(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082335
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】崩れコークスの掻き出し方法、掻き出し治具の製造方法及び掻き出し治具
(51)【国際特許分類】
C10B 33/10 20060101AFI20230607BHJP
【FI】
C10B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196041
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】愛澤 禎典
(72)【発明者】
【氏名】上坊 和弥
(72)【発明者】
【氏名】松枝 恵治
(57)【要約】
【課題】崩れコークスの掻き出し時に発生する炉壁荷重の抑制という課題を掻き出し治具の形状面から解決することを目的とする。
【解決手段】コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスを、スコップ状の掻き出し治具が装着された押出ラムにより掻き出す崩れコークスの掻き出し方法において、掻き出し治具の側壁における側壁前面の底壁に対する傾斜角と、掻き出し時にコークス炉の炉壁に作用する炉壁荷重との関係である関係情報を予め取得するステップと、前記関係情報に基づき、所定の炉壁荷重を超えない傾斜角を前記側壁前面の設計角度として設定するステップと、前記設計角度を満足する掻き出し治具を用いて崩れコークスの掻き出しを行うステップと、を有することを特徴とする崩れコークスの掻き出し方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスを、スコップ状の掻き出し治具が装着された押出ラムにより掻き出す崩れコークスの掻き出し方法において、
掻き出し治具の側壁における側壁前面の底壁に対する傾斜角と、掻き出し時にコークス炉の炉壁に作用する炉壁荷重との関係である関係情報を予め取得するステップと、
前記関係情報に基づき、所定の炉壁荷重を超えない傾斜角を前記側壁前面の設計角度として設定するステップと、
前記設計角度を満足する掻き出し治具を用いて崩れコークスの掻き出しを行うステップと、
を有することを特徴とする崩れコークスの掻き出し方法。
【請求項2】
前記設計角度が崩れコークスの安息角以下の場合には、
前記側壁前面を、前記設計角度を満足する第1の側壁前面と、前記第1の側壁前面のコークス押出方向における後端側に連設され、前記設計角度よりも傾斜角の大きい第2の側壁前面とを有する形状とし、
前記側壁前面を備えた掻き出し治具を用いて、崩れコークスの掻き出しを行うことを特徴とする請求項1に記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【請求項3】
前記の所定の炉壁荷重は、コークス炉の炉壁限界荷重未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【請求項4】
押出ラムに装着され、コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスの掻き出しに用いられるスコップ状の掻き出し治具を製造する製造方法であって、
掻き出し治具の側壁における側壁前面の底壁に対する傾斜角と、掻き出し時にコークス炉の炉壁に作用する炉壁荷重との関係である関係情報を予め取得するステップと、
前記関係情報に基づき、所定の炉壁荷重を超えない傾斜角度を前記側壁前面の設計角度として設定するステップと、
を有することを特徴とする掻き出し治具の製造方法。
【請求項5】
押出ラムに装着され、コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスの掻き出しに用いられるスコップ状の掻き出し治具において、
掻き出し治具の側壁における側壁前面の底壁に対する傾斜角は、所定の炉壁荷重を超えない設計角度に設定されており、
