(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082339
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】油中水型エマルションインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20230607BHJP
C09D 11/023 20140101ALI20230607BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230607BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/023
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196046
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】大澤 信介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正規
(72)【発明者】
【氏名】古山 岳史
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186FB04
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB24
2H186FB48
2H186FB57
2H186FB58
4J039AB02
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039CA07
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】エマルションの貯蔵安定性に優れる油中水型エマルションインクを提供することである。
【解決手段】非水溶性有機溶剤を含む油相と、水及びセルロースナノファイバーを含む水相とを含む、油中水型エマルションインクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性有機溶剤を含む油相と、水及びセルロースナノファイバーを含む水相とを含む、油中水型エマルションインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型エマルションインクに関する。
【背景技術】
【0002】
油中水(W/O)型エマルションは、油相に水相を分散させた組成物であり、例えば、医薬品、化粧品、インク等に用いられている。これらのうち、水分の含有量が少なく、低粘度な油中水型エマルションは、インクジェットヘッドからの吐出が可能であるため、インクジェットインクに好適である。
油中水型エマルションインクは、水相として水分が含まれることから、一般的な油性インクと比較して、用紙内部への色材の浸透を抑制することができ、裏抜けを低減し、画像濃度を改善することができる。また、油中水型エマルションインクは、水性インクに比べてインク中の水分量が少ないことから、普通紙に印刷する場合に、用紙のカールを防止することができる。用紙のカールは紙繊維間の水素結合が水によって切断され、用紙が膨潤してしまうために生じる現象である。しかし、水分の含有量が少なく低粘度な油中水型エマルションは、時間の経過とともに水相である液滴が合一し、水相と油相が分離しやすいという問題がある。
【0003】
油中水型エマルションインクの乳化安定性の観点から、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル等の特定の成分を用いる技術がある(特許文献1~3)。特許文献4には、油中水型エマルションインクの水相に重合度が3以上であるポリグリセリンを含ませることで、インクを低粘度化してインクジェットインクに適する吐出性能が提供可能であることが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-72057号公報
【特許文献2】特開2012-122047号公報
【特許文献3】特開2006-56931号公報
【特許文献4】特開2013-18819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油中水型エマルションインクでは、特にインクの低粘度化を図る場合では、インクの貯蔵安定性をさらに改善するために、乳化剤成分の選定の他にも技術開発が望まれる。特許文献4に開示の技術では、インクジェットインクに適する低粘度の油中水型エマルションインクを提供可能であるが、低粘度化された油中水型エマルションインクでは液滴の合一が発生しやすいという別の問題が生じることがある。
本発明は、エマルションの貯蔵安定性に優れる油中水型エマルションインクを提供することを一目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、非水溶性有機溶剤を含む油相と、水及びセルロースナノファイバーを含む水相とを含む、油中水型エマルションインクである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、エマルションの貯蔵安定性に優れる油中水型エマルションインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0009】
一実施形態による油中水(W/O)型エマルションインクは、非水溶性有機溶剤を含む油相と、水及びセルロースナノファイバーを含む水相とを含むことを特徴とする。この油中水型エマルションインクは、水相にセルロースナノファイバーを含むことで、内相である水滴粒子の合一が抑制され、エマルションの貯蔵安定性を良好に維持することができる。以下、油中水型エマルションインクを単にエマルションインク又はインクと称することがある。
【0010】
低粘度な油中水型エマルションは、時間の経過とともに水相と油相が分離しやすい傾向がある。これは、油中水型エマルションの内相である水相と外相である油相の密度差により、内相である水相の乳化粒子が沈降し、エマルションが部分的に濃縮され、互いに接した液滴が合一することで、乳化粒子の大粒子化が進み、やがて油相と水相の二相に分離してしまう現象によって引き起こされると考えられる。
