(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082495
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】発泡性飲料用缶及び缶入り発泡性飲料
(51)【国際特許分類】
B65D 85/73 20060101AFI20230607BHJP
B65D 8/00 20060101ALI20230607BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
B65D85/73
B65D8/00 A
A23L2/00 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196314
(22)【出願日】2021-12-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年1月 6日の集会「2021年事業方針説明会」による公開 [刊行物等] 令和3年3月30日の集会「スーパードライ生ジョッキ缶メディア先行体験会」による公開 [刊行物等] 令和3年4月1日の販売による公開 [刊行物等] 令和3年1月6日、令和3年4月8日、令和3年4月21日、令和3年5月7日、令和3年5月21日、令和3年7月20日の下記ウェブサイトによる公開 https://www.asahibeer.co.jp/news/2021/0106_1.html https://www.asahibeer.co.jp/news/2021/0408.html https://www.asahibeer.co.jp/news/2021/0421_1.html https://www.asahibeer.co.jp/news/2021/0507.html https://www.asahibeer.co.jp/news/2021/0521.html https://www.asahibeer.co.jp/news/2021/0720.html [刊行物等] 令和3年4月29日のテレビ東京における放送番組「カンブリア宮殿 新時代の幕開け! アサヒビールの戦略に迫る」による公開 [刊行物等] 令和3年3月30日のTBSテレビにおける放送番組「ゴゴスマ~GOGO!Smile!」による公開 [刊行物等] 令和3年2月24日付発行の月刊誌「日経デザイン」2021年3月号の第31~33ページにおける公開 [刊行物等] 令和3年3月4日付発行の月刊誌「日経トレンディ」2021年4月号の第125ページにおける公開 [刊行物等] 令和3年6月21日付発行の日経MJ(流通新聞)第14ページにおける公開 [刊行物等] 令和3年8月5日付発行の日本経済新聞朝刊 第12ページにおける公開 [刊行物等] 令和3年8月30日のウェブサイト https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00112/00071/による公開
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】中島 宏章
(72)【発明者】
【氏名】小林 雄介
(72)【発明者】
【氏名】夏本 徹哉
【テーマコード(参考)】
3E035
3E061
4B117
【Fターム(参考)】
3E035AA03
3E035AA20
3E035BA06
3E035BB08
3E035BC02
3E035BC03
3E035BD01
3E035BD04
3E035CA01
3E061AA15
3E061AB08
3E061AC09
3E061AD00
3E061BA01
3E061BA02
4B117LC08
4B117LK04
4B117LP18
(57)【要約】
【課題】開栓時に、開口部が隠れる程度にまで発泡するような発泡性飲料を提供すること。
【解決手段】上面と、下面と、胴部とを有し、前記胴部の内面には、深さが0.1μm以上であり、円相当径が0.5μm以上である複数の凹部が設けられており、円相当径が20μm未満の前記凹部の数が、1mm2あたり200~30000個である、発泡性飲料用缶。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と、下面と、胴部とを有し、
前記胴部の内面には、深さが0.1μm以上であり、円相当径が0.5μm以上である複数の凹部が設けられており、