前記設計角度は、掻き出し治具の側壁における側壁前面の底壁に対する傾斜角と掻き出し時にコークス炉の炉壁に作用する炉壁荷重との関係である関係情報に基づき設定されていることを特徴とする掻き出し治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押し詰まりコークスを、押出ラムに装着された掻き出し治具によって掻き出す掻き出し方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
室炉式のコークス炉では、炭化室に装入された石炭を乾留することによって、ガスやタールが発生し、残留分がコークスとなる。乾留が終了すると、炭化室の炉長方向両側に配設された蓋を開き、一方の窯口から炭化室に向かって押出機の押出ラムを前進させることにより、他方の窯口からコークスを排出する。排出されたコークスは、コークス乾式消化設備等で冷却された後、高炉用コークス等として用いられる。
【0003】
ここで、炭化室内のコークスは、「コークスケーキ」と呼ばれるコークス塊の集合体である。コークスケーキには多数の亀裂が形成されており、炉壁から炭中に向かって延びる主亀裂によって、コークスケーキは複数のコークス塊に分断されている。したがって、コークスケーキにおけるコークス塊は、比較的整然とした状態で炭化室内に収められている。
【0004】
一方、コークスケーキを炉外に押し出す際に、炭化室の壁面に形成されたカーボン由来の凸部等によって押出が阻害され、コークスケーキを押し出す途中で押出機が停止する、いわゆる「押し詰まり」が発生する場合がある。「押し詰まり」が発生した場合、押出ラムを一旦引き戻す必要があるが、押出ラムを引き戻す際に、圧縮されて脆弱になったコークスが崩れる(以下、「崩れコークス」ともいう)ことがある。実操業ではこの崩れコークスを押出ラムの先端に装着したスコップ形状の掻き出し治具を用いて炭化室から掻き出す処理が行われている。
【0005】
本発明者等は、掻き出し治具を崩れコークスの充填層に侵入させたときに、コークスケーキの押し出しと比較して、炉壁荷重が大きくなることを実験(以下、「背景技術に記載の実験」ともいう)により明らかにした(実験方法については後述する)。コークスケーキの押し出しと崩れコークスの掻き出しとで炉壁荷重に差異が生じた理由は、崩れコークスを構成するコークス塊がランダムに堆積しており、炉長方向に力が作用するとコークスケーキに比較して配置を変えやすく、炉壁方向への荷重が高まり易いからだと考えられる。
【0006】
従来は、掻き出し治具が装着されたラムの移動に関する定量的なガイダンスがなかったため、過大な負荷が炉壁に加わることによる破孔に至らない様に、オペレータの経験により作業が行われることが多く、掻き出し作業の効率化が望まれていた。
【0007】
特許文献1には、コークス内に安定挿入が可能で、かつ、コークスの掻き出し量の増大を形状面から追及したコークス炉用スコップ状の治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本製鉄技報第413号P171
【非特許文献2】第164回日本鉄鋼協会秋季講演大会CD-ROM 講演No.38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、崩れコークスの掻き出し時に発生する炉壁荷重の抑制という課題については全く考慮されていない。本発明は、この課題を掻き出し治具の形状面から解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る崩れコークス掻き出し方法は、(1)コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスを、スコップ状の掻き出し治具が装着された押出ラムにより掻き出す崩れコークスの掻き出し方法において、掻き出し治具の側壁における側壁前面の底壁に対する傾斜角と、掻き出し時にコークス炉の炉壁に作用する炉壁荷重との関係である関係情報を予め取得するステップと、前記関係情報に基づき、所定の炉壁荷重を超えない傾斜角を前記側壁前面の設計角度として設定するステップと、前記設計角度を満足する掻き出し治具を用いて崩れコークスの掻き出しを行うステップと、を有することを特徴とする崩れコークスの掻き出し方法。
【0012】
