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特開2023-82308スクリーニング方法、環状ペプチドおよびこれを含む癌細胞増殖抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082308
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】スクリーニング方法、環状ペプチドおよびこれを含む癌細胞増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20230607BHJP
   C07K 7/54 20060101ALI20230607BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230607BHJP
   A61K 38/15 20060101ALI20230607BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
C07K7/54
A61P35/00
A61K38/15
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195980
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】521527602
【氏名又は名称】アクティブペプチド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敬
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB02
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB06
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA17
4C084BA27
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4H045AA10
4H045BA14
4H045BA33
4H045BA34
4H045EA28
4H045FA10
(57)【要約】
【課題】BAF/PBAF複合体のタンパク質相互作用に着目したスクリーニング方法などを提供すること。
【解決手段】癌細胞増殖抑制化合物のスクリーニング方法であって、以下の工程:
標識物質融合BAF155を含む修飾BAF/PBAF複合体に、候補化合物を接触させる第1工程;および
前記修飾BAF/PBAF複合体の破壊によって生じる前記標識物質融合BAF155またはこれを含むサブユニット集合体を検出または定量する第2工程
を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞増殖抑制化合物のスクリーニング方法であって、
以下の工程:
標識物質融合BAF155を含む修飾BAF/PBAF複合体に、候補化合物を接触させる第1工程;および
前記修飾BAF/PBAF複合体の破壊によって生じる前記標識物質融合BAF155またはこれを含むサブユニット集合体を検出または定量する第2工程
を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項2】
前記修飾BAF/PBAF複合体は、タンパク質タグ融合BRG1を含み、
前記第2工程において、前記修飾BAF/PBAF複合体の破壊が生じた場合、前記標識物質融合BAF155またはこれを含むサブユニット集合体と、前記タンパク質タグ融合BRG1を含むサブユニット集合体とに分解されることを特徴とする請求項1のスクリーニング方法。
【請求項3】
以下の(1)~(8)の化合物:
(1)L-α-Asp
(2)D-Leu
(3)Xaa1:L-Leu、L-Ile、L-Valのうちのいずれか1種
(4)カルボン酸を含む化合物
(5)L-α-Glu
(6)Xaa2:L-LeuまたはL-Val
(7)D-Leu
(8)Xaa3:L-Val、L-Ala、L-Leuのうちのいずれか1種
が順次結合した環状構造を有することを特徴とする環状ペプチド。
【請求項4】
請求項3の環状ペプチドを含有することを特徴とする癌細胞増殖抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーニング方法、環状ペプチドおよびこれを含む癌細胞増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌遺伝子・癌抑制遺伝子の直接的な変異を伴うジェネティクな癌化のメカニズムに加え、塩基配列の変化以外の要素によるエピジェネティクな癌化のメカニズムが注目されている。
【0003】
そして、図1に示したように、エピジェネティクな遺伝子発現制御を行うクロマチン再構築複合体として、BRG-/BRM-associated factor (BAF) and Polybromo-associated BAF (PBAF) complexes(BAF/PBAF複合体)が知られている。このBAF/PBAF複合体自体は直接的な癌遺伝子・癌抑制遺伝子ではないにも関わらず、そのサブユニットは固形癌で高率に変異をきたしており、それにより癌遺伝子・癌抑制遺伝子のエピジェネティクスな変化をきたし固形癌の進展に関与していると考えられている(非特許文献1~3)。
【0004】
具体的には、COSMIC データベースによると、BAF/PBAF複合体のサブユニットの中でARID1Aは卵巣癌(Clear cell carcinoma)の50%、子宮体癌の30%、子宮頸部腺癌の16%、胃癌12%、大腸癌9%、悪性黒色腫などの10%で変異が見られ、PBRM1サブユニットは悪性黒色腫などの約5%において変異を有し、さらに触媒サブユニットであるBRG1は悪性黒色腫の8%、肺癌の8%において変異が見つかっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Halliday, G.M., Bock, V.L., Moloney, F.J., and Lyons, J.G. (2009). SWI/SNF: a chromatin-remodelling complex with a role in carcinogenesis. Int J Biochem Cell Biol 41, 725-728.
