IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニチカ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082406
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】工程用フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230607BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230607BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230607BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
B32B27/32 A
B32B27/36
C08J7/04 Z CFD
B28B1/30 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196156
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 涼子
(72)【発明者】
【氏名】安野 実恵
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暢康
(72)【発明者】
【氏名】芦原 公美
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮平
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4G052
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB13
4F006AB65
4F006BA01
4F006BA11
4F006CA08
4F100AK01
4F100AK01B
4F100AK41
4F100AK41A
4F100AK42
4F100AK42A
4F100AK62
4F100AK62B
4F100AL07
4F100AL07B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DE01
4F100DE01A
4F100EH17
4F100EJ38
4F100EJ42
4F100GB41
4F100JA07
4F100JA07B
4F100JK06
4F100JK07
4F100JK07B
4F100JK15
4F100JL14
4G052DA02
4G052DB01
(57)【要約】
【課題】薄膜状のセラミックグリーンシートを積層した状態で、長期保管した場合であっても初期と変わらぬ優れた離型性を示す、すなわち、経時的に離型性が変化せず、さらに、樹脂層表面が平滑である工程用フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が形成されている工程用フィルムであり、樹脂層は、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体および架橋剤を含有し、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィン成分の炭素数が5以上であり、樹脂層表面の算術平均粗さ(Sa)が20nm以下であり、かつ、セラミックグリーンシートを積層した状態で25℃、4週間静置前後における剥離力差が0.02N/cm以下である、ことを特徴とする工程用フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が形成されている工程用フィルムであり、
樹脂層は、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体および架橋剤を含有し、
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィン成分の炭素数が5以上であり、
樹脂層表面の算術平均粗さ(Sa)が20nm以下であり、かつ、
セラミックグリーンシートを積層した状態で25℃、4週間静置前後における剥離力差が0.02N/cm以下である、ことを特徴とする工程用フィルム。
【請求項2】
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体を構成するエチレン成分とα-オレフィン成分との質量比(エチレン成分/α-オレフィン成分)が、99/1~60/40である請求項1に記載の工程用フィルム。
【請求項3】
架橋剤の含有量が、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体100質量部に対して、5~40質量部である請求項1または2に記載の工程用フィルム。
【請求項4】
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の酸変性量が、1~5質量%である請求項1~3のいずれかに記載の工程用フィルム。
【請求項5】
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の重量平均分子量が、20000~300000である請求項1~4のいずれかに記載の工程用フィルム。
【請求項6】
樹脂層とアクリル系粘着テープに対する剥離強度が、1.0N/cm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の工程用フィルム。
【請求項7】
樹脂層の動的粘弾性が、温度120℃における貯蔵弾性率E’が10以上であり、かつ、
25℃における損失弾性率E’’が10Pa以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の工程用フィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の工程用フィルムを製造するための方法であって、
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体および架橋剤を含有する樹脂層形成用液状物をポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗布し、乾燥する工程と、
樹脂層が形成されたポリエステルフィルムを延伸、熱処理する工程と、を含む工程用フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートの製造に好適に用いることができる工程用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックコンデンサ等の材料であるセラミックグリーンシートを製造する際の工程用キャリアフィルムは、耐熱性、寸法安定性、平滑性、透明性、強度が求められる。
セラミックグリーンシート製造の離型フィルムとしては、シリコーン系離型フィルムが知られているが、シリコーン系樹脂中に含まれる低分子量のシリコーン化合物やシリコーン樹脂被膜の一部がセラミックグリーンシート表面を汚染するという問題がある。
【0003】
そこで、非シリコーン系の離型フィルムの開発が行われている。
例えば、特許文献1や2のように、ポリエステルフィルム表面に非シリコーン系の離型層を形成した離型フィルムが、セラミックグリーンシートの製造工程用フィルムとして使用できることが開示されている。
【0004】
近年、セラミックコンデンサは、小型化および大容量化が進み、これに伴いセラミックグリーンシートの薄膜化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-111884号公報