(2)前記設計角度が崩れコークスの安息角以下の場合には、前記側壁前面を、前記設計角度を満足する第1の側壁前面と、前記第1の側壁前面のコークス押出方向における後端側に連設され、前記設計角度よりも傾斜角の大きい第2の側壁前面とを有する形状とし、前記側壁前面を備えた掻き出し治具を用いて、崩れコークスの掻き出しを行うことを特徴とする上記(1)に記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【0013】
(3)前記の所定の炉壁荷重は、コークス炉の炉壁限界荷重未満であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【0014】
(4)押出ラムに装着され、コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスの掻き出しに用いられるスコップ状の掻き出し治具を製造する製造方法であって、掻き出し治具の側壁における側壁前面の底壁に対する傾斜角と、掻き出し時にコークス炉の炉壁に作用する炉壁荷重との関係である関係情報を予め取得するステップと、前記関係情報に基づき、所定の炉壁荷重を超えない傾斜角度を前記側壁前面の設計角度として設定するステップと、を有することを特徴とする掻き出し治具の製造方法。
【0015】
(5)押出ラムに装着され、コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスの掻き出しに用いられるスコップ状の掻き出し治具において、掻き出し治具の側壁における側壁前面の底壁に対する傾斜角は、所定の炉壁荷重を超えない設計角度に設定されており、前記設計角度は、掻き出し治具の側壁における側壁前面の底壁に対する傾斜角と掻き出し時にコークス炉の炉壁に作用する炉壁荷重との関係である関係情報に基づき設定されていることを特徴とする掻き出し治具。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炉壁荷重を抑制する観点から構造設計された掻き出し治具を用いて崩れコークスの掻き出し作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図5】炉壁荷重と傾斜角αとの関係を示すグラフ(関係情報)である。
【
図6】崩れコークスの安息角を考慮した側板部の設計方法を説明するための説明図である。
【
図7】コークス塊と煉瓦間の摩擦係数測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者等は、好適な掻き出し治具の形状を検討するために、掻き出し状況を模擬した試験を行った。この模擬試験について、具体的に説明する。
図1は、試験装置(冷間圧縮試験装置)の概略平面図である。L軸、H軸及びW軸は互いに直交する三軸であり、L軸は押出ラムの前進方向に対応しており、W軸は一対の側面パネルが対向する対向方向に対応しており、H軸は試験装置の高さ方向に対応している。L軸、H軸及びW軸の定義は、他の図面においても同様である。
【0019】
同図を参照して、試験装置100は、一対の支持体2,3と、油圧シリンダ4と、エアシリンダ5とを有し、これらの要素は基台1に設置されている。支持体2,3は、基台1に対して設置位置が調整できるように固定されている。支持体2,3の間には、側面パネル6,7が設置されている。
【0020】
油圧シリンダ4及びエアシリンダ5の間には、可動壁となる前後パネル8,9が配置されている。油圧シリンダ4のピストンロッド先端には、コークスに押出力を伝えるためのラムヘッドである押出ラム11が取り付けられている。
【0021】
また、エアシリンダ5は、押出力に対する反力を付与する反力付与手段であり、そのピストンロッド先端には、反力を伝え、押出力を受けるための受側ブロック12が取り付けられている。側面パネル6,7、押出ラム11及び受側ブロック12によって、コークスを格納する格納部10が形成される。
【0022】
前後パネル8及び押出ラム11の間、前後パネル9及び受側ブロック12の間にはそれぞれ、ロードセル21が設けられている。これにより、油圧シリンダ4の押圧力を検出することができる。支持体2及び側面パネル6の間、支持体3及び側面パネル7の間にもロードセル21が設けられている。これにより、側面パネル6,7の受力、つまり、炉壁荷重を検出することができる。
【0023】
