは実際に、代表的な溶質の除去の速度として測定される。尿素は、用量を定量化するために最も一般的に使用される溶質である。Neri et al., Nomenclature for renal replacement therapy in acute kidney injury: basic principles. Critical Care 2016, 20: 318(本明細書中参照により組み込まれる)。
【0031】
例として、モニタリングは、間欠的血液透析から持続的腎代替療法または長期間の間欠的腎代替療法への変換を含み得る。あるいはこれは、たとえば可変性の透析液ナトリウムのプロファイル(160~140meq/L)、可変性の限外濾過率、長期間の処置期間または様々な頻度と組み合わせた37℃未満への透析温度の設定を使用することにより、進行中の腎代替療法に関連する血圧低下作用を低減する腎代替プロトコルのパラメータを変えることまたは用量を低減させることを含み得、安全な処置を可能にし得る。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本文書の目的のため、以下の定義を適用する:
【0033】
本明細書中使用される場合、「腎機能に対する損傷」は、急激な(14日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは72時間以内、およびさらにより好ましくは48時間以内の)腎機能の測定における測定可能な低下である。このような損傷は、たとえば糸球体濾過率または推定GFRの減少、尿量の低下、血清クレアチニンの増加、血清中シスタチンCの増加、腎代替療法に関する必要条件などにより、同定され得る。「腎機能の改善」は、急激な(14日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは72時間以内、およびさらにより好ましくは48時間以内の)、腎機能の測定における測定可能な増加である。GFRを測定および/または推定するための好ましい方法は、本明細書中以下に記載する。
【0034】
本明細書中使用される場合、「腎機能の低下」は、急激な(14日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは72時間以内、およびさらにより好ましくは48時間以内の)0.1mg/dL以上(≧8.8μmol/L)の血清クレアチニンの絶対的な増加、20%以上(ベースラインと比較して1.2倍)の血清クレアチニンの増加率、または尿量の低下(1時間あたり0.5ml/kg未満の記録乏尿)により同定される腎機能の低下である。
【0035】
本明細書中使用される場合、「急性腎不全」または「ARF」は、急激な(14日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは72時間以内、およびさらにより好ましくは48時間以内の)、0.3mg/dl以上(≧26.4μmol/l)の血清クレアチニンの絶対的な増加、50%以上(ベースラインと比較して1.5倍)の血清クレアチニンの増加率、または尿量の低下(少なくとも6時間にわたる1時間あたり0.5ml/kg未満の記録乏尿)により同定される腎機能の低下である。この用語は、「急性腎損傷」または「AKI」と同義である。
【0036】
本明細書中使用される場合、慢性腎疾患または「CKD」は、健康に影響する、3ケ月間超存在する腎臓の構造または機能の異常として定義される。米国の成年のおよそ11%がCKDを有すると報告されており、このうちの多くが高齢者である。この病態は、通常、進行期までは無症候性である。
【0037】
用語「対象」は、本明細書中使用される場合、ヒトまたは非ヒトの生物を表す。よって本明細書中記載される方法および組成物は、ヒトおよび獣医学上の疾患の両方に適用可能である。さらに、対象は好ましくは生きている生物であるが、本明細書中記載される本発明は、同様に死後の解析にも使用され得る。好ましい対象はヒトであり、最も好ましくは、本明細書中使用される場合に、ある疾患または病態に関する医療を受けている生きたヒトを表す「患者」である。これは、病態の兆候に関して調査されている、規定した疾病を有さないヒトを含む。
【0038】
好ましくは、サンプルにおいて解析物が測定される。このようなサンプルは、対象から得られてもよく、または、対象に提供されるように意図された生体物質から得られてもよい。たとえばサンプルは、おそらくは対象への移植に関して評価された腎臓から得られてもよく、既存の損傷に関して腎臓を評価するために使用される解析物の測定から得られてもよい。好ましいサンプルは、体液サンプルである。
【0039】
用語「体液サンプル」は、本明細書中使用される場合、患者または移植ドナーなどの目的の対象の診断、予後診断、分類、または評価のために得られる体液のサンプルを表す。特定の実施形態では、このようなサンプルは、進行中の病態の予後またはある病態に及ぼす治療レジメンの作用を決定するために、入手され得る。好ましい体液サンプルとして、限定するものではないが、血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、痰、および胸水が挙げられる。さらに当業者は、特定の体液サンプルが、たとえば全血の血清または血漿成分への分離といった分画または精製の手法の後に、より容易に解析されることを認識している。体液サンプルは、手法を開始してから72時間以内、好ましくは48時間以内、24時間以内、18時間以内、12時間以内、または6時間以内に得られる場合に、当該手法の「直前に」得られている。
【0040】
用語「診断」は、本明細書中使用される場合、所定の疾患または病態を患者が罹患しているかどうかの確率(「可能性」)を当業者が推定および/または決定できる方法を表す。本発明の場合、「診断」は、サンプルを入手しアッセイを行った対象に関する急性腎損傷またはARFの診断(すなわち発症または発症なし)に至るために、任意選択で他の臨床特徴と共にまとめた、本発明の腎損傷マーカーに関するアッセイ、最も好ましくはイムノアッセイの結果を使用することを含む。このような診断が「決定される」ことは、この診断が100%正確であることを暗示する意味ではない。多くのバイオマーカーが、複数の病態を表す。当業者は、情報の空洞(informational vacuum)をもたらすバイオマーカーを使用せず、むしろ、試験結果は、診断に至るために他の臨床兆候と組み合わせて使用される。よって、所定の診断の閾値の1つの側面で測定したバイオマーカーの値は、所定の診断の閾値の他の側面で測定した値と比較して、対象における疾患の発症の高い可能性を表す。
【0041】
同様に、予後のリスクは、所定の経過または予後が起こり得る確率(「可能性」)を示す。よって、予後指標のレベルまたはレベルの変化は、罹患率の確率の増加(たとえば腎機能の悪化、将来的なARF、または死亡)に関連しており、患者において有害転帰である「可能性の増加を表す」ことを意味する。
【0042】
IGFBP7およびTIMP-2のアッセイ
