(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082366
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】カッタヘッド
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20230607BHJP
B23F 21/10 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
B23F5/16
B23F21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196091
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】馮 雁楠
【テーマコード(参考)】
3C025
【Fターム(参考)】
3C025AA03
3C025EE03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カッタヘッドによる歯車の加工時のびびり振動を抑えて、歯車の加工精度を向上させる。
【解決手段】カッタヘッド1は、スカイビング加工により、複数の歯溝を有する歯車を形成する。複数の歯車のそれぞれは、左側面と右側面とを含む。カッタヘッド1は、少なくとも1つの左カッタ刃4Lと、少なくとも1つの右カッタ刃4Rとを備える。少なくとも1つの左カッタ刃4Lは、左側面と右側面とのうち左側面を切削する。少なくとも1つの右カッタ刃4Rは、左側面と右側面とのうち右側面を切削する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカイビング加工により、左側面と右側面とをそれぞれ含む複数の歯溝を有する歯車を形成するためのカッタヘッドであって、
前記左側面と前記右側面とのうち前記左側面を切削する少なくとも1つの左カッタ刃と、
前記左側面と前記右側面とのうち前記右側面を切削する少なくとも1つの右カッタ刃と、
を備えるカッタヘッド。
【請求項2】
前記複数の歯溝のそれぞれに対して、前記左カッタ刃と前記右カッタ刃とが交互に切削するように、前記少なくとも1つの左カッタ刃と前記少なくとも1つの右カッタ刃とが、前記カッタヘッドにおいて配列されている、
請求項1に記載のカッタヘッド。
【請求項3】
前記左カッタ刃は、前記カッタヘッドにおいて複数のカッタ刃が等ピッチに配置される標準位置に対して、前記カッタヘッドの周方向において左方にオフセットしている右刃面を含む、
請求項1又は2に記載のカッタヘッド。
【請求項4】
前記右カッタ刃は、前記カッタヘッドにおいて複数のカッタ刃が等ピッチに配置される標準位置に対して、前記カッタヘッドの周方向において右方にオフセットしている左刃面を含む、
請求項1又は2に記載のカッタヘッド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかのカッタヘッドを用いたスカイビング加工により形成された歯車。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかのカッタヘッドを用いるスカイビング加工を含む歯車形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スカイビング加工用のカッタヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ワークから歯車を形成する方法の1つとして、スカイビング加工がある。スカイビング加工では、カッタヘッドが、ワークに対して一定角度で交差するように配置される。カッタヘッドは、カッタヘッドの周方向に並んで配置された複数のカッタ刃を有している。カッタ刃は、カッタヘッドの周方向に等ピッチで配置される(例えば、特許文献1参照)。カッタヘッドが回転すると共に、ワークがカッタヘッドの回転に同期して回転することで、カッタヘッドがワークを加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したスカイビング加工によって、大径の歯車、又は大モジュールの歯車を加工する場合、加工時にびびり振動が発生することがある。その場合、歯車の加工精度が低下する恐れがある。本開示の目的は、カッタヘッドによる歯車の加工時のびびり振動を抑えて、歯車の加工精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るカッタヘッドは、スカイビング加工により、複数の歯溝を有する歯車を形成する。複数の歯車のそれぞれは、左側面と右側面とを含む。カッタヘッドは、少なくとも1つの左カッタ刃と、少なくとも1つの右カッタ刃とを備える。少なくとも1つの左カッタ刃は、左側面と右側面とのうち左側面を切削する。少なくとも1つの右カッタ刃は、左側面と右側面とのうち右側面を切削する。
