(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082488
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】加熱炉
(51)【国際特許分類】
F27D 1/18 20060101AFI20230607BHJP
F27B 9/30 20060101ALI20230607BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
F27D1/18 J
F27B9/30
F27D7/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196301
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 豪志
(72)【発明者】
【氏名】澤田 憲吾
【テーマコード(参考)】
4K050
4K051
4K063
【Fターム(参考)】
4K050AA01
4K050BA01
4K050BA07
4K050CA04
4K050CA10
4K050CB10
4K050CG04
4K051AA03
4K051AB07
4K051MB02
4K051MB03
4K063AA05
4K063BA02
4K063BA03
4K063BA04
4K063CA05
4K063DA23
(57)【要約】
【課題】開口の周りに配設されたシール部材の熱劣化を抑制することができる新規な構造の加熱炉を提供する。
【解決手段】ローラハース式加熱炉1は、炉体5に形成された開口9と、開口9の周縁部に設けられ開口9を囲繞するシール部材16と、上下方向に昇降して開口9を開閉する炉扉25と、を備えている。炉扉25は、開口9を閉じた際にシール部材16に接触する第1面27aと、第1面27aの内側において第1面27aと交差する方向に延びる第2面27bを有する枠部材27を備えている。第2面27bを覆う断熱材の少なくとも一部は柔軟性を有するブランケット状の断熱材30bで構成され、ブランケット状の断熱材30bは第1面27aに対して面一に設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体に形成され被熱処理物を搬入および/または搬出させる開口と、
前記開口の周縁部に設けられ前記開口を囲繞するシール部材と、
上下方向に昇降して前記開口を開閉する炉扉と、
を備えた加熱炉であって、
前記炉扉は、前記開口を閉じた際に前記シール部材に接触する第1面と、該第1面の内側において該第1面と交差する方向に延びる第2面を有する枠部材を備えるとともに、
前記第2面を覆う断熱材の少なくとも一部は柔軟性を有するブランケット状の断熱材で構成され、該ブランケット状の断熱材は前記第1面に対して面一に設けられている加熱炉。
【請求項2】
前記炉扉に設けられた前記ブランケット状の断熱材の、前記開口側とは反対側の背面側には、600℃における熱伝導率が0.045[W/m/K]以下の低熱伝導率断熱材が前記第2面を覆うように設けられている、請求項1に記載の加熱炉。
【請求項3】
前記開口の下方に設けられた下方シール部材および該下方シール部材に接触する前記炉扉の下方枠部材が、隣接する2つの被熱処理物搬送用ローラの間に配置されている、請求項2に記載の加熱炉。
【請求項4】
前記炉扉の開口閉塞面は、前記ブランケット状の断熱材が配設されていない中央領域が凹んだ凹陥状をなしている、請求項1~3の何れかに記載の加熱炉。
【請求項5】
前記ブランケット状の断熱材はスタッドを介して鉄皮と連結されるとともに、
前記ブランケット状の断熱材には凹部が形成されており、前記スタッドの先端側端部は前記凹部に収容されている、請求項1~4の何れかに記載の加熱炉。
【請求項6】
