(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082293
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッドおよびサーマルプリントヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20230607BHJP
B41J 2/34 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
B41J2/335 101F
B41J2/34
B41J2/335 101H
B41J2/335 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195952
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
【テーマコード(参考)】
2C065
【Fターム(参考)】
2C065GA01
2C065GB01
2C065JC02
2C065JC06
2C065JF03
2C065JF07
2C065JF12
2C065JF14
2C065JH08
2C065JH11
(57)【要約】
【課題】印字効率の向上を図ったサーマルプリントヘッドおよびサーマルプリントヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】サーマルプリントヘッドA1は、ヘッド基板1と、主走査方向xに配列された複数の発熱部41を有し、ヘッド基板1に支持された抵抗体層4と、複数の発熱部41への通電経路を構成し、ヘッド基板1に支持された配線層3と、抵抗体層4および配線層3を覆う保護層2と、を備える。保護層2は、シリコン元素を含む第1層21を含む。第1層21の屈折率は、シリコン元素と窒素元素とが化学量論組成比で構成されるシリコン窒化物(Si
3N
4)の屈折率よりも高く、真性半導体である真性シリコンの屈折率以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を有し、前記基板に支持された抵抗体層と、
前記複数の発熱部への通電経路を構成し、前記基板に支持された配線層と、
前記抵抗体層および前記配線層を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層は、シリコン元素を含む第1層を含み、
前記第1層の屈折率は、シリコン元素と窒素元素とが化学量論組成比で構成されるシリコン窒化物の屈折率よりも高く、真性半導体である真性シリコンの屈折率以下である、
サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記第1層の屈折率は、2.05以上3.882以下である、
請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記第1層の屈折率は、3.882よりも小さい、
請求項2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記第1層は、シリコン元素と窒素元素との化合物であって、前記化学量論組成比で構成されたシリコン窒化物よりもシリコン元素の含有割合が多い、
請求項3に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記保護層は、前記第1層を覆う第2層をさらに含む、
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記第2層は、シリコン炭化物である、
請求項5に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記基板は、単結晶半導体により構成される基材を含む、
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記基板は、前記基材と前記抵抗体層との間に挟まれた絶縁層をさらに含む、
請求項7に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記抵抗体層は、前記絶縁層の一部を露出させつつ前記絶縁層上に形成され、
前記配線層は、前記複数の発熱部を露出させつつ前記抵抗体層上に形成され、
前記保護層は、前記配線層上に形成される、
請求項8に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
前記配線層は、前記抵抗体層の一部を露出させつつ前記抵抗体層上に積層された第1導体層と、前記第1導体層の一部を露出させつつ前記第1導体層上に積層された第2導体層とを含み、
前記第2導体層は、副走査方向における単位長さ当たりの抵抗値が前記複数の発熱部の各々よりも小さく、
前記第1導体層は、副走査方向における単位長さ当たりの抵抗値が前記複数の発熱部の各々と前記第2導体層との間をとる、
請求項9に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項11】
前記第1導体層の構成材料は、Tiを含み、
前記第2導体層の構成材料は、Cuを含む、
請求項10に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項12】
前記基材は、前記抵抗体層に対向する主面と、前記主面から突き出し、かつ、主走査方向に延びる凸部とを有し、
前記複数の発熱部の各々は、前記凸部の上に形成されている、
請求項7ないし請求項11のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項13】
前記単結晶半導体は、シリコンである、
請求項7ないし請求項12のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項14】
基材を準備する工程と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を有し、前記基材に支持された抵抗体層を形成する工程と、
前記複数の発熱部への通電経路を構成し、前記基材に支持された配線層を形成する工程と、
前記抵抗体層および前記配線層を覆う保護層を形成する工程と、
を含み、
前記保護層を形成する工程は、シリコン元素を含む第1層を形成する工程を含み、
前記第1層を形成する工程では、アンモニア(NH3)とシラン(SiH4)とを含む原料ガスを用いる成膜処理を行い、
前記原料ガスにおけるアンモニア(NH3)とシラン(SiH4)との比率(NH3/SiH4)は、0.1以上4以下である、
サーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記成膜処理は、プラズマCVDにより行われる、
請求項14に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルプリントヘッドおよびサーマルプリントヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来のサーマルプリントヘッドの一例が開示されている。同文献に記載されたサーマルプリントヘッドは、基板(放熱性基板)、電極配線、発熱抵抗体、および、保護層(耐摩耗保護層)を備える。電極配線および発熱抵抗体は、基板上に形成される。電極配線は、発熱抵抗体に通電するためのものである。発熱抵抗体は、発熱源であり、主走査方向に所定のピッチで一列に並んで複数形成されている。保護層は、電極配線および発熱抵抗体を覆う。保護層は、たとえばシリコン酸化物(SiO2)からなる。このようなサーマルプリントヘッドは、発熱抵抗体への通電によって発生した熱を、保護層を介して印刷媒体に伝導することで、印刷媒体への印字を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーマルプリントヘッドは、たとえば省電力化のために、発熱抵抗体が発した熱を効率よく印刷媒体へ伝達させて、印字効率を向上させることが求められる。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みて考え出されたものであり、その目的は、印字効率の向上を図ったサーマルプリントヘッドおよびサーマルプリントヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドは、基板と、主走査方向に配列された複数の発熱部を有し、前記基板に支持された抵抗体層と、前記複数の発熱部への通電経路を構成し、前記基板に支持された配線層と、前記抵抗体層および前記配線層を覆う保護層と、を備え、前記保護層は、シリコン元素を含む第1層を含み、前記第1層の屈折率は、シリコン元素と窒素元素とが化学量論組成比で構成されるシリコン窒化物の屈折率よりも高く、真性半導体である真性シリコンの屈折率以下である。
【0007】