円相当径が20μm未満の前記凹部の数が、1mm2あたり200~30000個である、
発泡性飲料用缶。
【請求項2】
円相当径が5μm未満の前記凹部の数が、1mm2あたり200~28000個である、請求項1に記載の発泡性飲料用缶。
【請求項3】
上面と、下面と、胴部とを有し、
前記胴部の内面には、深さが0.1μm以上であり、円相当径が0.5μm以上である複数の凹部が設けられており、
深さが4.0μm未満の前記凹部の数が、1mm2あたり200~30000個である、発泡性飲料用缶。
【請求項4】
深さが1.0μm未満である前記凹部の数が、1mm2あたり200~20000個である、請求項3に記載の発泡性飲料用缶。
【請求項5】
上面と、下面と、胴部とを有し、
前記胴部の内面に、深さが0.1μm以上であり、円相当径が0.5μm以上である複数の凹部が設けられており、
前記胴部を、上部、中央部及び下部に分かれるように3等分した場合に、前記上部におおいて、円相当径が20μm未満である前記凹部の数が、1mm2あたり200個以上である、発泡性飲料用缶。
【請求項6】
前記中央部における円相当径が20μm未満である前記凹部の1mm2あたりの個数をA個とし、前記上部における円相当径が20μm未満である前記凹部の1mm2あたり個数をB個とした場合に、「B/A」が1.00を超える、請求項5に記載の発泡性飲料缶。
【請求項7】
前記胴部の内面には、樹脂層が設けられており、
前記凹部は、前記樹脂層に形成されている、請求項1~6のいずれかに記載の発泡性飲料用缶。
【請求項8】
前記上面が、フルオープン形式で開栓するように構成された缶蓋により形成されている、請求項1~7のいずれかに記載の発泡性飲料用缶。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載された発泡性飲料用缶と、
前記飲料用缶に充填された発泡性の飲用可能液と、
を備える、缶入り発泡性飲料。
【請求項10】
前記上面が、フルオープン形式で開栓するように構成された缶蓋により形成されており、開栓すると、前記飲料用缶の上端部が泡で隠れるように前記飲用可能液が発泡する、請求項9に記載の缶入り発泡性飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性飲料用缶及び缶入り発泡性飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールなどの発泡性飲料は、容器に密封された状態で提供される場合がある。発泡性飲料の重要な特性の1つは、発泡性である。飲用時に適切な量の泡が得られるように、各種の検討がなされている。
【0003】
発泡性を高めるために、容器の構造に工夫を施したものも知られている。例えば、特許文献1(特許第4758693号)には、充填性に悪影響がなく、かつ開缶時の泡立ち性を良好に向上させることができる発泡性飲料用缶を提供することを目的とした技術が開示されている。特許文献1には、発泡性飲料用缶において、缶の内面に有機樹脂被覆層が設けられている点、所定の大径粒子が所定量で混合された有機樹脂被覆材が前記缶の内面積の20%以上60%以下を占めるとともに、所定の小径粒子が所定量で混入された有機樹脂被覆材が前記缶の内面積の残部を占める点、及び、大径粒子の少なくとも一部が離脱して生じた凹部または残留して生じた凸部と、小径粒子が離脱して生じた凹部とが有機樹脂被覆層に形成されている点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、缶に充填された発泡性飲料であって、開栓時に、開口部が隠れる程度にまで発泡するような発泡性飲料を提供することを検討している。そこで、本発明の課題は、開栓時に、開口部が隠れる程度にまで発泡するような発泡性飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、缶の内面に所定の構造を形成することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の手段により実現される。
[1]上面と、下面と、胴部とを有し、前記胴部の内面には、深さが0.1μm以上であり、円相当径が0.5μm以上である複数の凹部が設けられており、円相当径が20μm未満の前記凹部の数が、1mm2あたり200~30000個である、発泡性飲料用缶。