【0043】
全般的に、イムノアッセイは、バイオマーカーに特異的に結合する少なくとも1つの抗体と、目的のバイオマーカーを含むまたは含む疑いのあるサンプルを接触させることを含む特異的な結合アッセイである。次に、サンプル中の抗体に対するポリペプチドの結合により形成される複合体の存在または量を表すシグナルが作製される。次に、このシグナルを、サンプル中のバイオマーカーの存在または量と関連させる。バイオマーカーの検出および解析に関する多くの方法および装置が、当業者によく知られている。たとえば、各文献の、全ての表、図面、および特許請求の範囲を含む全体が、本明細書中参照により組み込まれている、米国特許第6,143,576号;同6,113,855号;同6,019,944号;同5,985,579号;同5,947,124号;同5,939,272号;同5,922,615号;同5,885,527号;同5,851,776号;同5,824,799号;同5,679,526号;同5,525,524号;および同5,480,792号、ならびにThe Immunoassay Handbook, David Wild, ed. Stockton Press, New York, 1994を参照されたい。
【0044】
当該分野で知られているアッセイ装置および方法は、目的のバイオマーカーの存在または量に関連するシグナルを作製するための、様々なサンドイッチアッセイ、競合アッセイ、または非競合アッセイの様式で標識した分子を利用することができる。または適切なアッセイ様式として、クロマトグラフィー、質量分析、およびタンパク質の「ブロッティング」方法が挙げられる。さらに、バイオセンサーおよび光学的イムノアッセイなどの特定の方法および装置が、標識した分子を必要とすることなく解析物の存在または量を決定するために使用され得る。たとえば、各文献の、全ての表、図面、および特許請求の範囲を含む全体が、本明細書中参照により組み込まれている、米国特許第5,631,171号;および同5,955,377号を参照されたい。また当業者は、限定するものではないが、Beckman ACCESS(登録商標)、Abbott AXSYM(登録商標)、Roche ELECSYS(登録商標)、Dade Behring STRATUS(登録商標)システムを含むロボット器具が、イムノアッセイを行うことができるイムノアッセイ解析器の中にあることを認識している。しかしながら、たとえば酵素結合免疫測定法(ELISA)、放射性イムノアッセイ(RIA)、ラテラルフローアッセイ(lateral flow assay)、競合結合アッセイなどといった、任意の適切なイムノアッセイが、利用されてもよい。
【0045】
抗体または他のポリペプチドが、アッセイに使用するための様々な固体の担体の表面に固定され得る。特定の結合部材を固定するために使用され得る固相は、固相結合アッセイの固相として開発および/または使用されたものを含む。適切な固相の例として、メンブレンフィルター、セルロースベースの紙、ビーズ(ポリマー粒子、ラテックス粒子、および常磁性粒子を含む)、ガラス、シリコン・ウエハ、マイクロ粒子、ナノ粒子、TentaGels、AgroGels、PEGAゲル、SPOCCゲル、およびマルチウェルのプレートが挙げられる。アッセイの条片は、固体の担体上のアレイに、抗体または複数の抗体をコーティングすることにより、調製され得る。次に、この条片は、試験サンプルに浸された後、洗浄および検出ステップを介して迅速に処理されることにより、色のついたスポットなどの測定可能なシグナルをもたらし得る。抗体または他のポリペプチドは、アッセイ装置の表面に直接コンジュゲートするか、または間接的な結合によりアッセイ装置の特異的な領域に結合し得る。後者の場合の例では、抗体または他のポリペプチドは、粒子または他の固体の担体に固定されてもよく、この固体の担体は、装置の表面に固定されてもよい。
【0046】
このようなアッセイは、検出のための方法を必要とし、結果の定量化に関して最も一般的な方法の1つは、試験した生体系の構成要素の1つについて親和性を有するタンパク質または核酸に検出可能な標識をコンジュゲートすることである。検出可能な標識は、それ自体が検出可能な分子(たとえば蛍光性部分、電気化学的標識、金属キレートなど)、および検出可能な反応産物の産生(たとえば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素)またはそれ自体が検出可能であり得る特異的な結合分子(たとえばビオチン、ジゴキシゲニン、マルトース、オリゴヒスチジン、2,4-ジニトロベンゼン(dintrobenzene)、ヒ酸フェニル(phenylarsenate)、ssDNA、dsDNAなど)により間接的に検出され得る分子を含み得る。
【0047】
固相および検出可能な標識のコンジュゲートの調製は、多くの場合、化学的な架橋剤の使用を含む。架橋の試薬は、少なくとも2つの反応基を含み、一般に、ホモ官能性(homofunctional)架橋剤(同一の反応基を含む)およびヘテロ官能性(heterofunctional)架橋剤(非同一な反応基を含む)に分けられる。アミン、スルフヒドリルを介して結合するか、または非特異的に反応するホモ二官能性架橋剤は、多くの市販のソースから入手可能である。マレイミド、アルキルおよびアリールのハロゲン化物、α-ハロアシル、ならびにピリジルジスルフィドは、チオール反応基である。マレイミド、アルキルおよびアリールのハロゲン化物、ならびにα-ハロアシルは、スルフヒドリルと反応してチオールエーテル結合を形成し、ピリジルジスルフィドは、スルフヒドリルと反応して混合したジスルフィドを生成する。ピリジルスルフィド生成物は、切断可能である。またイミドエステルは、タンパク質-タンパク質の架橋に非常に有用である。それぞれがコンジュゲートの成功のために異なる特性を組み合わせた、様々なヘテロ二官能性架橋剤が市販されている。
【0048】
特定の態様では、本発明は、IGFBP7および/またはTIMP-2の解析のためのキットを提供する。本キットは、アッセイされる各バイオマーカーに結合する少なくとも1つの抗体を含む少なくとも1つの試験サンプルの解析のための試薬を含む。また本キットは、本明細書中記載される診断的および/または予後診断的な相関のうちの1つ以上を行うための装置および説明書を含むことができる。好ましいキットは、解析物に関して、サンドイッチアッセイを行うための抗体対、または競合アッセイを行うための標識した種を含むであろう。好ましくは、抗体対は、固相にコンジュゲートした第1の抗体および検出可能な標識にコンジュゲートした第2の抗体を含み、第1の抗体および第2の抗体はそれぞれ、腎臓損傷マーカーに結合する。最も好ましくは、各抗体は、モノクローナル抗体である。本キットを使用するためおよびこの相関を行うための説明書は、その製造、輸送、販売、または使用の間のいずれかの時点で、キットに添付されるか、またはキットに付属する任意の書面または記録物質を表す、ラベリングの形態であり得る。たとえば用語ラベリングは、広告ビラおよびパンフレット、パッケージ材料、説明書、音声またはビデオカセット、コンピュータディスク、およびキット上に直接刷られた文書を含む。