本開示の第2の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドの製造方法は、基材を準備する工程と、主走査方向に配列された複数の発熱部を有し、前記基材に支持された抵抗体層を形成する工程と、前記複数の発熱部への通電経路を構成し、前記基材に支持された配線層を形成する工程と、前記抵抗体層および前記配線層を覆う保護層を形成する工程と、を含み、前記保護層を形成する工程は、シリコン元素を含む第1層を形成する工程を含み、前記第1層を形成する工程では、アンモニア(NH3)とシラン(SiH4)とを含む原料ガスを用いる成膜処理を行い、前記原料ガスにおけるアンモニア(NH3)とシラン(SiH4)との比率(NH3/SiH4)は、0.1以上4以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示のサーマルプリントヘッドによれば、印字効率の向上を図ることができる。また、本開示のサーマルプリントヘッドの製造方法によれば、印字効率の向上を図ったサーマルプリントヘッドを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドを示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す平面図の一部を拡大した要部平面図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタの部分拡大断面図であって、
図1のIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す断面の一部を拡大した要部断面図であって、
図2のIV-IV線に沿う断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部断面図である。
【
図8】
図8は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部断面図である。
【
図9】
図9は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部拡大断面図である。
【
図10】
図10は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部断面図である。
【
図11】
図11は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部断面図である。
【
図12】
図12は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部断面図である。
【
図13】
図13は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部断面図である。
【
図14】
図14は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部拡大断面図である。
【
図15】
図15は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部断面図である。
【
図16】
図16は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す要部断面図である。
【
図17】
図17は、第1層形成工程の成膜処理に用いる原料ガスの混合比率と、形成される第1層の屈折率との相関関係を示すグラフである。
【
図18】
図18は、第1層形成工程の成膜処理に用いる原料ガスのシランの流量と、形成される第1層の屈折率との相関関係を示すグラフである。
【
図19】
図19は、変形例にかかるサーマルプリントヘッドを示す要部拡大断面図である。
【
図20】
図20は、変形例にかかるサーマルプリントヘッドを示す要部拡大平面図である。
【
図21】
図21は、変形例にかかるサーマルプリントヘッドを示す要部拡大平面図である。
【
図22】
図22は、変形例にかかるサーマルプリントヘッドを示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のサーマルプリントヘッドおよびサーマルプリントヘッドの製造方法の好ましい実施の形態について、図面を参照して、以下に説明する。以下では、同一あるいは類似の構成要素に、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。本開示における「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、単にラベルとして用いたものであり、必ずしもそれらの対象物に順列を付することを意図していない。
【0011】
本開示において、「ある物Aがある物Bに形成されている」および「ある物Aがある物B(の)上に形成されている」とは、特段の断りのない限り、「ある物Aがある物Bに直接形成されていること」、および、「ある物Aとある物Bとの間に他の物を介在させつつ、ある物Aがある物Bに形成されていること」を含む。同様に、「ある物Aがある物Bに配置されている」および「ある物Aがある物B(の)上に配置されている」とは、特段の断りのない限り、「ある物Aがある物Bに直接配置されていること」、および、「ある物Aとある物Bとの間に他の物を介在させつつ、ある物Aがある物Bに配置されていること」を含む。同様に、「ある物Aがある物B(の)上に位置している」とは、特段の断りのない限り、「ある物Aがある物Bに接して、ある物Aがある物B(の)上に位置していること」、および、「ある物Aとある物Bとの間に他の物が介在しつつ、ある物Aがある物B(の)上に位置していること」を含む。また、「ある方向に見てある物Aがある物Bに重なる」とは、特段の断りのない限り、「ある物Aがある物Bのすべてに重なること」、および、「ある物Aがある物Bの一部に重なること」を含む。
【0012】
図1~
図5は、実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA1を示している。サーマルプリントヘッドA1は、ヘッド基板1、保護層2、配線層3、抵抗体層4、接続基板5、複数のワイヤ61、複数のドライバIC7、保護樹脂78および放熱部材8を備える。
【0013】
説明の便宜上、ヘッド基板1の厚さ方向を「厚さ方向z」という。以下の説明では、厚さ方向zの一方を上方といい、他方を下方ということがある。なお、「上」、「下」、「上方」、「下方」、「上面」および「下面」などの記載は、厚さ方向zにおける各部品、部位等の相対的位置関係を示すものであり、必ずしも重力方向との関係を規定する用語ではない。また、「平面視」とは、厚さ方向zに見たときをいう。さらに、サーマルプリントヘッドA1における主走査方向を「主走査方向x」といい、サーマルプリントヘッドA1における副走査方向を「副走査方向y」という。
【0014】
サーマルプリントヘッドA1は、印刷媒体(図示略)に印字を施するサーマルプリンタPr(
図3参照)に組み込まれるものである。サーマルプリンタPrは、サーマルプリントヘッドA1およびプラテンローラ91を備える。プラテンローラ91は、サーマルプリントヘッドA1に正対する。印刷媒体を、サーマルプリントヘッドA1とプラテンローラ91との間に挟まれ、このプラテンローラ91によって、副走査方向yに搬送される。このような印刷媒体としては、たとえばバーコードシールおよびレシートを作成するための感熱紙が挙げられる。プラテンローラ91に替えて、平坦なゴムからなるプラテンを使用してもよい。このプラテンは、大きな曲率半径を有する円柱状のゴムにおける、断面視して弓形状の一部を含む。本開示において、「プラテン」という用語は、プラテンローラ91と平坦なプラテンとの双方を含む。
【0015】
ヘッド基板1は、配線層3および抵抗体層4を支持する。ヘッド基板1は、主走査方向xを長手方向とする細長矩形状である。ヘッド基板1は、基材10および絶縁層19を含む。
【0016】
基材10は、単結晶半導体により構成され、当該単結晶半導体は、たとえばシリコン(Si)である。基材10は、
図4および
図5に示すように、第1主面11および第1裏面12を有する。第1主面11および第1裏面12は、厚さ方向zに離間し、かつ、厚さ方向zにおいて互いに反対側を向く。配線層3および抵抗体層4は、厚さ方向zにおいて、第1主面11の側に設けられる。
【0017】
基材10は、凸部13を有する。凸部13は、
図4および
図5に示すように、第1主面11から厚さ方向zに突出しており、主走査方向xに長く延びる。図示された例においては、凸部13は、基材10のうちの副走査方向y下流寄りに配置されている。凸部13は、基材10の一部であることから、単結晶半導体であるシリコン(Si)により構成される。
図5に示すように、凸部13は、頂部130、一対の第1傾斜部131A,131Bおよび一対の第2傾斜部132A,132Bを有する。