上記の現象に対して、セルロースナノファイバーを水相中に配合することで、水中においてセルロースナノファイバーはネットワーク構造を構築することから、内相の液滴に構造粘性を付与することができる。これにより、大きな剪断力のかからない静置状態での乳化粒子の安定性が向上し、乳化粒子が沈降し、エマルションが濃縮された場合でも液滴の合一を抑制し、油相と水相の分離を防止することが可能となる。
【0011】
「油相」
油相には、非水溶性有機溶剤が含まれる。油相には、乳化剤、色材、分散剤等がさらに含まれてもよい。
非水溶性有機溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、組み合わせて使用することもできる。
【0012】
非極性有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水溶性有機溶剤を挙げることができ、市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN-10、カクタスノルマルパラフィンN-11、カクタスノルマルパラフィンN-12D、カクタスノルマルパラフィンN-13、カクタスノルマルパラフィンN-14、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN16、テクリーンN20、テクリーンN22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもENEOS株式会社製の商品名);アイソパーG、アイソパーH BHT、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD110、エクソールD130(いずれもエクソンモービル社製の商品名)等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもエクソンモービル社製の商品名)等を好ましく挙げることができる。石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがいっそう好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0013】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。例えば、イソノナン酸2-エチルヘキシル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2-オクチルデシル、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸イソブチルエステル、トール油脂肪酸メチルエステル、トール油脂肪酸イソブチルエステル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16~30の脂肪酸エステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12~20の高級アルコール系溶剤;ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α-リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14~20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水溶性有機溶剤には、沸点を示さない非水溶性有機溶剤も含まれる。
【0014】
これらの非水溶性有機溶剤は、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0015】
油相は、乳化剤をさらに含むことができる。乳化剤は、油中水型エマルションを構成するために用いられ、HLB値が好ましくは3~8、より好ましくは3.5~6.5の親油性乳化剤を用いることができる。乳化剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれを用いてもよい。このうち、油中水型エマルションの乳化性や貯蔵安定性の観点から、非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。具体的には、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンモノイソステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル、グリセリルモノステアレート、ヘキサグリセリルテトラオレエート、ヘキサグリセリルペンタオレエート、デカグリセリルデカオレエート、デカグリセリルペンタヒドロキシステアレート、デカグリセリルペンタイソステアレート、デカグリセリル縮合リシノレエート等の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、(ポリ)エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油等を好ましく挙げることができる。乳化剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いることもできる。乳化剤の含有量は、インク全量に対して0.1~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0016】
油相は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、表面張力調整剤、消泡剤等の任意成分をさらに含んでもよい。
【0017】
「水相」
水相には、水及びセルロースナノファイバーが含まれる。水相には、水溶性有機溶剤、色材、分散剤等がさらに含まれてもよい。
水相の溶媒は、蒸留水やイオン交換水等の水であることが好ましい。水は、水相の溶媒の70~100質量%であることが好ましく、より好ましくは80~100質量%である。
【0018】
水相は、水溶性有機溶剤をさらに含むことができる。水溶性有機溶剤としては、室温(23℃)で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。一方、水溶性有機溶剤の沸点の下限値は、水溶性有機溶剤が-20~90℃の範囲で液状であれば特に制限されない。水溶性有機溶剤は、油相に用いる非水溶性有機溶剤と実質的に相溶しないように選択されることが好ましい。
【0019】