【非特許文献2】Hodges, C., Kirkland, J.G., and Crabtree, G.R. (2016). The Many Roles of BAF (mSWI/SNF) and PBAF Complexes in Cancer. Cold Spring Harbor perspectives in medicine 6.
【非特許文献3】Reisman, D., Glaros, S., and Thompson, E.A. (2009). The SWI/SNF complex and cancer. Oncogene 28, 1653-1668.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまで、BAF/PBAF複合体によってエピジェネティクな発癌が引き起こされるメカニズムは解明されておらず、BAF/PBAF複合体のタンパク質相互作用に着目して癌抑制作用を有する化合物をスクリーニングする試みはなされてこなかった。
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、BAF/PBAF複合体のタンパク質相互作用に着目したスクリーニング方法、これによる見出された新規化合物およびこれを含む癌細胞増殖抑制剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明のスクリーニング方法は、癌細胞増殖抑制化合物のスクリーニング方法であって、
以下の工程:
標識物質融合BAF155を含む修飾BAF/PBAF複合体に、候補化合物を接触させる第1工程;および
前記修飾BAF/PBAF複合体の破壊によって生じる前記標識物質融合BAF155またはこれを含むサブユニット集合体を検出または定量する第2工程
を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明の環状ペプチドは、以下の(1)~(8)の化合物:
(1)L-α-Asp
(2)D-Leu
(3)Xaa1:L-Leu、L-Ile、L-Valのうちのいずれか1種
(4)カルボン酸を含む化合物
(5)L-α-Glu
(6)Xaa2:L-LeuまたはL-Val
(7)D-Leu
(8)Xaa3:L-Val、L-Ala、L-Leuのうちのいずれか1種
が順次結合した環状構造を有することを特徴としている。
【0010】
本発明の癌細胞増殖抑制剤は、前記環状ペプチドを含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスクリーニング方法によれば、候補化合物から癌抑制作用を有する化合物を抽出することができる。
【0012】
本発明の環状ペプチドおよびこれを含む癌細胞増殖抑制剤によれば、癌細胞の増殖を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】BAF/PBAF複合体の構造を例示した概要図である。BAF/PBAF複合体は、SMARCC1(BAF155)、SMARCC2(BAF170)、SNF5(INI1/BAF47)をコアサブユニットとし、BRG1やBRMなどのATPaseドメインを持つ複合体である。
図2】本発明の癌細胞増殖抑制化合物のスクリーニング方法の概要を例示した概要図である。
図3】本発明の環状ペプチドの構造の一例(化合物1~4)を示した図である。
図4】本発明の環状ペプチドの一例を示した図である。
図5】ルシフェラーゼアッセイを用いて、長崎大学水産学部が保有する320種類以上の海洋微生物から抽出した天然化合物をスクリーニングした結果を示した図である。
図6】サンプルの濃度依存性を検討した結果を示した図である。Negative controlとしてDMSO、positive controlにFlagpeptideを用いている。
図7】ルシフェラーゼアッセイで得られた活性が実際に癌細胞増殖を抑制するかどうかを検討した結果を示す図である。
図8】ルシフェラーゼアッセイで得られた活性が実際に癌細胞増殖を抑制するかどうかを検討した結果を示す図である。
図9】化合物の調製手順を示した工程図である。
図10】化合物3C11をそれぞれBAF/PBAF複合体変異陰性のColo320、BAF/PBAF複合体変異陽性のNUGC3、HeLa、正常細胞のBEAS-2Bにふりかけ、3日間細胞数をカウントした結果を示す図である。
図11】BAF/PBAF複合体サブユニットの変異がない大腸癌細胞のCoLo320、BAF/PBAF複合体サブユニットの変異がある胃癌細胞のNUGC-3そして、BAF/PBAF複合体サブユニットの変異はないがそれと相互作用する基本転写因子に変異を認める子宮頸癌細胞のHeLaを用いて、BRM、BRG1、BAF155、ARID1A、ARID1Bのノックダウン実験を行った結果を示す図である。