【0049】
抗体
【0050】
用語「抗体」は、本明細書中使用される場合、抗原またはエピトープに特異的に結合できる、1つまたは複数の免疫グロブリン遺伝子またはそのフラグメントに由来するか、これによりその後モデル化されたものか、またはそれらにより実質的にコードされている、ペプチドまたはポリペプチドを表す。たとえば、Fundamental Immunology, 3rd Edition, W.E. Paul, ed., Raven Press, N.Y. (1993);Wilson (1994; J. Immunol. Methods 175:267-273;Yarmush (1992) J. Biochem. Biophys. Methods 25:85-97を参照されたい。用語抗体は、抗原結合部分、すなわち、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなる一価のフラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド結合により結合した2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の1つのアームであるVLドメインおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546);および(vi)単離した相補性決定領域(CDR)を含む、抗原に結合する能力を保持する「抗原結合部位」(たとえばフラグメント、配列、相補性決定領域(CDR))を含む。一本鎖抗体もまた、参照により、用語「抗体」に含まれる。
【0051】
本明細書中記載されるイムノアッセイに使用される抗体は、好ましくは、本発明の腎臓損傷マーカーに特異的に結合する。用語「特異的に結合する」は、上述のように、抗体は、抗体が結合するエピトープを提示するいずれかのポリペプチドに結合するため、意図する標的に抗体が排他的に結合することを表すようには意図されていない。むしろ、意図した標的に対する抗体の親和性が、適切なエピトープを提示しない非標的の分子に対する親和性と比較する際に約5倍高い場合に、抗体は「特異的に結合する」。好ましくは、標的分子に対する抗体の親和性は、非標的に対する分子の親和性よりも、少なくとも約5倍、好ましくは10倍、より好ましくは25倍、さらにより好ましくは50倍、および最も好ましくは100倍以上高い。好ましい実施形態では、好ましい抗体は、少なくとも約107M-1、好ましくは約108M-1~約109M-1、約109M-1~約1010M-1、または約1010M-1~約1012M-1の親和性で結合する。
【0052】
親和性は、Kd=koff/konとして計算される(koffは解離速度定数であり、konは、結合速度定数であり、Kdは平衡定数である)。親和性は、様々な濃度(c)で標識したリガンドの結合した割合(r)を測定することにより、平衡時で決定することができる。このデータは、Scatchardの式:r/c=K(n-r):(式中r=平衡時の結合したリガンドのモル濃度/受容体のモル濃度;c=平衡時に遊離するリガンドの濃度;K=平衡結合定数;およびn=受容体分子あたりのリガンド結合部位の数)を使用してグラフ化される。グラフ解析により、r/cが、X軸上のrに対してY軸にプロットされることにより、Scatchardプロットを作成する。Scatchard解析による抗体親和性の測定は、当該分野でよく知られている。たとえばvan Erp et al., J. Immunoassay 12: 425-43, 1991; Nelson and Griswold, Comput. Methods Programs Biomed. 27: 65-8, 1988を参照されたい。
【0053】
用語「エピトープ」は、抗体に特異的に結合できる抗原決定基を表す。通常エピトープは、アミノ酸または糖の側鎖などの分子の化学的に活性な表面の基(grouping)からなり、通常、3次元の構造上の特徴および特定の電荷の特徴を有している。立体構造的および非立体構造的なエピトープは、前者への結合が変性溶媒の存在下で失われるが後者では失われない点で、区別される。
【0054】
多くの刊行物が、選択した解析物への結合に関するポリペプチドのライブラリーを産生およびスクリーニングするためのファージディスプレイ技術の使用を論述している。たとえば、Cwirla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 6378-82, 1990; Devlin et al., Science 249, 404-6, 1990, Scott and Smith, Science 249, 386-88, 1990;およびLadnerらの米国特許第5,571,698号を参照されたい。ファージディスプレイ方法の基本的な概念は、スクリーニングされたポリペプチドをコードするDNAと、上記ポリペプチドとの間の物理的な関連の確立である。この物理的な関連は、ポリペプチドをコードするファージゲノムを包有するキャプシドの一部として上記ポリペプチドを提示する、ファージ粒子により提供される。ポリペプチドとその遺伝子物質との間の物理的な関連の確立は、異なるポリペプチドを有する非常に多くのファージの同時の質量のスクリーニングを可能にする。ある標的に対し親和性のあるポリペプチドを提示するファージは、当該標的に結合し、これらファージは、当該標的に対する親和性スクリーニングにより濃度が高まる。これらファージから提示されたポリペプチドのアイデンティティ(identity)は、これらの各ゲノムから決定することができる。これら方法を使用して所望の標的に対する結合親和性を有すると同定されたポリペプチドは、次に、従来の手段によりバルクで合成され得る。たとえば、全ての表、図面、および特許請求の範囲を含む全体が本明細書中参照により組み込まれている、米国特許第6,057,098号を参照されたい。
【0055】
次に、これら方法により作製された抗体は、第1に、精製した目的のポリペプチドとの親和性および特異度に関するスクリーニングにより、および必要な場合は、結合から排除されることが望ましいポリペプチドと抗体の親和性および特異度と結果を比較することにより、選択され得る。スクリーニングの手法は、マイクロタイタープレートの別々のウェルにおける精製したポリペプチドの固定を含み得る。次に、見込みのある抗体または抗体のグループを含む溶液を、各マイクロタイターのウェルに入れ、約30分~2時間インキュベートする。次に、マイクロタイターのウェルを洗浄し、標識した二次抗体(たとえば、産生された抗体がマウスの抗体である場合には、アルカリホスファターゼにコンジュゲートした抗マウス抗体)を、ウェルに添加し、約30分間インキュベートした後に、洗浄する。基質をウェルに添加すると、固定したポリペプチドに抗体が存在することを表す、着色反応が起こる。
【0056】