[2]円相当径が5μm未満の前記凹部の数が、1mm2あたり200~28000個である、[1]に記載の発泡性飲料用缶。
[3]上面と、下面と、胴部とを有し、前記胴部の内面には、深さが0.1μm以上であり、円相当径が0.5μm以上である複数の凹部が設けられており、深さが4.0μm未満の前記凹部の数が、1mm2あたり200~30000個である、発泡性飲料用缶。
[4]深さが1.0μm未満である前記凹部の数が、1mm2あたり200~20000個である、[3]に記載の発泡性飲料用缶。
[5]上面と、下面と、胴部とを有し、前記胴部の内面に、深さが0.1μm以上であり、円相当径が0.5μm以上である複数の凹部が設けられており、前記胴部を、上部、中央部及び下部に分かれるように3等分した場合に、前記上部におおいて、円相当径が20μm未満である前記凹部の数が、1mm2あたり200個以上である、発泡性飲料用缶。
[6]前記中央部における円相当径が20μm未満である前記凹部の1mm2あたりの個数をA個とし、前記上部における円相当径が20μm未満である前記凹部の1mm2あたり個数をB個とした場合に、「B/A」が1.00を超える、[5]に記載の発泡性飲料缶。
[7]前記胴部の内面には、樹脂層が設けられており、前記凹部は、前記樹脂層に形成されている、[1]~[6]のいずれかに記載の発泡性飲料用缶。
[8]前記上面が、フルオープン形式で開栓するように構成された缶蓋により形成されている、[1]~[7]のいずれかに記載の発泡性飲料用缶。
[9][1]~[8]のいずれかに記載された発泡性飲料用缶と、前記飲料用缶に充填された発泡性の飲用可能液と、
を備える、缶入り発泡性飲料。
[10]前記上面が、フルオープン形式で開栓するように構成された缶蓋により形成されており、開栓すると、前記飲料用缶の上端部が泡で隠れるように前記飲用可能液が発泡する、[9]に記載の缶入り発泡性飲料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、開栓時に、開口部が隠れる程度にまで発泡するような発泡性飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る発泡性飲料用缶は、上面、胴部及び下面を有している。胴部及び下面は一体化又は接合状態にある、有底筒状であり、上部の開口部が、上面によって開栓可能に閉じられている。
【0009】
胴部の内面には、複数の凹部が設けられている。
なお、本明細書において、「凹部」とは、特に断りがない限り、深さが0.1μm以上であり、円相当径が0.5μm以上の構造をいう。
【0010】
胴部の内面に複数の凹部が設けられていることにより、飲料の発泡性が向上する。この性質を利用し、本実施形態においては、飲料用缶を開栓した場合に、飲料用缶の上端部(上面の開口部)が泡によって隠れる程度にまで充填された飲料が短時間で発泡するように、凹部のサイズ及び個数が調整されている。この点について、以下に、第1~第3の実施態様を例示して詳述する。
【0011】
(第1の実施態様)
本実施態様においては、特定の円相当径を有する凹部が、特定の数で設けられている。
【0012】
具体的には、胴部内面に、円相当径が20μm未満の凹部が、1mm2あたり200~30000個設けられている。円相当径が20μm未満の凹部の1mm2あたりの数は、より好ましくは500~25000個、更に好ましくは1000~20000個である。このような数で特定の円相当径を有する凹部が設けられていることにより、十分な発泡性を実現することができる。
【0013】
「円相当径」とは、凹部の開口部のサイズを、同じ面積を有する円の直径に換算して表したものである。
なお、胴部内面における特定の円相当径を有する凹部の1mm2あたりの数は、後述する実施例に記載の方法に従って特定することができる。
【0014】
好ましくは、円相当径が5μm未満の凹部の1mm2あたりの数が、200~28000個、より好ましくは400~23000個、更に好ましくは800~18000個である。
【0015】
好ましくは、円相当径が10μm未満の凹部の1mm2あたりの数が、200~30000個、より好ましくは500~25000個、更に好ましくは1000~20000個である。
【0016】
