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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082564
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】造形物の製作方法および造形物
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20230607BHJP
   C03B 23/025 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C03C21/00 102Z
C03B23/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196423
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】520480636
【氏名又は名称】野村 登
(71)【出願人】
【識別番号】520480647
【氏名又は名称】久保 はづき
(74)【代理人】
【識別番号】100142114
【弁理士】
【氏名又は名称】小石川 由紀乃
(72)【発明者】
【氏名】野村 登
(72)【発明者】
【氏名】久保 はづき
【テーマコード(参考)】
4G015
4G059
【Fターム(参考)】
4G015AA04
4G015AB03
4G059AA01
4G059AA18
4G059AA20
4G059AB14
4G059AC08
4G059HB06
4G059HB12
(57)【要約】
【課題】粘性流体となったガラス体を変形させながら金属体に係わらせて着色のための化学現象を生じさせ、ユニークな形態と明瞭な着色層とを有する造形物を製作する。
【解決手段】遷移金属元素を含む金属による金属体1と板状のガラス体2とを窯の中に入れて窯を加熱し、ガラス体2から軟化して粘性流体となったガラス20を金属体1の表面に密着させながら変形させる。この間に、流体ガラス20と金属体1との密着により生じた金属酸化物や当該金属酸化物中の遷移金属イオンが流体ガラス20の内部に拡散され、流体ガラス20の金属体1への密着部分の表層部に上記金属酸化物に由来する着色層が形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属元素を含む金属体とガラス体とを所定の位置関係をもたせて窯の中に入れてこの窯を加熱し、
前記加熱により粘性流体となったガラス体と金属体とを高温状態の窯の中で密着させることにより、その密着により生じた金属酸化物および当該金属酸化物中の遷移金属イオンをガラス体の内部に拡散させて、当該ガラス体の当該金属体への密着部分の表層部に前記金属酸化物に由来する着色層を形成し、
前記着色層が形成されたガラス体と前記金属体とを、両者の密着状態を保って両者が結合された状態になるまで冷ました後に、当該ガラス体から当該金属体の少なくとも一部分を剥がし取る、
ことを特徴とする造形物の製作方法。
【請求項2】
前記金属体が下で前記ガラス体が上となる関係をもって、両者を前記窯の内部に支持して窯を加熱し、粘性流体となったガラス体を金属体の表面で流動させて変形させる、請求項1に記載された造形物の製作方法。
【請求項3】
前記ガラス体が下で前記金属体が上となる関係をもって、両者を前記窯の内部に支持して窯を加熱し、粘性流体となったガラス体を金属体の押圧力により変形させる、
請求項1に記載された造形物の製作方法。
【請求項4】
前記金属体には厚み部分を貫く貫通部が少なくとも一つ設けられ、
前記金属体を、厚み部分を上下方向に沿わせ、下面となった面内の前記貫通部の開口部が塞がれない状態にして前記窯の内底面より高い位置に支持すると共に、当該金属体の上面となった面内の前記貫通部を含む所定範囲に向き合うように前記ガラス体を配置し、
前記高温状態の窯の中で流動したガラス体が金属体の上面に密着し、さらにその一部分が前記貫通部に入った後に当該貫通部より下の所定位置に移動するまでガラス体を流動させる、
請求項1に記載された造形物の製作方法。
【請求項5】
遷移金属元素を含む第2の金属体を、前記窯の金属体より低い高さ範囲の前記貫通部に対向する位置に支持し、
前記貫通部に入ったガラス体の先端部分が前記第2の金属体の表面に密着して所定時間が経過するまで当該ガラス体を流動させる、
請求項4に記載された造形物の製作方法。
【請求項6】
前記金属体は内面を湾曲させた有底穴を有し、
前記有底穴の開口端面または穴の内部の内底面より高い位置に前記ガラス体が配置された状態の金属体を窯の中に入れて窯を加熱し、流動したガラス体が有底穴の内面に沿って当該内面に密着するように当該ガラス体を変形させる、
請求項1に記載された造形物の製作方法。
【請求項7】
遷移金属元素を含むと共に少なくとも一端面が開放された穴を有する金属体と、前記穴に入る大きさの複数のガラス体とを、各ガラス体が穴の中に入った状態が維持されるようにして窯の中に入れてこの窯を加熱し、
前記加熱により粘性流体となった各ガラス体を高温状態の窯の中で融合させて前記穴の内面に沿って当該内面に密着する単一のガラス体に変化させることにより、当該ガラス体と金属体との密着により生じた金属酸化物および当該金属酸化物中の遷移金属イオンを当該ガラス体の内部に拡散させて、当該ガラス体の当該金属体への密着部分の表層部に前記金属酸化物に由来する着色層を形成し、
前記着色層が形成されたガラス体と前記金属体とを、両者の密着状態を保って両者が結合された状態になるまで冷ました後に、当該ガラス体から当該金属体の少なくとも一部分を剥がし取る、
ことを特徴とする造形物の製作方法。
【請求項8】
遷移金属元素を含む第1の金属体と、遷移金属元素を含み1以上の貫通部を有する第2の金属体と、前記貫通部の形成範囲に向き合わせることが可能な大きさのガラス体とを、第1の金属体の上に前記貫通部の貫通方向を上下方向に沿わせて第2の金属体を配置し、第2の金属体の上面となった面内の前記貫通部を含む所定範囲に向き合うように前記ガラス体を配置した状態をもって、各金属体およびガラス体を窯の内部に支持して窯を加熱し、