よって同定された抗体は、その後、選択したアッセイ設計において、親和性および特異度に関してさらに解析され得る。標的タンパク質に関するイムノアッセイを開発する際に、精製したタンパク質は、選択した抗体を使用して、イムノアッセイの感度および特異度を判断する標準物質として作用する。様々な抗体の結合親和性は異なり得、(たとえばサンドイッチアッセイにおける)特定の抗体対は互いに立体的に相互干渉し得るなどの理由のため、抗体のアッセイの特性は、抗体の絶対的な親和性および特異度よりも重要な測定値であり得る。
【0057】
本出願は、抗体ベースの結合アッセイを詳細に説明しているが、アッセイにおける結合種として抗体に代わるものは、当該分野でよく知られている。これらとして、特定の標的に関する受容体、アプタマーなどが挙げられる。アプタマーは、特定の標的分子に結合するオリゴ核酸またはペプチドである。アプタマーは、通常、大きなランダム配列のプールから選択されることにより作製されるが、天然のアプタマーも存在する。改変したヌクレオチドを含む高親和性アプタマーは、リガンドに関する改善した特徴、たとえばin vivoにおける安定性の改善または送達特徴の改善を提供する。このような改変の例は、リボースおよび/またはリン酸塩および/または塩基の位置での化学的な置換を含み、アミノ酸側鎖の官能性を含み得る。
【0058】
アッセイの相関
【0059】
用語「相関している」は、バイオマーカーの使用に言及して本明細書中使用される場合、患者におけるバイオマーカーの存在または量を、所定の病態を罹患しているかまたは所定の病態のリスクがあると知られている人物;または所定の病態を有していないことが知られている人物のバイオマーカーの存在または量と比較することを表す。多くの場合、これは、バイオマーカーの濃度の形式のアッセイ結果を、ある疾患の発症の有無、またはいくつかの将来的な予後の可能性を表すように選択された所定の閾値と比較する形態を取る。
【0060】
診断の閾値を選択することは、特に、疾患の確率の検討、異なる試験の閾値での真および偽の診断の分布、および診断に基づく処置の結果(または処置の失敗)の推定値を含む。たとえば、非常に有効でありリスクレベルが低い特定の療法を行うこと検討する場合、臨床者はかなりの診断の不確実性を許容できるため、ほとんどの試験が必要ではない。他方で、処置選択肢の有効性が低くリスクが高い状況では、多くの場合臨床者は、高い度合の診断の確実性を必要とする。よって、費用便益分析は、診断の閾値の選択に関与している。
【0061】
適切な閾値は、様々な方法で決定され得る。たとえば、心筋トロポニンを使用した急性心筋梗塞の診断で推奨される診断閾値の1つは、正常な集団で見られる濃度の97.5パーセンタイルである。別の方法は、同じ患者由来の一連のサンプルを観察することであり得、ここでは以前の「ベースライン」の結果が、バイオマーカーレベルの経時的な変化をモニタリングするために使用される。
【0062】
また集団試験が、決定閾値を選択するために使用され得る。レーダーの画像の解析のため第2次世界大戦中に開発されたシグナル検出理論の分野から生じた受信者動作特性(「ROC」)、およびROC解析は、多くの場合、「疾患状態にある」下位集団を「疾患状態にない」下位集団と最良に区別できる閾値を選択するために使用される。この場合の偽陽性は、人物の試験が陽性であるが、実際には当該疾患を有していない場合に起こる。他方で、偽陰性は、人物が、実際は疾患を有する際に、健常であることを示唆する陰性と試験される場合に起こる。ROC曲線を描くために、真陽性率(TRP)および偽陽性率(FPR)が、決定閾値が持続的に変動する場合に決定される。TPRは、感度と同等であり、FPRは1-特異度に相当するため、ROCのグラフは、場合により、感度対(1-特異度)のプロットと呼ばれる。完璧な試験は、1.0のROC曲線下面積を有し;無作為化試験は、0.5の面積を有するであろう。閾値は、特異度および感度の許容可能な値を提供するように選択される。
【0063】
この文脈で、「疾患状態にある」は、1つの特徴(疾患もしくは病態の存在またはいくつかの転帰の発生)を有する集団を表すことを意味し、「疾患状態にない」は、この特徴を欠いている集団を表すことを意味する。単一の決定閾値が、当該方法の最も単純な適用であるが、複数の決定閾値が使用されてもよい。たとえば、第1の閾値を下回ると、疾患の不存在が比較的高い信頼性で割り当てられてもよく、第2の閾値を超えると、疾患の存在が比較的高い信頼性で割り当てられてもよい。この2つの閾値の間は、不定とみなされ得る。これは、実際は単なる例示であることを意味している。
【0064】
閾値の比較に加えて、患者の分類(疾患の発症の有無、転帰の可能性など)にアッセイ結果を相関させるための他の方法として、決定木、規則の設定、ベイズ法、およびニューラルネットワーク法が挙げられる。これら方法は、対象が複数の分類からの1つの分類に属する度合を表す確率の値をもたらし得る。
【0065】
試験の正確性の測定は、Fischer et al., Intensive Care Med. 29: 1043-51, 2003に記載されるように得られてもよく、所定のバイオマーカーの有効性を決定するために使用されてもよい。これら測定として、感度および特異度、予測値、尤度比、診断のオッズ比、ならびにROC曲線面積が挙げられる。ROCプロットの曲線下面積(「AUC」)は、分類者が無作為に選択した負の症例よりも高い無作為に選択した正の症例をランクづける確率に相当する。ROC曲線下面積は、グループが持続的なデータである場合に考慮される2つのグループで得られるスコア間の中央値の差異に関して試験するマン・ホイットニーのU検定、またはウィルコクソンの順位検定(Wilcoxon test of ranks)に相当すると考えることが可能である。
【0066】
上述のように、適切な試験が、これら様々な尺度に関する以下の結果のうちの1つ以上を呈し得る:対応する、0.2超、好ましくは0.3超、より好ましくは0.4超、さらにより好ましくは少なくとも0.5、さらにより好ましくは0.6、さらにより好ましくは0.7超、さらにより好ましくは0.8超、より好ましくは0.9超、および最も好ましくは0.95超の感度を伴う、0.5超、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、最も好ましくは少なくとも0.95の特異度;対応する、0.2超、好ましくは0.3超、より好ましくは0.4超、さらにより好ましくは少なくとも0.5、さらにより好ましくは0.6、さらにより好ましくは0.7超、さらにより好ましくは0.8超、より好ましくは0.9超、および最も好ましくは0.95超の特異度を伴う、0.5超、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、最も好ましくは少なくとも0.95の感度;少なくとも75%の特異度と組み合わせた、少なくとも75%の感度;0.5超、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、最も好ましくは少なくとも0.95のROC曲線面積;1とは異なる、好ましくは少なくとも約2以上または約0、5以下、より好ましくは少なくとも約3以上または約0.33以下、さらにより好ましくは少なくとも約4以上または約0.25以下、さらにより好ましくは少なくとも約5以上または約0.2以下、最も好ましくは少なくとも約10以上または約0.1以下のオッズ比;1超、少なくとも2、より好ましくは少なくとも3、さらにより好ましくは少なくとも5、および最も好ましくは少なくとも10の陽性尤度比(感度/(1-特異度);ならびに1未満、0.5以下、より好ましくは0.3以下、および最も好ましくは0.1以下の陰性尤度比((1-感度)/特異度)として計算)。