好ましくは、円相当径が5μm以上10μm未満の凹部の1mm2あたりの数が、5~3000個、より好ましくは10~1000個、更に好ましくは10~600個である。
【0017】
好ましくは、円相当径が10μm以上45μm未満の凹部の1mm2あたりの数が、1000個以下、より好ましくは500個以下、更に好ましくは200個以下、更に好ましくは100個以下、最も好ましくは50個以下である。
【0018】
本発明者らの知見によれば、発泡性飲料の発泡性は、凹部の径及び数に依存する。上記の通り、凹部の円相当径及び数を調整することによって、所望する発泡性を実現することができる。
【0019】
(第2の実施態様)
本実施態様においては、特定の深さを有する凹部が、特定の数で設けられている。
【0020】
具体的には、胴部内面に、深さが4.0μm未満の凹部が、1mm2あたり、200~30000個設けられている。深さが4.0μm未満の凹部の数は、より好ましくは500~25000個、更に好ましくは1000~20000個である。このような量で特定の深さを有する凹部が設けられていることにより、十分な発泡性を実現することができる。
【0021】
なお、胴部内面における特定の深さを有する凹部の1mm2あたりの数は、後述する実施例に記載の方法に従って特定することができる。
【0022】
好ましくは、深さが1.0μm未満の凹部の1mm2あたりの数が、200~20000個、より好ましくは500~18000個、更に好ましくは1000~16000個である。
【0023】
本発明者らの知見によれば、発泡性飲料の発泡性は、凹部の深さ及び数にも依存する。上記の通り、凹部の深さ及び数を調整することによって、所望する発泡性を実現することができる。
【0024】
(第3の実施態様)
凹部の数は、胴部全体において必ずしも一様である必要はなく、場所により異なっていてもよい。本実施態様においては、場所により凹部の数が異なっている例について説明する。
【0025】
本実施態様においては、胴部が上下方向に3等分され、上から順に上部、中央部、及び下部として定義される。
【0026】
上部において、円相当径が20μm未満の凹部が、1mm2あたり200個以上設けられている。上部における円相当径が20μm未満の凹部の数は、1mm2あたり好ましくは500個以上、より好ましくは1000個以上、更に好ましくは3000~50000個である。
【0027】
一方、中央部における円相当径が20μm未満の凹部の1mm2あたりの数は、上部におけるそれよりも少ない。具体的には、中央部における円相当径が20μm未満の凹部の1mm2あたり個数をA個とし、上部における円相当径が20μm未満の凹部の1mm2あたり個数をB個とした場合に、「B/A」は例えば1.00超であり、1.00~5.00、あるいは1.00~2.50とすることができる。
【0028】
なお、上述の第1~第3の実施態様は独立するものではなく、互いに組み合わされていてもよい。
【0029】
続いて、凹部の分布以外の点での発泡性飲料用缶の構成について説明する。
【0030】
好ましくは、本実施形態に係る発泡性飲料用缶は、金属製である。また、好ましくは、胴部の内面には、金属層上に塗料を塗装・乾燥して得られた樹脂層が設けられており、複数の凹部は、その樹脂層に形成されている。
樹脂層の厚みは、例えば1~10μm、好ましくは3~8μmである。
尚、本発明において、「樹脂層」とは、塗装された塗料を乾燥させた後の層であることを意味し、乾燥前の塗料の層とは区別されている点に留意されたい。
【0031】
好ましくは、本実施形態に係る発泡性飲料用缶の缶蓋は、フルオープンエンドである。フルオープンエンドとは、缶蓋天面の面積の30%以上の領域が開口されるタイプの蓋である。開口される領域は、好ましくは、缶蓋天面の50%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは缶蓋天面全体である。
好ましい態様では、円形の缶蓋天面の全周にわたってスコア(切欠き)加工が施されており、缶蓋天面全体が缶本体(胴部)から脱離し、開口されるタイプの缶蓋が用いられる。但し、缶蓋は、必ずしも完全に脱離しなくてもよく、缶蓋の一部が缶本体に残っている構成であってもよい。フルオープンエンドは通常の缶蓋と比べ、缶胴からの発泡を視覚的に捉えることができることから、ジョッキに注いだビールを想起することにつながる。加えて、通常の缶蓋よりも同一角度で口の中に流入する液量が多いことから、泡と液を一度に楽しむことができる。