【特許文献2】特開2016-175322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や2の離型フィルムを用いて薄膜状のセラミックグリーンシートを作製する場合、離型フィルムとセラミックグリーンシートを積層した状態で放置すると、剥離が経時的に重くなり、離型時に薄膜状のセラミックグリーンシートが破損して(割れて)しまう場合があった。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑み、薄膜状の
セラミックグリーンシートを積層した状態で、長期保管した場合であっても初期と変わらぬ優れた離型性を示す、すなわち、経時的に離型性が変化せず、さらに、樹脂層表面が平滑である工程用フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体および架橋剤を含有する樹脂層をポリエステルフィルムに形成する工程用フィルムを用いることで、前記課題を解決できることを見出し、本発明に達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が形成されている工程用フィルムであり、樹脂層は、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体および架橋剤を含有し、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィン成分の炭素数が5以上であり、樹脂層表面の算術平均粗さ(Sa)が20nm以下であり、かつ、セラミックグリーンシートを積層した状態で25℃、4週間静置前後における剥離力差が0.02N/cm以下である、ことを特徴とする工程用フィルム。
(2)酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体を構成するエチレン成分とα-オレフィン成分との質量比(エチレン成分/α-オレフィン成分)が、99/1~60/40である(1)に記載の工程用フィルム。
(3)架橋剤の含有量が、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体100質量部に対して、5~40質量部である(1)または(2)に記載の工程用フィルム。
(4)酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の酸変性量が、1~5質量%である(1)~(3)のいずれかに記載の工程用フィルム。
(5)酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の重量平均分子量が、20000~300000である(1)~(4)のいずれかに記載の工程用フィルム。
(6)樹脂層とアクリル系粘着テープに対する剥離強度が、1.0N/cm以下であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の工程用フィルム。
(7)樹脂層の動的粘弾性が、温度120℃における貯蔵弾性率E’が105以上であり、かつ、25℃における損失弾性率E’’が106Pa以上であることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の工程用フィルム。
(8)前記(1)~(7)のいずれかに記載の工程用フィルムを製造するための方法であって、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体および架橋剤を含有する樹脂層形成用液状物をポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗布し、乾燥する工程と、樹脂層が形成されたポリエステルフィルムを延伸、熱処理する工程と、を含む工程用フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、セラミックグリーンシートとの剥離力に優れ、長期間保管前後において経時的に離型性が変化せず、樹脂層表面が平滑である工程用フィルムを提供することができる。
上記フィルムは、耐熱性や耐溶剤性のバランスに優れるため、セラミック層をより薄膜化し、セラミック層を2μm以下にした場合の工程用フィルムとして使用が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフィルムは、基材上に、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体と架橋剤を含む樹脂層が積層されてなるものである。
【0012】
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレン-α-オレフィン共重合体が酸変性されたものであり、エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレン成分と一種以上のα-オレフィン成分とを含有する。α-オレフィン成分の炭素数は5以上が必要であり、6以上が好ましく、8以上が最も好ましい。炭素数を5以上にすることでエチレン-α-オレフィン共重合体の柔軟性が高くなり、離型性が向上する。例えば、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等が挙げられる。これらの中でも、離型性の観点から、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが好ましい。
【0013】
エチレン-α-オレフィン共重合体におけるエチレン成分とα-オレフィン成分の質量比(エチレン/α-オレフィン)は、60/40~99/1であることが好ましく、60/40~90/10であることがさらに好ましく、60/40~80/20であることが最も好ましい。エチレン/α-オレフィン共重合体におけるエチレン成分とα-オレフィン成分の質量比を前記範囲とすることで、酸変性成分を、後述する含有量に調整することができ、得られた酸変性エチレン/α-オレフィン共重合体を水性分散化することができる。また、得られた離型シートは、優れた離型性を有している。エチレン-α-オレフィン共重合体でのα-オレフィン成分含有量が、40質量%を越えると離型性が損ねられる。一方、1質量%未満では離型性が低下する。
【0014】
酸変性される前の、エチレン-α-オレフィン共重合体は、重量平均分子量が15,000~200,000であることが好ましく、15,000~150,000であることがより好ましく、20,000~100,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が前記範囲であるエチレン-α-オレフィン共重合体を使用することで酸変性後の酸変性成分を後述する含有量および分子量を後述する範囲に調整することができ、望ましい離型シートを得ることが可能となる。
【0015】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、メタロセン系触媒を使用して製造されることが好ましい。この方法により製造されたエチレン-α-オレフィン共重合体は、分子量分布が狭く、低分子量成分の量が少なく、共重合が均一となる。
【0016】
本発明において、エチレン-α-オレフィン共重合体は、樹脂層と基材との密着性の観点、および架橋剤と反応させて、耐熱性を向上し、移行成分を低減させる観点から、酸変性されていることが必要である。エチレン-α-オレフィン共重合体の酸変性は、たとえば、エチレン-α-オレフィン共重合体に不飽和カルボン酸成分を導入することによっておこなうことができる。