【0067】
本発明の腎臓損傷マーカーアッセイの結果と組み合わせられ得る臨床兆候として、人口統計の情報(たとえば体重、性別、年齢、人種)、病歴(たとえば家族歴、外科手術の種類、既存の疾患、たとえば、動脈瘤、うっ血性心不全、子癇前症、子癇、真性糖尿病、高血圧、冠動脈疾患、タンパク尿症、腎不全、または敗血症、曝露する毒素の種類、たとえばNSAID、シクロスポリン、タクロリムス、アミノグリコシド、ホスカルネット、エチレングリコール、ヘモグロビン、ミオグロビン、イホスファミド、重金属、メトトレキサート、放射線不透過性造影剤、またはストレプトゾトシンなど)、臨床変数(たとえば血圧、体温、呼吸速度)、リスクスコア(APACHEスコア、PREDICTスコア、UA/NSTEMIのTIMIリスクスコア 、フラミンガムリスクスコア)、尿中総タンパク質の測定、糸球体濾過率、推定糸球体濾過率、尿産生率、血清中または血漿中のクレアチニンの濃度、腎乳頭抗原1(RPA1)の測定;腎乳頭抗原2(RPA2)の測定、尿中クレアチニン濃度、ナトリウムの部分排泄率、尿中ナトリウムの濃度、血清中または血漿中クレアチニン対する尿中クレアチニンの比、尿比重、尿浸透圧、血漿中尿素窒素に対する尿中尿素窒素の比、血漿中のクレアチニンに対するBUNの比、および/または尿中ナトリウム/(尿中クレアチニン/血漿中クレアチニン)として計算される腎不全指数が挙げられる。本発明の方法で組み合わせられ得る腎機能の他の測定は、本明細書中の以下、ならびにそれぞれが参照により本明細書中に組み込まれているHarrison’s Principles of Internal Medicine, 17th Ed., McGraw Hill, New York, pages 1741-1830、およびCurrent Medical Diagnosis & Treatment 2008, 47th Ed, McGraw Hill, New York, pages 785-815に記載されている。
【0068】
この方法でアッセイ結果/臨床兆候を組み合わせることは、多変量ロジスティック回帰、対数線形モデル化、ニューラルネットワーク解析、n-of-m解析、決定木解析などの使用を含み得る。この列挙は、限定を意味するものではない。
【0069】
急性腎不全の診断
【0070】
上述のように、用語「急性腎(または腎臓)損傷」および「急性腎(または腎臓)不全」は、本明細書中使用される場合、ベースラインの値と比較した血清クレアチニンの変化の観点から、部分的に定義されている。大部分のARFの定義は、血清クレアチニンおよび多くの場合尿量の使用を含む、一般的な要素を有する。患者は、この比較に使用するための腎機能のベースラインの利用可能な測定を伴うことなく、腎機能不全を呈し得る。このような事象では、患者が最初に正常なGFRを有していたと想定することにより、ベースラインの血清クレアチニンの値が推定され得る。糸球体濾過率(GFR)は、単位時間あたりの腎(腎臓)糸球体毛細管からボーマン嚢へと濾過された体液の体積を表す。糸球体濾過率(GFR)は、血液中一定したレベルを有しており、自由に濾過されるが腎臓により再吸収も分泌もされないいずれかの化学物質を測定することにより、計算することができる。通常、GFRは、ml/分の単位で表される:
【数1】
【0071】
GFRを体表面積に対して正規化することにより、1.73m2あたり約75~100ml/分のGFRを想定することができる。このように測定された比率は、計算可能な血液の体積からもたらされる、尿中の物質の量である。
【0072】
糸球体濾過率(GFRまたはeGFR)を計算または推定するために使用されるいくつかの異なる技術が存在する。しかしながら臨床診療では、クレアチニンのクリアランスが、GFRを測定するために使用されている。クレアチニンは、身体により天然に産生される(クレアチニンは、筋肉で見いだされるクレアチンの代謝物である)。これは、糸球体により自由に濾過されるだけでなく、腎尿細管によって非常に少量が能動的に分泌されることにより、クレアチニンのクリアランスは、10~20%、実際のGFRを超えて推定される。クレアチニンのクリアランスを測定する簡便さを考慮すると、この誤差の限界は許容可能である。
【0073】
クレアチニンのクリアランス(CCr)は、クレアチニンの尿中濃度(U
Cr)、尿の流速(V)、およびクレアチニンの血漿中濃度(P
Cr)に関する値が知られている場合に、計算することができる。尿中濃度および尿の流速の積は、クレアチニンの排泄率をもたらすため、クレアチニンのクリアランスは、その血漿中濃度により除算した排泄率(U
Cr×V)とも言われている。これは、一般に
【数2】
として、数学的に表される。
一般に、24時間の採尿が、膀胱が空となった朝から朝以降に膀胱が満たされるまで行われ、その後、比較血液試験が行われる。
【数3】
異なる大きさの人々の間での結果の比較を可能にするために、多くの場合、CCrは、体表面積(BSA)で補正され、ml/min/1.73m
2としての平均の大きさのヒトと比較して表される。大部分の成年は、1.7(1.6~1.9)に近いBSAを有するが、過度に肥満または痩身の患者は、自身の実際のBSAで補正されたCCrを有する:
【数4】
【0074】
クレアチニンのクリアランスの測定の正確性(さらには回収が完全である場合の正確性)は、糸球体濾過率(GFR)が低下する際に、クレアチニンの分泌が増大し、よって血清クレアチニンの上昇が少なくなるため、限定される。よって、クレアチニンの排泄は、濾過したロードよりもはるかに高く、GFRの潜在的に大きな過大推定(2倍程度の差)が生じる。しかしながら、臨床目的では、腎機能が、安定しているか、または悪化しているかまたは良くなっているかどうかを決定することが重要である。このことは、多くの場合、血清クレアチニン単独をモニタリングすることにより、決定される。クレアチニンのクリアランスのように、血清クレアチニンは、ARFの非定常状態のGFRを正確に反映するものではない。しかしながら、ベースラインと比較して血清クレアチニンが変化する度合は、GFRの変化を反映している。血清クレアチニンは、容易かつ簡便に測定され、腎機能に特異的である。
【0075】