【0018】
頂部130は、凸部13のうち、第1主面11からの厚さ方向zに沿う距離が最も大きい部位である。頂部130は、たとえば第1主面11と略平行な面である。頂部130は、厚さ方向z視において、主走査方向xに長く延びる細長矩形状である。
【0019】
一対の第1傾斜部131A,131Bは、
図5に示すように、頂部130の副走査方向y両側に繋がっている。第1傾斜部131Aは、副走査方向yの上流側から頂部130に繋がる。第1傾斜部131Bは、副走査方向yの下流側から頂部130に繋がる。
図5に示すように、一対の第1傾斜部131A,131Bはそれぞれ、第1主面11に対して、角度α1だけ傾斜している(第1傾斜角度α1を以て傾斜している)。一対の第1傾斜部131A,131Bはそれぞれ、厚さ方向z視において主走査方向xに長く延びる細長矩形状の平面である。なお、凸部13は、一対の第1傾斜部131A,131Bに繋がり、頂部130の主走査方向x両端に隣接する傾斜部(図示略)を有していてもよい。
【0020】
一対の第2傾斜部132A,132Bは、
図5に示すように、一対の第1傾斜部131A,131Bに対して、副走査方向yにおいて頂部130と反対側から繋がる。第2傾斜部132Aは、副走査方向yにおいて、第1傾斜部131Aと第1主面11とに挟まれている。第2傾斜部132Aは、副走査方向yの上流側から第1傾斜部131Aに繋がり、副走査方向yの下流側から第1主面11に繋がる。第2傾斜部132Bは、副走査方向yにおいて、第1傾斜部131Bと第1主面11とに挟まれている。第2傾斜部132Bは、副走査方向yの下流側から第1傾斜部131Bに繋がり、副走査方向yの上流側から第1主面11に繋がる。
図5に示すように、一対の第2傾斜部132A,132Bはそれぞれ、第1主面11に対して、角度α2だけ傾斜している(第2傾斜角度α2を以て傾斜している)。角度α2は、角度α1よりも大きい。一対の第2傾斜部132A,132Bはそれぞれ、厚さ方向z視において主走査方向xに長く延びる細長矩形状の平面である。一対の第2傾斜部132A,132Bはそれぞれ、第1主面11に繋がっている。なお、凸部13は、一対の第2傾斜部132A,132Bに繋がり、頂部130の主走査方向x両端の主走査方向x外方に位置する傾斜部(図示略)を有していてもよい。
【0021】
基材10において、第1主面11は(100)面である。後述の製造方法によって形成された凸部13において、第1主面11に対する各第1傾斜部131A,131Bの傾斜角度α1(
図5参照)は、たとえば30.1度であり、第1主面11に対する各第2傾斜部132A,132Bの傾斜角度α2(
図5参照)は、たとえば54.7度である。
【0022】
ヘッド基板1の大きさは、特に限定されないが、一例を挙げると、次の通りである。厚さ(厚さ方向zの寸法)は、725μmである。この厚さは、第1裏面12から頂部130までの厚さ方向zに沿う寸法である。凸部13の厚さ方向z寸法は、150μm以上300μm以下であり、一例では、175μmである。主走査方向x寸法は、50mm以上150mm以下である。副走査方向y寸法は、2.0mm以上5.0mm以下である。
【0023】
絶縁層19は、
図4および
図5に示すように、第1主面11および凸部13を覆う。絶縁層19は、基材10の第1主面11側を、より確実に絶縁するために設けられる。絶縁層19は、絶縁性材料からなり、当該絶縁性材料としては、たとえばTEOS(オルトケイ酸テトラエチル)を原料ガスとして成膜されるSiO
2(TEOS-SiO
2)が採用される。TEOS-SiO
2の代わりに、たとえば他の方法によって成膜されたシリコン酸化物あるいはシリコン窒化物が採用されてもよい。絶縁層19の厚さは特に限定されないが、その一例を挙げるとたとえば5μm以上15μm以下(好ましくは5μm以上10μm以下)である。
【0024】
抵抗体層4は、ヘッド基板1に支持されており、
図4および
図5に示すように、絶縁層19を介して基材10に支持されている。抵抗体層4は、複数の発熱部41を有する。理解の便宜上、
図2において、複数の発熱部41に、ドット状の模様を描画する。
【0025】
複数の発熱部41は、各々に選択的に通電されることにより、印刷媒体を局所的に加熱する。各発熱部41は、抵抗体層4のうち配線層3から露出した領域である。複数の発熱部41は、主走査方向xに沿って配列されており、主走査方向xにおいて互いに離間する。各発熱部41の形状は特に限定されず、例えば厚さ方向z視において副走査方向yを長手方向とする矩形状である。抵抗体層4は、配線層3よりも高抵抗な材料からなる。抵抗体層4の構成材料としては、たとえばTaNが採用されるが、TaNの代わりに、TaSiO2、TiON、PolySi、Ta2O5、RuO2、RuTiOあるいはTaSiNなどを採用してもよい。抵抗体層4の形成方法は特に限定されないが、たとえばスパッタリング法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法、めっきなどによって形成され、採用される構成材料により適宜選定される。たとえば、抵抗体層4の構成材料がTaNの場合、抵抗体層4はスパッタリング法により形成される。抵抗体層4の厚さは特に限定されないが、その一例を挙げると0.02μm以上0.1μm以下(好ましくは0.08μm程度)である。
【0026】
各発熱部41は、凸部13上に配置されている。
図5に示す例では、各発熱部41は、第1傾斜部131Bから頂部130に跨って形成されている。各発熱部41の副走査方向y上流側の端縁は、頂部130上に位置し、各発熱部41の副走査方向y下流側の端縁は、第1傾斜部131B上に位置する。各発熱部41は、凸部13上に配置されていれば、
図5に示す例に限定されない。
【0027】
配線層3は、複数の発熱部41に通電するための通電経路を構成する。配線層3は、ヘッド基板1に支持されており、本実施形態では、
図4および
図5に示すように、抵抗体層4上に積層されている。
【0028】
配線層3は、
図1および
図2に示すように、共通電極31、複数の個別電極32および複数の中継電極33を有する。
【0029】
複数の中継電極33の各々は、
図2に示すように、2つの帯状部331および連結部332を含む。2つの帯状部331は、副走査方向yに延びる帯状である。2つの帯状部331は、互いに略平行に配置された状態で、主走査方向xに離間する。2つの帯状部331はそれぞれ、隣接する発熱部41にそれぞれ接続している。
図2に示す例では、2つの帯状部331はそれぞれ、副走査方向yの下流側から各発熱部41に繋がっている。2つの帯状部331の主走査方向xの各寸法は、略同じである。連結部332は、2つの帯状部331よりも副走査方向y下流側に位置する。連結部332は、2つの帯状部331のそれぞれに繋がる。連結部332は、主走査方向xに延びる帯状である。複数の中継電極33は、主走査方向xに等ピッチで配列されている。複数の中継電極33のそれぞれは、開口を副走査方向y上流側に向けたU字形状をなし、角部が直角に屈曲する。複数の中継電極33はそれぞれ、複数の発熱部41の副走査方向y下流側に位置する。
【0030】
共通電極31は、
図2に示すように、複数の直行部311、複数の分岐部312、複数の帯状部313および連結部314を含む。複数の直行部311はそれぞれ、副走査方向yに延びる帯状である。複数の直行部311は、副走査方向yに等ピッチで配列される。複数の直行部311の各先端側(副走査方向y下流側)には、分岐部312および2つの帯状部313が設けられている。当該2つの帯状部313は、隣接する発熱部41にそれぞれ接続している。
図2に示す例では、当該2つの帯状部313はそれぞれ、副走査方向yの上流側から発熱部41に繋がっている。各帯状部313の主走査方向xの寸法は、各帯状部331の主走査方向xの寸法と略同じである。また、各帯状部313は、副走査方向yに見て、各帯状部331に重なる。複数の分岐部312はそれぞれ、各直行部311の先端に接続される。複数の分岐部312はそれぞれ、副走査方向yにおいて2つの帯状部313に繋がる各端部と反対側の端部に、各直行部311が接続されている。2つの帯状部313はそれぞれ、副走査方向yの上流側から発熱部41に繋がっている。連結部314は、複数の直行部311の基端側(副走査方向y上流側)に位置して、主走査方向xに沿って延びている。連結部314には、複数の直行部311がそれぞれ繋がっている。連結部314は、ワイヤ61および接続基板5の配線を介して、コネクタ59に接続されており、駆動電圧が印加される。
【0031】
複数の個別電極32はそれぞれ、共通電極31に対して逆極性となる。複数の個別電極32は、
図2に示すように、主走査方向xに離間して配列されている。複数の個別電極32はそれぞれ、
図2に示すように、帯状部321およびパッド部322を含む。各個別電極32において、帯状部321は、副走査方向yに延びる帯状であり、発熱部41の副走査方向y上流側に位置する。