前記加熱により粘性流体となったガラス体を高温状態の窯の中で第2の金属体の上面に密着させながら流動させて当該ガラス体の一部分が前記貫通部を通って第1の金属体の表面にも密着するように当該ガラス体を変形させることにより、ガラス体と各金属体との密着により生じた金属酸化物および当該金属酸化物中の遷移金属イオンをガラス体の内部に拡散させて、当該ガラス体の各金属体への密着部分の表層部に前記金属酸化物に由来する着色層を形成し、
前記着色層が形成されたガラス体と各金属体との密着状態を保ってガラス体が各金属体に結合された状態になるまでこれらを冷ました後に、当該ガラス体から第1の金属体を剥がし取る、
ことを製作することを特徴とする造形物の製作方法。
【請求項9】
遷移金属元素を含む第1の金属体と、遷移金属元素を含み第1の金属体に載る大きさの複数の第2の金属体と、前記第2の金属体より大きな面を有するガラス体とを、第1の金属体の上に前記複数の第2の金属体を互いの間に所定の間隙をもたせて配置し、第2の金属体が分布する範囲に向き合うように前記ガラス体を配置した状態をもって、各金属体およびガラス体を窯の内部に支持して窯を加熱し、
前記加熱により粘性流体となったガラス体を高温状態の窯の中で第2の金属体の第1の金属体に接触していない部分に密着させながら流動させて当該ガラス体の一部分が各第2の金属体の間の間隙を通って第1の金属体の表面にも密着するように当該ガラス体を変形させることにより、当該ガラス体と各金属体との密着により生じた金属酸化物および当該金属酸化物中の遷移金属イオンをガラス体の内部に拡散させて、当該ガラス体の各金属体への密着部分の表層部に前記金属酸化物に由来する着色層を形成し、
前記着色層が形成されたガラス体と各金属体との密着状態を保ってガラス体が各金属体に結合された状態になるまでこれらを冷ました後に、当該ガラス体から第1の金属体を剥がし取る、
ことを特徴とする造形物の製作方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかの方法により製作された造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス体を主要部とする造形物を製作する方法に関するもので、特にガラス体の内部に着色層を形成するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスを着色するための一般的な方法の1つとして、無機金属化合物を含むペーストをガラスの表面に塗布して加熱する方法(イオン交換法)が知られている。イオン交換法は、ペースト中の遷移金属イオンがガラス内部のアルカリイオンと交換されてガラスの内部に拡散し、それらのイオンの還元により生じた原子等から形成されるコロイド粒子により所定の波長域の光が吸収される現象を利用するものである(非特許文献1を参照。)。
【0003】
その他の着色方法を示す文献として、以下の3つの特許文献をあげる。
特許文献1には、有機金属化合物を主成分として含む溶液が塗布されたガラス材料を150~700℃の温度で焼成することにより、金属酸化物を主体とする薄膜をガラス表面に形成することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、徐冷前の500°Cから650°Cのガラス製品の表面に金属化合物を溶解した有機溶媒によるコーティング液を噴霧し、ガラス製品表面の温度を利用して金属酸化物を主体とする着色皮膜をつくる方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、複数の区画が形成された金属枠をガラス板に重ね合わせ、各区画に着色された粒状ガラスを散布または塗布した後、ガラス板を下、金属枠を上として加熱し、軟化状態となったガラスに金属枠の桟を圧着させてガラスを切断することにより、区画ごとに分離された着色ガラス片を製作することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-203848号公報
【特許文献2】特開2008-74477号公報
【特許文献3】特開昭60-204638号公報
【非特許文献】
【0007】
太田 博紀 「ガラスの着色技術」,実務表面技術1985年32巻8号,1985年8月1日発行,432-436頁 (https://doi.org/10.4139/sfj1970.32.432より取得。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の各文献に記載された技術はいずれも、成形済みのガラス体または成形されていないガラス板を、その形状を大きく変化させずに着色するもので、そのために着色剤を用いた化学反応や着色された材料を融合する方法を採用している。ガラス体を一般的な金属体と係わらせながらガラス体の変形と着色とを同時期に進行させる方法や、金属体と結合したガラス体から金属体を剥がすことによって着色された箇所が表面に現れるようにする方法はまだ知られていない。
【0009】
上記の点に着目し、本発明は、ガラス体を粘性流動が生じる温度まで加熱し、粘性流体となったガラス体を変形させながら金属体に密着させて着色のための化学現象を生じさせた後に、冷めて金属体と結合する状態になったガラス体から金属体を剥がし取ることによって、ユニークな形態と明瞭な着色層とを有する造形物を製作することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ガラス体を粘性流体になるまで加熱すると、ガラス体の主体となる二酸化ケイ素(SiO)による網目構造が緩み、上記ガラス体より濃度の高い化学物質がガラス体に密着すると、その物質を構成する粒子や当該粒子から電離したイオンがガラス体へと移って網目構造の中で活発に動く(拡散する)状態になる。
【0011】
したがって、ガラス体と共に遷移金属元素を含む金属体を加熱し、粘性流体となったガラス体を金属体の表面に所定時間密着させると、両者の密着部分においてガラス側の二酸化ケイ素中の酸素イオンと金属体の側の遷移金属イオンとの化学反応が生じて金属酸化物が生成され、当該金属酸化物の粒子や当該金属酸化物に含まれる遷移金属イオンがガラス体の内部に拡散する現象が生じると考えられる。特に、ガラス体の金属体への密着部分の表層部では上記の粒子やイオンの分布密度が高くなり、それらの粒子やイオンに吸収される光の波長域に応じた特有の色彩が現われる。
【0012】