【0006】
本態様に係るカッタヘッドでは、左カッタ刃は、歯溝の左側面と右側面とのうち左側面を切削する。右カッタ刃は、歯溝の左側面と右側面とのうち右側面を切削する。そのため、1つのカッタ刃が、歯溝の左側面と右側面とを同時に切削する場合と比べて、カッタ刃への切削負荷が軽減される。それにより、カッタヘッドによる歯車の加工時のびびり振動が抑えられ、歯車の加工精度が向上する。
【0007】
複数の歯溝のそれぞれに対して、左カッタ刃と右カッタ刃とが交互に切削するように、少なくとも1つの左カッタ刃と少なくとも1つの右カッタ刃とが、カッタヘッドにおいて配列されてもよい。この場合、1つのカッタ刃が、歯溝3の左側面と右側面とを同時に切削する場合と同様に、歯溝の左側面と右側面とが精度よく切削される。
【0008】
左カッタ刃は、標準位置に対して、カッタヘッドの周方向において左方にオフセットしている右刃面を含んでもよい。標準位置は、カッタヘッドにおいて複数のカッタ刃が等ピッチに配置された場合のカッタ刃の位置を示す。この場合、左カッタ刃の右刃面は、左方にオフセットしていることで、歯溝の右側面に接触しない。それにより、左カッタは、歯溝の左側面を切削する。
【0009】
右カッタ刃は、標準位置に対して、カッタヘッドの周方向において右方にオフセットしている左刃面を含んでもよい。この場合、右カッタ刃の左刃面は、右方にオフセットしていることで、歯溝の左側面に接触しない。それにより、右カッタは、歯溝の右側面を切削する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、カッタヘッドによる歯車の加工時のびびり振動が抑えられ、歯車の加工精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るカッタヘッドとワークとを示す側面断面図である。
【
図2】カッタヘッドとワークとを示す上面図である。
【
図4A】左カッタ刃と、左カッタ刃による切削中の歯溝とを示す拡大図である。
【
図4B】右カッタ刃と、右カッタ刃による切削中の歯溝とを示す拡大図である。
【
図5】カッタ刃によるワークの切削時の切取厚さを示す図である。
【
図6】実施例に係るカッタヘッドのワークの歯溝と、各歯溝に対応するカッタ刃との関係を示す表である。
【
図7】実施例に係るカッタヘッドのワークの歯溝と、各歯溝に対応する左右のカッタ刃との関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態に係るカッタヘッドについて説明する。
図1は、実施形態に係るカッタヘッド1とワーク2とを示す側面断面図である。
図2は、実施形態に係るカッタヘッド1とワーク2とを示す上面図である。カッタヘッド1は、スカイビング加工により、ワーク2を切削することで、複数の歯溝3を有する歯車を形成する。
【0013】
カッタヘッド1とワーク2とは、図示しない駆動装置により、互いに同期して回転する。
図1に示すように、カッタヘッド1の回転軸A1は、ワーク2の回転軸A2に対して傾斜している。カッタヘッド1は、回転軸A1回りに回転しながら、ワーク2の回転軸A2に平行な方向に移動することで、ワーク2の内面を掘削して歯溝を形成する。カッタヘッド1の回転軸A1と、ワーク2の回転軸A2と平行な軸線とは、交差角θをなして交差する。
【0014】
図2に示すように、カッタヘッド1は、複数のカッタ刃4を有している。
図3は、カッタヘッド1の拡大図である。
図3に示すように、複数のカッタ刃4は、複数の左カッタ刃4Lと複数の右カッタ刃4Rとを含む。なお、
図3では、複数の左カッタ刃4Lの一部と、複数の右カッタ刃4Rの一部のみが図示されているが、他の左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rも同様の形状を有している。
【0015】
左カッタ刃4Lは、右刃面11と左刃面12とを含む。なお、以下の説明において、左右の各方向は、カッタヘッド1の径方向外方を向いて見たときの左右の各方向を意味するものとする。カッタヘッド1は、
図2で示されるように軸方向視で歯車の形状を有しており、歯車と擬制してもよい。カッタヘッド1を外歯車と擬制すると、左右の各方向は、
図3で示されるような軸方向視で歯先を上にして見た場合の歯車の左側面、右側面のある各方向としてもよい。左カッタ刃4Lの右刃面11は、カッタ刃4の標準位置に対して、カッタヘッド1の周方向における左方にオフセットしている。