図2に示す例では、帯状部321は、先端側(副走査方向y下流側)で発熱部41に接続されている。帯状部321の主走査方向xの寸法は、各帯状部331の主走査方向xの寸法と略同じである。また、帯状部321の副走査方向y下流側の端部は、副走査方向yに見て帯状部331に重なる。各個別電極32において、パッド部322は、帯状部321の副走査方向y上流側の端部に設けられている。パッド部322は、ワイヤ61を介して、複数のドライバIC7のいずれかの出力パッド72(後述)のいずれかに接続している。
【0032】
サーマルプリントヘッドA1では、
図2に示すように、共通電極31の各直行部311が、2つの個別電極32の帯状部321に挟まれて配置されている。各中継電極33の2つの帯状部331の一方が接続される発熱部41は、共通電極31に接続しており、当該中継電極33の2つの帯状部331の他方が接続される発熱部41は、複数の個別電極32のいずれかに接続している。したがって、各個別電極32が通電することで、これに接続する発熱部41と、当該発熱部41に中継電極33を介して接続する発熱部41とに電流が流れて、これらの発熱部41が発熱する。つまり、2つの発熱部41が同時に発熱する。サーマルプリントヘッドA1では、各発熱部41が通電したとき、各発熱部41には、副走査方向yに沿って電流が流れる。
【0033】
配線層3(共通電極31、複数の個別電極32および複数の中継電極33)は、
図5および
図6に示すように、厚さ方向zに積層された第1導体層301および第2導体層302を含んで構成される。
【0034】
第1導体層301は、
図4および
図5に示すように、抵抗体層4上に形成されている。第1導体層301は、副走査方向yにおける単位長さ当たりの抵抗値が、抵抗体層4よりも低抵抗であり、かつ、第2導体層302よりも高抵抗な材料からなる。たとえば、第1導体層301の電気伝導率は、たとえば10
-6~10
-7Ωmである。第1導体層301の構成材料としては、たとえばTi(チタン)が採用されるが、Tiの代わりに、Ta、Ga、Sn、PtIr、Pt、Tl(タリウム)、V(バナジウム)あるいはCrなどを採用してもよい。第1導体層301の形成方法は特に限定されないが、たとえばスパッタリング法やCVD法、めっきなどによって形成され、採用される構成材料により適宜選定される。たとえば、第1導体層301の構成材料がTiの場合、第1導体層301はスパッタリング法により形成される。第1導体層301の厚さは特に限定されないが、その一例を挙げると0.1μm以上0.2μm以下である。
【0035】
第2導体層302は、
図4および
図5に示すように、第1導体層301上に形成されている。第2導体層302は、第1導体層301を部分的に覆っている。よって、第1導体層301は第2導体層302から露出する部分がある。第2導体層302は、副走査方向yにおける単位長さ当たりの抵抗値が、抵抗体層4および第1導体層301よりも低抵抗な材料からなる。たとえば、第2導体層302の電気抵抗率は、10
-7Ωm以下である。好ましくは、第2導体層302は、第1導体層301よりも熱伝導度が高い材料からなる。第2導体層302の構成材料は、たとえばCuが採用されるが、Cuの代わりに、Cu合金、Al、Al合金、Au、Ag、NiあるいはW(タングステン)などを採用してもよい。第2導体層302の形成方法は特に限定されないが、たとえばスパッタリング法やCVD法、めっきなどによって形成され、採用される構成材料により適宜選定される。たとえば、第2導体層302の構成材料がCuの場合、第2導体層302はスパッタリング法により形成される。なお、第2導体層302の構成材料がAu、Ag、Niである場合、一般的にはめっきにより形成されるが、この場合、第2導体層302は、シード層(たとえばCu)などを含んでいてもよい。第2導体層302は、第1導体層301よりも厚い。第2導体層302の厚さは、使用する材料、配線層3に流れる電流の値などに依存する。第2導体層302の厚さの一例を挙げると0.5μm以上5μm以下である。
【0036】
サーマルプリントヘッドA1では、
図2および
図5から理解されるように、各帯状部313(共通電極31)、各帯状部321(各個別電極32)、および、各帯状部331(各中継電極33)のそれぞれのうちの各発熱部41に繋がる部分は、第2導体層302から露出する第1導体層301によって構成されている。つまり、各帯状部313(共通電極31)、各帯状部321(各個別電極32)、および、各帯状部331(各中継電極33)のそれぞれは、第1導体層301のみで構成された部分と、第1導体層301と第2導体層302とが積層された部分とを含む。この構成とは異なり、各発熱部41に繋がる当該部分は、第1導体層301上に第2導体層302が積層された構成であってもよい。つまり、各帯状部313(共通電極31)、各帯状部321(各個別電極32)、および、各帯状部331(各中継電極33)のそれぞれは、形成範囲のすべてにおいて、第1導体層301と第2導体層302とが積層されている。
【0037】
保護層2は、配線層3および抵抗体層4を保護する。保護層2は、
図4および
図5に示すように、配線層3および抵抗体層4を覆う。なお、
図1および
図2においては、保護層2を省略する。保護層2は、サーマルプリントヘッドA1における表層である。保護層2は、第1層21および第2層22を含む。
【0038】
第1層21は、保護層2における下層である。第1層21は、第2層22よりも、ヘッド基板1、配線層3および抵抗体層4に近い側に配置される。第1層21は、絶縁層19、配線層3および抵抗体層4を覆う。第1層21の組成は、シリコン元素を含む。第1層21の屈折率は、シリコン元素と窒素元素とが化学量論組成比で構成されるシリコン窒化物(Si3N4)よりも大きく、真性半導体である真性シリコン(Si)以下である。このシリコン窒化物(Si3N4)は、シリコン元素と窒素元素とが、化学量論的に、理想的な比率で組成されたものであり、以下では「真性シリコン窒化物」という。真性シリコン窒化物(Si3N4)において、窒素(N)/シリコン(Si)の化学量論的な組成比は、1.33(≒4/3)である。本開示の第1層21の屈折率は、たとえば2.05以上3.882以下(好ましくは2.2以上3.882以下)である。本開示における屈折率の数値例はすべて、波長が632.8nmの光に対する値である。本実施形態では、第1層21は、シリコン元素と窒素元素との化合物であって、先述の真性シリコン窒化物(Si3N4)よりもシリコン元素の含有割合が多い。以下では、真性シリコン窒化物(Si3N4)よりもシリコン元素の含有割合が多いシリコン窒化物を「シリコンリッチ窒化物」という。シリコンリッチ窒化物において、窒素(N)/シリコン(Si)の化学量論的な組成比は、1.33(≒4/3)よりも大きい。本実施形態では、第1層21は、たとえばシリコンリッチ窒化物により構成される。真性シリコン(Si)の屈折率は、3.882であり、このように第1層21がシリコンリッチ窒化物である構成では、第1層21の屈折率は、(2.05以上)3.882よりも小さい。本実施形態と異なる例において、第1層21は、真性シリコンにより構成されてもよい。この場合、第1層21の屈折率は、3.882である。第1層21の厚さ方向zの寸法は、たとえば1μm以上10μm以下(好ましくは3.2μm)である。
【0039】
第2層22は、保護層2における上層である。第2層22は、第1層21を覆う。サーマルプリントヘッドA1において、
図3に示すように、プラテンローラ91により、印刷媒体が第2層22に押し当てられる。第2層22の組成は、たとえばシリコン炭化物(SiC)である。第2層22の厚さ方向zの寸法は、たとえば1μm以上10μm以下(好ましくは4.0μm)である。
【0040】
保護層2は、
図5に示すように、複数のパッド用開口29を有する。各パッド用開口29は、保護層2(第1層21および第2層22)を厚さ方向zに貫通する。複数のパッド用開口29はそれぞれ、各個別電極32のパッド部322を露出させている。図示された例と異なり、複数のパッド用開口29に導電性材料を充填させてもよい。この場合、この導電性材料上にめっき層を形成してもよい。このめっき層の構成は特に限定されないが、一例を挙げると、導電性材料の表面からNi、Pd(パラジウム)、Auの順に積層されている。
【0041】
接続基板5は、
図1~
図3に示すように、ヘッド基板1に対して副走査方向y上流側に配置されている。接続基板5は、たとえばPCB基板であり、各ドライバIC7やコネクタ59(後述)が搭載される。接続基板5の形状などは特に限定されないが、本実施形態においては、主走査方向xを長手方向とする矩形状である。接続基板5は、
