(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082302
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】プロトテカ・ボビス検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/689 20180101AFI20230607BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230607BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20230607BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/6844 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195972
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(72)【発明者】
【氏名】豊留 孝仁
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 本発明は、プロトテカ・ボビスをLAMP法にて検出するプライマーとその検出法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明で開発したPbF3v1b、PbB3v1b、PbFIPv1b、PbBIPv1bのプライマーを開示する。
このプライマーを用いて、LAMP法によるプロトテカ・ボビスDNAの特異的検出を行う。抽出DNAは単離された菌株から抽出されたDNAでも生乳から抽出されたDNAでもよい。検出法は濁度や色の変化などで検出が可能であり、吸光度計などの検出機器や目視で検出が可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に示す塩基配列のポリヌクレオチドをそれぞれに含むLAMP法プライマーのセット。
PbF3v1b:5'-GGATCGCGCGACTCCTCTC-3’
PbB3v1b:5’-GTGCGGGACACTGAGG-3’
PbFIPv1b:5’-TCGATGCGGGAGCCTAGTCGGGCGTCCGCACCCATAAACC-3’
PbBIPv1b:5’-GAATTGCAGAGCCCGCACATGCCCAGAGCCGAAGC-3’
【請求項2】
請求項1に記載のプライマーセットを内容に含むウシ乳房炎原因微生物の検出用キット。
【請求項3】
請求項1のプライマーセットまたは請求項2の検出用キットを用いて、LAMP法によりウシ乳房炎原因微生物を検出する方法。
【請求項4】
ウシ乳房炎原因微生物がプロトテカ・ボビス(Prototheca bovis)である請求項3に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウシ乳房炎の最も重要な病原藻類であるプロトテカ・ボビス(プロトテカ・ゾフィ ジェノタイプ2と同じ)をLAMP法により検出するためのプライマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロトテカ・ボビス(プロトテカ・ゾフィ ジェノタイプ2と同じ)は藻類の一種である。藻類でありながら、葉緑体を欠いている。プロトテカ・ボビスはウシ乳房炎の最も重要な病原藻類である。世界中で見られる病原藻類であり、プロトテカ・ボビスが原因となるウシ乳房炎も世界中で見られる。
【0003】
プロトテカ・ボビス以外のプロトテカ・シフェリ、プロトテカ・ブラシュキアエは牛舎内環境の常在菌であるが、乳房炎との関連性が低いことが想定されている。
【0004】
プロトテカ・ボビスが起こす乳房炎は症状に乏しいことがあり、また通常の抗生物質が効果を示さず、難治性でもある。その検出やそれに基づく早期の摘発は他個体への影響を抑える意味でも重要である。
【0005】
検出の既存技術として主なものとして、次のものが挙げられる。通常の検査では培養法によって、プロトテカを検出している。PCRおよび続く塩基配列決定によって同定が行える。本発明と類似するキットとして海外メーカー製リアルタイムPCRキットが商品化されている。また、プロトテカ・ゾフィのLAMP増幅プライマーはKawaiらにより報告されている(特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kawai et al.,J.Vet.Med.Sci(2017)79:1973-1977.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、培養法のみではプロトテカ・ゾフィであるかどうかはわからない。
【0009】
またPCRおよびそれに続く塩基配列決定法では塩基配列決定のための機器が必要であり、操作も非常に煩雑である。さらに、本発明と類似するリアルタイムPCRキットは、高額な機器が必要となる。
【0010】
Kawaiらの報告にあるプライマーの配列はほぼ全てのプロトテカ乳房炎原因菌であるプロトテカ・ボビス(プロトテカ・ゾフィ ジェノタイプ2)のみならず、環境中に見られるプロトテカ・シフェリ(プロトテカ・ゾフィ ジェノタイプ1)とも結合およびLAMP増幅反応が生じると推定される。