これらの水溶性有機溶剤は、単独で使用してもよく、水と単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。水溶性有機溶剤のインク中の含有量は、2種以上が用いられる場合はその合計含有量として、5~50質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0020】
水相はセルロースナノファイバーを含むことができる。
水相に含まれるセルロースナノファイバーとしては、繊維幅が3nm~500nmであることが好ましく、3nm~200nmであることがより好ましく、3~100nmであることがさらに好ましい。セルロースナノファイバーの繊維幅は500nm以下であってよいが、水相の構造粘性及び透明性の観点から、100nm以下、好ましくは50nm以下、又は10nm以下であってもよい。セルロースナノファイバーの繊維長は100nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましく、500nm以上であってもよい。
ここで、セルロースナノファイバーの繊維幅及び繊維長はそれぞれ平均繊維幅及び平均繊維長を意味し、電子顕微鏡を用いて50個のセルロース繊維の繊維幅及び繊維長を測定し、その平均値として求めることができる。
【0021】
セルロースナノファイバーは、植物由来のセルロース繊維を解繊処理することで得られる高アスペクト比のセルロース繊維である。セルロースナノファイバーの原料としては、木材パルプ、麻、綿、藁、イネ、バカス等の非木材パルプ、レーヨン繊維等の再生セルロース繊維等であってよい。
セルロースナノファイバーの製造方法は、特に限定されないが、高圧ホモジナイザー、グラインダー等の機械的処理を用いて解繊処理することができ、さらに酸化処理等の化学的処理を機械的処理と併用して解繊処理してもよい。セルロースナノファイバーは、未処理のセルロースナノファイバーであってもよく、変性セルロースナノファイバーであってもよい。変性セルロースナノファイバーとしては、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TMPO)酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル(CM)化セルロースナノファイバー、リン酸エステル化セルロースナノファイバー等が挙げられる。
セルロースナノファイバーの市販品例としては、第一工業製薬株式会社製の「レオクリスタ」シリーズ(商品名)、スギノマシン株式会社製の「BiNFi-s」シリーズ(商品名)、王子ホールディング株式会社製の「アウロ・ヴィスコ」シリーズ(商品名)、日本製紙株式会社製の「セレンピア」シリーズ(商品名)、大王製紙株式会社製の「エレックス」シリーズ(商品名)等が挙げられる。セルロースナノファイバーは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー水分散体として水相に添加されてもよい。
【0022】
セルロースナノファイバーは、液滴の安定性の観点から、水相全量に対し0.1~1質量%であることが好ましく、0.3~1.0質量%であることがより好ましい。セルロースナノファイバーが水相全量に対し0.1質量%以上であることで、液滴の合一がより抑制されて、貯蔵安定性をより改善することができる。
また、セルロースナノファイバーは、液滴の安定性の観点から、インク全量に対し0.01~0.5質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましい。
【0023】
水相は、本発明の効果を損なわない範囲で、表面張力低下剤、金属塩、電解質、保湿剤、水溶性高分子、水中油(O/W)型樹脂エマルション、防黴剤、防腐剤、pH調整剤、凍結防止剤等の任意成分をさらに含んでもよい。
【0024】
「色材」
油中水型エマルションインクは色材をさらに含んでもよい。色材は水相及び油相のうち少なくとも一方に含まれればよく、両方に含まれてもよい。色材としては、顔料、染料、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0025】
油相に顔料が含まれる場合、顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
インク中における顔料粒子の平均粒子径は、貯蔵安定性の観点から、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の平均値として、300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。インクジェット用油中水型エマルションインクの場合は、これらの平均粒子径の顔料粒子を用いることで、インクジェット吐出の安定性をより改善することができる。
【0027】
油相に配合される染料としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料等の油溶性染料を挙げることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
一方、水相に顔料が含まれる場合、顔料としては、上記油相に含有させることができる顔料と同様のものを用いることができる。
水相に配合される染料としては、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等のうち水溶性の染料および還元等により水溶性になった水溶性染料を好ましく用いることができる。また、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、ニトロ系等の分散染料も好ましく用いることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
インク中で顔料を安定して分散させるために、顔料とともに顔料分散剤を用いることができる。
油相に顔料を分散させるための顔料分散剤としては、顔料をインク中に安定して分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、ビニルピロリドンと長鎖アルケンとの共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステルポリアミン等が好ましく用いられる。
【0030】