前記シール部材と前記開口との間に位置する炉体側の断熱材を、前記シール部材が取り付けられているシール部材取付面よりも前記炉扉側にせり出させ、炉扉閉状態において前記炉体側の断熱材を前記炉扉に接触させている、請求項1~5の何れかに記載の加熱炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は加熱炉に関し、詳しくは開口周りに配設されたシール部材の熱劣化を抑制するための技術的手段に特徴を有する加熱炉に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業において用いられる加熱炉では、炉体に形成され被熱処理物を搬入および/または搬出させる開口に、放熱を防止する炉扉を設ける場合がある。この場合、開口の周りには炉扉と接触して炉内の気密性を保つシール部材が用いられるが、シール部材は炉内の熱により劣化しやすいという問題点がある。
【0003】
かかるシール部材を熱から保護するための方法として、冷却水(冷媒)を用いて直接的もしくは間接的にシール部材を冷却する方法がある(例えば下記特許文献1参照)。しかしながら冷却水を用いてシール部材を冷却する方法は、冷却水配管の漏れによる炉内温度の低下や配管周辺機器の故障の発生、冷却水配管の詰まりによる水量低下やそれに伴う炉停止、寒冷地での冷却水の凍結など非常に多くの問題を抱えている。また冷却水は炉内の熱効率を下げる原因にもなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、開口の周りに配設されたシール部材の熱劣化を抑制することができる新規な構造の加熱炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而してこの発明の第1の局面の加熱炉は次のように規定される。即ち、
炉体に形成され被熱処理物を搬入および/または搬出させる開口と、
前記開口の周縁部に設けられ前記開口を囲繞するシール部材と、
上下方向に昇降して前記開口を開閉する炉扉と、
を備えた加熱炉であって、
前記炉扉は、前記開口を閉じた際に前記シール部材に接触する第1面と、該第1面の内側において該第1面と交差する方向に延びる第2面を有する枠部材を備えるとともに、
前記第2面を覆う断熱材の少なくとも一部は柔軟性を有するブランケット状の断熱材で構成され、該ブランケット状の断熱材は前記第1面に対して面一に設けられている。
【0007】
このように規定された第1の局面の加熱炉によれば、シール部材と接触する枠部材における第2面側が断熱材により覆われるため、炉内の熱が炉扉の枠部材を介してシール部材に伝わることによるシール部材の高温化が抑制され、開口の周りに配設されたシール部材の熱劣化を抑制することができる。
ここで、炉扉側の断熱材を第1面に対して面一に設けた場合、対向する炉体側の炉殻部材と炉扉側の断熱材との隙間が小さくなる。このため第1の局面の加熱炉では、炉扉昇降時に炉扉側の断熱材が炉体側の炉殻部材と接触した場合でも断熱材の破損が生じ難いように、第1面と面一な位置には柔軟性を有するブランケット状の断熱材を設けている。
【0008】
この発明の第2の局面は次のように規定される。即ち、
第1の局面で規定の加熱炉において、前記炉扉に設けられた前記ブランケット状の断熱材の、前記開口側とは反対側の背面側には、600℃における熱伝導率が0.045[W/m/K]以下の低熱伝導率断熱材が前記第2面を覆うように設けられている。
このように規定された第2の局面の加熱炉によれば、低熱伝導率断熱材の効果により、シール部材の高温化をより一層抑制することができる。
【0009】
この発明の第3の局面は次のように規定される。即ち、
第2の局面で規定の加熱炉において、前記開口の下方に設けられた下方シール部材および該下方シール部材に接触する前記炉扉の下方枠部材が、隣接する2つの被熱処理物搬送用ローラの間に配置されている。
上記のように低熱伝導率断熱材を用いた場合は断熱効果が高く、炉扉をコンパクトに構成することが可能となるため、下方シール部材および炉扉の下方枠部材を、隣接する2つの被熱処理物搬送用ローラの間に配置するレイアウトを容易に実現することができる。
【0010】
この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち、