「背景技術に記載の実験」は、実験1及び実験2からなる。実験1では、格納部10にコークスケーキを充填した後、押出ラム11を前進させることによりコークスケーキを押し出し、ラム荷重と炉壁荷重との関係を調べた。実験2では、格納部10に崩れコークスを模擬した崩れコークスと同様のサイズの複数のコークス塊(模擬崩れコークス)を配置した後、従来の掻き出し治具を押出ラム11に取り付け模擬崩れコークスに侵入させることにより、ラム荷重と炉壁荷重との関係を調べた。これらの実験結果から、模擬崩れコークスの掻き出し時の炉壁荷重が、コークスケーキ押し出し時の炉壁荷重と比較して大きくなることを確認した。
【0024】
通常、この試験装置はコークスケーキに押出力を付与した際、コークスケーキが炉幅方向に膨張することでどの程度の炉壁荷重が作用するかを測定するために用いられる。本実施形態では、崩れコークスの掻き出し時における掻き出し治具の形状と炉壁荷重との関係を明らかにするために当該試験装置を使用した。その試験結果から、掻き出し治具の底壁に対する側壁の傾斜角(以下、傾斜角αともいう)が小さくなると、炉壁荷重が低下することがわかった。そして、予め傾斜角αと炉壁荷重との関係(以下、関係情報ともいう)を調べておき、炉壁限界荷重を超えないような傾斜角α(以下、設計角度αともいう)を求めておくとともに、この設計角度αに設計された掻き出し治具を用いて崩れコークスの掻き出しを行うことより、オペレータの経験に依存しない効率的な掻き出し作業を実現できることを発見し、本発明を創作するに至った。
【0025】
上記関係情報の導出方法を実施例として述べる。
(実施例)
掻き出し治具が取り付けられた押出ラム11を、格納部10内に模擬した模擬崩れコークスに向かって侵入させて炉壁荷重を測定する試験を、掻き出し治具の形状を変更しながら、複数回行った。炉壁荷重は、掻き出し処理の時間中に検出された炉壁荷重の平均値(言い換えると、押出ラム11が最大ストロークに達するまでの炉壁荷重の平均値)とした。本実施例では、全ての水準について押し出しラム11を最大ストローク量に到達するまで伸長した(言い換えると、押し出しラム11の移動量を統一した)。
【0026】
図2は、掻き出し治具を装着した試験装置(冷間圧縮試験装置)200の概略側面図である。
図1と機能が共通する構成要素には、同一符号を付している。掻き出し治具13は、図示しない締結部材などを用いて押出ラム11の押出面に装着されている。なお、掻き出し治具13は、掻き出し治具13及び押出ラム11の底面が略面一となるように取り付けた。符号14は、格納部10内にランダムに充填されたコークス塊であり、崩れコークスを模擬している。
【0027】
模擬崩れコークス塊14は、以下の方法で格納部10内に堆積させた。掻き出し治具13の押し出し方向先端に厚み140mmの木板を立て、この木板と受側ブロック12との間のスペースにコークス塊を高さ300mmまで充填した。その後、木板を引き抜き、コークス塊を掻き出し治具13に向かって崩落させることにより、模擬崩れコークス塊14の裾野が掻き出し治具13の先端に来るようにした。本試験では、粒径を50mm~75mmに整粒したコークス塊を使用した。
【0028】
図3は、掻き出し治具13の斜視図である。掻き出し治具13は、図示しない締結部材などを用いて押出ラム11の押出面に装着されている。
【0029】
掻き出し治具13は、底板部131、一対の側板部132及び土台部133からなるスコップ形状に形成した。土台部133はさらに縦土台部133a及び天板土台部133bによって構成した。底板部131及び縦土台部133aは矩形状に形成した。一対の側板部132は互いに、同一形状に形成した。
【0030】
説明の便宜上、底板部131に接する側板部132の底面を側板底面部132Lと定義し、縦土台部133aに接する側板部132の背面を側板背面部132Hと定義し、模擬崩れコークス塊14側から視認される側板部132の面を側板前面部132Fと定義する。また、側板前面部132Fが段差形状の場合には、押出ラム11の押し出し方向前方側に位置する部分を第1の側板前面部132F1、押出ラム11の押し出し方向後方側に位置する部分を第2の側板前面部132F2と定義する。第1の側板前面部132F1の側板底面部132Lに対する傾斜角が上述の設計角度αに相当する。
【0031】
側板底面部132Lの長さLは300mmとし、側板背面部132Hの高さHも300mmとした。第1の側板前面部132F1の長さF1は200mmとした。