顔料分散剤の市販品の例としては、アシュランド・ジャパン株式会社製「アンタロンV216(ビニルピロリドン・ヘキサデセン共重合体)、V220(ビニルピロリドン・エイコセン共重合体)」(いずれも商品名)、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940(ポリエステルアミン系)、16000、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、24000、28000」(いずれも商品名)、BASFジャパン株式会社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名)、楠本化成株式会社製「ディスパロンKS-860、KS-873N(ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)、第一工業製薬株式会社製「ディスコール202、206、OA-202、OA-600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名)、ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK2155、BYK9077」(いずれも商品名)、クローダジャパン株式会社製「HypermerKD2、KD3、KD11、KD12」(いずれも商品名)等が挙げられる。
これらの顔料分散剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
水相に顔料を分散させるための顔料分散剤としては、例えば、高分子分散剤や界面活性剤に代表される顔料分散剤を好ましく用いることができる。
高分子分散剤の市販品として、例えば、EVONIK社製のTEGOディスパースシリーズ「TEGOディスパース740W、750W、755W、757W、760W」、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ「ソルスパース20000、27000、41000、41090、43000、44000、46000」、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルシリーズ「ジョンクリル57、60、62、63、71、501」、BYK製の「DISPERBYK-102、185、190、193、199」、第一工業製薬株式会社製のポリビニルピロリドン「K-30、K-90」等が挙げられる。
【0032】
界面活性剤型分散剤には、インク中の顔料の分散安定性、及び表面処理剤からのイオン性の影響を考慮して、非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
界面活性剤型分散剤の市販品として、例えば、花王株式会社製デモールシリーズ「デモールEP、N、RN、NL、RNL、T-45」等のアニオン性界面活性剤;花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲンA-60、A-90、A-500、B-40、L-40、420」等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
これらの顔料分散剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
顔料分散剤は、顔料1に対し0.2~1.0の質量比で含まれていることが好ましい。顔料分散剤のインク全量における含有量としては、0.5~15質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0034】
水相に色材が配合される場合、水相の色材として自己分散顔料を用いてもよい。
自己分散顔料は、水に自己分散可能な顔料であり、顔料表面にカルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン基等の水に対する可溶化基を数多く有し、高分子分散剤が存在しなくても安定に分散する顔料である。自己分散顔料は、通常の顔料に対して、酸・塩基処理、カップリング剤処理、ポリマーグラフト処理、プラズマ処理、酸化/還元処理等の表面処理等を施すことにより得ることができる。
【0035】
黒色の自己分散顔料の市販品としては、例えば、CAB-O-JET200、300、400(キャボットジャパン株式会社製);BONJET BLACK CW-1S、CW-2、CW-3、CW-4、CW-5、CW-6(オリヱント化学工業株式会社製);LIOJET WD BLACK 002C(東洋インキ株式会社製);Aqua-BLACK001、162(東海カ-ボン株式会社製);SDP BLACK 100、1000、2000(センシエント社製)等を挙げることができる。
また、カラーの自己分散顔料を用いてもよい。カラーの自己分散顔料としては、センシエントカラーズ株式会社製SMART CYAN、MAGENTA、YELLOW、ULTRA CYAN、MAGENTA、YELLOW;キャボットジャパン株式会社製CAB-O-JET250C、270C、450C、260M、265M、465M、270Y、470Y、740Y等を挙げることができる。
上記した色材は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
色材の含有量は、所望される画像濃度や色彩に応じて変更されるが、インク全量に対し、固形分質量基準で、0.1~20質量%が好ましく、より好ましくは1~15質量%であり、さらに好ましくは5~10質量%である。色材が1重量%以上であることで、十分な画像濃度を得ることができる。色材が15質量%以下であることで、色材の凝集を防止して貯蔵安定性の低下を防止することができ、また、低粘性のインクを得ることができる。
色材が水相に含まれる場合、色材は、水相全量に対し、0.1~10質量%で含まれることが好ましい。
色材が油相に含まれる場合、色材は、油相全量に対し、0.1~10質量%で含まれることが好ましい。連続層である油相に色材を添加することで、インク中への色材の添加量をより多くすることができ、画像濃度をより改善することができる。
【0037】
「油中水型エマルションインクの作製方法」
油中水型エマルションインクは、油相と水相とを混合し、乳化することにより製造することができる。水相と油相は、予め別々に調製しておくことが好ましい。次いで、油相中に水相を添加しながら乳化させることができる。あるいは、水相に、油相を構成する成分を一括又は個別に添加した後に、乳化させてもよい。水相と油相の乳化には、ディスパーミキサー、ホモミキサ-等の乳化機を用いることができる。