特に、フルオープンエンドの缶蓋を用いた発泡性飲料において、開缶により上端部が隠れる程度まで発泡するような構成を採用すると、ジョッキに注いだビールのような印象を需要者に強く与えやすくなる。
【0032】
発泡性飲料用缶の容量(飲料液が充填される量)は、例えば135~1000ml、好ましくは320~500mlである。
また、蓋が円形である場合、発泡性飲料用缶の口径は、例えば200~211径、好ましくは202~206径である。
【0033】
続いて、上述した発泡性飲料用缶の製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係る製造方法は、胴部の内面(又は胴部の内面になる予定の領域)に樹脂及びワックスを含む塗料を塗装する工程と、続けて塗装された塗料を加熱処理することにより、内面に樹脂層を形成し、ワックスを脱離させる工程(以下、焼き付け工程ともいう)を含む。
この方法によれば、ワックスを脱離させることによって、樹脂層に凹部が形成される。
なお、ワックスは一般的に製缶工程において塗膜の傷つきを防止する目的で用いられるが、本明細書においてワックスは、常温で固形粒子状の成分を指す。
内面に樹脂層を有する缶体を形成する方法としては、例えば、絞りしごき加工により予め有底筒状の缶体を形成した後、スプレー塗装により本発明に係る塗料を塗装し焼き付けを行うことで樹脂層を形成する方法(得られた缶はツーピース缶と呼ばれる)が挙げられる。あるいは、内面となる予定の領域を有する金属板を準備し、内面になる予定の領域に塗料を塗装し、焼き付けを行うことで樹脂層を形成し、その後、樹脂層を有する金属板を筒状に成形し、下面となる缶底を巻き締めることにより有底筒状の缶体を得る方法(得られた缶はスリーピース缶と呼ばれる)なども用いることができる。
【0034】
以下に、塗料の塗装及び焼き付け工程について詳細に説明する。
【0035】
まず、樹脂及びワックスを含む塗料を準備する。
塗料としては、例えば水性の塗料を用いることができる。
塗料に含まれる樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等が用いられる。
【0036】
塗料中のワックスは、平均粒径が1μm以上のワックスである。ここでいう平均粒径とは、体積換算で頻度累積が50%となる粒子径(D50)を指し、ワックスを20質量%程度含む水分散体を水で500倍に希釈したものを動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラックS3500」)にて測定した値である。
ワックスの平均粒径は、好ましくは1~15μm、より好ましくは2~10μm、更に好ましくは3~8μmである。
ワックスの平均粒径を適当に選択することにより、凹部のサイズを調整することができる。
【0037】
塗料中のワックスの含有量は、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して例えば7~40質量部、好ましくは10~40質量部、より好ましくは12~30質量部である。尚、ここでいう不揮発成分(ワックスを除く)とは、塗料を塗装し焼き付けた後に被着体上に残存し樹脂層を形成する成分のうちワックスを除く成分を指す。
塗料中のワックスの含有量を適当に選択することにより、凹部の数を調整することができる。
【0038】
また、平均粒径が異なる複数種類のワックスを組み合わせて用いてもよい。このように異なる平均粒径を有するワックスを複数組み合わせることにより、凹部の円相当径、深さ、及び個数を制御しやすくなる。
【0039】
ワックスとしては、例えば、軟化点が90~160℃、好ましくは110~140℃のものが用いられる。
ワックスとしては、カルナバワックス、及びポリエチレンワックス等を用いることができる。
ワックスの形態としては、粉末・ペースト・水ないしは溶剤分散体の形態のものを適宜用いることができるが、塗料中の分散安定性の点から、水ないし溶剤分散体のものを用いることが好ましい。
【0040】
塗料には、粘度調整剤が添加されていてもよい。塗料の粘度は、凹部の数及びサイズに影響する場合がある。よって、粘度を調整することにより、凹部の数及びサイズを調整することができる。
【0041】