mL/kg/hr単位の尿量で尿量を決定する目的のために、時間単位の採尿および測定が適切である。たとえば累積24時間の尿量のみが利用可能であり、患者の体重が提供されない場合における、RIFLEの尿量の基準を少し修正したものが、記載されている。たとえば、Bagshaw et al., Nephrol. Dial. Transplant. 23: 1203-1210, 2008は、患者の平均体重を70kgと想定し、患者は、以下に基づくRIFLE分類に割り当てられる:<35mL/h(リスク)、<21mL/h(障害)、または<4mL/h(不全)。
【0076】
処置レジメンの選択
【0077】
診断が得られた後、臨床者は、腎代替療法の開始、腎臓に損傷を与えることが知られている化合物の送達の撤回、腎臓移植、腎臓に損傷を与えることが知られている手法の延期もしくは回避、利尿薬投与の修正、目標指向型輸液療法(goal directed therapy)の開始などの、診断に適合する処置レジメンを容易に選択することができる。当業者は、本明細書中記載される診断方法に関連して論述される多くの疾患にとって適切な処置を認識している。たとえばMerck Manual of Diagnosis and Therapy, 17th Ed. Merck Research Laboratories, Whitehouse Station, NJ, 1999を参照されたい。さらに、本明細書中記載される方法および組成物は、予後の情報を提供するため、本発明のマーカーは、処置の過程をモニタリングするために使用され得る。たとえば、予後状態の向上または悪化は、特定の処置が有効であるかないかを表し得る。
【0078】
腎前性AKIおよび腎実質性(instrinsic)AKIの間を区別することは、治療介入を導く重要な臨床アセスメントである。腎前性である患者は、腎臓の血流を向上させるために、血行動態を目的とする療法を必要とする。これら療法は、多くの場合、変力物質、静脈内輸液、および/または昇圧剤を含む。これら介入のそれぞれは、潜在的に副作用(たとえば不整脈、体液量過剰、血管収縮作用)を有しており、腎機能を改善するようには定められていない場合、これら療法を実施することは賢明ではない。よって、腎前性AKIおよび腎実質性AKIの間を区別することは、処方すべき療法の決定を支援する。腎前性AKIが存在しない場合、療法は、AKIを軽減することおよび対症療法を提供することを目的とする。
【0079】
腎前性急性腎不全は、腎臓の前房(camera)への血流の突然の低減(腎灌流の低下)が、腎機能の喪失を引き起こす場合に起こる。原因として、血液量の減少、低血圧、腎臓からの血液のシャント、心不全、および腎臓へ供給する血管の局所的な変化が挙げられる。腎前性急性腎不全では、腎臓自体に悪い箇所は存在しない。治療は、腎前性急性腎不全の原因の訂正に焦点を当てている。
【0080】
体液過剰を伴わない腎前性AKIでは、通常、静脈内輸液の投与が、腎機能を改善するための第1のステップである。これは、正常な循環血液量を回復させるため、血管内血液量の喪失の結果として腎前性AKIを発症する患者に、特に使用される。体液量の状態は、本明細書中記載されるように、輸液の過剰または過少な交換を回避するために、モニタリングされ得る。アルブミンなどのコロイド粒子を有する輸液が、生理食塩水の注入よりも好ましいとされ得る。順流が妨げられる腎前性の状態では、通常、心拍出量の増強を目的とする医薬が使用される。
【0081】
過剰な利尿の結果としてAKIが発症しているうっ血性心不全を有する患者では、利尿薬の保留および慎重な輸液交換が、腎機能を回復させるために十分であり得る。ノルエピネフリンおよびドブタミンなどの変力物質が、心拍出量、よって腎灌流を改善するために提供されてもよい。
【0082】
入院している体液過剰な患者は、通常、体液の限定、IV利尿薬、変力物質(たとえばミルリノンまたはドブタミン)および併用療法で処置される。ループ利尿薬のフロセミドは、HFにおける体液過剰の処置に最も頻繁に処方される利尿薬である。1日1回、20~40mgの初回経口用量が、労作時に呼吸困難を有し、および緊急入院の兆候を有さない体液過剰の兆候を有する患者に投与されるべきである。重篤な過負荷および肺性浮腫は、入院および静脈内フロセミドの指標である。軽度のHFを有する一部の患者は、チアジド利尿薬で有効に処置され得る。チアジド利尿薬でも持続して体液過剰を有する患者は、経口用のループ利尿薬に切り替えるべきである。重篤な腎損傷を有する患者では、利尿薬は、有意な利尿をもたらさない場合がある。また、aquapheresisとも呼ばれる限外濾過が、このような症例の体液過剰を処置するために使用され得る。
【0083】
腎前性AKIとは対照的に、急性尿細管壊死(ATN)の処置の主な目的は、腎臓に対するさらなる損傷を防止することである。虚血性ATNは、(たとえば腎動脈狭窄により)腎臓が長期間十分に灌流しない場合、またはショックにより、引き起こされ得る。敗血症は、ATN患者の30%から70%を死亡させる;よって静脈ライン、膀胱カテーテル、および人工呼吸器の回避が推奨される。敗血症患者は血管拡張するため、投与された大量の輸液は、これら患者の肺の間質に集積する。細胞外の体液量は迅速に評価されるべきであり、いずれの欠陥の充足もが迅速に開始されるべきである。血行動態の状態は、昇圧剤および/または変力物質を提供し、全ての根底にある敗血症を処置する、適切な輸液療法により改変されるべきである。全ての可能性のある腎毒性の医薬は、停止されるべきである。さらに、腎臓により排除される全ての薬の用量が、調節されるべきである。
【0084】
腎代替療法は、腎臓の正常な血液濾過機能に置き換わる療法を表す。以下を含む様々な種類のRRTが使用される:
持続的腎代替療法(CRRT)
持続的血液透析(CHD)
持続的動静脈血液透析(CAVHD)
持続的静静脈血液透析(CVVHD)
持続的血液濾過(CHF)
持続的動静脈血液濾過(CAVHまたはCAVHF)
持続的静静脈血液濾過(CVVHまたはCVVHF)
持続血液濾過透析(CHDF)
持続的動静脈血液濾過透析(CAVHDF)
持続的静静脈血液濾過透析(CVVHDF)
間欠的腎代替療法(IRRT)
間欠的血液透析(IHD)
間欠的静静脈血液透析(IVVHD)
間欠的血液濾過(IHF)
間欠的静静脈血液濾過(IVVHまたはIVVHF)
間欠的血液濾過透析(IHDF)。
【0085】
急性の透析依存性腎不全は、集中治療室(ICU)において共通する問題であり、重篤な患者の事例で有意な改善があるにも関わらず、この合併症からの死亡率は、以前として50%を超えている。この腎不全の発症は、患者集団における死亡率の独立した予測因子である。
【0086】
RRTの開始の精確なタイミングは、通常、臨床的な判断の問題である。従来の透析に関する指標は、以下を含む:
利尿薬抵抗性肺性浮腫
高カリウム血症(医学療法に対して難治性)
代謝性アシドーシス(医学療法に対して難治性)
尿毒性合併症(心膜炎、脳症、出血)
透析可能な中毒症(たとえばリチウム、毒性アルコール、およびサリチル酸塩)。
【0087】