本発明では、上記の考察に基づき、遷移金属元素を含む金属体とガラス体とを所定の位置関係をもたせて窯の中に入れてこの窯を加熱し、加熱により粘性流体となったガラス体と金属体とを高温状態の窯の中で密着させる。この密着により上述した現象が生じて、ガラス体の金属体との密着部分の表層部に当該金属体との密着により生じた金属酸化物に由来する着色層が形成される。
【0013】
このように、本発明は、ガラス体を粘性流動が生じるほどの高温にして、当該ガラスを変形させながらその一部分を金属体に密着させ、両者の間に生じる化学反応によって着色層の元になる金属酸化物を生成する。前出の特許文献1,2や非特許文献1に記載された従来の方法は、いずれもガラス体を大きく変形させずに着色層を形成することを前提とし、着色のために生成される金属酸化物にもガラスに由来する成分は含まれていない。特許文献3に記載された方法では、ガラス体と金属体とを重ね合わせて加熱しているものの、金属体を着色のための手段として使用することも、着色対象のガラス体を大きく変形させることも、全く記載されていない。
【0014】
なお、窯の加熱は、ガラス体の温度が作業点以上の所定温度に達した後の適当なタイミングで停止させてよい。また、窯に入れられるときの金属体とガラス体とを重ね合わせられた状態で支持すれば、流動したガラス体を金属体に密着させるのが容易になるが、加熱により粘性流体となったガラス体が金属体に密着できるのであれば、両者の位置関係はどのように設定してもよい。
【0015】
本発明では、さらに、着色層が形成されたガラス体と金属体とを、両者の密着状態を保って両者が結合された状態になるまで冷ました後に、ガラス体から当該金属体の少なくとも一部分を剥がし取る処理を実施する。こうすることによって、着色層が形成された箇所が表に現れて正面から観察することが可能になる。また、ガラス体が透明または半透明であれば、光を遮る金属体が取り除かれたことにより、ガラス体の着色層が形成されていない箇所の表面からも着色層を透視することが可能になる。
【0016】
ガラス転移点より低い温度になって固まったガラス体から金属体を引き剥がすためには、金属体を比較的容易に撓ませることができるようにする必要がある。その観点から、金属体の形態は薄肉体とするのが望ましい。
【0017】
窯の内部において金属体とガラス体とを上下に並べて支持する場合は、いずれを上にしても構わない。たとえば、金属体が下でガラス体が上となる関係をもって両者を支持した場合には、加熱により粘性流体となったガラス体を金属体の表面で流動させて変形させることができる。
【0018】
上記とは逆に、ガラス体が下で金属体が上となる関係をもって、両者を窯の内部に支持した場合には、加熱により粘性流体となったガラス体を金属体の押圧力により変形させることができる。
【0019】
本発明において、厚み部分を貫く貫通部が少なくとも一つ設けられた金属体を使用する場合には、この金属体を、厚み部分を上下方向に沿わせ、下面となった面内の貫通部の開口部が塞がれない状態にして窯の内底面より高い位置に支持する。そして、金属体の上面となった面内の貫通部を含む所定範囲に向き合うようにガラス体を配置し、高温状態の窯の中で流動したガラス体が金属体の上面に密着し、さらにその一部分が貫通部に入った後に当該貫通部より下の所定位置に移動するまでガラス体を流動させる。
【0020】
上記の処理によれば、金属体の貫通部の周囲に密着していた部分に着色層が形成され、その部分に凸状体を連続させた形態の造形物(たとえば、後述する図4の造形物201)を得ることができる。
なお、上記の貫通部は、金属体の厚み部分を貫く完全な穴として形成される場合もあれば、穴の一部分が欠落した形態または切り欠きとして金属体の端縁部に形成される場合もある(以下の実施形態でも同じ。)。
【0021】
貫通部を有する金属体を使用する場合には、さらに、上記の金属体より低い高さ範囲の前記貫通部に対向する位置に遷移金属元素を含む第2の金属体を支持し、貫通部に入ったガラス体の先端部分が第2の金属体の表面に密着するようにガラス体を流動させてもよい。こうすると、貫通部の周囲にあった部分のほか、凸状体の先端部分にも、第2の金属体との密着により生成された酸化金属物やその中の遷移金属イオンが当該先端部分に拡散されたことによる着色層を形成することができる(たとえば、後述する図6の造形物202)。
【0022】
第1、第2の金属体は同一種の金属材料によるものでも良いが、それぞれ異なる種類の金属材料によるものにすれば、金属に密着した部分の色彩を金属の種によって異ならせることができる。
【0023】
内面を湾曲させた有底穴を有する金属体を使用し、この有底穴の開口端面にガラス体を載せる、または穴の内部の内底面より高い位置にガラス体が配置された状態にして、窯を加熱することもできる。この場合には、流動したガラス体が有底穴の内面に沿って当該内底面に密着する状態に変化するようにガラス体を変形させることによって、有底穴に応じた湾曲面を形成し、その湾曲面の表層部に着色層が形成されたガラス体による造形物を得ることができる。
【0024】
本発明では、遷移金属元素を含む金属体を少なくとも一端面が開放された穴を有する形態(たとえば上述した有底穴を有する形態や円筒体など)にし、その穴の中に複数のガラス体(ある程度の大きさのガラス板、球状のガラス、小さなガラス片など)が入った金属体を窯の中に入れて、加熱を開始することもできる。この場合には、加熱により粘性流体となった各ガラス体を高温状態の窯の中で融合させて穴の内面に沿って当該内面に密着する単一のガラス体に変化させることにより、当該ガラス体と金属体との密着により生じた金属酸化物および当該金属酸化物中の遷移金属イオンを当該ガラス体の内部に拡散させて、当該ガラス体の当該金属体への密着部分の表層部に金属酸化物に由来する着色層を形成することができる。
【0025】
本発明において遷移金属元素を含む2種類の金属体を使用する場合には、その一方(第1の金属体)をガラス体から剥がし取る対象とし、他方(第2の金属体)を1以上の貫通部とを有するものにして、以下の方法を実施することができる。
【0026】
まず、第1の金属体の上に貫通部の貫通方向を上下方向に沿わせて第2の金属体を配置し、第2の金属体の上面となった面内の貫通部を含む所定範囲に向き合うようにガラス体を配置した状態をもって、各金属体およびガラス体を窯の内部に支持して窯を加熱する。