【0017】
本発明において、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体を構成する酸変性成分の含有量は、1~5質量%であることが好ましく、1.5~4質量%であることが好ましく、2~4質量%であることがより好ましい。酸変性成分の含有量が1質量%以上とすることで、架橋剤と反応し基材との密着性が向上し、さらに離型性や耐熱性が向上する。酸変性成分の含有量が5質量%以下とすることで、十分な離型性が得られる。
【0018】
エチレン-α-オレフィン共重合体に導入される不飽和カルボン酸成分の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アリルコハク酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等のように、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物が挙げられる。中でもエチレン-α-オレフィン共重合体への導入のし易さの点から、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。不飽和カルボン酸成分は、エチレン-α-オレフィン共重合体中に共重合されていればよく、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0019】
不飽和カルボン酸単位をエチレン-α-オレフィン共重合体へ導入する方法は、特に限定されない。例えば、ラジカル発生剤存在下、エチレン-α-オレフィン共重合体と不飽和カルボン酸とを、エチレン-α-オレフィン共重合体の融点以上に加熱溶融して反応させる方法や、エチレン-α-オレフィン共重合体と不飽和カルボン酸とを有機溶剤に溶解させた後、ラジカル発生剤の存在下で加熱、攪拌して反応させる方法等により、エチレン-α-オレフィン共重合体に不飽和カルボン酸をグラフト共重合する方法が挙げられる。操作が簡便である点から前者の方法が好ましい。
グラフト共重合に使用するラジカル発生剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、tert-ブチルクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジラウリルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキシド、ジ-tert-ブチルジパーフタレート等の有機過酸化物類や、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾニトリル類が挙げられる。これらは反応温度によって適宜、選択して使用すればよい。
【0020】
本発明において、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体は、基材との密着性を向上させるなどの観点から、他のモノマーが、本発明の効果を損ねない範囲で、少量共重合されていてもよい。他のモノマーとしては、たとえば(メタ)アクリル酸エステル、α-オレフィン以外のオレフィン類、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二硫化硫黄などが挙げられる。一方、離型性の観点からは、他のモノマーは含まない方が望ましい。他のモノマー成分の含有量は、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、含まないことがさらに好ましい。
【0021】
本発明において、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の重量平均分子量が20,000~300,000であることが必要であり、20,000~200,000であることが好ましく、30,000~100,000であることがさらに好ましい。酸変性エチレン/α-オレフィン共重合体は、重量平均分子量が前記範囲であることで、均一で分散状態が良好な溶液や水性分散体を製造しやすい。重量平均分子量が20,000より小さい場合、酸変性エチレン/α-オレフィン共重合体を含有する樹脂層を設けた離型シートは、耐汚染性に劣るものとなる。一方、重量平均分子量が300,000を超える場合、塗剤化することが困難であるだけでなく、離型性が悪くなる場合があるため望ましくない。
【0022】
本発明において、酸変性するためのエチレン-α-オレフィン共重合体として、市販のエチレン-α-オレフィン共重合体を用いることができる。市販のエチレン-α-オレフィン共重合体として、住友化学社製エスプレンシリーズ、三井化学社製タフマーシリーズ、ダウ・ケミカル社製エンゲージシリーズ、アフィニティシリーズなどが挙げられる。このような市販のエチレン-α-オレフィン共重合体を用いて、上記の方法で酸変性を行って、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体を得ることができる。
【0023】
本発明において、架橋剤としては、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物が用いられ、反応性の観点から、オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物が好ましく、オキサゾリン化合物が最も好ましい。オキサゾリン化合物やカルボジイミド化合物以外の架橋剤を用いると、架橋反応が十分に行え、得られる樹脂層は耐熱性を有し、熱処理後の離型性が低下しない。
【0024】
オキサゾリン化合物は、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有しているものであれば、特に限定されるものではない。例えば、2,2′-ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-エチレン-ビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、ビス(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィドなどのオキサゾリン基を有する化合物や、オキサゾリン基含有ポリマーが挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさからオキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。
オキサゾリン基含有ポリマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリンを重合させることにより得られる。必要に応じて他の単量体が共重合されていてもよい。オキサゾリン基含有ポリマーの重合方法は、特に限定されず、公知の種々の重合方法を採用することができる。
オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズが挙げられ、具体的には、水溶性タイプの「WS-300」、「WS-500」、「WS-700」、固形タイプの「RPS-1005」などが挙げられる。
【0025】
本発明において、架橋剤の含有量は、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体100質量部に対して、5~40質量部であることが好ましい。5~30質量部であることがより好ましく、5~30質量部であることがさらに好ましい。架橋剤の含有量が5質量部未満では、添加効果が乏しく、得られる樹脂層は、経時的に離型性が低下する場合があり、含有量が50質量部を超えると、離型性が低下する場合がある。なお、架橋剤は、2種類以上の化合物を同時に用いることもでき、同時に用いた場合、架橋剤の合計量が上記の架橋剤の含有量の範囲を満たしていればよい。