【0038】
水相及び油相は、それぞれ例えばディスパ-等の撹拌混合機又はビ-ズミル等の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散ないし混合させ、所望により、メンブレンフィルタ-等のろ過機を通すことにより調製することができる。
【0039】
本発明の油中水型エマルションは、油相40~95質量%及び水相60~5質量%となるように配合することが好ましい。水相の比率が60質量%を越えると、油中水型エマルションインク中で水相が分離することがある。水相の比率が5質量%に満たないと、インクとして使用した場合、画像濃度が低くなったり、印刷物に裏抜けが発生したりすることがある。一般に、水相の比率が高くなると、エマルション粘度が上昇する傾向があるため、インク中の両相の配合比率は、油相50~95質量%及び水相50~5質量%がより好ましく、油相55~95質量%及び水相45~5質量%がさらに好ましい。
【0040】
インク中の水分量は、高い印刷物の印刷濃度と裏抜け低減を維持しつつ、インクの低粘度化が図れるため、インク全量に対して、好ましくは3~50質量%であり、より好ましくは5~40質量%であり、一層好ましくは10~35質量%である。
【0041】
エマルション液滴の平均粒子径は、500nm以下程度であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることが一層好ましい。エマルション液滴の平均粒子径は、動的光散乱法にしたがって測定することができる。エマルションの平均粒子径は、油相に配合される乳化剤の量や、水相の水分量等を調整することで制御することができる。
【0042】
油中水型エマルションインクとしては、特に限定されず、インクジェット用油中水型エマルションインク、オフセット印刷用油中水型エマルションインク、孔版印刷用油中水型エマルションインク、グラビア印刷用油中水型エマルションインク、フレキソ印刷用油中水型エマルションインク等のいずれでもよい。なかでも、低粘度な油中水型エマルションインクの貯蔵安定性を改善することができるため、インクジェット用油中水型エマルションインクが好ましい。
【0043】
インクジェット用油中水型エマルションインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから本実施形態によるインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにすることが好ましい。
【0044】
インクジェット用油中水型エマルションインクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5~100mPa・sであることが好ましく、5~50mPa・sがより好ましく、10~30mPa・sがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態において、記録媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0046】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm~数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0047】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【実施例0048】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。特に説明のない限り「%」は「質量%」を示す。
【0049】
<油中水型エマルションインクの作製>
表1に示す油相の材料を各配合量で混合し油相を調製した。次に、表1に示す水相の材料を各配合量で混合し水相を調製した。表中の各材料の配合量は、質量%で示す。表中の各成分の配合量は、揮発分及び溶媒が含まれる成分については、揮発分及び溶媒を含めた量である。
上記油相を高速ホモジナイザ-「ヒスコトロン」(商品名、マイクロテック・ニチオン社製)を用いて5000rpmで撹拌しながら、上記油相に上記水相を滴下した。その後、12000rpmで3分間撹拌してインクジェット用油中水型エマルションインクを得た。
【0050】
用いた成分は以下の通りである。
黒色自己分散顔料:オリヱント化学工業株式会社製「BONJET BLACK CW-5」、顔料分13%。
セルロースナノファイバー「レオクリスタI-2SX」:第一工業製薬株式会社製、固形分2%。
セルロースナノファイバー「BiNFi-s WFo-100」:株式会社スギノマシン製、固形分2%。
顔料「カーボンブラック#2350」:三菱ケミカル株式会社製。
分散剤「ソルスパース16000」:日本ルーブリゾール株式会社製、有効成分100%。
乳化剤「トリオレイン酸デカグリセリル」:日光ケミカルズ株式会社製。
非水溶性有機溶剤「エクソールD110」:エクソンモービル社製。
非水溶性有機溶剤「イソノナン酸2-エチルヘキシル」:高級アルコール工業株式会社製。
【0051】
<貯蔵安定性の評価>
作製直後のインクジェット用油中水型エマルションインクをサンプリングし、インクの粘度測定を行った。次に、インクを10mlのスクリュ-バイアル瓶に入れて、70℃で4週間放置した。その後、インクをサンプリングし、目視評価及びインク粘度測定を行った。4週間放置前後のインク粘度から、下記式に従ってインク粘度変化率を算出した。インク粘度変化率及び目視評価から、下記基準に従って貯蔵安定性を評価した。インクの粘度は、レオメーターMCR302(アントン・パール社製)を用いて室温(23℃)で測定した。結果を表1に示す。
インク粘度変化率(%)=100-{放置後のインク粘度(mPa・s)/作製直後のインク粘度(mPa・s)}×100
A:放置後にインクの分離が見られず、インク粘度変化率の絶対値が5%未満である。
B:放置後にインクの分離が見られず、インク粘度変化率の絶対値が5%以上10%未満である。
C:放置後にインクの分離が見られる、又はインク粘度変化率の絶対値が10%以上である。
【0052】
【0053】
表中に示す通り、各実施例の油中水型エマルションインクは貯蔵安定性が良好であり、各比較例の油中水型エマルションインクでは貯蔵安定性が低下した。