図3に示すように、第2主面51および第2裏面52を有する。第2主面51は、基材10の第1主面11と同じ側を向く面であり、第2裏面52は、基材10の第1裏面12と同じ側を向く面である。本実施形態においては、第2主面51は、第1主面11よりも厚さ方向z図中下方に位置する。
【0042】
接続基板5には、
図2に示すように、複数の制御電極55が形成されている。各制御電極55は、第2主面51に配置され、ドライバIC7よりも副走査方向y上流側に配置されている。各制御電極55は、副走査方向yに沿って延びる。各制御電極55は、それぞれワイヤ61を介して、ドライバIC7の入力パッド71(後述)のいずれかに接続され、接続基板5の配線を介してコネクタ59に接続している。
【0043】
複数のドライバIC7はそれぞれ、複数の発熱部41を選択駆動するために、発熱させる発熱部41に個別に電流を流すためのものである。ドライバIC7の数は、発熱部41の個数に応じて、適宜変更される。各ドライバIC7の通電制御は、コネクタ59、接続基板5の配線および制御電極55を介して、サーマルプリントヘッドA1外から入力される指令信号に従う。各ドライバIC7は、接続基板5の第2主面51に搭載され、複数のワイヤ61を介して、複数の個別電極32および複数の制御電極55に接続されている。
【0044】
各ドライバIC7の上面には、
図2に示すように、複数の入力パッド71および複数の出力パッド72が配置されている。複数の入力パッド71は、各ドライバIC7を制御するための各種信号などが入力される端子である。複数の入力パッド71は、各ドライバIC7の上面のうち、副走査方向y上流側の端部寄りに配置されている。各入力パッド71は、各ワイヤ61を介して、各制御電極55に接続されている。複数の出力パッド72は、発熱部41を駆動する電流を流す端子である。複数の出力パッド72は、各ドライバIC7の上面のうち、副走査方向y下流側の端部寄りに配置されている。各出力パッド72は、各ワイヤ61を介して、各個別電極32のパッド部322に接続されている。
【0045】
保護樹脂78は、複数のドライバIC7および複数のワイヤ61を覆う。保護樹脂78は、たとえば絶縁性樹脂からなりたとえば黒色である。保護樹脂78は、
図1および
図3に示すように、ヘッド基板1と接続基板5とに跨るように形成されている。
【0046】
コネクタ59は、サーマルプリントヘッドA1をサーマルプリンタPrに接続するために用いられる。コネクタ59は、接続基板5に取り付けられており、接続基板5の配線パターン(図示略)および制御電極55を介して、ドライバIC7の入力パッド71に接続されている。
【0047】
放熱部材8は、ヘッド基板1および接続基板5を支持しており、複数の発熱部41によって生じた熱の一部を、ヘッド基板1を介して外部へと放熱するためのものである。放熱部材8は、たとえばAl(アルミニウム)等の金属からなるブロック状の部材である。放熱部材8は、
図3に示すように、第1支持面81および第2支持面82を有する。第1支持面81および第2支持面82は、各々が厚さ方向z上側を向いている。第1支持面81は、第2支持面82よりも副走査方向y下流側に位置する。
図3に示すように、第1支持面81には、基材10の第1裏面12が接合され、第2支持面82には、接続基板5の第2裏面52が接合されている。
【0048】
次に、サーマルプリントヘッドA1の製造方法の一例について、
図6~
図16を参照して、説明する。
図6は、サーマルプリントヘッドA1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図7、
図8、
図10~
図13、
図15および
図16は、サーマルプリントヘッドA1の製造方法の一工程を示す要部断面図であって、
図4に対応する。
図9および
図14は、サーマルプリントヘッドA1の製造方法の一工程を示す要部拡大断面図であって、
図5の断面に対応する。
【0049】
図6に示すように、サーマルプリントヘッドA1の製造方法は、基材準備工程S11、基材加工工程S12、絶縁層形成工程S13、抵抗体膜形成工程S14、配線膜形成工程S15、除去工程S16、保護層形成工程S17、個片化工程S181および組立工程S182を含む。
【0050】
〔基材準備工程S11〕
まず、
図7に示すように、基材10Kを用意する。基材10Kは、単結晶半導体からなり、たとえば、Siウェハの一部分である。1枚のSiウェハは複数の基材10Kを含む。以下の図では、Siウェハの一部分であって1個のサーマルプリントヘッドA1に対応する1個の基材10K(ヘッド基板1)を対象にして図示する。基材10Kの厚さ(言い換えればSiウェハの厚さ)は特に限定されないが、本実施形態においては、たとえば725μm程度である。
図7に示すように、基材10Kは、互いに反対側を向く主面11Kおよび裏面12Kを有する。主面11Kは、(100)面である。
【0051】
〔基材加工工程S12〕
次いで、
図8および
図9に示すように、基材10Kを加工し、基材10Kに凸部13を形成する。基材加工工程S12では、二回のエッチングを行う。
【0052】
一回目のエッチングでは、主面11Kを所定のマスク層で覆った後、たとえばKOH(水酸化カリウム)を用いた異方性エッチングを行う。この異方性エッチングで用いる薬剤は、KOHではなくTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を用いてもよいが、KOHを用いた方が、処理速度(エッチング速度)が速い。その後、マスク層を除去する。これにより、
図8に示すように、基材10Kには凸部13Kが形成される。凸部13Kは、主面11Kから突出しており、主走査方向xに長く延びる。凸部13Kは、頂部130Kおよび一対の傾斜部132Kを有する。頂部130Kは、主面11Kと平行な面であり、主面11Kと同じ(100)面である。頂部130Kは、上記マスク層で覆われていた部分である。一対の傾斜部132Kは、頂部130Kの副走査方向y両側に位置しており、頂部130Kと主面11Kとの間に介在している。一対の傾斜部132Kはそれぞれ、頂部130Kおよび主面11Kに対して傾斜した平面である。一対の傾斜部132Kのそれぞれと、主面11Kおよび頂部130Kとがなす角度は、54.7度である。
【0053】
二回目のエッチングでは、たとえばTMAHを用いた異方性エッチングを行う。この異方性エッチングで用いる薬剤は、TMAHではなくKOHを用いてもよいが、TMAHを用いた方が、エッチングによって形成される面(たとえば後述の一対の第1傾斜部131A,131B)が平滑な面になる。この異方性エッチングにより、
図9に示すように、基材10Kが、第1主面11、第1裏面12および凸部13を有する基材10となる。凸部13は、頂部130、一対の第1傾斜部131A,131Bおよび一対の第2傾斜部132A,132Bを有する。頂部130は、頂部130Kであった部分であり、一対の第2傾斜部132A,132Bは、一対の傾斜部132Kであった部分である。一対の第1傾斜部131A,131Bは、頂部130Kと一対の傾斜部132Kとの境界がTMAHによりエッチングされた部分である。第1主面11に対する各第1傾斜部131A,131Bの角度α1(
図9参照)は、30.1度であり、第1主面11に対する各第2傾斜部132A,132Bの角度α2(
図9参照)は、54.7度である。
【0054】
〔絶縁層形成工程S13〕
次いで、
図10示すように、絶縁層19を形成する。絶縁層19の形成は、たとえばCVDを用いて、TEOSを原料ガスとして形成されるSiO
2を基材10に堆積させることによって行う。絶縁層19の形成方法は、これに限定されない。形成された絶縁層19は、第1主面11の全面および凸部13を覆う。これにより、基材10および絶縁層19を含むヘッド基板1が形成される。
【0055】
〔抵抗体膜形成工程S14〕
次いで、
図11に示すように、抵抗体膜4Kを形成する。抵抗体膜形成工程S14では、たとえばスパッタリングによって絶縁層19上にTaNの薄膜を形成する。抵抗体膜4Kの形成方法は、これに限定されない。抵抗体膜4Kは、絶縁層19の略全面を覆うように形成される。
【0056】
〔配線膜形成工程S15〕
次いで、
図12および
図13に示すように、配線膜3Kを形成する。配線膜形成工程S15は、第1成膜処理S151と第2成膜処理S152とを有する。
【0057】
第1成膜処理S151では、
図12に示すように、抵抗体膜4K上に第1導体膜301Kを形成する。第1導体膜301Kは、たとえばスパッタリング法によって成膜される。第1導体膜301Kは、たとえばTiからなる薄膜である。このとき、第1導体膜301Kは、抵抗体膜4Kの略全面を覆っている。
【0058】
第2成膜処理S152では、
図13に示すように、第1導体膜301K上に第2導体膜302Kを形成する。第2導体膜302Kは、たとえばめっきあるいはスパッタリング法などによって成膜される。第2導体膜302Kは、たとえばCuからなる。このとき、第2導体膜302Kは、第1導体膜301Kの略全面を覆っている。