【0026】
本発明の工程用フィルムを構成する樹脂層は、上記のように、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体と架橋剤とを含有するものであるが、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、帯電防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を含有してもよい。また、後述する樹脂層を形成するための液状物の安定性を損なわない範囲で、上記以外の有機もしくは無機の化合物を液状物に添加して、樹脂層に含有させることもできる。
【0027】
本発明において、樹脂層の厚みは、0.01~5.0μmであることが好ましく、0.03~1.0μmであることがより好ましく、0.05~0.3μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚みが0.01μm未満であると、十分な離型性が得られない場合があり、一方、厚みが5.0μmを超えると、コストアップとなるため好ましくない。
【0028】
本発明において、樹脂層を形成する手法として、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体および架橋剤を含有する樹脂層形成用液状物をポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗布し、乾燥することでポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に樹脂層を形成することができる。
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体と架橋剤とを含む樹脂層形成用液状物は、樹脂および架橋剤とを、有機溶剤に溶解させても、水性媒体または溶剤に分散させて使用してもよいが、水性媒体としても用いることが、液状物の取り扱いの観点、作業環境の安全衛生性の観点から望ましい。水性分散体とは、上記の酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体が水性媒体中に分散されたものであり、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体は、水性媒体中に分散もしくは一部溶解している。本発明において、水性媒体とは、水を主成分とする液体であり、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の水性化促進のため、後述する塩基性化合物や有機溶剤を含有していてもよい。
【0029】
本発明において、樹脂層形成用液状物を構成する液状媒体は、水性媒体であることが好ましい。水性媒体とは、水と両親媒性有機溶剤とを含み、水の含有量が2質量%以上である溶媒を意味し、水のみでもよい。
両親媒性有機溶剤とは、20℃における有機溶剤に対する水の溶解性が5質量%以上である有機溶剤をいう(20℃における有機溶剤に対する水の溶解性については、例えば「溶剤ハンドブック」(講談社サイエンティフィク、1990年第10版)等の文献に記載されている)。
【0030】
樹脂層形成用液状物には、その性能が損なわれない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、消泡剤、濡れ剤などを添加することもできる。
【0031】
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体において、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体中の酸変性成分は、塩基性化合物によって中和されていることが好ましい。酸変性成分の中和によって生成したアニオン間の電気反発力により、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。水性化の際に用いる塩基性化合物は酸変性成分を中和できるものであればよい。
塩基性化合物は、塗膜形成時に揮発するアンモニアまたは有機アミン化合物が塗膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が30~250℃、さらには50~200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0032】
本発明においては、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、水性化の際に親水性有機溶剤を配合することが好ましい。親水性有機溶剤の含有量としては、水性媒体全体に対し50質量%以下が好ましく、1~45質量%であることがより好ましく、2~40質量%がさらに好ましく、3~35質量%が特に好ましい。親水性有機溶剤の含有量が50質量%を超える場合には、実質的に水性媒体と見なせなくなり、本発明の目的の一つ(作業環境改善)を逸脱するだけでなく、使用する親水性有機溶剤によっては水性分散体の安定性が低下することがある。
【0033】
親水性有機溶剤は、分散安定性良好な水性分散体を得るという点から、20℃の水に対する溶解性が10g/L以上のものが好ましく、20g/L以上のものがより好ましく、50g/L以上のものがさらに好ましい。
【0034】
親水性有機溶剤は、製膜の過程で効率よく塗膜から除去させる観点から、沸点が150℃以下のものが好ましい。沸点が150℃を超える親水性有機溶剤は、塗膜から乾燥により飛散させることが困難となる傾向にあり、特に低温乾燥時の塗膜の耐水性や基材との接着性等が低下することがある。
【0035】
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の水性化をより促進させるために、疎水性有機溶剤をさらに添加してもよい。疎水性有機溶剤としては、20℃の水に対する溶解性が10g/L未満であり、上記と同じ理由で、沸点が150℃以下であるものが好ましい。
【0036】
このような疎水性有機溶剤としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、石油エーテル等のオレフィン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤等が挙げられる。これらの疎水性有機溶剤の添加量は、水性分散体に対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。添加量が15質量%を超えると、ゲル化等を引き起こすことがある。
【0037】
水性分散体中の共重合体粒子の数平均粒子径(以下、nm)は、水性分散体の保存安定性、塗膜の透明性、30℃以下の低温での造膜性が向上する点から、いずれも500nm以下が好ましく、10~400nmがより好ましく、20~200nmがさらに好ましい。
【0038】
次に、樹脂層形成用液状物の一つであるポリオレフィン樹脂水性分散体を製造する方法について説明する。
ポリオレフィン樹脂水性分散体を製造する方法としては、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体が水性媒体中に均一に混合・分散される方法であれば、限定されない。例えば、密閉可能な容器に、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、上記親水性有機溶剤、上記塩基性化合物、水などの原料を投入し、槽内の温度を40~150℃程度の温度に保ちつつ撹拌を行うことにより、水性分散体とする方法などが挙げられる。