図3において、破線は、カッタ刃4の標準位置を示している。標準位置は、カッタヘッド1において複数のカッタ刃4が等ピッチに配置される位置を示している。左カッタ刃4Lの左刃面12は、カッタ刃4の標準位置に位置する。例えば、左カッタ刃4Lは、標準位置のカッタ刃4の右側面11’をカッタヘッド1の周方向左方に直線的に移動させた形状を有している。右方、左方のどちらにもオフセットのないカッタ刃を標準カッタ刃とする。
【0016】
右カッタ刃4Rは、右刃面21と左刃面22とを含む。右カッタ刃4Rの左刃面22は、カッタ刃4の標準位置に対して、カッタヘッド1の周方向における右方にオフセットしている。右カッタ刃4Rの右刃面21は、カッタ刃4の標準位置に位置する。例えば、右カッタ刃4Rは、標準位置のカッタ刃4の左刃面22’を直線的に移動させた形状を有している。
【0017】
図4Aは、左カッタ刃4Lと、左カッタ刃4Lによる切削中の歯溝3とを示す拡大図である。
図4Aに示すように、歯溝3は、右側面13と左側面14とを含む。左カッタ刃4Lは、左刃面12によって歯溝3の左側面14を切削する。左カッタ刃4Lの右刃面11は、歯溝3の右側面13から離れている。それにより、左カッタ刃4Lは、左側面14と右側面13とのうち左側面14のみを切削する。
【0018】
図4Bは、右カッタ刃4Rと、右カッタ刃4Rによる切削中の歯溝3とを示す拡大図である。
図4Bに示すように、右カッタ刃4Rは、右刃面21によって歯溝3の右側面13を切削する。右カッタ刃4Rの左刃面22は、歯溝3の左側面14から離れている。それにより、右カッタ刃4Rは、左側面14と右側面13とのうち右側面13のみを切削する。
【0019】
なお、左カッタ刃4Lの右刃面11と、右カッタ刃4Rの左刃面22のオフセットの大きさは、Tmax/cosθより大きいことが好ましい。Tmaxは、切取厚さTの最大値である。θは、交差角である。
図5に示すように、切取厚さTは、カッタ刃4の刃先がなす切削面の軌跡Pcとワーク2の切削前の表面Pwとの間の距離である。一般的な切取厚さは、0.4mmより小さい。従って、オフセットの大きさは、例えば0.4mm/cosθであってもよい。或いは、切取厚さTは、下記参考文献などに記載の手法で算出されてもよい。
(参考文献)Zhenlong Fang、外6名、“Construction of uncut chip geometry in gear skiving using level contours”、Precision Engineering、January 2022(刊行予定)、Vol.73、pp93-103、2021年8月にネット上で公開、URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0141635921002026?via%3Dihub
【0020】
カッタヘッド1では、複数の歯溝3のそれぞれに対して、左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとが交互に切削するように、左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとが配列されている。以下、カッタヘッド1における左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとの配列について説明する。
【0021】
図2に示すように、カッタ刃4には、カッタヘッド1の周方向に順に、第1番目から第M番目までの番号が付されているものとする。
図2では、各カッタ刃4に付された符号の括弧内の数字が、各カッタ刃4の番号を示している。例えば、4(1)は、第1番目のカッタ刃4を意味している。4(2)は、第2番目のカッタ刃4を意味している。
【0022】
また、ワーク2の歯溝3には、ワーク2の周方向に順に、第1番目から第N番目までの番号が付されているものとする。
図2では、各歯溝3に付された符号の括弧内の数字が、各歯溝3の番号を示している。例えば、3(1)は、1番目の歯溝3を示している。3(3)は、3番目の歯溝3を示している。
【0023】
図6は、一実施例に係るワーク2の歯溝3と、各歯溝3に対応するカッタヘッド1のカッタ刃4との関係を示す表である。
図6において、欄B1は、歯溝3の番号を示している。列B2は、歯溝3の切削のサイクル数を示している。1サイクルは、第1番目から第N番目までのN個の歯溝3が切削されることを意味する。また、破線B3内の数字は、各歯溝3に対応するカッタ刃4の番号を示している。本実施例では、歯溝3の数Nは23であり、カッタ刃4の数Mは14である。
【0024】
例えば、本実施例では、
図6に示すように、第1番目のサイクルでは、第1番目から第14番目の歯溝3に対して、第1番目から第14番目のカッタ刃4がそれぞれ対応している。また、第15番目から第23番目の歯溝3に対して、第1番目から第9番目のカッタ刃4がそれぞれ対応している。