【0027】
その後は、加熱により粘性流体となったガラス体を高温状態の窯の中で第2の金属体の上面に密着させながら流動させて当該ガラス体の一部分が貫通部を通って第1の金属体の表面にも密着するように当該ガラス体を変形させる。これにより、ガラス体と各金属体との密着により生じた金属酸化物および当該金属酸化物中の遷移金属イオンをガラス体の内部に拡散させて、当該ガラス体の各金属体への密着部分の表層部に金属酸化物による着色層を形成することができる。
【0028】
さらに、上記のガラス体と各金属体との密着状態を保ってガラス体が各金属体に結合された状態になるまでこれらを冷ました後にガラス体から第1の金属体を剥がし取る。第2の金属体は、ガラス体に結合された状態で保持される。
【0029】
上記の方法によれば、ガラス体と第1の金属体との密着により生じた金属酸化物に由来する着色層と、ガラス体と第2の金属体との密着により生じた金属酸化物に由来する着色層とを含むガラス体に第2の金属体が一体に設けられた構成の造形物を得ることができる。なお、この場合も、第1の金属体と第2の金属体とは同種の金属材料によるものにしても良いが、それぞれを異なる金属材料によるものにすることによって、各金属酸化物に由来する着色層の色彩も異ならせることができる。
【0030】
上記の貫通部を有する第2の金属体に代えて、第1の金属体に載る大きさの複数の第2の金属体を互いの間に所定の間隔をもたせて第1の金属体の上に配置してもよい。この場合にも、第2の金属体が分布する範囲に向き合うようにガラス体を配置した状態をもって、各金属体およびガラス体を窯の内部に支持して窯を加熱し、加熱により粘性流体となったガラス体を高温状態の窯の中で第2の金属体の第1の金属体に接触していない部分に密着させながら流動させて当該ガラス体の一部分が各第2の金属体の間の間隙を通って第1の金属体の表面にも密着するように当該ガラス体を変形させることにより、ガラス体の各金属体に密着している部分の表層部に、それぞれその密着により生じた金属酸化物に由来する着色層を形成することができる。
【0031】
さらに、上記のガラス体と各金属体との密着状態を保ってガラス体が各金属体に結合された状態になるまでこれらを冷ました後に、当該ガラス体から第1の金属体を剥がし取ることにより、第1の金属体に基づく着色層と第2の金属体に基づく着色層とを含むガラス体に複数の第2の金属体が一体に設けられた構成の造形物を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、加熱により粘性流体となったガラス体と金属体とを高温の環境下で密着させると共に、粘性流動や金属体による押圧力等によってガラス体を変形させることにより、ユニークな形態を有するガラス体の表層部に遷移金属イオンに由来する明瞭な着色層を形成することができる。
【0033】
さらに本発明では、冷却されて金属体に結合された状態になったガラス体から遮光体である金属体を引き剥がすことによって、上記の着色層を種々の方向から透視可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明が適用された造形方法を表す図である。
図2図1の方法の変形例を表す図である。
図3】第1の応用例にあたる造形方法を表す図である。
図4】第1の応用例により製作された造形物の例を表す図である。
図5】第2の応用例にあたる造形方法を表す図である。
図6】第2の応用例により形成された造形物の例を表す図である。
図7】第1の応用例の変形例を表す図である。
図8】第3の応用例にあたる造形方法を表す図である。
図9】第3の応用例による造形ガラスと金属体との結合体を表す図である。
図10】第4の応用例にあたる造形方法を表す図である。
図11】第4の応用例により形成された造形物の例を表す図である。
図12】第5の応用例にあたる造形方法と形成された造形物の例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明による造形方法の例を模式的に表したものである。
この方法では、遷移金属元素を含む金属(たとえば銅)を含む板部材1(以下「金属板1」という。)と、板ガラス2とが使用される。
【0036】
金属板1は1mm程度までの厚みの薄板である。板ガラス2は一般的なソーダガラスにより成る透明のガラス体であって、厚みは金属板1より大きいが主面は金属板1より小さいものが使用される。なお、金属板1、板ガラス2ともに、主面は任意の形状にすることができ、各々の形状を合わせる必要もない。
【0037】
この実施例では、上記の金属板1の上に板ガラス2を載せ、これらを耐熱性を有する支持台4の上に載せて図示しない電気窯(以下、単に「窯」という。)の中に入れ(図1(A))、窯の内部温度を700~800°C程度に維持して所定時間加熱する。この間に板ガラス2は軟化して粘性流体となり、金属板1の表面で表面張力により変形する(図1(B))。金属板1も、加熱により表面が酸化して色彩が変化する。
なお、上記の加熱処理に使用する窯は、電気窯に限る必要はない。
【0038】
以下では、軟化して粘性流体となったガラスを「流体ガラス」または単に「ガラス」と呼び、図中に符号20により示す。また変形した流体ガラスが冷めて再び固まった状態になったものを「造形ガラス」と呼び、図中に符号21により示す。文中で板ガラス2を含む各状態のガラス2,20,21について言及する場合には、それらが表されている図の説明をしているときのみ、符号をつけて説明することにする。
【0039】
この実施例では、流体ガラス20が図1(B)のような形状に変化したところで加熱を停止し、金属板1との密着状態を保ったまま窯の中で徐冷する。そして、流体ガラス20が冷めて造形ガラス21となって金属板1と結合したところで、その結合体を窯から取り出し、さらに結合体を室温下でしばらく冷ます。そして、造形ガラス21や金属板1が手で触れることができる程度の温度(40~50°C)になったところで、図1(C)に示すように、金属板1を造形ガラス21から引き剥がし、造形ガラス21のみによる最終形態の造形物を得る。
【0040】
上記の加熱工程において、流体ガラス20が大きく変形した頃には、ガラスの金属板1に密着している箇所の表層部に所定の色彩による着色層3が含まれた状態になる(図1(B)を参照。)。この着色層3は、造形ガラス21でも維持され、金属板1が剥がし取られることによって、着色層3が形成された箇所が表面に現れる状態になる。