【0039】
ポリオレフィン樹脂水性分散体における、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の含有率は、成膜条件、目的とする樹脂層の厚さや性能等により適宜調整され、特に限定されるものではないが、水性分散体の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜、樹脂層を得るために、1~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましい。
【0040】
本発明の工程用フィルムを構成する樹脂層の厚みは、0.01~5.0μmであることが好ましく、0.03~3.0μmであることがより好ましく、0.05~1.0μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚みが0.01μm未満であると、十分な離型性が得られない場合があり、一方、厚みが5.0μmを超えると、コストアップとなるため好ましくない。
【0041】
また、ポリエステルフィルム上に樹脂層を形成した後、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体と架橋剤との反応を促進させるために、一定の温度にコントロールされた環境下でエージング処理をおこなってもよい。エージング温度は、基材へのダメージを軽減させる観点からは、比較的低いことが好ましいが、反応を十分かつ速やかに進行させるという観点からは、高温で処理することが好ましい。エージング処理は20~100℃でおこなうことが好ましく、30~70℃でおこなうことがより好ましく、40~60℃でおこなうことがさらに好ましい。
【0042】
本発明においては、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体および架橋剤を含有する樹脂層形成用液状物をポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗布し、乾燥する工程と、前記工程において樹脂層が形成されたポリエステルフィルムを延伸、熱処理する工程を含むことが好ましい。
【0043】
次に本発明の工程用フィルムの製造方法の一例を説明する。
まず、十分に乾燥されたポリエステルを、押出機に供給し、十分に可塑化され、流動性を示す温度以上で溶融し、必要に応じて、選ばれたフィルターを通過させ、その後Tダイを通じてシート状に押出す。このシートを、ポリエステルのガラス転移温度(Tg)以下に温度調節した冷却ドラム上に密着させて、未延伸フィルムを得る。
得られた未延伸フィルムを二軸延伸し二軸配向させる。延伸方法としては、特に限定はされないが、逐次二軸延伸法や同時二軸延伸法を用いてポリエステルフィルムを製造することができる。
本発明の工程用フィルムは、上記ポリエステルフィルムの製造工程中に樹脂層形成用液状物を塗布し、樹脂層が形成されたポリエステルフィルムを延伸および熱処理することによって製造される。
【0044】
樹脂層は、いずれか表面粗度が平滑である方に設けることが好ましい。また、樹脂層は両面に設けてもよい。
【0045】
本発明の工程フィルムの熱収縮率は、MD方向およびTD方向で2.0%以下が好ましく、より低い方がさらに好ましい。
熱収縮率が高いと、薄膜状のセラミックスラリーを塗工して乾燥させたときに、寸法安定安定性が悪くセラミックグリーンシートに不良が発生する場合がある。
【0046】
本発明において、工程用フィルムを構成する樹脂層表面の表面粗さSaは、20nm以下であることが必要である。
樹脂層の表面粗さSaが20nmを超えると、セラミックグリーンシート製造工程において、セラミックシートのピンホール発生などの不良が発生する場合がある。
【0047】
本発明において、樹脂層は、温度120℃における貯蔵弾性率E’が10以上であることが好ましい。これにより、120℃の高温化の状態でも塗膜を維持し、セラミックグリーンシートと密着性に優れ、かつ、離型性にも優れる。好ましい下限は、1.0×10以上、より好ましい下限は4.0×10以上、最も好ましい下限は1.0×10以上である。
なお、上記貯蔵弾性率E’は、例えば、ARESG II レオメーター(TAインスツルメンツ社製)を用いて、温度範囲温度範囲25℃~120℃、周波数分散で、周波数領域:0.1rad/sから100rad/sで測定した後、100rad/sから0.1rad/sで測定した場合における貯蔵弾性率E’の測定値である。また、上記ARESG II レオメーター測定は、樹脂層形成用液状物をシート状に成形した後に測定することが好ましい。
【0048】
本発明において、樹脂層は、温度25℃における損失弾性率E’’が10Pa以上であることが好ましい。これにより、セラミックスラリーと適度な塗布性を付与することができる。上記損失弾性率E’’の好ましい下限は2.0×10Paである。
なお、上記損失弾性率E’’は、例えば、ARESG II レオメーター(TAインスツルメンツ社製)を用いて、温度範囲温度範囲25℃~120℃、周波数分散で、周波数領域:0.1rad/sから100rad/sで測定した後、100rad/sから0.1rad/sで測定した場合におけるピーク温度での損失弾性率E’’の測定値である。
また、上記ARESG II レオメーター測定は、樹脂層形成用液状物をシート状に成形した後に測定することが好ましい。
【0049】
本発明において、樹脂層は、温度120℃における貯蔵弾性率E’が10以上、かつ25℃における損失弾性率E’’が10Pa以上であり、上記範囲内とすることで、強靭な塗膜強度を得ることができる。
【0050】
本発明において、樹脂層形成面と反対面のポリエステルフィルムの表面粗さSaは、2nm以上であることが好ましい。2nm未満であると、滑り性が劣り、フィルム巻取り時にシワが入ったり、ロール保管時に擦り傷が入ったり、ブロッキングして繰り出しの際にフィルム表面が荒れたりする場合がある。
【0051】
本発明においてポリエステルフィルムは、公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などを含んでもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。ポリエステルフィルムは、その他の材料と積層する場合の密着性を良くするために、表面に前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等を施したものでもよい。また、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、バリア層や易接着層、帯電防止層、紫外線吸収層などの他の層が積層されていてもよい。
【0052】
また、逐次二軸延伸法では、未延伸フィルムをロール、赤外線等で加熱し、長手方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。延伸は2個以上のロール周速差を利用し、ポリエステルのTg~Tgより40℃高い温度の範囲で2.5~4.0倍とするのが好ましい。縦延伸フィルムは続いて連続的に、巾方向に横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとする。横延伸はポリエステルのTg~Tgより40℃高い温度で開始し、最高温度はポリエステルの融点(Tm)より(100~40)℃低い温度であることが好ましい。横延伸の倍率は最終的なフィルムの要求物性に依存し調整されるが、3.5倍以上、さらには3.8倍以上とするのが好ましく、4.0倍以上とするのがより好ましい。長手方向と巾方向に延伸後、さらに、長手方向および/または巾方向に再延伸することにより、フィルムの弾性率を高めたり寸法安定性を高めたりすることもできる。