図12】BAF/PBAF複合体にサーファクチンを加えると複合体は解離し、BAF155、BAF60aはElution(溶出)されるがBRG1、ARID1BはElution(溶出)されないことを示す図である。
図13】BAF/PBAF複合体の変異をもつNUGC3細胞に本研究によって同定された化合物を添加しRNAシーケンスを行い、BAF155をノックダウンした時のNUGC3における遺伝子転写量の変化の比較を行った結果を示す図である。
図14図4に示した環状ペプチドの構造に含まれる3-aminoalkanoyl、2-hydroxyalkanoyl、2-aminoalkanoylについては、Lysine、Glutamine、3-Amino-3-(3-bromophenyl) propionic acid、5-amino-3-hydroxy-Pentanoic acid、3-hydroxy-Octanoic acidを組み込んだ環状ペプチドを合成し、HeLa癌細胞に加え増殖抑制作用を調べた。DMSOはコントロールで、各々の薬剤(250uM)はコントロールと比較してHeLa癌細胞増殖を抑制した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、本発明のスクリーニング方法、環状ペプチドおよび癌細胞増殖抑制剤は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<スクリーニング方法>
図2は、本発明の癌細胞増殖抑制化合物のスクリーニング方法の概要を例示した概要図である。
【0016】
本発明の癌細胞増殖抑制化合物のスクリーニング方法は、
以下の工程:
標識物質融合BAF155を含む修飾BAF/PBAF複合体に、候補化合物を接触させる第1工程;および
修飾BAF/PBAF複合体の破壊によって生じる標識物質融合BAF155またはこれを含むサブユニット集合体を検出または定量する第2工程
を含む。
【0017】
そして、標識物質融合BAF155またはこれを含むサブユニット集合体が検出されるか否か、標識物質融合BAF155またはこれを含むサブユニット集合体の検出量の増大などに応じて、候補化合物が修飾BAF/PBAF複合体の破壊を生じさせること、すなわち、癌細胞増殖抑制作用を有することを判断することができる。
【0018】
以下、各工程について詳しく説明する。
【0019】
(工程1)
工程1では、標識物質融合BAF155を含む修飾BAF/PBAF複合体に、候補化合物を接触させる。
【0020】
候補化合物とは、癌細胞増殖抑制作用の有無や強弱を判定すべき任意の化合物であり、1種の化合物または2種以上の混合物であってよい。また、修飾BAF/PBAF複合体に候補化合物を接触させる方法や量も特に限定されず、適宜設計することができる。
【0021】
BAF155に融合させる標識物質は特に限定されず、例えば、酵素、蛍光タンパク質等が挙げられる。具体的には、酵素としては、例えば、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、インベルターゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、これらの酵素の改変体等を例示することができる。蛍光タンパク質としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、GFPの改変体等を例示することができる。
【0022】
本発明のスクリーニング方法では、標識物質融合BAF155を発現した細胞等を用いて実施することができる。この場合、標識物質融合BAF155の発現は一過性の発現であってもよいし、恒常性の発現であってもよい。すなわち、標識物質融合BAF155を含む修飾BAF/PBAF複合体の安定発現細胞株を用いることができる。
【0023】
さらに、修飾BAF/PBAF複合体は、大腸菌や酵母、動物細胞、無細胞発現系などで産生されたものを例示することができ、特に大腸菌で大量に産生されるものが使いやすく好ましい。修飾BAF/PBAF複合体を発現する細胞の破砕液など粗精製の溶液を用いることもできるが、低分子量のタンパク質タグを融合したサブユニットとして、タンパク質タグ融合BRG1を含む修飾BAF/PBAF複合体を用いることが好ましい。この場合、タンパク質タグは特に限定されないが、FLAGタグ、GSTタグ、Protein Aタグ、ポリヒスチジンタグ、V5タグ、Mycタグ、SBPタグ、Haloタグ、Strepタグ、等を例示することができ、なかでも、FLAGタグであることが好ましい。
【0024】