これら指標の多くは、通常、慢性腎不全の設定に使用されるが、これら合併症の結果は、重篤な患者でより重篤である可能性があり;よって、これら徴候を発症する前に透析を開始する傾向が増加している。治療開始の遅延は、多くの場合、透析自体が腎機能の回復を遅延させ得る懸念に基づいている。
【0088】
IGFBP7およびTIMP-2は、AKIのリスクのアセスメントに関して記載されている。Kellum and Chawla, Neohrol. Dial.. Transplant 31(1):16-22, 2016。本発明は、これらバイオマーカーが、さらなる腎臓の損傷をもたらすさらなるストレスを最小限にするために腎代替療法を行うことを管理する目的のために、腎機能が「ストレス下にある」かどうかを評価するためにも使用できることを例証している。
【0089】
CRRTは、ICUにおいて、1日あたり24時間適用されることが意図された任意の腎代替療法である。用語CRRTは、溶質輸送の機序、膜の種類、透析物溶液の有無、および血管のアクセスの種類により有意に異なり得る、様々な血液浄化技術を表す。CRRTは、間欠的療法と比較してゆっくりとした、単位時間あたりの溶質クリアランスを提供するが、24時間超の場合、IHDでのクリアランスを超える可能性がある。CRRTの選択は、間欠的透析と比較して、より良好な血行動態の忍容性、より効率的な溶質のクリアランス、より良好な血管内容積の制御、ならびにより良好な中程度および大きな分子量の物質のクリアランスを提供すると考えられている。Pannu and Gibney, Ther. Clin. Risk. Manag. 1: 141-50, 2005(全体が本明細書中参照により組み込まれている)。
【0090】
低血圧は、間欠的血液透析に関連する最も一般的な合併症の1つであり、全処置の約20%~30%で起こる。原因の一部として、過剰または迅速な容積の除去、血漿浸透圧の変化、および自律神経障害などの透析に特異的なものがある。低血圧はさらなる臓器の虚血および損傷をもたらし得るため、血行動態的に不安定であり得る重篤な患者では、この合併症を最小限にすることが望ましい。本発明のリスクスコアは、たとえば間欠的血液透析と少ない腎ストレスをもたらす腎代替療法の方法との間でシフトが必要かどうかを決定するために、使用され得る。これに関して、リスクスコアが適用可能な閾値を超えて上昇する場合、除去される体液の速度または量が低減し得る。さらに、小さな溶質(たとえば尿素)のクリアランス速度は、CRRTで単位時間あたりゆっくりとしたものになる(間欠的血液透析での160mL/分に対して17mL/分)。
【0091】
当業者は、本発明が、言及される事象を行い、言及される目的および利点、ならびにその中にある固有のものを入手するために良好に適していることを容易に理解している。本明細書中提供される実施例は、好ましい実施形態の代表例であり、本発明の範囲を限定することは意図していない。
【0092】
実施例1.高いバイオマーカーを伴う患者での長期間のRRT
【0093】
急性腎障害(AKI)を有し腎代替療法(RRT)を受けているICU患者を、この解析に含めた。尿サンプルを、RRT中およびRRT開始後48時間以内に、各患者から回収した。尿サンプルにおけるTIMP2、IGFBP7、およびTIMP2×IGBFP7(2つのバイオマーカーの濃度の乗算)を、Astute140(登録商標)計測器でNephroCheck(登録商標)Testキットを用いたイムノアッセイにより測定した。患者を、バイオマーカーの濃度によって、特定の閾値以下または閾値超のいずれかである、2つのグループに分けた。RRTの日数、入院期間、ICU期間の範囲および中央値を、各患者のグループで決定した。閾値を超えるバイオマーカー濃度を有する患者は、閾値以下のバイオマーカー濃度を有する患者よりもRRTの日数が多く、入院期間およびICU期間が長かった。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
実施例2.RRTの様式を選択するためのバイオマーカーの使用
【0098】
65歳の男性が、重篤な市中感染性肺炎と救急診療部に提示された後に集中治療室(ICU)に入れられた。呼吸不全の悪化および適切な酸素供給を維持できないことから、この患者に挿管を行い、人工呼吸器を設置した。またこの患者が、低血圧を有し、数リットルの、緊急輸液療法用の静脈内(IV)晶質性静脈内輸液を投与されたことに留意されたい。この患者は、応答しておらず、結果として、全身の血圧を維持するために、昇圧剤療法が開始された。またこの患者は、微生物に関してサンプル摂取されており、幅広い抗菌療法下に置かれている。
【0099】
患者の尿量は、強引な緊急輸液療法を受けているにも関わらず、ICUに入ってから一定して0.3mg/kg/hrを下回っており、血清クレアチニンは、集中治療室に入った時点の1.3mg/dLから5.1mg/dLまで上昇していることから、AKIステージIIIであることが示唆される。患者は、高いFiO2およびPEEPを含む有意な陽圧換気補助を必要としている。注目すべきことに、患者の肺コンプライアンスは減少しており、患者の中心静脈圧は一定して高く、患者は、浮腫が増大しており、これら全ては有意な総体液過剰を示唆している。患者は、自身の心臓の機能および特性を評価するために経胸壁心エコー(TTE)で評価され、また、ICUに入った直後に、患者は、静脈内評価のためおよび中心静脈圧(CVP)の評価のために配置された中心静脈ライン(CVL)を有しており、CVPは、一貫して上昇し続けている。
【0100】
患者の臨床状態に基づき、この患者は、RRTの候補者となる。[TIMP2]×[IGFBP7]の測定のため、尿サンプルを回収する。[TIMP2]×[IGFBP7]が2超である場合、高レベルの腎臓のストレスを表す。高い[TIMP2]×[IGFBP7]のレベル(高い腎臓ストレス)は、患者の腎臓が、血行動態の不安定性および/または患者の病態に関連する他の全身の生理的な乱れに対して低い忍容性を有することを表す。さらに、高い[TIMP2]×[IGFBP7]のレベルは、長期間のRRTのリスクを表す。よって、臨床チームは、(間欠的腎代替療法よりもむしろ)体液の均衡のシフトおよび代謝の変動の変化を忍容することが不十分である状況において推奨される持続的腎代替療法を選択する。
【0101】
当業者が本発明を作製および使用するために十分詳細に本発明を記載および例示してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することのない、様々な代替策、修正、および改善は、明らかである。本明細書中提供される実施例は、好ましい実施形態の代表例であり、本発明の範囲を限定することは意図されていない。この中の修正および他の使用は、当業者により行われるであろう。これら修正は、本発明の趣旨の中に含まれており、特許請求の範囲によって定義されている。
【0102】
本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく本明細書中開示される本発明に、様々な代用および修正がなされ得ることは、当業者に対して容易に明らかとなるであろう。