【0059】
〔除去工程S16〕
次いで、第2導体膜302K、第1導体膜301Kおよび抵抗体膜4Kを、それぞれ部分的に適宜除去し、
図14に示すように、配線層3および抵抗体層4を形成する。
図6に示すように、除去工程S16は、第1部分除去処理S161、第2部分除去処理S162、および第3部分除去処理S163を有する。
【0060】
第1部分除去処理S161では、第2導体膜302Kの部分的な除去を行う。第2部分除去処理S162では、第1導体膜301Kの部分的な除去を行う。第3部分除去処理S163では、抵抗体膜4Kの部分的な除去を行う。第1部分除去処理S161、第2部分除去処理S162および第3部分除去処理S163はそれぞれ、たとえばエッチングにより行う。第1部分除去処理S161により、第2導体層302が形成され、第2部分除去処理S162により、第1導体層301が形成され、第3部分除去処理S163により、抵抗体層4が形成される。第3部分除去処理S163は、第1部分除去処理S161および第2部分除去処理S162の前に行われてもよい。形成された第1導体層301および第2導体層302は、上記配線層3を構成し、配線層3は、共通電極31、複数の個別電極32および複数の中継電極33を有する。形成された抵抗体層4は、複数の発熱部41を有し、発熱部41毎に分割されている。
【0061】
〔保護層形成工程S17〕
次いで、配線層3および抵抗体層4を覆う保護層2を形成する。
図6に示すように、保護層形成工程S17は、第1層形成工程S171、第2層形成工程S172、および、部分除去工程S173を有する。
【0062】
第1層形成工程S171では、
図15に示すように、基材10の厚さ方向z上方の全面にわたって、第1層21を形成する。第1層形成工程S171では、アンモニア(NH
3)とシラン(SiH
4)とを含む原料ガスを用いて、成膜処理を行う。当該成膜処理は、たとえばプラズマCVDである。先述の原料ガスは、アンモニア(NH
3)とシラン(SiH
4)との比率(NH
3/SiH
4)が、0.1以上4以下である。この原料ガスにおけるアンモニア(NH
3)とシラン(SiH
4)との比率(NH
3/SiH
4)を「混合比率」ということがある。なお、当該原料ガスには、アンモニア(NH
3)およびシラン(SiH
4)の他、窒素(N
2)も含まれる。また、プラズマCVD装置の成膜室の温度は、320℃以上420℃以下(たとえば400℃)である。このような成膜処理により、第1層21として、屈折率が真性シリコン窒化物よりも大きく真性シリコン以下であるシリコンリッチ窒化物が形成される。なお、第1層形成工程S171で行う成膜処理は、プラズマCVDではなく、熱CVDであってもよい。
【0063】
第2層形成工程S172では、
図16に示すように、第1層21を覆う第2層22を形成する。第2層形成工程S172では、たとえばスパッタリングによりシリコン炭化物(SiC)の薄膜を第1層21に堆積させる。なお、第2層22の形成は、スパッタリングに限定されない。
【0064】
部分除去工程S173では、第1層21および第2層22を部分的に除去し、第1層21および第2層22を厚さ方向zに貫通するパッド用開口29を形成する。部分除去工程S173では、たとえば第1層21および第2層22に対してリソグラフィパターニングを施した後、第1層21および第2層22の一部を除去する。当該除去は、たとえば反応性イオンエッチングにより行われる。これにより、パッド用開口29から複数の個別電極32の一部ずつ(パッド部322)が露出する。なお、第1層形成工程S171における第1層21の形成および第2層形成工程S172における第2層22の形成において、これらの形成範囲を調整して、パッド用開口29が形成される場合には、部分除去工程S173を行わなくてもよい。
【0065】
〔個片化工程S181〕
次いで、基材10を適宜ヘッド基板1ごとに分割する。なお、基材準備工程S11において、1つのヘッド基板1に対応する基材10が準備されていた場合には、個片化工程S181を行わなくてもよい。個片化工程S181は、基材10の素材に応じて、たとえばレーザダイシングあるいはブレードダイシングなどが選択される。本実施形態では、ブレードダイシングにより個片化工程S181が行われる。
【0066】
〔組立工程S182〕
その後、ヘッド基板1および接続基板5の放熱部材8への取付け、ドライバIC7の実装、複数のワイヤ61のボンディング、および、保護樹脂78の形成などを行う。以上、
図6に示す工程を経ることで、
図1~
図5に示すサーマルプリントヘッドA1が製造される。
【0067】
上記したサーマルプリントヘッドA1の製造方法は、一例であって、これに限定されない。たとえば第1層形成工程S171において、シリコンリッチ窒化物により構成された第1層21を形成する例を記載したが、この例とは異なり、真性シリコンにより構成された第1層21を形成してもよい。この場合の真性シリコンの成膜は、周知の成膜技術を利用すればよい。
【0068】
サーマルプリントヘッドA1およびサーマルプリントヘッドA1の製造方法の作用および効果は、次の通りである。
【0069】
サーマルプリントヘッドA1は、配線層3および抵抗体層4(複数の発熱部41)を覆う保護層2を備える。保護層2は、シリコン元素を含む第1層21を含む。第1層21の屈折率は、真性シリコン窒化物(シリコン元素と窒素元素とが化学量論組成比で構成されるシリコン窒化物Si3N4)の屈折率よりも大きく、真性シリコン(Si)の屈折率以下である。特許文献1に記載のサーマルプリントヘッドでは、本開示のサーマルプリントヘッドA1の保護層2に対応する耐摩耗保護層は、たとえばシリコン酸化物(SiO2)により構成される。このシリコン酸化物(SiO2)の屈折率は、真性シリコン窒化物の屈折率よりも小さい。つまり、サーマルプリントヘッドA1の第1層21の屈折率は、真性シリコン窒化物(Si3N4)の屈折率よりも大きく、シリコン酸化物(SiO2)の屈折率は、真性シリコン窒化物(Si3N4)の屈折率よりも小さい。したがって、第1層21の屈折率は、シリコン酸化物(SiO2)の屈折率よりも大きい。本願発明者の研究によれば、屈折率と熱伝導率とは相関関係があり、屈折率が大きいほど、熱伝導率が大きくなるとの知見を得た。たとえば、シリコン酸化物(SiO2)の熱伝導率は、1.38W/mKであり、真性シリコン窒化物(Si3N4)の熱伝導率は、27W/mKであり、真性シリコン(Si)の熱伝導率は、168W/mKであるので、屈折率が大きい程、熱伝導率が大きいという相関がある。したがって、本開示の第1層21は、シリコン酸化物(SiO2)で構成される場合よりも熱伝導率が大きい。これにより、サーマルプリントヘッドA1は、従来(特許文献1に記載)のサーマルプリントヘッドよりも、第1層21の熱伝導率が向上するので、各発熱部41が発した熱を効率よく印字媒体に伝達することが可能となる。つまり、サーマルプリントヘッドA1は、印字効率の向上を図ることができる。
【0070】
サーマルプリントヘッドA1では、第1層21の屈折率は、2.05以上であり3.882以下である。真性シリコン窒化物(Si3N4)の屈折率は、たとえば、2.023であり、真性シリコン(Si)の屈折率は、たとえば3.882である。なお、上記シリコン酸化物(SiO2)の屈折率は、たとえば1.457である。したがって、第1層21の屈折率を上記数値範囲内にすることで、第1層21の屈折率は、真性シリコン窒化物の屈折率よりも大きく、真性シリコンの屈折率以下となる。つまり、サーマルプリントヘッドA1は、第1層21の屈折率を、2.05以上3.882以下とすることで、第1層21の熱伝導率を向上させることができる。これにより、サーマルプリントヘッドA1は、各発熱部41が発した熱を効率よく印刷媒体に伝達させ、印字効率の向上を図ることができる。
【0071】
サーマルプリントヘッドA1では、第1層21は、シリコン元素と窒素元素との化合物であって、真性シリコン窒化物(Si3N4)よりもシリコン元素の含有割合が多い。つまり、第1層21は、シリコンリッチ窒化物により構成される。本願発明者の研究によれば、シリコン窒化物において、シリコンの含有割合が多い程、屈折率が大きくなるとの知見を得た。したがって、サーマルプリントヘッドA1では、第1層21をシリコンリッチ窒化物により構成することで、真性シリコン窒化物(Si3N4)よりも、屈折率を大きくできるので、第1層21は、真性シリコン窒化物(Si3N4)で構成される場合よりも熱伝導率が大きい。つまり、サーマルプリントヘッドA1は、第1層21が真性シリコン窒化物(Si3N4)で構成される場合よりも、第1層21の熱伝導率を向上させることができる。これにより、サーマルプリントヘッドA1は、各発熱部41が発する熱を効率よく印刷媒体に伝達することが可能となるので、印字効率の向上を図ることができる。
【0072】