図3の斜視図に示された掻き出し治具13は、傾斜角αが90度、言い換えると、第1の側板前面部132F1が側板底面部132Lに対して垂直方向に延びた形状となっており、この形状をベース形状とした。
図4は、W軸方向から視た側板部132の正面図であり、水準I(図面では「I」で表示している)が上述のベース形状に対応している。
【0032】
図4に示すように、水準Iの第1の側板前面部132F1の高さF1(つまり、高さ200mm)を超えないように、傾斜角αを変えながら第1の側板前面部132F1を形成した後、第1の側板前面部132F1及び側板背面部132Hの上端を第2の側板前面部132F2で結ぶことにより、各水準の側板前面部132Fとした。水準VIIのように長さLの範囲内で第1の側板前面部132F1の高さが、水準Iの第1の側板前面部132F1の高さF1(200mm)に到達しない場合には、側板背面部132Hに到達する前に第1の側板前面部132F1と第2の側板前面部132F2とを繋いで、側板背面部132Hの上端と結ぶ形状とした。なお、水準IVは、第1の側板前面部132F1と第2の側板前面部132F2の傾斜角が互いに等しく、側板前面部132Fが段差のない形状となっている。なお、試験は、水準I(傾斜角α:90度)、水準III(傾斜角α:62度)、水準IV(傾斜角α:45度)、水準VII(傾斜角:26.5度)について行った。ただし、水準II(傾斜角α:76.5度)、水準V(傾斜角α:36度)、VI(傾斜角α:30度)について追加的に試験を行ってもよい。
なお、試験は、傾斜角α:0度超45度未満の範囲で少なくとも一回、傾斜角α:45度超90度未満の範囲で少なくとも1回行うことが望ましい。
試験回数が過度に少なくなると、
図5に示す関係情報の信頼性が低下するからである。
【0033】
図5は試験結果であり、横軸が傾斜角α、縦軸が炉壁荷重である。試験結果から明らかなように、水準I(傾斜角α:90度)と比較し、傾斜角αが小さくなると炉壁荷重が低下することがわかった。その理由は、第1の側板前面部132F1を側板底面部132Lに対して垂直に形成すると、模擬崩れコークス塊14に掻き出し治具13を侵入させた際に、先端部が模擬崩れコークス塊14に衝突して強く押し込まれるため、模擬崩れコークス塊14が配置を変え炉壁方向への荷重を発生させやすいからだと考えられる。一方、第1の側板前面部132F1の傾斜角αを小さくすることによって、炉長方向(L軸方向)に押し込まれる模擬崩れコークス塊14の割合が低下し、結果的に炉壁荷重が低下すると考えられる。
【0034】
そして、
図5に示す関係情報から、炉壁限界荷重(炉壁限界荷重については、後述する)に対応した傾斜角αを取得するとともに、この傾斜角αを超えない設計角度αを特定し、この設計角度αを満足する第1の側板前面部132F1を備えた掻き出し治具13を用いて崩れコークスの掻き出し処理を行うことができる。これにより、炉壁の破孔に至らない適切な掻き出し処理を、ガイダンスや、オペレータの経験によることなく行うことができるため、掻き出し作業を効率化することができる。
【0035】
第1の側板前面部132F1が、炉壁限界荷重に対応した傾斜角αを超えないように設計されていれば、側板部132を水準IIIのように第1の側板前面部132F1の傾斜角αが第2の側板前面部132F2の傾斜角より大きい上に凸の形状としてもよいし、水準VIIのように第1の側板前面部132F1の傾斜角αが第2の側板前面部132F2の傾斜角より小さい下に凸の形状としてもよい。すなわち、炉壁荷重が相対的に大きくなる上に凸の形状であっても、第1の側板前面部132F1が、炉壁限界荷重に対応した傾斜角αを超えないように設計されていればよい。
【0036】
押し出しラム11のストローク量が増大すると炉壁荷重は大きくなり、押し出しラム11のストローク量が低下すると炉壁荷重は小さくなる。したがって、ストローク量が変化した場合には、新たに
図5の関係情報を取得する必要がある。
【0037】
図6は、