第1~3の何れかの局面で規定の加熱炉において、前記炉扉の開口閉塞面は前記ブランケット状の断熱材が配設されていない中央領域が凹んだ凹陥状をなしている。
このように規定された第4の局面の加熱炉によれば、シール部材の高温化を抑制する効果が比較的小さい炉扉の中央領域について炉体側の炉殻部材との隙間を確保することができ、かかる中央領域での炉体側の炉殻部材との接触を回避することができる。
【0011】
この発明の第5の局面は次のように規定される。即ち、
第1~4の何れかの局面で規定の加熱炉において、前記ブランケット状の断熱材はスタッドを介して鉄皮と連結されるとともに、
前記ブランケット状の断熱材には凹部が形成されており、前記スタッドの先端側端部は前記凹部に収容されている。
このように規定された第5の局面の加熱炉によれば、スタッドの先端側端部と炉体側の炉殻部材との接触を回避することができる。
【0012】
この発明の第6の局面は次のように規定される。即ち、
第1~5の何れかの局面で規定の加熱炉において、前記シール部材と前記開口との間に位置する炉体側の断熱材を、前記シール部材が取り付けられているシール部材取付面よりも前記炉扉側にせり出させ、炉扉閉状態において前記炉体側の断熱材を前記炉扉に接触させている。
このように規定された第6の局面の加熱炉によれば、炉扉が閉じた状態において開口とシール部材との間を遮蔽する断熱材の隙間をなくす(もしくは極めて小さくする)ことができるため、シール部材の高温化をより一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態のローラハース式加熱炉の概略構成を示した図である。
【
図2】同加熱炉における炉体の開口周辺部と炉扉とを分離して示した斜視図である。
【
図3】同加熱炉における炉体の開口周辺部と炉扉とを分離して示した断面図である。
【
図4】炉扉を単体で示した図で、(A)は開口閉塞面側からみた正面図、(B)は(A)のB-B断面図、(C)は(A)のC-C断面図である。
【
図5】同加熱室における炉扉の開閉動作の説明図である。
【
図7】(A)シール部材温度および被熱処理物の温度分布を調査した際のヒートパターンである。(B)シール部材温度を調査した際の測定箇所を示した図である。
【
図8】被熱処理物の温度分布を調査した際の測定箇所を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施形態のローラハース式加熱炉の概略構成を示している。同図において、1はローラハース式加熱炉で(以下、単に加熱炉と称する場合がある)、鋼やセラミックス等の被熱処理物をトレーに載せた状態で熱処理するものである。
なお、以下では、
図1に示すように、鉛直上方を上方向とし、鉛直下方を下方向とし、加熱炉1に対し被熱処理物Wの搬入(装入)する方向の下流側を前方向とし、加熱炉1に対し被熱処理物Wの搬入する方向の上流側を後方向として説明する。
【0016】
図1で示すように、加熱炉1は鋼製の炉体5を備えている。炉体5は内部に耐熱性の断熱材6を有しており、その断熱材6が断熱壁7を構成している。断熱壁7の内側は被熱処理物Wを収容する加熱室10とされており、加熱室10には加熱手段としてのバーナ12および撹拌扇14が設けられている。炉体5の図中右側には被熱処理物Wを搬入および搬出させる開口9が形成されており、開口9を通じて加熱室10内に収容された被熱処理物Wに対して熱処理が施される。
【0017】
加熱室10の内部および開口9近傍の炉外領域には、複数の搬送用ローラ20が搬送方向である前後方向に沿って並設されている。図中、21はローラ20を回転させるための駆動モータである。駆動モータ21を正回転させることで被熱処理物Wが炉内に搬入され、また駆動モータ21を逆回転させることで被熱処理物Wが炉外に搬出される。
【0018】
開口9には、開閉装置24により上下方向に昇降して開口9を開閉する炉扉25が設けられている。
図1では、閉状態の炉扉25を実線で、また開状態の炉扉25を2点鎖線で示している。
【0019】