サーマルプリントヘッドA1では、第1層21は、シリコンリッチ窒化物で構成される。真性シリコン(Si)の屈折率は3.882であるので、この構成では、第1層21の屈折率が(2.05以上)3.882未満となる。サーマルプリントヘッドA1において、第1層21を真性シリコンで構成し、第1層21の屈折率を3.882としても、先述の通り、第1層21の熱伝導率を向上させて、印字効率の向上を図ることができる。一方で、シリコンリッチ窒化物は、真性シリコン(Si)よりも耐湿性が良い。つまり、サーマルプリントヘッドA1は、第1層21をシリコンリッチ窒化物で構成することで、第1層21を真性シリコン(Si)で構成した場合よりも、耐湿性を向上させることができる。これにより、サーマルプリントヘッドA1は、印字効率を向上させつつ、耐湿性を向上させることができる。
【0073】
サーマルプリントヘッドA1では、保護層2は、第1層21を覆う第2層22をさらに含む。第2層22は、たとえばシリコン炭化物(SiC)により構成される。シリコン炭化物で構成された第2層22は、シリコン窒化物で構成される第1層21よりも、熱伝導率が高く且つビッカース硬さが大きい。したがって、サーマルプリントヘッドA1は、印字効率の向上を図りつつ、印刷媒体の搬送による保護層2の摩耗を効果的に抑制できる。
【0074】
サーマルプリントヘッドA1の製造方法では、保護層2を形成する工程(保護層形成工程S17)を含む。保護層形成工程S17は、シリコン元素を含む第1層21を形成する工程を含み、当該第1層21を形成する工程では、アンモニア(NH3)とシラン(SiH4)とを含む原料ガスを用いる成膜処理を行う。そして、この成膜処理で用いる原料ガスにおいて、アンモニア(NH3)とシラン(SiH4)との比率(NH3/SiH4)は、0.1以上4以下である。このような製造方法では、保護層2の第1層21として、真性シリコン窒化物(Si3N4)よりもシリコン元素の含有割合が多いシリコンリッチ窒化物が形成される。したがって、サーマルプリントヘッドA1の製造方法によれば、シリコンリッチ窒化物により構成される第1層21を形成できるので、先述の通り、第1層21の熱伝導率が向上される。つまり、サーマルプリントヘッドA1の製造方法は、印字効率の向上を図ったサーマルプリントヘッドA1を製造できる。
【0075】
また、形成される第1層21の屈折率は、上記アンモニア(NH
3)とシラン(SiH
4)との比率(混合比率)に対して、たとえば
図17に示す相関関係がある。
図17に示すグラフでは、横軸に混合比率をとり、縦軸に屈折率をとる。
図17に示すように、混合比率に応じて、第1層21の屈折率が変化し、シラン(SiH
4)に対するアンモニア(NH
3)の比率が大きい程、形成されるシリコン窒化物の屈折率が小さくなる。つまり、アンモニア(NH
3)に対してシラン(SiH
4)が多い程、形成されるシリコン窒化物の屈折率が大きくなる。このような
図17に示す相関関係に基づいて、上記第1層形成工程S171の成膜処理において、原料ガスのアンモニア(NH
3)とシラン(SiH
4)との比率(NH
3/SiH
4)を、0.1以上4以下とすることで、第1層21(シリコンリッチ窒化物)の屈折率を、真性シリコン窒化物の屈折率より大きく真性シリコンの屈折率以下にすることができる。したがって、サーマルプリントヘッドA1の製造方法は、印字効率の向上を図ったサーマルプリントヘッドA1を製造できる。
【0076】
サーマルプリントヘッドA1の製造方法では、第1層形成工程S171の成膜処理において、シラン(SiH
4)の流量が、真性シリコン窒化物(Si
3N
4)を成膜する際の流量よりも多い。この構成によれば、第1層21として、シリコンリッチ窒化物を形成することができ、屈折率を向上させることができる。形成される第1層21の屈折率は、第1層形成工程S171の成膜処理におけるシラン(SiH
4)の流量に対して、たとえば
図18に示す相関関係がある。なお、
図18は、アンモニア(NH
3)の流量を、4000sccmとした場合の相関関係を示している。
図18に示すグラフにおいて、横軸にシラン(SiH
4)の流量をとり、縦軸に屈折率をとる。
図18に示すように、シラン(SiH
4)の流量が多い程、第1層21の屈折率は大きくなる。これは、シラン(SiH
4)の流量が多い程、形成される第1層21(シリコンリッチ窒化物)のシリコン元素の含有割合が多くなるためである。したがって、第1層形成工程S171の成膜処理において、シラン(SiH
4)の流量を、真性シリコン窒化物(Si
3N
4)を成膜する際の流量よりも多くすることで、形成されるシリコン窒化物(第1層21)の屈折率を大きくして、熱伝導率を向上させることができる。つまり、サーマルプリントヘッドA1の製造方法では、印字効率の向上を図ったサーマルプリントヘッドA1を製造できる。
【0077】
上記実施形態のサーマルプリントヘッドA1において、凸部13は、一対の第1傾斜部131A,131Bのそれぞれを有さず、頂部130および一対の第2傾斜部132A,132Bを有する構成であってもよい。この場合、頂部130と一対の第2傾斜部132A,132Bとがそれぞれ直接接する。また、上記実施形態のサーマルプリントヘッドA1において、基材10は、凸部13を有していなくてもよい。
【0078】
上記実施形態のサーマルプリントヘッドA1において、保護層2は、第2層22を含まず、たとえば
図19に示すように、第1層21のみで構成されてもよい。
図19は、変形例にサーマルプリントヘッドを示す要部断面図であって、保護層2が第2層22を含まない例を示す。
図19に示すサーマルプリントヘッドにおいても、サーマルプリントヘッドA1と同様に、各発熱部41が発する熱を効率よく印刷媒体に伝達させ、印字効率の向上を図ることができる。ただし、先述の通り、保護層2の摩耗を抑制する上で、保護層2は、第1層21上に第2層22が形成されていることが好ましい。
【0079】
上記実施形態のサーマルプリントヘッドA1において、配線層3の構成は、図示された例に限定されない。
図20および
図21はそれぞれ、変形例にかかるサーマルプリントヘッドを示す要部拡大平面図であって、配線層3の構成が異なる例を示す。
【0080】
図20は、変形例にかかるサーマルプリントヘッドの一例を示しており、
図20の要部拡大平面図は、
図2に対応する。
図20に示す変形例では、配線層3は、サーマルプリントヘッドA1の配線層3と同様に、共通電極31および複数の個別電極32を有するが、サーマルプリントヘッドA1の配線層3と異なり、複数の中継電極33をいずれも有していない。
【0081】
図20に示す例において、共通電極31は、複数の帯状部313、連結部314および迂回部315を含む。連結部314は、ヘッド基板1の副走査方向yの下流側の端縁寄りに配置されている。連結部314は、主走査方向xに延びる帯状である、複数の帯状部313はそれぞれ、連結部314から各発熱部41に向けて副走査方向yに延びる。複数の帯状部313は、主走査方向xに等ピッチで配列されている。迂回部315は、連結部314の主走査方向xの一端から副走査方向yに延びる。
【0082】
図20に示す例において、各発熱部41は、副走査方向yにおいて共通電極31の各帯状部313と各個別電極32の帯状部321とに挟まれている。各帯状部321は、副走査方向yの上流側から、各発熱部41に繋がり、各帯状部313は、副走査方向yの下流側から各発熱部41に繋がる。
【0083】
図21は、変形例にかかるサーマルプリントヘッドの他の例を示している。
図21に示す例では、配線層3は、上記
図20に示す変形例と同様に、共通電極31および複数の個別電極32を有するが、複数の中継電極33のいずれも有していない。
【0084】
図21に示す例において、各帯状部313と各帯状部321とは、一部ずつが主走査方向xに沿って交互に配置されている。抵抗体層4は、これらの各帯状部313および各帯状部321に重なるように、主走査方向xに延びる帯状に形成されている。このような構成では、
図21に示すように、厚さ方向zに見て、主走査方向xにおいて各帯状部313と各帯状部321とに挟まれた領域が各発熱部41となる。
【0085】
また、
図21に示す例では、厚さ方向zに見て、配線層3と抵抗体層4が重なる部分においては、抵抗体層4が配線層3の厚さ方向z下方に配置されている。この構成と異なり、抵抗体層4が配線層3の厚さ方向z上方に配置されていてもよい。
【0086】
図20および
図21に示す各サーマルプリントヘッドにおいても、サーマルプリントヘッドA1と同様の効果を奏する。よって、本開示のサーマルプリントヘッドは、
図20および
図21に示す各変形例から理解されるように、配線層3の構成は、サーマルプリントヘッドの仕様に応じて適宜変更可能である。
【0087】
上記実施形態のサーマルプリントヘッドA1において、基材10は、単結晶半導体で構成されたものに限定されず、たとえばセラミックスにより構成されてもよい。