上記逐次二軸延伸法で離型フィルムを製造する場合には、未延伸フィルムに液状物を塗布してから縦延伸、横延伸する方法と、縦延伸フィルムに液状物を塗布し、横延伸する方法とがある。簡便さや操業上の理由から、後者の方法が好ましい。
【0053】
延伸に続き、ポリエステルのTmより(50~10)℃低い温度で数秒間の熱固定処理を行い、熱固定処理と同時にフィルム幅方向に2~10%の弛緩をすることが好ましい。熱固定処理後、フィルムのTg以下に冷却して、樹脂層が設けられた二軸延伸フィルムを得る。
【0054】
上記製造方法によって基材のポリエステルフィルムが1種の層からなる単層のフィルムが得られるが、基材のポリエステルフィルムは、2種以上の層を積層してなる多層構造を有することが好ましい。ポリエステルフィルムを多層構造とすることで、ポリエステルフィルムのそれぞれの面の表面粗さを独立に制御することができる。
基材ポリエステルフィルムとして多層フィルムを使用する場合、多層フィルムの外層のうち、樹脂層が設けられる層は、上記粗面化物質を含有しないことが好ましい。樹脂層が設けられる層に粗面化物質を含有させないことにより、樹脂層との界面および樹脂層表面へ粗面化物質がブリードアウトすることがなく、樹脂層と基材フィルムの密着性低下や、剥離時の被着体汚染を防ぐことができる。
多層構造を有するフィルムは、上記製造方法において、それぞれの層を構成するポリエステルを別々に溶融して、複層ダイスを用いて押出し、固化前に積層融着させた後、二軸延伸、熱固定する方法や、2種以上のポリエステルを別々に溶融、押出してそれぞれフィルム化し、未延伸状態で又は延伸後に、それらを積層融着させる方法などによって製造することができる。プロセスの簡便性から、複層ダイスを用い、固化前に積層融着させることが好ましい。
【0055】
本発明の工程用フィルムを構成するポリエステルフィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、通常は12~200μmであることが好ましく、12~50μmであることがより好ましい。
【0056】
本発明の工程用フィルムは、セラミックコンデンサー用スラリー材料に対する良好な離型性を有していることから、樹脂層上にセラミックコンデンサー用スラリー材料を積層することで、積層体とすることができる。
【0057】
本発明の工程用フィルムは、その取り扱い上、離型性に優れるものが求められており、たとえば、ゴム系粘着材料との剥離強度が5.0N/cm以下であるものが求められている。本発明の工程用フィルムにおいては、ゴム系粘着剤層を有する樹脂テープの前記粘着剤層を工程用フィルムの樹脂層表面に貼り付けることで得られた試料を、室温にて、剥離角度180度、剥離速度300mm/minの条件で測定したときの粘着剤層と樹脂層との剥離強度を、5.0N/cm以下とすることができ、より好ましくは、4.0N/cm以下、さらに好ましくは3.8N/cm以下、最も好ましくは、3.5N/cm以下とすることができる。ゴム系粘着材料との剥離強度が5.0N/cmを超える場合、セラミックグリーンシートを剥離する際に、剥離が重く、セラミックグリーンシートが破損するため、使用が困難となることがある。
【0058】
本発明の工程用フィルムは、セラミックグリーンシートに対する長期保管前後の剥離性に優れるものである。セラミックグリーンシートを積層した状態で25℃、4週間静置前後における剥離力差が0.02N/cm以下であることが好ましい。より好ましくは、剥離力差が0.018N/cmを超え、0.02N/cm以下である。さらに好ましくは、剥離力差が0.015N/cmを超え、0.018N/cm以下である。最も好ましくは、剥離力差が0.015N/cm以下である。剥離力差が0.02N/cmを超えると、薄膜状のセラミックグリーンシートを剥離する際に、剥離が重く、セラミックグリーンシートが破損するため、使用が困難となることがある。
【0059】
本発明の工程用フィルムをロール状に巻き取った場合、工程用フィルムの樹脂層の成分が、背面(ポリエステルフィルムの樹脂層が形成されていない側)に移行しないことが望ましい。
【実施例0060】
以下、本発明の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0061】
<測定方法>
本発明では、下記方法にて各種評価を行った。
【0062】
<酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の不飽和カルボン酸成分含有量>
フーリエ変換赤外分光光度計(PerkinElmer社製、System-2000型、分解能4cm-1)を用い、赤外吸収スペクトル分析を行い、不飽和カルボン酸成分の含有量を求めた。
【0063】
<不飽和カルボン酸成分以外の酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の構成>
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて、H-NMR、13C-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い、求めた。13C-NMR分析では定量性を考慮したゲート付きデカップリング法を用いて測定した。
【0064】
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、GPC分析(島津製作所社製、LC-10AD型、カラムはSHODEX社製KF-804L2本、KF805L1本を連結して用いた。)を用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、流速1ml/min、40℃の条件で測定した。約10mgの共重合体をテトラヒドロフラン5.5mLに溶解し、PTFEメンブランフィルターでろ過したものを測定用試料とした。ポリスチレン標準試料で作成した検量線から重量平均分子量を求めた。
【0065】
<固形分濃度>
水性分散化した酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0066】
<樹脂シート作製条件>
乾燥固化で作製。表1のような固形分比となるように液を混合し、IPAで約1.5倍に希釈する。その液を乾燥後の厚みが300nmとなるように、直径約10cmのテフロン(登録商標)シャーレに投入する。乾燥条件は、40℃で2時間、50℃で2時間、60℃で4時間、80℃で真空12時間とした。このように乾燥温度は100℃以下とした。
【0067】
(1)樹脂層の動的粘弾性
貯蔵弾性率E’及び損失弾性率E’’
得られた樹脂シートを2.0cm×2.0cmにカットして試験片を作製した後、ARESG II レオメーター(TAインスツルメンツ社製)を用い、下記条件で動的粘弾性を測定した。なお、貯蔵弾性率E’は、温度120℃における数値を用いた。また、損失弾性率E’’については温度25℃における数値を測定した。
(測定条件)
温度:25℃
治具:50mmφコーンプレート
測定方法:周波数分散
周波数領域:0.1rad/sから100rad/sで測定した後、100rad/sから0.1rad/sで測定定。
歪:5% または100%
温度領域:25℃~120℃