17は炉扉25に近接して設けられた押圧装置である。図示を省略するモータ等からの駆動力に基づいて、回転軸17a周りにリンク17bが揺動し、閉状態の炉扉25が開口9に向けて押し付けられる。
【0020】
図2は、炉体5の開口周辺部と炉扉25とを分離して示した斜視図である。また
図3は、炉体5の開口周辺部と炉扉25とを分離して示した断面図である。
図2で示すように、炉体5に形成された開口9の周縁部には、炉扉25と接触して炉内の気密性を保つシール部材16が開口9を囲繞するように装着されている。詳しくは
図3で示すように、開口9の周りに配設された金属製の炉殻部材41のシール部材取付面41aにシール部材16が装着されている。
本例では、シール部材16として耐熱性のセラミックファイバーとゴムバインダからなるロープ状のシール部材を用いている。かかるシール部材16の耐熱温度は、およそ500℃である。
【0021】
次に開口9を閉塞する炉扉25の構成について説明する。炉扉25は、枠部材27と、鉄皮28と、断熱材部30とを備え、
図2で示すように全体として略四角板状をなしている。炉扉25を側面視すると、枠部材27の下方側(下方枠部材34)近傍の鉄皮28は、後方側に位置するローラ20と干渉しないように、テーパ状とされている(
図1、
図5参照)。
【0022】
枠部材27は四角筒状の金属製パイプを用いた四角枠状の環状体で、鉄皮28の周縁部と一体に接合されている。枠部材27は、
図3で示すように、炉体側のシール部材16と対向しシール部材16と接触する第1面27aと、第1面27aの内側(炉扉25の中央を臨む側)において第1面27aと直交する第2面27bとを備えている。
【0023】
断熱材部30は、
図3で示すように、これら枠部材27と鉄皮28で規定されるとともに炉体5の開口9側に開放された収容空間29に、複数の断熱材30a,30b,30c,30dが積層されたもので、炉扉閉状態において炉体5の開口9を閉塞する。
これら断熱材の材質としては、特に限定されないが空隙率の高い耐火物、セラミックファイバーやセラミック粒子をボード状または柔軟性を有するブランケット状にしたものなどを用いることができる。
【0024】
断熱材部30は、
図3で示すように、枠部材27に近い周縁領域31において、枠部材27の第2面27bを覆うように配設されている。詳しくは、枠部材27の第1面27aと第2面27bとが交わる隅角部までを覆うように、第1面27aと面一の高さまで断熱材が配設されている。枠部材27の第2面27bが露出していると、かかる露出部分を通じて枠部材27が加熱され、枠部材27と接するシール部材16の温度が高くなってしまうからである。
【0025】
また本例では、枠部材27の第2面27bを覆う断熱材として、熱伝導率が600℃において0.045[W/m/K]以下の低熱伝導率断熱材30aを用いている。このようにすることで、加熱室10の温度が枠部材27に伝わるのを良好に抑制することができる。なお、本例で用いられる低熱伝導率断熱材30a以外の断熱材30b,30c,30dの熱伝導率は、600℃において0.15~0.25[W/m/K]である。
低熱伝導率断熱材30aとしては、例えばミクロンオーダー以下のセラミック粒子を用いて粒子間の空隙サイズを小さくしたマイクロポーラス構造の断熱材を用いることができる。マイクロポーラス構造の低熱伝導率断熱材は他の断熱材に比べて脆く、割れやすい問題がある。このため本例では、低熱伝導率断熱材30aの表面をブランケット状の断熱材30bで覆うことで低熱伝導率断熱材30aの破損を防いでいる。
【0026】
一方、低熱伝導率断熱材30aよりも内側の(中心部に近い)領域では、ブランケット状の断熱材30dが積層されて、その表面にはボード状の断熱材30cが積層されている。ボード状の断熱材30cは低熱伝導率断熱材30aと面一高さとなるように積層されている。そしてボード状の断熱材30cの周縁部は、更にブランケット状の断熱材30bで覆われている。この結果、炉扉25の開口閉塞面26は、ブランケット状の断熱材30bが配設されている周縁領域31に対して、ブランケット状の断熱材30bが配設されていない中央領域32が凹んだ凹陥状をなしている。
【0027】