【0041】
上記の着色層3は、粒子やイオンが活発に動く粘性流体となったガラス20と金属板1との界面に生成された金属酸化物の粒子や金属酸化物中の遷移金属イオンが流体ガラス20の表層部に拡散され、これらの粒子やイオンに特定の波長域の光が吸収されたことにより生じたもの(粒子やイオンに吸収されなかった波長域に対応する色彩による着色)と考えられる。
【0042】
実際に発明者らが、厚みが0.1mmの銅製の金属板1と厚みが3mmの板ガラス2とを図1(A)の支持状態にして電気窯に入れて加熱し、窯の内部温度を750°C前後で約5分間維持したところ、流体ガラス20の金属板1(銅板)に密着している箇所にえんじ色の着色層3が形成されていることを確認することができた。流体ガラス20が冷めて造形ガラスになったところで着色層3の厚みを計測すると、その厚みは約100μmであった。この場合の着色層3は、酸化銅に由来するものと思われる。
【0043】
銅板をステンレス板(SUS430)に代えて上記と同様の実験を行ったところ、流体ガラス20の金属板(ステンレス板)に密着している箇所に薄緑色の着色層3が形成された。この着色層3も流体ガラス20が造形ガラスになった後も維持され、計測により約100μmの厚みが確認された。この場合の着色層3は、主として酸化クロムに由来するものと思われる。
【0044】
いずれの着色層も、造形ガラスの着色層が形成されていない箇所を介して透視することができた。さらに、造形ガラスや金属板が手で触れることができる程度の温度(40~50°C)になったところで、金属板を造形ガラスから引き剥がすことによって、上記の着色層が形成された側の面が露出すると共に、凸状に湾曲した面にも着色層が映り込んで、ほぼ全体が着色されているように見えるガラス製の造形物を得ることができた。
【0045】
図1に示した基本の方法では、金属板1の平坦な面の上に板ガラス2を載せて、両者を窯の中で加熱したが、図2に示すように、椀状に成形された金属体12を開口端面を下に向けて支持台4(この図では上面のみを示す。)の上に載せ、金属体12の凸状の面の上に板ガラス2を載せて加熱する方法を採用してもよい。この場合、当初の板ガラス2で金属体12に接触するのは中央部分のみである(図2(A))が、加熱により変化した流体ガラス20では、重力の作用により下面のほぼ全体が金属体12に密着し、その密着部分の表層部に着色層3が形成される状態になる(図2(B))。この場合の着色層3も、流体ガラス20が冷めて造形ガラス21となった後も維持され、造形ガラス21から金属体12が剥がし取られることによって、着色層3が形成された箇所が表面に現れる状態になる(図2(C))。
【0046】
図1図2の例では、金属板1や金属体12の上に板ガラス2を重ね合わせて窯の中に入れたが、粘性流体となったガラス20を金属面に密着させることができるのであれば、吊り下げ等の方法により板ガラス2を金属面から少し離れた高さ位置に支持してもよい。
【0047】
金属板1または金属体12と板ガラス2との間隔をあけて支持する場合には、図1,2の例とは逆に、板ガラス2を下とし、その上面に対向するように金属板1や金属体12を支持してもよい(金属体12を板ガラス2の上に配置する場合は、その向きを図2とは逆にする。)。上下の関係に関わりなく、所定の間隔を隔てて上下に対向する金属体とガラス体とを、それらの一番上の面に錘を乗せる方法によって接近させ、密着させることもできる。
または、金属板1や金属体12と板ガラス2を横並びにして支持台4の上に配置してもよい。
【0048】
以下、図1に示した製作方法を応用し、高温環境で流体ガラスを金属体に密着させながら大きく変形させて、ユニークな形態と遷移金属イオンに由来する着色層とを有する造形物を製作する例について説明する。いずれの例も、発明者らが実際に試みて着色層の形成に成功した例に基づくものである。
【0049】
図3は、第1の応用例にあたる造形方法を表したものである。
この例で使用する金属板10は、厚みは図1の例と同様であるが、中央部に厚み方向を貫く貫通穴hが形成されている。この金属板10は、窯の内部に対向配備された一対の支持台4a,4bの上に貫通穴hの周囲の部分が載せられることによって、各支持台4a,4bの間の空間に貫通穴hを対向させた状態で支持される。板ガラス2は、図1の例と同様の構成のもので、上記のように支持された金属板10の上面に重ねられる(図3(A))。ただし、この例でも、金属板10から所定距離だけ離れた位置に板ガラス2が支持されるようにしてもよい。
【0050】
上記のセッティング後に窯が加熱されると、窯の内部温度の上昇に伴って粘性流体に変化したガラス20が金属板10の表面に密着かつ流動し、貫通穴hの上に配置されていた部分が重力の作用によって下降しはじめる(図3(B))。貫通穴hの周囲の部分も追随して下降し、これにより流体ガラス20は、金属板10の表面に留まる部分24と貫通穴hから大きく垂れ下がる部分25とを有する形状になる(図3(C))。
【0051】
流体ガラス20の金属板10の表面に留まった部分24の底面側の表層部には、金属板10との密着により生じた金属酸化物の粒子や当該金属酸化物中の遷移金属イオンがガラス20の内部に拡散し、これらに特定の波長域の光が吸収されたことによる着色層3が形成される。金属に密着せずに穴に流入して垂れ下がった部分25には金属酸化物の粒子や遷移金属イオンは殆ど拡散されないため、着色層3も形成されない。
【0052】
第1の応用例では、図3(C)の状態に変形した流体ガラス20が冷却されて金属板10と結合する造形ガラス21になった後に、造形ガラス21から金属板10を引き剥がし、造形ガラス21のみから成る最終形態の造形物を得る。
【0053】
図4は、第1の応用例により製作された最終形態の造形物201にあたる造形ガラス21を斜め下方向から表したものである。
この造形物201では、流体ガラス20であったときに金属板10の表面に留まっていた部分24が鍔部24aとなり、貫通穴hから垂れ下がっていた部分25が空洞部を有する透明の凸状体25aとなって鍔部24aの中央部に連続する状態になる。鍔部24aの底面は平坦面に近いが、上面や端部には流動ガラスであったときの変形を反映した湾曲面や凹凸面が含まれる。凸状体25aの表面も流動中の形態を反映した湾曲面となる。