装置:TAインスツルメンツ社製 ARESG II レオメーター
【0068】
<樹脂層の表面粗さ>
(2)表面粗さパラメーターSa(算術平均高さ)、Sz(最大高さ)
日立ハイテク社製ナノ3D光干渉計測システムVS1800を使用し、フィルムの樹脂層表面について、表面粗さパラメーターSa(算術平均高さ、nm)およびSz(最大高さ、μm)を10箇所測定し、平均値を測定結果とした。
【0069】
(3)離型性評価
得られた工程用フィルムの樹脂層側に、巾50mm、長さ150mmのアクリル系粘着テープ(日東電工社製、No.31B/アクリル系粘着剤)、およびゴム系粘着テープ(ニチバン社製、LP24)をゴムロールで圧着して、試料とした。試料を、金属板/ゴム板/試料/ゴム板/金属板の形で挟み、2kPa荷重、70℃の雰囲気で24時間放置し、剥離強度測定用試料とした。ゴム板と金属板を取外し後、70℃処理後の試料について、粘着テープ/離型シート間の剥離強度の測定を行った。なお、剥離強度の測定は、25℃の恒温室で、引張試験機(インテスコ社製、精密万能材料試験機2020型)を用い、剥離角度180度、剥離速度300mm/分の条件で行った。なお、アクリル系粘着テープとの剥離性評価結果は、樹脂層の耐溶剤性評価のブランクの結果である。
【0070】
(4)耐溶剤性評価
得られた工程用フィルムを、各種溶剤に1時間浸漬させ、常温で3日間自然乾燥させた後、離型性能評価を行う。
溶剤種類としては、THF、酢酸エチル、MEK、IPA、トルエンを用いた。
離型性能評価の方法としては、
得られた工程用フィルムの樹脂層側に、巾50mm、長さ150mmのアクリル系粘着テープ(日東電工社製、No.31B/アクリル系粘着剤)をゴムロールで圧着して、試料とした。上記の剥離性評価と同様の試料の処理や試験条件とした。
【0071】
<セラミックスラリーの製造>
溶媒(トルエン/エタノール=60/40)中に、セラミック原料(平均一次粒子径が0.6μmであるBaTiO3、富士チタン社製)を、溶媒との重量比が50対50になるように混合し、攪拌した。次いで、バインダー(ポリビニルアセタール、積水マテリアル社製)を総重量に対して、3.7重量比となるように混合し、攪拌することで、ペースト状のセラミックスラリーを得た。
【0072】
(5)セラミックグリーンシートに対する初期剥離性評価
本発明における剥離力の測定においては、上述の方法によるセラミックグリーンシートを積層した離型フィルムを剥離力測定用サンプルとし、除電した後に、剥離試験機(協和界面科学社製、VPA-3)を用いて、剥離角度90度、剥離温度25℃、剥離速度10m/minで剥離した。剥離する向きとしては、剥離試験機付属のSUS板上に両面接着テープ(日東電工社製、No.535A)を貼りつけ、その上にセラミックグリーンシート側を両面テープと接着する形で離型フィルムを固定し、離型フィルム側を引っ張る形で剥離した。
膜厚2μmのセラミックグリーンシートを積層後、25℃、1時間静置後の剥離力を測定し、下記基準により評価した。
◎:剥離力が0.04N/cm以下
○:剥離力が0.04N/cmを超え、0.05N/cm以下
△:剥離力が0.05N/cmを超え、0.06N/cm以下
×:剥離力が0.06N/cmを超える
また、膜厚1μm、0.6μmのセラミックグリーンシートとの剥離をそれぞれ3回ずつ行い、剥離後のセラミックグリーンシートの状態を下記基準により評価した。
○:セラミックグリーンシートが3回とも破損せずに剥離できた
△:セラミックグリーンシートが1回破損した(割れた)
×:セラミックグリーンシートが2回以上破損した(割れた)
【0073】
(6)セラミックグリーンシートに対する長期保管前後の離型性評価
本発明における剥離力の測定においては、上述の方法によるセラミックグリーンシートを積層した離型フィルムを剥離力測定用サンプルとし、除電した後に、剥離試験機(協和界面科学社製、VPA-3)を用いて、剥離角度90度、剥離温度25℃、剥離速度10m/minで剥離した。剥離する向きとしては、剥離試験機付属のSUS板上に両面接着テープ(日東電工社製、No.535A)を貼りつけ、その上にセラミックグリーンシート側を両面テープと接着する形で離型フィルムを固定し、離型フィルム側を引っ張る形で剥離した。
膜厚2μmのセラミックグリーンシートを積層後、25℃で1時間、1週間、4週間静置後の剥離力を測定した。長期保管前後の剥離性評価とは、セラミックグリーンシートを積層後25℃で1時間静置後の剥離力と、25℃で4週間静置後の剥離力の差をいう。
セラミックグリーンシートとの剥離力について、下記基準により評価した。
剥離力差=(25℃で1週間静置後または4週間静置後の剥離力)-(25℃で1時間静置後の剥離力)
◎:剥離力差が0.015N/cm以下
○:剥離力差が0.015N/cmを超え、0.018N/cm以下
△:剥離力差が0.018N/cmを超え、0.02N/cm以下
×:剥離力差が0.02N/cmを超える
また、膜厚1μm、0.6μmのセラミックグリーンシートを積層後、25℃で1週間、4週間静置後のセラミックグリーンシートの状態を下記基準により評価した。
○:セラミックグリーンシートが3回とも破損せずに剥離できた
△:セラミックグリーンシートが1回破損した(割れた)
×:セラミックグリーンシートが2回以上破損した(割れた)
【0074】
(7)セラミックグリーンシートのピンホール評価
得られたセラミックシート製造用積層体フィルムについて、10cmの範囲にセラミックシート層の反対面から光をあて、ピンホールの発生状況を観察し、下記基準により評価した。
○:ピンホールなし。
△:ピンホールはほとんどなし。
×:ピンホール多数あり
【0075】
<材料>
樹脂層を構成する樹脂として、下記合成例で作製した樹脂を用いた。なお、得られた樹脂の組成と重量平均分子量は、後述する製造例(表1)でまとめて示す。
【0076】
合成例1
エチレン-オクテン共重合体(質量比:エチレン/オクテン=95/5、重量平均分子量=22,000)80gを、4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下でキシレン350gに加熱溶解させた後、系内温度を140℃に保って撹拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸30gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド5gをそれぞれ2時間かけて加え、その後6時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥し、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(P-1)を得た。
【0077】
合成例2
合成例1において、質量比(エチレン/オクテン)が61/39であるエチレン-オクテン共重合体(重量平均分子量=25,000)を用い、無水マレイン酸の量を20g、ジクミルパーオキサイドの量を10gに変更した以外は、同様の操作を行って、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(P-2)を得た。
【0078】
合成例3
合成例1において、エチレン-オクテン共重合体に代えて、質量比(エチレン/オクテン)が71/29であるエチレン-オクテン共重合体(重量平均分子量=68,000)を用いた以外は、同様の操作を行って、酸変性エチレン/α-オレフィン共重合体(P-3)を得た。
【0079】
合成例4
合成例1において、エチレン-オクテン共重合体に代えて、