修飾BAF/PBAF複合体が、標識物質融合BAF155およびタンパク質タグ融合BRG1を含む形態においては、標識物質融合BAF155およびタンパク質タグ融合BRG1のサブユニット2つを培養細胞で共発現させる方法を例示することができる。
【0025】
さらに、例えば、本発明のスクリーニング方法では、修飾BAF/PBAF複合体が、標識物質融合BAF155およびタンパク質タグ融合BRG1を含む形態において、例えば、タンパク質タグと結合する公知の担体を利用することができる。担体としては、例えば、プラスチック、ガラス、ゲル、セルロイド、紙、磁性樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ニトロセルロース、アガロース、ラテックス、およびポリスチレンからなる材料を例示することができる。具体的には、担体は、ELISAプレート、ディップスティック、マイクロタイタープレート、ラジオイムノアッセイプレート、ビーズ、アガロースビーズ、プラスチックビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズなどを例示することができる。
【0026】
(工程2)
工程2では、修飾BAF/PBAF複合体の破壊によって生じる標識物質融合BAF155またはこれを含むサブユニット集合体を検出または定量する。
【0027】
検出・定量の方法は特に限定されず、標識物質の種類、タンパク質タグの種類、担体の種類などに応じて適宜実施することができる。
【0028】
修飾BAF/PBAF複合体が、標識物質融合BAF155およびタンパク質タグ融合BRG1を含む形態においては、例えば、予めビーズなどの担体とタンパク質タグ融合BRG1とが結合するように設計することができ、候補化合物により修飾BAF/PBAF複合体の破壊が生じた場合、標識物質融合BAF155またはこれを含むサブユニット集合体と、タンパク質タグ融合BRG1を含むサブユニット集合体とに分解されるため、標識物質融合BAF155を含む分画(上清)と、ビーズなどの担体と結合したタンパク質タグ融合BRG1を含む分画(沈殿)とに分けることができる。
【0029】
ここで、「標識物質融合BAF155を含むサブユニット集合体」とは、BAF155と近接する1または2以上のサブユニットの集合体であり、具体的に限定されないが、例えば、BAF60、BAF170、BAF47、BAF57などが含まれる可能性がある。また、「タンパク質タグ融合BRG1を含むサブユニット集合体」とは、BRG1と近接する1または2以上のサブユニットの集合体であり、具体的に限定されないが、例えば、BAF250A/B/200、BRMなどが含まれる可能性がある。
【0030】
そして、標識物質融合BAF155を含む分画(上清)において、標識物質に応じた公知の方法により、標識物質融合BAF155の量を定量的に調べることができる。そして、定量された標識物質融合BAF155の量に応じて、候補化合物が十分な癌細胞増殖抑制作用を有するか否かを判断することができる。すなわち、例えば、検出された標識物質融合BAF155の量が多い候補化合物は、優れた癌細胞増殖抑制作用を有する可能性がある。
【0031】
本発明のスクリーニング方法は、上述した工程以外にも各種の工程を含むことができる。
【0032】
<環状ペプチド>
本発明の環状ペプチドは、以下の(1)~(8)の化合物:
(1)L-α-Asp
(2)D-Leu
(3)Xaa1:L-Leu、L-Ile、L-Valのうちのいずれか1種
(4)カルボン酸を含む化合物
(5)L-α-Glu
(6)Xaa2:L-LeuまたはL-Val
(7)D-Leu
(8)Xaa3:L-Val、L-Ala、L-Leuのうちのいずれか1種
が順次結合した環状構造を有する。L-およびD-は、D/L表記法における立体配置を示している。
【0033】
本発明の環状ペプチドは、例えば、図3に例示した構造を有する環状ペプチド(化合物1~4)を例示することができる。これらの環状ペプチドは、特徴的な立体配置を有しており、これが優れた癌抑制作用に寄与していると考えられる。
【0034】
また、上記化合物(4)の「カルボン酸を含む化合物」は、特に限定されないが、例えば、組み込まれた環状構造において、炭素数3~12のアルカノイル基(アシル基)を含む構造となる化合物を例示することができ、例えば、3-hydroxyalkanoyl、3-aminoalkanoyl、2-hydroxyalkanoyl、2-aminoalkanoylなどの構造を有するものを好ましく例示することができる。さらに、カルボン酸を含む化合物には、例えば、Fmoc-D-β-HomoLys(Boc)-OH、5-amino-3-hydroxy-Pentanoic acid、3-Amino-3-(3-bromophenyl) propionic acid、αアミノ酸(リジン、グルタミン)なども含まれる。