図3で示すように、これら積層された断熱材30a,30b,30c,30dは、一端が鉄皮28に接合されたスタッド35を介して連結されている。詳しくはスタッド35の炉体5側に延びる先端側端部35bに鍔状部材36がねじ結合され、鉄皮28と鍔状部材36との間で断熱材が挟持されている。本例ではブランケット状の断熱材30bに凹部37が形成されており、凹部37にスタッド35の先端側端部35bが収容されている。炉扉昇降時にスタッド35の先端側端部35bが炉殻部材と干渉しないようにするためである。
【0028】
以上、
図3で示されている炉扉25の上方側の部位および下方側の部位を例に炉扉25の構造を説明したが、
図4(C)で示す炉扉25の左側の部位および右側の部位についても、同様の特徴を備えている。
【0029】
次に、炉体5側における開口9近傍に配設された断熱材ついて説明する。
図3で示すように、炉体5側ではシール部材16が取り付けられている炉殻部材41と加熱室10との間、および炉殻部材41と開口9との間、を遮るように断熱材が設けられている。そして断熱材の一部は、炉扉25の場合と同様に、熱伝導率が600℃において0.045[W/m/K]以下の低熱伝導率断熱材42aとされている。
開口9の上方側の炉殻部材において、低熱伝導率断熱材42aは開口9と炉殻部材41との間において水平方向(前後方向)に延びた断面視板状とされている。一方、開口9の下方側の炉殻部材において、低熱伝導率断熱材42aは炉殻部材41と加熱室10との間において上下方向に延び、開口9と炉殻部材41との間において水平方向(前後方向)に延びた断面視略T字状とされている。なお、本例では断熱材42cの厚みの違いを考慮して、低熱伝導率断熱部材42aの断面視形状を開口9の上方側と下方側とで異なるものとしているが、例えば
図3の部分拡大図で示すように、上方側の低熱伝導率断熱部材42aの断面視形状を、下方側と同様に断面視略T字状とすることも可能である。また場合によっては両方とも断面視板状とすることも可能である。
低熱伝導率断熱材42aは、他のブランケット状の断熱材42b、42cなどとともに積層され、スタッド35を介して一端が図示しない鉄皮に連結されている。
【0030】
図5,6は加熱炉1における炉扉25の開閉動作の説明図である。
図5で示すように、本例の加熱炉1では開口9の下方に設けられた下方シール部材19が隣接する2つの搬送用ローラ20,20の間に設けられている。
被熱処理物Wの搬入および搬出の際、
図5において2点鎖線で示す位置まで一旦、上昇した炉扉25は、被熱処理物Wが開口9を通過した後に、炉扉25の開口閉塞面26が開口9と対向する所定位置まで下向きに下降する。このとき下方シール部材19に接触する炉扉25の下方枠部材34は隣接する2つの搬送用ローラ20,20の間に位置することとなる。
【0031】
その後、押圧装置17(
図1参照)のリンク17bによる押圧作用により、
図6で示すように、炉扉25は開口9側に押し付けられ、炉扉25の枠部材27の第1面27aがシール部材16に接触し炉内の気密性が確保される。このとき加熱室10および開口9とシール部材16との間は、隙間δ部分を除いて断熱材によって遮蔽されるため、炉内からの熱によるシール部材16の高温化が抑制される。
【0032】
次に、加熱炉1におけるシール部材温度および加熱室内で熱処理されている被熱処理物Wの温度分布について調査した結果を説明する。
シール部材温度についての調査は、N
2雰囲気の加熱室10内を
図7(A)で示すヒートパターンで加熱し、シール部材16の温度がどこまで上昇するかを確認した。温度測定箇所Pは、
図7(B)において黒丸で示す8箇所で、温度測定はシース熱電対を用いて行った。
調査の結果、各測定箇所における最高温度は149℃~234℃であり、シール部材16の耐熱温度500℃に対しては十分に低い温度であった。
【0033】
被熱処理物Wの温度分布についての調査は、
図8で示すように加熱室10内に2段積みされた計10個の被熱処理物(線材コイル)Wを装入し、N
2雰囲気の加熱室を