【0025】
また、第1番目の歯溝3は、第1,10,5,14,9,4,13,8,3,12,7,2,11,6番目のカッタ刃4によって順に切削される。第2番目の歯溝3は、第2,11,6,1,10,5,14,9,4,13,8,3,12,7番目のカッタ刃4によって順に切削される。
【0026】
本実施例では、奇数番目のカッタ刃4が左カッタ刃4Lであり、偶数番目のカッタ刃4が右カッタ刃4Rである。
図7は、
図6の表において、左カッタ刃4Lを「L」、右カッタ刃4Rを「R」で示したものである。
図7に示すように、各歯溝3に対して、左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとが交互に切削するように、左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとが配列されている。
【0027】
例えば、第1番目の歯溝3は、奇数サイクルでは左カッタ刃4Lによって切削され、偶数サイクルでは右カッタ刃4Rによって切削される。第2番目の歯溝3は、奇数サイクルでは右カッタ刃4Rによって切削され、偶数サイクルでは左カッタ刃4Lによって切削される。
【0028】
以上説明した本実施形態に係るカッタヘッド1では、左カッタ刃4Lは、歯溝3の左側面14と右側面13とのうち左側面14を切削する。右カッタ刃4Rは、歯溝3の左側面14と右側面13とのうち右側面13を切削する。そのため、1つのカッタ刃4が、歯溝3の左側面14と右側面13とを同時に切削する場合と比べて、カッタ刃4への切削負荷が軽減される。それにより、カッタヘッド1による歯車の加工時のびびり振動が抑えられ、歯車の加工精度が向上する。
【0029】
また、カッタヘッド1では、複数の歯溝3のそれぞれに対して、左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとが交互に切削するように、左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとが配列されている。それにより、標準位置のカッタ刃4によって歯溝3の左側面14と右側面13とが同時に切削される場合と同様に、左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとによって歯溝3の左側面14と右側面13とが精度よく切削される。
【0030】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0031】
上記の実施形態では、カッタヘッド1は、ワーク2を内歯歯車に加工する。しかし、カッタヘッド1は、ワーク2を外歯歯車に加工してもよい。上記の実施形態では、カッタヘッド1は、ワーク2を平歯車に加工する。しかし、カッタヘッド1は、ワーク2を斜歯歯車に加工してもよい。
【0032】
上記の実施形態では、複数のカッタ刃4の全てが左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとのいずれかである。しかし、複数のカッタ刃4の一部のみが、左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとのいずれかであってもよい。すなわち、カッタヘッド1は、左刃面12と右刃面11とが共にオフセットしておらず標準位置に位置するカッタ刃4を含んでもよい。
【0033】
カッタ刃4の数Mと歯溝3の数Nとは、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。カッタヘッド1における左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rとの配列は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、上記の実施例において、偶数番目のカッタ刃4が左カッタ刃4Lであり、奇数番目のカッタ刃4が右カッタ刃4Rであってもよい。
【0034】
左カッタ刃4Lと右カッタ刃4Rの形状は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、
図8Aに示すように、左カッタ刃4Lは、標準位置のカッタ刃4’の左半分の形状であってもよい。
図8Bに示すように、右カッタ刃4Rは、標準位置のカッタ刃4’の右半分の形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本開示によれば、カッタヘッドによる歯車の加工時のびびり振動が抑えられ、歯車の加工精度が向上する。
【符号の説明】
【0036】
4L:左カッタ刃
4R:右カッタ刃
11:右刃面
13:右側面
14:左側面
22:左刃面