【0035】
本発明の環状ペプチドは、なかでも、図4に例示した20種の化合物を好ましく例示することができる。
【0036】
本発明の環状ペプチドは、上記の環状構造を含み、その効果を害さない範囲で各種の官能基や化学結合を含んでいてもよい。
【0037】
<癌細胞増殖抑制剤>
本発明の癌細胞増殖抑制剤は、上記の本発明の環状ペプチドを含有する。本発明の癌細胞増殖抑制剤は、上記の環状ペプチドを有効成分としてそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる成分を加えて製剤化してもよい。
【0038】
本発明の癌細胞増殖抑制剤は、経口的に使用される剤型であってもよく、非経口的に使用される剤型であってもよい。経口的に使用される剤型としては、例えば粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤エリキシル剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。非経口的に使用される剤型としては、例えば注射剤、吸入剤、点鼻剤、坐剤、貼付剤等が挙げられる。
【0039】
本発明の癌細胞増殖抑制剤は、薬学的に許容される担体を含むことができる。このような担体としては、例えば、公知の賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、界面活性剤、緩衝剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、溶剤、増粘剤、粘液溶解剤、湿潤剤、防腐剤などを例示することができる。
【0040】
本発明の癌細胞増殖抑制剤は、添加剤を更に含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノールの安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤などを例示することができる。
【0041】
本発明の癌細胞増殖抑制剤は、上述した担体や添加剤などを適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0042】
また、本発明の癌細胞増殖抑制剤の投与量は、患者の体重や年齢、患者の症状、投与方法等により変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。例えば、成人1日当たりの投与量が1mg~1000mg、好ましくは10mg~100mg の範囲となるような投与量を目安とすることができる。
【0043】
また、本発明の癌細胞増殖抑制剤には、例えば、錠菓、錠剤、チュアブル錠、錠剤、粉剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤等の形態を有する健康飲食品(サプリメント、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品等)、清涼飲料、茶飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、野菜飲料、果汁飲料、醗酵野菜飲料、醗酵果汁飲料、発酵乳飲料(ヨーグルト等)、乳酸菌飲料、乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、菓子、ゼリー等の形態も含まれる。飲食品の形態の場合、食品工学の分野において通常用いられる成分を含んでいてよい。
【実施例0044】
以下、本発明について、実施例とともに説明するが、本発明のスクリーニング方法、環状ペプチドおよびこれを含む癌細胞増殖抑制剤は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>スクリーニング
BAF/PBAF複合体内タンパク質間相互作用(PPI)を評価する新規化合物のin vitroスクリーニング法として試験管内での複合体の破壊を検出する方法を考案・確立した。
【0046】
具体的には、図2に例示したように、BAF/PBAF複合体精製に必要なFlagタグ融合BRG1と創薬のモニターに必要なルシフェラーゼ融合BAF155の融合サブユニット2つを培養細胞で共発現させ、修飾BAF/PBAF複合体を精製した。
【0047】
この複合体に、候補化合物を加えて上清のフェラーゼ活性を測定し、上昇すれば修飾BAF/PBAF複合体の破壊があったと判断することができる。
【0048】
ルシフェラーゼアッセイを行い複合体の破壊の有無を検出し、320種類以上の海洋微生物から抽出した天然化合物をスクリーニングした。
【0049】