図7(A)で示すヒートパターンで加熱し、900℃で保持する均熱の末期での被熱処理物Wの温度分布を確認した。温度測定箇所Pは、
図8において黒丸で示す12箇所で、温度測定はシース熱電対を用いて行った。
調査の結果、12箇所の測定箇所における温度のばらつきの幅は6.6℃であった。
なお、同一条件の下、シール部材16と接触する炉扉25側の枠部材27の内部に水を流通させシール部材16を冷却する水冷方式を採用した場合、前記12箇所の測定箇所における温度のばらつきの幅は8.1~9.2℃であったことから、水冷を行なうことなくシール部材16の温度を抑制する本実施形態の構成は、温度均一性の点においても優れていることが分かる。
【0034】
以上のように本実施形態の加熱炉1によれば、シール部材16と接触する枠部材27の第2面27b側が断熱材により覆われるため、炉内の熱が炉扉25の枠部材27を介してシール部材16に伝わることによるシール部材16の高温化が抑制され、開口9の周りに配設されたシール部材16の熱劣化を抑制することができる。
ここで、本実施形態では炉扉25側の断熱材を第1面27aに対して面一に設けるため、対向する炉体側の炉殻部材との隙間が小さくなる。このため本実施形態では炉扉昇降時に炉扉25が炉体側の炉殻部材との接触した場合でも断熱材の破損が生じ難いように、第1面27aと面一な位置に柔軟性を有するブランケット状の断熱材30bを設けている。
【0035】
本実施形態の加熱炉によれば、炉扉25に設けられたブランケット状の断熱材30bの、開口9側とは反対側の背面側に、600℃における熱伝導率が0.045[W/m/K]以下の低熱伝導率断熱材30aが第2面27bを覆うように設けられており、かかる低熱伝導率断熱材30aにより、シール部材16の高温化をより一層抑制することができる。
【0036】
低熱伝導率断熱材30aを用いた場合は断熱効果が高く、炉扉25をコンパクトに構成することが可能となるため、下方シール部材19および炉扉25の下方枠部材34を、隣接する2つの搬送用ローラ20,20の間に配置するレイアウトを容易に実現することができる。
【0037】
本実施形態の加熱炉によれば、
図3で示すように、炉扉25の開口閉塞面26においてブランケット状の断熱材30bが配設されていない中央領域32が凹んだ凹陥状をなしている。このためシール部材16の高温化を抑制する効果が比較的小さい中央領域32について、炉体5側の炉殻部材との隙間を確保することができ、かかる中央領域32での炉体側の炉殻部材との接触を回避することができる。
【0038】
図9は上記実施形態の変形例を示している。
この例では、
図9(A)で示すように、シール部材16と開口9との間に位置する炉体5側の断熱材42aおよび42bを、シール部材16が取り付けられているシール部材取付面41aよりも炉扉25側にせり出させており、
図9(B)で示す炉扉閉状態において、断熱材42aおよび42bの端面50が炉扉25に接触可能とされている。
このようにすれば、上記実施形態にて存在していた開口9の端と炉扉25との間の隙間δ(
図6参照)をなくすことができるため、シール部材16の高温化をより一層抑制することができる。
【0039】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。例えばシール部材と接する炉扉の枠部材としては、四角筒状の部材に代えて中実の角材やL字状に折り曲げられた板材等を用いることも可能である。また上記実施形態は炉体に一つの開口を設けた例であったが、本発明は搬入用開口と搬出用開口の二つの備えた連続式の加熱炉に適用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 ローラハース式加熱炉
5 炉体
9 開口
16 シール部材
20 被熱処理物搬送用ローラ
25 炉扉
27a 第1面
27b 第2面
28 鉄皮
30 断熱材部
30a 低熱伝導率断熱材
30b ブランケット状の断熱材
31 周縁領域
32 中央領域
35 スタッド
35b 先端側端部
37 凹部
41a シール部材取付面
42a 低熱伝導率断熱材
W 被熱処理物