【0103】
本明細書中言及される全ての特許および刊行物は、本発明が属する分野の当業者のレベルを表している。全ての特許および刊行物は、個別の刊行物が、それぞれ具体的かつ個別に参照により組み込まれるように表されている場合と同じ程度で、本明細書中において参照により組み込まれている。
【0104】
本明細書中例示的に記載される本発明は、いずれかの要素または限定の非存在下で、適切に実施されてもよく、これは本明細書中具体的に開示されていない。よって、たとえば本明細書中記載される各例において、用語「含んでいる(comprising)」、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」、および「からなる(consisting of)」は、この中のうちの他の2つの用語と置き換えられ得る。使用されている用語および表現は、説明の用語として使用されており、限定するものではなく、当該用語の使用および表現において、示され記載された特性またはその一部のいずれの均等物をも排除する意図は存在しないが、様々な修正が本発明の請求範囲内で可能であることが認識されている。よって、本発明は好ましい実施形態および任意選択な特性によって具体的に開示されてきたが、本明細書中開示される概念の修正およびバリエーションは、当業者によって調節され得、このような修正およびバリエーションは、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内にあるとみなされる。
【0105】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に記されている。
【0106】
以下は、本願発明の例示である。
【0107】
項目1
腎代替療法を必要とする対象または腎代替療法を受けている対象を評価するための方法であって、
前記対象から得られた尿サンプルにおいて測定された、(i)IGFBP7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)の尿中濃度とTIMP-2(組織メタロプロテアーゼ阻害物質2)の尿中濃度の複合、(ii)TIMP-2の尿中濃度、または(iii)IGFBP7の尿中濃度、に基づいてリスクスコアを計算するステップと、
前記リスクスコアが閾値を超えていることを決定するステップであって、前記対象が腎臓のストレスを有すると特定される、ステップと、
を含む、方法。
【0108】
項目2
前記対象が、間欠的血液透析での処置と比較して少ない腎臓のストレスをもたらす腎代替療法の方法の候補者として特定される、項目1に記載の方法。
【0109】
項目3
前記対象が、間欠的血液透析での処置から除外される、項目1に記載の方法。
【0110】
項目4
前記間欠的血液透析での処置と比較して少ない腎臓のストレスをもたらす腎代替療法の方法が、持続的腎代替療法(CRRT)または長期間の間欠的腎代替療法(PIRRT)である、項目2に記載の方法。
【0111】
項目5
前記リスクスコアが、IGFBP7の濃度とTIMP-2の濃度の乗算により計算される、項目1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0112】
項目6
前記リスクスコアが、式:([TIMP-2]×[IGFBP7])/1000に基づいて計算され、ここでIGFBP7の濃度およびTIMP-2の濃度は、それぞれng/mLで測定される、項目5に記載の方法。
【0113】
項目7
前記閾値が、約2.0である、項目6に記載の方法。
【0114】
項目8
前記IGFBP7の尿中濃度および/または前記TIMP-2の尿中濃度は、前記対象から得られた尿サンプルをイムノアッセイ器具に導入することにより測定され、前記イムノアッセイ器具は、固相と、前記固相の第1の位置に固定されたIGFBP7抗体および前記固相の第2の位置に固定されたTIMP-2抗体のうちの1つまたは両方と、を含み、前記器具は、前記第1の位置および前記第2の位置のうちの1つまたは両方と前記尿サンプルを接触させ、
前記器具は、前記第1の位置に固定されたIGFBP7抗体に結合するIGFBP7の量を測定し、これから前記尿サンプル中のIGFBP7の濃度を決定し、かつ/または前記器具は、前記第2の位置に固定されたTIMP-2抗体に結合するTIMP-2の量を測定し、これから前記尿サンプル中のTIMP-2の濃度を決定し、
前記器具は、前記リスクスコアをヒトが読み取り可能な形態で記録する、
項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
【0115】
項目9
前記器具は、前記尿サンプル中のIGFBP7の濃度およびTIMP-2の濃度を数学的に組み合わせて前記リスクスコアを生成する、項目8に記載の方法。
【0116】
項目10
前記対象から得られた尿サンプルが、さらに、第1の検出可能な標識とコンジュゲートされた第2のIGFBP7抗体および第2の検出可能な標識とコンジュゲートされた第2のTIMP-2抗体と接触させられ;第1のサンドイッチ複合体が、前記IGFBP7抗体、前記尿サンプルに存在するIGFBP7、および前記第2のIGFBP7抗体の間で形成され;第2のサンドイッチ複合体が、前記TIMP-2抗体、前記尿サンプルに存在するTIMP-2、および前記第2のTIMP-2抗体の間で形成され;前記尿サンプルにおけるIGFBP7の量が、前記第1の位置で結合した前記第1の検出可能な標識を検出する器具により決定され;前記尿サンプルにおけるTIMP-2の量が、前記第2の位置で結合した前記第2の検出可能な標識を検出する器具により決定される、
項目8または9に記載の方法。
【0117】
項目11
前記対象が、集中治療室の患者である、項目1~10のいずれか1項に記載の方法。
【0118】
項目12
前記対象が、急性腎障害を有する、項目1~11のいずれか1項に記載の方法。
【0119】
項目13
前記対象が、敗血症を有する、項目1~12のいずれか1項に記載の方法。
【0120】
項目14
前記対象が、外科手術から回復中である、項目1~12のいずれか1項に記載の方法。
【0121】
項目15
前記尿サンプルが前記対象から得られる時点において前記対象が腎代替療法を受けている、項目1~14のいずれか1項に記載の方法。
【0122】
項目16
前記リスクスコアが、進行中の腎代替療法をモニタリングするために使用され、前記対象は、前記進行中の腎代替療法により前記対象から除去される体液量の速度または量、および/または前記進行中の腎代替療法による溶質のクリアランス速度、を減少させる候補として特定される、項目15に記載の方法。
【0123】
項目17
前記リスクスコアが、進行中の腎代替療法をモニタリングするために使用され、前記対象は、前記進行中の腎代替療法に関連する血液低下作用または用量を低減するように前記進行中の腎代替療法のプロトコルを調節する候補として特定される、項目15に記載の方法。