【0054】
上記鍔部24aの底面の表層部には、ほぼ全域にわたって前述した着色層3が形成される。この着色層3は、造形ガラス21の上方や斜め上方向からも透視することができる。また視線の方向によっては、透明の曲面体25aにも着色層3が映り込み、模様のようにキラキラと輝いて装飾性が高められる。
【0055】
図5は、第2の応用例にあたる造形方法を表したものである。
この例でも、第1の応用例と同様の構成の金属板10と板ガラス2を、図3(A)の例と同様の関係をもたせて窯の内部に配置する。さらに、金属板10を支持する一対の支持台4a,4bの間に、これらと大きな差がある低い支持台4cを配置し、その上に第2の金属板11を載せる(図5(A))。
【0056】
2枚の金属板10,11は同じ種類の金属材料によるものでも良いが、この例では、それぞれ異なる金属材料によるものを使用する。たとえば、上方の金属板10は中央部に貫通穴hが設けられたステンレス板であり、下方の金属板11は穴のない銅板である。
【0057】
第2の応用例でも、第1の応用例と同様の方法により粘性流体となったガラス20を貫通穴hから垂れ下がるように変形させ(図5(B))、さらに、垂れ下がり部分25の先端が下方の金属板11に届いて所定時間密着状態が維持されるまでガラス20の流動が続くように管理する(図5(C))。この結果、変形した流体ガラス20では、金属板10の上に留まった部分24の底面の表層部に当該金属板10との密着により生じた金属酸化物に由来する第1の着色層3が形成されると共に、垂れ下がった部分25の先端部分の表層部にも、金属板11との密着により生じた金属酸化物に由来する第2の着色層30が形成される。
【0058】
この実施例でも、図5(C)の状態にまで変形した流体ガラス20が冷却されて各金属板10,11と結合する造形ガラス21になった後に、当該造形ガラスから各金属板10,11を引き剥がすことにより、造形ガラス21のみから成る最終形態の造形物を得る。
【0059】
図6は、第2の応用例により形成された造形ガラス21による最終形態の造形物202を表したものである。この造形物202の形状は図4に示した造形物201に近いが、凸状体5aの先端部(金属板11に結合されていた部分)の面は平坦面となる。また鍔部24aの底面と凸状体25aの先端部とに、それぞれ異なる色彩が現れる。前者の色彩は第1の着色層3によるものであり、後者の色彩は第2の着色層30によるものである。
【0060】
このように、流体ガラス20に密着させる2枚の金属板10,11の素材をそれぞれ異なる種類の金属にしたことにより、2種類の色彩による着色が施された造形物202を得ることができ、装飾効果をより一層高めることができる。
【0061】
図7は、図3に示した第1の応用例の変形例を示すものである。この例では、図2の例を応用して、中央部に貫通穴hが設けられた椀状の金属体13を、開口端面を下に向けて支持台4(この図では上面のみを示す。)の上に載せ、貫通穴hを含む範囲に板ガラス2を載せた状態として、両者を窯の中に配置する(図7(A))。
【0062】
板ガラス2の下面は、貫通穴hに対応する部分のほか、端縁部でも金属体13から離れた状態になっている。しかし、加熱により粘性流体となったガラス20では、端縁部や貫通穴hの上にある部分が重力の作用により下降して、金属体13の貫通穴hより外側の湾曲面に密着する部分26と貫通穴hから垂れ下がる部分27とが連なった形に変化する(図7(B))。また湾曲面に密着する部分26の底面側の表層部には、金属体13との界面に生じた金属酸化物に由来する着色層3が形成される。
【0063】
この後、流体ガラス20が冷却されて金属体13と結合された造形ガラスとなった後に、造形ガラスから金属体13を引き剥がすことにより、着色層3を有する鍔部に凹部を有する凸状体を連続させた最終形態のガラス造形物(図示せず。)を得ることができる。
【0064】
さらに図7の例において、支持台4の貫通穴hに対向する場所に第2の金属板11を配置して、流体ガラス20の貫通穴hから垂れ下がった部分27が金属板11に密着して所定時間が経過するまでガラス20を変形させることにより、最終形態の造形物の凸状体の先端部を平坦面にしてその表層部に第2の着色層を含ませることができる。
【0065】
図8は、第3の応用例にあたる造形方法を表したものである。
この例では、椀状の金属体14(内面を湾曲させた有底穴14aを有する薄肉体である。)が開口端面を上に向けた姿勢で支持台4に載せられ、当該金属体14の穴14aの上端部分にその部分に下端縁部が引っ掛かる大きさの円形の板ガラス2が、同部分に引っ掛かった状態で支持される(図8(A))。
【0066】
窯の中でも上記の支持状態が維持されて加熱が開始される。加熱により粘性流体となったガラス20は、重力の作用により中央部分から順に下降してゆき(図8(B))、やがて金属体14の穴14aの内面に密着する状態になる(図8(C))。この状態でしばらくガラス20の流動が続けられると、流体ガラス20と金属体14との界面に生じた金属酸化物やその中の遷移金属イオンが流体ガラス20の内部に拡散した結果、ガラス20の金属体14に密着した部分の表層部に金属酸化物に由来する着色層3が形成される。
【0067】
図9は、図8(C)の状態になった流体ガラス20の冷却により生成された造形ガラス21と金属体14との結合体の一例を表したものである。この実施例の金属体14は薄肉体であるので、素手またはペンチなどの道具を用いて造形ガラス21から引き剥がし、造形ガラス21のみから成る最終形態の造形物203を得ることができる。
【0068】
金属体14の引き剥がしにより露出した造形ガラス21の外周面は金属体14の穴14aの内面と同様の湾曲面となり、その湾曲面のほぼ全体に沿って着色層3が形成される。造形ガラス21の上部にも緩やかな湾曲面による透明の凹面(図8(C)中の符号28の部分に対応する。)が形成され、その凹面にも着色層3が映り込んで、視線の方向によって色合いが変化するような興趣が得られる。
【0069】
第3の応用例による方法では、さらに金属体14の有底穴14aの上部に配備された板ガラス2の下に、細かく砕いたガラス片を複数個入れておくことによって、これらのガラス片を板ガラス2から変化した流体ガラス20に融合して、金属体14の内面による空間のほぼ全体を埋める大きさの造形ガラスを得ることもできる。ガラス片の数を増やしたり、大きめの球状ガラスを入れるなどすれば、板ガラス2を使用せずに、複数のガラス片を融合させるのみでも同様の形態の造形ガラスを得ることができる。