スクリーニング結果の一部を図5に示す。
【0050】
これらの化合物にスクリーニング法を用いて、サンプルの濃度依存性を検討した結果を図6に示した。3C11、3D11、4B3は濃度依存性を示した。4E8は活性が強くプラトーに達していた。
【0051】
さらに、in vitroのアッセイで得られた活性が実際に癌細胞増殖を抑制するか否かを調べた(図7図8)。
【0052】
BAF/PBAF複合体が癌細胞増殖に関与するNUGC3、HeLa細胞と、関与しないCoLo320細胞により実験を行なった。
【0053】
In vitro で活性を認めた3C11、3D11、4B3、4E8はNUGC3、HeLa細胞の増殖を抑制したが、CoLo320細胞の増殖は抑制しなかった。一方、In vitro で活性のなかった4B8はNUGC3、 HeLa細胞の増殖を抑制しなかった(4E8は1/800濃度ではHeLa細胞の増殖を抑制しなかった)。5つの抽出液は、変異を有さないCoLo320細胞および気管支上皮細胞株BEAS-2BおよびマウスNIH3T3細胞の増殖抑制を示さなかった(図7図8)。
【0054】
これらの結果は、同定したヒット抽出液が変異を有する癌細胞増殖を抑制するが変異を有さない癌細胞または正常細胞には影響しないことを示す。
【0055】
さらに、図9に示した手順に従って化合物を調製し、in vitroのアッセイを用いて海洋微生物抽出液のカラムクロマトグラフィーによる分画を進め、3C11からサーファクチンを同定した。同定したサーファクチンに癌細胞特異的に増殖抑制作用があることを確認した(図10)。
【0056】
<実施例2>BAF/PBAF複合体の標的遺伝子および癌化のメカニズム
BAF/PBAF複合体のサブユニットが癌増殖に重要であるか否かをサブユニットのノックダウン実験により明らかにした。BAF/PBAF複合体サブユニットの変異が既知の細胞株を用いてBAF/PBAF複合体のBRM、BRG、BAF155、ARID1A、ARID1Bのノックダウン実験を行ったところBAF/PBAF複合体に変異を有するNUGC3において細胞増殖抑制を認めたが、変異を有さない CoLo320においては増殖抑制作用を認めなかった(図11)。HeLa細胞は、BAF/PBAF複合体そのものには変異を認めなかったが、それと相互作用する基本転写因子に変異を認めたために増殖抑制された可能性が高い。これらの結果は遺伝子異常を有する癌細胞の方がBAF/PBAF複合体サブユニットのノックダウンによる細胞増殖抑制効果が強く、癌細胞間の感受性の差が存在することを示している。BAF/PBAF複合体にサーファクチンを加えると複合体は解離し、BAF155、BAF60aはElution(溶出)されるがBRG1、ARID1BはElution(溶出)されない(図12)。なお、図12では、サーファクチンを「化合物X」と記載している。
【0057】
さらに、サーファクチンの作用点とBAF/PBAF複合体の作用を明らかにするRNA-シーケンス予備実験を行なった。BAF/PBAF複合体に変異を有するNUGC3においてBAF155のノックダウン(siBAF155)による遺伝子変化と、サーファクチン処理による遺伝子変化を比較した。siBAF155とサーファクチン処理により転写抑制される遺伝子に有意なものはなく、転写活性化される遺伝子を有意に発見できた。これらの遺伝子は癌抑制遺伝子を複数含むことを明らかにした(図13)。なお、図13では、サーファクチンを「化合物X」と記載している。
すなわち、サーファクチンの添加と、BAF155ノックダウンでのRNAシーケンスにより、共通の遺伝子発現上昇を認めた癌抑制遺伝子を発見した。
【0058】
<実施例3>環状ペプチドの合成
本発明者らは、上記のスクリーニング方法で特定したサーファクチンの構造を基に新規な環状ペプチドを合成した。具体的には、図4に示した環状ペプチドの構造に含まれる3-hydroxyalkanoyl、3-aminoalkanoyl、2-hydroxyalkanoyl、2-aminoalkanoylについて、以下の化合物を組み込んだ環状ペプチドを合成し、癌細胞の増殖抑制作用を確認した(図14)。したがって、これらの環状ペプチドは、癌細胞増殖抑制剤の有効成分とすることができる。
2-aminoalkanoyl;
Lysine
Glutamine

3-aminoalkanoyl;
3-Amino-3-(3-bromophenyl) propionic acid

3-hydroxyalkanoyl;
5-amino-3-hydroxy-Pentanoic acid
3-hydroxy-Octanoic acid
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