塗料には、ワックス以外に微粒子状の添加剤が添加されていてもよい。例えば、微粒子状の添加剤として、微粉末シリカが挙げられる。微粉末シリカとしては、例えば、平均粒径が1~10μm程度のものを使用することができる。微粉末シリカの使用量は、塗料中の不揮発成分(ワックス及びシリカを除く)100質量部に対して、例えば1.0~10質量部、好ましくは3.0~8.0質量部である。ワックス以外の微粒子状の添加剤を添加することによっても、凹部のサイズ及び数を制御することが可能になる。
【0042】
本実施形態における塗料の塗装方法は、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー等のスプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、電着塗装等が好ましく、スプレー塗装がより好ましい。
塗料の乾燥及び均一な樹脂層の形成のため、塗装の後速やかに焼き付け処理を行うことが好ましい。
焼き付け工程における条件は、塗料の乾燥及び樹脂層形成が可能な条件を適宜選択できるが、150~280℃で10秒間~30分間程度が好ましい。また、この焼き付けの際にワックスを溶融させることで塗膜からの脱離を生じさせるためには、180~280℃で1分間~30分間程度がより好ましい。焼き付け後の樹脂層の厚みは、例えば1~10μm、好ましくは3~8μmである。
樹脂層の厚みが厚くなると、凹部の数が少なくなる傾向にある。よって、樹脂層の厚みを制御することにより、凹部の数を制御することもできる。
【0043】
その後は、当業界で通常使用されている方法と同様に、飲料用缶が製造され、缶に飲用可能液が充填され、密封される。
飲用可能液の充填は、好ましくは低温(例えば1~20℃)で行われる。
【0044】
上述の方法によれば、特定の平均粒径を有するワックスが特定の量で含まれる塗料を使用することによって、特定のサイズの凹部が、特定の密度で胴部の内面に形成される。そして、このような特殊な構造が特定の密度で胴部に形成された発泡性飲料用缶を用いることにより、極めて高い発泡性を実現することができる。
【0045】
尚、本実施形態に係る発泡性飲料用缶に充填される飲用液は、発泡性の液体であればよく、特に限定されない。
好ましくは、充填される飲用液は、ビール様発泡性飲料である。「ビール様発泡性飲料」とは、アルコール含有量、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有し、高い止渇感・ドリンカビリティー(飽きずに何杯も飲み続けられる性質)を有する発泡性飲料を意味する。ビール様発泡性飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1v/v%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。また、麦芽を原料とする飲料であってもよく、麦芽を原料としない飲料であってもよく、発酵工程を経て製造される発酵飲料であってもよく、発酵工程を経ずに製造される非発酵飲料であってもよい。
ビール様発泡性飲料としては、具体的には、ビール、麦芽を原料とする発泡酒、麦芽を使用しない発泡性アルコール飲料、ローアルコール発泡性飲料、ノンアルコールビール等が挙げられる。その他、麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類であってもよい。
より好ましくは、充填される飲用液は、ビールである。本実施形態に係る発泡性飲料用缶にビールを充填した場合、開栓と同時に缶の内面から泡が発生し、泡とビールとを併せて飲用できる。
但し、ビール以外の飲料を充填した場合であっても、発泡に伴い香気成分が揮散するため、内容物の風味を強く感じることができる。
好ましくは、発泡性飲料は、ガス圧が2~4ガスボリュームである。
【実施例0046】
以下、本発明をより詳細に説明するため、本発明者らによって行われた実施例について説明する。
【0047】
(対照区)
下面及び胴部を有するアルミニウム製の容器(350ml容)を準備した。また、平均粒径が0.3μmのカルナバワックスを塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して1質量部含む水性エポキシアクリル系塗料を準備した。準備した塗料の#4フォードカップ粘度は24秒であった。準備した塗料を、容器の胴部内面の全面にスプレー塗装により塗装し、続けて200℃で2分間加熱し、対照区に係る飲料用缶を得た。胴部樹脂層の厚みは、平均5μmであった。