質量比(エチレン/ヘキセン)が75/25であるエチレン-ヘキセン共重合体(重量平均分子量=75,000)を用い、無水マレイン酸の量を30g、ジクミルパーオキサイドの量を10gに変更した以外は、同様の操作を行って、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(P-4)を得た。
【0080】
合成例5
合成例2において、エチレン-オクテン共重合体に代えて、質量比(エチレン/ブテン)が70/30であるエチレン-ブテン共重合体(重量平均分子量=50,000)を用いた以外は、同様の操作を行って、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(P-5)を得た。
【0081】
合成例6
合成例2において、エチレン-オクテン共重合体に代えて、質量比(エチレン/プロピレン)が75/25であるエチレン-プロピレン共重合体(重量平均分子量=58,000)を用いた以外は、同様の操作を行って、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(P-6)を得た。
【0082】
製造例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、30gの酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(P-1)、100gのテトラヒドロフラン、18gのトリエチルアミンおよび252gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌した。この状態を保ちつつ、ヒーターの電源を入れ加熱し、系内温度を120℃に保って60分間撹拌した。その後、水浴につけて撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却し、64.5gの蒸留水を追加した。得られた分散体を1Lナスフラスコに入れ、60℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、176gの水性媒体を留去した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な水性分散体(E-1)を得た。その結果を表1に示す。
【0083】
製造例2~6
製造例1において、酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(P-2)~(P-6)を用いた以外は、同様の操作を行って、乳白色の均一な水性分散体(E-2)~(E-6)を得た。その結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
<工程用フィルムの製造>
ポリエチレンテレフタレートA(重合触媒:三酸化アンチモン、固有粘度:0.62、ガラス転移温度:78℃、融点:255℃)に、シリカ粒子(粒子径2.3μm)を0.07質量%添加したポリエチレンテレフタレートBを、押出機I(スクリュー径:50mm)に、またポリエチレンテレフタレートAを、押出機II(スクリュー径:65mm)にそれぞれ投入して280℃で溶融後、それぞれの溶融体をTダイの出口に至る前で層状に合流積層させた。層の厚み比(I/II)が4/6となり、総厚みが600μmとなるよう調整してTダイ出口より押出し、急冷固化して未延伸フィルムを得た。
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機で85℃の条件下、3.5倍に延伸して縦延伸フィルムを得た。次いで、実施例1で得た樹脂層形成用液状物を、縦延伸フィルムの、押出機IIからのフィルム層の表面に、120メッシュのグラビアロールで5g/mとなるように塗布した後、連続的に縦延伸フィルムの端部をフラット式延伸機のクリップに把持させ、100℃の条件下、横4.5倍に延伸を施し、その後、横方向の弛緩率を3%として、243℃で3秒間の熱処理を施して、2種2層のポリエステルフィルムからなる基材フィルムの片面に厚さ0.1μmの樹脂層が設けられた厚さ38μmの工程用フィルムを得た。
【0086】
実施例1
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の水性分散体(E-1)と、オキサゾリン化合物の水溶液(日本触媒社製、エポクロス「WS-300」、固形分濃度:10質量%)とを、オキサゾリン化合物の固形分が、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体100質量部に対して、25質量部となるように混合して得たポリオレフィン樹脂水性分散体を、樹脂層形成用水性分散体として用いて、
得られた工程用フィルムについて、各種評価を行った、その結果を表2、表3に示す。
【0087】
実施例2~6、9、比較例2~5
実施例1において、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体の水性分散体の種類、架橋剤の種類と含有量を表2に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、工程用フィルムを得た。
なお、比較例4では、変性ポリオレフィン樹脂水性水分散体として、ポリエチレン系を用いた。
【0088】
実施例7
実施例1において、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体100質量部に対して、ポリエチレン系変性ポリオレフィン樹脂20質量部となるように混合した以外は、実施例1と同様の操作を行って、工程用フィルムを得た。
【0089】
実施例8
実施例1において、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体100質量部に対して、ポリビニルアルコール樹脂20質量部となるように混合した以外は、実施例1と同様の操作を行って、工程用フィルムを得た。
ポリビニルアルコールとしては、日本酢ビ・ポバール社製の「VC-10」を用いた。
【0090】
比較例1
比較例1において、工程用フィルムの製造は2種3層とし、外層シリカ粒子(粒子径2.3μm)を4質量%添加に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、工程用フィルムを得た。
【0091】
得られた工程用フィルムについて、各種評価を行った、その結果を表2、表3に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
実施例1~9で得られた工程用フィルムは、セラミックグリーンシートとの長期間保管前後における離型性に優れ、すなわち、経時的な離型性の変化が少ないものであり、平滑性にも優れるものであった。
【0095】
比較例1では、セラミックグリーンシートとの離型性に優れるが、基材の平滑性が劣るため、グリーンシートのピンホールが多数確認された。
【0096】
比較例2、3では、樹脂層は酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体として炭素数5以上のオレフィン成分を含む酸変性エチレン-α-オレフィンを用いていないため、長期間保管前後における剥離力差が0.02N/cm以上となり、長期間静置後の薄膜状のセラミックグリーンシートは剥離時に破損するものであった。
【0097】
比較例4では、樹脂層に酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体を用いていなかったため、セラミックグリーンシートとの離型性に劣っていた。
【0098】
比較例5では、樹脂層に架橋剤を含有していなかった、セラミックグリーンシートとの離型性に劣っていた。