図4に対応しており、崩れコークスの安息角を考慮した側板部132の設計方法を説明するための説明図である。同図を参照して、側板部132のうち一点鎖線で示す崩れコークスの安息角に対応した面よりも下側のハッチングで示す領域は崩れコークスの収容部として機能し、上側の領域は崩れコークスの収容部として機能しない。崩れコークスの安息角は一般的に40度程度であり、側板部132の長さL(奥行)及び高さHが同一である場合、水準IV(傾斜角α:45度)の側壁前面部132Fの下側に崩れコークスが堆積するため、少なくとも水準IV(傾斜角α:45度)よりも傾斜角αが大きい場合には、崩れコークスの収容部として機能しない無駄なスペースが発生することになる。
【0038】
無駄なスペースを少なくするためには、例えば、
図4の水準V、VI、VIIのように第1の側板前面部132F1の傾斜角αを崩れコークスの安息角以下に設計し、第2の側板前面部132F2の傾斜角を45度超に設計することが好ましい。例えば水準VIでは、第1の側板前面部132F1の上側に安息角に対応する面が形成されているが、崩れコークスの安息角に対応した高さH´(言い換えると、土台部133と接する崩れコークスの高さ)を超える高さHを確保するように第2の側板前面部132F2を形成することによって、土台部133の近傍に堆積した崩れコークスを側板部132によって押さえることができるため、崩れコークスを安息角の状態に維持したまま堆積させることができる。
【0039】
つまり、上述の
図5を考慮して決定した第1の側板前面部132F1の設計角度αが崩れコークスの安息角以下の場合であっても、高さH´を超える高さHを確保するように第2の側板前面部132F2の傾斜角を第1の側板前面部132F1の傾斜角αよりも大きくすることによって、炉壁に対する過負荷を防止しながら、崩れコークスの掻き出し量を水準I(傾斜角α:90度)と同レベルに維持することができる。
【0040】
図5の試験よりもストローク量が増大して、炉壁限界荷重に対応した傾斜角αが崩れコークスの安息角より小さくなる場合であっても、水準VIのような下に凸の二段形状に側板部132を形成することによって、炉壁に対する過負荷を防止しながら、崩れコークスの掻き出し量を確保することができる。下に凸の形状を避けたい場合には、ストローク量を小さくして、炉壁限界荷重に対応した傾斜角αが大きくなるようにしてもよい。
【0041】
上述の「炉壁限界荷重」は、炉壁が倒壊や破孔を起こさない適宜の値に設定することができる。なお、炉壁限界荷重は、炉壁耐性と言い換えることができる。コークス炉の炉壁耐性は、コークス炉の老朽化が進むにしたがって低下し、炉毎に異なる。非特許文献1に示されているように、押し出しラムの押出力Fは、以下の式(1)から算出することができる。
F=2Fw×μw+Fs×μs・・・・・式(1)
Fwは炉壁に作用する荷重、μwは炉壁摩擦係数、Fsは炉底に作用する荷重(すなわち、コークス質量)、μsは炉底摩擦係数である。
押出力F、炉壁摩擦係数μw、炉底摩擦係数μsが決まれば、式(1)に基づき炉壁に作用する荷重Fwを求めることができる。
炉壁摩擦係数μwは、非特許文献2および
図7に示されているように、コークス塊を炉壁煉瓦と同材質の煉瓦試料に所定荷重Fpで押し付けた状態で煉瓦試料を滑らせ、滑らせるのに必要な力Fsを測定し、FsをFpで除する(つまりFs/Fp)ことにより算出できる。炉底摩擦係数μsについても、同様に、コークス塊を炉底煉瓦と同材質の煉瓦試料に所定荷重Fpで押し付けた状態で煉瓦試料を滑らせ、滑らせるのに必要な力Fsを測定し、FsをFpで除する(つまりFs/Fp)ことにより算出できる。
炉底に作用する荷重Fsはコークス質量に等しいため、装入した石炭量と歩留から見積もることができる。なお、歩留は、例えば配合炭の性状(例えば揮発分VM)に基づき、操業実績等から求めることができる。
押出力Fは常時測定しているため、上記により、炉壁に作用する荷重Fwを求めることができる。
上記炉壁限界荷重は、過去の実機操業における炉壁状況の実績に基づき、求めることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 基台
2,3 支持体
4 油圧シリンダ
5 エアシリンダ
6,7 側面パネル
8,9 前後パネル
10 格納部
11 押出ラム
12 受側ブロック
13 掻き出し治具
21 ロードセル
100 200 試験装置
131 底板部
132 側板部
132F 側板前面部
132F1 第1の側板前面部
132F2 第2の側板前面部
133 土台部
133a 縦土台部
133b 天板土台部