図22は、変形例にかかるサーマルプリントヘッドを示す要部断面図であって、基材10がセラミックスにより構成された例を示す。なお、
図22に示す例では、保護層2は、第1層21のみを含むが、サーマルプリントヘッドA1と同様に、第1層21および第2層22を含む構成でもよい。また、
図22に示す例では、厚さ方向zに見て、配線層3と抵抗体層4が重なる部分において、抵抗体層4が配線層3の厚さ方向z上方に配置されている。
【0088】
図22に示す例において、ヘッド基板1は、基材10およびグレーズ層15を含む。基材10は、先述の通り、セラミックスにより構成される。当該セラミックスとしては、たとえばAlN(窒化アルミニウム)やAl
2O
3(アルミナ)などの熱伝導率が比較的高いものが採用されうる。グレーズ層15は、基材10の第1主面11に形成されている。グレーズ層15は、たとえば非晶質ガラスなどのガラス材料からなる。
図22に示すように、グレーズ層15は、部分グレーズ151およびガラス層152を含んでいる。
図22に示す例と異なり、グレーズ層15は、ガラス層152を含まず、部分グレーズ151のみで構成されてもよい。あるいは、ヘッド基板1がグレーズ層15を含んでいなくてもよい。
【0089】
部分グレーズ151は、主走査方向xに長く延びている。部分グレーズ151は、主走査方向x視において、厚さ方向zに膨出している。部分グレーズ151は、
図22に示すように、主走査方向xに直交する平面による断面(y-z断面)が、円弧状である。部分グレーズ151は、抵抗体層4のうち発熱する部分(後述の発熱部41)を印刷媒体に押し当て易くするために、設けられる。また、部分グレーズ151は、発熱部41からの熱を蓄積する蓄熱層として、設けられている。部分グレーズ151は、厚さ方向zの寸法(最大寸法)が、ガラス層152よりも大きい。ガラス層152は、部分グレーズ151に隣接して形成されており、上面が平坦な形状である。ガラス層152は、部分グレーズ151の一部に重なっている。
【0090】
図22に示すサーマルプリントヘッドにおいても、サーマルプリントヘッドA1と同様の効果を奏する。よって、本開示のサーマルプリントヘッドは、
図22に示す変形例から理解されるように、ヘッド基板1の構成は、サーマルプリントヘッドの仕様に応じて適宜変更可能である。
【0091】
本開示にかかるサーマルプリントヘッドおよびサーマルプリントヘッドの製造方法は、上記した実施形態に限定されるものではない。本開示のサーマルプリントヘッドの各部の具体的な構成、および、本開示のサーマルプリントヘッドの製造方法の各工程の具体的な処理は、種々に設計変更自在である。たとえば、本開示のサーマルプリントヘッドおよびサーマルプリントヘッドの製造方法は、以下の付記に関する実施形態を含む。
〔付記1〕
基板と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を有し、前記基板に支持された抵抗体層と、
前記複数の発熱部への通電経路を構成し、前記基板に支持された配線層と、
前記抵抗体層および前記配線層を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層は、シリコン元素を含む第1層を含み、
前記第1層の屈折率は、シリコン元素と窒素元素とが化学量論組成比で構成されるシリコン窒化物の屈折率よりも高く、真性半導体である真性シリコンの屈折率以下である、サーマルプリントヘッド。
〔付記2〕
前記第1層の屈折率は、2.05以上3.882以下である、付記1に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記3〕
前記第1層の屈折率は、3.882よりも小さい、付記2に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記4〕
前記第1層は、シリコン元素と窒素元素との化合物であって、前記化学量論組成比で構成されたシリコン窒化物よりもシリコン元素の含有割合が多い、付記3に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記5〕
前記保護層は、前記第1層を覆う第2層をさらに含む、付記1ないし付記4のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記6〕
前記第2層は、シリコン炭化物である、付記5に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記7〕
前記基板は、単結晶半導体により構成される基材を含む、付記1ないし付記6のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記8〕
前記基板は、前記基材と前記抵抗体層との間に挟まれた絶縁層をさらに含む、付記7に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記9〕
前記抵抗体層は、前記絶縁層の一部を露出させつつ前記絶縁層上に形成され、
前記配線層は、前記複数の発熱部を露出させつつ前記抵抗体層上に形成され、
前記保護層は、前記配線層上に形成される、付記8に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記10〕
前記配線層は、前記抵抗体層の一部を露出させつつ前記抵抗体層上に積層された第1導体層と、前記第1導体層の一部を露出させつつ前記第1導体層上に積層された第2導体層とを含み、
前記第2導体層は、副走査方向における単位長さ当たりの抵抗値が前記複数の発熱部の各々よりも小さく、
前記第1導体層は、副走査方向における単位長さ当たりの抵抗値が前記複数の発熱部の各々と前記第2導体層との間をとる、付記9に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記11〕
前記第1導体層の構成材料は、Tiを含み、
前記第2導体層の構成材料は、Cuを含む、付記10に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記12〕
前記基材は、前記抵抗体層に対向する主面と、前記主面から突き出し、かつ、主走査方向に延びる凸部とを有し、
前記複数の発熱部の各々は、前記凸部の上に形成されている、付記7ないし付記11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記13〕
前記単結晶半導体は、シリコンである、付記7ないし付記12のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記14〕
基材を準備する工程と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を有し、前記基材に支持された抵抗体層を形成する工程と、
前記複数の発熱部への通電経路を構成し、前記基材に支持された配線層を形成する工程と、
前記抵抗体層および前記配線層を覆う保護層を形成する工程と、
を含み、
前記保護層を形成する工程は、シリコン元素を含む第1層を形成する工程を含み、
前記第1層を形成する工程では、アンモニア(NH3)とシラン(SiH4)とを含む原料ガスを用いる成膜処理を行い、
前記原料ガスにおけるアンモニア(NH3)とシラン(SiH4)との比率(NH3/SiH4)は、0.1以上4以下である、サーマルプリントヘッドの製造方法。
〔付記15〕
前記成膜処理は、プラズマCVDにより行われる、付記14に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【符号の説明】
【0092】
Pr :サーマルプリンタ
A1 :サーマルプリントヘッド
1 :ヘッド基板
10,10K:基材
11 :第1主面
11K :主面
12 :第1裏面
12K :裏面
13,13K:凸部
130,130K:頂部
131A,131B:第1傾斜部
132A,132B:第2傾斜部
132K :傾斜部
15 :グレーズ層
151 :部分グレーズ
152 :ガラス層
19 :絶縁層
2 :保護層
21 :第1層
22 :第2層
29 :パッド用開口
3 :配線層
3K :配線膜
301 :第1導体層
301K :第1導体膜
302 :第2導体層
302K :第2導体膜
31 :共通電極
311 :直行部
312 :分岐部
313 :帯状部
314 :連結部
315 :迂回部
32 :個別電極
321 :帯状部
322 :パッド部
33 :中継電極
331 :帯状部
332 :連結部
4 :抵抗体層
4K :抵抗体膜
41 :発熱部
5 :接続基板
51 :第2主面
52 :第2裏面
55 :制御電極
59 :コネクタ
61 :ワイヤ
7 :ドライバIC
71 :入力パッド
72 :出力パッド
78 :保護樹脂
8 :放熱部材
81 :第1支持面
82 :第2支持面
91 :プラテンローラ