【0048】
(試験区1)
ワックスとして、平均粒径6μmのポリエチレンワックスの水分散体(ワックス成分20%)を、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対してワックス成分7.5質量部となるように用いた。その他の点は、対照区と同様にして、試験区1に係る飲料用缶を得た。
【0049】
(試験区2)
試験区1と同様の方法により、試験区2に係る飲料用缶を得た。但し、胴部樹脂層の厚みを、試験区1よりも厚くした。
【0050】
(試験区3)
試験区1で用いた塗料100部に対し、粘度調整剤としてジメチルアミノエタノール0.06部を撹拌下で添加した。得られた塗料の#4フォードカップ粘度は35秒であった。得られた塗料を用いた点以外は試験区1と同様にして、試験区3に係る飲料用缶を得た。胴部樹脂層の厚みは、平均5μmであった。
【0051】
(試験区4)
ワックスとして、平均粒径6μmのポリエチレンワックス(第1のワックス)の水分散体(ワックス成分20%)と、平均粒径12μmのポリエチレンワックス(第2のワックス)の水分散体(ワックス成分20%)とを用いた。第1のワックスは、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して、第1のワックス成分が7.5質量部となるようにワックス分散体を添加した。第2のワックスは、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して、第2のワックス成分が5.0質量部となるようにワックス分散体を添加した。その他の点は、試験区1と同様にして、試験区4に係る飲料用缶を得た。胴部樹脂層の厚みは、平均5μmであった。
【0052】
(試験区5)
ワックスとして、平均粒径6μmのポリエチレンワックス(第1のワックス)の水分散体(ワックス成分20%)と、平均粒径5μmの粉体状ポリエチレンワックス(第2のワックス)とを用いた。第1のワックスは、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して、第1のワックス成分が7.5質量部となるようにワックス分散体を添加した。第2のワックスは、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して、第2のワックス成分が5.0質量部となるように添加した。その他の点は、試験区1と同様にして、試験区5に係る飲料用缶を得た。胴部樹脂層の厚みは、平均5μmであった。
【0053】
(試験区6)
ワックスとして、平均粒径6μmのポリエチレンワックスの水分散体(ワックス成分20%)を用いた。さらに、微粒子状添加剤として、平均粒径4μmの微粉末シリカを用いた。ワックスは、塗料中の不揮発成分(ワックス・シリカを除く)100質量部に対して、ワックス成分が7.5質量部となるようにワックス分散体を添加した。微粉末シリカは、塗料中の不揮発成分(ワックス・シリカを除く)100質量部に対して、シリカ成分が5.0質量部となるように添加した。その他の点は、試験区1と同様にして、試験区6に係る飲料用缶を得た。胴部樹脂層の厚みは、平均5μmであった。
【0054】
(ガス抜け量の測定)
準備した各飲料用缶に市販のビールを340ml充填し、一晩4℃に静置した。質量を測定した後に開栓し、1分間静置させた後に再び質量を測定した。1分間静置させる前と後の質量の差を「ガス抜け量」として算出した。各飲料缶について5本ずつ、測定を行った。各飲料缶のガス抜け量測定値の上限値及び下限値を下記表1に示す。
【0055】
【0056】
表1に示される通り、ガス抜け量は、試験区1~6の方が、対照区よりも顕著に大きかった。また、試験区2の方が試験区1よりも更に大きかった。ガス抜け量は、ガスが抜けた量(泡立ちの大きさ)を表しており、即ち、この値が大きいほど発泡性が高い(泡立ちが大きい)ことを意味している。
【0057】
(カバー性の評価)