これらの造形ガラスでも、金属体14に密着した外周部分の表層部に、金属酸化物に由来する着色層3が形成される。
【0070】
図8の例の金属体14の板ガラス2の下の空間には、複数のガラス片と共に金属の小片を複数入れることもできる。これらのガラス片や金属小片は、流体ガラス20の内部に混ざり込み、流体ガラス20の各金属小片に密着する部分にも着色層が形成される。この結果、冷却によりできあがった造形ガラスでは、外周部に密着していた金属体による着色層3の色彩をベースとして、その中に金属の小片による着色層の色彩が模様として分布し、高い装飾性を得ることができる。なお、金属の小片は、金属体14と同種の金属材料によるものであってもよいが、金属体14と異なる種類の金属材料によれば、より映える模様を現すことができる。
【0071】
第3の応用例やその変形例に使用される金属体は有底穴を有するものに限らず、円筒体などの貫通する穴を有する金属体と、この金属体の一方の開口端面を塞ぐ大きさの金属板との組み合わせを使用して、図8に示したのと同様の方法を実施することできる。または、ガラスが入った円筒体を、開口端面を塞がずに穴の貫通方向を横に向けて支持台の上に配置することによっても、図8に示したのと同様の方法により、各ガラス片から融合された流体ガラスを穴の内面に密着させることもできる。
【0072】
図10は、第4の応用例にあたる造形方法を表したものである。
この実施例でも、第2の応用例と同様に、2種類の金属板101,102を用いる。一方の金属板102は他方の金属板101より小さく、2つの貫通穴h1,h2が形成されている。板ガラス2は金属板102とほぼ同じ大きさと形状の主面を有する。
【0073】
貫通穴が設けられていない金属板101は支持台4の上に直接に載せられ、その上に貫通穴h1,h2を有する金属板102が載せられ、さらに金属板102の上に板ガラス2が載せられる(図10(A))。
【0074】
上記の位置関係を維持して支持台4および金属板101,102ならびに板ガラス2を窯に入れ、窯を加熱すると、粘性流体となったガラス20が金属板102の表面を流動し、流体ガラス20の貫通穴h1,h2の上に配備された部分が穴h1,h2の中に入って下降しはじめる(図10(B))。流体ガラス20の穴h1,h2の周囲の部分も追随して穴h1,h2の方へと移動してその一部が下降する。やがて、下降した部分の先端部が金属板101に届き、金属板101にも密着する状態になる(図10(C))。
【0075】
上記の流体ガラス20の金属板102に密着した部分の表層部には、金属板102との密着により生成された金属酸化物やその中の遷移金属イオンが拡散され、これらの拡散に伴う第1の着色層31が形成される。さらに穴h1,h2から下降して金属板101に密着した部分の表層部にも、金属板101との密着により生成された金属酸化物やその中の遷移金属イオンが拡散され、これらの拡散に伴う第2の着色層32が形成される。
【0076】
第4の応用例では、図10(C)の状態に変形した流体ガラス20が冷却されて金属板101,102に結合された造形ガラス21となった後に、当該造形ガラス21から金属板101を引き剥がすことにより、造形ガラス21と金属板102との結合体による最終形態の造形物を得る。
【0077】
図11(A)は、図10に示した方法を実施した後に金属板101を引き剥がすことにより得られた最終形態の造形物204を、窯の中で上方に向けられていた部分(以下、「表面部」という。)を正面として表したものである。図11(B)は、当該造形物204の金属板101に結合されていた部分(以下、「裏面部」という。)を表したものである。
【0078】
表面部は造形ガラス21で覆われており、そのガラス面から、金属板102との密着部分に生じた第1の着色層31や金属板101に密着していた箇所に生じた第2の着色層32を透視することができる。
【0079】
裏面部には、金属板102の面と造形ガラス21の貫通穴h1,h2から露出した部分の面(金属板101に密着していた部分)とが含まれる。この造形ガラス21の面には、第2の着色層32による色彩が現れている。
【0080】
上記第4の応用例では、貫通穴h1,h2を有する金属板102に代えて、端縁部の1箇所または数箇所に切り欠きが設けられた金属板を使用してもよい。この場合も、切り欠きが設けられた金属板の表面で流体ガラスを流動させながら、その一部を切り欠き部分から下降させて金属板101に密着させることにより、流体ガラスの各金属板に密着する部分の表面層にそれぞれ第1および第2の着色層を形成することができる。さらに、流体ガラスが冷却されて各金属板に結合する造形ガラスとなった後に、当該造形ガラスから金属板101を引き剥がすことによって、切り欠きが設けられた金属板に応じた形状の第1の着色層と切り欠き部分に応じた形状の第2の着色層とによる色彩が現れた表面部と、切り欠きのある金属板の切り欠き部分に第2の着色層が現れた裏面部とを有する造形物を得ることができる。
【0081】
上記の金属板102は、より多くの貫通穴を有する薄い金属体に変更することもできる。たとえば、格子状に加工された金属体を金属板101の上に載せ、その上に板ガラスを載せて加熱し、粘性流体となったガラスを格子の各穴を通過して金属板101に密着する状態になるまで変形させ、その密着状態をしばらく維持することによって、格子状の金属体に基づく第1の着色層の色彩による格子パターンの穴の中に金属板101に基づく第2の着色層の色彩が現れた構成の表面部を有する造形物を得ることができる。この造形物の裏面部でも、格子状の金属体の穴の中に第2の着色層による色彩が現れた状態になる。
【0082】
金属板102に代えて、複数の金属片を互いの間に所定の間隔を設けて金属板101の上面に配置してもよい。この場合も、金属片が分布する範囲に板ガラスを載せて加熱することにより、粘性流体となったガラスを各金属片に密着させながらそれらの間の隙間を通過して金属板101にも密着させ、流体ガラスの各金属片に密着した部分および金属板101に密着した部分に、それぞれ密着により生じた金属酸化物に由来する着色層を形成することができる。さらに、変形した流体ガラスが冷却されて造形ガラスに変化した後に当該造形ガラスから金属板101を引き剥がすことによって、表面部および裏面部の双方で金属板101に基づく着色層の色彩を現すと共に、裏面部に複数の金属片の分布による模様を出現させ、表面部にも、金属片に基づく着色層の色彩の分布により同様の模様を現すことができる。