【0011】
このように既存技術には、いずれも課題が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者はプロトテカ・ボビス検出用LAMPプライマーを開発し、以下の本発明を完成させた。
【0013】
(1)以下に示す塩基配列のポリヌクレオチドをそれぞれに含むLAMP法プライマーのセット。
PbF3v1b:5’-GGATCGCGCGACTCCTCTC-3’
PbB3v1b:5’-GTGCGGGACACTGAGG-3’
PbFIPv1b:5’-TCGATGCGGGAGCCTAGTCGGGCGTCCGCACCCATAAACC-3’
PbBIPv1b:5’-GAATTGCAGAGCCCGCACATGCCCAGAGCCGAAGC-3’
(2)(1)に記載のプライマーセットを内容に含むウシ乳房炎原因微生物の検出用キット。
(3)(1)のプライマーセットまたは請求項2の検出用キットを用いて、LAMP法によりウシ乳房炎原因微生物を検出する方法。
(4)ウシ乳房炎原因微生物がプロトテカ・ボビス(Prototheca bovis)である(3)に記載の方法
【発明の効果】
【0014】
本発明のプロトテカ・ボビス検出用LAMPプライマーはInternal transcribed spacer領域を標的として開発した。これはKawaiらの既報の領域とは異なる。また、特異的な配列を標的としている。プロトテカ・ボビスではLAMP増幅反応が起こり、プロトテカ・シフェリではLAMP増幅反応が起こらないことを確認した。
【0015】
本発明は菌体を熱処理して抽出する方法により得られたDNA検体でも実施可能である。また、生乳から抽出されたDNA検体でも実施可能である。
【0016】
本発明は生乳検体を用いた場合には培養を要せず、短時間で結果を得ることができる。
【0017】
検出感度を高める目的で、生乳に100μg/mLとなるようにクロラムフェニコールを添加して、35℃で数時間から一晩静置して増菌させることもできる。
【0018】
LAMP増幅反応は等温増幅によるため、定温を維持できる低額な機器での実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のプライマーを用いた標的領域増幅の概要1(4本のプライマーにより標的領域が増幅される)
【
図2】本発明のプライマーを用いた標的領域増幅の概要2(ダンベル構造を作りながら連続的に増幅する)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のプライマーを用いて、等温増幅によるLAMP法により標的塩基配列を増幅し、その増幅を検出する方法を開示するものであり、以下にその方法を説明する。
【0021】
本発明ではPbF3v1b、PbB3v1b、PbFIPv1b、PbBIPv1bの4つのプライマーからなるセットを用いる。
【0022】
これらプライマーセットを抽出DNA溶液とLAMP法に利用できる反応溶液もしくはキットとともに用いて、チューブ内で増幅反応を行う。
【0023】
検出感度を高めるために別途ループプライマーを設計して、利用することも可能である。
【0024】
抽出DNAは単離された菌体や培養液中で培養された菌体を95℃にて10分間処理して抽出されたDNAを使用可能である。
【0025】
PURE DNA抽出キット(栄研化学)を用いて、生乳から抽出したDNAを用いることもできる。
【0026】
増菌のために一晩35℃にて保温された生乳を利用することもできる。
【0027】
増幅反応はLoopAmpEXIA等の等温増幅が可能な装置を用いて行う。
【0028】
PCR装置や恒温槽などの定温で保温できる装置を利用することも可能である。
【0029】
増幅の有無は、LoopAmpEXIA等のリアルタイム濁度測定装置により判定することができる
【0030】
増幅の有無は、濁度や色の変化を目視や吸光度計で観察することによっても判定できる。
【実施例0031】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0032】
生乳より、PURE DNA抽出キット(栄研化学)を用いて、Itohらの方法(Itoh et al.,J.Vet.Med.Sci(2020)82:875-880)に従ってDNAを抽出する。
【0033】
抽出したDNA溶液1μL、PbF3v1b(配列番号1)とPbB3v1b(配列番号2)を5pmol、PbFIPv1b(配列番号3)とPbBIPv1b(配列番号4)を40pmol、dNTPsがそれぞれ1.4mM、Bst DNA polymerase、1XBst reaction bufferとなるように反応液に添加し、合計25μLとなるように超純水を加える。
【0034】
反応液を63℃で60分保持する。
【0035】
増幅の有無をLoopAmpEXIA(栄研化学)もしくは目視で判定する。
【0036】
配列番号1 プライマーPbF3v1bの塩基配列
配列番号2 プライマーPbB3v1bの塩基配列
配列番号3 プライマーPbFIP3v1bの塩基配列
配列番号4 プライマーPbBIP3v1bの塩基配列