準備した各飲料用缶に、市販のビールを充填し、上面をフルオープン形式の缶蓋により閉じた。充填後、飲料缶を4℃で24時間静置した。次いで、カバー時間(飲料缶を開栓し、飲料缶の中から泡が立ち、その泡で飲料缶の上端部が隠れるまでの時間)の基準を10秒間と定めて、カバー性を評価した。各飲料缶について10本ずつ試験を行い、カバー時間が10秒以内であった本数をカウントした。結果を表2に示す。
【表2】
【0058】
表2に示されるように、カバー性も、試験区1~6の方が、対照区よりも優れていた。
【0059】
(表面状態の計測)
得られた各飲料缶について、胴部内面の表面状態を観測した。具体的には、ナノ3D光緩衝計測システムVS1800(株式会社日立ハイテク製)を用いて、胴部内面の画像を取得した。付属ソフトウェアを用い、当該画像に基づいて、深さが0.1μm以上であり、円相当径が0.5μm以上である構造を凹部として抽出した。円相当径は、付属ソフトウェアを用い、抽出された凹部の長径及び短径を測定し、これら測定結果を同面積の真円に換算したときの直径とした。抽出された凹部から、特定の円相当径を有する凹部の数と、特定の深さを有する凹部の数とを求めた。尚、測定は、飲料缶を上下に3等分し、上部、中央部、及び下部のそれぞれについて実施し、各部分について、1mm2あたりの凹部の数を求めた。更に、上部、中央部、及び下部の平均値を算出し、これを胴部内面における1mm2あたりの凹部の数として求めた。
【0060】
表3-1~表3-3に、円相当径毎の凹部の数(個/1mm2)の結果を示す。表4-1~表4-3に、深さ毎の凹部の数(個/1mm2)の結果を示す。尚、胴部内面における1mm2あたりの凹部の数は、「平均」として記載されている。
【0061】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0062】
(結果についてのまとめ)
表3-1及び表4-1に示されるように、対照区に係る飲料缶では、胴部の内面に、0.5μm以上の円相当径を有する凹部は観察されなかった。深さが0.1μm以上である凹部も観察されなかった。
【0063】
一方、表3-2~表3-3に示されるように、試験区1~6には、胴部の内面において、円相当径が0.5μm以上10μm未満の凹部が、1mm2あたり200~30000個の範囲で設けられていた(平均欄参照)。また、円相当径が10μm超45μm以下の前記凹部の数が、1mm2あたり1000個以下であった。
このことから、円相当径が0.5μm以上10μm未満の凹部が、1mm2あたり200~30000個の範囲で設けられており、円相当径が10μm超45μm以下の前記凹部の数が、1mm2あたり1000個以下であることにより、開栓した際に、飲料缶の上端部が隠れる程度にまで泡が発生するような発泡性を実現できることが判った。
【0064】
また、表4-2~表4-3に示されるように、試験区1~6には、胴部の内面において、深さが4.0μm未満の前記凹部が、1mm2あたり200~30000個設けられていた(平均欄参照)。このことから、深さが4.0μm未満の前記凹部が、1mm2あたり200~30000個設けられていることにより、開栓した際に、飲料缶の上端部が隠れる程度にまで泡が発生するような発泡性を実現できることが判った。
【0065】
更に、表3-2~表3-3に示されるように、各試験区においては、上部、中央部、及び下部において、凹部の数が多少異なっていた。いずれの試験区も、上部における円相当径が0.5~20μmである凹部の数は、1mm2あたり200個以上であった。また、円相当径が0.5~20μmである凹部の数について、上部と中央部との比を求めると、1.00を超えており、上部の方が凹部が多かった。従って、凹部の数が上部、中央部、及び下部において一様でなくとも、所望する発泡性が実現できることが判った。
【0066】
表3-2に示されるように、試験区1と試験区2とでは、試験区2の方が凹部の数が少ない傾向にあった。このことから、胴部樹脂層の厚みが厚いほど、凹部の数が少なくなることが判った。
【0067】
表3-2に示されるように、試験区1と試験区3とでは、試験区3の方が、5μm以上10μm未満の凹部の数において、やや多い傾向にあった。このことから、塗料の粘度により、特定のサイズの凹部の数が変化することが判った。
【0068】
表3-3に示されるように、試験区6では、試験区1~5と比べ凹部の数が大きい傾向にあった。このことから、微粉末状添加剤(シリカ)を添加することによっても、凹部の数が制御できることが判った。