【0083】
図12は、第5の応用例にあたる造形方法を表したものである。
この実施例では、円形状の板部111の外周縁の複数箇所からそれぞれ所定長さの棒片112を起立させた形態に造形された金属体110と、板部111よりやや大きな面積の円形の板ガラス2とを使用する。
【0084】
各棒片112の長さは等しく、互いの間の間隔もほぼ同等である。板ガラス2は、上記の金属体110の棒片112の上端面に載せられることにより、板部111に対向する関係をもって支持される(図12(A))。
【0085】
上記の関係を維持して両者を窯の中に入れて加熱すると、粘性流体となったガラス20の板部111に対向する部分が下降しはじめ、やがて中央部分が板部111に届いてその面に密着する状態になる。流体ガラス20の各棒片112より外側に突出していた部分も変形し、棒片112の上端面に接触したまま下降し、棒片112の上部を包むように変形する。
【0086】
上記の方法により、流体ガラス20の冷却により生成された造形ガラス21は、板部111に結合された底部と、各棒片112に結合された壁部とを有する器のような形となる(図12(B))。
【0087】
造形ガラス21の底部の面は板部111に従って平坦になるが、壁部の外周面や内周面は、流体ガラス20が板部111に向かって流れていたときの状態を反映した湾曲面となる。また、流体ガラス20の板部111や棒片112に密着した部分の表層部には、それぞれその部分と板部111または棒片112との界面に生成された金属酸化物の粒子やその中の遷移金属イオンの拡散による着色層33が形成される。これらの着色層33は、流体ガラス20が冷めて造形ガラス21となった後も維持され、造形ガラス21の着色層が形成されていない箇所からも透視することができる。
【0088】
この実施例では、この造形ガラス21と金属体110との結合物を最終形態の造形物205とする。ただし、板部111や各棒片112をそれぞれ独立の個体とし、板部111の端面に設けられたスリットに各棒片112を差し込む等の方法により各棒片112が板部111に着脱可能に連結される構成に変更した場合には、冷却後に各棒片112を板部111から外した後に造形ガラス21からも引き剥がすことによって、棒片112との密着箇所に形成された着色層33が造形ガラス21の外側の面に現れるようにすることができる。板部111も同様に造形ガラス21から引き剥がすことができるが、造形ガラス21に結合されたままにしてもよい。
【0089】
第1~第5の各応用例や変形例に使用された各種の金属体は、先に述べた銅やステンレスのほか、銀、コバルト、チタンなどの遷移金属を主材とする金属体を使用することができる。また図10の第4の応用例の金属板102や第5の応用例の金属体110以外の造形ガラス21から剥がし取られる金属体は、いずれも薄肉体で、造形ガラス21が結合される面が結合範囲より大きいので、造形ガラス21に結合された後の引き剥がし作業でも、造形ガラス21に結合されていない部分を指や道具により把持して力を加えることにより、比較的容易に剥がし取ることができる。
なお、これらの金属体は、必ずしも全て剥がす必要はなく、一部分を造形ガラス21に結合させたままにしてもよい。
【0090】
第4の応用例の金属板102や第5の応用例の金属体110は、造形ガラス21に結合されたまま最終形態の造形物に含められるため、これらの金属体にはガラス材料に熱膨張率が近い金属によるものを使用するのが望ましい。金属体とガラス材料との熱膨張率の差が小さくなれば、冷却時における両者間の収縮の度合いも小さくなり、両者を強固に結合することができるので、造形ガラス21が金属体から外れるのを防ぐことができる。また、冷却中の金属部分からの引張り力や押圧力によるガラス体の歪みも小さくできるので、最終形態に残す金属体を厚みのあるものにしても、造形ガラスが割れることを防ぐことができる。
【0091】
各実施例で使用する板ガラス2の原材料のソーダガラスの熱膨張率は概ね80×10-7~120×10-7/°Cの範囲である。この数値範囲に熱膨張率が含まれるステンレス鋼は、第4の応用例の金属板102や第5の応用例の金属体111に適した金属材料であると考えられる。
たとえば、SUS430の熱膨張率は104×10-7/°Cであり、SUS410の熱膨張率は99×10-7/°Cであるから、これらは金属板102や金属体111に適した金属材料であるといえる。
【0092】
ここまでに説明した実施例では、透明のガラス体を加熱して変形および着色を施すものとしたが、ガラス体は透明に限らず、半透明または不透明のガラス体、もしくは有色のガラス体を使用することもできる。そうした場合には、ガラスの色彩と着色層3の色彩との混合色を出現させることができる。
【0093】
上記の実施例では、金属体の上にガラス体を配置し、加熱により粘性流体となったガラス体を流動させながら変形させるようにしたが、これとは反対にガラス体の上方に平坦でない面を有する金属体を当該面をガラス体の側に向けた状態で支持し、両者を加熱することもできる。この場合、流体ガラスに金属体が密着した状態が所定時間維持されると、概略比重3のガラス体に概略比重が3より大きい金属体が重力の作用によってガラス体の内部に侵入しようとする力が生じる。この力により流体ガラスが押圧されて変形すると共に、当該密着部分の表面層に金属酸化物に由来する着色層が形成される。よって、流動ガラスが冷めて金属体と結合した造形ガラスになった後に、造形ガラスから金属体を剥がし取ることによって、当該金属体の表面形状を反映した形状の面に着色層に基づく色彩が現れたガラス製の造形物を得ることができる。
【符号の説明】
【0094】
1,10,11,101,102 金属板
12,13,14 金属体
2 板ガラス
3,30,31,32,33 着色層
14a 有底穴
20 流体ガラス
21 造形ガラス
201,202,203,204,造形物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12